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特許7635695橋梁構造物およびコンクリート床版取り替え工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】橋梁構造物およびコンクリート床版取り替え工法
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20250218BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
E01D22/00 Z
E01D19/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021171085
(22)【出願日】2021-10-19
(65)【公開番号】P2023061226
(43)【公開日】2023-05-01
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】永島 哲之
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕明
(72)【発明者】
【氏名】中村 信秀
(72)【発明者】
【氏名】木本 智美
(72)【発明者】
【氏名】土肥 かおり
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-265696(JP,A)
【文献】特開2021-025288(JP,A)
【文献】特開2008-082135(JP,A)
【文献】特開2012-052293(JP,A)
【文献】特開2020-204169(JP,A)
【文献】特開2009-162033(JP,A)
【文献】特開2017-008670(JP,A)
【文献】特開2020-016086(JP,A)
【文献】特開2021-088895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00 - 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁において既設コンクリート床版の鋼桁近傍部位を略水平方向に切断して、前記既設コンクリート床版を前記鋼桁から分離させる分離工程と、
前記分離工程で分離した前記既設コンクリート床版を撤去して新たなコンクリート床版に交換する交換工程と、
前記分離工程を行ってから前記交換工程を開始するまでの間に、前記分離工程で分離された前記既設コンクリート床版と前記鋼桁とを連結する連結工程と、
を備え、
前記連結工程では、前記既設コンクリート床版と前記鋼桁とは連続繊維で連結し、前記連続繊維は前記鋼桁に接着により取り付けることを特徴とするコンクリート床版取り替え工法。
【請求項2】
前記連結工程は、前記分離工程で形成された前記既設コンクリート床版の切断面と、前記鋼桁の上フランジ上面との間の隙間に鉛直荷重伝達部材を配置する鉛直荷重伝達部材配置工程を備えることを特徴とする請求項に記載のコンクリート床版取り替え工法。
【請求項3】
前記鉛直荷重伝達部材はグラウト材で構成されていることを特徴とする請求項に記載のコンクリート床版取り替え工法。
【請求項4】
前記交換工程は、前記連結工程で行った前記既設コンクリート床版と前記鋼桁との連結を分断する分断工程を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のコンクリート床版取り替え工法。
【請求項5】
前記分断工程は、前記連結工程で前記鋼桁に接着された前記連続繊維を前記既設コンクリート床版または前記鋼桁から剥離させる工程であることを特徴とする請求項に記載のコンクリート床版取り替え工法。
【請求項6】
前記分断工程は、前記連結工程で連結した前記連続繊維を切断する工程であることを特徴とする請求項に記載のコンクリート床版取り替え工法。
【請求項7】
前記分離工程および前記連結工程は、前記橋梁の橋軸方向に所定の距離ずつ交互に実施していくことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のコンクリート床版取り替え工法。
【請求項8】
前記橋梁の一の部位で前記分離工程を実施するのと同時に、前記一の部位と前記橋梁の橋軸方向に隣接する前記橋梁の他の部位で前記連結工程を実施していくことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のコンクリート床版取り替え工法。
【請求項9】
前記連結工程後、前記交換工程前に、前記分離工程で分離した前記既設コンクリート床版上に車両を通行させる通行工程を備えることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のコンクリート床版取り替え工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は橋梁構造物およびコンクリート床版取り替え工法に関し、既設コンクリート床版を取り替える際に好適に使用可能な、橋梁構造物およびコンクリート床版取り替え工法に関する。本発明に係る橋梁構造物は、コンクリート床版を鋼桁に連結する構造を備えている。
【背景技術】
【0002】
橋梁の床版は、橋梁を通行する車両等の荷重を直接的に支持する部材であり、橋梁の高齢化に伴う経年劣化等によりその損傷が問題となっており、既設コンクリート床版を新設の床版に取り替える事例が増加している。
【0003】
一方、既設コンクリート床版を取り替える際には橋面を一時交通規制する必要があり交通に影響を与えるため、交通規制期間の短縮が課題となっており、中でも主桁の上フランジに頭付きスタッド等のずれ止めが配置されて主桁の上フランジと既設コンクリート床版が接合している合成桁橋では、主桁と既設コンクリート床版を容易に剥離させることが困難で既設コンクリート床版の撤去に手間がかかるため、既設コンクリート床版を新設の床版に取り替える工事において、交通規制期間を短くすることを難しくしている。
【0004】
これに対し、 特許文献1には、橋梁のコンクリート床版と鋼製の主桁との接合部を切断して該接合部に生じた隙間に空間保持材を設け、前記コンクリート床版にはあと施工アンカーを設け、前記主桁には締結材を設け、分離された前記コンクリート床版と前記主桁とを、前記あと施工アンカー及び前記締結材を介して合成治具により結合することにより、分離した鋼製の主桁とコンクリート床版とを再合成化する技術が記載されており、この技術によれば、接合部を切断する作業を実施しながら、その後方で分離したコンクリート床版と主桁の合成化構造を形成できることから、コンクリート床版を主桁から切断分離したのち撤去するまでの間に、橋梁上で交通解放期間を確保することが可能になる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-25288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、鋼主桁に締結材を溶接または機械的な接合で固着する必要がある。溶接の場合には鋼主桁に溶接熱を加えて母材を一部溶かすため鋼主桁に損傷を与えることになり、また、機械的な接合の場合には鋼主桁のウェブに貫通孔を設けるためやはり鋼主桁に損傷を与えることになる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、橋梁のコンクリート床版と鋼桁とを切断分離した後であっても、鋼桁に損傷を与えることなく両者を連結することにより、鋼桁から切断分離されたコンクリート床版を用いた供用を一定の期間可能にした橋梁構造物およびコンクリート床版取り替え工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記課題を解決する発明であり、以下のような橋梁構造物およびコンクリート床版取り替え工法である。
【0009】
即ち、本発明に係る橋梁構造物の一態様は、コンクリート床版と、前記コンクリート床版を下方から支持する鋼桁と、前記コンクリート床版を前記鋼桁に対して連結する連続繊維と、を有する橋梁構造物であって、前記連続繊維は、前記鋼桁に対して接着により取り付けられていることを特徴とする橋梁構造物である。
【0010】
ここで、「前記連続繊維は、前記鋼桁に対して接着により取り付けられている」とは、前記連続繊維は、前記鋼桁に対して接着のみにより連結固定されていることを意味し、前記連続繊維は、他の取り付け態様(例えば、ボルト接合等の機械的な接合や溶接接合等)で前記鋼桁に連結固定されている部位はないことを意味する。
【0011】
前記連続繊維は、前記鋼桁の上フランジの下面に接着により取り付けられていてもよい。
【0012】
前記連続繊維は、前記コンクリート床版に接着により取り付けられていてもよい。
【0013】
前記連続繊維は、前記コンクリート床版にアンカーで固定されていてもよい。
【0014】
前記コンクリート床版下面の一部は、ワイヤーソー又はウォールソーによって切断された切断面で形成されてもよい。
【0015】
前記コンクリート床版下面と前記鋼桁の上フランジとの間の隙間には、前記コンクリート床版から前記鋼桁に鉛直荷重を伝達する鉛直荷重伝達部材が配置されていてもよい。
【0016】
前記鉛直荷重伝達部材はグラウト材で構成されていてもよい。
【0017】
前記連続繊維は、その長手方向が略一定の方向となるように引き並べられてシート状部材になっていてもよい。
【0018】
前記連続繊維は、織物状に織られてシート状部材になっていてもよい。
【0019】
前記シート状部材は、前記鋼桁の長手方向に詰めて隙間を空けずに配置されていてもよい。
【0020】
前記シート状部材は、前記鋼桁の長手方向に所定の幅を有しており、所定の幅を有する前記シート状部材同士は、前記鋼桁の長手方向に所定の間隔を空けて配置されている、ように構成されていてもよい。
【0021】
前記連続繊維は、長手方向中央部は束ねられて棒状になっており、長手方向両端部は束ねられておらず扇形状に開繊可能な開繊部位になっており、前記連続繊維の前記長手方向両端部の前記開繊部位それぞれは、前記コンクリート床版と前記鋼桁に接着により取り付けられている、ように構成されていてもよい。
【0022】
前記連続繊維は、炭素繊維、アラミド繊維およびガラス繊維のうちの少なくともいずれかであってもよい。
【0023】
前記連続繊維はアラミド繊維であり、該アラミド繊維は、長手方向の少なくとも一部の範囲において樹脂が含浸されておらず、長手方向両端部それぞれは、前記コンクリート床版と前記鋼桁に接着により取り付けられている、ように構成されていてもよい。
【0024】
前記連続繊維の接着には、エポキシ樹脂系接着剤またはアクリル樹脂系接着剤が用いられていてもよい。
【0025】
本発明に係るコンクリート床版取り替え工法の一態様は、橋梁において既設コンクリート床版の鋼桁近傍部位を略水平方向に切断して、前記既設コンクリート床版を前記鋼桁から分離させる分離工程と、前記分離工程で分離した前記既設コンクリート床版を撤去して新たなコンクリート床版に交換する交換工程と、前記分離工程を行ってから前記交換工程を開始するまでの間に、前記分離工程で分離された前記既設コンクリート床版と前記鋼桁とを連結する連結工程と、を備え、前記連結工程では、前記既設コンクリート床版と前記鋼桁とは連続繊維で連結し、前記連続繊維は前記鋼桁に接着により取り付けることを特徴とするコンクリート床版取り替え工法である。
【0026】
前記連結工程は、前記分離工程で形成された前記既設コンクリート床版の切断面と、前記鋼桁の上フランジ上面との間の隙間に鉛直荷重伝達部材を配置する鉛直荷重伝達部材配置工程を備えていてもよい。
【0027】
前記鉛直荷重伝達部材はグラウト材で構成されていてもよい。
【0028】
前記交換工程は、前記連結工程で行った前記既設コンクリート床版と前記鋼桁との連結を分断する分断工程を含んでいてもよい。
【0029】
前記分断工程は、前記連結工程で前記鋼桁に接着された前記連続繊維を前記既設コンクリート床版または前記鋼桁から剥離させる工程であってもよい。
【0030】
前記分断工程は、前記連結工程で連結した前記連続繊維を切断する工程であってもよい。
【0031】
前記分離工程および前記連結工程は、前記橋梁の橋軸方向に所定の距離ずつ交互に実施してもよい。
【0032】
前記橋梁の一の部位で前記分離工程を実施するのと同時に、前記一の部位と前記橋梁の橋軸方向に隣接する前記橋梁の他の部位で前記連結工程を実施してもよい。
【0033】
ここで、「前記一の部位と前記橋梁の橋軸方向に隣接する前記橋梁の他の部位」とは、前記橋梁の前記一の部位における前記分離工程の実施に影響を与えない程度に、前記一の部位から前記橋梁の橋軸方向に一定の距離だけ離れた部位のことである。
【0034】
前記連結工程後、前記交換工程前に、前記分離工程で分離した前記既設コンクリート床版上に車両を通行させる通行工程を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、橋梁のコンクリート床版と鋼桁とを切断分離した後であっても、鋼桁に損傷を与えることなく両者を連結することにより、鋼桁から切断分離されたコンクリート床版を用いた供用を一定の期間可能にした橋梁構造物およびコンクリート床版取り替え工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の第1実施形態に係る橋梁構造物10を橋軸方向から見た鉛直断面図
図2】本発明の第1実施形態に係る橋梁構造物10を下方から見た水平断面図(図1のII-II線断面図)
図3】本発明の第2実施形態に係る橋梁構造物20を橋軸方向から見た鉛直断面図
図4】本発明の第3実施形態に係る橋梁構造物30を下方から見た水平断面図(図1のII-II線断面と同様の位置の断面を下方から見た水平断面図)
図5】本発明の第4実施形態に係る橋梁構造物40を下方から見た水平断面図(図1のII-II線断面と同様の位置の断面を下方から見た水平断面図)
図6】本発明の第5実施形態に係る橋梁構造物50を橋軸方向から見た鉛直断面図
図7】本発明の第6実施形態に係る橋梁構造物60を下方から見た水平断面図(図1のII-II線断面と同様の位置の断面を下方から見た水平断面図)
図8】連続繊維定着部材62を模式的に示す拡大平面図
図9】本発明の第6実施形態に係る橋梁構造物60を橋軸方向から見た鉛直断面図
図10】本発明の第7実施形態に係る橋梁構造物70を下方から見た水平断面図(図1のII-II線断面と同様の位置の断面を下方から見た水平断面図)
図11】第1実施形態に係る橋梁構造物10を用いたコンクリート床版取り替え工法の適用対象である橋梁100の橋軸直角方向の鉛直断面図
図12】ワイヤーソー200を設置した状態における橋梁100の橋軸直角方向の鉛直断面図
図13】鋼主桁102の上フランジ102A上方の切断部位の切断中の鉛直断面図
図14】鋼主桁102の上フランジ102A上方の切断部位の切断終了後の鉛直断面図
図15】固定工程終了後の状態における橋梁100の橋軸直角方向の鉛直断面図
図16】固定工程終了後の分離既設コンクリート床版104をジャッキアップした状態における、鋼主桁102の上フランジ102A上方部位の橋軸直角方向の鉛直断面図
図17】固定工程終了後の分離既設コンクリート床版104をジャッキアップした状態における、鋼主桁102の上フランジ102A上方部位の橋軸直角方向の鉛直断面図(アンカー止め機構22による連続繊維シート12の定着を行っていた場合)
図18】新設コンクリート床版150に取り替えた後の状態における、鋼主桁102の上フランジ102A上方部位の橋軸直角方向の鉛直断面図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明の実施形態の適用対象とする橋梁100は、鋼主桁の断面形状がI形である鈑桁橋であるが、本発明に係る橋梁構造物およびコンクリート床版取り替え工法の適用対象が、鈑桁橋に限定されるわけではなく、鋼製の桁を有する橋梁であれば適用可能であり、例えば鋼製の箱桁橋等にも適用可能である。
【0038】
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る橋梁構造物10を橋軸方向から見た鉛直断面図であり、図2は、本発明の第1実施形態に係る橋梁構造物10を下方から見た水平断面図(図1のII-II線断面図)である。図2の水平断面図では、既設コンクリート床版104のハンチ部起端104Aを2点鎖線で記載している(他の実施形態を示す図4図5図7図10においても同様である。)。また、図2では、既設コンクリート床版104の撤去時に既設コンクリート床版104を橋軸直角方向に切断をする箇所を破線で記載しており、撤去する際の既設コンクリート床版104の橋軸方向切断長さをaとして記載している(他の実施形態を示す図4図5図7図10においても同様である。)。撤去する際の既設コンクリート床版104の橋軸方向切断長さaは通常2m程度である。
【0039】
本第1実施形態に係る橋梁構造物10は、連続繊維シート12を有してなる橋梁構造物であり、既設コンクリート床版104の鋼主桁102近傍部位が略水平方向に切断されて、鋼主桁102から分離された分離既設コンクリート床版104を、連続繊維シート12により鋼主桁102に連結してなる橋梁構造物である。なお、本明細書においては、橋梁100の既設コンクリート床版に参照符号104を用いるが、既設コンクリート床版104の鋼主桁102近傍部位が略水平方向に切断されて、鋼主桁102から分離された後の状態のものについては「分離」という文言を付して「分離既設コンクリート床版104」と記すことがある。
【0040】
連続繊維シート12は、力学的な特性に優れた連続繊維がその長手方向が略一定の方向となるように引き並べられてシート状にされた部材である。連続繊維シート12は、樹脂系の接着剤によって、鋼主桁102の上フランジ102Aの下面と分離既設コンクリート床版104の下面を架け渡すように両者に接着されており、連続繊維シート12を介した接着により、鋼主桁102と分離既設コンクリート床版104とは連結されている。連続繊維シート12の接着には、具体的には例えば、エポキシ樹脂系接着剤またはアクリル樹脂系接着剤を用いることができる。
【0041】
鋼主桁102から分離された分離既設コンクリート床版104を鋼主桁102に連結して、分離既設コンクリート床版104を車両の通行に安全に供用可能にできる連続繊維であれば、連続繊維シート12の連続繊維として使用可能である(ただし、当該連続繊維と鋼主桁102との連結は接着による)。連続繊維シート12の繊維として使用可能な連続繊維としては、具体的には例えば、炭素繊維、アラミド繊維、およびガラス繊維等を挙げることができる。
【0042】
連続繊維シート12を構成する連続繊維は、下方から見て鋼主桁102の長手方向に対して所定の角度で交差するように配置されており、本第1実施形態に係る橋梁構造物10では、下方から見て鋼主桁102の長手方向に対して略90°の角度で交差するように配置されている。また、本第1実施形態に係る橋梁構造物10では、連続繊維シート12は、図2に示すように、鋼主桁102の長手方向に詰めて隙間を空けずに配置されている。ここで、鋼主桁102の長手方向とは、鋼主桁102の延びる方向のことであり、通常の場合、橋梁100の橋軸方向と一致する。
【0043】
鋼主桁102の上フランジ102Aの下面と連続繊維シート12との接着長さ12A(鋼主桁102の長手方向と直交する方向の接着長さ(図1参照))は、標準的には10~20cm程度であり、最低でも10cmを確保するようにする。通常は、連続繊維シート12を、鋼主桁102のウェブ102Bの際まで上フランジ102Aの下面に貼り付ける。
【0044】
また、分離既設コンクリート床版104の下面と連続繊維シート12との接着長さ12B(鋼主桁102の長手方向と直交する方向の接着長さ(図1参照))は、標準的には20~40cm程度であり、最低でも10cmを確保するようにする。通常は、連続繊維シート12を、分離既設コンクリート床版104の下面のハンチ部起端104Aまたはその近傍付近まで、分離既設コンクリート床版104の下面に貼り付ける。
【0045】
そして、鋼主桁102の上フランジ102Aの下面と分離既設コンクリート床版104の下面を架け渡すように貼り付けた連続繊維シート12によって、供用する上で考慮する必要のある荷重、例えば地震時水平荷重、壁高欄衝突荷重(橋軸直角方向の外力)および車両制動荷重(橋軸方向の外力)等に抵抗できることを照査により確認する。また、主桁と床版の合成作用を確保する場合には、主桁と床版の合成に必要な力に抵抗できることを照査により確認する。
【0046】
既設コンクリート床版104の鋼主桁102近傍部位を略水平方向に切断する方法は、特には限定されないが、通常、ワイヤーソーまたはウォールソーによって略水平方向に切断する。本第1実施形態においては、ワイヤーソーによって、既設コンクリート床版104の鋼主桁102近傍部位を略水平方向に切断するものとして説明する。
【0047】
ワイヤーソー200(図12参照)の切断用ワイヤー202(図13参照)の外径は10~20mm程度であり、また、鋼主桁102を傷つけないように切断するため、通常、鋼主桁102の上フランジ102Aの上面から20~50mm程度上の位置を狙って切断用ワイヤー202で切断する。このため、鋼主桁102の上フランジ102Aの上面には10~40mm程度の厚さの残存コンクリート104Xが上フランジ102Aの上面に残るとともに、鋼主桁102の上フランジ102Aの上方には分離既設コンクリート床版104の下面との間に水平隙間104Y(図2図14参照)が生じる。
【0048】
水平隙間104Yには鉛直荷重伝達部材14を配置する。鉛直荷重伝達部材14は、分離既設コンクリート床版104等の自重および車両通行荷重を鋼主桁102に伝達する役割を有する。このような役割を果たすことができる機能を有する部材であれば鉛直荷重伝達部材14として用いることができる。具体的には例えば、鉛直荷重伝達部材14としては鋼板等の板状部材等を用いることができ、また、グラウト材を充填して鉛直荷重伝達部材14を形成するようにしてもよい。グラウト材としては、セメント系グラウト材(セメントミルクやモルタル等)やエポキシ系接着剤等を用いることができる。グラウト材を充填して鉛直荷重伝達部材14を形成した場合には、鉛直方向下向きの荷重だけでなく、水平方向の荷重や鉛直方向上向きの荷重もある程度伝達することが期待できるようになる点で好ましい。
【0049】
なお、鋼主桁102の上フランジ102Aの上面に頭付きスタッド106(図13参照)等のずれ止めが設けられていて合成桁が構成されている場合であっても、ワイヤーソー200の切断用ワイヤー202によって、頭付きスタッド106等のずれ止めも同時に切断することができる。
【0050】
鋼主桁102の上フランジ102Aの下面と分離既設コンクリート床版104の下面との間には最大で100mm程度の段差が生じるので、図1に示すように、その段差を埋める段差緩衝部材16を配置する。段差緩衝部材16は、連続繊維シート12を接着する接着剤が硬化するまでの一時的な形状保持をできる機能を有していればよく、具体的には例えば、面木や発泡スチロール等を用いることができる。また、パテやコーキング材を用いて段差を埋めて段差緩衝部材16を形成するようにしてもよい。
【0051】
(2)第2実施形態
図3は、本発明の第2実施形態に係る橋梁構造物20を橋軸方向から見た鉛直断面図である。
【0052】
第1実施形態に係る橋梁構造物10においては、連続繊維シート12を、鋼主桁102の上フランジ102Aの下面および分離既設コンクリート床版104の下面のどちらに対しても樹脂系の接着剤によって接着しており、接着剤による接着のみで連続繊維シート12を介して、鋼主桁102の上フランジ102Aの下面と分離既設コンクリート床版104の下面とを連結していたが、本第2実施形態に係る橋梁構造物20では、連続繊維シート12の分離既設コンクリート床版104側の端部を、アンカー止め機構22(あと施工アンカー24、ナット24AおよびL形鋼26)により分離既設コンクリート床版104に固定した実施形態である。それ以外の点は、第1実施形態に係る橋梁構造物10と同様であるので、第1実施形態に係る橋梁構造物10と同様の構成要素には同一の符号を付して、説明は原則として省略する。
【0053】
本第2実施形態に係る橋梁構造物20では、図3に示すように、連続繊維シート12の分離既設コンクリート床版104側の端部付近の位置を、アンカー止め機構22により、分離既設コンクリート床版104の下面に固定している。
【0054】
アンカー止め機構22は、あと施工アンカー24、ナット24AおよびL形鋼26を有してなる。アンカー止め機構22による連続繊維シート12の定着は、具体的には次のようにして行う。まず、連続繊維シート12の分離既設コンクリート床版104側の端部付近の位置において、あと施工アンカー24を分離既設コンクリート床版104の下面に取り付ける。そして、L形鋼26の図示せぬ貫通孔をあと施工アンカー24の軸部に外挿させつつL形鋼26を下方から連続繊維シート12に押し当てた状態で、あと施工アンカー24に螺合させたナット24Aを締め込むことで、連続繊維シート12を分離既設コンクリート床版104の下面にL形鋼26で押し付けて、連続繊維シート12の分離既設コンクリート床版104への固定を行う。なお、アンカー止め機構22による連続繊維シート12の定着においては、L形鋼26を取り付ける前に、連続繊維シート12を樹脂系接着剤で分離既設コンクリート床版104の下面に接着させて、その状態でL形鋼26を下方から連続繊維シート12に押し当てて取り付ける。
【0055】
連続繊維シート12の鋼主桁102の上フランジ102Aの下面への固定は、本第2実施形態に係る橋梁構造物20においても、第1実施形態に係る橋梁構造物10と同様に、接着剤による接着で行っている。
【0056】
第1実施形態に係る橋梁構造物10においては、連続繊維シート12の分離既設コンクリート床版104への固定も接着剤による接着で行っていたが、接着剤による接着のみでは、連続繊維シート12の分離既設コンクリート床版104への固定が十分に行えない場合等においても、本第2実施形態に係る橋梁構造物20では、アンカー止め機構22を用いることで十分な固定を図ることができる。
【0057】
あと施工アンカー24には、接着系アンカーおよび金属系アンカーのどちらも使用可能である。あと施工アンカー24は、連続繊維シート12の取り付け範囲に応じて、鋼主桁102の長手方向に沿って複数本配置する。あと施工アンカー24の配置ピッチ、径および埋め込み深さは、想定される外力等に応じて適宜に設計で定めればよい。
【0058】
L形鋼26は、連続繊維シート12の分離既設コンクリート床版104側の端部に、鋼主桁102の長手方向に沿って、原則として連続繊維シート12の全配置領域に取り付ける。L形鋼26の断面形状(幅、高さ、厚さ)は、想定される外力等に応じて適宜に設計で定めればよい。また、本第2実施形態に係る橋梁構造物20では、アンカー止めに用いる鋼材としてL形鋼26を用いたが、アンカー止めに使用可能な鋼材はL形鋼に限定されるわけではなく、フラットバー等の鋼材をアンカー止めに用いてもよい。
【0059】
(3)第3実施形態
図4は、本発明の第3実施形態に係る橋梁構造物30を下方から見た水平断面図(図1のII-II線断面と同様の位置の断面を下方から見た水平断面図)である。
【0060】
第1実施形態に係る橋梁構造物10においては、連続繊維シート12は、鋼主桁102の長手方向に詰めて隙間を空けずに配置されていたが、本第3実施形態に係る橋梁構造物30では、所定の幅を有する連続繊維シート32同士は、鋼主桁102の長手方向に所定の間隔を空けて離散的に配置されている。それ以外の点は、第1実施形態に係る橋梁構造物10と同様であるので、それ以外の点についての説明は、原則として、第1実施形態に係る橋梁構造物10についての説明をもってその説明に替えることとする。
【0061】
本第3実施形態に係る橋梁構造物30は、所定の幅を有する連続繊維シート32同士が、鋼主桁102の長手方向に所定の間隔を空けて離散的に配置されている実施形態であり、設計計算の結果、連続繊維シート12を鋼主桁102の長手方向に詰めずに隙間を空けて配置しても安全が確保できる場合等に採用することが考えられる実施形態である。
【0062】
本第3実施形態に係る橋梁構造物30においても、第2実施形態に係る橋梁構造物20のアンカー止め機構22と同様のアンカー止め機構を用いて、連続繊維シート32の分離既設コンクリート床版104側の端部付近の位置を、分離既設コンクリート床版104の下面に固定することもできる。
【0063】
なお、本第3実施形態に係る橋梁構造物30においても、連続繊維シート32を構成する連続繊維は、下方から見て鋼主桁102の長手方向に対して略90°の角度で交差するように配置されており、この点も、第1実施形態に係る橋梁構造物10と同様である。
【0064】
(4)第4実施形態
図5は、本発明の第4実施形態に係る橋梁構造物40を下方から見た水平断面図(図1のII-II線断面と同様の位置の断面を下方から見た水平断面図)である。
【0065】
第3実施形態に係る橋梁構造物30では、所定の幅を有する連続繊維シート32同士は、鋼主桁102の長手方向に所定の間隔を空けて離散的に配置されており、かつ、連続繊維シート32を構成する連続繊維は、下方から見て鋼主桁102の長手方向に対して略90°の角度で交差するように配置されていたが、本第4実施形態に係る橋梁構造物40では、所定の幅(第3実施形態に係る橋梁構造物30の連続繊維シート32よりも狭い幅)を有する連続繊維シート42同士が、鋼主桁102の長手方向に所定の間隔を空けて離散的に配置されており、かつ、連続繊維シート42を構成する連続繊維は、下方から見て鋼主桁102の長手方向に対して略±45°の角度で交差するように配置されている。それ以外の点は、第3実施形態に係る橋梁構造物30と同様であるので、それ以外の点についての説明は、原則として、第3実施形態に係る橋梁構造物30についての説明をもってその説明に替えることとする。
【0066】
本第4実施形態に係る橋梁構造物40では、連続繊維シート42を構成する連続繊維は、下方から見て鋼主桁102の長手方向に対して略±45°の角度で交差するように配置されているので、下方から見て鋼主桁102の長手方向に対して略90°の角度で交差するように配置した場合と比べて、幅の狭い連続繊維シートで構成することができる。
【0067】
(5)第5実施形態
図6は、本発明の第5実施形態に係る橋梁構造物50を橋軸方向から見た鉛直断面図である。
【0068】
第1実施形態に係る橋梁構造物10においては、鋼主桁102の上フランジ102Aの下面と分離既設コンクリート床版104の下面との間の段差部には、その段差を埋める段差緩衝部材16を配置していたが、本第5実施形態に係る橋梁構造物50では、段差緩衝部材16を配置しておらず、鋼主桁102の上フランジ102Aの下面と分離既設コンクリート床版104の下面との間に段差がそのまま残っている。
【0069】
本第5実施形態に係る橋梁構造物50の連続繊維シート52はアラミド繊維で構成されている。アラミド繊維は、靭性および柔軟性に優れる高強度繊維であり、樹脂等と複合化しなくても、単独で安定した力学的特性を発現する。また、樹脂含浸後の連続繊維シートは樹脂の硬化により形状を変化させることが困難であるが、樹脂含浸を行う前の連続繊維シートは柔軟であり、形状を容易に変形させることができる。このため、連続繊維シートの折れ点である52Dのみ樹脂を含浸させず、その他の部位である52A、52B、52Cには樹脂を含浸硬化させ、複合化させた連続繊維シート部材として施工箇所に持込み、鋼主桁102の上フランジ102Aの下面との接着部位52A、および分離既設コンクリート床版104の下面との接着部位52Bのみを樹脂で接着すれば、中央部52Cは段差緩衝材等に接着させなくても、アラミド繊維で構成されている連続繊維シート52は十分な力学的特性を発現して、分離既設コンクリート床版104を鋼主桁102に連結することができるので、本第5実施形態に係る橋梁構造物50においては段差緩衝部材16を省略することが可能となっている。
【0070】
以上説明した点以外は、本第5実施形態に係る橋梁構造物50は、第1実施形態に係る橋梁構造物10と同様であるので、以上説明した点以外についての説明は、第1実施形態に係る橋梁構造物10についての説明をもってその説明に替えることとする。
【0071】
(6)第6実施形態
図7は、本発明の第6実施形態に係る橋梁構造物60を下方から見た水平断面図(図1のII-II線断面と同様の位置の断面を下方から見た水平断面図)であり、図8は、連続繊維定着部材62を模式的に示す拡大平面図であり、図9は、本発明の第6実施形態に係る橋梁構造物60を橋軸方向から見た鉛直断面図である。
【0072】
第1~5実施形態に係る橋梁構造物10、20、30、40、50においては、分離既設コンクリート床版104を鋼主桁102に連結する連続繊維は連続繊維シートを構成しており、シート状の部材を構成していたが、本第6実施形態に係る橋梁構造物60においては、分離既設コンクリート床版104を鋼主桁102に連結する連続繊維は、図8に模式的に示すような連続繊維定着部材62を構成している。そして、本第6実施形態に係る橋梁構造物60においては、連続繊維定着部材62の軸部62Bが、下方から見て鋼主桁102の長手方向に対して略90°の角度で交差するように配置しており、また、連続繊維定着部材62を橋軸方向に所定の間隔を空けて離散的に配置している。この点およびこれに関連した点以外の構成については、第1実施形態に係る橋梁構造物10の構成と同様であるので、対応する構成については同一の符号を付して原則として説明は省略する。
【0073】
連続繊維定着部材62は、両端部の開繊部62Aと、中央部の軸部62Bと、を有してなる。開繊部62Aは連続繊維が束ねられておらず、扇形状に開繊させることができるようになっており、中央部の軸部62Bは連続繊維が束ねられて樹脂が含浸硬化していて棒状になっている。
【0074】
本第6実施形態に係る橋梁構造物60においては、図7および図9に示すように、連続繊維定着部材62の両端部の開繊部62Aが、それぞれ鋼主桁102の上フランジ102Aの下面および分離既設コンクリート床版104の下面に接着で取り付けられており、中央部の軸部62Bは、鋼主桁102の上フランジ102Aの下面と分離既設コンクリート床版104の下面との間の段差部に配置されている。連続繊維定着部材62の中央部の軸部62Bは樹脂が含浸硬化していてすでに繊維強化複合材料の状態になっているので、その状態で十分な力学的特性を発現する。このため、鋼主桁102の上フランジ102Aの下面との接着部位である一方の開繊部62A、および分離既設コンクリート床版104の下面との接着部位である他方の開繊部62Aのみを樹脂で接着すれば、分離既設コンクリート床版104を鋼主桁102に連結することができるので、本第6実施形態に係る橋梁構造物60においては段差緩衝部材16を省略することが可能となっている。
【0075】
連続繊維定着部材62に使用可能な連続繊維としては、具体的には例えば、炭素繊維、アラミド繊維、およびガラス繊維等を挙げることができる。
【0076】
また、連続繊維定着部材62の両端部の開繊部62Aの接着には、具体的には例えば、エポキシ樹脂系接着剤またはアクリル樹脂系接着剤を用いることができる。
【0077】
また、本第6実施形態に係る橋梁構造物60においても、第2実施形態に係る橋梁構造物20のアンカー止め機構22と同様のアンカー止め機構を用いて、連続繊維定着部材62の分離既設コンクリート床版104側の開繊部62Aを、分離既設コンクリート床版104の下面に固定することもできる。
【0078】
(7)第7実施形態
図10は、本発明の第7実施形態に係る橋梁構造物70を下方から見た水平断面図(図1のII-II線断面と同様の位置の断面を下方から見た水平断面図)である。
【0079】
第6実施形態に係る橋梁構造物60では、連続繊維定着部材62同士は、鋼主桁102の長手方向に所定の間隔を空けて離散的に配置されており、かつ、連続繊維定着部材62の軸部62Bは、下方から見て鋼主桁102の長手方向に対して略90°の角度で交差するように配置されていたが、本第7実施形態に係る橋梁構造物70では、連続繊維定着部材62同士が、鋼主桁102の長手方向に所定の間隔を空けて離散的に配置されており、かつ、連続繊維定着部材62の軸部62Bは、下方から見て鋼主桁102の長手方向に対して略±45°の角度で交差するように配置されている。それ以外の点は、第6実施形態に係る橋梁構造物60と同様であるので、それ以外の点についての説明は、原則として、第6実施形態に係る橋梁構造物60についての説明をもってその説明に替えることとする。
【0080】
本第7実施形態に係る橋梁構造物70では、連続繊維定着部材62の軸部62Bは、下方から見て鋼主桁102の長手方向に対して略±45°の角度で交差するように配置されているので、下方から見て鋼主桁102の長手方向に対して略90°の角度で交差するように配置した場合と比べて、車両制動荷重等の橋軸方向の外力に強く抵抗できるようになっている。
【0081】
(8)コンクリート床版取り替え工法の施工手順
第1実施形態に係る橋梁構造物10を用いて、橋梁100の既設コンクリート床版104を新設コンクリート床版150に取り替える工法の施工手順を、図11図18を参照しつつ説明する。
【0082】
図11は、第1実施形態に係る橋梁構造物10を用いたコンクリート床版取り替え工法の適用対象である橋梁100の橋軸直角方向の鉛直断面図である。図11に示すように、橋梁100は鋼主桁102を4つ有する鈑桁橋である。鋼主桁102の上フランジ102Aの上面には頭付きスタッド106が設けられており、合成桁構造になっているが、本工法は非合成桁構造に対しても同様に適用可能である。
【0083】
(ステップS1(分離工程))
図12はワイヤーソー200を設置した状態における橋梁100の橋軸直角方向の鉛直断面図であり、図13は鋼主桁102の上フランジ102A上方の切断部位の切断中の鉛直断面図であり、図14は鋼主桁102の上フランジ102A上方の切断部位の切断終了後の鉛直断面図である。なお、図13ではワイヤーソー200の本体部の記載は省略し、切断用ワイヤー202のみを記載している。
【0084】
図12に示すように、ワイヤーソー200を既設コンクリート床版104の下方に設置して、既設コンクリート床版104のハンチ部の鋼主桁102近傍部位を略水平方向に切断する。ワイヤーソー200の切断用ワイヤー202の径は10~20mm程度であり、また、鋼主桁102を傷つけないように切断するため、通常、鋼主桁102の上フランジ102Aの上面から20~50mm程度上の位置を狙って切断用ワイヤー202で切断する。このため、鋼主桁102の上フランジ102Aの上面には10~40mm程度の厚さの残存コンクリート104Xが上フランジ102Aの上面に残るとともに、鋼主桁102の上フランジ102Aの上方には分離既設コンクリート床版104の下面との間に水平隙間104Y(図2図14参照)が生じる。
【0085】
このステップS1(分離工程)における作業は、既設コンクリート床版104の下方での作業であり、この既設コンクリート床版104の上方の橋面を車両通行に供用したままの状態でステップS1(分離工程)における作業を行うことができる。
【0086】
(ステップS2(固定工程))
図15は固定工程終了後の状態における橋梁100の橋軸直角方向の鉛直断面図である。
【0087】
ステップS1(分離工程)で生じた水平隙間104Yには、鉛直荷重伝達部材14として鋼板等のスペーサを挿入して、分離既設コンクリート床版104の上方の橋面を車両が通行しても、この分離既設コンクリート床版104に過大な曲げモーメントが生じないようにする。鉛直荷重伝達部材としての鋼板等のスペーサの挿入は、水平隙間104Yの橋軸方向の長さが一定の長さになる都度行うのがよい。
【0088】
水平隙間104Yに鉛直荷重伝達部材として鋼板等のスペーサを挿入することに替えて、水平隙間104Yにグラウト材を充填して鉛直荷重伝達部材14を形成してもよい。この場合には、鉛直方向下向きの荷重だけでなく、水平方向の荷重や鉛直方向上向きの荷重もある程度伝達することが期待できるようになる点で好ましい。
【0089】
水平隙間104Yに鉛直荷重伝達部材14を設け、さらに、鋼主桁102の上フランジ102Aの下面と分離既設コンクリート床版104の下面との間の段差部に段差緩衝部材16を配置した後、連続繊維シート12を、樹脂系の接着剤によって、鋼主桁102の上フランジ102Aの下面と分離既設コンクリート床版104の下面を架け渡すように両者に接着して、鋼主桁102と分離既設コンクリート床版104とを連結する。連続繊維シート12は、その連続繊維が鋼主桁102の長手方向に対して略90°の角度で交差するように配置する。
【0090】
連続繊維シート12の取り付けに際しては、まずディスクサンダー等で鋼主桁102の接着面(上フランジ102Aの下面)の塗装を剥がす。また、分離既設コンクリート床版104の下面の接着面もディスクサンダー等で汚れ等を落とす。そして、両方の接着面にプライマーを塗布して乾燥させた後、樹脂系接着材を塗布して連続繊維シート12を接着させる。接着させた連続繊維シート12の表面にも樹脂系接着材を塗布して、連続繊維シート12の全断面を複合材料化する。
【0091】
鉛直荷重伝達部材14だけでは、橋軸直角方向の外力である地震時水平力、壁高欄衝突荷重および橋軸方向の外力である車両制動荷重等に対応することは困難なので、連続繊維シート12で固定されていない領域の水平隙間104Yの橋軸方向の長さが一定以上の長さにならないように、ステップS1(分離工程)およびステップS2(固定工程)は、橋梁100の橋軸方向に所定の距離ずつ交互に実施していくのがよい。あるいは、ステップS2(固定工程)を、ステップS1(分離工程)の後追いの同時進行で行うのがよい。
【0092】
また、ステップS2(固定工程)においては、連続繊維シート12の分離既設コンクリート床版104側の端部付近の位置を、アンカー止め機構22(図3参照)により、分離既設コンクリート床版104の下面に固定してもよい。
【0093】
なお、取り替えの対象となる既設コンクリート床版104の上方の橋面の交通規制を行う場合は、交通規制を行った状態で橋軸方向に長い距離の切断(ワイヤーソー200による既設コンクリート床版104のハンチ部の鋼主桁102近傍部位の切断)(ステップS1の分離工程)を一気に行い、切断を行った範囲について橋梁構造物10の施工(ステップS2(固定工程))を行った後、交通規制を解除するという施工を行うことも可能である。
【0094】
(ステップS3(コンクリート床版取り替え工程))
図16および図17は、固定工程終了後の分離既設コンクリート床版104をジャッキアップした状態における、鋼主桁102の上フランジ102A上方部位の橋軸直角方向の鉛直断面図であり、図17はアンカー止め機構22による連続繊維シート12の定着を行っていた場合である。図18は、新設コンクリート床版150に取り替えた後の状態における、鋼主桁102の上フランジ102A上方部位の橋軸直角方向の鉛直断面図である。
【0095】
本ステップS3(コンクリート床版取り替え工程)では、ステップ2で固定された分離既設コンクリート床版104を撤去して新設コンクリート床版150に置き換えるため、交通規制を行わざるを得ないので、まず交通規制を行う。取り替え対象の分離既設コンクリート床版104が橋梁100の横断方向(橋軸直角方向)の全断面にわたっているときは、橋梁100の全車線を通行止めにする必要があるが、例えば取り替え対象の分離既設コンクリート床版104が橋梁100の横断方向(橋軸直角方向)の半断面(上下線のうちの一方のみ)の場合には、該当する車線のみを通行止めにして施工を行うことも可能である。
【0096】
必要な交通規制をした後、固定工程終了後の分離既設コンクリート床版104をジャッキアップする。ジャッキアップ自体は、コンクリート床版の取り替え工事において一般的に用いられている方法を採用することができる。分離既設コンクリート床版104の撤去をする際の具体的な方法としては、例えば、連続繊維シート12と分離既設コンクリート床版104の接着部を加熱(例えばアイロン等で100℃程度の熱を接着部分に加える)して連続繊維シート12を剥がした後に、ジャッキアップにより分離既設コンクリート床版104を撤去する方法(図16参照)と、連続繊維シート12と上フランジ102A下面の接着部を加熱(例えばアイロン等で100℃程度の熱を接着部分に加える)して連続繊維シート12を剥がした後に、ジャッキアップにより分離既設コンクリート床版104を撤去する方法と、連続繊維シート12をディスクグラインダー等の工具を用いて切断した後に分離既設コンクリート床版104をジャッキアップして分離既設コンクリート床版104を撤去する方法がある。アンカー止め機構22(図3参照)による連続繊維シート12の定着を行っていた場合には、あと施工アンカー24からナット24AとL形鋼26を撤去した後に連続繊維シート12を剥離または切断し、ジャッキアップを行い、図17に示すように分離既設コンクリート床版104をジャッキアップする。図17は、あと施工アンカー24からナット24AとL形鋼26を撤去した後に連続繊維シート12と分離既設コンクリート床版104の接着部を加熱して連続繊維シート12を剥がし、その後に、ジャッキアップにより分離既設コンクリート床版104を撤去している状況を示している。
【0097】
分離既設コンクリート床版104をジャッキアップして撤去した後、新設コンクリート床版150を設置する。新設コンクリート床版150の設置は、コンクリート床版の取り替え工事において一般的に用いられている方法を採用することができる。
【0098】
新設コンクリート床版150を設置した後、鋼主桁102の上フランジ102Aの下面に付着した連続繊維シート12や接着剤を撤去し、鋼主桁102の塗装を行う。より具体的に言えば、連続繊維シート12を撤去する際には、例えば、アイロン等で100℃程度の熱を接着部分に加え、連続繊維シート12を撤去し、残った接着剤をサンダー等で除去した後、鋼主桁102の塗装を行う。これらの作業は全て新設コンクリート床版150の下で行うため、車両通行に供用を再開した状態でも施工を行うことができる。
【0099】
(9)補足
以上説明した実施形態で用いた連続繊維シート12は、力学的な特性に優れた連続繊維が、その長手方向が略一定の方向となるように引き並べられてシート状にされた部材であったが、本発明においては、連続繊維が織物状に織られてシート状にされた部材を用いることもできる。
【符号の説明】
【0100】
10、20、30、40、50、60、70…橋梁構造物
12、32、42、52…連続繊維シート
12A…連続繊維シート12と上フランジ102A下面との接着長さ
12B…連続繊維シート12と既設コンクリート床版104下面との接着長さ
14…鉛直荷重伝達部材
16…段差緩衝部材
22…アンカー止め機構
24…あと施工アンカー
24A…ナット
26…L形鋼
52A…連続繊維シート52と上フランジ102A下面との接着部位
52B…連続繊維シート52と既設コンクリート床版104下面との接着部位
52C…中央部
52D…折れ点
62…連続繊維定着部材
62A…開繊部
62B…軸部
100…橋梁
102…鋼主桁
102A…上フランジ
102B…ウェブ
104…既設コンクリート床版、分離既設コンクリート床版
104A…ハンチ部起端
104X…残存コンクリート
104Y…水平隙間
106…頭付きスタッド
150…新設コンクリート床版
200…ワイヤーソー
202…切断用ワイヤー
a…橋軸方向切断長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18