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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】沸騰冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20250218BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20250218BHJP
   H01L 23/427 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
F28D15/02 102A
F28D15/02 M
F28D15/02 101L
H05K7/20 Q
H01L23/46 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021044510
(22)【出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022143797
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内部 銀二
(72)【発明者】
【氏名】中村 淳
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2012-0057409(KR,A)
【文献】特開平08-313178(JP,A)
【文献】特開2020-106209(JP,A)
【文献】国際公開第2021/261552(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150415(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1305437(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0305199(US,A1)
【文献】特開2006-114603(JP,A)
【文献】特開2020-106208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
H05K 7/20
H01L 23/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を収容する収容室を有し、発熱体からの熱を受ける受熱部と、
前記受熱部からの熱を放熱する放熱部と、
前記受熱部で冷媒が気化されることにより生成された気相冷媒を前記放熱部に輸送する第1管部と、
前記放熱部で前記気相冷媒が凝縮されることにより生成された液相冷媒を前記受熱部に輸送する第2管部と、を備え、
前記受熱部は、前記収容室の少なくとも一部を第1空間と第2空間とに仕切る壁部材を有し、
前記第1管部は、前記第2空間に向けて開口する第1開口を有し、
前記第2管部は、前記第2空間に向けて開口する第2開口を有し、
前記第1開口は、前記第2空間に収容される液状の冷媒の液面よりも上方に位置し、
前記第2開口は、前記第2空間に収容される液状の冷媒の液面よりも下方に位置し、
前記第1管部は、前記受熱部から前記放熱部に前記気相冷媒を輸送する複数の蒸気管を有し、
前記第2管部は、前記放熱部から前記受熱部に前記液相冷媒を輸送する複数の液管を有し、
前記複数の蒸気管は、前記第1開口を有する蒸気管と、前記第1空間に向けて開口する開口を有する蒸気管と、を含み、
前記複数の液管は、前記第2開口を有する液管と、前記第1空間に向けて開口する開口を有する液管と、を含み、
前記壁部材の少なくとも一部は、前記収容室に収容される液状の冷媒の液面よりも上方に位置し、
前記壁部材は、前記収容室に収容される液状の冷媒を、前記第1空間に収容される冷媒と前記第2空間に収容される冷媒とに区分し、前記第1空間から前記第1開口への液状の冷媒の移動を阻止する、
沸騰冷却装置。
【請求項2】
前記壁部材は、前記収容室の底面から上方に延びる、
請求項に記載の沸騰冷却装置。
【請求項3】
前記壁部材の高さをhとし、前記壁部材の厚さ方向に沿う前記第2空間の長さをaとし、前記壁部材の高さ方向での前記収容室の長さをbとし、前記壁部材の厚さ方向での前記第1開口と前記収容室の側面との間の距離をLとし、前記壁部材の高さ方向と水平面とのなす角度をθ2としたとき、
θ2が45°よりも小さい場合、
h>(b-(a-L)/tanθ2)の関係を満たす、
請求項に記載の沸騰冷却装置。
【請求項4】
冷媒を収容する収容室を有し、発熱体からの熱を受ける受熱部と、
前記受熱部からの熱を放熱する放熱部と、
前記受熱部で冷媒が気化されることにより生成された気相冷媒を前記放熱部に輸送する第1管部と、
前記放熱部で前記気相冷媒が凝縮されることにより生成された液相冷媒を前記受熱部に輸送する第2管部と、を備え、
前記受熱部は、前記収容室の少なくとも一部を第1空間と第2空間とに仕切る壁部材を有し、
前記第1管部は、前記第2空間に向けて開口する第1開口を有し、
前記第2管部は、前記第1空間に向けて開口する第2開口を有し、
前記第1開口は、前記壁部材よりも上方に位置し、
前記第2開口は、前記第1空間に収容される液状の冷媒の液面よりも下方に位置し、
前記第1管部は、前記受熱部から前記放熱部に前記気相冷媒を輸送する複数の蒸気管を有し、
前記第2管部は、前記放熱部から前記受熱部に前記液相冷媒を輸送する複数の液管を有し、
前記複数の蒸気管は、前記第1開口を有する蒸気管と、前記壁部材の厚さ方向にみて前記壁部材に重ならない蒸気管と、を含み、
前記複数の液管は、前記第2開口を有する液管と、前記壁部材の厚さ方向にみて前記壁部材に重ならない液管と、を含み、
前記壁部材は、前記収容室に収容される液状の冷媒の液面よりも上方に位置し、前記第1空間から前記第1開口への液状の冷媒の移動を阻止する、
沸騰冷却装置。
【請求項5】
前記壁部材には、前記第2開口を有する液管が貫通する、
請求項に記載の沸騰冷却装置。
【請求項6】
前記壁部材は、前記収容室の側面から側方に向けて延びる、
請求項4または5に記載の沸騰冷却装置。
【請求項7】
前記壁部材の高さをhとし、前記壁部材の厚さ方向での前記第2空間の長さをcとし、前記壁部材の高さ方向での前記第1開口と前記収容室の側面との間の距離をLとし、前記壁部材の高さ方向と水平面とのなす角度をθ2としたとき、
θ2が45°よりも小さい場合、
h>(L+c×tanθ2)の関係を満たす、
請求項に記載の沸騰冷却装置。
【請求項8】
前記受熱部は、側方から発熱体からの熱を受ける、
請求項1からのいずれか1項に記載の沸騰冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷媒の沸騰に伴う潜熱による熱輸送を利用して発熱体を冷却する沸騰冷却装置が知られている。
【0003】
特許文献1に記載の冷却装置は、受熱部と、放熱部と、これらを連結する蒸気管および液管と、を有する。受熱部は、冷媒を貯蔵する容器であり、冷却対象物からの熱を受け、当該熱により冷媒を気化させる。蒸気管は、受熱部で気化した冷媒を放熱部に輸送する。放熱部は、冷媒から放熱することで冷媒を凝縮液化させる。液管は、放熱部で凝縮液化した冷媒を受熱部に輸送する。ここで、受熱部の容器の側面には、蒸気流出口および液流入口が設けられる。蒸気流出口には、蒸気管が接続される。液流入口には、液管が接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/146110号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の冷却装置では、傾斜した姿勢で設置した場合、冷媒が蒸気流出口を塞いでしまうことにより、冷媒の循環が阻害され、その結果、冷却性能が低下してしまうという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本発明の一態様に係る沸騰冷却装置は、冷媒を収容する収容室を有し、発熱体からの熱を受ける受熱部と、前記受熱部からの熱を放熱する放熱部と、前記受熱部で冷媒が気化されることにより生成された気相冷媒を前記放熱部に輸送する第1管部と、前記放熱部で前記気相冷媒が凝縮されることにより生成された液相冷媒を前記受熱部に輸送する第2管部と、を備え、前記受熱部は、前記収容室の少なくとも一部を第1空間と第2空間とに仕切る壁部材を有し、前記第1管部は、前記第2空間に向けて開口する第1開口を有し、前記壁部材の少なくとも一部は、前記収容室に収容される液状の冷媒の液面よりも上方に位置し、前記壁部材は、前記第1空間から前記第1開口への液状の冷媒の移動を阻止する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態に係る沸騰冷却装置の概略構成を示す斜視図である。
図2図1に示す沸騰冷却装置の断面図である。
図3図2中のA-A線断面図である。
図4図2中のB-B線断面図である。
図5】第1実施形態に係る沸騰冷却装置の使用例における受熱部の状態を示す図である。
図6】第1実施形態に係る沸騰冷却装置の使用例における放熱部の状態を示す図である。
図7】第2実子形態に係る沸騰冷却装置の断面図である。
図8図7中のC-C線断面図である。
図9図7中のD-D線断面図である。
図10】第2実施形態に係る沸騰冷却装置の使用例における受熱部の状態を示す図である。
図11】沸騰冷却装置の応用例を示す斜視図である。
図12】変形例1に係る沸騰冷却装置の断面図である。
図13】変形例2に係る沸騰冷却装置の断面図である。
図14】変形例3に係る沸騰冷却装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法および縮尺は実際と適宜に異なり、理解を容易にするために模式的に示している部分もある。また、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0009】
1.第1実施形態
1-1.沸騰冷却装置の概略
図1は、第1実施形態に係る沸騰冷却装置1の概略構成を示す斜視図である。以下、図1に基づいて、沸騰冷却装置1の概略を説明する。以下の説明は、便宜上、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を適宜に用いて行う。また、以下では、X軸に沿う一方向がX1方向であり、X1方向とは反対の方向がX2方向である。Y軸に沿う一方向がY1方向であり、Y1方向とは反対の方向がY2方向である。Z軸に沿う一方向がZ1方向であり、Z1方向とは反対の方向がZ2方向である。
【0010】
ここで、典型的には、Z軸が鉛直線であり、Z1方向が鉛直上方に相当し、Z2方向が鉛直下方に相当する。なお、実空間でのZ軸の向きは、沸騰冷却装置1の設置姿勢に応じて決められる。Z軸は、鉛直線に対して45°以下の範囲内で傾斜してもよい。また、以下では、単に「上方」とは、鉛直線に沿う方向での位置を示しており、鉛直上方および鉛直斜め上方の双方を概念として含む。同様に、単に「下方」とは、鉛直線に沿う方向での位置を示しており、鉛直下方および鉛直斜め下方の双方を概念として含む。
【0011】
沸騰冷却装置1は、図1中に二点鎖線で示す2個の発熱体100を冷却する。各発熱体100は、例えば、ダイオードまたはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子である。パワー半導体素子は、例えば、鉄道車両、自動車または家庭用電気機械等に搭載されるインバーターまたは整流器等のパワーエレクトロニクス製品に搭載される。
【0012】
図1に示す例では、各発熱体100がXZ平面に沿う扁平形状をなす。また、2個の発熱体100は、沸騰冷却装置1を挟むように、Y軸に沿う方向に並んで配置される。なお、図1では、発熱体100の外形が概略的に示される。発熱体100の形状は、図1に示す例に限定されず、任意である。また、2個の発熱体100のうちの一方が省略されてもよい。また、発熱体100は、パワー半導体素子に限定されず、冷却を必要とするのであれば、駆動または通電等により発熱する他の電気部品または電子部品でもよい。
【0013】
沸騰冷却装置1は、気化した冷媒REと液化した冷媒REとの密度差を利用したループ型サーモサイフォン方式の冷却器である。沸騰冷却装置1は、受熱部10と放熱部20と第1管部30と第2管部40とを有する。
【0014】
受熱部10では、冷媒REが発熱体100からの熱により加熱され、冷媒REが気化されることにより、気相冷媒が生成される。当該気相冷媒は、密度の減少により第1管部30を通じて上昇し、放熱部20に輸送される。放熱部20では、当該気相冷媒が放熱により冷却され、冷媒REが凝縮されることにより、液相冷媒が生成される。当該液相冷媒は、密度の増大により第2管部40を通じて下降し、受熱部10に輸送される。このように、気化した冷媒REと液化した冷媒REとの密度差により受熱部10からの冷媒REを第1管部30、放熱部20、第2管部40および受熱部10の順に循環させながら、発熱体100の冷却が行われる。以下、沸騰冷却装置1の各部を順に説明する。
【0015】
1-2.沸騰冷却装置の各部
図2は、図1に示す沸騰冷却装置1の断面図である。図3は、図2中のA-A線断面図である。図4は、図2中のB-B線断面図である。なお、図2では、沸騰冷却装置1をX軸およびZ軸を含む平面に平行な切断面が示される。図3では、受熱部10をX軸およびY軸を含む平面に平行な切断面が示される。図4では、受熱部10をY軸およびZ軸を含む平面に平行な切断面が示される。
【0016】
1-2a.受熱部
受熱部10は、収容室S10を有する構造体であり、発熱体100からの熱を受ける。収容室S10は、液状の冷媒REを収容する空間である。受熱部10では、発熱体100の熱によって冷媒REが気化されることにより気相冷媒が生成される。
【0017】
冷媒REとしては、特に限定されないが、例えば、水等の水系冷媒、メタノール等のアルコール系冷媒、アセトン等のケトン系冷媒、エチレングリコール等のグリコール系冷媒、フロリナート等のフッ化炭素系冷媒、HFC134a等のフロン系冷媒、およびブタン等の炭化水素系冷媒等が挙げられる。なお、冷媒REには、必要に応じて、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤または炭化水素系界面活性剤等の界面活性剤等が添加されてもよい。また、冷媒REは、前述の冷媒の2種以上を組み合わせてもよい。
【0018】
図2に示す例では、受熱部10は、収容室S10を内部空間として有する箱状をなす容器である。ここで、受熱部10は、底板11と天板12と側壁13と壁部材14とを有する。
【0019】
底板11および天板12のそれぞれは、Z軸に直交する方向に広がる平板である。ただし、天板12は、底板11に対してZ1方向に位置しており、天板12には、第1管部30および第2管部40との接続のための孔が設けられる。底板11および天板12は、互いに平行となるように配置されており、これらの間には、側壁13が配置される。
【0020】
側壁13は、底板11および天板12の外周同士を全周にわたって連結する。本実施形態では、側壁13の外周面には、発熱体100が接触する。また、側壁13の内側には、壁部材14が配置される。こで、壁部材14は、底板11から天板12に向けて延びており、天板12と壁部材14との間には、隙間d1が形成される。
【0021】
壁部材14は、収容室S10の一部を図2中の左右に二分するように配置され、底板11および側壁13のそれぞれに接続される板状の部材である。ここで、壁部材14は、X軸に直交する面に沿って広がっており、図3に示すように、収容室S10の一部を第1空間S11と第2空間S12とに区分する。また、図4に示すように、壁部材14は、天板12に対向する端縁を除く周縁が全域にわたり底板11および側壁13に接続される。
【0022】
図2に示すように、第1空間S11は、壁部材14のX1方向を向く面と底板11と側壁13とで囲まれる凹部である。第2空間S12は、壁部材14のX2方向を向く面と底板11と側壁13とで囲まれる凹部である。
【0023】
本実施形態では、第1空間S11および第2空間S12のそれぞれに液状の冷媒REが収容される。すなわち、本実施形態では、収容室S10の収容される冷媒REが第1空間S11に収容される冷媒REと第2空間S12に収容される冷媒REとに区分される。
【0024】
ここで、図2に示すように、Z軸が鉛直線となるよう沸騰冷却装置1が傾斜せずに設置される場合、壁部材14のZ1方向での端は、冷媒REの液面RE0よりも上方に位置する。言い換えると、この場合、冷媒REの液面RE0は、壁部材14のZ1方向での端よりも下方に位置する。このため、Z軸が鉛直線である場合、壁部材14と天板12との間の隙間d1を介して第1空間S11と第2空間S12との間での気体状の冷媒REの移動を許容するが、第1空間S11と第2空間S12との間での液状の冷媒REの移動が壁部材14により阻止される。この阻止は、Y1方向にみて時計回りとなるよう鉛直線に対してZ軸がY軸まわりに所定角度範囲内で傾斜しても実現される。なお、壁部材14の作用効果については、後述の図4に基づいて詳述する。
【0025】
受熱部10は、熱伝導性に優れる材料で構成される。受熱部10の具体的な構成材料としては、例えば、銅、アルミニウムまたはこれらのいずれかの合金等の金属材料が挙げられる。なお、受熱部10の底板11、天板12、側壁13および壁部材14の各部の構成材料は、互いに同じであっても異なってもよい。また、底板11、天板12、側壁13および壁部材14のそれぞれは別部材で構成されてもよいし、底板11、天板12、側壁13および壁部材14は、一体で構成されてもよい。
【0026】
ただし、壁部材14は、熱伝導性を有しなくてもよいが、熱伝導性を有する場合、発熱体100から冷媒REに熱を伝達する伝熱面の面積が大きくなるので、冷媒REの核沸騰を効率的に生じさせることができる。また、この場合、冷媒REの核沸騰を促進する観点から、壁部材14の表面は、複数の凹部または複数の凸部を有することが好ましい。当該複数の凹部または当該複数の凸部としては、例えば、切削等の加工による加工痕、ディンプル加工による複数の凹部、ブラスト処理による複数の凹凸部、エッチング処理による凹部パターンまたは凸部パターン、連続空孔を有する多孔質体の表面、押出成形、溶接またはロウ付け等により形成される並列型、格子型または波型のフィン等が挙げられる。
【0027】
以上の受熱部10には、発熱体100が熱的に接続される。本実施形態では、発熱体100が側壁13の外表面に熱的に接続される。ここで、「熱的に接続」とは、次の条件a、bまたはcのいずれかを満たすことをいう。条件a:2つの部材が物理的に直接に接する。条件b:2つの部材が50μm以下の間隙を介して配置される。条件c:2つの部材が10W・m-1・K-1以上の熱伝導率の他の部材を介して物理的に接続される。なお、各条件における2つの部材間には、伝熱グリースおよび接着剤等が存在してもよい。この場合、接着剤は、熱伝導性を高める観点から、熱伝導性のフィラー等を含むことが好ましい。
【0028】
1-2b.放熱部
放熱部20は、凝縮室S20を有する構造体であり、受熱部10からの熱を放熱する。凝縮室S20は、冷媒REを気化した状態から凝縮液化させる空間である。放熱部20では、受熱部10で生成された気相冷媒が凝縮されることにより液相冷媒が生成される。ここで、放熱部20は、凝縮室S20の気相冷媒を外部の流体との熱交換により放熱することにより凝縮液化させる。当該外部の流体は、凝縮室S20の外部を流動する流体であればよく、特に限定されず、液体でも気体でもよいが、典型的には、例えば空気である。
【0029】
図2に示す例では、放熱部20は、2個の容器21と複数の放熱フィン22とを有する。2個の容器21のそれぞれは、凝縮室S20を内部空間として有する。容器21は、底板211と天板212と側壁213とを有する。これらで囲まれた空間が凝縮室S20である。底板211および天板212のそれぞれは、Z軸に交差する方向に広がる平板である。ただし、底板211は、天板212に対してZ2方向に位置しており、底板211には、第1管部30および第2管部40との接続のための孔が設けられる。底板211および天板212は、互いに平行となるように配置されており、これらの間には、側壁213が配置される。側壁213は、底板211および天板212の外周同士を全周にわたって連結する。
【0030】
本実施形態では、側壁213が円筒状をなしており、凝縮室S20が円柱状をなす。なお、凝縮室S20の形状は、円柱状に限定されず、例えば、角各柱状でもよい。また、側壁213の内周面および外周面の形状は、互いに異なってもよい。
【0031】
容器21は、熱伝導性に優れる材料で構成される。容器21の具体的な材料としては、例えば、銅、アルミニウムまたはこれらのいずれかの合金等の金属材料が挙げられる。
【0032】
各放熱フィン22は、2個の容器21に熱的に接続される。各放熱フィン22は、平板状の部材である。複数の放熱フィン22は、互いに厚さ方向に間隔を隔てて配置される。各放熱フィン22は、熱伝導性に優れる材料で構成される。放熱フィン22の具体的な材料としては、例えば、銅、アルミニウムまたはこれらのいずれかの合金等の金属材料が挙げられる。各放熱フィン22には、容器21を挿入するための孔が設けられる。放熱フィン22は、例えば、容器21に対して拡管、圧入、接着剤、ネジ止め、ロウ付けまたは溶接等により固定される。
【0033】
なお、放熱フィン22の形状は、図2に示す例に限定されず、任意である。また、放熱フィン22は、必要に応じて設ければよく、省略してもよい。ただし、放熱部20が複数の放熱フィン22を有することにより、冷媒REの気体を効率的に凝縮液化させることができる。
【0034】
1-2c.第1管部
第1管部30は、受熱部10で冷媒REが気化されることにより生成された気相冷媒を放熱部20に輸送する第1流路S30を有する。本実施形態では、第1管部30は、前述の2個の容器21に対応する2個の蒸気管31で構成される。2個の蒸気管31のそれぞれは、Z軸に沿って直線状に延びており、第1流路S30を内部空間として有する管である。
【0035】
蒸気管31は、例えば、銅、アルミニウムまたはこれらのいずれかの合金等の金属材料で構成される。また、蒸気管31は、天板12および底板211に対してロウ付け等により固定される。なお、蒸気管31の構成材料は、金属材料に限定されず、例えば、セラミックス材料または樹脂材料等でもよい。
【0036】
蒸気管31は、受熱部10および放熱部20のそれぞれに接続されており、受熱部10に向けて開口する開口31aと、放熱部20に向けて開口する開口31bと、を有する。
開口31aは、蒸気管31の内周面31cのZ2方向での端縁で囲まれる空間である。開口31bは、蒸気管31の内周面31cのZ1方向での端縁で囲まれる空間である。
【0037】
ここで、開口31aは、天板12のZ2方向を向く面である内壁面と同一平面上に位置する。また、2個の蒸気管31のうち、一方の蒸気管31の開口31aは、前述の第1空間S11に向けて開口し、他方の蒸気管31の開口31aは、「第1開口」の一例であり、前述の第2空間S12に向けて開口する。
【0038】
また、蒸気管31の一部は、放熱部20の底板211よりもZ1方向に突出する。したがって、開口31bは、底板211よりもZ1方向に位置する。このため、容器21内で開口31bへ液相冷媒が混入したり、当該液相冷媒により開口31bが塞がれたりすることが低減される。この点については、後述の図5に基づいて詳述する。なお、第1流路S30は、蒸気管31と前述の受熱部10の天板12とにより形成されてもよい。この場合、開口31aは、天板12に設けられる孔により形成される。
【0039】
第1流路S30は、蒸気管31の内周面31cで囲まれる空間である。第1流路S30は、開口31aを介して収容室S10に連通するとともに、開口31bを介して凝縮室S20に連通する。
【0040】
図2に示す例では、第1流路S30の幅は、一定である。また、第1流路S30の断面積は、一定である。さらに、第1流路S30の横断面の形状は、円形である。なお、第1流路S30の横断面の形状は、円形に限定されず、例えば、四角形等の多角形、楕円形等でもよい。また、第1流路S30は、屈曲または湾曲する部分を有してもよい。
【0041】
1-2d.第2管部
第2管部40は、放熱部20で気相冷媒が凝縮されることにより生成された液相冷媒を受熱部10に輸送する第2流路S40を有する。本実施形態では、第2管部40は、前述の2個の容器21に対応する2個の液管41で構成される。2個の液管41のそれぞれは、Z軸に沿って直線状に延びており、第2流路S40を内部空間として有する管である。
【0042】
液管41は、例えば、銅、アルミニウムまたはこれらのいずれかの合金等の金属材料で構成される。また、液管41は、天板12および底板211に対してロウ付け等により固定される。なお、液管41の構成材料は、金属材料に限定されず、例えば、セラミックス材料または樹脂材料等でもよい。また、液管41の構成材料は、蒸気管31の構成材料と同一であってもよいし異なってもよい。
【0043】
液管41は、受熱部10および放熱部20のそれぞれに接続されており、受熱部10に向けて開口する開口41aと、放熱部20に向けて開口する開口41bと、を有する。開口41aは、液管41の内周面41cのZ2方向での端縁で囲まれる空間である。開口41bは、液管41の内周面41cのZ1方向での端縁で囲まれる空間である。
【0044】
ここで、液管41の一部は、受熱部10の天板12よりもZ2方向に突出する。したがって、開口41aは、天板12よりもZ2方向に位置する。本実施形態では、開口41aは、冷媒REの液面RE0よりも下方に位置する。このため、気相冷媒が開口41aに混入され難くすることができる。しかも、開口41aは、発熱体100よりも下方に位置しており、発熱体100と受熱部10とが重なる方向にみて発熱体100に重ならない。このため、冷媒REの核沸騰により生じた気泡が開口41aに入り難くすることができる。また、2個の液管41のうち、一方の液管41の開口41aは、前述の第1空間S11に位置し、他方の液管41の開口41aは、「第2開口」の一例であり、前述の第2空間S12に位置する。
【0045】
また、開口41bは、放熱部20の底板211のZ1方向を向く面と同一平面上に位置する。このため、容器21内で開口41bへ液相冷媒を導入しやすくすることができる。この点については、後述の図5に基づいて詳述する。なお、第2流路S40は、液管41と前述の放熱部20の底板211とにより形成されてもよい。この場合、開口41bは、底板211に設けられる孔により形成される。
【0046】
第2流路S40は、液管41の内周面41cで囲まれる空間である。第2流路S40は、開口41aを介して収容室S10に連通するとともに、開口41bを介して凝縮室S20に連通する。
【0047】
第2流路S40の断面積は、前述の第1流路S30の断面積よりも小さい。すなわち、第1流路S30の断面積は、第2流路S40の断面積よりも大きい。このため、第1流路S30の断面積が第2流路S40の断面積以下である構成に比べて、第1流路S30での気相冷媒の輸送を円滑に行うことができる。なお、第2流路S40の断面積は、第1流路S30の断面積に等しくてもよい。
【0048】
図2に示す例では、第2流路S40の幅は、一定である。また、第2流路S40の断面積は、一定である。さらに、第2流路S40の横断面の形状は、円形である。なお、第2流路S40の横断面の形状は、円形に限定されず、例えば、四角形等の多角形、楕円形等でもよい。また、第2流路S40は、屈曲または湾曲する部分を有してもよい。
【0049】
1-3.沸騰冷却装置の使用例
図5は、第1実施形態に係る沸騰冷却装置1の使用例における受熱部10の状態を示す図である。図5では、沸騰冷却装置1がY軸まわりに角度θ1で傾斜して設置された場合の受熱部10の状態が示される。ここで、角度θ1は、水平面F0と受熱部10の底面とのなす角度に等しいか、あるいは、収容室S10の中心線LCまたは液管41の中心線と鉛直線とのなす角度である。具体的には、角度θ1は、45°以下の角度である。なお、中心線LCは、収容室S10の中心を通り、かつ、底板11または天板12に直交する直線である。
【0050】
図5に示すように、沸騰冷却装置1の傾斜角度が角度θ1である場合でも、壁部材14のZ1方向での端は、冷媒REの液面RE0よりも上方に位置する。言い換えると、この場合でも、冷媒REの液面RE0は、壁部材14のZ1方向での端よりも下方に位置する。このため、この場合でも、壁部材14と天板12との間の隙間d1を介して第1空間S11と第2空間S12との間での気体状の冷媒REの移動を許容するが、第1空間S11と第2空間S12との間での液状の冷媒REの移動が壁部材14により阻止される。なお、沸騰冷却装置1の傾斜角度が角度θ1である場合、壁部材14のZ1方向での端が液面RE0に一致してもよい。
【0051】
図5には、沸騰冷却装置1の傾斜角度が角度θ1である場合の液面RE0が実線で示される。また、図5には、沸騰冷却装置1を傾斜させない場合の液面RE0が一点鎖線で示される。さらに、図5には、壁部材14を省略した場合の冷媒REの液面RE0が二点鎖線で示される。
【0052】
図5に示すように、沸騰冷却装置1を傾斜させた場合、第1空間S11の底面が第2空間S12の底面よりも上方に位置する。この場合であっても、第1空間S11から第2空間S12への液状の冷媒REの移動が壁部材14により阻止されるので、壁部材14を省略した場合に比べて、冷媒REの液面RE0と蒸気管31の開口31aとの間の距離を大きくすることができる。このため、沸騰冷却装置1を傾斜させた場合でも、冷媒REによる開口31aの封鎖を低減することができる。
【0053】
ここで、液面RE0は、第1空間S11および第2空間S12のそれぞれで個別にY軸まわりにX軸に対して傾斜する。したがって、第1空間S11および第2空間S12のそれぞれでは、X軸に沿う方向で液面RE0の中央と天板12との間の距離は、ほとんど変化しない。
【0054】
図5に示す例では、開口31aが第1空間S11および第2空間S12のそれぞれのX軸に沿う方向での中央に位置する。このため、冷媒REの液面RE0と蒸気管31の開口31aとの間の距離は、沸騰冷却装置1を傾斜させない場合と比べて、ほとんど変化しない。
【0055】
Z軸に沿う方向での壁部材14の長さ、すなわち壁部材14の高さhは、前述のように、沸騰冷却装置1の傾斜角度が角度θ1である場合でも、壁部材14のZ1方向での端が液面RE0よりも上方に位置するよう設定される。
【0056】
ここで、高さhは、高さH1よりも高いことが好ましい。この場合、前述のような壁部材14による効果が好適に得られる。ただし、高さH1は、以下の式(1)により求められる。
H1=(b-(a-L)/tanθ2) (1)
式(1)中、aは、X軸に沿う方向での第2空間S12の長さ[mm]である。bは、Z軸に沿う方向での収容室S10の長さ[mm]である。Lは、第2空間S12に対応する開口31aについて、X軸に沿う方向での開口31aと側壁13との間の距離[mm]である。θ2は、水平面F0とZ軸とのなす角度[°]であり、θ2=90[°]-θ1の関係を満たす。
【0057】
また、図5に示すように、沸騰冷却装置1の傾斜角度が角度θ1である場合、蒸気管31が液管41に対して上方に位置する。このため、前述のように開口31aと液面RE0との間の距離を大きくしつつ、蒸気管31と側壁13または壁部材14との間に液管41を配置するための領域を十分に確保することができる。
【0058】
図6は、第1実施形態に係る沸騰冷却装置1の使用例における放熱部20の状態を示す図である。図6では、前述の図5に示すように沸騰冷却装置1がY軸まわりに傾斜して設置された場合の放熱部20の状態が示される。
【0059】
図6に示すように、沸騰冷却装置1の傾斜角度が角度θ1である場合、開口41bが開口31bに対して下方に位置する。このため、開口41bが開口31bに対して上方に位置する構成に比べて、容器21から開口41bに液相冷媒を導入させやすい。しかも、本実施形態では、前述のように開口41bが容器21の底板211の内壁面に開口するので、当該内壁面に沿って液相冷媒を開口41bに円滑に案内することができる。
【0060】
また、開口31bが開口41bに対して上方に位置するので、開口31bが開口41bに対して下方に位置する構成に比べて、開口31bが容器21内の液相冷媒により塞がれ難い。しかも、本実施形態では、前述のように開口31bが底板211よりもZ1方向に位置するので、容器21内に溜まる液相冷媒の液面よりも上方に開口31bを位置させることができる。このため、容器21内で開口31bへ液相冷媒が混入したり、当該液相冷媒により開口31bが塞がれたりすることが好適に低減される。
【0061】
1-4.まとめ
以上の沸騰冷却装置1は、前述のように、受熱部10と放熱部20と第1管部30と第2管部40とを有する。受熱部10は、冷媒REを収容する収容室S10を有し、発熱体100からの熱を受ける。放熱部20は、受熱部10からの熱を放熱する。第1管部30は、受熱部10で冷媒REが気化されることにより生成された気相冷媒を放熱部20に輸送する。第2管部40は、放熱部20で気相冷媒が凝縮されることにより生成された液相冷媒を受熱部10に輸送する。
【0062】
そのうえで、受熱部10は、収容室S10の少なくとも一部を第1空間S11と第2空間S12とに仕切る壁部材14を有する。ここで、第1管部30は、第2空間S12に向けて開口する第1開口としての開口31aを有する。また、壁部材14の少なくとも一部は、収容室S10に収容される液状の冷媒REの液面RE0よりも上方に位置する。そして、壁部材14は、第1空間S11から第1開口としての開口31aへの液状の冷媒REの移動を阻止する。
【0063】
以上の沸騰冷却装置では、収容室S10に収容される液状の冷媒REの液面RE0よりも上方に壁部材14の少なくとも一部が位置するので、収容室S10の中心線LCが鉛直線VLに対して傾斜する場合でも、壁部材14が第1空間S11から第1開口としての開口31aへの液状の冷媒REの移動を阻止することができる。このため、沸騰冷却装置1を傾斜した姿勢で設置した場合でも、冷媒REが第1開口としての開口31aを塞いでしまうことを低減することができる。この結果、沸騰冷却装置1の設置姿勢によらず、受熱部10から第1管部30、放熱部20および第2管部40をこの順に通って受熱部10に戻るという冷媒REの循環が従来に比べて円滑に行われるので、冷却性能の低下を低減することができる。
【0064】
ここで、第1空間S11と第2空間S12とが収容室S10内で互いに連通するので、第1空間S11および第2空間S12のそれぞれが独立した空間である構成に比べて、沸騰冷却装置1の製造時における収容室S10への冷媒REの充填が簡単に済むという利点がある。また、中心線LCが鉛直線VLに対して傾斜する場合、前述の放熱フィン22が水平面F0に対して傾斜するので、放熱フィン22が水平面F0に対して平行である場合に比べて、放熱フィン22に沿って気流を生じさせやすく、放熱部20の放熱性を高めることができる。
【0065】
本実施形態では、前述のように、壁部材14は、収容室S10に収容される液状の冷媒REを、第1空間S11に収容される冷媒REと第2空間S12に収容される冷媒REとに区分する。このため、1つの空間に液状の冷媒REを収容する構成に比べて、沸騰冷却装置1を傾斜した姿勢で設置した場合の冷媒REの液面RE0と第1開口としての開口31aとの間の距離を大きくすることができる。
【0066】
また、前述のように、第2管部40は、第2空間S12に向けて開口する第2開口としての開口41aを有する。したがって、第1開口としての開口31aおよび第2開口としての開口41aの双方が第2空間S12に向けて開口する。
【0067】
そのうえで、第1開口としての開口31aは、第2空間S12に収容される液状の冷媒REの液面RE0よりも上方に位置する。このため、第2空間S12で生じた気相冷媒を円滑に第1開口としての開口31aに導入することができる。
【0068】
一方、第2開口としての開口41aは、第2空間S12に収容される液状の冷媒REの液面RE0よりも下方に位置する。このため、第2空間S12で生じた気相冷媒が第2開口としての開口41aに混入するのを低減することができる。しかも、第1開口としての開口31aおよび第2開口としての開口41aの双方が第2空間S12に向けて開口するので、第1管部30および第2管部40を互いに近づけて配置することができる。この結果、沸騰冷却装置1を傾斜した姿勢で設置した場合に、第2開口としての開口41aが冷媒REに接触したり離反したりすることを低減することができる。
【0069】
さらに、前述のように、第1管部30は、受熱部10から放熱部20に気相冷媒を輸送する複数の蒸気管31を有する。複数の蒸気管31は、第1開口としての開口31aを有する蒸気管31と、第1空間S11に向けて開口する開口31aを有する蒸気管31と、を含む。また、第2管部40は、放熱部20から受熱部10に液相冷媒を輸送する複数の液管41を有する。複数の液管41は、第2開口としての開口41aを有する液管41と、第1空間S11に向けて開口する開口41aを有する液管41と、を含む。
【0070】
このように複数の蒸気管31および複数の液管41を用いることにより、冷媒REの循環効率を高めることができる。また、このように複数の蒸気管31および複数の液管41を有する構成では、収容室S10の中心線LCからずれた位置に蒸気管31および液管41が配置される。このため、当該構成では、沸騰冷却装置1を傾斜した姿勢で設置した場合に、蒸気管31の開口が液状の冷媒REにより封鎖されないようにするうえで、前述の壁部材14を設けることは有用である。
【0071】
また、前述のように、壁部材14は、収容室S10の底面から上方に延びる。このため、壁部材14を板材で構成することができる。この結果、沸騰冷却装置1の構成または製造の簡単化を図ることができる。
【0072】
さらに、前述のように、壁部材14の高さをhとし、壁部材14の厚さ方向に沿う第2空間S12の長さをaとし、壁部材14の高さ方向での収容室S10の長さをbとし、壁部材14の厚さ方向での第1開口としての開口31aと収容室S10の側面との間の距離をLとし、壁部材14の高さ方向と水平面F0とのなす角度をθ2としたとき、θ2が45°よりも小さい場合、h>(b-(a-L)/tanθ2)の関係を満たすことが好ましい。
【0073】
この関係を満たす場合、この関係を満たさない場合に比べて、収容室S10内の冷媒REの収容率を高めつつ、第1開口としての開口31aが液状の冷媒REにより封鎖されることを低減することができる。
【0074】
また、前述のように、受熱部10は、側方から発熱体100からの熱を受ける。このとき、沸騰冷却装置1を傾斜した姿勢で設置した場合でも、受熱部10と発熱体100とが並ぶ方向にみて、液状の冷媒REと発熱体100とが重なる面積の低下を低減することができる。したがって、沸騰冷却装置1を傾斜した姿勢で設置した場合でも、発熱体100から受熱部10の液状の冷媒REに効率的に熱を伝えることができる。
【0075】
2.第2実施形態
以下、本発明の第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が前述の実施形態と同様である要素については、前述の実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0076】
図7は、第2実子形態に係る沸騰冷却装置1Aの断面図である。図8は、図7中のC-C線断面図である。図9は、図7中のD-D線断面図である。沸騰冷却装置1Aは、受熱部10に代えて受熱部10Aを有する以外は、前述の第1実施形態の沸騰冷却装置1と同様である。受熱部10Aは、壁部材14に代えて壁部材15を有する以外は、受熱部10と同様である。
【0077】
壁部材15は、側壁13のX1方向を向く内壁面からX1方向に延びており、側壁13のX2方向を向く内壁面と壁部材15との間には、隙間d2が形成される。
【0078】
壁部材15は、収容室S10一部を図7中の上下に二分するように配置され、側壁13に接続される板状の部材である。ここで、壁部材15は、Z軸に直交する面に沿って広がっており、図7に示すように、収容室S10の一部を第1空間S13と第2空間S14とに区分する。また、図8に示すように、壁部材15は、側壁13のX2方向を向く内平面に対向する端縁を除く周縁が全域にわたり側壁13に接続される。
【0079】
壁部材15は、Z軸に沿う方向にみて、図7中の右側の蒸気管31および液管41に重なる位置に配置される。図7に示す例では、壁部材15には、貫通孔15aが設けられる。貫通孔15aは、X軸に沿う方向に並ぶ2個の液管41のうちのX2方向に位置する一方の液管41が挿入される孔である。当該一方の液管41は、必要に応じて、壁部材15に対して拡管、圧入、接着剤、ネジ止め、ロウ付けまたは溶接等により固定される。また、貫通孔15aを通じて冷媒REが第1空間S13から第2空間S14へ移動しないよう、貫通孔15aの内壁面と液管41の外周面との隙間が塞がれる。なお、貫通孔15aが省略されてもよい。この場合、液管41は、例えば、壁部材15を迂回するように下方に延びるよう、屈曲または湾曲する部分を有する。
【0080】
ここで、図7に示すように、Z軸が鉛直線となるよう沸騰冷却装置1が傾斜せずに設置される場合、壁部材15は、冷媒REの液面RE0に対して上方に位置する。したがって、第1空間S13には、液状の冷媒REが存在するが、第2空間S14には、液状の冷媒が実質的に存在しない。
【0081】
図10は、第2実施形態に係る沸騰冷却装置1Aの使用例における受熱部10Aの状態を示す図である。図10では、沸騰冷却装置1がY軸まわりに角度θ1で傾斜して設置された場合の受熱部10Aの状態が示される。
【0082】
図10に示すように、沸騰冷却装置1Aの傾斜角度が角度θ1である場合、壁部材15が第1空間S13から第2空間S14に液状の冷媒REが移動するのを阻止する。このため、この場合でも、第1空間S13には、液状の冷媒REが存在するが、第2空間S14には、液状の冷媒が実質的に存在しない。
【0083】
図10には、沸騰冷却装置1Aの傾斜角度が角度θ1である場合の液面RE0が実線で示される。また、図10には、沸騰冷却装置1を傾斜させない場合の液面RE0が一点鎖線で示される。さらに、図10には、壁部材14を省略した場合の冷媒REの液面RE0が二点鎖線で示される。
【0084】
図10に示すように、沸騰冷却装置1Aを傾斜させた場合、第1空間S13から第2空間S14への液状の冷媒REの移動が壁部材14により阻止されるので、壁部材15を省略した場合のように液面RE0が開口31aに接近することが防止される。このため、沸騰冷却装置1Aを傾斜させた場合でも、冷媒REによる開口31aの封鎖を低減することができる。
【0085】
X軸に沿う方向での壁部材15の長さ、すなわち壁部材14の高さhは、沸騰冷却装置1Aの傾斜角度が角度θ1である場合でも、壁部材15のX1方向での端が液面RE0よりも上方に位置するよう設定される。
【0086】
ここで、高さhは、高さH2よりも高いことが好ましい。この場合、前述のような壁部材15による効果が好適に得られる。ただし、高さH2は、以下の式(2)により求められる。
H2=(L+c×tanθ2) (2)
式(2)中、cは、Z軸に沿う方向での第2空間S14の長さ[mm]である。Lは、2個の開口31aのうち壁部材15に近いほうの開口31aについて、X軸に沿う方向での開口31aと側壁13との間の距離[mm]である。θ2は、水平面F0とZ軸とのなす角度[°]であり、θ2=90[°]-θ1の関係を満たす。
【0087】
以上の第2実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様、冷却性能の低下を低減することができる。本実施形態では、前述のように、壁部材15は、収容室S10に収容される液状の冷媒REの液面RE0よりも上方に位置する。このため、収容室S10に収容される液状の冷媒REを第1空間S13と第2空間S14とに区分しなくても、第1開口としての開口31aが液状の冷媒REにより封鎖されることを低減することができる。
【0088】
また、前述のように、第2管部40は、第1空間S13に向けて開口する第2開口としての開口41aを有する。このため、第2管部40からの液相冷媒を第1空間S13に排出することができる。
【0089】
そのうえで、第1開口としての開口31aは、壁部材15よりも上方に位置する。このため、第1空間S13から第1開口としての開口31aへの液状の冷媒REの移動を壁部材15により阻止することができる。
【0090】
一方、第2開口としての開口41aは、第1空間S13に収容される液状の冷媒REの液面RE0よりも下方に位置する。第1空間S13で生じた気相冷媒が第2開口としての開口41aに混入するのを低減することができる。
【0091】
さらに、前述のように、第1管部30は、受熱部10から放熱部20に気相冷媒を輸送する複数の蒸気管31を有する。複数の蒸気管31は、第1開口としての開口31aを有する蒸気管31と、壁部材15の厚さ方向にみて壁部材15に重ならない蒸気管31と、を含む。また、第2管部40は、放熱部20から受熱部10に液相冷媒を輸送する複数の液管41を有する。複数の液管41は、第2開口としての開口41aを有する液管41と、壁部材15の厚さ方向にみて壁部材15に重ならない液管41と、を含む。
【0092】
このように複数の蒸気管31および複数の液管41を用いることにより、冷媒REの循環効率を高めることができる。また、このように複数の蒸気管31および複数の液管41を有する構成では、収容室S10の中心線LCからずれた位置に蒸気管31および液管41が設けられる。このため、当該構成では、沸騰冷却装置1を傾斜した姿勢で設置した場合に、蒸気管31の開口が液状の冷媒REにより封鎖されないようにするうえで、前述の壁部材15を設けることは有用である。
【0093】
また、前述のように、壁部材15には、第2開口としての開口41aを有する液管41が貫通する。このため、液管41を蒸気管31の近傍に配置しても、液管41を直線状に延びる構成とすることができる。このような液管41は、折り曲げ加工等の加工が不要である。このため、沸騰冷却装置1の低コスト化を図ることができる。
【0094】
さらに、前述のように、壁部材15は、収容室S10の側面から側方に向けて延びる。このため、壁部材15を板材で構成することができる。この結果、沸騰冷却装置1の構成または製造の簡単化を図ることができる。
【0095】
また、前述のように、壁部材15の高さをhとし、壁部材15の厚さ方向での第2空間S14の長さをcとし、壁部材15の高さ方向での第1開口としての開口31aと収容室S10の側面との間の距離をLとし、壁部材15の高さ方向と水平面F0とのなす角度をθ2としたとき、θ2が45°よりも小さい場合、h>(L+c×tanθ2)の関係を満たすことが好ましい。
【0096】
この関係を満たす場合、この関係を満たさない場合に比べて、収容室S10内の冷媒REの収容率を高めつつ、第1開口としての開口31aが液状の冷媒REにより封鎖されることを低減することができる。
【0097】
3.応用例
図11は、沸騰冷却装置1の応用例を示す斜視図である。図11では、複数の沸騰冷却装置1により複数の発熱体100を冷却する場合の例が示される。
【0098】
図11に示す例では、複数の沸騰冷却装置1と複数の発熱体100とがY軸に沿う方向に交互に配置される。ここで、複数の沸騰冷却装置1および複数の発熱体100は、図示しない固定具により、互いに隣り合う沸騰冷却装置1と発熱体100とが密着するよう固定される。以上の構成により、複数の沸騰冷却装置1により複数の発熱体100を冷却することができる。
【0099】
なお、互いに隣り合う2つの沸騰冷却装置1の放熱フィン22が一体で構成されてもよい。また、沸騰冷却装置1の数は、冷却すべき発熱体100の数に応じて決められ、図11に示す例に限定されず、5個以下または7個以上でもよい。また、図11に示す例は、沸騰冷却装置1を用いるが、複数の沸騰冷却装置1のうちの少なくとも1つに代えて、前述の沸騰冷却装置1Aを用いてもよい。
【0100】
4.変形例
本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、以下に述べる各種の変形が可能である。また、各実施形態及び各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0101】
4-1.変形例1
前述の第1実施形態では、壁部材14のZ1方向での端と天板12との間に隙間d1が設けられるが、壁部材14が収容室S10のZ軸に沿う方向での全域にわたり設けられてもよい。この場合、例えば、第1空間S11および第2空間S12は、冷媒REの液面RE0よりも上方の位置で、適宜の流路を介して互いに連通する。
【0102】
また、前述の第2実施形態では、壁部材15のX1方向での端と側壁13との間に隙間d2が設けられるが、壁部材15が収容室S10のX軸に沿う方向での全域にわたり設けられてもよい。この場合、例えば、第1空間S11および第2空間S12は、冷媒REの液面RE0よりも上方の位置で、適宜の流路を介して互いに連通する。
【0103】
図12は、変形例1に係る沸騰冷却装置1Bの断面図である。沸騰冷却装置1Bは、受熱部10に代えて受熱部10Bを有する以外は、前述の第1実施形態の沸騰冷却装置1と同様である。受熱部10Bは、壁部材14に代えて壁部材14Bを有する以外は、受熱部10と同様である。
【0104】
壁部材14Bは、収容室S10のZ軸に沿う方向での全域にわたり設けられており、第1空間S11と第2空間S12とを連通させる孔14aを有する以外は、壁部材14と同様である。孔14aは、冷媒REの液面RE0よりも上方に位置する。ここで、Z軸に沿う方向での孔14aと底板11との間の距離は、前述の第1実施形態での高さhに相当する。以上の変形例1によっても、前述の第1実施形態と同様、冷却性能の低下を低減することができる。
【0105】
4-2.変形例2
前述の第1実施形態の壁部材14と第2実施形態の壁部材15のそれぞれは、平板状をなすが、壁部材14および壁部材15の形状は、これに限定されず、少なくとも一部が液面RE0よりも上方に位置すればよく、例えば、屈曲または湾曲する部分を有してもよい。また、収容室S10の内壁面に対する壁部材14または壁部材15の接続位置も、前述の実施形態に限定されない。
【0106】
図13は、変形例2に係る沸騰冷却装置1Cの断面図である。沸騰冷却装置1Cは、受熱部10に代えて受熱部10Cを有する以外は、前述の第1実施形態の沸騰冷却装置1と同様である。受熱部10Cは、壁部材14に代えて壁部材15Cを有する以外は、受熱部10と同様である。
【0107】
壁部材15Cは、天板12からZ2方向に延びた後にX1方向に延びるよう屈曲した部分を有する以外は、前述の第2実施形態の壁部材15と同様である。ここで、壁部材15CのX1方向での端と側壁13との間の距離は、前述の第2実施形態での高さhに相当する。以上の変形例2によっても、前述の第2実施形態と同様、冷却性能の低下を低減することができる。
【0108】
4-3.変形例3
前述の第1実施形態の壁部材14と第2実施形態の壁部材15のそれぞれは、収容室S10の内壁面に直交する方向に収容室S10の内壁面から延びるが、収容室S10の内壁面の法線に対して傾斜する方向に延びてもよい。
【0109】
図14は、変形例3に係る沸騰冷却装置1Dの断面図である。沸騰冷却装置1Dは、受熱部10に代えて受熱部10Dを有する以外は、前述の第1実施形態の沸騰冷却装置1と同様である。受熱部10Dは、壁部材14に代えて壁部材15Dを有する以外は、受熱部10と同様である。
【0110】
壁部材15Dは、側壁13から斜め上方に向けて、X軸に対して傾斜した方向に延びる以外は、前述の第2実施形態の壁部材15と同様である。ただし、壁部材15Dは、液面RE0よりも下方に位置する部分を有する。ここで、壁部材15DのX1方向での端と側壁13との間の距離は、前述の第2実施形態での高さhに相当する。以上の変形例3によっても、前述の第2実施形態と同様、冷却性能の低下を低減することができる。なお、変形例3では、第2空間S14に少量の液状の冷媒REが収容されてもよい。
【0111】
4-4.変形例4
前述の実施形態では、液管41の開口41aが液面RE0よりも下方に位置するが、これに限定されず、開口41aが液面RE0よりも上方に位置してもよい。また、前述の実施形態では、蒸気管31の開口31bが容器21の底面よりも上方に位置するが、これに限定されず、蒸気管31の開口31bが容器21の底面と同一平面上に位置してもよい。
【0112】
4-5.変形例5
前述の実施形態では、1個の受熱部10に対して2個の蒸気管31および2個の液管41が設けられるが、1個の受熱部10に対して設けられる蒸気管31または液管41の数は、1個でもよいし、3個以上でもよい。また、放熱部20の有する容器21の数も、1個でもよいし、3個以上でもよい。また、放熱部20の放熱フィン22は、容器21ごとに分割されてもよい。
【符号の説明】
【0113】
1…沸騰冷却装置、1A…沸騰冷却装置、1B…沸騰冷却装置、1C…沸騰冷却装置、1D…沸騰冷却装置、10…受熱部、10A…受熱部、10B…受熱部、10C…受熱部、10D…受熱部、11…底板、12…天板、12a…内壁面、13…側壁、14…壁部材、14B…壁部材、14a…孔、15…壁部材、15C…壁部材、15D…壁部材、15a…貫通孔、20…放熱部、21…容器、22…放熱フィン、30…第1管部、31…蒸気管、31a…開口、31b…開口、31c…内周面、40…第2管部、41…液管、41a…開口、41b…開口、41c…内周面、100…発熱体、211…底板、212…天板、213…側壁、F0…水平面、LC…中心線、RE…冷媒、RE0…液面、S10…収容室、S11…第1空間、S12…第2空間、S13…第1空間、S14…第2空間、S20…凝縮室、S30…第1流路、S40…第2流路、VL…鉛直線、d1…隙間、d2…隙間、h…高さ、θ1…角度、θ2…角度。
図1
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