(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】代用乳及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23K 20/20 20160101AFI20250218BHJP
A23K 50/10 20160101ALI20250218BHJP
A23K 50/30 20160101ALI20250218BHJP
【FI】
A23K20/20
A23K50/10
A23K50/30
(21)【出願番号】P 2021027373
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2024-01-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)令和2年8月19日 株式会社食創本社会議室にて報告した。 (2)令和2年9月4日 全国開拓農業協同組合連合会にて報告した。 (3)令和2年9月14日~令和3年2月24日 (株)芦田牧場(群馬県前橋市富田町45番地1)、(株)肉の神明(島根県雲南市三刀屋町須所113)、(有)シミズ(兵庫県洲本市木戸509-2)、他187か所に納品した。
(73)【特許権者】
【識別番号】399106505
【氏名又は名称】日清丸紅飼料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高梨 暁
(72)【発明者】
【氏名】大坪 大亮
(72)【発明者】
【氏名】土橋 裕司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】岸田 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】下村 雄二
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-005447(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0015500(US,A1)
【文献】特開2010-098959(JP,A)
【文献】国際公開第2011/013592(WO,A1)
【文献】特開2003-267937(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00537402(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第110074275(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110878269(CN,A)
【文献】特開2006-094710(JP,A)
【文献】特開2003-189799(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112167440(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 20/20
A23K 50/10
A23K 50/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セピオライトを含有することを特徴とする代用乳。
【請求項2】
セピオライトを、セピオライトを含有させる前の代用乳に対して外割で0.30質量%以上含有させたものである請求項1記載の代用乳。
【請求項3】
更に粉末油脂を含有する請求項1又は2記載の代用乳。
【請求項4】
セピオライトの含有量が、代用乳中の油脂に対して1.2~4.0質量%である請求項3記載の代用乳。
【請求項5】
代用乳用原料とセピオライトを混合する工程を含むことを特徴とする代用乳の製造方法。
【請求項6】
代用乳用原料を造粒した後に、得られた造粒物とセピオライトを混合する、請求項5記載の代用乳の製造方法。
【請求項7】
代用乳用原料の造粒法が流動層造粒法である請求項6記載の代用乳の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代用乳及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
子牛、子豚、子山羊等の幼畜類の生産やその他の幼動物の飼育に当たっては、母乳の代わりに人工的に作られた代用乳を給与して飼育することが広く行われている。この代用乳は、栄養面や嗜好性の観点から、脱脂粉乳、乾燥ホエー等の乳成分に油脂類、糖類、穀類、ビタミン、ミネラル等を配合して製造され、水や温水に溶解あるいは乳化分散させて給与されている。
【0003】
油脂類を多く配合した代用乳は、カロリーが高く、早期育成を促すことができるが、水や温水への溶解性、乳化安定性が悪いという問題があり、また、特に夏場の高温条件下では、保管中の温度差により油脂が溶融、固結を繰り返すため、粉体が固結するという問題が生じる。
そこで、これまでに、特定のSFCを示す植物性混合油脂を乳成分を主とする粉体原料に噴霧して造粒してなる代用乳(特許文献1)、乳蛋白質原料、粉末油脂などからなる代用乳用原料混合物に水を噴霧しながら流動層造粒してなる代用乳組成物(特許文献2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-189799号公報
【文献】特開2006-94710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術によっても保管中、とりわけ低温下で保管中に、代用乳が固結してしまうという課題が存在することが判明した。
従って、本発明は、低温での保管中も固結が防止された代用乳及びその製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、当該課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、代用乳にセピオライトを含有させれば、低温での保管中も固結を防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、セピオライトを含有することを特徴とする代用乳により上記課題を解決したものである。
また、本発明は、代用乳用原料とセピオライトを混合する工程を含むことを特徴とする代用乳の製造方法により上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低温下で保管しても固結しにくい代用乳を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の代用乳は、セピオライトを含有する。セピオライトは、シリカとマグネシウムを主成分とする粘土鉱物である。セピオライトは、セピオ石、海泡石とも称される。
セピオライトは、多孔質で比表面積が大きい繊維状形態を有し、多くは白色、灰白色、淡青色等を呈する。セピオライトの産地としては、スペイン、アメリカ、フランス、モロッコ、トルコ等が知られているが、本発明においては特に限定されず、いずれの産地のものも使用することができる。
セピオライトの比表面積は、保管中の固結を防止する観点から、200~300m2/gであることが好ましい。また、同様の観点から、嵩比重は、100~220g/Lであることが好ましい。
セピオライトの市販品としては、例えば、エードプラスFJ(水澤化学工業(株)製)、ミラクレー300(近江鉱業(株)製)等がある。
【0010】
代用乳において、セピオライトの含有量は、代用乳中に含まれる原料の性状や、後述する代用乳中の油脂の量に応じて適宜調整し得るが、一般的に、保管中の固結を防止する観点、代用乳の扱いやすさを確保する観点から、セピオライトを含有させる前の代用乳に(外割)0.30質量%以上、更に0.50~1.00質量%、更に0.75~1.00質量%の範囲とすることが好ましい。
また、後述するように、代用乳が油脂を含有する場合、同様の観点から、代用乳中のセピオライトの含有量は、油脂に対して1.2~4.0質量%、更に2.0~4.0質量%、更に2.0~3.0質量%の範囲とすることが好ましい。
本明細書において、代用乳中のセピオライト及び油脂の含有量は、前者はセピオライトに含まれるミネラルを分析する方法、後者は、酸分解法又はクロロホルム-メタノール混液抽出法により測定することができる。
【0011】
本発明の代用乳は、セピオライトの他、脱脂粉乳、全脂粉乳等の粉乳類や、ホエー蛋白質濃縮物(WPC)、乾燥ホエー等のホエー類等の乳成分;大豆ミール、濃縮大豆蛋白質、小麦蛋白、カゼイン、グルテン等の蛋白質又はその変性物並びにこれらの加水分解物;粉末油脂等の油脂;ブドウ糖、オリゴ糖類、乳糖等の糖類;ビタミン、ミネラル、乳化剤、調味料、香辛料等の粉体原料を適宜含有することができる。これらのうち、栄養面や嗜好性の観点から、乳成分、油脂を含有することが好ましい。
乳成分を含有する場合、代用乳中の乳成分の含有量は、29.5質量%以上、更に50~95質量%が好ましい。
また、油脂を含有する場合、代用乳中の油脂の含有量は、15~40質量%、更に17~35質量%が好ましい。
【0012】
本発明において、油脂は、油脂を粉末化させた粉末油脂が好ましく、植物性油脂を含む粉末油脂がより好ましい。植物性油脂としては、食用油脂として使用が認められているものであればその原料や精製度等は特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、パームオレイン油等のパームヤシ由来の油脂;ヤシ油又はそれらの分画油;中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。
粉末油脂中の油脂の含有量は、カロリーの充足の観点、粉末油脂化や保存安定性の観点から、40~80質量%、更に45~65質量%が好ましい。
粉末油脂は、油脂に必要に応じて他の成分を適宜組み合わせて、公知の方法により調製することができる。斯かる他の成分としては、例えば、乳化剤、粉乳類、糖類、多糖類(デキストリン、ガム類等)、シリカ、ケイ酸、カゼインナトリウム等が挙げられる。
【0013】
本発明の代用乳は、セピオライトに他の代用乳用原料を適宜組み合わせて、公知の方法により製造が可能であり、適宜の方法を採り得る。例えば、代用乳用原料とセピオライトを混合して製造することができる。各成分の混合順序は特に限定されない。
また、造粒してもよい。造粒する場合、セピオライトを混合するタイミングは特に限定されず、セピオライトを含有する代用乳用原料を造粒しても、代用乳用原料を造粒した後に、得られた造粒物とセピオライトを混合してもよい。なかでも、本発明の代用乳は、代用乳用原料を造粒する工程、及び得られた造粒物とセピオライトを混合する工程を含む製造方法により得ることが好ましい。代用乳用原料を造粒した後にセピオライトを混合することで、より一層、サラサラとした顆粒状を呈し、流動性が良好な代用乳が得られる。また、低温での保管後も固結しにくいためこのサラサラとした顆粒の状態を保持できる。
代用乳用原料は、上述した粉体原料を適宜含有することができる。
【0014】
本発明において造粒法としては、粘結剤(バインダー)によって代用乳用原料を強固に結合させ、より効率よく造粒を行う観点から、湿式造粒法が好ましく、流動層造粒法がより好ましい。
流動層造粒法では、80℃~120℃の熱風で空気流により代用乳用原料を流動させながら粘結剤溶液を噴霧して造粒するのが好ましい。
粘結剤溶液としては、特に限定されないが、例えば、水、乳化剤、デキストリン等を含む溶液が挙げられる。
噴霧する粘結剤溶液の総量は、代用乳用原料に対して3~20質量%、更に5~14質量%が好ましい。
【0015】
粘結剤溶液を噴霧した後、流動層造粒の乾燥工程直前に、容器の容壁への付着防止、水又は温水への分散・溶解性の向上、消泡効果の観点から、更に乳化剤溶液を噴霧してもよい。乳化剤溶液は、乳化剤を1~50質量%含有させたものを、代用乳用原料に対して、乳化剤として0.01~2質量%、更に0.1~1質量%噴霧するのが好ましい。
【0016】
流動層造粒後は、乾燥する。必要に応じて整粒してもよい。乾燥工程は、造粒工程と同時に行われてもよい。
【0017】
造粒して得られる本発明の代用乳は、サラサラとした顆粒状を呈し、好ましくは、目開き105μm~850μmの篩網を使用し、エアジェットシーブ(エアジェットシーブ200LS-N:ホソカワミクロン(株)製)で篩った時の通過重量百分率により算出された50%メジアン径が約190μmである。
【0018】
本発明の代用乳を給与する家畜の種類は特に限定されず、例えば、子牛、子豚、子山羊、子馬等の幼畜類;子犬、子猫等のその他の幼動物が挙げられる。特に幼畜類に好適である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明について実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。
【0020】
実施例1及び比較例2~3
[代用乳の調製]
表1に示す基礎牛代用乳300gに対して、表2に示す試験原料をそれぞれ外割で1.00質量%ずつ配合した。牛代用乳中の各試験原料の含有量は、牛代用乳中の油脂に対して4.0質量%であった。
【0021】
【0022】
[固結評価試験]
基礎牛代用乳(無添加)及び上記で調製した牛代用乳をそれぞれ300gずつポリエチレン製の袋に入れて、4℃の冷蔵庫に14時間保管した。保管後、目視にて次に示す基準により固結の状態を評価した。結果を表2に示す。
【0023】
〇:固まり観察されず
△:1-2cmの僅かな固まりを観察
×:3-5cmの固まりを観察
【0024】
【0025】
表2のとおり、セピオライトを含む代用乳では、4℃の低温下保管においても固結は確認されなかった。
他方、酸性白土、ベントナイトを含む代用乳では、4℃の低温下において固結を生じた。
【0026】
実施例2~4
[代用乳の調製]
表1に示す基礎牛代用乳300gに対して、表3に示すようにセピオライトをそれぞれ外割で0.50質量%、0.75質量%、1.00質量%配合した。牛代用乳中のセピオライトの含有量は、順に、牛代用乳中の油脂に対して、2.0質量%、3.0質量%、4.0質量%であった。
【0027】
[固結評価試験]
セピオライトを配合しなかった牛代用乳(無添加)及び上記で調製した牛代用乳について、実施例1と同様に固結評価試験を行った。結果を表3に示す。
【0028】
【0029】
表3のとおり、セピオライトを含む代用乳では、4℃の低温下保管において固結が防止された。
【0030】
実施例5及び6
[代用乳の調製]
粉末油脂46質量部、小麦グルテン酵素分解物5質量%、乳由来原料44.5質量%、及び糖類、ビタミン類、ミネラル類合計4.5質量%を攪拌混合機で均一になるまで混合して代用乳粉末混合物を調製した。得られた代用乳粉末混合物100質量部を流動層造粒機(商品名「ミクスグラード」;株式会社大川原製作所製)に投入し、100℃の熱風で代用乳粉末混合物を流動させながら、60℃の温水を0.034質量部/秒の噴霧速度で噴霧し造粒した。噴霧した温水の総量は10質量部であり、代用乳粉末混合物の重量に対して10質量部となるまで噴霧した。温水の噴霧終了後、さらに5分間乾燥した後、流動層造粒機から取り出し、表4に示すセピオライトを外割で0.75質量%混合し、牛代用乳を得た。牛代用乳中のセピオライトの含有量は、牛代用乳中の油脂に対して、3.0質量%であった。
【0031】
[固結評価試験]
セピオライトを配合しなかった牛代用乳(無添加)及び上記で調製した牛代用乳について、実施例1と同様に固結評価試験を行った。結果を表4に示す。
【0032】
【0033】
表4のとおり、セピオライトを含む代用乳では、4℃の低温下保管においても固結は確認されなかった。