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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】耐炎性積層成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20250218BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250218BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
B32B27/12
B32B27/00 A
B29C45/14
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020555075
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2020037565
(87)【国際公開番号】W WO2021070747
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2019186739
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】和田 誠
(72)【発明者】
【氏名】原田 大
(72)【発明者】
【氏名】大久保 和哉
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 理
(72)【発明者】
【氏名】木山 公志
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-114107(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188276(WO,A1)
【文献】特開平03-096341(JP,A)
【文献】特開2000-008260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維Bを含む繊維シート材の一面が成形体の外部に露出され、他面側の少なくとも一部が成形体本体を構成し射出成形されてなる熱可塑性樹脂Cに接合されている耐炎性積層成形体であり、熱可塑性繊維Bがポリフェニレンスルフィド繊維であり、熱可塑性樹脂Cがポリフェニレンスルフィド樹脂であり、前記非溶融繊維AのISO22007-3(2008年)に準拠する熱伝導率が0.060W/m・K以下であり、前記非溶融繊維Aおよび前記熱可塑性繊維Bを含む繊維シート材が前記熱可塑性樹脂Cと熱融着してなり、且つ熱可塑性繊維Bと熱可塑性樹脂Cとの融着相溶層の厚さが10μm以上である耐炎性積層成形体。
【請求項2】
前記繊維シート材における前記非溶融繊維Aの含有率が15~80重量%である、請求項1に記載の耐炎性積層成形体。
【請求項3】
前記繊維シート材における前記熱可塑性繊維Bの含有率が20~85重量%である、請求項1または2に記載の耐炎性積層成形体。
【請求項4】
前記繊維シート材が前記非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維B以外の繊維Dを20重量%以下含有する、請求項1~3のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
【請求項5】
前記非溶融繊維Aが、耐炎化繊維またはメタアラミド系繊維である、請求項1~4のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
【請求項6】
前記熱可塑性繊維BのJIS K 7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上である、請求項1~5のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
【請求項7】
前記熱可塑性繊維Bが、硫黄原子を15重量%以上含む繊維である、請求項1~のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂CのJIS K 7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上である、請求項1~のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
【請求項9】
前記熱可塑性繊維Bの一部と前記熱可塑性樹脂Cの一部同士が融着してなる、請求項1~のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
【請求項10】
前記熱可塑性繊維Bと前記熱可塑性樹脂Cが同一の樹脂からなり、前記非溶融繊維Aと前記熱可塑性繊維Bを含む繊維シート材と前記熱可塑性樹脂Cとの接合強度が1.5kg/cm以上である、請求項1~のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
【請求項11】
前記非溶融繊維Aと前記熱可塑性繊維Bを含む繊維シート材が、熱可塑性繊維Bが溶融により非溶融繊維A間で膜化し酸素遮断下において炭化することで遮炎性を発現可能な繊維シート材に構成されている、請求項1~10のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
【請求項12】
前記非溶融繊維Aを含む前記繊維シート材が前記熱可塑性樹脂Cの表面に部分的に存在する、請求項1~11のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐炎性積層成形体に関し、とくに、樹脂成形体の外表面部に特定の繊維シート材を設け、成形体の表面に高い耐炎性を持たせるようにした耐炎性積層成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量性や所定形状への優れた成形性等の観点から、樹脂成形体は種々の分野で用いられているが、用途によっては、高い難燃性や耐炎性、さらには遮炎性が要求されることがある。とくに、主として樹脂成形体の表面や表層部に高い難燃性や耐炎性、さらには遮炎性が要求されることがある。
【0003】
樹脂成形体自体に難燃性を付与する方法として、樹脂に難燃効果のある薬剤を練り込む方法等があるが、このような方法で成形体に付与される難燃性の程度には限度があり、とくに、成形体自体に高い耐炎性や遮炎性を付与するのは困難である。
【0004】
一方、不織布や繊維紙として、例えば、非溶融繊維(例えば、耐炎化糸)と高い難燃性を有するポリマーとしてのポリフェニレンスルフィド等からなる繊維との複合体からなる不織布(例えば、特許文献1)やペーパー(例えば、特許文献2)が知られている。このような不織布やペーパー自体は、高い耐炎性や遮炎性を示すことが可能であるが、不織布やペーパー自体で所望の強度や剛性を有する成形体を構成することは困難であり、たとえ成形できたとしても、その不織布やペーパーを相当厚いものにすることが必要になるため、極めて高価なものになる可能性が高い。また、良好な成形性を確保することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-169996号公報
【文献】国際公開第2017/6807号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、上述のような実情に鑑み、樹脂成形体の表面や表層部に要求される高い耐炎性や遮炎性の発現が可能で、かつ、成形体全体として要求される所望の強度や剛性、さらには所望形状への良好な成形性を容易に確保することが可能な耐炎性積層成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は次のような手段を採用する。
(1)少なくとも非溶融繊維Aを含む繊維シート材の一面が成形体の外部に露出され、他面側の少なくとも一部が成形体本体を構成する熱可塑性樹脂Cに接合されている耐炎性積層成形体。
(2)前記繊維シート材が前記非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維Bを含む、(1)に記載の耐炎性積層成形体。
(3)前記非溶融繊維AのISO22007-3(2008年)に準拠する熱伝導率が0.060W/m・K以下である、(1)または(2)に記載の耐炎性積層成形体。
(4)前記繊維シート材における前記非溶融繊維Aの含有率が15~80重量%である、(1)~(3)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
(5)前記繊維シート材における前記熱可塑性繊維Bの含有率が20~85重量%である、(2)~(4)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
(6)前記繊維シート材が前記非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維B以外の繊維Dを20重量%以下含有する、(2)~(5)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
(7)前記非溶融繊維Aが、耐炎化繊維またはメタアラミド系繊維である、(1)~(6)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
(8)前記熱可塑性繊維BのJIS K 7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上である、(2)~(7)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
(9)前記熱可塑性繊維Bが、異方性溶融ポリエステル、液晶ポリエステル、難燃性ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、難燃性ポリスルホン、ポリ(エーテル-エーテル-ケトン)、ポリ(エーテル-ケトン-ケトン)、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアリーレンスルフィド、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドおよびこれらの混合物の群から選択される樹脂からなる繊維である、(2)~(8)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
(10)前記熱可塑性繊維Bが、硫黄原子を15重量%以上含む繊維である、(2)~(9)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
(11)前記熱可塑性樹脂CのJIS K 7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上である、(1)~(10)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
(12)前記熱可塑性樹脂Cが、異方性溶融ポリエステル、液晶ポリエステル、難燃性ポリアミド66、難燃性ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、難燃性ポリスルホン、ポリ(エーテル-エーテル-ケトン)、ポリ(エーテル-ケトン-ケトン)、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアリーレンスルフィド、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドおよびこれらの混合物の群から選択される樹脂からなる、(1)~(11)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
(13)前記熱可塑性繊維Bの一部と前記熱可塑性樹脂Cの一部同士が融着してなる、(2)~(12)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
(14)前記熱可塑性繊維Bと前記熱可塑性樹脂Cが同一の樹脂からなり、前記非溶融繊維Aと前記熱可塑性繊維Bを含む繊維シート材と前記熱可塑性樹脂Cとの接合強度が1.5kg/cm以上である、(2)~(13)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
(15)前記非溶融繊維Aと前記熱可塑性繊維Bを含む繊維シート材が、熱可塑性繊維Bが溶融により非溶融繊維A間で膜化し酸素遮断下において炭化することで遮炎性を発現可能な繊維シート材に構成されている、(2)~(14)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
(16)前記非溶融繊維Aと前記熱可塑性繊維Bを含む繊維シート材が前記熱可塑性樹脂Cと熱融着してなり、且つ熱可塑性繊維Bと熱可塑性樹脂Cとの融着相溶層の厚さが10μm以上である、(2)~(15)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
(17)前記非溶融繊維Aを含む前記繊維シート材が前記熱可塑性樹脂Cの表面に部分的に存在する、(1)~(16)のいずれかに記載の耐炎性積層成形体。
【発明の効果】
【0008】
上記のような本発明に係る耐炎性積層成形体によれば、非溶融繊維Aを含む繊維シート材自体は非溶融繊維Aの存在により高い耐炎性や遮炎性を示すことが可能であるが、その繊維シート材の一面が外部に露出された状態にて熱可塑性樹脂Cで構成される成形体本体に接合されているので、積層成形体全体としてもその表面部は効率よく高い耐炎性や遮炎性を発現することが可能になる。同時に、成形体本体は熱可塑性樹脂Cにより実質的にあらゆる成形法で所望の形状に容易に成形可能であるから、積層成形体全体としても、成形体本体に依る所望の強度や剛性を確保しながら、安価にかつ良好な成形性をもって所望形状に容易に形成可能となる。したがって、耐炎性積層成形体として、要求される高い耐炎性や遮炎性の発現と、全体として要求される所望の強度や剛性、良好な成形性の確保が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る耐炎性積層成形体の試験片の一例を示す斜視図である。
図2】耐炎性積層成形体における接合強度測定用試験片を示す斜視図である。
図3】本発明に係る耐炎性積層成形体の一実施形態としてのバッテリーモジュール積載パックの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の耐炎性積層成形体は、少なくとも非溶融繊維Aを含む繊維シート材の一面が成形体の外部に露出され、他面側の少なくとも一部が成形体本体を構成する熱可塑性樹脂Cに接合されていることを特徴とする。
【0011】
少なくとも非溶融繊維Aを含む繊維シート材としては、織物、編物、フェルト、紙等を用いることができ、短繊維および長繊維を公知の方法で加工したものを用いることができる。その中でも耐炎性の観点から、不織布が好ましい。また、繊維シート材の厚さは特に限定されないが、積層成形体の軽量化、低コスト化、性能向上を図る観点から0.05~10mmが好ましい。
【0012】
本発明における非溶融繊維Aとは、炎にさらされた際に液化せずに繊維形状を保つ繊維をいい、800℃の温度で液化および発火しないものが好ましく、1000℃以上の温度で液化および発火しないものがさらに好ましい。このような非溶融繊維Aとして、例えば、耐炎化繊維、メタアラミド系繊維およびガラス繊維を挙げることができる。耐炎化繊維は、アクリロニトリル系、ピッチ系、セルロース系、フェノール系繊維等から選択される繊維を原料として耐炎化処理を行った繊維である。これらは単独で使用しても2種類以上を同時に使用してもよい。なかでも、高温収縮率が低くかつ、後述する熱可塑性繊維Bが接炎時に形成する皮膜による酸素遮断効果によって、炭素化が進行し、高温下での耐熱性がさらに向上する耐炎化繊維が好ましく、各種の耐炎化繊維の中で比重が小さく柔軟で難燃性に優れる繊維としてアクリロニトリル系耐炎化繊維がより好ましく用いられ、かかる耐炎化繊維は前駆体としてのアクリル系繊維を高温の空気中で加熱、酸化することによって得られる。市販品としては、後記する実施例および比較例で使用した、Zoltek社製耐炎化繊維PYRON(登録商標)の他、東邦テナックス(株)製パイロメックス(Pyromex)(登録商標)等が挙げられる。なお、ここで高温収縮率とは、繊維を標準状態(20℃、相対湿度65%)中で12時間放置後、0.1cN/dtexの張力を与えて原長L0を測定し、その繊維に対して荷重を付加せずに290℃の乾熱雰囲気に30分間暴露し、標準状態(20℃、相対湿度65%)中で十分冷却したうえで、さらに繊維に対して0.1cN/dtexの張力を与えて長さL1を測定し、L0およびL1から以下の式で求められる数値である。
高温収縮率=〔(L0-L1)/L0〕×100(%)
【0013】
本発明における非溶融繊維Aは、ISO22007-3(2008年)に準拠する方法で測定した熱伝導率が0.060W/m・K以下であることが好ましい。熱伝導率とは、熱の伝導のしやすさを数値化したものであり、熱伝導率が小さいとは、一方の面から材料が加熱された際の、加熱されていない部分の温度上昇が小さくなることを意味する。目付200g/m、JIS L1913(2010)に準拠する方法で測定した厚さが2mm(密度100kg/m)のフェルトを試験体とし、ISO22007-3(2008年)に準拠する方法で測定した熱伝導率が0.060W/m・K以下である素材は、熱を伝えにくく、不織布にして一方の面から加熱した際に、加熱していない反対側の温度上昇を抑制することができ、反対側に可燃物が配されても可燃物が発火する可能性が低くなる。熱伝導率は低い方が好ましいが、入手可能な繊維材料では、0.020W/m・K程度が下限である。
【0014】
また本発明で好ましく用いられる非溶融繊維Aは、非溶融繊維単独あるいは異素材と複合する方法で用いられることが好ましく、非溶融繊維Aと熱可塑性樹脂Bとを複合して用いることが好ましい。
【0015】
本発明における熱可塑性繊維Bは、JIS K7201-2(2007年)に準拠するLOI値(Limiting Oxygen Index)が25以上であることが好ましい。LOI値は、窒素と酸素の混合気体において、物質の燃焼を持続させるのに必要な最小酸素量の容積百分率であり、LOI値が高いほど燃え難いと言える。そこで、JIS K7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上である熱可塑性繊維は燃えにくく、たとえ、着火しても火源を離せばすぐに消火し、通常わずかに燃え広がった部分に炭化膜を形成し、この炭化部分が延焼を防ぐことができる。LOI値は高い方が好ましいが、現実に入手可能な物質のLOI値の上限は65程度である。
【0016】
本発明における熱可塑性繊維Bの具体例としては、異方性溶融ポリエステル、液晶ポリエステル、難燃性ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、難燃性ポリスルホン、ポリ(エーテル-エーテル-ケトン)、ポリ(エーテル-ケトン-ケトン)、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアリーレンスルフィド、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドおよびこれらの混合物の群から選択される熱可塑性樹脂で構成される繊維を挙げることができる。これらは単独で使用しても、2種類以上を同時に使用してもよい。LOI値が本発明の好ましい範囲にあることで、空気中での燃焼を抑制し、熱可塑性樹脂が炭化しやすくなる。また、融点が非溶融繊維Aの発火温度よりも低いことで、溶融した熱可塑性樹脂が非溶融繊維Aの表面および繊維間で皮膜を形成し、さらにそれが炭化されることで酸素を遮断する効果が高くなり、非溶融繊維Aの酸化劣化を抑制でき、また、その炭化膜が優れた遮炎性を発現する。熱可塑性繊維Bの融点は、非溶融繊維Aの発火温度よりも200℃以上低いことが好ましく、300℃以上低いことがさらに好ましい。これらの中で、LOI値の高さおよび融点の範囲および入手の容易さの点から、最も好ましいのはポリフェニレンスルフィド繊維(以下、PPS繊維と呼ぶことがある。)である。また、LOI値が本発明で規定する範囲にない熱可塑性樹脂であっても、難燃剤で処理することによって、処理後のLOI値が本発明で規定する範囲内であれば好ましく用いることができる。
【0017】
本発明で好ましく用いられるPPS繊維は、-(C-S)-を主な構造単位として含む重合体からなる合成繊維である。上記の構造単位を含むPPS繊維の代表例としては、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと呼ぶことがある。)、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPPS繊維は、ポリマーの主要構造単位として、-(C-S)-で表されるp-フェニレンスルフィド単位を、好ましくは90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが望ましい。p-フェニレンスルフィド単位を80重量%、さらには90重量%以上含有するポリフェニレンスルフィドからなるPPS繊維が望ましい。
【0018】
熱可塑性繊維Bを構成する熱可塑性樹脂の構造中、あるいは熱可塑性樹脂に添加剤として配合される難燃剤中に硫黄原子を含むことにより、ポリマーあるいは難燃剤の熱分解時に硫酸を生成し、ポリマー基材を脱水炭化させる機構を発現することが可能となる。硫黄原子を含む観点から、熱可塑性繊維BとしてはPPS繊維が最も好ましい。また、難燃剤を用いる場合には、硫黄系の難燃剤が好ましい。熱可塑性繊維Bとして、硫黄原子を15重量%以上含む繊維を用いることが好ましい。具体的にはPPSや硫黄系難燃剤を付与したポリエステルが挙げられる。硫黄原子の比率の上限としては、繊維強度の点から50重量%以下であることが好ましい。なお、ここでいう硫黄原子の比率は、熱重量分析装置を用いて、空気気流条件下で室温から800℃まで10℃/分の条件でサンプル約10mgを昇温して熱可塑性繊維を酸化分解させ、分解ガス中の硫黄酸化物をガスクロマトグラフィーで定量分析することで求められる。
【0019】
本発明における繊維シート材は、非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維Bを含むことが好ましい。繊維シート材における熱可塑性繊維Bの混率が低すぎると、骨材の非溶融繊維Aの間に熱可塑性繊維Bが十分膜状に広がらなくなるため、繊維シート材における熱可塑性繊維Bの混率は、20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましい。熱可塑性繊維Bの混率が高くなりすぎると、接炎時に炭化部分が脆くなりやすく、遮炎性が低下してしまうため、上限としては85重量%以下であることが好ましく、75重量%以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明における繊維シート材は、非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維B以外の繊維Dを、繊維シート材に特定の性能をさらに付加するために含有させてもよい。例えば、吸湿性や吸水性を向上させるために、ビニロン繊維、熱可塑性繊維B以外のポリエステル繊維、ナイロン繊維等を用いてもよい。また、繊維Dの混率は本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、前記非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維B以外の繊維Dの混率が20重量%以下であるのが好ましく、15重量%以下であるのがより好ましい。繊維Dを用いる場合の下限としては、その所望の性能が付加されれば特に制限はないが、通常10重量%程度であることが好ましい。
【0021】
本発明の耐炎性積層成形体の成形体本体を構成する熱可塑性樹脂Cは、JIS K7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上であることが好ましい。LOI値は、窒素と酸素の混合気体において、物質の燃焼を持続させるのに必要な最小酸素量の容積百分率であり、LOI値が高いほど燃え難いと言える。そこで、JIS K7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上である熱可塑性樹脂は燃えにくく、たとえ、着火しても火源を離せばすぐに消火し、通常わずかに燃え広がった部分に炭化膜を形成し、この炭化部分が延焼を防ぐことができる。LOI値は高い方が好ましいが、現実に入手可能な物質のLOI値の上限は65程度である。
【0022】
本発明における熱可塑性樹脂Cの具体例としては、異方性溶融ポリエステル、液晶ポリエステル、難燃性ポリアミド66、難燃性ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、難燃性ポリスルホン、ポリ(エーテル-エーテル-ケトン)、ポリ(エーテル-ケトン-ケトン)、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアリーレンスルフィド、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドおよびこれらの混合物の群から選択される熱可塑性樹脂であることが好ましい。これらは単独で使用してもよいし、複数種を併用してもかまわない。
【0023】
本発明で好ましく用いられるポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂と呼ぶことがある。)は、-(C-S)-を主な構造単位とする重合体である。これらPPS樹脂の代表例としては、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPPS樹脂としては、ポリマーの主要構造単位として、-(C-S)-で表されるp-フェニレンスルフィド単位を、好ましくは90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド樹脂が望ましい。p-フェニレンスルフィド単位を80重量%、さらには90重量%以上含有するポリフェニレンスルフィド樹脂が望ましい。
【0024】
本発明の耐炎性積層成形体の成形体本体を構成する熱可塑性樹脂Cには、本発明の目的を損なわない範囲で、上述の硫黄系難燃剤、炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維、硫黄系難燃剤以外の難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑材、着色剤または結晶化促進剤など種々の添加剤を添加しても構わない。特に、積層成形体の強度および剛性の観点からは、炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を配合することが好ましい。これらの添加剤は、単独でも、組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本発明の耐炎性積層成形体は、繊維シート材の一面が成形体の外部に露出され、他面側の少なくとも一部が成形体本体を構成する熱可塑性樹脂Cに接合されていることを特徴とする。繊維シート材と熱可塑性樹脂Cとの接合し、積層成形体を製造する方法としては、熱プレスや振動溶着、レーザー溶着などの手法や、射出成形による方法が挙げられる。具体的には、繊維シート材と熱可塑性樹脂Cを含む成形体とを熱プレス装置に装填し、熱を加えながら圧力を印加し接合させる方法、熱可塑性樹脂成形体に繊維シート材を配置し、ヒーター熱源、電子ビームやレーザービームなどの高エネルギー密度熱源、高周波や電磁波により誘導加熱された熱源を用いて部分溶融溶接する方法、金型内にあらかじめ繊維シート材を設置し、熱可塑性樹脂Cを金型内に充填し射出成形する方法などが挙げられる。なかでも、接合強度と生産コストの観点から射出成形法が好ましい。
【0026】
なかでも、繊維シート材が熱可塑性繊維Bを含む場合、熱可塑性樹脂Bの一部と成形体本体を構成する熱可塑性樹脂Cの一部同士が融着してなることが好ましい。これらが融着することで、繊維シート基材と成形体との接合強度を向上させることができる。
【0027】
さらに、本発明の耐炎性積層成形体は、熱可塑性繊維Bと熱可塑性樹脂Cが同一の樹脂であることが好ましい。これらの樹脂が同一であることで、熱可塑性繊維Bと熱可塑性樹脂Cとが溶融した時に相溶性が高まり、熱可塑性樹脂Bを含む繊維シート材と熱可塑性樹脂Cとの接合強度が高くなる。本発明において、接合強度は1.5kg/cm以上であることが好ましい。接合強度が1.5kg/cm以上であることで、耐炎性積層成形体が炎にさらされた状態であっても繊維シート材と成形体とが分断されることがなく、また、積層成形体が使用される環境下での温度変化による繊維シート材と熱可塑性樹脂Cとの収縮差により剥がれることがなく、十分な耐炎効果を発揮することができる。
【0028】
本発明の耐炎性積層成形体において、繊維シート材が非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維Bを含む繊維シート材である場合において、特に優れた遮炎性を発現する機構としては、以下のとおりである。非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維Bを含む繊維シート材が炎に接触すると、熱可塑性繊維Bは溶融し、非溶融繊維Aの間を埋めるように膜化する。熱可塑性樹脂Bが膜化することで、非溶融繊維Aと酸素との接触を遮断し、その結果非溶融繊維Aは炭化する。こうして完成した炭化膜により、遮炎性が発現される。
【0029】
本発明の耐炎性積層成形体において、繊維シート材が非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維Bを含む繊維シート材である場合において、繊維シート材と熱可塑性樹脂Cとが熱融着し、その結果形成された熱可塑性繊維Bと熱可塑性樹脂Cとの融着相溶層の厚さは、10μm以上であることが好ましい。融着相溶層の厚さを10μm以上とすることで、耐炎性積層成形体が炎にさらされた状態であっても繊維シート材と成形体本体とが分断されることがなく、また、積層成形体が使用される環境下での温度変化による繊維シート材と熱可塑性樹脂Cとの収縮差により剥がれることがなく、十分な耐炎効果を発揮することができる。
【0030】
なお、融着相溶層の厚さは、以下の方法により求めることができる。繊維シート材と熱可塑性樹脂Cからなる積層成形体を所定の大きさに切削した後、走査電子顕微鏡(日本電子(株)製)を用い後方散乱線で200倍の倍率にて断面観察する。観察幅は600μm程度であり、両端を除く100μm等間隔の5か所の断面位置にて、繊維シート材が部分的に存在する積層成形体表面から最も遠い非溶融繊維Aまでの距離と、同積層成形体表面から最も遠い熱可塑性繊維Bと熱可塑性樹脂Cの未融着界面までの距離を測量し、後者の距離から前者の距離を差し引いた値を融着相溶層の厚さとし、上記5か所の断面位置の平均値にて求めた。
【0031】
本発明の耐炎性積層成形体は、繊維シート材が熱可塑性樹脂Cの表面に少なくとも部分的に存在する状態である。遮炎効果に関しては、当該繊維シート材が存在する側から繊維シート材に向けて炎が当てられた場合に遮炎性および耐炎性の効果を奏する。すなわち、耐炎性積層成形体において、炎が直接接触する部分に繊維シート材が存在するような形状である。なお、本発明における遮炎性とは、火炎を有効に遮ることであり、耐炎性とは、引火しても炎を上げて燃焼が持続しないことを指す。
【0032】
本発明の耐炎性積層成形体は、その高い遮炎性と耐炎性を生かし、住設や航空機、自動車分野などに適用できる。特に、xEV自動車(電動車)に搭載され、安全性の観点から各国規制にて耐炎性の規格が設けられている、バッテリーモジュール積載用パックに適用して有用なものである。
【0033】
本発明に係る耐炎性積層成形体の一実施形態としてのバッテリーモジュール積載パックの一例を図3に示す。複数のバッテリーモジュール6が内部に収容されるバッテリーモジュール積載パック5が、上述のような繊維シート材と熱可塑性樹脂Cからなる本発明に係る耐炎性積層成形体7で構成されている。
【実施例
【0034】
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。まず、本実施例で用いる材料と各特性の評価方法について説明する。
【0035】
(1)繊維シート材の評価方法
[目付]
30cm角のサンプルの重量を測定し、1m当たりの重量(g/m)で表した。
【0036】
[厚さ]
JIS L-1913(2010年)に準拠して測定した。
【0037】
(2)非溶融繊維A
<耐炎化糸>
7dtexのZoltek社製耐炎化繊維PYRON(登録商標)を51mmにカットしたものを用いた。JIS K7193(2010年)に準拠した方法で加熱したところ、1000℃でも発火は認められず、発火温度は1000℃以上である。また、熱伝導率は0.042W/m・Kであった。
【0038】
<炭素繊維>
直径30ミクロンの東レ(株)製“トレカ”(登録商標)を51mmにカットしたものを用いた。熱伝導率は8.4W/m・Kであった。
【0039】
(3)熱可塑性繊維B
<PPS繊維の延伸糸>
延伸されたPPS繊維として、単繊維繊度2.2dtex(直径14μm)、カット長51mmの東レ(株)製“トルコン”(登録商標)、品番S371を用いた。このPPS繊維のLOI値は34であった。繊維中の硫黄原子の比率は26.2重量%であった。
【0040】
(4)熱可塑性樹脂C
<ガラス繊維強化PPS樹脂>
東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)品番A504-X90Bを用いた。このPPS樹脂のLOI値は47であった。
【0041】
<ガラス繊維強化難燃PBT樹脂>
東レ(株)製“トレコン”(登録商標)品番1184G-A30Nを用いた。このPBT樹脂のLOI値は32であった。
【0042】
<ガラス繊維強化ポリアミド6樹脂>
ガラス繊維強化ポリアミド6樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)品番CM1011G-30B2)を用いて成形体本体を得た。このポリアミド樹脂のLOI値は24であった。
【0043】
(5)繊維シート材の作製
耐炎化糸およびPPS繊維の延伸糸を開繊機によって混合し、次いで混打綿機によって更に混合し、次いでカード機に通じてウェブを作成した。得られたウェブをクロスラップ機にて積層したのち、水流交絡マシンでフェルト化し、PPS繊維の延伸糸および耐炎化糸からなる不織布を得た。
【0044】
(6)耐炎性積層成形体の作製
簡易卓上ホットプレス機((株)井元製作所製)を用いて、上記繊維シート材と熱可塑性樹脂Cとを以下の条件にてホットプレスし、本発明の耐炎性積層成形体を得た。
繊維シート材を縦80mm、横80mmの正方形形状および縦80mm、横20mmの短冊形状に裁断加工し、次いでガラス繊維強化PPS樹脂を、射出成形機(住友重機械工業(株)製、SE100D)を用いて、シリンダ温度320℃、金型温度150℃の条件で、縦80mm、横80mm、厚み3mmの平板を製作した。さらに、該平板から切削により、縦80mm、横20mm、厚み3mmの短冊状平板も製作した。簡易卓上ホットプレス器の条件をPPSの射出成形温度でもある320℃に設定し、ゲージ圧10kNにて30sec加圧余熱した後、簡易卓上ホットプレス器の加圧を解放後、ガラス繊維強化PPS樹脂平板(縦80mm、横80mm、厚み3mmの平板)の上に縦80mm、横80mmの正方形形状繊維シート材を置き、再度、ゲージ圧10kNにて30sec加圧し一体化させ(以後、当該接合方法をホットプレス接合法と呼ぶ場合がある。)、図1に示すように、縦80mm、横80mmの繊維シート材(1)と熱可塑性樹脂C(2)を重ね合わせた厚み3mmの耐炎性評価用の耐炎性積層成形体の試験片を得た。同様の条件にて、図2に示すように、ガラス繊維強化PPS樹脂平板(縦80mm、横20mm、厚み3mmの短冊状平板)[熱可塑性樹脂C(4)]と縦80mm、横20mmの短冊形状の繊維シート材3とをそれぞれの端部を10mmオーバーラップさせ一体化させた縦150mm、横20mmの短冊状の耐炎性積層成形体における接合強度測定用の試験片を得た。
【0045】
(7)耐炎性積層成形体の評価方法
<耐炎性試験方法>
バーナーを用いたUL94 5Vに準拠した接炎条件(バーナー角度20±5°、メタンガス流量965±30ml、炎高さ125±10mm、内部の青色炎の高さ40±2mm)にて、図1に示す積層成形体(耐炎性評価試験片)の繊維シート材面を2分間接炎させた。接炎中、目視にて炎の貫通有無と引火有無を確認し、接炎から2分後に反接炎側の熱可塑性樹脂C表面中央の温度を非接触温度計(FLIR社製:品番CPA-0130A)にて測定した。接炎終了後、繊維シート材面の外観状態と反接炎側である熱可塑性樹脂C面の外観状態および接合面の内部状態を確認した。
【0046】
<接合強度試験方法>
図2に示す積層成形体(接合強度試験片)を用いて、引張試験機((株)島津製作所製 AG-500C)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度5mm/minにて引張試験を実施し、5サンプルの平均を接合強度とした。
【0047】
[実施例1]
繊維シート材として、PPS繊維の延伸糸と耐炎化糸の重量混率60対40の不織布を得た。目付は100g/m、厚さは1.21mmであった。得られた不織布とガラス繊維強化PPS樹脂とをホットプレス接合法にて一体化し、耐炎性積層成形体を得た。得られた耐炎性積層成形体は融着相溶層の厚さが70μmであり、引張試験の接合強度が4.3kg/cm、引張試験後の破壊形態は不織布の母材破壊と、良好な結果であった。耐炎性試験では、炎の貫通もガラス繊維強化PPS樹脂への着火もなく、反接炎側のガラス繊維強化PPS樹脂表面中央部の最高温度が188℃であった。接炎後の接炎側の繊維シート材は表層が炭化しているだけで、反接炎側および接合界面に変形や外観の大きな変化はなく、十分な遮炎性と耐炎性を有していた。
【0048】
[実施例2]
実施例1の不織布のPPS繊維の延伸糸と耐炎化糸の重量混率を、90対10に変更して、目付100g/m、厚さは1.53mmの不織布を得た。得られた不織布とガラス繊維強化PPS樹脂とを実施例1と同様にホットプレス接合法にて一体化し、耐炎性積層成形体を得た。得られた耐炎性積層成形体は融着相溶層の厚さが67μmであり、引張試験の接合強度が3.9kg/cm、破壊形態は不織布の母材破壊と、良好な結果であった。耐炎性試験では、炎の貫通もガラス繊維強化PPS樹脂への着火もなく、反接炎側のガラス繊維強化PPS樹脂表面中央の最高温度は221℃であった。接炎後の接炎側の繊維シート材は表層が炭化しているだけで、反接炎側および接合界面に変形や外観の大きな変化はなく、十分な遮炎性と耐炎性を有していた。
【0049】
[実施例3]
実施例1の不織布のPPS繊維の延伸糸と耐炎化糸の重量混率を、10対90に変更して、目付100g/m、厚さは1.63mmの不織布を得た。得られた不織布とガラス繊維強化PPS樹脂とを実施例1と同様にホットプレス接合法にて一体化し、耐炎性積層成形体を得た。得られた耐炎性積層成形体は融着相溶層の厚さが33μmであり、引張試験の接合強度が2.3kg/cm、破壊形態は不織布の母材破壊と、良好な結果であった。耐炎性試験では、炎の貫通もガラス繊維強化PPS樹脂への着火もなく、反接炎側のガラス繊維強化PPS樹脂表面中央の最高温度は208℃であった。接炎後の接炎側の繊維シート材は表層が炭化しているだけで、反接炎側および接合界面に変形や外観の大きな変化はなく、十分な遮炎性と耐炎性を有していた。
【0050】
[実施例4]
実施例1の繊維シート材として、耐炎化糸の代わりに炭素繊維(直径30ミクロンの東レ(株)製“トレカ”(登録商標)を51mmにカットしたもの(熱伝導率8.4W/m・K))を用いて、延伸されたPPS繊維と炭素繊維の比率を60対40とし、目付100g/m、厚さ1.89mmの不織布を得た。得られた不織布とガラス繊維強化PPS樹脂とを実施例1と同様にホットプレス接合法にて一体化し、積層成形体を得た。得られた積層成形体の融着相溶層の厚さは26μmであり、引張試験の接合強度が4.0kg/cm、破壊形態は不織布の母材破壊と、良好な結果であった。耐炎性試験では、炎の貫通もガラス繊維強化PPS樹脂への着火もなかったが、反接炎側のガラス繊維強化PPS樹脂表面中央の最高温度は270℃であった。接炎後の接炎側の繊維シート材表層および反接炎側、接合界面で著しい炭化と発泡が見られ、積層成形体の変形は20mm以上であった。
【0051】
[実施例5]
実施例1のガラス繊維強化PPS樹脂の代わりにガラス繊維強化難燃PBT樹脂(東レ(株)製“トレコン”(登録商標)品番1184G-A30N)を用いて耐炎性積層成形体を得た。このPBT樹脂のLOI値は32であった。なお積層成形体製作時の射出成形温度条件はシリンダ温度260℃、金型温度80℃へ変更した。ホットプレス時の温度条件は260℃へと変更し、他の条件は実施例1と同一とした。得られた耐炎性積層成形体は融着相溶層の厚さが0μmと不織布に樹脂が含侵されているだけであった。引張試験の接合強度が1.5kg/cm、破壊形態は接合界面破壊であった。耐炎性試験では炎の貫通はないものの、積層成形体端面のガラス繊維強化難燃PBT樹脂部に炎が着火するも、接炎終了後に自己消火された。反接炎側のガラス繊維強化難燃PBT樹脂表面中央の最高温度は190℃であった。接炎後の接炎側の繊維シート材は表層が炭化しているだけであったが、反接炎側に1mm程度の高さのゆがみ変形が見られた。接炎後の接炎側の繊維シート材は表層が炭化しているだけで、反接炎側および接合界面に大きな変形や外観の大きな変化はなく、十分な遮炎性と耐炎性を有していた。
【0052】
[実施例6]
実施例1の繊維シート材として、耐炎化糸100%を用いて目付100g/m、厚さ2.02mmの不織布を得た。得られた不織布とガラス繊維強化PPS樹脂とを実施例1と同様にホットプレス接合法にて一体化し、積層成形体を得た。得られた耐炎性積層成形体は融着相溶層の厚さが0μmと不織布に樹脂が含侵されているだけであった。引張試験の接合強度が1.5kg/cm、破壊形態は接合界面破壊であった。耐炎性試験では、炎の貫通もガラス繊維強化PPS樹脂への着火もなかったが、反接炎側のガラス繊維強化PPS樹脂表面中央の最高温度は212℃であった。接炎後の接炎側の繊維シート材は表層が炭化しているだけで、反接炎側および接合界面に変形や外観の大きな変化はなく、十分な遮炎性と耐炎性を有していた。
【0053】
[比較例1]
実施例1のガラス繊維強化PPS樹脂の代わりにガラス繊維強化ポリアミド6樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)品番CM1011G-30B2)を用いて積層成形体を得た。このポリアミド樹脂のLOI値は24であった。なお、積層成形体製作時の射出成形温度条件はシリンダ温度260℃、金型温度80℃へ変更した。ホットプレス時の温度条件は260℃へと変更し、他の条件は実施例1と同一とした。得られた積層成形体の融着相溶層の厚さは0μmと不織布に樹脂が含侵されているだけであった。引張試験の接合強度は1.3kg/cm、破壊形態は接合界面破壊であった。耐炎性試験では炎の貫通はないものの、積層成形体端面のガラス繊維強化ポリアミド6樹脂部に炎が着火し、接炎終了後も10秒程炎は自己消火されなかった。反接炎側のガラス繊維強化ポリアミド6樹脂表面中央の最高温度は198℃であった。接炎後の接炎側の繊維シート材は表層が炭化しているだけであったが、反接炎側に1mm程度の高さのゆがみ変形が見られた。
【0054】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る耐炎性積層成形体は、繊維シート材側が炎と接触した場合であっても、その高い遮炎性と耐炎性に優れるため、その形状および特性を維持することが可能であり、住設や航空機、自動車分野などに適用される。特に、xEV自動車に搭載され、安全性の観点から各国規制にて耐炎性の規格が設けられている、バッテリーモジュール積載用パックに好適に使用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1、3 繊維シート材
2、4 熱可塑性樹脂C
5 バッテリーモジュール積載パック
6 バッテリーモジュール
7 耐炎性積層成形体
図1
図2
図3