(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】稼働時間計測方法
(51)【国際特許分類】
G07C 3/04 20060101AFI20250217BHJP
【FI】
G07C3/04
(21)【出願番号】P 2022005578
(22)【出願日】2022-01-18
【審査請求日】2024-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】出口 貴司
(72)【発明者】
【氏名】川口 大輔
【審査官】永安 真
(56)【参考文献】
【文献】特許第4246039(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G07C 3/00 - 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測部が作業機械の稼働時間を計測するステップと、
制御部が記憶部に記憶する記憶時間を前記稼働時間に基き算出するステップと、
を有し、
前記制御部は,前記前記稼働時間に補正時間を加算して計測時間を算出し、
前記計測時間に基づいて前記記憶時間を算出する、ことを特徴とする稼働時間計測方法。
【請求項2】
前記制御部は、前記計測時間と判定閾値とに基づいて前記記憶時間を算出する、ことを特徴とする請求項1に記載の稼働時間計測方法。
【請求項3】
前記制御部は、前記計測時間が前記判定閾値以上となるとき、前記判定閾値を前記記憶時間として算出する、ことを特徴とする請求項2に記載の稼働時間計測方法。
【請求項4】
前記判定閾値は、所定の値毎に複数設けられ、
前記制御部は、前記判定閾値を前記記憶時間として算出すると、前記判定閾値をより大きな値に遷移する、ことを特徴とする請求項3に記載の稼働時間計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稼働時間計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の作業機械では、従来より、稼働時間を計測するとともに、計測した稼働時間を記憶、表示することで機械のメンテナンスや部品交換等の目安時期の把握に活用していた。
【0003】
そして、特許文献1には、建設機械の稼働時間を計測する方法として、エンジンが稼動中であると判断されている間、タイマの時間情報を利用してエンジン稼動時間を計算し、日付及び時間と関連付けて記憶部に格納、蓄積する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の技術では、建設機械の動作期間中、計測した稼働時間の書き込み処理を所定周期で実行する。書き込み処理を周期的に実行するため、最後に書き込み処理を行った稼働時間から電源を落としたときの稼働時間が誤差として生じる。この誤差が増加すると、メンテナンス時期の把握等に支障をきたす恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、このような課題に鑑み、より正確に稼働時間を計測・記憶可能な稼働時間状態記憶措置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の稼働時間計測方法は、計測部が作業機械の稼働時間を計測するステップと、制御部が記憶部に記憶する記憶時間を前記稼働時間に基き算出するステップと、を有し、前記制御部は、前記前記稼働時間に補正時間を加算して計測時間を算出し、前記計測時間に基づいて前記記憶時間を算出する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、稼働時間の計測において、計測誤差が漸次的に拡大することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る稼働時間計測装置を示すブロック図である。
【
図2】表示部の表示画面(補正時間の設定画面)を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る稼働時間計測方法を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る稼働時間計測方法を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る動力装置の基本処理を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施形態に係る制御部の稼働時間計測処理を示すフローチャートである。
【
図9】変形例に係る稼働時間計測装置を示すブロック図である。
【
図10】変形例に係る稼働時間計測方法を示す図である。
【
図11】変形例に係る制御部の稼働時間計測処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る稼働時間計測装置(以下、単に「計測装置」という場合がある)は、本計測装置が搭載された作業機械の稼働時間を計測し、記憶する装置である。
なお、作業機械とは、例えば、建設機械や農業機械を含むものであり、建設機械としては、例えば、油圧ショベル、ホイールローダ、キャリア、クレーン、ブルドーザ等が挙げられ、農業機械としては、トラクタ、コンバイン、田植え機等が挙げられる。
また、以下の実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
また、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0011】
[1.稼働時間計測装置の構成]
まず、稼働時間計測装置の概略構成について、油圧ショベルに搭載された事例を参照して説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る稼働時間計測装置10の概略構成を示すブロック図である。
図1に示すように、稼働時間計測装置10は、作業機械1に搭載され、動力装置20および表示装置30と信号線61(図中、一点鎖線)により接続されている。これにより、計測装置10、動力装置20および表示装置30は相互間での信号通信が可能となっている。
また、計測装置10、動力装置20および表示装置30は、蓄電装置40とはキースイッチ50を介して、給電線62(図中、実線)により接続されている。これにより、計測装置10、動力装置20および表示装置30はそれぞれ、キースイッチ50の操作により、蓄電装置40から給電されている期間のみ動作可能となっている。
なお、
図1においては、作業装置、油圧装置および操作装置は便宜上、図示および詳細な説明を省略する。作業装置は、例えば、ブーム、アームおよびバケット等により構成され、掘削作業等に用いられる。油圧装置は、例えば、油圧ポンプ、油圧制御弁、油圧アクチュエータ等により構成され、作業装置への油圧動力の供給に用いられる。操作装置は、操作レバーや操作ペダルにより構成され、オペレータによる操作を受け付ける。
【0013】
(稼働時間計測装置10)
稼働時間計測装置10は、上述のとおり、搭載された作業機械1の稼働時間を計測するとともに、計測した稼働時間を記憶する機器である。計測装置10は、制御部11、記憶部12および計時部13を備える。この計測装置10は、作業機械1の全体を制御する制御装置と別体として設けることができ、一体として設けることも可能である。
【0014】
(制御部11)
制御部11は、例えば、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)により構成され、記憶部12の長期記憶領域に記憶されたプログラムを読み込み、計測装置10として機能し、後述により詳説する稼働時間計測処理(以下、「計測処理」という場合がある)を実行する。制御部11は、作業機械1を制御する制御装置と一体もしくは別体として設けられる。なお、作業機械1の制御装置には、後述する原動機制御部22が含まれる。
【0015】
(記憶部12)
記憶部12は、計測装置10の計測処理に関する所定の情報を記憶する記憶装置により構成される。記憶部12は、内部に長期記憶領域と一時記憶領域とを有する。長期記憶領域は、例えば、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリにより構成される。一時記憶領域は、例えば、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリにより構成される。計測処理に関する情報とは、例えば、作業機械1の稼働時間を含む情報である。長期記憶領域には、例えば、プログラム、稼働時間、判定値VJuおよび閾値時間Tthが記憶される。なお、稼働時間については以下詳説する。
【0016】
本実施形態の稼働時間は、計測処理の過程によって、「記憶時間(読出時間)Tme」、「補正時間Tcr」、「加算時間Tad」、「計測時間Tms」および「書込時間Tre」に区別される。
【0017】
「記憶時間Tme」は、作業機械1の累積稼働時間を示すものであり、計測処理において記憶部12の長期記憶領域に記憶されるとともに、表示装置30の表示部31等に表示されることでオペレータに提示される。また、作業機械1の始動時(後述する始動処理時)には、記憶部12の一時記憶領域に読み出され、計測時間Tmsの初期値を構成する。
【0018】
また、「補正時間Tcr」は、計測時間Tmsと書込時間Treの誤差を収縮するための補正値である。従来の稼働時間計測装置では、計測時間Tmsが所定時間に達したときに書き込み処理を行うため、書込み処理時とエンジン停止時が異なる場合には、計測時間Tmsの端数が切り捨てられるため、計測時間Tmsと書込時間Treに誤差が生じ、この誤差が書き込み処理の回数に応じて増大していた。計測時間Tmsと書込時間Treの誤差、および、補正時間Tcrと誤差との関係については後述により詳説する。補正時間Tcrは、記憶部12の長期記憶領域に記憶されており、稼働時間計測装置10の始動処理時に、記憶部12の一時記憶領域に読み出され、記憶時間Tmeとともに計測時間Tmsの初期値を構成する。
【0019】
また、「加算時間Tad」とは、計測処理において、作業機械1が実際に実稼働した時間を示す値として、計測時間Tmsに加算される時間である。この「加算時間Tad」として、例えば、計時部13のクロック周期が用いられる。クロック周期については後述により詳説する。
【0020】
また、「計測時間Tms」とは、作業機械1の1回の動作期間における稼働時間の累積値を示す時間であり、記憶時間Tme、補正時間Tcrおよび加算時間Tadにより構成される。
【0021】
また、「閾値時間Tth」とは、制御部11による書き込み判定処理に用いられる閾値であり、書込み処理が可能か否かを示す値である。この閾値時間Tthは、後述により詳説するが、一定値毎に複数設定されており、記憶時間Tmeとの関係でいずれかの値が選択される。
【0022】
また、「書込時間Tre」とは、稼働時間計測装置10による計測処理の結果として、記憶部12の長期記憶領域に記憶される稼働時間であり、書き込み判定処理に用いた閾値時間Tthを書込時間Treとして用いる。
【0023】
その他、記憶部12の長期記憶領域に記憶される情報として、例えば、判定値VJuがある。判定値VJuは、原動機21の動作状態の判定処理に用いられる閾値であり、例えば、500rpmである。稼働情報(エンジン回転数)が判定値VJu以上であるとき、原動機21が動作状態であることを示す。
【0024】
(計時部13)
計時部13は、クロック信号を生成し、当該クロック信号を所定周期(例えば、1S)毎に制御部11に入力する。なお、計時部13がクロック信号を制御部11に入力する周期時間をクロック周期と呼ぶ場合がある。また、クロック周期は、計測処理における加算時間として用いられる。
【0025】
(動力装置20)
動力装置20は、油圧装置を構成する油圧ポンプを駆動する動力源であり、動力装置20は、原動機21と原動機制御部22により構成されている。
【0026】
(原動機21)
原動機21は、本実施形態では一例として、ディーゼルエンジンにより構成されるが、ディーゼルエンジン以外のエンジンでもよく、電動モータ(電動機)、又はエンジンと電動モータ(電動機)とを含むハイブリッド式の動力源であってもよい。
【0027】
(原動機制御部22)
原動機制御部22は、制御部11と同様、例えば、電子制御ユニット(ECU)により構成され、原動機21の駆動を制御する。原動機制御部22は、例えば、キースイッチ50がオペレータによるエンジン始動操作を受け付けると、原動機21を始動させる。他方、原動機制御部22は、キースイッチ50がオペレータによるキーオフ操作を受け付けると、原動機21を停止させる。また、原動機制御部22は、検知部としての機能を有し、原動機21の稼働状態を示す稼働情報(例えば、エンジン回転数)を取得するとともに、稼働情報を、所定の通信周期(例えば、10s)で、信号線61を介して稼働時間計測装置10に出力する。
【0028】
(表示装置30)
表示装置30は、作業機械1の運転席に設けられ、作業機械1の各種情報を表示する表示部31と作業機械1の各種設定を行う操作部32とを備える。
【0029】
表示部31は、各種の情報を表示する液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイにより構成された、オペレータに情報を提示するユーザインターフェースである。本実施形態では一例として、表示部31は、バックライト付きのフルカラーの液晶ディスプレイであって、横方向に長い「横長」の表示領域を有している。なお、表示部31としては、タブレット端末やPC等のように、本機の外部で使用される端末も含まれる。
【0030】
図2を参照して、表示部31に表示される表示画面の一例を説明する。
図2は、表示部31の表示画面を示す図であり、補正時間T
crの値を設定する設定画面を示す図である。図示するように、表示部31は、表示画面のタイトルを示すタイトル表示領域31aと、設定内容を示す設定内容表示領域31b(31b
1~31b
8)と、オペレータにより操作可能な操作内容を表示する操作内容表示領域31c(31c
1~31c
6)を有する。
【0031】
操作部32は、表示部31に表示される表示画面に対するオペレータによる操作入力を受け付けるためのユーザインターフェースである。操作部32は、例えば、オペレータの操作に応じた電気信号を出力することにより、オペレータによる各種の操作を受け付ける。本実施形態では一例として、操作部32は、機械式の複数(ここでは6つ)の操作子を含む。これら複数の操作子は、図示を省略するが、表示部31の表示領域の周縁に沿うように、表示領域に近接して(例えば、下方に)配置されている。これら複数の操作子は、操作内容表示領域31c(31c1~31c6)の各項目に対応付けられており、複数の操作子のいずれかが操作されることにより、表示画面のいずれかの項目が操作(選択)される。
【0032】
また、操作部32は、タッチパネル及び操作ダイヤル等を含んでいてもよい。この場合においても、操作部32に対する操作により、表示画面のいずれかの項目が操作(選択)されることになる。
【0033】
(蓄電装置40)
蓄電装置40は、例えば、鉛蓄電池により構成され、計測装置10、動力装置20および表示装置30等に駆動電力を供給する。かかる構成を有する蓄電装置40は、キースイッチ50がキーオン状態になると、計測装置10、動力装置20および表示装置30に電力を供給する。他方、キースイッチ50がキーオフ状態になると、計測装置10、動力装置20および表示装置30への電力供給を停止する。
【0034】
(キースイッチ50)
キースイッチ50は、例えば、イグニッションスイッチにより構成され、キーポジションにより、作業機械1の作動状態が、計測装置10等に電力を供給しないキーオフ状態、計測装置10等に電力を供給するキーオン状態、および、計測装置10等への電力供給に加え原動機21を始動させるエンジン始動状態のいずれかに遷移可能となっている。
【0035】
[2.稼働時間計測装置10の制御処理]
次に、上述した稼働時間計測装置10における制御処理について説明する。
【0036】
図3~
図6を参照して、稼働時間計測装置10による計測処理の方法について説明する。なお、本実施形態における作業機械1は、予め60s稼働した後の状態であるものとする。
【0037】
計測装置10は、計測処理として、「1.始動処理」、「2.稼働情報取得処理」、「3.稼働状態の判定処理」、「4.稼働時間の加算処理」、「5.計測時間の算出処理」、「6.書込み判定処理」、「7.書込み処理」を実行する。各制御処理の内容について以下具体的に説明する。
【0038】
(1.始動処理)
まず、作業機械1では、キースイッチ50がオペレータの操作によりキーオン状態となると、制御部11は計測装置10として始動処理を実行する。具体的には、制御部11は記憶部12の長期記憶領域に記憶された稼働時間(記憶時間Tme)を一時記憶領域に読み出す(読出処理)。また、制御部11は、記憶時間Tmeに、記憶部12の長期記憶領域から読み出した補正時間Tcrを加算する(補正処理)。このように、制御部11は、読出し処理と補正処理からなる始動処理により、計測処理に用いる初期値を設定する。
【0039】
なお、本実施形態においては、補正処理を始動処理の一部として実行したが、これには限定されず、始動後キーオフまでのいずれかの書込み処理のタイミングで補正処理を実行してもよい。
【0040】
(2.稼働情報取得処理)
制御部11は、原動機21の稼働情報としてエンジン回転数を示す情報を、動力装置20の原動機制御部22から取得する。なお、制御部11は、上述した原動機制御部22の通信周期に従い、稼働情報を取得する。
【0041】
(3.稼働状態の判定処理)
制御部11は、原動機21の稼働情報に基づいて原動機21の稼働状態を判定する。具体的には、制御部11は、取得した稼働情報(エンジン回転数)が、記憶部12の長期記憶領域に記憶された判定値VJu以上であるか否かを判定する。制御部11は、稼働情報が判定値VJu(500rpm)以上であると判定すると、原動機21が動作状態であると判定する。他方、制御部11は、稼働情報が判定値VJu以上でないと判定すると、原動機21が動作状態でないと判定する。なお、制御部11は稼働状態の判定処理をクロック周期に従い実行する。なお、本実施形態では、クロック周期は原動機制御部22の通信周期よりも短いため、制御部11は、新たに稼働情報を取得するまでは、直前の稼働情報に基づいて稼働状態の判定処理を実行する。以下、クロック周期毎の制御処理も同様とする。
【0042】
(4.稼働時間の加算処理)
制御部11は、上記判定処理において、原動機21が動作状態であると判定すると、計時部13のクロック周期(1s)を加算時間として、記憶部12の一時記憶領域に読み出された記憶時間Tmeおよび補正時間Tcr(計測時間Tms)に加算する。なお、作業機械1の1回の動作期間中における加算時間Tadの累積値を実稼働時間Tacと示す場合がある。
【0043】
(5.計測時間の算出処理)
制御部11は、計測時間の算出処理において、記憶時間T
me、補正時間T
crおよび実稼働時間T
ac(加算時間の累積値)を用いて計測時間T
msを算出する。
図3に示す例では、記憶時間T
meが60sであり、補正時間T
crが30sであり、実稼働時間T
acが110sであるため、計測時間T
msは200sとなる。
【0044】
(6.書込み判定処理)
制御部11は、書込み判定処理において、計測時間T
msと閾値時間T
thとに基づいて、計測した稼働時間を記憶部12の長期記憶領域に書き込むか否かを判定する。閾値時間T
thとは、計測時間T
msが書き込み可能か否かを判定する判定値である。この閾値時間T
thは、一定の値毎に複数設定されており、記憶時間T
meとの関係でいずれかの値が選択される。
図3に示す例では、複数の閾値時間T
thが60s毎に設定されており(T
th1=60s,T
th2=120s,T
th3=180s,T
th4=240s,T
th5=300s,T
th6=360s)、計測処理時における記憶時間T
meが120sであれば、閾値時間T
thは閾値時間T
th3(180s)となる。同図の例で、制御部11は、計測時間T
ms(200s)が閾値時間T
th3(180s)以上であると判定し、書込み可能であると判定する。他方、制御部11は、計測時間T
msが閾値時間T
th以上でないと判定すると、書込み可能でないと判定する。
【0045】
(7.書込み処理)
制御部11は、書込み可能であると判定すると、閾値時間T
thを書込時間T
reとして記憶部12の長期記憶領域に記憶する書込み処理を実行する。また、制御部11は、書き込み処理を実行すると、閾値時間T
thを遷移する。
図3の例では、制御部11は、閾値時間T
th3(180s)を書込時間T
reとして書込み処理を実行し、その後、閾値時間T
thを閾値時間T
th3(180s)から閾値時間T
th4(240s)に遷移する。
【0046】
制御部11は、キースイッチ50がオペレータによる停止操作(キーオフ操作)を受け付けるまで、上述した計測処理をクロック周期(1s)毎に繰り返し実行する。
【0047】
キースイッチ50がオペレータの操作(キーオフ操作)を受け付けると、制御部11は、計測処理を停止し、長期記憶領域に最後に記憶された稼働時間(180s)が記憶時間Tmeとなる。
【0048】
上述のとおり、本実施形態の稼働時間計測装置10では、実稼働時間Tacに補正時間Tcrを加算することで、書込み処理毎に生じる計測誤差の拡大を一定の確率で縮小することが可能になる。
【0049】
ここで、作業機械の稼働時のみ稼働時間を計測・記憶可能な稼働時間計測装置では、一般的には、
図4、
図5に示すように、書込み処理時に切り捨てられた端数が計測誤差となり、この計測誤差は書込み処理毎に拡大する。具体的には、
図4に示すように、ある計測では、実際の稼働時間(90s)と計測稼働時間(60s)の差分(30s)が計測誤差となる。次の計測では、
図5に示すように、実際の稼働時間(200s)と計測時間T
ms(120s)の差分(80s)が計測誤差となる。このように、計測回数に応じて、計測誤差が30sから80sへと拡大する。そして、計測誤差が許容値以上となるとオペレータへの稼働時間の提示に際して支障をきたすこととなる。
【0050】
他方、本実施の形態の稼働時間計測装置10では、補正時間T
crを加味しているため、
図6に示すように、正の誤差領域と負の誤差領域が生じ得るため、誤差の発生が、正の誤差と負の誤差のいずれか一方に偏る場合を除き、正の誤差と負の誤差が相殺し、誤差が一方的に大きくなることが防止される。これにより、計測誤差が許容値以上となることが一定の確率で防止される。
【0051】
また、本実施形態の稼働時間計測装置10では、補正時間Tcrを、閾値時間Tthの半分の値としている。具体的には、補正時間Tcrを閾値時間Tth(例えば、閾値時間Tth1(60s)と閾値時間Tth2(120s)の差分)の半分の値としている。これにより、正の誤差が生じる確率と、負の誤差が生じる確率が同等となり、誤差の発生が、正の誤差と負の誤差のいずれかに偏ることを防止している。
このように、本実施形態の稼働時間計測装置10では、計測誤差が、オペレータへの稼働時間の提示に際して支障をきたす程度に大きくなることを防止される。
【0052】
(8.設定処理)
次に、作業機械1の始動処理時に記憶時間T
meに加算される補正時間T
crを設定する処理について、
図2を参照して説明する。オペレータによるキーオン操作により表示装置30を起動させた後、操作部32の操作により表示部31に表示設定画面が表示される(
図2)。表示設定画面では、設定内容表示領域31b(31b
1~31b
8)に設定内容を表示されており、オペレータは、操作部32により、操作内容表示領域31c(31c
1~31c
6)に応じた操作が可能となっている。
図2の例では、補正時間T
crとして「30sec」が選択されており、この状態で、「決定(31c
6)」に対応する操作子を操作することで、補正時間T
crを「30sec」に設定することができる。このように、設定処理において補正時間T
crの値を変更することができるため、閾値時間T
thと補正時間T
crとの割合を変更することができる。これにより、稼働時間の計測実績に基づく補正時間T
crの設定が可能となり、上述した誤差1と誤差2が相殺できる確率を向上させることができる。
【0053】
[3.稼働時間計測装置10の制御処理フロー]
次に、上述した構成を有する稼働時間計測装置10の制御処理の流れについて、一例を挙げて説明する。
【0054】
(原動機制御部22の処理)
図7は、動力装置20の基本処理の流れを示すフローチャートである。図示のとおり、キースイッチ50がオペレータの操作を受け付けると、原動機制御部22は、作業機械1の作動状態がエンジン始動状態であると判定し、原動機21の起動処理を実行する(ステップS101)。この処理が完了すると、ステップS102に処理を移行する。
【0055】
次に、ステップS102において、原動機制御部22は稼働情報の取得処理を実行し、原動機21の稼働情報としてエンジン回転数の情報を取得する。この処理が完了すると、ステップS103に処理を移行する。
【0056】
次に、ステップS103において、原動機制御部22は、稼働情報の出力処理を実行する。この処理において、原動機制御部22は、原動機21の稼働情報を、制御部11に出力する。この処理が完了すると、ステップS104に処理を移行する。
【0057】
次に、ステップS104において、原動機制御部22は、作業機械1の作動状態の判定処理を実行する。この処理において、原動機制御部22は、キーオフ状態であると判定すると(S105:Yes)、一連の処理を終了する。他方、原動機制御部22は、キーオフ状態でないと判定すると(S105:No)、ステップS103に処理を移行する。
【0058】
このように、動力装置20では、エンジン始動状態になるとキーオフ状態になるまで、原動機制御部22は原動機21を始動するとともに稼働情報を取得し、この稼働情報を通信周期で制御部11に出力する。
【0059】
(制御部11の処理)
次に、稼働時間計測装置10の制御部11が実行する計測処理の流れについて、
図8を参照して説明する。
図8は制御部11の計測処理の流れを示すフローチャートである。
【0060】
図示のとおり、キースイッチ50がオペレータのキーオン操作を受け付けると、制御部11が起動し、始動処理における読出処理を実行する(ステップS201)。この読出処理では、制御部11は記憶部12の長期記憶領域に記憶された稼働時間(記憶時間Tme)を、一時記憶領域に読出す。この処理が完了すると、ステップS202に処理を移行する。
【0061】
次に、ステップS202において、制御部11は、始動処理における補正処理を実行する。この補正処理では、制御部11は、一時記憶領域に読出した記憶時間Tmeに、長期記憶領域から読み出した補正時間Tcrを加算する。読出処理および補正処理により始動処理が完了する。この処理が完了すると、ステップS203に処理を移行する。
【0062】
次に、ステップS203において、制御部11は、稼働情報の取得処理を実行する。この処理において、制御部11は、原動機制御部22が出力した稼働情報を取得する。この処理が完了するとステップS204に処理を移行する。
【0063】
次に、ステップS204において、制御部11は、稼働状態の判定処理を実行する。この処理において、制御部11は、原動機21の稼働情報(エンジン回転数)が判定値VJu以上であるか否かを判定する。
【0064】
制御部11は、原動機21の稼働情報が判定値VJu以上であると判定すると(S205:Yes)、原動機21は稼働状態にあると判定し、ステップS206に処理を移行する。他方、制御部11は、原動機21の稼働情報が判定値VJu以上でないと判定すると(S205:No)、原動機21は稼働状態にないと判定し、ステップS203に処理を移行する。
【0065】
次に、ステップS206において、制御部11は、稼働時間の加算処理を実行する。この処理において、制御部11は、記憶時間Tmeおよび補正時間Tcrに加算時間Tad(クロック周期)を加算する。この処理が完了すると、ステップS207に処理を移行する。
【0066】
次に、ステップS207において、制御部11は、書込み判定処理を実行する。この処理において、制御部11は、計測時間Tms(記憶時間Tme、補正時間Tcrおよび加算時間Tadの合計)が閾値時間Tth以上であるか否かを判定する。制御部11は、計測時間Tmsが閾値時間Tth以上であると判定すると(S208:Yes)、ステップS209に処理を移行する。他方、制御部11は、計測時間Tmsが閾値時間Tth以上でないと判定すると(S208:No)、ステップS203に処理を移行する。
【0067】
次に、ステップS209において、制御部11は、書込み処理を実行する。この処理において、制御部11は、閾値時間Tthを書込時間Treとして記憶部12の長期記憶領域に書き込む。なお、制御部11は書込み処理後、上述のとおり閾値時間Tthを遷移する。この処理が完了すると、ステップS210に処理を移行する。
【0068】
次に、ステップS210において、制御部11は、作業機械1の作動状態の判定処理を判定する。制御部11は、キーオフ状態であると判定すると(S211:Yes)、一連の処理を終了する。他方、制御部11は、キーオフ状態でないと判定すると(S211:No)、ステップS203に処理を移行する。
【0069】
このように、稼働時間計測装置10では、エンジン始動状態になるとキーオフ状態になるまで、制御部11は、作業機械1が稼動している期間、クロック周期毎に、計測処理を実行するとともに、計測時間Tmsが閾値時間Tth以上となったことを契機に書込み処理を実行する。
【0070】
[変形例1]
次に、本実施形態に係る稼働時間計測装置の変形例について説明する。
本変形例に係る稼働時間計測装置10aは、
図9に示すように、上述した計測装置10とは一部の構成が共通するため、相違する構成についてのみ説明し、共通する構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0071】
制御装部11aは、上述した制御部11と同様に、例えば、電子制御ユニット(ECU)により構成され、記憶部12の長期記憶領域に記憶されたプログラムを読み込み、計測装置10aとして機能し、計測処理を実行する。
【0072】
記憶部12aは、上述した記憶部12と同様に、計測装置10aの計測処理に関する所定の情報を記憶する記憶装置により構成される。記憶部12aは、内部に長期記憶領域と一時記憶領域とを有する。長期記憶領域とは、例えば、ROM等の不揮発性メモリにより構成される。一時記憶領域とは、例えば、RAM等の揮発性メモリにより構成される。記憶部12aの長期記憶領域に記憶される情報は、記憶部12に記憶される、プログラム、稼働時間、判定値VJuおよび閾値時間Tthに加え、制御部11により実行された書込み処理の回数を示すカウンタが記憶される。
【0073】
次に、稼働時間計測装置10aの制御処理について説明する。
制御部11aは、計測処理として、制御部11と同様の制御処理を実行するが、「1.始動処理」、「2.稼働情報取得処理」、「3.稼働状態の判定処理」、「4.稼働時間の加算処理」および「5.計測時間T
msの算出処理」は、上述した制御部11による制御処理と共通するため、上述した制御処理と相違する「6.書込み判定処理」および「7.書込み処理」について
図10を参照して以下説明する。
図10は変形例に係る計測装置10aの制御処理を示す図であり、
図3に示す計測装置10の制御処理に対応する図である。
【0074】
図10に示すように、計測装置10aでは、閾値時間T
thとして固定値(例えば、60s)が定められており、計測時間T
msが閾値時間T
th以上となったときに、書込み処理が実行される。書込み処理が終了すると、計測時間T
msはリセットされるとともに、書込み処理の回数を示すカウンタの値が1加算される。
図10の例では、計測時間T
msが20sであり、カウンタが4であることから、それまでに書込み処理が4回実行され、最後の書込み処理から20s経過した状態が示されている。
【0075】
次に、稼働時間計測装置10aの制御処理の流れについて、一例を挙げて説明する。なお、原動機制御部22の処理は、上述した
図7の説明と共通するため省略する。
図11は制御部11aの計測処理の流れを示すフローチャートである。
【0076】
図示のとおり、キースイッチ50がオペレータのキーオン操作を受け付けると、制御部11aが起動し、始動処理における読出処理を実行する(ステップS201)。この処理が完了すると、ステップS202に処理を移行する。
【0077】
次に、ステップS202において、制御部11aは、始動処理における補正処理を実行する。この処理が完了すると、ステップS203に処理を移行する。
【0078】
次に、ステップS203において、制御部11aは、稼働情報の取得処理を実行する。この処理が完了するとステップS204に処理を移行する。
【0079】
次に、ステップS204において、制御部11aは、稼働状態の判定処理を実行する。
制御部11aは、原動機21の稼働情報が判定値VJu以上であると判定すると(S205:Yes)、ステップS206に処理を移行する。他方、制御部11aは、原動機21の稼働情報が判定値VJu以上でないと判定すると(S205:No)、ステップS203に処理を移行する。
【0080】
次に、ステップS206において、制御部11aは、稼働時間の加算処理を実行する。この処理が完了すると、ステップS221に処理を移行する。
【0081】
次に、ステップS221において、制御部11aは、書込み判定処理を実行する。この処理において、制御部11aは、計測時間T
msが閾値時間T
th以上であるか否かを判定する。制御部11aは、計測時間T
msが閾値時間T
th以上であると判定すると(S222:Yes)、ステップS223に処理を移行する。他方、制御部11aは、計測時間T
msが閾値時間T
th以上でないと判定すると(S222:No)、ステップS203に処理を移行する。なお、
図10に示す例では、計測時間T
ms(20s)が閾値時間T
th(60s)であるため、制御部11aは、計測時間T
msが閾値時間T
th以上でないと判定する。
【0082】
次に、ステップS223において、制御部11aは、書込み処理を実行する。この処理において、制御部11aは、閾値時間Tthを書込時間Treとして記憶部12aの長期記憶領域に書き込む。また、制御部11aは、書込時間Treを記憶部12aに書き込んだ後、計測時間Tmsを消去する。そのため、計測時間Tmsは0sとなる。この処理が完了すると、ステップS224に処理を移行する。
【0083】
次に、ステップS224において、制御部11aは、カウント処理を実行する。この処理において、制御部11aは、記憶部12aの長期記
憶領域に記憶されたカウンタの値に1を加算する。この処理が完了すると、ステップS210に処理を移行する。
【0084】
次に、ステップS210において、制御部11aは、作業機械1の作動状態の判定処理を判定する。制御部11aは、キーオフ状態であると判定すると(S211:Yes)、一連の処理を終了する。他方、制御部11aは、キーオフ状態でないと判定すると(S211:No)、ステップS203に処理を移行する。
【0085】
このように、稼働時間計測装置10aでは、エンジン始動状態になるとキーオフ状態になるまで、制御部11aは、クロック周期で計測処理を実行するとともに、計測時間Tmsが閾値時間Tth以上となったことを契機に書込み処理を実行する。
【0086】
以上説明したように、稼働時間計測装置10aによれば、上述した計測装置10と同様に、計測処理を実行することができる。計測装置10aでは、特に、記憶部12aが書込み処理の回数を示すカウンタを記憶するとともに、制御部11aが書込み処理毎にカウント処理を実行することで、カウンタにより書き込み回数を容易に把握できる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、作業機械の稼働時間を計測し、記憶することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 作業機械(油圧ショベル)
10,10a 稼働時間計測装置
11,11a 制御部
12 記憶部
13 計時部
20 動力装置
21 原動機(エンジン)
22 原動機制御部
30 表示装置
31 表示部
32 操作部
40 蓄電装置(バッテリ)
50 キースイッチ
61 信号線
62 給電線
Tac 実稼働時間(計測時間)
Tad 加算時間
Tcr 補正時間
Tme 記憶時間(読出時間)
Tms 計測時間
Tre 書込時間
Tth 閾値時間
VJu 判定値