(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】エンジンの停止位置制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20250218BHJP
F02D 13/02 20060101ALI20250218BHJP
F02D 17/00 20060101ALI20250218BHJP
F02D 41/06 20060101ALI20250218BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20250218BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
F02D29/02 321C
F02D13/02 H
F02D13/02 J
F02D17/00 B
F02D41/06
F02D43/00 301H
F02D43/00 301Z
F02D45/00 362
F02D45/00 364G
F02D45/00 364Z
(21)【出願番号】P 2021051345
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】山川 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】菅野 宏
(72)【発明者】
【氏名】谷村 兼次
(72)【発明者】
【氏名】小林 徹
(72)【発明者】
【氏名】志茂 大輔
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-025512(JP,A)
【文献】特開2011-122558(JP,A)
【文献】特開2013-060827(JP,A)
【文献】特開2006-316689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
F02D 13/02
F02D 17/00
F02D 41/06
F02D 43/00
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒と、各気筒とそれぞれ連通する複数の吸気ポートと、各吸気ポートをそれぞれ開閉する複数の吸気弁と、各気筒に燃料を供給する燃料供給手段と、各気筒に往復動可能に設けられたピストンと、ピストンの往復動に連動して回転するクランク軸と、クランク軸を回転させてエンジンを強制的に始動可能な始動手段とを備えるエンジンに設けられる停止位置制御装置であって、
複数の前記吸気弁の閉弁時期である吸気閉弁時期を一括して変更する吸気閉弁時期変更手段と、
前記燃料供給手段および前記吸気閉弁時期変更手段を含むエンジンの各部を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
所定のエンジン停止条件が成立すると前記燃料供給手段による前記気筒内への燃料供給を停止する燃料カットを実施し、当該燃料カットの実施後において、圧縮行程で停止する気筒である停止時圧縮行程気筒の停止直前の吸気閉弁時期の方が、膨張行程で停止する気筒である停止時膨張行程気筒の停止直前の吸気閉弁時期よりも、吸気下死点からの遅角量が大きくなるように、前記吸気閉弁時期変更手段を制御
し、
前記燃料カットの実施後において、エンジン回転数が所定の基準回転数未満になると、前記吸気閉弁時期変更手段の駆動を開始して、前記吸気閉弁時期を所定の事前閉弁時期になるまで遅角させるとともに、2圧縮上死点通過後にエンジンが停止するか否かを判定し、
前記吸気閉弁時期が前記事前閉弁時期に到達した後、所定時期になると再び前記吸気閉弁時期変更手段の駆動を開始して、前記吸気閉弁時期を前記事前閉弁時期から遅角させ、
前記所定時期は、前記制御手段によって2圧縮上死点通過後にエンジンが停止すると判定されたタイミングに設定されており、
前記基準回転数は、前記所定時期に実現されるエンジン回転数よりも高く、且つ、前記燃料カットの実施時のエンジン回転数よりも低い回転数に設定されている、ことを特徴とするエンジンの停止位置制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のエンジンの停止位置制御装置において、
前記エンジンは、複数の前記吸気ポートと連通する吸気通路を開閉するスロットル弁を備え、
前記制御手段は、前記燃料カットの実施後に前記停止時圧縮行程気筒の停止位置を予測し、当該停止時圧縮行程気筒の停止位置が所定の目標範囲よりも上死点側であると予測すると前記スロットル弁の開度を増大させる、ことを特徴とするエンジンの停止位置制御装置。
【請求項3】
請求項
2に記載のエンジンの停止位置制御装置において、
前記エンジンは、6つの前記気筒を有し、
前記目標範囲は、クランク角度で圧縮上死点前40度以上且つ圧縮上死点前75度以下の範囲に設定されている、ことを特徴とするエンジンの停止位置制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸を回転させてエンジンを強制的に始動可能な始動手段を備えるエンジンに設けられる停止位置制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンが搭載された車両では、燃費性能の改善を図るために、エンジンを自動的に停止させるとともに、その後、始動手段を用いてエンジンを強制的に始動させることが行われている。
【0003】
ここで、複数の気筒を備える多気筒エンジンでは、エンジンを始動させるために始動手段に求められるトルクがエンジン停止時の各気筒の位置(各気筒のピストン位置)に応じて変化することから、エンジン停止時に各気筒の位置を始動に適した位置にすることが求められる。
【0004】
これに対して、例えば、特許文献1のエンジンでは、エンジンの停止直前に次のような制御を実施している。つまり、膨張行程で停止する気筒である停止時膨張行程気筒(特許文献1における最終膨張気筒)の吸気が完了した後にスロットル弁の開度を大きくして、圧縮行程で停止する気筒である停止時圧縮行程気筒(特許文献1における最終圧縮気筒)の吸気量を増大させる制御を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、エンジン停止直前はエンジン回転数の低下に伴って吸気通路内の圧力が増大していく。そのため、エンジン停止直前では、停止時圧縮行程気筒内の吸気量の方が、これよりも吸気行程が先に終了する停止時膨張行程気筒の吸気量よりも大きくなりやすい。これより、特許文献1のように単にエンジン停止直前にスロットル弁の開度を増大させて停止時圧縮行程気筒の吸気量を増やしたのでは、停止時圧縮行程気筒の吸気量が過大となってしまい、停止時圧縮行程気筒の位置が適正な位置よりも下死点側にずれる可能性が高い。具体的には、停止時膨張行程気筒の吸気量に対して停止時圧縮行程気筒の吸気量が過大になることで、停止時膨張行程気筒の吸気が当該気筒のピストンを押し下げる力(還元すれば、停止時圧縮行程気筒のピストンを押し上げる力)が、停止時圧縮行程気筒の吸気が当該気筒のピストンを押し下げる力に対して不足して、停止時圧縮行程気筒の位置が適正な位置よりも下死点側にずれる可能性が高い。従って、特許文献1の装置では、エンジンを始動させるために必要な始動手段のトルクを小さくできないおそれがある。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、エンジン停止時の各気筒の位置を始動に適した位置に制御してエンジン始動に費やされる始動手段のトルクを確実に小さくできるエンジンの停止位置制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、複数の気筒と、各気筒とそれぞれ連通する複数の吸気ポートと、各吸気ポートをそれぞれ開閉する複数の吸気弁と、各気筒に燃料を供給する燃料供給手段と、各気筒に往復動可能に設けられたピストンと、ピストンの往復動に連動して回転するクランク軸と、クランク軸を回転させてエンジンを強制的に始動可能な始動手段とを備えるエンジンに設けられる停止位置制御装置であって、複数の前記吸気弁の閉弁時期である吸気閉弁時期を一括して変更する吸気閉弁時期変更手段と、前記燃料供給手段および前記吸気閉弁時期変更手段を含むエンジンの各部を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、所定のエンジン停止条件が成立すると前記燃料供給手段による前記気筒内への燃料供給を停止する燃料カットを実施し、当該燃料カットの実施後において、圧縮行程で停止する気筒である停止時圧縮行程気筒の停止直前の吸気閉弁時期の方が、膨張行程で停止する気筒である停止時膨張行程気筒の停止直前の吸気閉弁時期よりも、吸気下死点からの遅角量が大きくなるように、前記吸気閉弁時期変更手段を制御し、前記燃料カットの実施後において、エンジン回転数が所定の基準回転数未満になると、前記吸気閉弁時期変更手段の駆動を開始して、前記吸気閉弁時期を所定の事前閉弁時期になるまで遅角させるとともに、2圧縮上死点通過後にエンジンが停止するか否かを判定し、前記吸気閉弁時期が前記事前閉弁時期に到達した後、所定時期になると再び前記吸気閉弁時期変更手段の駆動を開始して、前記吸気閉弁時期を前記事前閉弁時期から遅角させ、前記所定時期は、前記制御手段によって2圧縮上死点通過後にエンジンが停止すると判定されたタイミングに設定されており、前記基準回転数は、前記所定時期に実現されるエンジン回転数よりも高く、且つ、前記燃料カットの実施時のエンジン回転数よりも低い回転数に設定されている、ことを特徴とする(請求項1)。
【0009】
本発明では、燃料カットの実施後において、停止時圧縮行程気筒の停止直前の吸気閉弁時期の方が、停止時膨張行程気筒の停止直前の吸気閉弁時期よりも、吸気下死点からの遅角量が大きくされる。吸気閉弁時期の吸気下死点からの遅角量が大きくなると、気筒内から吸気ポートへの吸気の吹き返し量が多くなり気筒内の吸気量が小さくなる。そのため、本発明によれば、エンジン停止直前の吸気通路内の圧力増加に伴って増大しやすい停止時圧縮行程気筒の吸気量の増大を抑制でき、停止時圧縮行程気筒の吸気量が停止時膨張行程気筒の吸気量に対して過大になるのを防止できる。従って、停止時圧縮行程気筒の位置が適正な位置よりも下死点側にずれることを抑制できる。つまり、停止時圧縮行程気筒を含む各気筒の停止位置(エンジン停止時の各気筒の位置)を始動に適した位置にでき、エンジン始動に費やされる始動手段のトルクを確実に小さくすることができる。
【0010】
しかも、前記制御手段は、前記燃料カットの実施後において、エンジン回転数が所定の基準回転数未満になると前記吸気閉弁時期変更手段の駆動を開始して前記吸気閉弁時期を所定の事前閉弁時期まで遅角させるとともに、前記吸気閉弁時期が前記事前閉弁時期に到達した後、2圧縮上死点通過後にエンジンが停止すると判定されたタイミングになると前記吸気閉弁時期変更手段の駆動を開始して前記吸気閉弁時期を前記事前閉弁時期から遅角させる。
【0011】
そのため、吸気閉弁時期変更手段の応答遅れによって、エンジン停止直前の停止時圧縮行程気筒の吸気閉弁時期が十分に遅角されないことを防止できる。つまり、エンジン停止直前の停止時圧縮行程気筒の吸気閉弁時期の吸気下死点からの遅角量を確保することができる。従って、停止時圧縮行程気筒の気筒内から吸気ポートへの吸気の吹き返し量を確実に多くして、停止時圧縮行程気筒の吸気量の増大を確実に抑制できる。
【0012】
前記構成において、好ましくは、前記エンジンは、複数の前記吸気ポートと連通する吸気通路を開閉するスロットル弁を備え、前記制御手段は、前記燃料カットの実施後に前記停止時圧縮行程気筒の停止位置を予測し、当該停止時圧縮行程気筒の停止位置が所定の目標範囲よりも上死点側であると予測すると前記スロットル弁の開度を増大させる(請求項2)。
【0013】
上記のように、本発明によれば、各気筒の停止位置を始動に適した位置にできる可能性が高くなる。しかしながら、エンジン停止直前のエンジン回転数の低下具合等によっては、エンジン停止直前に停止時圧縮行程気筒のピストンが十分に上昇せず当該気筒の停止位置が目標範囲よりも上死点側になるおそれがある。これに対して、この構成では、停止時圧縮行程気筒の停止位置が目標範囲よりも上死点側であると予測されると、スロットル弁の開度が増大される。スロットル弁の開度が増大されると吸気通路内の圧力が増大していくことで停止時膨張行程気筒よりも吸気行程が後の停止時圧縮行程気筒の吸気量が増大して、停止時圧縮行程気筒のピストンの上昇が抑えられる。従って、この構成によれば、停止時圧縮行程気筒の停止位置が目標範囲よりも上死点側にずれることも抑制でき、各気筒の停止位置をより確実に目標範囲つまり始動に適した範囲にして、エンジン始動に費やされる始動手段のトルクをより確実に小さくできる。
【0014】
ここで、エンジンが6つの気筒を有する6気筒エンジンでは、停止時圧縮行程気筒の停止位置をクランク角度で圧縮上死点前40度以上且つ圧縮上死点前75度以下とすれば、始動手段のトルクを所定値以下に抑えつつエンジンを始動させられることが分かっている。
【0015】
これより、エンジンが、6つの前記気筒を有する構成において、前記目標範囲は、クランク角度で圧縮上死点前40度以上且つ圧縮上死点前75度以下の範囲に設定されているのが好ましい(請求項3)。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明のエンジンの停止位置制御装置によれば、エンジン停止時の各気筒の位置を始動に適した位置に制御してエンジン始動に費やされる始動手段のトルクを確実に小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る停止位置制御装置が適用されたエンジンを搭載した車両の概略構成図である。
【
図4】上記エンジンの各気筒で実施される行程を示した図である。
【
図5】上記エンジンの制御系統を示したブロック図である。
【
図6】気筒停止位置とエンジン始動に必要なモータトルクとの関係を示したグラフである。
【
図8】停止位置制御の具体的手順を示すフローチャートである。
【
図9】気筒停止位置の要回避範囲を示した図である。
【
図10】停止位置制御実施時の各パラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【
図11】停止位置制御実施時のエンジン停止直前の停止時膨張行程気筒と停止時圧縮行程気筒のバルブリフトを示した図である。
【
図12】停止時圧縮行程気筒の気筒停止位置が目標範囲よりも下死点側にずれたときの各気筒の停止位置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1)全体構成
図1は、本発明の実施形態に係るエンジンの停止位置制御装置が適用されるエンジンEを搭載した車両100の概略構成図である。本実施形態では、車両100は、エンジンEとモータMとを車両100(車輪101)の駆動源として備えるハイブリッド車両である。モータMは、請求項の「始動手段」に相当する。
【0019】
図1に示すように、車両100は、車輪101、エンジンEおよびモータMに加えて、エンジンEの出力軸とモータMの回転軸とを断接可能に連結するクラッチ102、モータMとの間で電力の授受を行うバッテリ103、モータMに連結された変速機104、車輪101に連結されたドライブシャフト106、デファレンシャルギア等を含み変速機104とドライブシャフト106とを連結する動力伝達装置105を備える。
【0020】
(エンジン構成)
図2は、エンジンEの概略構成図である。エンジンEは、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40、排気通路40を流通する排気ガスの一部であるEGRガスを吸気通路30に還流させるEGR装置44を備える。また、エンジンEは、ターボ過給機46を備えており、排気通路40に設けられたタービン48と、吸気通路30に設けられてタービン48により回転駆動されるコンプレッサ47とを有する。本実施形態のエンジンEは、4サイクルのディーゼルエンジンであり、軽油を主成分とする燃料の供給を受けて駆動する。
【0021】
エンジン本体1は、気筒2が形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3を覆うシリンダヘッド4とを有する。
【0022】
図3は、エンジン本体1の概略断面図である。
図3に示すように、本実施形態のエンジンEは直列6気筒エンジンであり、エンジン本体1(詳細にはシリンダブロック3)には一列に並ぶ6つの気筒2(気筒2の配列方向に沿って一方側から順に、第1気筒2A、第2気筒2B、第3気筒2C、第4気筒2D、第5気筒2Eおよび第6気筒2F)が形成されている。
【0023】
各気筒2にはそれぞれピストン5が往復摺動可能に収容されている。各気筒2内のピストン5の上方には燃焼室6が区画されている。各ピストン5はコネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。各ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。
【0024】
シリンダヘッド4には、気筒2(燃焼室6)内に燃料を噴射するインジェクタ15が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。ピストン5は、供給された燃料と空気との混合気が燃焼室6で燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられることで往復運動する。インジェクタ15は、請求項の「燃料供給手段」に相当する。
【0025】
シリンダヘッド4には、各気筒2(燃焼室6)に吸気を導入するための吸気ポート9と、吸気ポート9を開閉する吸気弁11と、各気筒2(燃焼室6)で生成された排気ガスを導出するための排気ポート10と、排気ポート10を開閉する排気弁12とが、各気筒2に対応してそれぞれ設けられている。エンジン本体1のバルブ形式は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式であって、各気筒2につき吸気ポート9および排気ポート10が2つずつ設けられるとともに、各気筒2につき吸気弁11および排気弁12も2つずつ設けられている。
【0026】
図4は、各気筒2で実施される行程を示した図である。上記のようにエンジンEは4サイクルエンジンである。これより、各気筒2では、吸気行程→圧縮行程→膨張行程→排気行程がこの順で連続して実施される。また、エンジンEは直列6気筒エンジンである。これより、各気筒2A~2Fに設けられたピストン5は120°CA(クランク角度で120度)の位相差をもって往復動するとともに、120°CA毎に第1気筒2A→第5気筒2E→第3気筒2C→第6気筒2F→第2気筒2B→第4気筒2Dの順で燃焼が行われることになる。
【0027】
ここで、本明細書でいう吸気、圧縮、膨張、排気行程は、1燃焼サイクルつまりクランク軸7が2回転する期間(360°CA)をクランク角度で4等分した期間であってそれぞれ吸気、圧縮、膨張、排気が主として行われる期間のことを指す。
【0028】
具体的に、本明細書でいう吸気行程は、吸気弁11が実際に開弁を開始してから閉弁するまでの期間ではなく、ピストン5が排気上死点TDCeと吸気下死点BDCiとの間に位置する期間を指す。また、圧縮行程は、ピストン5が吸気下死点BDCiと圧縮上死点TDCcとの間に位置する期間を指す。また、膨張行程は、ピストン5が圧縮上死点TDCcと膨張下死点BDCeとの間に位置する期間を指す。また、排気行程は、ピストン5が膨張下死点BDCeと排気上死点TDCeとの間に位置する期間を指す。
【0029】
なお、圧縮上死点TDCcとは、ピストン5の往復動範囲のうちの最も上側(シリンダヘッド4に近い側)となる位置であって、吸気弁11の閉弁後且つ排気弁12の開弁前にピストン5が到達する位置である。そして、膨張下死点BDCe、排気上死点TDCe、吸気下死点BDCiは、それぞれ、ピストン5が圧縮上死点TDCcにある状態からクランク軸7が180°CA、360°CA、540°CA正回転したときのピストン5の位置である。以下では、適宜、ピストン5の位置を気筒2の位置として説明する。
【0030】
各気筒2の吸気弁11はシリンダヘッド4に配設された吸気カム軸を含む動弁機構13によって駆動される。吸気弁11用の動弁機構13には、各吸気弁11の開閉時期を一括して変更可能な吸気S-VT13aが内蔵されている。同様に、各気筒2の排気弁12はシリンダヘッド4に配設された排気カム軸を含む動弁機構14によって駆動される。排気弁12用の動弁機構14にも、各排気弁12の開閉時期を一括して変更可能な排気S-VT14aが内蔵されている。吸気S-VT13a(排気S-VT14a)は、いわゆる位相式の可変機構であり、各吸気弁11(各排気弁12)の開弁開始時期IVO(EVO)および閉弁時期IVC(EVC)を同時にかつ同量だけ変更する。吸気S-VT13aは、請求項の「吸気閉弁時期変更手段」に相当する。
【0031】
吸気通路30は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30には、上流側から順にエアクリーナ31、コンプレッサ47、スロットル弁32、インタークーラ33およびサージタンク34が設けられている。コンプレッサ47は、上記のようにタービン48に回転駆動されて、コンプレッサ47を通過する空気を圧縮(過給)する。気筒2(燃焼室6)には、コンプレッサ47で圧縮された後、インタークーラ33で冷やされた空気が導入される。スロットル弁32は、吸気通路30を開閉可能なバルブである。吸気通路30を流通する空気の量、ひいては、気筒2(燃焼室6)に導入される吸気の量は、スロットル弁32の開度に応じて変更される。
【0032】
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。排気通路40には、上流側から順にタービン48、排気ガスを浄化するための排気浄化装置41が設けられている。排気浄化装置41には、三元触媒42と、DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)43とが内蔵されている。タービン48は排気通路40を流れる排気ガスのエネルギーを受けて回転し、これに連動してコンプレッサ47は回転する。
【0033】
EGR装置44は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路44Aと、EGR通路44Aに設けられたEGR弁45とを備える。EGR通路44Aは、排気通路40におけるタービン48よりも上流側の部分と、吸気通路30におけるインタークーラ33とサージタンク34との間の部分とを接続している。EGR弁45は、EGR通路44Aを開閉可能なバルブである。吸気通路30に還流されるEGRガスの量、ひいては、気筒2(燃焼室6)に導入されるEGRガスの量は、はEGR弁45の開度に応じて変更される。なお、EGR通路44Aには、排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガス(EGRガス)を熱交換により冷却するEGRクーラ(図略)が配置されている。
【0034】
(2)制御系統
図5は、車両100の制御系統を示すブロック図である。
図5に示したコントローラ200は、モータMとエンジンE等を統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。コントローラ200は、請求項の「制御手段」に相当する。
【0035】
コントローラ200には、車両100に設けられた各種センサによる検出信号が入力される。
【0036】
具体的に、エンジンEのシリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度つまりエンジン回転数を検出するためのクランク角センサSN1が設けられている。エンジンEのシリンダヘッド4には、吸気用の動弁機構13に含まれる吸気カムの角度を検出するためのカム角センサSN2が設けられている。コントローラ200は、カム角センサSN2の検出信号とクランク角センサSN1の検出信号とに基づいて、どの気筒が何行程にあるのかを判別する。エンジンEの吸気通路30のスロットル弁32よりも下流側の部分には、この部分を通過する吸気の圧力を検出するためのインマニ圧センサSN3が設けられている。以下では、吸気通路30のスロットル弁32よりも下流側の部分を通過する吸気の圧力をインマニ圧という。なお、本明細書でいう吸気は、気筒2(燃焼室6)内に導入されるガスのことを指し、気筒2内に空気に加えてEGRガスが導入される場合はEGRガスと空気とを含むガスのことを指す。エンジンEの排気通路40には、排気通路40を通過する排気ガスに含まれる酸素の濃度である排気O2濃度を検出するための排気O2センサSN4が設けられている。排気O2センサSN4は、タービン48と排気浄化装置41との間に配置されている。また、車両100には、モータMの回転数を検出するモータ回転数センサSN5、車両100を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサSN6、車速を検出する車速センサSN7等が設けられている。コントローラ200には、これらセンサSN1~SN7によって検出された情報が逐次入力される。
【0037】
コントローラ200は、各センサからの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行して、吸気S-VT13a、排気S-VT14a、インジェクタ15、スロットル弁32およびEGR弁45等のエンジンEの各部、モータMおよびクラッチ102等を制御する。
【0038】
本実施形態では、エンジンEの稼働中、吸気弁11が常に吸気下死点BDCiよりも遅角側で閉弁するように構成されており、コントローラ200は、これが実現されるように吸気S-VT13aを制御する。
【0039】
また、本実施形態では、基本的な車両100の走行モードがモータMのみによって車輪101が駆動されるEVモードに設定されて、モータMの出力のみでは不十分な場合等にのみエンジンEが駆動されるエンジン駆動モードに切り替えられるようになっており、コントローラ200は車速等に基づいて走行モードの切り替えを行う。
【0040】
具体的に、コントローラ200は、車両100の走行状態およびアクセルペダルの操作状態から、エンジンEを始動させる条件であるエンジン始動条件が成立したか否か、および、エンジンEを停止させる条件であるエンジン停止条件が成立したか否かを判定する。例えば、コントローラ200は、エンジンEの停止中に、車速が所定のエンジン始動速度以上、且つ、アクセルペダルの開度が所定のエンジン始動開度以上になるとエンジン始動条件が成立したと判定する。また、コントローラ200は、エンジンEの駆動中に、車速が所定のエンジン停止速度未満、あるいは、アクセルペダルの開度が所定のエンジン停止開度未満になるとエンジン停止条件が成立したと判定する。コントローラ200は、車速センサSN7およびアクセル開度センサSN6の検出結果等に基づいて、上記の各条件が成立するか否かを逐次判定する。
【0041】
コントローラ200は、エンジン始動条件が成立したと判定すると、エンジンEを始動させるエンジン始動制御を実施する。エンジン始動制御では、コントローラ200は、まず、クラッチ102を開放状態から締結状態へと移行させる。クラッチ102が締結状態になるとモータMの出力がエンジンEに伝達される。これにより、エンジンEはモータMによって強制的に回転駆動される。つまり、エンジンEのクランキングが開始される。クランキングが開始すると、次に、コントローラ200は、吸気下死点BDCi付近で停止していた気筒2に対して、その圧縮行程中にインジェクタ15から最初の燃料を噴射させてこれを自着火燃焼させる。その後は、通常のエンジン制御に移り、コントローラ200は、インジェクタ15から各気筒2に順次燃料を噴射させていく。ここで、上記のように、クラッチ102は締結状態とされる。これより、モータMおよび変速機104等を介してエンジンEの駆動力は車輪101に伝達されることになる。
【0042】
また、コントローラ200は、エンジン停止条件が成立したと判定すると、エンジンEを停止するためのエンジン停止制御を実施する。エンジン停止制御では、コントローラ200は、まず、インジェクタ15から各気筒2への燃料供給を停止する燃料カットを実施する。燃料供給が停止されることで、エンジン回転数は低下していきエンジンは停止する。ここで、エンジン回転数が低くなると、エンジン本体1とこれを支持しているエンジンマウントとが共振してエンジン本体1の振動が増大するおそれがある。そこで、エンジン停止制御として、コントローラ200は、スロットル弁32を全閉にする制御を実施する。つまり、スロットル弁32を全閉にすることでエンジン回転数を早期に低下させ、これによりエンジン回転数が共振回転数となる期間を短く抑えるようにする。具体的には、コントローラ200は、燃料カットの実施後、エンジン回転数が所定のスロットル閉弁回転数N1以下になるとスロットル弁32を全閉に向けて閉弁させていく。また、コントローラ200は、エンジン停止条件の成立時において、エンジンEが停止すると(エンジンEの回転数が0になると)、クラッチ102を締結状態から開放状態に切り替える。
【0043】
(エンジン停止位置制御)
次に、エンジン停止制御の実施後、つまり、燃料カットが実施され且つスロットル弁32が全閉にされた後に、コントローラ200によって実施される停止位置制御について説明する。停止位置制御は、エンジンEの停止時の各気筒2(各気筒2のピストン5)の位置を所定の目標範囲内にするための制御である。
【0044】
以下では、エンジンEの停止時、詳細には、エンジン回転数が0であってエンジンEが完全に停止しているときのことを、単にエンジン停止時という。また、エンジン停止時の各気筒2(各気筒2のピストン5)の位置を気筒停止位置という。
【0045】
また、本明細書では、エンジン停止時(エンジンEが完全に停止したとき)の行程が圧縮行程で、且つ、ピストン5の位置が圧縮上死点(TDCc)から圧縮上死点前(BTDCc)120°CAまでの範囲にある気筒を、停止時圧縮行程気筒という。また、燃焼順序が停止時圧縮行程気筒の1つ前の気筒であって、エンジン停止時(エンジンEが完全に停止したとき)の行程が膨張行程で、且つ、ピストン5の位置が圧縮上死点(TDCc)から圧縮上死点後(ATDCc)120°CAまでの範囲にある気筒を、停止時膨張行程気筒という。また、燃焼順序が停止時圧縮行程気筒の1つ後の気筒であって、エンジン停止時(エンジンEが完全に停止したとき)の行程が吸気行程あるいは圧縮行程であり、且つ、ピストン5の位置が吸気下死点前(BBDCi)60°CAから吸気下死点後(ABDCi)60°CAまでの範囲にある気筒を、停止時圧縮移行気筒という。
【0046】
図6は、気筒停止位置と、この気筒停止位置で停止したエンジンEをその後始動させるために必要なモータMのトルクの最小値(以下、適宜、始動用トルクという)との関係を示したグラフである。
図6の横軸には、停止時圧縮行程気筒、停止時圧縮移行気筒、停止時膨張行程気筒の各位置も合わせて示している。
図7は、気筒停止位置の目標範囲であって、これに対応する停止時圧縮行程気筒、停止時圧縮移行気筒および停止時膨張行程気筒の各停止位置を示した図である。
図7では、円の最上点を上死点(TDC)、最下点を下死点(BDC)とし、時計回りに進むほどピストン5の位置が遅角側になるように各気筒2の位置(各気筒2のピストン5の位置)を示している。
【0047】
図6に示すように、始動用トルクは気筒停止位置によって変化する。始動用トルクが最小となるのは、気筒停止位置が
図6の実線に示す位置のときであって、停止時圧縮行程気筒が圧縮上死点前(BTDCc)60°CAの位置にあり、停止時膨張行程気筒が圧縮上死点後(ATDCc)60°CAの位置にあり、停止時圧縮移行気筒が吸気下死点(BDCi)にあるときである。つまり、停止時圧縮行程気筒と停止時膨張行程気筒の各ピストン5が上死点に対して互いに同じ位置にあるときに、始動用トルクは最小となる。以下、この始動用トルクが最小となるときの気筒停止位置を最適位置P0という。
【0048】
気筒停止位置の目標範囲は、始動用トルクが所定の基準トルクT1以下となる位置であって、最適位置P0よりも進角側の第1位置P1から最適位置P0よりも遅角側の第2位置P2までの範囲に設定されている。基準トルクT1は、始動用トルクの最大値と最小値の間の値に設定されている。そして、これに対応して、第1位置P1は、停止時圧縮行程気筒の位置が圧縮上死点前(BTDCc)75°CAであり、停止時圧縮移行気筒の位置が吸気下死点前(BBDCi)15°CAであり、停止時膨張行程気筒の位置が圧縮上死点後(ATDCc)45°CAにある位置に設定されている。また、第2位置P2は、停止時圧縮行程気筒の位置が圧縮上死点前(BTDCc)40°CAであり、停止時圧縮移行気筒の位置が吸気下死点後(ABDCi)20°CAであり、停止時膨張行程気筒の位置が圧縮上死点後(ATDCc)80°CAである位置に設定されている。
【0049】
図8のフローチャートを用いて、停止位置制御の具体的な手順を説明する。
図8のフローチャートのステップS1は、エンジン停止制御が行われた後に実施される。
【0050】
ステップS1にて、コントローラ200は、エンジン回転数が基準回転数N2未満に低下したか否かを判定する。コントローラ200は、クランク角センサSN1の検出結果に基づいてこの判定を行う。基準回転数N2は、予め設定されてコントローラ200に記憶されている。ステップS1の判定がNOであってエンジン回転数が基準回転数N2以上であると判定した場合、コントローラ200は、ステップS1を繰り返してエンジン回転数が基準回転数N2未満になるのを待つ。一方、ステップS1の判定がYESであってエンジン回転数が基準回転数N2未満になったと判定すると、コントローラ200はステップS2に進む。
【0051】
ステップS2にて、コントローラ200は、吸気S-VT13aによって吸気弁11の位相を遅角させて、吸気弁11の閉弁時期である吸気閉弁時期IVCを第1基準時期まで遅角させる。第1基準時期は、予め設定されてコントローラ200に記憶されている。第1基準時期は、エンジン停止制御実施直後(スロットル弁32を全閉する制御の実施直後)の吸気閉弁時期IVCよりも遅角側、且つ、後述する第2基準時期よりも進角側の時期に設定されている。第1基準時期は、請求項の「事前閉弁時期」に相当する。
【0052】
次に、ステップS3にて、コントローラ200は、エンジンEが停止する時期であるエンジン停止時期と、気筒停止位置つまりエンジンEが停止するときの各ピストン5の位置を予測する。コントローラ200は、インマニ圧センサSN3の検出値、クランク角センサSN1の検出値、カム角センサSN2の検出値等に基づいて、上記の時期および位置を予測する。ステップS3の後はステップS4に進む。
【0053】
ステップS4にて、コントローラ200は、ステップS3の予測結果に基づいて2圧縮上死点通過後にエンジンが停止するか否かを判定する。具体的に、ステップS4では、コントローラ200は、現時点からエンジンが停止するまでの間に、圧縮上死点(TDCc)を超える気筒が2つであるか否かを判定する。
【0054】
ステップS4の判定がNOであって、現時点から2圧縮上死点通過後のタイミングでは、まだエンジンEは停止しないと判定すると、コントローラ200は、ステップS3に戻りエンジン停止時期と気筒停止位置の予測を継続する。
【0055】
一方、ステップS4の判定がYESであって2圧縮上死点通過後にエンジンが停止すると判定すると、コントローラ200はステップS5に進む。ステップS5にて、コントローラ200は、ステップS3で予測した気筒停止位置(以下、予測気筒停止位置という)が要回避範囲X1に含まれるか否かを判定する。要回避範囲X1は、
図9に示すように、目標範囲X0よりも遅角側の範囲であって、停止時圧縮行程気筒のピストン5が、目標範囲X0のうちの最も遅角側の位置(第2位置P2に対応する圧縮上死点前(BTDCc)40°CA)となる状態から、停止時圧縮行程気筒のピストン5が圧縮上死点(TDCc)となる状態までの範囲に設定されている。つまり、ステップS5では、予測された停止時圧縮行程気筒の停止位置が、その目標範囲よりも上死点(圧縮上死点TDCc)に近い位置であるか否かが判定されることになる。
【0056】
ステップS5の判定がYESであって予測気筒停止位置が要回避範囲X1に含まれると判定した場合(予測した停止時圧縮行程気筒の停止位置が目標範囲X0よりも上死点側であると判定した場合)、ステップS6にて、コントローラ200はスロットル弁32の開度を増大させる。本実施形態では、コントローラ200は、予測気筒停止位置の目標範囲X0(第2位置P2)からのずれ量が多いほどスロットル弁32の開度の増大量が多くなるようにスロットル弁32の開度を増大させる。ステップS6の後はステップS7に進む。
【0057】
一方、ステップS5の判定がNOであって予測気筒停止位置が要回避範囲X1に含まれないと判定した場合(予測した停止時圧縮行程気筒の停止位置が目標範囲X0よりも上死点側ではないと判定した場合)、コントローラ200はステップS7に進む。
【0058】
ステップS7にて、コントローラ200は、吸気S-VT13aによって吸気弁11の位相の遅角つまり吸気閉弁時期IVCの遅角を再開させる。具体的には、コントローラ200は吸気弁11の位相が所定の速度で遅角していくように吸気S-VT13aを制御する。ここで、
図8のフローチャートでは、ステップS5、S6の後にステップS7が実施されるようになっているが、ステップS5とステップS7とはほぼ同時に実施され、ステップS4の判定がYESであって2圧縮上死点通過後にエンジンが停止すると判定した直後に、コントローラ200はステップS7を実施する。
【0059】
上記の遅角速度は、2圧縮上死点通過後にエンジンが停止すると判定されたことに伴って吸気弁11の位相の遅角を開始したときに、停止時圧縮行程気筒の吸気閉弁時期IVCを超えてはじめて吸気閉弁時期IVCが第1基準時期よりも遅角側の第2基準時期に到達する(詳細には、吸気弁11の位相が、吸気閉弁時期IVCが第2基準時期となる位相に到達する)ような速度に設定されている。例えば、第2基準時期は、吸気閉弁時期IVCがとり得る時期のうち最も遅角側の時期に設定され、上記の速度は、300°CA程度かけて吸気閉弁時期IVCが第1基準時期から第2基準時期まで変更されるような速度に設定されている。ステップS5の次はステップS6に進む。ここで、上記のステップS4の判定がYESとなるタイミング、つまり、2圧縮上死点通過後にエンジンが停止すると判定されるタイミングは、請求項の「所定時期」に相当する。
【0060】
ステップS8にて、コントローラ200は、吸気閉弁時期IVCが第2基準時期に到達したか否かの判定を行う。コントローラ200は、カム角センサSN2の検出結果に基づいてこの判定を行う。
【0061】
ステップS8の判定がNOであって吸気閉弁時期IVCが第2基準時期に到達していないと判定した場合、コントローラ200は、ステップS7に戻って吸気弁11の位相の遅角を継続する。
【0062】
一方、ステップS8の判定がYESであって吸気閉弁時期IVCが第2基準時期に到達したと判定すると、コントローラ200は、処理(停止位置制御)を終了する。
【0063】
(作用等)
図10は、上記の停止位置制御を実施したときの各パラメータの時間変化を模式的に示したタイムチャートである。
図10には、上から順に、エンジン回転数、圧縮行程にある気筒のピストン5の位置、吸気弁11の位相、スロットル弁32の開度、インマニ圧の各タイムチャートを示している。なお、
図10には、燃料カット実施後の各パラメータの時間変化を示している。
【0064】
図10に示すように、燃料カットが実施された後、エンジン回転数は徐々に低下していく。
図10の例では、時刻t1にてエンジン回転数がスロットル閉弁回転数N1以下になる。これに伴い、時刻t1にてスロットル弁32の閉弁が開始されて、その後スロットル弁32は全閉になる。また、
図10の例では、スロットル弁32の閉弁後の時刻t2にてエンジン回転数が基準回転数N2未満になる。これに伴い、時刻t2において吸気弁11の位相が遅角される。具体的には、上記のように、コントローラ200は、吸気閉弁時期IVCが第1基準時期まで遅角されるように吸気S-VT13aによって吸気弁11の位相を遅角させる。ここで、吸気弁11の位相変化には遅れがある。そのため、吸気閉弁時期IVCはすぐには第1基準時期に到達せず、時刻t3にてはじめて第1基準時期に到達する。第1基準時期に到達するとしばらくの間、吸気閉弁時期IVCは第1基準時期に維持される。
【0065】
図10の例では、時刻t3後の時刻t4にて、2圧縮上死点通過後にエンジンEが停止すると判定される。具体的に、
図10の例では、第4気筒2Dと第1気筒2Aとが圧縮上死点(TDCc)を超えた後、且つ、第5気筒2Eが圧縮上死点(TDCc)に到達する前に(到達することなく)エンジンEが停止するようになっており、第4気筒2Dよりも燃焼順序が1つ前の第2気筒2Bが圧縮上死点(TDCc)を超えた直後の時刻t4に、2圧縮上死点通過後にエンジンEが停止すると判定される。
【0066】
2圧縮上死点通過後にエンジンEが停止すると判定されると、これに伴い時刻t4にて吸気弁11の位相の遅角つまり吸気閉弁時期IVCの遅角が再開される。上記のように、このときの吸気閉弁時期IVCの遅角は、停止時圧縮行程気筒の吸気閉弁時期IVCよりも後のタイミングで吸気閉弁時期IVCが第2基準時期に到達するようになっており、
図10の例では、停止時圧縮行程気筒である第5気筒の吸気閉弁時期IVCよりも後の時刻t5に吸気閉弁時期IVCが第2基準時期に到達する。時刻t5後は、吸気閉弁時期IVCは第2基準時期に維持される。そして、時刻t5後の時刻t6に、エンジンEは完全停止する。
【0067】
ここで、
図10の実線は、2圧縮上死点通過後にエンジンEが停止すると判定された時刻t4にて予測気筒停止位置が要回避範囲X1ではないと判定された場合の例であり、この場合は、時刻t4後もスロットル弁32は全閉に維持される。
【0068】
一方、
図10の破線は、時刻t4にて予測気筒停止位置が要回避範囲X1に含まれると判定された場合の例であり、この場合は、時刻t4にてスロットル弁32が開弁される。そして、この場合には、スロットル弁32の開弁に伴ってインマニ圧が大幅に増大していく。
【0069】
以上のように、上記実施形態では、2圧縮上死点通過後にエンジンEが停止すると判定されると、停止時圧縮行程気筒の吸気閉弁時期IVCを超えるまで吸気弁11の位相が遅角されて吸気閉弁時期IVCが遅角される。
図11は、エンジン停止直前における停止時圧縮行程気筒と停止時膨張行程気筒の各吸気弁11および各排気弁12のバルブリフトを示したグラフである。
図11の停止時圧縮行程気筒のグラフにおいて、実線はエンジン停止直前の当該気筒の吸気弁11のバルブリフトを示しており、破線は、エンジン停止直前の停止時膨張行程気筒の吸気弁11のバルブリフトを示している。エンジン停止直前、停止時圧縮行程気筒の吸気行程は停止時膨張行程気筒の吸気行程よりも後に実施される。そのため、上記のように吸気弁11の位相および吸気閉弁時期IVCが遅角されることで、エンジン停止直前の停止時圧縮行程気筒の吸気閉弁時期IVCは、エンジン停止直前の停止時膨張行程気筒の吸気閉弁時期IVCよりも遅角側の時期となる。そして、エンジン停止直前において、吸気下死点(BDCi)から吸気閉弁時期IVCまでのクランク角度、つまり、吸気閉弁時期IVCの吸気下死点(BDCi)からの遅角量は、停止時圧縮行程気筒の方が停止時膨張行程気筒よりも大きくなる。これより、上記実施形態によれば、停止時圧縮行程気筒が目標範囲X0よりも下死点側にずれるのを抑制でき、エンジンEの始動に費やされるモータMのトルクを小さくできる。
【0070】
具体的に、
図10に示すように、時刻t2にてスロットル弁32の閉弁を開始するとインマニ圧は低下していく。また、スロットル弁32が全閉になった後もエンジン回転数の低下に伴ってインマニ圧は低下していく。ところが、
図10の実線に示すようにスロットル弁32が全閉に維持された場合でも、エンジン停止直前の時刻t4付近の時期からはインマニ圧が増大していく。
【0071】
ここで、上記のようにインマニ圧が増大していく状態で、仮に、吸気閉弁時期IVCを一定の時期に維持すると、停止時膨張行程気筒の吸気量よりも、停止時膨張行程気筒よりも吸気行程が後に実施される停止時圧縮行程気筒の吸気量の方が多くなってしまう。そのため、吸気閉弁時期IVCを一定に維持した場合は、吸気から停止時圧縮行程気筒のピストン5に付与される力の方が、吸気から停止時膨張行程気筒のピストン5に付与される力よりも大きくなる。これより、吸気閉弁時期IVCを一定に維持した場合では、停止時圧縮行程気筒の停止位置が停止時膨張行程気筒の停止位置よりも下側となって、
図12の実線に示すように気筒停止位置が目標範囲X0に対して進角側にずれてしまう。
【0072】
なお、エンジン停止直前でインマニ圧が増大するのは、エンジン回転数が0付近まで低下するとエンジン本体1の吸気の吸い込み力が低下するためと考えられる。特に、上記のように、エンジン停止制御としてスロットル弁32を全閉にする制御を実施すると、吸気通路30内の圧力は負圧になる。そのため、この場合は、エンジン本体1の吸気の吸い込み力が低下することに伴ってスロットル弁32周辺等から吸気通路30内に吸気が漏洩してくることでインマニ圧は増大しやすくなる。
【0073】
これに対して、上記実施形態では、エンジン停止直前において、停止時圧縮行程気筒の吸気閉弁時期IVCの方が、停止時膨張行程気筒の吸気閉弁時期IVCよりも、吸気下死点(BDCi)からの遅角量が大きくされる。吸気閉弁時期IVCの吸気下死点BDCiからの遅角量が大きくなれば、気筒2(燃焼室6)内から吸気ポート9への吸気の吹き返し量が多くなり、気筒2内の吸気量は低減する。これより、上記実施形態によれば、エンジン停止直前において、停止時膨張行程気筒の吸気ポート9への吸気の吹き返し量よりも停止時圧縮行程気筒の吹き返し量を多くして、インマニ圧の増大に伴う停止時圧縮行程気筒の吸気量の増大を抑制できる。従って、吸気から停止時圧縮行程気筒のピストン5に付与される力が、吸気から停止時膨張行程気筒のピストン5に付与される力に対して過大になるのを防止でき、停止時圧縮行程気筒が目標範囲X0よりも下死点側にずれるのを抑制できる。
【0074】
また、上記実施形態では、エンジン停止制御の実施後、且つ、2圧縮上死点通過後にエンジンEが停止すると判定されることに伴って吸気閉弁時期IVCを遅角させる前に、吸気閉弁時期IVCを一旦、第1基準時期まで遅角させている。そのため、吸気S-VT13aの駆動遅れによって停止時圧縮行程気筒の吸気閉弁時期IVCが十分に遅角されないという事態を回避して、エンジン停止直前における停止時圧縮行程気筒の吸気閉弁時期IVCの吸気下死点(BDCi)からの遅角量を確実に大きくできる。従って、気筒停止位置をより確実に目標範囲X0内の位置にすることができる。
【0075】
ここで、上記のように、吸気閉弁時期IVCの遅角によって気筒停止位置が目標範囲X0からずれるのが抑制される。しかしながら、エンジン停止直前のエンジン回転数の低下具合等によっては、エンジン停止直前に停止時圧縮行程気筒のピストン5が十分に上昇せず当該気筒の停止位置が目標範囲X0よりも上死点側になるおそれがある。これに対して、上記実施形態では、停止時圧縮行程気筒の停止位置が目標範囲X0よりも上死点側であると予測されるとスロットル弁32の開度が増大されるようになっている。スロットル弁32の開度を増大させれば、
図10の破線に示したようにインマニ圧が増大していくことで停止時膨張行程気筒よりも吸気行程が後の停止時圧縮行程気筒の吸気量を増やすことができ、停止時圧縮行程気筒のピストン5の上昇を抑えることができる。従って、上記実施形態によれば、停止時圧縮行程気筒の位置が目標範囲X0よりも上死点側にずれるのも抑制することができ、気筒停止位置をより確実に目標範囲X0内の位置にしてエンジンEの始動に費やされる始動手段のトルクをより確実に小さくできる。
【0076】
(変形例)
上記実施形態では、2圧縮上死点通過後にエンジンEが停止すると判定された後に吸気弁11の位相および吸気閉弁時期IVCを遅角することで、エンジン停止直前の停止時圧縮行程気筒の吸気閉弁時期IVCの吸気下死点BDCiからの遅角量を、エンジン停止直前の停止時膨張行程気筒の当該遅角量よりも大きくした場合を説明したが、この遅角量の関係が実現される構成であれば、具体的な構成は上記に限らない。例えば、エンジン停止直前の停止時膨張行程気筒の吸気閉弁時期IVCの後に吸気S-VT13aを駆動して吸気弁11の位相を遅角させ、これにより、エンジン停止直前の停止時圧縮行程気筒の上記遅角量をエンジン停止直前の停止時膨張行程気筒の上記遅角量よりも大きくしてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、エンジン回転数が所定の基準回転数N2未満になったときに、吸気閉弁時期IVCを一旦第1基準時期まで遅角させる場合を説明したが、吸気閉弁時期IVCを一旦第1基準時期まで遅角させる制御を実施するタイミングは、燃料カット実施後、且つ、吸気弁11の位相の遅角が再開されるまでの期間中であれば上記タイミングに限られない。さらに、この吸気閉弁時期IVCを一旦第1基準時期まで遅角する制御は省略してもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、エンジンEが6つの気筒2を有する6気筒エンジンの場合を説明したが、エンジンEの気筒数はこれに限らず4つ等であってもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 エンジン本体
2 気筒
5 ピストン
7 クランク軸
11 吸気弁
13a 吸気S-VT(吸気閉弁時期変更手段)
15 インジェクタ(燃料供給手段)
30 吸気通路
32 スロットル弁
200 コントローラ(制御手段)
E エンジン
M モータ(始動手段)