(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】抗因子XII/XIIa抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/36 20060101AFI20250217BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250217BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20250217BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20250217BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20250217BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250217BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250217BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250217BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250217BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250217BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20250217BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250217BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20250217BHJP
【FI】
C07K16/36 ZNA
A61K39/395 N
A61P7/02
A61P9/00
A61P9/10
A61P43/00 121
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020570743
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(86)【国際出願番号】 US2019037865
(87)【国際公開番号】W WO2019246176
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-10
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】チャロソーン, ダン
(72)【発明者】
【氏名】モートン, ローリ シー.
(72)【発明者】
【氏名】ミトナウル, リンドン
(72)【発明者】
【氏名】ライ, ケーディー
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-523253(JP,A)
【文献】国際公開第2014/089493(WO,A1)
【文献】BLOOD,2014年,Vol.123, No.11,pp.1739-1746
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/36
A61K 39/395
A61P 7/02
A61P 9/00
A61P 9/10
A61P 43/00
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12N 15/13
C12N 15/63
C12P 21/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第XII因子(FXII)に特異的に結合するヒト抗体またはその抗原結合断片であって、
前記抗体またはその抗原結合断片が、重鎖可変領域(HCVR)内に含まれる3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と、軽鎖可変領域(LCVR)内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)とを含み、
前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3が、(a)それぞれ配列番号4、6、8、12、14および16、(b)それぞれ配列番号20、22、24、28、30および32、(c)それぞれ配列番号36、38、40、44、46および48、ならびに(d)それぞれ配列番号52、54、56、60、62および64、からなる群より選択されるアミノ酸配列のセットを含む、
抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片であって、以下の特徴:
(a)完全ヒトモノクローナル抗体である、
(b)活性化第XII因子(FXIIa)に結合する、
(c)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、25℃において、3.5nM未満の解離定数(K
D)で、FXIIに結合する、
(d)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、37℃において、17nM未満のK
Dで、FXIIに結合する、
(e)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、5nM未満のK
Dで、FXIIaに結合する、
(f)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、6.5nM未満のK
Dで、FXIIaに結合する、
(g)機能的血漿アッセイによって測定した場合、250nM未満の濃度で、内因性経路によるトロンビン生成を遮断する、および
(h)機能的血漿アッセイによって測定した場合、外因性経路によるトロンビン生成を遮断することなく、内因性経路によるトロンビン生成を遮断する、のうちの1つ以上を有する、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記HCVRが、配列番号2、18、34および50からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記LCVRが、配列番号10、26、42および58からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項3に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
それぞれ配列番号2と10、それぞれ配列番号18と26、それぞれ配列番号34と42、およびそれぞれ配列番号50と58からなる群から選択されるHCVRとLCVRのアミノ酸配列対を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
FXIIおよびFXIIaの一方または両方に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗体またはその抗原結合断片が、HCVR内に含まれる3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と、LCVR内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)と、を含み、
前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3が、
(a)それぞれ配列番号4、6、8、12、14および16;
(b)それぞれ配列番号20、22、24、28、30および32;
(c)それぞれ配列番号36、38、40、44、46および48;ならびに、
(d)それぞれ配列番号52、54、56、60、62および64、
からなる群から選択されるアミノ酸配列のセットを含み、
前記HCVRが、配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列全体と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
前記LCVRが、配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列全体と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、
抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
請求項6に記載の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで、
前記HCVRが、配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列全体と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
前記LCVRが、配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列全体と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、
抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
請求項6に記載の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで、
前記HCVRが、配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
前記LCVRが、配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、
抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
FXIIおよびFXIIaの一方または両方に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗体またはその抗原結合断片が、HCVR内に含まれる3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と、LCVR内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)と、を含み、
前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3が、
(a)それぞれ配列番号4、6、8、12、14および16;
(b)それぞれ配列番号20、22、24、28、30および32;
(c)それぞれ配列番号36、38、40、44、46および48;ならびに、
(d)それぞれ配列番号52、54、56、60、62および64、
からなる群から選択されるアミノ酸配列のセットを含み、
前記HCVRが、配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列に12以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含み、
前記LCVRが、配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列に10以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、
抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
配列番号2のアミノ酸配列を有するHCVRを含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項11】
配列番号18のアミノ酸配列を有するHCVRを含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項12】
配列番号34のアミノ酸配列を有するHCVRを含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項13】
配列番号50のアミノ酸配列を有するHCVRを含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項14】
配列番号10のアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項15】
配列番号26のアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項16】
配列番号42のアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項17】
配列番号58のアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項18】
配列番号2のHCVR内に含まれる3つのCDRと、配列番号10のLCVR内に含まれる3つのCDRと、を含む、請求項6~10および14のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項19】
配列番号18のHCVR内に含まれる3つのCDRと、配列番号26のLCVR内に含まれる3つのCDRと、を含む、請求項6~9、11および15のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項20】
配列番号34のHCVR内に含まれる3つのCDRと、配列番号42のLCVR内に含まれる3つのCDRと、を含む、請求項6~9、12および16のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項21】
配列番号50のHCVR内に含まれる3つのCDRと、配列番号58のLCVR内に含まれる3つのCDRと、を含む、請求項6~9、13および17のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項22】
それぞれ配列番号2と10のHCVRとLCVRのアミノ酸配列対を含む、請求項6~10、14および18のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項23】
それぞれ配列番号18と26のHCVRとLCVRのアミノ酸配列対を含む、請求項6~9、11、15および19のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項24】
それぞれ配列番号34と42のHCVRとLCVRのアミノ酸配列対を含む、請求項6~9、12、16および20のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項25】
それぞれ配列番号50と58のHCVRとLCVRのアミノ酸配列対を含む、請求項6~9、13、17および21のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項26】
第XII因子のFXIIaおよびFXIIbへの切断を遮断する、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、重鎖可変領域(HCVR)の3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、軽鎖可変領域(LCVR)の3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)とを含
み、
前記HCVRおよびLCVRが、(a)それぞれ配列番号2と10、(b)それぞれ配列番号18と26、(c)それぞれ配列番号34と42、および(d)それぞれ配列番号50と58からなる群から選択されるアミノ酸配列のセットにより構成されるアミノ酸配列を
有する、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項27】
請求項1~2
6のいずれか一項に記載のFXIIおよびFXIIaの一方または両方に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片と、薬学的に許容される担体または希釈剤と、を含む、医薬組成物。
【請求項28】
請求項1~
9および18~2
6のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片のHCVR
とLCVR
のアミノ酸配列対をコードするポリヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項29】
請求項
28に記載のポリヌクレオチド配列を含む、ベクター。
【請求項30】
請求項
29に記載のベクターを発現する、細胞。
【請求項31】
FXIIおよびFXIIaの一方または両方に結合する抗体またはその抗原結合断片を産生する方法であって、前記抗体またはその抗原結合断片の産生を可能にする条件下で、請求項
28に記載の単離されたポリヌクレオチド分子を含むベクターまたは請求項
29に記載のベクターを含む請求項3
0に記載の細胞を増殖させることと、そのように産生された前記抗体またはその抗原結合断片を回収することと、を含む、方法。
【請求項32】
許容される担体を含む医薬組成物として、前記抗体またはその抗原結合断片を製剤化することをさらに含む、請求項3
1に記載の方法。
【請求項33】
血栓の形成を予防する
ための、または血栓形成のリスクがある対象を治療するための医薬組成物であって、請求項1~2
6のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物。
【請求項34】
前記対象が、静脈血栓症、動脈血栓症、デバイス血栓症、血栓栓塞栓症、遺伝性血管浮腫、脳卒中、血栓性素因、心虚血、アテローム硬化性プラーク破裂、機械弁プロステーシスの使用、血液接触医療デバイスの使用、血液接触体外回路の使用、静脈血栓塞栓症、肺塞栓症、深部静脈血栓症、門脈血栓症、バッド・キアリ症候群、パジェット・シュレッター病、腎静脈血栓症、脳静脈洞血栓症、頸静脈血栓症、海綿静脈洞血栓症、肝動脈血栓症、下肢虚血、および心筋梗塞からなる群から選択される疾患、障害または状態を有する、請求項3
3に記載の医薬組成物。
【請求項35】
前記医薬組成物が、それを必要とする前記対象に、予防的または治療的に投与されることを特徴とする、請求項3
3または3
4に記載の医薬組成物。
【請求項36】
前記医薬組成物が、第2の治療剤と組み合わせて投与されることを特徴とする、請求項3
3~3
5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記第2の治療剤が、抗凝固剤、直接トロンビン阻害剤、血栓溶解性薬、線維素溶解薬、抗血小板薬、抗炎症薬、降圧薬、第2の抗FXII抗体、脂質低下薬、機械的血餅回収、カテーテル誘導血栓溶解、弾性ストッキング、および手術からなる群から選択される、請求項3
6に記載の医薬組成物。
【請求項38】
前記医薬組成物が、皮下、静脈内、皮膚内、腹腔内、または筋肉内に投与されることを特徴とする、請求項3
3~3
7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本発明は、2018年6月19日に出願された米国仮特許出願第62/687,144号に対する優先権の利益を主張し、そのすべての内容が、参照により本明細書に援用される。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体が、参照により本明細書に援用される。2019年6月18日に作成された当該ASCIIコピーは、名称が10463WO01_SL.txtであり、サイズが26,288バイトである。
【0003】
本発明は、凝固因子XIIに特異的に結合する抗体および抗体の抗原結合断片、ならびにそれらの抗体を使用する治療および診断方法に関する。
【背景技術】
【0004】
凝固因子は、血小板とともに、血管損傷中の止血のプロセスに関連する血液成分である。これらの構成要素は、調節(すなわち、生産および/または活性)において不均衡が生じた場合、血栓症の駆動因子となり得ることが十分に確立されている。血栓性疾患は、主に(組織因子を介して)外因性経路における異常な活性化から生じると考えられていたが、より最近では、F12欠損マウスおよび活性化FXII(FXIIa)を標的とする分子を用いた前臨床研究によって、凝固の内因性経路(接触経路としても知られている)も関与していることが示唆された(Renne et al 2005,J.Exp.Med.202:271-81;Larsson et al 2014,Sci.Transl.Med.6:222ra17)。FXIIaは接触経路の中心であり、FXIの切断を介して凝固を促進することができ、または血漿プレカリクレインの切断を介して炎症を促進することができる。したがって、FXII活性の阻害は、接触経路の活性化に関連する血栓凝固および炎症の低減につながる可能性がある(Schousboe 2007,Biochem.Pharmacol.75:1007-13;Danese et al 2016,Semin.Thromb.Hemostat.42:682-8;Weitz 2016,Thromb.Res.141 Suppl.2:S40-5)。当該技術分野で現在使用されている抗凝固剤、例えば、ヘパリンは、有効な抗血栓剤であるが、それらはまた、出血のリスクを増加させる。したがって、出血のリスクを増加させることなく、血栓症を予防する抗凝固剤を開発することが望ましい。
FXIIに対するモノクローナル抗体は、当該技術分野で既知であり、例えば、米国特許/公開第4963657号、同第5500349号、同第8119137号、同第8715672号、同第9856326号、同第9856325号、同第9518127号、同第2013/0095108号、同第2014/0072572号、同第2014/0072600号、ならびにWO2006/066878、WO2013/014092、EP1830924B1、EP27345522A1、およびEP2623110A1に記載されている。
出血のリスクを増加させることなく、高親和性で(活性化された)FXIIタンパク質に特異的に結合し、血栓症を予防する完全ヒト抗体は、様々なFXII関連疾患(例えば、血栓症、塞栓症、浮腫)の予防および治療において重要であり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第4963657号明細書
【文献】米国特許第5500349号明細書
【文献】米国特許第8119137号明細書
【文献】米国特許第8715672号明細書
【文献】米国特許第9856326号明細書
【文献】米国特許第9856325号明細書
【文献】米国特許第9518127号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0095108号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0072572号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0072600号明細書
【文献】国際公開第2006/066878号
【文献】国際公開第2013/014092号
【文献】欧州特許第1830924号明細書
【文献】欧州特許出願公開第27345522号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2623110号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Renne et al 2005,J.Exp.Med.202:271-81
【文献】Larsson et al 2014,Sci.Transl.Med.6:222ra17
【文献】Schousboe 2007,Biochem.Pharmacol.75:1007-13
【文献】Danese et al 2016,Semin.Thromb.Hemostat.42:682-8
【文献】Weitz 2016,Thromb.Res.141 Suppl.2:S40-5
【発明の概要】
【0007】
本発明は、凝固第XII因子タンパク質(FXIIa)の活性化形態に特異的に結合する抗体およびその抗原結合断片を提供する。特定の実施形態では、抗体はまた、第XII因子(FXII)のチモーゲン形態に結合する。特定の実施形態では、抗体は、高い親和性でFXIIおよびFXIIa(「二重FXII/FXIIa結合剤」)にも結合する、完全ヒト抗体である。本発明の抗体は、とりわけ、FXIIタンパク質の活性を阻害または中和するために有用である。特定の実施形態では、抗体は、対象においてFXII関連疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候を予防、治療、または寛解するのに有用である。特定の実施形態では、抗体は、FXII関連の疾患または障害を有するか、またはリスクがある対象に、予防的または治療的に投与されてもよい。特定の好ましい実施形態において。特定の実施形態では、抗体は、対象において出血リスクを増加させることなく、血栓症を予防する。かかる抗体は、FXII関連疾患または障害を有する対象において、投薬頻度を減らすとともに、それを必要とする対象に投与した場合、出血のリスクを増加させることなく抗凝固療法として使用することができる。
【0008】
本発明の抗体は、全長(例えば、IgG1またはIgG4抗体)であってもよく、または抗原結合部分(例えば、Fab、F(ab’)2またはscFv断片)のみを含んでいてもよく、機能性に影響を及ぼすように修飾されてもよく、例えば、宿主における持続性を増加させるために、または残存エフェクター機能を排除するように修飾されてもよい(Reddy et al.,2000,J.Immunol.164:1925-1933)。特定の実施形態では、抗体は、二重特異性であり得る。
【0009】
第1の態様では、本発明は、第XII因子(FXII)および/または活性化第XII因子(FXIIa)に特異的に結合する、単離された組換えモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を提供する。一部の実施形態では、抗体は、完全ヒトモノクローナル抗体である。特定の実施形態では、抗体は、FXIIおよびFXIIaに結合することができる「二重結合剤」である。
【0010】
本発明の例示的な抗FXII/FXIIa抗体を、本明細書の表1および2に列挙する。表1は、例示的な抗体の重鎖可変領域(HCVR)、軽鎖可変領域(LCVR)、重鎖相補性決定領域(HCDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、ならびに軽鎖相補性決定領域(LCDR)(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)のアミノ酸配列識別子を示す。表2は、例示的な抗体のHCVR、LCVR、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3の核酸配列識別子を示す。
【0011】
本発明は、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されたHCVRアミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列を含むHCVR、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似した配列を含む。
【0012】
本発明はまた、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されたLCVRアミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列を含むLCVR、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似した配列を含む。
【0013】
本発明はまた、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されたLCVRアミノ酸配列のうちのいずれかと対になっている表1に列挙されたHCVRアミノ酸配列のうちのいずれかを含む、HCVRとLCVRとのアミノ酸配列対(HCVR/LCVR)を含む。特定の実施形態によると、本発明は、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙された例示的な抗FXII/FXIIa抗体のうちのいずれかに含まれるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。特定の実施形態では、HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号2/10(例えば、mAb26036)、18/26(例えば、mAb26048)、34/42(例えば、mAb26049)、または50/58(例えば、mAb26076)のうちの1つから選択される。
【0014】
本発明はまた、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合断片を提供し、当該HCVRは、12個以下のアミノ酸置換を有する表1に列挙されたアミノ酸配列を含み、および/または当該LCVRは、10個以下のアミノ酸置換を有する表1に列挙されたアミノ酸配列を含む。例えば、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合断片を提供し、当該HCVRは、配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、当該アミノ酸配列は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12個のアミノ酸置換を有する。別の実施例では、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合断片を提供し、当該LCVRは、配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、当該アミノ酸配列は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸置換を有する。一実施形態では、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗FXII/FXIIa抗体またはその抗原結合断片を提供し、当該HCVRは、配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、当該アミノ酸配列は、少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、および/または当該LCVRは、配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、当該アミノ酸配列は、少なくとも1つのアミノ酸置換を有する。
【0015】
本発明はまた、抗体、またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されたHCDR1アミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(HCDR1)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0016】
本発明はまた、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されたHCDR2アミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(HCDR2)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0017】
本発明はまた、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されたHCDR3アミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0018】
本発明はまた、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されたLCDR1アミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1(LCDR1)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0019】
本発明はまた、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されたLCDR2アミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2(LCDR2)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0020】
本発明はまた、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されたLCDR3アミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(LCDR3)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0021】
本発明はまた、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されたLCDR3アミノ酸配列のうちのいずれかと対をなす表1に列挙されたHCDR3アミノ酸配列のうちのいずれかを含む、HCDR3およびLCDR3のアミノ酸配列対(HCDR3/LCDR3)を含む。特定の実施形態によると、本発明は、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙された例示的な抗FXII抗体のうちのいずれかに含まれるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む。特定の実施形態では、HCDR3/LCDR3アミノ酸配列対は、配列番号8/16(例えばmAb26036)、24/32(例えばmAb26048)、40/48(例えばmAb26049)、および56/64(例えばmAb26076)からなる群から選択される。
【0022】
本発明はまた、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合断片を提供し、当該HCVRは、表1に列挙されたアミノ酸配列と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むHCDR1と、表1に列挙されたアミノ酸配列と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むHCDR2と、表1に列挙されたアミノ酸配列と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むHCDR3と、を含む。特定の実施形態では、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合断片を提供し、当該LCVRは、表1に列挙されたアミノ酸配列と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むLCDR1と、表1に列挙されたアミノ酸配列と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むLCDR2と、表1に列挙されたアミノ酸配列と1アミノ酸異なるアミノ酸配列LCDR3と、を含む。例えば、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合断片を提供し、当該HCVRは、配列番号4のアミノ酸配列または配列番号4と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むHCDR1と、配列番号6のアミノ酸配列または配列番号6と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むHCDR2と、配列番号8のアミノ酸配列または配列番号8と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むHCDR3と、を含む。別の例示的な実施形態では、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合断片を提供し、当該LCVRは、配列番号12のアミノ酸配列または配列番号12と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むLCDR1と、配列番号14のアミノ酸配列または配列番号14と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むLCDR2と、配列番号16のアミノ酸配列または配列番号16と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むLCDR3と、を含む。
【0023】
本発明はまた、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙された例示的な抗体のうちのいずれかに含まれる6つのCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む。特定の実施形態では、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3のアミノ酸配列セットは、配列番号4-6-8-12-14-16(例えば、mAb26036)、20-22-24-28-30-32(例えば、mAb26048)、36-38-40-44-46-48(例えば、mAb26049)、および52-54-56-60-62-64(例えば、mAb26076)からなる群から選択される。
【0024】
関連する実施形態では、本発明は、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙された例示的な抗体のうちのいずれかによって定義されるHCVR/LCVRのアミノ酸配列対に含まれる6つのCDR(例えば、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)のセットを含む。例えば、本発明は、抗体またはその抗原結合断片を含み、配列番号2/10(例えば、mAb26036)、18/26(例えば、mAb26048)、34/42(例えば、mAb26049)、または50/58(例えば、mAb26076)からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対に含まれるHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットを含む。HCVRアミノ酸配列およびLCVRアミノ酸配列内のCDRを特定するための方法および技術は、当該技術分野で周知であり、本明細書に開示される特定のHCVRアミノ酸配列および/またはLCVRアミノ酸配列内のCDRを特定するために使用することができる。CDRの境界を特定するために使用することができる例示的な規則には、例えば、Kabat定義、Chothia定義、およびAbM定義が含まれる。一般的に言えば、Kabat定義は、配列多様性に基づき、Chothia定義は、構造ループ領域の位置に基づき、AbM定義は、KabatアプローチとChothiaアプローチとの間の折衷である。例えば、Kabat,”Sequences of Proteins of Immunological Interest,”National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991);Al-Lazikani et al.,J.Mol.Biol.273:927-948(1997);and Martin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9268-9272(1989)を参照されたい。公開データベースは、抗体内のCDR配列を特定するためにも利用可能である。
【0025】
特定の実施形態では、本発明は、FXIIおよび/またはFXIIaに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含み、抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域(HCVR)内に含まれる3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と、軽鎖可変領域(LCVR)内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)とを含み、HCVRは、(i)配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列、(ii)配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、(iii)配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列、または(iv)12個以下のアミノ酸置換を有する配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、LCVRは、(i)配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列、(ii)配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、(iii)配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列、または(iv)10個以下のアミノ酸置換を有する配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0026】
本発明は、修飾グリコシル化パターンを有する抗FXII/FXIIa抗体を含む。一部の実施形態では、望ましくないグリコシル化部位を除去するための修飾、またはオリゴ糖鎖上に存在するフコース部分を欠失している抗体は、例えば、抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)機能を増加させるために有用であり得る(Shield et al.(2002)JBC 277:26733を参照)。他の用途において、ガラクトシル化の修飾は、補体依存性細胞傷害作用(CDC)を修飾するために行うことができる。
【0027】
特定の実施形態では、本発明は、FXIIへのpH依存性結合を示す抗体およびその抗原結合断片を提供する。例えば、本発明は、酸性pHよりも中性pHでより高い親和性でFXIIに結合する抗体およびその抗原結合断片を含む(すなわち、酸性pHでの結合の低下)。
【0028】
本発明はまた、FXIIまたはFXIIaへの特異的結合に対して、HCVRのCDRおよびLCVRのCDRを含む抗体またはその抗原結合断片と競合する、抗体およびその抗原結合断片を提供し、HCVRおよびLCVRは、それぞれ、表1に列挙されたHCVR配列およびLCVR配列から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0029】
本発明はまた、FXII/FXIIaへの結合に対して、HCVRのCDRおよびLCVRのCDRを含む参照抗体またはその抗原結合断片と交差競合する抗体およびその抗原結合断片を提供し、HCVRおよびLCVRは、それぞれ、表1に列挙されたHCVR配列およびLCVR配列から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0030】
本発明はまた、HCVRの3つのCDRおよびLCVRの3つのCDRを含む参照抗体またはその抗原結合断片と同じエピトープに結合する抗体およびその抗原結合断片を提供し、HCVRおよびLCVRは、それぞれ、表1に列挙されたHCVR配列およびLCVR配列から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0031】
一部の実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、アゴニスト様式でFXIIおよび/またはFXIIaに特異的に結合してもよく、すなわち、FXII/FXIIa結合および/または活性を増強または刺激してもよい。他の実施形態では、抗体は、アンタゴニスト様式でFXIIおよび/またはFXIIaに特異的に結合してもよく、すなわち、FXII結合および/または活性を遮断してもよい。
【0032】
本発明はまた、FXIへのFXIIa結合を遮断する単離された抗体およびその抗原結合断片を提供する。一部の実施形態では、FXIへのFXIIa結合を遮断する抗体またはその抗原結合断片は、FXIと同じFXIIa上のエピトープに結合してもよく、またはFXIと異なるFXIIa上のエピトープに結合してもよい。
【0033】
特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片は、二重特異性であり、FXII/FXIIaの第1のエピトープに対する第1の結合特異性、およびFXII/FXIIaの第2のエピトープに対する第2の結合特異性を含み、第1のエピトープおよび第2のエピトープは、別個であり、重複していない。
【0034】
特定の実施形態では、本発明は、以下の特徴のうちの1つ以上を有する、単離された抗体またはその抗原結合断片を提供する:(a)完全ヒトモノクローナル抗体である、(b)活性化第XII因子(FXIIa)に結合する、(c)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、25℃において、3.5nM未満の解離定数(KD)で、FXIIに結合する、(d)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、37℃において、17nM未満のKDで、FXIIに結合する、(e)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、25℃において、5nM未満、好ましくは2.5nM未満のKDで、FXIIaに結合する、(f)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、37℃において、6.5nM未満、好ましくは2.5nM未満のKDで、FXIIaに結合する、(g)機能的血漿アッセイによって測定した場合、250nM未満の濃度で、内因性経路によるトロンビン生成を遮断する、および(h)機能的血漿アッセイによって測定した場合、外因性経路によるトロンビン生成を遮断することなく、内因性経路によるトロンビン生成を遮断する。
【0035】
第2の態様では、本発明は、抗FXII/FXIIa抗体またはその一部をコードする核酸分子を提供する。例えば、本発明は、表1に列挙されたHCVRアミノ酸配列のうちのいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたHCVR核酸配列のうちのいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0036】
本発明はまた、表1に列挙されたLCVRアミノ酸配列のうちのいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたLCVR核酸配列のうちのいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0037】
本発明はまた、表1に列挙されたHCDR1アミノ酸配列のうちのいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたHCDR1核酸配列のうちのいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0038】
本発明はまた、表1に列挙されたHCDR2アミノ酸配列のうちのいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたHCDR2核酸配列のうちのいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0039】
本発明はまた、表1に列挙されたHCDR3アミノ酸配列のうちのいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたHCDR3核酸配列のうちのいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0040】
本発明はまた、表1に列挙されたLCDR1アミノ酸配列のうちのいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたLCDR1核酸配列のうちのいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0041】
本発明はまた、表1に列挙されたLCDR2アミノ酸配列のうちのいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたLCDR2核酸配列のうちのいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0042】
本発明はまた、表1に列挙されたLCDR3アミノ酸配列のうちのいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたLCDR3核酸配列のうちのいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0043】
本発明はまた、HCVRをコードする核酸分子を提供し、HCVRは、3つのCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3)を含み、HCDR1-HCDR2-HCDR3アミノ酸配列セットは、表1に列挙された例示的な抗体のうちのいずれかによって定義される。
【0044】
本発明はまた、LCVRをコードする核酸分子を提供し、LCVRは、3つのCDRのセット(すなわち、LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含み、LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットは、表1に列挙された例示的な抗体のうちのいずれかによって定義される。
【0045】
本発明はまた、HCVRおよびLCVRの両方をコードする核酸分子を提供し、HCVRは表1に列挙されたHCVRアミノ酸配列のうちのいずれかのアミノ酸配列を含み、LCVRは表1に列挙されたLCVRアミノ酸配列のうちのいずれかのアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたHCVR核酸配列のうちのいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列、および表1に列挙されたLCVR核酸配列のうちのいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。本発明のこの態様による特定の実施形態では、核酸分子は、HCVRおよびLCVRをコードし、HCVRおよびLCVRは、ともに、表1に列挙された同じ抗FXII抗体に由来する。
【0046】
関連する態様では、本発明は、抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域を含むポリペプチドを発現することができる組換え発現ベクターを提供する。例えば、本発明は、上述の核酸分子のうちのいずれか、すなわち、表2に記載のHCVR配列、LCVR配列、および/またはCDR配列のうちのいずれかをコードする核酸分子を含む、組換え発現ベクターを含む。特定の実施形態では、本発明は、発現ベクターを提供し、(a)FXII/FXIIaに結合する抗体のHCVRをコードする核酸配列を含む核酸分子であって、HCVRは、表1に列挙された配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、核酸分子、かつ/または(b)FXII/FXIIaに結合する抗体のLCVRをコードする核酸配列を含む核酸分子であって、LCVRは、表1に列挙された配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、核酸分子、を含む。また、そのようなベクターが導入された宿主細胞、ならびに抗体または抗体断片の産生を可能にする条件下で宿主細胞を培養することによって、およびそのように産生された抗体および抗体断片を回収することによって、抗体またはその一部を産生する方法もまた含まれる。特定の実施形態では、宿主細胞は、哺乳類細胞または原核細胞を含む。特定の実施形態では、宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞または大腸菌(E.coli)細胞である。特定の実施形態では、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合断片を産生する方法を提供し、この方法は、プロモーターに作動可能に連結された抗体またはその抗原結合断片のHCVRおよび/またはLCVRをコードする核酸配列を含む発現ベクターを、宿主細胞に導入することと、核酸配列の発現に好ましい条件下で宿主細胞を培養することと、抗体またはその抗原結合断片を、培養培地および/または宿主細胞から単離することと、を含む。単離された抗体またはその抗原結合断片は、先行技術で既知の方法のいずれかを使用して精製され得る。
【0047】
第3の態様では、本発明は、治療上有効量のFXII/FXIIaに特異的に結合する少なくとも1つの組換えモノクローナル抗体またはその抗原結合断片と、薬学的に許容される担体と、を含む、医薬組成物を提供する。関連する態様では、本発明は、抗FXII/FXIIa抗体と第2の治療剤の組み合わせである組成物を特徴とする。一実施形態では、第2の治療剤は、抗FXII/FXIIa抗体と有利に組み合わされる任意の薬剤である。抗FXII/FXIIa抗体と有利に組み合わせることができる例示的な薬剤としては、限定されないが、FXII活性に結合および/または阻害する他の薬剤(他の抗体またはその抗原結合断片などを含む)、ならびに/またはFXIIに直接結合しないが、それでもFXII関連疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候を治療または寛解する薬剤が挙げられる。本発明の抗FXII抗体を含む追加の併用療法および共製剤は、本明細書の他箇所に開示されている。
【0048】
第4の態様では、本発明は、本発明の抗FXII/FXIIa抗体または抗体の抗原結合部分を使用して、対象におけるFXIIに関連する疾患または障害を治療するための治療方法を提供し、これらの治療方法は、本発明の抗体または抗体の抗原結合断片を含む治療上有効量の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。治療される障害は、FXII活性の阻害によって改善、寛解、阻止、または予防される任意の疾患または状態である。特定の実施形態では、本発明は、治療上有効量の本発明の抗FXII/FXIIa抗体またはその抗原結合断片を、それを必要とする対象に投与することを含む、FXII関連疾患または障害を予防または治療するための方法を提供する。一部の実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、FXII関連疾患または障害を有するか、またはそのリスクがある対象に、予防的または治療的に投与され得る。特定の実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、第2の治療剤と組み合わせて、それを必要とする対象に投与される。第2の治療剤は、抗凝固剤、直接トロンビン阻害剤、血栓溶解性薬、線維素溶解薬、抗血小板薬、抗炎症薬、降圧薬、第2の抗FXII抗体、脂質低下薬、機械的血餅回収、カテーテル誘導血栓溶解、弾性ストッキング、手術、および当該技術分野で既知の任意の他の薬物または療法からなる群から選択され得る。特定の実施形態では、第2の治療剤は、かかる副作用(複数可)が生じた場合、本発明の抗体またはその抗原結合断片に関連する可能性のある副作用(複数可)を相殺または低減するのに役立つ薬剤であり得る。抗体またはその断片は、皮下、静脈内、皮内、腹腔内、経口、または筋肉内に投与され得る。抗体またはその断片は、対象の体重あたり約0.1mg/kg~約100mg/kgの用量で投与され得る。特定の実施形態では、本発明の抗体は、10mg~600mgを含む1回以上の用量で投与され得る。
【0049】
本発明はまた、FXII/FXIIa結合および/または活性の遮断から利益を受けるであろう疾患または障害の治療のための薬剤の製造における本発明の抗FXII/FXIIa抗体またはその抗原結合断片の使用を含む。
【0050】
他の実施形態は、後述の詳細な説明の精査から明らかとなるであろう。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
第XII因子(FXII)に特異的に結合するその抗原結合断片の抗体であって、以下の特徴:
(a)完全ヒトモノクローナル抗体である、
(b)活性化第XII因子(FXIIa)に結合する、
(c)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、25℃において、3.5nM未満の解離定数(K
D
)で、FXIIに結合する、
(d)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、37℃において、17nM未満のK
D
で、FXIIに結合する、
(e)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、25℃において、5nM未満、好ましくは2.5nM未満のK
D
で、FXIIaに結合する、
(f)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、37℃において、6.5nM未満、好ましくは2.5nM未満のK
D
で、FXIIaに結合する、
(g)機能的血漿アッセイによって測定した場合、250nM未満の濃度で、内因性経路によるトロンビン生成を遮断する、および
(h)機能的血漿アッセイによって測定した場合、外因性経路によるトロンビン生成を遮断することなく、内因性経路によるトロンビン生成を遮断する、のうちの1つ以上を有する、抗体。
(項目2)
前記抗体または抗原結合断片が、重鎖可変領域(HCVR)内に含まれる3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と、軽鎖可変領域(LCVR)内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)とを含み、前記HCVRが、表1に列挙されたHCVR配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、項目1に記載の抗体または抗原結合断片。
(項目3)
表1に列挙されたLCVR配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、項目2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目4)
(a)配列番号4、20、36、および52からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメインと、
(b)配列番号6、22、38、および54からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメインと、
(c)配列番号8、24、40、および56からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメインと、
(d)配列番号12、28、44、および60からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメインと、
(e)配列番号14、30、46、および62からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメインと、
(f)配列番号16、32、48、および64からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインと、を含む、項目2または3に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目5)
(a)配列番号4、6、8、12、14、および16、(b)配列番号20、22、24、28、30、および32、(c)配列番号36、38、40、44、46、および48、ならびに(d)配列番号52、54、56、60、62、および64、からなる群から選択されるCDRを含む、項目4に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目6)
配列番号2/10、18/26、34/42、および50/58からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、項目5に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目7)
FXII/FXIIaに結合する抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗体またはその抗原結合断片が、HCVR内に含まれる3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と、LCVR内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)と、を含み、前記HCVRが、
(i)配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、
(iii)配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(iv)配列番号2、18、34、および50からなる群から選択され、12個以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列、を含み、
前記LCVRが、
(i)配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、
(iii)配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(iv)配列番号10、26、42、および58からなる群から選択され、10個以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列、を含む、抗体またはその抗原結合断片。
(項目8)
配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む、項目7に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目9)
配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、項目7に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目10)
配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるHCVR内に含まれる3つのCDRと、配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるLCVR内に含まれる3つのCDRと、を含む、項目7~9のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目11)
配列番号2/10、18/26、34/42、および50/58からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、項目7~10のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合断片。
(項目12)
(a)配列番号4、20、36、および52からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメインと、
(b)配列番号6、22、38、および54からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメインと、
(c)配列番号8、24、40、および56からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメインと、
(d)配列番号12、28、44、および60からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメインと、
(e)配列番号14、30、46、および62からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメインと、
(f)配列番号16、32、48、および64からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインと、を含む、項目7に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目13)
(a)配列番号4、6、8、12、14、および16、(b)配列番号20、22、24、28、30、および32、(c)配列番号36、38、40、44、46、および48、ならびに(d)配列番号52、54、56、60、62、および64、からなる群から選択されるCDRを含む、項目12に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目14)
配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む、項目13に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目15)
配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、項目13に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目16)
配列番号2/10、18/26、34/42、および50/58からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、項目12~15のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目17)
第XII因子への結合に対して、項目1~16のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片と競合する、抗体またはその抗原結合断片。
(項目18)
項目1~16のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片と同じエピトープに結合する、抗体またはその抗原結合断片。
(項目19)
配列番号2、18、34、および50からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCVRの3つのCDRと、配列番号10、26、42、および58からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRの3つのCDRと、を含む、第XII因子のFXIIaおよびFXIIbに対する切断を遮断する、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
(項目20)
項目1~19のいずれか一項に記載の第XII/XIIa因子に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片と、薬学的に許容される担体または希釈剤と、を含む、医薬組成物。
(項目21)
項目1~19のいずれか一項に記載の抗体のHCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチド分子。
(項目22)
項目1~19のいずれか一項に記載の抗体のLCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチド分子。
(項目23)
項目21または22に記載のポリヌクレオチド配列を含む、ベクター。
(項目24)
項目23に記載のベクターを発現する、宿主細胞。
(項目25)
抗FXII/FXIIa抗体またはその抗原結合断片を産生する方法であって、前記抗体または断片の産生を可能にする条件下で、項目24に記載の宿主細胞を増殖させることと、そのように産生された前記抗体または断片を回収することと、を含む、方法。
(項目26)
許容される担体を含む医薬組成物として、前記抗体またはその抗原結合断片を製剤化することをさらに含む、項目25に記載の方法。
(項目27)
血栓の形成を予防する、または血栓形成のリスクがある対象を治療する方法であって、治療上有効量の項目1~19のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
(項目28)
前記対象が、静脈血栓症、動脈血栓症、デバイス血栓症、血栓栓塞栓症、遺伝性血管浮腫、脳卒中、血栓性素因、心虚血、アテローム硬化性プラーク破裂、機械弁プロステーシスの使用、血液接触医療デバイスの使用、血液接触体外回路の使用、静脈血栓塞栓症、肺塞栓症、深部静脈血栓症、門脈血栓症、バッド・キアリ症候群、パジェット・シュレッター病、腎静脈血栓症、脳静脈洞血栓症、頸静脈血栓症、海綿静脈洞血栓症、肝動脈血栓症、下肢虚血、および心筋梗塞からなる群から選択される疾患、障害または状態を有する、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記医薬組成物が、それを必要とする前記対象に、予防的または治療的に投与される、項目27または28に記載の方法。
(項目30)
前記医薬組成物が、第2の治療剤と組み合わせて投与される、項目27~29のいずれか一項に記載の方法。
(項目31)
前記第2の治療剤が、抗凝固剤、直接トロンビン阻害剤、血栓溶解性薬、線維素溶解薬、抗血小板薬、抗炎症薬、降圧薬、第2の抗FXII抗体、脂質低下薬、機械的血餅回収、カテーテル誘導血栓溶解、弾性ストッキング、および手術からなる群から選択される、項目30に記載の方法。
(項目32)
前記医薬組成物が、皮下、静脈内、皮膚内、腹腔内、または筋肉内に投与される、項目27~31のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0051】
詳細な説明
本方法を説明する前に、本発明は、このような方法および条件が変化し得るため、特定の方法および記載された実験条件に限定されないことを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、限定することを企図するものではないことも理解されるべきである。
【0052】
別段定義されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明の属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に説明されるものと類似のまたは等価の任意の方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料をこれから説明する。本明細書に言及されているすべての刊行物は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0053】
定義
「FXII」という用語は、「第XII因子」とも呼ばれ、ハーゲマン因子としても知られている凝固第XII因子を指す。596アミノ酸のFXIIタンパク質は、第XIIa因子のチモーゲン形態であり、アミノ末端の重鎖およびカルボキシ末端の軽鎖からなるβ-グロブリン血漿セリンプロテアーゼである。その重鎖は、2つのフィブロネクチン型ドメイン(I型およびII型)、2つの上皮増殖因子様ドメイン、クリングルドメイン、およびプロリンリッチ領域を含有し、その軽鎖は、プロテアーゼドメインを含有する。血液が負に荷電した物質または人工表面に曝露されると、接触活性化として知られている一連の反応を介してトロンビン生成およびフィブリン形成を引き起こす。第XII因子は、凝固カスケードにおいて第XI因子およびプレカリクレインを活性化する。第XII因子自体は、血漿カリクレイン、血小板または細菌ポリリン酸、細胞外DNAまたはRNA、肥満細胞から放出されるヘパリン、アミロイドペプチド、ミスフォールディングしたタンパク質凝集体、およびガラスなどの負に帯電した表面によって、第XIIa因子へと活性化される。これが内因性経路の出発点である。全長FXIIタンパク質のアミノ酸配列は、受入番号P00748.3としてUniProtKB/Swiss-Protに提供されたアミノ酸配列によって例示される。全長FXIIタンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において、配列番号65としても示されている。「FXII」という用語は、組換えFXIIタンパク質またはその断片を含む。この用語はまた、例えば、ヒスチジンタグ、マウスもしくはヒトFc、またはROR1などのシグナル配列に結合したFXIIタンパク質またはその断片を包含する。
【0054】
「抗体」という用語は、本発明で使用する場合、ジスルフィド結合によって相互連結された4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖、から構成されている免疫グロブリン分子、ならびにその多量体(例えば、IgM)またはその抗原結合断片を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「VH」)および重鎖定常領域(ドメインCH1、CH2およびCH3からなる)から構成されている。各軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVR」または「VL」)および軽鎖定常領域(CL)を含む。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域へとさらに細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、以下の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明の特定の実施形態では、抗体(もしくはその抗原結合断片)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよく、または天然にもしくは人工的に修飾されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。
【0055】
1つ以上のCDR残基の置換、または1つ以上のCDRの省略もまた、可能である。科学文献では、抗体の結合に関して、1つまたは2つのCDRを省くことができることが記載されている。Padlanら(1995 FASEB J.9:133-139)は、公開されている結晶構造に基づいて、抗体とそれらの抗原との間の接触領域を分析し、CDR残基の約5分の1~3分の1のみが実際に抗原に接触すると結論付けた。Padlanはまた、1つまたは2つのCDRが、抗原と接触するアミノ酸を有しない多くの抗体を見出した(Vajdos et al.2002 J Mol Biol 320:415-428も参照されたい)。
【0056】
抗原に接触していないCDR残基は、以前の研究に基づいて、分子モデリングによっておよび/または経験的に、Chothia CDRの外側に位置するKabat CDRの領域から特定され得る(例えば、CDRH2の残基H60~H65は、多くの場合必要ではない)。CDRまたはその残基(複数可)が省略される場合、それは通常、別のヒト抗体配列の対応する位置を占めるアミノ酸またはそのような配列のコンセンサスで置換される。CDR内の置換のための位置および置換するアミノ酸は、経験的に選択することもできる。経験的な置換は、保存的置換または非保存的置換であり得る。
【0057】
本明細書に開示される完全ヒト抗FXIIモノクローナル抗体は、対応する生殖系列配列と比較して、重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域および/またはCDR領域において、1つ以上のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含み得る。このような変異は、本明細書中に開示するアミノ酸配列を、例えば公共の抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することによって容易に確認することができる。本発明は、本明細書に開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体およびその抗原結合断片を含み、ここで、1つ以上のフレームワーク領域および/またはCDR領域内の1つ以上のアミノ酸は、抗体が由来した生殖系列配列の対応する残基(複数可)に変異し、もしくは別のヒト生殖系列配列の対応する残基(複数可)に変異し、または対応する生殖系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換に変異する(このような配列変化を本明細書ではまとめて、「生殖系列変異」と称する)。当業者は、本明細書に開示する重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列から出発して、1つ以上の個々の生殖系列変異またはこれらの組み合わせを含む多数の抗体および抗体結合断片を容易に産生することができる。ある特定の実施形態において、VHおよび/またはVLドメイン内のフレームワークおよび/またはCDR残基はすべて、抗体が由来した元の生殖系列配列において見出される残基へと再び変異する。他の実施形態において、ある特定の残基のみが元の生殖系列配列へと変異し戻され、例えば、変異した残基はFR1の最初の8個のアミノ酸内に、もしくは変異した残基はFR4の最後の8個のアミノ酸内に認められ、または変異した残基は、CDR1、CDR2もしくはCDR3内にのみ認められる。他の実施形態において、フレームワークおよび/またはCDR残基(複数可)の1つ以上は、異なる生殖系列配列(すなわち、抗体が本来由来した生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基(複数可)へ変異する。さらに、本発明の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内に2つ以上の生殖系列変異の任意の組み合わせを含有してもよく、例えば、ある特定の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基へ変異するのに対し、元の生殖系列配列とは異なるある特定の他の残基は、維持され、または異なる生殖系列配列の対応する残基へ変異する。いったん得られれば、1つ以上の生殖系列変異を含有する抗体および抗体結合断片は、結合特異性の改善、結合親和性の増加、アンタゴニストまたはアゴニストの生物学的特性の改善または増強(場合によって)、免疫原性の低下などの1つ以上の所望の特性について容易に試験することができる。この一般的な様式で得られる抗体および抗体結合断片は、本発明の範囲内に包含される。
【0058】
本発明はまた、1つ以上の保存的置換を有する本明細書に開示されるHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列のうちのいずれかのバリアントを含む、完全ヒト抗FXIIモノクローナル抗体を含む。例えば、本発明は、本明細書に開示するHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列のうちのいずれかに対して、例えば10個以下、8個以下、6個以下、または4個以下などの保存的アミノ酸置換を伴うHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列を有する抗FXII抗体を含む。
【0059】
「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことが企図される。本発明のヒトmAbは、例えば、CDR、特にCDR3における、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発によってまたはインビボでの体細胞突変異によって導入された変異)によってコードされないアミノ酸残基を含み得る。しかしながら、本明細書で使用される場合、「ヒト抗体」という用語は、別の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖系列に由来するCDR配列がヒトFR配列上に移植されたmAbを含むことを意図するものではない。この用語は、非ヒト哺乳動物または非ヒト哺乳動物の細胞において組換え的に産生された抗体を含む。この用語は、ヒト対象から単離された、またはヒト対象において生成された抗体を含むよう企図されるものではない。
【0060】
本明細書で使用される「組換え」という用語は、例えば、DNAスプライシングおよびトランスジェニック発現を含む組換えDNA技術として当該技術分野で既知の技術または方法によって生成、発現、単離または取得された本発明の抗体またはその抗原結合断片を指す。この用語は、非ヒト哺乳動物(トランスジェニック非ヒト哺乳動物、例えば、トランスジェニックマウスを含む)、または細胞(例えば、CHO細胞)発現系で発現された抗体、または組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体を指す。
【0061】
「specifically binds(特異的に結合する)」または「binds specifically to(特異的に結合する)」などの用語は、抗体またはその抗原結合断片が、生理学的条件下で比較的安定な抗原と複合体を形成することを意味する。特異的結合は、少なくとも約1×10-8M以下の平衡解離定数によって特徴付けることができる(例えば、より小さいKDは、より密接な結合を示す)。2つの分子が特異的に結合するかどうかを決定するための方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などを含む。本明細書に記載されるように、FXIIに特異的に結合する抗体は、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)によって特定されている。そのうえ、本明細書で使用される場合、FXIIの1つのドメインおよび1つ以上の追加の抗原に結合する多特異性抗体、またはFXIIの2つの異なる領域に結合する二重特異性抗体は、それにもかかわらず「特異的に結合する」抗体と見なされる。
【0062】
「高親和性」抗体という用語は、KDとして表されるFXIIに対する結合親和性が、少なくとも10-8M、好ましくは10-9M、より好ましくは10-10M、さらにより好ましくは10-11Mを有するmAbを指し、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)、または溶液親和性ELISAによって測定される。
【0063】
「遅い解離速度」、「Koff」または「kd」という用語は、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)によって決定されるように、1×10-3s-1以下、好ましくは1×10-4s-1以下の速度定数でFXIIから解離する抗体を意味する。
【0064】
抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」および同様の用語は、本明細書で使用される場合、天然の、酵素処理で入手可能な、合成の、または遺伝子操作された、抗原を特異的に結合して複合体を形成するポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合断片」または単に「抗体断片」という用語は、FXIIタンパク質に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指す。
【0065】
特定の実施形態では、本発明の抗体または抗体断片は、リガンドまたは治療部分(therapeutic moiety)などの部分(「イムノコンジュゲート」)、第2の抗FXII抗体、またはFXII関連疾患または障害の治療に有用な任意の他の治療部分にコンジュゲートされ得る。
【0066】
本明細書で使用される場合、「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体(Ab)を実質的に含まない抗体を指すことが意図される(例えば、FXIIおよび/もしくはFXIIaまたはその断片に特異的に結合する単離された抗体は、FXIIまたはFXIIa以外の抗原に特異的に結合するAbを実質的に含まない。
【0067】
本明細書で使用される場合、「遮断抗体」または「中和抗体」(または「FXII活性を中和する抗体」もしくは「アンタゴニスト抗体」)は、FXII/FXIIaへの結合がFXIIの少なくとも1つの生物学的活性の阻害をもたらす抗体を指すことが意図される。例えば、本発明の抗体は、内因性経路による凝固を防止または遮断し得る。
【0068】
本明細書で使用される場合、「表面プラズモン共鳴」という用語は、例えば、BIACORE(商標)システム(Pharmacia Biosensor AB,Uppsala,Sweden and Piscataway,N.J.)を使用して、バイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化の検出によるリアルタイム生体分子相互作用の分析を可能にする光学現象を指す。
【0069】
「KD」という用語は、本明細書で使用される場合、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指すことが意図される。
【0070】
「エピトープ」という用語は、パラトープとして知られている抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原は2つ以上のエピトープを有してもよい。したがって、異なる抗体は、抗原上の異なる領域へ結合し得、異なる生物学的効果を有し得る。「エピトープ」という用語は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位を指す。それは、また、抗体が結合する抗原の領域を指す。エピトープは、構造的または機能的と定義され得る。機能的エピトープは概して、構造エピトープのサブセットであり、相互作用の親和性に直接寄与する残基を有する。エピトープは、立体構造的であってもよく、すなわち、非線状アミノ酸から構成され得る。特定の実施形態では、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、またはスルホニル基などの分子の化学的に活性のある表面群である決定基を含み得、特定の実施形態では、特異的三次元構造特徴および/または比電荷特徴を有し得る。
【0071】
本明細書で使用される場合、「交差競合する」という用語は、抗体またはその抗原結合断片が、抗原に結合し、別の抗体またはその抗原結合断片の結合を阻害または遮断することを意味する。この用語はまた、両方の配向における2つの抗体間の競合、すなわち、第2の抗体に結合して第2の抗体の結合を遮断する第1の抗体も含み、その逆も同様である。特定の実施形態では、第1の抗体および第2の抗体は、同じエピトープに結合し得る。あるいは、第1の抗体および第2の抗体は、異なっているが重複しているエピトープに結合することができるため、一方の結合が、例えば、立体障害を介して、第2の抗体の結合を阻害または遮断する。抗体間の交差競合は、当該技術分野で既知の方法によって、例えば、リアルタイム無標識バイオレイヤー干渉法アッセイによって測定され得る。2つの抗体間の交差競合は、自己結合(この場合、第1および第2の抗体は、同じ抗体である)によるバックグラウンドシグナルよりも低い第2の抗体の結合として表され得る。2つの抗体間の交差競合は、例えば、ベースラインの自己バックグラウンド結合(この場合、第1および第2の抗体は、同じ抗体である)よりも低い第2の抗体の結合%として表され得る。
【0072】
「実質的な同一性」または「実質的に同一である」という用語は、核酸またはその断片を指す場合、適切なヌクレオチドの挿入または欠失を用いて別の核酸(またはその相補鎖)と最適に整列させたとき、以下で考察するようにFASTA、BLAST、またはGAPなどの配列同一性の任意の周知のアルゴリズムによって測定した場合、ヌクレオチド塩基の少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、約96%、97%、98%、または99%のヌクレオチド配列同一性があることを示す。参照核酸分子と実質的な同一性を有する核酸分子は、特定の場合では、参照核酸分子によってコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードすることができる。
【0073】
ポリペプチドに適用される場合、「実質的な類似性」または「実質的に類似の」という用語は、2つのペプチド配列が、既定のギャップ重みを使用して、プログラムGAPまたはBESTFITによってなど最適に整列した場合、少なくとも90%の配列同一性、さらにより好ましくは、少なくとも95%、98%または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換によって異なる。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を備えた側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されたものである。概して、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させないことになっている。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合、類似性の割合または程度は、置換の保存的性質を補正するために上向きに調整してもよい。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307-331を参照されたい(参照により本明細書に援用される)。類似の化学的特性を備えた側鎖を有するアミノ酸基の例としては、1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン、2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン、3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン、4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン、6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびに7)含硫側鎖:システインおよびメチオニンが挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換とは、Gonnet et al.(1992)Science 256:1443 45に開示されているPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である(参照により本明細書に援用される)。「適度に保存的な」置換とは、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負以外の値を有する任意の変化である。
【0074】
ポリペプチドに対する配列類似性は、典型的には、配列分析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む種々の置換、欠失および他の修飾へ割り当てられた類似の測定値を使用して類似の配列と一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる種の生物由来の相同ポリペプチドのような密接に関連するポリペプチド間の、または野生型タンパク質とその変異タンパク質の間の、配列相同性または配列同一性を決定するための既定パラメータとともに使用することができるGAPおよびBESTFITなどのプログラムを含有する。例えば、GCG第6.1版を参照されたい。ポリペプチド配列は、GCG第6.1版におけるプログラムである、既定パラメータまたは推奨パラメータを備えたFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、問い合わせ配列と検索配列の間の最良重複の領域の整列およびパーセント配列同一性を提供する(Pearson(2000)上記)。本発明の配列を、異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、既定パラメータを使用するコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410および(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-3402を参照されたい(それぞれ参照により本明細書に援用される)。
【0075】
「治療上有効量」という語句は、それが投与される所望の効果を生み出す量を意味する。正確な量は治療の目的に応じて異なり、既知の技術を使用して当業者によって確認可能であろう(例えば、Lloyd(1999)The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照されたい)。
【0076】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、血栓症または塞栓症などのFXII関連の疾患または障害の改善、予防、および/または治療を必要とする動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指す。この用語は、かかる疾患または障害を有するか、またはそのリスクがあるヒト対象を含む。
【0077】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療すること」、または「治療」という用語は、本発明の抗体などの治療剤を、それを必要とする対象に投与することによって、FXII関連の疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候の重症度を低減または寛解することを指す。これらの用語は、疾患の進行または症状/徴候の悪化の阻害を含む。この用語はまた、疾患の良好な予後を含み、すなわち、対象は、本発明の抗体などの治療剤の投与時に、疾患がなくなる、または疾患を低減した可能性がある。治療剤は、対象に治療用量で投与され得る。
【0078】
「予防する」、「予防すること」、または「予防」という用語は、本発明の抗体の投与時のFXII関連疾患もしくは障害の発現の阻害、またはかかる疾患もしくは障害の任意の症状もしくは徴候を指す。
【0079】
抗体の抗原結合断片
特に明記しない限り、本明細書で使用される「抗体」という用語は、2つの免疫グロブリン重鎖と2つの免疫グロブリン軽鎖とを含む抗体分子(すなわち、「完全抗体分子」)、ならびにその抗原結合断片を包含するものと理解されるべきである。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」および同様の用語は、本明細書で使用される場合、天然の、酵素処理で入手可能な、合成の、または遺伝子操作された、抗原を特異的に結合して複合体を形成するポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の「抗原結合断片」または「抗体断片」という用語は、本明細書で使用される場合、FXIIタンパク質に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指す。抗体断片は、Fab断片、F(ab’)2断片、Fv断片、dAb断片、CDRを含有する断片、または単離されたCDRを含み得る。特定の実施形態では、「抗原結合断片」という用語は、多特異性抗原結合分子のポリペプチド断片を指す。抗体の抗原結合断片は、例えば、抗体可変ドメインおよび(任意選択的に)定常ドメインをコードするDNAの操作および発現に関与するタンパク質消化技術または組換え遺伝子操作技術などの任意の好適な標準的技術を使用して、完全抗体分子から誘導され得る。かかるDNAは既知であり、および/または例えば市販の供給源、DNAライブラリー(例えばファージ-抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、または合成することができる。DNAは、例えば、1つ以上の可変ドメインおよび/もしくは定常ドメインを好適な配置へと配置するか、またはコドンを導入し、システイン残基を作成し、アミノ酸を修飾、付加、もしくは欠失などするために、化学的に、または分子生物学技法を使用することによって配列決定および操作され得る。
【0080】
抗原結合断片の非限定的な例としては、(i)Fab断片、(ii)F(ab’)2断片、(iii)Fd断片、(iv)Fv断片、(v)単鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAb断片、および(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))を模倣するアミノ酸残基、または拘束FR3-CDR3-FR4ペプチドからなる最小認識単位、が挙げられる。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小型モジュール型免疫医薬品(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインなどの他の操作された分子も、本明細書で使用する「抗原結合断片」という表現に包含される。
【0081】
抗体の抗原結合断片は、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含むであろう。可変ドメインは、任意の大きさまたはアミノ酸組成物であり得、概して、1つ以上のフレームワーク配列に隣接しているかまたは1つ以上のフレームワーク配列とともにインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。VLドメインと結合したVHドメインを有する抗体結合断片において、VHドメインおよびVLドメインは、任意の好適な配置で互いに対して配置され得る。例えば、可変領域は二量体であり、VH-VH、VH-VLまたはVL-VL二量体を含有し得る。あるいは、抗体の抗原結合断片は、単量体のVHドメインまたはVLドメインを含み得る。
【0082】
ある特定の実施形態において、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合された少なくとも1つの可変ドメインを含み得る。本発明の抗体の抗原結合断片内に見出すことができる可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的な例示的な構成としては、(i)VH-CH1、(ii)VH-CH2、(iii)VH-CH3、(iv)VH-CH1-CH2、(v)VH-CH1-CH2-CH3、(vi)VH-CH2-CH3、(vii)VH-CL、(viii)VL-CH1、(ix)VL-CH2、(x)VL-CH3、(xi)VL-CH1-CH2、(xii)VL-CH1-CH2-CH3、(xiii)VL-CH2-CH3、および(xiv)VL-CL、が挙げられる。上に列挙した例示的な立体配置のいずれかを含む、可変ドメインおよび定常ドメインの任意の立体配置において、可変ドメインおよび定常ドメインは、互いに直接連結されていてもよく、または完全もしくは部分的ヒンジ領域もしくはリンカー領域によって連結されていてもよい。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子において隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメイン間の可撓性または半可撓性の結合をもたらす少なくとも2つの(例えば、5、10、15、20、40、60またはそれより多数の)アミノ酸からなり得る。そのうえ、本発明の抗体の抗原結合断片は、互いとのおよび/または1つ以上の単量体VHドメインもしくはVLドメイン(例えば、ジスルフィド結合(複数可)により)との非共有結合において、上に列挙した可変ドメイン立体配置および定常ドメイン立体配置のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含み得る。
【0083】
完全抗体分子と同様に、抗原結合断片は、単一特異性または多特異性(例えば、二重特異性)であり得る。抗体の多特異性抗原結合断片は、典型的には、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み、各可変ドメインは、別個の抗原または同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる。本明細書に開示される例示的な二重特異性抗体の型式を含む任意の多特異性抗体の型式は、当該技術分野で利用可能な通常の技術を使用して、本発明の抗体の抗原結合断片の文脈での使用に適合され得る。
【0084】
ヒト抗体の調製
トランスジェニックマウスにおいてヒト抗体を生成するための方法は、当該技術分野で知られている。任意のこのような既知の方法は、FXIIおよび/またはFXIIaに特異的に結合するヒト抗体を作製するために、本発明の文脈で使用され得る。
【0085】
FXIIおよび/またはFXIIaタンパク質に特異的に結合する抗体を生成するために、以下のうちのいずれか1つを含む免疫原を使用することができる。特定の実施形態では、本発明の抗体は、完全長の天然FXIIまたはFXIIaタンパク質で(例えば、UniProtKB/Swiss-Prot受託番号P00748.3を参照のこと)またはタンパク質もしくはその断片をコードするDNAで免疫化したマウスから得られる。あるいは、タンパク質またはその断片は、標準的な生化学的技術を使用して生成され、修飾され、免疫原として使用され得る。
【0086】
一部の実施形態では、免疫原は、組換えFXIIタンパク質またはその断片であり得、E.coliにおいて、またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの任意の他の真核細胞もしくは哺乳類細胞において発現される。
【0087】
VELOCIMMUNE(登録商標)技術(例えば、US6,596,541、RegeneronPharmaceuticals,VELOCIMUNE(登録商標)を参照)またはモノクローナル抗体を生成するための任意の他の既知の方法を使用して、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、FXIIに対して高親和性のキメラ抗体が最初に単離される。VELOCIMMUNE(登録商標)技術は、マウスが抗原刺激に対する応答においてヒト可変領域と、マウス定常領域と、を含む、抗体を産生するように、ヒト重鎖可変領域と、ヒト軽鎖可変領域と、を含む、ゲノムが内在性マウス定常領域座に動作可能に連結されたトランスジェニックマウスの生成を包含する。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、ヒト重鎖定常領域およびヒト軽鎖定常領域をコードするDNAに動作可能に連結する。次に、完全ヒト抗体を発現することができる細胞においてDNAを発現させる。
【0088】
概して、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスに関心対象の抗原を負荷し、抗体を発現するマウスからリンパ細胞(B細胞など)を回収する。リンパ細胞を骨髄腫細胞株と融合させて不死化ハイブリドーマ細胞株を調製し得、関心対象の抗原に特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定するためにこのようなハイブリドーマ細胞株をスクリーニングおよび選択する。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し得、重鎖および軽鎖の望ましいアイソタイプ定常領域へ連結することができる。このような抗体タンパク質は、CHO細胞などの細胞において産生され得る。あるいは、抗原特異的キメラ抗体または軽鎖および重鎖の可変ドメインをコードするDNAを抗原特異的リンパ球から直接単離することができる。
【0089】
まず、ヒト可変領域とマウス定常領域とを有する高親和性キメラ抗体を単離する。以下の実験セクションと同様に、抗体は、親和性、選択性、エピトープなどを含む望ましい特徴について特徴付けされ、選択される。マウス定常領域は、本発明の完全ヒト抗体、例えば、野生型または修飾IgG1もしくはIgG4を生成するために、所望のヒト定常領域と置換される。選択された定常領域は特異的用途に応じて変化し得るが、高親和性抗原結合特徴および標的特異性特徴は、可変領域に存在する。
【0090】
生物学的等価物
本発明の抗FXII抗体および抗体断片は、記載された抗体のものとは異なるが、FXIIタンパク質に結合する能力を保持するアミノ酸配列を有するタンパク質を包含する。そのようなバリアント抗体は、親配列と比較して、アミノ酸の1つ以上の付加、欠失、または置換を含むが、記載された抗体のものと本質的に等価である生物学的活性を示す。同様に、本発明の抗体をコードしているDNA配列は、開示された配列と比較して、ヌクレオチドの1つ以上の付加、欠失、または置換を含むが、本発明の抗体または抗体断片と本質的に生物学的に等価である抗体または抗体断片をコードする。
【0091】
2つの抗原結合タンパク質または抗体は、例えば、それらが類似の実験条件下で単回用量または複数回用量のいずれかで同じモル用量で投与された場合に、吸収速度および吸収の程度が有意差を示さない医薬的等価物または医薬的代替物である場合、生物学的等価物と見なされる。いくつかの抗体は、これらの吸収の程度は等価であるが吸収速度は等価ではなく、吸収速度のこのような差が意図的であり、標識することに反映されているので生物学的に等価と見なされ得る場合、等価物または薬学的選択肢と見なされることになっており、例えば長期使用に及ぼす有効な身体薬剤濃度の達成に必須ではなく、研究した特定の薬剤製品にとって医学的に有意ではないと見なされる。
【0092】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、それらの安全性、純度、または有効性において臨床的に有意な差がない場合、生物学的に等価である。
【0093】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、免疫原性の臨床的に有意な変化または有効性の減退を含む有害作用のリスクの期待される上昇なしで参照生成物と生物学的生成物の間での切り替えなしで持続される療法と比較して、患者を1回以上切り替えられることができる場合、生物学的に等価である。
【0094】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、これらが両方とも、使用条件(複数可)についての共通の機序または作用機序によって、このような機序が既知である程度まで作用する場合、生物学的に等価である。
【0095】
生物学的等価性は、インビボおよび/またはインビトロの方法によって実証され得る。生物学的等価性測定法には、例えば、(a)抗体またはその代謝産物の濃度が血液、血漿、血清または他の生物学的流体中で時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボでの試験、(b)ヒト生物学的利用能データと相関した、このデータを合理的に予測しているインビトロ試験、(c)抗体(またはその標的)の適切な急性薬理学的効果が時間の関数として測定されるヒトまたは他の哺乳類におけるインビボ試験、および(d)抗体の安全性、効能、または生物学的利用能もしくは生物学的等価性を確立する、十分に管理された臨床試験が含まれる。
【0096】
本発明の抗体の生物学的に等価なバリアントは、例えば、残基もしくは配列の様々な置換を作製すること、または生物活性に必要とされない末端もしくは内部の残基もしくは配列を欠失することによって構築され得る。例えば、生物学的活性にとって必須ではないシステイン残基は、再生の際の不必要または不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止するために、欠失または他のアミノ酸で置換することができる。他の文脈では、生物学的に等価な抗体は、抗体のバリアントを含み、抗体の特徴であるグリコシル化を修飾するアミノ酸変化、例えば、グリコシル化を排除または除去する変異、を含み得る。
【0097】
Fcバリアントを含む抗FXII抗体
本発明の特定の実施形態によると、例えば、中性pHと比較して酸性pHで、FcRn受容体への抗体結合を強化または減少させる1つ以上の変異を含むFcドメインを含む、抗FXII抗体が提供される。例えば、本発明は、FcドメインのCH2またはCH3領域に変異を含む抗FXII抗体を含み、変異(複数可)は、酸性環境で(例えば、pHが約5.5~約6.0の範囲のエンドソーム内で)、FcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる。そのような変異は、動物に投与したときに抗体の血清半減期の増加をもたらし得る。そのようなFc修飾の非限定的な例には、例えば、250位(例えば、EまたはQ)、250位および428位(例えば、LまたはF)、252位(例えば、L/Y/F/WまたはT)、254位(例えば、SまたはT)、および256位(例えば、S/R/Q/E/DまたはT)での修飾、または428位および/もしくは433位(例えば、H/L/R/S/P/QまたはK)および/もしくは434位(例えば、A、W、H、F、またはY[N434A、N434W、N434H、N434F、またはN434Y])での修飾、または250位および/もしくは428位での修飾、または307位もしくは308位(例えば、308F、V308F)、および434位での修飾が含まれる。一実施形態では、修飾は428L(例えば、M428L)および434S(例えば、N434S)の修飾、428L、259I(例えば、V259I)、および308F(例えば、V308F)の修飾、433K(例えば、H433K)および434(例えば、434Y)の修飾、252、254、および256(例えば、252Y、254T、および256E)の修飾、250Qおよび428Lの修飾(例えば、T250QおよびM428L)、307および/または308の修飾(例えば、308Fまたは308P)を含む。さらに別の実施形態において、修飾は、265A(例えば、D265A)および/または297A(例えば、N297A)修飾を含む。
【0098】
例えば、本発明は、以下からなる群から選択される変異の1つ以上の対または群を含むFcドメインを含む、抗FXII抗体を含む:250Qおよび248L(例えば、T250QおよびM248L);252Y、254Tおよび256E(例えば、M252Y、S254TおよびT256E);428Lおよび434S(例えば、M428LおよびN434S);257Iおよび311I(例えば、P257IおよびQ311I);257Iおよび434H(例えば、P257IおよびN434H);376Vおよび434H(例えば、D376VおよびN434H);307A、380Aおよび434A(例えば、T307A、E380AおよびN434A);ならびに433Kおよび434F(例えば、H433KおよびN434F)。前述のFcドメイン変異、および本明細書に開示される抗体可変ドメイン内の他の変異のすべての可能な組み合わせが、本発明の範囲内で企図される。
【0099】
本発明はまた、キメラ重鎖定常(CH)領域を含む抗FXII抗体を含み、キメラCH領域は、2つ以上の免疫グロブリンアイソタイプのCH領域に由来するセグメントを含む。例えば、本発明の抗体は、ヒトIgG1分子、ヒトIgG2分子、またはヒトIgG4分子に由来するCH3ドメインの一部または全部と組み合わされた、ヒトIgG1分子、ヒトIgG2分子、またはヒトIgG4分子に由来するCH2ドメインの一部または全部を含む、キメラCH領域を含み得る。特定の実施形態によると、本発明の抗体は、キメラヒンジ領域を有するキメラCH領域を含む。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域、またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「下部ヒンジ」配列(EU番号付けによる位置228~236のアミノ酸残基)と組み合わされた、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域、またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「上部ヒンジ」アミノ酸配列(EU番号付けによる位置216~227のアミノ酸残基)を含み得る。特定の実施形態によると、キメラヒンジ領域は、ヒトIgG1またはヒトIgG4上部ヒンジに由来するアミノ酸残基と、ヒトIgG2下部ヒンジに由来するアミノ酸残基と、を含む。本明細書に記載されるようなキメラCH領域を含む抗体は、特定の実施形態では、抗体の治療特性または薬物動態学的特性に悪影響を与えることなく、修飾Fcエフェクター機能を呈し得る。(例えば、米国特許出願公開第2014/0243504号を参照されたい。その全体参照によりが本明細書に援用される)。
【0100】
抗体の生物学的特性
一般に、本発明の抗体は、FXIIタンパク質に結合し、FXIIaおよびFXIIbへのその切断を防止することによって機能する。特定の実施形態では、抗体は、第XII因子(FXIIa)の活性化形態(「二重FXII/FXIIa結合剤」)に結合する。例えば、本発明は、表面プラズモン共鳴、例えば、本明細書の実施例3で定義されるアッセイ型式を使用して測定した場合、(例えば25℃または37℃で)約20nM未満のKDを有するFXIIタンパク質に結合する抗体および抗体の抗原結合断片を含む。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、例えば、本明細書の実施例3に定義されるアッセイ型式、または実質的に類似のアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴によって測定した場合、約20nM未満、約17nM未満、約10nM未満、約5nM未満、または約1nM未満のKDで、FXIIに結合する。
【0101】
本発明はまた、抗体およびその抗原結合断片を含み、例えば、本明細書の実施例3に定義されるアッセイ型式、または実質的に類似のアッセイを使用して、25℃または37℃での表面プラズモン共鳴によって測定した場合、約1分超の解離半減期(t1/2)で、ヒトFXIIタンパク質に結合する。特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片は、例えば、本明細書の実施例3に定義されるアッセイ型式または実質的に類似のアッセイを使用して、25℃または37℃での表面プラズモン共鳴によって測定した場合、約5分超、約10分超、約20分超、約30分超、約40分超、約50分超、約60分超、または約70分超のt1/2で、FXIIタンパク質に結合する。
【0102】
本発明は、抗体および抗体の抗原結合断片を含み、例えば、本明細書の実施例3に定義されるアッセイ型式を使用して、表面プラズモン共鳴によって測定した場合、(例えば、25℃または37℃で)約9nM未満のKDで、FXIIタンパク質に結合する。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、例えば、本明細書の実施例3に定義されるアッセイ型式、または実質的に類似のアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴によって測定した場合、約9nM未満、約5nM未満、約2nM未満、約1nM未満、または約500pM未満のKDで、FXIIaに結合する。
【0103】
本発明はまた、抗体およびその抗原結合断片を含み、例えば、本明細書の実施例3に定義されるアッセイ型式、または実質的に類似のアッセイを使用して、25℃または37℃での表面プラズモン共鳴によって測定した場合、約1分超の解離半減期(t1/2)で、ヒトFXIIaタンパク質に結合する。特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片は、例えば、本明細書の実施例3に定義されるアッセイ型式、または実質的に類似のアッセイを使用して、25℃または37℃での表面プラズモン共鳴によって測定した場合、約5分超、約10分超、約20分超、約30分超、約40分超、約50分超、約60分超、または約70分超のt1/2で、FXIIaタンパク質に結合する。
【0104】
本発明はまた、抗体およびその抗原結合断片を含み、例えば、本明細書の実施例5に記載のアッセイ型式、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合、250nM未満、200nM未満、または150nM未満の濃度で内因性経路によるトロンビン生成を阻害する。特定の実施形態では、本発明は、抗体およびその抗原結合断片を含み、例えば、本明細書の実施例5に記載のアッセイ型式、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合、外因性経路によるトロンビン生成を遮断することなく、内因性経路によるトロンビン生成を阻害する。
【0105】
一実施形態では、本発明は、FXIIタンパク質に特異的に結合する単離された組換え抗体またはその抗原結合断片を提供し、抗体またはその断片は、以下の特徴のうちの1つ以上を示す:(a)完全ヒトモノクローナル抗体である、(b)活性化第XII因子(FXIIa)に結合する、(c)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、25℃において、3.5nM未満の解離定数(KD)で、FXIIに結合する、(d)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、37℃において、17nM未満のKDで、FXIIに結合する、(e)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、25℃において、5nM未満、好ましくは2.5nM未満のKDで、FXIIaに結合する、(f)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合、37℃において、6.5nM未満、好ましくは2.5nM未満のKDで、FXIIaに結合する、(g)機能的血漿アッセイによって測定した場合、250nM未満の濃度で、内因性経路によるトロンビン生成を遮断する、および(h)機能的血漿アッセイによって測定した場合、外因性経路によるトロンビン生成を遮断することなく、内因性経路によるトロンビン生成を遮断する。
【0106】
本発明の抗体は、前述の生物学的特性のうちの1つ以上、またはそれらの任意の組み合わせを有し得る。本発明の抗体の他の生物学的特性は、本明細書の実施例を含む本開示の概説から、当業者には明らかであろう。
【0107】
エピトープマッピングおよび関連技術
本発明には、重鎖および軽鎖を含むFXII/FXIIaタンパク質分子の1つ以上の領域内に見出される1つ以上のアミノ酸と相互作用する抗FXII/FXIIa抗体が含まれる。抗体が結合するエピトープは、FXIIタンパク質分子(例えば、ドメインの直鎖エピトープ)の前述のドメインのうちのいずれかに位置する3つ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、またはそれ以上)のアミノ酸の単一の連続配列からなってもよい。あるいは、エピトープは、タンパク質分子(例えば、立体構造エピトープ)の前述のドメインのいずれか、または両方に位置する複数の非連続アミノ酸(またはアミノ酸配列)からなってもよい。
【0108】
当業者に既知の様々な技術を使用して、抗体が、ポリペプチドまたはタンパク質内にある「1つ以上のアミノ酸と相互作用する」かどうかを決定することができる。例示的な技術としては、例えば、Antibodies,Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY)に記載されている通常の交差遮断アッセイが挙げられる。他の方法としては、アラニン走査変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke(2004)Methods Mol.Biol.248:443-63)、ペプチド切断分析、結晶学的研究、およびNMR分析が挙げられる。さらに、エピトープ切除、エピトープ抽出、および抗原の化学修飾などの方法を用いることができる(Tomer(2000)Prot.Sci.9:487-496)。抗体が相互作用するポリペプチドの内部にあるアミノ酸を同定するために用いることができる別の方法は、質量分析によって検出される水素/重水素交換である。一般的に言えば、水素/重水素交換法は、関心対象のタンパク質を重水素標識した後、抗体を重水素標識タンパク質へ結合させることを包含する。次に、タンパク質/抗体複合体を水に移し、抗体複合体によって保護されているアミノ酸内の交換可能なプロトンは、界面の一部ではないアミノ酸内の交換可能なプロトンよりも遅い速度で重水素対水素の逆交換を受ける。結果として、タンパク質/抗体界面の一部を形成するアミノ酸は、重水素を保持し得、したがって、界面に含まれないアミノ酸と比較して、比較的により大きな質量を示す。抗体の解離後、標的タンパク質をプロテアーゼ切断および質量分析へ供し、それにより、抗体が相互作用する特異的アミノ酸に対応する重水素標識残基を明らかにする。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry 267:252-259;Engen and Smith(2001)Anal.Chem.73:256A-265Aを参照されたい。
【0109】
「エピトープ」という用語は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位を指す。B細胞エピトープは、連続したアミノ酸、またはタンパク質の三次折り畳みによって並置された連続していないアミノ酸の両方から形成することができる。連続したアミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒に曝露しても保持されるが、三次折り畳みによって形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒で処理すると失われる。エピトープは、典型的には、固有の空間的立体構造中に、少なくとも3個、より一般的には、少なくとも5個、または8~10個のアミノ酸を含む。
【0110】
修飾支援プロファイリング(Modification-Assisted Profiling、MAP)、別名、抗原構造ベース抗体プロファイリング(Structure-based Antibody Profiling、ASAP)は、化学的または酵素的に修飾された抗原表面への各抗体の結合プロファイルの類似性に従って、同じ抗原を対象として多数のモノクローナル抗体(mAb)を分類する方法である(米国特許第2004/0101920号を参照されたい、その全体が参照により本明細書に具体的に援用される)。各カテゴリは、別のカテゴリによって表されるエピトープとは明らかに異なるか、または部分的に重複する固有のエピトープを反映し得る。この技術は、特徴付けが遺伝的に異なる抗体に焦点を当てられるように、遺伝的に同一の抗体の迅速なフィルタリングを可能にする。ハイブリドーマスクリーニングに適用される場合、MAPは、所望の特徴を有するmAbを産生する希少なハイブリドーマクローンの同定を容易にし得る。MAPを使用して、本発明の抗体を、異なるエピトープに結合する抗体の群に選別することができる。
【0111】
特定の実施形態では、本発明は、FXIIaの重鎖および/または軽鎖内に見出される1つ以上のエピトープと相互作用する抗FXII抗体ならびにその抗原結合断片を含む。エピトープ(複数可)は、FXIIaの重鎖および/または軽鎖内に位置する3つ以上の(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、またはそれ以上)のアミノ酸の1つ以上の連続した配列からなってもよい。あるいは、エピトープは、FXIIa内に位置する複数の連続していないアミノ酸(またはアミノ酸配列)からなっていてもよい。
【0112】
本発明は、表1に列挙された特定の例示的な抗体のうちのいずれかとして、同じエピトープまたはエピトープの一部に結合する抗FXII抗体を含む。同様に、本発明はまた、FXIIタンパク質またはその断片への結合に対して、表1に列挙された特定の例示的な抗体のうちのいずれかと競合する抗FXII抗体を含む。例えば、本発明は、FXIIタンパク質への結合に対して、表1に列挙された1つ以上の抗体と交差競合する抗FXII抗体を含む。
【0113】
抗体が、参照抗FXII抗体と同じエピトープに結合するか、またはエピトープへの結合に対して参照抗FXII抗体と競合するかどうかは、当該技術分野で既知の通常の方法を使用することによって、容易に決定することができる。例えば、試験抗体が、本発明の参照抗FXII抗体と同じエピトープに結合するかどうかを決定するために、参照抗体を、飽和条件下で、FXIIタンパク質またはペプチドに結合させる。次に、FXIIタンパク質分子に結合する試験抗体の能力を評価する。試験抗体が、参照抗FXII抗体との飽和結合後にFXIIに結合することができる場合、試験抗体は、参照抗FXII抗体とは異なるエピトープに結合すると結論付けることができる。その一方、試験抗体が、参照抗FXII抗体との飽和結合後にFXIIに結合することができない場合、試験抗体は、本発明の参照抗FXII抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合している可能性がある。
【0114】
抗体が、結合に対して、参照抗FXII抗体と競合するかどうかを決定するために、上に記載の結合方法を、2つの方向から実施する。第1の方向性では、参照抗体を飽和条件下でFXIIタンパク質に結合させた後、試験抗体のFXII分子への結合を評価する。第2の方向性では、試験抗体を飽和条件下でFXIIタンパク質に結合させた後、参照抗体のFXII分子への結合を評価する。両方向で、第1の(飽和)抗体がFXII分子に結合することができる場合、試験抗体および参照抗体は、FXIIへの結合に対して競合すると結論付けられる。当業者に理解されるように、結合に対して参照抗体と競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同一のエピトープに結合する必要はないが、重複するエピトープまたは隣接するエピトープに結合することによって、参照抗体の結合を、立体的に遮断し得る。
【0115】
2つの抗体は、それぞれ他方が抗原に結合することを競合的に阻害(遮断)する場合、同じまたは重複するエピトープに結合する。すなわち、競合結合アッセイで測定した場合、1倍、5倍、10倍、20倍、または100倍過剰量の一方の抗体は、他方の結合を、少なくとも50%、しかし、好ましくは75%、90%、またはさらに99%阻害する(例えば、Junghans et al.,Cancer Res.1990 50:1495-1502を参照されたい)。あるいは、一方の抗体の結合を低減または排除する抗原の本質的にすべてのアミノ酸変異が、他方の結合を低減または排除する場合、2つの抗体は、同じエピトープを有する。一方の抗体の結合を低減または排除するいくつかのアミノ酸変異が、他方の結合を低減または排除する場合、2つの抗体は、重複するエピトープを有する。
【0116】
次いで、試験抗体の結合の観察された欠失が、実際に、参照抗体と同じエピトープへの結合によるものであるかどうか、または立体遮断(または別の現象)が、観察された結合の欠失の原因であるかどうか、を確認するために、さらなる通例の実験(例えば、ペプチド変異および結合分析)を実施することができる。この種の実験は、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー、または当該技術分野で利用可能な任意の他の定量的もしくは定性的な抗体結合アッセイを使用して実施することができる。
【0117】
免疫結合体
本発明は、FXII関連疾患または障害(例えば、血栓症)を治療するために治療部分(「イムノコンジュゲート」)にコンジュゲートされたヒト抗FXIIモノクローナル抗体を包含する。本明細書で使用される場合、「イムノコンジュゲート」という用語は、放射性剤、サイトカイン、インターフェロン、標的もしくはレポーター部分、酵素、ペプチドもしくはタンパク質、または治療剤に化学的もしくは生物学的に連結された抗体を指す。抗体は、その標的に結合することができる限り、分子に沿った任意の位置で放射性剤、サイトカイン、インターフェロン、標的もしくはレポーター部分、酵素、ペプチド、または治療剤に連結され得る。イムノコンジュゲートの例としては、抗体薬物コンジュゲートおよび抗体-毒素融合タンパク質が挙げられる。一実施形態では、薬剤は、FXIIタンパク質に対する第2の異なる抗体であり得る。抗FXII抗体にコンジュゲートされ得る治療部分の種類は、治療されるべき状態、および達成されるべき所望の治療効果を考慮する。イムノコンジュゲートを形成するために好適な薬剤の例としては、当該技術分野で既知である(例えば、WO05/103081を参照)。
【0118】
多特異性抗体
本発明の抗体は、単一特異性、二重特異性または多特異性であり得る。多特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であり得るか、または2つ以上の標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有し得る。例えば、Tutt et al.,1991,J.Immunol.147:60-69;Kufer et al.,2004,Trends Biotechnol.22:238-244を参照されたい。
【0119】
本発明の多特異性抗原結合分子のいずれか、またはそのバリアントは、当業者に既知であるように、標準的な分子生物学的技法(例えば、組換えDNAおよびタンパク質発現技術)を使用して構築され得る。
【0120】
一部の実施形態では、FXII特異的抗体は、FXIIタンパク質の異なるドメインに結合する可変領域が一緒に連結されて、単一結合分子内に二重ドメイン特異性を付与する二重特異性の型式(「二重特異性」)で生成される。適切に設計された二重特異性は、特異性および結合活性の両方を増加させることを通して、全体的なFXII-タンパク質阻害有効性を増強し得る。個々のドメイン(例えば、N末端ドメインのセグメント)に対する特異性を有する可変領域、または1つのドメイン内の異なる領域に結合することができる可変領域は、各領域が別個のエピトープに同時に結合すること、または1つのドメイン内の異なる領域に結合することを可能にする構造足場上で対になる。1つのドメインに対する特異性を有する結合剤由来の二重特異性重鎖可変領域(VH)の一例では、第2のドメインに対する特異性を有する一連の結合剤由来の軽鎖可変領域(VL)と組換えて、そのVHに対する元の特異性を破壊することなく、元のVHと対合することができる非同種のVLパートナーを特定する。このようにして、単一のVLセグメント(例えば、VL1)を、2つの異なるVHドメイン(例えば、VH1およびVH2)と組み合わせて、2つの結合「アーム」(VH1-VL1およびVH2-VL1)からなる二重特異性を生成することができる。単一のVLセグメントを使用すると、系の複雑さを低減し、それによって、二重特異性を生成するために使用するクローニング、発現、および精製プロセスを簡素化し、効率を増加させる(例えば、USSN13/022759およびUS2010/031527を参照されたい)。
【0121】
あるいは、2つ以上のドメインおよび第2の標的(例えば、限定されないが、第2の異なる抗FXII抗体など)に結合する抗体は、本明細書に記載の技術、または当業者に既知の他の技術を使用して、二重特異性の型式で調製され得る。異なる領域に結合する抗体可変領域は、単一の結合分子内に二重抗原特異性を付与するために、例えば、FXIIの細胞外ドメイン上の関連部位に結合する可変領域と一緒に連結され得る。この性質の適切に設計された二重特異性は、二重の機能を果たす。細胞外ドメインに対する特異性を有する可変領域は、細胞外ドメイン以外に対する特異性を有する可変領域と組み合わされ、各可変領域が別個の抗原に結合することを可能にする構造足場上で対になる。
【0122】
本発明の文脈上で使用することができる例示的な二重特異性抗体の型式は、第1の免疫グロブリン(Ig)CH3ドメインおよび第2のIgCH3ドメインの使用が関与し、第1および第2のIgCH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸が互いに異なり、少なくとも1つのアミノ酸の相違は、アミノ酸の相違を欠く二重特異性抗体と比較して、プロテインAへの二重特異性抗体の結合を低減させる。一実施形態では、第1のIgCH3ドメインはプロテインAを結合し、第2のIgCH3ドメインはH95R修飾(IMGTエクソン番号付けによる、EU番号付けではH435R)などのプロテインA結合を低減または消失させる変異を含有する。第2のCH3は、Y96F修飾(IMGTによるものであり、EUではY436F)をさらに含み得る。第2のCH3内に見出され得るさらなる修飾としては、IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、およびV82I(IMGTによる、EUによればD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I)、IgG2抗体の場合、N44S、K52N、およびV82I(IMGT、EUによればN384S、K392N、およびV422I)、ならびにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、およびV82I(IMGTによる、EUによればQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)が挙げられる。上に記載の二重特異性抗体型式上のバリエーションは、本発明の範囲内であることが企図される。
【0123】
本発明の文脈で使用され得る他の例示的な二重特異性型式としては、例えば、scFv系型式またはダイアボディ二重特異性型式、IgG-scFv融合、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、クアドローマ、ノブズ-イントゥ-ホールズ、共通の軽鎖(例えば、ノブズ-イントゥ-ホールズを備えた共通の軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)ボディ、ロイシンジッパー、Duobody、IgG1/IgG2、二重作用型Fab(DAF)-IgG、およびMab2二重特異性型式が含まれるが、これらに限定されない(上述の型式の総説については、例えば、Klein et al.2012,mAbs 4:6,1-11およびそこに引用されている参考文献を参照されたい)。二重特異性抗体は、ペプチド/核酸結合を用いて構築することもでき、例えば、直交化学反応性を有する非天然アミノ酸を使用して、部位特異的抗体-オリゴヌクレオチド複合体を生成し、これが次に、規定される組成物、原子価および幾何学的形状を有する多量体複合体へと自己集合する。(例えば、Kazane et al.,J.Am.Chem.Soc.[Epub:Dec.4,2012]を参照されたい)。
【0124】
治療用投与および製剤
本発明は、本発明の抗FXII抗体またはその抗原結合断片を含む治療組成物を提供する。本発明による治療組成物は、好適な担体、賦形剤、および製剤に組み込まれる他の薬剤とともに投与され、改善された移入、送達、耐性などをもたらす。多数の適切な製剤は、すべての製薬化学者に既知の処方集に見出すことができる:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PA。これらの製剤には、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、ベシクル(LIPOFECTIN(商標)など)を含有する脂質(カチオン性またはアニオン性)、DNA結合体、無水吸収ペースト、水中油エマルションおよび油中水エマルション、エマルションカーボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカーボワックスを含有する半固体混合物が含まれる。Powell et al.“Compendium of excipients for parenteral formulations”PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。
【0125】
抗体の用量は、投与される対象の年齢およびサイズ、標的疾患、状態、投与経路などに応じて異なり得る。本発明の抗体が成人患者の疾患もしくは障害を治療するために、またはそのような疾患を予防するために使用される場合、通常約、本発明の抗体を、約0.1~約100mg/kg体重の単回用量で投与することが有利である。病態の重症度に応じて、治療の頻度および期間を調整することができる。特定の実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、約0.1mg~約800mg、約1mg~約600mg、約5mg~約500mg、または約10mg~約400mgの初期用量で投与され得る。特定の実施形態では、初期用量に続いて、初回用量とほぼ同じか、または初回用量未満の量で、2回目のもしくは複数回の後続用量の、抗体またはその抗原結合断片を投与され得、またはとほぼ同じか、またはそれ未満であり得る量で、後続用量は、少なくとも1日~3日、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、少なくとも9週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、または少なくとも14週間の間隔である。
【0126】
様々な送達系、例えば、リポソームにおける封入、微粒子、マイクロカプセル、変異体ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシスが知られており、本発明の医薬組成物を投与するために使用され得る(例えば、Wu et al.(1987)J.Biol.Chem.262:4429-4432を参照されたい)。導入方法には、皮内経路、経皮経路、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、皮下経路、鼻腔内経路、硬膜外経路および経口経路が含まれるが、これらに限定されない。組成物は、例えば、注入もしくはボーラス注射、上皮または粘膜皮膚内層(linings)(例えば、口腔粘膜、直腸および腸粘膜など)を介した吸収による任意の好都合な経路によって投与することができ、他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与することができる。投与は全身または局所であり得る。医薬組成物はまた、小胞、特にリポソーム中で送達することもできる(例えば、Langer(1990)Science 249:1527-1533を参照されたい)。
【0127】
本発明の抗体を送達するためのナノ粒子の使用もまた、本明細書に企図される。抗体結合ナノ粒子は、治療用途および診断用途の両方に使用され得る。抗体結合ナノ粒子ならびに調製および使用方法は、Arruebo,M.,2009(“Antibody-conjugated nanoparticles for biomedical applications” in J.Nanomat.Volume 2009,Article ID 439389,24 pages,doi:10.1155/2009/439389)に詳細に記載されており、参照により本明細書に援用される。ナノ粒子は、開発され、標的細胞への医薬組成物中に含まれる抗体にコンジュゲートされ得る。薬物送達のためのナノ粒子は、例えば、米国特許第US8257740号、または同第US8246995号にも記載され、それぞれその全体が本明細書に援用される。
【0128】
ある特定の状況において、薬学的組成物は、徐放系で送達することができる。一実施形態では、ポンプを使用することができる。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる。さらに別の実施形態では、徐放系を組成物の標的の近傍に配置することができ、したがって、全身用量のほんの一部しか必要としない。
【0129】
注射可能な調製物としては、静脈内注射、皮下注射、頭蓋内注射、腹腔内注射および筋肉内注射、点滴などのための剤形が含まれ得る。これらの注射可能な調製物は、公的に既知の方法によって調製され得る。
【0130】
本発明の薬学的組成物は、標準的な針および注射器を用いて皮下にまたは静脈内に送達することができる。加えて、皮下送達に関して、ペン送達デバイスは、本発明の薬学的組成物を送達する上での適用を容易に有する。このようなペン送達デバイスは、再利用可能または使い捨て可能であり得る。再利用可能なペン送達デバイスは、概して、薬学的組成物を含有する交換可能なカートリッジを利用する。一度、カートリッジ内の薬学的組成物がすべて投与され、カートリッジが空になると、この空のカートリッジは容易に廃棄することができ、薬学的組成物を含有する新しいカートリッジと容易に交換することができる。次に、ペン送達デバイスは再利用することができる。使い捨てのペン送達デバイスにおいて、交換可能なカートリッジは存在しない。むしろ、使い捨てペン送達デバイスは、このデバイス内の貯蔵器の中に保持された薬学的組成物が事前に充填されている。一度、貯蔵器が薬学的組成物に関して空になると、デバイス全体が廃棄される。
【0131】
有益なことに、上記に記載される経口または非経口での使用のための薬学的組成物は、有効成分の用量に適合するために好適な単位用量の投薬形態へと調製される。このような単位用量の剤形には、例えば、錠剤、ピル、カプセル、注射(アンプル)、坐剤などが含まれる。含有される抗体の量は、概して、単位用量の剤形あたり約5~約500mgであり、特に注射の形態では、抗体を約5~約300mg含有し、他の剤形については、約10~約300mg含有することが好ましい。
【0132】
抗体の診断的使用
本発明の抗体は、凝固(血栓症および塞栓症を含む)もしくは浮腫(例えば、遺伝性血管浮腫)に関連する疾患もしくは障害もしくは状態の治療、および/または予防に有用で、ならびに/あるいはかかる疾患、障害もしくは状態に関連する少なくとも1つの症状の改善に有用である。特定の実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合断片を、治療用量で、凝固または浮腫に関連する疾患または障害または状態を有する患者に投与され得る。特定の実施形態では、出血のリスクを増加させることなく、血栓症を予防するために、本発明の抗体またはその抗原結合断片を、それを必要とする対象に投与する。
【0133】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、静脈血栓症、動脈血栓症、デバイス血栓症、血栓栓塞栓症、遺伝性血管浮腫、脳卒中、血栓性素因、心虚血、アテローム硬化性プラーク破裂、機械弁プロステーシスの使用、血液接触医療デバイスの使用、血液接触体外回路の使用、静脈血栓塞栓症、肺塞栓症、深部静脈血栓症、門脈血栓症、バッド・キアリ症候群、パジェット・シュレッター病、腎静脈血栓症、脳静脈洞血栓症、頸静脈血栓症、海綿静脈洞血栓症、肝動脈血栓症、下肢虚血、および心筋梗塞からなる群から選択されるFXII関連疾患または障害のうちの少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するために有用である。
【0134】
本明細書ではまた、体外式膜型人工肺(人工心肺)を使用する対象などの血栓症のリスクがある対象に、本発明の1つ以上の抗体を予防的に使用することも企図される。本発明の抗体は、体外回路における人工肺およびチューブの血栓性閉塞を防止するために使用され得る。
【0135】
本発明のさらなる実施形態では、本抗体は、本明細書に開示される疾患、障害または状態に罹患している患者を治療するための医薬組成物または薬剤の調製のために使用される。本発明の別の実施形態では、本抗体は、本明細書に開示される疾患、障害または状態の治療または寛解に有用な任意の他の薬剤による補助療法または当業者に既知の任意の他の療法として使用される。
【0136】
併用療法
併用療法は、本発明の抗体および本発明の抗体と、または本発明の抗体の生物学的に活性な断片と有利に組み合わせ得る任意の追加の治療剤を含んでよい。本発明の抗体は、血栓症に関連する疾患または障害を治療するために、特に、血栓症を予防するために、または基礎疾患、障害または状態に起因する血栓症のリスクにある対象を治療するために使用される1つ以上の薬物または療法と相乗的に組み合わされ得る(本明細書の他箇所に記載される)。一部の実施形態では、本発明の抗体は、第2の治療剤と組み合わされて、当該疾患または状態のうちの1つ以上の症状を寛解し得る。
【0137】
疾患、障害または状態に応じて、本発明の抗体は、1つ以上の追加の治療剤と組み合わせて使用することができ、限定されないが、抗凝固剤(例えば、ワルファリン、ヘパリン、フェニンジオン、フォンダパリヌクス、イドラパリヌクス)、トロンビン阻害剤(例えば、アルガトロバン、レピルジン、ビバリルジン、またはダビガトラン)、血栓溶解性薬、抗血小板薬(例えば、アスピリン)、降圧剤(例えば、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、β遮断剤、カルシウムチャネル遮断剤)、免疫抑制剤(例えば、ビンクリスチン、シクロスポリンA、またはメトトレキサート)、線維素溶解剤、コレステロール低下剤(例えば、スタチンまたはPCSK9阻害剤、例えば、アリロクマブ)、抗炎症薬(例えば、コルチコステロイド、または非ステロイド性抗炎症薬)、第2の抗FXII抗体、機械的血餅回収、カテーテル誘導血栓溶解、および外科手術を含む。
【0138】
本明細書で使用する場合、「と組み合わせて」という用語は、追加の治療活性成分(複数可)が、本発明の抗FXII抗体の投与の前に、同時に、または後に投与され得ることを意味する。「と組み合わせて」という用語はまた、抗FXII抗体と第2の治療剤との逐次投与または同時投与を含む。
【0139】
追加の治療活性成分(複数可)は、本発明の抗FXII抗体の投与の前に、対象に投与され得る。例えば、第1の成分が、第2の成分の投与の1週間前、72時間前、60時間前、48時間前、36時間前、24時間前、12時間前、6時間前、5時間前、4時間前、3時間前、2時間前、1時間前、30分前、または30分未満前に投与される場合、第1の成分は、第2の成分の「前に」投与されると見なされ得る。他の実施形態では、追加の治療活性成分(複数可)は、本発明の抗FXII抗体の投与後に、対象に投与され得る。例えば、第1の成分が、第2の成分の投与の30分後、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後、60時間後、72時間後またはそれ以上後に投与される場合、第1の成分は、第2の成分の「後に」投与されると見なされ得る。さらに他の実施形態では、追加の治療活性成分(複数可)は、本発明の抗FXII抗体の投与と同時に、対象に投与され得る。「同時」投与は、本発明の目的のために、例えば、抗FXII抗体および追加の治療活性成分を、単一剤形で、対象に投与すること、または別個の剤形で、互いに約30分以内もしくはそれ以下で、対象に投与することを含む。別個の剤形で投与される場合、各剤形は、同じ経路を介して投与されてもよい(例えば、抗FXII抗体および追加の治療活性成分の両方が、静脈内など投与されてもよい)。あるいは、各剤形は、異なる経路を介して投与されてもよい(例えば、抗FXII抗体が静脈内投与され、追加の治療活性成分が経口投与されてもよい)。いずれにしても、本開示の目的のために、成分を、同じ経路によって、単一剤形で、異なる剤形で投与すること、または異なる経路によって、異なる剤形で投与することは、すべて、「同時投与」と見なされる。本開示の目的のために、追加の治療活性成分の投与「前に」、「と同時に」、または「後に」(本明細書で上に定義したそれらの用語)抗FXII抗体を投与することは、追加の治療活性成分と「組み合わせて」、抗FXII抗体を投与することと見なされる。
【0140】
本発明には、本発明の抗FXII抗体が、本明細書の他箇所に記載の追加の治療活性成分(複数可)のうちの1つ以上と共製剤化された医薬組成物が含まれる。
【0141】
抗体の診断的使用
本発明の抗体は、例えば、診断目的のために、試料中のFXIIを検出および/または測定するために使用してもよい。一部の実施形態は、FXII関連疾患または障害を検出するためのアッセイにおいて、本発明の1つ以上の抗体の使用を企図する。FXIIについての例示的な診断アッセイは、例えば、患者から得られた試料を、本発明の抗FXII抗体と接触させることを含んでいてもよく、抗FXII抗体は、検出可能な標識もしくはレポーター分子で標識されるか、または患者試料由来のFXIIを選択的に単離するための捕捉リガンドとして使用される。あるいは、非標識抗FXII抗体は、それ自体が検出可能に標識された二次抗体と組み合わせて、診断用途に使用することができる。検出可能な標識またはレポーター分子は、3H、14C、32P、35Sもしくは125Iなどの放射性同位体、またはフルオレセインイソチオシアネートもしくはローダミンなどの蛍光部分もしくは化学発光部分、またはアルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼなどの酵素であり得る。試料中のFXIIを検出または測定するために使用することができる具体的な例示的アッセイには、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光活性化細胞選別(FACS)が含まれる。
【0142】
本発明によるFXII診断アッセイにおいて使用することができる試料には、正常条件または病理学的条件下で、検出可能な量のFXIIタンパク質またはその断片を含有する患者から得ることのできる任意の組織または体液試料が含まれる。一般に、健常な患者(例えば、FXIIと関連した疾患に罹患していない患者)から得られた特定の試料中のFXIIタンパク質のレベルは、FXIIのベースラインレベルまたは標準レベルを最初に確立するために測定されるであろう。次いで、このFXIIのベースラインレベルを、FXII関連の状態またはその状態に関連する症状を有することが疑われる個体から得られた試料において測定されたFXIIのレベルに対して比較することができる。
【0143】
FXIIタンパク質に特異的な抗体は、追加の標識または部分を含有していなくてもよく、または、それらが、N末端またはC末端の標識または部分を含有していてもよい。一実施形態では、標識または部分は、ビオチンである。結合アッセイでは、標識の位置は(もしあれば)、ペプチドが結合する表面に対するペプチドの配向を決定し得る。例えば、表面がアビジンでコーティングされている場合、N末端ビオチンを含有するペプチドは、ペプチドのC末端部分が表面に対して遠位になるように配向される。
【実施例】
【0144】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物をどのように作製および使用するかに関する完全な開示および説明を当業者に提供するために提示されており、本発明者らが本発明と見なすことの範囲を限定することを企図するものではない。使用される数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するための努力はしてきたが、いくつかの実験上の誤差および偏差が考慮されるべきである。特に指示しない限り、部(parts)は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、室温は約25℃であり、気圧は大気圧またはそれに近い。
【0145】
実施例1:第XII因子/活性化第XII因子(FXII/FXIIa)タンパク質に対するヒト抗体の生成
FXII/FXIIaタンパク質に対するヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン重鎖およびカッパ軽鎖可変領域をコードするDNAを含むVELOCIMMUNE(登録商標)マウスにおいて生成された。マウスを、血漿精製ヒトFXIIおよびFXIIaタンパク質(Enzyme Research Laboratories)で免疫化した。
【0146】
抗FXII抗体は、米国特許第7582298号(参照によりその全体が本明細書に具体的に援用される)に記載されているように、骨髄腫細胞に融合することなく、抗原陽性マウスB細胞から直接単離した。この方法を使用して、いくつかの完全ヒト抗FXII抗体(すなわち、ヒト可変ドメインおよびヒト定常ドメインを有する抗体)を得、この様式で生成された例示的抗体を、mAb26036、mAb26048、mAb26049、およびmAb26076と命名した。
【0147】
この実施例の方法に従って生成された例示的な抗体の生物学的特性を、以下に記載の実施例において詳細に記載する。
【0148】
実施例2:重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列および核酸配列
表1は、本発明の選択された抗FXII抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域ならびにCDRのアミノ酸配列識別子を示す。
【表1】
【0149】
【0150】
本明細書で言及される抗体は、典型的には、完全ヒト可変領域を有するが、ヒトまたはマウス定常領域を有し得る。当業者に理解されるように、特定のFcアイソタイプを有する抗体は、異なるFcアイソタイプを有する抗体に変換され得る(例えば、マウスIgG1Fcを有する抗体は、ヒトIgG4を有する抗体に変換され得る等)が、いずれにしても、表2に示される数値識別子によって示される可変ドメイン(CDRを含む)は、同じままであり、抗原への結合特性は、Fcドメインの性質にかかわらず同一であるか、または実質的に類似していると予測される。特定の実施形態では、マウスIgG1Fcを有する選択された抗体は、ヒトIgG4Fcを有する抗体に変換される。一実施形態では、IgG4Fcドメインは、米国特許出願第US2010/0331527号に開示されている2つ以上のアミノ酸変化を含む。一実施形態では、ヒトIgG4Fcは、二量体の安定化を促進するために、ヒンジ領域におけるセリンからプロリンへの変異(S108P)を含む。
【0151】
以下の実施例で使用される対照構築物
比較目的のために、以下の対照構築物(抗FXII抗体)を本明細書に開示される実験に含めた:「比較対象1」は、米国特許第9,518,127号(CSL Behring GmbH)による抗体「3F7」のVH/VL配列を有するヒトFXII/FXIIaに対するモノクローナル抗体であり、および「比較対象2」は、米国特許第9,574,013号(Vanderbilt Univ./Aronora)による抗体「15H8」のVH/VL配列を有するヒトFXIIに対するヒトモノクローナル抗体である。
【0152】
実施例3:表面プラズモン共鳴によって決定される、FXIIへの抗体結合
精製された抗FXIIモノクローナル抗体に結合する異なるFXII試薬の平衡解離定数(K
D)は、リアルタイム表面プラズモン共鳴ベースのBiacore4000バイオセンサーを使用して決定された。すべての結合研究は、25℃および37℃で、10mMのHEPES、300mMのNaCl、および0.05%v/vの界面活性剤Tween-20、pH7.4(HBS-P)の泳動用緩衝液中で行われた。BiacoreCM5センサーチップの表面を、最初にマウス抗ヒトFc特異的モノクローナル抗体(GEHealthcare、カタログ番号BR100839)とのアミンカップリングによって誘導体化して、抗FXIIモノクローナル抗体を捕捉した。結合研究は、ヒトFXIIおよびFXIIa(Enzyme Research Laboratories,それぞれCat#1212および1212a)で行った。異なる濃度のhFXIIおよびhFXIIa(50nM~3.125nM、2倍段階希釈)を、最初にHBS-P泳動用緩衝液において調製し、抗ヒトFc捕捉抗FXIIモノクローナル抗体の表面上に、30μL/分の流量で3分間注入し、この間、モノクローナル抗体結合FXII試薬の解離を、HBS-P泳動用緩衝液中で5分間監視した。会合速度(k
a)および解離速度(k
d)の定数は、Scrubber2.0c曲線あてはめソフトウェアを使用して、リアルタイム結合センサーグラムを、物質移動限界(mass transport limitation)を有する1:1結合モデルにあてはめることによって決定された。結合解離平衡定数(K
D)および解離半減期(t1/2)を、運動速度から以下のように計算した:
【数1】
【0153】
25℃および37℃での本発明の異なる抗hFXIIモノクローナル抗体に結合するhFXIIまたはhFXIIaの結合動態パラメータを、表3~6に示す。
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0154】
表3に示すように、抗体は、25℃で、0.88nM~3.12nMの範囲のKD値で、hFXIIに結合した。表4に示すように、抗体は、37℃で、2.53nM~16.8nMの範囲のKD値で、hFXIIに結合した。
【0155】
表5に示すように、抗体は、25℃で、0.61nM~5.07nMの範囲のKD値で、hFXIIaに結合した。表6に示すように、抗体は、37℃で、1.79nM~8.25nMの範囲のKD値で、hFXIIaに結合した。
【0156】
実施例4:オクテット交差競合アッセイ
抗FXIIモノクローナル抗体のパネル間の結合競合は、OctetHTXバイオセンサー(Pall ForteBio Corp.)でのリアルタイム無標識バイオレイヤー干渉法アッセイを使用して決定した。実験は、プレートを1000rpmの速度で振盪しながら、25℃で、0.01MのHEPES、pH7.4、0.15MのNaCl、0.05%v/vの界面活性剤Tween-20、0.1mg/mLのBSA(Octet HBS-P緩衝液)中で行われた。2つの抗体が、約0.42~0.53nMの抗ヒトFXIIモノクローナル抗体中で、ヒトFXII(ERL)上のそれぞれのエピトープへの結合について、互いに競合することができたかどうかを評価するために、まず、チップを、50μg/mLの抗ヒトFXIIモノクローナル抗体(以降、mAb-1と呼ぶ)溶液を含むウェルに3分間浸すことによって、抗hFc抗体でコーティングされたOctetバイオセンサーチップ(Pall ForteBio Corp.,#18-5060)上に捕捉した。次いで、抗体を捕捉したバイオセンサーチップを、200μg/mLのブロッキングmAb溶液を含有するウェルに4分間浸すことによって、mAbアイソタイプの対照モノクローナル抗体(以降、ブロッキングmAbと呼ぶ)で飽和させた。その後、バイオセンサーチップを、事前に2時間インキュベートされた25nMのhFXIIおよび1μMの第2の抗ヒトFXIIモノクローナル抗体(以降、mAb-2と呼ぶ)の共複合体化溶液を含むウェルに浸した。バイオセンサーチップは、実験の各ステップ間に、オクテットHBS-P緩衝液で洗浄した。リアルタイム結合応答を、実験の過程中監視し、各ステップの終わりに結合応答を記録した。mAb-1に結合する、ヒトFXIIと事前に複合体化されたmAb-2の応答を、バックグラウンド結合に対して修正し、比較し、異なる抗FXIIモノクローナル抗体の競合/非競合挙動を決定した。
【表7】
【0157】
表7は、結合の順序に関係なく、両方向で競合する抗体の関係を明示的に定義する。
【0158】
実施例5:抗FXII/FXIIa抗体の阻害活性を決定するための機能的血漿アッセイ
この実施例は、選択された抗体の阻害活性を記載し、4回の機能的血漿アッセイによって決定された。エラグ酸によって誘発された1)活性化部分トロンボプラスチンの時間(aPTT)、2)プロトロンビンの時間(PT)、3)トロンビン生成アッセイ(TGA)、および組織因子によって誘発された4)TGA。aPTT試験は、カルシウムおよびエラグ酸の添加後に凝固が形成される時間を測定することによって、凝固カスケードの内因性経路および共通経路のすべての凝固因子を評価するが、PT試験は、カルシウムおよび組織因子の添加後に凝固カスケードの外因性経路および共通経路のすべての凝固因子を評価する。エラグ酸によって誘発されるTGAは、内因性経路および共通経路を介して生成されるトロンビンの速度および量を測定するが、組織因子によって誘発されるTGAは、外因性経路および共通経路を介して生成されるトロンビンの速度および量を測定する。
【0159】
aPTTの測定
aPTTは、Diagnostica Stago STart4止血分析器で、以下の方法で決定された:37℃で合計50μLのプールされた正常ヒト血漿をキュベットに添加した。1分後、5μLのPBS中の2倍段階希釈した試験物質(抗体または小分子阻害剤)をキュベットに添加し、5分間インキュベートさせた。次いで、50μLのAPPT-XLエラグ酸(Thermo Scientific)を添加し、300秒間インキュベートした後、50μLの20mM塩化カルシウム(Thermo Scientific)を添加して、反応を開始した。試験物質濃度の測定された凝固時間を、ベースライン(薬物なし)血漿凝固時間に正規化し、試験物質の対数モル濃度に対してプロットした。Prism5ソフトウェア(GraphPad)を用いた非線形回帰(4パラメータロジスティクス)を使用して結果を分析して、倍加時間濃度を得た。
【0160】
PT決定
PTは、Diagnostica Stago STart4止血分析器で、以下の方法で決定された:37℃で合計50μlのプールされた正常ヒト血漿をキュベットに添加した。1分後、5μLのPBS中の2倍段階希釈した試験物質(抗体または小分子阻害剤)をキュベットに添加し、5分間インキュベートさせた。次いで、100μlの組織因子(TriniCLOT PT Excel、Diagnostica Stago)を添加して、反応を開始した。試験物質濃度の測定された凝固時間を、ベースライン(薬物なし)血漿凝固時間に正規化し、試験物質の対数モル濃度に対してプロットした。Prism5ソフトウェア(GraphPad)を用いた非線形回帰(4パラメータロジスティクス)を使用して結果を分析して、倍加時間濃度を得た。
【0161】
エラグ酸を用いたTGAの決定
トロンビン生成プロファイルを、Thermo Scientific Hemker Thrombinoscopeで、以下の方法で決定した:37℃で、合計55ulのプールされた正常ヒト血漿を、マイクロプレートのウェルに添加した。次いで、PBS中5μlの2倍段階希釈された試験物質(抗体または小分子阻害剤)をマイクロプレートのウェルに添加し、30分間インキュベートさせた。15μlのAPPT-XLエラグ酸(Thermo Scientific)を、MP試薬中に希釈し、次いでウェルに添加し、45分間インキュベートさせた。次いで、15ulのFluo Flu Cal基質(Diagnostica Stago)を添加して直ぐに、連続90分間マイクロプレートを読み取った。測定されたリアルタイムトロンビン濃度値を、時間に対してプロットして、使用した試験物質の各濃度についてトロンボグラム(thrombogram)を得た。
【0162】
組織因子を用いたTGAの決定
トロンビン生成プロファイルを、Thermo Scientific Hemker Thrombinoscopeで、以下の方法で決定した:37℃で、合計55ulのプールされた正常ヒト血漿を、マイクロプレートのウェルに添加した。次いで、PBS中5μlの2倍段階希釈された試験物質(抗体または小分子阻害剤)をマイクロプレートのウェルに添加し、30分間インキュベートさせた。15μlの組織因子PPP試薬(Diagnostica Stago)をウェルに添加して、45分間インキュベートさせた。次いで、15ulのFluo Flu Cal基質(Diagnostica Stago)を添加して直ぐに、連続90分間マイクロプレートを読み取った。測定されたリアルタイムトロンビン濃度値を、時間に対してプロットして、使用した試験物質の各濃度についてトロンボグラム(thrombogram)を得た。
【0163】
結果
用量反応曲線を生成して、血漿aPTTおよびPTに対する各薬物の効果を決定した。IgG4アイソタイプ対照抗体は、aPTTまたはPTに影響を及ぼさなかった。抗FXII/FXIIa抗体(mAb26036、mAb26048、mAb26049、およびmAb26076)は、PTを増加させることなく、aPTTを延長した。臨床的に承認された抗凝固剤FXa阻害剤であるアピキサバンは、μM濃度で、aPTTとPTの両方を延長した。比較対象1は、PTを増加させることなくaPTTを延長した。凝固活性を阻害する薬物の効率は、任意の「倍加時間」濃度または、C
2xt(凝固時間をベースライン値よりも2倍延長するために必要な薬物の濃度)によってインデックス化する。薬物のこれらの推定C
2xt値(すなわち、「倍加時間線」を横切る曲線)を、表8に列挙する。
【表8】
【0164】
抗体mAb26036、mAb26048およびmAb26049は、200nM以下でC2xtに達したが、mAb26076は、250nMを必要とした。すべての抗体について、試験された最大4uMで、PT凝固時間を倍増することは見出されなかった。アピキサバンは、7uMでaPTT C2xtに達し、これは、PT C2xtを達成するのに必要な3.5uMの濃度よりも大きかった。比較対象1は、aPTT C2xtに達するために250nMを必要としたが、4uMでもPT C2xtに達しなかった。
【0165】
血漿をエラグ酸または組織因子によって誘発したとき、抗体を、トロンビン生成を阻害するそれらの能力について評価した(すなわち、トロンビンの検出までの延長時間=遅延時間、トロンビンのピークの減少、および生成されたトロンビンの総量の減少=内因性トロンビン生成能)。アイソタイプ対照は、トロンビン生成には影響を与えなかった。抗体は、125nMでのトロンビン生成のわずかな減少を示したが、250nM以上の濃度でのトロンビン産生を著しくまたは完全に阻害し、これは、抗体が、次いでトロンビン生成を妨げる内因性経路の活性化を抑制することを示す。アピキサバンは、トロンビン生成の用量依存的減少を示したが、使用した最高用量(500nM)でも、2倍の遅延時間または1/2のETPまたはピークに達することができなかった。比較対象1は、500nMでのほぼ完全な阻害で、トロンビン生成に対する用量依存的な効果を示した。組織因子によって誘発されたトロンビン生成は、対照アイソタイプ抗体の影響を受けなかった。抗体は、組織因子によって誘発されるトロンビン生成を阻害しなかった。組織因子によって誘発されると、アピキサバンは、用量依存的に、トロンビン生成を阻害した。比較対象1は、組織因子によって誘発されたトロンビン生成には影響を与えなかった。凝固をエラグ酸または組織因子によって活性化したときに、遅延時間を2倍延長し、トロンビンのピークおよびトロンビン生成の総量を半減するのに必要な試験物質の濃度を、表9に要約する。
【表9】
【0166】
上記の結果は、例示した抗体が、外因性経路を阻害することなく、内因性経路によるトロンビン生成を阻害することを示す。
【0167】
本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるべきではない。実際、本明細書に記載されたものに加えて本発明の様々な修正は、前述の記載および添付の図から当業者には明らかであろう。そのような変更は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
【配列表】