(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/00 20060101AFI20250218BHJP
H01J 49/24 20060101ALI20250218BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20250218BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
H01J49/00 310
H01J49/24
H01J49/02 200
H01J49/04 680
(21)【出願番号】P 2023566056
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2021045638
(87)【国際公開番号】W WO2023105785
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】磯 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】松本 壮平
(72)【発明者】
【氏名】前田 一真
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-125312(JP,A)
【文献】国際公開第2020/245964(WO,A1)
【文献】特開平09-005300(JP,A)
【文献】特開2021-128833(JP,A)
【文献】特開2018-036232(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033598(WO,A1)
【文献】特開2012-002711(JP,A)
【文献】特開2010-181425(JP,A)
【文献】特開2010-020916(JP,A)
【文献】特開2006-286210(JP,A)
【文献】特開2002-228611(JP,A)
【文献】特開平10-233187(JP,A)
【文献】特開2001-333321(JP,A)
【文献】特開2001-275037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析条件に対応する分析パラメータに基づいて試料の質量分析を行う分析部と、
起動スイッチと、
前記起動スイッチがオンされることに応答して、以前に設定された分析パラメータまたは
以前に使用者により指示された分析パラメータを読み出す読出部と、
前記読出部により読み出された分析パラメータを設定する設定部と、
前記設定部により設定された分析パラメータに従って前記分析部を起動させる起動部とを備える、質量分析装置。
【請求項2】
前記分析部は、試料が導入される真空容器を含み、
前記質量分析装置は、
前記真空容器内を排気する真空ポンプと、
前記起動スイッチがオンされることに応答して、前記真空ポンプの動作を開始させるポンプ制御部とをさらに備える、請求項1記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記設定部により分析パラメータが設定されるごとに、設定された分析パラメータを保存する保存部をさらに備え、
前記読出部は、前記起動スイッチがオンされることに応答して、前記保存部に保存された分析パラメータを読み出す、請求項1または2記載の質量分析装置。
【請求項4】
使用者の指示に応答して、設定された分析パラメータを保存する保存部をさらに備え、
前記読出部は、前記起動スイッチがオンされることに応答して、前記保存部に保存された分析パラメータを読み出す、請求項1または2記載の質量分析装置。
【請求項5】
分析パラメータの指示を受け付け可能な受付部をさらに備え、
前記設定部は、前記受付部に分析パラメータが指示された場合、設定されている分析パラメータを指示された分析パラメータに更新する、請求項1または2記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記分析部の所定部分を温度調整するためのヒータをさらに備え、
分析パラメータは、温度を含み、
前記起動部は、前記設定部により設定された温度で前記ヒータが動作するように前記ヒータの動作を開始させる、請求項1または2記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記分析部に電圧を供給する電源装置と、
前記電源装置を温度調整するためのヒータとをさらに備え、
分析パラメータは、温度を含み、
前記起動部は、前記設定部により設定された温度で前記ヒータが動作するように前記ヒータの動作を開始させる、請求項1または2記載の質量分析装置。
【請求項8】
前記分析部に所定のガスを供給するガス供給部をさらに備え、
分析パラメータは、ガスを含み、
前記起動部は、前記設定部により設定されたガスを供給するように前記ガス供給部の動作を開始させる、請求項1または2記載の質量分析装置。
【請求項9】
電源装置をさらに備え、
分析パラメータは、電圧を含み、
前記起動部は、前記設定部により設定された電圧を前記分析部に供給するように前記電源装置の動作を開始させる、請求項1または2記載の質量分析装置。
【請求項10】
前記質量分析装置は、当該質量分析装置に制御指令を与える処理装置に接続され、
前記分析部は、前記処理装置から起動指令が与えられることに応答して起動する、請求項1または2記載の質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる成分の質量を分析する分析装置として質量分析装置が知られている。例えば、特許文献1には、飛行時間型の質量分析装置が記載されている。この質量分析装置においては、チャンバ内で試料からイオンが生成される。生成されたイオンは、電場により加速されてチャンバ内の高真空部を飛行し、イオン検出器に到達する。このときのイオンの飛行時間は、イオンの質量電荷比により異なる。そこで、加速されたイオンが検出器により検出されるまでの飛行時間に基づいて、各イオンの質量電荷比が測定される。
【文献】国際公開第2017/060991号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
質量分析を開始する前の準備として、真空ポンプが起動される。これにより、所定時間後、チャンバ内が真空化される。チャンバ内が真空化された後、任意の質量分析を実行するための分析条件に対応する分析パラメータが質量分析装置に設定される。これにより、設定された分析パラメータに基づいて、質量分析装置の構成要素の制御が開始される。所定時間後、分析条件が満たされることにより、質量分析を開始することが可能となる。
【0004】
このような質量分析を開始する前の準備は、質量分析装置が起動されるごとに行われる必要がある。そのため、使用者の負担が増加する。また、質量分析を開始可能になるまでの待機時間が長期化する。これらの結果、質量分析装置のユーザビリティが低下する。
【0005】
本発明の目的は、ユーザビリティが向上された質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、分析条件に対応する分析パラメータに基づいて試料の質量分析を行う分析部と、起動スイッチと、前記起動スイッチがオンされることに応答して、以前に設定された分析パラメータまたは以前に使用者により指示された分析パラメータを読み出す読出部と、前記読出部により読み出された分析パラメータを設定する設定部と、前記設定部により設定された分析パラメータに従って前記分析部を起動させる起動部とを備える、質量分析装置に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、質量分析装置のユーザビリティを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は本発明の一実施の形態に係る質量分析装置を含む分析システムの構成を示す図である。
【
図4】
図4は
図3の制御装置による質量分析制御処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)分析システムの構成
以下、本発明の実施の形態に係る質量分析装置について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る質量分析装置を含む分析システムの構成を示す図である。
図1に示すように、分析システム200は、質量分析装置100、クロマトグラフ210、処理装置220、操作部230および表示部240を含む。
【0010】
本例では、クロマトグラフ210は、液体クロマトグラフである。クロマトグラフ210においては、分析対象の試料が溶媒とともに分離カラムに導入される。分離カラムに導入された試料は、化学的性質または組成の違いにより成分ごとに分離される。成分ごとに分離された液体状の試料は、質量分析装置100に導入され、質量分析装置100において、試料の質量分析が行われる。質量分析装置100の詳細については後述する。
【0011】
処理装置220は、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置により実現され、CPU(中央演算処理装置)および記憶装置等を含む。処理装置220は、質量分析装置100またはクロマトグラフ210に制御指令を与える。また、処理装置220は、質量分析装置100またはクロマトグラフ210による分析結果を処理することにより、マススペクトルまたはクロマトグラム等を生成する。
【0012】
操作部230は、キーボード、マウスまたはタッチパネル等の入力デバイスである。使用者は、操作部230を操作することにより、処理装置220に各種指示を行うことができる。表示部240は、液晶表示装置等の表示デバイスである。表示部240には、処理装置220により生成されたマススペクトルまたはクロマトグラム等を表示可能である。
【0013】
(2)質量分析装置
図2は、
図1の質量分析装置100の構成を示す模式図である。
図2に示すように、質量分析装置100は、分析部110、真空ポンプ120、電源装置130、制御装置140および筐体部150を含む。また、質量分析装置100には、ガス供給部101~104が設けられる。分析部110は、真空容器10、イオン源111、イオンガイド112~114、質量フィルタ115、コリジョンセル116、質量フィルタ117および検出器118を含み、設定された分析パラメータに基づいて試料の質量分析を行う。
【0014】
真空容器10は、イオンが飛行する方向に延びる。以下の説明では、真空容器10においてイオンが飛行する方向を下流と定義し、その反対方向を上流と定義する。真空容器10内には、イオン化室11、真空室12、真空室13、真空室14および真空室15が上流から下流に向かってこの順で並ぶように設けられる。真空容器10内の真空度は、上流から下流に向かって高くなる。したがって、イオン化室11の真空度が最も低く、真空室15の真空度が最も高い。例えば、イオン化室11の圧力は略大気圧であり、真空室15の圧力は10-2~10-3Paである。
【0015】
イオン化室11と真空室12とは、隔壁20により隔てられる。隔壁20には、DL(デソルベーションライン)21が設けられる。イオン化室11は、ヒータ1により所定の温度に調整される。真空室12と真空室13とは、隔壁30により隔てられる。隔壁30には、スキマコーン31が設けられる。真空室13と真空室14とは、隔壁40により隔てられる。隔壁40には、孔部41が設けられる。真空室14と真空室15とは、隔壁50により隔てられる。隔壁50には、孔部51が設けられる。
【0016】
イオン源111は、例えばESI(Electrospray Ionization)プローブ等のイオン化プローブを含み、イオン化室11に取り付けられる。
図1のクロマトグラフ210により成分ごとに分離された液体状の試料は、イオン源111に供給される。また、イオン源111には、ガス供給部101により窒素ガス等のネブライザガスが供給される。イオン源111にネブライザガスが供給されることにより、イオン化室11において、試料に電荷が付与されつつ試料が噴霧される。
【0017】
さらに、イオン源111には、ガス供給部102によりクリーンエア等のヒーティングガスが供給される。また、イオン源111には、ヒーティングガスを加熱するヒータ2が設けられる。イオン源111にヒーティングガスが供給されることにより、噴霧される試料が加熱される。これにより、噴霧された試料中の成分がイオン化室11内でイオン化する。通常は、各成分の1価のイオンが生成される。
【0018】
イオン化室11には、ガス供給部103によりクリーンエア等のドライイングガスが下流から上流に流れるように供給される。イオン化室11にドライイングガスが供給されることにより、イオン化室11で生成されたイオンから中性分子および非測定対象のイオン等が除去される。
【0019】
イオンガイド112~114は、真空室12~14にそれぞれ配置される。イオン化室11で生成されたイオンは、隔壁20のDL21を通して真空室12に導かれる。DL21には、イオンを加熱するためのヒータ3が設けられる。これにより、イオンに付随した液滴が除去される。真空室12に到達したイオンは、イオンガイド112により隔壁30のスキマコーン31を通して真空室13に導かれる。真空室13に到達したイオンは、イオンガイド113により隔壁40の孔部41を通して真空室14に導かれる。真空室14に到達したイオンは、イオンガイド114により隔壁50の孔部51を通して真空室15に導かれる。
【0020】
質量フィルタ115、コリジョンセル116および質量フィルタ117は、上流から下流に向かってこの順で並ぶように真空室15に配置される。質量フィルタ115,117の各々は、例えば4本のロッド電極を含む四重極型質量フィルタである。質量フィルタ115は、真空室15に到達したイオンのうち、印加された電圧に対応する特定の質量電荷比を有するイオンのみを飛行させて通過させる。質量フィルタ115を通過したイオンは、プリカーサイオンとしてコリジョンセル116に到達する。
【0021】
コリジョンセル116には、ガス供給部104によりアルゴンガス等のCID(Collision-Induced Dissociation)ガスが供給される。コリジョンセル116において、プリカーサイオンがCIDガスと衝突することにより、プリカーサイオンが解離してプロダクトイオンが生成される。質量フィルタ117は、コリジョンセル116において生成されたプリカーサイオンのうち、印加された電圧に対応する特定の質量電荷比を有するプリカーサイオンのみを飛行させて通過させる。
【0022】
検出器118は、例えば電子増倍管であり、質量フィルタ117の下流に位置するように真空室15に配置される。検出器118は、質量フィルタ117を通過したイオンを検出し、検出量を示す検出信号を分析結果として制御装置140に与える。
【0023】
真空ポンプ120は、例えばロータリポンプおよびターボ分子ポンプを含み、真空室12~15の雰囲気を排気することにより、真空室12~15の各々を所定の真空度に維持する。電源装置130は、アンプおよびスイッチ等を含み、質量フィルタ115,117を含む分析部110の各部に高電圧を供給する。また、電源装置130には、温度を一定に調整するためのヒータ4が設けられる。
【0024】
制御装置140は、例えばCPUおよび記憶装置等を含む。制御装置140には、分析部110の起動時に、真空ポンプ120の動作を開始させるとともに、質量分析を実行するための分析条件に対応する分析パラメータを設定する。電源装置130、ヒータ1~4およびガス供給部101~104は、設定されたパラメータに基づいて動作する。また、制御装置140は、質量分析時に、
図1の処理装置220からの制御指令に基づいて分析部110の動作を制御する。さらに、制御装置140は、分析部110による分析結果を処理装置220に与える。制御装置140の詳細については後述する。
【0025】
筐体部150は、分析部110、真空ポンプ120、電源装置130および制御装置140を収容する。
図2の例では、ガス供給部101~104は筐体部150内に配置されるが、ガス供給部101~104の一部または全部は筐体部150外に配置されてもよい。筐体部150には、主電源スイッチ151および起動スイッチ152が設けられる。起動スイッチ152は、使用者が容易に操作可能な筐体部150の前面に配置される。主電源スイッチ151は、筐体部150における前面とは反対の後面に配置される。
【0026】
主電源スイッチ151がオンされることにより、制御装置140が起動する。主電源スイッチ151がオンされた状態で、起動スイッチ152がオンされることにより、分析部110が起動する。なお、本実施の形態では、起動スイッチ152は物理的なスイッチであるが、表示画面等に表示されたGUI(Graphical User Interface)であってもよい。また、起動スイッチ152が主電源スイッチ151の機能を兼ねる場合には、主電源スイッチ151は設けられなくてもよい。
【0027】
(3)制御装置
図3は、
図2の制御装置140の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、制御装置140は、機能部として、保存部141、読出部142、ポンプ制御部143、受付部144、設定部145、起動部146および分析実行部147を含む。制御装置140のCPUが記憶装置に記憶された質量分析制御プログラムを実行することにより、制御装置140の機能部が実現される。制御装置140の機能部の一部または全部が電子回路等のハードウエアにより実現されてもよい。
【0028】
保存部141は、以前に設定部145により設定された分析パラメータを保存する。本例では、保存部141は、設定部145により分析パラメータが設定されるごとに、設定された分析パラメータを保存する。この場合、保存部141には、前回の質量分析の終了時に設定部145により設定されていた分析パラメータが保存される。
【0029】
読出部142は、起動スイッチ152がオンされることに応答して、保存部141に保存された分析パラメータを読み出す。ポンプ制御部143は、起動スイッチ152がオンされることに応答して、真空ポンプ120の動作を開始させる。
【0030】
ここで、ルーチンワークにおいては、前回設定された分析パラメータと同一の分析パラメータに基づいて質量分析が実行されてもよい。一方で、前回設定された分析パラメータは使用者の所望の分析パラメータではない場合がある。そこで、受付部144は、処理装置220から分析パラメータの指示を受け付ける。使用者は、保存部141に保存された分析パラメータが所望の分析パラメータではない場合、
図1の操作部230を操作することにより、処理装置220に所望の分析パラメータを指示することができる。
【0031】
設定部145は、読出部142により読み出された分析パラメータを設定する。また、設定部145は、受付部144に分析パラメータが指示された場合、設定されている分析パラメータを指示された分析パラメータに更新する。さらに、設定部145は、分析パラメータを設定するごとに、設定された分析パラメータを保存部141に保存する。
【0032】
起動部146は、設定部145により設定された分析パラメータに従って分析部110を起動させる。具体的には、分析パラメータは、温度、ガスまたは電圧を含む。起動部146は、設定された温度でヒータ1~4が動作するようにヒータ1~4の動作を開始させる。起動部146は、設定されたガスを供給するようにガス供給部101~104の動作を開始させる。起動部146は、設定された電圧を分析部110の各部に供給するように電源装置130の動作を開始させる。
【0033】
分析実行部147は、処理装置220により与えられる制御指令に基づいて、質量分析が実行されるように分析部110の動作を制御する。処理装置220は、操作部230を介して使用者から質量分析の開始指示が与えられた場合、質量分析を実行するための制御指令を分析実行部147に与える。また、分析実行部147は、分析部110から分析結果を取得し、取得された分析結果を処理装置220に与える。これにより、処理装置220において、クロマトグラム等が生成される。
【0034】
(4)質量分析制御処理
図4は、
図3の制御装置140による質量分析制御処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
図4の質量分析制御処理は、制御装置140のCPUが記憶装置に記憶された質量分析制御プログラムを実行することにより行われる。以下、
図3の制御装置140とともに、
図4のフローチャートを用いて質量分析制御処理を説明する。
【0035】
まず、読出部142は、起動スイッチ152がオンされたか否かを判定する(ステップS1)。起動スイッチ152がオンされていない場合、読出部142は、起動スイッチ152がオンされるまで待機する。起動スイッチ152がオンされた場合、読出部142は、保存部141に保存された分析パラメータを読み出す(ステップS2)。また、ポンプ制御部143は、真空ポンプ120の動作を開始させる(ステップS3)。
【0036】
本例では、ステップS3はステップS2と次のステップS4との間に実行されるが、実施の形態はこれに限定されない。ステップS3は、ステップS2またはステップS4と同時に実行されてもよい。あるいは、ステップS3は、ステップS4の後に実行されてもよいし、ステップS2の前に実行されてもよい。ステップS3がステップS2の前に実行される場合には、ステップS1はポンプ制御部143により実行されてもよい。
【0037】
次に、設定部145は、ステップS2で読み出された分析パラメータを設定する(ステップS4)。ここで、設定部145は、設定された分析パラメータを保存部141に保存する(ステップS5)。続いて、起動部146は、ステップS4で設定された分析パラメータに従って分析部110を起動させる(ステップS6)。これにより、設定された温度でヒータ1~4が動作する。また、設定されたガスがガス供給部101~104により供給される。さらに、設定された電圧が電源装置130により分析部110の各部に供給される。
【0038】
その後、分析実行部147は、処理装置220から質量分析の開始が指示されたか否かを判定する(ステップS7)。質量分析の開始が指示されていない場合、受付部144は、処理装置220から分析パラメータの指示が受け付けられたか否かを判定する(ステップS8)。分析パラメータの指示が受け付けられない場合、受付部144はステップS7に戻る。分析パラメータの指示が受け付けられた場合、設定部145は、ステップS4で設定された分析パラメータを指示された分析パラメータに更新し(ステップS9)、ステップS5に戻る。これにより、新たに設定された分析パラメータがステップS5で保存部141に保存される。また、新たに設定された分析パラメータに従って分析部110が起動する。
【0039】
ステップS7で質量分析の開始が指示された場合、分析実行部147は、処理装置220により与えられる制御指令に従って分析部110を制御することにより質量分析を実行する(ステップS10)。これにより、分析部110による分析結果が処理装置220に与えられ、質量分析制御処理が終了する。
【0040】
(5)効果
本実施の形態に係る質量分析装置100においては、起動スイッチ152がオンされることに応答して、以前に設定された分析パラメータが読出部142により読み出される。読出部142により読み出された分析パラメータが設定部145により設定される。設定部145により設定された分析パラメータに従って分析部110が起動部146により起動される。また、起動スイッチ152がオンされることに応答して、真空ポンプ120の動作がポンプ制御部143により開始される。
【0041】
この構成によれば、起動スイッチ152がオンされることに応答して、以前に設定された分析パラメータに従って分析部110が起動するとともに、真空容器10内の排気が開始される。この場合、使用者は、起動スイッチ152をオンした後、分析パラメータを設定するための操作を行う必要がなく、真空ポンプ120を動作させるための操作を行う必要もない。これにより、使用者の負担が低減される。
【0042】
また、分析部110の起動においては、設定された分析パラメータに従ってヒータ1~4、ガス供給部101~104および電源装置130が動作する。そのため、温度調整に要する時間、ガスの供給に要する時間、分電圧の供給に要する時間が短縮される。すなわち、質量分析を開始可能になるまでの待機時間が短縮される。これらの結果、質量分析装置のユーザビリティが向上する。
【0043】
また、本実施の形態においては、設定部145により分析パラメータが設定されるごとに、設定された分析パラメータが保存部141に自動的に保存される。これにより、起動スイッチ152がオンされるごとに、前回の質量分析の終了時に設定されていた分析パラメータに従って、分析部110を起動させることができる。
【0044】
さらに、受付部144に分析パラメータが指示された場合、設定されている分析パラメータが指示された分析パラメータに更新される。したがって、分析部110の起動時に設定された分析パラメータが使用者の所望の分析パラメータではない場合でも、使用者は、質量分析時に設定されるべき分析パラメータを所望の分析パラメータに変更することができる。
【0045】
(6)他の実施の形態
(a)上記実施の形態において、以前に設定された分析パラメータが保存部141に保存されるが、実施の形態はこれに限定されない。使用者は、受付部144に任意の分析パラメータを指示することが可能である。そのため、使用者により指示された分析パラメータが保存部141に保存されてもよい。この場合、起動スイッチ152がオンされることに応答して、使用者により指示された分析パラメータが読み出される。これにより、使用者により指示された分析パラメータが設定される。
【0046】
(b)上記実施の形態において、設定部145により分析パラメータが設定されるごとに、設定された分析パラメータが保存部141に保存されるが、実施の形態はこれに限定されない。使用者は、受付部144に分析パラメータを保存するか否かを指示することが可能である。そのため、使用者の指示に応答して、設定された分析パラメータが保存部141に保存されてもよい。この場合、使用者は、以前に設定された所望の分析パラメータを保存することができる。これにより、起動スイッチ152がオンされるごとに、以前に設定された任意の分析パラメータに従って、分析部110を起動させることができる。
【0047】
(c)上記実施の形態において、制御装置140はポンプ制御部143を含むが、実施の形態はこれに限定されない。使用者は、起動スイッチ152をオンした後、手動で真空ポンプ120の動作を開始させてもよい。この場合、制御装置140はポンプ制御部143を含まなくてもよい。
【0048】
(d)上記実施の形態において、分析部110の起動時に温度調整、ガスの供給および電圧の供給が行われるが、実施の形態はこれに限定されない。分析部110の起動時に、温度調整、ガスの供給および電圧の供給のいずれかのみが行われてもよい。例えば、温度調整に要する時間は、ガスの供給に要する時間および電圧の供給に要する時間よりも長い傾向にある。そのため、分析部110の起動時に、温度調整のみが行われてもよい。この場合、温度調整が終了した後に、ガスの供給および電圧の供給が行われる。
【0049】
(e)上記実施の形態において、質量分析装置100は処理装置220と接続された状態で使用されるが、実施の形態はこれに限定されない。制御装置140が処理装置220と同様の機能を有する場合には、質量分析装置100は処理装置220と接続されずに使用されてもよい。すなわち、上記実施の形態において、質量分析装置100は、オンライン方式の装置であるが、スタンドアロン方式の装置であってもよい。
【0050】
なお、上記実施の形態において、質量分析装置100は、分析部110の起動に関してスタンドアロン方式の装置である。すなわち、分析部110は、処理装置220から起動指令が与えられることに応答して起動することも可能であるが、処理装置220から起動指令が与えられない場合でも、起動スイッチ152がオンされることにより起動することが可能である。
【0051】
(7)態様
上記の複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0052】
(第1項)一態様に係る質量分析装置は、
分析条件に対応する分析パラメータに基づいて試料の質量分析を行う分析部と、
起動スイッチと、
前記起動スイッチがオンされることに応答して、以前に設定された分析パラメータまたは使用者により指示された分析パラメータを読み出す読出部と、
前記読出部により読み出された分析パラメータを設定する設定部と、
前記設定部により設定された分析パラメータに従って前記分析部を起動させる起動部とを備えてもよい。
【0053】
この構成によれば、起動スイッチがオンされることに応答して、以前に設定された分析パラメータまたは使用者により指示された分析パラメータに従って分析部が起動する。この場合、使用者は、起動スイッチをオンした後、分析パラメータを設定するための操作を行う必要がない。これにより、使用者の負担が低減される。また、質量分析を開始可能になるまでの待機時間が短縮される。その結果、質量分析装置のユーザビリティが向上する。
【0054】
(第2項)第1項に記載の質量分析装置において、
前記分析部は、試料が導入される真空容器を含み、
前記質量分析装置は、
前記真空容器内を排気する真空ポンプと、
前記起動スイッチがオンされることに応答して、前記真空ポンプの動作を開始させるポンプ制御部とをさらに備えてもよい。
【0055】
この場合、起動スイッチがオンされることに応答して、真空容器内の排気が開始される。そのため、使用者は、起動スイッチをオンした後、真空ポンプを動作させるための操作を行う必要がない。これにより、使用者の負担がより低減される。また、排気が終了するまでの待機時間が短縮される。その結果、質量分析装置のユーザビリティがより向上する。
【0056】
(第3項)第1項または第2項に記載の質量分析装置は、
前記設定部により分析パラメータが設定されるごとに、設定された分析パラメータを保存する保存部をさらに備え、
前記読出部は、前記起動スイッチがオンされることに応答して、前記保存部に保存された分析パラメータを読み出してもよい。
【0057】
この場合、分析パラメータが設定されるごとに、設定された分析パラメータが保存部に自動的に保存される。これにより、起動スイッチがオンされるごとに、前回の質量分析の終了時に設定されていた分析パラメータに従って、分析部を起動させることができる。
【0058】
(第4項)第1項または第2項に記載の質量分析装置は、
使用者の指示に応答して、設定された分析パラメータを保存する保存部をさらに備え、
前記読出部は、前記起動スイッチがオンされることに応答して、前記保存部に保存された分析パラメータを読み出してもよい。
【0059】
この場合、起動スイッチがオンされるごとに、以前に設定された任意の分析パラメータに従って、分析部を起動させることができる。
【0060】
(第5項)第1項または第2項に記載の質量分析装置は、
分析パラメータの指示を受け付け可能な受付部をさらに備え、
前記設定部は、前記受付部に分析パラメータが指示された場合、設定されている分析パラメータを指示された分析パラメータに更新してもよい。
【0061】
この構成によれば、分析部の起動時に設定された分析パラメータが使用者の所望の分析パラメータではない場合でも、使用者は、質量分析時に設定されるべき分析パラメータを所望の分析パラメータに変更することができる。
【0062】
(第6項)第1項または第2項に記載の質量分析装置は、
前記分析部の所定部分を温度調整するためのヒータをさらに備え、
分析パラメータは、温度を含み、
前記起動部は、前記設定部により設定された温度で前記ヒータが動作するように前記ヒータの動作を開始させてもよい。
【0063】
この場合、分析部の起動時に、分析部の所定部分の温度調整に要する時間を短縮することができる。
【0064】
(第7項)第1項または第2項に記載の質量分析装置は、
前記分析部に電圧を供給する電源装置と、
前記電源装置を温度調整するためのヒータとをさらに備え、
分析パラメータは、温度を含み、
前記起動部は、前記設定部により設定された温度で前記ヒータが動作するように前記ヒータの動作を開始させてもよい。
【0065】
この場合、分析部の起動時に、電源装置の温度調整に要する時間を短縮することができる。
【0066】
(第8項)第1項または第2項に記載の質量分析装置は、
前記分析部に所定のガスを供給するガス供給部をさらに備え、
分析パラメータは、ガスを含み、
前記起動部は、前記設定部により設定されたガスを供給するように前記ガス供給部の動作を開始させてもよい。
【0067】
この場合、分析部の起動時に、分析部へのガスの供給に要する時間を短縮することができる。
【0068】
(第9項)第1項または第2項に記載の質量分析装置は、
電源装置をさらに備え、
分析パラメータは、電圧を含み、
前記起動部は、前記設定部により設定された電圧を前記分析部に供給するように前記電源装置の動作を開始させてもよい。
【0069】
この場合、分析部の起動時に、分析部への電圧の供給に要する時間を短縮することができる。
【0070】
(第10項)第1項または第2項に記載の質量分析装置は、
当該質量分析装置に制御指令を与える処理装置に接続され、
前記分析部は、前記処理装置から起動指令が与えられることに応答して起動してもよい。
【0071】
この場合、処理装置から分析部に起動指令を与えることにより、分析部を起動することができる。一方で、処理装置から起動指令が与えられない場合でも、使用者は、起動スイッチがオンすることにより分析部を起動することができる。