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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】高圧ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F02M 59/44 20060101AFI20250218BHJP
   F02M 63/00 20060101ALI20250218BHJP
   F04B 53/00 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
F02M59/44 P
F02M59/44 B
F02M59/44 U
F02M63/00 D
F04B53/00 B
F04B53/00 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021166654
(22)【出願日】2021-10-11
(65)【公開番号】P2023057249
(43)【公開日】2023-04-21
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 和幹
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-128007(JP,A)
【文献】特開2003-327846(JP,A)
【文献】特開2001-329931(JP,A)
【文献】特開2020-079583(JP,A)
【文献】特開2013-147947(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0139352(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102006054798(DE,A1)
【文献】特開2022-139474(JP,A)
【文献】特開2007-152916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 59/44 ~ 59/48
F02M 63/00
F04B 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒孔が設けられたシリンダと、
前記シリンダの前記筒孔に往復摺動可能に嵌入されたプランジャと、
駆動カムの回転に伴い往復移動し、前記プランジャを連動で往復移動させるリフタと、
前記リフタを収容孔に収容し、前記リフタの往復移動をガイドするリフタガイドと、を備える高圧ポンプであって、
前記高圧ポンプにおける振動発生源及び振動伝達経路の少なくとも一方に設けられた制振樹脂層をさらに備え、
前記制振樹脂層として、前記リフタガイドの内周面及び前記リフタの外周面の少なくとも一方に設けられた制振樹脂層を備え、
前記制振樹脂層は、耐熱性樹脂と、振動エネルギーを熱エネルギーに変換する制振フィラーとを含むことを特徴とする高圧ポンプ。
【請求項2】
前記制振樹脂層として、前記リフタガイドの内周面に設けられた制振樹脂層を備えることを特徴とする請求項に記載の高圧ポンプ。
【請求項3】
前記シリンダの径外方向に位置するシリンダ保持部と、前記シリンダ保持部から前記径外方向へ突出するフランジ部とを有し、前記シリンダを支持する下ハウジングをさらに備え、
前記制振樹脂層として、前記フランジ部における被取付け部材と対向する締結面及び前記締結面と反対側の座面の少なくとも一方に設けられた制振樹脂層を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の高圧ポンプ。
【請求項4】
前記制振樹脂層の厚さは、10μm以上であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の高圧ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を加圧し吐出する高圧ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料を加圧し、加圧した燃料を内燃機関に供給する高圧ポンプが知られている。高圧ポンプは、シリンダと、プランジャとを備え、プランジャをシリンダの筒孔で往復移動させることにより、シリンダ及びプランジャで区画される加圧室を圧縮するときに燃料を加圧する。
【0003】
高圧ポンプとして、例えば、特許文献1には、加圧室に吸入される燃料の量を調整するための吸入弁、及び吸入弁の開閉を制御するための電磁駆動部を備える高圧ポンプが記載されている。特許文献1に記載された高圧ポンプは、燃料室及び燃料室に連通する加圧室を有するハウジングと、往復移動可能に設けられ、加圧室内の燃料を加圧可能なプランジャと、開弁したとき燃料室と加圧室との間の燃料の流れを許容し、閉弁したとき燃料室と加圧室との間の燃料の流れを遮断可能な吸入弁と、一端がハウジングの内側に位置し、他端がハウジングの外側に位置し、一端が吸入弁に当接可能なよう又は接続するよう設けられたニードルと、ニードルの他端側に設けられニードルを駆動して吸入弁を開閉する電磁駆動部と、磁性材料により筒状に形成され、外径が電磁駆動部のヨークの外径より小さく、軸がニードルの軸に沿うようニードルの径方向外側に設けられ、ハウジングと電磁駆動部とを接続している筒部材と、を備えている。
【0004】
このような高圧ポンプの構造では、電磁駆動部が、加圧室を有するハウジングから突出する筒部材の端部に設けられている。そして、電磁駆動部が、吸入弁を開閉するとき、電磁力を生じ、吸入弁に当接するニードルを軸方向に往復移動させる。また、プランジャが軸方向に往復移動し加圧室内の燃料を加圧する。よって、高圧ポンプの作動時、電磁駆動部が、筒部材の端部においてマスとなり、ハウジングに対し相対的に振動するおそれがある。そして、このような振動に起因して高圧ポンプから騒音が発生するおそれがある。このような問題に対処すべく、特許文献1に記載された高圧ポンプは、ハウジングと電磁駆動部との間において筒部材の径方向外側に設けられ、ハウジングに対する電磁駆動部の振動を抑制可能な制振部材をさらに備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-128007号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された高圧ポンプでは、弾性体等から構成される制振部材を設けるためのスペースが必要であるため、制振部材を設ける部位が限定され、振動発生源や振動伝達経路における振動を抑制可能な箇所に制振部材を設けることが難しいことがある。また、場合によっては、制振部材を設けるためのスペースを確保するために高圧ポンプの既存の構造の設計を変更する必要が生じることがある。
【0007】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、振動の発生又は伝達を容易に抑制できる高圧ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明の高圧ポンプは、筒孔が設けられたシリンダと、上記シリンダの上記筒孔に往復摺動可能に嵌入されたプランジャと、駆動カムの回転に伴い往復移動し、上記プランジャを連動で往復移動させるリフタと、上記リフタを収容孔に収容し、上記リフタの往復移動をガイドするリフタガイドと、を備える高圧ポンプであって、上記高圧ポンプにおける振動発生源及び振動伝達経路の少なくとも一方に設けられた制振樹脂層をさらに備え、上記制振樹脂層は、耐熱性樹脂と、振動エネルギーを熱エネルギーに変換する制振フィラーとを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の高圧ポンプによれば、振動の発生又は伝達を容易に抑制できる。
【0010】
上記高圧ポンプにおいては、上記制振樹脂層として、上記リフタガイドの内周面及び上記リフタの外周面の少なくとも一方に設けられた制振樹脂層を備えてもよい。
【0011】
上記高圧ポンプにおいては、上記制振樹脂層として、上記リフタガイドの内周面に設けられた制振樹脂層を備えてもよい。
【0012】
上記高圧ポンプにおいては、上記シリンダの径外方向に位置するシリンダ保持部と、上記シリンダ保持部から上記径外方向へ突出するフランジ部とを有し、上記シリンダを支持する下ハウジングをさらに備え、上記制振樹脂層として、上記フランジ部における被取付け部材と対向する締結面及び上記締結面と反対側の座面の少なくとも一方に設けられた制振樹脂層を備えてもよい。
【0013】
上記高圧ポンプにおいては、上記制振樹脂層の厚さが、10μm以上でもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、振動の発生又は伝達を容易に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る高圧ポンプを概略的に示す断面図である。
図2図1のII-II線断面図であって一部の構成を省略して示す図である。
図3図1のIII-III線断面図である。
図4】第1実施形態に係る高圧ポンプにおける下ハウジング材のフランジ部のエンジンヘッドへの取付け構造を概略的に示す断面図である。
図5】第1実施形態に係る高圧ポンプの燃料吐出リリーフ部の拡大断面図であって、図1の矢印IVで示す箇所の拡大図である。
図6】第1実施形態に係る高圧ポンプの燃料吐出リリーフ部の拡大断面図であって、図3の矢印Vで示す箇所の拡大図である。
図7】第2実施形態に係る高圧ポンプを概略的に示す断面図である。
図8】落球試験機を模式的に示す断面図である。
図9】参考例1~11及び比較例1のテストピースにおける制振樹脂層の厚さに対する鋼球衝突時に生じた音の音圧レベルを示すグラフである。
図10】実施例1-1~~3-7で作製された高圧ポンプのうち制振樹脂層の形成箇所が(1)~(4)、(3)+(4)、及び(1)+(3)+(4)である高圧ポンプがエンジンヘッドに取付けられたエンジンでの高圧ポンプの上面に伝達される振動の加速度レベルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の高圧ポンプに係る実施形態について説明する。最初に、実施形態に係る高圧ポンプの概略について、第1及び第2実施形態に係る高圧ポンプを例示して説明する。
【0017】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る高圧ポンプを概略的に示す断面図である。図2は、図1のII-II線断面図であって一部の構成を省略して示す図である。図3は、図1のIII-III線断面図である。図4は、第1実施形態に係る高圧ポンプにおける下ハウジング材のフランジ部のエンジンヘッドへの取付け構造を概略的に示す断面図である。図5は、第1実施形態に係る高圧ポンプの燃料吐出リリーフ部の拡大断面図であって、図1の矢印IVで示す箇所の拡大図である。図6は、第1実施形態に係る高圧ポンプの燃料吐出リリーフ部の拡大断面図であって、図3の矢印Vで示す箇所の拡大図である。以下の説明では、図1の上側を「上」、図1の下側を「下」として説明する。
【0018】
図1に示すように、第1実施形態に係る高圧ポンプ1は、車両用燃料タンク(図示せず)から低圧ポンプにより供給される燃料を加圧し、加圧した燃料をインジェクタが接続する燃料レールに吐出する燃料ポンプである。第1実施形態に係る高圧ポンプ1は、車両のエンジン9のエンジンヘッド18に形成された収容孔180に取付けられている。高圧ポンプ1は、本体部10、燃料供給部30、プランジャ部50、燃料吸入部70及び燃料吐出リリーフ部90を備えている。さらに、高圧ポンプ1は、リフタ20と、リフタガイド22とをさらに備えている。なお、第1実施形態に係るリフタガイド22は、エンジンヘッド(シリンダヘッド)18に形成された収容孔180の内壁181である。
【0019】
ここで、本体部10について説明する。
本体部10は、下ハウジング11、シリンダ13、及び上ハウジング15を備えている。
下ハウジング11は、シリンダ13の径外方向に位置する円筒状のシリンダ保持部111と、シリンダ保持部111の下部から当該径外方向へ突出する環状のフランジ部112と、フランジ部112からシリンダ保持部111とは反対側に突出する、シリンダ保持部111よりも大径の円筒状のエンジン嵌合部113と、を有している。フランジ部112は、シリンダ保持部111の径外方向かつエンジン嵌合部113の径内方向で厚み方向に貫通する単数または複数の燃料流通孔114を有している。
【0020】
図1図4に示すように、下ハウジング11のエンジン嵌合部113は、エンジンヘッド18の収容孔180の内側に収容され、下ハウジング11のフランジ部112は、エンジンヘッド18の締結面18s上に載置されている。フランジ部112におけるエンジンヘッド18と対向する締結面112r及び締結面112rと反対側の座面112sには、第1制振樹脂層24a及び第2制振樹脂層24bがそれぞれ設けられている。第1制振樹脂層24a及び第2制振樹脂層24bは、耐熱性樹脂と、振動エネルギーを熱エネルギーに変換する制振フィラーとを含んでいる。下ハウジング11は、フランジ部112のボルト挿通孔117及びエンジンヘッド18のボルト挿通孔187に挿通されたボルト101によりエンジンヘッド18に締結されている。エンジンヘッド18の締結面18s及びフランジ部112の締結面112rの間(振動伝達経路)には第1制振樹脂層24aが配置されている。フランジ部112の座面112s及びボルト101の頭部101hの間(振動伝達経路)には第2制振樹脂層24bが配置されている。
【0021】
下ハウジング11は、例えば、鍛造やプレス等により予めシリンダ保持部111及びエンジン嵌合部113が円筒状に成形された素材に、シリンダ保持部111の内壁面並びにエンジン嵌合部113の内壁面及び外壁面を仕上げるための切削加工が施されて作られる。下ハウジング11は、耐錆性の高い例えばステンレス等の材料からなる。
【0022】
シリンダ13は、下側が開口する筒孔130が設けられた有底筒状の形状を有し、シリンダ保持部111の内壁に圧入されている。シリンダ13は、シリンダ保持部111の下側で径外方向へ突出し、軸方向でシリンダ保持部111に当接する環状突起135を形成する。シリンダ13は、環状突起135がシリンダ保持部111に当接することで上方向への移動が規制される。
シリンダ13は、プランジャ51を摺動可能に支持する有底筒状の内壁131を有している。当該内壁131は、プランジャ51の上端面と共に加圧室14を区画形成する。加圧室14が液密に封止されるとき、加圧室14内の燃料は、シリンダ13内を上昇するプランジャ51により加圧される。
【0023】
シリンダ13は、加圧室14から外壁面まで貫通する第1連通孔141、及び加圧室14から外壁面まで第1連通孔141とは反対方向へ貫通する第2連通孔142を有している。第1連通孔141及び第2連通孔142は、プランジャ51の軸に対し対称に配置されている。
シリンダ13は、プランジャ51の摺動による焼付や摩耗を抑えるため、例えば焼き入れ等の熱処理によって硬度が高められている。当該熱処理は、プランジャ51が摺動するシリンダ13の内壁部に部分的に施されてもよいし、シリンダ13全体に施されてもよい。
【0024】
上ハウジング15は、下ハウジング11とは別体であって、図1及び図3に示すようにシリンダ13の軸方向に直交する方向に長手状をなす直方体状に形成されている。上ハウジング15の長手方向の中央には、シリンダ13の軸方向に貫通する圧入孔151が形成されている。シリンダ13は、上ハウジング15の圧入孔151に例えば圧入されている。これにより、シリンダ13及び上ハウジング15は、加圧室14で加圧された燃料がシリンダ13の外壁と圧入孔151の内壁との間から漏れないように接合している。第1実施形態では、上ハウジング15と下ハウジング11とがシリンダ13の軸方向で互いに当接しているが、必ずしも当接する必要はない。
【0025】
上ハウジング15は、第1連通孔141に対し加圧室14とは反対側に上ハウジング15の長手方向に貫通する段付状の第1吸入孔161と、第1吸入孔161の内壁から外壁まで貫通する複数の第2吸入孔162とを有している。これらの第1吸入孔161及び複数の第2吸入孔162は、第1連通孔141を経由して加圧室14に連通する吸入通路を構成し、加圧室14に吸入される燃料が流通可能である。
【0026】
上ハウジング15は、第2連通孔142に対し加圧室14とは反対側に上ハウジング15の長手方向に貫通する段付状の第1吐出孔163を有している。当該第1吐出孔163は、第2連通孔142を経由して加圧室14に連通する吐出通路を構成し、加圧室14で加圧された燃料を吐出可能である。
上ハウジング15は、例えば、横断面が矩形の棒状の素材に、圧入孔151、第1吸入孔161、第2吸入孔162、及び第1吐出孔163を形成するための切削加工が施されてなる。上ハウジング15は、吸入通路及び吐出通路を形成する役割を果たす限りにおいて肉厚が薄く構成されている。
【0027】
次に、燃料供給部30について説明する。
図1図3に示すように、燃料供給部30は、カバー31、パルセーションダンパ33、及び燃料インレット35を備えている。
カバー31は、シリンダ13の底部及び上ハウジング15を収容する。当該カバー31は、下ハウジング11のフランジ部112側に開口端を有する有底円筒状をなし、カバー底部311とカバー筒部312とから構成されている。カバー底部311は、カバー筒部312の上端部を塞いでいる。カバー筒部312は、カバー底部311側から軸方向に順に第1円筒部321、多辺筒部322、及び第2円筒部323を有している。
【0028】
第1円筒部321及び第2円筒部323は、図示しないが、軸方向に直交する断面が円形となるように形成されている。第1円筒部321の内径は、第2円筒部323の内径と比べて小さく形成されている。
多辺筒部322は、図示しないが、軸方向に直交する断面が八辺形状となるように形成されている。ここで「八辺形状」とは、八つの線分で囲まれた図形である。以下、当該「八辺形状」を含む多辺形状は、複数の線分で囲まれた図形のことを意味し、例えば角部が丸みを帯びている、又は角部が面取りされている等の形状も含むものとする。
【0029】
多辺筒部322の外壁面は、図示しないが、互いに平行に且つ軸に対し対称に配置されている4対の平面からなる。多辺筒部322と第1円筒部321とを接続する曲部、及び多辺筒部322と第2円筒部323とを接続する曲部は、カバー31の剛性を高めている。
【0030】
多辺筒部322は、上記4対の平面のうち上ハウジング15の長手方向において相対向する一対の平面それぞれに開口する第1貫通孔325及び第2貫通孔326を有している。第1吸入孔161に対し加圧室14とは反対側に内外に貫通する第1貫通孔325には、吸入弁ボディ72がカバー31の外側から挿入されている。第1吐出孔163に対し加圧室14とは反対側に内外に貫通する第2貫通孔326には、燃料吐出リリーフハウジング91がカバー31の外側から挿入されている。
【0031】
多辺筒部322は、図3に示すように、第2貫通孔326が開口する平面に対し周方向の隣に位置する平面に開口する第3貫通孔327を有している。第3貫通孔327には、カバー31内に燃料を供給する燃料インレット35の基端部が嵌合している。
カバー31は、耐錆性の高い例えばステンレス等の板材がプレス加工により有底筒状に成形された後、第1貫通孔325、第2貫通孔326及び第3貫通孔327が例えば切削加工により形成されてなる。カバー31は、内部に燃料ギャラリ32を形成する役割を果たす限りにおいて肉厚が薄く形成されている。
【0032】
カバー31は、そのカバー31の開口端とフランジ部112との隙間、第1貫通孔325と吸入弁ボディ72との隙間、第2貫通孔326と燃料吐出リリーフハウジング91との隙間、及び第3貫通孔327と燃料インレット35との隙間が液密に封止されるように、例えば溶接により各部材に接合されている。カバー31内には、カバー31の内壁、フランジ部112のカバー31側の外壁、並びに上ハウジング15及びシリンダ13の外壁により区画される空間からなる燃料ギャラリ32が形成されている。燃料ギャラリ32は、第2吸入孔162と連通している。燃料インレット35から燃料ギャラリ32に流入する燃料は、第2吸入孔162等を経由して加圧室14に供給される。
【0033】
燃料ギャラリ32には、パルセーションダンパ33が収容されている。パルセーションダンパ33は、2枚の円形皿状のダイアフラム331及び332の外縁部が接合されることにより形成されている。パルセーションダンパ33は、外縁部が上支持体341と下支持体342とに挟まれるようにしてカバー31の第1円筒部321の内壁に固定されている。第1円筒部321の内壁とそれに嵌合する上支持体341との間には、図示しないが、複数の燃料流通路が形成されている。パルセーションダンパ33の上方の空間には、図示しないが、燃料流通路を経由して燃料が供給される。
パルセーションダンパ33の内部には所定圧の気体が密封されている。パルセーションダンパ33は、燃料ギャラリ32内の燃料の圧力変化に応じて弾性変形することにより燃料ギャラリ32内の燃料の圧力脈動を低減する。カバー31は、パルセーションダンパ33の収容部材として機能している。
【0034】
次にプランジャ部50について説明する。
図1及び図2に示すように、プランジャ部50は、プランジャ51、オイルシールホルダ52、スプリングシート53、及びプランジャスプリング54などを備えている。
プランジャ51は、シリンダ13の筒孔130に軸方向に往復摺動可能に嵌入され、シリンダ13の内壁131により軸方向に摺動可能に支持されている。プランジャ51は、大径部512と小径部513とを形成する。加圧室14側に位置する大径部512は、シリンダ13の内壁131を摺動する。大径部512に対し加圧室14とは反対側に位置する小径部513は、オイルシールホルダ52に挿入されている。
【0035】
オイルシールホルダ52は、シリンダ13の開口側の端部に設けられており、プランジャ51の小径部513の径外側に位置する基部521と、エンジン嵌合部113の内壁に圧入される圧入部522とを有している。
基部521は、内部にリング状のシール523を有している。シール523は、径内側のテフロン(登録商標)リングと、径外側のOリングとからなる。シール523によってプランジャ51の小径部513の周囲の燃料油膜の厚さが調整され、エンジンへの燃料のリークが抑制される。また基部521は、先端部分にオイルシール525を有している。オイルシール525によってプランジャ51の小径部513の周囲のオイル油膜の厚さが規制され、オイルのリークが抑制される。
【0036】
圧入部522は、基部521の周囲に円筒状に張り出す部分であり、円筒部分は縦断面が「Uの字」状となっている。下ハウジング11には、圧入部522に対応する凹部526が形成されている。オイルシールホルダ52は、圧入部522が凹部526の内壁に圧接するように圧入される。
【0037】
スプリングシート53は、プランジャ51の下端部に設けられている。プランジャスプリング54は、スプリングシート53に一端を係止され、他端をオイルシールホルダ52の圧入部522の深部に係止されている。これにより、プランジャスプリング54は、プランジャ51の戻しばねとして機能し、プランジャ51をリフタ(タペット)20に当接させるよう付勢する。
【0038】
高圧ポンプ1は、エンジン9のエンジンヘッド18の収容孔180の内側に、下ハウジング11のエンジン嵌合部113、並びにシリンダ13、プランジャ部50のプランジャ51、オイルシールホルダ52、スプリングシート53、及びプランジャスプリング54などが収容されるようにして、エンジン9に取り付けられている。ここで、エンジン嵌合部113と収容孔180の内壁181との間には、ゴム製環状のシール部材115が設けられている。これにより、エンジン嵌合部113と収容孔180の内壁181との間は液密又は気密に保たれている。
【0039】
リフタ20は、有底筒状の形状を有し、エンジンヘッド18の収容孔180に収容されている。リフタ20は収容孔180の内側で軸方向に往復移動可能であり、収容孔180の内壁(リフタガイド)181(22)はリフタ20の往復移動をガイドする。収容孔180の内壁面(リフタガイドの内周面、振動発生源)181sには、第3制振樹脂層24cが設けられている。第3制振樹脂層24cは、耐熱性樹脂と、振動エネルギーを熱エネルギーに変換する制振フィラーとを含んでいる。
【0040】
プランジャ51の下端、すなわちプランジャ51の小径部513の大径部512とは反対側の端がリフタ20の底部に当接している。リフタ20のプランジャ51とは反対側にはローラ3及びカム軸5の駆動カム7が位置している。ローラ3は回転自在にリフタ20を支持している。駆動カム7は、エンジン9の駆動軸に連動して回転するカム軸5と一緒に回転する。駆動カム7の回転に伴い、ローラ3が転動しながらリフタ20の軸方向に往復移動することで、リフタ20が軸方向に往復移動する。これにより、プランジャ51をプランジャスプリング54で付勢しながらリフタ20により押圧することによって、プランジャ51が連動してシリンダ13の筒孔130で往復移動する。このとき、プランジャ51の大径部512の移動によって加圧室14の容積が周期的に変化する。なお、駆動カム7は、4つのカム山を有している。そのため、駆動カム7が1回転すると、プランジャ51は、シリンダ13の筒孔130において4回往復移動する。
【0041】
次に、燃料吸入部70について説明する。
図1及び図3に示すように、燃料吸入部70は、吸入通路を開閉可能であり、吸入弁部71及び電磁駆動部81を備えている。
吸入弁部71は、吸入弁ボディ72、シートボディ73、吸入弁部材74、及び第1スプリングホルダ75などから構成されている。
円筒状の吸入弁ボディ72は、第1吸入孔161に形成されたねじ穴に螺合することで上ハウジング15に接合している。吸入弁ボディ72の内部には、吸入室711が形成されている。吸入室711は、第2吸入孔162を経由して燃料ギャラリ32と連通している。吸入室711には、略円筒状のシートボディ73が設けられている。シートボディ73の加圧室14側には、吸入弁部材74が当接可能な弁座731が形成されている。
【0042】
吸入弁部材74は、シートボディ73の内側で弁座731に当接及び離間可能に設けられている。吸入弁部材74は、弁座731から離座することで吸入室711と加圧室14とを連通させ、弁座731に着座することで吸入室711と加圧室14とを遮断する。
第1スプリングホルダ75は、吸入弁部材74に対し加圧室14側に設けられ、内側に、吸入弁部材74を閉弁方向(図1の左方向)へ付勢する第1スプリング76を収容している。
【0043】
電磁駆動部81は、固定コア83、可動コア84及びニードル86などから構成されている。
円筒状の可動コア84は、吸入弁ボディ72内で軸方向に移動可能に設けられ、吸入弁部材74と同軸上に配置されるニードル86の一端部に固定されている。ニードル86は、第2スプリングホルダ852により軸方向に移動可能に支持され、吸入弁部材74に当接可能に設けられている。
第2スプリングホルダ852の内側には、ニードル86を吸入弁部材74側に付勢する第2スプリング851が設けられている。第2スプリング851は、第1スプリング76が吸入弁部材74を閉弁方向に付勢する力よりも強い力でニードル86を開弁方向へ付勢する。
【0044】
固定コア83は、可動コア84に対し吸入弁部材74とは反対側に設けられている。コイル87は、固定コア83の周りに設けられている。コイル87に通電すると固定コア83に磁力が発生する。磁力を帯びた固定コア83は、第2スプリング851の付勢力に抗して可動コア84を吸引する。ニードル86は、固定コア83に吸引される可動コア84と共に吸入弁部材74とは反対側に移動する。これにより、吸入弁部材74が着座し、吸入弁部71が閉弁する。
固定コア83の磁力は、コイル87への通電を止めると失われる。ニードル86は、固定コア83の磁気的吸引力が無くなると、第2スプリング88の付勢力により固定コア83とは反対側に移動する。これにより、吸入弁部材74が離座し、吸入弁部71が開弁する。
【0045】
次に、燃料吐出リリーフ部90について説明する。
図1図3図5、及び図6に示すように、燃料吐出リリーフ部90は、燃料吐出リリーフハウジング91、吐出弁ボディ92、吐出弁部材94、及びリリーフ弁部材96などを備えている。
燃料吐出リリーフハウジング91は、円筒状に形成され、上ハウジング15の第1吐出孔163に形成されたねじ穴に螺合することで上ハウジング15に接合している。燃料吐出リリーフハウジング91の内部には、吐出弁ボディ92、吐出弁部材94及びリリーフ弁部材96などが収容されている。
【0046】
吐出弁ボディ92は、有底筒状の形状を有し、燃料吐出リリーフハウジング91内に設けられ、加圧室14側に開口している。吐出弁ボディ92の底壁には、吐出通路95と、その吐出通路95に非連通のリリーフ通路97とが形成されている。吐出通路95は、吐出弁ボディ92の底壁の加圧室14側の壁面のうち径外側に開口し、また吐出弁ボディ92の底壁の加圧室14とは反対側の壁面のうち中央に開口している。リリーフ通路97は、吐出弁ボディ92の底壁の加圧室14側の壁面のうち中央に開口するとともに、吐出弁ボディ92の底壁の加圧室14とは反対側の壁面のうち径外側に開口している。
【0047】
吐出弁部材94は、燃料吐出リリーフハウジング91内において吐出弁ボディ92の底壁の加圧室14とは反対側に隣接して設けられている。吐出弁部材94に対し加圧室14とは反対側には吐出弁スプリングホルダ945が設けられている。吐出弁部材94は、吐出弁スプリングホルダ945との間に介在されている吐出弁スプリング943により吐出弁ボディ92の底壁の弁座93に向けて付勢されており、吐出通路95を開閉可能である。
【0048】
リリーフ弁部材96は、燃料吐出リリーフハウジング91内において吐出弁ボディ92の底部の加圧室14側に隣接して設けられている。リリーフ弁部材96は、加圧室14側のリリーフ弁スプリングホルダ965との間に設けられているリリーフ弁スプリング963により吐出弁ボディ92の底部に向けて付勢されており、リリーフ通路97を開閉可能である。
【0049】
次に、高圧ポンプ1の作動について説明する。
(I)吸入行程
カム軸5の回転によりプランジャ51が上死点から下死点に向かって下降するとき、加圧室14の容積が増加するとともに加圧室14内の燃料の圧力が減少する。このとき、吐出通路95は吐出弁部材94により遮断される。また、コイル87への通電が止められることにより、ニードル86は第2スプリング85の付勢力を受けて吸入弁部材74側に移動する。これにより、ニードル86が吸入弁部材74を押圧し、吸入弁部71は開弁する。その結果、吸入室711から第1連通孔141を経由して加圧室14に燃料が吸入される。
【0050】
(II)調量行程
カム軸5の回転によりプランジャ51が下死点から上死点に向かって上昇するとき、加圧室14の容積が減少する。その際、所定の時期まではコイル87への通電を止め、吸入弁部71を開弁させる。このため、吸入行程で加圧室14に吸入された低圧燃料の一部が燃料供給側に戻される。
そして、プランジャ51が上昇する途中の所定の時期にコイル87に通電することで、固定コア83と可動コア84との間に磁気的吸引力が発生する。当該磁気的吸引力が第2スプリング851の付勢力から第1スプリング76の付勢力を引いた合力より大きくなると、可動コア84及びニードル86が固定コア83側に移動する。これにより、ニードル86の吸入弁部材74への押圧力が解除される。その結果、吸入弁部材74がシートボディ73の弁座731に着座し、吸入弁部71は閉弁する。
【0051】
(III)加圧行程
吸入弁部71の閉弁後、プランジャ51の上昇と共に加圧室14の容積が減少し、加圧室14内の燃料の圧力が増加する。加圧室14の燃圧により吐出弁部材94に作用する力が、吐出弁スプリング943の付勢力と燃料吐出口99側の燃圧により吐出弁部材94に作用する力との合計よりも大きくなると、吐出弁部材94は開弁する。これにより、加圧室14で加圧された加圧燃料が、第2連通孔142、第1吐出孔163等を経由して燃料吐出口99から吐出する。
高圧ポンプ1は、吸入行程、調量行程及び加圧行程を繰り返し、吸入した燃料を調量し加圧して燃料吐出口99から吐出する。
【0052】
第1実施形態に係る高圧ポンプ1では、エンジンヘッド18の収容孔180の内壁面(リフタガイドの内周面、振動発生源)181sに第3制振樹脂層24cが設けられている。このため、リフタ20が収容孔180の内側で軸方向に往復移動し、収容孔180の内壁(リフタガイド)181(22)がリフタ20の往復移動をガイドする時において、リフタ20の外周面20sが収容孔180の内壁面181sに直に接触して摺動するのではなく、リフタ20の外周面20sが収容孔180の内壁面181sに設けられた第3制振樹脂層24cに接触して摺動する。これにより、リフタ20の外周面20sが収容孔180の内壁面181sに直に接触して摺動することで振動が発生することを回避できる。また、例えば、カム軸5の回転に応じたプランジャ51の往復移動等により発生する振動の伝達を第3制振樹脂層24cにより抑制できる。これにより、例えば、これらの振動或いは振動による騒音がエンジンヘッド18等を介して車両の外部や居室等の系外に放射されることを抑制できる。
【0053】
また、第1実施形態に係る高圧ポンプ1では、エンジンヘッド18の締結面18s及びフランジ部112の締結面112rの間(振動伝達経路)に第1制振樹脂層24aが配置されている。このため、例えば、カム軸5の回転に応じたプランジャ51の往復移動等により発生する振動が、フランジ部112及びエンジンヘッド18の間を伝達することを抑制できる。これにより、例えば、これらの振動或いは振動による騒音がエンジンヘッド18等を介して車両の外部や居室等の系外に騒音として放射されることを抑制できる。また、フランジ部112の座面112s及びボルト101の頭部101hの間(振動伝達経路)に第2制振樹脂層24bが配置されている。このため、例えば、これらの振動が、フランジ部112及びボルト101の間を伝達することを抑制できる。これにより、例えば、これらの振動或いは振動による騒音がエンジンヘッド18等を介して車両の外部や居室等の系外に騒音として放射されることを抑制できる。
【0054】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る高圧ポンプについて、第1実施形態とは異なる点を説明する。
図7は、第2実施形態に係る高圧ポンプを概略的に示す断面図である。以下の説明では、図7の上側を「上」、図7の下側を「下」として説明する。
【0055】
図7に示すように、第2実施形態に係る高圧ポンプ1では、リフタ20の外周面(振動発生源)20sに第4制振樹脂層24dが設けられている。第4制振樹脂層24dは、耐熱性樹脂と、振動エネルギーを熱エネルギーに変換する制振フィラーとを含んでいる。一方、第1実施形態とは異なり、エンジンヘッド18の収容孔180の内壁面(リフタガイドの内周面)181sには制振樹脂層が設けられていない。第2実施形態に係る高圧ポンプ1のその他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0056】
第2実施形態に係る高圧ポンプ1では、第1実施形態とは異なり、リフタ20がエンジンヘッド18の収容孔180の内側で軸方向に往復移動し、収容孔180の内壁(リフタガイド)181(22)がリフタ20の往復移動をガイドする時において、リフタ20の外周面20sに設けられた第4制振樹脂層24dが収容孔180の内壁面(リフタガイドの内周面)181sに接触して摺動する。これにより、リフタ20の外周面20sが収容孔180の内壁面181sに直に接触して摺動することで振動が発生することを回避できる。また、例えば、カム軸5の回転に応じたプランジャ51の往復移動等により発生する振動の伝達を第4制振樹脂層24dにより抑制できる。これにより、例えば、これらの振動或いは振動による騒音がエンジンヘッド18等を介して車両の外部や居室等の系外に放射されることを抑制できる。
【0057】
(作用効果)
従って、実施形態に係る高圧ポンプによれば、第1及び第2実施形態のように、例えば、リフタガイドの内周面やリフタの外周面等のような振動発生源、及び振動伝達経路の少なくとも一方に制振樹脂層が設けられていることにより、振動の発生又は伝達を抑制できる。また、例えば、制振部材として、数十μm程度の厚みに形成できる薄く軽量な制振樹脂層を用いるため、制振部材を設ける部位が限定されず、制振部材を設けるスペースを確保するために高圧ポンプの既存の構造の設計を変更する必要が生じることが少ない。よって、振動の発生又は伝達を容易に抑制できる。このため、振動或いは振動による騒音がエンジンヘッド等の被取付け部材を介して車両の外部や居室等の系外に放射されることを容易に抑制できる。また、例えば、リフタガイドの内周面やリフタの外周面等のような振動発生源となり得る狭いスペースとなる部位にも制振部材を設けることができる。このため、振動発生源への対策が容易になる。
【0058】
さらに、弾性体等から構成される従来の制振部材は、熱により劣化するおそれがあり、長期の使用に伴うクリープ等による性能低下のおそれもあるのに対して、実施形態に係る高圧ポンプによれば、制振部材として制振樹脂層を用いることによりこれらの問題を回避できる。また、実施形態に係る高圧ポンプによれば、制振樹脂層が、弾性体等から構成される従来の制振部材と比べ薄く軽量であることにより、例えば、燃費性能等のその他の性能の低下を抑制できる。
【0059】
続いて、実施形態に係る高圧ポンプの詳細について説明する。
【0060】
1.高圧ポンプ
高圧ポンプは、筒孔が設けられたシリンダと、上記シリンダの上記筒孔に往復摺動可能に嵌入されたプランジャと、駆動カムの回転に伴い往復移動し、上記プランジャを連動で往復移動させるリフタと、上記リフタを収容孔に収容し、上記リフタの往復移動をガイドするリフタガイドと、を備えるものである。
【0061】
高圧ポンプは、上記のようなものであれば特に限定されないが、第1及び第2実施形態に係る高圧ポンプのように、上記シリンダの径外方向に位置するシリンダ保持部と、上記シリンダ保持部から上記径外方向へ突出するフランジ部とを有し、上記シリンダを支持する下ハウジングをさらに備えるものでもよい。
【0062】
リフタガイドとしては、リフタの往復移動をガイドするものであれば特に限定されないが、例えば、第1及び第2実施形態に係るリフタガイドのようにエンジンヘッドに形成された収容孔の内壁でもよいが、例えば、エンジンヘッドとは別の部材であって、リフタの往復移動をガイドする筒状の内壁を有するものであって、エンジンヘッドの収容孔に収容されるものでもよい。
【0063】
2.制振樹脂層
高圧ポンプは、上記高圧ポンプにおける振動発生源及び振動伝達経路の少なくとも一方に設けられた制振樹脂層をさらに備える。上記制振樹脂層は、耐熱性樹脂と、振動エネルギーを熱エネルギーに変換する制振フィラーとを含む。
【0064】
高圧ポンプは、上記のような制振樹脂層を備えるものあれば特に限定されないが、上記制振樹脂層として、第1実施形態に係る第3及び第4制振樹脂層のように上記リフタガイドの内周面及び上記リフタの外周面の少なくとも一方に設けられた制振樹脂層を備えるものが好ましい。リフタガイドの内周面及びリフタの外周面は、リフタの往復移動時において互いに直に接触して摺動することで振動を発生させる振動発生源であるため、これらの面の少なくとも一方に設けられた制振樹脂層を備えることにより、振動の発生自体を抑制できるからである。高圧ポンプとしては、中でも上記リフタガイドの内周面に設けられた制振樹脂層を備えるものが好ましい。リフタの往復移動時において、リフタの外周面は常に全体で摺動するのに対して、リフタガイドの内周面の摺動部位はリフタの移動に応じて変化するため、リフタの外周面に設けられた制振樹脂層を備えるものと比べて、制振樹脂層の摩耗が抑制される結果、制振樹脂層の性能が維持され易いからである。
【0065】
高圧ポンプは、上記制振樹脂層として、第1実施形態に係る第1及び第2制振樹脂層のように上記フランジ部における被取付け部材と対向する締結面及び上記締結面と反対側の座面の少なくとも一方に設けられた制振樹脂層を備えるものでもよい。ここで、「被取付け部材」とは、高圧ポンプを取り付ける部材のことを指し、例えば、車両などのエンジンのエンジンヘッド等である。
【0066】
制振樹脂層の厚さは、振動を抑制できれば特に限定されないが、例えば、10μm以上が好ましく、中でも20μm以上が好ましく、特に50μm以上が好ましい。振動の伝達の遮断作用が十分に得られるようになるからである。制振樹脂層の厚さは、例えば、400μm以下が好ましく、中でも200μm以下が好ましく、特に100μm以下が好ましい、中でも特に50μm以下が好ましい。振動の遮断作用の向上が飽和するからであり、コーティングによる層の形成が容易になるからである。
【0067】
制振樹脂層に含まれる耐熱性樹脂は、特に限定されずに、100℃以上の熱変形温度を有するものであれば特に限定されないが、150℃以上の熱変形温度を有するものが好ましい。耐熱性樹脂の例としては、特に限定されずに、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂等を挙げることができる。被膜を形成する際の作業性と摩擦による発熱に対する耐熱性の観点からポリアミドイミド樹脂がさらに好ましい。これらの耐熱性樹脂は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
制振樹脂層に含まれる制振フィラーは、振動エネルギーを熱エネルギーに変換するものである。制振フィラーとしては、特に限定されないが、低弾性率で変形し易い材料と、内部でエネルギー散逸が起こり易い材料とに大別できる。低弾性率で変形し易い材料とは、より具体的には、固体であるが、顕著に弾性的な特性と粘性的な特性の両方を合わせ持った材料のことである。弾性的な特性と粘性的な特性は全ての材料が合わせ持つ特性であるが、低弾性率で変形し易い材料は、顕著にこれらの特性の両方を合わせ持っている。このため、低弾性率で変形し易い材料を制振樹脂層に含有させることにより、常温域での制振樹脂層自体のゴム弾性を増加できる。これにより、制振樹脂層により効果的に外部から入力される振動を吸収し熱エネルギーに変換することで、振動の伝達を効果的に遮断できると考えられる。一方、内部でエネルギー散逸が起こり易い材料は、振動を材料内に存在する空気層で乱反射させて熱エネルギーへ変換させることにより、振動を減衰させる効果を有している。このため、内部でエネルギー散逸が起こり易い材料を制振樹脂層に含有させると、制振樹脂層により振動の伝達を効果的に遮断できると考えられる。
【0069】
低弾性率で変形し易い材料の例としては、熱可塑性エラストマー、ウレタン系化合物、ポリエチレン系化合物、エステル共重合体、ゴム系材料などが挙げられる。熱可塑性エラストマーは、一般的に、常温では、ゴムの特性を有し、高温では、熱可塑性プラスチックと同等の性能を有している。熱可塑性エラストマーの例としては、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの例は、例えば、特開2016-113614号公報、特開2017-197733号公報等に挙げられている。ウレタン系化合物の例としては、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらの例は、例えば、特開平8-183945号公報等に挙げられている。ポリエチレン系化合物の例としては、エチレンの単独重合体、エチレンとα-オレフィレン単量体との共重合体等が挙げられる。これらの例は、例えば、特表2009-532570号公報等に挙げられている。エステル共重合体の例としては、アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。これらの例は、例えば、特許第3209499号公報等に挙げられている。ゴム系材料の例としては、ブチルゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。これらの例は、例えば、特開2009-236172号公報等に挙げられている。
【0070】
内部でエネルギー散逸が起こり易い材料の例としては、マイクロカプセル系材料、低密度材料などが挙げられる。マイクロカプセル系材料の例としては、熱可塑性高分子からなるシェルの内部に所定の温度域になると膨張する気化物質を内包する熱膨張性マイクロカプセル等が挙げられる。これらの例は、特開2013-18855号公報等に挙げられている。低密度材料の例としては、例えば、材料内部に空気層を含有する材料全般であり、具体的には、例えば、発泡材料、多孔質体、不織布、層状化合物等が挙げられる。これらの例は、例えば、特開平3-221173号公報、特許第4203589号公報等に挙げられている。以上に挙げた制振フィラーは、1種のみを単独で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
【0071】
制振樹脂層は、耐熱性樹脂及び制振フィラーに加えて、固体潤滑剤や硬質粒子等の任意の成分を含んでもよい。制振樹脂層に、耐摩耗性、耐焼付き性、低摩擦特性等の特性を付与できるからである。固体潤滑剤としては、特に限定されずに、例えば、ポリテトラフルオロチエチレン(PTFE)、二硫化モリブデン(MoS)、グラファイト(黒鉛)等が挙げられる。これらの固体潤滑剤は、1種のみを単独で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。硬質粒子としては、特に限定されずに、アルミナ(Al)、シリカ等が挙げられる。これらの硬質粒子は、1種のみを単独で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
【0072】
制振樹脂層における耐熱性樹脂及び制振フィラーの合計体積に対する制振フィラーの体積比は、特に限定されないが、例えば、20体積%以上80体積%以下が好ましく、中でも40体積%以上60体積%以下の範囲内が好ましい。これらの範囲の下限以上であることにより、より効率的に、フィラーによって、振動エネルギーを熱エネルギーに変換できるからである。また、これらの範囲の上限以下であることにより、樹脂コーティングとしての耐久性(例えば耐摩耗性や密着力など)を担保できるからである。なお、制振樹脂層における耐熱性樹脂及び制振フィラー以外の任意の成分の体積比は、特に限定されず、種類に応じて選択することができる。
【0073】
制振樹脂層は、特に限定されず、所望の周波数の振動の伝達を抑制するものであればよいが、例えば、周波数2kHzの振動の伝達を抑制するものが好ましい。騒音を特に効果的に抑制できるからである。なお、制振樹脂層を所望の周波数の振動の伝達を抑制するものに調整するためには、例えば、制振樹脂層における制振フィラーや耐熱性樹脂等の各成分の種類や含有量、制振樹脂層の厚さなどを調整すればよい。
【0074】
制振樹脂層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、下記の方法等が挙げられる。
まず、所定量の耐熱性樹脂を有機溶剤に溶解させることで溶解液を調製する。次に、所定量の制振フィラーを溶解液に加え、必要に応じてさらに任意の成分を加え、混錬することで塗工材を調製する。次に、塗工材を、高圧ポンプが備える部材における振動発生源又は振動伝達経路を構成する部位(例えば、リフタガイドの内周面、リフタの外周面、フランジ部の締結面や座面等)に塗工する。次に、部材に塗工された塗工材を加熱し、乾燥、硬化させる。これにより、制振樹脂層を形成する。
【0075】
上記の方法に用いる有機溶剤は、特に限定されずに耐熱性樹脂の種類に応じて選択される。有機溶剤としては、例えば、耐熱性樹脂としてポリアミドイミド樹脂を用いる場合には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、γ-ブチロラクトン(GBL)等が挙げられる。また、エポキシ樹脂を用いる場合には、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン等が挙げられる。
【0076】
塗工材を調製するための混錬の方法は、例えば、ニーダーを使用し、1時間混錬を行う方法等が挙げられる。高圧ポンプが備える部材への塗工材の塗工方法は、特に限定されず、一般的な塗工方法を用いることができるが、スプレーコーティング、スクリーン印刷、ディッピング等が挙げられる。塗工材を乾燥、硬化させるための加熱条件は、特に限定されずに、例えば、100℃以上370℃以下の温度で30分以上3時間以下の時間加熱する条件等が挙げられる。
【実施例
【0077】
以下、実施例、参考例、及び比較例を挙げて、実施形態に係る高圧ポンプをさらに具体的に説明する。
【0078】
1.テストピースの作製及びテストピースでの制振樹脂層のNV性能の評価
参考例1~11で基材に制振樹脂層が形成されたテストピースを作製し、比較例1で基材のみからなるテストピースを準備した上で、これらのテストピースにおいて、制振樹脂層のNV性能を評価した。
【0079】
[参考例1]
最初に、高圧ポンプの制振樹脂層に形成に用いる塗工材を調製した。具体的には、まず、ポリアミドイミド樹脂を耐熱性樹脂として準備し、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)(有機溶剤)に所定量溶解させることで溶解液を調製した。次に、熱可塑性エラストマーを制振フィラーとして準備し、溶解液に所定量加え、ニーダーを使用し、1時間混錬した。これにより、制振樹脂層における耐熱性樹脂及び制振フィラーの合計体積に対する制振フィラーの体積比が50体積%となるように、塗工材を調製した。
【0080】
続いて、ブロック形状の基材の表面に制振樹脂層が形成されたテストピースを作製した。具体的には、まず、SUS440Cからなるブロック形状の基材を準備し、基材の表面に塗工材をスプレーコーティングにより所定量塗工した。次に、基材に塗工された塗工材を180℃で90分間加熱することにより、有機溶剤を揮発させ、塗工材を乾燥、硬化させた。これにより、基材の表面に厚さが1μmの制振樹脂層を形成することでテストピースを作製した。
【0081】
[参考例2]
厚さが5μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて、参考例1と同様にテストピースを作製した。
【0082】
[参考例3]
厚さが10μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて、参考例1と同様にテストピースを作製した。
【0083】
[参考例4]
厚さが20μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて、参考例1と同様にテストピースを作製した。
【0084】
[参考例5]
厚さが50μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて、参考例1と同様にテストピースを作製した。
【0085】
[参考例6]
厚さが100μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて、参考例1と同様にテストピースを作製した。
【0086】
[参考例7]
厚さが200μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて、参考例1と同様にテストピースを作製した。
【0087】
[参考例8]
最初に、ウレタン樹脂を制振フィラーとして準備し、溶解液に所定量加えた点を除いて、参考例1と同様に塗工材を調製した。
【0088】
続いて、本参考例で調製した塗工材を用い、厚さが100μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて、参考例1と同様にテストピースを作製した。
【0089】
[参考例9]
最初に、厚さが200μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて、参考例8と同様にテストピースを作製した。
【0090】
[参考例10]
最初に、マイクロカプセルを制振フィラーとして準備し、溶解液に所定量加えた点を除いて、参考例1と同様に塗工材を調製した。
【0091】
続いて、本参考例で調製した塗工材を用い、厚さが100μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて、参考例1と同様にテストピースを作製した。
【0092】
[参考例11]
最初に、厚さが200μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて、参考例10と同様にテストピースを作製した。
【0093】
[比較例1]
参考例1と同様のブロック形状の基材を準備し、制振樹脂層を形成せずにそのままテストピースとした。
【0094】
[落球試験による制振樹脂層のNV性能の評価]
参考例1~11及び比較例1で得られたテストピースにおいて、落球試験を行い、NV性能への制振樹脂層の厚さの影響を評価した。図8は、落球試験機を模式的に示す断面図である。
【0095】
落球試験では、図8に示すように、テストピースを落球試験機の土台の上部に設置された加速度ピックアップ上の鋼板上に設置した。設置の際には、参考例1~11のテストピースについては、制振樹脂層が鋼板に当接するようにした。これは、落球試験の目的が、部品と部品の隙間に配置した制振樹脂層に衝撃が付与された際、騒音がどの程度抑制されるかを測定することにあるからである。落球試験機では、テストピースの直上にφ6.3mmのSUJ2製鋼球が電磁石で保持される。落球試験では、鋼球の落球前の高さ(テストピース上面からの距離)を500mmとした上で、落球試験機の磁力をオフにすることで鋼球を落下させることにより、テストピースに衝突させた。そして、衝突時に生じた音を、テストピース直上に設置したマイクロホンで集音し、周波数20Hz~10kHz帯域でのオーバーオール値の音圧レベルを計測した。計測結果を下記の表1に示す。図9は、参考例1~11及び比較例1のテストピースにおける制振樹脂層の厚さに対する鋼球衝突時に生じた音の音圧レベルを示すグラフである。
【0096】
下記の表1及び図9に示すように、制振樹脂層の厚さの増加に伴い、音圧レベルが低減していることから、NV性能は制振樹脂層の厚さの増加に伴い向上すると考えられる。比較例1の基材のみからなるテストピース、及び制振樹脂層の組成が同一の参考例1~7のテストピースを比較すると、制振樹脂層の厚さが10μmより薄いテストピースでは、基材のみからなるテストピースに対する音圧レベルの低減効果は認められるものの、大幅な低減効果は認められない。一方、制振樹脂層の厚さが10μm以上のテストピースでは、基材のみからなるテストピースに対し、5dB以上の音圧レベルの低減効果が認められる。従って、制振樹脂層の厚さとしては、10μm以上が好ましく、中でも20μm以上、特に50μm以上が好ましいと考えられる。さらに、下記の表1及び図9に示すように、制振樹脂層の制振フィラーの種類を変更したとしても、同様の傾向が認められる。
【0097】
【表1】
【0098】
2.高圧ポンプの作製及び高圧ポンプのNV性能の評価
実施例1-1~3-7において、エンジンのエンジンヘッド(シリンダヘッド)に取付けられた高圧ポンプを作製し、これらの高圧ポンプのNV性能を評価した。
【0099】
[実施例1-1]
高圧ポンプとして、厚さが100μmの制振樹脂層がリフタの外周面(1)に設けられたものを作製した。
【0100】
具体的には、まず、有底筒状の形状を有するリフタ(材質:JIS G3601:2012でステンレスクラッド鋼の一種として区分されている拡散クラッド鋼D2)を準備した。次に、リフタの外周面に参考例1で調製した塗工材をスプレーコーティングにより所定量塗工した。次に、リフタに塗工された塗工材を180℃で90分間加熱することにより、有機溶剤を揮発させ、塗工材を乾燥、硬化させた。これにより、リフタの外周面に厚さが100μmとなるように制振樹脂層を形成した。
【0101】
次に、制振樹脂層が形成されたリフタと、下ハウジングのシリンダ保持部、フランジ部(材質:JIS G4305で区分されているSUS436)、及びエンジン嵌合部、並びにシリンダ、プランジャ等を含む他の部品とから高圧ポンプの取付け前の半製品を組み立てた。次に、当該半製品を制振樹脂層が形成されていないエンジンヘッドに取り付けた。この際には、エンジンヘッドの収容孔の内側に、リフタ、下ハウジングのエンジン嵌合部、並びにシリンダ、プランジャ等を収容し、下ハウジングのフランジ部をエンジンヘッドの締結面上に載置した。ボルトを下ハウジングのフランジ部のボルト挿通孔及びエンジンヘッドのボルト挿通孔に挿通することにより、下ハウジングをエンジンヘッドに締結した。これにより、高圧ポンプを作製した。当該高圧ポンプでは、リフタの往復移動時に、リフタの外周面に設けられた制振樹脂層が収容孔の内壁面に接触して摺動する。
【0102】
[実施例1-2]
高圧ポンプとして、厚さが100μmの制振樹脂層がエンジンヘッドの収容孔の内壁面(リフタガイドの内周面)(2)に設けられたものを作製した。
【0103】
具体的には、まず、エンジンヘッドの収容孔の内壁面に参考例1で調製した塗工材をスプレーコーティングにより所定量塗工した。次に、内壁面に塗工された塗工材を180℃で90分間加熱することにより、有機溶剤を揮発させ、塗工材を乾燥、硬化させた。これにより、エンジンヘッドの収容孔の内壁面に厚さが100μmとなるように制振樹脂層を形成した。
【0104】
次に、制振樹脂層形成前のリフタを用いた点を除いて実施例1-1と同様に高圧ポンプの取付け前の半製品を組み立てた。次に、当該半製品を制振樹脂層が形成された当該エンジンヘッドに取り付けた点を除いて実施例1-1と同様に半製品をエンジンヘッドに取り付けた。これにより、高圧ポンプを作製した。当該高圧ポンプでは、リフタの往復移動時に、リフタの外周面が収容孔の内壁面に設けられた制振樹脂層に接触して摺動する。
【0105】
[実施例1-3]
高圧ポンプとして、厚さが50μmの制振樹脂層がリフタの外周面(1)及びエンジンヘッドの収容孔の内壁面(リフタガイドの内周面)(2)の両方に設けられたものを作製した。
【0106】
具体的には、まず、厚さが50μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて実施例1-1と同様にリフタの外周面に制振樹脂層を形成した。次に、厚さが50μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて実施例1-2と同様にエンジンヘッドの収容孔の内壁面に制振樹脂層を形成した。
【0107】
次に、制振樹脂層が形成された当該リフタを用いた点を除いて実施例1-1と同様に高圧ポンプの取付け前の半製品を組み立てた。次に、当該半製品を制振樹脂層が形成された当該エンジンヘッドに取り付けた点を除いて実施例1-1と同様に半製品をエンジンヘッドに取り付けた。これにより、高圧ポンプを作製した。当該高圧ポンプでは、リフタの往復移動時に、リフタの外周面に設けられた制振樹脂層が収容孔の内壁面に設けられた制振樹脂層に接触して摺動する。
【0108】
[実施例1-4]
高圧ポンプとして、厚さが200μmの制振樹脂層が下ハウジングのフランジ部におけるエンジンヘッドと対向する締結面(3)に設けられたものを作製した。
【0109】
具体的には、まず、フランジ部の締結面に参考例1で調製した塗工材をスプレーコーティングにより所定量塗工した。次に、フランジ部に塗工された塗工材を180℃で90分間加熱することにより、有機溶剤を揮発させ、塗工材を乾燥、硬化させた。これにより、フランジ部の締結面に厚さが200μmとなるように制振樹脂層を形成した。
【0110】
次に、制振樹脂層形成前のリフタを用いた点及び制振樹脂層が形成された当該フランジ部を有する下ハウジングを用いた点を除いて実施例1-1と同様に高圧ポンプの取付け前の半製品を組み立てた。次に、当該半製品をエンジンヘッドに取り付けた点を除いて実施例1-1と同様に半製品をエンジンヘッドに取り付けた。これにより、高圧ポンプを作製した。当該高圧ポンプでは、エンジンヘッドの締結面及びフランジ部の締結面の間に制振樹脂層が配置されている。
【0111】
[実施例1-5]
高圧ポンプとして、厚さが200μmの制振樹脂層が下ハウジングのフランジ部における締結面と反対側の座面(4)に設けられたものを作製した。
【0112】
具体的には、まず、フランジ部の座面に参考例1で調製した塗工材をスプレーコーティングにより所定量塗工した。次に、フランジ部に塗工された塗工材を180℃で90分間加熱することにより、有機溶剤を揮発させ、塗工材を乾燥、硬化させた。これにより、フランジ部の座面に厚さが200μmとなるように制振樹脂層を形成した。
【0113】
次に、制振樹脂層形成前のリフタを用いた点及び制振樹脂層が形成された当該フランジ部を有する下ハウジングを用いた点を除いて実施例1-1と同様に高圧ポンプの取付け前の半製品を組み立てた。次に、当該半製品をエンジンヘッドに取り付けた点を除いて実施例1-1と同様に半製品をエンジンヘッドに取り付けた。これにより、高圧ポンプを作製した。当該高圧ポンプでは、フランジ部の座面及びボルトの頭部の間に制振樹脂層が配置されている。
【0114】
[実施例1-6]
高圧ポンプとして、厚さが200μmの制振樹脂層が下ハウジングのフランジ部におけるエンジンヘッドと対向する締結面(3)及び締結面と反対側の座面(4)の両方に設けられたものを作製した。
【0115】
具体的には、まず、厚さが200μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて実施例1-4と同様にフランジ部の締結面に制振樹脂層を形成した。次に、厚さが200μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて実施例1-5と同様にフランジ部の座面に制振樹脂層を形成した。
【0116】
次に、制振樹脂層形成前のリフタを用いた点及び制振樹脂層が形成された当該フランジ部を有する下ハウジングを用いた点を除いて実施例1-1と同様に高圧ポンプの取付け前の半製品を組み立てた。次に、当該半製品をエンジンヘッドに取り付けた点を除いて実施例1-1と同様に半製品をエンジンヘッドに取り付けた。これにより、高圧ポンプを作製した。
【0117】
[実施例1-7]
高圧ポンプとして、厚さが100μmの制振樹脂層がリフタの外周面(1)に設けられ、かつ厚さが200μmの制振樹脂層が下ハウジングのフランジ部におけるエンジンヘッドと対向する締結面(3)及び締結面と反対側の座面(4)の両方に設けられたものを作製した。
【0118】
具体的には、まず、実施例1-1と同様にリフタの外周面に制振樹脂層を形成した。次に、厚さが200μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて実施例1-4と同様にフランジ部の締結面に制振樹脂層を形成した。次に、厚さが200μmとなるように制振樹脂層を形成した点を除いて実施例1-5と同様にフランジ部の座面に制振樹脂層を形成した。
【0119】
次に、これらの制振樹脂層が形成された当該フランジ部を有する下ハウジングを用いた点を除いて実施例1-1と同様に高圧ポンプの取付け前の半製品を組み立てた。次に、当該半製品をエンジンヘッドに取り付けた点を除いて実施例1-1と同様に半製品をエンジンヘッドに取り付けた。これにより、高圧ポンプを作製した。
【0120】
[実施例2-1]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例8で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-1と同様に厚さが100μmの制振樹脂層がリフタの外周面に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0121】
[実施例2-2]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例8で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-2と同様に厚さが100μmの制振樹脂層がエンジンヘッドの収容孔の内壁面(リフタガイドの内周面)に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0122】
[実施例2-3]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例8で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-3と同様に厚さが50μmの制振樹脂層がリフタの外周面及びエンジンヘッドの収容孔の内壁面(リフタガイドの内周面)の両方に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0123】
[実施例2-4]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例8で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-4と同様に厚さが200μmの制振樹脂層が下ハウジングのフランジ部におけるエンジンヘッドと対向する締結面に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0124】
[実施例2-5]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例8で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-5と同様に厚さが200μmの制振樹脂層が下ハウジングのフランジ部における締結面と反対側の座面に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0125】
[実施例2-6]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例8で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-6と同様に厚さが200μmの制振樹脂層が下ハウジングのフランジ部におけるエンジンヘッドと対向する締結面及び締結面と反対側の座面の両方に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0126】
[実施例2-7]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例8で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-7と同様に厚さが100μmの制振樹脂層がリフタの外周面に設けられ、かつ厚さが200μmの制振樹脂層が下ハウジングのフランジ部におけるエンジンヘッドと対向する締結面及び締結面と反対側の座面の両方に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0127】
[実施例3-1]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例10で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-1と同様に厚さが100μmの制振樹脂層がリフタの外周面に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0128】
[実施例3-2]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例10で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-2と同様に厚さが100μmの制振樹脂層がエンジンヘッドの収容孔の内壁面(リフタガイドの内周面)に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0129】
[実施例3-3]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例10で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-3と同様に厚さが50μmの制振樹脂層がリフタの外周面及びエンジンヘッドの収容孔の内壁面(リフタガイドの内周面)の両方に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0130】
[実施例3-4]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例10で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-4と同様に厚さが200μmの制振樹脂層が下ハウジングのフランジ部におけるエンジンヘッドと対向する締結面に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0131】
[実施例3-5]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例10で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-5と同様に厚さが200μmの制振樹脂層が下ハウジングのフランジ部における締結面と反対側の座面に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0132】
[実施例3-6]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例10で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-6と同様に厚さが200μmの制振樹脂層が下ハウジングのフランジ部におけるエンジンヘッドと対向する締結面及び締結面と反対側の座面の両方に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0133】
[実施例3-7]
参考例1で調製した塗工材の代わりに参考例10で調製した塗工材を用いて制振樹脂層を形成した点を除いて、実施例1-7と同様に厚さが100μmの制振樹脂層がリフタの外周面に設けられ、かつ厚さが200μmの制振樹脂層が下ハウジングのフランジ部におけるエンジンヘッドと対向する締結面及び締結面と反対側の座面の両方に設けられた高圧ポンプを作製した。
【0134】
[比較例2]
高圧ポンプとして、制振樹脂層が設けられていないものを作製した。具体的には、制振樹脂層形成前のリフタを用いた点を除いて実施例1-1と同様に高圧ポンプの取付け前の半製品を組み立てた。次に、当該半製品をエンジンヘッドに取り付けた点を除いて実施例1-1と同様に半製品をエンジンヘッドに取り付けた。これにより、高圧ポンプを作製した。
【0135】
〔高圧ポンプのNV性能の評価〕
実施例1-1~3-7及び比較例2で作製された高圧ポンプのNV性能を評価した。
【0136】
具体的には、実施例1-1~3-7及び比較例2の高圧ポンプがエンジンヘッドに取付けられたエンジンにおいて、高圧ポンプの上面及びエンジンヘッドの高圧ポンプ近傍に加速度ピックアップを取り付けた。その上で、エンジンを駆動して2000rpmの一定の回転数で回転させることで高圧ポンプを作動させた。そして、加速度ピックアップにより、高圧ポンプの上面及びエンジンヘッドの高圧ポンプ近傍に伝達される周波数20Hz~20kHz帯域の振動のオーバーオール値の加速度レベルを計測した。高圧ポンプの上面に伝達される振動の加速度レベルの計測結果を下記の表2に示す。図10は、実施例1-1~~3-7の高圧ポンプのうち制振樹脂層の形成箇所が(1)~(4)、(3)+(4)、及び(1)+(3)+(4)である高圧ポンプがエンジンヘッドに取付けられたエンジンでの高圧ポンプの上面に伝達される振動の加速度レベルを示すグラフである。なお、下記の表2及び図10のグラフでは、比較例2の加速度レベルを基準値とし、実施例の加速度レベルを基準値に対する相対値で示した。
【0137】
下記の表2及び図10に示すように、実施例1-1~3-7の高圧ポンプにおいて、制振樹脂層を設ける部位にかかわらず、制振樹脂層が設けられることで、加速度レベルが、制振樹脂層が設けられない比較例2の基準値に対して大きく低減している。これは、制振樹脂層の制振効果によるものであると考えられる。下記の表2及び図10に示す結果から、制振樹脂層がフランジ部の締結面(3)又は座面(4)に設けられる場合でも、制振樹脂層の制振効果は認められるが、制振樹脂層がリフタの外周面(1)又はエンジンヘッドの収容孔の内壁面(リフタガイドの内周面)(2)に設けられる場合には、制振樹脂層の制振効果がより大きくなることが認められる。これは、振動発生源で振動の発生自体を抑制できるためであると考えられる。また、制振樹脂層がフランジ部の締結面(3)及び座面(4)の両方に設けられる場合には、一方に設けられる場合と比べて制振効果がいっそう大きくなることが認められる。制振樹脂層がフランジ部の締結面(3)及び座面(4)に加えてリフタの外周面(1)に設けられる場合には、制振効果がよりいっそう大きくなることが認められる。
【0138】
以上のことから、振動発生源への対策が可能という観点では、高圧ポンプとしては、制振樹脂層として、リフタガイドの内周面及びリフタの外周面の少なくとも一方に設けられた制振樹脂層を備えるものが好ましいと考えられる。さらに、リフタの往復移動時において、リフタの外周面は常に全体で摺動するのに対して、リフタガイドの内周面の摺動部位はリフタの移動に応じて変化するため、リフタガイドの内周面に設けられた制振樹脂層を備える高圧ポンプは、リフタの外周面に設けられた制振樹脂層を備える高圧ポンプと比べて、制振樹脂層の摩耗が抑制される結果、制振樹脂層の性能が維持され易い。よって、高圧ポンプとしては、中でもリフタガイドの内周面に設けられた制振樹脂層を備えるものが好ましいと考えられる。
【0139】
【表2】
【0140】
以上、本発明の高圧ポンプに係る実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0141】
1 高圧ポンプ
9 エンジン
18 エンジンヘッド
180 収容孔
181 内壁(リフタガイド)
181s 内壁面
10 本体部
11 下ハウジング
111 シリンダ保持部
112 フランジ部
113 エンジン嵌合部
13 シリンダ
15 上ハウジング
20 リフタ
20s 外周面
22 リフタガイド
24a 第1制振樹脂層
24b 第2制振樹脂層
24c 第3制振樹脂層
24d 第4制振樹脂層
30 燃料供給部
50 プランジャ部
51 プランジャ
70 燃料吸入部
90 燃料吐出リリーフ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10