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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20250218BHJP
【FI】
B60G17/015 B
B60G17/015 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021166912
(22)【出願日】2021-10-11
(65)【公開番号】P2023057397
(43)【公開日】2023-04-21
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 浩貴
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-137123(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102007024755(DE,A1)
【文献】国際公開第2021/106873(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0108863(US,A1)
【文献】特開2009-298317(JP,A)
【文献】特開2014-000915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を車体から懸架するサスペンションと、
前記車輪に作用する横力、及び前記車体に作用するヨーモーメントの少なくとも一方に変化を生じさせるアクチュエータと、
電子制御ユニットと、
を備える車両であって、
前記電子制御ユニットは、
前記サスペンションのストロークに関するストローク情報と前記車体のロールに関するロール情報の少なくとも一方を取得する取得処理と、
前記ストローク及び前記ロールの少なくとも一方に起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される要求制御量を前記アクチュエータに指令する制御処理と、
を実行し、
前記電子制御ユニットは、
前記取得処理において、前記車両の進行方向前方の路面の変位に関連する路面変位関連情報に基づいて、前記ストローク情報を先読みして取得し
前記制御処理において、先読みして取得された前記ストローク情報に基づくフィードフォワード制御量を前記要求制御量として算出する
ことを特徴とする車両。
【請求項2】
前記アクチュエータは、前記車輪に含まれる前輪及び後輪の少なくとも一方である転舵輪の転舵角を制御する転舵アクチュエータを含み、
前記制御処理において、前記電子制御ユニットは、前記横力及び前記ヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される転舵角を前記要求制御量として算出し、算出した前記要求制御量を前記転舵アクチュエータに指令する
ことを特徴とする請求項に記載の車両。
【請求項3】
前記制御処理において、前記電子制御ユニットは、前記サスペンションがストロークすることに伴う前記車輪の接地点の横移動に起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される制御量を前記要求制御量として算出する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両。
【請求項4】
前記制御処理において、前記電子制御ユニットは、前記車体がロールすることに伴う前記車輪の接地点の横移動に起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される制御量を前記要求制御量として算出する
ことを特徴とする請求項1~の何れか1つに記載の車両。
【請求項5】
前記制御処理において、前記電子制御ユニットは、ロールステアに起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される制御量を前記要求制御量として算出する
ことを特徴とする請求項1~の何れか1つに記載の車両。
【請求項6】
前記制御処理において、前記電子制御ユニットは、ロールキャンバに起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される制御量を前記要求制御量として算出する
ことを特徴とする請求項1~の何れか1つに記載の車両。
【請求項7】
車輪を車体から懸架するサスペンションと、
前記車輪に作用する横力、及び前記車体に作用するヨーモーメントの少なくとも一方に変化を生じさせるアクチュエータと、
電子制御ユニットと、
を備える車両であって、
前記電子制御ユニットは、
前記サスペンションのストロークに関するストローク情報と前記車体のロールに関するロール情報の少なくとも一方を取得する取得処理と、
前記ストローク及び前記ロールの少なくとも一方に起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される要求制御量を前記アクチュエータに指令する制御処理と、
を実行し、
前記制御処理において、前記電子制御ユニットは、ロールステアに起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される制御量を前記要求制御量として算出する
ことを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、アクティブ式のサスペンション装置と後輪転舵装置とを備える車両の制御装置を開示している。後輪転舵装置は、所定の転舵比特性に基づいて後輪を転舵させる。制御装置は、目標ロール角の変更時に、ステアリング特性が変化されるのを抑制するように転舵比特性を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平02-185815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サスペンションがストロークしたり車体がロールしたりすると、ストローク及びロールの少なくとも一方に起因して生じる横力が車体に作用する。このような横力が車体に作用すると、車体が横方向及びヨー方向の少なくとも一方に動かされるので、横方向及びヨー方向の少なくとも一方の振動が車体に発生する可能性がある。
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、サスペンションのストローク及び車体のロールの少なくとも一方に起因する車両の偏向を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る車両は、車輪を車体から懸架するサスペンションと、アクチュエータと、電子制御ユニットと、を備える。アクチュエータは、車輪に作用する横力、及び車体に作用するヨーモーメントの少なくとも一方に変化を生じさせる。電子制御ユニットは、サスペンションのストロークに関するストローク情報と車体のロールに関するロール情報の少なくとも一方を取得する取得処理を実行する。そして、電子制御ユニットは、ストローク及びロールの少なくとも一方に起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される要求制御量をアクチュエータに指令する制御処理を実行する。
【0007】
電子制御ユニットは、取得処理において、車両の進行方向前方の路面の変位に関連する路面変位関連情報に基づいて、ストローク情報を先読みして取得し、制御処理において、先読みして取得されたストローク情報に基づくフィードフォワード制御量を要求制御量として算出してもよい。
【0008】
アクチュエータは、車輪に含まれる前輪及び後輪の少なくとも一方である転舵輪の転舵角を制御する転舵アクチュエータを含んでもよい。そして、制御処理において、電子制御ユニットは、横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される転舵角を要求制御量として算出し、算出した要求制御量を転舵アクチュエータに指令してもよい。
【0009】
制御処理において、電子制御ユニットは、サスペンションがストロークすることに伴う車輪の接地点の横移動に起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される制御量を要求制御量として算出してもよい。
【0010】
制御処理において、電子制御ユニットは、車体がロールすることに伴う車輪の接地点の横移動に起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される制御量を要求制御量として算出してもよい。
【0011】
制御処理において、電子制御ユニットは、ロールステアに起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される制御量を要求制御量として算出してもよい。
【0012】
制御処理において、電子制御ユニットは、ロールキャンバに起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される制御量を要求制御量として算出してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係る車両によれば、アクチュエータの制御により、サスペンションのストローク及び車体のロールの少なくとも一方に起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方が低減される。これにより、ストローク及びロールの少なくとも一方に起因する車両の偏向を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係る車両の構成の一例を概略的に示す図である。
図2】実施の形態に係るサスペンションの構成例を示す概念図である。
図3】プレビュー制御を説明するための概念図である。
図4】実施の形態に係るステア制御に関する処理を示すフローチャートである。
図5】サスペンションのストロークSTに伴う横力Fy1の算出手法を説明するための図である。
図6】ロールに起因する横力Fy2の算出方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本開示の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術思想が限定されるものではない。
【0016】
1.車両の構成
図1は、実施の形態に係る車両1の構成の一例を概略的に示す図である。車両1は、車輪2と、車輪2を車体6から懸架するサスペンション3と、を備えている。車輪2は、左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、及び右後輪2RRを含んでいる。それら左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、及び右後輪2RRのそれぞれに対してサスペンション3FL、3FR、3RL、及び3RRが設けられている。以下の説明では、特に区別の必要が無い場合、各車輪を車輪2と呼び、各サスペンションをサスペンション3と呼ぶ。
【0017】
図2は、実施の形態に係るサスペンション3の構成例を示す概念図である。サスペンション3は、車両1のばね下構造体4とばね上構造体5との間を連結するように設けられている。ばね下構造体4は、車輪2を含んでいる。ばね上構造体5は、車体6を含んでいる。サスペンション3は、スプリング3S、ダンパ(ショックアブソーバ)3D、及びサスペンションアクチュエータ(単に、「アクチュエータ」とも称する)3Aを含んでいる。スプリング3S、ダンパ3D、及びアクチュエータ3Aは、ばね下構造体4とばね上構造体5との間に並列に設けられている。スプリング3Sのばね定数はKである。ダンパ3Dの減衰係数はCである。
【0018】
アクチュエータ3Aは、ばね下構造体4とばね上構造体5との間に上下方向の制御力Fcを作用させることにより、サスペンション3のストロークSTを制御する。アクチュエータ3Aは、例えば、電動式又は油圧式のアクティブアクチュエータ(いわゆる、フルアクティブサスペンションを構成するアクチュエータ)である。あるいは、アクチュエータ3Aは、例えば、ダンパ3Dが発生させる減衰力を可変とするアクチュエータ、又は、アクティブスタビライザ装置のアクチュエータであってもよい。
【0019】
また、車両1は、一例として、ステアバイワイヤ方式の車両である。図1に示すように、車両1の操舵装置は、ステアリングホイール7と、転舵アクチュエータ8F及び8Rとを備えている。転舵アクチュエータ8Fは、前輪2F(左右前輪2FL及び2FR)を転舵する。転舵アクチュエータ8Rは、後輪2R(左右後輪2RL及び2RR)を転舵する。
【0020】
より詳細には、転舵アクチュエータ8Fは、例えば電動式である。前輪2F及び転舵アクチュエータ8Fは、ステアリングホイール7から機械的に分離されている。転舵アクチュエータ8Fの動作は、後述のECU10によって制御され、それにより前輪2Fの転舵が行われる。
【0021】
同様に、転舵アクチュエータ8Rは、例えば電動式である。後輪2R及び転舵アクチュエータ8Rは、ステアリングホイール7から機械的に分離されている。転舵アクチュエータ8Rの動作は、ECU10によって制御され、それにより後輪2Rの転舵が行われる。
【0022】
上述のように構成された操舵装置によれば、前輪2Fと後輪2Rを独立して転舵可能である。したがって、後輪2Rを転舵せずに前輪2Fだけを転舵することも可能であるし、前輪2Fを転舵せずに後輪2Rだけを転舵することも可能である。また、前輪2Fと後輪2Rを同時に転舵することもできる。
【0023】
また、車両1は、図示省略される駆動装置及び制動装置を備えている。駆動装置は、駆動力を発生させる動力源である。駆動装置としては、エンジン、電動機、等が例示される。制動装置は、制動力を発生させる。
【0024】
さらに、車両1は、電子制御ユニット(ECU)10を備えている。ECU10は、プロセッサ、記憶装置、及び入出力インターフェースを備えている。入出力インターフェースは、車両1に取り付けられたセンサ類12からセンサ信号を取り込むとともに、アクチュエータ3A、並びに転舵アクチュエータ8F及び8Rに対して操作信号を出力する。記憶装置には、アクチュエータ3A、並びに転舵アクチュエータ8F及び8Rを制御するための各種の制御プログラムが記憶されている。プロセッサは、制御プログラムを記憶装置から読み出して実行する。これにより、サスペンションアクチュエータ3Aを利用したサスペンション制御が実現される。また、転舵アクチュエータ8F及び8Rを利用したステア制御が実現される。
【0025】
センサ類12は、例えば、横加速度センサ、ばね上構造体5の上下加速度を検出するばね上加速度センサ、サスペンションストロークセンサ、並びに、各車輪2に設けられた車輪速センサを含む。車輪速センサによれば、車速Vを検出できる。また、センサ類12は、例えば、操舵角センサ、転舵角センサ、ヨーレートセンサ、ロールレートセンサ、等を含んでいる。操舵角センサは、ステアリングホイール7の操舵角θを検出する。転舵角センサは、前輪2Fの転舵角δf及び後輪2Rの転舵角δrを検出する。さらに、センサ類12は、車両1の位置及び方位を検出する位置センサを含む。当該位置センサは、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機を含んでいる。
【0026】
また、車両1は通信装置14を備える。ECU10は、通信装置14を介して車両1の外部と通信を行う。
【0027】
2.車両制御
ECU10による車両1の制御は、次のサスペンション制御及びステア制御を含む。
【0028】
2-1.サスペンション制御
本実施形態では、サスペンション制御は、一例として、路面入力に対する乗心地制御を含む。ここでいう乗心地制御は、路面入力に対するばね上構造体5の振動(より詳細には、上下振動)を低減するために実行される。
【0029】
乗心地制御は、例えば、車両前方の路面変位関連情報に基づくプレビュー制御である。図3は、プレビュー制御を説明するための概念図である。車両前方の路面変位関連情報は、例えば、車両1が通信装置14を介してクラウド上の管理サーバから路面データマップとして取得することができる。この路面データマップは、路面の上下方向の変位Zr(図2参照)に関連する路面変位関連値を位置と関連付けてマップ化したものである。路面変位関連値としては、上記の路面変位Zr、路面変位Zrの時間微分値である路面変位速度Zr’、ばね下変位Zu、ばね下速度Zu'、ばね下加速度Zu''、ばね上変位Zs、ばね上速度Zs'、ばね上加速度Zs''、等が例示される。そして、路面データマップの具体例は、路面変位関連値の一例としてばね下変位Zu(図2参照)を用いるばね下変位マップである。なお、路面データマップの生成及び更新は、車両1を含む多数の車両から収集した情報に基づいて事前に行われている。なお、車両前方の路面変位関連情報は、路面データマップを利用した取得に代え、例えば、プレビューセンサを利用して取得されてもよい。プレビューセンサは、例えば、車両前方の画像を撮影するカメラである。
【0030】
プレビュー制御において、ECU10は、各車輪2の現在位置P0を取得する。車両1における車両位置の基準点と各車輪2との間の相対位置関係は既知情報である。その相対位置関係と位置情報で示される車両位置に基づいて、各車輪2の位置を算出することができる。ここでいう位置情報は、例えば、センサ類12に含まれる位置センサを用いて取得される。
【0031】
ECU10は、プレビュー時間tp後の車輪2の予測通過位置Pfを算出する。プレビュー時間tpは、例えば、サスペンション3のアクチュエータ3Aを作動させるまでに必要な計算処理や通信処理に要する時間以上に設定される。プレビュー時間tpは、固定であってもよいし、状況に応じて可変であってもよい。プレビュー距離Lpは、プレビュー時間tpと車速Vの積により与えられる。予測通過位置Pfは、現在位置P0からプレビュー距離Lpだけ前方の位置である。変形例として、ECU10は、車速Vと車輪2の舵角に基づいて予想走行ルートを算出し、予想走行ルートに基づいて予測通過位置Pfを算出してもよい。
【0032】
ECU10は、予測通過位置Pfにおけるばね下変位Zuをばね下変位マップから読み出す。そして、ECU10は、予測通過位置Pfにおけるばね下変位Zuに基づいて、サスペンション3のアクチュエータ3Aの目標制御力Fc_tを算出する。目標制御力Fc_tは、例えば、次のように算出される。
【0033】
ばね上構造体5(図2参照)に関する運動方程式は、次の式(1)により表される。
【数1】
【0034】
式(1)において、mはばね上構造体5の質量であり、Zsはばね上変位であり、Cはダンパ3Dの減衰係数であり、Kはスプリング3Sのばね定数であり、Fcはアクチュエータ3Aが発生させる上下方向の制御力である。仮に、制御力Fcによってばね上構造体5の振動が完全に打ち消される場合(Zs''=0,Zs'=0,Zs=0)、その制御力Fcは次の式(2)により表される。
【数2】
【0035】
少なくとも制振効果をもたらす制御力Fcは、次の式(3)により表される。
【数3】
【0036】
式(3)において、制御ゲインα1は、0より大きく且つ1以下であり、制御ゲインα2も、0より大きく且つ1以下である。式(3)中の微分項を省略した場合、少なくとも制振効果をもたらす制御力Fcは、次の式(4)により表される。
【数4】
【0037】
ECU10は、上記式(3)あるいは式(4)に従って、目標制御力Fc_t(すなわち、要求制御量Xpv)を算出する。すなわち、ECU10は、予測通過位置Pfにおけるばね下変位Zuを式(3)あるいは式(4)に代入して、目標制御力Fc_tを算出する。
【0038】
ECU10は、車輪2が予測通過位置Pfを通過するタイミングで目標制御力Fc_tを発生させるようにアクチュエータ3Aを制御する。車輪2が予測通過位置Pfを通過するタイミングはプレビュー時間tpから分かる。
【0039】
以上に説明されたプレビュー制御によれば、車両1(ばね上構造体5)の振動を効果的に抑制することが可能となる。
【0040】
2-2.ステア制御
2-2-1.ステア制御の基本構成例
ステア制御において、ECU10は、基本転舵角δbを算出する。基本転舵角δbは、目標転舵角δ_tの基本値に相当する。より具体的には、ECU10は、前輪2Fの目標転舵角δf_tの基本値である基本転舵角δbfと、後輪2Rの目標転舵角δb_tの基本値である基本転舵角δbとを算出する。基本転舵角δbf及びδbrの具体的な算出手法は、車両1の運転主体に応じて異なる。
【0041】
運転主体がステアリングホイール7を操作するドライバ(人間)である場合には、基本転舵角δbf及びδbrのそれぞれは、基本的には、ステアリングホイール7の操舵角θに基づいて算出される。より詳細には、基本転舵角δbf及びδbrのそれぞれは、操舵角θが増加するにつれて増加するように算出される。また、基本転舵角δbf及びδbrのそれぞれは、例えば、車速Vに基づいて算出されてもよく、より詳細には、車速Vが増加するにつれて減少するように算出されてもよい。
【0042】
車両1は、自動運転可能に構成されていてもよい。車両1が自動運転車両である場合、車両1の運転主体は、車両1の自動運転を制御する自動運転システム(ECU10を含む)である。この例では、基本転舵角δbf及びδbrのそれぞれは、自動運転システムによって生成される車両1の目標トラジェクトリに基づいて算出される。
【0043】
ECU10は、目標転舵角δf_tに基づいて、転舵アクチュエータ8Fを制御して前輪2Fを転舵する。同様に、ECU10は、目標転舵角δr_tに基づいて、転舵アクチュエータ8Rを制御して後輪2Rを転舵する。
【0044】
2-2-2.横力に基づく転舵角の制御
最終的な目標転舵角δf_tは、基本転舵角δbfに、下記の課題に鑑みて算出される後述の補正転舵角δcfを足し合わせることによって算出される。同様に、最終的な目標転舵角δr_tは、基本転舵角δbrに、後述の補正転舵角δcrを足し合わせることによって算出される。
【0045】
サスペンションがストロークしたり車体がロールしたりすると、サスペンションの幾何的な特性から車輪(タイヤ)の接地点が横移動する(車両横方向に変位する)。この際、車両が前後に動いていると、車両の前後進行速度(車速V)と、車輪の接地点の横移動速度Vyとによって車輪にスリップ角が生じ、横力(後述の横力Fy1及びFy2)が発生する。車輪に発生した横力Fy1及びFy2は車体に作用する。また、車体がロールすると、ロールステア及びロールキャンバのそれぞれに起因する横力Fy3及びFy4も直接的に発生し、車体に作用する。これらの横力Fyが車体に作用すると、車体が横方向及びヨー方向の少なくとも一方に動かされるので、横方向及びヨー方向の少なくとも一方の振動が車体に発生する可能性がある。その結果、車両の快適性が低下し得る。
【0046】
特に、上述のプレビュー制御のように制御性の高い乗心地制御を実施した場合、横方向及びヨー方向以外の振動が大きく低減されるため、横方向及びヨー方向の振動が相対的に目立つようになる。付け加えると、このような乗心地制御等のサスペンション制御によってサスペンションを積極的にストロークさせた場合、サスペンション制御なしの場合と比較して、サスペンションストロークが大きくなる可能性がある。その結果として、発生する横力Fyが大きくなり、横方向及びヨー方向の振動が大きくなる可能性がある。
【0047】
そこで、本実施形態におけるステア制御のためにECU10によって実行される処理は、次の「取得処理」と「制御処理」とを含んでいる。これらの処理の一例は、次の図4に示すフローチャートを用いて説明される。
【0048】
取得処理は、広く言えば、サスペンション3のストロークSTに関するストローク情報と、車体6のロールに関するロール情報の少なくとも一方を取得する処理である。図4に示一例例では、ストローク情報が取得される。
【0049】
制御処理は、広く言えば、ストロークST及びロールの少なくとも一方に起因して生じる横力及びヨーモーメントの少なくとも一方を低減するために要求される要求制御量をアクチュエータに指令する処理である。図4に示す一例では、サスペンション3がストロークすることに起因して生じる横力Fy1を低減するために要求される要求制御量を実現するように転舵アクチュエータ8F及び8Rが制御される。
【0050】
また、サスペンション制御としてプレビュー制御が実行される本実施形態における取得処理では、ECU10は、車両1の進行方向前方の路面の変位に関連する路面変位関連情報に基づいて、ストローク情報を先読みして取得する。そして、制御処理において、ECU10は、先読みして取得された(換言すると、予測された)ストローク情報に基づくフィードフォワード制御量を要求制御量として算出し、算出したフィードフォワード制御量を転舵アクチュエータ8F及び8Rに指令する。
【0051】
図4は、実施の形態に係るステア制御に関する処理を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、車両1の走行中に、所定の時間ステップ毎に繰り返し実行される。なお、図4では、ステップS100の処理が上述の「取得処理」の一例に相当し、ステップS102~S106の処理が上述の「制御処理」の一例に相当する。
【0052】
<ステップS100>
ステップS100において、ECU10は、サスペンション3のストローク情報を取得する。具体的には、一例として、ECU10は、プレビュー制御のために事前に取得されている「路面変位関連情報」に基づいて、ストローク情報を先読みして取得する。
【0053】
路面変位関連情報に基づくストローク情報の取得は、例えば、次のように行うことができる。すなわち、プレビュー制御は、予測通過位置Pfにおける路面変位関連値(例えば、ばね下変位Zu又は路面変位Zr)に応じた量だけサスペンション3をストロークさせるように実行される。そこで、予測通過位置PfにおけるストロークSTは、予測通過位置Pfにおけるばね下変位Zu又は路面変位Zrと等価になると仮定されてもよい。そして、予測通過位置Pfにおけるばね下変位Zu又は路面変位Zrが、予測通過位置PfにおけるストロークSTの情報として取得されてもよい。あるいは、事前に取得されているばね下変位Zu等の路面変位関連値から、所定の関係式に従って、ストロークSTが推定されてもよい。
【0054】
<ステップS102>
ステップS102において、ECU10は、ステップS100にて取得したストローク情報に基づいて、サスペンション3がストロークすることに伴う車輪2の接地点の横移動に起因して生じる横力Fy1を車輪2毎に算出する。
【0055】
図5は、サスペンション3のストロークSTに伴う横力Fy1の算出手法を説明するための図である。ここでは、車両1が車速Vで直進している場合を想定して説明される。図5の紙面上方向は、車両1の直進方向に対応している。サスペンション3の幾何的な特性により、左側の車輪2のサスペンション3が縮む方向にストロークし、右側の車輪2のサスペンション3が伸びる方向にストロークした場合、左右の車輪2には車両左方向に横力Fy1が発生する。その結果、車体6が左方向に動くことになる。
【0056】
図5には、右前輪2FRが例示されている。上述のように右前輪2FRのサスペンション3が伸びるストロークした場合、右前輪2FRの接地点が接地点横移動速度Vy1(=2H/T×(Zufr’-Zsfr’))で車両右方向(図5の紙面右方向)に移動するように上記の横移動が発生する。この横移動の発生により、右前輪2FRには、図5に示すように接地点横移動速度Vy1を車速Vで除して得られる値に応じた大きさのスリップ角が発生する。その結果、車両左方向に横力Fy1frが発生する。そして、このような場合に右前輪2FRに発生する横力Fy1frは、次の式(5)により表される。
【数5】
【0057】
式(5)において、Cpfはコーナンリングパワーであり、車輪(タイヤ)に固有の定数であって事前に求められている。Hは前輪2Fのロールセンタ高さであり、公知の手法により算出できる。Tは前輪2Fのトレッドであり、事前に求められた値である。「Zsfr’-Zufr’」は右前輪2FRのストローク速度であり、ステップS100にて取得されたストローク情報に基づいて算出される。なお、左前輪2FLの横力Fy1flについても同様に算出できる。また、左右後輪2RL及び2RRの横力Fy1rl及びFy1rrについても、コーナンリングパワー、ロールセンタ高さ及びトレッドを後輪2Rの値Cpr、H、及びTに置き換えつつ同様に算出できる。
【0058】
付け加えると、このように算出される横力Fy1は、車体6が動いているか(例えば、車体6にロール又はピッチが生じているか)否かに関係なく、純粋にストロークSTの発生に起因して生じるものである。
【0059】
<ステップS104>
ステップS104において、ECU10は、横力Fy1を低減するために要求される前後輪2F及び2Rのそれぞれの補正転舵角δcf及びδcrを算出する。これらの補正転舵角δcf及びδcrは、それぞれ、次の式(6)及び(7)により表される。なお、横力Fy1は、図5に示すように車両左方向に作用する時に正の値をとり、補正転舵角δcf及びδcrは、車輪2を右に転舵する時に正の値をとるものとする。
【数6】

【0060】
式(6)において、Fy1は2つの前輪2Fに作用する合計の横力Fy1であり、すなわち、横力Fy1frと横力Fy1flとの和である。lは前輪軸と重心との距離であり、事前に求められた値である。rはヨーレートであり、例えばヨーレートセンサを用いて取得できる。また、スリップ角βは、例えば、車輪速センサにより計測される車速Vと横加速度センサの積分値とを用いて算出できる。
【0061】
また、式(7)において、Fy1は2つの後輪2Rに作用する合計の横力Fy1であり、すなわち、横力Fy1rrと横力Fy1rlとの和である。Cprは後輪2Rのコーナンリングパワーであり、lは後輪軸と重心との距離である。これらの値Cpf及びlは事前に求められた値である。
【0062】
そのうえで、ステップS104では、ECU10は、補正転舵角δcfを上述の基本転舵角δbfに足し合わせることにより、最終的な目標転舵角δf_tを算出する。次いで、ECU10は、算出した目標転舵角δf_tに所定の制御ゲインを乗じることによって前輪2F用の要求制御量(フィードフォワード制御量)Xf_ffを算出する。ステップS104の処理の一例では、要求制御量Xf_ffを算出することにより、横力Fy1の低減に必要な要求制御量が取得される。
【0063】
同様に、ECU10は、補正転舵角δcrを上述の基本転舵角δbrに足し合わせることにより、最終的な目標転舵角δr_tを算出する。次いで、ECU10は、算出した目標転舵角δr_tに所定の制御ゲインを乗じることによって後輪2R用の要求制御量(フィードフォワード制御量)Xr_ffを算出する。ステップS104の処理の一例では、要求制御量Xr_ffを算出することにより、横力Fy1の低減に必要な要求制御量が取得される
【0064】
<ステップS106>
ステップS106において、ECU10は、ステップS104にて算出した算出したフィードフォワード制御量Xf_ffを前輪2Fの転舵アクチュエータ8Fに指令する。その結果、前輪2Fは、補正転舵角δcfを含む目標転舵角δf_tを実現するように転舵される。
【0065】
より詳細には、プレビュー制御のための路面変位関連情報(予測通過位置Pfにおけるばね下変位Zu又は路面変位Zr)がストローク情報として用いられている。このため、予測通過位置Pfにおけるサスペンション3のストローク情報を予測できるので、予測通過位置Pfにおいて生じる横力Fy1を低減するために必要なフィードフォワード制御量Xf_ffを事前に算出できる。そこで、ECU10は、車輪2が予測通過位置Pfを通過するタイミングで、このように先読みして取得されたストローク情報に基づくフィードフォワード制御量Xf_ffが実現されるように転舵アクチュエータ8Fを制御する。
【0066】
ステップS106では、同様に、ECU10は、ステップS104にて算出したフィードフォワード制御量Xr_ffを後輪2Rの転舵アクチュエータ8Rに指令する。その結果、後輪2Rは、補正転舵角δcrを含む目標転舵角δr_tを実現するように転舵される。より詳細には、ECU10は、車輪2が予測通過位置Pfを通過するタイミングで、先読みして取得されたストローク情報に基づくフィードフォワード制御量Xr_ffが実現されるように転舵アクチュエータ8Fを制御する。
【0067】
付け加えると、ステップS106において、ECU10は、フィードフォワード制御量Xf_ffとともに、次のようなフィードバック制御量Xf_fbを転舵アクチュエータ8Fに指令してもよい。具体的には、ECU10は、ステップS104において、目標転舵角δf_tと前輪2Fの実転舵角δafとの差分に基づくフィードバック制御量Xf_fbをも算出してもよい。実転舵角δafは転舵角センサから得られる。そして、ECU10は、2つの制御量Xf_ff及びXf_fbの和を要求制御量として算出し、当該要求制御量を転舵アクチュエータ8Fに指令してもよい。同様に、ECU10は、ステップS104において、目標転舵角δr_tと後輪2Rの実転舵角δarとの差分に基づくフィードバック制御量Xr_fbを算出してもよい。実転舵角δarは転舵角センサから得られる。そして、ECU10は、ステップS106において、2つの制御量Xr_ff及びXr_fbの和(要求制御量)を転舵アクチュエータ8Rに指令してもよい。
【0068】
2-3.効果
以上説明した図4に示す処理によれば、サスペンション3がストロークすることに起因して前輪2F及び後輪2Rのそれぞれに生じる横力Fy1を低減するように転舵アクチュエータ8F及び8Rが制御される。例えば、図5に示すように車両左方向に横力Fy1が生じている例では、横力Fy1を低減するために車輪2は右方向に転舵される。これにより、サスペンション3がストロークすることに起因する横方向の車体6の振動を抑制でき、車両1の偏向を抑制できる。付け加えると、自動運転の実行中に当該ステア制御が実行される例では、横方向の車体6の振動の低減により、自動運転の追従性を向上できる。
【0069】
また、サスペンション3が実際にストロークしたことを検出した後に、当該ストロークに起因して生じる横力Fy1を低減するように転舵アクチュエータ8F及び8Rを制御するという手法では、ステア制御に遅れが生じる。これに対し、図4に示す処理によれば、先読みして取得されたストローク情報に基づくフィードフォワード制御量Xf_ff及びXr_ffが要求制御量として算出され、算出されたフィードフォワード制御量Xf_ff及びXr_ffを実現するように転舵アクチュエータ8F及び8Rがそれぞれ制御される。これにより、車両1が近い将来に通過する路面位置(予測通過位置Pf)において生じる横力Fy1が低減されるように転舵アクチュエータ8Fを事前に制御できるようになる。これにより、ステア制御の遅れが解消され、車両1の偏向をより好適に抑制できる。
【0070】
3.ステア制御の変形例
3-1.取得処理及び制御処理の他の例
本開示に係る「取得処理」において取得されるストローク情報は、必ずしも先読みして取得されるものに限られず、任意の手法を用いて取得されてもよい。すなわち、例えば、サスペンション3のストロークSTは、ストロークセンサを用いて直接計測されてもよいし、あるいは、オブザーバを利用してばね上加速度から推定されてもよい。そのうえで、プレビュー制御とともに実施されないステア制御の例では、転舵アクチュエータ8F及び8Rに指令される要求制御量は、このように先読みされずに取得されるストローク情報に基づくフィードバック制御量Xf_fb及びXr_fbのみであってもよい。付け加えると、上述したステア制御は、ストロークSTをアクティブに制御するサスペンション制御が実行されない車両に適用されてもよい。
【0071】
3-2.低減対象の他の横力の算出例
既に説明したように、サスペンション3がストロークすること以外にも、横力Fyは、車体6が純粋にロールすることに起因して発生し、また、ロールステア又はロールキャンバに起因して発生する。
【0072】
3-2-1.ロールに起因する横力Fy2
図6は、ロールに起因する横力Fy2の算出方法を説明するための図である。より詳細には、図6(A)は車両1の背面視であり、図6(B)は車両1の平面視である。
【0073】
サスペンション3がストロークしているか否かに関係なく、車体6が図6(A)に示すように重心周りにロールすることで、接地点横移動速度Vy2(=Hφ’)が生じる。Hは車両重心高さであり、φ’はロールレートである。このような横移動の発生に伴い、図6(B)に示すように、各車輪2には、接地点横移動速度Vy2を車速Vで除して得られる値に応じた大きさのスリップ角が発生する。その結果、横力Fy2が発生する。例えば図6(A)に示すように車両右側が沈み込むようにロールが生じる場合には、横移動は車両左方向に生じ、それに伴い、横力Fy2が車両右方向に生じる。
【0074】
ロールに起因して左右前輪2FL及び2FRにそれぞれ発生する横力Fy2fl及びFy2frは、次の式(8)により表される。したがって、これらの横力Fy2fl及びFy2frの和である前輪2F合計の横力Fy2を算出できる。また、左右後輪2RL及び2RRにそれぞれ発生する横力Fy2rl及びFy2rrは、次の式(9)により表される。したがって、これらの横力Fy2rl及びFy2rrの和である後輪2R合計の横力Fy2も算出できる。
【数7】

【0075】
前輪2F及び後輪2Rの横力Fy2及びFy2の算出に用いられるロール情報は、例えば、ロールレートφ’と車両重心高さHである。ロールレートφ’は、例えば、ロールレートセンサにより直接計測されてもよいし、あるいは、横加速度センサにより得られる横加速度に応じた値として算出されるロール角φから算出されてもよい。車両重心高さHは公知の手法を用いて算出できる。
【0076】
3-2-2.ロールステアに起因する横力Fy3
車体6がロールすることに伴ってサスペンション3がストロークすると、ロールステアが発生する(すなわち、車輪2のトー角が変化する)。その結果、各車輪2にスリップ角が生じ、それに伴い、各車輪2に横力Fy3が発生する。このようなロールステアに起因して各車輪2に発生する横力Fy3fl、Fy3fr、Fy3rl、及びFy3rrは、例えば、次の式(10)~(13)によりそれぞれ表される。なお、式(10)~(13)では、ロールステアは2次成分まで考慮して表されている。
【数8】



【0077】
式(10)~(13)において、R1f及びR2fは、それぞれ、前輪2Fのロールステア係数に相当する。R1r及びR2rは、それぞれ、後輪2Rのロールステア係数に相当する。式(10)~(13)に示すように、各横力Fy3は、ストロークST(=Zs-Zu)の情報に基づいて算出できる。より詳細には、横力Fy3fl及びFy3frの和が前輪2F合計の横力Fy3として算出でき、横力Fy3rl及びFy3rrの和が後輪2R合計の横力Fy3として算出できる。
【0078】
3-2-3.ロールキャンバに起因する横力Fy4
車体6がロールすることに伴ってサスペンション3がストロークすると、ロールキャンバが発生する(車輪2のキャンバ角γが変化する)。その結果、各車輪2に横力Fy4が発生する。このようなロールキャンバに起因して左右前輪2FL及び2FRにそれぞれ発生する横力Fy4fl及びFy4frは、例えば、次の式(14)により表される。したがって、これらの横力Fy4fl及びFy4frの和である前輪2F合計の横力Fy4を算出できる。同様に、左右後輪2RL及び2RRにそれぞれ発生する横力Fy4rl及びFy4rrは、次の式(15)により表される。したがって、これらの横力Fy4rl及びFy4rrの和である後輪2R合計の横力Fy4も算出できる。
【数9】

【0079】
式(14)及び(15)において、Csf及びCsrは、それぞれ、前輪2F及び後輪2Rのキャンバスティフネスであり、事前に求められている。Rcf及びRcrは、それぞれ、前輪2F及び後輪2Rのロールキャンバキャンセル率であり、事前に求められている。前輪2F及び後輪2Rのそれぞれのキャンバ角γ及びγは、例えば、サスペンション3のストローク情報に基づいて算出できる。
【0080】
上述した実施の形態に係るステア制御は、サスペンション3がストロークすることに起因して生じる横力Fy1に代え、ここで説明された横力Fy2、Fy3、及びFy4の何れか1つを低減するように実行されてもよい。また、ステア制御による低減対象の横力Fyは、横力Fy1、Fy2、Fy3、及びFy4のうちの何れか2つ以上の値の和であってもよい。
【0081】
3-3.ヨーモーメントMzの低減
上述のように発生する横力Fyの向きが前輪2F側と後輪2R側で同じで、且つ、発生する横力Fyの大きさが前輪2F側と後輪2R側とで異なる場合、車両重心周りのヨーモーメントMzが車体6に発生し得る。また、路面状況によっては、横力Fyの向きが前輪2F側と後輪2R側で異なる場合があり、この場合にもヨーモーメントMzが発生する。前輪2F合計の横力をFyと称し、後輪2R合計の横力をFyと称すると、このヨーモーメントMzは、次の式(16)により表される。
【数10】
【0082】
前輪2F及び後輪2Rのそれぞれに転舵アクチュエータ8F及び8Rを備えている車両1であれば、横力Fyを低減するように転舵アクチュエータ8Fを制御し、且つ、横力Fyを低減するように転舵アクチュエータ8Rを制御することにより、結果としてヨーモーメントMzを低減できる。ただし、転舵アクチュエータ8F及び8Rを備える車両1においても、ヨーモーメントMzを低減するために必要な要求制御量が得られるように、所定の関係式に従って補正転舵角δcf及びδcrが算出されてもよい。
【0083】
また、本開示に係る「車両」は、例えば、転舵アクチュエータ8F及び8Rの何れか一方のみを備えていてもよい。このような車両では、転舵アクチュエータが備えらえている方の車輪(前輪2F又は後輪2R)である転舵輪に生じる横力Fyのみが低減されるように、転舵アクチュエータが制御されてもよい。あるいは、前輪2F及び後輪2Rの合計の横力Fyのみ、又はヨーモーメントMzのみを低減するように、転舵アクチュエータが制御されてもよい。
【0084】
4.転舵アクチュエータ以外のアクチュエータ
本開示に係る「アクチュエータ」は、上述の転舵アクチュエータ8F及び8Rに限られず、例えば、前輪2F及び後輪2Rの少なくとも一方に備えられ、左右の車輪に駆動力差を付与可能なアクチュエータAであってもよい。具体的には、アクチュエータAは、例えば、左右の車輪を個別に駆動可能な電動機(例えば、インホイールモータ(IWM))であってもよく、あるいは、アクティブディファレンシャルギア装置であってもよい。そして、このようなアクチュエータAの制御のために、上記のヨーモーメントMzを低減するために必要な駆動力(車両前後力)の差を生じさせられるように要求制御量が算出されてもよい。
【0085】
また、本開示に係る「アクチュエータ」は、例えば、サスペンションジオメトリを能動的に制御するアクチュエータBであってもよい。具体的には、アクチュエータBは、例えば、サスペンションアームを伸縮可能に構成されたアクチュエータであってもよい。そして、横力Fy及びヨーモーメントMzの少なくとも一方を低減するために、アクチュエータBを利用して、例えば、車輪2を直接的に車両横方向に動かしたり、トー角を変化させたり、キャンバ角γを変化させたりしてもよい。
【0086】
また、本開示に係る「アクチュエータ」は、例えば、車両に搭載された空力部品を駆動するアクチュエータCであってもよい。ここでいう空力部品は、アクチュエータCによって動作させられることにより、例えば、空気の流れを利用して車体6にヨーモーメントを作用させられるものである。具体的には、空力部品は、例えば、車両後部の左右に独立して設けられた可変式のフラップ又はスポイラであってもよい。そして、ヨーモーメントMzを低減させるために、例えば、アクチュエータCを利用して左右のフラップ(又はスポイラ)の一方を動作させることによって車両の左右で空気抵抗を変化させてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 車両
2 車輪
2F 前輪
2R 後輪
3 サスペンション
4 ばね下構造体
5 ばね上構造体
6 車体
7 ステアリングホイール
8F、8R 転舵アクチュエータ
10 電子制御ユニット(ECU)
12 センサ類
図1
図2
図3
図4
図5
図6