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特許7636220色変換プログラム、RIP装置、および印刷システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】色変換プログラム、RIP装置、および印刷システム
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/60 20060101AFI20250218BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20250218BHJP
   B41J 2/525 20060101ALI20250218BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
H04N1/60
B41J2/21
B41J2/525
G06T1/00 510
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021045817
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022144693
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】324012246
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】吉田 世新
(72)【発明者】
【氏名】藤田 泰仁
(72)【発明者】
【氏名】北川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大橋 紘誠
【審査官】鈴木 明
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-219791(JP,A)
【文献】特開2015-154341(JP,A)
【文献】特開2007-181012(JP,A)
【文献】特開2007-318643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/60
B41J 2/21
B41J 2/525
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力画像のRGB値をL色空間におけるL値に変換する入力ICCプロファイルであって、R値、G値、およびB値がいずれも0である入力画像の黒点を、L値が0よりも大きく10以下であるL色空間内の点に変換する入力ICCプロファイルを含み、
前記入力ICCプロファイルのガマットは、
値が70、a 値が64、b 値が105である第1ポイントを含み、かつ、
値が50、a 値が0、b 値が0である基準ポイントを起点とし前記基準ポイントと前記第1ポイントとを繋ぐ直線と、ガマットの外殻面と、の交点を第1交点とするとき、前記第1ポイントと前記第1交点との距離が20以下であるガマットである、
色変換プログラム。
【請求項2】
入力画像のRGB値をL 色空間におけるL 値に変換する入力ICCプロファイルであって、R値、G値、およびB値がいずれも0である入力画像の黒点を、L 値が0よりも大きく10以下であるL 色空間内の点に変換する入力ICCプロファイルを含み、
前記入力ICCプロファイルのガマットは、
値が45、a値が-85、b値が0である第2ポイントを含み、かつ、
値が50、a値が0、b値が0である基準ポイントを起点とし前記基準ポイントと前記第2ポイントとを繋ぐ直線と、ガマットの外殻面と、の交点を第2交点とするとき、前記第2ポイントと前記第2交点との距離が20以下であるガマットである
色変換プログラム。
【請求項3】
前記入力ICCプロファイルは、入力画像における赤色(R値=255、G値=0、B値=0)を
値が60以上70以下
値が100以上120以下
値が85以上105以下
であるL色空間内の点に変換する、
請求項1または2に記載の色変換プログラム。
【請求項4】
前記入力ICCプロファイルは、入力画像における緑色(R値=0、G値=255、B値=0)を
値が80以上90以下
値が-128以上-108以下
値が80以上100以下
であるL色空間内の点に変換する、
請求項1~3のいずれか一つに記載の色変換プログラム。
【請求項5】
前記入力ICCプロファイルは、入力画像における青色(R値=0、G値=0、B値=255)を
値が25以上35以下
値が65以上85以下
値が-128以上-108以下
であるL色空間内の点に変換する、
請求項1~のいずれか一つに記載の色変換プログラム。
【請求項6】
前記入力ICCプロファイルは、ルックアップテーブル方式の入力ICCプロファイルである、
請求項1~のいずれか一つに記載の色変換プログラム。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一つに記載の色変換プログラムがインストールされ、インストールされた色変換プログラムを実行するように構成された、
RIP(Raster Image Processor)装置。
【請求項8】
請求項に記載のRIP装置と、
前記RIP装置が入力画像を色変換したデータに基づいて印刷を行うインクジェットプリンタと、
を含む印刷システム。
【請求項9】
前記インクジェットプリンタは、オレンジインクを吐出するノズル、レッドインクを吐出するノズル、グリーンインクを吐出するノズル、およびバイオレットインクを吐出するノズルのうちの少なくとも1つを備えている、
請求項に記載の印刷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色変換プログラム、RIP装置、および印刷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
入力画像のRGB値をデバイス非依存の色空間における色彩値に変換するカラープロファイルが従来から知られている。例えば特許文献1には、sRGBのような標準的な入力ICCプロファイルを参照して、RGB画像データをデバイス非依存のL色空間におけるL値に変換することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2018-507598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
入力画像のRGB値をL値に変換する従来の入力ICCプロファイルによって、R値、G値、およびB値がいずれも0である点(以下、黒点とも呼ぶ)を変換すると、明度を表すL値は「0」となる。一方、プリンタは、L値が「0」の色域を再現することが実際にはできない。プリンタにもよるが、プリンタが再現可能な最小のL値は、3~10程度である。そのため、RGB値が黒点に近い色(黒色に近い色)を従来の入力ICCプロファイルによってL値に変換した後にプリンタで印刷すると、色の差がなくなってしまう。その結果、RGB値が黒点に近い色に関して、階調再現性のよい印刷画像が得られない。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、RGBの黒点に近い色の階調をプリンタによってよりよく表現できる色変換プログラムを提示することである。また、そのような色変換プログラムがインストールされたRIP装置と、RIP装置およびインクジェットプリンタを含む印刷システムと、を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示する色変換プログラムは、入力画像のRGB値をL色空間におけるL値に変換する入力ICCプロファイルであって、R値、G値、およびB値がいずれも0である入力画像の黒点を、L値が0よりも大きく10以下であるL色空間内の点に変換する入力ICCプロファイルを含む。
【0007】
上記色変換プログラムによれば、色変換プログラムに含まれる入力ICCプロファイルは、変換後の黒点のL値を「0よりも大きく10以下」の値とする。これにより、変換後の黒点のL値が、プリンタが再現可能な最小のL値に近づく。そのため、RGBの黒点に近い色の階調をプリンタでよりよく表現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る印刷システムを示す模式図である。
図2】プリンタの主要部を示す正面図である。
図3】キャリッジの下面の構成を示す平面図である。
図4】従来の入力ICCプロファイルのガマットとプリンタのガマットとを示す模式図である。
図5】従来の入力ICCプロファイルのガマットおよびプリンタのガマットの代表的なポイントのL値を示す表である。
図6】実施形態に係る入力ICCプロファイルのガマットを示す模式図である。
図7図6のガマットを異なる角度から見た模式図である。
図8】実施形態に係る入力ICCプロファイルのガマットとプリンタのガマットとのオレンジ点付近の色差を示す模式図である。
図9】実施形態に係る入力ICCプロファイルのガマットとプリンタのガマットとのエメラルドグリーン点付近の色差を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る印刷システムの実施形態について説明する。ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化する。
【0010】
[印刷システムの構成]
図1は、一実施形態に係る印刷システム100を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態に係る印刷システム100は、プリンタ10と、RIP(Raster Image Processor)装置21を備えたコンピュータ20と、を含んでいる。RIP装置21は、画像データをプリンタ10によって印刷可能なラスター形式のデータに変換する装置である。RIP装置21は、RIPソフトウェアをコンピュータ20が実行することにより実現される。プリンタ10は、ここでは、インクジェットプリンタである。ただし、プリンタ10の種類は限定されない。
【0011】
図2は、プリンタ10の主要部を表す正面図である。図3は、キャリッジ1の下面の構成を示す平面図である。プリンタ10は、ケーシング2と、ケーシング2内に配置されたガイドレール3とを備えている。ガイドレール3は、図2の左右方向(走査方向)に延びている。ガイドレール3には、インクを吐出する記録ヘッド15が設けられたキャリッジ1が係合している。キャリッジ1は、キャリッジ移動機構8によって、ガイドレール3に沿って走査方向に往復移動する。キャリッジ移動機構8は、ガイドレール3の両端に配置されたプーリ19b、19aを有している。プーリ19aにはキャリッジモータ8aが連結されている。なお、キャリッジモータ8aはプーリ19bに連結されていてもよい。プーリ19aは、キャリッジモータ8aによって駆動される。両プーリ19a、19bには、それぞれ無端状のベルト6が巻き掛けられている。キャリッジ1はベルト6に固定されている。プーリ19a,19bが回転してベルト6が走行すると、キャリッジ1が左右方向に移動する。記録媒体5は、図示しない紙送り機構によって、走査方向に直交する搬送方向に搬送される。
【0012】
プリンタ10は、それぞれインクを収容した複数のインクカートリッジ11を備えている。それら複数のインクカートリッジ11には、色の異なるインクが貯留されている。ここでは、プリンタ10は、それぞれシアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインク、オレンジインク、レッドインク、グリーンインク、バイオレットインクを貯留する8つのインクカートリッジ11C、11M、11Y、11K、11O、11R、11G、11Vを備えている。上記インクのうち、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、およびブラックインクは、画像を形成するプロセスカラーインクに分類される。オレンジインク、レッドインク、グリーンインク、およびバイオレットインクは、画像に特殊な視覚効果を付与する特色インクに分類される。オレンジインク、レッドインク、グリーンインク、およびバイオレットインクは、プリンタ10で表現できる色域を広げるためのインクである。これらの特色インクを使用することにより、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、およびブラックインク(CMYKインク)だけを使用する場合に比べて、プリンタ10で表現できる色域が拡大する。プリンタ10で使用されるインクは上記には限定されないが、プリンタ10は、プロセスカラーインクに加えて、オレンジインク、レッドインク、グリーンインク、およびバイオレットインクの特色インクのうちの少なくとも1つ使用できるように構成されていることが好ましい。
【0013】
図3に示すように、記録ヘッド15は、複数のインクヘッド16を備えている。ここでは、記録ヘッド15は、4つのインクヘッド16を備えている。4つのインクヘッド16は、それぞれ複数のノズル17を備えている。複数のノズル17は、それぞれインクを吐出するように構成されている。1つのインクヘッド16において、複数のノズル17は、走査方向に並んで配置された2つのノズル列18を構成している。各ノズル列18は、搬送方向に並んで設けられた複数のノズル17から構成されている。複数のノズル列18は、それぞれ、複数のインクカートリッジ11C~11Vのうちの1つと接続されている。以下、インクカートリッジ11Cと接続されたノズル列をノズル列18Cと呼ぶ。以下同様に、それぞれインクカートリッジ11M、11Y、11K、11O、11R、11G、11Vと接続されたノズル列をノズル列18M、18Y、18K、18O、18R、18G、18Vと呼ぶ。
【0014】
ノズル列18C~18Vとインクカートリッジ11C~11Vとは、それぞれ、インク供給路12により接続されている。インク供給路12は、インクカートリッジ11C~11Vからノズル列18C~18Vへインクを供給するインク流路である。インク供給路12は、例えば可撓性を有するチューブにより構成されている。インク供給路12には、送液ポンプ13が設けられている。ただし、送液ポンプ13は必ずしも必要ではなく、省略することも可能である。インク供給路12の一部は、ケーブル類保護案内装置により覆われている。
【0015】
記録ヘッド15は、記録媒体5に向かってインクを吐出し、記録媒体5上にインクのドットを形成する。このドットが多数並べられることにより、記録媒体5上に画像などが形成される。本実施形態では、ノズル列18Cを構成するノズル17からは、シアンインクが吐出される。ノズル列18Mを構成するノズル17からは、マゼンタインクが吐出される。ノズル列18Yを構成するノズル17からは、イエローインクが吐出される。ノズル列18Kを構成するノズル17からは、ブラックインクが吐出される。ノズル列18Oを構成するノズル17からは、オレンジインクが吐出される。ノズル列18Rを構成するノズル17からは、レッドインクが吐出される。ノズル列18Gを構成するノズル17からは、グリーンインクが吐出される。ノズル列18Vを構成するノズル17からは、バイオレットインクが吐出される。
【0016】
図1に示すように、プリンタ10は、制御装置4を備えている。制御装置4は、紙送り機構のフィードモータと、キャリッジ移動機構8のキャリッジモータ8aと、送液ポンプ13と、記録ヘッド15とに対して、電気的に接続されている。制御装置4は、これらの動作を制御する。制御装置4は、典型的にはコンピュータである。制御装置4は、例えば、ホストコンピュータ等の外部機器からの印刷データ等を受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU)と、CPUが実行するプログラムを格納したROMと、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAMと、上記プログラムや各種データを格納するメモリなどの記憶装置とを備えている。ただし、制御装置4の構成は特に限定されない。
【0017】
RIP装置21は、入力画像のデータをプリンタ10が印刷可能なデータに変換する装置である。RIP装置21は、例えばICC(International Color Consortium)プロファイルなどのカラープロファイルを使って、デバイス依存の画像データ(例えば、RGB画像データ)をデバイス非依存の色空間の色彩値(ここでは、L値)に変換し、さらに、上記によって得られたデバイス非依存の色空間の色彩値(ここでは、L値)をデバイス依存の印刷画像データ(ここでは、CMYKインク値)に変換する。デバイス依存の印刷画像データをデバイス非依存の色空間の色彩値に変換するにあたっては、カラープロファイルの中にあるA2Bテーブルと呼ばれる変換テーブル(Look Up Table : LUT)が使用される。逆に、デバイス非依存の色空間の色彩値をデバイス依存の印刷画像データに変換する場合、カラープロファイルの中にあるB2Aテーブルと呼ばれる変換テーブルが使用される。
【0018】
入力された画像データを色彩値に変換する際には、ICCプロファイルのうち入力ICCプロファイルが使用される。入力画像がRGB画像データである場合には、RGB値をL色空間における色彩値(L値)に変換する入力ICCプロファイル(さらに詳しくは、その中のA2Bテーブル)が使用される。入力画像のRGB値をL色空間における色彩値(L値)に変換する入力ICCプロファイルは、RGB画像処理用の入力ICCプロファイルである。RIP装置21は、入力画像がCMYK画像データである場合には、CMYK用の入力ICCプロファイルを使用して、入力画像のCMYK値をL色空間における色彩値(L値)に変換する。
【0019】
上記により得られた印刷画像データのL値をプリンタ10が実際に印刷するときのインク値に変換する際には、出力ICCプロファイルのB2Aテーブルが使用される。ICCプロファイルには、入力された印刷画像データを変換する入力ICCプロファイルと、変換して取り込んだ印刷画像データをプリンタ10が出力する形に変換する出力ICCプロファイルとが含まれる。入力ICCプロファイルおよび出力ICCプロファイルには、それぞれ、A2BテーブルおよびB2Aテーブルが含まれている。
【0020】
RIP装置21は、本願発明者の考案に係る入力ICCプロファイル23を含む色変換プログラム22がインストールされたコンピュータである(図1参照)。本願発明者の考案に係る入力ICCプロファイル23は、入力画像のRGB値をL色空間における色彩値に変換する入力ICCプロファイルである。色変換プログラム22には、その他に、出力ICCプロファイルも含まれている。色変換プログラム22には、本願発明者の考案に係る入力ICCプロファイル23以外の入力ICCプロファイルが含まれていてもよい。コンピュータ20は、インストールされた色変換プログラム22を実行することにより、RIP装置21として機能する。プリンタ10は、RIP装置21が入力画像を色変換したデータに基づいて印刷を行う。色変換プログラム22は、例えばCDやDVDなどの記録媒体から読み込まれてもよい。色変換プログラム22は、インターネットを通じてダウンロードされるものであってもよい。色変換プログラム22は、コンピュータ20内で作成されてもよい。RIP装置21は、ここでは1つのコンピュータ20によって実現されているが、複数のコンピュータによって実現されていてもよい。RIP装置21は、クラウド上のコンピュータによって実現されてもよい。コンピュータ20は、RIP装置21としての機能以外の機能、例えば、入力画像を作成する機能を有していてもよい。
【0021】
以下では、本願発明者の考案に係る入力ICCプロファイル23のガマットについて、従来の入力ICCプロファイルのガマットと必要に応じて比較しながら説明する。ガマットは、ICCプロファイルやプリンタが表現可能な色の範囲であり、L色空間における三次元的な領域として表される。なお、以下に示すいくつかのガマットの図は模式図であり、明細書中にL値が記載された点の位置は、必ずしも正確に図示されていない。
【0022】
[従来の入力ICCプロファイルのガマット]
まず、従来のRGB用の入力ICCプロファイルのガマットの課題について説明する。図4は、従来のRGB用の入力ICCプロファイルのガマットG0とプリンタ10のガマットGpとを示す模式図である。入力ICCプロファイルは、従来から多数存在し、従ってそのガマットも多数存在するが、図4に示すガマットG0はその一例である。図4に示す例では、プリンタ10のガマットGpは、従来の入力ICCプロファイルのガマットG0よりも外に張り出した部分を有している。プリンタ10のガマットGpは、オレンジ色域Ro、エメラルドグリーン色域Rg、およびレッド色域Rrにおいて、従来の入力ICCプロファイルのガマットG0よりも外に張り出している。オレンジ色域Ro内のポイントPoは、プリンタ10のオレンジ色を代表するオレンジ点Poである。オレンジ点Poは、ここでは、オレンジインク単色に対応するポイントであり、ガマットGpの1頂点を構成している。オレンジ色域Roは、オレンジ点Po付近の色域、つまりオレンジインク単色の色に近いオレンジ色を表す色域である。
【0023】
エメラルドグリーン色域Rgは、エメラルドグリーンに近い色を表す色域である。ここでは、プリンタ10のエメラルドグリーンを代表するエメラルドグリーン点をエメラルドグリーン色域Rg内に設定し、符号Pgで表す(図9参照)。レッド色域Rr内のポイントPrは、プリンタ10の赤色を代表するレッド点Prである。レッド点Prは、ここでは、レッドインク単色に対応するポイントであり、ガマットGpの1頂点を構成している。レッド色域Rrは、レッド点Pr付近の色域、つまりレッドインク単色の色に近い赤色を表す色域である。なお、プリンタ10がオレンジインクまたはレッドインクを使用しない場合には、オレンジ点Po、レッド点Prは、適宜に定められてよい。プリンタ10がオレンジインクまたはレッドインクを使用する場合であっても、オレンジ点Po、レッド点Prは、それぞれオレンジ色、赤色を逸脱しない限りで適宜に定められてよい。その他の色を表す点についても同様である。
【0024】
図5は、従来の入力ICCプロファイルのガマットG0およびプリンタ10のガマットGpの代表的なポイントのL値を示す表である。図5の上の表は、従来の入力ICCプロファイルのガマットG0の代表的なポイントのL値を示す。図5の上の表の「Red」の行、「Green」の行、および「Blue」の行は、それぞれ、RGB入力画像の赤色(R値=255、G値=0、B値=0)、緑色(R値=0、G値=255、B値=0)、および青色(R値=0、G値=0、B値=255)を従来の入力ICCプロファイルによって変換した点のL値を示す。図5の下の表は、プリンタ10のガマットGpの代表的なポイントのL値を示す。図5の下の表の各行のタイトルは、そのポイントに代表される色の名称を示している。なお、図5に示すL値は、単なる一例に過ぎない。
【0025】
前述したように、プリンタ10のガマットGpは、オレンジ色域Ro、エメラルドグリーン色域Rg、およびレッド色域Rrにおいて、従来の入力ICCプロファイルのガマットG0よりも外に張り出している。従来の入力ICCプロファイルのガマットG0よりも外に張り出したこれらの色域Ro、Rg、およびRrは、従来の入力ICCプロファイルを使用して入力画像を変換する場合には使用されない。言い換えると、従来の入力ICCプロファイルを使用したのでは、プリンタ10は、特色インクを使用することにより色再現能力を拡大したにもかかわらず、その色再現能力を十分に発揮できない。
【0026】
図示は省略するが、従来の入力ICCプロファイルの中には、ガマットが非常に大きいものも存在する。そのような入力ICCプロファイルを使用することにより、プリンタ10のガマットGpを入力ICCプロファイルのガマット内に収めることもできる。しかし、入力ICCプロファイルのガマットが大き過ぎると、入力ICCプロファイルによって生成される色の階調が、プリンタ10のガマットGpに合わせて大きく圧縮される。そのため、色の階調再現性が悪くなる。
【0027】
さらに、従来の入力ICCプロファイルによる色変換では、黒に近い色の階調の表現に問題が発生する。これは、以下の理由による。従来の入力ICCプロファイルによって、R値、G値、およびB値がいずれも0である点(以下、黒点と呼ぶ)を変換すると、明度を表すL値は「0」となる。一方で、プリンタ10のガマットGpは、L値が「0」の色域を含んでいない。つまり、プリンタ10は、L値が「0」である理想的な黒を再現することができない。プリンタにもよるが、プリンタが再現可能な最小のL値は、3~10程度である(例えば、図5の下の表の「黒点」の行のL値を参照)。そのため、RGB値が黒点に近い色をプリンタで印刷すると、色の差は、圧縮されるかまたは無視されてなくなってしまう。その結果、RGBの黒点に近い色の階調表現が悪くなる。これらが従来の入力ICCプロファイルの課題である。
【0028】
[本実施形態に係る入力ICCプロファイルのガマット]
次に、本願発明者の考案に係る入力ICCプロファイル23のガマットG1について説明する。図6は、入力ICCプロファイル23のガマットG1を示す模式図である。図7は、図6のガマットG1を異なる角度から見た模式図である。図6および図7に示すように、入力ICCプロファイル23のガマットG1は、L値の最小値が「0」よりも大きく構成されている。ガマットG1のL値が最小となるポイントPk1は、RGB画像における黒点(R値、G値、B値がいずれも「0」の点)に対応している。RGB入力画像の黒点は、入力ICCプロファイル23を使用すると、ポイントPk1(以下、このポイントのことも黒点Pk1と呼ぶ)に変換される。ガマットG1の黒点Pk1のL値は、例えば、「3」である。ガマットG1の黒点Pk1のL値は、プリンタ10の特性(例えば、図5の下の表の「黒点」の行を参照)に合わせて、0よりも大きく10以下の範囲で設計されるとよい。入力ICCプロファイル23は、RGB入力画像の黒点を、L値が0よりも大きく10以下であるL色空間内の黒点Pk1に変換する。
【0029】
さらに、入力ICCプロファイル23は、RGB入力画像における赤色(R値=255、G値=0、B値=0)を、L値が60以上70以下、a値が100以上120以下、b値が85以上105以下であるL色空間内の点Pr1に変換する。以下、この点のことをレッド点Pr1とも呼ぶ。ガマットG1のレッド点Pr1のL値は、プリンタ10の特性(例えば、図5の下の表の「Red」の行を参照)に合わせて、上記した範囲で好適に設計されるとよい。ただし、上記したレッド点Pr1のL値は、好適な目安であって、これに限定されるわけではない。図6および図7では、一例として、RGB入力画像における赤色が、L値が65、a値が110、b値が95の点Pr1に変換される場合を図示している。
【0030】
入力ICCプロファイル23は、RGB入力画像における緑色(R値=0、G値=255、B値=0)を、L値が80以上90以下、a値が-128以上-108以下、b値が80以上100以下であるL色空間内の点Pg1に変換する。以下、この点のことをグリーン点Pg1とも呼ぶ。ガマットG1のグリーン点Pg1のL値は、プリンタ10の特性に合わせて、上記した範囲で好適に設計されるとよい。ただし、上記したグリーン点Pg1のL値は、好適な目安であって、これに限定されるわけではない。図7では、一例として、RGB入力画像における緑色が、L値が85、a値が-118、b値が90の点Pg1に変換される場合を図示している。
【0031】
入力ICCプロファイル23は、RGB入力画像における青色(R値=0、G値=0、B値=255)を、L値が25以上35以下、a値が65以上85以下、b値が-128以上-108以下であるL色空間内の点Pb1に変換する。以下、この点のことをブルー点Pb1とも呼ぶ。ガマットG1のブルー点Pb1のL値は、プリンタ10の特性(例えば、図5の下の表の「Blue」の行を参照)に合わせて、上記した範囲で好適に設計されるとよい。ただし、上記したブルー点Pb1のL値は、好適な目安であって、これに限定されるわけではない。図6および図7では、一例として、RGB入力画像における青色が、L値が30、a値が75、b値が-118の点Pb1に変換される場合を図示している。図8および図9に、入力ICCプロファイル23のガマットG1とプリンタ10のガマットGpとを重ねて示す。図8および図9に示すように、入力ICCプロファイル23を使用してRGB入力画像を変換すると、RGB入力画像の赤色、緑色、および青色にそれぞれ対応するレッド点Pr1、グリーン点Pg1、ブルー点Pb1は、プリンタ10のガマットGpの外側に位置する。
【0032】
さらに、入力ICCプロファイル23は、RGB入力画像におけるオレンジ色の色域およびエメラルドグリーンの色域をそれぞれ、プリンタ10のガマットGpのオレンジ色域Roおよびエメラルドグリーン色域Rgの外側の色域に変換する。図8は、入力ICCプロファイル23のガマットG1とプリンタ10のガマットGpとのオレンジ点Po付近の色差を示す模式図である。図8に示すように、入力ICCプロファイル23のガマットG1は、プリンタ10のオレンジ点Po(L値=70、a値=64、b値=105、図5も参照)を含んでいる。以下、L値=50、a値=0、b値=0であるポイントを基準ポイントPsと呼ぶこととすると、基準ポイントPsは、プリンタ10のオレンジ点PoよりもガマットG1の中心部寄りに位置する。なお、基準ポイントPsは、ガマットG1の中心部付近を代表していればよく、そのL値は限定されない。図8に示すように、基準ポイントPsを起点とし基準ポイントPsとオレンジ点Poとを繋ぐ直線L1は、ガマットG1の外殻面と交差する。この交点を第1交点Px1とするとき、ガマットG1は、プリンタ10のオレンジ点Poと第1交点Px1との距離(色差ΔE1)が好適な距離となるように設定されている。プリンタ10のオレンジ点Poと第1交点Px1との距離(色差ΔE1)は、好適には20以下、さらに好適には15以下に設計されているとよい。これは、ガマットG1の外殻面がプリンタ10のオレンジ色域Roから離れ過ぎないことを意味している。色差ΔE1が大きいと、ガマットG1の外殻面がプリンタ10のオレンジ色域Roから離れ過ぎる。そうなると、オレンジ色域Roにおけるプリンタ10の色の階調が過度に圧縮され、階調再現性が悪くなる。
【0033】
色差ΔE1は、オレンジ点PoのL値と第1交点Px1のL値との差の2乗と、オレンジ点Poのa値と第1交点Px1のa値との差の2乗と、オレンジ点Poのb値と第1交点Px1のb値との差の2乗と、を足したものの平方根を取ることによって求められる。なお、上記は、ガマットG1を設計する方法を意味するものではなく、ガマットG1が満たすことが望ましい条件を示すものである。すなわち、ガマットG1は、L値=70、a値=64、b値=105である第1のポイント(プリンタのオレンジ点と一致していなくてもよく、プリンタのオレンジ点の近くの点でもよい)を含み、かつ、第1交点Px1と第1のポイントとの距離(色差ΔE1)が20以下に構成されていることが好ましいだけであり、例えば、基準ポイントPsを基にして設計される必要はない。
【0034】
エメラルドグリーン色域についても同様である。図9は、入力ICCプロファイル23のガマットG1とプリンタ10のガマットGpとのエメラルドグリーン点Pg付近の色差を示す模式図である。入力ICCプロファイル23のガマットG1は、図9に示すように、プリンタ10のエメラルドグリーン点Pg(L値=45、a値=-85、b値=0、図5も参照)を含んでいる。基準ポイントPsを起点とし基準ポイントPsとエメラルドグリーン点Pgとを繋ぐ直線L2は、ガマットG1の外殻面と交差する。この交点を第2交点Px2とするとき、プリンタ10のエメラルドグリーン点Pgと第2交点Px2との距離(色差ΔE2)は20以下、さらに好適には15以下であるとよい。
【0035】
入力ICCプロファイル23は、ここでは、ルックアップテーブル(LUT)方式の入力ICCプロファイルである。LUT方式によれば、RGB画像のRGB値がLUTに従ってL値に変換される。そのため、RGBの黒点を0より大きく10以下のL値に対応付けることや、オレンジの色域の形の設計などが容易にできる。
【0036】
かかるガマットG1は、次のような特徴を有する。
【0037】
(1)入力RGB画像の黒点が、L値が0よりも大きく10以下であるL色空間内の点Pk1に対応している。これによれば、変換後の黒点のL値が「0よりも大きく10以下」の値となり、プリンタ10が再現可能な最小のL値(例えば「4」、図5参照)に近づく。そのため、プリンタ10によって、RGBの黒点に近い色の階調をよりよく表現できるようになる。
【0038】
(2)RGB入力画像における赤色(R値=255、G値=0、B値=0)が、L値が60以上70以下、a値が100以上120以下、b値が85以上105以下であるL色空間内の点Pr1(レッド点Pr1)に対応している。これにより、図8に示すように、プリンタ10のレッド点Prが入力ICCプロファイルのガマットの外側にはみ出てしまうことも、プリンタ10のレッド点Prが入力ICCプロファイルのガマットの外殻面よりもかなり内側に位置してしまうこともないレッド色域Rr1(レッド点Pr1の周辺の色域を指す)を有するガマットG1を構成できる。そのため、プリンタ10のレッド色域Rrにおいて色再現能力を発揮できるようになるとともに、色の階調再現性が悪くなることも抑制できる。RGB入力画像における緑色(R値=0、G値=255、B値=0)および青色(R値=0、G値=0、B値=255)についても同様である。
【0039】
(3)入力ICCプロファイル23のガマットG1は、L値が70、a値が64、b値が105である第1のポイント(ここでは、プリンタ10のガマットGpのオレンジ点Poに一致する)を含む。かつ、基準ポイントPsを起点とし基準ポイントPsと第1のポイントとを繋ぐ直線L1とガマットのG1の外殻面との交点を第1交点Px1とするとき、第1のポイントと第1交点Px1との距離(色差ΔE1)が20以下である。これにより、入力ICCプロファイル23のガマットG1のオレンジ色域Ro1(第1交点Px1の周辺の色域を指す、図8参照)は、プリンタ10のガマットGpのオレンジ色域Roの外側に位置する。かつ、ガマットG1のオレンジ色域Ro1は、プリンタ10のガマットGpのオレンジ色域Roから離れ過ぎない。そのため、プリンタ10のオレンジ色域Roにおいて色再現能力を発揮できるようになるとともに、色の階調再現性が悪くなることも抑制できる。ガマットG1のエメラルドグリーン色域Rg1(第2交点Px2の周辺の色域を指す、図9参照)についても同様である。
【0040】
(4)入力ICCプロファイル23のガマットG1は、プリンタ10のガマットGpの全体を含む。かかる入力ICCプロファイル23によれば、プリンタ10の色再現能力を十分に発揮させることができる。
【0041】
かかる色変換プログラム22は、例えば、オレンジインク、レッドインク、グリーンインク、またはバイオレットインクなどのプリンタの色域を拡張する特色インクがプリンタに使用されている場合に特に効果を発揮する。ただし、色変換プログラム22は、色域を拡張する特色インクを使用しないプリンタで印刷を行う場合でも、効果を発揮し得る。
【0042】
以上、好適な一実施形態について説明した。しかし、本発明の印刷システムは、上記した実施形態に限定されない。例えば、上記した実施形態に係るプリンタ10の構成は例示であり、プリンタの構成を限定しない。その他、特に言及がない限り、上記した実施形態は本発明を限定しない。
【符号の説明】
【0043】
10 プリンタ
21 RIP装置
22 色変換プログラム
23 入力ICCプロファイル
100 印刷システム
G0 従来の入力ICCプロファイルのガマット
G1 入力ICCプロファイルのガマット
Gp プリンタのガマット
Pk1 入力ICCプロファイルのガマットの黒点
Pr1 入力ICCプロファイルのガマットのレッド点
Pg1 入力ICCプロファイルのガマットのグリーン点
Pb1 入力ICCプロファイルのガマットのブルー点
Ro1 入力ICCプロファイルのガマットのオレンジ色域
Rg1 入力ICCプロファイルのガマットのエメラルドグリーン色域
Rr1 入力ICCプロファイルのガマットのレッド色域
Po プリンタのガマットのオレンジ点(第1ポイント)
Pr プリンタのガマットのレッド点
Pg プリンタのガマットのエメラルドグリーン点(第2ポイント)
Ro プリンタのガマットのオレンジ色域
Rr プリンタのガマットのレッド色域
Rg プリンタのガマットのエメラルドグリーン色域
Ps 基準ポイント
Px1 第1交点
Px2 第2交点
ΔE1 オレンジ色域の色差
ΔE2 エメラルドグリーン色域の色差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9