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  • 特許-積層セラミックコンデンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20250218BHJP
【FI】
H01G4/30 516
H01G4/30 515
H01G4/30 201D
H01G4/30 201L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024530348
(86)(22)【出願日】2023-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2023017696
(87)【国際公開番号】W WO2024004394
(87)【国際公開日】2024-01-04
【審査請求日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2022102290
(32)【優先日】2022-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【弁理士】
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】大原 隆志
(72)【発明者】
【氏名】大西 英靖
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-214698(JP,A)
【文献】特開昭49-56822(JP,A)
【文献】特開2001-284162(JP,A)
【文献】特開2015-83714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックからなる積層された複数の誘電体層と、前記誘電体層間の複数の界面に沿ってそれぞれ配置された複数の内部電極と、を有する、積層体を備え、
前記内部電極は、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOから選ばれる少なくとも1種を含む、
積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記内部電極は、導電成分として銅を含む、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記内部電極は、1μm以下の厚みを有する、請求項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記内部電極は、80%以上のカバレージを有する、請求項1ないし3のいずれかに記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記誘電体層は、BaTiO、SrTiOおよびCaZrOから選ばれる少なくとも1種を主成分とするセラミックからなり、前記内部電極は、前記誘電体層に含まれるBaTiO、SrTiOおよびCaZrOから選ばれる少なくとも1種をさらに含む、請求項1ないしのいずれかに記載の積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層セラミックコンデンサに関するもので、特に、積層セラミックコンデンサに備える内部電極の組成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、通常、セラミックからなる積層された複数の誘電体層と、誘電体層間の複数の界面に沿ってそれぞれ配置された複数の内部電極と、を有する、積層体と、積層体の外表面に設けられ、内部電極と電気的に接続された、複数の外部電極と、を備える。内部電極は、積層体の積層方向に交互に配置された複数の第1内部電極と複数の第2内部電極とを備え、外部電極は、第1内部電極と電気的に接続された第1外部電極と、前記第2内部電極と電気的に接続された第2外部電極と、を備える。
【0003】
このような構造の積層セラミックコンデンサの小型かつ大容量化を図るためには、誘電体層および内部電極を薄層化するとともに、内部電極のカバレージ(電極連続性)を高めることが求められる。一般に、積層セラミックコンデンサの製造に際しての焼成工程において、誘電体層を構成するセラミックが焼結する温度より、内部電極となるべき導電性ペースト膜に含まれる導電性金属粒子が焼結する温度の方が低いため、内部電極に含まれる金属粒子が先に焼結する。このことは、内部電極のカバレージを低下させる原因となる。特に、たとえば厚み1μm以下というように薄層化された内部電極にあっては、カバレージが低下しやすく、このようなカバレージの低下によって、大容量化が阻害されやすいという課題がある。
【0004】
そこで、薄層化された内部電極を高いカバレージをもって形成するには、積層セラミックコンデンサの製造に際しての焼成工程において、内部電極となるべき導電性ペースト膜に含まれる導電性金属粒子が焼結する温度をより高くする必要がある。これによって、内部電極となるべき導電性ペースト膜に含まれる金属粒子が焼結する温度を、誘電体層を構成するセラミックが焼結を開始する温度に近づけることができ、内部電極と誘電体層との間で焼結時の収縮タイミングを近づけることができる。その結果、内部電極のカバレージが高くなり、大容量化を実現できる。
【0005】
上述した方法により、内部電極のカバレージを高くし、大容量化を実現するため、たとえば特許文献1(特開2016-31807号公報)の段落0004等に記載されるように、内部電極形成用の導電性ペーストに、誘電体層を構成するセラミックの組成に類似した組成のセラミック材料、すなわち共材を添加することが知られている。共材を添加することにより、内部電極となるべき導電性ペースト膜に含まれる金属粒子の焼結タイミングをより高温側にシフトすることができ、導電性ペースト膜に含まれる金属粒子が焼結する温度を、誘電体層を構成するセラミックが焼結する温度に近づけることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-31807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、内部電極形成用の導電性ペーストに共材をたとえ添加しても、導電性ペーストに含まれる金属粒子が焼結する温度は、誘電体層を構成するセラミックが焼結する温度より、なお低いことは否めず、さらなる改善が望まれる。特に、たとえば厚み1μm以下というように薄層化された内部電極に関しては、大容量化を阻害するカバレージの低下の問題に対する有効な解決策が強く求められる。
【0008】
そこで、この発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、薄層化されても、カバレージを比較的高く維持できる、内部電極を備える積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る積層セラミックコンデンサは、セラミックからなる積層された複数の誘電体層と、誘電体層間の複数の界面に沿ってそれぞれ配置された複数の内部電極と、を有する、積層体を備える。
【0010】
上述した技術的課題を解決するため、この発明では、内部電極は、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、内部電極に含まれるCuTiO、CoTiOおよびCrTiOから選ばれる少なくとも1種が、内部電極のカバレージを高めることに寄与する。したがって、内部電極が薄層化されても、内部電極のカバレージが低下せず、積層セラミックコンデンサの大容量化が阻害されないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明の一実施形態による積層セラミックコンデンサ1を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を参照して、この発明の一実施形態による積層セラミックコンデンサ1の構造について説明する。
【0014】
積層セラミックコンデンサ1は、積層体2を備えている。積層体2は、セラミックからなる積層された複数の誘電体層3と、複数の誘電体層3間の界面に沿って配置された複数の内部電極4および5と、を備えている。内部電極4および5は、積層体3の積層方向に交互に配置された複数の第1内部電極4と複数の第2内部電極5とに分類される。積層体2の外表面、より具体的には、相対向する各端面には、第1外部電極6および第2外部電極7がそれぞれ設けられる。第1外部電極6は、第1内部電極4と電気的に接続され、第2外部電極7は、第2内部電極5と電気的に接続される。
【0015】
誘電体層3は、たとえば、ABO(Aは、Ba、CaおよびSrのうちの少なくとも1種であり、Bは、TiおよびZrのうちの少なくとも一方である。)を主成分とするセラミックからなる。また、セラミックは、上記ABOを主成分とし、さらに、Mn、Mg、Si、Y、DyおよびGdのうち少なくとも1種を副成分として含んでいてもよい。
【0016】
内部電極4および5は、導電成分として、銅を含むことが好ましい。さらに、特徴的な組成として、内部電極4および5は、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOから選ばれる少なくとも1種を含む。CuTiO、CoTiOおよびCrTiOは、イルミナイト結晶構造を有している。
【0017】
なお、後述する実験例からわかるように、好ましい実施形態では、誘電体層3は、BaTiO、SrTiOおよびCaZrOから選ばれる少なくとも1種を主成分とするセラミックからなり、内部電極4および5は、銅を導電成分として含み、セラミック材料として、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOから選ばれる少なくとも1種を含むとともに、必要に応じて、誘電体層3に含まれるBaTiO、SrTiOおよびCaZrOから選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいる。
【0018】
外部電極6および7は、たとえば、AgまたはCuを導電成分の主成分とする導電性ペーストを積層体2の端面に塗布し、これを焼き付けることによって形成される。必要に応じて、焼付けによって形成された上記厚膜上に、たとえば、Niめっきおよびその上にSnめっきが施されてもよい。
【0019】
積層セラミックコンデンサ1は、たとえば、次のような工程を経て製造される。まず、上記のような組成となるセラミックの原料粉末を含むセラミックスラリーを作製する。次いで、セラミックスラリーに適宜のシート成形法を適用して、セラミックグリーンシートを成形する。次いで、複数のセラミックグリーンシートのうち所定のセラミックグリーンシート上に、内部電極4および5の各々となるべき導電性ペーストを印刷等で塗布する。次いで、複数のセラミックグリーンシートを積層した後に圧着して、生の積層体を得る。次いで、生の積層体を焼成する。この焼成する工程で、セラミックグリーンシートが誘電体層3となる。その後、積層体3の端面に外部電極6および7を形成する。
【0020】
上述した積層セラミックコンデンサ1の製造に際して用いられる内部電極4および5となるべき導電性ペーストは、好ましくは、以下のように作製される。
【0021】
導電性ペーストの作製にあたっては、セラミック粉末、有機溶剤および分散剤を含むセラミック粉末スラリーを準備する第1工程と、導電性金属粉末、有機溶剤および分散剤を含む金属粉末スラリーを準備する第2工程と、有機樹脂成分および有機溶剤を含む有機ビヒクルを準備する第3工程と、上記セラミック粉末スラリー、金属粉末スラリーおよび有機ビヒクルを混合する第4工程とが実施される。
【0022】
より詳細には、第1工程では、セラミック粉末および分散剤を有機溶剤に混合することによって、セラミック粉末スラリーが作製される。
【0023】
上記セラミック粉末としては、たとえば、ABO酸化物としてのCuTiO、CoTiOおよびCrTiOから選ばれる少なくとも1種からなるものが用いられ、さらに、これに加えて、共材としてのBaTiO、SrTiOおよびCaZrOから選ばれる少なくとも1種からなるものが用いられることがある。
【0024】
後述する第2工程で作製される金属粉末スラリーに含まれる導電性金属粉末が銅を含むとき、上述のABO酸化物としてのCuTiO、CoTiOおよびCrTiOは、銅の6配位でのイオン半径に対する、ABOにおけるAサイトの元素の6配位でのイオン半径の比率が0.96以上かつ1.04以下となる、特定イオン半径のABO型の酸化物となる。
【0025】
ABO酸化物としてのCuTiO、CoTiOおよびCrTiOから選ばれる少なくとも1種からなるセラミック粉末によれば、焼成時において、第2工程で作製される金属粉末スラリーに含まれる導電性金属粉末との間で生じ得る反応を抑えることができる。セラミック粉末は、上記ABO酸化物を主成分とし、さらに、Mn、Mg、Si、Y、DyおよびGdの少なくとも1種を副成分として含んでいてもよい。このような副成分を含んでいる場合、セラミック粒子の粒成長が抑制され、金属粒子の焼結を効果的に抑制することができることがある。
【0026】
第1工程でセラミック粉末に混合される分散剤としては、たとえば、アニオン系高分子分散剤を用いることができ、有機溶剤としては、たとえば、ジヒドロターピネオールを用いることができる。
【0027】
第2工程では、導電性金属粉末および分散剤を有機溶剤に混合することによって、金属粉末スラリーが作製される。導電性金属粉末としては、たとえば、銅またはその合金からなる粉末が用いられる。第2工程で用いられる分散剤および有機溶剤としては、第1工程で用いられるものと同様のものを用いることができる。
【0028】
第3工程では、有機樹脂成分を有機溶剤に混合することによって、有機ビヒクルが作製される。有機樹脂成分としては、たとえば、エチルセルロース樹脂を用いることができる。第3工程で用いられる有機溶剤についても、第1工程で用いられるものと同様のものを用いることができる。
【0029】
第4工程では、上述したセラミック粉末スラリー、金属粉末スラリーおよび有機ビヒクルが混合される。これによって、内部電極4および5となるべき導電性ペーストが得られる。この導電性ペーストは、セラミック粉末スラリーを含み、セラミック粉末スラリーは、前述したように、特定イオン半径のABO酸化物としてのCuTiO、CoTiOおよびCrTiOから選ばれる少なくとも1種からなるセラミック粉末を含むので、焼成工程を経て製造された積層セラミックコンデンサ1に備える内部電極4および5は、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOから選ばれる少なくとも1種を含むことになる。
【0030】
[実験例]
次に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0031】
この実験例では、内部電極形成用導電性ペーストに含まれる導電性金属粉末として、銅粉末を用意した。
【0032】
他方、内部電極形成用導電性ペーストに含まれるセラミック粉末を構成する特定イオン半径のABO酸化物として、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOに加えて、BaTiO、CaZrOおよびSrTiOを用意した。表1には、これらABO酸化物について、「結晶構造」、「配位数」、「Aサイト元素」および「イオン半径」が示されている。なお、Ba、CaおよびSrは、元のペロブスカイト構造のときには12配位であるが、Ba、CaおよびSrについても、イルミナイト構造の6配位の元素(Cu,Co,Cr)のサイトに固溶していくときには6配位であるため、表1の「イオン半径」は、6配位での値を示している。
【0033】
【表1】
【0034】
以下に、誘電体層を構成するセラミック原料を変えて実施した実験例1、実験例2および実験例3について説明する。
【0035】
(実験例1)誘電体層を構成するセラミックの主成分:BaTiO
1.誘電体層を構成するBaTiO系セラミック原料の作製
出発原料として、主成分のBaCOおよびTiOの各粉末を秤量し、ボールミルにより72時間混合した後、トップ温度1000℃で2時間熱処理し、熱処理粉末を得た。他方、副成分として、MnO、Dy、MgO、SiOおよびBaCOの各粉末を用意し、上記熱処理粉末に対し、副成分粉末が、100BaTiO+0.5Mn+1.0Dy+1.0Mg+1.0Si+2.0Baの組成比となるように秤量し、これら副成分粉末を上記熱処理粉末に加えてボールミルにより24時間混合した後、乾燥させ、BaTiO系セラミック原料粉末を得た。
【0036】
2.内部電極形成用導電性ペーストの作製
後掲の表2に示す「ABO酸化物」の粉末と上記誘電体層のためのBaTiO系セラミック原料粉末とを、内部電極形成用導電性ペーストに含まれるセラミック粉末として用いた。
【0037】
これら「ABO酸化物」の粉末とBaTiO系セラミック原料粉末とを表2に示す「添加比率」となるように秤量し、これら粉末と、有機溶剤としてのジヒドロターピネオールと、分散剤としてのアニオン系高分子分散剤とを、無媒体攪拌式ミルで予備混合した後、媒体攪拌式ミルで分散処理し、セラミック粉末スラリーを作製した(第1工程)。
【0038】
他方、導電性金属粉末としての銅粉末と、有機溶剤としてのジヒドロターピネオールと、分散剤としてのアニオン系高分子分散剤とを、3本ロールミルで分散処理し、金属粉末スラリーを作製した(第2工程)。
【0039】
さらに、有機樹脂成分としてのエチルセルロース樹脂と、有機溶剤であるジヒドロターピネオールとを混合して、有機ビヒクルを得た(第3工程)。
【0040】
その後、上記有機ビヒクルに、上記金属粉末スラリーと上記セラミック粉末スラリーとを加えて、混合・分散処理し、内部電極形成用導電性ペーストを作製した(第4工程)。
【0041】
表2には、内部電極に含まれるべき銅の6配位でのイオン半径に対する、Aサイト元素の6配位でのイオン半径の比率、すなわち、「イオン半径比(Aサイト元素/金属銅)」が示されている。なお、試料7については、銅の6配位でのイオン半径(0.77Å)に対する、Ba元素の表1に示した6配位でのイオン半径(1.35Å)の比率が示されている。
【0042】
3.積層セラミックコンデンサの作製
上記1で作製されたBaTiO系セラミック原料粉末を含むセラミックスラリーを作製し、次いで、セラミックスラリーにドクターブレード法を適用して、セラミックグリーンシートを成形した。次いで、複数のセラミックグリーンシートのうち所定のセラミックグリーンシート上に、上記2で作製された内部電極形成用導電性ペーストをスクリーン印刷により塗布した。次いで、複数のセラミックグリーンシートを積層した後に圧着して、生の積層体を得た。次いで、生の積層体を焼成した。その後、焼結した積層体の端面に外部電極を形成し、試料となる積層セラミックコンデンサを作製した。
【0043】
4.評価
【0044】
【表2】
【0045】
試料となる積層セラミックコンデンサに備える積層体の高さ方向における中央部に位置する内部電極と誘電体層とを電界剥離により互いに引き剥がした。
【0046】
次に、露出した内部電極の中央部(幅方向での1/2かつ長さ方向での1/2の位置)付近を、顕微鏡を用いて倍率100倍で観察した。そして、得られた画像を解析することにより、露出した部分における内部電極としての導体膜が占める面積の割合を表2に示した「カバレージ」として求めた。「カバレージ」が80%以上のものを良好と判定し、「評価」の欄に「○」を記入し、「カバレージ」が80%より低いものを不良と判定し、「評価」の欄に「×」を記入した。
【0047】
5.考察
表2の試料1~6は、「評価」が「○」である。これら試料1~6では、内部電極がABO酸化物としてCuTiO、CoTiOおよびCrTiOのいずれかを含んでいる。また、内部電極は、導電成分として、銅を含んでいる。
【0048】
ここで、イオン半径について注目すると、まず、表1の「CuTiO」の項に示すように、銅の6配位でのイオン半径は0.77Åである。他方、試料1~6における内部電極に含まれるABO酸化物としてCuTiO、CoTiOおよびCrTiOの各々のAサイトの元素の6配位でのイオン半径は、表1に示すように、それぞれ、0.77Å、0.74Åおよび0.80Åである。
【0049】
「○」と評価された試料1~6では、導電性金属粒子に含まれる金属元素の6配位でのイオン半径に対する、ABOにおけるAサイトの元素の6配位でのイオン半径の比率、すなわち、「イオン半径比」が0.96以上かつ1.04以下である。
【0050】
このように、試料1~6におけるABO酸化物としてのCuTiO、CoTiOおよびCrTiOは、ABOにおけるAサイトの元素の6配位でのイオン半径が、内部電極に含まれるべき導電性金属としての銅の6配位でのイオン半径に等しいか、近いので、内部電極中の銅とのエネルギー差が0か、小さくなるため、内部電極部分から吐き出されずに残り、内部電極の耐熱性を向上させるように作用する。その結果、試料1~6では、カバレージが84%以上と高くなったものと推測される。
【0051】
また、試料4~6のように、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOの添加比率は、必ずしも100%ではなく、10%以上であれば、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOのいずれをも含まない場合に比べて、カバレージ向上の効果が認められた。なお、実験例1では、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOの添加比率が10%である試料4~6のカバレージは、添加比率が100%である試料1~3のカバレージと等しい値を示していることにも注目される。
【0052】
これらに対して、「×」と評価された試料7では、共材としてのBaTiOのみが内部電極中に添加されている。この場合、ペロブスカイト構造のABOにおけるAサイトの元素であるBaは12配位であるが、イルミナイト構造のAサイトに固溶する際はイルミナイト構造のAサイトの配位数である6配位でのイオン半径で比較する必要があり、Baの6配位でのイオン半径は、表1に示すように、1.35Åである。したがって、銅の6配位でのイオン半径に対する、Baの6配位でのイオン半径の比率、すなわち、「イオン半径比」が1.75である。よって、「イオン半径比」は0.96以上かつ1.04以下の範囲から外れ、カバレージが74%と低くなった。
【0053】
試料7では、「イオン半径比」は0.96以上かつ1.04以下の範囲から外れ、BaTiOが内部電極部分から吐き出されてしまい、内部電極の耐熱性が向上せず、カバレージが低くなったものと推測される。
【0054】
(実験例2)誘電体層を構成するセラミックの主成分:CaZrO
1.誘電体層を構成するCaZrO系セラミック原料の作製
出発原料として、主成分のCaCOおよびZrOの各粉末、ならびに副成分のMnO、SiOおよびMgOの各粉末を秤量し、ボールミルにより72時間混合した後、トップ温度1000℃で2時間熱処理し、CaZrO系セラミック原料粉末を得た。
【0055】
2.内部電極形成用導電性ペーストの作製
後掲の表3に示す「ABO酸化物」の粉末と上記誘電体層のためのCaZrO系セラミック原料粉末とを、内部電極形成用導電性ペーストに含まれるセラミック粉末として用いた。
【0056】
これら「ABO酸化物」の粉末とCaZrO系セラミック原料粉末とを表3に示す「添加比率」となるように秤量し、上記実験例1の場合と同様の工程を経て、内部電極形成用導電性ペーストを作製した。
【0057】
表3には、表2の場合と同様、「イオン半径比(Aサイト元素/金属銅)」が示されている。なお、試料17については、銅の6配位でのイオン半径(0.77Å)に対する、Ca元素の表1に示した6配位でのイオン半径(1.00Å)の比率が示されている。
【0058】
3.積層セラミックコンデンサの作製
上記1で作製されたCaZrO系セラミック原料粉末を含むセラミックスラリーを作製し、次いで、セラミックスラリーにドクターブレード法を適用して、セラミックグリーンシートを成形した。以後、実験例1の場合と同様の工程を経て、試料となる積層セラミックコンデンサを作製した。
【0059】
4.評価
【0060】
【表3】
【0061】
実験例1の場合と同様の手順に従って、表3に示すように、「カバレージ」を求め、同様に評価した。
【0062】
5.考察
表3の試料11~16は、「評価」が「○」である。これら試料11~16では、内部電極がABO酸化物としてCuTiO、CoTiOおよびCrTiOのいずれかを含んでいる。また、内部電極は、導電成分として、銅を含んでいる。
【0063】
ここで、イオン半径について注目すると、まず、表1の「CuTiO」の項に示すように、銅の6配位でのイオン半径は0.77Åである。他方、試料11~16における内部電極に含まれるABO酸化物としてCuTiO、CoTiOおよびCrTiOの各々のAサイトの元素の6配位でのイオン半径は、表1に示すように、それぞれ、0.77Å、0.74Åおよび0.80Åである。
【0064】
「○」と評価された試料11~16では、導電性金属粒子に含まれる金属元素の6配位でのイオン半径に対する、ABOにおけるAサイトの元素の6配位でのイオン半径の比率、すなわち、「イオン半径比」が0.96以上かつ1.04以下である。
【0065】
このように、試料11~16におけるABO酸化物としてのCuTiO、CoTiOおよびCrTiOは、ABOにおけるAサイトの元素の6配位でのイオン半径が、内部電極に含まれるべき導電性金属としての銅の6配位でのイオン半径に等しいか、近いので、内部電極中の銅とのエネルギー差が0か、小さくなるため、内部電極部分から吐き出されずに残り、内部電極の耐熱性を向上させるように作用し、その結果、試料11~16では、カバレージが81%以上と高くなったものと推測される。
【0066】
また、試料14~16のように、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOの添加比率は、必ずしも100%ではなく、10%以上であれば、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOのいずれをも含まない場合に比べて、カバレージ向上の効果が認められた。
【0067】
これらに対して、「×」と評価された試料17では、共材としてのCaZrOのみが内部電極中に添加されている。この場合、ペロブスカイト構造のABOにおけるAサイトの元素であるCaは12配位であるが、イルミナイト構造のAサイトに固溶する際はイルミナイト構造のAサイトの配位数である6配位でのイオン半径で比較する必要があり、Caの6配位でのイオン半径は、表1に示すように、1.00Åである。したがって、銅の6配位でのイオン半径に対する、Caの6配位でのイオン半径の比率、すなわち、「イオン半径比」が1.30である。よって、「イオン半径比」は0.96以上かつ1.04以下の範囲から外れ、カバレージが72%と低くなった。
【0068】
試料17では、「イオン半径比」は0.96以上かつ1.04以下の範囲から外れ、CaZrOが内部電極部分から吐き出されてしまい、内部電極の耐熱性が向上せず、カバレージが低くなったものと推測される。
【0069】
(実験例3)誘電体層を構成するセラミックの主成分:SrTiO
1.誘電体層を構成するSrTiO系セラミック原料の作製
出発原料として、主成分のSrCOおよびTiOの各粉末、ならびに副成分のMnO、SiOおよびMgOの各粉末を秤量し、ボールミルにより72時間混合した後、トップ温度1000℃で2時間熱処理し、SrTiO系セラミック原料粉末を得た。
【0070】
2.内部電極形成用導電性ペーストの作製
後掲の表4に示す「ABO酸化物」の粉末と上記誘電体層のためのSrTiO系セラミック原料粉末とを、内部電極形成用導電性ペーストに含まれるセラミック粉末として用いた。
【0071】
これら「ABO酸化物」の粉末とSrTiO系セラミック原料粉末とを表4に示す「添加比率」となるように秤量し、上記実験例1の場合と同様の工程を経て、内部電極形成用導電性ペーストを作製した。
【0072】
表4には、表2の場合と同様、「イオン半径比(Aサイト元素/金属銅)」が示されている。なお、試料27については、銅の6配位でのイオン半径(0.77Å)に対する、Sr元素の表1に示した6配位でのイオン半径(1.18Å)の比率が示されている。
【0073】
3.積層セラミックコンデンサの作製
上記1で作製されたSrTiO系セラミック原料粉末を含むセラミックスラリーを作製し、次いで、セラミックスラリーにドクターブレード法を適用して、セラミックグリーンシートを成形した。以後、実験例1の場合と同様の工程を経て、試料となる積層セラミックコンデンサを作製した。
【0074】
4.評価
【0075】
【表4】
【0076】
実験例1の場合と同様の手順に従って、表4に示すように、「カバレージ」を求め、同様に評価した。
【0077】
5.考察
表4の試料21~26は、「評価」が「○」である。これら試料21~26では、内部電極がABO酸化物としてCuTiO、CoTiOおよびCrTiOのいずれかを含んでいる。また、内部電極は、導電成分として、銅を含んでいる。
【0078】
ここで、イオン半径について注目すると、まず、表1の「CuTiO」の項に示すように、銅の6配位でのイオン半径は0.77Åである。他方、試料21~26における内部電極に含まれるABO酸化物としてCuTiO、CoTiOおよびCrTiOの各々のAサイトの元素の6配位でのイオン半径は、表1に示すように、それぞれ、0.77Å、0.74Åおよび0.80Åである。
【0079】
「○」と評価された試料21~26では、導電性金属粒子に含まれる金属元素の6配位でのイオン半径に対する、ABOにおけるAサイトの元素の6配位でのイオン半径の比率、すなわち、「イオン半径比」が0.96以上かつ1.04以下である。
【0080】
このように、試料21~26におけるABO酸化物としてのCuTiO、CoTiOおよびCrTiOは、ABOにおけるAサイトの元素の6配位でのイオン半径が、内部電極に含まれるべき導電性金属としての銅の6配位でのイオン半径に等しいか、近いので、内部電極中の銅とのエネルギー差が0か、小さくなるため、内部電極部分から吐き出されずに残り、内部電極の耐熱性を向上させるように作用し、その結果、試料21~26では、カバレージが80%以上と高くなったものと推測される。
【0081】
また、試料24~26のように、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOの添加比率は、必ずしも100%ではなく、10%以上であれば、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOのいずれをも含まない場合に比べて、カバレージ向上の効果が認められた。
【0082】
これらに対して、「×」と評価された試料27では、共材としてのSrTiOのみが内部電極中に添加されている。この場合、ペロブスカイト構造のABOにおけるAサイトの元素であるSrは12配位であるが、イルミナイト構造のAサイトに固溶する際はイルミナイト構造のAサイトの配位数である6配位でのイオン半径で比較する必要があり、Srの6配位でのイオン半径は、表1に示すように、1.18Åである。したがって、銅の6配位でのイオン半径に対する、Srの6配位でのイオン半径の比率、すなわち、「イオン半径比」が1.53である。よって、「イオン半径比」は0.96以上かつ1.04以下の範囲から外れ、カバレージが70%と低くなった。
【0083】
試料27では、「イオン半径比」は0.96以上かつ1.04以下の範囲から外れ、SrTiOが内部電極部分から吐き出されてしまい、内部電極の耐熱性が向上せず、カバレージが低くなったものと推測される。
【0084】
以上説明した実験例1ないし3では、内部電極形成用導電性ペーストに含まれる導電性金属粉末として、銅粉末を用いた。
【0085】
しかしながら、内部電極に含まれる導電性金属元素の6配位でのイオン半径が、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOにおけるAサイトの元素の6配位でのイオン半径の(1/1.04)以上かつ(1/0.96)以下となるような関係を満たせば、内部電極に含まれる導電性金属として、銅以外の金属が用いられてもよい。
【0086】
この発明の実施態様には、次のようなものがある。
【0087】
<1>
セラミックからなる積層された複数の誘電体層と、前記誘電体層間の複数の界面に沿ってそれぞれ配置された複数の内部電極と、を有する、積層体を備え、
前記内部電極は、CuTiO、CoTiOおよびCrTiOから選ばれる少なくとも1種を含む、
積層セラミックコンデンサ。
【0088】
<2>
前記内部電極は、導電成分として銅を含む、<1>に記載の積層セラミックコンデンサ。
【0089】
<3>
前記内部電極は、1μm以下の厚みを有する、<1>または<2>に記載の積層セラミックコンデンサ。
【0090】
<4>
前記内部電極は、80%以上のカバレージを有する、<1>ないし<3>のいずれかに記載の積層セラミックコンデンサ。
【0091】
<5>
前記誘電体層は、BaTiO、SrTiOおよびCaZrOから選ばれる少なくとも1種を主成分とするセラミックからなり、前記内部電極は、前記誘電体層に含まれるBaTiO、SrTiOおよびCaZrOから選ばれる少なくとも1種をさらに含む、<1>ないし<4>のいずれかに記載の積層セラミックコンデンサ。
【符号の説明】
【0092】
1 積層セラミックコンデンサ
2 積層体
3 誘電体層
4,5 内部電極
6,7 外部電極
図1