(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20250218BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20250218BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20250218BHJP
H01M 8/249 20160101ALI20250218BHJP
H01M 8/0444 20160101ALI20250218BHJP
【FI】
H01M8/04 H
H01M8/04313
H01M8/04746
H01M8/249
H01M8/0444
(21)【出願番号】P 2022002284
(22)【出願日】2022-01-11
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 敦雄
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-144984(JP,A)
【文献】特開2018-195437(JP,A)
【文献】特開2020-57460(JP,A)
【文献】特開2004-127621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
B60L 50/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料電池スタックと、
複数のエアコンプレッサであって、夫々の前記エアコンプレッサが夫々の前記燃料電池スタックに空気を送るエアコンプレッサと、
夫々の前記燃料電池スタックから排出される未反応の燃料ガスと空気を混合して排出する希釈器と、
それぞれの前記エアコンプレッサから前記燃料電池スタックをバイパスして前記希釈器へ空気を送るバイパス路と、
夫々の前記エアコンプレッサから前記バイパス路へ送られる空気流量を調整する調整バルブと、
前記希釈器中の排出ガスに含まれる前記燃料ガスの濃度が所定の許容濃度以下となるように、前記エアコンプレッサと前記調整バルブを制御する制御器と、
を備えており、
前記制御器は、複数の前記エアコンプレッサの中から出力または損失が最も小さい前記エアコンプレッサを選択し、選択された前記エアコンプレッサから
前記バイパス路を通して前記希釈器へ空気を送るように、前記調整バルブを制御する、
燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、複数の燃料電池スタックを備えている燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2に、複数の燃料電池スタックで発電する燃料電池システムが開示されている。燃料電池スタックでは、燃料ガス(水素ガス)と酸素(空気)が反応して電気が作られる。燃料電池スタック内で残った燃料ガス(未反応の燃料ガス)は、希釈器へ送られる。未反応の燃料ガスは、希釈器にて、所定の許容濃度まで空気で希釈されてから放出される。
【0003】
特許文献1の燃料電池システムは、複数の燃料電池スタックに対して共通のエアコンプレッサと共通の希釈器を備えている。特許文献2の燃料電池システムは、それぞれの燃料電池スタックにエアコンプレッサが備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-155997号公報
【文献】特開2020-57460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書は、複数の燃料電池スタックを備えた燃料電池システムに関し、未反応の燃料ガスを効率よく希釈する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する燃料電池システムは、複数の燃料電池スタックと、複数のエアコンプレッサと、希釈器と、バイパス路と、調整バルブと、制御器を備える。夫々のエアコンプレッサは夫々の燃料電池スタックに接続されており、対応する燃料電池スタックに空気を送る。希釈器は、夫々の燃料電池スタックから排出される未反応の燃料ガスと空気を混合して排出する。バイパス路は、エアコンプレッサと希釈器を接続しており、燃料電池スタックをバイパスしてそれぞれのエアコンプレッサから希釈器へ空気を送る。調整バルブは、夫々のエアコンプレッサとバイパス路を接続しており、夫々のエアコンプレッサからバイパス路へ送られる空気流量を調整する。制御器は、希釈器から排出されるガスに含まれる燃料ガスの濃度が所定の許容濃度以下となるように、エアコンプレッサと調整バルブを制御する。制御器は、複数のエアコンプレッサの中から出力または損失が最も小さいエアコンプレッサを選択し、選択されたエアコンプレッサからバイパス路を通して希釈器へ空気を送るように、調整バルブを制御する。
【0007】
本明細書が開示する燃料電池システムでは、未反応の燃料ガスを希釈するのに、出力または損失が最も小さいエアコンプレッサを用いる。それゆえ、燃料ガスを効率よく希釈することができる。
【0008】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例の燃料電池システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して実施例の燃料電池システム2を説明する。以下では、説明を簡単にするため、「燃料電池」をFCと表記する場合がある。
図1に、FCシステム2(燃料電池システム2)のブロック図を示す。制御器6と各種のデバイス(バルブ31、32、33、34、エアコンプレッサ12、ガスセンサ16、昇圧コンバータ11、インバータ4など)は、通信線で接続されているが、通信線の図示は省略してある。
【0011】
FCシステム2は、2個のFCスタック(第1FCスタック10aと第2FCスタック10b)を有しており、各FCスタックが発電する。以下では、第1FCスタック10aと第2FCスタック10bを区別なく表すときはFCスタック10と表記する場合がある。
【0012】
また、バルブ31a、31b、空気管22a、22b、エアコンプレッサ12a、12bなどについても、区別なく表すときにはバルブ31、空気管22、エアコンプレッサ12と表記する場合がある。
【0013】
それぞれのFCスタック10には昇圧コンバータ11が付随している。FCスタック10の電力出力端に昇圧コンバータ11が接続されており、昇圧コンバータ11の出力端はインバータ4の直流端に接続されている。昇圧コンバータ11は、FCスタック10が生成した直流電力を昇圧してインバータ4に供給する。インバータ4は、昇圧された直流電力を交流電力に変換する。インバータ4の交流端にシステム出力端5が接続されており、FCスタック10が生成した電力は、システム出力端5から他のデバイスへ供給される。
【0014】
FCスタック10には、燃料供給管21を通じて燃料タンク3から燃料ガス(水素ガス)が供給される。燃料供給管21には燃料バルブ31が接続されており、燃料バルブ31の開度を調整することで、FCスタック10へ供給される燃料ガスの流量を調整することができる。燃料バルブ31は、インジェクタと呼ばれる場合もある。
【0015】
燃料バルブ31の下流側には不図示の圧力センサが接続されている、圧力センサが計測する圧力は、FCスタック10の中の圧力に等しい。制御器6は、FCスタック10が発電している間、圧力センサの計測値が適正な範囲に保持されるように(すなわち、FCスタック10の内圧が適正な範囲に保持されるように)、燃料バルブ31の開度を制御する。第1燃料バルブ31aは第1FCスタック10aに供給される燃料ガス流量を調整し、第2燃料バルブ31bは第2FCスタック10bに供給される燃料ガス流量を調整する。
【0016】
FCスタック10には、空気管22を通じて空気(酸素)が供給される。空気管22にはエアコンプレッサ12と空気バルブ32が備えられており、エアコンプレッサ12によりFCスタック10に空気が送り込まれる。FCスタック10に供給される空気量(酸素量)は、エアコンプレッサ12の出力と空気バルブ32の開度により調整される。制御器6は、FCスタック10へ供給する燃料ガスの流量に応じてFCスタック10へ供給する空気量を調整する。
【0017】
第1FCスタック10aは第1空気管22aで第1エアコンプレッサ12aに接続されており、第2FCスタック10bは、第2空気管22bで第2エアコンプレッサ12bに接続されている。第1空気管22aには第1空気バルブ32aが取り付けられており、第2空気管22bには第2空気バルブ32bが取り付けられている。
【0018】
FCスタック10で燃料ガス(水素)と空気(酸素)が反応して電力が生成される。反応後のガス(排気ガス)は排ガス管23で気液分離器14に送られる。排気ガスには、FCスタック10で反応に使われなかった若干の燃料ガス(未反応燃料ガス)も含まれる。気液分離器14では、未反応燃料ガスが排ガスから分離される。分離された燃料ガスはリターン管24で再び燃料供給管21に戻される。
【0019】
気液分離器14で残った排ガスと水は、バルブ34を通して希釈器15に送られる。一方、反応で残った空気は排空気管25でFCスタック10から希釈器15へ送られる。希釈器15へ送られる排ガスの中にも僅かながら燃料ガスが残っている。残った燃料ガスは、希釈器15にて、反応で残った空気と混合され、希釈される。希釈器15にはガスセンサ16が備えられている。制御器6は、ガスセンサ16により希釈器15の中の燃料ガス濃度をモニタしている。気液分離器14と希釈器15の間にはバルブ34が設けられており、希釈器15から排出されるガスに含まれる燃料ガスの濃度が所定の許容濃度以下となるように、制御器6はバルブ34を制御し、希釈器15に送られる排ガスの流量を調整する。許容濃度以下まで希釈された燃料ガスが希釈器15から大気へ放出される。
【0020】
比較的大量の燃料ガスを大気へ放出しなければならない場合、バイパス路26を通じてエアコンプレッサ12から空気が希釈器15へ送られる。バイパス路26は、エアコンプレッサ12と希釈器15を直接に接続している。すなわち、バイパス路26は、FCスタック10を通さずに、エアコンプレッサ12から空気を希釈器15へ送ることができる。バイパス路26を備えることで、FCスタック10に供給する空気量を変えることなく、希釈器15へ追加の空気を送ることができる。
【0021】
第1エアコンプレッサ12aとバイパス路26は第1調整バルブ33aで接続されており、第2エアコンプレッサ12bとバイパス路26は第2調整バルブ33bで接続されている。FCスタック10から排出される空気だけでは排ガス中の燃料ガス濃度を許容濃度以下に希釈するのに不足である場合、制御器6は、不足する空気を補えるように、調整バルブ33aまたは33bを開き、エアコンプレッサ12aまたは12bから希釈器15へ直接に空気を送る。
【0022】
バイパス路26を通じて希釈器15へ空気を送る場合、制御器6は、複数のエアコンプレッサ12の中から、出力または損失が最も小さいエアコンプレッサ12を選択する。制御器6は、選択したエアコンプレッサ12の出力を高め、選択したエアコンプレッサ12に接続された調整バルブ33を開き、選択したエアコンプレッサ12から希釈器15へ空気を送る。
【0023】
FCシステム2は、複数のFCスタック10を備えており、複数のFCスタック10は運転状況が異なる場合がある。運転状況が異なれば、FCスタック10へ送る空気量も異なる。また、それぞれのFCスタック10は、定期的に水抜きを行う必要がある。FCスタック10から水を抜く場合、大量の空気をFCスタック10へ供給する。また、FCスタック10を停止する場合には、FCスタック10内に残った燃料ガスをFCスタック10から排出させる必要がある。このときにも、大量の空気がFCスタック10へ送られる。このように、複数のFCスタックで必要とされる空気量が異なることがある。必要とされる空気量が異なるので、複数のエアコンプレッサ12の目標出力も異なる。
【0024】
制御器6は、希釈用の空気が不足する場合、出力または損失の最も小さいエアコンプレッサ12を選択し、選択したエアコンプレッサ12から希釈器15へ空気を送る。希釈器15へ直接に空気を送るのに出力または損失が最も小さいエアコンプレッサを使うので、未反応の燃料ガスを効率よく希釈することができる。例えば、第1エアコンプレッサ12aが200[W]で動作しており、第2エアコンプレッサ12bが100[W]で動作しているときに希釈器15で空気が不足している場合、制御器6は、出力の小さい第2エアコンプレッサ12bを選択する。制御器6は、選択した第2エアコンプレッサ12bの出力を高め、第2エアコンプレッサ12bに対応する第2調整バルブ33bを開く。
【0025】
エアコンプレッサ12の損失は、回転数(あるいは出力)に依存する。制御器6は、回転数(あるいは出力)と損失の対応テーブルを記憶しており、そのテーブルを参照して損失の最も小さいエアコンプレッサ12を選択する。制御器6は、複数のエアコンプレッサ12のうち、出力が最も小さいエアコンプレッサ12を選択してもよいし、あるいは、損失が最も小さいエアコンプレッサ12を選択してもよい。
【0026】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。本明細書が開示するFCシステムは、並列に接続された3個以上のFCスタックを有していてもよい。夫々のFCスタックにはエアコンプレッサ12が備えられている。3個のFCスタックの排ガスは、共通の排ガス管23で気液分離器14へ送られる。気液分離器14で残った排ガスは希釈器15に送られる。排ガス中の燃料ガス濃度が高い場合、制御器6は、3個以上のエアコンプレッサ12の中から出力または損失が最も小さいエアコンプレッサ12を選択する。制御器6は、選択したエアコンプレッサ12の出力を高め、選択したエアコンプレッサ12に対応した調整バルブ33を開き、希釈器15へ直接に空気を送る。
【0027】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0028】
2:燃料電池システム 3:燃料タンク 4:インバータ 5:システム出力端 6:制御器 10、10a、10b:FCスタック 11:昇圧コンバータ 12、12a、12b:エアコンプレッサ 14:気液分離器 15:希釈器 16:ガスセンサ 21:燃料供給管 22、22a、22b:空気管 23:排ガス管 24:リターン管 25:排空気管 26:バイパス路 31、32、33、34:バルブ