IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人首都大学東京の特許一覧

<>
  • 特許-マイクロノズル装置 図1
  • 特許-マイクロノズル装置 図2
  • 特許-マイクロノズル装置 図3
  • 特許-マイクロノズル装置 図4
  • 特許-マイクロノズル装置 図5
  • 特許-マイクロノズル装置 図6
  • 特許-マイクロノズル装置 図7
  • 特許-マイクロノズル装置 図8
  • 特許-マイクロノズル装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】マイクロノズル装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 1/14 20060101AFI20250218BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20250218BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20250218BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20250218BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
B05B1/14 Z
B01J19/00 321
B81B1/00
C12M1/00 A
C12M1/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021107375
(22)【出願日】2021-06-29
(65)【公開番号】P2023005448
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】内山 一美
(72)【発明者】
【氏名】毛 思鋒
(72)【発明者】
【氏名】河西 奈保子
(72)【発明者】
【氏名】周 琳
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 秀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊吾
【審査官】山崎 晶
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-501563(JP,A)
【文献】特開2006-158335(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181303(WO,A1)
【文献】特開2020-145933(JP,A)
【文献】特開2003-234286(JP,A)
【文献】特開2007-335826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/14
B01J 19/00
B81B 1/00
C12M 1/00
C12M 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が吐出開口とされた3本以上の吐出用毛細管と、一端が吸引開口とされた2本以上の吸引用毛細管と、前記吐出用毛細管から流体を吐出させる吐出ポンプと、前記吸引用毛細管から流体を吸引させる吸引ポンプと、を有し、
前記吐出開口および前記吸引開口のそれぞれの開口径は1mm以下であることを特徴とするマイクロノズル装置。
【請求項2】
前記吐出開口は一線に沿って並べて配され、前記吸引開口は前記一線を挟むように配されることを特徴とする請求項1に記載のマイクロノズル装置。
【請求項3】
前記吐出用毛細管は3本であり、前記吸引用毛細管は2本であり、
3本の前記吐出用毛細管のうち1本の前記吐出用毛細管の前記吐出開口は、他の2本の前記吐出用毛細管の前記吐出開口および2本の前記吸引用毛細管の前記吸引開口に囲まれる位置に配されることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロノズル装置。
【請求項4】
前記吐出用毛細管および前記吸引用毛細管は、ケイ素を含む材料によって構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロノズル装置。
【請求項5】
前記吐出用毛細管は、前記吐出開口よりも上流側で、前記吐出開口の開口径よりも内径が大きくなるように形成され、前記吸引用毛細管は、前記吸引開口よりも上流側で、前記吸引開口の開口径よりも内径が大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のマイクロノズル装置。
【請求項6】
前記流体は、生体細胞の操作を行う薬液であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のマイクロノズル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小領域に流体を吐出および吸引することが可能なマイクロノズル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬物を用いて生体細胞の局所的な刺激をおこなうために、ケージド化合物(caged compound)にレーザー光を照射することが一般的であった。ケージド化合物とは、生理活性物質に光分解性の保護基(ケージ)を結合させた化合物であり、可視光や赤外光を照射することによって保護基が分解され、その生理活性が発現する。ケージに結合させる生理活性物質としては神経伝達物質、低分子リガンド、セカンド・メッセンジャーなどが挙げられる。こうしたケージド化合物をレーザー光で分子構造を変化させたり、分子を分解(アンケージ)することによって、生成した分子を用いて生体細胞の局所刺激を行うことができる。
【0003】
しかしながら、こうしたケージド化合物にレーザー光を照射する方法は、レーザー光が集光する範囲を限定することで、十数マイクロメートルのサイズ領域の刺激を行うことができるが,適用可能な分子の種類が限定的であり、反応前のケージド化合物や、反応後に生成した(乖離した)分子による生体細胞への影響があるという課題があった。また、レーザー光源や光検出器を備えたコストの高い複雑な装置を用いる必要があった。
【0004】
一方、マイクロ流路を用いて薬物を流すことによって、生体細胞を局所的に刺激することも可能であるが、マイクロ流路の流路上に生体細胞を成長させておく必要があり、細胞内の任意の位置に薬物を流して刺激を与えることは困難であった。
【0005】
一方、シリコン基板の微細加工には、従来からフォトリソグラフィが広く用いられてきたが、凹凸のある表面への微細加工は,フォトマスク(レチクル)との距離を一定に保つことが困難であり,マイクロメートルサイズの表面加工は困難であった。また、フォトリソグラフィを用いずに微細加工や局所的な合成反応を行う方法は行われていない。
【0006】
以上のような背景から、任意の微小な領域に流体を吐出させて、その流体が作用する範囲を微小な領域に制限できるような吐出ノズル装置が求められていた。
こうした吐出ノズル装置として、例えば、非特許文献1には、4本のマイクロノズルを環状に並べて配した化学ペンが開示されている。こうした化学ペンによれば、薬液などを微小な領域に制限して作用させることが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Sifeng Mao, et al. Chemical Science, 9, 10, 2081 (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に開示されたような化学ペンでは、マイクロノズルが4本以下であったため、2つ以上の反応場(微小領域)の界面を高精度に制御することが困難であり、微小領域においてより多様な形態で流体を制御することが可能なノズル装置が求められていた。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、複数の微小領域に流体を吐出して多様な形態で流体を制御することが可能なマイクロノズル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明のマイクロノズル装置は、一端が吐出開口とされた3本以上の吐出用毛細管と、一端が吸引開口とされた2本以上の吸引用毛細管と、前記吐出用毛細管から流体を吐出させる吐出ポンプと、前記吸引用毛細管から流体を吸引させる吸引ポンプと、を有し、前記吐出開口および前記吸引開口のそれぞれの開口径は1mm以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、一端が吐出開口とされた3本以上の吐出用毛細管と、一端が吸引開口とされた2本以上の吸引用毛細管を用いて、3か所以上の吐出開口から流体を吐出するとともに、2か所以上の吸引開口から流体を吸引することによって、従来の4本以下の吐出用毛細管および吸引用毛細管では形成が困難であった、微小な領域に対して線状や点状の流体領域を形成することができる。また、吸引用毛細管が2つ以上設けられていることによって、吸引用毛細管の流量を制御するできることにより、所望の位置における流体領域の大きさをより高精度に制御できるようになり、より微小な線状・点状の領域を形成することが可能になる。
【0012】
また、それぞれの吐出開口の流体の吐出量や、それぞれの吸引開口から吸引される流体の吸引量を、個々に設定することで、微小な領域に複数の流体をそれぞれ任意の形状になるように形成することが可能になる。
【0013】
また、本発明では、前記吐出開口は一線に沿って並べて配され、前記吸引開口は前記一線を挟むように配されていてもよい。
【0014】
また、本発明では、前記吐出用毛細管は3本であり、前記吸引用毛細管は2本であり、3本の前記吐出用毛細管のうち1本の前記吐出用毛細管の前記吐出開口は、他の2本の前記吐出用毛細管の前記吐出開口および2本の前記吸引用毛細管の前記吸引開口に囲まれる位置に配されていてもよい。
【0015】
また、本発明では、前記吐出用毛細管および前記吸引用毛細管は、ケイ素を含む材料によって構成されていてもよい。
【0016】
また、本発明では、前記吐出用毛細管は、前記吐出開口よりも上流側で、前記吐出開口の開口径よりも内径が大きくなるように形成され、前記吸引用毛細管は、前記吸引開口よりも上流側で、前記吸引開口の開口径よりも内径が大きくなるように形成されていてもよい。
【0017】
また、本発明では、前記流体は、生体細胞の操作を行う薬液であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数の微小領域に流体を吐出して多様な形態で流体を制御することが可能なマイクロノズル装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態のマイクロノズル装置を示す要部拡大斜視図である。
図2】マイクロノズル装置の吐出開口および吸引開口の配列を示す概略構成図である。
図3】細胞の染色結果を示す写真である。
図4】中央の吐出開口から吐出されるフルオレセインの形成幅と、流量比との関係を示すグラフである。
図5】フルオレセインの形成形状(蛍光領域)を示す写真である。
図6】フルオレセインの形成形状(蛍光領域)を示す写真である。
図7】細胞に対して蛍光色素を線状に形成する位置を示す写真である(ノズル装置と蛍光色素はイラストを付記)。
図8】細胞の染色後5分を経過した時点での蛍光色素の細胞内での拡散状態を示す写真である。
図9】細胞の染色後15分を経過した時点での蛍光色素の細胞内での拡散状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態のマイクロノズル装置について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態のマイクロノズル装置を示す要部拡大斜視図である。また、図2は、マイクロノズル装置の吐出開口および吸引開口の配列を示す概略構成図である。
本実施形態のマイクロノズル装置10は、第1~第3の吐出用毛細管11,12,13と、これら第1~第3の吐出用毛細管11,12,13にそれぞれ流体を供給して吐出させる吐出ポンプ21,22,23と、第1、第2の吸引用毛細管15,16と、これら第1、第2の吸引用毛細管からそれぞれ流体を吸引させる吸引ポンプ25,26と、を有している。
【0022】
第1~第3の吐出用毛細管11,12,13は、例えば、ガラス製の中空毛細管からなり、一方の端部(開口端)が、それぞれ吐出開口11a,12a,13aとされている。また、第1、第2の吸引用毛細管15,16は、例えば、ガラス製の中空毛細管からなり、一方の端部(開口端)が、それぞれ吸引開口15a,16aとされている。
第1~第3の吐出用毛細管11,12,13および第1、第2の吸引用毛細管15,16は、一方の端部寄りで一体になるように束ねられている。
【0023】
なお、第1~第3の吐出用毛細管11,12,13および第1、第2の吸引用毛細管15,16は、ガラス以外にも、ケイ素を含むガラス質の材料、例えば、フューズドシリカなどを用いることもできる。
【0024】
吐出開口11a,12a,13aおよび吸引開口15a,16aは、互いに同一平面上で開口している。そして、本実施形態では、吐出開口11a,12a,13aは、一線L上に並ぶように配列されている。また、吸引開口15a,16aは、吐出開口13aの位置で、互いに一線Lを挟むように形成されている。即ち、本実施形態のマイクロノズル装置10では、吐出開口13aを中心にして、吐出開口11a,12aおよび吸引開口15a,16aがこの吐出開口13aを取り囲むように形成されている。
【0025】
第1~第3の吐出用毛細管11,12,13の吐出開口11a,12a,13aは、開口径が1mm以下、例えば、0.5mm~0.01mm程度であればよい。また、第1、第2の吸引用毛細管15,16の吸引開口15a,16aは、開口径が1mm以下、例えば、0.5mm~0.01mm程度であればよい。なお、吐出開口11a,12a,13aと吸引開口15a,16aとは、互いに開口径が異なっていてもよい。
【0026】
本実施形態では、吐出開口11a,12a、および吸引開口15a,16aの開口径は0.32mm、中央の吐出開口13aの開口径は0.05mmとした。なお、第1、第2の吐出用毛細管11,12および第1、第2の吸引用毛細管15,16の外径は0.42mm程度、第3の吐出用毛細管13の外径は0.15mm程度である。
【0027】
吐出ポンプ21,22,23および吸引ポンプ25,26は、流体の種類に応じて選択されればよく、例えば、シリンジを用いることができる。なお、吐出ポンプ21,22,23および吸引ポンプ25,26としては、シリンジ以外にも、例えばチューブポンプなどを用いることもできる。
【0028】
本実施形態のマイクロノズル装置10によって吐出および吸引する流体は、液体、ゾル状体、気体(ガス)のいずれであってもよい。例えば、生体細胞を局所的に刺激させて観察する用途に用いる場合には、色素や活性剤を流体として用いることができる。また、任意の形状のナノ配線パターンを形成する際には、金や銀などの導電体ペーストを流体として用いることができる。また、サンプルに局所的に反応性ガスによる作用を観察する際には、反応性ガスを流体として用いることができる。
【0029】
以上の様な構成のマイクロノズル装置10の作用を説明する。
図2に示すように、例えば、マイクロノズル装置10を用いて、生体細胞Mを刺激してその変化を観察する際に、線状の流体領域Gを形成するには、流体領域Gを形成する位置に第3の吐出用毛細管13の吐出開口13aを合わせてから、第1~第3の吐出用毛細管11,12,13の吐出開口11a,12a,13aからそれぞれ流体を吐出させるとともに、第1、第2の吸引用毛細管15,16の吸引開口15a,16aから、それぞれ吐出させた流体を吸引する。
【0030】
これにより、中央にある吐出開口13aから吐出された流体は、吐出開口11aおよび吐出開口12aからそれぞれ吐出された流体によって挟まれることで、図2中の横方向xに広がらず、かつ、吸引開口15a,16aによる流体の吸引によって、図2中の縦方向yに引っ張られる。これにより、生体細胞Mを縦断するような線状の流体領域Gを形成することができる。
【0031】
このように、第1~第3の吐出用毛細管11,12,13と、第1、第2の吸引用毛細管15,16を用いて、3か所の吐出開口11a,12a,13aから流体を吐出するとともに、2か所の吸引開口15a,16aから流体を吸引することによって、従来の4本以下の吐出用毛細管および吸引用毛細管では形成が困難であった、微小な領域に対して線状の流体領域Gを形成することができる。
【0032】
また、本実施形態において、吐出開口11aと吐出開口12aの流体の吐出量を互いに異ならせることによって、線状の流体領域を横方向xに屈曲させたりすることもできる。また、それぞれの吐出開口11a,12a,13aから吐出される流体の吐出量と、吸引開口15a,16aから吸引される流体の吸引量とを、個々に異ならせることで、微小な領域に複数の流体をそれぞれ任意の形状になるように形成することができる。
【0033】
また、それぞれの吐出開口11a,12a,13aから吐出される流体の粘度を個々に異ならせることによっても、微小な領域に複数の流体をそれぞれ任意の形状になるように形成することができる。
【0034】
なお、本実施形態では3本の吐出用毛細管と2本の吸引用毛細管の合計5本の毛細管でマイクロノズル装置を構成する例を示したが、4本以上の吐出用毛細管や3本以上の吸引用毛細管でマイクロノズル装置を構成することもできる。4本以上の吐出用毛細管や3本以上の吸引用毛細管を備えることによって、微罪な領域により多様な形状で複数の流体をレイアウトすることが可能になる。
【0035】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例
【0036】
(実施例1)
上述した実施形態のマイクロノズル装置10を用いて、細胞の染色を行った。
中央に配された吐出開口13aからフルオレセイン液(濃度:10μmol/L)を5μL/hの流量で吐出し、その両側の吐出開口11a,12aからリン酸緩衝液(pH7.4)をそれぞれ600μL/hの流量で吐出させ、吐出開口13aを挟んだ吸引開口15a,16aから吸引流量を600,1200,1800,2100(μL/h)に変化させて、吐出した流体を吸引した。図3に細胞の染色結果を写真で示す。図3によれば、中央に線状のフルオレセイン液のフロー層が形成されている。
【0037】
また、図4に、吐出開口13aから吐出されるフルオレセイン液の形成幅と、流量比との関係をグラフで示す。なお、ここでいう流量比は、吸引開口15aから吸引される流体の吸引量と16aから吸引される流体の吸引量との比を表している。
【0038】
図4に示す結果によれば、中央のフルオレセイン液の形成幅は、流量比の増加とともに減少している。これにより、吸引開口15aから吸引される流体の吸引量と16aから吸引される流体の吸引量との比とを変化させることにより、吐出開口13aから吐出される流体を任意の幅で線状に形成できることが確認された。これは、従来、吐出開口から吐出される流体の吐出量と、吸引開口から吸引される流体の吸引量とを変化させることで流体の幅を制御していただけでなく、新たに流体の幅を制御することができる方法があるということである。このことから、より高精度に流体の幅を制御できることが確認された。
【0039】
(実施例2)
上述した実施形態のマイクロノズル装置10を用いて、中央の吐出開口13aから吐出された蛍光色素の流体の広がりを検証した。中央に配された吐出開口13aからフルオレセイン液(蛍光色素:カルセイン-AM(濃度:10μmol/L))を5μL/hの流量で吐出し、その両側の吐出開口11a,12aからをそれぞれ600μL/hの流量で流体を吐出させ、吐出開口13aを挟んだ一方の吸引開口15aの吸引流量を600μL/h、他方の吸引開口16aの吸引流量を600μL/hおよび1200μL/hに変化させて、吐出したフルオレセイン液の形成形状(蛍光領域)を観察した。
【0040】
吸引開口16aの吸引流量を600μL/hにした場合のフルオレセイン液の形成形状(蛍光領域)を図5に写真で示す。また、吸引開口16aの吸引流量を1200μL/hにした場合のフルオレセイン液の形成形状を図6に写真で示す。
【0041】
図5及び図6に示す結果によれば、吸引開口15aと、吸引開口16aとの吸引量を互いに変化させることによって、形成する蛍光領域の面積とサイズを任意に制御可能であることが確認された。
【0042】
(実施例3)
上述した実施形態のマイクロノズル装置10を用いて、生体細胞の端部に線状の蛍光色素領域を形成し、蛍光色素の浸透状況を観察した。
・観察対象物:PC-12細胞
・中央の吐出開口13aから蛍光色素溶液(カルセイン-AM(濃度:1μmol/L))を5μL/hの流量で吐出
・両側の吐出開口11a,12aからリン酸緩衝液(pH7.4)を600μL/hの流量で吐出
・吸引開口15a,16aから600μL/hの流量で流体を吸引
【0043】
図7に、細胞に対して蛍光色素を線状に形成する位置を写真で示す。
また、染色後5分、および15分経過後の蛍光色素の細胞内での拡散状態を、それぞれ図8図9に示す。
【0044】
図8図9によれば、マイクロノズル装置10を用いることによって、細胞の端が適切に染色され、蛍光色素が細胞体に拡散することが確認された。本発明のマイクロノズル装置の効果が確認できた。
【符号の説明】
【0045】
10…マイクロノズル装置
11…第1の吐出用毛細管
12…第2の吐出用毛細管
13…第3の吐出用毛細管
11a,12a,13a…吐出開口
15…第1の吸引用毛細管
16…第2の吸引用毛細管
15a,16a…吸引開口
21,22,23…吐出ポンプ
25,26…吸引ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9