(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】天然ガスの吸着貯蔵システム
(51)【国際特許分類】
F17C 11/00 20060101AFI20250218BHJP
H01M 8/0662 20160101ALN20250218BHJP
H01M 8/04007 20160101ALN20250218BHJP
【FI】
F17C11/00 A
H01M8/0662
H01M8/04007
(21)【出願番号】P 2021005360
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2020113046
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】屋 隆了
(72)【発明者】
【氏名】末廣 眞人
【審査官】加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-256708(JP,A)
【文献】特開2002-161998(JP,A)
【文献】特開昭60-121398(JP,A)
【文献】特開2008-039108(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03130835(EP,A1)
【文献】独国特許出願公開第102008043927(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 11/00
H01M 8/0662
H01M 8/04007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ガスを貯蔵・放出可能な第1吸着材が充填された第1ガス貯蔵部と、
二酸化炭素を貯蔵・放出可能な第2吸着材が充填された第2ガス貯蔵部と、
天然ガスを消費して発電するとともに二酸化炭素を排気する発電機と、を含み、
前記第1ガス貯蔵部と、前記第2ガス貯蔵部と、が熱的に互いに接続され
、
前記第1ガス貯蔵部は、前記発電機の天然ガスの導入側に連通し、
前記第2ガス貯蔵部は、前記発電機の二酸化炭素の排気側に連通し、
前記第1ガス貯蔵部から前記発電機に天然ガスを放出する際に前記発電機から排出された二酸化炭素が前記第2ガス貯蔵部に貯蔵され、
外部から供給された天然ガスを前記第1ガス貯蔵部に貯蔵する際に前記第2ガス貯蔵部から二酸化炭素が外部に放出される天然ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項2】
前記第1ガス貯蔵部及び前記第2ガス貯蔵部の間を冷媒が循環するように配置された冷媒流路と、前記冷媒を循環させる循環ポンプと、を含み、
前記第1ガス貯蔵部と前記第2ガス貯蔵部は、前記冷媒を介して熱的に接続されている請求項1
に記載の天然ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項3】
前記冷媒流路は、前記第1ガス貯蔵部及び前記第2ガス貯蔵部の少なくとも一方において複数に分岐しており、分岐した前記冷媒流路同士の長さが互いに異なっている請求項
2に記載の天然ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項4】
前記第1ガス貯蔵部が、天然ガスが流通する流通経路を直列に形成するように複数配置され、
前記冷媒流路のうち、前記第2ガス貯蔵部から排出された冷媒を前記第1ガス貯蔵部に供給する部分は、前記第1ガス貯蔵部のうち、前記流通経路の最も上流に配置された前記第1ガス貯蔵部に接続している請求項
2に記載の天然ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項5】
前記第1ガス貯蔵部が、天然ガスが流通する流通経路を直列に形成するように複数配置
され、
前記冷媒流路から分岐するとともに前記冷媒流路よりも径の小さい分岐冷媒流路を備え、
前記分岐冷媒流路は、前記第2ガス貯蔵部に連通するとともに、前記分岐冷媒流路のうち、前記第2ガス貯蔵部から排出された冷媒を前記第1ガス貯蔵部側に供給する部分は、前記第1ガス貯蔵部のうち、前記流通経路の最も上流に配置された前記第1ガス貯蔵部に接続している請求項
2に記載の天然ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項6】
前記第2ガス貯蔵部に供給される二酸化炭素が流通する第2ガス供給流路から分岐する分岐流路と、
前記分岐流路の一部を形成するとともに前記第1ガス貯蔵部を収容するタンクケースと、
前記分岐流路に配置され、前記分岐流路を開閉するバイパス弁と、を含む請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の天然ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項7】
前記第1ガス貯蔵部に貯蔵した天然ガスを
前記発電機に供給する第1ガス供給流路に配置された第1ガス供給弁と、
前記発電機から排出された二酸化炭素を前記第2ガス貯蔵部に供給する第2ガス供給流路に配置された第2ガス供給弁と、
前記第2ガス供給流路に配置され、前記発電機から排出された二酸化炭素を昇圧して前記第2ガス貯蔵部に供給する昇圧手段と、
前記第2ガス貯蔵部から二酸化炭素を排出する外部排出路に配置された第2ガス排出弁と、
前記第1ガス貯蔵部及び前記第2ガス貯蔵部の間を冷媒が循環するように配置された冷媒流路と、
前記冷媒を循環させる循環ポンプと、
前記第2ガス貯蔵部から排出直後の前記冷媒の温度を検知する第1温度センサと、
前記第1ガス貯蔵部から排出直後の前記冷媒の温度を検知する第2温度センサと、
前記第1ガス供給弁、前記第2ガス供給弁、前記第2ガス排出弁、前記昇圧手段、前記循環ポンプを制御する制御部と、を含み、
前記制御部は、
前記発電機の起動時に前記第1ガス供給弁及び前記第2ガス供給弁を開放し、前記第2ガス排出弁を閉止するとともに前記昇圧手段を駆動させ、
前記循環ポンプを駆動させるとともに、前記第1温度センサが検知する温度と前記第2温度センサが検知する温度との温度差が所定の温度差以下となるように、前記循環ポンプの出力を制御する請求項1に記載の天然ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項8】
前記第2ガス供給流路から分岐して前記第2ガス貯蔵部に連通する分岐流路と、
前記分岐流路の一部を形成するとともに前記第1ガス貯蔵部を収容するタンクケースと、
前記分岐流路に配置され、前記分岐流路を開閉するバイパス弁と、
前記発電機から排出された二酸化炭素の温度を検知する第3温度センサと、を含み、
前記制御部は、
前記第3温度センサが検知する温度に基づいて前記バイパス弁を開放する請求項
7に記載の天然ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項9】
前記第1ガス貯蔵部に供給された天然ガスの圧力を検知する圧力センサと、
前記冷媒を加熱するヒータと、を備え、
前記制御部は、
前記圧力センサが検知する圧力が所定圧力以上となるように、前記ヒータ及び前記循環ポンプの出力を制御する請求項
7又は
8に記載の天然ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項10】
外部から前記第1ガス貯蔵部に天然ガスを供給する外部供給流路に配置された外部供給弁と、
前記第1ガス貯蔵部に貯蔵した天然ガスを
前記発電機に供給する第1ガス供給流路に配置された第1ガス供給弁と、
前記発電機から排出された二酸化炭素を前記第2ガス貯蔵部に供給する第2ガス供給流路に配置された第2ガス供給弁と、
前記第2ガス貯蔵部から二酸化炭素を排出する外部排出路に配置された第2ガス排出弁と、
前記第1ガス貯蔵部及び前記第2ガス貯蔵部の間を冷媒が循環するように配置された冷媒流路と、
前記冷媒を循環させる循環ポンプと、
前記第2ガス貯蔵部から排出直後の前記冷媒の温度を検知する第1温度センサと、
前記第1ガス貯蔵部から排出直後の前記冷媒の温度を検知する第2温度センサと、
前記発電機に供給する天然ガスの圧力を検知する圧力センサと、
前記外部供給弁、前記第1ガス供給弁、前記第2ガス供給弁、前記第2ガス排出弁、前記循環ポンプを制御する制御部と、を含み、
前記制御部は、
前記第1ガス供給弁、前記第2ガス供給弁を閉止して前記第2ガス排出弁を開放し、
前記外部供給弁を開放して前記循環ポンプを駆動させるとともに、前記第1温度センサが検知する温度と前記第2温度センサが検知する温度との温度差が第1の所定温度差以下となるように、前記第2ガス排出弁の開度を制御し、
その後、前記外部供給弁の開度を制御するとともに、前記温度差が第2の所定温度差以下となるように、前記循環ポンプの出力を制御し、
前記圧力センサが検知する圧力が所定圧力に到達した場合、又は前記第2温度センサが検知する温度が所定温度に到達した場合に前記外部供給弁及び前記第2ガス排出弁を閉止し、
その後、前記温度差が第3の所定温度差以下となると前記循環ポンプを停止する請求項1に記載の天然ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項11】
前記第1ガス貯蔵部の外壁の一部と、前記第2ガス貯蔵部の一部と、が互いに接続することで、前記第1ガス貯蔵部と、前記第2ガス貯蔵部と、が熱的に互いに接続されている請求項1に記載の天然ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項12】
前記第1ガス貯蔵部及び前記第2ガス貯蔵部を収容する貯蔵設備を備え、
前記第1ガス貯蔵部及び前記第2ガス貯蔵部は、
前記貯蔵設備内にそれぞれ複数配置され、
前記第1ガス貯蔵部及び前記第2ガス貯蔵部のそれぞれ少なくとも一つは、前記貯蔵設備において交互に配列され、
前記第1ガス貯蔵部と前記第2ガス貯蔵部とが互いに接触することで、前記第1ガス貯蔵部と、前記第2ガス貯蔵部と、が熱的に互いに接続されている請求項1に記載の天然ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項13】
前記第1吸着材及び前記第2吸着材は、金属有機構造体である請求項1に記載の天然ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項14】
前記第1吸着材及び前記第2吸着材は混合することで前記第1ガス貯蔵部と前記第2ガス貯蔵部は一体で形成され、前記第1吸着材と前記第2吸着材では平均粒径が互いに異なる請求項
13に記載の天然ガスの吸着貯蔵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガスの吸着貯蔵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、天然ガスを吸着・放出可能な吸着材が充填されたタンクを備え、当該タンクから供給された天然ガスを燃料として駆動する車両において、天然ガスが吸着材から放出される際の吸熱反応とそれに伴う天然ガスの放出能力の低下を防止するため、エンジン用の冷却水を用いてタンクを加熱する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1等の従来の車両では、タンクは車両後方に配置され、エンジンは車両前方に配置されることが一般的である。よって、タンクを加熱する場合、冷却水の配管を車両前方から車両後方まで延伸させる必要があり、熱交換システムが複雑になるだけでなく、冷却水を含めたシステムの重量が増加するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、簡易な熱交換を実現するとともにシステムの重量化を回避する天然ガスの吸着貯蔵システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による天然ガスの吸着貯蔵システムは、天然ガスを貯蔵・放出可能な第1吸着材が充填された第1ガス貯蔵部と、二酸化炭素を貯蔵・放出可能な第2吸着材が充填された第2ガス貯蔵部と、天然ガスを消費して発電するとともに二酸化炭素を排気する発電機と、を含み、前記第1ガス貯蔵部と、前記第2ガス貯蔵部と、が熱的に互いに接続され、前記第1ガス貯蔵部は、前記発電機の天然ガスの導入側に連通し、前記第2ガス貯蔵部は、前記発電機の二酸化炭素の排気側に連通し、前記第1ガス貯蔵部から前記発電機に天然ガスを放出する際に前記発電機から排出された二酸化炭素が前記第2ガス貯蔵部に貯蔵され、外部から供給された天然ガスを前記第1ガス貯蔵部に貯蔵する際に前記第2ガス貯蔵部から二酸化炭素が外部に放出される。
【発明の効果】
【0007】
上記態様であれば、天然ガスを第1吸着材に吸着させると吸着熱(発熱)が発生するが、これが天然ガスの吸着能力を低下させる。また、天然ガスを第1吸着材から放出させると放出熱(吸熱)が発生するが、これが天然ガスの放出能力を低下させる。一方、二酸化炭素を第2吸着材に吸着させると吸着熱(発熱)が発生し、二酸化炭素を第2吸着材から放出させると放出熱(吸熱)を発生させる。よって、天然ガスを放出する際に二酸化炭素を充填し、天然ガスを充填する際に二酸化炭素を放出することで、第1ガス貯蔵部で発生した吸着熱と第2ガス貯蔵部で発生した放出熱との熱交換、及び第1ガス貯蔵部で発生した放出熱と第2ガス貯蔵部で発生した吸着熱との熱交換が可能となる。従って、天然ガスの第1吸着材への吸着時の吸着能力の低下、及び天然ガスの第1吸着材からの放出時の放出能力の低下を抑制することができる。さらに、第2ガス貯蔵部に二酸化炭素を供給する流路が必要となるが、二酸化炭素が流れる流路は、冷却水が流れる流路よりも冷却水がない分軽量となる。以上より、簡易な熱交換を実現するとともにシステムの重量化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システムを簡易に説明するためのブロック図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システムの主要構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システムにおいて天然ガスを第1ガスタンクから放出するとともに、第2ガスタンクに二酸化炭素を充填する際のフロー図である。
【
図4】
図4は、天然ガス及び二酸化炭素の放出圧力と吸着材への充填量との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、天然ガスを第1ガスタンクから放出する際に発生する放出熱を外部から供給する場合のエネルギー収支であって、二酸化炭素の回収率をパラメータとして第2ガスタンクから第1ガスタンクに供給可能な熱量と車速に依存した関係を示すグラフと、二酸化炭素の吸着熱とコンプレッサーの消費電力との割合を示す円グラフである。
【
図6】
図6は、本実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システムにおいて天然ガスを第1ガスタンクに充填するとともに第2ガスタンクから二酸化炭素を放出する際のフロー図である。
【
図7】
図7は、天然ガスを第1ガスタンクに充填する際に第1ガスタンクから取り出すべき熱量を二酸化炭素の回収率をパラメータとしたときの二酸化炭素の放出熱により賄う場合であって、天然ガスの充填量、天然ガスの充填時間、及び第1ガスタンクの温度の関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、第2実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システムにおける第1ガスタンク(第2ガスタンク)の断面図(縦方向)である。
【
図9】
図9は、第2実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システムにおける第1ガスタンク(第2ガスタンク)の断面図(水平方向)である。
【
図10】
図10は、第2実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システムにおける冷媒流路の流通経路を示す模式図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システムにおける冷媒流路の流通経路の変形例を示す模式図である。
【
図12】
図12は、第3実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システムにおける第1ガスタンクの模式図である。
【
図13】
図13は、第3実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システムにおける冷媒流路の流通経路を示す模式図である。
【
図14】
図14は、第4実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システムを簡易に説明するためのブロック図である。
【
図15】
図15は、第5実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システムを簡易に説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[第1実施形態の概要]
図1は、第1実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100を簡易に説明するためのブロック図である。
【0011】
第1実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100(以後、吸着貯蔵システム100と称す。)は、天然ガスを燃料とする車両に搭載されている。吸着貯蔵システム100は、天然ガスが充填・放出可能な第1ガスタンク11(第1ガス貯蔵部)と、二酸化炭素(CO2)を充填・放出可能な第2ガスタンク22(第2ガス貯蔵部)と、第2ガスタンク22に二酸化炭素を加圧して供給するコンプレッサー21(昇圧手段)と、第1ガスタンク11と第2ガスタンク22の間で冷媒を循環させる循環ポンプ31と、を備える。
【0012】
第1ガスタンク11には、外部(ガスステーション)から天然ガスが所定の圧力(例えば3.5[Mpa])で充填されるとともに、充填した天然ガスを発電機9(燃料電池、エンジン)に供給することができる。すなわち、V4を閉じた状態でV3を開放すると第1ガスタンク11には天然ガスが供給され、V3を閉じた状態でV4を開放すると第1ガスタンク11に貯蔵された天然ガスが発電機9に供給される。
【0013】
第1ガスタンク11には、天然ガスを吸着・放出(脱離)する第1吸着材111(
図8)が充填されている。よって、第1ガスタンク11に天然ガスが供給されると第1吸着材111には天然ガスが吸着される。天然ガスの吸着量(吸着密度)は、第1ガスタンク11内の天然ガスの圧力及び第1吸着材111の温度により変化する(
図4参照)。
【0014】
ところで、V4を開放して第1ガスタンク11内の圧力が低下すると、第1吸着材111から天然ガスが放出されるが、その際に第1吸着材111は放出熱(吸熱)を発生させる。この放出熱により第1吸着材111の温度が低下すると天然ガスの放出効率が低下する。従って、第1ガスタンク11から天然ガスを放出する際は、天然ガスが第1吸着材111から放出する際に発生する放出熱に相当する熱量を外部から供給する必要がある。
【0015】
また、V3を開放して第1ガスタンク11に天然ガスを充填すると、第1吸着材111は天然ガスを吸着するが、その際に第1吸着材111は吸着熱(発熱)を発生させる。この吸着熱により第1吸着材111の温度が上昇すると天然ガスの吸着効率が低下する。従って、第1ガスタンク11に天然ガスを充填する際は、天然ガスが第1吸着材111に吸着する際に発生する吸着熱を外部から取り出す必要がある。
【0016】
第2ガスタンク22には、二酸化炭素を吸着・放出(脱離)する第2吸着材222(
図8)が充填されている。よって、第2ガスタンク22に二酸化炭素が供給されると第2吸着材222には二酸化炭素が吸着される。二酸化炭素の吸着量(吸着密度)は、第2ガスタンク22内の二酸化炭素の圧力及び第2吸着材222の温度により変化する。
【0017】
ところで、V2を開放して第2ガスタンク22内の圧力が低下すると、第2吸着材222から二酸化炭素が放出されるが、その際に第2吸着材222は放出熱(吸熱)を発生させる。この放出熱により第2吸着材222の温度が低下すると二酸化炭素の放出効率が低下する。従って、第2ガスタンク22から二酸化炭素を放出する際は、二酸化炭素が第2吸着材222から放出する際に発生する放出熱に相当する熱量を外部から供給する必要がある。
【0018】
また、V2を閉止し、V1を開放した状態でコンプレッサー21をオンにすると、第2ガスタンク22に所定の圧力(例えば0.5[Mpa])で二酸化炭素が供給され第2吸着材222に二酸化炭素が吸着するが、その際に第2吸着材222は吸着熱(発熱)を発生させる。この吸着熱により第2吸着材222の温度が上昇すると二酸化炭素の吸着効率が低下する。従って、第2ガスタンク22に二酸化炭素を充填する際は、二酸化炭素が第2吸着材222に吸着する際に発生する吸着熱を外部から取り出す必要がある。
【0019】
ここで、発電機9(燃料電池、エンジン)は、天然ガスを消費して発電し、二酸化炭素を排出する。さらに、第1ガスタンク11と第2ガスタンク22は冷媒により互いに熱交換可能となっている。
【0020】
よって、第1ガスタンク11から天然ガスを放出する際に、第2ガスタンク22に二酸化炭素を充填することができる。これにより、第1ガスタンク11で発生する放出熱を相殺する熱量を第2ガスタンク22から冷媒を介して供給することができ、天然ガスの第1吸着材111からの放出能力の低下を抑制することができる。また同時に、第2ガスタンク22において二酸化炭素が第2吸着材222に吸着する際に発生する吸着熱を第1ガスタンク11が冷媒を介して取り出すことができ、二酸化炭素の第2吸着材222への吸着効率の低下を抑制することができる。
【0021】
また、第1ガスタンク11に天然ガスを充填する際に、第2ガスタンク22に充填した二酸化炭素を放出することができる。これにより、第1ガスタンク11で発生する吸着熱を第2ガスタンク22が冷媒を介して取り出すことができ、天然ガスの第1吸着材111への吸着能力の低下を抑制することができる。また同時に、第2ガスタンク22において二酸化炭素が第2吸着材222から放出する際に発生する放出熱を相殺する熱量を第1ガスタンク11が冷媒を介して第2ガスタンク22に供給することができ、二酸化炭素の第2吸着材222からの放出効率の低下を抑制することができる。
【0022】
第1吸着材111及び第2吸着材222としては、例えば金属有機構造体(Metal Organic Flameworks,MOF、規則性多孔質金属錯体)や、多孔性配位高分子(Porous Coord ination Polymer,PCP)、活性炭、ゼオライト等のガス吸着材が適用される。なお、第1吸着材111及び第2吸着材222の構造については後述する。
【0023】
二酸化炭素の1モル当たりの吸着熱/放出熱が、メタンや天然ガス等の吸着熱/放出熱に比して高くなる吸着材としては、MOF、活性炭、ゼオライト等の吸着材が上げられる。Basolite C-300等の一般的に入手可能なMOFの多くは、メタン及び二酸化炭素の双方に高い吸着容量を有し、二酸化炭素の吸着熱も高い特性を有しており、システム全体の小型化を可能とする点からのその適用が好ましい。
【0024】
例えば、第1吸着材111及び第2吸着材222としてMOFを適用した場合、メタンの吸着熱/放出熱は12.5[kJ/mol]であり、二酸化炭素の吸着熱/放出熱は15[kJ/mol]である。また、1モルのメタンを燃焼すると1モルの二酸化炭素が生成される。従って、1モルのメタンの吸着熱/放出熱を1モルの二酸化炭素の放出熱/吸着熱により賄うことができる。また、第1吸着材111と第2吸着材222とを同一材料(例えばMOF)とすることで、コストを抑制することができる。
【0025】
天然ガスは、その大部分がメタンにより構成されるが、その他エタン、プロパン、ブタンなどの炭化水素もわずかに含まれる。例えば、ブタン(nブタン)の吸着熱は、36[kJ/mol]であるが、ブタンを燃焼すると4モルの二酸化炭素が生成される。従って、1モルのブタンの吸着熱/放出熱(36[kJ/mol])を、4モルの二酸化炭素の放出熱/吸着熱(15×4=60[kJ/mol])により賄うことができる。なお、上記の二酸化炭素、メタン、ブタン(nブタン)の吸着熱/放出熱の値は、非特許文献("Heats of Adsorption for Seven Gases in Three Metal - Organic Frameworks: Systematic Comparison of Experimental and Simulation", David Farrusseng etc, Langmuir 2009, 25(13), 7383-7388, Published on Web 06/04/2009)から引用した。
【0026】
メタン及びブタンの吸着熱/放出熱を考慮すると、エタンの吸着熱/放出熱は約20[kJ/mol]、プロパンの吸着熱/放出熱は約28[kJ/mol]となる。また、1モルのエタンを燃焼すると2モルの二酸化炭素が生成され、1モルのプロパンを燃焼すると3モルの二酸化炭素が生成される。
【0027】
従って、1モルのエタンの吸着熱/放出熱(約20[kJ/mol])を、2モルの二酸化炭素の放出熱/吸着熱(15×2=30[kJ/mol])により賄うことができ、1モルのプロパンの吸着熱/放出熱(約28[kJ/mol])を、3モルの二酸化炭素の放出熱/吸着熱(15×3=45[kJ/mol])により賄うことができる。
【0028】
発電機9としては燃料電池、エンジンが適用される。燃料電池では天然ガスを改質ガスに変換し、これを発電反応に用いることで二酸化炭素と水蒸気との混合ガスが排出される。よって、排気ガスから二酸化炭素を回収する構成としては、例えば当該混合ガスを凝集器(分離器91(
図2))に供給し水蒸気を取り除くことで二酸化炭素を回収する構成があげられる。特に、燃料電池では高い回収率で二酸化炭素を回収することができるので、第2ガスタンク22に効率的に二酸化炭素を充填することができる。
【0029】
一方、エンジンでは、天然ガスを直接燃焼して二酸化炭素を含む排気ガスが排出される。よって、排気ガスから二酸化炭素を回収する構成としては、例えばリーン吸収液、アルカリ金属炭酸塩の溶液等の捕捉剤を備えた装置(分離器91(
図2))に排気ガスを供給し排気ガスを捕捉剤に吹き付けて二酸化炭素を吸収させ、その後当該装置において捕捉剤を加熱することで二酸化炭素を回収する構成が挙げられる。なお、捕捉剤としては、冷媒等として使用されるハイドロフルオロエーテル(HFE)(例えば、US9267415B2参照)も適用できる。また、排気ガスから二酸化炭素を回収する他の構成としては、二酸化炭素分離用のFTポリマー(例えば、特開2015-536814号公報参照)に排気ガスを供給して二酸化炭素を排気ガスから分離する構成も適用できる。
【0030】
前記のようにメタンの吸着熱/放出熱は12.5[kJ/mol]であり、二酸化炭素の吸着熱/放出熱は15[kJ/mol]である。天然ガス中のメタンの割合は90[%]程度あるが、すべてメタンと仮定しても二酸化炭素の回収率が(12.5[kJ/mol])/(15[kJ/mol])×100=83.3[%]以上であれば、メタンの吸着熱/放出熱を二酸化炭素の放出熱/吸着熱により賄うことができる。
【0031】
第1ガスタンク11と第2ガスタンク22の容積の割合を検討すると、発電機9からの二酸化炭素の回収率が100[%]である場合、メタンの吸着熱/放出熱は12.5[kJ/mol]であり、二酸化炭素の吸着熱/放出熱は15[kJ/mol]であるから、第2ガスタンク22は、第1ガスタンク11に対して12.5/15×100=83.3[%]の容積で設計することが可能である。
【0032】
また、第1ガスタンク11と第2ガスタンク22の容積の割合は、第1吸着材111の単位体積当たりの天然ガスの吸着容量と第2吸着材222の単位体積当たりの二酸化炭素の吸着容量を考慮して、トータルの吸着容量がほぼ一致するように設計することも好適である。例えば、第2吸着材222の単位体積当たりの吸着容量が第1吸着材111の単位体積当たりの吸着容量の2倍の場合、第2ガスタンク22は第1ガスタンク11の半分の容積で設計可能である。もちろん、第1ガスタンク11と第2ガスタンク22の容量を同じにして、第1吸着材111の単位体積当たりの天然ガスの吸着容量よりも第2吸着材222の単位体積当たりの二酸化炭素の吸着容量の方が大きい構成としてもよい。
【0033】
以上のように、第1ガスタンク11の天然ガスによる吸着熱/放出熱の総量が第2ガスタンク22の二酸化炭素による吸着熱/放出熱の総量と略一致するように、又は第1ガスタンク11の天然ガスの吸着容量と、第2ガスタンク22の二酸化炭素の吸着容量が略一致するように、第1ガスタンク11と第2ガスタンク22の容積の割合を設定することが好ましい。これにより、第2ガスタンク22を第1ガスタンク11に比べて小さく設計することができ、コンプレッサー21の負担(消費電力)を削減できる。
【0034】
さらに、天然ガス中のメタンと比べて、より低い圧力でメタンと同モル数の二酸化炭素の吸着容量を実現できるように第1吸着材111と第2吸着材222の材料を適宜選択することも好ましい。これによっても、コンプレッサー21の負担(消費電力)を削減できる。
【0035】
[第1実施形態の主要構成]
図2は、第1実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100の主要構成を示すブロック図である。第1実施形態の吸着貯蔵システム100は、前記のように、天然ガスを燃料として発電する車両に搭載される。車両には発電機9(燃料電池、エンジン)、バッテリ(不図示)、モータ(不図示)が搭載され、発電機9が発電した電力がバッテリに充電され、モータは、バッテリから電力を受けて車両の駆動輪を駆動させる。またモータは減速時に回生電力を発生させ、これをバッテリに充電することができる。
【0036】
第1実施形態の吸着貯蔵システム100は、外部から供給された天然ガスを貯蔵するとともに当該天然ガスを発電機9のガスの導入側に供給する供給ライン1と、発電機9のガスの排気側から回収した二酸化炭素を貯蔵し、又は排出する排出ライン2と、を備える。発電機9には、排ガスから二酸化炭素を分離する分離器91と、分離器91から排出された二酸化炭素を冷却する熱交換器92(例えば、車両に搭載されているラジエータ)が接続されている。
【0037】
供給ライン1は、外部のガスステーションと着脱自在に接続可能となっている。供給ライン1には、上流から順にバルブV3、第1ガスタンク11、予備タンク12、圧力センサP2、バルブV4が配置されている。バルブV3は、減圧弁8を介して外部のガスステーションに連通している。第1ガスタンク11及び予備タンク12は後述のタンクケース231に収容されている。予備タンク12は、第1ガスタンク11か放出される天然ガスを一時的に蓄えた上で減圧してバルブV4に供給するものである。
【0038】
排出ライン2は、熱交換器92に接続され、熱交換器92から二酸化炭素が供給される。排出ライン2には、上流から順に温度センサT0、コンプレッサー21、バルブV1、第2ガスタンク22、バルブV2が配置される。
【0039】
また排出ライン2のコンプレッサー21とバルブV1の間となる位置からは、分岐流路23が分岐している。分岐流路23は排出ライン2のバルブV1と第2ガスタンク22との間となる位置において排出ライン2と合流する。また分岐流路23にはバルブV5が配置されている。前記のタンクケース231は分岐流路23に一体に組み込まれている。
【0040】
第1ガスタンク11と第2ガスタンク22の間には冷媒を循環させる循環ライン3が配置されている。循環ライン3の第2ガスタンク22から第1ガスタンク11に向かう流路には温度センサT1、循環ポンプ31、ヒータ32が配置されている。温度センサT1は、第2ガスタンク22から排出された冷媒の温度を検知するものである。
【0041】
循環ポンプ31は、第1ガスタンク11と第2ガスタンク22との間に冷媒を循環させるものであり、ここでは第2ガスタンク22から排出された冷媒を第1ガスタンク11に供給する方向に駆動する。
【0042】
ヒータ32は第1ガスタンク11に供給される冷媒を加熱するものである。循環ライン3の第1ガスタンク11から第2ガスタンク22に向かう流路には温度センサT2が配置され、温度センサT2は、第1ガスタンク11から排出された冷媒の温度を検知する。
【0043】
コントローラ4(制御部)は、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)から構成されるコンピュータである。コントローラ4は、本実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100を構成し、システムを実行するプログラムを備えた構成要素である。また、コントローラ4は発電機9のオン・オフ及びその出力制御も可能であり、また車両全体を制御するECU等からの指令により動作することもできる。
【0044】
[天然ガス放出時の制御フロー]
図3は、第1実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100において天然ガスを第1ガスタンク11から放出するとともに、第2ガスタンク22に二酸化炭素を充填する際のフロー図である。
【0045】
ステップS101において、コントローラ4はバルブV4を開放する。これにより第1ガスタンク11から予備タンク12を介して天然ガスが発電機9に供給される。また、この際、天然ガスが第1吸着材111から離脱し始め、放出熱(吸熱)が発生する。
【0046】
ステップS102において、コントローラ4(又はECU)は、発電機9を起動する。
【0047】
ステップS103において、コントローラ4は、バルブV1を開放するとともにバルブV2を閉止し、その後コンプレッサー21を起動する。これにより、二酸化炭素が第2ガスタンク22に充填されて二酸化炭素が第2吸着材222に吸着し初め、吸着熱(発熱)が発生する。
【0048】
ステップS104において、コントローラ4は、循環ポンプ31を起動する。これにより、第1ガスタンク11と第2ガスタンク22の熱交換が開始される。なお、コントローラ4は、ステップS101、ステップS102、ステップS103、ステップS104を同時に行ってもよい。
【0049】
ステップS105において、コントローラ4は、温度センサT1が検知する温度(T1)と温度センサT2が検知する温度(T2)との差分ΔT1(ΔT1=T1-T2)が所定の温度差(例えば10[℃])以下となるように循環ポンプ31の出力を調整する。これにより、第1ガスタンク11の温度低下が抑制され、天然ガスの第1吸着材111からの放出効率の低下が抑制される。また同時に、第2ガスタンク22の温度上昇も抑制され、二酸化炭素の第2吸着材222への吸着効率の低下が抑制される。
【0050】
ステップS106において、コントローラ4は、温度センサT0が検知する温度が所定の最大温度Tmaxを超えているか否かを判断し、YESであればステップS107に移行し、NOであれば、ステップS109に移行する。
【0051】
ステップS107において、コントローラ4は、次のステップS108を既に実行したか否かを判断し、YESであればステップS109に移行し、NOであればステップS108に移行する。
【0052】
ステップS108において、コントローラ4は、バルブV1を閉止してバルブV5を開放する。これにより、二酸化炭素はコンプレッサー21から分岐流路23に導入され、タンクケース231で第1ガスタンク11により冷却されて第2ガスタンク22に供給される。これにより、二酸化炭素の温度上昇が抑制され、二酸化炭素の第2吸着材222への吸着効率の低下が抑制される。なお、コントローラ4は、ステップS108の際に、バルブV1を流通する二酸化炭素の流量と、バルブV5を流通する二酸化炭素の流量が所定の割合(例えば、1対1)となるように、バルブV5及びバルブV1の開度を制御してもよい。
【0053】
ステップS109において、コントローラ4は、圧力センサP2が検知する圧力(P2)が所定の下限圧力Pmin(発電機9が定格発電するために必要な圧力)よりも小さくなっているか否かを判断し、YESであればステップS110に移行し、NOであればステップS112に移行する。
【0054】
ステップS110において、コントローラ4は、次のステップS111を既に実行したか否かを判断し、YESであればステップS113に移行し、NOであればステップS111に移行する。
【0055】
ステップS111において、コントローラ4は、ヒータ32を起動し、循環ポンプ31の回転速度(出力)を上昇させる。これにより、第1ガスタンク11の温度が上昇(例えば室温(20[℃])から40[℃])し、圧力センサP2が検知する圧力が上昇する。
【0056】
ステップS112において、圧力センサP1が検知する圧力が許容された最大圧力P1maxを超えたか否かを判断し、YESであればステップS114に移行し、NOであればステップS106に戻る。
【0057】
ステップS113において、コントローラ4は、第1ガスタンク11内の天然ガスが不足したと判断し、ドライバーに警告するための信号を出力する。
【0058】
ステップS114において、コントローラ4は、圧力センサP1が検知する圧力が最大圧力P1max以下となるようにバルブV2を所定の割合で開放する。或いは、コントローラ4は、バルブV1、バルブV2、バルブV5を閉止したのちコンプレッサー21を停止する。
【0059】
前記のフローに関わらず、ECUが発電機9を停止するとコントローラ4は、バルブV1-V5を閉止し、コンプレッサー21、循環ポンプ31、ヒータ32を停止する。
【0060】
[天然ガスの放出圧力と充填量]
図4は、天然ガス及び二酸化炭素の放出圧力と吸着材への充填量との関係を示すグラフである。第1ガスタンク11から天然ガスを放出し、且つ第2ガスタンク22に二酸化炭素を充填する場合であって、第1ガスタンク11と第2ガスタンク22で熱交換が行われ、双方の温度が室温(20[℃])を維持している場合を考える。
【0061】
この場合、第1ガスタンク11内の天然ガスは初期的にはP2min(ここでは、圧力センサP2が検知する圧力(P2)と第1ガスタンク11内の圧力に等しいと考える)以上の圧力を有し、
図4に示すように、第1ガスタンク11内の天然ガスの圧力と充填量は、
図4の座標(圧力、充填量)において、[20[℃]_FUEL(CH
4)]のラインに従って座標の原点に向かって移動する。
【0062】
また、第2ガスタンク内の二酸化炭素は初期的には大気圧(AP:101.3kPa)とほぼ同じ圧力を有するが、第2ガスタンク22に二酸化炭素が充填されることで第2ガスタンク22内の二酸化炭素の圧力と充填量は、
図4の座標(圧力、充填量)において、[20[℃]_CO
2]のラインに従って座標の原点から遠ざかる方向に移動する特性を有する。
【0063】
ここで、
図3のステップS111を実行しない場合、第1ガスタンク11内の天然ガスの圧力がP2minよりも小さくなると発電機9において定格発電が実行できなくなるが、発電そのものは引き続き実行できる。しかし、第1ガスタンク11内の天然ガスの圧力と充填量が最終的に[20[℃]_FUEL(CH
4)]のライン上の座標(AP、A2)まで低下すると、これ以上天然ガスを取り出すことはできず、発電も不可能となる。
【0064】
一方、
図3のステップS111を実行して、例えば第1ガスタンク11(天然ガス)の温度が40度になったとすると、第1ガスタンク11内の天然ガスはその圧力を維持しつつ放出され充填量を下げていく。すなわち、第1ガスタンク11内の天然ガスの圧力と充填量は、[20[℃]_FUEL(CH
4)]のライン上の座標(P2min、A3)から縦軸方向に下がり、最終的に[40[℃]_FUEL(CH
4)]のライン上の座標(P2min、A1)にまで移動する。従って、その移動する間において天然ガスをP2minの圧力で放出し、発電機9において引き続き定格発電が可能となる。
【0065】
天然ガスの圧力及び充填量が座標(P2min、A1)に到達すると車両は走行(発電機9よる発電)を停止する。その際バルブV3、バルブV4を閉止しヒータ32も停止するので、天然ガスの温度は室温(20[℃])に戻るとともに、例えば天然ガスの圧力も大気圧以下の値(P2n<AP)となる。すなわち、第1ガスタンク11内の天然ガスの圧力と充填量は、[20[℃]_FUEL(CH4)]のライン上の座標(P2n、A1)にまで移動する。
【0066】
従って、
図3のステップS111を実行することで、ステップS111を実行しない場合において定格発電が可能な天然ガスの充填率の最小値A3、及びステップS111を実行しない場合において最低限の発電が可能な天然ガスの充填率の最小値A2よりも低い充填量A1になるまで天然ガスを定格発電に使用することができ、天然ガスの使用量を増加させ、車両の走行距離を延ばすことができる。
【0067】
[天然ガス放出時のエネルギー収支]
図5は、天然ガスを第1ガスタンク11から放出する際に発生する放出熱を外部から供給する場合のエネルギー収支であって、二酸化炭素の回収率をパラメータとして第2ガスタンク22から第1ガスタンク11に供給可能な熱量と車速に依存した関係を示すグラフと、二酸化炭素の吸着熱とコンプレッサー21の消費電力との割合を示す円グラフである。
【0068】
前記のように、二酸化炭素の回収率が近似的に=83.3[%]以上であれば、メタンの吸着熱/放出熱を二酸化炭素の放出熱/吸着熱により賄うことができる。よって、熱収支という観点でいえば、二酸化炭素の回収率が前記の値以上であれば、第1ガスタンク11から天然ガスを放出する際に第1ガスタンク11に供給すべき熱量を二酸化炭素の吸着熱により賄うことが可能である。
【0069】
しかし、消費電力を含むエネルギー収支という観点でいえば、二酸化炭素を第2ガスタンク22に充填する際に、コンプレッサー21による二酸化炭素の昇圧(コンプレッサー21の消費電力)と循環ポンプ31の出力(消費電力)を除いて考える必要がある。
【0070】
また、天然ガスの放出中は、車両が走行しているが、車速が上がると、天然ガスの流量、すなわち天然ガスが第1吸着材111から放出する際の放出熱が増加する。これに対応してコンプレッサー21の消費電力が増加し、二酸化炭素が第2吸着材222に吸着する際の吸着熱が増加する。
【0071】
また、車速が上がると、第1ガスタンク11に供給すべき熱量(放出熱)が増加するのに伴い第2ガスタンク22で発生する吸着熱も増加するが二酸化炭素の第2吸着材222への吸着効率の低下を抑制するために第2ガスタンク22を冷却すべき熱量も増加する。このため、双方の熱バランスをとる(第1ガスタンク11の温度と第2ガスタンク22の温度を近づける)必要があり、冷媒の流量すなわち循環ポンプ31の出力(消費電力)が増加する。
【0072】
以上より、天然ガスを第1ガスタンク11から放出し、且つ二酸化炭素を第2ガスタンク22に充填する際のエネルギー収支を計算すると以下のようになる。なお、循環ポンプ31の消費電力はコンプレッサー21の消費電力よりも十分小さいので、
図5では循環ポンプ31の影響を無視している。
【0073】
図5に示すように、エネルギー収支を示す線は。車速が増加するほどマイナス方向に増加している。α=0の線は、二酸化炭素の吸着熱を全く利用しない場合のエネルギー収支を示すものであり、例えば車速が180km/hの位置では-567[W]である。しかし、この場合はコンプレッサー21を使用しないことと同義であり、コンプレッサー21の消費電力をゼロとすることができる。また、この場合、第1ガスタンク11に供給すべき熱量を全てヒータ32(
図2)で賄う場合は、ヒータ32が567[W]消費することになる。
【0074】
例えば、二酸化炭素の回収率α=0.5であって時速180km/hにおけるエネルギー収支は-391[W]であり、これにより、第1ガスタンク11に供給できる正味の熱量は-391-(-567)=176[W]と算出される。一方、コンプレッサー21の消費電力は164[W]と算出される。よって、
図5の円グラフ(中央)に示すように、コンプレッサー21の消費電力(Comp)よりも第1ガスタンク11に供給する正味の熱量(Heat)の方が上回っている。
【0075】
また、この場合、第1ガスタンク11に供給すべき熱量のうち、ヒータ32(
図2)が賄う分は391[W]であり、全てヒータ32が賄う場合よりも((567-391)/567)×100=31[%]削減できる。
【0076】
例えば、二酸化炭素の回収率α=0.9であって時速180km/hにおけるエネルギー収支は-250[W]であり、これにより、第1ガスタンク11に供給できる正味の熱量は-250-(-567)=317[W]と算出される。一方、コンプレッサー21の消費電力は295[W]と算出される。よって、
図5の円グラフ(右)に示すように、コンプレッサー21の消費電力(Comp)よりも第1ガスタンク11に供給する正味の熱量(Heat)の方が上回っている。
【0077】
また、この場合、第1ガスタンク11に供給すべき熱量のうち、ヒータ32が賄う分は391[W]であり、全てヒータ32が賄う場合よりも((567-250)/567)×100=56[%]削減できる。
【0078】
例えば、二酸化炭素の回収率α=0であって時速20km/hにおけるエネルギー収支は-63[W]である。また二酸化炭素の回収率α=0.5であって時速20km/hにおけるエネルギー収支は-43[W]である。これにより、第1ガスタンク11に供給できる正味の熱量は-43-(-63)=20[W]と算出される。一方、コンプレッサー21の消費電力は18[W]と算出される。よって、
図5の円グラフ(左)に示すように、コンプレッサー21の消費電力(Comp)よりも第1ガスタンク11に供給する正味の熱量(Heat)の方が上回っている。
【0079】
また、この場合、第1ガスタンク11に供給すべき熱量のうち、ヒータ32が賄う分は43[W]であり、全てヒータ32が賄う場合(63[W])よりも((63-43)/63)×100=32[%]削減できる。従って、いずれの場合でもヒータ32等で二酸化炭素を直接加熱する場合よりもエネルギー収支が向上し、またエネルギー消費も削減できることがわかる。
【0080】
[天然ガス充填時の制御フロー]
図6は、本実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100において天然ガスを第1ガスタンク11に充填するとともに第2ガスタンク22から二酸化炭素を放出する際のフロー図である。
【0081】
ステップS201において、コントローラ4は、バルブV1、バルブV3、バルブV4を閉止し、その後バルブV2を開放する。これにより、第2ガスタンク22から二酸化炭素が放出され始めるとともに、二酸化炭素が第2吸着材222から放出されることで放出熱(吸熱)が発生する。
【0082】
ステップS202において、コントローラ4は、循環ポンプ31を起動し、温度センサT1及び温度センサT2から温度をそれぞれ検知する。循環ポンプ31を起動することにより、第1ガスタンク11と第2ガスタンク22との間で熱交換が開始される。
【0083】
ステップS203において、コントローラ4は、バルブV3を開放して第1ガスタンク11への天然ガスの充填を開始するとともに、圧力センサP2から圧力(P2)を検知する。第1ガスタンク11に天然ガスが充填されることで、天然ガスが第1吸着材111に吸着し初め、これにより吸着熱(発熱)が発生する。なお、コントローラ4は、ステップS201、ステップS202、ステップS203を同時に行ってもよい。
【0084】
ステップS204において、コントローラ4は、温度センサT2が検知する温度(T2)と温度センサT1が検知する温度(T1)との差分ΔT2(ΔT2=T2-T1)が所定の温度差(例えば10[℃])以下となる範囲でバルブV2の開度を増加する制御を行う。バルブV2の開度を増加させることで二酸化炭素の第2吸着材222からの放出量を増加させ、当該放出により第2ガスタンク22が第1ガスタンク11から取り出す熱量を増加させる。
【0085】
ステップS205において、コントローラ4は、バルブV3の開度を増加させ第1ガスタンク11に充填する天然ガスの流量を増加させる。
【0086】
ステップS206において、コントローラ4は、温度センサT2が検知する温度(T2)と温度センサT1が検知する温度(T1)との差分ΔT3(ΔT3=T2-T1)が所定の温度差(例えば10[℃])以下となるように循環ポンプ31の回転速度を制御する。
【0087】
ステップS207において、コントローラ4は、圧力センサP2が検知する圧力(P2)が所定の最大圧力P2max(例えば、第1ガスタンク11内の圧力が3.5[Mpa]となるときの圧力センサP2が検知する圧力)に到達したか否か、又は温度センサT2が検知する温度(T2)が所定の上限温度(T2max、例えば40[℃])に到達したか否かを判断し、YESであればステップS208に移行し、NOであればステップS204に戻る。ステップS207における判断(YES)は、いずれも天然ガスが第1ガスタンク11に十分充填されたと判断するものである。
【0088】
以上のステップS204、ステップS205、ステップS206、ステップS207(NO)を繰り返し実行することで第1ガスタンク11に対して急速に天然ガスを充填するとともに、第1ガスタンク11の温度上昇を抑制して、天然ガスの第1吸着材111への吸着能力の低下を抑制することができる。
【0089】
ステップS208において、コントローラ4は、バルブV1-V4を閉止する。これにより、第1ガスタンク11への天然ガスの充填及び第2ガスタンク22からの二酸化炭素の放出が終了する。一方、循環ポンプ31は起動状態を維持している。
【0090】
ステップS209において、コントローラ4は、温度センサT2が検知する温度(T2)と温度センサT1が検知する温度(T1)との差分ΔT4(ΔT4=T2-T1)が所定の温度差(例えば2[℃])以下になったか否かを判断し、YESであればS210に移行し、NOであればステップS209を維持する。
【0091】
ステップS210において、コントローラ4は、天然ガスが十分且つ均一に第1吸着材111に吸着したものと判断して循環ポンプ31を停止する。
【0092】
[天然ガスの急速充填と二酸化炭素の回収率との関係]
図7は、天然ガスを第1ガスタンク11に充填する際に第1ガスタンク11から取り出すべき熱量を二酸化炭素の回収率をパラメータとしたときの二酸化炭素の放出熱により賄う場合であって、天然ガスの充填量、天然ガスの充填時間、及び第1ガスタンク11の温度の関係を示すグラフである。
【0093】
図7では、第1ガスタンク11に天然ガスを短時間(例えば10分)で急速充填する場合を想定し、その時間内において天然ガスが第1吸着材111に急速に吸着可能な上限温度(例えば40[℃])超えないようにするための二酸化炭素の回収率を検討した。なお、回収率は、前記のように発電機9からの二酸化炭素の回収率を表すが、第1ガスタンク11に充填する天然ガスの流量と、第2ガスタンク22から放出する二酸化炭素の流量のモル比と同義となる。また、第1ガスタンク11の温度の演算に際しては第1ガスタンク11から外部への放熱分を考慮している。
【0094】
回収率α=0、すなわち、第1ガスタンク11に天然ガスを充填する場合に、第2ガスタンク22との間で熱交換を全く行わない場合、充填開始から約1分後、充填率が約10[%]となった段階で第1ガスタンク11の温度が上限温度(例えば40[℃])に到達し、これ以上の急速充填は困難になることがわかる。
【0095】
回収率α=0.75の場合、充填開始から約5分後、約50[%]充填が完了した段階で第1ガスタンク11の温度が上限温度(例えば40[℃])に到達し、これ以上の急速充填は困難になることがわかる。
【0096】
回収率α=0.80の場合、充填開始から約9分後、約90[%]充填が完了した段階で第1ガスタンク11の温度が上限温度(例えば40[℃])に到達し、これ以上の急速充填は困難になることがわかる。
【0097】
回収率α=0.90の場合、充填を開始した直後から第1ガスタンク11の温度がゆるやかながら単調に減少する。そして充填開始から約10分後、約100[%]充填が完了した段階でも第1ガスタンク11の温度が上限温度(例えば40[℃])を超えることはない。従って、回収率α=0.90であれば急速充填は十分に可能であることがわかる。
【0098】
なお、前記のように、二酸化炭素の回収率が83.3[%]以上であれば、
図7に示す曲線が充填時間とともに単調増加することはなく、急速充填が可能と考える。
【0099】
[第1実施形態の効果]
第1実施形態に係る天然ガスの吸着貯蔵システム100によれば、天然ガスを貯蔵・放出可能な第1吸着材111が充填された第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)と、二酸化炭素を貯蔵・放出可能な第2吸着材222が充填された第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)と、を含み、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)と、第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)と、が熱的に互いに接続されている。
【0100】
上記構成により、天然ガスを第1吸着材111に吸着させると吸着熱(発熱)が発生するが、これが天然ガスの吸着能力を低下させる。また、天然ガスを第1吸着材111から放出させると放出熱(吸熱)が発生するが、これが天然ガスの放出能力を低下させる。一方、二酸化炭素を第2吸着材222に吸着させると吸着熱(発熱)が発生し、二酸化炭素を第2吸着材222から放出させると放出熱(吸熱)を発生させる。よって、天然ガスを放出する際に二酸化炭素を充填し、天然ガスを充填する際に二酸化炭素を放出することで、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)で発生した吸着熱と第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)で発生した放出熱との熱交換、及び第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)で発生した放出熱と第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)で発生した吸着熱との熱交換が可能となる。従って、天然ガスの第1吸着材111への吸着時の吸着能力の低下、及び天然ガスの第1吸着材111からの放出時の放出能力の低下を抑制することができる。さらに、第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)に二酸化炭素を供給する流路(排出ライン2)が必要となるが、二酸化炭素が流れる流路は、冷却水が流れる流路よりも冷却水がない分軽量となる。以上より、簡易な熱交換を実現するとともにシステムの重量化を回避することができる。
【0101】
第1実施形態によれば、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)は、発電機9のガスの導入側に連通しており、第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)は、発電機9のガスの排気側に連通している。
【0102】
発電機9は天然ガスを消費すると二酸化炭素を排出する。従って、天然ガスを放出する際に発生する放出熱を相殺するための熱量を、発電機9から供給された二酸化炭素の吸着熱により賄うことができ、天然ガスの第1吸着材111からの放出能力の低下を抑制することができる。また同時に、発電機9から供給された二酸化炭素を充填する際に発生する吸着熱を相殺するための熱量を、天然ガスの放出熱により賄うことができ、二酸化炭素の第2吸着材222への吸着能力の低下を抑制することができる。逆に、天然ガスを充填する際に発生する吸着熱を相殺するための熱量を、熱交換を介して二酸化炭素の放出熱により賄うことができ、天然ガスの第1吸着材111への充填能力の低下を抑制することができる。また同時に、二酸化炭素を放出する際に発生する放出熱を相殺するための熱量を、熱交換を介して天然ガスの吸着熱により賄うことができ、二酸化炭素の第2吸着材222からの放出能力の低下を抑制することができる。
【0103】
本実施形態において、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)及び第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)の間を冷媒が循環するように配置された冷媒流路(循環ライン3)と、冷媒を循環させる循環ポンプ31と、を含み、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)と第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)は、冷媒を介して熱的に接続されている。
【0104】
上記構成により、簡易な構成で第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)と第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)との熱交換を行うことができる。
【0105】
本実施形態において、第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)に供給される二酸化炭素が流通する第2ガス供給流路(排出ライン2)から分岐して第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)に連通する分岐流路23と、分岐流路23の一部を形成するとともに第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)を収容するタンクケース231と、分岐流路23に配置され、分岐流路23を開閉するバイパス弁(バルブV5)と、を含む。
【0106】
上記構成により、第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)に充填する二酸化炭素を予め第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)との熱交換により冷却し、二酸化炭素の第2吸着材222への吸着能力の低下を抑制することができる。
【0107】
本実施形態において、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)に貯蔵した天然ガスを発電機9に供給する第1ガス供給流路(供給ライン1)に配置された第1ガス供給弁(バルブV4)と、発電機9から排出された二酸化炭素を第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)に供給する第2ガス供給流路(排出ライン2)に配置された第2ガス供給弁(バルブV1)と、第2ガス供給流路(排出ライン2)に配置され、発電機9から排出された二酸化炭素を昇圧して第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)に供給する昇圧手段(コンプレッサー21)と、第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)から二酸化炭素を排出する外部排出路(排出ライン2)に配置された第2ガス排出弁(バルブV2)と、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)及び第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)の間を冷媒が循環するように配置された冷媒流路(循環ライン3)と、冷媒を循環させる循環ポンプ31と、第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)から排出直後の冷媒の温度を検知する第1温度センサ(温度センサT1)と、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)から排出直後の冷媒の温度を検知する第2温度センサ(温度センサT2)と、第1ガス供給弁(バルブV4)、第2ガス供給弁(バルブV1)、第2ガス排出弁(バルブV2)、昇圧手段(コンプレッサー21)、循環ポンプ31を制御する制御部(コントローラ4)と、を含み、制御部(コントローラ4)は、発電機9の起動時に第1ガス供給弁(バルブV4)及び第2ガス供給弁(バルブV1)を開放し、第2ガス排出弁(バルブV2)を閉止するとともに昇圧手段(コンプレッサー21)を駆動させ、循環ポンプ31を駆動させるとともに、第1温度センサ(温度センサT1)が検知する温度(T1)と第2温度センサ(温度センサT2)が検知する温度(T2)との温度差(T1-T2)が所定の温度差(ΔT1)以下となるように、循環ポンプ31の出力を制御する。
【0108】
上記構成により、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)と第2貯蔵部(第2ガスタンク22)との熱交換を適切に行いつつ第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)から天然ガスを放出して発電機9に供給し、発電機9から排出された二酸化炭素を第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)に充填することができる。
【0109】
本実施形態において、第2ガス供給流路(排出ライン2)から分岐して第2ガス貯蔵部に(第2ガスタンク22)連通する分岐流路23と、分岐流路23の一部を形成するとともに第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)を収容するタンクケース231と、分岐流路23に配置され、分岐流路23を開閉するバイパス弁(バルブV5)と、発電機9から排出された二酸化炭素の温度を検知する第3温度センサ(温度センサT0)と、を含み、制御部(コントローラ4)は、第3温度センサ(温度センサT0)が検知する温度に基づいてバイパス弁(バルブV5)を開放する。
【0110】
上記構成により、第3温度センサ(温度センサT0)が検知する温度に基づいて、第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)に充填する二酸化炭素を予め第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)との熱交換により冷却し、二酸化炭素の第2吸着材222への吸着能力の低下を抑制することができる。
【0111】
本実施形態において、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)に供給された天然ガスの圧力を検知する圧力センサ(圧力センサP2)と、冷媒を加熱するヒータ32と、を備え、制御部(コントローラ4)は、圧力センサ(圧力センサP2)が検知する圧力が所定圧力(P2min)以上となるように、ヒータ32及び循環ポンプ31の出力を制御する。
【0112】
上記構成により、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)から放出可能な天然ガスの量を増加させることができる。また走行中は、第1ガスタンク11で発生した放出熱を相殺する熱量をヒータ32が供給することになるが、第2ガスタンク22と第1ガスタンク11との間で熱交換が行われるので、その分、ヒータ32の消費電力を削減することができる。
【0113】
本実施形態において、外部から第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)に天然ガスを供給する外部供給流路(供給ライン1)に配置された外部供給弁(バルブV3)と、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)に貯蔵した天然ガスを発電機9に供給する第1ガス供給流路(供給ライン1)に配置された第1ガス供給弁(バルブV4)と、発電機9から排出された二酸化炭素を第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)に供給する第2ガス供給流路(排出ライン2)に配置された第2ガス供給弁(バルブV1)と、第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)から二酸化炭素を排出する外部排出路(排出ライン2)に配置された第2ガス排出弁(バルブV2)と、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)及び第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)の間を冷媒が循環するように配置された冷媒流路(循環ライン3)と、冷媒を循環させる循環ポンプ31と、第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)から排出直後の冷媒の温度を検知する第1温度センサ(温度センサT1)と、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)から排出直後の冷媒の温度を検知する第2温度センサ(温度センサT2)と、発電機9に供給する天然ガスの圧力を検知する圧力センサP2と、外部供給弁(バルブV3)、第1ガス供給弁(バルブV4)、第2ガス供給弁(バルブV1)、第2ガス排出弁(バルブV2)、循環ポンプ31を制御する制御部(コントローラ4)と、を含み、制御部(コントローラ4)は、第1ガス供給弁(バルブV4)、第2ガス供給弁(バルブV1)を閉止して第2ガス排出弁(バルブV2)を開放し、外部供給弁(バルブV3)を開放して循環ポンプ31を駆動させるとともに、第1温度センサ(温度センサT1)が検知する温度(T1)と第2温度センサ(温度センサT2)が検知する温度(T2)との温度差(T2-T1)が第1の所定温度差(ΔT2)以下となるように、第2ガス排出弁(バルブV2)の開度を制御し、その後、外部供給弁(バルブV3)の開度を制御するとともに、温度差(T2-T1)が第2の所定温度差(ΔT3)以下となるように、循環ポンプ31の出力を制御し、圧力センサP2が検知する圧力が所定圧力(P2max)に到達した場合、又は第2温度センサ(温度センサT2)が検知する温度(T2)が所定温度(T2max)に到達した場合に外部供給弁(バルブV3)及び第2ガス排出弁(バルブV2)を閉止し、その後、温度差(T2-T1)が第3の所定温度差(ΔT4)以下となると循環ポンプ31を停止する。
【0114】
上記構成により、第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)と第2貯蔵部(第2ガスタンク22)との熱交換を適切に行いつつ第1ガス貯蔵部(第1ガスタンク11)に天然ガスを充填し、二酸化炭素を第2ガス貯蔵部(第2ガスタンク22)から放出することができる。
【0115】
[第2実施形態]
図8は、第2実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100における第1ガスタンク11(第2ガスタンク22)の断面図(縦方向)である。
図9は、第2実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100における第1ガスタンク11(第2ガスタンク22)の断面図(水平方向)である。
図10は、第2実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100における冷媒流路(循環ライン3)の流通経路を示す模式図である。
【0116】
なお、以下の実施形態において第1実施形態と共通する構成要素には同一の番号を付し、必要な場合を除いてその説明を省略する。また以下の実施形態における制御は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0117】
図8に示すように、第2実施形態において、第1ガスタンク11は、複数(10個)のチューブ状の分室に分割されている。
図8に示すように各分室は、その断面が略矩形形状を有している。そして、各分室に第1吸着材111が充填されることで、複数(10個、
図9では5個のみ図示)の第1ガス貯蔵部5A-5Jが形成されている。
【0118】
第1ガス貯蔵部5A-5Jは、中心部において、チューブの長手方向(水平方向)に沿って天然ガスが流通する第1流通経路51が形成されている。この第1流通経路51に天然ガスが流通することで天然ガスが第1流通経路51から第1吸着材111に拡散して第1吸着材111に吸着する。また、第1吸着材111から放出した天然ガスは第1流通経路51に導かれ、第1ガスタンク11の外部に放出される。
【0119】
第1流通経路51は、例えば、
図9に示すように、隣接する他の第1流通経路51と直列に接続することで、第1流通経路51に関して第1ガス貯蔵部5A-5Jを直列に接続することができる。なお、第1流通経路51は、一部又はすべてを並列に接続することも可能である。
【0120】
また、第1ガスタンク11には、冷媒が流通する第1冷媒流路33も形成されている。第1冷媒流路33は、循環ライン3を構成するものである。また第1冷媒流路33は、例えば、
図9に示すように、分室を形成する壁の内部に多数形成されており、第1ガス貯蔵部5A-5Jと熱交換できるように隣接している。ここで、分室(第1ガス貯蔵部5A-5J)を形成する壁は、第1冷媒流路33を形成する位置において肉厚に形成し、それ以外の部分で肉薄に形成されている。また、
図8に示すように、第1冷媒流路33は、分室の角部に対向する位置に配置されているが、分室の辺の中央に対向する位置に配置してもよい。さらに、第1冷媒流路33は、第1流通経路51と同様に分室(第1ガス貯蔵部5A-5J)の中央部に形成してもよい。なお、以後の説明で、例えば「第1ガス貯蔵部5Aに隣接する第1冷媒流路33」を「第1ガス貯蔵部5Aに配置された第1冷媒流路33」と表現する。
【0121】
第2ガスタンク22は、
図8に示すように、第1ガスタンク11と同様の構造を有している。第2ガスタンク22は、複数(10個)のチューブ状の分室に分割されている。そして、各分室に第2吸着材222が充填されることで、複数(10個、
図9では5個のみ図示)の第2ガス貯蔵部6A-6Jが形成されている。また、第1ガスタンク11と同様に第2流通経路61、第2冷媒流路34が形成されている。
【0122】
図10に示すように、第1ガスタンク11において、第1冷媒流路33は、第1ガス貯蔵部5Jを冷媒の入口とするとともに第1ガス貯蔵部5Iを冷媒の出口とし、第1ガス貯蔵部5J、第1ガス貯蔵部5E、第1ガス貯蔵部5D、第1ガス貯蔵部5C、第1ガス貯蔵部5B、第1ガス貯蔵部5A、第1ガス貯蔵部5F、第1ガス貯蔵部5G、第1ガス貯蔵部5H、第1ガス貯蔵部5Iの順に全て直列に経由するように配置されている。
【0123】
また
図10に示すように、第2ガスタンク22において、第2冷媒流路34は、第2ガス貯蔵部6Dを冷媒の入口とするとともに第2ガス貯蔵部6Eを冷媒の出口とし、第2ガス貯蔵部6D、第2ガス貯蔵部6C、第2ガス貯蔵部6B、第2ガス貯蔵部6A、第2ガス貯蔵部6F、第2ガス貯蔵部6G、第2ガス貯蔵部6H、第2ガス貯蔵部6I、第2ガス貯蔵部6J、第2ガス貯蔵部6Eの順に全て直列に経由するように配置されている。
【0124】
第1冷媒流路33と第2冷媒流路34は、循環ライン3を構成する第1接続流路37及び第2接続流路38により接続されている。第1接続流路37は、第1冷媒流路33の上流端と第2冷媒流路34の下流端とを接続しており、第1接続流路37には、温度センサT1、循環ポンプ31、ヒータ32が配置されている。第2接続流路38は、第1冷媒流路33の下流端と第2冷媒流路34の上流端とを接続しており、第2接続流路38には温度センサT2が配置されている。
【0125】
図10において、第1ガスタンク11中の第1流通経路51(
図10では不図示)は任意に接続されているが、第1ガスタンク11の図中の右下の第1ガス貯蔵部5Aが第1流通経路51の最も上流となり、図中の左上の第1ガス貯蔵部5Jが第1流通経路51の最も下流となっている。
【0126】
同様に、
図10において、第2ガスタンク22中の第2流通経路61(不図示)は任意に接続されているが、第2ガスタンク22の図中の左上の第2ガス貯蔵部6Jが第2流通経路61(不図示)の最も上流となり、図中の右下の第2ガス貯蔵部6Aが第2流通経路61(不図示)の最も下流となっている。
【0127】
ここで、第1接続流路37は第1ガス貯蔵部5Jに配置された第1冷媒流路33に接続されている。すなわち、第1ガスタンク11において第1冷媒流路33は第1ガス貯蔵部5Jが最も上流となるように配置されている。
【0128】
前記のように、エタン、プロパン、ブタン(以後、ブタン等と称す。)の吸着熱/放出熱は、メタンの吸着熱/放出熱よりも高い。このためブタン等は、メタンよりも第1吸着材111に吸着しやすく且つ放出しにくい。
【0129】
例えば、
図10のように天然ガスを第1ガスタンク11に充填すると、ブタン等は第1ガス貯蔵部5Jに集中的に吸着するが、第1ガス貯蔵部5Jには大きな吸着熱が発生する。しかし、天然ガスを第1ガスタンク11に充填する際は第2ガスタンク22から二酸化炭素が放出され、その際の放出熱により冷媒が冷却されている。よって、当該冷媒が第1ガスタンク11において第1ガス貯蔵部5Jに配置された第1冷媒流路33に最初に供給されるので、低温の冷媒により第1吸着材111で発生した吸着熱を効率的に取り出してブタン等の吸着効率の低下を抑制することができる。
【0130】
逆に、第2ガスタンク22から天然ガスを放出する際は、第1ガス貯蔵部5Jからブタン等を放出させるには大きな熱量が必要となる。しかし、天然ガスを第1ガスタンク11から放出する際は第2ガスタンク22には二酸化炭素が充填され、その際の吸着熱により冷媒が加熱されている。よって、当該冷媒が第1ガスタンク11において第1ガス貯蔵部5Jに配置された第1冷媒流路33に最初に供給されるので高温の冷媒により第1吸着材111からブタン等を放出するために必要な熱量を効率的に賄うことができ、ブタン等の放出効率の低下を抑制することができる。
【0131】
[第2実施形態の変形例]
図11は、第2実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100における冷媒流路の流通経路の変形例を示す模式図である。
【0132】
図11に示すように、第1冷媒流路33は、第1ガスタンク11において、第1ガス貯蔵部5Jを冷媒の入口とするとともに第1ガス貯蔵部5Fを冷媒の出口とし、第1ガス貯蔵部5J、第1ガス貯蔵部5E、第1ガス貯蔵部5D、第1ガス貯蔵部5C、第1ガス貯蔵部5B、第1ガス貯蔵部5A、第1ガス貯蔵部5Fの順に直列に経由するように配置されている。
【0133】
さらに、第1ガスタンク11には第3冷媒流路35が配置されている。第3冷媒流路35は、第1ガスタンク11において、第1ガス貯蔵部5Iを冷媒の入口とするとともに第1ガス貯蔵部5Gを冷媒の出口とし、第1ガス貯蔵部5I、第1ガス貯蔵部5H、第1ガス貯蔵部5Gの順に直列に経由するように配置されている。
【0134】
これに対応して、循環ライン3は、例えば、ヒータ32と第1ガスタンク11の間となる位置において2つに分岐し、一方が第1ガス貯蔵部5Jに配置された第1冷媒流路33に接続され、他方が第1ガス貯蔵部5Iに配置された第3冷媒流路35に接続されている。
【0135】
また循環ライン3は、温度センサT2と第1ガスタンク11の間となる位置で2つに分岐し、一方が第1ガス貯蔵部5Fに配置された第1冷媒流路33に接続され、他方が第1ガス貯蔵部5Gに配置された第3冷媒流路35に接続されている。
【0136】
第3冷媒流路35は第1冷媒流路33よりも経路長が短い。このため第1冷媒流路33の下流付近と、第3冷媒流路35の下流付近とでは熱交換の量が異なるので、両者の間の温度が互いに異なる。よって、
図11においては、少なくとも第1ガス貯蔵部5Fと第1ガス貯蔵部5Gの温度は互いに異なる。このように経路長の異なる冷媒流路を形成することで、第1ガスタンク11内に任意の温度分布を形成することが可能となる。同様の構成は第2ガスタンク22でも可能である。
【0137】
[第2実施形態の効果]
第2実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100によれば、第1ガス貯蔵部5A-5Jが、天然ガスが流通する流通経路(第1流通経路51)を直列に形成するように複数配置され、冷媒流路(循環ライン3)のうち、第2ガス貯蔵部6A-6Jから排出された冷媒を第1ガス貯蔵部5A-5Jに供給する部分(第1接続流路37)は、第1ガス貯蔵部5A-5Jのうち、流通経路(第1流通経路51)の最も上流に配置された第1ガス貯蔵部5Jに接続している。
【0138】
上記構成により、天然ガスの含まれるブタン等の吸着効率の低下及び放出効率の低下を抑制し、ブタン等を有効利用することができる。
【0139】
また、本実施形態の変形例によれば、冷媒流路(第1冷媒流路33、第3冷媒流路35)は、第1ガス貯蔵部5A-5J及び第2ガス貯蔵部6A-6Jの少なくとも一方において複数に分岐しており、分岐した冷媒流路(第1冷媒流路33、第3冷媒流路35)同士の長さが互いに異なっている。
【0140】
これにより、第1ガスタンク11、及び/若しくは、第2ガスタンク22において任意の温度分布を形成することが可能となる。
【0141】
[第3実施形態]
図12は、第3実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100における第1ガスタンク11の模式図である。
図13は、第3実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100における冷媒流路(循環ライン3)の流通経路を示す模式図である。
【0142】
図12に示すように、第3実施形態において、第1ガスタンク11の構造は第2実施形態のものに類似するが、第1ガス貯蔵部5Jに隣接する位置に第4冷媒流路36が配置されている。
図12では、例えば、第1ガス貯蔵部5Jの4つの角部に隣接する位置に第4冷媒流路36が配置されているが、第1流通経路51と同様に第4冷媒流路36を第1ガス貯蔵部5Jの中央部に配置してもよい。なお、以後、例えば「第1ガス貯蔵部5Jに隣接する第4冷媒流路36」を「第1ガス貯蔵部5Jに配置された第4冷媒流路36」と表現する。
【0143】
第4冷媒流路36は、第1冷媒流路33(及び第2冷媒流路34)よりも径が小さくなるように設定されている。
【0144】
図13に示すように、第4冷媒流路36は、循環ポンプ31を除いて第1冷媒流路33から分岐した形となっている。なお、循環ポンプ31は、第2接続流路38に配置され、第2ガスタンク22側が冷媒の出力方向となっている。
【0145】
図13に示すように、第4冷媒流路36は、第2ガス貯蔵部6Dにおいて第2冷媒流路34から分岐し、第2冷媒流路34と同様に、第2ガス貯蔵部6D、第2ガス貯蔵部6C、第2ガス貯蔵部6B、第2ガス貯蔵部6A、第2ガス貯蔵部6F、第2ガス貯蔵部6G、第2ガス貯蔵部6H、第2ガス貯蔵部6I、第2ガス貯蔵部6J、第2ガス貯蔵部6Eの順に全て直列に経由するように配置されている。そして第4冷媒流路36は、第2ガス貯蔵部6Eから第2ガスタンク22の外部に延出してヒータ32を経由して第1ガスタンク11の第1ガス貯蔵部5Jに接続する。その後、第4冷媒流路36は第1ガス貯蔵部5Jのみを経由して第1ガス貯蔵部5Jから延出し、例えば第2接続流路38の温度センサT2と循環ポンプ31との間となる位置で第2接続流路38と合流する。
【0146】
なお、第4冷媒流路36は、第2接続流路38の循環ポンプ31の出力側となる位置で第2接続流路38から分岐してもよく、また第1ガス貯蔵部5Iに配置された第1冷媒流路33に合流してもよい。
【0147】
第1冷媒流路33は、第1ガスタンク11において、第1ガス貯蔵部5Eを冷媒の入口とするとともに第1ガス貯蔵部5Iを冷媒の出口とし、第1ガス貯蔵部5E、第1ガス貯蔵部5D、第1ガス貯蔵部5C、第1ガス貯蔵部5B、第1ガス貯蔵部5A、第1ガス貯蔵部5F、第1ガス貯蔵部5G、第1ガス貯蔵部5H、第1ガス貯蔵部5Iの順に直列に経由するように配置されている。
【0148】
図12に示すように、第1ガスタンク11において、第1冷媒流路33は第1ガス貯蔵部5A-5Jを熱交換の対象とし、第4冷媒流路36は第1ガス貯蔵部5Jを熱交換の対象としている。
【0149】
前記のように、第4冷媒流路36は、第2冷媒流路34よりも径が小さくなるように設計されている。このため、第2ガスタンク22において、第4冷媒流路36は、第2冷媒流路34よりも加熱/冷却される。
【0150】
よって、天然ガスを第1ガスタンク11に充填する際は、第2ガスタンク22から二酸化炭素が放出され、その際の放出熱により第4冷媒流路36の冷媒は第2冷媒流路34の冷媒よりも冷却されている。従って、第4冷媒流路36により冷却された冷媒が第1ガス貯蔵部5Jと熱交換をするので第1吸着材111で発生した吸着熱を効率的に取り出してブタン等の吸着効率の低下を抑制することができる。
【0151】
逆に、天然ガスを第1ガスタンク11から放出する際は第2ガスタンク22には二酸化炭素が充填され、その際の吸着熱により第4冷媒流路36の冷媒は第2冷媒流路34の冷媒よりも加熱されている。従って、第4冷媒流路36により加熱された冷媒が第1ガス貯蔵部5Jと熱交換をするので第1吸着材111からブタン等を放出するために必要な熱量を効率的に賄うことができ、ブタン等の放出効率の低下を抑制することができる。
【0152】
なお、第4冷媒流路36は、第1冷媒流路33及び第2冷媒流路34よりも径が小さいので、その分熱容量が小さくなるが、第1ガスタンク11における熱交換の対象が第1ガス貯蔵部5Jのみであるので、熱交換を十分に行うことができる。
【0153】
[第3実施形態の効果]
第3実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100によれば、第1ガス貯蔵部5A-5Jが、天然ガスが流通する流通経路(第1流通経路51)を直列に形成するように複数配置され、冷媒流路(循環ライン3、第1冷媒流路33、第2冷媒流路34)から分岐するとともに冷媒流路(循環ライン3、第1冷媒流路33、第2冷媒流路34)よりも径の小さい分岐冷媒流路(第4冷媒流路36)を備え、分岐冷媒流路(第4冷媒流路36)は、第2ガス貯蔵部6A-6Jに連通するとともに、分岐冷媒流路(第4冷媒流路36)のうち、第2ガス貯蔵部6A-6Jから排出された冷媒を第1ガス貯蔵部5A-5J側に供給する部分は、第1ガス貯蔵部5A-5Jのうち、流通経路(第1流通経路51)の最も上流に配置された第1ガス貯蔵部5Jに接続している。
【0154】
上記構成により、天然ガスの含まれるブタン等の吸着効率の低下及び放出効率の低下を分岐冷媒流路(第4冷媒流路36)が供給する冷媒により抑制し、ブタン等を有効利用することができる。
【0155】
[第4実施形態]
図14は、第4実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100を簡易に説明するためのブロック図である。第4実施形態では、ひとつのガスタンク10に複数の第1ガス貯蔵部5A-5Eと第2ガス貯蔵部6A-6Eを形成している。ガスタンク10の構造は、
図8に示すものと同様であるが、図中の下側の5個の分室に第1吸着材111を充填し、上側の5個の分室の第2吸着材222を充填している。
【0156】
供給ライン1(ガスタンク10内では第1流通経路51(
図8))は、例えば、第1ガス貯蔵部5A-5Eを直列に貫通するように配置されている。排出ライン2(ガスタンク10内では第2流通経路61(
図8))は、例えば第2ガス貯蔵部6A-6Eを直列に貫通するように配置されている。
【0157】
循環ライン3は、例えば、ガスタンク10において第1ガス貯蔵部5Aと連通する位置に冷媒の入口と出口を備え、第1ガス貯蔵部5A、第2ガス貯蔵部6A、第2ガス貯蔵部6B、第2ガス貯蔵部6C、第2ガス貯蔵部6D、第2ガス貯蔵部6E、第1ガス貯蔵部5E、第1ガス貯蔵部5D、第1ガス貯蔵部5C、第1ガス貯蔵部5B、第1ガス貯蔵部5Aの順に経由するように配置されている。
【0158】
ガスタンク10は熱伝導性の高い材料、例えば、アルミ、ステンレス等で形成されている。よって、ガスタンク10の分室の少なくとも一つの壁面を通じて第1ガス貯蔵部5A-5Eと第2ガス貯蔵部6A-6Eとの熱交換がそれぞれ可能となっている。
【0159】
図14の配置では、特に、第1ガス貯蔵部5Aと第2ガス貯蔵部6Aとの間、第1ガス貯蔵部5Bと第2ガス貯蔵部6Bとの間、第1ガス貯蔵部5Cと第2ガス貯蔵部6Cとの間、第1ガス貯蔵部5Dと第2ガス貯蔵部6Dとの間、第1ガス貯蔵部5Eと第2ガス貯蔵部6AEとの間でそれぞれ効率的な熱交換が可能となっている。従って、壁面を通じた熱交換が十分に行えるのであれば、循環ライン3(循環ポンプ31)を省略することができる。
【0160】
[第4実施形態の効果]
第4実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100によれば、第1ガス貯蔵部5A-5Eの外壁の一部と、第2ガス貯蔵部6A-6Eの一部と、が互いに接続することで、第1ガス貯蔵部5A-5Eと、第2ガス貯蔵部6A-6Eと、が熱的に互いに接続されている。これにより、冷媒を用いない熱交換が可能となる。
【0161】
[第5実施形態]
図15は、第5実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100を簡易に説明するためのブロック図である。第5実施形態は、第4実施形態と類似しているが、ガスタンク10(貯蔵設備)において、第1ガス貯蔵部5A-5E及び第2ガス貯蔵部6A-6Eがそれぞれ千鳥配置となっている。もちろん、全てが千鳥配置になる必要はなく、少なくとも第1ガス貯蔵部5A-5E及び第2ガス貯蔵部6A-6Eのうち、いずれかが交互に入れ替わる態様、例えば、
図14において、第1ガス貯蔵部5Cと第2ガス貯蔵部6Cが入れ替わる態様であってもよい。
【0162】
供給ライン1(ガスタンク10内では第1流通経路51(
図8))は、例えば、第1ガス貯蔵部5A-5Eを直列に貫通するようにガスタンク10内でジグザグな経路を有している。同様に、排出ライン2(ガスタンク10内では第2流通経路61(
図8))は、例えば第2ガス貯蔵部6A-6Eを直列に貫通するようにガスタンク10内でジグザグな経路を有している。
【0163】
循環ライン3は、例えば、第1ガス貯蔵部5A、第2ガス貯蔵部6A、第1ガス貯蔵部5B、第2ガス貯蔵部6C、第1ガス貯蔵部5D、第2ガス貯蔵部6E、第1ガス貯蔵部5E、第2ガス貯蔵部6D、第1ガス貯蔵部5C、第2ガス貯蔵部6B、第1ガス貯蔵部5Aの順に経由するように配置されている。
【0164】
この配置であれば、例えば、第1ガス貯蔵部5Cは、第1ガス貯蔵部5Cを囲む3つの壁面、すなわち第2ガス貯蔵部6B、第2ガス貯蔵部6C、第2ガス貯蔵部6Dとの間で熱交換を行うことができる。従って、本実施形態でも、壁面を通じた熱交換が十分に行えるのであれば、循環ライン3(循環ポンプ31)を省略することができる。
【0165】
[第5実施形態の効果]
第5実施形態の天然ガスの吸着貯蔵システム100によれば、第1ガス貯蔵部5A-5E及び第2ガス貯蔵部6A-6Eを収容する貯蔵設備(ガスタンク10)を備え、第1ガス貯蔵部5A-5E及び第2ガス貯蔵部6A-6Eは、貯蔵設備(ガスタンク10)内にそれぞれ複数配置され、第1ガス貯蔵部5A-5E及び第2ガス貯蔵部6A-6Eのそれぞれ少なくとも一つは、貯蔵設備(ガスタンク10)において交互(千鳥配置)に配列され、第1ガス貯蔵部5A-5Eと第2ガス貯蔵部6A-6Eとが互いに接触することで、第1ガス貯蔵部5A-5Eと、第2ガス貯蔵部6A-6Eと、が熱的に互いに接続されている。これにより、冷媒を用いない熱交換が効率的に実行可能となる。
【0166】
[吸着材の構造]
図16は、吸着材の構造を示す図である。
図17Aは、吸着材の構造の変形例(合成前)を示す図である。
図17Bは、吸着材の構造の変形例(合成後)を示す図である。第1吸着材111、第2吸着材222は、例えば、前記のように金属有機構造体で形成されているが、
図16に示すように、所定の粒径を持った粒子を凝固させた形状を有している。よって、充填率はあまり高くなく、空隙が存在している。この空隙の容量が大きいほど単位体積当たりの吸着容量は低下する。
【0167】
そこで、
図17Aに示すように、平均粒径の大きい粒子を面状に充填させ、その隙間に平均粒径の小さな粒子を充填させることで、
図17Bに示すように、平均粒径の大きい粒子と平均粒径の小さな粒子を充填させた層を形成し、この層を複数重ね合わせることで充填率の高い第1吸着材111又は第2吸着材222を構築することができる。
【0168】
また、第1吸着材111及び第2吸着材222は混合することで第1ガス貯蔵部(第1吸着材111)と第2ガス貯蔵部(第2吸着材222)が一体で形成され、第1吸着材111と第2吸着材222では平均粒径が互いに異なる構造を備える混合吸着材を構成することも好適である。
【0169】
例えば、
図14又は
図15に示すガスタンク10中の第1ガス貯蔵部5A-5E及び第2ガス貯蔵部6A-6Eのいずれが一つ(全部でもよい)を混合吸着材により充填することが考えられる。この場合、当該貯蔵部を構成する流通経路の前後に三方弁を配置し、当該貯蔵部に天然ガスを充填する際は当該流通経路が、天然ガスが流通する第1流通経路51(
図8)に連通し、二酸化炭素を充填する際は当該流通経路が、二酸化炭素が流通する第2流通経路61(
図8)に連通するように三方弁が駆動する。
【0170】
これにより、充填した天然ガスにより第1吸着材111で発生した吸着熱を第2吸着材222から二酸化炭素を放出する際に必要となる熱として賄うことができ、充填した二酸化炭素により第2吸着材222で発生した吸着熱を第1吸着材111から天然ガスを放出する際に必要となる熱として賄うことができる。よって、循環ライン3(循環ポンプ31)を用いなくともミクロのスケールで熱交換が可能となり、少なくとも当該貯蔵部では均一な熱交換を行うことができる。
【0171】
ここで、第1吸着材111は、二酸化炭素の吸着熱/放出熱よりもメタンの吸着熱/放出熱よりも大きなものが好適であり、第2吸着材222は、メタンの吸着熱/放出熱よりも二酸化炭素の吸着熱/放出熱よりも大きなものが好適である。これにより、第1吸着材111には二酸化炭素よりもメタンが吸着しやすくなり、第2吸着材222にはメタンよりも二酸化炭素が吸着しやすくなる。
【0172】
また、第1吸着材111は、平均粒径の大きなものを適用し、第2吸着材222は平均粒径の小さなものを適用してもよく、またその逆でもよい。なお平均粒径については大小3種類のみならず3種類以上あってもよい。さらに、第1吸着材111と第2吸着材222の容積の比率もそれぞれの吸着容量、若しくは、それぞれの吸着熱/放出熱の総量がほぼ等しくなるように適宜調整すればよい。
【0173】
本願は、2020年6月30日に日本国特許庁に出願された特願2020-113046に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【符号の説明】
【0174】
11 第1ガスタンク
111 第1吸着材
22 第2ガスタンク
222 第2吸着材