(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】RFIDタグ、採血管、及びアンテナ
(51)【国際特許分類】
G06K 19/077 20060101AFI20250218BHJP
H01Q 1/38 20060101ALI20250218BHJP
H01Q 7/00 20060101ALI20250218BHJP
G01N 35/02 20060101ALI20250218BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
G06K19/077 224
G06K19/077 248
G06K19/077 260
H01Q1/38
H01Q7/00
G01N35/02 C
G01N1/10 V
(21)【出願番号】P 2020197057
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 卓朗
(72)【発明者】
【氏名】エリナ ビスタ
(72)【発明者】
【氏名】井川 太郎
【審査官】豊田 真弓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/077996(WO,A1)
【文献】特表2010-525465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
H01Q 1/38
H01Q 7/00
G01N 35/02
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を入れる容器に貼付するRFIDタグであって、
識別情報が記録されるICチップと、
前記ICチップに接続されるループ状の導電体で形成されるアンテナと、を備え、
前記アンテナは、前記導電体が形成されていないT字型の開口部を有
し、
前記アンテナの外形は矩形であり、
前記ICチップは、前記矩形の一片の中央部分に電気的に接続され、
前記開口部は、
前記一片と平行な方向に延伸する第1の開口部と、
前記第1の開口部の中央部分に連結され、前記一片と直行し、かつ前記一片とは反対の方向に延伸する第2の開口部と、
を含む、
RFIDタグ。
【請求項2】
前記開口部の面積によって、前記アンテナの共振周波数を調整する、請求項
1に記載のRFIDタグ。
【請求項3】
前記開口部のT字型の形状により、前記アンテナのインピーダンスを調整する、請求項1
又は2に記載のRFIDタグ。
【請求項4】
前記開口部のT字型の形状により、前記容器に液体が入っているときの前記アンテナのインピーダンスを調整する、請求項
3に記載のRFIDタグ。
【請求項5】
前記RFIDタグが通信に使用する周波数は、920MHz帯(860MHz~960MHz)を含む、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載のRFIDタグ。
【請求項6】
前記容器は、血液を入れる採血管である、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載のRFIDタグ。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載のRFIDタグを貼付した、採血管。
【請求項8】
液体を入れる容器に貼付するRFIDタグに用いられるアンテナであって、
ループ状の導電体で形成され、
前記ループ状の導電体は、前記導電体が形成されていないT字型の開口部を有
し、
前記アンテナの外形は矩形であり、
識別情報が記録されるICチップが、前記矩形の一片の中央部分に電気的に接続され、
前記開口部は、
前記一片と平行な方向に延伸する第1の開口部と、
前記第1の開口部の中央部分に連結され、前記一片と直行し、かつ前記一片とは反対の方向に延伸する第2の開口部と、
を含む、
アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFID(Radio Frequency Identification)タグ、採血管、及びアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
物流管理や商品管理のために、被着体に貼付されるRFIDラベルが普及している。RFIDラベルは、RFIDタグを有するラベルである。RFIDタグは、ICチップとICチップに電気的に接続されるアンテナとを備える。RFIDタグは、無線タグ、ICタグ、RF-IDタグ、RFタグと呼ばれることもある。
【0003】
また、RFIDタグ用のアンテナとして、ICチップが接続された給電端子と、給電端子に接続されたループアンテナと、ループアンテナのループをパイバスするパイバス導電線を有して構成されるアンテナが知られている(たとえば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-19905号公報
【文献】国際公開第2006/077645号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2には、ICチップの内部のキャパシタンス成分と、アンテナが備えるバイパス導電線のインダクタンス成分とを共振させることにより、RFIDタグが無線通信を行う周波数帯で良好な通信距離が得られることが示されている。
【0006】
しかし、例えば、血液検査の際等に用いられる採血管等の液体を入れる容器に貼付するRFIDタグでは、容器に液体を入れるとアンテナのインピーダンス特性が変化してしまい、通信距離が短くなってしまうという問題がある。
【0007】
本発明の一実施形態は、上記の問題に鑑みてなされたものであって、液体を入れる容器に貼付するRFIDタグにおいて、液体の有無によらずに、良好な通信距離が得られるRFIDタグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の一実施形態に係るRFIDタグは、液体を入れる容器に貼付するRFIDタグであって、識別情報が記録されるICチップと、前記ICチップに接続されるループ状の導電体で形成されるアンテナと、を備え、前記アンテナは、前記導電体が形成されていないT字型の開口部を有し、前記アンテナの外形は矩形であり、前記ICチップは、前記矩形の一片の中央部分に電気的に接続され、前記開口部は、前記一片と平行な方向に延伸する第1の開口部と、前記第1の開口部の中央部分に連結され、前記一片と直行し、かつ前記一片とは反対の方向に延伸する第2の開口部と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、液体を入れる容器に貼付するRFIDタグにおいて、液体の有無によらずに、良好な通信距離が得られるRFIDタグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るRFIDタグが貼付される採血管の外観の例を示す図である。
【
図2】一実施形態に係るRFIDタグのアンテナの構成例を示す図である。
【
図3】一実施形態に係るアンテナの形状を示す図である。
【
図4】一実施形態に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
【
図5】比較例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
【
図6】比較例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
【
図7】第1の変形例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
【
図8】第1の変形例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
【
図9】第2の変形例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
【
図10】第2の変形例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
【
図11】第3の変形例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
【
図12】第3の変形例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
【
図13】第4の変形例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
【
図14】第4の変形例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
【
図15】第5の変形例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
【
図16】第5の変形例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
【
図17】第6の変形例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
【
図18】第6の変形例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
【
図19】一実施形態に係る採血管の配列パターンの例を示す図である。
【
図20】一実施形態に係るRFIDタグの評価結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す説明では、各図において共通する部分について、同一の符号を付して説明を省略する場合がある。また、理解を容易にするため、各図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。なお、各形態において、平行、直交、水平、垂直、上下、左右などの方向には、本発明の効果を損なわない程度のずれが許容される。また、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向を含む。X軸方向とY軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。XY平面、YZ平面、ZX平面は、それぞれ、X軸方向及びY軸方向に平行な仮想平面、Y軸方向及びZ軸方向に平行な仮想平面、Z軸方向及びX軸方向に平行な仮想平面を含む。X軸方向のうち、矢印で示す方向はプラスX軸方向とし、当該方向とは逆の方向はマイナスX軸方向とする。Y軸方向のうち、矢印で示す方向はプラスY軸方向とし、当該方向とは逆の方向はマイナスY軸方向とする。Z軸方向のうち、矢印で示す方向はプラスZ軸方向とし、当該方向とは逆の方向はマイナスZ軸方向とする。
【0012】
<採血管の外観>
図1は、一実施形態に係るRFIDタグが貼付される採血管の外観の例を示す図である。
図1の例では、液体を入れる容器の一例として採血管10の外観を示している。採血管10は、外周部の所定の貼付範囲12内にRFIDタグ100が貼付される。好ましくは、採血管10の先端部にはキャップ11が設けられる。
【0013】
採血管10は、例えば、ポリエチレンテレフタラート等のプラスチックによって形成される。ただし、これに限られず、採血管10は、ガラス等の他の素材によって形成されるものであっても良い。
【0014】
なお、採血管10は、液体を入れる容器の一例であり、例えば、試験管、採尿管、アンプル等の採血管10以外の容器であっても良い。また、血液は、容器に入れる液体の一例であり、例えば、尿、飲み物、薬品、水等の血液以外の液体であっても良い。ここでは、一例として、液体を入れる容器が採血管10であるものとして以下の説明を行う。
【0015】
<RFIDタグの構成>
図2は、一実施形態に係るRFIDタグの構成例を示す図である。RFIDタグ100は、例えば、帯状のシート200、識別情報が記録されるICチップ210、及びICチップ210に接続されるループ状の導電体で形成されるアンテナ220等を含む。また、アンテナ220の内周221の形状がT字型になっている。
【0016】
シート200、及びアンテナ220は、例えば、
図1に示すような採血管10に対応する外形を有している。例えば、シート200の奥行D0、及びアンテナ220の奥行D1は、採血管10の所定の貼付範囲12内の外周の最小値より短いことが望ましい。これにより、例えば、
図1に示すように、RFIDタグ100が重なり合わないように、採血管10にRFIDタグ100を貼付することができる。また、シート200の横幅W0、及びアンテナ220の横幅W1は、採血管10の所定の貼付範囲12内に収まることが望ましい。
【0017】
なお、アンテナ220の横幅W1、及び奥行D1は、上記の範囲内で任意に定めることができる。例えば、RFIDタグ100の使用周波数を920MHzとした場合、W1は、20.00mm~50.00mm、好ましくは、30.00mm~40.00mmとすることができる。また、D1は、13.00mm~18.00mm、好ましくは、15.00mm~17.00mmとすることができる。
【0018】
シート200は、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレン等の合成樹脂製フィルムを、複数枚積層して帯状に形成されるフィルム等である。ただし、これに限られず、シート200は紙等であっても良い。
ICチップ210、及びアンテナ220は、例えば積層される複数の合成樹脂製フィルム等の間に、挟み込まれるように配置される。なお、RFIDタグ100は、採血管10に貼付するラベルに設けられていても良い。
【0019】
ICチップ210は、識別情報が記録されたRFIDシステム用の集積回路であり、アンテナ220と電気的に接続される。ICチップ210は、RFIDシステムのタグリーダから、所定の無線周波数(例えば、920MHz帯:860MHz~960MHz)で送信される電波をアンテナ220で受信し、受信した電波により電力を生成して起動する。また、ICチップ210は、生成した電力で、ICチップ104に予め記録された識別情報を含む電波を、タグリーダに送信する。
【0020】
アンテナ220は、導電性の高い導電体(例えば、銅、アルミニウム等の金属)によってループ状に形成される。また、アンテナ220の内周221の形状はT字型になっており、この内周221の内側には導電体が形成されていない。本実施形態では、この内周221の内側の導電体が形成されていない部分を、開口部222と呼ぶ。このように、アンテナ220は、ICチップ210に接続されるループ状の導電体で形成され、導電体が形成されていないT字型の開口部222を有している。
【0021】
好ましくは、アンテナ220の外形は、
図2に示すように、横幅W1、奥行D1の矩形である。また、開口部222は、ICチップ210が搭載される矩形の一辺と平行な方向(X軸方向)に延伸する第1の開口部223と、第1の開口部223の中央部分に連結され、ICチップ210が搭載される矩形の一辺と直交する方向(マイナスY軸方向)に延伸する第2の開口部224とを含む。なお、
図2において、第1の開口部223と第2の開口部224との境界を示す2点鎖線は仮想線であり、実際には存在しない。
【0022】
好ましくは、RFIDタグ100は、採血管10の長手方向と、第1の開口部223が延伸する方向(X軸方向)とが略平行になるように採血管10に貼付する。これにより、より良好な通信特性を得ることができる。なお、RFIDタグ100を採血管10に貼付するときに、採血管10のキャップ11側に、
図2に示すRFIDタグ100のXプラス方向を向けた場合と、Xマイナス方向を向けた場合とでは、通信特性に大きな違いは見られなかった。
【0023】
なお、RFIDタグ100は、例えば、採血管10の長手方向と、第1の開口部223が延伸する方向とが交差するように採血管10に貼付することも可能である。
【0024】
なお、第1の開口部223の幅W2、奥行D2、及び第2の開口部224の幅W3、奥行D3は、任意に定めることができる。例えば、RFIDタグ100の使用周波数を920MHzとした場合、W2は、18.00mm~25.00mm、好ましくは20.00mm~23.00mm、さらに好ましくは21.10mm~22.10mmとすることができる。D2は、1.00mm~7.00mm、好ましくは3.00mm~5.00mm、さらに好ましくは3.50mm~4.50mmとすることができる。W3は、1.00mm~7.00mm、好ましくは3.00mm~5.00mm、さらに好ましくは3.7mm~4.7mmとすることができる。D3は、3.00mm~9.00mm、好ましくは5.00mm~7.00mm、さらに好ましくは5.50mm~6.5mmとすることができる。
【0025】
アンテナ220は、例えば、銅、アルミ等の金属箔のプレス加工、エッチング加工、めっき加工、又は金属ペーストのシルクスクリーン印刷等の導電体によって形成される。なお、導電体をアルミニウムにする場合、導電体の厚さは、例えば、5μm~40μm、好ましくは7μm~30μmとすることができる。また、
図2等において、アンテナ220にハッチングがかかっているが、これは、アンテナ220が金属であることを示すハッチングであり、模様を示すものではない。
【0026】
上記の構成において、ICチップ210は内部容量を有しており、この内部容量と、アンテナ220が有するインダクタンス成分とにより共振回路(整合回路)が構成される。この共振回路において、ICチップ210の内部容量と、アンテナ220のインダクタンス成分とが共振する共振周波数において、虚数成分がほぼゼロになることによりインピーダンスが整合し、十分な通信距離を確保することができる。
【0027】
RFIDタグ100は、例えば、920MHz帯(860MHz~960MHz、好ましくは、915MHz~935MHz)の周波数において、採血管10の内部の液体(例えば、血液)の有無によらずに、良好な通信距離が得られるように構成されている。
【0028】
<アンテナの形状、及びインピーダンス特性について>
図3は、一実施形態に係るアンテナの形状を示す図である。この図は、良好な通信特性が得られたアンテナ220の形状の例を示している。
図3において、アンテナ220の横W1を35.00mm、奥行D1を16.00mmとし、中心線225に対して対称形となるように開口部222を形成した。なお、対称形には、本発明の効果を損なわない程度の誤差やずれが許容される。また、アンテナ220の開口部222のT字型の形状を変えて、試作及び測定を行い、液体の有無によらずに良好な通信特性が得られるように、開口部222のT字型の形状を決定した。
【0029】
その結果、第1の開口部223の幅W2を21.60mm、奥行D2を4.00mmとし、第2の開口部224の幅W3を4.20mm、奥行D3を6.00mmとしたときに、採血管10の内部の液体の有無によらずに、良好な通信特性が得られた。なお、ICチップ210を接続する導体部の幅D4は、1.00mmとした。また、アンテナ220を形成する導体として、アルミニウム(厚さ:10μm)を使用した。
【0030】
図4は、一実施形態に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
図4(A)は、採血管10に液体が入っていない場合における、アンテナ220のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。また、
図4(B)は、採血管10に液体(水)が入っている場合における、アンテナ220のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。
【0031】
図4(A)、(B)において、アンテナ220のインピーダンスZを「Z=R+jX」とし、縦軸はインピーダンスZの実部Rの値、及び虚部Xの値を示している。また、横軸は周波数を示している。なお、実線のグラフは各周波数に対応する実部Rをプロットしたものであり、一点鎖線は各周波数に対応する虚部Xをプロットしたものである。
【0032】
図4(A)の例では、RFIDタグ100が通信に用いる周波数帯の中心周波数である920MHzにおいて、アンテナ220のインピーダンスZの実部Rの値が約4.4Ωであり、虚部Xの値が約213.0Ωであることが示されている。
図4(B)の例では、周波数920MHzにおいて、アンテナ220のインピーダンスZの実部Rの値が約305.0Ωであり、虚部Xの値が約236.0Ωであることが示されている。このように、アンテナ220のインピーダンスZは、採血管10に液体が入っているか否かによって変化する。
【0033】
また、複数のアンテナの試作結果より、周波数920MHzにおける虚部Xの値が213Ω前後(例えば、190Ω~240Ω程度)であるときに、良好な通信特性が得られることが分かった。これより、アンテナのインピーダンスZの虚部Xの値が213Ω前後であるときに、920MHz帯において、ICチップ210の内部容量と、アンテナ220のインダクタンス成分とが共振し、インピーダンスが整合すると考えられる。
【0034】
図4(A)、(B)より、アンテナ220は、920MHzにおいて、インピーダンスZの虚部Xの値が、190Ω~240Ωの間に収まっており、採血管10の内部の液体の有無によらずに、良好な通信特性が得られると考えられる。なお、アンテナ220を備えるRFIDタグ100の通信特性の評価結果については後述する。
【0035】
(比較例)
図5は、比較例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
図5に示すアンテナ500は、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220と同じ外形(W1=35.00mm、D1=16.00mm)を有しており、アンテナ500の内周501の内側の開口部502が矩形に形成されている。また、アンテナ500は、開口部502の面積が、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220の開口部222の面積と同じ面積になるように形成されている。
【0036】
図6は、比較例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
図6(A)は、採血管10に液体が入っていない場合における、アンテナ500のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。
図6(A)の例では、RFIDタグ100が通信に用いる周波数920MHzにおいて、アンテナ500のインピーダンスZの実部Rの値が約3.8Ωであり、虚部Xの値が約204.7Ωであることが示されている。このように、比較例に係るアンテナ500のインピーダンスZは、採血管10に液体が入っていない場合、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220に近いインピーダンス特性になる。
【0037】
一方、
図6(B)は、採血管10に液体(水)が入っている場合における、アンテナ500のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。
図6(B)の例では、周波数920MHzにおいて、アンテナ500のインピーダンスZの実部Rの値が約164.8Ωであり、虚部Xの値が約285.5Ωであることが示されている。このように、比較例に係るアンテナ500のインピーダンスZは、採血管10に液体が入っている場合、虚部Xの値が、285Ω前後まで変化してしまうことが分かる。
【0038】
このように、
図3に示す一実施形態に係るアンテナ220は、
図5に示す比較例に係るアンテナ500と比較して、特に、採血管10に液体が入っている場合における、インピーダンスZの虚部Xの値、すなわち、共振周波数の変化が少ないことが分かる。
【0039】
<変形例>
続いて、アンテナ220の開口部222のT字型の形状を変化させたときのインピーダンス特性の変化について、複数の変形例を例示して説明する。
【0040】
(第1の変形例)
図7は、第1の変形例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
図7に示す第1の変形例に係るアンテナ700は、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220と同じ外径(W1=35.00mm、D1=16.00mm)を有している。また、アンテナ700は、内周701の内側の開口部702の面積が、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220の開口部222の面積より大きく形成されている。
【0041】
図8は、第1の変形例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
図8(A)は、採血管10に液体が入っていない場合における、アンテナ700のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。また、
図8(B)は、採血管10に液体(水)が入っている場合における、アンテナ700のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。
【0042】
図8(A)の例では、RFIDタグ100が通信に用いる周波数920MHzにおいて、アンテナ700のインピーダンスZの実部Rの値が約10.7Ωであり、虚部Xの値が約332.0Ωであることが示されている。
図8(B)の例では、周波数920MHzにおいて、アンテナ700のインピーダンスZの実部Rの値が約442.0Ω、虚部Xの値が約-139.0Ωであることが示されている。
【0043】
また、
図8(A)において、アンテナ700のインピーダンスZの虚部Xの値が、213Ω前後となる周波数は、700MHz付近の低い周波数まで変化している。
【0044】
このように、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220の開口部222のT字型の内側の面積を大きくすることにより、アンテナ220の共振周波数を低い方向に変更(調整)することができる。
【0045】
(第2の変形例)
図9は、第2の変形例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
図9に示す第2の変形例に係るアンテナ900は、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220と同じ外形(W1=35.00mm、D1=16.00mm)を有している。また、アンテナ900は、内周901の内側の開口部902の面積が、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220の開口部222の面積より小さく形成されている。
【0046】
図10は、第2の変形例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
図10(A)は、採血管10に液体が入っていない場合における、アンテナ900のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。また、
図10(B)は、採血管10に液体(水)が入っている場合における、アンテナ900のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。
【0047】
図10(A)の例では、RFIDタグ100が通信に用いる周波数920MHzにおいて、アンテナ900のインピーダンスZの実部Rの値が約2.6Ωであり、虚部Xの値が約141.7Ωであることが示されている。
図10(B)の例では、周波数920MHzにおいて、アンテナ900のインピーダンスZの実部Rの値が約171.9Ω、虚部Xの値が約205.0Ωであることが示されている。
【0048】
また、
図10(A)において、アンテナ900のインピーダンスZの虚部Xの値が、213Ω前後となる周波数は、1150MHz付近の高い周波数まで変化している。
【0049】
このように、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220の開口部222の面積を小さくすることにより、アンテナ220の共振周波数を高い方向に変更(調整)することができる。
【0050】
(第3の変形例)
図11は、第3の変形例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
図11に示す第3の変形例に係るアンテナ1100は、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220と同じ外形(W1=35.00mm、D1=16.00mm)を有している。また、第3の変形例に係るアンテナ1100は、
図11に示す2つの矩形部1102、1103の大きさ(面積)を変更することにより、内周1101の内側の開口部1104の面積が、アンテナ220の開口部222の面積より大きくなるように形成されている。なお、
図11の2点鎖線は、矩形部1102、1103の位置を説明するための仮想線であり、実際には存在しない。
【0051】
図12は、第3の変形例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
図12(A)は、採血管10に液体が入っていない場合における、アンテナ1100のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。また、
図12(B)は、採血管10に液体(水)が入っている場合における、アンテナ1100のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。
【0052】
図12(A)の例では、RFIDタグ100が通信に用いる周波数920MHzにおいて、アンテナ1100のインピーダンスZの実部Rの値が約5.54Ωであり、虚部Xの値が約236.2Ωであることが示されている。
図12(B)の例では、周波数920MHzにおいて、アンテナ1100のインピーダンスZの実部Rの値が約392.3Ω、虚部Xの値が約181.4Ωであることが示されている。
【0053】
また、
図12(A)において、アンテナ1100のインピーダンスZの虚部Xの値が、213Ω前後となる周波数は、870MHz付近になっていることが分かる。
【0054】
このように、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220の開口部222の面積を大きくするときに、矩形部1102、1103の大きさ(面積)を小さくすることにより、アンテナ220のインピーダンス特性を微調整することができる。
【0055】
(第4の変形例)
図13は、第4の変形例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
図13に示す第4の変形例に係るアンテナ1300は、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220と同じ外形(W1=35.00mm、D1=16.00mm)を有している。また、第4の変形例に係るアンテナ1300は、2つの矩形部1102、1103の大きさ(面積)を変更することにより、内周1301の内側の開口部1302の面積が、アンテナ220の開口部222の面積より小さくなるように形成されている。
【0056】
図14は、第4の変形例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
図14(A)は、採血管10に液体が入っていない場合における、アンテナ1300のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。また、
図14(B)は、採血管10に液体が入っている場合における、アンテナ1300のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。
【0057】
図14(A)の例では、RFIDタグ100が通信に用いる周波数920MHzにおいて、アンテナ1300のインピーダンスZの実部Rの値が約3.45Ωであり、虚部Xの値が約193.0Ωであることが示されている。
図14(B)の例では、周波数920MHzにおいて、アンテナ1300のインピーダンスZの実部Rの値が約210.6Ω、虚部Xの値が約254.2Ωであることが示されている。
【0058】
また、
図14(A)において、アンテナ1300のインピーダンスZの虚部Xの値が、213Ω前後となる周波数は、950MHz付近になっていることが分かる。
【0059】
このように、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220の開口部222の面積を小さくするときに、矩形部1102、1103の大きさ(面積)を大きくすることにより、アンテナ220のインピーダンス特性を微調整することができる。
【0060】
(第5の変形例)
図15は、第5の変形例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
図15に示す第5の変形例に係るアンテナ1500は、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220と同じ外形(W1=35.00mm、D1=16.00mm)を有している。また、第5の変形例に係るアンテナ1500は、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220の開口部222の面積を大きくするときに、T字型の相似形(相似性)を維持したままで、内周1501の内側の開口部1502の面積を大きくする。
【0061】
図16は、第5の変形例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
図16(A)は、採血管10に液体が入っていない場合における、アンテナ1500のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。また、
図16(B)は、採血管10に液体(水)が入っている場合における、アンテナ1500のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。
【0062】
図16(A)の例では、RFIDタグ100が通信に用いる周波数920MHzにおいて、アンテナ1500のインピーダンスZの実部Rの値が約0.93Ωであり、虚部Xの値が約287.0Ωであることが示されている。
図16(B)の例では、周波数920MHzにおいて、アンテナ1500のインピーダンスZの実部Rの値が約492.4Ω、虚部Xの値が約37.7Ωであることが示されている。
【0063】
また、
図16(A)において、アンテナ1500のインピーダンスZの虚部Xの値が、213Ω前後となる周波数は、750MHz付近になっていることが分かる。
【0064】
このように、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220の開口部222の面積を大きくするときに、T字型の相似形(相似性)を維持したままで、開口部222の面積を大きくすることにより、アンテナ220のインピーダンス特性をより大きく変化させることができる。
【0065】
(第6の変形例)
図17は、第6の変形例に係るアンテナの形状の例を示す図である。
図17に示す第6の変形例に係るアンテナ1700は、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220と同じ外形(W1=35.00mm、D1=16.00mm)を有している。また、第6の変形例に係るアンテナ1700は、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220の開口部222の面積を小さくするときに、T字型の相似形(相似性)を維持したままで、内周1701の内側の開口部1702の面積を小さくする。
【0066】
図18は、第6の変形例に係るアンテナのインピーダンス特性の例を示す図である。
図18(A)は、採血管10に液体が入っていない場合における、アンテナ1700のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。また、
図18(B)は、採血管10に液体(水)が入っている場合における、アンテナ1700のインピーダンス特性のシミュレーション結果を示している。
【0067】
図18(A)の例では、RFIDタグ100が通信に用いる周波数920MHzにおいて、アンテナ1700のインピーダンスZの実部Rの値が約1.79Ωであり、虚部Xの値が約137.3Ωであることが示されている。
図18(B)の例では、周波数920MHzにおいて、アンテナ1700のインピーダンスZの実部Rの値が約66.0Ω、虚部Xの値が約181.7Ωであることが示されている。
【0068】
また、
図18(A)において、アンテナ1800のインピーダンスZの虚部Xの値が、213Ω前後となる周波数は、1200MHz以上になっていると推定される。
【0069】
このように、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220の開口部222の面積を小さくするときに、T字型の相似形(相似性)を維持したままで、開口部222の面積を小さくすることにより、アンテナ220のインピーダンス特性をより大きく変化させることができる。
【0070】
以上より、
図3に示した一実施形態に係るアンテナ220は、内周221のT字型の内側の面積によって、アンテナ220の共振周波数を調整することができると考えられる。
【0071】
また、アンテナ220は、内周221のT字型の形状により、アンテナ220のインピーダンス、特に、採血管10に液体が入っているときのインピーダンスを調整することができると考えられる。
【0072】
<RFIDタグの評価結果>
続いて、
図3に示す一実施形態に係るアンテナ220を有するRFIDタグ100を採血管10に貼付し、識別情報(タグID)の読み取り特性を評価した評価結果について説明する。
【0073】
図19は、一実施形態に係る採血管の配列パターンの例を示す図である。ここでは、
図19(A)~(D)に示すように、縦10列×横10列に並べられた計100本の採血管10をタグIDの読み取り装置にセットして、100回読み取りを行い、100本ともタグIDが読み取れた回数を測定する評価を行った。
【0074】
なお、採血管10は、プラスチック(ポリエチレンテレフタラート)製の採血管10を用いた。また、各採血管10には、
図2に示すようなRFIDタグ100のXプラス方向がキャップ11側になるように、また、採血管10の長手方向とRFIDタグ100の長手方向とが略平行となるように貼付した。
【0075】
ここでは、
図19(A)に示すように、4本の採血管10を一組として、4本の採血管10の内側にRFIDタグ100を向けて各採血管10を配列した配列パターンを、「配列パターン1」と呼ぶ。また、
図19(B)に示すように、各採血管10のRFIDタグ100を、一つの方向(例えば、前向き)に向けて配列した配列パターンを、「配列パターン2」と呼ぶ。さらに、
図19(C)に示すように、最外列の採血管10のRFIDタグ100を外向きに向けて配列し、他の採血管10を
図19(C)に示すように配列した配列パターンを、「配列パターン3」と呼ぶ。さらにまた、
図19(D)に示すように、最外列の採血管10のRFIDタグ100を内向きに向けて配列し、他の採血管10を
図19(D)に示すように配列した配列パターンを、「配列パターン4」と呼ぶ。
【0076】
図20は、一実施形態に係るRFIDタグの評価結果を示す図である。評価内容としては、
図3に示す一実施形態に係るアンテナ220を備えたRFIDタグ100を採血管10に貼付し、配列パターン1~4の各配列パターンで100回ずつ、読み取り装置でタグIDの読み取りを行った。なお、読み取り装置の送信出力レベルは、19dBmとした。
【0077】
また、参考として、既存のRFIDタグを貼付した採血管についても同様の読み取りを行った。
【0078】
図20(A)、は、採血管10が空の状態(液体が入っていない状態)で、配列パターン1~4の各配列パターンで100回ずつタグIDの読み取りを行い、全数(100個)の読み取りに成功した回数を記録した評価結果を示している。
【0079】
図20(A)に示すように、本実施形態に係るRFIDタグ100を貼付した採血管10は、配列パターン1~4の各配列パターンで、100回とも全数の読み取りに成功した。一方、既存のRFIDタグを貼付した採血管では、配列パターン1、3、4で、読み取りの失敗が発生しており、特に配列パターン1では、全数の読み取りに成功した回数は0回であった。
【0080】
図20(B)、は、採血管10に水(液体の一例)が入った状態で、配列パターン1~4の各配列パターンで100回ずつタグIDの読み取りを行い、全数(100個)の読み取りに成功した回数を記録した評価結果を示している。
【0081】
図20(B)に示すように、本実施形態に係るRFIDタグ100を貼付した採血管10は、配列パターン1~4の各配列パターンで、100回とも全数の読み取りに成功した。一方、既存のRFIDタグを貼付した採血管では、配列パターン2~4で、100回とも全数の読み取りに成功したものの、配列パターン1では、全数(100個)の読み取りに成功した回数は4回であった。
【0082】
このように、本実施形態によれば、採血管10等の液体を入れる容器に貼付するRFID100タグにおいて、液体の有無によらずに、良好な通信距離が得られるようになる。
【0083】
また、本実施形態に係るRFIDタグ100が備えるアンテナ220は、外形を変えなくても、開口部の面積を変更することにより、アンテナ220の共振周波数を変更することができるので、外形に制限がある小型の容器に好適である。
【0084】
さらに、本実施形態に係るアンテナ220は、例えば、導電体が形成されていない開口部222の面積を維持したまま、開口部のT字型の形状を変更(非相似形)することにより、液体を入れたときのインピーダンス特性を調整することが容易になる。
【0085】
以上、本発明の実施形態によれば、液体を入れる容器に貼付するRFIDタグ100において、液体の有無によらずに、良好な通信距離が得られるRFIDタグ100を提供することができる。
【0086】
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0087】
10 採血管(容器の一例)
100 RFIDタグ
210 ICチップ
220 アンテナ
221 アンテナの内周
222 開口部
223 第1の開口部
224 第2の開口部