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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】光増幅器及び光増幅方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/291 20130101AFI20250218BHJP
   H04B 10/25 20130101ALI20250218BHJP
   G02F 1/35 20060101ALN20250218BHJP
   H04J 14/00 20060101ALN20250218BHJP
【FI】
H04B10/291
H04B10/25
G02F1/35 501
H04J14/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023140118
(22)【出願日】2023-08-30
(62)【分割の表示】P 2022035924の分割
【原出願日】2018-04-11
(65)【公開番号】P2023160879
(43)【公開日】2023-11-02
【審査請求日】2023-08-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/空間多重フォトニックノード基盤技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ル タヤンディエ ドゥ ガボリ エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】松本 恵一
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-042164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/291
H04B 10/25
H04J 14/00 - 14/04
G02F 1/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光の増幅に使用される励起光を出力する励起光源と、
前記励起光を使ったクラッド励起よって、前記信号光に対する分布型増幅器を構成するマルチコアファイバと、を備え、
前記励起光源は、多重化されたマルチモードレーザ光を出力し、
前記マルチコアファイバの内側クラッドは、前記信号光の伝搬方向に沿って直径が増加する
光増幅器。
【請求項2】
前記信号光に対する集中型増幅器をさらに備え、
前記集中型増幅器は、エルビウム以外の希土類元素ドープのマルチコアファイバを含む
請求項に記載の光増幅器。
【請求項3】
前記信号光に対する集中型増幅器をさらに備え、
前記集中型増幅器は、前記分布型増幅器と直列に配置され、または、前記分布型増幅器の内部に含まれている
請求項に記載の光増幅器。
【請求項4】
信号光の増幅に使用される励起光を出力する励起光源と、
前記励起光を使ったクラッド励起によって、前記信号光に対する分布型増幅器を構成するマルチコアファイバと、
前記信号光に対する集中型増幅器と、を備え、
前記励起光源は、多重化されたマルチモードレーザ光を出力し、
前記励起光源からの前記多重化されたマルチモードレーザ光は、前記分布型増幅器及び前記集中型増幅器の両方に使用される
光増幅器
【請求項5】
前記励起光源は、複数個のレーザダイオードと、前記複数個のレーザダイオードからの複数の出力光を多重化する光カプラと、を含む
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光増幅器。
【請求項6】
前記励起光は、波長多重及びモード多重の少なくとも一方によって多重化されている
請求項1乃至5のいずれかに記載の光増幅器。
【請求項7】
前記信号光は、波長分割多重及び空間分割多重の少なくとも一方によって多重化されている
請求項1乃至のいずれか一項に記載の光増幅器。
【請求項8】
前記分布型増幅器は、光通信波長帯のマルチバンドに対応可能であり、
前記マルチバンドは、Lバンド、Cバンド及びSバンドの少なくともいずれか一つを含む
請求項1乃至のいずれか一項に記載の光増幅器。
【請求項9】
信号光の増幅に使用される励起光を出力し、
前記励起光を使ったクラッド励起よって、マルチコアファイバは前記信号光に対する分布型増幅器を構成し、
多重化されたマルチモードレーザ光を前記励起光として用い、
前記マルチコアファイバの内側クラッドは、前記信号光の伝搬方向に沿って直径が増加する
光増幅方法。
【請求項10】
信号光の増幅に使用される励起光を出力し、
前記励起光を使ったクラッド励起によって、マルチコアファイバは前記信号光に対する分布型増幅器を構成し、
多重化されたマルチモードレーザ光を前記励起光として用い、
前記多重化されたマルチモードレーザ光は、前記分布型増幅器及び前記信号光に対する集中型増幅器の両方に使用される
光増幅方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光増幅器及び光増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野では、光ファイバリンクの容量を増加させることが望ましい。これは、光ファイバリンク上で伝送される信号のスペクトル効率 (SE:Spectral Efficiency) を増加させることで実現できる。これを達成する一般的な方法は、送信される情報に対してより効率的な変調フォーマットを使用することである。この変調フォーマットは、波長分割多重 (WDM:Wavelength Division Multiplexing) と組み合わせて用いることができる。また、長距離伝送の可能性を維持しつつ、1本のファイバによる伝送容量を増大させるため、空間分割多重 (SDM:Space Division Multiplexing) が用いられる。
【0003】
非特許文献1では、40波長の128Gb/s PM‐QPSK (Polarization Multiplexed - Quadrature Phase Shift Keying:偏波多重直交位相シフトキーイング)信号を6,160km以上の伝送に用いられる、7つのコアを含むマルチコアファイバ (MCF:Multi Core Fiber )で実装されたSDMが開示されている。MCFは、同一ファイバ内で光信号を伝送するいくつかのコアと、MCFを利得媒体とするファイバ増幅器からなるマルチコア(MC:multicore)-エルビウムドープファイバ増幅器(EDFA:Erbium Doped Fiber Amplifier )からなる。MC-EDFAは、直接コア励起法により、分離された励起光源で1つのMCF利得媒体を含む各コアを励起する。また、特許文献1では、コアに希土類元素をドープした他のマルチコアファイバ増幅器が提案されている。
【0004】
非特許文献1のシステムによれば、システムの容量を、MCFのコア数倍、すなわち非特許文献1のコア数の7倍にすることができる。MCFを用いることにより、各コアにおけるWDMに加えて、多数のコアを用いて光信号を空間的に多重化することが可能である。これにより、伝送距離を犠牲にすることなく、ファイバの伝送容量を増大させることができる。
【0005】
非特許文献2は、個別コア励起(ICP:Individual Core Pumping)、共有コア励起(SCP:Shared Core Pumping)及び共通クラッド励起(CCP:Common Cladding Pumping)などの様々な異なる増幅方法を開示している。非特許文献2では、これらの技術をMC‐EDFAに適用している。
【0006】
さらに、ラマン増幅も、優れた雑音特性を有する、広く知られた増幅プロセスである。ラマン増幅方式の一例が非特許文献3によって提案されている。この方式は、誘導ラマン散乱(SRS:Stimulated Raman Scattering)に依拠し、ファイバ中のフォノン放出により、短波長励起光(高周波)が長波長(低周波)の信号を非線形状態で増幅する。典型的には、1430nm~1490nmの範囲の励起光を使用して、C及びLバンドの一方または両方の信号を増幅する。ラマン増幅は伝送ファイバ内の広範囲で起こるため、分布増幅である。ラマン増幅の雑音特性はEDFAの雑音特性より優れている。ハイブリッドEDFA/ラマン増幅を実現するために、EDFAにラマン増幅を適用することができる。しかし、非特許文献3に記載されるように、ラマン増幅はEDFAよりも消費電力が大きい。そのため、電源供給が制限されると、低雑音特性のラマン増幅の利用は制限される。
【0007】
さらに、ラマン増幅に関連する2つの問題が知られている。第1には、異なる波長の励起光が波長多重される(すなわちWDM)ことである。しかし、高出力励起光は広いスペクトルを有するので、多重化された励起光のスペクトルはいくつかの領域で重複し得る。重複したスペクトル部分の波長領域における多重化は、異なる励起光の重複の抑制につながり、増幅には使用されない。これにより、非効率的な消費電力が増加する。
【0008】
第2に、ラマン増幅は、信号有効領域による励起光パワーの比である、ファイバコアに依存した励起光のパワー密度に依存する。このため、伝送光信号の劣化が激しいことからファイバコア直径を調整することができず、ラマン増幅を伝送距離に応じて調整することができない。したがって、ラマン増幅の設計は、伝送距離パラメータの観点から、信号対雑音及び電力消費の点で最適に設計できない。
【0009】
加えて、特許文献2及び非特許文献4において、MCFによるSDMに対するラマン増幅が提案されている。この場合には、MCF内のコアのそれぞれに励起光を与え、各コアでラマン増幅を行う。よって、MCFによるSDMに対するラマン増幅は、大容量化及び並列化を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許公開第2008/0018989号明細書
【文献】米国特許公開第2007/0268569号明細書
【非特許文献】
【0011】
【文献】H. Takahashi et al., "First Demonstration of MC-EDFA-Repeatered SDM Transmission of 40 x 128-Gbit/s PDM-QPSK Signals per Core over 6,160-km 7-core MCF", ECOC 2012, paper Th.3.C.3.
【文献】E. Le Taillandier de Gabory et al., "Transmission of 256Gb/s PM-16QAM Signal through 7-Core MCF and MC-EDFA with Common Cladding and Variable Shared Core Pumping for Reduction of Power Consumption", ECOC 2017, paper M.1.E.2
【文献】J-X. Cai et al., "49.3 Tb/s Transmission Over 9100 km Using C+L EDFA and 54 Tb/s Transmission Over 9150 km Using Hybrid-Raman EDFA", Journal of Lightwave technology, Vol. 33, No. 13, pages 2724-2734.
【文献】T. Mizuno et al., "Hybrid Cladding-pumped EDFA/Raman for SDM Transmission Systems Using Core-by-core Gain Control Scheme", ECOC 2017, paper M.1.E.3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上述のラマン増幅には、いくつかの問題がある。非特許文献3に記載されるように、ラマン増幅はEDFAよりも消費電力が大きい。そのため、電源供給が制限されると、低雑音特性のラマン増幅の利用は制限される。また、非特許文献4におけるMCFによるSDMに対するラマン増幅は、大容量化及び並列化を実現できる。しかしながら、各コアに励起光を供給する必要があるため、励起光を供給するための多数の装置が必要となる。その結果、コストが高くなり、装置の設置面積が大きくなる。そのため、ラマン光増幅器の消費電力、コスト及びサイズの低減が求められている。
【0013】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、消費電力及びサイズを抑えつつラマン増幅を行うことができる光増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様である光増幅器は、信号光の増幅に使用される励起光を出力する励起光源と、前記励起光を使ったクラッド励起よって、前記信号光に対する分布型増幅器を構成するマルチコアファイバと、を備え、前記励起光源は、多重化されたマルチモードレーザ光を出力するものである。
【0015】
本発明の一態様である光増幅方法は、信号光の増幅に使用される励起光を出力し、前記励起光を使ったクラッド励起よって、マルチコアファイバは前記信号光に対する分布型増幅器を構成し、多重化されたマルチモードレーザ光を前記励起光として用いるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、消費電力及びサイズを抑えつつラマン増幅を行うことができる光増幅器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の形態1にかかる光通信システムを模式的に示すブロック図である。
図2】実施の形態1にかかるファイバラマン増幅器の構成を示す図である。
図3】実施の形態1にかかるファイバラマン増幅器の構成を示す図である。
図4】実施の形態1にかかる繰り返し配置されたFRAの構成を示す図である。
図5】実施の形態1にかかるファイバラマン増幅器及び比較例のシミュレーション結果を示す図である。
図6】実施の形態2にかかるファイバラマン増幅器の構成を示す図である。
図7】レーザから放射された光及び励起光のスペクトルを示す図である。
図8】レーザの消費電力の比較を示す図である。
図9】実施の形態3にかかるファイバラマン増幅器の構成を示す図である。
図10】実施の形態4にかかるファイバラマン増幅器の構成を示す図である。
図11】多重光信号のパワーのシミュレーションを示す図である。
図12】実施の形態5にかかるファイバラマン増幅器の構成を示す図である。
図13】多重光信号のパワーのシミュレーションを示す図である。
図14】実施の形態6にかかるファイバラマン増幅器の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0019】
実施の形態1
実施の形態1にかかるファイバラマン増幅器について説明する。図1は、実施の形態1にかかる光通信システム100を模式的に示す図である。光通信システム100は、光通信装置101及び102、ファイバラマン増幅器(FRA:Fiber Raman Amplifier)10を有する。
【0020】
光通信装置101及び102は、複数のトランスポンダを有する、光トランシーバとして構成される。本実施の形態では、簡略化のため、光通信装置101が、FRA10を介して、光通信装置102へ多重光信号SIGを出力する例について説明する。なお、光通信装置102がFRAを介して光通信装置101へ多重光信号を出力してもよいことは、言うまでもない。
【0021】
光通信装置101は、トランスポンダから出射された光信号を多重化して得られる多重光信号SIGを出力する。ここで、トランスポンダから出射される光信号は、波長多重方式(例えば、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)と特定の多重方式(例えば、空間分割多重(SDM:Space Division Multiplexing)とにより多重化される。
【0022】
光通信装置101から出力された多重光信号SIGは、光通信装置102に送信される間に減衰する。よって、本構成では、多重光信号SIGの減衰を補償するために、少なくとも一つのFRA10が光通信デバイス101と光通信デバイス102との間に設けられる。
【0023】
FRA10は、誘導ラマン散乱(SRS:Stimulated Raman Scattering)により多重光信号SIGを増幅する光増幅器として構成されている。なお、SRSによる増幅をラマン増幅と称する。FRA10は、多重光信号SIGを増幅して光通信装置102に出力する。これにより、光通信装置102は、適切な復調を行うのに十分なパワーを有する多重光信号SIGを受信することができる。
【0024】
FRA10の構成について説明する。図2及び図3に、実施の形態1にかかるFRA10の構成を示す。FRA10は、マルチコアファイバ(MCF:Multicore Fiber)110、WDMカプラ120及び光源130を有する。
【0025】
MCF110は、ダブルクラッド構造を有し、7つのコアC1~C7を有する。MCF110の長さは、一般に数十キロメートル、例えば80キロメートルである。光通信装置101から出力される多重光信号SIGは、コアC1~C7を介して伝送される。つまり、WDMによって多重化された多重光信号SIG中の光信号はコアC1~C7に分配されるため、MCF110中でSDMによって多重化される。
【0026】
本構成では、コアC1~C7は内側クラッドCL1に含まれ、内側クラッドCL1は外側クラッドCL2に含まれる。外側クラッドCL2の屈折率は内側クラッドCL1の屈折率よりも低い。例えば、外側クラッドCL2は、内側クラッドCL1の表面に低屈折率樹脂の層を塗布して形成してもよい。
【0027】
また、ダブルクラッド構造は、単一のクラッドと、この単一クラッドを囲む空気(空気層または空気孔)とによって構成されてもよい。この場合、空気の屈折率は一般に単一のクラッドよりも低いので、単一のクラッドを内側クラッドCL1として機能させることができ、かつ、空気を外側クラッドCL2として機能させることができる。
【0028】
光源130(第1の光源とも称する)は、レーザ装置やレーザダイオードなどの複数のレーザを有する。本実施の形態では、光源130は、マルチモードレーザである3つのレーザ131~133を有する。レーザ131~133は、それぞれ、励起光としてMCF110に供給されるマルチモードレーザ光であるレーザ光L1~L3(第1のマルチモードレーザ光とも称する)を出力する。なお、レーザの数は適宜変更可能である。
【0029】
例えば、レーザ131~133から出射されるレーザ光L1~L3の中心波長は、所定の範囲内において異なっている。この範囲は、典型的には1430nm~1490nmである。レーザ光L1~L3のそれぞれのパワーは、典型的には数ワットである。レーザ131~133のそれぞれは、非特許文献3及び非特許文献4で用いられるレーザのような単一モードレーザに比べて電力効率が高い。レーザ光のスペクトルの全部又は一部は、重ね合わされてもよい。
【0030】
MCF110の出力(第1の端部とも称する)及び光源130の出力は、WDMカプラ120に接続される。WDMカプラ120は、MCF110を介して伝送された多重光信号SIGを光通信装置102に出力できる。WDMカプラ120は、レーザ131~133から出射されたレーザ光L1~L3を合波する。この場合、レーザ光L1~L3を波長多重することができる。また、レーザ光L1~L3は、波長多重される前に偏波多重されてもよい。
【0031】
WDMカプラ120(第1の光カプラとも称する)は、合波されたレーザ光をMCF110の内側クラッドCL1に結合することで、合波されたレーザ光は内側クラッドCL1を介してMCF110の入力に伝送される(第2の端部とも称する)。これにより、励起光PL(第1の励起光とも称する)である合波されたレーザ光を用いて、コアC1~C7の全てを同時に励起する。MCF110はダブルクラッド構造を有しているため、ダブルクラッド構造を有しないMCFと同様に、内側クラッドCL1の外部において無駄になることなく、内側クラッドCL1を介して励起光PLを伝送することができる。
【0032】
ここで、多重光信号SIGの伝送方向を順方向(第1の方向とも称する)とする。順方向とは反対の方向を逆方向(第2の方向とも称する)とする。MCF110では、励起光PLは逆方向に伝送される。
【0033】
本実施の形態では、光通信装置101及び102は、37.5GHzのチャネル幅でPM-16QAM (位相変調-16直交振幅変調:Phase Modulation - 16 Quadrature Amplitude Modulation)の変調方式を用いた200Gb/sの光信号を送受信することができる。各光通信装置から出力される多重光信号は、100波長の光信号を含む。コアC1~C7のそれぞれは、最大20Tb/sの光信号を送信することができるので、MCF110の総容量は最大で140Tb/sとなる。
【0034】
次に、FRA10の利点を検討するため、励起光がコアによって伝送される比較例について説明する。この例では、非特許文献4のように、MCFのコアでラマン増幅が直接的に行われる。この場合では、1コア当たり3つのレーザ光を波長多重することで、広帯域化及び高利得化を図っている。よって、比較例では、1コア当たり3つのレーザが必要である。したがって、140Tb/sの総容量をMCF110によって実現する場合、3×7=21個のレーザが必要である。
【0035】
これに対し、FRA10によれば、多重光信号SIGのラマン増幅は、より少数の励起用レーザで実現することができる。これにより、FRA全体のサイズを抑制し、低コストで製造する上で有利である。
【0036】
また、光通信装置101と光通信装置102との間の距離が数百km以上の場合には、光通信装置101と光通信装置102との間に複数のFRAを直列的に配置してもよい。図4に、実施の形態1にかかる繰り返し配置されたFRAの構成を示す。図4に示すように、N(Nは、2以上の整数)個のFRA10_1~10_Nが直列的に配置されている。
【0037】
上述のように、1つのFRA10は、80kmの1つのMCF110をカバーすることができる。これにより、FRA10_1~10_Nは、N×80kmをカバーすることができる。例えば、光通信装置101と光通信装置102との間の距離が400kmである場合には、Nは5に設定される。本構成によれば、多重光信号SIGはFRA10_1~10_Nで繰り返し増幅されるので、長距離伝送による多重光信号SIGの減衰を適切に補償することができる。
【0038】
図5に、本構成及び比較例のシミュレーション結果を示す。図5において、実線は実施の形態1にかかるFRAに含まれるレーザの数を表す。破線は、比較例にかかるFRAを直列的に配置した場合のレーザ数を示す。
【0039】
比較例では、FRAの数が1つ増えると、レーザの数は21個増える。N=5のとき、レーザの数は105個にもなる。これに対し、本構成によれば、FRAの数が1つ増えるとレーザの数は3個しか増えない。N=5のとき、レーザの数はわずか15個である。
【0040】
よって、FRAを直列的に配置しても、本構成では、励起用レーザの数を減らすことができ、FRAの全体サイズ及びとコストを抑えることができる。
【0041】
実施の形態2
次に、実施の形態2にかかるファイバラマン増幅器について説明する。図6に、実施の形態2にかかるFRA20の構成を模式的に示す。FRA20は、FRA10のWDMカプラ120及び光源130を、空間分割多重(SDM:Space Division Multiplex)カプラ220(第1の光カプラとも称する)及び光源230(第1の光源とも称する)に置き換えた構成を有する。
【0042】
光源230は、レーザ131及び132とモードカプラ230Aとを有する。換言すれば、光源130と比較して、光源230は、レーザ133を除去し、かつ、モードカプラ230Aを追加した構成を有する。レーザ131及び132から出射されたレーザ光L1及びL2は、入力において空間分割多重を行うモードカプラ230Aによりモード多重される。励起光PLである多重光は、SDMカプラ220の入力に供給される。SDMカプラ220は、励起光PLをMCF110の内側クラッドCL1に結合する。
【0043】
よって、本構成によれば、実施の形態1と同様に、MCFを通じて伝送される多重光信号SIGは、適宜SRSによって増幅される。
【0044】
また、FRA20の利点について説明する。図7に、光L1及びL2と励起光PLとのスペクトルを示す。図7では、FRA20内の励起光PLをPL_2で示している。また、図7には、例えばWDMカプラ120によりレーザ光L1及びL2が波長多重された励起光PL_Cが、比較例Aとして示されている。
【0045】
図7に示すように、励起光PL_2及びPL_Cのピークは、カプラの挿入損失により、レーザ光L1及びL2のピークよりも低くなる。また、励起光PL_2及びPL_Cのピークはほぼ一致している。しかし、2つのピーク間の中央領域では、励起光PL_2のパワーは、励起光PL_Cのパワーよりも大きい。これは、励起光PL_2が波長多重ではなくモード多重されており、レーザ光L1及びL2を追加損失なく多重化できるためである。
【0046】
その結果、本構成によれば、FRA10に比べて、レーザが発するレーザ光のパワーを低減することができる。図8に、レーザの消費電力の比較を示す。図8では、非特許文献4の2つのレーザの消費電力を比較例Bとして示している。図8に示すように、FRA20は消費電力をさらに低減することができる。
【0047】
実施の形態3
次に、実施の形態3にかかるファイバラマン増幅器について説明する。図9に、実施の形態3にかかるFRA30の構成を示す。FRA30は、FRA10のMCF110を、MCF310に置換し、かつ、MC-EDFA(マルチコア-エルビウムドープファイバ増幅器:Multi Core - Erbium Doped Fiber Amplifier)340を追加した構成を有する。本構成において、MC-EDFA340は、MCF310を介してSRSにより増幅された多重光信号SIGをさらに増幅する。なお、図9では、簡略化のため、外側クラッドCL2を省略している。
【0048】
MCF110と同様に、MCF310もコアC1~C7を有する。しかし、MCF310の内側クラッドCL1の入力端の直径D1は、出力端の直径D2よりも小さい。内側クラッドCL1の直径は、順方向(または逆方向)に連続的に変化する。具体的には、内側クラッドCL1の直径は、入力端から出力端に向かって連続的に増加する。
【0049】
この場合、実施の形態1と同様に、励起光PLは逆方向へ伝送される。MCF310の出力端における励起光PLのパワー密度は、大きな直径D2により低下し、これによりラマン増幅の利得も低下する。また、MCF310の出力端からの距離が長くなると、SRSによる消費のために、励起光のパワーが低下する。
【0050】
すなわち、逆方向においては、励起光PLのパワーが減少するのにしたがって、内側クラッドCL1の直径も減少する。よって、励起光PLのパワー密度(すなわち、ラマン増幅の利得)は、逆方向の長い距離において平均化される。また、内側クラッドCL1の直径の変化を適切に設計することにより、励起光PL(すなわち、SRSによる振幅利得)のパワー密度を長い距離において一定に保つことができる。
【0051】
励起光PLのパワー密度は平均化されるか、一定であるため、多重光信号SIGの伝送特性を変化させることなく、安定に保つことができる。したがって、本構成によれば、SRSによって、多重光信号SIGをより高品質に増幅することができる。
【0052】
実施の形態4
次に、実施の形態4にかかるファイバラマン増幅器について説明する。図10に、実施の形態4にかかるFRA40の構成を示す。FRA40は、ファイバラマン増幅器30のMCF310をMCF410に置換した構成を有する。
【0053】
MCF410は、MCF410A及び410Bを有する。MCF410Aは、MCF410の入力側に配置される。MCF410Bは、MCF410の出力側に配置される。MCF410A及び410Bは、スプライス点410Cでスプライスされる。
【0054】
MCF310と同様に、MCF410A及び410BもコアC1~C7を有する。MCF410A及び410Bのそれぞれの内側クラッドの直径は一定である。しかし、MCF410Aの内側クラッドの直径D3は、MCF410Bの内側クラッドの直径D4よりも小さい。
【0055】
MCF310と同様に、励起光PLのパワー密度は、MCF410内で、内側クラッドの直径の変化によって制御できる。したがって、実施の形態3と同様に、励起光PLのパワー密度を平均化し、又は、一定とすることができる。よって、本構成によれば、SRSによって、光信号をより高品質に増幅することができる。
【0056】
本構成では、内側クラッドの直径は段階的に変化している。その結果、FRA30よりも励起光PLのパワー密度を、より大まかに制御することができる。
【0057】
図11に、多重光信号のパワーのシミュレーションを示す。図11では、FRA30、FRA40、EDFAのみ(EDFA-ONLY)の場合及び比較例が示されている。EDFAのみの場合は、FRA30のMC-EDFA340のみによって増幅される場合である。比較例は、非特許文献4の場合である。
【0058】
ここでは、長さ80kmのMCFを有する3つのFRAを直列に配置することで、多重光信号SIGのパワーは、MC-EDFAによって80km毎に最大まで増幅される。80kmのMCFでの損失は0.2dB/kmである。
【0059】
図11に示すように、EDFAのみの場合には、FRAで減衰が補償されないため、多重光信号SIGのパワーが最も小さく、ダイナミックレンジが最大となる。非特許文献4の比較例では、EDFAのみの場合よりも40km後にパワーが大きくなるように、多重光信号SIGがSRSで増幅される。一般に、送信時の最小電力が大きくなるほど、受信点におけるOSNR(光信号対雑音比:Optical Signal to Noise Ratio)などの多重光信号SIGの品質が高くなる。したがって、比較例の多重光信号SIGの品質は、EDFAのみの場合よりも高くなる。
【0060】
また、FRA30及び40では、MCFの内側クラッドの直径によって、逆方向へのラマン増幅が制御されている。これにより、FRA30及び40では、多重光信号SIGのパワーが比較例に比べて好適に補償される。その結果、FRA30及び40のそれぞれにおける多重光信号SIGの最小パワーは、比較例よりも大きくなる。したがって、FRA30及び40によれば、受信点における多重光信号SIGの品質をより高めることができる。
【0061】
しかし、上述したように、FRA40における励起光PLのパワー密度は、FRA30よりも大まかに制御されているため、FRA40における多重光信号SIGのパワーは、底部においては、FRA30よりも減少する。
【0062】
しかし、FRA30のMCF310の構成は、MCF410の構成よりも複雑である。このため、連続的に直径が変化するMCF310の製造は比較的困難である。これに対し、MCF410は、互いに直径の異なるMCF410A及び410Bをスプライスした単純な構成である。よって、励起光PLのパワー密度の平均化の効果はMCF310よりも劣るものの、MCF410の方がMCF310よりも容易に製造できる。
【0063】
したがって、本構成によれば、低コスト製造と多重光信号の高品質な増幅とを両立可能なFRAを提供することができる。
【0064】
実施の形態5
次に、実施の形態5にかかるファイバラマン増幅器について説明する。図12に、実施の形態5にかかるFRA50の構成を示す。FRA50は、FRA30のMCF310をMCF110に置換し、光源130を光源530及び550に置換し、かつ、WDMカプラ560を追加した構成を有する。WDMカプラ560は、MCF110の入力端に配置される。
【0065】
光源530(第1の光源とも称する)は、レーザL131及びL132と同一のレーザ531及び532(第1のレーザとも称する)を有する。レーザ531及び532は、それぞれレーザ光L111及びL12を出射する。レーザ光L11及びL12はWDMカプラ120で多重化され、多重化された励起光PL1(第1の励起光とも称する)は内側クラッドCL1に結合される。励起光PL1は、逆方向に伝送される。
【0066】
光源550(第2の光源とも称する)は、レーザL131及びL132と同一のレーザ551及び552(第2のレーザとも称する)を有する。レーザ551及び552は、それぞれレーザ光L21及びL22(第2のマルチモードレーザ光とも称する)を出射する。レーザ光L21及びL22はWDMカプラ560(第2の光カプラとも称する)で多重化され、多重化された励起光PL2(第2の励起光とも称する)は内側クラッドCL1に結合される。励起光PL2は、順方向に伝送される。
【0067】
上述したように、MCF110の出力端からの距離(またはWDMカプラ120)が長くなるほど、励起光PL1のパワー密度は小さくなる。一方、MCF110の出力端からの距離(またはWDMカプラ120)が長くなると、励起光PL2のパワー密度は大きくなる。つまり、励起光PL1のパワー密度の減少を、励起光PL2の増加で補うことができる。これにより、励起光PL1及びPL2の合計パワー密度を平均化することができる。また、MCF110を適切に設計して励起光のパワーを設定することで、励起光PL1及びPL2(すなわち、ラマン増幅の利得)の合計パワー密度をより長い距離で一定に保つことができる。
【0068】
図13に、多重光信号のパワーのシミュレーションを示す。図13では、FRA30、40及び50、ならびにEDFAのみ(EDFA-ONLY)の場合が示されている。図11に示すように、EDFAのみの場合は、FRA30のMC-EDFA340のみによって増幅される場合である。図13に示すように、80kmの長さのMCFを有する3つのFRAを直列的に配置することで、多重光信号SIGのパワーが80km毎に最大まで増幅される。
【0069】
図13に示すように、EDFAのみの場合には、FRAで減衰が補償されないため、多重光信号SIGのパワーのダイナミックレンジが最も小さくなる。FRA50では、ラマン増幅がPL2で励起される、入力端(0km)15kmまでの多重光信号のパワーが大きくなる。PL2により励起されたラマン増幅でパワーの減少を補償することができるので、多重光信号SIGのパワーを減少させることができる。なお、電力の削減は、光通信デバイス101の出力電力と前段のFRAのMC-EDFA340による増幅とを適宜制御することで、実現することができる。
【0070】
一般に、Kerr効果に起因する非線形劣化による信号の歪みは、光信号の増幅を抑制することにより低減できる。したがって、本構成によれば、受信点における多重光信号の品質をさらに向上させることができる。
【0071】
実施の形態6
次に、実施の形態6にかかるファイバラマン増幅器について説明する。図14に、実施の形態6にかかるFRA60の構成を示す。FRA60は、FRA10のMCF110を、MCF610に置換した構成を有する。
【0072】
MCF610は、MCF610A、MC-EDFA610B及びMCF610Cを有し、MCF610A、MC-EDFA610B及びMCF610Cは順方向に直列的に接続されている。MCF610A及びMCF610Cは、MCF110と同様の構成を有する。MC-EDFA610Bは、MCF110と同様に、コアC1~C7を有する。MC-EDFA610Bの長さは、通常、数十メートルである。MCF610Cの長さは、通常、数十キロメートルである。
【0073】
光源130では、レーザ131の中心波長は、EDFAによる増幅に適した1480nmである。レーザ131の出力パワーは、レーザ132及び133の出力パワーよりも高く設定されている。
【0074】
次に、MCF610における光増幅について説明する。逆方向に伝送される励起光PLは、ラマン増幅によって、MCF610Cで減衰する。しかし、レーザ131の出力パワーはレーザ132及び133の出力パワーよりも高く、レーザ光L1はMCF610Cでは完全には減衰しないので、残存したレーザ光L1がMC-EDFA610Bに入射する。よって、MC-EDFA610Bは残存したレーザ光L1によって励起され、多重光信号SIGはMC-EDFA610Bによって増幅される。
【0075】
本構成によれば、多重光信号SIGは、MCF610Cでのラマン増幅のみならず、MC-EDFA610Bを励起するためのレーザを追加配置することなく、MC-EDFA610Bでも増幅することができる。
【0076】
MC-EDFA610Bを励起するための追加のレーザが必要な場合、追加のレーザは、光源130から数十キロメートル離れた位置に配置される。この場合、離れた場所に電力を供給する必要があるため、電源の構成は比較的大きなものとなる。これに対し、本構成によれば、MC-EDFA610Bを励起するための追加のレーザを必要としないので、FRAのサイズを抑制することができる。
【0077】
上述したように、本構成によれば、コンパクトな構成で光信号を効果的に増幅することができる。
【0078】
その他の実施の形態
本発明は、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、コアの数は、2以上の任意の数とすることができる。
【0079】
実施の形態1、2及び6において、MC-EDFAは、実施の形態3~5と同様に配置することができる。なお、MC-EDFAの個数は1個に限定されるものではなく、上述の実施の形態にかかるMC-EDFAを複数個、FRA内に配置してもよい。この場合、FRAと光通信装置との間にMC-EDFAを直列に配置してもよい。また、EDFAに換えて、エルビウム以外の希土類元素をドープした他のファイバアンプを用いてもよい。
【0080】
光源130及び530は、レーザ光をモード多重する光源230のような構成であってもよい。この場合、WDMカプラ120をSDMカプラ220等のSDMカプラに置き換えてもよい。
【0081】
実施の形態5では、光源550は、レーザ光をモード多重する光源230のような構成であってもよい。この場合、WDMカプラ560をSDMカプラ220等のSDMカプラに置き換えてもよい。また、光源560におけるレーザ光のスペクトルの全部または一部を重ね合わせてもよい。
【符号の説明】
【0082】
10、10_1~10_N、20、30、40、50、60 ファイバラマン増幅器(FRA)
100 光通信システム
101、102 光通信装置
110、310、410、410A、410B、610、610A、610C マルチコアファイバ(MCF)
120、560 WDMカプラ
130、230、550 光源
131~132、531、532、551、552 レーザ
220 SDMカプラ
230A モードカプラ
340、610B マルチコア-エルビウムドープファイバ増幅器(MC-EDFA)
C1~C7 コア
CL1 内側クラッド
CL2 外側クラッド
L1~L3、L11、L12、L21、L22 レーザ光
PL、PL1、PL2 励起光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14