(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】鋼板の製造方法および鋼板の製造設備
(51)【国際特許分類】
B21D 1/05 20060101AFI20250218BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20250218BHJP
B21B 37/58 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
B21D1/05 J
B21B37/00 261Z
B21B37/58 C
B21B37/58 D
(21)【出願番号】P 2022058182
(22)【出願日】2022-03-31
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】澤田 佳久
【審査官】程塚 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-153905(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0071137(KR,A)
【文献】特開2004-034065(JP,A)
【文献】特開平06-226321(JP,A)
【文献】特開2010-240731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 1/02-1/06
B21B 37/00
B21B 37/26
B21B 37/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の搬送方向に配置されたロールユニットにより、前記鋼板の形状を矯正しながら前記鋼板の製造を行う鋼板の製造方法において、
前記ロールユニットの前記鋼板に対する開放/圧下昇降速度をX、前記ロールユニットによる前記鋼板の押し込み量をY、前記鋼板が搬送されるラインの加減速レートをZ、前記鋼板を圧下している前記ロールユニットの開放動作を開始するライン速度の設定値をαとした場合において、
制御装置が
、
Z×Y/Xの値に応じて設定値αを決定し、現在のライン速度が前記設定値αに達したときに、前記ロールユニットの開放動作を開始させ
、
前記鋼板の降伏強度が所定範囲である場合、Z×Y/Xの値を前記設定値αとして決定し、
前記鋼板の降伏強度が前記所定範囲よりも高い場合、Z×Y/Xの値よりも小さな値を前記設定値αとして決定する、
鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記制御装置が、
前記鋼板の搬送が停止する際に、現在のライン速度および前記設定値αに基づいて、前記ロールユニットの開放動作を開始させ、
前記鋼板の搬送が再開する際に、予め設定された押し込み量Yとなるように、前記ロールユニットによる前記鋼板の圧下動作を開始させる、
請求項
1に記載の鋼板の製造方法。
【請求項3】
鋼板の搬送方向に配置され、前記鋼板の形状を矯正するロールユニットと、制御装置とを備える鋼板の製造設備において、
前記ロールユニットの前記鋼板に対する開放/圧下昇降速度をX、前記ロールユニットによる前記鋼板の押し込み量をY、前記鋼板が搬送されるラインの加減速レートをZ、前記鋼板を圧下している前記ロールユニットの開放動作を開始させるライン速度の設定値をαとした場合において、
前記制御装置は
、
Z×Y/Xの値に応じて設定値αを決定し、現在のライン速度が前記設定値αに達したときに、前記ロールユニットの開放動作を開始させ
、
前記鋼板の降伏強度が所定範囲である場合、Z×Y/Xの値を前記設定値αとして決定し、
前記鋼板の降伏強度が前記所定範囲よりも高い場合、Z×Y/Xの値よりも小さな値を前記設定値αとして決定する、
鋼板の製造設備。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記鋼板の搬送が停止する際に、現在のライン速度および前記設定値αに基づいて、前記ロールユニットの開放動作を開始させ、
前記鋼板の搬送が再開する際に、予め設定された押し込み量Yとなるように、前記ロールユニットによる前記鋼板の圧下動作を開始させる、
請求項3に記載の鋼板の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の製造方法および鋼板の製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
形状矯正装置は、連続焼鈍ラインや精整ライン等の鋼板処理設備等に設置され、鋼板の搬送方向(パスライン方向)に鋼板の形状(局所伸びと反り)を矯正する役割別のユニットが配置された設備である。この形状矯正装置では、鋼板の表裏面に矯正ロールを押し当てることにより、当該鋼板の形状を矯正する。
【0003】
形状矯正装置は、鋼板の局所伸び(不均一伸び)等による搬送方向および板幅方向の凸凹不良や反り不良を改善するために使用される。しかしながら、形状矯正装置の使用中(鋼板の圧下中)に、例えば鋼板の検査等のために鋼板の搬送が中断されると、鋼板における矯正ロールとの接触部分に圧下跡、すなわち「ストップマーク(ロールマーク等ともいう)」が発生する場合がある。このようなストップマークの発生を回避または軽減するために、例えば特許文献1~3では以下のような技術が開示されている。
【0004】
特許文献1には、鋼板の形状矯正中にラインを減速して一時停止した後、再びラインを加速して形状矯正を再開する際に、形状矯正装置の圧延速度(=ライン速度)に応じて、圧延荷重または圧下位置と圧延張力とを、単独または組み合わせて制御する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、鋼板と直接接触する矯正ロール(WR:ワークロール)と同一ユニット内に設置されている、ロールベンディングを与えるベンディング手段(IMR:中間ロール、BUR:バックアップロール)を活用し、形状矯正装置を通過した後の鋼板の板厚形状に応じてベンディング力を変化させる方法が開示されている。
【0006】
特許文献3には、鋼板の形状矯正中(ライン稼働中)に走間で矯正ロールを圧下または開放させる際に、鋼板表面または矯正ロールにスリップ疵を発生させないように制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第2573459号公報
【文献】特開平6-47415号公報
【文献】特開2014-58001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2で開示された方法は、鋼板の形状矯正を行いつつ、ストップマークの発生を軽減するものであるが、形状矯正中は矯正ロールによって鋼板を終始圧下し続けている。そのため、鋼板の搬送中断(一時停止)時に矯正ロールを開放し、搬送再開時に矯正ロールを再圧下するとした場合、再圧下時に発生するストップマークを軽減するには十分ではない。
【0009】
特許文献3で開示された方法は、特許文献1,2とは異なり、鋼板の形状矯正中に走間での矯正ロールの開放および圧下を行っている。そして、特許文献3で開放および圧下を制御する指令演算装置は、形状矯正中の鋼板の圧延速度が30(mpm)未満の場合に演算実行をする特徴を有している。
【0010】
しかしながら、特許文献3で開示された方法では、形状矯正対象の鋼板によっては、形状矯正に必要な押し込み量の設定値が大きい場合がある。この場合、30(mpm)未満で矯正ロールを開放すると、鋼板の搬送停止時にはまだ開放が完了しておらず、開放が完全に完了するまではストップマークが形成されてしまう。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ストップマークの発生を軽減することができる鋼板の製造方法および鋼板の製造設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る鋼板の製造方法は、鋼板の搬送方向に配置されたロールユニットにより、前記鋼板の形状を矯正しながら前記鋼板の製造を行う鋼板の製造方法において、前記ロールユニットの前記鋼板に対する開放/圧下昇降速度をX、前記ロールユニットによる前記鋼板の押し込み量をY、前記鋼板が搬送されるラインの加減速レートをZ、前記鋼板を圧下している前記ロールユニットの開放動作を開始するライン速度の設定値をαとした場合において、制御装置が、Z×Y/Xの値に応じて設定値αを決定し、現在のライン速度が前記設定値αに達したときに、前記ロールユニットの開放動作を開始させる。
【0013】
また、本発明に係る鋼板の製造方法は、上記発明において、前記制御装置が、前記鋼板の降伏強度が所定範囲である場合、Z×Y/Xの値を前記設定値αとして決定し、前記鋼板の降伏強度が前記所定範囲よりも高い場合、Z×Y/Xの値よりも小さな値を前記設定値αとして決定する。
【0014】
また、本発明に係る鋼板の製造方法は、上記発明において、前記制御装置が、前記鋼板の搬送が停止する際に、現在のライン速度および前記設定値αに基づいて、前記ロールユニットの開放動作を開始させ、前記鋼板の搬送が再開する際に、予め設定された押し込み量Yとなるように、前記ロールユニットによる前記鋼板の圧下動作を開始させる。
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る鋼板の製造設備は、鋼板の搬送方向に配置され、前記鋼板の形状を矯正するロールユニットと、制御装置とを備える鋼板の製造設備において、前記ロールユニットの前記鋼板に対する開放/圧下昇降速度をX、前記ロールユニットによる前記鋼板の押し込み量をY、前記鋼板が搬送されるラインの加減速レートをZ、前記鋼板を圧下している前記ロールユニットの開放動作を開始させるライン速度の設定値をαとした場合において、前記制御装置が、Z×Y/Xの値に応じて設定値αを決定し、現在のライン速度が前記設定値αに達したときに、前記ロールユニットの開放動作を開始させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、開放/圧下昇降速度X、押し込み量Yおよび加減速レートZに基づいて設定値αを決定し、当該設定値αに基づいてロールユニットの開放動作を開始させることにより、鋼板の搬送が停止した際にロールユニットの開放を完了させることができる。これにより、鋼板におけるストップマークの発生を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る鋼板の製造設備において、形状矯正装置の概略的な構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る鋼板の方法において、ラインの搬送を中断した際の、ワークロールの開放前の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る鋼板の製造方法および鋼板の製造設備について、図面を参照しながら説明する。なお、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0019】
図1は、本実施形態に係る鋼板の製造設備に含まれる形状矯正装置1の構成の一例を示している。形状矯正装置1は、鋼板Sの搬送方向に配置された複数のロールユニットにより、鋼板Sの形状を矯正するためのものである。この形状矯正装置1は、同図に示すように、局所伸び矯正ユニット10と、第一の反り矯正ユニット20と、第二の反り矯正ユニット30と、制御装置40と、を備えている。なお、以下では、局所伸び矯正ユニット10、第一の反り矯正ユニット20および第二の反り矯正ユニット30のことを、「ロールユニット」とも表記する。
【0020】
ここで、
図1では、合計3ユニットからなる形状矯正装置1を一例として示しているが、本実施形態に係る鋼板の製造方法は、同図に示した形状矯正装置1以外にも適用可能である。例えば、同図に示すような3ユニット(一つの局所伸び矯正ユニット、二つの反り矯正ユニット)ではなく、2ユニット(局所伸び矯正ユニットおよび反り矯正ユニットが一つずつ)や4ユニット(局所伸び矯正ユニットおよび反り矯正ユニットが二つずつ)からなる形状矯正装置であってもよい。また、本実施形態に係る鋼板の製造方法は、上記以外の構成であっても、少なくとも、張力を掛けながら鋼板Sを搬送する機能と、ワークロールによって鋼板Sの形状を矯正する機能とを有している形状矯正装置であれば適用可能である。
【0021】
局所伸び矯正ユニット10は、鋼板Sの局所伸び(不均一伸び)を矯正するためのものである。この局所伸び矯正ユニット10は、複数のワークロール(矯正ロール)11と、複数の中間ロール12と、複数のバックアップロール13と、を備えている。
【0022】
第一の反り矯正ユニット20は、鋼板Sの反りを矯正するためのものである。この第一の反り矯正ユニット20は、ワークロール21と、複数の中間ロール22と、複数のバックアップロール23と、複数のデフロール(デフレクターロール)24と、を備えている。
【0023】
第二の反り矯正ユニット30は、鋼板Sの反りを矯正するためのものである。この第二の反り矯正ユニット30は、複数のワークロール31と、複数の中間ロール32と、複数のバックアップロール33と、を備えている。
【0024】
制御装置40は、各ロールユニット(局所伸び矯正ユニット10、第一の反り矯正ユニット20および第二の反り矯正ユニット30)の動作を制御するためのものである。制御装置40は、各ロールユニットの圧下動作および開放動作を制御する。
【0025】
「圧下動作」とは、各ロールユニットのワークロール11,21,31を、搬送ライン(以下、「ライン」という)上の鋼板Sに対して近接させ、所望の押し込み量まで鋼板Sを圧下する動作のことを示している。また、「開放動作」とは、鋼板Sを圧下しているワークロール11,21,31を、鋼板Sから離間させ、圧下を解除する動作のことを示している。
【0026】
制御装置40は、この圧下動作および開放動作が、各ロールユニットのワークロール11,21,31で同時に行われるように制御する。また、制御装置40は、
図1に示した形状矯正装置1では、各ロールユニットのうち、上側に配置されたユニットは固定し、下側に配置されたユニットを昇降させることにより、鋼板Sに対する押し込み量を変化させる。
【0027】
制御装置40は、例えば鋼板Sの検査等により当該鋼板Sの搬送が停止する際に、現在のライン速度と、各ロールユニットのワークロール11,21,31の開放を開始するライン速度の設定値(以下、「開放開始速度設定値」という)とに基づいて、ワークロール11,21,31の開放動作を開始させる。一方、制御装置40は、鋼板Sの搬送が再開する際に、予め設定された押し込み量となるように、ロールユニットのワークロール11,21,31による鋼板Sの圧下動作を開始させる。なお、現在のライン速度は、図示しない測定装置によって常時測定されており、測定のたびに制御装置40に入力される。
【0028】
このように、制御装置40は、ラインの稼働中断中(一時停止中)は、鋼板Sに対してワークロール11,21,31がちょうど接する位置(押し込み量=0(mm)の位置)まで、ワークロール11,21,31を開放し、ラインの稼働再開まで待機させる。そして、ラインの稼働再開と同時に、形状矯正装置1の入出張力を、リリーフ張力(形状矯正装置1の不使用時の張力)から形状矯正装置1の使用時の高張力まで上昇させ、予め設定した押し込み量まで、ワークロール11,21,31の押し込みを開始する。これにより、未矯正部を発生させることなく、軽圧下により鋼板Sの形状矯正を行うことができる。すなわち、押し込み量の設定値まで到達した以降は、所望の圧下量が確保済みであるため、通常の形状矯正となる。
【0029】
ここで、
図2は、本実施形態に係る鋼板の製造方法において、ラインの搬送を中断した際の、ワークロール(ワークロール11,21,31)の開放前の状態を示す図である。同図に示すように、本実施形態では、ロールユニットのワークロールの鋼板Sに対する開放/圧下昇降速度をX(mm/s)、ワークロールによる鋼板Sの押し込み量をY(mm)、鋼板Sが搬送されるラインの加減速レートをZ(mpm/s)とする。
【0030】
開放/圧下昇降速度Xは、ワークロールが単位時間あたりにどのくらいの速さで昇降するのかを示す値であり、鋼板Sの製造設備ごとに予め設定される。また、押し込み量Yは、矯正したい鋼板Sの形状(局所伸びと反り)の大きさ等に応じて設定される。加減速レートZは、ラインが単位時間あたりにどのくらいの加速度で加速/減速するのかを示す値であり、鋼板Sの製造設備ごとに予め設定される。
【0031】
この場合において、制御装置40は、「Z×Y/X」の値を算出し、この値に応じて、鋼板Sを圧下しているワークロールの開放開始速度設定値α(mpm)を決定(設定)する。そして、制御装置40は、現在のライン速度が開放開始速度設定値αに達したときに、ワークロールの開放動作を開始させる。
【0032】
なお、「Z×Y/X」の値は、加減速レートZ(mpm/s)に設定されたラインにおいて、押し込み量Y(mm)が0になるまでに、開放/圧下昇降速度X(mm/s)のワークロールの開放が完了するような値のことを意味している。このように、ワークロールの開放を開始するライン速度(開放開始速度設定値α)の設定を可能とし、当該開放開始速度設定値αに基づいてワークロールの開放動作を開始させることにより、鋼板Sの搬送が停止した際にワークロールの開放を完了させることができる。
【0033】
ここで、制御装置40は、例えば鋼板Sの降伏強度が所定範囲(例えば200~350(MPa))である場合、Z×Y/Xの値を開放開始速度設定値αとして決定する。また、制御装置40は、例えば鋼板Sの降伏強度が所定範囲よりも高い場合(例えば450~1000(MPa))である場合、Z×Y/Xの値よりも小さな値を開放開始速度設定値αとして決定する。このように、鋼板Sの降伏強度に応じた開放開始速度設定値αを設定することにより、材料に左右されることなく、鋼板Sにおけるストップマークの発生を軽減することができる。
【0034】
なお、鋼板Sの降伏強度(MPa)は、例えば圧延方向に沿ってJIS 5号引張試験片を採取し、「JIS Z 2241」に準拠した引張試験を行って評価することができる。また、降伏強度は、上降伏点または上降伏点が見られない場合は、0.2%耐力で評価することができる。
【0035】
以上説明したような本実施形態に係る鋼板の製造方法および鋼板の製造設備では、ワークロール11,21,31による鋼板Sの圧下中に、ラインの稼働中断(一時停止)によってワークロール11,21,31と鋼板Sとの接触時間がある程度発生しうる場合の対策として、ラインの稼働中断時にワークロール11,21,31を開放し、ラインの稼働再開時に鋼板Sの再圧下を行う。
【0036】
そしてその際に、開放/圧下昇降速度X、押し込み量Yおよび加減速レートZに基づいて開放開始速度設定値α(mpm)を決定し、当該開放開始速度設定値α(mpm)に基づいてワークロール11,21,31の開放動作を開始させることにより、鋼板Sの搬送が停止した際にワークロール11,21,31の開放を完了させる。これにより、鋼板Sにおけるストップマークの発生を軽減することができる。
【0037】
また、本実施形態に係る鋼板の製造方法および鋼板の製造設備によれば、形状矯正装置1において、ワークロール11,21,31の開放(使用)/圧下(不使用)を自動的に切り替えることにより、ラインの稼働中断時と稼働再開時のいずれの場合においても、ストップマークの発生を極力軽減することができる。また、本実施形態に係る鋼板の製造方法および鋼板の製造設備によれば、搬送中にワークロール11,21,31を開放/圧下させる場合において、鋼板Sの未矯正部を発生させることなく、搬送中における開放/圧下部位は軽圧下部として形状矯正を行うことができる。
【0038】
また、鋼板Sの搬送が完全に停止してからワークロール11,21,31を開放した場合と比較して、搬送中にワークロール11,21,31を開放した場合のほうが、ストップマークの発生が軽減される。そのため、工程生産を想定した場合、ストップマークが形状不良部として製品にならなくなる可能性を抑えることができる。
【実施例】
【0039】
本実施形態に係る鋼板の製造方法および鋼板の製造設備の実施例について説明する。本実施例では、冷間焼鈍後の精整ラインにおいて、本発明に係る形状矯正装置を用いて、鋼板の形状矯正を行った。
【0040】
鋼板としては、板厚:0.4~1.6(mm)、板幅:800~1600(mm)のものを用いた。また、形状矯正装置としては、
図1と同様に3ユニット式のものを用いた。また、鋼板の降伏強度(MPa)は、圧延方向に沿ってJIS 5号引張試験片を採取し、「JIS Z 2241」に準拠した引張試験を行って評価した。また、降伏強度は、上降伏点または上降伏点が見られない場合は、0.2%耐力で評価した。
【0041】
鋼板の「局所伸び」および「反り」を矯正するために、形状矯正装置の入出側における鋼板の張力と、各ロールユニットのワークロールの鋼板に対する押し込み量Yとを調整した。その結果、形状矯正前に最大約10(mm)の局所伸び部高さ(=鋼板の張力を切り、鋼板を定盤に垂らした状態で、定盤から垂直方向に浮いた鋼板の高さ)を、形状矯正によって最大0mmまで矯正することができた。また、鋼板の反りについても、形状矯正後の鋼板の端部を切断して測定したところ、0(mm)まで矯正することができた。
【0042】
本実施例では、変数として、ロールユニットのワークロールの鋼板Sに対する開放/圧下昇降速度X(mm/s)、ワークロールによる鋼板の押し込み量Y(mm)、鋼板が搬送されるラインの加減速レートZ(mpm/s)を用いた。
【0043】
鋼板:軟質鋼(低炭素鋼)、製品厚:2.4(mm)、降伏強度:240(MPa)である場合を考える。この場合、X=5.0(mm/s)、Y=8.0(mm)、Z=15.0(mpm/s)とすると、まず、押し込み量Yから、鋼板とワークロールとがちょうど接する位置までに、ワークロールの開放に掛かる時間は、「Y/X=1.6(s)」となる。
【0044】
加減速レートZ(mpm/s)でラインが減速しているところ、1.6(s)経過後にちょうどラインが停止する(0(mpm))には、Z(mpm/s)×Y(mm)/X(s)=24.0(mpm)となる。この場合、圧下から開放への切り替えが作動する閾のライン速度値、すなわち鋼板を圧下しているワークロールの開放開始速度設定値α=24.0(mpm)とすることにより、ラインの停止と同時にワークロールの開放が完了する。また、α=24.0(mpm)である場合の軽圧下部の長さは、24.0(mpm)×1.6(s)/60(s/min)×1/2=0.3(m)となる。なお、「軽圧下部の長さ」とは、ラインが減速してワークロールの開放が完了するまでの間に、ワークロールが鋼板に接触している部分の長さのことを示している。
【0045】
このように、鋼板Sの降伏強度が所定範囲(例えば200~350(MPa))である場合、Z×Y/Xの値(=24.0(mpm))を開放開始速度設定値αとして設定する。この場合、開放開始速度設定値αを、Z×Y/Xの値(=24.0(mpm))未満に設定すると、未矯正部の発生は防ぐことができる。しかしながら、ラインの停止以降もワークロールの開放が完了しないため、ワークロールの開放完了までに当該ワークロールが鋼板を圧下している時間分だけ、ストップマークが発生してしまう。
【0046】
また、開放開始速度設定値αを、Z×Y/Xの値(=24.0(mpm))よりも大きく設定すると、ストップマークの発生は防ぐことができる。しかしながら、ラインが停止する前にワークロールの開放が完了することになるため、未矯正部が発生することになり、形状が保証できなくなる。
【0047】
ここで、従来の特許文献3(特開2014-58001号公報)の技術(請求項3参照)を本実施例に当てはめて考える。例えば上記と同様に、X=5.0(mm/s)、Y=8.0(mm)、Z=15.0(mpm/s)のときに、αを27.0(mpm)に設定する。この場合、特許文献3の技術では、「α=30.0(mpm)未満」で形状不良を発生させることのない設定としているが、未矯正部が発生することになる。一方、本発明では、一般化したX,Y,Zから、鋼板の降伏強度に応じて「α≦Z×Y/X」に設定することにより、特許文献3のように「α=30.0(mpm)未満」に限定されることなく、他のあらゆる形状矯正装置の仕様にも応用が可能である。
【0048】
例えば、鋼板:軟質鋼(低炭素鋼)、製品厚:2.4(mm)、降伏強度:240(MPa)のときに、X=5.0(mm/s)、Y=16.0(mm)、Z=15.0(mpm/s)とした場合を考える。この場合、αを48.0(mpm)に設定することにより、未矯正部の発生およびストップマークの発生を抑制することができる。
【0049】
上記の計算例は、ワークロールの開放までのラインの停止時間が比較的短くても、ストップマークが発生しやすい軟質鋼を想定した場合の例である。他方、硬質鋼の場合、ラインの停止時にワークロールが鋼板を押し込んでいる時間が一定程度発生していても、鋼板の降伏強度が高い程、ストップマークは発生しにくくなると考えられる。例えば、鋼板:硬質鋼(高Mn鋼)、製品厚:1.6(mm)、降伏強度:530(MPa)のときに、X=5.0(mm/s)、Y=16.0(mm)、Z=15.0(mpm/s)とした場合を考える。この場合、αを48.0(mpm)よりも小さな値に設定したとしても、軟質鋼の場合と比較してストップマークは発生しにくくなる。
【0050】
表1は、上記のような前提のもとで、複数の鋼板について、ストップマークおよび未矯正部の発生有無を調査した結果を示している。表1に示すように、ストップマークと未矯正部については、いずれも発生した場合を「×」と評価し、発生しなかった場合を「〇」と評価した。
【0051】
【0052】
表1において、No.1~4は基準材料(軟質鋼)を用いた場合の比較例、No.5~7は基準材料(軟質鋼)を用いた場合の実施例(発明例)、No.8は基準材料よりも硬い材料(硬質鋼)を用いた場合の実施例、No.9は基準材料よりも硬い材料(硬質鋼)を用いた場合の比較例、No.10,11は基準材料よりも柔らかい材料を用いた場合の比較例、である。
【0053】
また、本実施例において、「基準材料」とは、例えば降伏強度が200~350(MPa)の範囲である材料を示している。また、「基準材料よりも硬い材料」とは、例えば降伏強度が450~1000(MPa)の範囲である材料を示している。また、「基準材料よりも柔らかい材料」とは、例えば降伏強度が100~190(MPa)の範囲である材料を示している。以下、表1の調査結果について詳細に説明する。
【0054】
(No.1)
No.1は、降伏強度:225(MPa)、X=5.0(mm/s)、Y=8.0(mm)、Z=15.0(mpm/s)、Z×Y/X=24.0(mpm)である。この場合、開放開始速度設定値αを、Z×Y/Xの値よりも小さい「20.0(mpm)」に設定したところ、未矯正部は発生しなかったものの(評価〇)、ストップマークは発生した(評価×)。
【0055】
(No.2)
No.2は、降伏強度:225(MPa)、X=5.0(mm/s)、Y=8.0(mm)、Z=15.0(mpm/s)、Z×Y/X=24.0(mpm)である。この場合、開放開始速度設定値αを、Z×Y/Xの値よりも大きい「28.0(mpm)」に設定したところ、ストップマークは発生しなかったものの(評価〇)、未矯正部は発生した(評価×)。
【0056】
(No.3)
No.3は、降伏強度:225(MPa)、X=5.0(mm/s)、Y=16.0(mm)、Z=15.0(mpm/s)、Z×Y/X=48.0(mpm)である。この場合、開放開始速度設定値αを、Z×Y/Xの値よりも小さい「28.0(mpm)」に設定したところ、未矯正部は発生しなかったものの(評価〇)、ストップマークは発生した(評価×)。
【0057】
(No.4)
No.4は、降伏強度:225(MPa)、X=10.0(mm/s)、Y=8.0(mm)、Z=15.0(mpm/s)、Z×Y/X=12.0(mpm)である。この場合、開放開始速度設定値αを、Z×Y/Xの値よりも大きい「20.0(mpm)」に設定したところ、ストップマークは発生しなかったものの(評価〇)、未矯正部は発生した(評価×)。
【0058】
(No.5)
No.5は、降伏強度:225(MPa)、X=5.0(mm/s)、Y=8.0(mm)、Z=15.0(mpm/s)、Z×Y/X=24.0(mpm)である。この場合、開放開始速度設定値αを、Z×Y/Xの値と同じ「24.0(mpm)」に設定したところ、ストップマークおよび未矯正部はともに発生しなかった(ともに評価〇)。
【0059】
(No.6)
No.6は、降伏強度:225(MPa)、X=5.0(mm/s)、Y=16.0(mm)、Z=15.0(mpm/s)、Z×Y/X=48.0(mpm)である。この場合、開放開始速度設定値αを、Z×Y/Xの値と同じ「48.0(mpm)」に設定したところ、ストップマークおよび未矯正部はともに発生しなかった(ともに評価〇)。
【0060】
(No.7)
No.7は、降伏強度:225(MPa)、X=10.0(mm/s)、Y=8.0(mm)、Z=15.0(mpm/s)、Z×Y/X=12.0(mpm)である。この場合、開放開始速度設定値αを、Z×Y/Xの値と同じ「12.0(mpm)」に設定したところ、ストップマークおよび未矯正部はともに発生しなかった(ともに評価〇)。
【0061】
(No.8)
No.8は、降伏強度:540(MPa)、X=12.0(mm/s)、Y=16.0(mm)、Z=36.0(mpm/s)、Z×Y/X=48.0(mpm)である。この場合、開放開始速度設定値αを、Z×Y/Xの値よりも小さい「40.0(mpm)」に設定したところ、ストップマークおよび未矯正部はともに発生しなかった(ともに評価〇)。このように、No.8の材料は硬質であるため、ワークロールと鋼板との接触が比較的短時間であれば、Z×Y/Xの値よりもαを小さく設定しても、ストップマークは発生しない。
【0062】
(No.9)
No.9は、降伏強度:540(MPa)、X=12.0(mm/s)、Y=16.0(mm)、Z=36.0(mpm/s)、Z×Y/X=48.0(mpm)である。この場合、開放開始速度設定値αを、Z×Y/Xの値よりも小さい「20.0(mpm)」に設定したところ、未矯正部は発生しなかったものの(評価〇)、ストップマークは発生した(評価×)。No.9では、Z×Y/Xの値とαとの差が、No.8と比較して大きい。そのため、Z×Y/Xの値とαとの差が一定以上になると、材料が硬質であってもストップマークの発生を無視できなくなる。
【0063】
(No.10)
No.10は、降伏強度:150(MPa)、X=10.0(mm/s)、Y=12.0(mm)、Z=20.0(mpm/s)、Z×Y/X=24.0(mpm)である。この場合、開放開始速度設定値αを、Z×Y/Xの値よりも大きい「30.0(mpm)」に設定したところ、ストップマークおよび未矯正部がともに発生した(ともに評価×)。このように、No.10の材料は軟質であるため、搬送中に開放した場合であっても、ストップマークが発生する可能性がある。
【0064】
(No.11)
No.11は、降伏強度:150(MPa)、X=10.0(mm/s)、Y=12.0(mm)、Z=20.0(mpm/s)、Z×Y/X=24.0(mpm)である。この場合、開放開始速度設定値αを、Z×Y/Xの値よりも大きい「40.0(mpm)」に設定したところ、ストップマークは発生しなかったものの(評価〇)、未矯正部は発生した(評価×)。
【0065】
以上のように、基準材料の場合は「α=Z×Y/X」とし、基準材料よりも硬い材料の場合は「α<Z×Y/X」とすることにより、ストップマークおよび未矯正部の発生をともに抑制できることが分かった。
【0066】
以上、本発明に係る鋼板の製造方法および鋼板の製造設備について、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0067】
1 形状矯正装置
10 局所伸び矯正ユニット
11 ワークロール(矯正ロール)
12 中間ロール
13 バックアップロール
20 第一の反り矯正ユニット
21 ワークロール(矯正ロール)
22 中間ロール
23 バックアップロール
24 デフロール(デフレクターロール)
30 第二の反り矯正ユニット
31 ワークロール(矯正ロール)
32 中間ロール
33 バックアップロール
40 制御装置
S 鋼板