(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】ラクトフェリン含有製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/79 20060101AFI20250218BHJP
C07K 1/18 20060101ALI20250218BHJP
B01J 20/281 20060101ALN20250218BHJP
C08F 220/32 20060101ALN20250218BHJP
C08F 226/06 20060101ALN20250218BHJP
【FI】
C07K14/79
C07K1/18
B01J20/26 L
C08F220/32
C08F226/06
(21)【出願番号】P 2024204300
(22)【出願日】2024-11-22
【審査請求日】2024-11-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506307809
【氏名又は名称】株式会社アップウェル
(73)【特許権者】
【識別番号】399081268
【氏名又は名称】▲浜▼田酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107607
【氏名又は名称】加藤 実
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩義
(72)【発明者】
【氏名】寺内 武彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸弥
(72)【発明者】
【氏名】上西 紀彰
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-112930(JP,A)
【文献】特許第5053853(JP,B2)
【文献】特開2005-139414(JP,A)
【文献】国際公開第2024/134480(WO,A1)
【文献】Hironobu Shirataki,Evaluation of an anion-exchange hollow-fiber membrane adsorber containing γ-ray grafted glycidyl me,J. Chromatogr. A,2011年04月29日,pp. 2381-2388,www.elsevier.com/locate/chroma,Available online 23 October 2010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリン及びβ-ラクトグロブリンを含有する原料を陰イオン交換樹脂に接触させることでβ-ラクトグロブリンを選択的に陰イオン交換樹脂に吸着させる工程、及び、該陰イオン交換樹脂を透過した透過液を回収する工程を含み、
該陰イオン交換樹脂の構成単位が、以下の式[I]又は[II]:
【化1】
【化2】
で表され、
式[I]において、m及びnはモル数を示し、mとnとの比は40:60~80:20であり、
R
1は、
メチル基であり、
式[II]において、p及びqはモル数を示し、pとqとの比は10:90~50:50であり、
Yは、
トリエチレンテトラミン残基である、
ラクトフェリンを高純度で含有する製品の製造方法。
【請求項2】
前記原料が更にカゼインを含有し、前記接触工程においてカゼインも選択的に陰イオン交換樹脂に吸着される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記陰イオン交換樹脂の含水率が40~90%である、請求項1又は2に記載の製造方法。。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトフェリンを高純度で含有する製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳清タンパク質の一種であるラクトフェリンは、抗菌作用や抗バクテリア作用を有する機能性素材として注目されている。乳清にはラクトフェリン以外の主なタンパク質としてα-ラクトアルブミン及びβ-ラクトグロブリンが含まれ、特にβ-ラクトグロブリンはアレルゲン性低減の観点から除去することが望まれる場合がある。ラクトフェリンに混在することがあるカゼインもまた、除去することが望まれる場合がある。
【0003】
β-ラクトグロブリンを除去するための技術として、従来、熱変性、電気エネルギー注入、結晶化などに加えて、イオン交換を利用する方法も複数提案されている。
【0004】
特許文献1では、ホエー蛋白質を含む出発原料を特定条件下で強塩基型陰イオン交換器と接触させることで、ラクトグロブリンを選択的に除去できるとしている。使用する強塩基型陰イオン交換器については、架橋アガロースマトリックス、架橋デキストランマトリックス、ポリスチレンマトリックス又はポリアクリルマトリックスを有するものが例示されている。ラクトフェリンへの影響について言及はない。
【0005】
特許文献2では、ホエー又は濃縮ホエーを、そのpHを調整せずに、そのまま陰イオン交換体を充填したカラムに通液し、β-ラクトグロブリンを選択的に当該陰イオン交換体に吸着させることができるとしている。使用する陰イオン交換体については、市販の弱塩基性陰イオン交換体であり、イオン交換基としてジエチルアミノエチル基を有する弱塩基性陰イオン交換体が好適であると記載する([0017])。ラクトフェリンへの影響について言及はない。
【0006】
特許文献3では、たんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔膜を用いて乳清たんぱくを分離回収できるとしている。具体的には、乳清を、アニオン交換基を有する多孔膜に透過させることにより、α-ラクトアルブミン及びβ-ラクトグロブリンは選択的に吸着され、ラクトフェリンは非吸着で透過されるとして、この際のアニオン交換基としてはジエチルアミノ基(DEA、Et2N-)及び四級アンモニウム基(Q、R3N+-)が好ましいと記載する([0017][0020])。このような多孔膜を用いた分離回収にあたっては処理効率や清浄工程の煩雑さに関して改善が求められる。
【0007】
一方、本発明者は、特定の親水性メタクリレート含有共重合体樹脂について、終末糖化産物(AGEs)の吸着剤としての用途を報告している(特許文献4)。この樹脂については、その後、新たな用途の提案は見当たらず、更なる用途開発の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平03-19654号公報
【文献】特開平06-62756号公報
【文献】特開2010-193833号公報
【文献】特許第5053853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、比較的簡易な工程で実施でき、選択性が高くかつコスト効率に優れ、工業的生産への適応性に優れた、ラクトフェリンを高純度で含有する製品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)ラクトフェリン及びβ-ラクトグロブリンを含有する原料を陰イオン交換樹脂に接触させることでβ-ラクトグロブリンを選択的に陰イオン交換樹脂に吸着させる工程、及び、該陰イオン交換樹脂を透過した透過液を回収する工程を含み、
該陰イオン交換樹脂の構成単位が、以下の式[I]又は[II]:
【化3】
【化4】
で表され、
式[I]において、m及びnはモル数を示し、mとnとの比は40:60~80:20であり、
R
1は、炭素数1~4のアルキル基であり、
式[II]において、p及びqはモル数を示し、pとqとの比は10:90~50:50であり、
Yは、ポリアルキレンポリアミン残基である、
ラクトフェリンを高純度で含有する製品の製造方法。
【0011】
(2)前記原料が更にカゼインを含有し、前記接触工程においてカゼインも選択的に陰イオン交換樹脂に吸着される、(1)に記載の製造方法。
【0012】
(3)前記陰イオン交換樹脂が、エチレングリコールジメタクリレート架橋N-メチルピリジルエチレン共重合体、又はエチレングリコールジメタクリレート架橋トリエチレンテトラミン置換グリシジルメタクリレート共重合体である、(1)又は(2)に記載の製造方法。
【0013】
(4)前記陰イオン交換樹脂の含水率が40~90%である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、比較的簡易な工程で実施でき、選択性が高くかつコスト効率に優れ、工業的生産への適応性に優れた、ラクトフェリンを高純度で含有する製品の製造方法を提供できる。
【0015】
具体的には、本発明によれば、ラクトフェリンを含有する原料から、β-ラクトグロブリンを高い選択性で除去できる。また、本発明によれば、ラクトフェリン及びカゼインを含有する原料から、β-ラクトグロブリン及びカゼインを高い選択性で除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に用いられる陰イオン交換樹脂、及び対照樹脂について、含水率を測定した結果を示すグラフである。
【
図2】本発明に用いられる陰イオン交換樹脂、及び対照樹脂について、β-ラクトグロブリンの吸着量を測定した結果を示すグラフである。
【
図3】本発明に用いられる陰イオン交換樹脂、及び対照樹脂について、ラクトフェリンの吸着量を測定した結果を示すグラフである。
【
図4】本発明に用いられる陰イオン交換樹脂、及び対照樹脂について、ラクトフェリン及びβ-ラクトグロブリンを含有する原料からの、それぞれの吸着量を測定した結果を示すグラフである。
【
図5】本発明に用いられる陰イオン交換樹脂、及び対照樹脂について、カゼインの吸着量を測定した結果を示すグラフである。
【
図6】本発明に用いられる陰イオン交換樹脂、及び対照樹脂について、ラクトフェリン及びカゼインを含有する原料からの、それぞれの吸着量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明の製造方法によれば、ラクトフェリンを高純度で含有する製品を調製できる。ここでラクトフェリンを製品中で「高純度で含有する」とは、得られた製品においてラクトフェリンの含有量とβ-ラクトグロブリンの含有量との合計に対してラクトフェリンの含有量が占める比率(ラクトフェリンの含有量÷[ラクトフェリンの含有量+β-ラクトグロブリンの含有量]×100(%);以下「ラクトフェリン比率」ともいう)が、本製造方法に付した原料中における相当する比率よりも、有意に向上していることを指す。
【0019】
製品中のラクトフェリン比率は、好ましくは10%以上であり、より好ましくは20%以上であり、より好ましくは30%以上であり、より好ましくは40%以上であり、より好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。
【0020】
本発明の製造方法においては、ラクトフェリン及びβ-ラクトグロブリンを含有する原料を、下記に詳述する特定の陰イオン交換樹脂に接触させる工程(以下、「接触工程」ともいう)を含む。この工程によりβ-ラクトグロブリンが選択的に陰イオン交換樹脂に吸着される。当該原料としては、生乳、脱脂乳、乳清(ホエー)タンパク質、その分画物、又はそれらの前処理物を含むがこれらに限定されない。
【0021】
β-ラクトグロブリンの吸着に関して「選択的に」とは、ラクトフェリンよりもβ-ラクトグロブリンの方が陰イオン交換樹脂に優先的に吸着されることをいい、より具体的には、陰イオン交換樹脂の単位重量当りの吸着量においてラクトフェリンよりもβ-ラクトグロブリンの方が有意に高いことをいう。
【0022】
陰イオン交換樹脂の単位重量当りのラクトフェリンの吸着量に対するβ-ラクトグロブリンの吸着量の比(β-ラクトグロブリンの吸着量(mg/g)÷ラクトフェリンの吸着量(mg/g))は、好ましくは6以上であり、より好ましくは8以上であり、より好ましくは10以上であり、より好ましくは12以上であり、より好ましくは14以上であり、より好ましくは16以上であり、より好ましくは18以上であり、より好ましくは20以上である。
【0023】
本発明に用いられる原料は、ラクトフェリン及びβ-ラクトグロブリンに加えて、更にカゼインを含有することがある。本発明の製造方法において、好ましくは、同一の接触工程において、β-ラクトグロブリンに加えてカゼインも選択的に陰イオン交換樹脂に吸着される。これにより、β-ラクトグロブリン及びカゼインの混入が望まれない製品を効率的に製造することができる。
【0024】
かかる文脈において、ラクトフェリンを製品中で「高純度で含有する」とは、得られた製品においてラクトフェリンの含有量とβ-ラクトグロブリンの含有量とカゼインの含有量の合計に対してラクトフェリンの含有量が占める比率(ラクトフェリンの含有量÷[ラクトフェリンの含有量+β-ラクトグロブリンの含有量+カゼインの含有量]×100(%))が、本製造方法に付した原料中における相当する比率よりも、有意に向上していることも含意しうる。
【0025】
カゼインの吸着に関して「選択的に」とは、ラクトフェリンよりもカゼインの方が陰イオン交換樹脂に優先的に吸着されることをいい、より具体的には、陰イオン交換樹脂の単位重量当りの吸着量においてラクトフェリンよりもカゼインの方が有意に高いことをいう。
【0026】
陰イオン交換樹脂の単位重量当りのラクトフェリンの吸着量に対するカゼインの吸着量の比(カゼインの吸着量(mg/g)÷ラクトフェリンの吸着量(mg/g))は、好ましくは60以上であり、より好ましくは80以上であり、より好ましくは100以上であり、より好ましくは120以上であり、より好ましくは140以上であり、より好ましくは160以上であり、より好ましくは180以上であり、より好ましくは200以上である。
【0027】
本発明の製造方法においては、上記接触工程に続いて、陰イオン交換樹脂を透過した透過液を回収する工程を含む。透過液は、その全部を回収してもよいが、原料の性状等に照らして、その一部の分画を回収してもよい。回収した透過液は、必要に応じて、濃縮、乾燥等の更なる工程に付すことができる。
【0028】
本発明に用いられる陰イオン交換樹脂は、その構成単位が、式[I]又は式[II]で表されるものである。まず式[I]を示す。
【化5】
【0029】
式[I]において、m及びnはモル数を示し、mとnとの比は40:60~80:20、好ましくは45:55~80:20、より好ましくは50:50~75:25、より好ましくは55:45~70:30、より好ましくは60:40~70:30である。なお、モル数がmである部分(エチレングリコールジメタクリレートに由来する単位)とモル数がnである部分(N-アルキルピリジルエチレンに由来する単位)との結合の順序は限定されない。
【0030】
式[I]において、R1は、炭素数1~4のアルキル基であり、好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基又はエチル基であり、より好ましくはメチル基である。とりわけ好ましい陰イオン交換樹脂は、エチレングリコールジメタクリレート架橋N-メチルピリジルエチレン共重合体である。
【0031】
【0032】
式[II]において、p及びqはモル数を示し、pとqとの比は10:90~50:50、好ましくは15:85~50:50、より好ましくは20:80~45:55、より好ましくは20:80~40:60である。なお、モル数がpである部分(エチレングリコールジメタクリレートに由来する単位)とモル数がqである部分(ポリアルキレンポリアミン置換グリシジルメタクリレートに由来する単位)との結合の順序は限定されない。
【0033】
式[II]において、Yは、ポリアルキレンポリアミン残基であって、ポリアルキレンポリアミンがグリシジルメタクリレートのグリシジル基と反応して生じる構造を有する。ここでポリアルキレンポリアミンは、好ましくは3個以上のアミノ基を有する化合物である。具体例として、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、及びテトラプロピレンペンタミンが挙げられる。陰イオン交換樹脂の製造にあたって、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。とりわけ好ましい陰イオン交換樹脂は、エチレングリコールジメタクリレート架橋トリエチレンテトラミン置換グリシジルメタクリレート共重合体である。
【0034】
本発明に用いられる陰イオン交換樹脂は、その含水率が、好ましくは40~90%であり、より好ましくは45~85%であり、より好ましくは50~80%であり、より好ましくは55~75%であり、より好ましくは60~70%である。含水率が相対的に高く、樹脂が柔らかい構造を有することが、本発明において意図される吸着性能の発現に寄与していると考えられる。含水率の測定条件は、下記の実施例に特定された条件に従う。
【0035】
本発明に用いられる陰イオン交換樹脂は、式[I]で表される共重合体については、例えば、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)と4-ビニルピリジン(4VP)とを重合分散媒中で共重合反応をさせた後、ブロモメタン等によって4級アンモニウム化させ、さらに必要に応じて、塩酸等で塩にすることで調製できる。上記重合反応において、EGDMAと4VPとの割合は、生成物である樹脂が式[I]中のm及びnを満たす範囲で適宜設定される。
【0036】
式[II]で表される共重合体については、例えば、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)とグリシジルメタクリレート(GMA)とを重合分散媒中で共重合反応をさせた後、この中間生成物をトリエチレンテトラミン(TTA)と反応させてトリエチレンテトラミン残基を導入し、さらに必要に応じて、塩酸等で塩にすることで調製できる。上記重合反応において、EGDMAとGMAとの割合は、最終生成物である樹脂が式[II]中のp及びqを満たす範囲で適宜設定される。また、TTAの使用量は、中間生成物中のGMAに由来する単位の存在量に対応して適宜設定される。
【0037】
本発明の製造方法は、陰イオン交換樹脂を充填したカラム等を用いた連続方式でも、陰イオン交換樹脂を処理装置に投入するバッチ方式でも実施することができる。
【0038】
本発明の製造方法によって得られる、ラクトフェリンを高純度で含有する製品は、その形態として、水溶液等の液体、及び粉末等の固体を含むがこれらに限定されない。当該製品はその用途として、食品、食品添加物、機能性食品、化粧品、医薬部外品、及び医薬品を含むがこれらに限定されない。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の実施態様に関して、より具体的に例示する。
【0040】
(合成例1:エチレングリコールジメタクリレート架橋N-メチルピリジルエチレン塩酸塩共重合体の調製と評価)
(1)試薬
エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)は、10%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して重合禁止剤を除去した後、重合反応に供した。なお、反応に供するまで、窒素置換した保存容器内で保存した。4-ビニルピリジン(4VP)は、予め減圧蒸留して用いた。重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN;特級試薬)はそのまま用いた。EGDMAはメルク株式会社より、4VP及びAIBNは富士フイルム和光純薬株式会社より、それぞれ購入した。
【0041】
(2)重合分散媒の調製
0.5w/v%ヒドロキシエチルセルロース水溶液に、塩化ナトリウムが10w/v%となるように添加して重合分散媒を調製した。
【0042】
(3)合成
温度計、テフロン(登録商標)製の二枚攪拌羽根(羽根径80mm)を備えた攪拌装置、ジムロート、及びアルゴン導入管を装着した1000mL容量のセパラブル三頚丸底フラスコに、重合分散媒500mLを入れた。窒素気流下、400rpmで約10分間攪拌した後、攪拌速度を300rpmに調節した。次いで、EGDMAと4VPとを80:20の質量比で混合した混合物100mLに、100mgのAIBNを溶解させてモノマー混合溶液を調製し、この混合溶液を重合分散媒中に注入した。
【0043】
光学顕微鏡下で、球状のモノマー相が良好に重合分散媒中に分散したことを確認した後、30分~40分かけて70℃まで昇温させ、70℃に保持して4時間重合した。さらに80℃に昇温した後、1時間反応させ、その後、5時間以上かけてゆっくり冷却して反応生成物を得た。反応生成物を吸引濾過し、熱脱イオン水で3回洗浄し、さらに、脱イオン水とメタノールとの等容量混合液で洗浄した後、60℃にて12時間乾燥させた。その後、減圧下にて1昼夜乾燥させてエチレングリコールジメタクリレート架橋ピリジルエチレン共重合体を得た。
【0044】
得られた共重合体について、さらにブロモメタンを、共重合体:ブロモメタンの質量比が10:1程度となるように反応させた。次いで、反応生成物をイオン水とメタノールとの等容量混合液で洗浄し、乾燥させることによって4級アンモニウム化された遊離塩基形ポリマーを得た。
【0045】
次いで、遊離塩基形ポリマーの元素分析を行い、窒素含量を測定した。遊離塩基形ポリマー約5gを100mL容量のビーカーに入れ、脱イオン水を加えて十分に膨潤させた後、ガラス棒で攪拌しながら、測定した窒素含量の40mol%に相当する1N塩酸を加えた。1晩以上室温で放置した後、懸濁液上清のpHが5~6であること、及び上清に0.1M硝酸銀を滴下しても白濁しないことにより塩酸塩化を確認した。さらにイオン水とメタノールとの等容量混合液で洗浄した後、十分に乾燥させて、式[I]に示す(ただしR1はメチル基)エチレングリコールジメタクリレート架橋N-メチルピリジルエチレン塩酸塩共重合体(EGDMA-4VPとする)である陰イオン交換樹脂を得た。
【0046】
得られたEGDMA-4VPについて、元素分析装置(MT-700HCN、ヤナコ分析工業株式会社)を用いて分析したところ、炭素元素57.81%、水素元素6.70%、及び窒素元素1.98%であった。
【0047】
(4)含水率の測定
得られたEGDMA-4VPについて、以下の条件で含水率を測定した:
・陰イオン交換樹脂30gを遠心分離用チューブに入れて遠心分離機で脱水する(3000gで15分間)。
・脱水した樹脂を恒温乾燥機で乾燥させる(105℃で15時間)。
・乾燥後、デシケータ内で常温まで冷却してから乾燥重量を測定し、脱水前の重量(すなわち含水重量)からの減量値から、以下の式[III]に従って含水率(%)を算出する。
(含水重量 - 乾燥重量)/ 樹脂重量 × 100(%) ・・ 式[III]
なお「樹脂重量」は脱水した直後、乾燥前の樹脂の重量を指す。
比較のために、市販の陰イオン交換樹脂であるダイヤイオン(登録商標)SA-10A及び同SA-20A(いずれも三菱ケミカル株式会社)について、同じ条件で含水率を決定した。
結果を
図1に示す。
【0048】
(合成例2:エチレングリコールジメタクリレート架橋トリエチレンテトラミン置換グリシジルメタクリレート共重合体の調製と評価)
(1)試薬
エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)は、10%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して重合禁止剤を除去した後、重合反応に供した。なお、反応に供するまで、窒素置換した保存容器内で保存した。トリエチレンテトラミン(TTA)は、予め減圧蒸留して用いた。グリシジルメタクリレート(GMA)はそのまま用いた。重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN;特級試薬)はそのまま用いた。EGDMAはメルク株式会社より、TTA及びGMAは東京化成工業株式会社より、AIBNは富士フイルム和光純薬株式会社より、それぞれ購入した。
【0049】
(2)重合分散媒の調製
ヒドロキシエチルセルロース(東京化成工業株式会社)を1w/v%の割合で含む水溶液(粘度5000cps程度)を50mL取り、硫酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社)を6g添加し、脱イオン水で全量を500mLとして重合分散媒を調製した。
【0050】
(3)合成
温度計、テフロン(登録商標)製の二枚攪拌羽根(羽根径80mm)を備えた攪拌装置、ジムロート、及びアルゴン導入管を装着した1000mL容量のセパラブル三頚丸底フラスコに、重合分散媒500mLを入れた。窒素気流下、400rpmで約10分間攪拌した後、攪拌速度を300rpmに調節した。次いで、EGDMA0.6g、GMA29.4g、AIBN0.1gを混合し、重合分散媒中に注入した。
【0051】
光学顕微鏡下で、球状のモノマー相が良好に重合分散媒中に分散したことを確認した後、約1時間かけて50℃まで昇温させ、50℃に保持して2時間重合した。さらに約30分かけて80℃に昇温した後、1時間反応させた。生成物を吸引濾過して回収し、熱脱イオン水で3回洗浄し、さらに、メタノールで洗浄した。その後、60℃にて12時間乾燥させ、さらにデシケータ内で減圧下、一晩乾燥させた。
【0052】
乾燥させた生成物約30gをJIS規格22、30、42、60、83、100、140、及び200メッシュ篩を順次重ねた篩機に投入し、30分間振盪分級を行った。100~42メッシュ(149~355μm)および42~30メッシュ(355~500μm)画分を回収し、以下の合成に供した。
【0053】
200mL容量の耐圧反応容器に、上記の画分5g、TTA12.5mL、及び1,4-ジオキサン37.5mLを入れ、よく振り混ぜた後、80℃の水浴中で5時間反応させた。反応生成物を脱イオン水中に移し、反応生成物を吸引濾過して回収した。反応生成物をガラス製カラム管に入れ、0.1Nの塩酸水溶液および0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液で順次洗浄し、流出液のpHが6~7になるまで脱イオン水で洗浄した。さらに、得られた反応生成物を、5B濾紙を用いたブフナーロートにより吸引しながらメタノールで洗浄した。その後、60℃にて12時間乾燥し、さらにデシケータ内で減圧下、約12時間乾燥させた。得られたポリマーの赤外吸収スペクトルをIR-Tracer-100(株式会社島津製作所)を用いて測定したところ、エチレングリコールジメタクリレート架橋トリエチレンテトラミン置換グリシジルメタクリレート共重合体ポリマーであることを確認した。
【0054】
さらに、以下のようにして共重合体ポリマーの塩酸塩化を行った。まず、上記で得られたエチレングリコールジメタクリレート架橋トリエチレンテトラミン置換グリシジルメタクリレート共重合体ポリマーの元素分析を行い、窒素含量を測定した。該共重合体ポリマー約2gを50mL容量の三角フラスコに入れ、脱イオン水を加えて十分に膨潤させた後、ガラス棒で攪拌しながら、測定した窒素含量に相当する量の1N塩酸を滴下した。約12時間室温で放置した後、反応液を、5B濾紙を用いたブフナーロートにより吸引濾過し、さらに濾物をメタノールで洗浄した。その後、60℃にて12時間乾燥し、さらにデシケータ内で減圧下、約24時間乾燥させてエチレングリコールジメタクリレート架橋トリエチレンテトラミン置換グリシジルメタクリレート共重合体ポリマー(EGDMA-TTA/GMAとする)である陰イオン交換樹脂を得た。
【0055】
(4)含水率の測定
得られたEGDMA-TTA/GMAについて、合成例1と同じ条件で含水率を測定した。結果を
図1に併せて示す。
【0056】
(実験例1:陰イオン交換樹脂によるβ-ラクトグロブリン吸着の予備実験)
β-ラクトグロブリンの水溶液を、濃度を3g/Lとして調製した。この水溶液100mL当たりに、樹脂として合成例で得られたEGDMA-4VP10gを添加して、25℃で30分間攪拌処理した。処理後の混合物を濾紙で濾過して、濾液を遠心分離(5000g)した。遠心分離で得られた上清について、β-ラクトグロブリンの残留濃度を、抗β-ラクトグロブリン抗体を用いたELISA法(酵素免疫測定法;ウシβ-ラクトグロブリン測定キット(フナコシ株式会社)を利用)で測定した。β-ラクトグロブリンの当初の濃度と残留濃度との差分から、樹脂に吸着した吸着量を算出した。
比較のために、樹脂としてSA-10A及びSA-20Aを用いて、同じ条件で吸着量を決定した。
結果を
図2に示す。
【0057】
(実験例2:陰イオン交換樹脂によるラクトフェリン吸着の予備実験)
ラクトフェリン(鉄飽和度19%)の水溶液を、濃度を0.3g/Lとして調製した。この水溶液100mL当たりに、樹脂として合成例で得られたEGDMA-4VP5gを添加して、25℃で30分間攪拌処理した。処理後の混合物を濾紙で濾過して、濾液を遠心分離(5000g)した。遠心分離で得られた上清について、ラクトフェリンの残留濃度を、抗ラクトフェリン抗体を用いたELISA法(ウシラクトフェリン測定キット(フナコシ株式会社)を利用)で測定した。ラクトフェリンの当初の濃度と残留濃度との差分から、樹脂に吸着した吸着量を算出した。
比較のために、樹脂としてSA-10A及びSA-20Aを用いて、同じ条件で吸着量を決定した。
結果を
図3に示す。
【0058】
(実施例1~2及び比較例1~2:陰イオン交換樹脂によるラクトフェリン及びβ-ラクトグロブリンを含有する原料の吸着処理)
ラクトフェリン及びβ-ラクトグロブリンを含有する水溶液を、ラクトフェリン濃度を0.3g/L、β-ラクトグロブリン濃度を3g/Lとして調製した。この水溶液100mL当たりに、樹脂として合成例で得られたEGDMA-4VP10g又はEGDMA-TTA/GMA10gを添加して、25℃で30分間攪拌処理した。処理後の混合物を濾紙で濾過して、濾液を遠心分離(5000g)した。遠心分離で得られた上清について、ラクトフェリン及びβ-ラクトグロブリンの残留濃度を、抗ラクトフェリン抗体及び抗β-ラクトグロブリン抗体を用いたELISA法(前述)でそれぞれ測定した。ラクトフェリン及びβ-ラクトグロブリンそれぞれについて、当初の濃度と残留濃度との差分から、樹脂に吸着した吸着量を算出した(実施例1~2)。
比較のために、樹脂としてSA-10A及びSA-20Aを用いて、同じ条件で吸着量を決定した(比較例1~2)。
結果を
図4に示す(欄外にラクトフェリンの吸着量に対するβ-ラクトグロブリンの吸着量の比を記載している)。
【0059】
(実験例3:陰イオン交換樹脂によるカゼイン吸着の予備実験)
カゼインの水溶液を、濃度を20g/Lとして調製した(なお牛乳中のカゼイン濃度は約27g/L程度である。)。この水溶液100mL当たりに、樹脂として合成例で得られたEGDMA-4VP10gを添加して、25℃で30分間攪拌処理した。処理後の混合物を濾紙で濾過して、濾液を遠心分離(5000g)した。遠心分離で得られた上清について、カゼインの残留濃度を、抗カゼイン抗体を用いたELISA法(酵素免疫測定法;モリナガFASPEKエライザII牛乳(カゼイン)キット(株式会社森永生科学研究所)を利用)で測定した。カゼインの当初の濃度と残留濃度との差分から、樹脂に吸着した吸着量を算出した。
比較のために、樹脂としてSA-10A及びSA-20Aを用いて、同じ条件で吸着量を決定した。
結果を
図5に示す。
【0060】
(参考例1~2及び参考比較例1~2:陰イオン交換樹脂によるラクトフェリン及びカゼインを含有する原料の吸着処理)
ラクトフェリン及びカゼインを含有する水溶液を、ラクトフェリン濃度を0.3g/L、カゼイン濃度を20g/Lとして調製した。この水溶液100mL当たりに、樹脂として合成例で得られたEGDMA-4VP30g又はEGDMA-TTA/GMA30gを添加して、25℃で30分間攪拌処理した。処理後の混合物を濾紙で濾過して、濾液を遠心分離(5000g)した。遠心分離で得られた上清について、ラクトフェリン及びカゼインの残留濃度を、抗ラクトフェリン抗体及び抗カゼイン抗体を用いたELISA法(前述)でそれぞれ測定した。ラクトフェリン及びカゼインそれぞれについて、当初の濃度と残留濃度との差分から、樹脂に吸着した吸着量を算出した(参考例1~2)。
比較のために、樹脂としてSA-10A及びSA-20Aを用いて、同じ条件で吸着量を決定した(参考比較例1~2)。
結果を
図6に示す(欄外にラクトフェリンの吸着量に対するカゼインの吸着量の比を記載している)。
【要約】
【課題】
比較的簡易な工程で実施でき、選択性が高くかつコスト効率に優れ、工業的生産への適応性に優れた、ラクトフェリンを高純度で含有する製品の製造方法を提供する。
【解決手段】
ラクトフェリン及びβ-ラクトグロブリンを含有する原料を陰イオン交換樹脂に接触させることでβ-ラクトグロブリンを選択的に陰イオン交換樹脂に吸着させる工程、及び、該陰イオン交換樹脂を透過した透過液を回収する工程を含み、該陰イオン交換樹脂の構成単位が、特定のジメタクリレート化合物と、特定のビニル化合物又は特定のメタクリレート化合物とに由来する、ラクトフェリンを高純度で含有する製品の製造方法。
【選択図】
図4