(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】造粒物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7048 20060101AFI20250217BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20250217BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20250217BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20250217BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20250217BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61K9/16
A61K47/26
A61P3/02
A23L5/00 D
(21)【出願番号】P 2020182801
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金成 はるな
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 祥子
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-005746(JP,A)
【文献】特開2011-046620(JP,A)
【文献】特表2006-515365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7048
A61K 9/14
A61K 47/26
A61P 3/02
A23L 5/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)及び(2):
(1)25℃における水への溶解度が2mg/mL以下の難水溶性フラボノイド(A)、エタノール(B)及び水(C)を含有し、前記難水溶性フラボノイド(A)とエタノール(B)の質量比[(B)/(A)]が1.0~8.0である結合液を調製する工程、
(2)賦形剤(D)を含む粉体に、前記工程(1)で調製した結合液を噴霧して、造粒する工程
を含み、前記難水溶性フラボノイド(A)がヘスペリジン、ナリンジン又はこれらの組み合わせである、難水溶性フラボノイドを含有する造粒物の製造方法。
【請求項2】
結合液の噴霧量が賦形剤(D)を含む粉体100質量部に対して10~90質量部である請求項1記載の難水溶性フラボノイドを含有する造粒物の製造方法。
【請求項3】
賦形剤(D)が糖アルコールを含有する請求項1又は2記載の難水溶性フラボノイドを含有する造粒物の製造方法。
【請求項4】
25℃における水への溶解度が2mg/mL以下の難水溶性フラボノイド(A)がナリンジンである、請求項1~3のいずれか1項記載の難水溶性フラボノイドを含有する造粒物の製造方法。
【請求項5】
結合液中の25℃における水への溶解度が2mg/mL以下の難水溶性フラボノイド(A)の濃度が5~30質量%である、請求項1~4のいずれか1項記載の難水溶性フラボノイドを含有する造粒物の製造方法。
【請求項6】
工程(2)の造粒法が流動層造粒法である請求項1~5のいずれか1項記載の難水溶性フラボノイドを含有する造粒物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性フラボノイドを含有する造粒物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラボノイドは、二つのフェニル基が三つの炭素原子を介して結合したC6-C3-C6炭素骨格をもつ化合物の総称である。天然には、植物の花、葉、根、茎、果実等に含まれている。フラボノイドが生体に及ぼす生理作用は多数報告され、フラボノイドを含有する特定保健用食品や機能性表示食品が多数上市されている。
しかしながら、フラボノイド自体には難水溶性のものが多く、例えば生体吸収性が低い、ハンドリング性が悪い、インスタント飲料として用いた場合には溶け残りが生じる等の種々の問題がある。
そこで、難水溶性フラボノイドの水への溶解性を改善する技術が検討され、例えばナリンジンをα-グルコシルヘスペリジン及びβ‐モノグルコシルヘスペレチンと混合する方法(特許文献1)、ノビレチンを非晶質状態で水溶性担体中に分散させた固体分散体とする方法(特許文献2)等が報告されている。
【0003】
一方、流動層造粒法は、多量の空気で粉体を流動させながら、結合液を噴霧して造粒する造粒法であり、粉体の溶解性、分散性の向上等を目的に、飲料・食品用粉末や原薬粉末の加工において広く利用されている(例えば、特許文献3,4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-39419号公報
【文献】特開2019-167336号公報
【文献】特開2006-325491号公報
【文献】特表2006-502194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の流動層造粒法では、難水溶性フラボノイドの水に対する溶解性改善が十分ではなく、造粒物の水溶解時に溶け残りが見られたため、更に溶解性を向上させる技術が求められた。
従って、本発明の課題は、難水溶性フラボノイドの水への溶解性に優れる難水溶性フラボノイド含有造粒物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を進めたところ、難水溶性フラボノイドとエタノールとを特定の質量比で含有する結合液を調製し、その後、調製した結合液を、賦形剤を含む粉体に噴霧して造粒することで、難水溶性フラボノイドの水への溶解性が向上した造粒物が得られること、斯かる造粒物は水に溶け易く、水溶解時に沈殿物の発生を抑制できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の工程(1)及び(2):
(1)25℃における水への溶解度が2mg/mL以下の難水溶性フラボノイド(A)、エタノール(B)及び水(C)を含有し、前記難水溶性フラボノイド(A)とエタノール(B)の質量比[(B)/(A)]が1.0~8.0である結合液を調製する工程、
(2)賦形剤(D)を含む粉体に、前記工程(1)で調製した結合液を噴霧して、造粒する工程
を含む、難水溶性フラボノイドを含有する造粒物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難水溶性フラボノイドの水への溶解性が高く、水溶解時に沈殿物の発生が抑制された難水溶性フラボノイド含有造粒物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の難水溶性フラボノイドを含有する造粒物の製造方法は、次の工程(1)及び(2):
(1)25℃における水への溶解度が2mg/mL以下の難水溶性フラボノイド(A)、エタノール(B)及び水(C)を含有し、前記難水溶性フラボノイド(A)とエタノール(B)の質量比[(B)/(A)]が1.0~8.0である結合液を調製する工程、
(2)賦形剤(D)を含む粉体に、前記工程(1)で調製した結合液を噴霧して、造粒する工程、を有する。
【0010】
〔工程(1)〕
本工程は、25℃における水への溶解度が2mg/mL以下の難水溶性フラボノイド(A)、エタノール(B)及び水(C)を含有し、前記難水溶性フラボノイド(A)とエタノール(B)の質量比[(B)/(A)]が1.0~8.0である結合液を調製する工程である。
本明細書において「難水溶性フラボノイド」とは、25℃における水への溶解度が2mg/mL以下のフラボノイドを意味する。
本発明では、難水溶性のフラボノイドを用いた場合においても、水溶解時に沈殿物の発生が抑制された難水溶性フラボノイド含有造粒物を提供することができるという観点から、25℃における水への溶解度が、好ましくは1.5mg/mL以下、より好ましくは1.0mg/mL以下、さらに好ましくは0.5mg/mL以下のフラボノイドに好ましく適用できる。ここで溶解度は、溶液1mL中に溶解している溶質のミリグラム数を表し、単位は[mg/mL]である。
【0011】
難水溶性フラボノイドは、C6-C3-C6炭素骨格のC3の部分(C環)の構造やヒドロキシ基の結合様式等により、フラボン、フラボノール、イソフラボン、フラバン、フラバノール、フラバノン、フラバノノール、カルコン、アントシアニジン等に分類される。
具体的には、スダチチン、リンゲニン、プルニン、アストラガリン、ケンフェロール、アピイン、アピゲニン、ノビレチン、タンゲレチン等のフラボン;ケルセチン、フィセチン、ルチン、ケルシトリン、イソケルシトリン、ミリシトリン、ミリセチン等のフラボノール;大豆イソフラボン、ダイゼイン、ダイジン、グリシテイン、グリシチン、ゲニステイン、ゲニスチン等のイソフラボン;ヘスペリジン、ネオヘスペレチン、ヘスペレチン、ナリンジン(ナリンギン)、ナリンゲニン等のフラバノン;ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロール等のフラバノノール;デルフィニジン、デルフィン、ナスニン、ペオニジン、ペオニン、ペツニン、ペオニジン、マルビジン、マルビン、エニン、シアニジン、ロイコシアニジン、シアニン、クリサンテミン、ケラシアニン、イデイン、メコシアニン、ペラルゴニジン、カリステフィン等のアントシアニジンが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
難水溶性フラボノイドに水和物が存在する場合はそれらも含む。また、難水溶性フラボノイドには、アグリコンのみならずアグリコンに糖が結合した配糖体が含まれる。例えば、ヘスペリジンは、ヘスペレチンにルチノース(L-ラムノシル-(α1→6)-D-グルコース)がβ結合した配糖体であり、ナリンジンは、ナリンゲニンにネオヘスペリドース(L-ラムノシル-(α1→2)-D-グルコース)が結合した配糖体である。
本発明において、難水溶性フラボノイドは、水溶解時に沈殿物の発生が抑制された難水溶性フラボノイド含有造粒物を提供することができるという観点から、好ましくはフラボン、フラボノール及びフラバノンからなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはノビレチン、タンゲレチン、ケルセチン、ルチン、ヘスペリジン及びナリンジンからなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、更に好ましくはヘスペリジン、ナリンジン又はこれらの組み合わせであり、更に好ましくはナリンジンである。
【0012】
難水溶性フラボノイドは、化学合成すること、或いは難水溶性フラボノイドを含有する植物体等から抽出・精製することにより取得することができる。また、市販品を用いることができる。難水溶性フラボノイドの純度は特に限定されず、例えば、造粒物とした際に所望の薬理効果が発揮できる程度の純度であればよい。
【0013】
結合液中の難水溶性フラボノイド(A)の含有量は、造粒物の製造効率を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは9質量%以上であり、また、結合液中の難水溶性フラボノイド(A)の流動性を向上させ、最終的に得られる造粒物の溶解性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは14質量%以下である。
【0014】
本発明においてエタノール(B)は、無水エタノール等を用いることができる。
結合液中のエタノール(B)の含有量は、結合液中の難水溶性フラボノイド(A)の流動性を向上させ、最終的に得られる造粒物の溶解性を向上させる観点から、好ましくは25質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは43質量%以上であり、また、造粒物の製造効率を向上させる観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは55質量%以下である。
【0015】
結合液において、難水溶性フラボノイド(A)とエタノール(B)の質量比[(B)/(A)]は、1.0~8.0であるが、結合液中の難水溶性フラボノイド(A)の流動性を向上させ、最終的に得られる造粒物の溶解性を向上させる観点から、1.0以上であって、好ましくは2.0以上、より好ましくは3.0以上であり、また、造粒物の製造効率を向上させる観点から、8.0以下であって、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.0以下である。
【0016】
本発明において水(C)は、蒸留水、イオン交換水、脱気水、水道水、井戸水等のいずれのものでも構わない。結合液中の水(C)の含有量は、結合液中の難水溶性フラボノイド(A)の流動性を向上させ、最終的に得られる造粒物の溶解性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上であって、より好ましくは20質量%以上であり、また、造粒物の製造効率を向上させる観点から、好ましくは70質量%以下であって、より好ましくは55質量%以下であり、更に好ましくは48質量%以下である。
【0017】
結合液において、難水溶性フラボノイド(A)に対するエタノール(B)と水(C)の合計量の質量比[((B)+(C))/(A)]は、結合液中の難水溶性フラボノイド(A)の流動性を向上させ、最終的に得られる造粒物の溶解性を向上させる観点から、好ましくは1以上であって、より好ましくは2以上であり、更に好ましくは5以上であり、また、造粒物の製造効率を向上させる観点から、好ましくは20以下であって、より好ましくは16以下であり、更に好ましくは12以下である。
【0018】
結合液において、エタノール濃度[[(B)/{(B)+(C)}]×100]は、結合液中の難水溶性フラボノイド(A)の流動性を向上させ、最終的に得られる造粒物の溶解性を向上させる観点、及び造粒物の製造効率を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは48質量%以上であり、また、造粒物の製造工程における安全性や最終的に得られる造粒物へのエタノールの残留を防ぐ観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0019】
本工程では、難水溶性フラボノイド(A)を溶解させるため、最初に難水溶性フラボノイド(A)をエタノール(B)に溶解させた後、水(C)と混合して、結合液を調製することが好ましい。必要に応じて加温してもよい。
【0020】
結合液には、上記成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、賦形剤、界面活性剤、甘味料、酸味料、香料、着色料、保存料、結合剤、崩壊剤等の添加剤が適宜配合されていてもよい。添加剤の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜設定することができる。
【0021】
〔工程(2)〕
本工程は、賦形剤(D)を含む粉体に、前記工程(1)で調製した結合液を噴霧して、造粒する工程である。本工程における造粒法としては、湿式造粒法が挙げられるが、造粒物の溶解性を向上させる観点、及び造粒物の製造効率を向上させる観点から、流動層造粒法を用いることが好ましい。本発明は、難水溶性フラボノイド(A)を結合液中にあらかじめ溶解させ、かつ賦形剤(D)を含む粉体に噴霧する工程を経ることで、造粒物とした際の難水溶性フラボノイド(A)の結晶化が低減され、最終的に得られる造粒物の溶解性が向上したと考えられる。
【0022】
賦形剤(D)としては、有機系賦形剤又は無機系賦形剤が挙げられ、有機系賦形剤としては、例えば、乳糖、デンプン類(デンプン分解物を含む)、シクロデキストリン、蔗糖、麦芽糖、ブドウ糖、結晶セルロース等の糖、マルチトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ラクチトール、トレハロース、還元パラチノース等の糖アルコールが挙げられる。無機系賦形剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等が挙げられる。なかでも、結合液中の難水溶性フラボノイド(A)の流動性を向上させ、最終的に得られる造粒物の溶解性を向上させる観点から、好ましくは有機系賦形剤であって、より好ましくは単糖、二糖、デンプン類、糖アルコール、更に好ましくはデンプン分解物、糖アルコール、より更に好ましくはマルチトール、エリスリトール、キシリトール、より更に好ましくはマルチトールである。これらはそれぞれ単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。糖アルコールは、無水物、水和物のいずれでもよい。
【0023】
粉体中の賦形剤(D)の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜設定することができる。粉体が賦形剤(D)としてマルチトールを含有する場合、粉体中のマルチトールの含有量は、結合液中の難水溶性フラボノイド(A)の流動性を向上させ、最終的に得られる造粒物の溶解性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、また、造粒物の水溶解時の口への不快なまとわりつきを抑制する観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0024】
粉体には、賦形剤(D)の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、界面活性剤、甘味料、酸味料、香料、着色料、保存料、結合剤、崩壊剤等の添加剤が適宜配合されていてもよい。添加剤の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜設定することができる。
【0025】
流動層造粒法では、空気流により賦形剤(D)を含む粉体部の流動層を成形させ、その層中に、前記工程(1)で調製した結合液を噴霧し、液架橋により粒子同士を付着凝集させて造粒するのが好ましい。
工程(1)で調製した結合液の噴霧液量は、造粒物の口どけ及び水分散性の観点から、賦形剤(D)を含む粉体100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは25質量部以上であり、また、造粒物の製造効率を向上させる観点から、好ましくは90質量部以下であって、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。
【0026】
流動層造粒時の温度は、風味の観点から、90℃以下が好ましい。
また、噴霧速度は、結合液中の難水溶性フラボノイド(A)の流動性を向上させ、最終的に得られる造粒物の溶解性を向上させる観点から、好ましくは2~8mL/min、より好ましくは3~7mL/min、更に好ましくは4~5mL/minである。
また、噴霧圧は、造粒物の製造効率を向上させる観点から、好ましくは0.09~0.3MPa、より好ましくは0.11~0.20MPaである。
流動層造粒後、乾燥し、必要に応じて整粒してもよい。乾燥工程は、造粒工程と同時に行われてもよい。
【0027】
斯くして得られる本発明の難水溶性フラボノイドを含有する造粒物(「難水溶性フラボノイド含有造粒物」)は、難水溶性フラボノイドの水への溶解性に優れる。そのため、後記実施例に示すように、水溶解時に溶け残りがなくなり沈殿物の発生が抑制される。よって、本発明の難水溶性フラボノイド含有造粒物は、ハンドリング性の向上、経口摂取後の難水溶性フラボノイドの吸収性の向上が期待でき、難水溶性フラボノイドの高い機能発現が期待できる。
【0028】
本発明における難水溶性フラボノイド含有造粒物中の難水溶性フラボノイド(A)の含有量は、造粒物を服用した際の生理効果を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、また、造粒物の溶解性を向上させる観点から、好ましくは25質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0029】
本発明における難水溶性フラボノイド含有造粒物中の賦形剤(D)の含有量は、造粒物中の難水溶性フラボノイド(A)の流動性を向上させ、造粒物の溶解性を向上させる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは85質量%以上であり、また、造粒物の水溶解時の口への不快なまとわりつきを抑制する観点から、好ましくは98質量%以下、より好ましくは96質量%以下である。
【0030】
難水溶性フラボノイド含有造粒物中に賦形剤(D)としてマルチトールを含有する場合、造粒物中のマルチトールの含有量は、結合液中の難水溶性フラボノイド(A)の流動性を向上させ、造粒物の溶解性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは21質量%以上であり、また、造粒物の水溶解時の口への不快なまとわりつきを抑制する観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0031】
本発明における難水溶性フラボノイド含有造粒物において、難水溶性フラボノイド(A)と賦形剤(D)の質量比[(A)/(D)]は、造粒物を服用した際の生理効果を向上させる観点から、好ましくは0.015以上であって、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.04以上であり、また、造粒物の溶解性を向上させる観点から、好ましくは0.3以下であって、より好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.15以下である。
【0032】
本発明における難水溶性フラボノイド含有造粒物において、造粒物中に賦形剤(D)としてマルチトールを含有する場合、難水溶性フラボノイド(A)とマルチトールの質量比[(A)/マルチトール]は、造粒物を服用した際の生理効果を向上させる観点から、好ましくは0.01以上であって、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.07以上であり、また、造粒物の溶解性を向上させる観点から、好ましくは0.5以下であって、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.3以下である。
【0033】
本発明の難水溶性フラボノイド含有造粒物は、様々な飲食品や医薬品、医薬部外品、化粧品等に使用することができる。とりわけ、その水への溶解性の高さから、使用時に水系溶媒に溶解される製品、例えば、水系溶媒にて希釈溶解して飲用に供するインスタント飲料に利用するのが有用である。
【実施例】
【0034】
[ナリンジン、ヘスペリジンの分析]
ナリンジン、ヘスペリジンの分析は、試料溶液をフィルター(0.45μm)で濾過し、高速液体クロマトグラフ(型式CBM-20A、島津製作所製)を用い、オクタデシル基導入液体クロマトグラフ用パックドカラム(L-カラム2ODS4.6mmφ×250mm:財団法人 化学物質評価研究機構製)を装着し、カラム温度40℃でグラジエント法により測定した。移動相A液は蒸留水、B液はアセトニトリル、C液は酢酸を0.5%含有する蒸留水溶液とし、流速は1mL/分、試料溶液注入量は10μL、UV検出器波長は285nmの条件で行った。なお、グラジエント条件は以下の通りである。
濃度勾配条件(体積%)時間 移動相A 移動相B 移動相C
0.0分 75% 15% 10%
40.0分 50% 30% 20%
試料注入量は10μL、検出は波長285nmの吸光度により定量する。
【0035】
[水溶解性の評価]
透明なプラスチック製の容量200mLのカップに、造粒物(25℃)を、難水溶性フラボノイド100mgになるように秤とり、そこに170mLの水(25℃)を添加した後、スパチュラで30回攪拌することによって、造粒物と水とが均一になるように混合した。混合30分後、目視にて水中における沈澱物の析出状況を観察した。
沈殿物の発生が見られない場合を「○」、沈殿物の発生が一部見られる場合を「△」、
沈殿物が確認される場合を「×」とした。結合液の流動性が低い等の理由で、造粒操作自体を実施することができなかった場合は評価を行わなかった。
【0036】
[難水溶性フラボノイドのカップ沈殿量の評価]
透明なプラスチック製の容量200mLのカップに、造粒物(25℃)を、難水溶性フラボノイド100mgになるように秤とり、そこに170mLの水(25℃)を添加した後、スパチュラで30回攪拌することによって、造粒物と水とが均一になるように混合した。混合30分後、カップ内の液体を抜き取り、カップ内に残った沈殿物を再溶解し、沈殿物中の難水溶性フラボノイド量を分析することで難水溶性フラボノイドのカップ沈殿量を測定した。秤とった難水溶性フラボノイド100mgに対する、沈殿物中の難水溶性フラボノイド量の質量%で評価を行った。なお、難水溶性フラボノイド量の分析方法は、ナリンジン、ヘスペリジンに関しては先述の分析方法を用いることができる。
【0037】
[原料]
ナリンジン:ナリンジン、株式会社盛香堂石田商店、純度97%以上
ヘスペリジン:ヘスペリジン和光一級、富士フイルム和光純薬株式会社、純度95%以上
マルチトール:アマルティMR-50、三菱商事フードテック株式会社
非環状デキストリン(M.W=17000):サンデック#100、デキストロース当量(DE)2~5、三和澱粉工業株式会社
シクロデキストリン1:γ-CD、CAVAMAX W7、ワッカーケミカル社
シクロデキストリン2:γ-CD、CAVAMAX W8、ワッカーケミカル社
【0038】
実施例1~5及び比較例4~5
表1に示す組成でナリンジンを99.5%エタノールに完全溶解させ、エタノール濃度が表1に示す濃度になるよう水道水を加え、結合液を調製した。比較例4は、表1に示す組成でナリンジンを水道水に加え、結合液を調製した。
一方、表1に示す粉体部の粉体を混合し、当該粉体を最終重量が200gとなるように流動層造粒機(フロイント社製FLOW COATER FL-LABO、以下同じ)に投入した。次いで、結合液を、吸気温度70℃、吸気風量0.3m3/min、噴霧速度約4mL/min、噴霧圧0.18MPa、噴霧液量93g(実施例1)、72g(実施例2~3)、又は145g(実施例4~5)にて粉体部の粉体に噴霧、造粒した後、風量0.3m3/minにて排気温度が42℃となるまで乾燥を行い、目開き1mmの篩を用いて篩過し造粒物を調製した。
実施例1~5で得られた造粒物について[水溶解性の評価]を行った。また、各実施例における工程(2)の造粒時間を計測した。さらに、実施例1に関しては[難水溶性フラボノイドのカップ沈殿量の評価]を行った。それらの結果を表1に示す。なお、比較例4~5については、結合液の流動性が著しく低く、造粒操作自体を実施することができなかった。
【0039】
比較例1~3
表1に示す粉体部の粉体を混合し、当該粉体を最終重量が200gとなるように流動層造粒機に投入した。次いで、水道水又はエタノール水溶液を、吸気温度80℃、吸気風量0.3m3/min、噴霧速度約4mL/min、噴霧圧0.18MPa、噴霧液量72gにて粉体部の粉体に噴霧、造粒した後、風量0.3m3/minにて排気温度が42℃となるまで乾燥を行い、目開き1mmの篩を用いて篩過し造粒物を調製した。
比較例1~3で得られた造粒物について[水溶解性の評価]を行った。さらに、比較例1に関しては[難水溶性フラボノイドのカップ沈殿量の評価]を行った。それらの結果を表1に示す。
【0040】
【0041】
表1に示す通り、難水溶性フラボノイドとエタノールとを特定の質量比で含有する結合液を調製し、その後、調製した結合液を賦形剤を含む粉体に噴霧して流動層造粒することにより、難水溶性フラボノイドの水への溶解性が高い造粒物が得られ、水溶解時に溶け残りがなく、沈殿物の発生が抑制されることが確認された。
これに対して、比較例1~3の造粒物は、いずれも難水溶性フラボノイドの水への溶解性は低く、水溶解時に溶け残り、沈殿物が見られた。