(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】磁石材料及び永久磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20250218BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20250218BHJP
C22C 19/07 20060101ALI20250218BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20250218BHJP
C21D 6/00 20060101ALN20250218BHJP
C21D 8/12 20060101ALN20250218BHJP
【FI】
H01F1/057 110
H01F1/057 180
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
C22C19/07 E
B22F3/00 C
B22F3/00 F
C21D6/00 B
C21D8/12 J
(21)【出願番号】P 2021189389
(22)【出願日】2021-11-22
【審査請求日】2024-04-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「部素材の代替・使用量削減に資する技術開発・実証事業/重希土類を使用しない高性能磁石等の開発/重希土類を使用しない小型超高速回転モーター駆動システム用磁石の開発と動作実証/重希土類を使用せず、供給途絶懸念のあるレアアースの使用を極力減らす、又は使用しない高性能新磁石材料を探索するための新しい磁石開発手法の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桜田 新哉
(72)【発明者】
【氏名】杉本 諭
(72)【発明者】
【氏名】松浦 昌志
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-155774(JP,A)
【文献】特許第4320701(JP,B2)
【文献】国際公開第2011/030387(WO,A1)
【文献】特開2018-125512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
C22C 38/00
C22C 19/07
B22F 3/00
C21D 6/00
C21D 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式1:R
xNb
yB
zM
100-x-y-z
(Rは希土類元素からなる群より選ばれる少なくともの一つの元素であり、MはFe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、xは4≦x≦10原子%を満足する数であり、yは
2.2≦y≦8原子%を満足する数であり、zは0.1≦z≦12原子%を満足する数であ
り、イットリウムの含有量は0.66原子%以下である)
により表され、
R元素の50原子%以上は、Smであり、
TbCu
7型結晶相を有する主相と、
粒界相と、を具備し、
前記TbCu
7型結晶相における平均Nb濃度をn
Nb1と表し、前記粒界相における最大Nb濃度をn
Nb2と表すとき、n
Nb2/n
Nb1>5の関係を満たす、磁石材料。
【請求項2】
組成式1:R
xNb
yB
zM
100-x-y-z
(Rは希土類元素からなる群より選ばれる少なくともの一つの元素であり、MはFe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、xは4≦x≦10原子%を満足する数であり、yは
2.2≦y≦8原子%を満足する数であり、zは0.1≦z≦12原子%を満足する数であり、
コバルトの含有量は16.0原子%以下である)
により表され、
R元素の50原子%以上は、Smであり、
TbCu
7型結晶相を有する主相と、
粒界相と、を具備し、
前記TbCu
7型結晶相における平均Nb濃度をn
Nb1と表し、前記粒界相における最大Nb濃度をn
Nb2と表すとき、n
Nb2/n
Nb1>5の関係を満たす、磁石材料。
【請求項3】
組成式1:R
xNb
yB
zM
100-x-y-z
(Rは希土類元素からなる群より選ばれる少なくともの一つの元素であり、MはFe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、xは4≦x≦10原子%を満足する数であり、yは
2.2≦y≦8原子%を満足する数であり、zは0.1≦z≦12原子%を満足する数であ
り、イットリウムの含有量は0.66原子%以下である)
により表され、
R元素の50原子%以上は、Smであり、
TbCu
7型結晶相を有する主相と、
粒界相と、を具備し、
前記TbCu
7型結晶相における平均B濃度をn
B1と表し、前記粒界相における最大B濃度をn
B2と表すとき、n
B2/n
B1>5の関係を満たす、磁石材料。
【請求項4】
組成式1:R
xNb
yB
zM
100-x-y-z
(Rは希土類元素からなる群より選ばれる少なくともの一つの元素であり、MはFe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、xは4≦x≦10原子%を満足する数であり、yは
2.2≦y≦8原子%を満足する数であり、zは0.1≦z≦12原子%を満足する数であ
り、コバルトの含有量は16.0原子%以下である)
により表され、
R元素の50原子%以上は、Smであり、
TbCu
7型結晶相を有する主相と、
粒界相と、を具備し、
前記TbCu
7型結晶相における平均B濃度をn
B1と表し、前記粒界相における最大B濃度をn
B2と表すとき、n
B2/n
B1>5の関係を満たす、磁石材料。
【請求項5】
組成式1:R
xNb
yB
zM
100-x-y-z
(Rは希土類元素からなる群より選ばれる少なくともの一つの元素であり、MはFe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、xは4≦x≦10原子%を満足する数であり、yは
2.2≦y≦8原子%を満足する数であり、zは0.1≦z≦12原子%を満足する数であ
り、イットリウムの含有量は0.66原子%以下である)
により表され、
R元素の50原子%以上は、Smであり、
TbCu
7型結晶相を有する主相と、
粒界相と、を具備し、
前記TbCu
7型結晶相における平均R元素濃度をn
R1と表し、前記粒界相における最小R元素濃度をn
R2(粒界相)と表すとき、n
R2/n
R1<0.5の関係を満たす、磁石材料。
【請求項6】
組成式1:R
xNb
yB
zM
100-x-y-z
(Rは希土類元素からなる群より選ばれる少なくともの一つの元素であり、MはFe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、xは4≦x≦10原子%を満足する数であり、yは
2.2≦y≦8原子%を満足する数であり、zは0.1≦z≦12原子%を満足する数であ
り、コバルトの含有量は16.0原子%以下である)
により表され、
TbCu
7型結晶相を有する主相と、
粒界相と、を具備し、
R元素の50原子%以上は、Smであり、
前記TbCu
7型結晶相における平均R元素濃度をn
R1と表し、前記粒界相における最小R元素濃度をn
R2(粒界相)と表すとき、n
R2/n
R1<0.5の関係を満たす、磁石材料。
【請求項7】
前記TbCu
7型結晶相における平均B濃度をn
B1と表し、前記粒界相における最大B濃度をn
B2と表すとき、n
B2/n
B1>5の関係を満たす、請求項
5または請求項6に記載の磁石材料。
【請求項8】
前記TbCu
7型結晶相における平均Nb濃度をn
Nb1と表し、前記粒界相における最大Nb濃度をn
Nb2と表すとき、n
Nb2/n
Nb1>5の関係を満たす、請求項
3ないし請求項
7のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項9】
組成式1:R
xNb
yB
zM
100-x-y-z
(Rは希土類元素からなる群より選ばれる少なくともの一つの元素であり、MはFe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、xは4≦x≦10原子%を満足する数であり、yは
2.2≦y≦8原子%を満足する数であり、zは0.1≦z≦12原子%を満足する数であ
り、イットリウムの含有量は0.66原子%以下である)
により表され、
R元素の50原子%以上は、Smであり、
TbCu
7型結晶相を有する主相と、
粒界相と、を具備し、
前記粒界相においてNb濃度が最大となる領域は、
組成式2:R
x1Nb
y1B
z1M
100-x1-y1-z1
(Rは希土類元素からなる群より選ばれる少なくともの一つの元素であり、MはFe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、x1はx1≦6原子%を満足する数であり、y1はy1≧20原子%を満足する数であり、z1はz1≧20原子%を満足する数である)
により表される、磁石材料。
【請求項10】
組成式1:R
xNb
yB
zM
100-x-y-z
(Rは希土類元素からなる群より選ばれる少なくともの一つの元素であり、MはFe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、xは4≦x≦10原子%を満足する数であり、yは
2.2≦y≦8原子%を満足する数であり、zは0.1≦z≦12原子%を満足する数であ
り、コバルトの含有量は16.0原子%以下である)
により表され、
R元素の50原子%以上は、Smであり、
TbCu
7型結晶相を有する主相と、
粒界相と、を具備し、
前記粒界相においてNb濃度が最大となる領域は、
組成式2:R
x1Nb
y1B
z1M
100-x1-y1-z1
(Rは希土類元素からなる群より選ばれる少なくともの一つの元素であり、MはFe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、x1はx1≦6原子%を満足する数であり、y1はy1≧20原子%を満足する数であり、z1はz1≧20原子%を満足する数である)
により表される、磁石材料。
【請求項11】
Nbの50原子%以下がZr、Hf、Ta、Mo、及びWからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素で置換されている、請求項1ないし請求項
10のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項12】
M元素の50原子%以上がFeである、請求項1ないし請求項
11のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項13】
M元素の20原子%以下がTi、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Al、Si、及びGaからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素で置換されている、請求項1ないし請求項
12のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項14】
前記粒界相は、非晶質相である、請求項1ないし請求項
13のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項15】
固有保磁力が600kA/m以上である、請求項1ないし請求項
14のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項16】
残留磁化が90Am
2/kg以上である、請求項1ないし請求項
15のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項17】
窒素、炭素、水素、及びリンからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素をさらに含む、請求項1ないし請求項
16のいずれか一項に記載の磁石材料。
【請求項18】
請求項1ないし請求項
17のいずれか一項に記載の磁石材料と、
バインダと、
を具備する、永久磁石。
【請求項19】
請求項1ないし請求項
17のいずれか一項に記載の磁石材料の焼結体を具備する、永久磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、磁石材料及び永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石は、例えばモータ、発電機等の回転電機、スピーカ、計測機器等の電気機器、自動車、鉄道車両等の車両を含む広範な分野の製品に用いられている。近年、上記製品の小型化、高効率化、高出力化が要求されており、高磁化及び高保磁力を有する高性能な永久磁石が求められている。
【0003】
高性能な永久磁石の例としては、例えばSm-Co系磁石やNd-Fe-B系磁石等の希土類磁石が挙げられる。これらの磁石では、FeやCoが飽和磁化の増大に寄与している。また、これらの磁石にはNdやSm等の希土類元素が含まれており、結晶場中における希土類元素の4f電子の挙動に由来して大きな磁気異方性をもたらす。これにより、大きな保磁力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4320701号公報
【文献】特開2020-155774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、磁石材料の保磁力と残留磁化とを高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の磁石材料は、組成式1:RxNbyBzM100-x-y-z(Rは希土類元素からなる群より選ばれる少なくともの一つの元素であり、MはFe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、xは4≦x≦10原子%を満足する数であり、yは0.1≦y≦8原子%を満足する数であり、zは0.1≦z≦12原子%を満足する数である)により表され、TbCu7型結晶相を有する主相と、粒界相と、を具備する。TbCu7型結晶相における平均Nb濃度をnNb1と表し、粒界相における最大Nb濃度をnNb2と表すとき、nNb2/nNb1>5の関係を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】実施例1における3次元アトムプローブ分析結果(Nb、Bの濃度分布)を示す図である。
【
図3】比較例1における3次元アトムプローブ分析結果(Nb、Bの濃度分布)を示す図である。
【
図4】実施例1の粒界相における各元素の濃度分布を示す図である。
【
図5】比較例1の粒界相における各元素の濃度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態の磁石材料は、希土類元素と、M元素(MはFe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素)と、ニオブ(Nb)と、ホウ素(B)と、を含有する。上記磁石材料は、高濃度のM元素を含むTbCu
7型結晶相を主相とする金属組織を具備する。主相中のM元素濃度を高めることにより飽和磁化を向上でき、これにより残留磁化を向上できる。上記磁石材料は主相であるTbCu
7型結晶相と粒界相とで実質的に構成されてもよいが、その他の相として例えば、微結晶相や不純物相等を含んでいてもよい。主相は、磁石材料中の各結晶相及び非晶質相のうち、最も体積占有率が高い相である。
図1は、金属組織の構造例を示す模式図である。
図1は、TbCu
7型結晶相を有する結晶粒子101と、複数の結晶粒子101の間に設けられるとともに粒界相を有する粒界102と、を示す。
【0009】
希土類元素及びM元素に加え、NbとBとを添加することにより非晶質の形成能を高め、熱処理後の主相結晶粒子サイズが均一化されることによって残留磁化や保磁力を高めることができる。上記磁石材料の形状は、粉末状や薄帯状等であるが、それらを成型することによって永久磁石が製造される。永久磁石としては、例えば樹脂等のバインダを用いて成型されるボンド磁石や粉末を焼結することによって製造される焼結磁石がある。永久磁石の用途としてはモータや発電機等の回転電機がある。近年、モータや発電機の小型化、高速化、高効率化の需要が増加しており、これに伴い永久磁石の耐熱性向上に対する要求が高まっている。耐熱性向上のためには永久磁石及び磁石材料の保磁力の向上が必要である。
【0010】
大きな磁気異方性を有する磁石材料において、高い保磁力を発現させるための有効な方法としては、例えば磁石材料の結晶粒を微細化する方法がある。結晶粒の微細化は、例えば液体急冷法を用いて非晶質の薄帯を作製してその後に適切な熱処理を施して結晶粒の析出と成長を行うことにより形成される。
【0011】
磁気異方性が高い主相を微細化することにより、個々の結晶粒が単磁区粒子状態となりやすくなり、逆磁区発生と磁壁伝播を抑制して高い保磁力を発現できる。結晶粒径が小さすぎる場合も大きすぎる場合も保磁力が低くなるため、主相の平均結晶粒径は、1nm以上1000nm(1μm)以下であることが好ましく、さらに好ましくは1nm以上100nm以下であり、さらに好ましくは10nm以上80nm以下である。また、主相の粒度分布を狭くすることにより磁石材料の減磁特性における角形性を向上させて最大エネルギー積を向上できる。
【0012】
保磁力向上のためには、結晶粒と結晶粒の間に粒界相を形成させて結晶粒間の磁気結合を弱める方法も有効である。粒界相の磁性を弱めること、理想的には粒界相を非磁性化することによって、逆磁区発生と伝播を抑制する効果が高まり、保磁力を向上させることができる。
【0013】
粒界相の磁性を弱めるためには、粒界相における非磁性元素(Nb又はB)の濃度を増大させることが重要である。適切な条件での熱処理を施すことによって、主相と粒界相の間の原子拡散を促進させ、主相におけるNbやBの濃度に対して粒界相におけるNbやBの濃度を高めることができる。
【0014】
主相であるTbCu7型結晶相における平均Nb濃度をnNb1と表し、粒界相における最大Nb濃度をnNb2と表すとき、nNb2/nNb1>5の関係を満たすことにより、保磁力を向上できる。より好ましくはnNb2/nNb1>10であり、さらに好ましくはnNb2/nNb1>20である。nNb2/nNb1の上限は、特に限定されないが、例えば500である。
【0015】
TbCu7型結晶相における平均B濃度をnB1と表し、粒界相における最大B濃度をnB2と表すとき、nB2/nB1>5の関係を満たすことにより保磁力を向上できる。より好ましくはnB2/nB1>7であり、さらに好ましくはnB2/nB1>10である。nB2/nB1の上限は、特に限定されないが、例えば500である。
【0016】
TbCu7型結晶相における平均R元素濃度をnR1、粒界相における最小R元素濃度をnRと表すとき、nR2/nR1<0.5の関係を満たすことにより、主相と粒界相の間のNbやBの原子拡散を促進させる等の効果によって、保磁力を向上できる。主相と粒界相における平均R元素濃度の関係は、より好ましくはnR2/nR1<0.3であり、さらに好ましくはnR2/nR1<0.1である。
【0017】
高い保磁力と残留磁化を得るためには希土類元素、M元素、Nb、Bの各添加量を制御することが好ましい。実施形態の磁石材料は、例えば組成式1:RxNbyBzM100-x-y-zにより表される。なお、磁石材料には、不可避不純物を含んでいてもよい。
【0018】
R元素は希土類元素であり、磁石材料に大きな磁気異方性をもたらし、高い保磁力を付与することができる元素である。R元素は具体的には、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、特にSmを用いることが好ましい。例えば、R元素としてSmを含む複数の元素を用いる場合、Sm濃度はR元素の総量の50原子%以上とすることにより、磁石材料の磁気特性、例えば保磁力を高めることができる。
【0019】
R元素の添加量xは、例えば4≦x≦10原子%を満足する数であることが好ましい。xが4原子%未満の場合、α-Fe相の析出が顕著となり、保磁力が低下する。また、xが10原子%を超えると主相中のM元素の濃度が相対的に低下することで残留磁化が低下する。R元素の添加量xは、5≦x≦8原子%を満足する数、さらには5.5≦x≦7.5原子%を満足する数であることがより好ましい。
【0020】
ニオブ(Nb)は、非晶質化の促進に有効な元素である。また、適切な熱処理によって主相から粒界相への拡散が促進され、粒界相の磁性を弱めることにより保磁力を高めることができる。Nbの添加量yは、例えば0.1≦y≦8原子%を満足する数であることが好ましい。xが0.1未満の場合には非晶質化が困難となったり、粒界相の磁性を弱める効果が小さくなることで保磁力が低下し、8原子%を超えると残留磁化の低下を招く。Nbの添加量yは、1≦y≦6原子%を満足する数、さらには2≦y≦4原子%を満足する数、さらには2.2≦y≦4原子%を満足する数、であることが好ましい。
【0021】
Nbの50原子%以下は、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、及びタングステン(W)からからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素に置換されてもよい。Zr、Hf、Ta、Mo、Wは非晶質化の促進や熱処理後の結晶相の安定化に有効な元素である。
【0022】
M元素は、Fe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、磁石材料の高い飽和磁化、さらには高い残留磁化を担う元素である。FeとCoではFeの方がより磁化が高いことからM元素の50原子%以上がFeであることが好ましい。M元素にCoを入れることにより磁石材料のキュリー温度が上昇し、高温領域での飽和磁化の低下を抑制することができる。また、Coを少量入れることによりFeを単独で用いる場合よりも飽和磁化を高めることができる。一方、Coの比率を高めると磁気異方性の低下を招く恐れがある。FeとCoの比率を適切に制御することにより、高い飽和磁化、高い異方性磁界、高いキュリー温度を同時に実現することができる。組成式1のMを(Fe
1-p
Co
p
)と表記すると、好ましいpの値は0.01≦p≦0.7であり、より好ましくは0.05≦p≦0.5であり、さらに好ましくは0.1≦p≦0.3である。M元素の20原子%以下は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、及びガリウム(Ga)からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素に置換されてもよい。上記元素は例えば主相の安定性向上、粒径制御、粒界相の組成及び厚み制御等の寄与することで、保磁力や残留磁化を高める効果がある。
【0023】
ホウ素(B)は、非晶質化の促進に有効な元素である。Bの添加量zを適切に制御することにより、単ロール急冷法等の工業生産性の高い手法で非晶質な薄帯を得ることができる。また、粒界相に侵入し、粒界相の磁性を弱めることにより保磁力を高めることができる。Bの添加量zは、例えば0.1≦z≦12原子%を満足する数であることが好ましく、さらに好ましくは1≦z≦10原子%を満足する数であり、さらに好ましくは5≦z≦10原子%を満足する数である。
【0024】
粒界相においてNb濃度が最大となる領域の組成を、組成式2:Rx1Nby1Bz1M100-x1-y1-z1(上式中、Rは希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素、MはFe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であり、x1はx1≦6原子%を満足する数であり、y1はy1≧20原子%を満足する数であり、z1はz1≧20原子%を満足する数である)により表される範囲とすることにより、より保磁力を高めることができる。また、上記粒界相を非晶質相とすることにより、さらに高い保磁力を得ることができる。
【0025】
実施形態の磁石材料は、さらにA元素を含んでいてもよい。A元素は窒素(N)、炭素(C)、水素(H)、及びリン(P)からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素である。A元素は主にTbCu7相の格子間位置に侵入し、結晶格子を拡大居させたり電子構造を変化させたりすることにより、キュリー温度、磁気異方性、飽和磁化を変化することができる。A元素は、不可避的不純物を除き必ずしも添加されなくてもよい。
【0026】
実施形態の磁石材料は、液体急冷法(メルトスパン法)で作製された急冷合金薄帯の形態であってもよいし、急冷合金薄帯を粉砕することによって得られる粉末状であってもよい。粉末はガスアトマイズ法等によって作製してもよい。
【0027】
実施形態の磁石材料が急冷合金薄帯の形態である場合、薄帯は平均厚さが10μm以上80μm以下であることが好ましい。薄帯が薄すぎる場合、急冷時や熱処理時に形成される表面劣化層の割合が増え、磁石特性、例えば残留磁化が低下する。また、薄帯が厚すぎる場合には、薄帯内で冷却速度の分布が生じやすくなり、保磁力が低下する。薄帯の平均厚さは、好ましくは20μm以上60μm以下であり、さらに好ましくは30μm以上50μm以下である。
【0028】
実施形態の磁石材料の固有保磁力の値は、500kA/m以上2500kA/m以下である。耐熱性を高めるために、より好ましくは600kA/m以上2500kA/m以下であり、さらに好ましくは650kA/m以上2500kA/m以下である。
【0029】
実施形態の磁石材料の残留磁化の値は、60Am2/kg以上170Am2/kg以下である。残留磁化が高いほどモータや発電機の小型化等に効果的である。残留磁化は、好ましくは75Am2/kg以上170Am2/kg以下であり、さらに好ましく90Am2/kg以上170Am2/kg以下である。
【0030】
磁石材料にとっては、高い保磁力と高い残留磁化の両立が重要である。実施形態の磁石材料は、固有保磁力600kA/m以上かつ残留磁化90Am2/kg以上の両立が可能である。
【0031】
磁石材料の組成は、例えば高周波誘導結合プラズマ-発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)、走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:SEM-EDX)、透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(Transmission Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:TEM-EDX)、走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(Scanning Transmission Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:STEM-EDX)等により測定される。また、磁石材料を構成する相の同定には、X線回折法(X-ray Diffraction)を用いることができる。各相の体積比率は、電子顕微鏡や光学顕微鏡による観察とX線回折法等とを併用して総合的に判断される。
【0032】
主相の平均粒径は次のように求められる。磁石材料の断面においてSTEM-EDXを用いて特定した主相結晶粒に対し、任意の粒を選択し、選択した粒に対し、両端が別の相に接する最も長い直線Aを引く。次に、この直線Aの中点において、直線Aに垂直であり、かつ両端が別の相に接する直線Bを引く。この直線Aと直線Bの長さの平均を相の径Dとする。上記手順で1個以上の任意の相のDを求める。一つのサンプルに対して5視野で上記Dを算出し、各Dの平均を相の径(D)と定義する。磁石材料の断面としては、試料の最大面積を有する表面の実質的に中央部の断面が用いられる。
【0033】
主相及び粒界相の組成は、3次元アトムプローブ分析(Atom Probe Tomography)により測定できる。3次元アトムプローブ分析は、微小領域において原子レベルの空間分解能と高い検出感度を有し、結晶粒界における元素分布の測定に適している。
【0034】
急冷合金薄帯の平均厚さは例えば次のように求められる。長さ10mm以上の薄帯片に対してマイクロメータを用いて厚さを測定する。10個以上の薄帯片について厚さを測定し、最大値と最小値を除いた値の平均値を求めることにより、薄帯の平均厚さが算出される。
【0035】
磁石材料の保磁力や磁化等の磁石特性は、例えば振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magetometer:VSM)を用いて算出される。
【0036】
次に、実施形態の磁石材料の製造方法例について説明する。まず、磁石材料に必要な所定の元素を含む合金を製造する。例えば、アーク溶解法、高周波溶解法、金型鋳造法、メカニカルアロイング法、メカニカルグラインディング法、ガスアトマイズ法、還元拡散法等を用いて合金を製造することができる。
【0037】
上記合金を溶解して急冷する。これにより、合金を非晶質化する。溶解された合金は、例えば液体急冷法(メルトスパン法)を用い冷却される。液体急冷法では、合金溶湯を高速回転するロールに射出する。ロールは単ロール型でも双ロール型でもよく、材質は主に銅等が使用される。射出する溶湯の量や、回転するロールの周速を制御することにより溶湯の冷却速度を制御することができる。合金の非晶質化の程度は組成と冷却速度により制御できる。また、上記の合金作製時にガスアトマイズ法等を用いることにより既に非晶質合金が得られている場合は改めて急冷工程を実施しなくてもよい。
【0038】
上記非晶質化した合金又は合金薄帯に対して熱処理を施す。これにより、主相を結晶化し、微結晶を有する主相を備える金属組織を形成することができる。例えば、Ar中や真空中等の不活性雰囲気下で500℃以上1000℃以下の温度で5分以上300時間以下加熱する。
【0039】
温度が低すぎる場合には結晶化や均一化が不十分となり保磁力が低下する。また、温度が高すぎる場合には主相の分解等により異相が生成され、保磁力や角型性が低下する。加熱温度は例えば520℃以上800℃以下がより好ましく、さらに好ましくは540℃以上700℃以下であり、さらに好ましくは550℃以上650℃以下である。加熱時間が短すぎる場合には結晶化や均一化が不十分となり保磁力が低下する。
【0040】
加熱時間が長すぎる場合には主相の分解等により異相が生成され、保磁力や角型性が低下する。好ましい加熱時間は15分以上150時間以下であり、さらに好ましくは30分以上120時間以下であり、さらに好ましくは1時間以上120時間以下であり、さらに好ましくは2時間以上100時間以下であり、さらに好ましくは3時間超80時間以下である。
【0041】
加熱後には炉冷又は水中急冷、ガス急冷、オイル中急冷等の方法により結晶化した合金又は薄帯を冷却する。
【0042】
上記合金にA元素を侵入させてもよい。A元素を合金へ侵入させる工程の前に、合金を粉砕して粉末にしておくことが好ましい。A元素が窒素の場合、約0.1気圧以上100気圧以下の窒素ガスやアンモニアガス等の雰囲気中で、200℃以上700℃以下の温度で合金を1時間以上100時間以下加熱することにより、合金を窒化させ、窒素を合金に侵入させることができる。A元素が炭素の場合、約0.1気圧以上100気圧以下のエチレン(C2H2)、メタン(CH4)、プロパン(C3H8)、又は一酸化炭素(CO)ガスもしくはメタノール(CH3OH)の加熱分解ガスの雰囲気中で、300℃以上900℃以下の温度範囲で合金を1時間以上100時間以下加熱して合金を炭化することにより、炭素を合金に侵入させることができる。A元素が水素の場合、約0.1以上100気圧以下の水素ガスやアンモニアガス等の雰囲気中で、200℃以上700℃以下の温度で合金を1時間以上100時間以下加熱して合金を水素化することにより、水素を合金に侵入させることができる。A元素がリンの場合、合金をリン化することにより、リンを合金に侵入させることができる。
【0043】
上記工程により磁石材料が製造される。また、上記合金又は薄帯を粉砕することにより磁石粉末が製造される。さらに、上記磁石材料や磁石粉末を用いて永久磁石が製造される。磁石製造工程の一例を示す。
【0044】
磁石材料を加圧焼結することにより、焼結体を有する永久磁石を形成することができる。加圧焼結の方法としては、プレス成型機で加圧した後に、加熱して焼結する方法や、放電プラズマ焼結法を用いる方法、ホットプレスを用いる方法、熱間加工法を用いる方法等が適用できる。例えば、磁石材料をジェットミルやボールミル等の粉砕装置を用いて粉砕し、1T以上2T以下程度の磁場中で1トン(1000kg)程度の圧力で磁場配向プレスすることにより成型体を得る。得られた成型体をAr中や真空中等の不活性ガス雰囲気で加熱し焼結を行うことにより焼結体を作製する。焼結体に不活性雰囲気中等で適宜熱処理を加えることにより永久磁石を製造することができる。
【0045】
また、上記磁石材料を粉砕し、粉砕物をバインダで固着させて混合することによりボンド磁石を製造することができる。バインダとしては、例えば熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、低融点合金、ゴム材料等を用いることができる。成型方法としては、例えば圧縮成型法や射出成型法を用いることができる。
【0046】
実施形態の磁石材料を具備する永久磁石は、各種モータや発電機等の回転電機に使用することができる。また、可変磁束モータや可変磁束発電機の固定磁石や可変磁石として使用することも可能である。上記永久磁石を回転電機に適用することにより、高効率化、小型化、低コスト化等の効果が得られる。
【0047】
上記回転電機は、例えば、鉄道交通に利用される鉄道車両(車両の一例)に搭載されてよい。実施形態の回転電機のような高効率な回転電機を利用することにより、省エネルギーで鉄道車両を走行させることができる。
【0048】
上記回転電機は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の自動車(車両の他の例)に搭載されてもよい。また、上記回転電機は、例えば産業機器(産業用モータ)、空調機器(エアコンディショナ・給湯器コンプレッサモータ)、風力発電機、又はエレベータ(巻上機)に搭載されてもよい。
【実施例】
【0049】
(実施例1、比較例1)
Sm、Fe、Co、Nb、Bの各原料を適量秤量し、高周波溶解法を用いて合金を作製した。次に、合金を溶解し、得られた溶湯を単ロール法により急冷し、急冷合金薄帯を作製した。ロール周速は15m/sとした。得られた合金薄帯はX線回折の結果、ブロードな回折パターンを示し、非晶質相の形成が示唆された。また、合金薄帯の固有保磁力は1.2kA/mと低く、合金薄帯全体に非晶質相が形成されていることが確認された。次に、上記合金薄帯をAr雰囲気下において625℃の温度で熱処理を施した後、室温まで冷却した。熱処理時間は実施例1においては9時間、比較例1においては1時間とした。急冷直後の合金薄帯の組成はICP-AESを用いて評価した。また、熱処理後の合金薄帯状磁石材料について、VSMを用いて保磁力と残留磁化を評価した。磁石材料の組成、磁石材料の固有保磁力、及び残留磁化の評価結果を表1に示す。なお、組成式における「Febal.」は残部がFeであることを表す。
【0050】
実施例1及び比較例1の合金薄帯について、3次元アトムプローブを用いて主相及び粒界相の組成を分析した。
図2は、実施例1における3次元アトムプローブ分析結果(Nb、Bの濃度分布)の一例を示す。
図3は、比較例1における3次元アトムプローブ分析結果(Nb、Bの濃度分布)の一例を示す。
【0051】
図2、
図3から実施例1と比較例1いずれの試料においても、粒界相においてNb及びBの濃度が高まっていることがわかるが、比較例1の試料(熱処理時間:1時間)と比較して実施例1の試料(熱処理時間:9時間)の方がその傾向が顕著であることがわかった。そこで粒界相に注目して、さらに詳しく濃度分布を調べた。
図4は、実施例1における粒界相におけるSm、Fe、Co、Nb、Bの各元素の濃度分布の一例を示す。
図5は、比較例1における粒界相におけるSm、Fe、Co、Nb、Bの各元素の濃度分布の一例を示す。
図4及び
図5から、比較例1と比較して実施例1においては、粒界相におけるNb、Bの濃度が増大するとともに、R元素(Sm)の濃度は逆に減少することが明らかになった。
【0052】
主相(TbCu7相)における平均Nb濃度(nNb1)、平均B濃度(nB1)、平均R元素(Sm)濃度は、以下のようにして決定した。まず、粒界相を挟んで主相の2箇所の分析値の平均値を求め、同様の分析を3か所の粒界相について行い、それらの平均値を算出することによって主相(TbCu7相)における平均Nb濃度、平均B濃度、平均R元素(Sm)濃度とした。算出した値を表2に示す。また、粒界相における最大Nb濃度(nNb2)、最大B濃度(nB2)、最小R元素(Sm)濃度(nR2)についても同様に、3か所の粒界における最大値や最小値の分析値の平均値として求め、表2に示す。これらの値より、nNb2/nNb1、nB2/nB1、nR2/nR1の値を算出し、表2に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
実施例1の磁石材料は、nNb2/nNb1が24.9に達し、nB2/nB1が11.7に達し、比較例1の磁石材料と比較して粒界相へのNb及びBの濃化が著しい。また、実施例1の磁石材料は、粒界相中の最小R元素(Sm)濃度nR2が0.3原子%と、非常に低いことがわかる。このような粒界相を有する実施例1の磁石材料は、表1に示すように92.4Am2/kgの高い残留磁化を有しながら655kA/mの高い固有保磁力を示す
【0056】
(実施例2-9、比較例2、3)
Sm、Fe、Co、Nb、Bの各原料から実施例1と同様にして急冷合金薄帯を作製した。得られた合金薄帯をAr雰囲気下において、所定の温度、時間の条件で熱処理を施した後、室温まで冷却した。急冷直後の合金薄帯の組成はICP-AESを用いて評価した。また、熱処理後の合金薄帯状磁石材料について、VSMを用いて保磁力と残留磁化を評価した。合金薄帯の組成、磁石材料の保磁力、及び残留磁化の評価結果を表3に示す。
【0057】
実施例2ないし実施例9の磁石材料は、すべてnNb2/nNb1>5、nB2/nB1>5、nR2/nR1<0.5の関係を満足しており、いずれも600kA/m以上の固有保磁力と89Am2/kg以上の高い残留磁化の両方を有する。また、実施例2ないし実施例9の磁石材料は、粒界相においてNb濃度が最大となる領域が上記組成式2:Rx1Nby1Bz1M100-x1-y1-z1により表される組成を有していた。
【0058】
一方、比較例2及び比較例3の磁石材料は、すべてnNb2/nNb1>5、nB2/nB1>5、nR2/nR1<0.5の関係を満足していなかった。比較例2及び比較例3の磁石材料は、実施例1の磁石材料と同じ急冷合金薄帯に熱処理を施して作製されたものであるが、熱処理条件が不適切であったために、大きな保磁力が得られなかった。比較例2は熱処理温度及び熱処理時間が不十分なため、主相と粒界相との間での原子拡散が十分でなく、それによって粒界相の磁性を弱める効果が小さく、高い固有保磁力が得られなかった。比較例3は、熱処理温度が高すぎるためα-Fe相の析出が大きく、固有保磁力は大幅に低下した。また、比較例2及び比較例3の磁石材料は、粒界相においてNb濃度が最大となる領域が上記組成式2:Rx1Nby1Bz1M100-x1-y1-z1により表される組成と異なる組成を有していた。
【0059】
【0060】
(実施例10~13)
R元素、Fe、Co、Nb、B等の各原料から実施例1と同様にして急冷合金薄帯を作製した。得られた合金薄帯をAr雰囲気下において、所定の温度、時間の条件で熱処理を施した後、室温まで冷却した。急冷直後の合金薄帯の組成はICP-AESを用いて評価した。また、熱処理後の合金薄帯状磁石材料について、VSMを用いて保磁力と残留磁化を評価した。合金薄帯の組成、磁石材料の保磁力、及び残留磁化の評価結果を表3に示す。
【0061】
実施例10ないし実施例13の磁石材料は、すべてnNb2/nNb1>5、nB2/nB1>5、nR2/nR1<0.5の関係を満足しており、いずれも600kA/m以上の固有保磁力と89Am2/kg以上の高い残留磁化の両方を有する。また、実施例10ないし実施例13の磁石材料は、粒界相においてNb濃度が最大となる領域が上記組成式2:Rx1Nby1Bz1M100-x1-y1-z1により表される組成を有していた。
【0062】
【0063】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
101…結晶粒子、102…粒界。