(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/06 20160101AFI20250217BHJP
【FI】
H02P21/06
(21)【出願番号】P 2021086852
(22)【出願日】2021-05-24
【審査請求日】2024-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 高見
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-085377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク指令値に基づく磁束指令値を生成する磁束指令値生成部と、前記磁束指令値に基づいて電流指令値を生成する電流指令値生成部とを備えるモータ制御装置であって、
前記磁束指令値生成部は、
前記トルク指令値に基づいて補償前磁束指令値を算出する磁束指令演算部と、
モータ回転数に基づいて磁束フィードバック値を算出するフィードバック値算出部と、
前記補償前磁束指令値と前記磁束フィードバック値との偏差に基づいて磁束補償値を算出する磁束補償値算出部と、
前記磁束補償値に基づいて前記補償前磁束指令値から前記磁束指令値を算出する磁束指令値算出部と
を備え
、
前記磁束補償値の上限値及び下限値の少なくともいずれかを制限値に基づいて制限するリミット制限部を備える
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記磁束補償値算出部は、比例ゲインを用いた演算と積分ゲインとを用いた演算とに基づいて前記磁束補償値を算出することを特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記トルク指令値に対して設定可能な最大の鎖交磁束値である最大鎖交磁束値と、前記補償前磁束指令値とに基づいて、前記リミット制限部で用いる前記制限値を算出するリミット演算部を備えることを特徴とする請求項
1または2記載のモータ制御装置。
【請求項4】
少なくとも弱め界磁制御を行う場合に、前記リミット制限部にて前記磁束補償値の制限が行われることを特徴とする請求項
3記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交流モータをd軸及びq軸に基づいてベクトル制御するモータ制御装置が知られている。このようなベクトル制御を行うモータ制御装置は、d軸電流指令値id*とq軸電流指令値iq*とを生成し、これらのd軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*に基づいて交流モータの駆動を制御している。例えば、特許文献1には、上述のようなベクトル制御を行う同期電動機の制御装置が開示されている。特許文献1に開示された制御装置は、トルク指令値から磁束指令値を生成し、さらに磁束指令値から電流指令値(d軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*)を生成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようなベクトル制御を行う場合において、d軸電流値(id)とq軸電流値(iq)との範囲(電流動作点の設定範囲)は、id-iq平面に描かれる電流制限円及び電圧制限円(磁束制限円)の範囲内に限定する必要がある。例えば、モータにて最大出力を出し続ける場合には、一般的に最も高効率となる最小電流最大トルクラインに沿うように電流動作点を推移させ、電流動作点が磁束限界(磁束制限円の縁)に達した後に、界磁の力を弱める弱め界磁制御が行われる。このような弱め界磁では、電流動作点が磁束制限円の縁に沿うように推移される。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された制御装置では、磁束上限値及び磁束下限値により基準化した基準化磁束指令値に基づいて電流指令値を生成しているものの、電流動作点が安定しない。このため、例えば弱め界磁制御を行う場合に、電流動作点が磁束制限円の範囲を逸脱し、界磁不良を引き起こすことが考えられる。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、ベクトル制御を行うモータ制御装置において、界磁不良の発生を抑制可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0008】
第1の態様は、トルク指令値に基づく磁束指令値を生成する磁束指令値生成部と、上記磁束指令値に基づいて電流指令値を生成する電流指令値生成部とを備えるモータ制御装置であって、上記磁束指令値生成部が、上記トルク指令値に基づいて補償前磁束指令値を算出する磁束指令演算部と、モータ回転数に基づいて磁束フィードバック値を算出するフィードバック値算出部と、上記補償前磁束指令値と上記磁束フィードバック値との偏差に基づいて磁束補償値を算出する磁束補償値算出部と、上記磁束補償値に基づいて上記補償前磁束指令値から上記磁束指令値を算出する磁束指令値算出部とを備えるという構成を採用する。
【0009】
第2の態様は、上記第1の態様において、上記磁束補償値算出部が、比例ゲインを用いた演算と積分ゲインとを用いた演算とに基づいて上記磁束補償値を算出するという構成を採用する。
【0010】
第3の発明は、上記第1または第2の態様において、上記磁束補償値の上限値及び下限値の少なくともいずれかを制限値に基づいて制限するリミット制限部を備えるという構成を採用する。
【0011】
第4の発明は、上記第3の態様において、上記トルク指令値に対して設定可能な最大の鎖交磁束値である最大鎖交磁束値と、上記補償前磁束指令値とに基づいて、上記リミット制限部で用いる上記制限値を算出するリミット演算部を備えるという構成を採用する。
【0012】
第5の発明は、上記第1~第4の態様において、少なくとも弱め界磁制御を行う場合に、上記リミット制限部にて上記磁束補償値の制限が行われるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、モータ回転数に基づいて磁束フィードバック値が算出され、磁束フィードバック値に基づいたフィードバック制御の下に、磁束指令値が算出される。このため、磁束指令値の変動を抑制することができ、さらには磁束指令値に基づいて算出される電流指令値の変動も抑制することができる。したがって、本発明によれば、電流動作点が磁束制限円の範囲を逸脱することを抑制することが可能となる。よって、本発明によれば、ベクトル制御を行うモータ制御装置において、界磁不良の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態におけるモータ制御装置として機能する制御装置の概略構成を模式的に示す回路図である。
【
図2】電力変換器制御部のモータ制御装置としての機能構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態におけるモータ制御装置が有する磁束指令値生成部のブロック図である。
【
図4】モータを最大出力で駆動する場合において、id-iq平面における電流動作点の推移を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係るモータ制御装置の一実施形態について説明する。
【0016】
図1は、本実施形態のモータ制御装置として機能する制御装置1の概略構成を模式的に示す回路図である。この図に示すように、制御装置1は、電力変換器2と、電力変換器制御部3とを備えている。
【0017】
図1に示すように、電力変換器2は、昇降圧コンバータ2a、駆動用インバータ2b及び発電用インバータ2cを備えている。昇降圧コンバータ2aは、電池Pから出力される直流電圧を所定の昇圧比で昇圧する。また、昇降圧コンバータ2aは、駆動用インバータ2bあるいは発電用インバータ2cから出力される直流電圧を所定の降圧比で降圧する。このような昇降圧コンバータ2aは、
図1に示すように、例えば、複数のコンデンサ、トランス、複数の変圧用IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を備えている。
【0018】
このような昇降圧コンバータ2aは、いわゆる磁気結合インターリーブ型チョッパ回路と言われる電力回路である。昇降圧コンバータ2aは、一対の電池用端子を介して電池Pから入力された直流電力を昇圧して駆動用インバータ2bに出力する昇圧動作と、駆動用インバータ2bあるいは発電用インバータ2cから入力された直流電力を降圧して一対の電池用端子を介して電池Pに出力する降圧動作とを択一的に行う。すなわち、昇降圧コンバータ2aは、電池Pと駆動用インバータ2bあるいは発電用インバータ2cとの間で直流電力を双方向に入出力する電力変換回路である。
【0019】
駆動用インバータ2bは、電力変換器制御部3からのPWM(Pulse Width Modulation)信号に基づいて、電池Pから出力される直流電力を交流電力に変換してモータMに供給する。また、駆動用インバータ2bは、電力変換器制御部3からのPWM信号に基づいて、モータMから出力される交流電力を直流電力に変換して昇降圧コンバータ2aに供給する。このような駆動用インバータ2bは、
図1に示すように、3つのスイッチングレグを有し、合計で6つの駆動用IGBTを備えている。
【0020】
このような駆動用インバータ2bは、モータMの相数に対応して3つ(複数)のスイッチングレグを備える。この駆動用インバータ2bは、力行動作と回生動作とを択一的に行う電力変換回路である。すなわち、駆動用インバータ2bは、昇降圧コンバータ2aから入力された直流電力を三相交流電力に変換し、3つのモータ用端子を介してモータMに出力する力行動作と、3つのモータ用端子を介してモータMから入力された三相交流電力を直流電力に変換して昇降圧コンバータ2aに出力する回生動作とを択一的に行う。つまり、駆動用インバータ2bは、昇降圧コンバータ2aとモータMとの間で直流電力と三相交流電力とを相互変換する電力回路である。
【0021】
発電用インバータ2cは、電力変換器制御部3からのPWM信号に基づいて、発電機Gから出力される交流電力を直流電力に変換して昇降圧コンバータ2aに供給する。このような発電用インバータ2cも、駆動用インバータ2bと同様に、3つのスイッチングレグを有し、合計で6つの駆動用IGBTを備えている。
【0022】
このような発電用インバータ2cは、発電機Gの相数に対応して3つ(複数)のスイッチングレグを備える。この発電用インバータ2cは、3つの発電機用端子を介して発電機Gから入力される三相交流電力を直流電力に変換して昇降圧コンバータ2aに出力する電力変換回路である。つまり、この発電用インバータ2cは、昇降圧コンバータ2aと発電機Gとの間で直流電力と三相交流電力とを相互変換する電力回路である。
【0023】
このような電力変換器2には、図示するように電池P、モータM及び発電機Gがそれぞれ接続されている。電力変換器2は、外部接続用の端子として、電池Pが接続される一対の電池用端子(プラス極電池用端子E1及びマイナス極電池用端子E2)を備えている。また、電力変換器2は、モータMが接続される3つのモータ用端子(U相モータ用端子Fu、V相モータ用端子Fv、及びW相モータ用端子Fw)を備えている。また、電力変換器2は、発電機Gが接続される3つの発電機用端子(U相発電機用端子Hu、V相発電機用端子Hv及びW相発電機用端子Hw)を備えている。
【0024】
このような電力変換器2を備える制御装置1は、ハイブリッド車や電気自動車等の電動車両に備えられる電気装置であり、回転電機であるモータMを制御すると共に、発電機Gで発生した交流電力の電池Pへの充電を制御する。すなわち、この制御装置1は、電池Pの出力(電池電力)に基づくモータMの駆動制御と発電機Gの出力電力(発電電力)に基づく電池Pの充電制御とを行う。
【0025】
なお、制御装置1は、電力変換器2に発電用インバータ2cを備えずに、電力変換器2に発電機Gが接続されていない構成とすることも可能である。この場合には、制御装置1は、発電機Gの出力電力(発電電力)に基づく電池Pの充電制御を行わずに、電池Pの出力(電池電力)に基づくモータMの駆動制御を行う。
【0026】
ここで、上記電池Pは、図示するように、プラス電極がプラス極電池用端子E1に接続され、マイナス電極がマイナス極電池用端子E2に接続されている。この電池Pは、リチウムイオン電池等の二次電池であり、制御装置1に対する直流電力の放電と制御装置1を介した直流電力の充電とを行う。
【0027】
モータMは、相数が「3」の三相電動機であり、駆動用インバータ2bの負荷である。このモータMは、U相入力端子がU相モータ用端子Fuに接続され、V相入力端子がV相モータ用端子Fvに接続され、またW相入力端子がW相モータ用端子Fwに接続されている。このようなモータMは、回転軸(駆動軸)が電動車両の車輪に接続されており、当該車輪に回転動力を作用させることにより車輪を回転駆動する。
【0028】
発電機Gは、三相発電機であり、U相出力端子がU相発電機用端子Huに接続され、V相出力端子がV相発電機用端子Hvに接続され、またW相出力端子がW相発電機用端子Hwに接続されている。この発電機Gは、電動車両に搭載されたエンジン等の動力源の出力軸に接続されており、三相交流電力を制御装置1に出力する。
【0029】
電力変換器制御部3は、ゲートドライバやECU(Electronic Control Unit)を備えている。ゲートドライバは、ECUから入力される各種Duty指令値(変圧用Duty指令値、駆動用Duty指令値及び発電用Duty指令値)に基づいてゲート信号を生成する回路である。例えば、ゲートドライバは、ECUから入力される変圧用Duty指令値に基づいて、昇降圧コンバータ2aに供給するゲート信号を生成する。また、ゲートドライバは、ECUから入力される駆動用Duty指令値に基づいて、駆動用インバータ2bに供給するゲート信号を生成する。また、ゲートドライバは、ECUから入力される発電用Duty指令値に基づいて、発電用インバータ2cに供給するゲート信号を生成する。
【0030】
ECUは、予め記憶された制御プログラムに基づいて所定の制御処理を行う制御回路である。このECUは、上記制御処理に基づいて生成した各種Duty指令値(変圧用Duty指令値、駆動用Duty指令値及び発電用Duty指令値)をゲートドライバに出力する。このようなECUは、電力変換器2及びゲートドライバを介してモータMの駆動制御及び電池Pの充電制御を行う。すなわち、このECUは、昇降圧コンバータ2a、駆動用インバータ2b及び発電用インバータ2cに付帯的に設けられる電圧センサの検出値(電圧検出値)及び電流センサの検出値(電流検出値)並びに電動車両の操作情報等に基づいて昇降圧コンバータ2a、駆動用インバータ2b及び発電用インバータ2cに関する各種Duty指令値(変圧用Duty指令値、駆動用Duty指令値及び発電用Duty指令値)を生成する。
【0031】
図2は、電力変換器制御部3のモータ制御装置としての機能構成を示すブロック図である。制御装置1は、電力変換器2及び電力変換器制御部3に加えて、
図2に示すように、電流センサ4と回転角センサ5とを備えている。
【0032】
電流センサ4は、モータMと電力変換器2との間にて各相電流を検出し、その検出結果を電力変換器制御部3に出力する。なお、複数の電流センサ4は、電力変換器2とモータMとの間に設けられてもよいし、電力変換器2の内部に設けられてもよい。電流センサ4は、各相の相電流を検出する構成であれば特に限定されないが、例えば、トランスを備えたカレントトランス(CT)やホール素子を備えている。また、電流センサ4は、シャント抵抗であってもよい。
【0033】
回転角センサ5は、モータMの回転角を検出する。モータMの回転角は、所定の基準回転位置からの上記ロータの電気角である。回転角センサ5は、検出した回転角を示す検出信号を電力変換器制御部3に出力する。例えば、回転角センサ5は、レゾルバを備えてもよい。なお、回転角センサ5から出力される検出信号に基づいてモータMの回転数(モータ回転数)を算出することができる。つまり、回転角センサ5は、モータ回転数を情報として含む検出信号を出力する。
【0034】
電力変換器制御部3は、例えば上述のゲートドライバやECU等によって具現化される機能部として、トルク制御部11、電流検出部12、三相/dq変換部13、角速度演算部14、電流制御部15、dq/三相変換部16及びPWM制御部17とを備える。
【0035】
トルク制御部11は、外部からトルク指令値T*を取得する。トルク制御部11は、トルク指令値T*に基づいて、モータMのd軸電流の目標値であるd軸電流指令値id*と、モータMのq軸電流の目標値であるq軸電流指令値iq*と、を生成する。また、トルク制御部11は、生成したd軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*を電流制御部15に出力する。
【0036】
本実施形態においては、トルク制御部11は、トルク指令値T*に基づく磁束指令値を生成する磁束指令値生成部20と、磁束指令値に基づいて電流指令値(d軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*)を生成する電流指令値生成部とを備えている。
【0037】
図3は、磁束指令値生成部20のブロック図である。この図に示すように、磁束指令値生成部20は、鎖交磁束指令演算器21(磁束指令演算部)と、鎖交磁束指令リミット演算器22と、鎖交磁束指令リミット制限部23と、鎖交磁束演算器24(フィードバック値算出部)と、PI制御器25(磁束補償値算出部)と、鎖交磁束補償リミット演算器26(リミット演算部)と、鎖交磁束補償リミット制限部27(リミット制限部)とを備えている。
【0038】
鎖交磁束指令演算器21は、トルク指令値T*に基づいて補償前鎖交磁束指令値Ψo*(補償前磁束指令値)を算出する。例えば、鎖交磁束指令演算器21には、
図2に示す角速度演算部14から角速度ωが入力される。また、鎖交磁束指令演算器21には、DCバス電圧Vdcf(電池Pの電圧)が入力される。例えば、鎖交磁束指令演算器21は、トルク指令値T*と、角速度ωと、DCバス電圧Vdcfとをパラメータとして変調率係数を求めるマップに基づいて、電力変換器2で用いる変調率係数を求める。さらに、鎖交磁束指令演算器21は、変調率係数と、角速度ωと、DCバス電圧Vdcfとに基づいて、補償前鎖交磁束指令値Ψo*を算出する。
【0039】
鎖交磁束指令リミット演算器22は、トルク指令値T*と、角速度ωと、DCバス電圧Vdcfとに基づいて、鎖交磁束指令上限値Ψomaxと、鎖交磁束指令下限値Ψominとを算出する。鎖交磁束指令上限値Ψomax(最大鎖交磁束値)は、界磁制御が可能であることを前提としてトルク指令値T*に対して設定可能な最大の鎖交磁束値である。また、鎖交磁束指令下限値Ψominは、界磁制御が可能であることを前提としてトルク指令値T*に対して設定可能な最小の鎖交磁束値である。
【0040】
例えば、鎖交磁束指令リミット演算器22は、トルク指令値T*の値ごとにおける鎖交磁束指令値の最大値を示す界磁制御用鎖交磁束制限マップに基づいて、鎖交磁束指令上限値Ψomaxを算出する。なお、鎖交磁束指令下限値Ψominは、算出せずに予め定められた値を用いるようにしても良い。
【0041】
鎖交磁束指令リミット制限部23は、鎖交磁束指令リミット演算器22にて算出された鎖交磁束指令上限値Ψomaxと、鎖交磁束指令下限値Ψominに基づいて、鎖交磁束指令演算器21で算出された補償前鎖交磁束指令値Ψo*の上限値と下限値とを制限する。つまり、鎖交磁束指令リミット制限部23は、鎖交磁束指令演算器21から入力される補償前鎖交磁束指令値Ψo*が、鎖交磁束指令上限値Ψomaxよりも大きい場合には、補償前鎖交磁束指令値Ψo*の値を鎖交磁束指令上限値Ψomaxの値に置き換えて出力する。また、鎖交磁束指令リミット制限部23は、鎖交磁束指令演算器21から入力される補償前鎖交磁束指令値Ψo*が、鎖交磁束指令下限値Ψominよりも小さい場合には、補償前鎖交磁束指令値Ψo*の値を鎖交磁束指令下限値Ψominの値に置き換えて出力する。なお、鎖交磁束指令リミット制限部23から出力された補償前鎖交磁束指令値Ψo*は、補償前鎖交磁束指令値Ψoff*と称する。
【0042】
鎖交磁束演算器24は、角速度ω(モータ回転数)に基づいて鎖交磁束フィードバック値Ψof(磁束フィードバック値)を算出する。例えば、鎖交磁束演算器24には、
図2に示す電流制御部15から電圧指令値V*(d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*)がフィードバック入力される。鎖交磁束演算器24は、角速度演算部14から入力される現在のモータ回転数を示す角速度ωと、電流制御部15から入力される現在の電圧指令値V*とに基づいて、鎖交磁束フィードバック値Ψofを算出する。
【0043】
PI制御器25は、補償前鎖交磁束指令値Ψoff*と鎖交磁束フィードバック値Ψofとの偏差Ψoerrに基づいて磁束補償値dΨobuf*を算出する。減算器28で求められた偏差Ψoerrが入力される。減算器28は、ローパスフィルタ(LPF)を介して入力される補償前鎖交磁束指令値Ψoff*から、ローパスフィルタ(LPF)を介して入力される鎖交磁束フィードバック値Ψofを減算することで偏差Ψoerrを算出する。
【0044】
PI制御器25は、偏差Ψoerrに対して比例ゲインを乗算して得た値と、偏差Ψoerrに対して積分ゲインを乗算して得た後に積分することで得た値とを加算することで磁束補償値dΨobuf*を算出する。このように、PI制御器25は、比例ゲインを用いた演算と積分ゲインとを用いた演算とに基づいて磁束補償値dΨobuf*を算出する。
【0045】
なお、積分項が飽和しないようにフィードバック型アンチワインドアップ処理を行っても良い。この場合には、PI制御器25から出力される補償前鎖交磁束指令値Ψoff*から鎖交磁束補償リミット制限部27から出力される後述の磁束補償値dΨo*を減算した値を求める。また、この値に対してPI制御器25で用いる比例ゲインの逆数を乗算して得た値を偏差Ψoerrから減算し、その後に上述のように積分ゲインを乗算した演算を行う。
【0046】
鎖交磁束補償リミット演算器26は、鎖交磁束補償リミット制限部27で用いる制限値を算出する。ここでは、鎖交磁束補償リミット制限部27は、磁束補償値dΨobuf*の上限値を制限する上制限値dΨomaxを算出する。算出された上制限値dΨomaxは、鎖交磁束補償リミット制限部27に供給される。また、鎖交磁束補償リミット演算器26は、磁束補償値dΨobuf*の下限値を制限する下制限値dΨominを算出する。算出された下制限値dΨominは、鎖交磁束補償リミット制限部27に供給される。
【0047】
例えば、鎖交磁束補償リミット演算器26は、鎖交磁束指令演算器21から入力される補償前鎖交磁束指令値Ψo*と、鎖交磁束指令リミット演算器22から入力される鎖交磁束指令上限値Ψomaxとに基づいて、上制限値dΨomax及び下制限値dΨominを算出する。
【0048】
後述する鎖交磁束補償リミット制限部27による磁束補償値dΨobuf*の制限は、モータMを弱め界磁制御する場合に有用である。また、補償前鎖交磁束指令値Ψo*が鎖交磁束指令上限値Ψomaxよりも小さい場合には、弱め界磁制御が必要であると判断できる。したがって、鎖交磁束補償リミット演算器26は、補償前鎖交磁束指令値Ψo*が鎖交磁束指令上限値Ψomaxよりも小さい場合に、磁束補償値dΨobuf*の上限値と下限値とが制限されるように上制限値dΨomax及び下制限値dΨominを算出する。つまり、鎖交磁束補償リミット演算器26は、補償前鎖交磁束指令値Ψo*が鎖交磁束指令上限値Ψomaxよりも大きくて弱め界磁制御が必要でない場合には、磁束補償値dΨobuf*の上限値と下限値とがゼロになるように上制限値dΨomax及び下制限値dΨominを設定する。
【0049】
なお、鎖交磁束補償リミット演算器26は、補償前鎖交磁束指令値Ψo*に換えて、鎖交磁束指令リミット制限部23から出力された補償前鎖交磁束指令値Ψoff*を用いて上制限値dΨomax及び下制限値dΨominを算出するようにしても良い。また、補償前鎖交磁束指令値Ψo*及び補償前鎖交磁束指令値Ψoff*を用いて上制限値dΨomax及び下制限値dΨominを算出するようにしても良い。
【0050】
鎖交磁束補償リミット制限部27は、磁束補償値dΨobuf*の上限値及び下限値を制限値に基づいて制限する。ここでは、鎖交磁束補償リミット制限部27は、鎖交磁束補償リミット演算器26から入力された上制限値dΨomax及び下制限値dΨominに基づいて、磁束補償値dΨobuf*の上限値及び下限値を制限する。
【0051】
つまり、鎖交磁束補償リミット制限部27は、PI制御器25から入力される磁束補償値dΨobuf*が上制限値dΨomaxよりも大きい場合には、磁束補償値dΨobuf*の値を上制限値dΨomaxに置き換えて出力する。また、鎖交磁束補償リミット制限部27は、PI制御器25から入力される磁束補償値dΨobuf*が下制限値dΨominよりも小さい場合には、磁束補償値dΨobuf*の値を下制限値dΨominに置き換えて出力する。なお、鎖交磁束補償リミット制限部27から出力された磁束補償値dΨobuf*は、磁束補償値dΨo*と称する。
【0052】
また、
図3に示すように、磁束指令値生成部20は、補償前鎖交磁束指令値Ψoff*と磁束補償値dΨo*とを加算して、磁束指令値Ψocmp*を算出して出力する加算器29(磁束指令値算出部)を備えている。つまり、加算器29は、磁束補償値dΨo*に基づいて補償前鎖交磁束指令値Ψoff*から磁束指令値Ψocmp*を算出する。
【0053】
このように構成された磁束指令値生成部20では、トルク指令値T*、角速度ω及びDCバス電圧Vdcfが鎖交磁束指令演算器21に入力される。鎖交磁束指令演算器21では、トルク指令値T*、角速度ω及びDCバス電圧Vdcfに基づいて、補償前鎖交磁束指令値Ψo*が求められる。
【0054】
一方、トルク指令値T*、角速度ω及びDCバス電圧Vdcfは、鎖交磁束指令リミット演算器22にも入力される。鎖交磁束指令リミット演算器22では、トルク指令値T*、角速度ω及びDCバス電圧Vdcfに基づいて、鎖交磁束指令上限値Ψomaxと、鎖交磁束指令下限値Ψominとが求められる。
【0055】
補償前鎖交磁束指令値Ψo*は、鎖交磁束指令リミット制限部23において、必要に応じて鎖交磁束指令上限値Ψomaxあるいは鎖交磁束指令下限値Ψominに基づいて値が制限され、補償前鎖交磁束指令値Ψoff*として出力される。
【0056】
また、角速度ω及び電流指令値V*は、鎖交磁束演算器24に入力される。鎖交磁束演算器24では、角速度ω及び電流指令値V*に基づいて、鎖交磁束フィードバック値Ψofが算出される。
【0057】
補償前鎖交磁束指令値Ψoff*は、ローパスフィルタを介して減算器28に入力される。また、鎖交磁束フィードバック値Ψofも、ローパスフィルタを介して減算器28に入力される。減算器28では、補償前鎖交磁束指令値Ψoff*から、鎖交磁束フィードバック値Ψofが減算されることで偏差Ψoerrが算出される。
【0058】
偏差Ψoerrは、PI制御器25に入力される。PI制御器25では、偏差Ψoerrに対して比例ゲインを乗算して得た値と、偏差Ψoerrに対して積分ゲインを乗算して得た後に積分することで得た値とを加算することで磁束補償値dΨobuf*が算出される。
【0059】
一方、鎖交磁束指令演算器21から出力された補償前鎖交磁束指令値Ψo*と、鎖交磁束指令リミット演算器22から出力された鎖交磁束指令上限値Ψomaxとは、鎖交磁束補償リミット演算器26に入力される。鎖交磁束補償リミット演算器26では、補償前鎖交磁束指令値Ψo*と鎖交磁束指令上限値Ψomaxとに基づいて、磁束補償値dΨobuf*の上限値を制限する上制限値dΨomaxが算出される。また、鎖交磁束補償リミット演算器26では、補償前鎖交磁束指令値Ψo*と鎖交磁束指令上限値Ψomaxとに基づいて、磁束補償値dΨobuf*の下限値を制限する下制限値dΨominが算出される。
【0060】
PI制御器25から出力された磁束補償値dΨobuf*は、鎖交磁束補償リミット制限部27において、必要に応じて上制限値dΨomaxあるいは下制限値dΨominに基づいて値が制限され、磁束補償値dΨo*として出力される。
【0061】
鎖交磁束指令リミット制限部23から出力された補償前鎖交磁束指令値Ψoff*と、鎖交磁束補償リミット制限部27から出力された磁束補償値dΨo*とは、加算器29に入力される。加算器29では、補償前鎖交磁束指令値Ψoff*と磁束補償値dΨo*とが加算され、磁束指令値Ψocmp*が算出される。算出された磁束指令値Ψocmp*は、
図2に示す電流指令値生成部30に入力される。電流指令値生成部30では、磁束指令値Ψocmp*に基づいて、d軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*を生成する。
【0062】
図2に示す電流検出部12は、各電流センサ4の検出結果から、モータMにおけるU相のコイルに流れる電流値(以下、「U相電流値」という。)iu、モータMにおけるV相のコイルに流れる電流値(以下、「V相電流値」という。)iv、モータMにおけるW相のコイルに流れる電流値(以下、「W相電流値」という。)iwを検出する。そして、電流検出部12は、検出したU相電流値iu、V相電流値iv及びW相電流値iwを三相/dq変換部13に出力する。
【0063】
三相/dq変換部13は、電流検出部12から取得したU相電流値iu、V相電流値iv及びW相電流値iwを、回転角センサ5から取得した電気角θを用いて、dq座標系のd軸電流値id及びq軸電流値iqに変換する。三相/dq変換部13は、d軸電流値id及びq軸電流値iqを電流制御部15に出力する。
【0064】
角速度演算部14は、回転角センサ5から出力されるモータMの電気角θに基づいて、角速度ωを演算する。角速度演算部14は、演算した角速度ωを電流制御部15に出力する。電流制御部15は、d軸電流指令値id*に基づいて、d軸電圧指令値Vd*を算出する。電流制御部15は、q軸電流指令値iq*に基づいて、q軸電圧指令値Vq*を算出する。電流制御部15は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をdq/三相変換部16に出力する。
【0065】
dq/三相変換部16は、回転角センサ5から電気角θを取得する。dq/三相変換部16は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を電流制御部15から取得する。dq/三相変換部16は、電気角θを用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、モータMにおけるUVW相の各相の電圧指令値であるU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*及びW相電圧指令値Vw*に変換する。そして、dq/三相変換部16は、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*及びW相電圧指令値Vw*をPWM制御部17に出力する。U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*及びW相電圧指令値Vw*は、変調波であって、それぞれを区別しない場合には「電圧指令信号」と称する場合がある。
【0066】
PWM制御部17は、所定のキャリア周波数のキャリア波と電圧指令信号とを比較する。そして、PWM制御部17は、比較の結果、キャリア波より電圧指令信号の振幅が大きい期間にHiレベルの信号を出力し、キャリア波より電圧指令信号の振幅が小さい期間にLoレベルの信号を出力することでPWM信号を電力変換器2に出力する。PWM制御部17は、キャリア波とU相電圧指令値Vu*とを比較することによりPWM信号Duを生成して電力変換器2に出力する。PWM制御部17は、キャリア波とV相電圧指令値Vv*とを比較することによりPWM信号Dvを生成して電力変換器2に出力する。PWM制御部17は、キャリア波とW相電圧指令値Vw*とを比較することによりPWM信号Dwを生成して電力変換器2に出力する。
【0067】
電力変換器2がPWM制御部17から入力されるPWM信号(上述のPWM信号Du、PWM信号Dv、PWM信号Dw)に基づいて駆動されることで、モータMの回転が制御される。
【0068】
図4は、モータMを最大出力で駆動する場合において、id-iq平面における電流動作点の推移を示す模式図である。なお、
図4において、矢印が電流動作点の推移を示している。この図に示すように、本実施形態の制御装置1によって、モータMを最大出力で駆動する場合には、最も高効率となる最小電流最大トルクラインに沿うように電流動作点が推移され、電流動作点が磁束限界(磁束制限円の縁)に達した後に、界磁の力を弱める弱め界磁制御を行う。このような弱め界磁では、電流動作点が磁束制限円の縁に沿うように推移される。
【0069】
ここで、本実施形態の制御装置1によれば、鎖交磁束演算器24によって、角速度ω(モータ回転数)及び電流指令値V*に基づいて、鎖交磁束フィードバック値Ψofが算出される。さらに、PI制御器25(磁束補償値算出部)において、補償前鎖交磁束指令値Ψoff*から、鎖交磁束フィードバック値Ψofが減算されることで偏差Ψoerrが算出される。また、PI制御器25では、偏差Ψoerrに対して比例ゲインを乗算して得た値と、偏差Ψoerrに対して積分ゲインを乗算して得た後に積分することで得た値とを加算することで磁束補償値dΨobuf*が算出される。その後、加算器29において、補償前鎖交磁束指令値Ψoff*と磁束補償値dΨo*とが加算され、磁束指令値Ψocmp*が算出される。
【0070】
つまり、本実施形態の制御装置1においては、鎖交磁束フィードバック値Ψofに基づいたフィードバック制御が行われている。このため、電流動作点の変動を抑制することが可能である。したがって、
図4に示すように、電流動作点が磁束制限円の縁に沿うように推移される場合であっても、電流動作点が磁束制限円の外側に出ることが可能となる。よって、本実施形態の制御装置1によれば、電流動作点が磁束制限円の範囲を逸脱し、界磁不良を引き起こすことを防止することができる。
【0071】
以上のような本実施形態の制御装置1は、トルク指令値T*に基づく磁束指令値Ψocmp*を生成する磁束指令値生成部20を備えている。また、本実施形態の制御装置1は、磁束指令値Ψocmp*に基づいて電流指令値(d軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*)を生成する電流指令値生成部30を備えている。また、磁束指令値生成部20は、トルク指令値T*に基づいて補償前鎖交磁束指令値Ψo*を算出する鎖交磁束指令演算器21を備える。また、磁束指令値生成部20は、モータ回転数に基づいて鎖交磁束フィードバック値Ψofを算出する鎖交磁束演算器24を備える。また、磁束指令値生成部20は、補償前鎖交磁束指令値Ψo*(補償前鎖交磁束指令値Ψoff*)と鎖交磁束フィードバック値Ψofとの偏差Ψoerrに基づいて磁束補償値dΨobuf*を算出するPI制御器25を備える。また、本実施形態の制御装置1は、磁束補償値dΨobuf*(磁束補償値dΨo*)に基づいて補償前鎖交磁束指令値Ψo*(補償前鎖交磁束指令値Ψoff*)から磁束指令値Ψocmp*を算出する加算器29を備える。
【0072】
このような、本実施形態の制御装置1においては、モータ回転数に基づいて鎖交磁束フィードバック値Ψofが算出される。また、鎖交磁束フィードバック値Ψofに基づいたフィードバック制御の下に、磁束指令値Ψocmp*が算出される。このため、磁束指令値Ψocmp*の変動を抑制することができ、さらには磁束指令値Ψocmp*に基づいて算出される電流指令値の変動も抑制することができる。したがって、本実施形態の制御装置1によれば、電流動作点が磁束制限円の範囲を逸脱することを抑制することが可能となる。よって、ベクトル制御を行う制御装置1において、界磁不良の発生を抑制することが可能となる。
【0073】
また、本実施形態の制御装置1において、PI制御器25は、比例ゲインを用いた演算と積分ゲインとを用いた演算とに基づいて磁束補償値dΨobuf*を算出する。このため、磁束指令値Ψocmp*の変動をより確実に抑制することができ、さらには磁束指令値Ψocmp*に基づいて算出される電流指令値の変動もより確実に抑制することができる。
【0074】
また、本実施形態の制御装置1は、磁束補償値dΨobuf*の上限値及び下限値を制限値(上制限値dΨomaxあるいは下制限値dΨomin)に基づいて制限する鎖交磁束補償リミット制限部27を備えている。このため、磁束補償値dΨo*が過大になることを防止することができる。このため、例えば、最小電流最大トルクラインに沿うように推移される電流動作点が磁束限界(磁束制限円の縁)に達するタイミングを正確に把握することができ、界磁の力を弱める弱め界磁制御への切り替えを適切に行うことが可能になる。
【0075】
また、本実施形態のモータ制御装置は、鎖交磁束補償リミット演算器26を備えている。鎖交磁束補償リミット演算器26は、トルク指令値T*に対して設定可能な最大の鎖交磁束値である鎖交磁束指令上限値Ψomaxと、補償前鎖交磁束指令値Ψoff*とに基づいて、鎖交磁束補償リミット制限部27で用いる制限値を算出する。このような本実施形態の制御装置1によれば、弱め界磁制御への切り替えに適した制限値を求めることができ、簡易な演算処理で弱め界磁制御への切り替えを適切に行うことが可能になる。
【0076】
また、本実施形態の制御装置1においては、少なくとも弱め界磁制御を行う場合に、鎖交磁束補償リミット制限部27にて磁束補償値dΨobuf*の制限が行われる。このため、弱め界磁制御への切り替えを適切に行うことが可能になる。
【0077】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0078】
例えば、上記実施形態においては、鎖交磁束補償リミット制限部27によって磁束補償値dΨobuf*の上限値及び下限値を制限値に基づいて制限する構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。鎖交磁束補償リミット制限部27及び鎖交磁束補償リミット演算器26を備えない構成を採用することも可能である。
【0079】
また、上記実施形態においては、PI制御器25を備える構成について説明した。しかしながら、PI制御器に換えて、P制御を行う制御器や、PID制御を行う制御器を備えて、フィードバック制御を行う構成を採用することも可能である。
【0080】
また、上記実施形態においては、昇降圧コンバータ2aは、いわゆる磁気結合インターリーブ型チョッパ回路と言われる電力回路である。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、シングルチョッパ方式やその他昇圧方式のコンバータを使用してもよい。
【0081】
また、上記実施形態においては、電力変換器2に、モータMと、発電機Gと接続された構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、発電機Gが電力変換器2に接続されていない構成や、モータMが2つ以上電力変換器2に接続された構成であっても良い。
【符号の説明】
【0082】
1……制御装置(モータ制御装置)、2……電力変換器、20……磁束指令値生成部、21……鎖交磁束指令演算器(磁束指令演算部)、22……鎖交磁束指令リミット演算器、23……鎖交磁束指令リミット制限部、24……鎖交磁束演算器(フィードバック値算出部)、25……PI制御器(磁束補償値算出部)、26……鎖交磁束補償リミット演算器(リミット演算部)、27……鎖交磁束補償リミット制限部(リミット制限部)、28……減算器、29……加算器(磁束指令値算出部)、30……電流指令値生成部