(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20250218BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20250218BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20250218BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20250218BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20250218BHJP
C08C 19/22 20060101ALN20250218BHJP
【FI】
C08L21/00
B60C1/00 A
C08K3/04
C08K3/06
C08K3/36
C08C19/22
(21)【出願番号】P 2021567442
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2020047687
(87)【国際公開番号】W WO2021132160
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019238219
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】安田 理恵
(72)【発明者】
【氏名】松井 僚児
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107057136(CN,A)
【文献】特開2004-244635(JP,A)
【文献】特開2006-249189(JP,A)
【文献】特開2010-185053(JP,A)
【文献】特開2018-039867(JP,A)
【文献】特開2018-021145(JP,A)
【文献】特開2011-079912(JP,A)
【文献】特開平03-031339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 21/00
B60C 1/00
C08K 3/04
C08K 3/06
C08K 3/36
C08C 19/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン性官能基及び/又は陰イオン性官能基を含む官能基を有するゴム成分と、前記官能基と対となる電荷を発生させるフィラーと、硫黄とを含有し、
前記官能基が、陽イオン性官能基及び陰イオン性官能基を含み、
下記式を満たすゴム組成物。
フィラーの含有量/硫黄の含有
量≦40
【請求項2】
イミダゾール基及びハロゲン基を有するゴム成分と、前記イミダゾール基及び前記ハロゲン基からなる群より選択される少なくとも1つと対となる電荷を発生させるフィラーと、硫黄とを含有し、
前記ゴム成分は、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種であるゴム組成物。
【請求項3】
前記フィラーが、陽イオン性官能基及び/又は陰イオン性官能基を含む請求項1記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム成分が、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記フィラーが、シリカ及びカーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~
4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記陽イオン性官能基が、ピリジン基、イミダゾール基、チアゾール基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種を含み、前記陰イオン性官能基が、ハロゲン基及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記陽イオン性官能基がイミダゾール基を含み、前記陰イオン性官能基がハロゲン基を含む請求項1記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記ゴム成分中の陽イオン性官能基の含有量が0.5~30質量%である請求項1記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記ゴム成分中の陰イオン性官能基の含有量が0.5~30質量%以下である請求項1記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.3~6質量部である請求項1~
9のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記ゴム成分が、1-ブチルイミダゾール基及びブロモ基を有するブチルゴム、ブロモ基を有するブチルゴム、カルボン酸基を有するスチレンブタジエンゴム、並びに、アミン基スチレンブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種を含み、前記フィラーが、水酸基を有するシリカ、1-ブチルイミダゾール基及びブロモ基を有するシリカ、ブロモ基を有するシリカ、並びに、アミノ基を有するシリカからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1記載のゴム組成物。
【請求項12】
下記式を満たす請求項2~1
1のいずれかに記載のゴム組成物。
フィラーの含有量/硫黄の含有
量≦40
【請求項13】
タイヤのトレッドに使用される請求項1~1
2のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項14】
請求項1~1
3のいずれかに記載のゴム組成物を用いたトレッドを有する空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムの長寿命化を実現するものとして、自己修復機能を有するゴムへの注目が高まっており、種々の検討が行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】Aladdin Sallat, et al., 「Viscoelastic and self-healing behavior ofsilica filled ionically modified poly(isobutylene-co-isoprene) rubber 」, RSCAdvances, 2018, 8, 26793-26803
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が検討したところ、自己修復機能を有するゴムによって良好な強度やウェットグリップ性能が得られることを見出したが、更に検討を進めた結果、更なる向上の余地があることが判明した。
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、自己修復性を有するゴムにおいて、強度及びウェットグリップ性能を改善するゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ゴムにおいて、その使用態様に応じた強度を発現させるには分子鎖間を結合させることが必要であるが、分子鎖間の結合の強度を超えた入力が生じると、結合が切断されてしまう為、継続して変形を繰り返すうちにゴム全体の強度が低下するものと考えられる。そこで、本発明者らは陽イオン性官能基及び/又は陰イオン性官能基を有するゴム(ポリマー)と、その対となる電荷を発生させるフィラーとを併用することで、金属配位結合、水素結合、イオン結合等の可逆的な結合を形成させることで、ゴムの繰り返し変形による強度低下を抑制することができる自己修復性をもつゴム組成物に関して検討した。
【0007】
一方で上記可逆結合は自己修復機能を持ち、マトリクス中で一定の強度はあるものの、強度の面では共有結合には劣る。そこで、本発明者が更に検討を進めた結果、上述のポリマー及びフィラーを含む組成物に対し、硫黄を添加することで、自己修復性を有する結合を有するゴム組成物において、強度及びウェットグリップ性能が顕著に改善されることを見出し、本発明に想到した。
すなわち、本発明は、陽イオン性官能基及び/又は陰イオン性官能基を含む官能基を有するゴム成分と、前記官能基と対となる電荷を発生させるフィラーと、硫黄とを含有するゴム組成物に関する。
【0008】
前記官能基が、陽イオン性官能基及び陰イオン性官能基を含むことが好ましい。
【0009】
前記フィラーが、陽イオン性官能基及び/又は陰イオン性官能基を含むことが好ましい。
【0010】
前記ゴム成分が、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
前記フィラーが、シリカ及びカーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
前記陽イオン性官能基が、ピリジン基、イミダゾール基、チアゾール基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種を含み、前記陰イオン性官能基が、ハロゲン基及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0013】
前記陽イオン性官能基がイミダゾール基を含み、前記陰イオン性官能基がハロゲン基を含むことが好ましい。
【0014】
前記ゴム成分中の陽イオン性官能基の含有量が0.5~30質量%であり、前記フィラー中の陰イオン性官能基の含有量が5~70質量%であることが好ましい。
【0015】
前記ゴム成分中の陰イオン性官能基の含有量が0.5~30質量%以下であり、前記フィラー中の陽イオン性官能基の含有量が10~70質量%であることが好ましい。
【0016】
前記硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.3~6質量部であることが好ましい。
【0017】
前記ゴム成分が、1-ブチルイミダゾール基及びブロモ基を有するブチルゴム、ブロモ基を有するブチルゴム、カルボン酸基を有するスチレンブタジエンゴム、並びに、アミン基スチレンブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種を含み、前記フィラーが、水酸基を有するシリカ、1-ブチルイミダゾール基及びブロモ基を有するシリカ、ブロモ基を有するシリカ、並びに、アミノ基を有するシリカからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0018】
前記ゴム組成物は、下記式を満たすことが好ましい。
フィラーの含有量/硫黄の含有量≦40
【0019】
前記ゴム組成物は、タイヤのトレッドに使用されることが好ましい。
【0020】
本発明はまた、前記ゴム組成物を用いたトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、陽イオン性官能基及び/又は陰イオン性官能基を含む官能基を有するゴム成分と、前記官能基と対となる電荷を発生させるフィラー、硫黄とを含有するゴム組成物であるので、自己修復性を有する結合を有するゴム組成物において、優れた強度及びウェットグリップ性能が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、陽イオン性官能基及び/又は陰イオン性官能基を含む官能基を有するゴム成分と、前記ゴム成分中の前記官能基と対となる電荷を発生させるフィラーと、硫黄とを含有するゴム組成物である。
【0023】
上記ゴム組成物では、ゴム成分中の官能基により生じた電荷と、フィラー中で発生する対となる電荷により可逆的な結合が形成されるとともに、硫黄架橋によって共有結合が形成される。これにより、ポリマー間では共有結合による強い結合を生じさせると共に、ポリマー・フィラー間に可逆的な結合を有することとなる。これにより、ゴム成分が変形する際に選択的に弱い結合である可逆的な結合が開裂し、変形のエネルギーを吸収すると共に、共有結合部で十分な強度を担保することが可能となる為、ゴム組成物全体の強度が顕著に改善されると推測される。
【0024】
また、上記ゴム組成物では、混練時にポリマー・フィラー間の結合がある程度形成され、ポリマー間が距離を保った状態で拘束されることになる為、その後に生じる硫黄架橋においては、モノスルフィド結合よりもポリスルフィド結合が形成されやすくなると考えられる。これにより、ポリマー分子の運動性が増加すると共に、ゴムに変形が生じた際に可逆的な結合部が開裂することでエネルギーロスが発生しやすくなる為、ウェットグリップ性能が顕著に改善されると推測される。
【0025】
上記ゴム成分中の官能基は、陽イオン性官能基及び/又は陰イオン性官能基を含み、上記フィラーは対となる電荷を発生させるものである。例えば、ゴム成分の官能基が陽イオン性官能基を含む場合、フィラーは少なくとも負の電荷を発生させることができればよく、ゴム成分の官能基が陰イオン性官能基を含む場合、フィラーは少なくとも正の電荷を発生させることができればよい。ゴム成分の官能基が陽イオン性官能基及び陰イオン性官能基を含む場合、フィラーは正電荷のみ、負電荷のみ、正電荷及び負電荷の両方、のいずれを発生させるものであってもよい。
【0026】
陽イオン性官能基としては、塩基性官能基等が挙げられる。塩基性官能基としては、アミノ基、イミノ基(=NH)、アンモニウム塩基、塩基性窒素原子を有する複素環基等が例示される。アミノ基は、第1級アミノ基(-NH2)、第2級アミノ基(-NHR1)、第3級アミノ基(-NR1R2)のいずれでもよい。前記R1とR2は、アルキル基、フェニル基、アラルキル基等であり、炭素原子数は好ましくは1~8である。アンモニウム塩基としては、第3級アンモニウム塩基、第4級アンモニウム塩基等が挙げられる。塩基性窒素原子を有する複素環基としては、ピリジン基、ピリミジン基、ピラジン基、イミダゾール基、チオールを含むイミダゾール基、トリアゾール基、チアゾール基等の含窒素ヘテロ環基等が挙げられる。複素環基の場合、二重結合を有することで、ゴム中に分散しやすい。なかでも、フィラーと相互作用しやすく良好な強度が得られやすい等の観点から、ピリジン基、イミダゾール基、チアゾール基、アミノ基(アミン基)が好ましく、イミダゾール基がより好ましい。
【0027】
陰イオン性官能基としては、ハロゲン基、酸性官能基等が挙げられる。ハロゲン基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。酸性官能基としては、水酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基、マレイン酸基、酸無水物基(無水マレイン酸基等)、フマル酸基、イタコン酸基、アクリル酸基、メタクリル酸基、メルカプト基等が挙げられる。なかでも、自己修復機能の観点から、ハロゲン基、カルボン酸基が好ましく、ハロゲン基(特に、ブロモ基)がより好ましい。
【0028】
前記官能基は、陽イオン性官能基及び陰イオン性官能基を含んでいてもよい。すなわち、官能基は、両性(双性)イオン官能基であってもよい。前記官能基のいずれもが両性イオン官能基である場合は、混練により、官能基中の正電荷とフィラー中の負電荷とでイオン結合が生じ、官能基中の負電荷とフィラー中の正電荷とでイオン結合が生じると推測される。このような形態としては、例えば、チアゾール基等の含窒素ヘテロ環基(陽イオン性官能基)と、ハロゲン基(陰イオン性官能基)とがイオン結合したもの等が挙げられ、下記式で表される基が好ましい。
【化1】
(式中、XはBr又はCl(好ましくはBr)であり、Rは炭素数1~10(好ましくは1~4)のアルキル基である。)
【0029】
上記ゴム成分において、官能基が陽イオン性官能基を含有する場合、陽イオン性官能基の含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。同様に、官能基が陰イオン性官能基を含有する場合、陰イオン性官能基の含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0030】
なお、上記ゴム成分において、各官能基の含有量は、NMR測定を行い、各官能基に該当するピークに基いて含有量(質量%)を算出することにより、測定できる。
【0031】
上記ゴム成分としては、特に限定されないが、例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴム、ブチルアクリレートゴム、エチルアクリレートゴム、オクチルアクリレートゴム等のアクリルゴム、ニトリルゴム、イソブチレンゴム、メチルメタクリレート-ブチルアクリレートブロック共重合体、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、クロロスルホン化ポリエチレン、シリコーンゴム(ミラブル型、室温加硫型)、ブチルゴム、フッ素ゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-イソブチレンブロック共重合体(SIB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン・ブテン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-ブタジエン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)等が挙げられ、これらのうち基本骨格として前記官能基を有さないものについては、適宜官能基を付加させることにより、得ることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、タイヤ物性の観点から、ブチルゴム、SBR、BRが好ましく、ブチルゴムがより好ましい。また、2種以上を併用する場合においては、何れか1種のゴム成分が前記官能基を有しておれば良い。
【0032】
ブチルゴム、SBR、BRとしては特に限定されず、ゴム工業において一般的に用いられるものを使用できる。市販品としては、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0033】
ゴム成分100質量%中、上記官能基を有するゴム成分の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0034】
ゴム成分100質量%中、上記ブチルゴム、SBR及びBRの合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0035】
ゴム成分100質量%中、上記ブチルゴムの含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0036】
ゴム成分100質量%中、上記SBRの含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0037】
上記ゴム成分の官能基と対となる電荷を発生させるフィラーとしては、例えば、シリカ、カーボンブラック等のゴム用補強剤;酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物;炭酸カルシウム、硫酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩;塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩;モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライト、サポナイト等のスメクタイト、セピオライト、バーミキュライト、クロライト、カオリナイト、タルク、マイカ、クレイ等のケイ酸塩鉱物;などを用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、タイヤ物性の観点から、シリカ、カーボンブラックが好ましく、シリカがより好ましい。
【0038】
前記フィラーにおいて、シリカ、カーボンブラックにおいては表面上に存在する水酸基が負電荷として働くことで、ゴム成分と可逆的な結合を形成すると考えられる。一方、金属酸化物においては金属イオン部分が、ゴム成分中の官能基により電離されることにより、正電荷を発生させることで、ゴム成分と可逆的な結合を生じるものと考えられ、塩においては電離が生じた際に正及び負の電荷の双方が発生する為、どちらか一方又は双方がゴム成分の官能基と可逆的な結合を形成するものと考えられる。
【0039】
また、上記フィラーにおいて、フィラー構造の一部を前記陽イオン性官能基及び/又は陰イオン性官能基に変性し、ゴム成分中の官能基との結合性を高めても良い。そのような変性を行うフィラーとしては、タイヤ物性にも優れる観点から、シリカ、カーボンブラックが好ましい。
【0040】
上記フィラーにおいて、フィラー構造の一部を前記陽イオン性官能基及び/又は陰イオン性官能基に変性させる場合、陽イオン性官能基の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。同様に、陰イオン性官能基を含有する場合、陰イオン性官能基の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、特に好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
また、上記フィラーにおいて、各官能基の含有量は、TGA測定を行い、重量(質量)減少率から算出することにより、測定できる。
【0041】
シリカ、カーボンブラックとしては特に限定されず、ゴム工業において一般的に用いられるものを使用できる。シリカの市販品としては、EVONIK社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を、カーボンブラックの市販品としては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。
【0042】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは100m2/g以上、より好ましくは150m2/g以上、更に好ましくは180m2/g以上であり、また、好ましくは250m2/g以下、より好ましくは220m2/g以下、更に好ましくは200m2/g以下である。N2SAが上記範囲内にあると、ポリマーとの相互作用が生じやすく、同時にイオン結合が形成されやすくなると考えられ、上記効果が良好に得られる傾向がある。なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0043】
上記フィラーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上であり、また、好ましくは100質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは45質量部以下である。下限以上にすることで、イオン結合による良好な補強効果が得られる傾向があり、上限以下にすることで、イオン結合と良好に形成するフィラーが生じやすくなり、上記効果が良好に得られる傾向がある。
【0044】
シリカは、シランカップリング剤と併用してもよい。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。市販品としては、EVONIK社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは6質量部以上であり、また、好ましくは12質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。下限以上にすることで、ゴムの骨格が疎水性であることに起因してシリカを疎水化できないことが防止されて、分散が良好となり、優れた強度が得られる傾向がある。上限以下にすることで、シリカ表面の水酸基がシランカップリング剤と反応することが防止され、イオン結合が良好に形成されると考えられる。
【0046】
上記ゴム組成物は、硫黄を含有する。
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄等が挙げられる。市販品としては、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは6質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。下限以上にすることで、硫黄によるネットワークが十分に形成され、良好な強度が得られる傾向がある。上限以下にすることで、共有結合のネットワークが強くなりすぎることが防止され、良好なポリマーの運動性が得られる傾向がある。なお、硫黄によるネットワークの形成には、加硫剤として含有させた前記粉末硫黄以外に、加硫促進剤を含む場合にはその中に含まれる硫黄元素等も関与していると考えられることから、ここでいう硫黄含有量とは、ゴム成分中における硫黄元素の正味量のことを指す。
【0048】
また、前記硫黄の正味量はJIS-K6233:2016に準拠した酸素燃焼フラスコ法により算出することができ、酸素燃焼後に発生した二酸化硫黄を赤外吸収スペクトルにより定量しても良い。
【0049】
上記ゴム組成物は、加硫促進剤を含有してもよい。
加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N′-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。市販品としては、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは4質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0051】
上記ゴム組成物は、酸化亜鉛を含有してもよい。
酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、市販品としては、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明において、酸化亜鉛は従来公知の知見通り、ゴムの加硫反応を活性化させると同時に、ゴム成分の官能基とも可逆的な結合を形成することができるものと考えられる。
【0052】
酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.8質量部以上、更に好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0053】
上記ゴム組成物は、可塑剤を含有してもよい。可塑剤とは、ゴム成分に可塑性を付与する材料及びアセトンにより抽出される成分であり、例えば、液体可塑剤(常温(25℃)で液体状態の可塑剤)、樹脂(常温(25℃)で固体状態の樹脂)などが挙げられる。
【0054】
上記液体可塑剤としては、オイルなどが挙げられる。
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物が挙げられる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル等を用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。市販品としては、出光興産(株)、三共油化工業(株)、JXTGエネルギー(株)、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0056】
上記樹脂としては、粘着性樹脂などが挙げられる。
粘着性樹脂としては、タイヤ工業において慣用されるフェノール系樹脂、アルキルフェノール系樹脂、テルペン系樹脂、クマロン系樹脂、インデン系樹脂、クマロンインデン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂(DCPD系樹脂)等の芳香族炭化水素系樹脂、C5系樹脂、C8系樹脂、C9系樹脂、C5/C9系樹脂等の脂肪族炭化水素系樹脂や、これらの水素添加物等が挙げられる。市販品としては、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、JXTGエネルギー(株)、日本ゼオン(株)、ハリマ化成(株)、東亞合成(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
粘着性樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0058】
上記ゴム組成物は、ワックスを含有してもよい。
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックス等が挙げられる。市販品としては、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0059】
ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0060】
上記ゴム組成物は、老化防止剤を含んでもよい。
老化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤等が挙げられる。市販品としては、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは6質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0062】
上記ゴム組成物は、ステアリン酸を含有してもよい。
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、市販品としては、日油(株)、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0064】
上記ゴム組成物には、上記成分の他、ゴム工業において一般的に用いられている添加剤、例えば、有機過酸化物等を更に配合してもよい。これらの添加剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~200質量部が好ましい。
【0065】
上記ゴム組成物は、効果が好適に得られる観点から、ゴム成分100質量部に対する前記フィラーの含有量(質量部)と、ゴム成分100質量部に対する前記硫黄の含有量(質量部)とが、下記式を満たすことが好ましい。
フィラーの含有量/硫黄の含有量≦40
【0066】
フィラーの含有量/硫黄の含有量の上限は、好ましくは35以下、より好ましくは25以下である。下限は特に限定されないが、好ましくは10以上、より好ましくは15以上である。上記範囲内にすることで、自己修復性の結合及び硫黄による共有結合が同時に形成されやすくなると共に、硫黄の結合もポリ架橋形態になることが促進され、良好なウェットグリップ性能及び強度が得られると考えられる。
【0067】
上記ゴム組成物は、例えば、上述の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー等のゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0068】
混練条件としては、硫黄及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常100~180℃、好ましくは120~170℃である。硫黄、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常120℃以下、好ましくは85~110℃である。また、硫黄、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫等の加硫処理が施される。加硫温度としては、通常140~190℃、好ましくは150~185℃である。加硫時間は、通常5~15分である。
【0069】
上記ゴム組成物は、例えば、タイヤのトレッド(キャップトレッド)に好適に使用できる。
【0070】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、上記ゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを得る。
【0071】
上記空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック、バス等の重荷重用タイヤ、ライトトラック用タイヤ、二輪自動車用タイヤ、レース用タイヤ(高性能タイヤ)等に使用可能である。また、オールシーズンタイヤ、サマータイヤ、スタッドレスタイヤ(冬用タイヤ)等にも使用できる。
【0072】
なお、乗用車用タイヤとは四輪走行を前提とした自動車に装着されるタイヤであって、正規荷重が1000kg以下のものを指す。
【0073】
ここで、「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば“最大負荷能力”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”である。
【実施例】
【0074】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0075】
以下に、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
【0076】
ゴム1:下記製造例1(陽イオン性官能基(1-ブチルイミダゾール基)及び陰イオン性官能基(ブロモ基)を有するブチルゴム、陽イオン性官能基:1.0質量%、陰イオン性官能基:1.0質量%)
ゴム2:ExxonMobil Chemical社製のBROMOBUTYL2255(陰イオン性官能基(ブロモ基)を有するブチルゴム、陰イオン性官能基:1.0質量%)
ゴム3:日本ゼオン(株)製のラテックス(陰イオン性官能基(カルボン酸基)を有するSBR、陰イオン性官能基:30質量%)
ゴム4:下記製造例2(陽イオン性官能基(アミン基)を有するSBR、陽イオン性官能基:30質量%)
フィラー1:EVONIK社製のULTRASIL VN3(陰イオン性官能基(水酸基)を有するシリカ、陰イオン性官能基:5質量%、N2SA:180m2/g)
フィラー2:下記製造例3(陽イオン性官能基(1-ブチルイミダゾール基)及び陰イオン性官能基(ブロモ基)を有するシリカ、陽イオン性官能基:10質量%、陰イオン性官能基:10質量%)
フィラー3:下記製造例4(陰イオン性官能基(ブロモ基)を有するシリカ、陰イオン性官能基:10質量%)
フィラー4:下記製造例5(陽イオン性官能基(アミノ基)を有するシリカ、陽イオン性官能基:10質量%)
フィラー5:クレイ Southeastern Clay Company製のハードクレイクラウン(平均粒子径:0.6μm)
フィラー6:水酸化アルミニウム Nabaltec社製のAPYRAL200SM(平均粒子径:0.6μm)
フィラー7:カーボンブラック キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(N2SA:114m2/g)
フィラー8:炭酸カルシウム 白石工業(株)製の白艶華CC(平均粒子径:1μm)
フィラー9:酸化マグネシウム 協和化学工業株式会社製のキョーワマグ150
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(TBBS))
【0077】
<製造例1>
(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、ブロモブチルゴム(ゴム2)100質量部、1-ブチルイミダゾール3質量部を130℃で3分間混練し、ゴム1を得た。
【0078】
<製造例2>
十分に窒素置換した耐熱容器にn-ヘキサン1500ml、スチレン100mmol、1,3-ブタジエン800mmol、p-メトキシスチレン5mmol、テトラメチルエチレンジアミン0.2mmol、ジメチルアミン(変性剤)0.12mmol、n-ブチルリチウム0.12mmolを加えて、0℃で48時間攪拌した。その後、アルコールを加えて反応を止め、反応溶液に2,6-tert-ブチル-p-クレゾール1gを添加後、再沈殿精製により、ゴム4を得た。
【0079】
<製造例3>
乾燥させたフラスコ内で、3-ブロモプロピルトリメトキシシラン40ml及び1-イミダゾール20mlを室温で5日間撹拌し、1-ブチル-3-トリメトキシシリルプロピルイミダゾリウムブロミドを得た。
次いで、還流冷却器を備えたフラスコに、シリカ(フィラー1)120g、トルエン700mlを加え、撹拌しながら、過剰の1-ブチル-3-トリメトキシシリルプロピルイミダゾリウムブロミドを添加し、120℃で24時間加熱還流した。そして、反応で生成されたメタノールを除去した後、冷却した。
次いで、遠心分離によってシリカ粒子を収集し、メタノールで完全に洗浄してから、110℃で12時間乾燥し、フィラー2を得た。
【0080】
<製造例4>
還流冷却器を備えたフラスコに、シリカ(フィラー1)40g、トルエン700mlを加え、撹拌しながら、過剰の3-ブロモプロピルトリメトキシシランを添加し、120℃で24時間加熱還流した。そして、反応で生成されたメタノールを除去した後、冷却した。
次いで、遠心分離によってシリカ粒子を収集し、メタノールで完全に洗浄してから、110℃で12時間乾燥し、フィラー3を得た。
【0081】
<製造例5>
還流冷却器を備えたフラスコに、シリカ(フィラー1)40g、トルエン700mlを加え、撹拌しながら、過剰の[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシランを添加し、120℃で24時間加熱還流した。そして、反応で生成されたメタノールを除去した後、冷却した。
次いで、遠心分離によってシリカ粒子を収集し、メタノールで完全に洗浄してから、110℃で12時間乾燥し、フィラー4を得た。
【0082】
<実施例及び比較例>
各表に示す配合内容に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練物を得た。次に、得られた混練物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫のゴム組成物(エラストマー組成物)を得た。
得られた未加硫のゴム組成物を170℃で10分間、2mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0083】
上記加硫ゴム組成物を用いて以下の評価を行った。結果を表1~4に示す。下記評価において、基準例は、表1:比較例A1、表2:比較例B1、表3:比較例C1、表4:比較例D1である。なお、表1-4の「フィラーの含有量/硫黄の含有量」に関し、試験片(加硫ゴム組成物)中の硫黄の含有量(質量%)は、JIS-K6233:2016に準拠した酸素燃焼フラスコ法により、算出した。
【0084】
(強度指数)
JIS K 6251「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準じて、上記加硫ゴム組成物からなる5号ダンベルを用いて引張り試験を実施し、破断時の引張り強度(TB)を測定した。そして、基準例のTBを100とし、各配合のTBを指数表示した。指数が大きいほど、TBが大きく、強度に優れることを示す。
【0085】
(ウェットグリップ性能指数)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータVESを用いて、測定温度0℃、初期歪10%、動歪2.5%、周波数10Hzの条件で、上記加硫ゴム組成物のtanδを測定し、基準例を100として指数表示した。指数が大きいほど、0℃におけるtanδが大きく、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
表1~4より、陽イオン性官能基及び/又は陰イオン性官能基を含む官能基を有するゴム成分と、前記官能基と対となる電荷を発生させるフィラーと、硫黄とを含有する実施例は、優れた強度及びウェットグリップ性能が得られた。