(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】積載形トラッククレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 23/90 20060101AFI20250218BHJP
【FI】
B66C23/90 T
B66C23/90 Q
B66C23/90 R
(21)【出願番号】P 2021132557
(22)【出願日】2021-08-17
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郷東 末和
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 克彰
【審査官】山田 拓実
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-297169(JP,A)
【文献】特開2021-084718(JP,A)
【文献】国際公開第2021/210554(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02298689(EP,A2)
【文献】中国特許出願公開第104828722(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 23/00-23/94
B66F 9/00-11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転室の荷台との間に、クレーン装置およびアウトリガ装置が備えられた積載形トラッククレーンであって、
該積載形トラッククレーンには、
前記アウトリガ装置の左右外側端部にそれぞれ設けられたジャッキと、
該ジャッキの接地反力信号を受ける制御装置と、が設けられ、
該制御装置は、
前記クレーン装置を構成するブームの旋回位置が側方領域にある場合に、
左右いずれか一方の側方領域においてブームを旋回させた際に、
左右いずれか他方のジャッキの接地反力信号が最も低い値を示したときの旋回角を、第1旋回角とし、
平面視において、前記左右いずれか一方の側方領域に位置するジャッキの中心を通り、前記第1旋回角と90°の角度を有する直線を転倒ラインとし、
該転倒ラインを用いて転倒モーメントを算出する、
ことを特徴とする積載形トラッククレーン。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記転倒ラインから実質的後軸中心を決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の積載形トラッククレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積載形トラッククレーンに関する。さらに詳しくは、運転室と荷台との間のクレーン装置およびアウトリガ装置が設けられている積載形トラッククレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
積載形トラッククレーンは、荷台を備えたトラックにクレーン装置を搭載した車両である。クレーン装置は、運転室と荷台との間に搭載されている。クレーン装置は、走行用の原動機から動力を取り出して動作させられる。積載形トラッククレーンでは、クレーン作業時にクレーン装置の基礎部分を中心として、クレーン装置のブームを旋回させるとともに、ブームを伸縮させる。この動作により貨物を吊り上げ、この貨物を運搬する。
【0003】
積載形トラッククレーンでは、クレーン作業時の車体の安定性を確保するために車体にアウトリガ装置が設けられる。このアウトリガ装置は、多くの場合クレーン装置の近傍に1つ設けられる。アウトリガ装置の左右外側端部にそれぞれ油圧ジャッキが設けられている。そして、クレーン作業を行う際は、積載形トラッククレーンの使用者はこの油圧ジャッキを、車体から張り出した状態として作業を行う。
【0004】
積載形トラッククレーンの定格荷重は、荷台に積載物がない状態で、かつ、側方領域内で最も安定度が悪い旋回位置での能力(安定性能)と、クレーンの構造物の強度から決定される能力(クレーン強度性能)から算出される。特許文献1の
図3のグラフは、このように算出された定格荷重の一例であり、特許文献1には、この定格荷重に対する吊上荷重の割合により警報が発せられたり、作動が停止させられたりする構成が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、安定性能(特許文献2における安定定格吊上荷重)を用いた場合の定格荷重の算出方法が開示されている。特許文献2では、左右いずれかの転倒基線を基準として、安定側モーメントと転倒側モーメントが算出され、これに基づいて安定性能を用いた場合の定格荷重が算出される。特許文献2の転倒基線は、左右いずれかのアウトリガジャッキの接地点と、同方向に位置する後輪の接地点とを結んだ線と定義されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-86873号公報
【文献】特開2007-297169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
安定性能による定格荷重の算出時には、特許文献2で開示があるように、左右いずれかのアウトリガジャッキの接地点と、同方向に位置する後輪の接地点とを結んだ転倒基線に基づいて求める方法がある。
また安定性能による定格荷重の算出は、以下に定義される転倒ラインに基づいて行われる場合がある。すなわち
図6に示す平面視において、左右の外側の制限位置まで張り出されたアウトリガ装置33の各ジャッキの中心(例えば右ジャッキ38aの中心)と、左右の後輪23間に亘って設けられた後軸の左右中心O
Tと、を結んだ直線を右転倒ラインL
RT(上記の転倒基線と同義)と定義する。
ここからは特許文献2と同じである。すなわち平面視において、この右転倒ラインL
RTからブーム32の回転中心O
Cに向けて垂線を引く(以下本稿において、この垂線と、積載形トラッククレーンのブームの車両前方のイニシャルポジションと、からなる角度を「従来旋回角度θ
RT」ということがある)。この垂線の長さは、右転倒ラインL
RT上の各点からブームの回転中心O
Cまでの長さの中で一番短く、この垂線上にブームがある状態が最も安定度が悪くなると理論上考えられるので、この状態を考慮して、定義された転倒ラインL
RT、L
LTが用いられて、転倒モーメントが算出され、安定性能による側方領域における定格荷重が決定されていた。すなわち、この転倒ラインを基礎として、転倒モーメントに関する計算の多くが行われていた。
【0008】
しかるに、積載形トラッククレーンに用いられる車両の形態は非常に多く、ホイルベースの長さまたは後軸数も多岐にわたるため、車両の形態によっては、構造のみから定義される転倒ラインは、実際の転倒ラインと必ずしも一致していないという問題がある。すなわち実際の転倒ラインと一致していない場合、算出される転倒モーメントの数値が、実際の数値と一致せず、安定性能による側方領域における定格荷重を正確に求めることができないという問題がある。
本発明は上記事情に鑑み、安定性能による側方領域における定格荷重の算出を正確に行うことが可能な積載形トラッククレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の積載形トラッククレーンは、運転室の荷台との間に、クレーン装置およびアウトリガ装置が備えられた積載形トラッククレーンであって、該積載形トラッククレーンには、前記アウトリガ装置の左右外側端部にそれぞれ設けられたジャッキと、該ジャッキの接地反力信号を受ける制御装置と、が設けられ、該制御装置は、前記クレーン装置を構成するブームの旋回位置が側方領域にある場合に、左右いずれか一方の側方領域においてブームを旋回させた際に、左右いずれか他方のジャッキの接地反力信号が最も低い値を示したときの旋回角を、第1旋回角とし、平面視において、前記左右いずれか一方の側方領域に位置するジャッキの中心を通り、前記第1旋回角と90°の角度を有する直線を転倒ラインとし、該転倒ラインを用いて転倒モーメントを算出することを特徴とする。
第2発明の積載形トラッククレーンは、第1発明において、前記制御装置は、前記転倒ラインから実質的後軸中心を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、転倒モーメントを算出するために用いられる転倒ラインを、ジャッキの接地反力から求めることにより、安定性能による側方領域における定格荷重の算出を、より高精度に行うことができる。
第2発明によれば、ジャッキ反力から求めた転倒ラインを用いて実質的後軸中心を算出することにより、アウトリガ装置の張出幅が変更されても高精度に転倒ラインを求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る積載形トラッククレーンの転倒ラインの説明図である。
【
図2】
図1の積載形トラッククレーンの側面図である。
【
図3】
図1の積載形トラッククレーンの油圧回路図である。
【
図4】
図1の積載形トラッククレーンの制御回路図である。
【
図5】
図1の積載形トラッククレーンの作業領域の説明図である。
【
図6】従来の積載形トラッククレーンの転倒ラインの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための積載形トラッククレーンを例示するものであって、本発明は積載形トラッククレーンを以下のものに特定しない。なお、各図面が示す部材の大きさまたは位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。加えて本明細書においては、前後左右の記載は、車体の運転室に積載形トラッククレーンの使用者が搭乗した状態での使用者を基準として前後左右とする。
【0013】
<第1実施形態>
(積載形トラッククレーン10)
図2には本発明の第1実施形態に係る積載形トラッククレーン10の側面図を示す。
図2に示すように、積載形トラッククレーン10は、汎用トラック20の運転室27と荷台28との間の車両フレーム29にクレーン装置21が搭載されたものである。汎用トラック20には、左右対称に前輪22が設けられている。さらに汎用トラック20には、左右対称に後輪23が設けられている。
【0014】
図2に示すように、クレーン装置21は、車両フレーム29上に固定されたベース30と、ベース30に対して旋回可能に設けられたポスト31と、ポスト31の上端部に起伏可能に設けられたブーム32と、を含んで構成されている。加えて、積載形トラッククレーン10は、アウトリガ装置33を備えている。このアウトリガ装置33は、ベース30に設けられ、ベース30から左右外側へ張出す。すなわちクレーン装置21およびアウトリガ装置33は、側面方向から見て運転室27と荷台28との間に位置している。アウトリガ装置33の左右先端には、油圧のジャッキ38a、38bがそれぞれ設けられている(
図5参照)。
【0015】
ポスト31にはウインチが内蔵されている。このウインチからワイヤロープをブーム32の先端部に導いて、ブーム32先端部の滑車を介してフック34に掛け回すことにより、フック34をブーム32の先端部から吊り下げている。
【0016】
クレーン装置21は油圧回路40により油圧駆動される(
図3参照)。この油圧回路40を操作するためのレバー群35がベース30の左右両側に設けられている。また、油圧回路40を電気的に制御し、作業車両を制御する制御装置12がベース30に設けられている。
【0017】
(油圧回路40)
図3には、本実施形態に係る積載形トラッククレーン10の油圧回路図を示す。
図3に示すように、クレーン装置21の油圧回路40は、主に、油圧バルブユニット41と、油圧バルブユニット41にタンク42内の作動油を供給する油圧ポンプ43と、油圧ポンプ43と油圧バルブユニット41とを接続する主油路44と、油圧バルブユニット41とタンク42とを接続する戻油路45と、ブーム32の伸縮動作、またはウインチの巻上げ巻下げ、ブーム32の起伏動作、ブーム32の旋回動作などを行うための、複数のクレーン装置用アクチュエータ46a~46d、2つのジャッキ38a、38b、およびアウトリガ装置33の左右の張出アクチュエータ38c、38dを含んで構成されている。クレーン装置用アクチュエータ46a~46d、ジャッキ38a、38b、右張出アクチュエータ38c、および左張出アクチュエータ38dは、油圧バルブユニット41に接続している。
【0018】
油圧ポンプ43はPTO(パワーテイクオフ)装置を介して汎用トラック20のエンジン36に接続されており、エンジン36により駆動される。
【0019】
油圧バルブユニット41には、ブーム伸縮用制御弁47a、ウインチ用制御弁47b、ブーム起伏用制御弁47c、ブーム旋回用制御弁47d、右側ジャッキ制御弁48a、左側ジャッキ制御弁48b、右張出制御弁48c、および左張出制御弁48dが設けられている。ブーム伸縮用制御弁47aはブーム伸縮用アクチュエータ46aに、ウインチ用制御弁47bはウインチ用油圧モータ46bに、ブーム起伏用制御弁47cはブーム起伏用アクチュエータ46cに、ブーム旋回用制御弁47dはブーム旋回用アクチュエータ46dにそれぞれ接続されている。また、右側ジャッキ制御弁48aは右側に位置する右ジャッキ38aに、左側ジャッキ制御弁48bは左側に位置する左ジャッキ38bに、右張出制御弁48cは右張出アクチュエータ38cに、左張出制御弁48dは左張出アクチュエータ38dにそれぞれ接続されている。
【0020】
これらの切換制御弁には、それぞれレバーが取り付けられており、そのレバーを手動操作することにより、油圧ポンプ43から供給される作動油の方向および流量を切り換えることができるようになっている。
【0021】
また、制御装置12は、エンジン36のECU(エンジンコントロールユニット)にも接続されており、少なくともエンジン36の回転数を制御できるよう構成されている。制御装置12は、エンジン36の回転数を制御することで油圧ポンプ43の回転数を制御でき、油圧ポンプ43の吐出量を調整できる。
【0022】
(制御回路)
図4には、本実施形態に係る積載形トラッククレーン10の制御回路図を示す。制御装置12の入力側には、ブーム長検出器15aと、ブーム旋回角度検出器15bと、ブーム起伏角度検出器15cと、起伏支持力検出器15dと、右反力情報検出器16aと、左反力情報検出器16bと、右張出情報検出器17aと、左張出情報検出器17bと、が電気的に接続されている。また、制御装置12の出力側には警報器14と、ブーム伸縮用制御弁47a、ウインチ用制御弁47b、ブーム起伏用制御弁47c、ブーム旋回用制御弁47d、右側ジャッキ制御弁48a、左側ジャッキ制御弁48b、右張出制御弁48c、左張出制御弁48dが電気的に接続されている。
【0023】
ブーム長検出器15aは、ブーム32の長さを検出するためのものであり、例えばコード繰出長さ検出器である。コード繰出長さ検出器は測長用コードの繰り出し長さをコード巻取器の回転変位量を検出することで検出する。
【0024】
ブーム旋回角度検出器15bは、ブーム32の旋回角度を検出するためのものであり、ポスト31の根元側に配置されている。例えばブーム旋回角度検出器15bはポテンショメータである。このポテンショメータの代わりにロータリエンコーダが用いられることもある。
【0025】
ブーム起伏角度検出器15cは、ブーム32の起伏角度を検出するためのものであり、ブーム32の根元側に配置されている。例えばブーム起伏角度検出器15cはポテンショメータである。このポテンショメータの代わりにロータリエンコーダが用いられることもある。
【0026】
起伏支持力検出器15dは、フック34に吊られた荷重を検出するために設けられている。本実施形態では、起伏支持力検出器15dはブーム起伏用のシリンダに設けられた差圧計である。起伏支持力検出器15dで検出された差圧は、制御装置12へ出力される。
【0027】
右反力情報検出器16aは、アウトリガ装置33の右外側端部に設けられた右ジャッキ38aに作用する反力を検出するために設けられている。右反力情報検出器16aは、例えばひずみゲージを用いたロードセルであったり、ジャッキ内の圧力を検出できる圧力計であったりするが特にこれらに限定されない。左反力情報検出器16bも、右反力情報検出器16aと同様の構成である。
【0028】
右張出情報検出器17aは、アウトリガ装置33の右ジャッキ38aが所定の張出位置にあることを検出するために設けられている。右張出情報検出器17aは、例えば近接スイッチを用いることができるが、これに限定されない。また。右張出情報検出器17aは、例えばコード繰出長さ検出器としても問題ない。左張出情報検出器17bも、右張出情報検出器17aと同様の構成である。
【0029】
警報器14は、例えば定格荷重を超えた吊り荷重となった場合など、あらかじめ定められた状態になった場合に、積載形トラッククレーン10の使用者にその状態を覚知させるためのものである。本実施形態では、警報器14は、運転室27の外側に設けられている。
【0030】
(作業領域)
図5は、本実施形態に係る積載形トラッククレーン10の作業領域の説明図である。
図5では、積載形トラッククレーン10を平面視で示している。本実施形態では、積載形トラッククレーン10には、アウトリガ装置33がクレーン装置21近傍、すなわち運転室27と荷台28との間に備えられている。積載形トラッククレーン10の使用者は、このアウトリガ装置33を外側に十分張出した状態で積荷の上げ下ろしの作業を行う。
【0031】
積載形トラッククレーン10は、構造上クレーン装置21を構成するブーム32の水平面内の角度、すなわち旋回角度により、安全に積みおろしできる吊荷の重量が異なる。一般的に積載形トラッククレーン10の定格荷重は、以下の後方領域、側方領域および前方領域の3つの領域ごとに設定されている。後方領域は、平面図においてブーム32の回転中心Ocと、左右に二つずつある後輪23のそれぞれの左右中心(以下「右後輪中心CR」および「左後輪中心CL」と称することがある。)と、を結んだ線分の間の領域(2本の線分から構成される角度が小さい側)である。
【0032】
側方領域は、ブーム32の回転中心Ocと右後輪中心CRとを結んだ線分、およびブーム32の回転中心Ocと右ジャッキ38aとを結んだ線分の間の領域(2本の線分から構成される角度が小さい側)、またはブーム32の回転中心Ocと左後輪中心CLとを結んだ線分、およびブーム32の回転中心Ocと左ジャッキ38bとを結んだ線分の間の領域(2本の線分から構成される角度が小さい側)である。
【0033】
前方領域は、ブーム32の回転中心Ocと左右のジャッキ38a、38bとを結んだ線分の間の領域(2本の線分から構成される角度が小さい側)である。なお本実施形態では3つの領域は上記のように定義されているが、この領域の定義は積載形トラッククレーン10の構成により異なることがある。例えば、本実施形態では、作業領域は前方領域、側方領域、後方領域の3つに分けられたが、前方領域、側方領域の2つに分けられる場合がある。また、それぞれの領域の境界はブーム旋回角度検出器15bからの信号により判断するため、上記定義による位置と、厳密には異なっている場合がある。また、前方領域を、2本の線分から構成される角度が小さい側としたが、これに限定されない。例えばブーム32の回転中心Ocが左右のジャッキ38a、38bと、を結んだ線分よりも、車両前方側にある場合は2本の線分から構成される角度が大きい側となる。
【0034】
(転倒ラインL
RS、L
LS決定方法)
図1には、本発明の第1実施形態に係る積載形トラッククレーン10の転倒ラインL
RS、L
LSの説明図を示す。この転倒ラインL
RS、L
LSは、少なくとも積載形トラッククレーン10の側方領域における転倒モーメントを算出するのに用いられる。右転倒ラインL
RSおよび左転倒ラインL
LSの求め方は、左右が違う以外は同じであるので、右転倒ラインL
RSの決定方法について説明する。
【0035】
なお「転倒モーメント」とは、積載形トラッククレーン10を用いて作業者が作業を行う際に、ブーム32の長さ、吊荷の荷重などから計算されるものである。ブーム32の長さ等から計算されるものであるから、作業状況により逐次変化するものである。
【0036】
右転倒ラインLRSは、汎用トラック20にクレーン装置21とアウトリガ装置33とが架装された状態で決定される。右転倒ラインLRSは、クレーン装置21とアウトリガ装置33とが一度架装されると、その後変更されることはない。
【0037】
クレーン装置21とアウトリガ装置33とが架装された状態で、積載形トラッククレーン10の製造者は、アウトリガ装置33を最も外側に張り出させる。次にその製造者は、アウトリガ装置33の左右外側端部にそれぞれ設けられている右ジャッキ38aおよび左ジャッキ38bを、積載形トラッククレーン10の左右の前輪22が浮き上がるように下側に突き出す。前輪22が浮き上がった状態でその製造者は、クレーン装置21を構成するブーム32を、ブーム32の旋回中心O
Cを中心に旋回させる。具体的には、ブーム32のイニシャルポジションは
図1において旋回中心O
Cから上側に伸びる位置となるが、そのイニシャルポジションから時計回りに180度回転させる。この回転の際に、その製造者は、制御装置12により、左ジャッキ38bにかかる接地反力を検出し、その検出値を制御装置12に記憶させる。そして、制御装置12は、最も接地反力が低い値を示した時の旋回角θを、右第1旋回角θ
RSとして記憶する。
【0038】
そして、制御装置12は、旋回中心OCを通り、右第1旋回角θRSを有する直線に対し、90度の角度を有し、右ジャッキ38aの中心を通る直線を右転倒ラインLRSと決定する。制御装置12は、この右転倒ラインLRSを用いて、少なくとも積載形トラッククレーン10の側方領域における転倒モーメントを算出する。
【0039】
このような構成によれば、転倒モーメントを算出するために用いられる転倒ラインLRS、LLSを、ジャッキ38a、38bの接地反力から求めることにより、安定性能による側方領域における定格荷重を、より高精度に求めることができる。また、側方領域の旋回運動において、左右反対側のジャッキ38a、38bの接地反力が最も小さい第1旋回角の角度が判明するので、旋回運動をする際に、第1旋回角の角度に近づく方向に旋回する際に、制御装置12は、警報器14を鳴らしたり、旋回運動の速度を緩めたりすることが可能となる。
【0040】
次に制御装置12は、右転倒ラインLRSと、積載形トラッククレーン10の左右対称軸との交点を実質的後軸中心OSと決定する。
【0041】
このように右転倒ラインLRSおよび実質的後軸中心OSは定められたが、左第1旋回角θLSおよび左転倒ラインLLSの決定方法も左右であるとの相違点以外は同じである。なお、右転倒ラインLRSから決定された実質的後軸中心OSは、左転倒ラインLLSから決定された実質的後軸中心OSと理論上は同じ位置になる。
【0042】
ジャッキ38a、38bの接地反力から求めた転倒ラインLRS,LLSを用いて実質的後軸中心OSを決定することにより、アウトリガ装置33の張出幅が変更されても高精度に転倒ラインLRS、LLSを求めることができる。
【符号の説明】
【0043】
10 積載形トラッククレーン
12 制御装置
21 クレーン装置
27 運転室
28 荷台
32 ブーム
33 アウトリガ装置
38a 右ジャッキ
38b 左ジャッキ
LRS 右転倒ライン
LLS 左転倒ライン
OS 実質的後軸中心
θRS 右第1旋回角
θLS 左第1旋回角