(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】再ミネラル化歯科材料
(51)【国際特許分類】
A61K 6/20 20200101AFI20250217BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20250217BHJP
A61K 6/891 20200101ALI20250217BHJP
A61K 6/898 20200101ALI20250217BHJP
A61K 6/884 20200101ALI20250217BHJP
A61K 6/842 20200101ALI20250217BHJP
【FI】
A61K6/20
A61K6/887
A61K6/891
A61K6/898
A61K6/884
A61K6/842
(21)【出願番号】P 2021559656
(86)(22)【出願日】2020-04-08
(86)【国際出願番号】 EP2020000081
(87)【国際公開番号】W WO2020207618
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】102019109150.0
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514200420
【氏名又は名称】ミュールバウアー・テクノロジー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MUEHLBAUER TECHNOLOGY GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【氏名又は名称】言上 惠一
(72)【発明者】
【氏名】グルーバー,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ネフゲン,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー,オラフ-スヴェン
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】ツェルフェン,ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】シュトゥルム,エレナ
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-502296(JP,A)
【文献】特開2007-099632(JP,A)
【文献】特表2009-525988(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0242005(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0058675(US,A1)
【文献】特表2011-510152(JP,A)
【文献】特表2013-500072(JP,A)
【文献】Acta Biomaterialia,2010年,Vol.6,No.7,pp.2740-2750
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/20
A61K 6/887
A61K 6/891
A61K 6/898
A61K 6/884
A61K 6/842
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再ミネラル化物質を形成するためのパートナーイオンとして構成された、少なくとも1つのカチオンおよび少なくとも1つのアニオンを有し、パートナーイオンの少なくとも1つが多価であり、コアセルベートに対イオンとして含まれている、再ミネラル化歯科材料
を作製するためのキットであって、
コアセルベートは、アニオン性またはカチオン性の高分子電解質と多価のカチオンまたは多価のアニオンを含んでなり、
パートナーイオンは、一緒になって再ミネラル化物質を形成することができるカチオンおよびアニオンであ
り、以下の構成成分:
a. 少なくとも1つのコアセルベートを含み、コアセルベートの対イオンとしてパートナーイオンの1つを有する、第一成分;
b. 水を含む第二成分;
を含み、パートナーイオンの第二のものが、成分bにおける水溶液中の遊離イオンとして、および/または2つの成分のうちの1つにおける第二のコアセルベートの対イオンとして含まれる、再ミネラル化歯科材料
を作製するためのキット。
【請求項2】
コアセルベートの高分子電解質とは異なる電荷を有する第二の高分子電解質をさらに含む、請求項1
に記載の
キット。
【請求項3】
両パートナーイオンが多価であり、それぞれのコアセルベートの対イオンとして含まれている、請求項1に記載の
キット。
【請求項4】
多価カチオンとのコアセルベートを形成するためのアニオン性高分子電解質が、有機高分子電解質の群から選択され、以下からなる群から選択される、請求項1~
3のいずれかに記載の
キット。
a. カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基および/またはスルホン酸基を含むポリマーおよびコポリマー、ならびにそれらの塩およびそれらの部分エステル;
b. 酸性タンパク質、酸性タンパク質誘導体、およびそれらの塩;
c. 酸性多糖類およびその塩。
【請求項5】
多価カチオンとのコアセルベートを形成するためのアニオン性高分子電解質が、3kDa~1500kDaの平均分子量(重量平均Mw)を有する、請求項1~
4のいずれかに記載の
キット。
【請求項6】
多価カチオンが、ミネラル形成カチオンからなる群から選択される、請求項1~
5のいずれかに記載の
キット。
【請求項7】
多価アニオンとのコアセルベートを形成するためのカチオン性高分子電解質が、有機高分子電解質からなる群から選択される、請求項1~
6のいずれかに記載の
キット。
【請求項8】
多価アニオンとのコアセルベートを形成するためのカチオン性高分子電解質が、3kDa~1500kDaの平均分子量(重量平均Mw)を有する、請求項1~
7のいずれかに記載の
キット。
【請求項9】
多価アニオンが、ミネラル形成アニオン、および部分的に有機修飾されたケイ酸イオン、硫酸イオン、タングステン酸イオン、バナジン酸イオン、モリブデン酸イオン、および炭酸イオンからなる群から選択される、請求項1~
8のいずれかに記載の
キット。
【請求項10】
コアセルベート成分の割合が、1重量%以上である、請求項1~
9のいずれかに記載の
キット。
【請求項11】
固体である、請求項1~1
0のいずれかに記載の
キット。
【請求項12】
液体および/またはエマルジョンおよび/またはサスペンションである、請求項1~1
0のいずれかに記載の
キット。
【請求項13】
ゲルである、請求項1~1
0のいずれかに記載の
キット。
【請求項14】
ペーストである、請求項1~1
0のいずれかに記載の
キット。
【請求項15】
パートナーイオンとコアセルベートを1~100wt%含む、請求項1~1
4のいずれかに記載の
キット。
【請求項16】
水を含む、請求項1~1
5のいずれかに記載の
キット。
【請求項17】
コアセルベートが0.1~90wt%の含水率を有する、請求項1~1
6のいずれかに記載の
キット。
【請求項18】
コアセルベートを形成する高分子電解質およびその対イオンのコアセルベート中の濃度が10~100wt%である、請求項1~1
7のいずれかに記載の
キット。
【請求項19】
パートナーイオンとしてフッ化物イオンが含まれている、請求項1~1
8のいずれかに記載の
キット。
【請求項20】
パートナーイオンが実質的に可溶性の形態で歯科材料中に存在する、請求項1~
19のいずれかに記載の
キット。
【請求項21】
自己硬化性である、請求項1~2
0のいずれかに記載の
キット。
【請求項22】
ISO 9917:2007による作業時間および/または硬化時間が1分~5分である、請求項1~2
1のいずれかに記載の
キット。
【請求項23】
硬化した歯科材料が自己接着性(self-bonding)である、請求項1~2
2のいずれかに記載の
キット。
【請求項24】
硬化した歯科材料が、ISO 9917:2007にしたがって、50以上の圧縮強度と、20以上の曲げ強度を有する、請求項1~2
3のいずれかに記載の
キット。
【請求項25】
成分の少なくとも1つが固体である、請求項
1~24のいずれかに記載のキット。
【請求項26】
成分の少なくとも1つが液体である、請求項
1~25のいずれかに記載のキット。
【請求項27】
成分のうち少なくとも2つがペーストである、請求項
1~25のいずれかに記載のキット。
【請求項28】
少なくとも2つの成分がゲルである、請求項
1~25のいずれかに記載のキット。
【請求項29】
成分の少なくとも1つが、23℃で7~10のpHを有する、請求項
1~
28のいずれかに記載のキット。
【請求項30】
更なる成分cを含む、請求項
1~
29のいずれかに記載のキット。
【請求項31】
成分aおよびbが、混合に適した装置に、および/または、混合針を通して成分を押し出すためのカートリッジシステムの一部としての、マルチコンパートメントカートリッジに収納される、請求項
1~
30のいずれかに記載のキット。
【請求項32】
パートナーイオンの1つが多価であり、対イオンとしてコアセルベートに含まれており、第二のパートナーイオンが水溶液に含まれており、成分の少なくとも1つが、コアセルベートの高分子電解質とは異なる電荷を有する第二の高分子電解質をさらに含む、請求項
1~3
1のいずれかに記載のキット。
【請求項33】
成分aが、アルカリ土類金属イオンを対イオンとして含む少なくとも1つの第一のコアセルベート粉体と、多価のアニオンをパートナーイオンとして含む少なくとも1つの第二のコアセルベート粉体とを含む、請求項
1~3
1のいずれかに記載のキット。
【請求項34】
歯科硬質における欠陥を治療するための、
以下のステップ:
i. 構成
成分bを象牙質および/またはエナメル質に適用すること、
ii. 構成
成分aを構成
成分bとともに象牙質に、および/または構成成分bとともにエナメル質に適用すること、
を有する方法において使用する、請求項
1~3
3のいずれかに記載のキット。
【請求項35】
歯科硬質における欠陥を治療するための、
以下のステップ:
i. 構成
成分aと構成
成分bを混合すること、
ii. 混合物を象牙質および/またはエナメル質に適用すること、
を有する方法において使用する、請求項1~3
3のいずれかに記載のキット。
【請求項36】
シーラント、コーティング、リライン材および/または充填材として使用するための、請求項1~
35のいずれかに記載の
キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再ミネラル化物質を形成するためのパートナーイオンとして構成された、少なくとも1つのカチオンおよび少なくとも1つのアニオンを有する、再ミネラル化歯科材料に関するものである。
本発明のさらなる主題は、この歯科材料の使用、その使用方法、およびそれを作製するためのキットである。
【発明の概要】
【0002】
歯科硬質の欠陥に対する種々の保存的治療のための歯科材料が知られている。
このような材料のミネラル化効果を用いる目的は、例えば侵襲的な治療の後に残っている天然の歯科硬質を、例えば細菌によって引き起こされる更なる劣化に対して安定化させることである。
この場合のミネラル化は、材料からCa2+やF-などの特定のイオンが放出され、唾液から適切な対イオンが歯科硬組織上または中に入り込むことによって誘発される可能性がある。
すると、溶解度の低い新たな無機固体物質が形成され、歯科硬質中の失われたミネラルを置き換える(ミネラル置換)。
他のアプローチは、唾液からのCa2+イオンまたはリン酸イオンの進入を必要とせずに、主にヒドロキシルアパタイトまたは他のアパタイトのミネラル固体の形成を目的としている。
ここで、先行技術において、生体活性ガラスと呼ばれるものが主に使用されている。
【0003】
先行技術に基づく材料のミネラル化の可能性は一般に限られている。
この理由は、一方では、問題の材料(例えば、グラスアイオノマーセメント)中の利用可能な、すなわち、部分的に可溶性の適切なイオンの量が限られていることであり、他方では、問題の材料のクラスにおいて、材料の性質のために、許容可能な物理的特性の下で、限られた量のイオン源(例えば、生物活性ガラスを有する複合材料)の使用のみが可能であることである。
放出されるイオンの量および/または形成されるミネラル代替物の量は、そのような材料からは限られており、その結果、歯科硬質の持続的な安定化には十分ではない。
【0004】
WO2017/161179A1は、Bioglass 45S5とポリアスパラギン酸の60:40の混合物からなる再ミネラル化組成物を開示している。
それは、低濃度の再ミネラル化イオンしか得られない。
さらに、再ミネラル化イオンの選択および組み合わせの可能性には制限があり、したがって再ミネラル化の性質にも制限がある。
【0005】
US2010/0272764A1には、再ミネラル化能を有する重合性歯科用レジンコンポジットが開示されている。
このコンポジットは、硝酸カルシウム溶液、リン酸水素カリウム溶液、およびフッ化ナトリウム溶液をそれぞれ含むマイクロカプセルを含む。
このマイクロカプセルには、硝酸カルシウム水溶液、リン酸水素カリウム水溶液、フッ化ナトリウム水溶液が含まれており、これらのイオンはカプセルの半透膜を介して濃度勾配により放出される。
このマイクロカプセルは、反対に帯電した高分子電解質の複雑なコアセルベーションによって生成されると言われている。
この場合も、放出されるイオンの濃度が低いという欠点がある。
【0006】
本発明の目的は、効果的な再ミネラル化を可能にする上述の種類の歯科材料を作製することにある。
【0007】
この目的を達成するために、本発明は、パートナーイオンの少なくとも1つが多価であり、コアセルベートの対イオンとして含まれることを提案する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、本発明の文脈で使用される特定の用語について説明する。
【0009】
本発明は、再ミネラル化歯科材料に関するものである。
【0010】
再ミネラル化と脱ミネラル化は、歯と口腔の間で交互に起こる生物学的プロセスであり、ミネラルイオンが溶け出したり、唾液を介して再び取り込まれたりする。
脱ミネラル化とは、一般的に酸によって(例えば、むし歯の原因となるプラークによって)引き起こされる歯の無機質、主に水酸アパタイトを含む要素の溶解による歯のミネラルの損失を指し、これはむし歯の形成における主要なプロセスを表している
(P.Shellis in:Karies [Caries], H.
Meyer-Lueckel, S.
Paris, K.R.
Ekstrand eds., G.
Thieme Verlag, 2012, p.23)。
【0011】
狭義の再ミネラル化とは、歯の表面の領域に、主にアパタイトをベースとしたミネラル性物質が蓄積または減少することを含む
(P.Shellis, loc.P.
Shellis, loc.
sit., pp.23, 26; S.
Twetmann, K.R.
Ekstrand, loc.
sit., p.210)。
脱ミネラル化によって事前に損傷を受けた歯質の場合、この種の再ミネラル化プロセスは、欠陥の一定の修復につながる。
交換材料は、歯の既存のアパタイト結晶に付加して結晶成長することもあるが、新しいアパタイト結晶が形成されることもある。
現在の研究状況によると、低濃度のフッ化物の存在下でも自然な再ミネラル化プロセスが促進されると考えられる。
【0012】
本発明の意味での再ミネラル化とは、脱ミネラル化によって損傷を受けた可能性のある既存の歯科硬質に、沈殿のプロセスを通じて無機物質が付加されるあらゆるプロセスを指す。
この沈殿は、歯質内の既存のアパタイト結晶の成長をもたらすかもしれないし、あるいは再ミネラル化部位での新しい無機材料の形成につながるかもしれない。
適切な無機材料は、アパタイトに由来する材料であってもよいし、あるいは低溶解度の他の生体適合性化合物であってもよい。
それらは、本発明において再ミネラル化物質と呼ばれる。
【0013】
歯質とは、エナメル質、象牙質、歯セメントなどのミネラルを含んだ歯の物質を指す。
【0014】
パートナーイオンとは、カチオンと陰イオンが一緒になって再ミネラル化物質を形成することができるものである。
【0015】
コアセルベーションとは、液体と液体の相分離を表す用語である。
イオン性ポリマーまたはマクロイオン(例えば、イオン性ポリリン酸)は、多価の対イオン(例えば、カルシウム)とともにコアセルベーションを形成し、ポリマー溶液内で比較的ポリマーに富んだ相を形成する。
【0016】
コアセルベートは、多価の対イオンを介して架橋された高分子電解質である。
水性媒体中では、コアセルベートは高粘度の相の形をとる。
親高分子電解質の分子量の高さに応じて、コアセルベートは、水性媒体中に相分離した形で存在する液体、粘性物質から粘塑性物質の形態をとる。
コアセルベートは、高分子電解質と多価の対イオンの物質量比が一定の範囲内にしか存在せず、また、高分子電解質の濃度が一定の最低値を超えた場合にのみ存在する。
対イオンの割合が低すぎたり、コアセルベートを形成するもの(多価の対イオンと高分子電解質)の濃度が低すぎたりすると、水中での相分離が起こらない。
【0017】
適切なコアセルベートは、アニオン性またはカチオン性の高分子電解質と多価のカチオンまたは多価のアニオンから形成される。
適切なコアセルベートは、イオン性高分子電解質と、この高分子電解質を架橋する多価の対イオンを含む。
【0018】
コアセルベートは、好ましくは、アニオン性またはカチオン性高分子電解質の水溶液と、多価のカチオンまたはアニオンの水溶液を混合することによって作製される。
ここで、アニオン性高分子電解質と多価のカチオンを混合し、カチオン性高分子電解質と多価のアニオンを混合する。
【0019】
コアセルベートは、混合物中で高粘度の別の液相を形成する。
コアセルベートは好ましくは分離される。
これは、デカンテーションや遠心分離などの適切な既知の方法によって、それぞれの場合に達成される。
分離されたコアセルベートは、好ましくは精製される。
これは、好ましくは、溶媒、好ましくは水での単純な洗浄によって達成される。
【0020】
本発明は、歯科硬質に対して高いミネラル化能力を有する再ミネラル化材料のパートナーイオンが、これらのパートナーイオンの少なくとも1つがコアセルベート中の対イオンとして存在する場合、歯科材料中で利用可能になることを見出したものである。
ミネラル化効果に関して、目的は、例えば侵襲的治療の後に残っている天然の歯科硬質を、例えばバクテリアによって誘発される更なる劣化-に対して安定化させることである。
この場合のミネラル化は、Ca2+やF-などの特定のイオンが材料から放出され、唾液からの適切なパートナーイオンが歯科硬組織の上または中に入ることで誘発される可能性がある。
すると、溶解度の低い新たな無機固体材料が形成され、歯科硬質中の失われたミネラルを置換する(ミネラル置換)。
【0021】
逆に言えば、既知の歯科材料のミネラル化の可能性は限られている。
この理由の1つは、ミネラル化効果を有する既知の成分が、前記材料の他の物理的特性を損なうことなく、限られた量でしか歯科材料に添加できないことである。
更なる理由は、例えば、既知のグラスアイオノマーセメントの場合、イオンが対応する歯科材料の中に、および/または歯科材料から送出される速度および量が限られていることである。
【0022】
使用のために、ミネラル化効果を有する本発明の歯科材料は、有利には液体またはペースト状の形態で存在するが、少なくとも適応可能な形態で存在し、この形態で治療すべき歯科硬質に適用される。
そこでは、手動で表面に適用され、潜在的に成形される。
再ミネラル化プロセスは非常に遅い傾向があるので、材料は硬化後、少なくとも一定時間は使用部位に残るべきである。
長期的な治療の成功に特に適した使用方法では、材料は一定時間後に固化し、その作業時間は材料の手作業にとって十分でなければならない。
その場合、材料の硬化形態は、再ミネラル化部位を機械的および/または化学的劣化から保護する役割も果たす。
硬化前および想定される場合には硬化後に、材料は、ミネラル置換の形成を伴う歯科硬質のミネラル化のためにイオンを供給することができるべきである。
【0023】
好ましい1つの使用方法では、ミネラル化の可能性を有する歯科材料は、エナメル質の安定化のために合理的に使用されることになっている。
これは、むし歯のプロセスによって部分的に劣化したエナメル、侵襲的な歯科治療にさらされている領域のエナメル、またはエナメルのミスフォーメーション(例えば、MIH)に起因する未ミネラル化の(ミネラル化が不十分な)領域(regions undermineralized)であってもよい。
望ましい歯科材料は、接触している未ミネラル化の(ミネラル化が不十分な)歯科硬質をミネラル化し、少なくともエナメル領域のミネラル化に必要な期間、そのような領域を覆う。
また、充填材料の意味での永久的な定着も考えられる。
使用は、再ミネラル化と再ミネラル化に必要な期間の物理的保護を包含する歯質の安定化をもたらす。
このような使用において、問題の材料は理想的には治療されるべき場所でも接着する。
【0024】
ミネラル化歯科材料のさらに望ましい特定の用途は、既存または残存する象牙質の安定化を目的とする。
このような用途は、例えば、露出した歯頸部の領域の露出した象牙質に向けられる。
この領域での耐久性のある不浸透性のシーリングは非常に困難であるため、特にこの臨床状況を管理するのは難しいことが知られている。
これは特に、臨床的に治療が困難な歯頸部齲蝕の治療においてそうである。
この用途でも、材料は物理的な保護効果とミネラル化効果の両方を持ち、このようにして安定化のために作用する。
ここでも、臨床上の理由から、材料は使用の段階で象牙質に接着固定できるようにする。
【0025】
このような材料のもう一つの好ましい用途は、特に深い空洞が存在し、ある状況下では脱ミネラル化した象牙質が空洞内に残っている場合のリライン材料としての有用性に向けられている。
ここでも、安定化効果と耐久性のある保護が目的である。
先行技術における材料の問題点は、無機材料に基づくリラインが、必ずしも十分な化学的安定性を有していないこと、および/または、基材に結合しないか、あるいは不十分にしか結合しないことである。
【0026】
形成されるミネラル代替物の好ましい要件は、化学的に見て、歯科硬質(水酸基アパタイト)と少なくとも同等の酸性水性環境に対する安定性を有することであり、より好ましくはより安定性を有することである。
酸性水環境に対する安定性とは、そのような媒体に溶解しにくいことを指す。
このような化学的に安定したミネラル代替物を形成することで、例えば、微生物の暴露や酸の生成に直面しても、材料が溶解することを防ぐことができる。
【0027】
本発明では、パートナーイオンの1つが多価であり、コアセルベートの対イオンとして含まれ、2つ目のパートナーイオンが水溶液に含まれていることが好ましい。
【0028】
本実施形態では、好ましくは、コアセルベートの高分子電解質とは異なる電荷を有する第二の高分子電解質が追加的に含まれていてもよい。
コアセルベートの高分子電解質がカチオン性高分子電解質であれば、この第二の高分子電解質はアニオン性高分子電解質であり、その逆もまた然りである。
このような第二の高分子電解質の添加は、歯質(特に象牙質)への深部ミネラル化が追加されることを意味することが明らかになった。
これは、特に脱ミネラル化した象牙質の場合、コアセルベートに含まれるパートナーイオンの浸透深度を介してミネラル化の可能性を向上させ、象牙質の深部への再ミネラル化を向上させることができるという利点がある。
【0029】
本発明では、パートナーイオンの両方が多価であり、それぞれのコアセルベートの対イオンとして含まれていてもよい。
より好ましくは、パートナーイオンの一方が2価、すなわち電荷が2であり、好ましい電荷数は+3、+2、-2および-3である。
【0030】
コアセルベートは、多価のカチオン/アニオンの他に、1価のカチオン/アニオンを含んでいてもよい。
多価またはその他の1価のカチオンのフラクションは、抗菌性を有することが好ましい場合がある。
これらの特性を有する適切なカチオンは、例えば、銀イオンまたは銅イオンである。
多価または他の1価のアニオンのフラクションは、生物学的効果または他の再ミネラル化支持効果を有することが好ましい場合がある。
特に、1価のアニオンとしてフッ化物が含まれていることが好ましい。
【0031】
多価カチオンとのコアセルベートを形成するためのアニオン性高分子電解質は、好ましくは以下からなる、有機高分子電解質の群から選択することができる:
【0032】
カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基および/またはスルホン酸基を含むポリマーおよびコポリマー、ならびにそれらの塩およびそれらの部分エステル;好ましくはポリカルボン酸、ポリアルキレンリン酸、ポリアルキレンホスホン酸、例えばポリビニルホスホン酸およびポリスルホン酸、ならびにそれらの塩およびそれらの部分エステル;より好ましくはポリ(メタ)アクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリイタコン酸およびポリグルタミン酸、ならびにそれらの塩;
【0033】
好ましくはリゾチームまたはゼラチン(タイプB)である、酸性タンパク質、酸性タンパク質誘導体、およびそれらの塩;
【0034】
好ましくはカラギーナン、ペクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸の塩である、酸性多糖類とその塩。
【0035】
多価カチオンとのコアセルベートを形成するためのアニオン性高分子電解質は、好ましくは3kDa~1500kDa、より好ましくは5~500kDa、さらに好ましくは8kDa~200kDa、よりさらに好ましくは8~50kDa以下の平均分子量(重量平均Mw)を有する。
【0036】
多価のカチオンは、好ましくはミネラル形成カチオンからなる群から選択される;好ましくは金属カチオン;より好ましくはPTEの族2A、3B、3Aの金属、またランタノイド;より好ましくはBa 2+、Ca 2+、Sr 2+、Tb 3+、およびYb3+;より好ましくはCa2+および/またはCaとの金属カチオンの混合物である2+。
【0037】
例えば、Ca含有のコアセルベートにおいて、Caの一部を2+特にSr2+で置換したような、カチオン混合のコアセルベートも可能である。
【0038】
ポリアクリル酸とCa2+イオンをベースにしたコアセルベートの好ましい一実施形態では、所望の分離可能なコアセルベートを形成するために、少なくとも5のpHと≧1mg/ml、より好ましくは≧10mg/mlのポリアクリル酸濃度が提供される。
【0039】
多価アニオンとのコアセルベートを形成するためのカチオン性高分子電解質は、有機高分子電解質、好ましくは第一級、第二級および/または第三級のアミノ基を含むポリマーおよびコポリマー、ならびにそれらの塩からなる群から選択される;好ましくはポリアミン;より好ましくはポリアリルアミン、直鎖状または分岐状のポリエチレンイミン、キトサン、ポリシン、およびポリアルギニン、ならびにそれらの塩;より好ましくはポリアリルアミン塩酸塩(PAH)である。
【0040】
カチオン性高分子電解質に基づくコアセルベートの1つの実施形態は、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)と対イオンとしてのリン酸塩またはリン酸水素の組み合わせである。
この実施形態では、コアセルベートを作製するために、ポリアリルアミンが可能な限りプロトン化された形で存在し、リン酸イオンが可能な限り脱プロトン化された形で存在することが保証されるべきである。
【0041】
多価アニオンとのコアセルベートを形成するためのカチオン性高分子電解質は、平均分子量(重量平均Mw)が3kDa以上1500kDa以下、好ましくは5kDa以上500kDa以下、より好ましくは8kDa以上200kDa以下、さらに好ましくは8kDa以上50kDa以下であることが好ましい。
【0042】
多価アニオンは、好ましくは、ミネラル形成アニオン、好ましくはオルトリン酸イオン、ジリン酸イオン、メタリン酸イオン、ケイ酸イオン、より特に無機ケイ酸イオン、好ましくはオルト、イノ、バンドギャップケイ酸イオン、および部分的に有機修飾されたケイ酸イオン、より特にアルキルオキシケイ酸イオン、硫酸イオン、タングステン酸イオン、バナジン酸イオン、モリブデン酸イオン、炭酸イオン、より好ましくはオルトリン酸イオン、二リン酸イオン、メタリン酸イオン、硫酸イオン、タングステン酸イオン、バナジン酸イオン、モリブデン酸イオン、さらに好ましくはオルトリン酸イオンおよび/またはオルトリン酸イオンとミネラル形成アニオンとの混合物からなる群から選択される
【0043】
本発明の歯科材料は、一実施形態では、好ましくは液体および/またはエマルジョンおよび/またはサスペンションであり、好ましくは50mPas以上、好ましくは100mPas以上の動的粘度(dynamic viscosity)を有する。
【0044】
本発明の歯科材料は、別の実施形態では、好ましくは固体であり、より好ましくは粉末である。
【0045】
本発明の歯科材料は、別の実施形態では、好ましくはゲルまたはペーストである。
【0046】
歯科材料は、パートナーイオンおよびコアセルベートを1~100wt%含んでいてもよく、好ましい下限値および/または上限値は5、10、15、25等~95wt%である。
それぞれの場合の5wt%の記載間隔は、本発明では任意に組み合わせて下限値と上限値の範囲を形成することができる。
【0047】
本発明の歯科材料は、好ましくは水を含み、好ましくは5~95wt%であり、好ましい下限値および上限値は、5、10、15、25等~95wt%である。
それぞれの場合の5wt%の間隔は、本発明では任意に組み合わせて下限値と上限値の範囲を形成することができる。
【0048】
本発明において、一実施形態のコアセルベートは、0.1~90wt%、好ましくは1~75wt%、より好ましくは5~60wt%の含水率を有していてもよい。
【0049】
好ましい実施形態では、乾燥後、例えば、コアセルベートは、0.1~50wt%、好ましくは1~25wt%、より好ましくは5~25wt%の含水率を有してもよい。
【0050】
本発明では、コアセルベートを形成する高分子電解質とその対イオンのコアセルベート中の濃度が10~100wt%であることが好ましく、好ましい下限は25または40、より好ましくは45wt%であり、好ましい上限は55または75、より好ましくは85、90、95wt%である。
【0051】
本発明では、パートナーイオンとしてフッ化物イオンが含まれていることが好ましい。
【0052】
本発明では、(特に再ミネラル化物質の形成前において)歯科材料中のパートナーイオンが実質的に可溶性の形態で存在することが好ましい。
【0053】
本発明の歯科材料は、自己硬化型の構成であってもよい。
【0054】
本発明では、ISO 9917:2007による作業時間および/または硬化時間が1~5分である歯科材料が好ましい。
【0055】
本発明では、硬化した歯科材料が自己接着性(self-bonding)であることが好ましく、エナメル質および/または象牙質に対して少なくとも3.5MPaのせん断接着強さを有することが好ましい。
【0056】
硬化した歯科材料は、ISO 9917:2007に従って、50以上、好ましくは100以上、より好ましくは200MPa以上の圧縮強度と、20以上、好ましくは25MPa以上の曲げ強度を有することが好ましい。
【0057】
本発明の歯科材料は、歯科硬質にとって高いミネラル化ポテンシャルを有し、特に好ましい態様では、水酸アパタイトの溶解度を下回るpH4.2の酸性媒体への溶解度を有するミネラル代替物を形成する。
【0058】
歯科材料は、本発明において、顔料、染料、酸化防止剤、防腐剤、フィラーまたは他の整合性剤などの添加剤を含んでいてもよく、これらは、例えば、レオロジーを調整するために添加されてもよい。
機械的特性を改善するために、ケイ酸塩、ガラス、ZrO2、BaSO4、SiO2、プレポリマーなどの不活性な無機または有機フィラーを歯科材料に混入することが可能である。
ミネラル化に積極的に影響を与えることができるフィラーも使用することができる。
ここでは、アイオノマーガラスや生体活性ガラスなどのイオン放出性ガラス、ヒドロキシルアパタイト粒子、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)またはリン酸四カルシウム(TCP)が例示的に挙げられている。
特にハイドロキシルアパタイトは、平均粒子径が5~100nmのナノ粒子の形態であることが好ましい。
さらに、本発明のパートナーイオンの水溶性粒子、特にカルシウムの塩、リン酸塩の塩、およびフッ化物の塩、より特にCaCl2粒子および(NH4)2HPO4粒子を添加することにより、ミネラル含有量およびこれらの種のイオンリザーバーのさらなる増加を達成することが可能である。
水溶性のクエン酸塩も好ましい添加物である。
着色のために、無機または有機のカラー顔料を添加することが可能である。
これらの顔料は、材料の色を歯科硬質に適合させるため、あるいは材料と歯の間にコントラストを導入するために使用することができる。
【0059】
さらなる可能な添加物として、モノマー、例えば(メタ)アクリレート、または二重結合を含む高分子電解質を系に導入することが可能である。
第二の硬化メカニズムによって高分子電解質系を硬化させる追加の可能性により、記載された歯科材料の特性に追加の影響を与えることができる。
アーキテクチャによっては、重合可能なモノマーユニットが高分子電解質で架橋されていてもよい。
また、使用するコアセルベートの部分的な官能化も可能である。
【0060】
本発明では、「水溶液」という用語は、水を例えば有機溶媒と均一に溶かした溶液も含む。
このような溶液は、好ましくは10wt%以上の水を含み、より好ましくは50wt%以上の水を含み、特に好ましくは唯一の溶媒が水である。
【0061】
高分子電解質とは、特に、ポリマー鎖に直接またはスペーサー基を介して荷電基が結合しているポリマーと理解される。
これらの荷電基は、負に帯電した基でも正に帯電した基でもよい。
各ポリマー鎖には、1つの符号の電荷のみが配置されていることが好ましい。
ここで、ポリマー鎖1本あたりの荷電基の数は、広い範囲で変化してもよい。
例えば、好適な高分子電解質のポリマー鎖は、電荷担体を担持するモノマーユニットだけでなく、電荷担体を持たないモノマーユニットを含んでもよい。
好適な高分子電解質は、好ましくは、1mg ml-1以上の溶解度を有している。
【0062】
一般的にコアセルベートは、溶解したポリイオンの対イオンを、ポリイオンとコアセルベートを形成する対イオンと交換することで作製される。
この種の作製工程は、水中の溶液中のポリイオンと、水中の溶液中の対応するコアセルベートを形成する対イオンとを混合するだけで達成される。
結果として得られたコアセルベートは、簡単な洗浄操作によって過剰な残留イオンから解放され、シロップ状から高粘度または粘弾性のあるボディとして分離することができる。
簡単な例では、ポリアクリル酸のナトリウム塩とCaCl2を混合する。
溶液中のCa2+イオンの濃度と、Ca2+/カルボン酸の比率が一定以上になると、相分離が起こり、液体で含水性のコアセルベートが分離される。
コアセルベートは、液体の状態で、連続的/マクロ的な相で採用することができる。
本発明のコアセルベートの特徴は、水の含有量が可変であることである。
溶液から分離したコアセルベートの相から、例えば固体が得られるまで水を除去することができる。
この水の除去は可逆的である。
その後、コアセルベートは、好ましくは粉末として粉砕された形で使用することができる。
粉末は、好ましくは、乾燥したコアセルベートの乾燥とその後の粉砕によって作製される。
乾燥は、例えば、250℃以下、好ましくは100℃以下、標準圧力下で60℃、減圧下で40℃の温度で行われるか、好ましくは凍結乾燥によって行われる。
粉砕は、先行技術に記載されている多種類の技術を用いて、乾式または湿式で、適切な液体媒体中で可能である。
さらなる可能性として、懸濁液またはエマルジョンの形での使用がある。
粉体、懸濁液またはエマルジョンは、以下では「微細に分割された形態」という用語を用いてまとめて言及されることがある。
【0063】
以下、簡略化のために、アニオン性高分子電解質をベースにしたコアセルベートをコアセルベートa)と呼び、カチオン性高分子電解質をベースにしたコアセルベートをコアセルベートb)と呼ぶ。
【0064】
コアセルベートの架橋性対イオンと水中で溶解度の低い化合物を形成することができるイオン(パートナーイオン)の水溶液をコアセルベートに接触させると、コアセルベートとの界面で溶解度の低い化合物がゆっくりと析出する。
【0065】
一実施形態では、含水コアセルベートは、ポリアクリル酸とCa2+イオンをベースにしている。
この実施形態では、パートナーイオンとしてリン酸塩を使用してもよい。
ミネラル化のために、この形態では、10mM~250mM、好ましくは130mMの濃度の(NH4)2HPO4を含む溶液が有利であることが証明されている。
本実施形態では、pHも同様に、ミネラル置換の形成に重要な影響を与える。
ミネラル置換の間、追加の緩衝剤を使用しなくても、pHは低下する。
例えばTRISのような緩衝剤の使用は、歯科材料の特性にとって有益である。
【0066】
別の実施形態では、含水コアセルベートは、ポリアリルアミンリン酸イオンをベースにしている。
この場合、パートナーイオンとしてCa2+イオンを用いてもよい。
ミネラル化のためには、10mM~250mM、より好ましくは130mMの濃度のCaCl2を含む溶液が有利であることが分かっている。
本実施形態においても、pHはミネラル置換の形成に決定的な影響を与える。
【0067】
一実施形態では、歯の表面をパートナーイオンを含む溶液に一定期間接触させる。
次いで、コアセルベートをこの表面に適用し、面的に(例えば、フィルムとして)適合させ、歯質の十分なミネラル化が行われるまでその場に留める。
任意の可能性として、この処理された表面に別のタイプのコアセルベートを適用することができる。
【0068】
この使用形態では、コアセルベートは一方では粘性のある液体として適用される。
歯の反対側の面では、コアセルベート層が早期に失われないように、所望の期間、アレンジメントを保護することができる。
別の使用方法としては、パートナーイオンで処理された歯の表面に、コアセルベートを細かく分割して適用することができる。
この場合、口腔内環境にはミネラル化プロセスに必要な十分な量の水が常に存在するため、パウダーとしての使用も可能である。
【0069】
別の実施形態では、コアセルベートはパートナーイオンの溶液と細かく分割された形で混合され、この形で治療すべき歯の表面に適用される。
ここでも、コアセルベート粒子の界面からミネラル置換が形成され、この粒子は歯質にも作用することができる。
【0070】
反対に帯電した高分子電解質をベースにしたコアセルベートの組み合わせは、第一に、これらの高分子電解質の高度に架橋された固体のインターポリマー複合体の形成につながり、これらの複合体は水に不溶である。
第二に、適切な対イオンを選択すると、ミネラル置換が起こる。
すなわち、材料が固化して無機固体が形成され、その前駆体がコアセルベートの形で出発成分の一部となるのである。
【0071】
原則として、コアセルベートa)およびb)を含む成分は、液体成分として互いに混合され、物質的に分離され、その後非常に急速に固体を形成してもよい。
使用時に水の存在下で混合される、細かく分割されたコアセルベートを使用することがより有利な場合がある。
このようなコアセルベートの組み合わせの作業時間と硬化時間は、粒子または微粒子のサイズ分布を選択することによって制御することができる。
また、コアセルベートを次々と層状に適用することも可能である。
【0072】
好ましい一実施形態では、コアセルベートa)およびb)を含む、微細に分割された成分は、水溶液の存在下で混合され、処理されるべき歯質に適用される。
そこでは、主に不溶性のインターポリマー複合体の形成の結果として、固化を受ける。
反応がさらに進行すると、ミネラル置換物形成イオンがコアセルベートから放出され、コアセルベート混合物への曝露の領域で、また歯科硬質の領域で、ミネラル置換物が形成される。
【0073】
コアセルベートa)とb)を含む、乾燥粉砕した成分を互いに混合して使用する一つの形態では、反応を可能にするために、歯質に使用する前に水または水溶液を混合する必要がある。
水または水溶液の混合は、歯質に使用する前に、例えば、手で混ぜる方法や、カプセルで混ぜるなどの自動化された方法で行われることが好ましい。
【0074】
粉体と水または水溶液は、好ましくは5:1~1:50、好ましくは2:1~1:10、より好ましくは2:1~1:2の間の重量比で混合される。
好ましい一実施形態では、コアセルベートa)およびb)は、粉体として、水または水溶液との重量比(a)およびb)の合計)が2:1~1:10、好ましくは2:1~1:1、より好ましくは3:2の間で混合される。
【0075】
また、個々の粉体または粉体混合物を湿った歯の表面に適用することも可能であり、そこで上記のような反応が起こる。
【0076】
これらの混合粉砕コアセルベートの好ましい態様の1つは、Ca-ポリアクリル酸コアセルベートとポリアリルアミン-リン酸コアセルベートとの混合物である。
この混合コアセルベートの場合、1:1の質量比が有利である。
5:3から3:5までの質量比も可能である。
任意に混合する水の量は、特定の用途で必要とされる目標混合濃度によって導かれる。
【0077】
別の実施形態では、完全に水と混ざり合う溶媒(例えば、グリセロール)中のコアセルベートa)およびb)を有する成分の乾燥粉末の混合物の非水性分散物が、使用前にさらなる水性成分と混合される。
この混合物は、その後、処理されるべき歯質に適用され、そこで硬化およびミネラル化プロセスが行われる。
【0078】
それぞれのケースでコアセルベートa)およびb)を含む成分の水性エマルションが、任意に水相中にさらなる可溶性のミネラル置換形成塩を含み、使用前に互いに混合されることが好ましいかもしれない。
この混合物は、処理されるべき歯質に適用され、ここで再び硬化およびミネラル化プロセスが行われる。
【0079】
歯科材料としてのコアセルベートまたは複数のコアセルベートの水性エマルションは、少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも5重量%のコアセルベートを含む。
【0080】
混合は、それぞれの場合において、手作業で行うこともできるし、自動混合方法を用いて行うこともできる。例えば、デュアルカートリッジから二液性材料を投入し、スタティックミキサーやダイナミックミキサーを用いて混合することもできる。
【0081】
歯の表面と歯科材料との間の早期の結合を得るために、1つの好ましい使用方法では、互いに混合されたコアセルベートa)およびb)の成分を適用する前に、処理されるべき歯科硬質を、ポリ酸もしくはポリ塩基またはそれらの塩の水溶液で処理する。
歯質の表面をポリアミドで処理した後、a)とb)の混合物を適用することが特に好ましい。
さらなる使用では、まずポリ酸の水溶液を歯質に適用し、次にポリ塩基の水溶液を適用し、最後にa)とb)の混合物を適用する。
本発明の歯科材料を適用する前にここで記載されているようにポリ酸またはポリ塩基を使用することは、本発明の歯科材料自体にそのようなポリ酸またはポリ塩基を同様に発明的に添加することとは区別されるべきである。
【0082】
本発明の歯科材料は、そのミネラル置換形成特性およびミネラル化特性のために、時間の経過とともに、歯科硬質とのより強い相互作用を発現し、従って、環境への暴露の結果としての結合に対する不安定化効果を打ち消す。
このような相互作用には、例えば、歯科材料と歯科硬質との間にミネラル置換ブリッジを構築することが含まれる。
【0083】
コアセルベートに含まれる移動性イオンの量は比較的多いので、歯科硬質に対するコアセルベートのミネラル化の可能性はそれに応じて高くなる。
コアセルベートに含まれる対イオンの組み合わせを選択することで、ミネラルの置換の性質やその化学的安定性に影響を与えることも可能である。
【0084】
本発明のさらなる課題は、本発明の再ミネラル化歯科材料を作製するためのキットであって、以下の構成要素を含むものである。
【0085】
少なくとも1つのコアセルベートを含み、そのコアセルベートの対イオンとしてパートナーイオンの1つを有する、第一成分;
【0086】
水を含む第二成分;
【0087】
ここで、パートナーイオンの第二のものは、第二成分における水溶液中の遊離イオンとして、および/または、2つの成分のうちの1つにおける第二コアセルベートの対イオンとして含まれている。
【0088】
好ましくは、成分の少なくとも1つは固体であり、より好ましくは粉末である。
【0089】
別の好ましい実施形態では、成分の少なくとも1つが液体であり、好ましくは23℃における動的粘度(dynamic viscosity)が10 mPas以上、より好ましくは50 mPas以上、非常に好ましくは100 mPas以上である。
【0090】
別の好ましい実施形態では、成分のうち少なくとも2つがペーストである。
【0091】
別の好ましい実施形態では、成分のうち少なくとも2つがゲルである。
【0092】
本発明においては、成分の少なくとも1つ、好ましくは成分の少なくとも2つが、23℃で7~9のpHを有することが好ましい。
【0093】
キットは好ましくは、好ましくは7未満のpHを有し、接着促進剤を含むさらなる成分cを含む。
接着促進剤は、好ましくは、少なくとも10%の範囲でプロトン化されたポリ酸またはポリアミンである。
本発明の歯科材料の適用の前にここで記載されているようにポリ酸またはポリアミンを使用することは、本発明の歯科材料自体へのこれらの材料を同様に発明的に添加することとは区別されるべきである。
本発明においては、このような成分が、一方では接着促進剤として、他方では歯科材料自体の構成要素として、二重の機能を有することも同様に可能である。
【0094】
好ましくは、成分aおよびbは、混合に適した装置、好ましくは粉末および/または液体を含む混合カプセル、および/または、混合針を通して成分を押し出すためのカートリッジシステムの一部としての、マルチコンパートメントカートリッジに格納され、好ましくは2つのペーストまたは2つのゲルを含む。
【0095】
好ましい一実施形態では、パートナーイオンの1つは多価であり、コアセルベートの対イオンとして含まれ、第二のパートナーイオンは水溶液に含まれる。
成分の少なくとも1つは、コアセルベートの高分子電解質とは異なる電荷を持つ第二の高分子電解質をさらに含む。
【0096】
本発明においては、成分aが、少なくとも1つのコアセルベートa)またはb)を含み、コアセルベートの高分子電解質とは異なる電荷を有し、コアセルベートの形態では存在しない少なくとも1つの高分子電解質を含むことが好ましい。
【0097】
本発明においては、成分aが、対イオンとして多価のアニオンを含む少なくとも1つのコアセルベートの粉末と、アニオン性高分子電解質の少なくとも1つの粉末を含むことが好ましい。
【0098】
本発明においては、成分aが、対イオンとして多価のカチオンを含む少なくとも1つのコアセルベートの粉末と、カチオン性高分子電解質の少なくとも1つの粉末を含むことが好ましい。
【0099】
本発明においては、成分aが、アルカリ土類金属イオン、好ましくはカルシウムイオンを対イオンとして含む少なくとも1つの第一コアセルベート粉体と、多価のアニオンをパートナーイオンとして含む少なくとも1つの第二コアセルベート粉体を含むことが好ましい。
【0100】
本発明のさらなる主題は、本発明のキットを使用する方法であって、以下のステップを有する:
i. 構成要素bを象牙質および/またはエナメル質に、好ましくは液体として適用すること、
ii. 構成要素aを構成要素bとともに象牙質に、および/または構成成分bとともにエナメル質に、好ましくは粉末、ペースト、ゲル、または粘性のある液体として適用すること。
【0101】
同様に、本発明の主題は、本発明のキットを使用する方法であって、以下のステップを有する;
i. 構成要素aと構成要素bを混合すること、
ii. 混合物を象牙質および/またはエナメル質に、好ましくはペーストまたはゲルとして適用すること。
【0102】
本発明のさらなる主題は、シーラント、コーティング、リライン材および/または充填材として、合着セメントとして、歯髄キャップ用として、骨セメントとして、歯科用ラッカーとして、亀裂シーラントとして、減感剤として、むし歯性病変の予防または治療における再ミネラル化剤としての、またはそのような材料の作製用の、本発明の歯科材料の使用である。
【0103】
本発明の実施例を以下に示す。
【0104】
方法
【0105】
乾燥時のロス
合成したばかりのコアセルベートを秤量した後、真空乾燥庫(Thermo Scientific Heraeus VT6025)で40℃、50 mbarの条件で少なくとも24時間保存し、初期の秤量質量と最終重量から乾燥減量を算出した。
【0106】
熱重量測定(TGA)
熱重量分析(TGA)は,空気中で25℃から1000℃まで、昇温速度10K/minで行った(STA 449FS Jupiter,Netzsch)。
評価されたパラメータは、250℃までの質量減少で、これは残留水分量に起因する(凍結乾燥粉末)。
【0107】
エネルギー分散型X線分光法(EDX)
元素の含有量は以下の装置を用いて測定した。
SEM/EDX; TM 3000 Tabletop SEM, Hitachi, and Quantax EDX detector, Bruker)
凍結乾燥した粉体を使用した。
【0108】
圧縮強度
試験片は、高さ4±0.02mm、直径2±0.01mmの6つの円筒形の穴を持つステンレススチール製の2つの部分から形成されている型を用いて製作した。
この型をガラス板の上に置き、歯科材料を穴の中に導入した。
穴が材料で充填されたら、穴の開口部を平らに削り取った。
試験片を型に入れ、37℃、相対湿度100%前後で1時間保存した。
その後、試験片をモールドと一緒に湿度室から取り出した。
金型を開き、高さ約4mm、直径約2mmの試験片を取り出し、Zwick社製の万能試験機(モデルZ 010 / TN2A)を用いて圧縮強度を測定した(1時間後の圧縮強度)。
4日後の圧縮強度を測定するために,脱型した試験片を再び37℃で100%の大気湿度の湿度室に4日間保存した。
その後、試験片を湿度室から取り出し、Zwick社の万能試験機を用いて圧縮強度を測定した。
定常前進速度:1.0mm/分
圧縮強度(CS)は以下の式で算出される。
CS [MPa] = F / (π r 2)
ここで、
Fは試験片にかかる最大の力で、単位はニュートンであり;
rは試験片の半径(ミリメートル)である。
測定はそれぞれ6個の試験片について行い、6個の測定値から平均値を求めた。
【0109】
剪断接着強さ
剪断接着強さ(SBS)を測定するために,歯髄を含まない牛の切歯を低温重合レジン(Viscovoss GTS with MEKP MEH hardener; Voss Chemie)に埋め込んだ。
使用直前に,埋没した歯をエナメル質または象牙質まで濡らして研磨し(P120サンドペーパー),さらに細かいサンドペーパー(P500)で濡らして再研磨した。
使用前の歯は脱塩水で保存した。
測定のために、歯を脱塩水から取り出した。
続いて,直径3.0mmの穴が開いた2分割のテフロン製モールド(ISO/TS 11405:2003)を装着し,金属製ブラケットで固定した後,歯科材料を充填した。
充填後,Hostaphanフィルムを貼り,スライドガラスを貼り,さらに金属ブラケットで固定した。
充填した型を37℃の湿度室で4日間保存した後,脱型した。
続いて,ISO10477:2004 に準拠したせん断装置および力-距離線図測定装置(Z010/TN2A, Zwick GmbH & Co. , Ulm, Germany)を用いて,0.5 mm/min の前進速度で試験片を測定した。
試験はそれぞれのケースで3つの試験片に対して行われた。
【0110】
動的粘度
粘度は、ダイナミックプレート/プレート粘度計(Dynamic Stress Rheometer, Rheometric Scientific Inc)を用いて23℃で測定した。
測定はSteady Stress Sweepモードで行い、ギャップサイズは0.1~0.5mm、せん断応力は0~50Paの範囲で行った。
【0111】
ミネラル化/X線回折法(XRD)
実施例6の歯科材料を薄層に硬化させた。
次いで、37℃の湿度室で5日間保存した。
乾燥した材料をモルタル化して、この形態でX線回折法(Bruker D8、Discover)により分析した。
【0112】
水溶液中のコアセルベートa)とパートナーイオンから(例9、10)
ミネラル化時間の終了後、混合物を遠心分離してデカンテーションし、1.75の超純水で3回洗浄した。
その後、洗浄した遠心分離残渣を37℃で乾燥させた。
乾燥させた製品をX線回折法(XRD)で調べたところ、いずれも粉体で、ミネラル相が確認できた。
実施例11および12では、ゲル体の内部からミネラル材料を取り出し、この状態でX線回折法(Bruker D8, Discover)により分析した。
【0113】
粒子径測定
粒子径分布を測定するために、凍結乾燥して粉砕したコアセルベート250mgを20mlのエタノールに超音波槽で5分間分散させた。
続いて,フラウンホーファー回折法による粒度分布測定装置(Laser Diffraction Particle Size Analyzer LS 13 320 with Universal Liquid Module, Beckmann Coulter)を用いて,不純物の入ったエタノール中で粒度を測定した。
【0114】
使用した化学物質は以下のとおりである。
- ポリアクリル酸ナトリウム塩溶液(NaPAA15、Mw=15kDa)、35wt.%溶液(Sigma Aldrich)
- ポリアクリル酸(PAA100、Mw=100kDa)、35wt.%溶液(Sigma Aldrich)
- ポリアリルアミン塩酸塩(PAH15、Mw=15kDa)、15wt%溶液(Polyscience)
- ポリアリルアミン塩酸塩粉末(Mw=17.5kDa、Sigma)
- クエン酸三ナトリウム四水和物(Sigma Aldrich)
- 塩化カルシウム二水和物(Roth)
- リン酸水素二アンモニウム(Sigma Aldrich)
- 塩化ストロンチウム(Roth)
- 水酸化ナトリウム(Merck)
- 塩酸(Merck)
- 超純水(MilliQ、Merck Millipore)
- ゼラチン(300 bloom、a type)
【0115】
ポリアクリル酸塩をベースにしたコアセルベートの合成(実施例1~4)
ポリアクリル酸ナトリウム塩水溶液に,塩化カルシウム水溶液または塩化ストロンチウム水溶液を、激しく攪拌しながらゆっくりと添加した。
添加中に相分離が見られた。
完全に添加した後、さらに5分間撹拌し、その後10分間静置して相分離を進めた。
形成された上澄み液を流し、残った相をそれぞれ400mlの超純水で3回洗浄した。
粘性のある液体が得られた。
塩酸や水酸化ナトリウムの溶液を用いてpHを調整した。
使用した溶液の量、濃度、およびpH値を表1に示す。
【0116】
【0117】
ポリアリルアミン塩酸塩をベースにしたコアセルベートの合成(実施例5)
ポリアリルアミン塩酸塩水溶液を(NH4)2HPO4水溶液と激しく撹拌しながらゆっくりと混合した。
添加中に相分離が見られた。
完全に添加した後、さらに5分間撹拌し、7700gで3分間遠心分離して相をさらに分離させた。
形成された上澄み液を流し、残った相をそれぞれ10mlの超純水で3回洗浄した。
粘性のある液体が得られた。
塩酸や水酸化ナトリウムの溶液を用いて、pHを調整した。
使用した溶液の量、濃度、およびpH値を表2に示す。
【0118】
【0119】
実施例1、4、5で得られた粘性液体の含水率/乾燥減量
粘性液体の含水率は、乾燥時の損失によって決定した。
乾燥減量は、表3aの水分量として報告されている。
【0120】
【0121】
実施例1、4、5で得られた粘性液体の凍結乾燥サンプルのイオン含有率
イオン含有率は、エネルギー分散型X線分光法(EDX)により元素含有率として求めた。
凍結乾燥した粘性ゲルの残留含水率は、熱重量測定(TGA)により測定した。
残留含水率と元素含有率を表3bに報告する。
【0122】
【0123】
コアセルベート粉体の作製
【0124】
コアセルベート・パウダー(P1)
例1の粘性のある液体から、凍結乾燥により水分を除去した。
得られた材料を振動ミル(Pulverisette 0、Fritsch)で7時間、次に乳鉢ミル(Pulverisette 2、Fritsch)で6時間、最後にボールミル(ボール分配:55×16mm、14×25mm、4×40mm)で18時間粉砕した。
得られた白色粉末の残留水分量をTGAで測定した。
残留水分量は8重量%であった。
粒子径分布はD10 =1.0μm、D50 =4.4μm
【0125】
コアセルベート・パウダー(P2)
実施例5の粘性のある液体から、凍結乾燥により水分を除去した。
得られた材料を振動ミル(Pulverisette 0、Fritsch)で7時間粉砕し、次にカプセルミキサー(1ml、ボール直径:3.15mm、Silamat、Ivoclar-Vivadent)で60秒粉砕し、最後にカプセルミキサー(1ml、ボール直径:0.1mm、Silamat、Ivoclar-Vivadent)で60秒粉砕した。
得られた白色粉末の残留水分量をTGAで測定した。
残留水分量は8重量%であった。
粒子径分布:D10 =2.4μmおよびD50 =24.6μm
【0126】
ポリアリルアミン塩酸塩粉末(P3)
この粉末は、第二の、カチオン性高分子電解質であり、本発明に従って、アニオン性高分子電解質を含むコアセルベートと一緒に使用することができ、既に上述され、実施例で示された方法で深部のミネラル化を促進する。
【0127】
例6
コアセルベート粉末P1およびP2からの自己接着性・自己硬化性歯科材料の作製
歯科材料を作製するために、150mgの粉末P1を150mgの粉末P2と混合した。
この粉末混合物と、さらに0.2mlの水とを、互いに別々に混合カプセル(Applicap、DMG Hamburg)に導入した。
粉末と液体を振動ミキサー(Silamat,Ivoclar Vivadent AG)を用いて20秒間混合し,すぐに使用できる(ready-to-use)処理材を得た。
混合後すぐに、得られた処理材を混合カプセルの針を介して混合カプセルから送出し、処理を行った。
【0128】
例7
コアセルベート粉末からの自己接着性・自己硬化性歯科材料の作製 P1
300mgの粉末P1と0.2mlの(NH4)2HPO4溶液(130mM、pH9)をトレイの上でヘラを使って手動で約30秒間混合し、すぐに使用できる(ready-to-use)処理材を作った。
【0129】
例8
コアセルベート粉末からの自己接着性・自己硬化性歯科材料の作製 P1
300mgの粉砕された粉末P1と、pH9に調整された130mM(NH4)2HPO4および100mMクエン酸ナトリウム溶液の0.2mlとを、約30秒間手動で混合して、すぐに使用できる(ready-to-use)処理材を作った。
実施例7と比較して、この材料はかなり早く硬化した。
【0130】
例9
40mgの粉砕した粉末P1 と、pH9に調整した130mM(NH4 )2HPO4溶液1.75mlを、2mlの反応容器(エッペンドルフチューブ)の中で、ヘラを使って約30秒間手動で混合し、簡単に振った後、それぞれ室温で5分間、24時間水平に保存した。
【0131】
例10
40mgのコアセルベート粉末P1を、2mlの反応容器(エッペンドルフチューブ)に入れた130mM(NH4 )2HPO4と100nMクエン酸ナトリウムを含む水溶液(実施例8と同様)1.75mlと混合し、短時間振った後、それぞれ室温で5分と24時間水平に保存した。
【0132】
キャラクタリゼーション
実施例6~8の歯科材料について、圧縮強度を測定した。
その圧縮強度を表4に報告する。
【0133】
圧縮強度は、実施例7の材料で最も高かった。
すべての歯科材料において、圧縮強度は加工後1時間よりも4日後の方が高かった。
【0134】
剪断接着強さ(SBS)
実施例6~8について、せん断接着強度を測定した。
歯科材料は自己接着性である。
試験片では、せん断除去される前に試験片の割れや変形が発生した。
【0135】
ミネラル化
実施例6、9および10の混合物のミネラル化は、XRDを用いて調べた。
検出されたミネラル相は、表5に報告されている。
【0136】
【0137】
使用例
【0138】
モデル物質の作製
以下の使用例のために、まず脱ミネラル化象牙質のモデル物質を作製した。
各モデル物質は、常温で固体のゲルからなる。
【0139】
40℃で、10gのゼラチン(A type, 300 bloom)を、130mMリン酸水素二アンモニウムおよび100mMクエン酸三ナトリウム四水和物を含むpH9の水溶液90mlに溶解した。
得られたゼラチン溶液を標準的な24ウェルのタイタープレートに導入し、室温まで冷却した。
室温に達してすぐに、固体のゲル体を、スパチュラを用いてタイタープレートから取り出し、水溶液中に保存した。
【0140】
モデル物質への歯科材料の適用
歯科材料は,いずれも模型物質の表面,すなわち円盤状ゲル体の上面に適用し、10mlの水溶液(130mMリン酸水素二アンモニウムと100mMクエン酸三ナトリウム四水和物を含む、pH 9)中で、歯科材料と模型物質が水溶液に覆われるように室温で保存するか、あるいは、大気湿度100%、室温のコンディショニングキャビネット内で保存した。
2日後、3日後、4日後、8日後、12日後にゲル体を取り出し、超純水で洗浄した.
次に、カミソリの刃を用いて円盤状のゲル体の断面を作製した。
その断面を光学的に観察して、モデル物質の表面下にミネラル化材料があるかどうか、および、この材料がモデル物質の中にどのくらいの深さまで達しているかを確認した。
【0141】
例11~13
実施例6と同様にして、自己接着性、自己硬化性の歯科材料を作製した。
この場合に使用した粉末/粉末混合物および液体は、以下の表6に示されている。
【0142】
使用される液体成分は、すでに実施例8でも使用されているように、(NH4)2HPO4とクエン酸ナトリウムを含む水溶液である。
【0143】
実施例12および13では、粉末混合物は、第二のカチオン性高分子電解質としての粉末P3を含み、これは、アニオン性高分子電解質を含むコアセルベート(粉末P1)とともに使用され、既に上述した方法で深部のミネラル化を促進する。
【0144】
歯科材料を作製するために、150mgのそれぞれの粉末/粉体混合物、および液体成分を、互いに別々に混合カプセル(Applicap、DMG Hamburg)に導入した。
粉末と液体を、振動ミキサー(Silamat、Ivoclar Vivadent AG)を用いて20秒間混合し、すぐに使用できる治療材料を形成した。
混合後すぐに、得られた治療材料を混合カプセルの針を介して混合カプセルから送出し、処理した。
【0145】
このようにして作製された歯科材料は、以下の使用例にしたがってモデル物質に適用され、ミネラル化が試験された。
【0146】
例11
上記表6の例11の歯科材料をモデル物質に適用し、水溶液中において、説明したように保存した。
【0147】
4日後には、軽い深部ミネラル化が見られるようになった。
12日後に観察された深部ミネラル化はまだわずかであった(Fig.1)。
ゼラチン中に形成されたミネラルは、深さ方向全体にカルシウム、炭素、リン、酸素が検出された(Fig.2)。
このミネラルはXRDによりヒドロキシルアパタイトと同定された(Fig.3)。
【0148】
例12
上記表6の例12の歯科材料をモデル物質に適用し、水溶液中で説明したように保存した。
【0149】
わずか3日後には、かなりの深部ミネラル化が観察される(Fig.4)。
ゼラチン表面に適用された歯科材料は、表面に結合し、安定しており、分解しない。
形成されたミネラルは、XRD測定によりヒドロキシルアパタイトと同定できる(Fig.5)。
また、ゼラチン中に形成されたミネラルは、EDX分析により、カルシウム、炭素、リン、酸素が検出できる(Fig.6)。
【0150】
例13
上記表6の例13の歯科材料をモデル物質に適用し、コンディショニングチャンバー内で、説明したように保存した。
【0151】
わずか2日後には、顕著な深部ミネラル化が見られた(Fig.7)。
この歯科材料は表面に結合し、安定しており、分解しない。
形成されたミネラルは、XRDによりヒドロキシルアパタイトと同定された。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【
図1】12日後の実施例11の断面における深部ミネラル化の写真。ゲル本体の凹状のカットエッジの下にミネラル化領域(乳白色)が見える。その下の少し離れたところにさらにミネラル材料の領域があることがわかる(淡い灰色)。
【
図2】実施例11のゼラチンに形成されたミネラルの12日後のSEM/EDX(断面図)。[Skalenbereich = スケールの範囲]
【
図3】実施例11で形成されたミネラルの12日後のXRD。
【
図4】実施例12の3日後の断面における深部ミネラル化の写真。
【
図5】実施例12の3日後において形成されたミネラルのXRD。
【
図6】実施例12のゼラチンに形成されたミネラルの3日後のSEM/EDX(断面図)。[Skalenbereich = スケールの範囲]。
【
図7】実施例13の2日後の断面における深部ミネラル化の写真。