(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】内燃機関の異常診断装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20250218BHJP
F01M 13/00 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
F02D45/00 358
F01M13/00 K
F01M13/00 Z
F02D45/00 345
(21)【出願番号】P 2021153279
(22)【出願日】2021-09-21
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】森川 淳
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-063467(JP,A)
【文献】特開2019-157705(JP,A)
【文献】特開2004-116371(JP,A)
【文献】特開2017-115584(JP,A)
【文献】特開平10-103147(JP,A)
【文献】特開2021-055576(JP,A)
【文献】特開2013-100730(JP,A)
【文献】特開2013-117176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F01M 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室からクランクケースに流入したブローバイガスを吸気通路に戻すためのブローバイガス通路を備えた内燃機関に適用され、
前記ブローバイガス通路内の圧力の検出値を取得する検出値取得処理と、
前記検出値の変動を抑制する平滑化処理と、
前記平滑化処理の出力値に基づき前記ブローバイガス通路の異常の有無を診断する診断処理と、を実行し、
前記平滑化処理は、
前記検出値の極大値および極小値を取得する極値取得処理と、
前記極大値および前記極小値を入力として前記出力値を算出する出力値算出処理と、を含み、
前記出力値算出処理は、前記極大値および前記極小値の差が大きい場合に小さい場合よりも前記検出値の変動に対する前記出力値の応答性を低下させる処理
を含む内燃機関の異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランクケース内のブローバイガスを吸気通路に戻すブローバイガス通路が周知である。これに対し、ブローバイガス通路が吸気通路から外れたり、ブローバイガス通路が破損したりすると、ブローバイガスが外部に漏出するおそれがある。そこで従来、たとえば下記特許文献1にみられるように、ブローバイガス通路の異常の有無を診断する異常診断装置が提案されている。この異常診断装置は、ブローバイガス通路の圧力の検出値に基づき、異常の有無を診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、圧力の検出値は、変動している。そのため、圧力の脈動に起因して異常の有無の診断精度が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
燃焼室からクランクケースに流入したブローバイガスを吸気通路に戻すためのブローバイガス通路を備えた内燃機関に適用され、前記ブローバイガス通路内の圧力の検出値を取得する検出値取得処理と、前記検出値の変動を抑制する平滑化処理と、前記平滑化処理の出力値に基づき前記ブローバイガス通路の異常の有無を診断する診断処理と、を実行し、前記平滑化処理は、前記検出値の極大値および極小値を取得する極値取得処理と、前記極大値および前記極小値を入力として前記出力値を算出する出力値算出処理と、を含み、前記出力値算出処理は、前記極大値および前記極小値の差が大きい場合に小さい場合よりも前記検出値の変動に対する前記出力値の応答性を低下させる処理、および前記極大値および前記極小値の単純平均値に応じて前記出力値を算出する処理の少なくとも1つの処理を含む内燃機関の異常診断装置である。
【0006】
検出値に対する出力値の応答性を低下させることにより、出力値の変動を抑制できる。ここで、検出値の変動が大きい場合と小さい場合とでは、検出値に対する出力値の応答性を低下させる度合いについての適正値が異なる。すなわち、変動が大きい場合に適切な応答性の低下度合いを変動が小さい場合に適用すると、検出値の応答性を過度に低下させてしまうおそれがある。これに対し、極大値と極小値との差が大きい場合に小さい場合よりも検出値の変動に対する出力値の応答性を低下させることにより、応答性の低下度合いを適正値とすることができる。そして、これにより出力値に基づく異常の有無の診断を適切に行うことができる。
【0007】
また、極大値および極小値の単純平均値は、検出値の変動が抑制されて且つ、実際の圧力を高精度に表現する。そのため、単純平均値に応じて出力値を算出することによっても、出力値に基づく異常の有無の診断を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態にかかる内燃機関および制御装置の構成を示す図である。
【
図2】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
【
図3】同実施形態にかかる圧力の変動を例示するタイムチャートである。
【
図4】(a)~(c)は、同実施形態および比較例における診断用の圧力の推移を例示するタイムチャートである。
【
図5】第2の実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示す内燃機関10の吸気通路12には、過給機14のコンプレッサ14aが設けられている。吸気通路12のうちのコンプレッサ14aの下流には、スロットルバルブ16が設けられている。吸気通路12内の空気は、シリンダヘッド18、シリンダブロック20およびピストン22によって区画された燃焼室24に流入する。ピストン22の往復運動は、クランク軸28の回転運動に変換される。ピストン22の往復運動に応じて、燃焼室24において燃焼に供された混合気は、排気として排気通路30に排出される。排気通路30には、過給機14のタービン14bが設けられている。
【0010】
シリンダブロック20のうちシリンダヘッド18とは逆側の端部には、クランクケース32が設けられている。クランクケース32にはオイルパン34が取り付けられている。クランクケース32内のブローバイガスは、連通路26を介して、シリンダヘッド18およびヘッドカバー29によって区画された蓄圧部40に流出する。蓄圧部40内のブローバイガスは、ブローバイガス通路42を介して吸気通路12に戻される。詳しくは、ブローバイガス通路42は、吸気通路12のうちコンプレッサ14aの上流に接続されている。
【0011】
制御装置50は、制御対象としての内燃機関10の制御量である、トルクおよび排気成分比率を制御すべく、スロットルバルブ16等の内燃機関10の操作部を操作する。制御装置は、CPU52、ROM54および周辺回路56を備えている。周辺回路56は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路、およびリセット回路等を含む。CPU52は、ROM54に記憶されたプログラムを実行することにより、制御量の制御、およびブローバイガス通路の異常診断処理等の各種処理を実行する。
【0012】
図1には、異常診断処理のブロック図を示している。すなわち、平滑化処理M10は、圧力センサ62によって検出されるブローバイガス通路42内の圧力の検出値Pを取り込むことによって、診断用圧力Psmを算出する処理である。診断処理M12は、診断用圧力Psmに加えて、エアフローメータ64によって検出される吸入空気量Gaを入力とする。診断処理M12は、吸入空気量Gaが増加傾向にあるときにおける診断用圧力Psmの低下度合いが所定値以下の場合に、異常が生じている旨判定する。すなわち、吸入空気量Gaが増加すると、空気の引き込みによって、ブローバイガス通路42内の圧力が低下する。これに対し、ブローバイガスが外部に流出する異常が生じている場合には、圧力の低下が鈍い。
【0013】
上記平滑化処理M10は、検出値Pの変動を抑制する処理である。すなわち、検出値Pには、圧縮上死点の出現間隔を周期とする圧力脈動が生じる。そのため、平滑化処理M10によって、検出値Pを平滑化して診断用圧力Psmを生成する。以下、これについて詳述する。
【0014】
図2に、平滑化処理M10の詳細な手順を示す。
図2に示す処理は、ROM54に記憶されたプログラムをCPU52がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0015】
図2に示す一連の処理において、CPU52は、まず、検出値P(n)をサンプリングする(S10)。ここで、「P」の後のカッコ内の「n」は、サンプリングのタイミングを示す。次にCPU52は、検出値P(n)から前回の検出値P(n-1)を減算した値を、差圧ΔPに代入する(S12)。そしてCPU52は、差圧ΔPがゼロ以上の場合(S14:YES)、状態Pstate(n)に「1」を代入する(S16)。一方、CPU52は、差圧ΔPが負であると判定する場合(S14:NO)、状態Pstate(n)に「-1」を代入する(S18)。
【0016】
CPU52は、S16,S18の処理を完了する場合、状態Pstate(n)と状態Pstate(n-1)との和が「0」であるか否かを判定する(S20)。この処理は、検出値Pが増加から減少に転じた時点、または減少から増加に転じた時点であるか否かを判定する処理である。CPU52は、「0」であると判定する場合(S20:YES)、状態Pstate(n)が正であるか否かを判定する(S22)。この処理は、検出値Pが減少から増加に転じた時点であるか否かを判定する処理である。
【0017】
CPU52は、状態Pstateが正であると判定する場合(S22:YES)、極小値Peakbに、検出値P(n)を代入する(S24)。すなわち、CPU52は、今回の検出値P(n)を簡易的に極小値と見なす。これに対し、CPU52は、状態Pstate以下であると判定する場合(S22:NO)、極大値Peaktに、検出値P(n)を代入する(S26)。すなわち、CPU52は、今回の検出値P(n)を簡易的に極大値と見なす。
【0018】
CPU52は、S24の処理を完了する場合、圧力脈動の周期TにカウンタCの値を代入した後、カウンタCを初期化する(S28)。
CPU52は、S26,S28の処理を完了する場合、検出値P(n)を検出値P(n-1)に代入する処理と、状態Pstate(n)を状態Pstate(n-1)に代入する処理と、カウンタCをインクリメントする処理と、を実行する(S30)。
【0019】
CPU52は、S30の処理を完了する場合と、S20の処理において否定判定する場合と、には、周期Tが下限値TL以上であって且つ上限値TH以下であるか否かを判定する(S32)。下限値TLおよび上限値THは、クランク軸28の回転速度NEに応じて可変設定される。下限値TLおよび上限値THで定まる所定範囲の中央値は、圧縮上死点の出現間隔である。下限値TLおよび上限値THは、圧縮上死点の出現間隔を、所定のマージン量だけずらした値である。この処理は、周期Tによる圧力脈動が圧縮上死点の出現間隔で生じているか否かを判定する処理である。
【0020】
CPU52は、S32の処理において肯定判定する場合、極大値Peaktから極小値Peakbを減算した値を振幅PPに代入する(S34)。次にCPU52は、振幅PPを入力としてなまし係数Kを算出する(S36)。詳しくはCPU52は、振幅PPが大きい場合に小さい場合よりもなまし係数Kを小さい値に算出する。具体的には、ROM54に予めマップデータが記憶された状態において、CPU52によりなまし係数Kの値がマップ演算される。ここでマップデータは、振幅PPを入力変数とし、なまし係数Kを出力変数とするデータである。なお、なまし係数Kは「0」よりも大きく「1」よりも小さい値である。
【0021】
次にCPU52は、検出値P(n)から診断用圧力Psmを減算した値になまし係数Kを乗算した値と、診断用圧力Psmとの和を、診断用圧力Psmに代入する(S38)。この処理は、検出値P(n)の指数移動平均処理値を算出することに相当する。ここで、検出値P(n)に乗算する重み係数がなまし係数Kであって且つ、診断用圧力Psmに乗算する重み係数が「1-K」である。
【0022】
なお、CPU52は、S38の処理を完了する場合と、S32の処理において否定判定する場合と、には、
図2に示した一連の処理を一旦終了する。
ここで、本実施形態の作用および効果について説明する。
【0023】
CPU52は、吸入空気量Gaが増加する旨の条件を含む所定の診断条件が成立すると、検出値Pに基づき診断用圧力Psmを算出する。
図3に、検出値Pの変動を示す。CPU52は、検出値Pの極大値Peaktから極小値Peakbを減算した値を振幅PPとする。そして、CPU52は、振幅PPに応じてなまし係数Kの値を変更する。これにより、診断用圧力Psmを用いた診断を迅速且つ高精度に行うことができる。
【0024】
図4(a)に、吸入空気量Gaが増加するときにおける検出値Pおよびその変化量InΔPの推移を例示する。
図4(a)では、変化量InΔPの算出のための検出値の初期値を算出する時刻t1において、検出値Pが極小値となった場合を示す。この場合、時刻t1からの圧力の低下量が小さい値に算出される傾向となる。したがって、実際には正常であっても異常と判定されやすくなる。
【0025】
図4(b)では、変化量InΔPの算出のための検出値の初期値を算出する時刻t1において、検出値Pが極大値となった場合を示す。この場合、時刻t1からの圧力の低下量が大きい値に算出される傾向となる。したがって、実際には異常であっても正常と判定されやすくなる。
【0026】
図4(c)は、実線にて検出値Pおよびその変化量InΔPの推移を示す。また、一点鎖線にて本実施形態にかかる診断用圧力Psmおよびその変化量InΔPの推移を示す。また、2点鎖線にて、なまし係数Kの値を本実施形態よりも小さくした場合におけるなまし処理後の値とその変化量InΔPの推移を示す。なお、検出値Pの変化量InΔPは幅を有しているため、最小値と最大値との推移を記載している。
【0027】
図4(c)に示すように、検出値Pを用いる場合には、変化量InΔPをブローバイガスの漏出異常の有無を示す変数として適切な値とすることが困難である。これに対し、なまし係数Kが過度に小さい場合には、圧力脈動を十分に抑制できるものの、圧力の低下速度が小さくなることから、診断に要する時間が長くなる。そのため、診断の実行機会が少なくなり、速やかに異常を検知できなくなるおそれがある。
【0028】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1)CPU52は、
図3に示すように、検出値Pの時系列的に隣り合う一対の極大値Peakt間の時間間隔を、圧力脈動の周期Tとする。そして、周期Tが所定範囲内であることを条件に診断用圧力Psmを算出した。これにより、圧縮上死点の出現間隔に同期した圧力脈動とは相違する想定外のノイズが検出値Pに含まれる場合に診断が実行されることを抑制できる。
【0029】
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0030】
図5に、本実施形態にかかる平滑化処理M10の手順を示す。
図5に示す処理は、ROM54に記憶されたプログラムをCPU52がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、
図5に示す処理において、
図2に示した処理に対応する処理については、便宜上、同一のステップ番号を付与している。
【0031】
図5に示す一連の処理において、CPU52は、S32の処理において肯定判定する場合、極大値Peaktと極小値Peakbとの単純平均値を、診断用圧力Psmに代入する(S40)。
図3には、単純平均値Peakaveを星印で示している。なお、CPU52は、S40の処理を完了する場合には、
図5に示す一連の処理を一旦終了する。
【0032】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。異常診断装置は、制御装置50に対応する。検出値取得処理は、S10の処理に対応する。平滑化処理は、平滑化処理M10に対応する。診断処理は、診断処理M12に対応する。極値取得処理は、S12~S26の処理に対応する。出力値算出処理は、S34~S38の処理と、S40の処理と、に対応する。
【0033】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0034】
・S24の処理において、極小値Peakbに前回の検出値P(n-1)を代入してもよい。
・S26の処理において、極大値Peaktに前回の検出値P(n-1)を代入してもよい。
【0035】
・検出値Pの変動に対する診断用圧力Psmの応答性を低下させる処理としては、なまし処理に限らない。たとえば1次遅れフィルタ処理であってもよい。またたとえば2次遅れフィルタ処理であってもよい。
【0036】
・
図5のS40の処理では、単純平均値を診断用圧力Psmに代入したが、これに限らない。たとえば、単純平均値をなまし処理した値を診断用圧力Psmに代入してもよい。ここで、なまし処理のなまし係数Kは、固定値であってよい。もっとも、なまし係数Kを振幅PPに応じて可変としてもよい。
【0037】
・S32の処理を省いてもよい。換言すれば、周期Tが圧縮上死点の出現間隔に相当するか否かの判定処理を実行しなくてもよい。
【符号の説明】
【0038】
10…内燃機関
12…吸気通路
14…過給機
18…シリンダヘッド
20…シリンダブロック
26…連通路
29…ヘッドカバー
32…クランクケース
42…ブローバイガス通路
50…制御装置