(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】サーボシステム
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20160101AFI20250217BHJP
G05B 19/042 20060101ALI20250217BHJP
【FI】
H02P29/00
G05B19/042
(21)【出願番号】P 2021067785
(22)【出願日】2021-04-13
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 秀明
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-075364(JP,A)
【文献】特開2019-004685(JP,A)
【文献】特開2014-064452(JP,A)
【文献】特開2015-011424(JP,A)
【文献】特開2010-283901(JP,A)
【文献】特開2006-107304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
G05B 19/042
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータの位置検出器と、前記モータを駆動するモータ駆動装置と、前記モータと前記モータ駆動装置のそれぞれに設けられてその間で双方向にデータを伝送可能とする送受信部と、前記送受信部間のデータを伝送する通信線部と、を備えるサーボシステムであって、
前記モータと一体に又は隣接して設けられ、前記モータ駆動装置内のパラメータを変更又は調整し、調整器である外部の端末装置との送受信が可能なデータ送受信処理部と、
少なくとも前記位置検出器から出力される位置データと、前記データ送受信処理部に入出力される前記調整器のデータと、が前記通信線部を介して送受信可能なようにシリアル信号データに処理することが可能なデータ処理部と、を有し、
前記データ処理部は、非同期の調整器通信データの送受信が行われようとする際には、定期的な通信が行われている前記位置データからなるパケットフレームに、前記調整器通信データを合成する、
サーボシステム。
【請求項2】
前記モータ駆動装置が複数の前記モータを制御する請求項1に記載のサーボシステム。
【請求項3】
前記データ送受信処理部、前記端末装置及び前記モータ駆動装置との間における通信のデータフレーム構造は、
前記データフレームのヘッダ部に前記モータ駆動装置毎に固有のノードIDが格納され、
データ部には、前記ノードID毎のパラメータを示すデータが格納されている、
請求項1または2に記載のサーボシステム。
【請求項4】
複数の前記モータは、デイジーチェーン方式で接続される請求項2または3に記載のサーボシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータのサーボシステムのメンテナンス技術に関し、モータ駆動装置によりモータを制御するサーボシステムであって、モータの位置検出器とモータ駆動装置との間に設けられた通信機能を活用することにより、駆動装置のメンテナンス時のモータの駆動、ゲイン調整等を精度よくまた効率よく行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
サーボシステムのモータのメンテナンスを行う際、調整器であるコンピュータ(パーソナルコンピュータ(PC))やスマートフォンなどの端末装置と、モータの駆動装置(サーボアンプ等。以下、「駆動装置」と称する。)と、を通信ケーブル等の有線路やWi-Fi等の無線路で接続し、モータを動作させながら、調整用のパラメータデータ(例えば、ゲインパラメータ等)を変更、確認するなどして、モータの調整を行う技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなモータの調整を行うに当たっては、モータを制御するための駆動装置が、通常、制御盤の中に設置されており、モータと駆動装置とが離れた場所に設置されている場合には、このようなモータのゲインパラメータ等を調整しようとしても、制御盤の設置個所まで出向き、制御盤の扉を開けて、必要なケーブル等の接続等を行った後に、モータの設置個所に戻って、制御盤内の駆動装置を介してメンテナンスを行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これを具体的に詳述すると、
図7は、従来のサーボシステムXの一つの構成例を示す機能ブロック図であるが、
図7に示すように、従来のサーボシステムXは、パソコンやスマートフォンなどの調整器である端末装置121、123により駆動装置101のメンテナンスを行う。
【0006】
この際、制御の対象となるモータ103と駆動装置101とが空間的にその位置が離れている場合には、モータのゲインパラメータ等の調整時に調整器121、123と駆動装置101との間にシリアル通信路として長いケーブル等の有線路を配線する必要がある。また、そうでない場合であっても、駆動装置101周辺のスペース等の関係から、当該有線路の配線や、メンテナンス作業を行う操作者の作業の際の自由度が制限されたりするなど、手間がかかるものであった。
【0007】
なお、ここで、符号102はモータ制御ブロックを示し、また、符号Cはコネクタを示す。その他の構成と符号については、後述する本発明の実施の形態を表す
図2を参照する際に、対応する装置等を
図7の符号から100を減じた数の符号で表されるように便宜上、対応させている。
【0008】
また、有線路ではなく無線路経由で駆動装置101と通信し、モータ103のゲインパラメータの調整などのメンテナンスを行うようにしても、調整器121、123と駆動装置101との間で、電波の遮蔽物(あらゆるものが想定されるが、制御盤の筐体や扉等の遮蔽板なども含まれる)や無線通信装置の送受信ゲインの変化等により、通信が途切れたり、不安定になったりすることがあり、モータのゲインパラメータ等の調整その他のメンテナンス作業を円滑に行うことができなくなる場合があった(図中の×印参照)。
【0009】
本発明は、モータのサーボシステムのメンテナンスを行う際に、制御盤の設置個所にアクセスすることなく、また、制御盤扉を開くことなく、モータのメンテナンスを、制御盤から離れたモータの設置個所近傍や離れた場所からでも容易に行うことができるモータのサーボシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、
モータと、前記モータの位置検出器と、前記モータを駆動するモータ駆動装置と、前記モータと前記モータ駆動装置のそれぞれに設けられてその間で双方向にデータを伝送可能とする送受信部と、前記送受信部間のデータを伝送する通信線部と、を備えるサーボシステムであって、
前記モータと一体に又は隣接して設けられ、前記モータ駆動装置内のパラメータを変更又は調整し、調整器である外部の端末装置との送受信が可能なデータ送受信処理部と、
少なくとも前記位置検出器から出力される位置データと、前記データ送受信処理部に入出力される前記調整器のデータと、が前記通信線部を介して送受信可能なようにシリアル信号データに処理することが可能なデータ処理部と、
を有する、サーボシステム、とした。
【0011】
この場合、前記モータ駆動装置が複数の前記モータを制御する、ものであってもよい。
【0012】
また、
前記データ送受信処理部、前記端末装置及び前記モータ駆動装置との間における通信のデータフレーム構造は、
前記データフレームのヘッダ部に前記モータ駆動装置毎に固有のノードIDが格納され、
データ部には、前記ノードID毎のパラメータを示すデータが格納されている、ものであってもよい。
【0013】
さらに、複数の前記モータは、デイジーチェーン方式で接続される、ものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モータのサーボシステムのメンテナンスを行う際に、制御盤の設置個所にアクセスすることなく、また、制御盤の扉を開くことなく、モータのゲイン調整等のメンテナンスを、モータの設置個所近傍や離れた場所からでも精度よくまた効率よく行うことが可能なモータのサーボシステムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】従来のサーボシステム(a)と本発明のサーボシステム(b)とを概要対比して示す図である。
【
図2】本発明の一実施の形態によるサーボシステムの一構成例を示す機能ブロック図であり、
図7に対応する図である。
【
図3A】従来のモータ駆動装置とモータとの間で送受信(エンコーダ通信)されるシリアル通信データの一構成例を示す通信データフレーム図である。
【
図3B】本発明の一実施の形態における調整器とモータの送受信処理器との間で送受信(調整器通信)されるシリアル通信データの構成例を示す通信データフレーム図である。
【
図3C】本発明の一実施の形態におけるモータ駆動装置とモータとの間で送受信(ハイブリッド通信)されるシリアル通信データの構成例を示す通信データフレーム図である。
【
図4】本発明の一実施の形態のサーボシステムの処理シーケンスの例を含む図である。
【
図5】本発明の一実施の形態において、複数台のモータと複数台のモータ駆動装置とを用いた構成例を示す図である。
【
図6】本発明の一実施の形態において、複数台のモータがデイジーチェーン方式で接続される構成例を示す機能ブロック図である。
【
図7】従来のサーボシステムの一つの構成例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施の形態)
以下に説明する本発明の一実施の形態の概要は、モータと、モータの位置検出器と、モータを駆動するモータ駆動装置と、モータとモータ駆動装置のそれぞれに設けられてその間で双方向にデータを送受信(伝送)可能とする送受信処理器(送受信部)と、送受信部間のデータを伝送するエンコーダケーブルECaや無線路(通信線部)と、を備えるサーボシステムであって、モータと一体に又は隣接して設けられ、モータ駆動装置内のパラメータを変更又は調整し、調整器である外部の端末装置との送受信が可能なデータ送受信処理器(送受信処理部)と、少なくとも位置検出器から出力される位置データと、データ送受信処理器に入出力される調整器データと、がエンコーダケーブルECaや無線路を介して送受信可能なようにシリアル信号データに処理することが可能なデータ処理部と、を有するサーボシステムである。
【0017】
なお、本明細書において「調整器」という場合には、いわゆる端末装置であればよく、オペレータの駆動装置等の操作・調整を、前述の送受信処理器を介してエンコーダ通信路を通じて駆動装置と送受信可能なものであればよく、コンピュータ(パーソナルコンピュータ(PC))、スマートフォン、専用端末、無線端末等あらゆる機器を含むものとする。
また、本明細書において、元来備えているモータの位置検出器と駆動装置との間のエンコーダケーブルECaは、「シリアル通信路ST」ともいい、位置データに関する通信を「エンコーダ通信」と、調整器との間の通信を「調整器通信」と、さらに、両通信を同時に行う通信を「ハイブリッド通信」という。
【0018】
以下、本発明の実施の形態によるサーボシステムについて図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
最初に、
図1を参照しながら、従来のモータのサーボシステムと本発明のモータのサーボシステムとを対比説明することにより、本発明の内容を説明する。
【0020】
図1(a)に示すように、従来のサーボシステムにおいては、制御盤CT内のモータ駆動装置101と、モータ103と、モータのゲインパラメータ等の調整器であるゲインパラメータ調整用パソコン121又は調整器であるスマートフォン等の無線端末装置123とを備えている。
【0021】
駆動装置101とモータ103とは、シリアル通信が可能なシリアル通信路STとしてのエンコーダケーブルECaとモータに電力を供給する駆動ケーブルDCaとにより接続されている。駆動装置101と調整器であるPC121とは、エンコーダケーブルECaとは別の通信路であるシリアル通信路(有線路)により通信可能である。また、調整器である無線端末装置123は、無線通信路(無線路)により駆動装置101と直接通信を行うことが可能となっている。そして、エンコーダケーブルECaはモータの位置検出器からの位置データを駆動装置のμsオーダーの間隔での定期的な要求に応じて駆動装置に伝送し、モータの位置検出信号を返信している。
【0022】
これに対して、
図1(b)に示すように、本発明のサーボシステムにおいても、エンコーダケーブルECaがシリアル通信路STとして備わっている。調整器21、23と駆動装置1との間の通信は駆動装置1と直接には行われず、モータ3と一体的に又は隣接して設けられた位置検出器(エンコーダ)に付随する送受信処理器(後述)を介し、次いでシリアル通信路ST(エンコーダケーブルECa)により駆動装置1に接続され、シリアル通信路STにより双方向通信が可能となるように構成されている。すなわち、シリアル通信路STを介したエンコーダ通信と調整器通信とを合わせたハイブリッド通信が行われることとなる。したがって、調整器であるゲインパラメータ調整用パソコン21は、モータ3と接続されたシリアル通信路STを介して駆動装置と双方向通信を行うことにより、また、調整器として無線端末装置23を用いた場合も、無線通信によりモータに付随する送受信処理器37を通じてモータ3と接続されたシリアル通信路STを介して駆動装置1と双方向通信を行うことが可能となり、所期の目的を達成することができる。
【0023】
なお、調整器は、ゲインパラメータ調整用パソコン21と無線端末装置23とのいずれか一方があれば足りる。両者を併せて使用することも可能であり、その場合の両者の役割の分担は、基本的に任意であるが、通常、演算処理負荷の大きい解析、表示機能等をゲインパラメータ調整用パソコン21側に行わせ、演算処理負荷の小さい指示、設定、表示等を無線端末装置23に行わせることや、高度な調整をゲインパラメータ調整用パソコン21側に行わせ、簡易な調整を無線端末装置23に行わせることなどが考えられる。勿論、ゲインパラメータ調整用パソコン21と無線端末装置23とが一つのモータを対象とする場合もあれば、それぞれ別のモータを対象として調整を行うことも任意である。
【0024】
以上の対比説明から明らかなとおり、本発明のモータのサーボシステムにおいては以下の機能を有することが明らかとなる。なお、本明細書における説明においては、調整器21、23の操作がゲインパラメータの調整である例を取り上げて説明しているが、これは代表的な調整の態様に過ぎず、モータや駆動装置内のパラメータやゲインパラメータなどあらゆるデータの変更・調整が対象となり得るものであり、その態様は任意である。
【0025】
1)調整器通信を行うに際して、モータ3のゲインパラメータ調整時に、直接、モータ3を制御するため制御盤CTまで出向いたり、制御盤の扉を開けたりする必要がない。
2)調整器通信を行っても、調整器からの調整器通信のためのシリアル通信路用の通信ケーブルの本数や総延長が減少するので、相対的に通信ケーブルが拾う外乱ノイズの影響を低減することができる。無線路を用いても、複数の電波の干渉や混信なども減少し、同様に外乱ノイズの影響を低減することができる。
3)調整器通信を行う際に、モータ3と駆動装置1との間に遮蔽物(例えば、制御盤CTの筐体や遮蔽板)がある場合でも、モータの近隣で、モータに取り付けたデータの送受信処理器との間で通信可能な範囲で容易に移動できるので、使用時の便宜も図ることが可能となる。なお、無線路を選択した場合、仮に他の遮蔽物があったとしても、ゲインパラメータ調整用パソコン21の移動や、無線通信手段の利用する周波数・帯域によりその影響を低減できる。
4)調整器通信において、無線路を用いる場合、モータの送受信処理器との間で近距離の無線通信を行うことが容易となり、通信環境が改善できるほか、場合により、小電力の無線も用いることが可能となる。そのため、Wi-Fi通信であっても省電力や低コストのものとすることが可能となるほか、Bluetooth(R)通信、2.4GHz帯の微弱無線通信、特定小電力無線通信等選択できる通信手段の自由度も高まる。なお、本明細書において無線と称する場合、電波を用いたものに限らず、本発明の目的に適う限りにおいて、赤外線等の光、超音波等の音波その他の伝送媒体を用いることも含まれる。
【0026】
以下、本発明の一実施の形態によるサーボシステムについて、図面を参照しながらより詳細に説明する。
【0027】
図2は、本実施の形態によるサーボシステムの一つの構成例を示す機能ブロック図であり、従来のサーボシステムとして説明した
図7に対応する図である。
【0028】
図2に示すように、本実施の形態のサーボシステムAは、駆動装置1と、モータ3とモータ3に一体に又は近接して設けられた送受信処理器37と位置検出器33と、調整器であるゲインパラメータ調整用パソコンのPC21又は無線端末装置23と、を有する。なお、以下の説明では、モータという場合には、モータに付随する位置検出器や送受信処理器等も含めた総称としても用いることがある。
【0029】
駆動装置1は、制御盤1a内に配置され、例えば、位置指令による位置制御を行う位置制御部5と、速度制御部13と、トルク制御部15と、ゲイン調整パラメータ生成部7と、を有するモータ制御機能を備える。この制御自体は、いわゆる一般的な位置制御を行うものである。さらに、駆動装置1には、ゲイン調整パラメータを記憶する調整パラメータ記憶部9と、シリアル通信送受信部11と、データ処理部12と、内蔵タイマー17とを有する。符号2はモータ制御ブロックを示す。
【0030】
図2において、モータ3の送受信処理器37が、後述するように、モータ3の位置検出器33に電気的に関連付けて設けられている。すなわち、図においては、便宜上、別ブロックとして記載しているが、位置検出器33が、全体として、従来と同様にエンコーダ通信のために駆動装置1との通信が可能であり、かつ、送受信処理器37が調整器通信のための調整器21、23との接続を果たすものである。そして、少なくとも位置検出器33の出力する位置データと、調整器であるパソコン21又は無線端末装置23と駆動装置1との間で受け渡しされる調整器データも、駆動装置1と位置検出器33との間を結ぶシリアル通信路ST(従来のエンコーダケーブルECa)上をシリアル信号として伝達される。
【0031】
調整器であるパソコン21又は無線端末装置23から調整器通信により送信されたモータのゲインパラメータ等の調整用データは、モータの送受信処理器37において受信され、位置検出器33が検出しているモータ3の位置データとともに合成されてシリアル信号データへと処理され、シリアル通信路STにより駆動装置1との間でハイブリッド通信が行われる。
【0032】
図3A~
図3Cは、駆動装置1、調整器21、23及びモータ3との間でそれぞれ送受信される通信データのパケットフレーム構成の一例を示すものである。
図3Aは、従来のエンコーダ通信のものを示し、
図3Bは、本発明の調整器通信のものを示し、
図3Cは、本発明のハイブリッド通信のものを示す。
【0033】
図3Aは、従来の、駆動装置1とモータ3との間でエンコーダ通信のみが行われるシリアル通信路STであるエンコーダケーブルECaで伝送されるパケットフレーム構成を示している。
【0034】
図3Aに示すように、エンコーダ通信は、まず、駆動装置1からモータ3側のエンコーダ(位置検出器)33に対して、所定時間毎に、位置データを要求するため、ヘッダ、ペイロード部及びエンドセクションを有するパケットフレームを送信する。ここで、ヘッダ部は送信開始及び同期フレームの各セクションを有し、次いでエンコーダアドレス(位置検出器を特定するデータ)、要求コマンド及びオペランドデータのセクションを有するペイロード部を有している。同期フレームは、通信遅延や処理速度等に応じて誤差が生じないように、この同期フレームの信号を用いて各モータ側のタイマーを同期させるためのものである。
【0035】
また、ペイロード部の後には、パケットフレーム終端を示すフラグとともにデータ誤りの符号訂正を行うフレームチェックサムFCS(Frame Check Sum)を含むエンドセクションを有している。フレームチェックサムは、通信途上でデータに誤りが生じていないか調べるために送受信時にデータ末端に付加される誤り検出符号のことである。その他、パケットフレームの終端を規定するフラグその他の信号は、プロトコル(通信手順)の仕様の一部として規定されており、本発明においては特に限定されるものではない。これらの構成自体は従来から知られているものであり、所定のシリアル通信のプロトコルによるものであり、特定の態様に限定するものではないので詳しい説明は省略する。
【0036】
図3Bは、本発明の調整器通信を行う際のパケットフレーム構成と双方向通信のタイミングを示す図である。
図3Bに示すように、調整器通信は、まず、調整器21、23からエンコーダの送受信処理器37に対して、要求コマンドを送出することにより開始し、一定時間後に送受信処理器37から調整器21、23に対して、返信ステータスが返されることで、1つの通信サイクルを構成している。この通信は、非同期で行われる。
【0037】
例えば、調整器であるパソコン21から、ある一定のゲインパラメータでモータを駆動するよう要求コマンドを送出し、その要求コマンドに応じた状態で駆動されたモータの駆動時の状況に関するパラメータが返信ステータスとしてパソコン21に返され、さらに、別のゲインパラメータ(同じゲインパラメータを連続して設定することもあるし、異なる場合もあり、その設定は状況に応じて調整される任意のものである。)で同じ作業を繰り返していくことで、最適なゲインパラメータやその系列を見出し、設定することが可能となる。
【0038】
その時に調整器21、23とモータ3側との間の調整器通信に使われるパケットフレーム構成は、次のとおりである。
【0039】
調整器21、23から送受信処理器37に送信される要求コマンドは、ヘッダ部43と、ペイロードである調整器通信データ部51(以下、「データ部51」と略記する。)と、を有するものである。データ部51の後にはフレームチェックサムFCSが付随している(エンドフラグは省略)。
【0040】
ヘッダ部43は、送信開始セクション41とノードセクション(ノードID)42の少なくとも2つのセクションからなる。送信開始セクション41は、データ送信が開始されることを伝達するプロトコルに応じた所定のビット列、フラグ等からなり、任意のものが使用可能である。送信開始セクション41を検出することにより受信側では通信が開始されることを認識し、プロトコルに従い、引き続くペイロードであるデータ部51の受信動作が進められる。
【0041】
送信開始セクション41に次いで、ノードID42が続いて送信される。ノードID42は、調整器21、23からの調整器通信の送信の宛先を示す部分で、それぞれのモータ3側に割り振られたノードID42に応じて定められる。通常は、後述のエンコーダアドレス53と一対一で対応しているが、調整器21、23が接続されるモータ3と調整の対象とするモータ3が異なる場合や、後述するデイジーチェーン方式を採用する場合には、調整器21、23が調整器通信を行うモータ3側のエンコーダアドレス53と、実際に要求コマンドの対象とするモータ3のそれが異なるので、両者に違うモータ3を特定するデータが収納される。受信側では、自己のノードID42に合致する場合には、そのデータが自己宛のものと認識して受信を開始し、プロトコルに従って、受信動作が進められる。また、受信側では、自己のノードID42に合致しない場合には、通信データを破棄する(ただし、後述のデイジーチェーン方式を採用した場合には、破棄せずにデイジーチェーン用の通信路を介して次段のモータ3側に転送する。)。
【0042】
ペイロードであるデータ部51は、送信されるデータの本体であり、要求コマンド52、エンコーダアドレス53(これは、結果的に要求コマンドの対象とするモータ3、すなわち調整軸番号を特定することに等しい。)、調整パラメータ保存先アドレス54、パラメータデータ55等からなる。
【0043】
要求コマンド52は、送信するゲインパラメータ等の調整パラメータのデータをオペランドとして操作を指定する実行コマンドを内容とするデータで、指定アドレス上でのゲインパラメータ等の調整パラメータの書き込みを行う書き込みコマンドや指定アドレスのゲイン調整パラメータの読み出しを行う読み出しコマンドなどからなる。
【0044】
エンコーダアドレス(調整軸番号)53は、調整の対象である軸、すなわちモータを特定するものである。後述のデイジーチェーン方式を使用しない場合には、ノードID42を含むヘッダ部43のデータのみで調整軸に係るモータ3が特定されるので不要であるが、必要に応じて、データを保持するようにしても差し支えない。また、後述するデイジーチェーン方式を使用する場合においては、調整用デバイス通信を行うモータ3側と調整の対象となるモータ3が異なるので、必須のデータである。
【0045】
なお、一軸、すなわちモータが1つしかない場合でもフォーマット自体に変更はないが、一軸の場合にはエンコーダアドレス53を省略することも可能である。
【0046】
調整パラメータ保存先アドレス54は、指定されたモータのゲインパラメータ等の調整パラメータが保存される又は保存されているメモリアドレスを指定するものである。
【0047】
パラメータデータ55は、ゲインパラメータ等のモータのメンテナンスのための調整パラメータそのものを特定するデータである。
【0048】
次に、送受信処理器から調整器21、23に返される返信ステータスは、ペイロードであるデータ部51を除いて、残りのヘッダ部43やフレームチェックサムFCSは要求コマンドのパケットフレーム構成と同様である。
【0049】
ペイロードであるデータ部51は、返信されるデータの本体であり、ステータス56、エンコーダアドレス(調整軸番号)53、調整パラメータ保存先アドレス54、パラメータデータ55等からなる。
【0050】
ステータスは、要求コマンドに対してコマンド52が正しく実行されたか否か、駆動装置1で把握可能な様々な環境パラメータその他のステータス56をデータとして含むものである。
【0051】
エンコーダアドレス(調整軸番号)53及び調整パラメータ保存先アドレス54は、要求コマンドと同様である。
【0052】
パラメータデータは、返信ステータスを送信する時のパラメータ、すなわちコマンドを実行して調整した後の調整パラメータそのものを特定するものであり、例えば、要求コマンドが書き込みコマンドであれば、正常にコマンドが実行された場合には、要求コマンドに含まれるパラメータデータと同じものとなる。要求コマンドに応じて返信されるパラメータは異なるものである。
【0053】
このような調整器通信を繰り返すことで、駆動装置1のパラメータの設定が精度よく簡便に行えることとなる。
【0054】
図3Cは、エンコーダ通信及び調整器通信を同時に行うハイブリッド通信を行う際のパケットフレーム構成と双方向通信のタイミングを示す図である。
【0055】
図3Cに示すように、ハイブリッド通信のパケットフレーム構成は、エンコーダ通信のパケットフレーム構成と調整器通信のパケットフレーム構成を合成したもので、エンコーダ通信のペイロードの後に調整器通信のペイロードが連なる構成となっている。したがって、ハイブリッド通信のパケットフレーム構成の先頭のヘッダ部43の送信開始セクションと同期フレームやフレームチェックサムFCS等のエンドセクションは、エンコーダ通信と同じものを用いることができる。なお、ノードID42は調整器通信のみに必要なデータであり、1通信サイクルの間はノードを固定するようにしているのでこの段階では既に役割を終えており、ハイブリッド通信のパケットフレームにはデータとして含まれなくともよい。また、返信ステータスの戻り時にノードを定めるためにデータとして含めてもよい。さらに、返信ステータスの戻り時に、調整器の接続されるノードが異なる場合は、調整器と接続するためのノードIDを、モータ3側で常時把握(探索・記録)しておくようにしてもよい。
【0056】
ハイブリッド通信の場合には、基本的に、エンコーダ通信のサイクルの繰り返し時間が、定期的にμs単位の短い時間で同期されて送受信されるのに対して、調整器通信のサイクルの繰り返し時間は、非同期であるので、至近のエンコーダ通信のタイミングに合わせて合成したパケットフレーム構成で送受信するよう構成されている。
【0057】
このように、エンコーダ通信のペイロードの後に調整器通信のペイロードが連なる構成とすることにより、サーボモータが元来備えている1つのシリアル通信路ST(エンコーダケーブルECa)で2種類の通信を兼ねて行うことが可能になる。
【0058】
図4は、前述した各通信を行うための本実施の形態のサーボシステムAの処理シーケンスの一例を含む図である。
【0059】
図4に示すように、調整器であるゲインパラメータ調整用のパソコン21又は無線端末装置23からのデータを送受信処理器37内の調整器通信処理部(調整用デバイス通信送受信部)61で受信し、データ変換部63で受信されたデータからペイロードである本体データを抽出するなどのデータ変換を行い、位置検出器33内のデータ処理部67にデータを送る。データ処理部67では、シリアル通信送受信部69からのデータと回転位置検出部73からのデータを合成してハイブリッド通信用データを作成し、シリアル通信送受信部からエンコーダ通信路にシリアル通信信号を駆動装置1側に送信する。なお、符号65はコネクタ、符号71は内蔵タイマーであり、C1、C2はコネクタである。
【0060】
駆動装置1側では、エンコーダ通信路を介して送信されたハイブリッド通信用シリアル通信信号をシリアル通信送受信部11で受信し、ペイロードである本体データをデータ処理部12に送る。データ処理部12は、本体データのうち調整器通信のデータとエンコーダ通信のデータとを分離する。
【0061】
調整器通信のデータは、そこに含まれている要求コマンドとオペランドに応じて、調整パラメータ記憶部9のデータに反映される。調整パラメータ記憶部9で書き換えられたデータは、調整パラメータ生成部7により、モータ制御ブロック2に指令可能な形式に変換されてモータの制御が行われることも可能であるし、要求コマンドとオペランドにより直接調整パラメータ生成部7を介して指令を発してモータを制御することも可能である。
【0062】
この時、調整パラメータ記憶部9及び調整パラメータ生成部7に対して、受信した要求コマンドが正確に操作したか否かを判断し、その結果であるステータスデータは、データ処理部12、シリアル通信送受信部11を介してエンコーダ通信路にシリアル通信信号としてモータ側に返信される。
【0063】
なお、ハイブリッド通信信号のエンコーダ通信部分のデータは、データ処理部12で分離され、従来同様にモータ制御ブロック2に送られる。すなわち、駆動装置1から周期的に送信されるデータ要求コマンドに応じて、回転位置検出部73からデータ処理部67、シリアル通信送受信部69、エンコーダケーブルECaを介して駆動装置1側のシリアル通信送受信部11で受信され、データ処理部12で分離されて駆動装置1に送られる。
【0064】
ハイブリッド通信信号を生成するにあたって、エンコーダ通信と調整器通信の両通信のデータをどのように合成するかは任意であり、前述したものはその一例である。
【0065】
いずれにせよ、エンコーダ通信と調整器通信のデータは、モータのサーボシステムが元来備えているモータの位置データを伝送するシリアル通信路ST(エンコーダケーブルECa)という1つの有線路を兼ねて利用している。この際、両通信のデータをどのように伝送するかは、任意であり、重畳的に変調しても良いし、両通信のシリアル通信の繰り返し間隔等も異なることから隙間時間を用いることも可能である。要は、元来備わっているエンコーダケーブルECa以外の有線路を設けることなく、かかる有線路を介してモータのゲインパラメータ等の調整などのメンテナンス用のデータを送受信できればよいというものである
【0066】
駆動装置1側からの調整器通信は、前述とは逆の信号の流れとなり、例えば、直前に受信した調整器通信のデータの要求コマンドが読み出しコマンドである場合には、調整パラメータ記憶部9の対応するアドレスのデータを読み出し、データ処理部12において至近のエンコード通信の要求コマンドを送出するタイミングで合成され、シリアル通信送受信部11からエンコーダケーブルECaを介してモータ側に送信される。
【0067】
モータ側の位置検出器33側に送信された調整器通信のデータは、シリアル通信送受信部で受信され、データ処理部67で分離されて、送受信処理器37のデータ変換部63を通り、調整器通信処理部61を介して調整器であるゲインパラメータ調整用のパソコン21又は無線端末装置23に送信される。
【0068】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明を行う。
【0069】
図5は、調整器であるゲインパラメータ調整用のパソコン21又は無線端末装置23から、複数台の駆動装置1-1、1-2、1-…、の設定を行う構成を示している。軸番号1、2、…はモータ3-1、3-2、…に対応する。以下の説明では駆動装置及びモータが2台の場合を例にとって説明するが、台数が限定されるものではないし、駆動装置とモータの数が異なっていてもよい。
【0070】
図5において、モータ3-1、3-2について、それぞれ、符号1-1a、1-2aは、データ処理ブロックを示し、符号1-1b、1-2bは、モータ制御ブロックを示している(
図2参照)。
【0071】
各送受信処理器82a、82bは、ノードIDを有している。そして、送信開始状態になった時に送信されてくるヘッダ部34のノードID45が、各モータ自身のノードIDであるか否かを判別し、自身のノードIDであった場合には少なくともその送受信処理器82a、82b自身を宛先とした送信であると認識する。
【0072】
調整器であるゲインパラメータ調整用のパソコン21又は無線端末装置23から、どの送受信処理器にデータを送信するかは、ノードIDによって選択する。
【0073】
また、シリアル通信路は駆動装置1-1、1-2と接続されているので、モータ3-1の送受信処理器82aに接続した状態でモータ3-2の設定を変更する処理は、モータ3-1に接続された送受信処理器82のノードIDを指定し、
図3の通信データフレーム内のエンコーダアドレス(調整軸番号)53は、モータ3-2に相当するエンコーダアドレス(調整軸番号)53を指定することにより実現できる。
【0074】
図6は、回転位置検出器33がデイジーチェーン方式の伝送路(通信路)で接続される構成例を示す機能ブロック図である。
【0075】
図6に示す構成では、ゲインパラメータ調整用のパソコン21又は無線端末装置23と接続したモータ3-2の送受信処理器82bから、モータ3-1の調整データの変更を行うことが可能である。
この方式を用いると、各モータ3-1、3-2と駆動装置との間を接続するシリアル通信路STの総延長もさらに減少できるので、より外乱ノイズの影響を低減し、また、シリアル通信路STが無線路である場合には、複数の無線路の交雑等による精度や伝送速度の低下も防ぐことができる。
【0076】
ここで、
図3の通信データフレーム内のエンコーダアドレス(調整軸番号)53は、要求コマンドにより調整しようとするモータを特定している。このエンコーダアドレス(調整軸番号)53を指定することにより、駆動装置1は、自身の制御しているモータの軸番号のデータを受信し、そのデータ処理部12で判定し、処理を行う。したがって、この場合には、エンコーダアドレスは必須のものとなる。
【0077】
以上、具体的な形態で説明してきたとおり、本発明は、モータの位置検出器に調整器(端末装置)からの通信が可能な送受信処理器を設け、送受信処理器を介して調整器と送受信されるデータをシリアル通信路ST(従来から備わっているモータと駆動装置との間のエンコーダケーブルECa)を介してモータの駆動装置(サーボアンプ・コントローラ)との間で双方向にデータの送受信を行うサーボシステムであるので、それを具現化するものであれば、上記実施の形態に限られることなく、本発明の要旨を変更しない範囲で任意のものに変更が可能である。
なお、モータと駆動装置との間のシリアル通信路ST(エンコーダケーブルECa)が無線通信路WLであっても差し支えないことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、サーボシステムに利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
CT 制御盤
1 駆動装置
3 モータ
5 位置制御部
7 ゲイン調整パラメータ生成部
9 調整パラメータ記憶部
11、69 シリアル通信送受信部
12、67 データ処理部
13 速度制御部
15 トルク制御部
17 内蔵タイマー
21 パソコン(調整器)
23 無線端末装置(調整器)
33 位置検出器
36 モータ可動部
37、82 送受信処理器
53 エンコーダアドレス(調整軸番号)
61 調整器通信処理部
63 データ変換部
73 回転位置検出部