(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20250218BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20250218BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20250218BHJP
C08L 45/00 20060101ALI20250218BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
C08L101/12
C08J5/18 CEZ
C08K5/29
C08L45/00
C08L79/00 Z
(21)【出願番号】P 2024516126
(86)(22)【出願日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2023008825
(87)【国際公開番号】W WO2023203907
(87)【国際公開日】2023-10-26
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2022068485
(32)【優先日】2022-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 隆
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】養父 克行
(72)【発明者】
【氏名】上辺 将士
(72)【発明者】
【氏名】久保田 正博
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 俊
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110791046(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113122008(CN,A)
【文献】CHENG, Youdong et al.,Highly efficient CO2 capture by mixed matrix membranes containing three-dimensional covalent organic,Journal of Materials Chemistry A,2019年01月24日,vol. 7, Issue 9,4549-4560
【文献】NIU, Bo et al.,Covalent organic frameworks embedded in polystyrene membranes for ion sieving,Chemical Communication,2022年04月06日,vol. 58, issue 35,5403-5406
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/12
C08J 5/18
C08K 5/29
C08L 45/00
C08L 79/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分と、
複数のリンカー部および複数の多座コア部が共有結合によって連結された共有結合性有機構造体と、を含む樹脂組成物からなり、
前記樹脂成分の吸水率が0.1質量%以下であ
り、
前記樹脂組成物の融点が300℃超である、樹脂フィルム。
【請求項2】
前記樹脂成分が熱可塑性樹脂である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
樹脂成分と、
複数のリンカー部および複数の多座コア部が共有結合によって連結された共有結合性有機構造体と、を含む樹脂組成物からなり、
前記樹脂成分の吸水率が0.1質量%以下であり、
前記樹脂組成物の比誘電率が3.0未満である
、樹脂フィルム。
【請求項4】
樹脂成分と、
複数のリンカー部および複数の多座コア部が共有結合によって連結された共有結合性有機構造体と、を含む樹脂組成物からなり、
前記樹脂成分の吸水率が0.1質量%以下であり、
前記樹脂組成物の誘電正接が0.002未満である
、樹脂フィルム。
【請求項5】
樹脂成分と、
複数のリンカー部および複数の多座コア部が共有結合によって連結された共有結合性有機構造体と、を含む樹脂組成物からなり、
前記樹脂成分の吸水率が0.1質量%以下であり、
前記樹脂成分が熱可塑性樹脂であり、
前記樹脂組成物の融点が300℃超であり、
前記樹脂組成物の比誘電率が3.0未満であり、
前記樹脂組成物の誘電正接が0.002未満である
、樹脂フィルム。
【請求項6】
樹脂成分と、
複数のリンカー部および複数の多座コア部が共有結合によって連結された共有結合性有機構造体と、を含む樹脂組成物からなり、
前記樹脂成分の吸水率が0.1質量%以下であり、
前記樹脂成分が、ノルボルネン系モノマーの付加重合体である
、樹脂フィルム。
【請求項7】
前記共有結合性有機構造体の前記共有結合は、炭素窒素二重結合である、請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項8】
樹脂成分と、
複数のリンカー部および複数の多座コア部が共有結合によって連結された共有結合性有機構造体と、を含む樹脂組成物からなり、
前記樹脂成分の吸水率が0.1質量%以下であり、
前記共有結合性有機構造体の前記共有結合は、炭素窒素二重結合であり、
前記リンカー部の両末端は、炭素原子を有し、
前記多座コア部は、窒素原子を有し、
前記共有結合性有機構造体の前記共有結合は、前記リンカー部の炭素原子と前記多座コア部の窒素原子とが互いに結合した炭素窒素二重結合である
、樹脂フィルム。
【請求項9】
樹脂成分と、
複数のリンカー部および複数の多座コア部が共有結合によって連結された共有結合性有機構造体と、を含む樹脂組成物からなり、
前記樹脂成分の吸水率が0.1質量%以下であり、
前記樹脂組成物に対する前記共有結合性有機構造体の含有率は、10体積%以上70体積%以下である
、樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、5Gを利用した、高周波帯を使用しての情報通信が可能なハイエンドモデルの情報通信機器が商用化されている。このような情報通信機器に搭載される多層基板は、たとえば銅張積層板(CCL:Copper Clad Laminate)から製造される。CCLは、樹脂フィルムを含む。当該樹脂フィルムを構成する樹脂組成物は、誘電率が低く、かつ、CCLの反りの低減のため熱膨張係数が低いことが好ましい。また、さらなる高速大容量通信を可能とするBeyond5Gおよび6Gに向けて、高周波特性の向上の観点から、誘電率がさらに低い樹脂組成物が求められている。
【0003】
従来の樹脂組成物が、特許第5199569号明細書(特許文献1)、特開2020-147677号公報(特許文献2)、特許第4967116号明細書(特許文献3)、特開2007-231144号公報(特許文献4)に開示されている。
【0004】
特許文献1には、シェル及び中空部からなる中空粒子と熱硬化性樹脂とを含有し、中空粒子のシェル全体の98質量%以上がシリカで形成されている、低誘電樹脂組成物が開示されている。特許文献2には、絶縁性樹脂と、シルセスキオキサンを含むシェル層を有する中空粒子とを含有する、樹脂成形物が開示されている。特許文献3には、粒子状材料が合成樹脂に分散されて形成される多孔質絶縁層と、非多孔質絶縁層とから構成された絶縁層を有する、多層回路基板が開示されている。粒子状材料として、エアロゲルが例示されている。特許文献4には、配線板の樹脂層を構成する樹脂組成物であって、低誘電率樹脂と、ゼオライトをとを含有する樹脂組成物が開示されている。
【0005】
その他にも、従来の樹脂組成物が、特開2019-183005号公報(特許文献5)、国際公開第2008/081885号(特許文献6)、特開2007-154169号公報(特許文献7)、特開2021-046538号公報(特許文献8)、特開2003-147166号公報(特許文献9)、特公平7-099646号公報(特許文献10)、特開2008-075079号公報(特許文献11)および特許第6865687号明細書(特許文献12)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5199569号明細書
【文献】特開2020-147677号公報
【文献】特許第4967116号明細書
【文献】特開2007-231144号公報
【文献】特開2019-183005号公報
【文献】国際公開第2008/081885号
【文献】特開2007-154169号公報
【文献】特開2021-046538号公報
【文献】特開2003-147166号公報
【文献】特公平7-099646号公報
【文献】特開2008-075079号公報
【文献】特許第6865687号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、多層基板に用いるための樹脂フィルムを構成する樹脂組成物においては、種々の物理的特性向上の観点から、樹脂成分に対して様々な種類のフィラーの添加が提案されている。しかしながら、多層基板に好適に使用できる樹脂フィルムを構成する樹脂組成物には、比誘電率低下および熱膨張係数低下の観点から未だ改善の余地がある。
【0008】
本開示は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、多層基板に好適に使用できる樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に基づく樹脂フィルムは、樹脂成分と、複数のリンカー部および複数の多座コア部が共有結合によって連結された共有結合性有機構造体とを含む樹脂組成物からなる。
【0010】
本開示によれば、共有結合性有機構造体が、比誘電率の低い空気を内包する網目状の分子骨格を有しているため、樹脂成分の比誘電率が比較的高い場合には、樹脂組成物の比誘電率を樹脂成分に対して低くできる。さらに、共有結合性有機構造体の網目状の分子骨格は共有結合を有しているため剛直であり、樹脂成分の線膨張係数が比較的高い場合には、樹脂組成物の線膨張係数を樹脂成分に比べて低くできる。
【発明の効果】
【0011】
本開示に基づく樹脂フィルムは、多層基板に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態に係る樹脂フィルムを示す斜視図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る共有結合性有機構造体のうち2次元COFの構造を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の一実施形態について説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0014】
[樹脂フィルム]
図1は、本開示の一実施形態に係る樹脂フィルムを示す斜視図である。本開示の一実施形態に係る樹脂フィルム1は、樹脂成分と、共有結合性有機構造体とを含む樹脂組成物からなり、フレキシブル基板またはリジッド基板などの多層樹脂基板(特に、高周波用の回路基板)に含まれる低誘電体層として好適に使用できる。樹脂フィルム1の厚さは、たとえば、10μm以上250μm以下である。
【0015】
<樹脂組成物>
本実施形態に係る樹脂組成物は、常温の水に24時間浸したときの吸水率が、0.1質量%以下であることが好ましい。水は、誘電率が比較的高い。このため、上記の吸水率が0.1質量%以下であれば、当該樹脂組成物からなる樹脂フィルムは水分の吸収による誘電率の変動が抑制され、高周波用の回路基板部材としてより好適に使用できる。
【0016】
本実施形態に係る樹脂組成物の融点(Tm)は、300℃超であることが好ましい。樹脂組成物の融点(Tm)が300℃超であれば、当該樹脂組成物からなる樹脂フィルムが良好な耐熱性を有しているため、高電圧用の回路基板に好適に使用できる。樹脂組成物の融点(Tm)は、動的粘弾性測定装置を用いた貯蔵弾性率(E’)の測定に基づいて測定される。具体的には、当該樹脂組成物の融点(Tm)は、貯蔵弾性率(E’)の高温領域側における変曲点の温度である。
【0017】
本実施形態に係る樹脂組成物は、JIS R 1641に準拠して、空洞共振器法によって25℃雰囲気温度下で30GHzの高周波信号を印加することで測定したときの比誘電率が、3.0未満であることが好ましく、2.8未満であることがより好ましく、2.6未満であることがさらに好ましい。樹脂組成物の比誘電率が3.0未満であれば、高周波用回路基板に樹脂フィルムを使用した際に、当該基板における伝送損失をより効果的に抑制できる。
【0018】
本実施形態に係る樹脂組成物は、JIS R 1641に準拠して、空洞共振器法によって25℃雰囲気温度下で30GHzの高周波信号を印加することで測定したときの誘電正接が、0.002未満であることが好ましく、0.001未満であることがより好ましい。当該樹脂組成物の誘電正接が0.002未満であれば、高周波用回路基板に樹脂フィルムを使用した際に、当該基板における伝送損失をより効果的に抑制できる。
【0019】
本実施形態に係る樹脂組成物は、フィルム状に形成したときの面内方向における線膨張係数が、59ppm/℃未満であることが好ましく、40ppm/℃以下であることがより好ましく、20ppm/℃以下であることがさらに好ましい。上記の線膨張係数が59ppm/℃未満であれば、当該樹脂組成物からなる樹脂フィルムを用いて回路基板を製造したときに、回路基板の反りを効果的に抑制することができる。
【0020】
(樹脂成分)
次に、樹脂組成物に含まれる樹脂成分について説明する。本実施形態に係る樹脂成分は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂である。樹脂成分が熱可塑性樹脂である場合には、樹脂フィルムをフレキシブル基板に好適に用いることができる。また、樹脂成分は、比誘電率もしくは誘電正接が低いといった電気的特性の観点、低吸水性の観点、または、耐熱性の観点から、適宜選択される。このため、熱可塑性樹脂としては、たとえば、環状オレフィン系樹脂、鎖状オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、スチレン系樹脂、または、液晶ポリマーなどが挙げられる。また、樹脂成分が熱硬化性樹脂である場合には、樹脂フィルムをリジッド基板に好適に用いることができる。熱硬化性樹脂としては、たとえば、ポリイミドなどが挙げられる。
【0021】
環状オレフィン系ポリマーとしては、環状オレフィン系モノマーの付加重合体と、環状オレフィン系モノマーの開環重合体とが挙げられる。
【0022】
環状オレフィン系モノマーの付加重合体としては、ノルボルネン型モノマーを重合させて得られるノルボルネン型モノマーの付加(共)重合体、および、ノルボルネン型モノマーと、エチレン、α-オレフィン類もしくは非共役ジエンなどの他のモノマーとの付加共重合体、などが挙げられる。これらの環状オレフィン系モノマーの付加重合体は、公知の重合方法で得ることができる。また、市販の環状オレフィン系樹脂の付加重合体としては、ノルボルネンとエチレンとの付加共重合体である「TOPAS(登録商標)」(Ticona社製)および「アペル(登録商標)」(三井化学社製)などが挙げられる。
【0023】
環状オレフィン系モノマーの付加重合体としては、ノルボルネン型モノマーを付加重合させて得られるノルボルネン型モノマーの付加重合体(以下、単に「ポリノルボルネン」という場合がある)であることが好ましい。ポリノルボルネンは、比較的、吸水性が低く、耐熱性が高く、かつ、誘電率が低い。このため、樹脂成分としてポリノルボルネンを使用することで、低吸水性であって、耐熱性が高く、かつ、誘電率が低い樹脂フィルムが得られる。
【0024】
ノルボルネン型モノマーの付加重合体は、下記一般式(1)で表される繰り返し構造を含むものを挙げることができる。
【化1】
[式(1)中のXは、-CH
2-、-CH
2CH
2-、または-O-を示し、R
1、R
2、R
3、R
4はそれぞれ独立して水素原子、炭化水素基、炭素数1~12の極性基、または、該極性基を含む有機基を示す。nは0から2の整数を示し、その繰り返しは異なっていてもよい。]
【0025】
R1、R2、R3、R4は、少なくとも1つが炭素数1~12の環状エーテル基、反応性二重結合を有する有機基、又はアルコキシシリル基を含む基であることが好ましい。
【0026】
上記の炭素数1~12の極性基としては、たとえば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シリル基、エポキシ基、ケトン基、エーテル基などを挙げることができる。また、シリル基の具体例としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基などのアルコキシシリル基が挙げられる。
【0027】
上記の炭素数1~12の極性基を含む有機基としては、極性基が、直鎖もしくは分岐したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、環状脂肪族基、アリール基、エーテル基、又は、ケトン基によりノルボルネン骨格上に結合されたものなどを挙げることができる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等;アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ブチニル基、シクロヘキセニル基等;アルキニル基の具体例としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基等;アラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基等;環状脂肪族基の具体例として、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等;アリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。
【0028】
上記の炭素数1~12の極性基を含む有機基としては、具体的には、シリル基を含む有機基、エポキシ基を含む有機基が挙げられる。シリル基を含む有機基の具体例としては、ジフェニルメチルシリル基、トリエトキシシリルエチル基、トリメトキシシリルプロピル基、トリメチルシリルメチルエーテル基等、エポキシ基を含む有機基の具体例としては、チルグリシジルエーテル基、アリルグリシジル-エーテル基等が挙げられる。しかしながら、本開示におけるポリノルボルネンは何らこれらに限定されない。
【0029】
ノルボルネン型モノマーの付加重合体(ポリノルボルネン)を製造するために使用するノルボルネン型モノマーとしては、2-ノルボルネンを含む、下記一般式(2)で表されるノルボルネン型モノマーが好ましい。
【化2】
[式(2)中のXは、-CH
2-、-CH
2CH
2-、または-O-を示し、R
1、R
2、R
3、R
4はそれぞれ独立して水素原子、炭化水素基、炭素数1~12の極性基、又は、該極性基を含む有機基を示す。nは0から2の整数を示し、その繰り返しは異なっていてもよい。]
【0030】
アルキル基を有するノルボルネン型モノマーとしては、たとえば、5-メチル-2-ノルボルネン、5-エチル-2-ノルボルネン、5-プロピル-2-ノルボルネン、5-ブチル-2-ノルボルネン、5-ペンチル-2-ノルボルネン、5-ヘキシル-2-ノルボルネン、5-ヘプチル-2-ノルボルネン、5-オクチル-2-ノルボルネン、5-ノニル-2-ノルボルネン、および、5-デシル-2-ノルボルネンなどが挙げられる。
【0031】
アルケニル基を有するノルボルネン型モノマーとしては、たとえば、5-アリル-2-ノルボルネン、5-メチリデン-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、5-(2-プロペニル)-2-ノルボルネン、5-(3-ブテニル)-2-ノルボルネン、5-(1-メチル-2-プロペニル)-2-ノルボルネン、5-(4-ペンテニル)-2-ノルボルネン、5-(1-メチル-3-ブテニル)-2-ノルボルネン、5-(5-ヘキセニル)-2-ノルボルネン、5-(1-メチル-4-ペンテニル)-2-ノルボルネン、5-(2,3-ジメチル-3-ブテニル)-2-ノルボルネン、5-(2-エチル-3-ブテニル)-2-ノルボルネン、5-(3,4-ジメチル-4-ペンテニル)-2-ノルボルネン、5-(7-オクテニル)-2-ノルボルネン、5-(2-メチル-6-ヘプテニル)-2-ノルボルネン、5-(1,2-ジメチル-5-ヘキセニル)-2-ノルボルネン、5-(5-エチル-5-ヘキセニル)-2-ノルボルネン、5-(1,2,3-トリメチル-4-ペンテニル)-2-ノルボルネンなどが挙げられる。
【0032】
アルキニル基を有するノルボルネン型モノマーとしては、5-エチニル-2-ノルボルネンなどが挙げられる。
【0033】
シリル基を有するノルボルネン型モノマーとしては、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチル-1,5-ジメチルビス((2-(5-ノルボルネン-2-イル)エチル)トリシロキサンなどが挙げられる。
【0034】
アルコキシシリル基を有するノルボルネン型モノマーとしては、ジメチルビス((5-ノルボルネン-2-イル)メトキシ)シラン、5-トリメトキシシリル-2-ノルボルネン、5-トリエトキシシリル-2-ノルボルネン、5-(2-トリメトキシシリルエチル)-2-ノルボルネン、5-(2-トリエトキシシリルエチル)-2-ノルボルネン、5-(3-トリメトキシプロピル)-2-ノルボルネン、5-(4-トリメトキシブチル)-2-ノルボルネン、5ートリメチルシリルメチルエーテル-2-ノルボルネンなどが挙げられる。
【0035】
アリール基を有するノルボルネン型モノマーとしては、5-フェニルー2-ノルボルネン、5-ナフチル-2-ノルボルネン、5-ペンタフルオロフェニル-2-ノルボルネンなど、アラルキル基を有するものとしては、5-ベンジル-2-ノルボルネン、5-フェネチル-2-ノルボルネン、5-ペンタフルオロフェニルメタン-2-ノルボルネン、5-(2-ペンタフルオロフェニルエチル)-2-ノルボルネン、5-(3-ペンタフルオロフェニルプロピル)-2-ノルボルネンなどが挙げられる。
【0036】
ヒドロキシル基、エーテル基、カルボキシル基、エステル基、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有するノルボルネン型モノマーとしては、5-ノルボルネン-2-メタノール、及びこのアルキルエーテル、酢酸5-ノルボルネン-2-メチルエステル、プロピオン酸5-ノルボルネン-2-メチルエステル、酪酸5-ノルボルネン-2-メチルエステル、吉草酸5-ノルボルネン-2-メチルエステル、カプロン酸5-ノルボルネン-2-メチルエステル、カプリル酸5-ノルボルネン-2-メチルエステル、カプリン酸5-ノルボルネン-2-メチルエステル、ラウリン酸5-ノルボルネン-2-メチルエステル、ステアリン酸5-ノルボルネン-2-メチルエステル、オレイン酸5-ノルボルネン-2-メチルエステル、リノレン酸5-ノルボルネン-2-メチルエステル、5-ノルボルネン-2-カルボン酸、5-ノルボルネン-2-カルボン酸メチルエステル、5-ノルボルネン-2-カルボン酸エチルエステル、5-ノルボルネン-2-カルボン酸t-ブチルエステル、5-ノルボルネン-2-カルボン酸i-ブチルエステル、5-ノルボルネン-2-カルボン酸トリメチルシリルエステル、5-ノルボルネン-2-カルボン酸トリエチルシリルエステル、5-ノルボルネン-2-カルボン酸イソボニルエステル、5-ノルボルネン-2-カルボン酸2-ヒドロキシエチルエステル、5-ノルボルネン-2-メチル-2-カルボン酸メチルエステル、ケイ皮酸5-ノルボルネン-2-メチルエステル、5-ノルボルネン-2-メチルエチルカルボネート、5-ノルボルネン-2-メチルn-ブチルカルボネート、5-ノルボルネン-2-メチルt-ブチルカルボネート、5-メトキシ-2-ノルボルネン、(メタ)アクリル酸5-ノルボルネン-2-メチルエステル、(メタ)アクリル酸5-ノルボルネン-2-エチルエステル、(メタ)アクリル酸5-ノルボルネン-2-n-ブチルエステル、(メタ)アクリル酸5-ノルボルネン-2-nプロピルエステル、(メタ)アクリル酸5-ノルボルネン-2-i-ブチルエステル、(メタ)アクリル酸5-ノルボルネン-2-i-プロピルエステル、(メタ)アクリル酸5-ノルボルネン-2-ヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸5-ノルボルネン-2-オクチルエステル、(メタ)アクリル酸5-ノルボルネン-2-デシルエステルなどが挙げられる。
【0037】
エポキシ基を有するノルボルネン型モノマーとしては、5-[(2,3-エポキシプロポキシ)メチル]-2-ノルボルネンなどが挙げられる。
【0038】
テトラシクロ環からなるノルボルネン型モノマーとしては、8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-n-プロピルカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-i-プロピルカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-n-ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-(2-メチルプロポキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-(1-メチルプロポキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-t-ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-シクロヘキシロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-(4’-t-ブチルシクロヘキシロキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-フェノキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-テトラヒドロフラニロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-テトラヒドロピラニロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチル-8-エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチル-8-n-プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチル-8-i-プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチル-8-n-ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチル-8-(2-メチルプロポキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチル-8-(1-メチルプロポキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチル-8-t-ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチル-8-シクロヘキシロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチル-8-(4‘-t-ブチルシクロヘキシロキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチル-8-フェノキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチル-8-テトラヒドロフラニロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチル-8-テトラヒドロピラニロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メチル-8-アセトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8,9-ジ(メトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8,9-ジ(エトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8,9-ジ(n-プロポキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8,9-ジ(i-プロポキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8,9-ジ(n-ブトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8,9-ジ(t-ブトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8,9-ジ(シクロへキシロキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8,9-ジ(フェノキシロキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8,9-ジ(テトラヒドロフラニロキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8,9-ジ(テトラヒドロピラニロキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8,9-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン-8-カルボン酸、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン-8-カルボン酸、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデック-3-エン、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.01,6]ドデック-3-エン、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,12]ドデック-3-エン、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,1001,6]ドデック-3-エンなどが挙げられる。
【0039】
環状オレフィン系樹脂の開環重合体としては、ノルボルネン型モノマーの開環(共)重合体、ノルボルネン型モノマーの水素化開環(共)重合体、ノルボルネン型モノマーとエチレン、α-オレフィン類もしくは非共役ジエンなどの他のモノマーとの開環共重合体、および、ノルボルネン型モノマーとエチレン、α-オレフィン類もしくはノルボルネン型モノマーの水素化開環共重合体などが挙げられる。環状オレフィン系樹脂の開環重合体としては、ノルボルネン型モノマーの水素化開環共重合体が好ましい。ノルボルネン型モノマーの水素化開環共重合体は、比較的、吸水性が低く、誘電率が低い。このため、樹脂成分としてノルボルネン型モノマーの水素化開環共重合体を使用することで、低吸水性であって、誘電率が低い樹脂フィルムが得られる。また、市販の環状オレフィン系樹脂の開環重合体としては、「ゼオノア(ZEONOR)(登録商標)」、「ゼオネックス(ZEONEX)(登録商標)」(日本ゼオン社製)および「ARTON(登録商標)」(JSR社製)などが挙げられる。
【0040】
鎖状オレフィン系樹脂は、環状構造を有しないオレフィン系樹脂である。鎖状オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、および、ポリメチルペンテン系樹脂などの鎖状ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。これらの鎖状ポリオレフィン系樹脂は、直鎖状構造を有してもよいし、分岐鎖状構造を有していてもよい。鎖状オレフィン系樹脂としては、ポリメチルペンテン系樹脂が好ましい。ポリメチルペンテン系樹脂は、比較的、誘電率が低い。このため、樹脂成分としてポリメチルペンテン系樹脂を使用することで、誘電率が低い樹脂フィルムが得られる。市販のポリメチルペンテン系樹脂としては、「TPX(登録商標)」(三井化学社製)などが挙げられる。
【0041】
フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライト(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロエチレントリフルオロエチレン共重合体、ポリビニルフルオライド(PVF)などが挙げられる。この中でも、フッ素系樹脂としては、パーフルオロアルコキシアルカンが好ましい。パーフルオロアルコキシアルカンは、比較的、吸水性が低く、耐熱性が高く、かつ、比誘電率が低い。このため、樹脂成分としてパーフルオロアルコキシアルカンを使用することで、低吸水性であって、耐熱性が高く、かつ、比誘電率が低い樹脂フィルムが得られる。市販のフッ素系樹脂としては、たとえば、「Fluon(登録商標)ETFE」、「Fluon(登録商標)PTFE」、「Fluon(登録商標)PFA」、「Fluon+(登録商標)EA2000」(いずれもAGC社製)などが挙げられる。
【0042】
スチレン系樹脂としては、シンジオタクチックポリスチレンが好ましい。シンジオタクチックポリスチレンは、比較的、誘電率が低い。このため、樹脂成分としてシンジオタクチックポリスチレンを使用することで、誘電率が低い樹脂フィルムが得られる。市販のシンジオタクチックポリスチレンとしては、「Oidys(登録商標)」(クラボウ社製)などが挙げられる。
【0043】
液晶ポリマーとしては、特に限定されないが、たとえば、サーモトロピック液晶ポリマー等が挙げられる。サーモトロピック液晶ポリマーとは、たとえば、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等のモノマーを主体として合成される芳香族ポリエステルであり、溶融時に液晶性を示す。
【0044】
液晶ポリマーは、アミド結合を有していないことが好ましい。アミド結合を有していないサーモトロピック液晶ポリマーとしては、1型液晶ポリマー、または、1.5型(もしくは3型)液晶ポリマーが挙げられる。1型液晶ポリマーは、パラヒドロキシ安息香酸とテレフタル酸とジヒドロキシビフェニルとの共重合体(パラヒドロキシ安息香酸とエチレンテレフタレートとの共重合体)である。1.5型液晶ポリマーは、パラヒドロキシ安息香酸と2,6-ヒドロキシナフトエ酸との共重合体であって、1型液晶ポリマーと2型液晶ポリマーとの間の融点を有する。本実施形態において、液晶ポリマーとしては1.5型液晶ポリマーが好ましい。1.5型液晶ポリマーは、比較的、吸水性が低く、耐熱性が高く、かつ、熱膨張係数が低い。このため、熱可塑性樹脂として1.5型液晶ポリマーを使用することで、低吸水性であって、耐熱性が高く、かつ、熱膨張係数が低い樹脂フィルムが得られる。
【0045】
ポリイミドとしては、繰り返し単位にイミド結合を有する樹脂であれば特に限定されない。より具体的には、ポリイミドは、芳香族化合物が直接にイミド結合で連結された芳香族ポリイミドであることが好ましい。ポリイミドは、比較的、耐熱性が高く、かつ、線膨張係数が低い。このため、熱硬化性樹脂としてポリイミドを使用することで、耐熱性が高く、かつ、熱膨張係数が低い樹脂フィルムが得られる。ポリイミドは、たとえば、ポリイミドの前駆体溶液を熱処理することで得られる。市販のポリイミド前駆体溶液としては、「Uイミド(登録商標)」(ユニチカ社製)、「ユピア(登録商標)」(宇部興産社製)などが挙げられる。
【0046】
本実施形態に係る樹脂成分は、常温の水に24時間浸したときの吸水率が、0.1質量%以下であることが好ましい。水は、誘電率が比較的高い。このため、樹脂成分の吸水率が0.1質量%以下であれば、本実施形態に係る樹脂組成物の吸水率も低くなる。ひいては、当該樹脂組成物からなる樹脂フィルムは水分の吸収による誘電率の変動が抑制され、高周波用の回路基板部材としてより好適に使用できる。
【0047】
本実施形態に係る樹脂成分の融点(Tm)は、300℃超であることが好ましい。樹脂成分の融点(Tm)が300℃超であれば、この樹脂成分を含む樹脂組成物の融点(Tm)も比較的高くなる。ひいては、当該樹脂組成物からなる樹脂フィルムが良好な耐熱性を有するため、高電圧用の回路基板に好適に使用できる。樹脂成分の融点(Tm)は、動的粘弾性測定装置を用いた貯蔵弾性率(E’)の測定に基づいて測定される。具体的には、当該樹脂成分の融点(Tm)は、貯蔵弾性率(E’)の高温領域側における変曲点の温度である。
【0048】
本実施形態に係る樹脂成分は、JIS R 1641に準拠して、空洞共振器法によって25℃雰囲気温度下で30GHzの高周波信号を印加することで測定したときの比誘電率が、3.0未満であることが好ましく、2.8未満であることがより好ましく、2.6未満であることがさらに好ましい。当該樹脂成分の比誘電率が3.0未満であれば、樹脂組成物の比誘電率も低くなる。ひいては、高周波用回路基板に本実施形態に係る樹脂フィルムを使用した際に、当該基板における伝送損失をより効果的に抑制できる。
【0049】
本実施形態に係る樹脂成分は、JIS R 1641に準拠して、空洞共振器法によって25℃雰囲気温度下で30GHzの高周波信号を印加することで測定したときの誘電正接が、0.002未満であることが好ましく、0.001未満であることがより好ましい。誘電正接が0.002未満である樹脂成分を含む樹脂組成物は、比較的誘電正接が低くなる。よって、当該樹脂組成物からなるフィルムを高周波用回路基板に使用した際に、当該基板における伝送損失をより効果的に抑制できる。
【0050】
本実施形態に係る樹脂成分は、フィルム状に形成したときの面内方向における線膨張係数が、59ppm/℃未満であることが好ましく、40ppm/℃以下であることがより好ましく、20ppm/℃以下であることがさらに好ましい。上記の線膨張係数が59ppm/℃未満であれば、当該樹脂成分を含む樹脂組成物の線膨張係数も比較的低くなる。よって、当該樹脂組成物からなるフィルムを用いて回路基板を製造したときに、回路基板の反りを効果的に抑制することができる。
【0051】
(共有結合性有機構造体)
本実施形態に係る樹脂組成物に含まれる共有結合性有機構造体(COF:Covalent Organic Frameworks)は、有機構造物が互いに共有結合して周期構造を形成した多孔質の結晶性粒子であって、COFは、粉末状である。本実施形態に係るCOFは、具体的には、複数のリンカー部および複数の多座コア部が共有結合によって連結された構造体である。これにより、COFは、多数の細孔が形成された網目状の分子骨格を有している。多座コア部は、COFの網目状の分子骨格の分岐点に位置する有機構造部であり、リンカー部は、当該リンカー部の両隣に位置する2つの多座コア部を連結させる有機構造部である。
【0052】
COFの共有結合の種類は、単結合、二重結合または三重結合のいずれであってもよいが、COFの合成の容易性およびCOFの剛直性の向上の両観点から、二重結合であることが好ましい。COFの共有結合が二重結合であれば、COFがより剛直な構造となり、COFをフィラーとして含む樹脂組成物の線膨張係数が低下する。また、COFの共有結合は、より好ましくは、炭素原子(好ましくはCH基)と窒素原子とが互いに結合した炭素窒素二重結合(イミン結合)である。COFのリンカー部と多座コア部との二重結合が炭素窒素二重結合(イミン結合)である場合、リンカー部がイミン結合を構成する炭素原子(好ましくはCH基)を有するとともに、多座コア部がイミン結合を構成する窒素原子を有する。あるいは、リンカー部が、イミン結合を構成する窒素原子を有するとともに、多座コア部がイミン結合を構成する炭素原子(好ましくはCH基)を有する。
【0053】
本実施形態において、リンカー部は、イミン結合を構成する原子(すなわち、窒素原子または炭素原子)が、それぞれ2つ、芳香族化合物、複素環式化合物、または、縮合複素環式化合物に結合した構造を有している。リンカー部においてイミン結合を構成する原子と結合する芳香族化合物は、1以上のベンゼン環、1以上の縮合多環芳香族炭化水素、1以上の複素環式芳香族化合物、または、1以上の縮合複素環式芳香族化合物を有していることが好ましい。リンカー部としては、たとえば、以下の化学式(3)~(6)で表される構造体が挙げられる。
【化3】
[式(3)中、nおよびmはそれぞれ独立して0以上10以下の整数であり、R
1~R
8は、それぞれ独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、または、芳香族複素環基のいずれかであり、Xは、CH基または窒素である。]
【0054】
【化4】
[式(4)中、nは1以上10以下の整数であり、R
1~R
4は、それぞれ独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、または、芳香族複素環基のいずれかであり、Xは、CH基または窒素である。]
【0055】
【化5】
[式(5)中、R
1~R
6は、それぞれ独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、または、芳香族複素環基のいずれかであり、Xは、CH基または窒素である。]
【0056】
【化6】
[式(6)中、R
1~R
6は、それぞれ独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、または、芳香族複素環基のいずれかであり、Xは、CH基または窒素である。]
【0057】
式(3)~(6)の説明中において、アルキル基は、直鎖状または分岐状でもよく、シクロアルキル基でもよい。アルキル基の炭素数は1以上20以下程度である。アルコキシ基は、直鎖状または分岐状でもよく、シクロアルキルオキシ基であってもよい。アルコキシ基の炭素数は1以上20以下程度である。アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団である。アリール基には、縮合環を持つもの、独立したベンゼン環又は縮合環2個以上が直接又はビニレン等の基を介して結合したものが含まれる。
【0058】
本実施形態において、多座コア部は、イミン結合を構成する原子(すなわち、窒素原子または炭素原子)が、それぞれ3つ以上、芳香族化合物、複素環式化合物、または、縮合複素環式化合物に結合した構造を有している。多座コア部においてイミン結合を構成する原子と結合する芳香族化合物は、1以上のベンゼン環、1以上の縮合多環芳香族炭化水素、1以上の複素環式芳香族化合物、または、1以上の縮合複素環式芳香族化合物を有していることが好ましい。多座コア部としては、たとえば、以下の化学式(7)~(9)で表される構造体が挙げられる。
【0059】
【化7】
[式(7)中、R
1~R
3は、それぞれ独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、または、芳香族複素環基のいずれかであり、Xは、CH基または窒素である。]
【0060】
【化8】
[式(8)中、R
1~R
15は、それぞれ独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、または、芳香族複素環基のいずれかであり、Xは、CH基または窒素である。]
【0061】
【化9】
[式(9)中、R
1~R
16は、それぞれ独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、または、芳香族複素環基のいずれかであり、Xは、CH基または窒素である。]
【0062】
式(7)~(9)の説明中において、アルキル基は、直鎖状または分岐状でもよく、シクロアルキル基でもよい。アルキル基の炭素数は1以上20以下程度である。アルコキシ基は、直鎖状または分岐状でもよく、シクロアルキルオキシ基であってもよい。アルコキシ基の炭素数は1以上20以下程度である。アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団である。アリール基には、縮合環を持つもの、独立したベンゼン環又は縮合環2個以上が直接又はビニレン等の基を介して結合したものが含まれる。
【0063】
リンカー部および/または多座コア部は、リン元素を有していることが好ましく、たとえば、ホスフィン基またはホスフィンオキシド基を有していることが好ましい。リンカー部および/または多座コア部が、リン元素を有していることにより、樹脂組成物に難燃性を付与、あるいは、樹脂組成物の難燃性を向上させることができる。また、リンカー部および/または多座コア部は、樹脂組成物の疎水性向上の観点から、アルキル基を有していることも好ましい。
【0064】
本実施形態においては、リンカー部の両末端が炭素原子であり、多座コア部が窒素原子を有していることで、COFの共有結合が、リンカー部の炭素原子と多座コア部の窒素原子とが互いに結合した炭素窒素二重結合であることが好ましい。このようなCOFを樹脂成分に添加してなる樹脂組成物は、リンカー部の炭素原子と多座コア部の窒素原子とが互いに結合した炭素窒素二重結合が剛直であるため、誘電正接の上昇が抑制される。
【0065】
COFの共有結合が、リンカー部の炭素原子と多座コア部の窒素原子とが互いに結合した炭素窒素二重結合である場合、具体的には、リンカー部は、多座コア部の窒素原子と結合する2つの炭素原子を有し、多座コア部は、リンカー部の炭素原子と結合する3つ以上の窒素原子を有する。多座コア部が、リンカー部の炭素原子と結合する3つの窒素原子を有している場合、COFは、平面状に拡がる網目構造を有するいわゆる2次元COFの骨格を容易に形成できる。また、多座コア部が、リンカー部の炭素原子と結合する4つの窒素原子を有していることにより、立体的に拡がる網目構造を有するいわゆる3次元COFの骨格を容易に形成できる。
【0066】
2次元COFの構造について、模式的な図を用いて説明する。
図2は、本開示の一実施形態に係る共有結合性有機構造体のうち2次元COFの構造を模式的に示す斜視図である。
図2に示すように、共有結合性有機構造体(COF)10は、複数のリンカー部11と複数の多座コア部12が連結された構造体であって、網目状の骨格を有している。
図2においては、COF10として2次元COFの例を示しているため、この網目状の骨格が、平面状に拡がっている。さらに、COF10は結晶性を有しており、
図2に示すように、2次元COF10の場合、平面状に拡がる複数の網目骨格が、網目骨格が拡がる平面方向に交差する方向に沿って並んでいる。さらに、複数の網目構造が並ぶ方向に沿って、網目構造によって形成された複数の孔部が並んで位置している。このため、2次元COF10の内部には、複数の孔部が並ぶことにより比較的大きな空隙が形成される。2次元COF10は、この空隙において比較的多量の空気を保持できるため、比誘電率が低い。よって、2次元COF10を、比誘電率の比較的高い樹脂成分に添加した場合には、樹脂成分に対して比誘電率の低い樹脂組成物を得ることができる。
【0067】
COFの具体例としては、以下の化学式(10)~(12)に示す構造を挙げることができるが、COFはこれらに限定されるものではない。
【0068】
【0069】
上記式(10)で表されるCOFにおいては、リンカー部が、その両末端に位置する2つの窒素原子を有し、多座コア部が、リンカー部の両末端に位置する窒素原子と結合する3つの炭素原子(具体的にはCH基)を有する。このため、上記式(10)で表されるCOFは、平面状に拡がる網目構造を有するいわゆる2次元COFの構造を有する。
【0070】
【0071】
上記式(11)で表されるCOFにおいては、リンカー部が、その両末端に位置する2つの炭素原子(具体的にはCH基)を有し、多座コア部が、リンカー部の両末端の炭素原子(具体的にはCH基)と結合する3つの窒素原子を有する。このため、上記式(10)で表されるCOFは、平面状に拡がる網目構造を有するいわゆる2次元COFの構造を有する。
【0072】
【0073】
上記式(12)で表されるCOFにおいては、リンカー部が、その両末端に位置する2つの炭素原子(具体的にはCH基)を有し、多座コア部が、リンカー部の両末端の炭素原子(具体的にはCH基)と結合する4つの窒素原子を有する。このため、上記式(12)で表されるCOFは、立体的に拡がる網目構造を有するいわゆる3次元COFの構造を有する。
【0074】
共有結合性有機構造体の含有率は、樹脂組成物に対して10体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがさらに好ましい。共有結合性有機構造体の含有率が樹脂組成物に対して10体積%以上であれば、樹脂組成物の線膨張係数をより効果的に低下でき、30体積%以上であれば、樹脂成分の難燃性が比較的低い場合においても、樹脂組成物に難燃性を付与できる。また、共有結合性有機構造体の含有率の上限は特に限定されないが、樹脂フィルムの剛性が過剰に高くなることを抑制する観点から80体積%以下であることが好ましく、70体積%以下であることがより好ましく、60体積%以下であることがさらに好ましい。
【0075】
COFの製造方法は特に限定されないが、COFの共有結合が炭素窒素二重結合(イミン結合)である場合、複数のアルデヒド基を有する化合物と、複数のアミノ基を有する化合物とを脱水縮合反応させることでCOFを得ることができる。すなわち、両末端にアルデヒド基を有し、脱水縮合反応によりCOFのリンカー部を構成するリンカー化合物と、3つ以上のアミノ基を有し、脱水縮合反応によりCOFの多座コア部を構成する多座コア化合物とを、脱水縮合反応させることで、イミン結合を有するCOFが得られる。あるいは、両末端にアミノ基を有するリンカー化合物と、3つ以上のアルデヒド基を有する多座コア化合物とを、脱水縮合反応させることで、イミン結合を有するCOFが得られる。
【0076】
たとえば、リンカー化合物として2,6-ジアミノアントラキノンと、多座コア化合物として2,4,6-トリホルミルフロログルシノールと、を脱水縮合反応させることで、上記式(10)の構造で表されるCOFが得られる。また、リンカー化合物としてテレフタルアルデヒドと、多座コア化合物として1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼンと、を脱水縮合反応させることで、上記式(11)の構造で表されるCOFが得られる。また、リンカー化合物としてテレフタルアルデヒドと、多座コア化合物としてテトラキス(4-アミノフェニル)メタンと、を脱水縮合反応させることで、上記式(12)の構造で表されるCOFが得られる。なお、上記式(10)~(12)の構造で表されるCOFの製造方法は、上記の方法に限定されるものではない。
【0077】
(その他の添加物)
本実施形態に係る樹脂組成物は、吸水性、耐熱性、および、電気特性などの物理特性の向上を目的として、COF以外にも、その他の添加物を含んでいてもよい。たとえば、樹脂組成物は、無機フィラーおよびCOF以外の有機フィラーを含んでいてもよい。無機フィラーおよび有機フィラーとしては、たとえば、中空シリカ、中空ガラス、ゼオライト、エアロゲル、または、シルセスキオキサンなどが挙げられる。また、本実施形態に係る樹脂組成物は、フィラーとしてCOFのみを含んでいてもよい。
【0078】
[樹脂フィルムの製造方法]
樹脂フィルムの製造方法は特に限定されない。樹脂成分の前駆体溶液にCOFを添加することで樹脂溶液を調製し、樹脂溶液をキャリアフィルムに塗工し、または多層基板の他の層に直接塗工し、塗工された樹脂溶液を加熱および乾燥させることで、樹脂フィルムを得てもよい。加熱して溶融させた樹脂成分にCOFを添加し、これを攪拌することで溶融した樹脂組成物を得たのち、この樹脂組成物を射出成形またはプレス成形などで成形することにより、樹脂フィルムを得てもよい。また、COFが樹脂成分に予め添加された樹脂組成物を準備し、当該樹脂組成物を加熱して溶融させた上で、射出成形またはプレス成形などで成形することにより、樹脂フィルムを得てもよい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を挙げて本開示に基づく樹脂フィルムをより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
[共有結合性有機構造体の準備]
まず、各実施例に係る樹脂組成物を作製する前に、3種類のCOFを準備した。各COFの具体的な製造方法を以下に説明する。
【0081】
<COF(a)>
超純水中において、リンカー化合物として2,6-ジアミノアントラキノン(東京化成工業社製)(1mol/L)および多座コア化合物として2,4,6-トリホルミルフロログルシノール(670mmol/L)を、酸触媒としてp-トルエンスルホン酸一水和物(東京化成工業社製)(5mol/L)の存在下にて、室温で終夜攪拌させた。その後、混合液中に沈殿した生成物を濾過により回収し、超純水、テトラヒドロフラン、メタノールの順で十分洗浄し、乾燥させることにより、共有結合性有機構造体として「COF(a)」を得た。
【0082】
<COF(b)>
1,4-ジオキサンおよびメシチレンを体積比で4:1となるように混合した混合液中において、リンカー化合物としてテレフタルアルデヒド(東京化成工業社製)(37.5mmol/L)および多座コア化合物として1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼン(東京化成工業社製)(25mmol/L)を、ルイス酸触媒としてSc(OTf)3(東京化成工業社製)(1.5mmol/L)の存在下にて、室温で1時間攪拌させた。その後、混合液中に沈殿した生成物を濾過により回収し、1,4-ジオキサンおよびメシチレンを用いて洗浄した。その後、ソックスレー抽出器を用いて、メタノールで15時間洗浄し、乾燥させることにより、共有結合性有機構造体として「COF(b)」を得た。
【0083】
<COF(c)>
1,4-ジオキサンおよびメシチレンを体積比で4:1となるように混合した混合液中において、リンカー化合物としてテレフタルアルデヒド(東京化成工業社製)(37.5mmol/L)および多座コア化合物としてテトラキス(4-アミノフェニル)メタン(東京化成工業社製)(18.8mmol/L)を、ルイス酸触媒としてスカンジウム(III)トリフラート(東京化成工業社製)(1.5mmol/L)の存在下にて、室温で1時間攪拌させた。その後、混合液中に沈殿した生成物を濾過により回収し、1,4-ジオキサン及びメシチレンを用いて洗浄した。その後、ソックスレー抽出器を用いて、メタノールで15時間洗浄し、乾燥させることにより、共有結合性有機構造体として「COF(c)」を得た。
【0084】
[実施例1]
ポリイミドの前駆体溶液(商品名「Uイミド(登録商標)」、ユニチカ社製)に、上記COF(b)を添加し、攪拌することで、樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液をキャリアフィルム(商品名「ルミラーフィルム(登録商標)」、東レ社製)に塗工した。その後、樹脂溶液が塗工されたキャリアフィルムを、加熱および乾燥して、積層体を得た。この積層体からキャリアフィルムを除去することで、実施例1に係る樹脂フィルムを得た。なお、実施例1においては、COF(b)の含有率が、樹脂フィルム全体に対して30体積%となるように、樹脂溶液を調製し、樹脂フィルムの乾燥後の厚さが50μmとなるように、キャリアフィルム上に樹脂溶液を塗工した。
【0085】
[実施例2]
シンジオタクチックポリスチレン(SPS)(商品名「Oidys(登録商標)」、クラボウ社製)を溶融させ、この溶融したSPSに上記COF(b)を添加して混練することで、溶融した樹脂組成物を得た。この溶融した樹脂組成物を連続金属ベルト上に塗布し、冷却後連続ベルトから剥離することで、実施例2に係る樹脂フィルムを得た。なお、実施例2においては、COF(b)の含有率が、樹脂フィルム全体に対して30体積%となるように、SPSとCOF(b)とを混練し、樹脂フィルムの厚さが50μmとなるように、連続金属ベルト上に溶融した樹脂組成物を塗布した。
【0086】
[実施例3]
まず、液晶ポリマーを準備した。攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p-ヒドロキシ安息香酸(911g)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(409g)、テレフタル酸(274g)、イソフタル酸(91g)および無水酢酸(1235g)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。そして、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、300℃まで2時間50分かけて昇温した。そして、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、溶融状態で内容物をバットの中に取り出して液晶ポリマーとして液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリマーを冷却し、粉砕機で粉砕して、液晶ポリマーの粉末を得た。
【0087】
上記で得られた粉末状の液晶ポリマーを溶融させ、混練機にて上記COF(b)と混練することで、溶融した樹脂組成物を得た。この溶融した樹脂組成物を連続金属ベルト上に塗布し、冷却後連続ベルトから剥離することで、実施例3に係る樹脂フィルムを得た。なお、実施例3においては、COF(b)の含有率が、樹脂フィルム全体に対して30体積%となるように、液晶ポリマーとCOF(b)とを混練し、樹脂フィルムの厚さが50μmとなるように、連続金属ベルト上に溶融した樹脂組成物を塗布した。
【0088】
[実施例4]
パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)(商品名「Fulton+(登録商標)EA2000」、AGC社製)を溶融させ、この溶融したPFAに上記COF(b)を添加し、混練機にて混練することで、溶融した樹脂組成物を得た。この溶融した樹脂組成物を連続金属ベルト上に塗布し、冷却後連続ベルトから剥離することで、実施例4に係る樹脂フィルムを得た。なお、実施例4において、COF(a)の含有率が、樹脂フィルム全体に対して10体積%となるようにPFAとCOF(a)とを混練し、樹脂フィルムの厚さが50μmとなるように、キャリアフィルム上に溶融した樹脂組成物を塗布した。
【0089】
[実施例5~12]
後に示す表1に基づき、実施例4に対して、共有結合性有機構造体(COF)の種類(COF(a)、COF(b)、COF(c))、および、樹脂フィルム全体に対する共有性有機構造体(COF)の含有率(体積%)の、少なくとも一方が異なるように、樹脂フィルムを作成した。COFの種類および/または含有率以外については、実施例4に係る樹脂フィルムと同様にして、実施例5~12に係る樹脂フィルムを作成した。
【0090】
[実施例13]
環状オレフィン系樹脂の開環重合体(COP)(商品名「ZEONOR(登録商標)」、日本ゼオン社製)を溶融させ、この溶融したCOPに上記COF(b)を添加し、混練機にて混練することで、溶融した樹脂組成物を得た。この溶融した樹脂組成物を連続金属ベルト上に塗布し、冷却後連続ベルトから剥離することで、実施例13に係る樹脂フィルムを得た。なお、実施例13においては、COF(b)の含有率が、樹脂フィルム全体に対して30体積%となるように、COPとCOF(b)とを混練し、樹脂フィルムの厚さが50μmとなるように、キャリアフィルム上に溶融した樹脂組成物を塗布した。
【0091】
[実施例14]
まず、ノルボルネン系モノマーの付加重合体(ポリノルボルネン(PNB))を準備した。重合系の雰囲気を不活性ガスの窒素で十分に満たした反応容器中に、2-ノルボルネン16.4g(0.07mol)、5-ヘキシル-2-ノルボルネン5.41g(0.03mol)、重合溶剤としてエチルアセテート130g、シクロヘキサン115g(0.53mol)を仕込んだ。次いで、遷移金属触媒(η6-トルエンニッケルビス(ペンタフルオロフェニル)0.69g(1.4×10-3mol))をトルエン5gに溶解させた触媒溶液を反応容器に投入した。室温で4時間攪拌重合させた後、氷酢酸47ml、30%過酸化水素水87ml、純水300mlの混合液に前記重合溶液を投入し、2時間攪拌した。水層の遷移金属触媒と樹脂溶液の有機層とに分離した溶液の水層を除去した。さらに有機層を数回純水で洗浄した。そして、樹脂溶液をメタノール中に投入して析出した固形分を濾過後、減圧乾燥し溶剤を除くことで、ポリノルボルネンを得た。
【0092】
上記で得られたポリノルボルネンをトルエンに溶解させて、これをキャリアフィルム(商品名「ルミラーフィルム(登録商標)」、東レ社製)に塗工し、積層体を得た。この積層体からキャリアフィルムを除去することで、実施例14に係る樹脂フィルムを得た。なお、実施例14においては、COF(a)の含有率が、樹脂フィルム全体に対して10体積%となるように、PNBとCOF(a)とを混練し、樹脂フィルムの厚さが50μmとなるように、キャリアフィルム上に溶融した樹脂組成物を塗布した。
【0093】
[実施例15~22]
表1に示すように、実施例14に対して、共有結合性有機構造体(COF)の種類(COF(a)、COF(b)、COF(c))、および、樹脂フィルム全体に対する共有性有機構造体(COF)の含有率(体積%)の、少なくとも一方が異なるように樹脂フィルムを作成した。COFの種類および/または含有率以外については、実施例14に係る樹脂フィルムと同様にして、実施例5~12に係る樹脂フィルムを作成した。
【0094】
[実施例23]
ポリメチルペンテン(PMP)(商品名「TPX(登録商標)」、三井化学社製)を溶融させ、この溶融したPMPに上記COF(b)を添加し、混練機にて混練することで、溶融した樹脂組成物を得た。この溶融した樹脂組成物を連続金属ベルト上に塗布し、冷却後連続ベルトから剥離することで、実施例23に係る樹脂フィルムを得た。なお実施例23においては、COF(b)の含有率が、樹脂フィルム全体に対して30体積%となるように、COPとCOF(b)とを混練し、樹脂フィルムの厚さが50μmとなるように、キャリアフィルム上に溶融した樹脂組成物を塗布した。
【0095】
[実施例24]
COF(b)の含有率が、樹脂フィルム全体に対して50体積%となるように、PMPとCOF(b)とを混練したこと以外については、実施例23に係る樹脂フィルムと同様にして、実施例24に係る樹脂フィルムを作成した。
【0096】
[比較例1]
実施例1に対して、COFの添加をすることなく、樹脂フィルムを作成した。それ以外の作成条件については、実施例1と同様とした。
【0097】
[比較例2]
実施例2に対して、COFの添加をすることなく、樹脂フィルムを作成した。それ以外の作成条件については、実施例2と同様とした。
【0098】
[比較例3]
実施例3に対して、COFの添加をすることなく、樹脂フィルムを作成した。それ以外の作成条件については、実施例3と同様とした。
【0099】
[比較例4]
実施例4~12に対して、COFの添加をすることなく、樹脂フィルムを作成した。それ以外の作成条件については、実施例4~12と同様とした。
【0100】
[比較例5]
実施例13に対して、COFの添加をすることなく、樹脂フィルムを作成した。それ以外の作成条件については、実施例13と同様とした。
【0101】
[比較例6]
実施例14~22に対して、COFの添加をすることなく、樹脂フィルムを作成した。それ以外の作成条件については、実施例14~22と同様とした。
【0102】
[吸水率の測定]
実施例1~24および比較例1~6に係る樹脂フィルムについて、吸水率を測定した。具体的には、浸漬前の樹脂フィルムの質量を測定し、20℃の水に各樹脂フィルムを24時間浸漬し、各樹脂フィルムの表面の水分を拭き取った後速やかにカールフィッシャー法により各樹脂フィルムの吸水率を測定した。なお、各樹脂フィルムのn数は3であり、後述する値はそれらの平均値である。
【0103】
[融点(Tm)の測定]
実施例1~24および比較例1~6に係る樹脂フィルムについて、貯蔵弾性率(E’)を測定し、貯蔵弾性率(E’)の高温領域側における変曲点の温度を、そのフィルムの融点(Tm)とした。貯蔵弾性率(E’)の測定は、具体的には、樹脂フィルムを幅9mm、長さ40mmにカットした試験片(厚さ50μm)を、測定長(測定治具間隔)を20mmとして、動的粘弾性測定装置(TA-Instruments社製、RSA-G2)を用いて、乾燥空気雰囲気下、昇温速度3℃/min、-15℃~300℃の条件で行なった。
【0104】
[比誘電率および誘電正接の測定]
実施例1~24および比較例1~6に係る樹脂フィルムについて、比誘電率および誘電正接の測定を行った。具体的には、各樹脂フィルムについて、30mm×30mmの試験片(厚さ50μm)を作成し、JIS R 1641に準拠した誘電率測定装置を用いて、空洞共振器法によって当該試験片の比誘電率および誘電正接を測定した。測定は、25℃雰囲気温度下で30GHzの高周波信号を印加することで実施した。
【0105】
[線膨張係数の測定]
実施例1~24および比較例1~6に係る樹脂フィルムについて、面内方向の線膨張係数(CTE)の測定を行った。具体的には、各樹脂フィルムについて、200mm×50mmの試験片(厚さ50μm)を作成し、TMA(熱機械分析)法により、JIS K 7197に準じて、面内(XY方向)の線膨張係数の測定を行った。TMAの条件としては、熱分析装置(ブルカー社製、TMA4030SA)を用いて、窒素雰囲気下で、室温から150℃まで10℃/分で昇温し、荷重は10gとした。
【0106】
[難燃性の評価]
実施例1~24および比較例1~6に係る樹脂フィルムについて、UL94規格に基づき、200mm×50mmの試験片(厚さ50μm)を作成し、当該試験片についてUL規格に準じた薄手材料垂直燃焼試験(ASTM D4804)を実施することにより、難燃性を判定する評価試験を実施した。表1においては、UL規格における燃焼性分類がVTM-0、VTM-1またはVTM-2であった樹脂フィルムを難燃性「あり」と評価し、試験において試料が燃え尽きてしまった樹脂フィルムを難燃性「なし」と評価した。
【0107】
実施例1~24および比較例1~6に係る各樹脂フィルムについての評価結果を、それぞれ表1および表2に示す。
【0108】
【0109】
【0110】
表1および表2に示すように、樹脂成分がいずれもポリイミド(PI)である実施例1と比較例1とを対比すると、COFを含まない比較例1に係る樹脂フィルムは比誘電率が3.8と比較的高いが、COFを含む実施例1に係る樹脂フィルムは比誘電率が3.0となった。なお、比較例1の線膨張係数(CTE)は20ppm/℃未満、実施例1も20ppm/℃未満であり、これらはいずれも比較的低い値であった。
【0111】
また、樹脂成分がいずれもシンジオタクチックポリスチレン(SPS)である実施例2と比較例2とを対比すると、COFを含まない比較例2に係る樹脂フィルムはCTEが70ppm/℃と比較的高いが、COFを含む実施例2に係る樹脂フィルムはCTEが51ppm/℃となった。なお、比較例2の比誘電率は2.3、実施例2の比誘電率は2.2であり、これらはいずれも比較的低い値であった。
【0112】
また、樹脂成分がいずれも液晶ポリマーである実施例3と比較例3とを対比すると、COFを含まない比較例3に係る樹脂フィルムは比誘電率が3と比較的高いが、COFを含む実施例3に係る樹脂フィルムは比誘電率が2.6となった。なお、比較例3および実施例3のCTEはいずれも20ppm/℃未満であり、比較的低い値であった。
【0113】
また、樹脂成分がいずれもパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)である実施例4~12と比較例4とを対比すると、COFを含まない比較例4に係る樹脂フィルムはCTEが152ppm/℃と比較的高いが、COFを含む実施例4~12に係る樹脂フィルムは79ppm/℃~133ppm/℃となった。なお、比較例4の比誘電率は2.1、実施例4~12の比誘電率は2.0~2.2であり、これらはいずれも比較的低い値であった。
【0114】
また、樹脂成分がいずれも環状オレフィン系樹脂の開環重合体(COP)である実施例13と比較例5とを対比すると、COFを含まない比較例5に係る樹脂フィルムはCTEが71ppm/℃と比較的高いが、COFを含む実施例13に係る樹脂フィルムは53ppm/℃となった。なお、比較例5の比誘電率は2.3、実施例13の比誘電率は2.2であり、これらはいずれも比較的低い値であった。
【0115】
また、樹脂成分がいずれもポリノルボルネン(PNB)である実施例14~22と比較例6とを対比すると、COFを含まない比較例6に係る樹脂フィルムはCTEが59ppm/℃と比較的高いが、COFを含む実施例14~22に係る樹脂フィルムはCTEが20ppm/℃~52ppm/℃となった。なお、比較例6の比誘電率は2.3、実施例14~22の比誘電率は2.1~2.3であり、これらはいずれも比較的低い値であった。
【0116】
また、樹脂成分がポリメチルペンテン(PMP)である実施例23,24に係る樹脂フィルムは、比誘電率がそれぞれ2.0および2.1と比較的低い値であった。さらに、PMPを含む実施例22,23に係る樹脂フィルムは、COFをさらに含むことで、CTEがそれぞれ35ppm/℃および29ppm/℃と比較的低い値になったものと推察される。
【0117】
上記のように、各実施例においては、COFが、比誘電率の低い空気を内包する網目状の分子骨格を有しているため、樹脂成分の比誘電率が比較的高い場合には、樹脂組成物の比誘電率が、樹脂成分に対して低くなった。さらに、COFの網目状の分子骨格は共有結合を有しているため剛直であり、樹脂成分の線膨張係数が比較的高い場合には、樹脂組成物の線膨張係数が樹脂成分に比べて低くなった。このため、本実施例に係る樹脂フィルムは、多層基板に好適に使用できるものであった。
【0118】
さらに、実施例4~12に係る樹脂フィルムを対比すると、COFがCOF(b)またはCOF(c)である場合、すなわち、COFの共有結合が、リンカー部の炭素原子と多座コア部の窒素原子とが互いに結合した炭素窒素二重結合である場合には、樹脂組成物の誘電正接が樹脂成分に対して上昇することが抑制されていた。実施例14~22でも同様の傾向が得られた。
【0119】
さらに、実施例14~22と比較例6に係る樹脂フィルムを対比すると、樹脂組成物に対するCOFの含有率が30体積%以上である場合は、樹脂組成物がCOFを含有することにより難燃性が付与されていた。実施例2と比較例2、および、実施例13と比較例5でも同様の傾向が得られた。
【0120】
上述した実施形態の説明において、組み合わせ可能な構成を相互に組み合わせてもよい。
【0121】
[付記]
以上のように、本実施形態においては、以下のような開示を含む。
【0122】
<1>
樹脂成分と、
複数のリンカー部および複数の多座コア部が共有結合によって連結された共有結合性有機構造体と、を含む樹脂組成物からなる、樹脂フィルム。
【0123】
<2>
前記樹脂成分が熱可塑性樹脂である、<1>に記載の樹脂フィルム。
【0124】
<3>
前記樹脂成分の吸水率が0.1質量%以下である、<1>または<2>に記載の樹脂フィルム。
【0125】
<4>
前記樹脂組成物の融点が300℃超である、<1>から<3>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
【0126】
<5>
前記樹脂組成物の比誘電率が3.0未満である、<1>から<4>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
【0127】
<6>
前記樹脂組成物の誘電正接が0.002未満である、<1>から<5>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
【0128】
<7>
前記樹脂成分が熱可塑性樹脂であり、
前記樹脂組成物の吸水率が0.1質量%以下であり、
前記樹脂組成物の融点が300℃超であり、
前記樹脂組成物の比誘電率が3.0未満であり、
前記樹脂組成物の誘電正接が0.002未満である、<1>に記載の樹脂フィルム。
【0129】
<8>
前記樹脂成分が、ノルボルネン系モノマーの付加重合体である、<1>から<7>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
【0130】
<9>
前記共有結合性有機構造体の前記共有結合は、炭素窒素二重結合である、<1>から<8>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
【0131】
<10>
前記リンカー部の両末端は、炭素原子を有し、
前記多座コア部は、窒素原子を有し、
前記共有結合性有機構造体の前記共有結合は、前記リンカー部の炭素原子と前記多座コア部の窒素原子とが互いに結合した炭素窒素二重結合である、<9>に記載の樹脂フィルム。
【0132】
<11>
前記樹脂組成物に対する前記共有結合性有機構造体の含有率は、10体積%以上70体積%以下である、<1>から<10>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
【0133】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本開示に基づく樹脂フィルムは、フレキシブル基板またはリジッド基板などの多層樹脂基板(特に、高周波用の回路基板)に含まれる低誘電体層として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0135】
1 樹脂フィルム、10 共有結合性有機構造体(COF)、11 リンカー部、12 多座コア部。