(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】転がり軸受用保持器、転がり軸受、及び転がり軸受用保持器の設計方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20250218BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/26
(21)【出願番号】P 2022044005
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2024-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽我 修二
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-053734(JP,A)
【文献】特開2021-181835(JP,A)
【文献】特開2019-116976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56,33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪の内周面に形成された外輪軌道と内輪の外周面に形成された内輪軌道の間に配置された複数の転動体を転動自在に保持する複数のポケットを有し、前記複数の転動体で案内される転がり軸受用保持器であって、
前記ポケットにおいて周方向に対向する持たせ部は、互いの円弧を延長して交差させることでゴシックアーチ形状を形成し、かつ、
所定の前記ポケットにおける持たせ部と、該所定のポケットに対して周方向に離間した前記各ポケットにおける持たせ部との各先端部の接線によって複数のくさびを規定し、
前記持たせ部が前記ポケットの内径側に形成される内持たせの場合、前記くさびは、ポケット面が互いに背面の関係となっている側の前記持たせ部の各先端部の接線によって規定され、
前記持たせ部が前記ポケットの外径側に形成される外持たせの場合、前記くさびは、ポケット面が互いに対面の関係となっている側の前記持たせ部の各先端部の接線によって規定され、
前記保持器と前記転動体との摩擦係数をμとしたとき、前記複数のくさびのくさび角2θ
nのうち、正の最小値2θ
minがθ
min>tan
-1(μ)を満足する、転がり軸受用保持器。
【請求項2】
前記複数のくさびのくさび角2θ
nのうち、正の最小値2θ
minが11.4°を超える、請求項1に記載の転がり軸受用保持器。
【請求項3】
前記持たせ部の円弧の曲率半径は、前記転動体の半径より大きい、請求項1又は2に記載の転がり軸受用保持器。
【請求項4】
円筒ころ軸受用である、請求項1~3のいずれか1項に記載の転がり軸受用保持器。
【請求項5】
全周に亘って負のラジアルすきまとなる運転条件で使用される、請求項1~4のいずれか1項に記載の転がり軸受用保持器。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の転がり軸受用保持器を用いた転がり軸受。
【請求項7】
前記転がり軸受は、工作機械の主軸を支持する、請求項6に記載の転がり軸受。
【請求項8】
外輪の内周面に形成された外輪軌道と内輪の外周面に形成された内輪軌道の間に配置された複数の転動体を転動自在に保持する複数のポケットを有し、前記複数の転動体で案内される転がり軸受用保持器の設計方法であって、
前記ポケットにおいて周方向に対向する持たせ部と、該所定のポケットに対して周方向に離間した前記各ポケットにおける持たせ部との各先端部の接線によって複数のくさびを規定し、
前記持たせ部が前記ポケットの内径側に形成される内持たせの場合、前記くさびは、ポケット面が互いに背面の関係となっている側の前記持たせ部の各先端部の接線によって規定され、
前記持たせ部が前記ポケットの外径側に形成される外持たせの場合、前記くさびは、ポケット面が互いに対面の関係となっている側の前記持たせ部の各先端部の接線によって規定され、
前記保持器と前記転動体との摩擦係数をμとしたとき、前記複数のくさびのくさび角2θnのうち、正の最小値2θminがθmin >tan-1(μ)を満足する、ように設計することを特徴とした転がり軸受用保持器の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受用保持器、転がり軸受、及び転がり軸受用保持器の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸は、運転中に軸受やモーターの発熱により軸方向に熱膨張し、フロント側軸受とリア側軸受が突っ張ることでアキシアル荷重が過大となって、軸受が損傷する虞がある。これを防ぐ為に、リア側軸受にスライド機能を有する円筒ころ軸受を使用することがある。また、工作機械の主軸は、高速回転で運転されることが多く、円筒ころ軸受は、運転中に遠心力や熱の影響で負のラジアルすきまとなる場合がある。通常、負のラジアルすきまになると、ころ径の相互差により進み遅れが生じ、速いころと遅いころが保持器の柱部を介して競合い、ころから保持器の柱部に繰り返し負荷が掛かる。また、保持器自身が、保持器の自励振動や、ころの進み遅れによる保持器への押し付け、保持器の重心のズレによって生じる遠心力作用等により、径方向に動く場合があり、ころから保持器に掛かる負荷が助長される可能性がある。さらに、保持器の案内方式や形状によっても、ころから保持器に掛かる負荷によって保持器が損傷する可能性がある。
保持器には、案内方式により、軌道輪案内保持器と転動体案内保持器とがある。
【0003】
図11に示す転がり軸受10では、転動体案内保持器14Bは、転動体13により径方向の動きが規制される。転動体13が柱部17の内径側に設けられた内持たせ部20の先端部20a、又は外径側に設けられた外持たせ部22の先端部22aに接触することで、保持器14の径方向の動きが規制される。
【0004】
転動体案内保持器14Bでは、
図12に示すように、保持器14Bが径方向に動いた場合、特定の単一ポケット15において、転動体13が持たせ部(内持たせ部20及び外持たせ部22)と接触してくさび状に噛み込んで、円滑な回転が阻害される可能性がある。このため、単一ポケット15でのくさびは、くさびの角度β
p,β
qを可能な限り大きくなるように設計して、保持器14Bが径方向に動いた場合でも、転動体13が持たせ部20,22に噛み込み難くすることが一般的に行われている。なお、くさびの角度β
p,β
qは、転動体13と持たせ部との接触点における転動体13の外周の接線Tと転動体13の中心と保持器14Bの中心とを結ぶ線CLとが成す角度である。
【0005】
特許文献1には、保持器柱部が円筒ころと接する点ところ中心とを結ぶ線分が、ころ中心と保持器中心とを結び径方向に伸びる線に対してなす角度を60°以上72°以下の範囲内として、円筒ころ軸受における保持器柱部のくさび作用を防止した転動体案内形式の保持器を備える円筒ころ軸受が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、転動体とテーパ面との接触点と、転動体の中心と、を通過する仮想線が、転動体の中心を通過して径方向に対して垂直な仮想垂直平面と成す角度を、転動体とテーパ面との接触点の摩擦係数から設定される摩擦角より大きくして、特定の単一の転動体と該転動体が収容されているポケットにおいて、転動体とポケット面とのエッジ当たりや、くさび状に噛み込むのを回避可能とした転がり軸受用保持器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-69282号公報
【文献】特許第5870563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、保持器と転動体のくさび作用は、単一ポケット内だけでなく、保持器の径方向の動きや、転動体(ころ)の進み、遅れなどに起因して位相が異なる2つのポケット間によって発生する可能性がある。
特許文献1及び2に開示されている転がり軸受用保持器及び円筒ころ軸受は、いずれも単一ポケット内でのくさびを問題としたものであり、転動体(ころ)の進み、遅れなどに起因して異なる2つのポケット間(隣接するポケットだけではなく離れたポケットの場合もある)で生じるくさび作用による、ころの噛み込みについては言及されていない。
【0009】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、位相が異なる2つのポケット間に形成されるくさび作用によって保持器の柱部が損傷するのを抑制するとともに、単一ポケット内で形成されるくさび作用によっても保持器の柱部が損傷するのを抑制することができる転がり軸受用保持器、転がり軸受、及び転がり軸受用保持器の設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
[1] 外輪の内周面に形成された外輪軌道と内輪の外周面に形成された内輪軌道の間に配置された複数の転動体を転動自在に保持する複数のポケットを有し、前記複数の転動体で案内される転がり軸受用保持器であって、
前記ポケットにおいて周方向に対向する持たせ部は、互いの円弧を延長して交差させることでゴシックアーチ形状を形成し、かつ、
所定の前記ポケットにおける持たせ部と、該所定のポケットに対して周方向に離間した前記各ポケットにおける持たせ部との各先端部の接線によって複数のくさびを規定し、
前記持たせ部が前記ポケットの内径側に形成される内持たせの場合、前記くさびは、ポケット面が互いに背面の関係となっている側の前記持たせ部の各先端部の接線によって規定され、
前記持たせ部が前記ポケットの外径側に形成される外持たせの場合、前記くさびは、ポケット面が互いに対面の関係となっている側の前記持たせ部の各先端部の接線によって規定され、
前記保持器と前記転動体との摩擦係数をμとしたとき、前記複数のくさびのくさび角2θnのうち、正の最小値2θminがθmin>tan-1(μ)を満足する、転がり軸受用保持器。
【0011】
[2] [1]に記載の転がり軸受用保持器を用いた転がり軸受。
【0012】
[3] 外輪の内周面に形成された外輪軌道と内輪の外周面に形成された内輪軌道の間に配置された複数の転動体を転動自在に保持する複数のポケットを有し、前記複数の転動体で案内される転がり軸受用保持器の設計方法であって、
前記ポケットにおいて周方向に対向する持たせ部と、該所定のポケットに対して周方向に離間した前記各ポケットにおける持たせ部との各先端部の接線によって複数のくさびを規定し、
前記持たせ部が前記ポケットの内径側に形成される内持たせの場合、前記くさびは、ポケット面が互いに背面の関係となっている側の前記持たせ部の各先端部の接線によって規定され、
前記持たせ部が前記ポケットの外径側に形成される外持たせの場合、前記くさびは、ポケット面が互いに対面の関係となっている側の前記持たせ部の各先端部の接線によって規定され、
前記保持器と前記転動体との摩擦係数をμとしたとき、前記複数のくさびのくさび角2θnのうち、正の最小値2θminがθmin >tan-1(μ)を満足する、ように設計することを特徴とした転がり軸受用保持器の設計方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の転がり軸受用保持器、転がり軸受、及び転がり軸受用保持器の設計方法によれば、位相が異なる2つのポケット間に形成されるくさび作用によって保持器の柱部が損傷するのを抑制するとともに、単一ポケット内で形成されるくさび作用によっても保持器の柱部が損傷するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)は、本発明の第1実施形態に係る、内持たせの保持器を有する転がり軸受の断面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のI-I線に沿った断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す保持器の周方向に離間したポケット間の内持たせによる各くさびの角度を示す概略断面図である。
【
図3】
図3(a)は、くさびの角度と荷重の関係を示すグラフであり、
図3(b)は、くさびの角度と力の関係を示す模式図である。
【
図4】
図4(a)は、摩擦係数とくさびの角度の関係を示すグラフであり、(b)は、摩擦係数とくさびの角度の関係を示す表である。
【
図5】
図5(a)は、従来のポケットと転動体の位置関係を示す説明図であり、
図5(b)は、参考例のポケットと転動体の位置関係を示す説明図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2実施形態に係る外持たせの保持器を有する転がり軸受の断面図である。
【
図7】
図7は、
図6に示す保持器の周方向に離間したポケット間の外持たせによる各くさびの角度を示す概略断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第3実施形態に係る両持たせの保持器を有する転がり軸受の概略断面図である。
【
図9】
図9(a)は、単一円弧からなる両持たせの保持器の断面図、
図9(b)は、外持たせ部と内持たせ部が共通の接線で接続された両持たせの保持器の断面図、
図9(c)は、外持たせ部と内持たせ部が直線で接続された両持たせの保持器の断面図、
図9(d)は、外持たせ部と内持たせ部が交点で交差する両持たせの保持器の断面図である。
【
図10】
図10(a)~(c)は、持たせ部の先端部を説明する模式図である。
【
図11】
図11(a)は、従来の転動体案内保持器を備える転がり軸受の断面図であり、
図11(b)は、
図11(a)のXI-XI線に沿った断面図である。
【
図12】
図12(a)は、単一ポケット内における外持たせのくさびの角度を示す側面図、
図12(b)は、単一ポケット内における内持たせのくさびの角度を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各実施形態に係る転がり軸受用保持器、及び該転がり軸受用保持器を備える転がり軸受を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1(a)及び(b)に示すように、本実施形態の転がり軸受10は、内周面に外輪軌道11aが形成された外輪11と、外周面に内輪軌道12aが形成された内輪12と、外輪軌道11aと内輪軌道12a間に配置された複数の転動体である円筒ころ13と、複数の円筒ころ13を転動自在に保持する複数のポケット15を有する保持器14と、を備える。
内輪12は、軸方向両側に外径側に突出する円環状のつば部12bを備え、円筒ころ13の軸方向移動を規制している。
また、本実施形態では、外輪11、内輪12及び円筒ころ13は、鉄製であり、保持器14は、合成樹脂製としている。
【0017】
保持器14に使用される合成樹脂材料としては、基材入りフェノール樹脂が挙げられ、基材としては、積層板では紙、木綿布、アスベスト布、ガラス繊維布、ナイロン織物、成形品では、木粉、木綿、パルプ、アスベスト、雲母、ガラス繊維などを用いてもよい。また、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドなどの樹脂であってもよく、必要に応じて、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維などの強化材を添加してもよい。さらに、保持器14は、銅合金や銀めっきなどを施した鉄でもよい。
【0018】
保持器14は、軸方向両側に形成された一対の円環部16と、一対の円環部16を軸方向に繋ぐ、円周方向に所定の間隔で形成される複数の柱部17と、を備え、各ポケット15は、一対の円環部16と、隣り合う柱部17との間に形成される。
【0019】
図1(b)に示すように、保持器14は、内持たせの転動体案内保持器であり、周方向に対向する柱部17の側面は、ポケット15の内径側に湾曲した内持たせ部20を有し、内持たせ部20から外径側を互いに平行な平面21としている。なお、内持たせ部20は、ポケット15の軸方向全体に形成されてもよいし、軸方向に分割して対称に形成されてもよい。
【0020】
これにより、保持器14と円筒ころ13とが相対的に径方向に移動したとき、保持器14は、外輪11、及び内輪12に接触せず、内持たせ部20の先端部20aが円筒ころ13に接触することで保持器14の径方向の動きが規制される。即ち、図示の状態から保持器14が上方に移動しようとしても、内持たせ部20が円筒ころ13と当接して移動が規制される。また、保持器14が、下方に移動しようとしても、180°反対側の内持たせ部20が円筒ころ13と当接して移動を規制される。
【0021】
また、内持たせ部20は、保持器14の断面を軸方向から見たとき、円筒ころ13の半径rより大きい曲率半径R1で形成されており、周方向に対向する内持たせ部20が、互いの円弧を延長して交差させることでゴシックアーチ形状を形成している。
【0022】
さらに、
図2を参照して、周方向に離間した複数のポケット15間では、保持器14が中立位置から径方向に動き、2つの円筒ころ13が中立位置から公転方向に対して前側(進み側)と後側(遅れ側)に動いて、それぞれの円筒ころ13が、ポケット面が互いに背面の関係となっている側の内持たせ部20の先端部20aに接触したとき、くさびW
in(nは1から始まる正の整数)が形成される。その際、各先端部20aの接線Tのなす角度が、複数のポケット15間でのくさび角2θ
n(nは1から始まる正の整数)を構成する。なお、
図2では、くさびW
i1、W
i2のみ示している。
【0023】
つまり、
図2において、所定のポケット15(基準のポケット15A)における一対の内持たせ部20と、該所定のポケット15Aに対して周方向に離間した各ポケット15
n(n:1,2,・・・,z-1(z:総ポケット数))における一対の内持たせ部20のうち、ポケット面が互いに背面の関係となっている側の内持たせ部20の各先端部20aの接線Tによってくさび角2θ
nを構成する。
【0024】
そして、本実施形態では、位相が異なる2つのポケット15によるくさびWinの噛み込みを抑制するため、複数のくさびWinのくさび角2θnのうち、正の最小値2θminがθmin>tan-1(μ)を満足するように設計される。ここで、μは、保持器14と円筒ころ13との摩擦係数である。
【0025】
したがって、例えば、保持器14を樹脂製、円筒ころ13を鉄製とした油潤滑下における摩擦係数が0.10以下の範囲においては、後述する
図4のグラフの関係から、くさび角2θ
nの正の最小値2θ
minが11.4°を超えるように設計される。
【0026】
以下、位相が異なる2つのポケット15によるくさびWinの噛み込みを抑制するため、複数のくさびWinのくさび角2θnのうち、正の最小値2θminがθmin>tan-1(μ)を満足するように設計する理由について、以下に説明する。
【0027】
図2に示すように、異なるポケット15間で形成するくさび角2θ
nは、ポケット15の組み合わせごとに異なり、総ポケット数Zの保持器14において、基準となるポケット15Aと、基準となるポケット15Aから反時計方向の周方向にn番目のポケット15
nとの間で形成するくさび角2θ
nは、ポケット径中心(内持たせ部20の曲率中心)O1と内持たせ部20の先端部20aを結ぶ線L1と、ポケット15の対称線L3に対して垂直な線L2とが成す角度α
0を用いて、下記式(1)で示される。なお、対称線L3とは、ポケット15の周方向中間位置と、保持器14の中心Cとを径方向に沿って結ぶ線である。
【0028】
2θn=2α0-360n/Z・・・式(1)
但し、 1≦n≦Z-1
【0029】
なお、
図2は、各円筒ころ13が円周方向に等間隔で配置され、且つ、保持器14が中立位置に位置する状態を示す。中立位置とは、軸受10の回転中心と保持器14の中心Cが一致しており、且つ、円筒ころ13の中心O2がポケット15の対称線L3上にある場合をさす。
【0030】
式(1)によると、異なるポケット15間で形成するくさび角2θnは、ポケット15ごとに-360/Zのピッチで変化し、その中に必ず正の最小値となるくさび角2θminが存在する。負のくさび角2θnは、くさびが抜ける方向なので問題とならない。本実施形態では、くさび角2θnのうち、正の最小値2θminが出来るだけ大きな値をとるように設計することで、くさびWinによって発生する力を小さくしている。
【0031】
具体的には、例えば、2α0=43、Z=18の場合、各ポケット15のくさび角2θnは、2θ1、2θ2、2θ3、2θ4、2θ5、・・の順に、+23°、+3°、-17°、-37°・・・となる。この時、2θ2=+3°が正の最小のくさびの角度を形成している。
【0032】
最小のくさび角2θnを大きくするために、ポケット15の内持たせ部20の曲率半径を変更するなどの調整をして、2α0=37°とすると、各ポケット15のくさび角2θnは、+17°、-3°、-23°、-43°・・・となり、くさび角の正の最小値2θminは2θ1=+17°となる。従って、くさび角の正の最小値2θminを+3°から+17°に大きくすることで、くさびWinによる力を低減することができる。
【0033】
くさび角と力の関係は、
図3(b)に示したくさびを物体に打ち込む図において、摩擦係数μを用いて、F=2×N×(μ×cosθ+sinθ)で示される。Fはくさびを打ち込む力であり、2θはくさび角、Nはくさびが打ち込まれる物体からの反力で、このNの反力が、物体がくさびから受ける力となる。
【0034】
図3(a)のグラフは、上記の計算式においてF=1Nとしたものである。例えば、くさび角2θを3°(θ=1.5°)、及び17°(θ=8.5°)とし、保持器14の材質を樹脂、円筒ころ13の材質を鉄としたとき、樹脂と鉄の摩擦係数μを0.2と仮定すると、くさびによって発生する力Nは、くさび角2θが3°では、N=2.21、くさび角2θが17°ではN=1.45となり、くさび角2θを大きくすることで、くさびによって発生する力(N)を低減することができる。即ち、保持器14の損傷のリスクが低減する。
【0035】
図4に示すように、打ち込んだくさびが自然に抜けるか、抜けないかは、摩擦係数μと摩擦角λの関係式λ=tan
-1(μ)で決まる摩擦角λに依存する。即ち、θ>λ=tan
-1(μ)であればくさびを抜くための力は不要であり、θ<λ=tan
-1(μ)であればくさびを抜くために力が必要になる。くさびが自然に抜けなければ、くさびによる力が保持器14に負荷され続けて保持器14の損傷のリスクが生じる。このため、くさびを抜くための力が無くとも、くさびが自然に抜けるくさび角2θにすることが望ましい。
【0036】
保持器14をナイロン樹脂製、円筒ころ13を鋼製としたとき、油潤滑下における摩擦係数μは、0.10~0.16で示されている(文献『加工と設計のためのプラスチックの機械的性質』による)。この文献によれば、極軽荷重の環境下では摩擦係数μは、0.16程度あり、荷重が増加するにつれて摩擦係数は0.1程度までに減少する傾向を示している。保持器の柱部が損傷するモードを考えると、柱部が円筒ころ13から受ける面圧は高いことが想定されるため、この時の摩擦係数μは0.1程度であると推察される。摩擦係数μ=0.10とした場合の摩擦角λは、上式からλ=5.7°となる。従って、くさび角2θnの正の最小値2θminを11.4°(θmin=5.7°)超とすることで、保持器と円筒ころ13がくさび状に噛み込んだ場合でも、くさびが自然に抜けるため、くさびによる力の負荷が継続することなく、保持器の損傷を低減することができる。
【0037】
なお、摩擦係数μ=0.16の場合は、摩擦角λ=9.1°であるので、くさびの角度2θの正の最小値2θminを18.2°(θmin=9.1°)以上とすれば、より効果が得られる。これにより、異なる位相のポケット間におけるくさび作用による保持器14の損傷を防止することができる。
【0038】
また、本実施形態では、内持たせ部20の形状をゴシックアーチとして複数のポケット15間のくさび角2θnをコントロールしている。これは、保持器14や軸受10を設計する上で、その機能上の制約を受けることなく、ポケット15間のくさび角2θnを任意にコントロールすることができるためである。
【0039】
例えば、ポケット15間のくさび角2θnをコントロールする他の設計方法としては、以下の(A)~(D)があるが、いずれも次のような課題や制約がある。
【0040】
(A)非ゴシックアーチでポケット径を変更する。
非ゴシックアーチでポケット径を変更することを考えた場合、ポケット径を大きくすると、ポケットと転動体との周方向のすきまが大きくなることによりポケットと転動体の衝突による保持器音の問題が生じたり、保持器柱の肉厚が薄くなることにより強度が低下する問題が生じる。
【0041】
(B) 保持器の内径を変える。
保持器の内径を小さくする場合は、軸受を組み立てる際に内輪のつばとの緩衝が懸念されるため、調整幅に限度がある。
また、保持器の内径を大きくする場合は、持たせ部の開口幅が大きくなってしまい、単一ポケット内でのくさびの噛み込みが生じやすくなり、さらに、保持器が径方向に薄肉になるため強度が低下する。
【0042】
(C) 転動体数(ポケット数)を変更する。
転動体数を無理に増やすと保持器の柱部が細くなり、強度が低下する。一方、転動体数を減らすと軸受の基本定格荷重が低下する。また、転動体数は、軸受の基本定格荷重に影響するパラメータであるため容易に変更できない。
【0043】
(D) ポケットのPCD(持たせ部の曲率中心)を径方向にずらす。
ポケットのPCDを外径側にずらすと、保持器ポケットと転動体との直径方向のすき間が無くなるため調整幅に限度がある。一方、ポケットのPCDを内径側にずらすと、持たせ部の開口幅が大きくなり、くさび角が減少することで単一ポケット内でのくさびの噛み込みが生じやすくなる。
【0044】
ただし、ゴシックアーチによりポケット間のくさびの角度をコントロールした場合でも、持たせ部の曲率半径R1を大きくすることで持たせ部の開口幅が大きくなるため、単一ポケット内でのくさびの噛み込みが生じやすくなる。しかしながら、上記した(B)保持器の内径を変える、(D)ポケットのPCDを径方向にずらす等の対策によって持たせ部の開口幅が大きくなる場合と比較すると、ゴシックアーチの場合の方がポケットの開口幅が必ず狭くなるため、単一ポケット内でのくさびの噛み込みが生じ難くなる。
【0045】
以下に、本実施形態に係るゴシックアーチを用いて異なるポケット間のくさび角をコントロールした場合、非ゴシックアーチでくさび角をコントロールした場合を比較して、持たせ部の開口幅が小さくなる、即ち、単一ポケット内でのくさびの噛み込みが生じ難くなることを説明する。
【0046】
図5(a)に示す保持器14Cが中立位置にあるとき、ポケット径中心O1(内持たせ部の円弧中心)ところ中心O2が一致している従来設計の内持たせ部20においても、上述した式(1)でくさび角2θ
nを決定する式(1)のパラメータであるα
0´は、ポケット径中心O1と内持たせ部20の先端部20aを結ぶ線L1と、ポケット15の対称線L3と垂直な線L2によって形成される。この時の内持たせ部20の開口幅Wcは、Wc=2R
0×cosα
0´となる。また、保持器14Cのポケット幅Pは、P=2×R
0となる。
【0047】
ここで、円筒ころ13の数Zは、軸受の荷重負荷能力に大きく影響するパラメータであり、特段の理由が無い限り変更することは難しい。円筒ころ13の数Zを変更せずに異なるポケット15間のくさび角2θnを変更しようとすれば、α0´の値を変更する必要がある。
【0048】
図5(b)に示す他の保持器14Dでは、ポケット15の曲率半径R
0を変えずに、ポケット径中心O1を径方向にCyだけずらすことによりα
0´をα
0に変化させ、即ち、ポケット15間のくさび角度2θ
nを変更している。この時の持たせ部20の開口幅W
aは、W
a=2R
0×cosα
0となる。
【0049】
一方、
図1(b)に示す本実施形態の保持器14では、ポケット径をR
1(但しR
0<R
1)とし、ポケット径中心O1を線L2の軸線上にC
xだけずらしてゴシックアーチとすることで、ポケット径中心O1と内持たせ部20の先端部20aを結ぶ線L1と、ポケット15の対称線L3と垂直な線L2が成す角度をα
0とした。このとき、持たせ部20の開口幅W
bは、W
b=2×(R
1×cosα
0-R
1+P/2)となる。
【0050】
従って、ポケット開口幅WaとWbの差Wa-Wbは、Wa-Wb=2×(R1-R0)×(1-cosα0)となる。(R1-R0)>0であり、かつ(1-cosα0)>0であることから、ポケット開口幅の差Wa-Wb>0となる。即ち、必ずWa>Wbとなって、異なるポケット15間で形成するくさび角2θnは同じであっても、ゴシックアーチの設計とした場合の方が内持たせ部20の開口幅Wbを小さくすることができる。即ち、単一ポケット15内でのくさびの噛み込みを低減することができる。
【0051】
上記したように、異なるポケットにおける一対の内持たせ部20のうち、ポケット面が互いに背面の関係となっている側の内持たせ部20の各先端部20aの接線Tによって複数のくさびWinのくさび角2θnを構成し、保持器14と円筒ころ13との摩擦係数をμとしたとき、複数のくさびのくさび角2θnのうち、正の最小値2θminがθmin>tan-1(μ)を満足することで、保持器14の損傷のリスクを大幅に低減できる。
したがって、本実施形態の転がり軸受は、特に、全周に亘って負のラジアルすきまとなる運転条件で運転される虞がある軸受、例えば、工作機械の主軸を支持する円筒ころ軸受に好適に使用できる。
【0052】
また、本実施形態では、異なるポケット間で形成するくさび角をコントロールする際に、ポケットにおいて周方向に対向する内持たせ部20は、互いの円弧を延長して交差させることで形成されるゴシックアーチ形状とすることで、単一ポケット内で形成されるくさび作用によって保持器14の柱部17が損傷するのを抑制することができる。
【0053】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る転がり軸受用保持器、及び該転がり軸受用保持器を備える転がり軸受について説明する。
本実施形態の転動体案内保持器14では、上記したポケット15の内径側に内持たせ部20が形成された内持たせの代わりに、
図6に示すように、ポケット15の外径側に外持たせ部22が形成された外持たせとしている。
【0054】
図6に示すように、保持器14の周方向に対向する柱部17の側面は、ポケット15の外径側に湾曲した外持たせ部22を有し、外持たせ部22から内径側を互いに平行な平面23としている。
【0055】
これにより、保持器14と円筒ころ13とが相対的に径方向に移動したとき、円筒ころ13がポケット15の外径側に対向して設けられた外持たせ部22の先端部22aに接触することで保持器14の径方向の動きが規制される。
【0056】
また、外持たせ部22は、保持器14の断面を軸方向から見たとき、円筒ころ13の半径rより大きい曲率半径R2で形成されており、周方向に対向する外持たせ部22が、互いの円弧を延長して交差させることでゴシックアーチ形状を形成している。
【0057】
図7は、ポケット15の外径側に外持たせ部22が形成された保持器14における周方向に離間したポケット15間のくさび角2θ
nを説明する側面図である。外持たせ部22がポケット15の外径側に形成される外持たせの場合、くさび角2θ
nは、ポケット面が互いに対面の関係となっている側の外持たせ部22、22の各先端部22aの接線Tのなす角度によって規定される。
【0058】
外持たせにおいても、異なるポケット15間で形成するくさび角2θ
nは、ポケット15の組み合わせごとに異なる。総ポケット数Zの保持器14において、基準となるポケット15Aと、基準となるポケット15Aから隣側に向かってn番目のポケット15
nとの間で形成するくさびの角度2θ
nは、ポケット径中心O1と外持たせ部22の先端部22aを結ぶ線L1と、ポケット15の対称線L3に対して垂直な線L2とが成す角度α
0を用いて、
図2で説明済みの式(1)、即ち、2θ
n=2α
0-360n/Zが成立する。
【0059】
従って、内持たせ部20と同様に、保持器14と円筒ころ13との摩擦係数をμとしたとき、複数のくさびの角度2θnのうち、正の最小値2θminがθmin>tan-1(μ)を満足するように設定することで、くさびによって発生する力を低減することができ、保持器14の損傷のリスクが低減する。
【0060】
また、本実施形態では、異なるポケット間で形成するくさび角をコントロールする際に、ポケットにおいて周方向に対向する外持たせ部22は、互いの円弧を延長して交差させることでゴシックアーチ形状とすることで、単一ポケット内で形成されるくさび作用によって保持器の柱部が損傷するのを抑制することができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0061】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る転がり軸受用保持器、及び該転がり軸受用保持器を備える転がり軸受について説明する。本実施形態では、
図8に示すように、保持器14は、内持たせ部20及び外持たせ部22を同時に備えた両持たせとしている。
【0062】
この保持器14でも、内持たせ部20及び外持たせ部22をゴシックアーチで形成すると共に、異なるポケット15間のくさびの角度2θnのうち、正の最小値2θminを、内持たせ部20及び外持たせ部22で共にθmin>tan-1(μ)を満足するように設定することで、くさびによって発生する力を低減することができ、また、くさびによる噛み込み力が継続できないようになるため、保持器14の損傷のリスクが低減する。
【0063】
なお、両持たせとしては、
図9(a)に示すように、内持たせ部20と外持たせ部22とが単一の円弧で連続して形成されてもよい。また、
図9(b)に示すように、内持たせ部20の曲率半径R
1と外持たせ部22の曲率半径R
2が異なり、両半径が共通の接線で接続されてもよい。さらに、
図9(c)に示すように、内持たせ部20の曲率半径R
1と外持たせ部22の曲率半径R
2が異なり、内持たせ部20と外持たせ部22とが、共通の直線24で接続される両持たせとしてもよい。
図9(d)に示すように、内持たせ部20の曲率半径R
1と外持たせ部22の曲率半径R
2が異なり、内持たせ部20と外持たせ部22が交点25で交差する両持たせとしてもよい。
【0064】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0065】
例えば、内持たせ部20の先端部20a、外持たせ部22の先端部22aとは、
図10(a)~(c)に示すように、各持たせ部20、22を形成する曲率半径R
1、R
2の円弧の終点部であればよい。
具体的には、
図10(a)に示すように、保持器14の内周面と内持たせ部20との交点、保持器14の外周面と外持たせ部22との交点をそれぞれ先端部20a、22aとしてもよい。また、
図10(b)に示すように、保持器14の内周面と内持たせ部20との交点、保持器14の外周面と外持たせ部22との交点がR面取りされている場合は、各持たせ部20、22とR面取りの接続点をそれぞれ先端部20a、22aとしてもよい。さらに、
図10(c)に示すように、保持器14の内周面と内持たせ部20との交点、保持器14の外周面と外持たせ部22との交点部分に平坦面で面取りされている場合は、各持たせ部20、22と平坦面の接続点をそれぞれ先端部20a、22aとしてもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、転動体を円筒ころとした、円筒ころ用保持器及び円筒ころ軸受について説明したが、本発明は、転動体を玉とした玉軸受用保持器及び玉軸受にも適用できる。
【0067】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 外輪の内周面に形成された外輪軌道と内輪の外周面に形成された内輪軌道の間に配置された複数の転動体を転動自在に保持する複数のポケットを有し、前記複数の転動体で案内される転がり軸受用保持器であって、
前記ポケットにおいて周方向に対向する持たせ部は、互いの円弧を延長して交差させることでゴシックアーチ形状を形成し、かつ、
所定の前記ポケットにおける持たせ部と、該所定のポケットに対して周方向に離間した前記各ポケットにおける持たせ部との各先端部の接線によって複数のくさびを規定し、
前記持たせ部が前記ポケットの内径側に形成される内持たせの場合、前記くさびは、ポケット面が互いに背面の関係となっている側の前記持たせ部の各先端部の接線によって規定され、
前記持たせ部が前記ポケットの外径側に形成される外持たせの場合、前記くさびは、ポケット面が互いに対面の関係となっている側の前記持たせ部の各先端部の接線によって規定され、
前記保持器と前記転動体との摩擦係数をμとしたとき、前記複数のくさびの角度2θのうち、正の最小値2θminがθmin>tan-1(μ)を満足する、転がり軸受用保持器。
この構成によれば、位相が異なる2つのポケット間に形成されるくさび作用によって保持器の柱部が損傷するのを抑制するとともに、単一ポケット内で形成されるくさび作用によっても保持器の柱部が損傷するのを抑制することができる。
【0068】
(2) 前記複数のくさびの角度2θのうち、正の最小値2θminが11.4°を超える、(1)に記載の転がり軸受用保持器。
この構成によれば、保持器を樹脂製、転動体を鉄製とした油潤滑下における摩擦係数が0.10以下の範囲において、位相が異なる2つのポケットによるくさびの噛み込みを抑制でき、保持器の柱部の損傷を抑制することができる。
【0069】
(3) 前記持たせ部の円弧の曲率半径は、前記転動体の半径より大きい、(1)又は(2)に記載の転がり軸受用保持器。
この構成によれば、ポケットにおいて周方向に対向する持たせ部をゴシックアーチ形状で形成できる。
【0070】
(4) 円筒ころ軸受用である、(1)~(3)のいずれかに記載の転がり軸受用保持器。
この構成によれば、円筒ころ軸受用保持器として、保持器の柱部が損傷するのを抑制することができる。
【0071】
(5) 全周に亘って負のラジアルすきまとなる運転条件で使用される、(1)~(4)のいずれか1つに記載の転がり軸受用保持器。
この構成によれば、全周に亘って負のラジアルすきまとなる条件で使用されても、保持器の柱部が損傷する虞がない。
【0072】
(6) (1)~(5)のいずれか1つに記載の転がり軸受用保持器を用いた転がり軸受。
この構成によれば、保持器が損傷する虞がなく、信頼性の高い転がり軸受が得られる。
【0073】
(7) 前記転がり軸受は、工作機械の主軸を支持する、(5)に記載の転がり軸受。
この構成によれば、工作機械の主軸を、信頼性の高い転がり軸受で支持できる。
【0074】
(8) 外輪の内周面に形成された外輪軌道と内輪の外周面に形成された内輪軌道の間に配置された複数の転動体を転動自在に保持する複数のポケットを有し、前記複数の転動体で案内される転がり軸受用保持器の設計方法であって、
前記ポケットにおいて周方向に対向する持たせ部と、該所定のポケットに対して周方向に離間した前記各ポケットにおける持たせ部との各先端部の接線によって複数のくさびを規定し、
前記持たせ部が前記ポケットの内径側に形成される内持たせの場合、前記くさびは、ポケット面が互いに背面の関係となっている側の前記持たせ部の各先端部の接線によって規定され、
前記持たせ部が前記ポケットの外径側に形成される外持たせの場合、前記くさびは、ポケット面が互いに対面の関係となっている側の前記持たせ部の各先端部の接線によって規定され、
前記保持器と前記転動体との摩擦係数をμとしたとき、前記複数のくさびのくさび角2θnのうち、正の最小値2θminがθmin >tan-1(μ)を満足する、ように設計することを特徴とした転がり軸受用保持器の設計方法。
この構成によれば、位相が異なる2つのポケット間に形成されるくさび作用によって保持器の柱部が損傷するのを抑制するとともに、単一ポケット内で形成されるくさび作用によっても保持器の柱部が損傷するのを抑制することができる保持器を設計することが出来る。
【符号の説明】
【0075】
10 転がり軸受
11 外輪
11a 外輪軌道
12 内輪
12a 内輪軌道
13 ころ(転動体)
14 保持器(転がり軸受用保持器、円筒ころ軸受用保持器)
15,15A、15n ポケット
20 内持たせ部(持たせ部)
20a,22a 先端部
22 外持たせ部(持たせ部)
R1 内持たせ部の曲率半径
R2 外持たせ部の曲率半径
r 転動体の半径
T 先端部の接線
2θn くさびの角度