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特許7636234セラミックスヒータ及びセラミックスヒータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】セラミックスヒータ及びセラミックスヒータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/12 20060101AFI20250218BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20250218BHJP
   H05B 3/18 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
H05B3/12 A
H05B3/20 328
H05B3/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021056641
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022153882
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004554
【氏名又は名称】弁理士法人i-MIRAI
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(72)【発明者】
【氏名】大木 敬介
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-249330(JP,A)
【文献】特開昭59-068191(JP,A)
【文献】実開昭52-147949(JP,U)
【文献】実開昭61-048692(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第111109666(CN,A)
【文献】特開2018-005998(JP,A)
【文献】特開2010-257956(JP,A)
【文献】特開2011-086620(JP,A)
【文献】特開2018-045920(JP,A)
【文献】特開2017-076580(JP,A)
【文献】特開平03-272588(JP,A)
【文献】実開昭57-150493(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に被加熱物が載置されるセラミックス基材と、
前記セラミックス基材に埋設された、帯状の金属製の電極箔とを備え、
前記電極箔は、前記電極箔に分散するように配置された複数の貫通孔を有し、
前記電極箔の厚さは0.05mm~0.1mmであり、
前記貫通孔の開孔の平均径は1.0mm~3.0mmであり、
前記複数の貫通孔が形成されていない場合の前記電極箔の前記上面の面積に対する、前記複数の貫通孔の開孔面積の和の比率である開孔率が5.7%以上10.1%以下であり、
前記複数の貫通孔の前記開孔の前記平均径が前記帯状の電極箔の幅に対して2%~20%であることを特徴とするセラミックスヒータ。
【請求項2】
前記電極箔は、モリブデン、タングステン、モリブデン合金及びタングステン合金からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属の箔である請求項1に記載のセラミックスヒータ。
【請求項3】
前記帯状の電極箔の前記幅が5mm~15mmである請求項1又は2に記載のセラミックスヒータ。
【請求項4】
表面に分散するように配置された複数の貫通孔を有する帯状の金属製の電極箔が、セラミックス材料に埋設されるように、前記電極箔の下側及び上側に前記セラミックス材料を積層することと、
前記積層された前記セラミックス材料及び前記電極箔を焼成することと、を備え、
前記電極箔の厚さは0.05mm~0.1mmであり、
前記貫通孔の開孔の平均径は1.0mm~3.0mmであり、
前記複数の貫通孔が形成されていない場合の前記電極箔の前記表面の面積に対する、前記複数の貫通孔の開孔面積の和の比率である開孔率が5.7%以上10.1%以下であり、
前記複数の貫通孔の前記開孔の前記平均径が前記帯状の電極箔の幅に対して2%~20%であることを特徴とするセラミックスヒータの製造方法。
【請求項5】
前記電極箔は、モリブデン、タングステン、モリブデン合金及びタングステン合金からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む請求項4に記載のセラミックスヒータの製造方法。
【請求項6】
前記帯状の電極箔の前記幅が5mm~15mmである請求項4又は5に記載のセラミックスヒータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスヒータ及びセラミックスヒータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、上面に被加熱物が載置されるセラミックス基材と、前記セラミックス基材に埋設された発熱抵抗体とを備えたセラミックスヒータが開示されている。発熱抵抗体は、互いに異なる方向に延在する円弧状発熱抵抗要素及び直線状発熱抵抗要素を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-5998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、円弧状発熱抵抗要素と直線状発熱抵抗要素とが重なり合う接続部の単位長さ当たりの抵抗が、円弧状発熱抵抗要素及び直線状発熱抵抗要素における単位長さ当たりの抵抗よりも小さくなることと、それに起因して、接続部における発熱量が局所的に小さくなることが開示されている。そこで、上述のセラミックスヒータでは、接続部に局所的に貫通孔を形成することにより、接続部の単位長さ当たりの抵抗を大きくして、接続部における発熱量が局所的に小さくなることを抑制している。
【0005】
特許文献1に記載のセラミックスヒータにおいては、発熱抵抗体として、金属メッシュが用いられているが、特許文献1には、金属箔の発熱抵抗体を用いてもよいことが開示されている。しかしながら、単に金属メッシュの発熱抵抗体を金属箔の発熱抵抗体に置き換えた場合には、金属箔の発熱抵抗体の抵抗値が金属メッシュの発熱抵抗体の抵抗値に比べて小さくなりすぎるため、電流消費が大きくなり、セラミックスヒータ用の電源が大型化する恐れがある。
【0006】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたものであり、電流消費を抑制できるセラミックスヒータと、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様に従えば、上面に被加熱物が載置されるセラミックス基材と、
前記セラミックス基材に埋設された、帯状の金属製の電極箔とを備え、
前記電極箔は、前記電極箔に分散するように配置された複数の貫通孔を有し、
前記電極箔の厚さは0.05mm~0.1mmであり、
前記貫通孔の開孔の平均径は1.0mm~3.0mmであり、
前記複数の貫通孔が形成されていない場合の前記電極箔の前記上面の面積に対する、前記複数の貫通孔の開孔面積の和の比率である開孔率が5.7%以上10.1%以下であり、
前記複数の貫通孔の前記開孔の前記平均径が前記帯状の電極箔の幅に対して2%~20%であることを特徴とするセラミックスヒータが提供される。
【発明の効果】
【0008】
上記態様においては、電極箔に分散する複数の貫通孔の開孔率は、2.5%以上である。金属メッシュではなく、金属箔を用いて電極箔を形成しているので、メッシュを構成するワイヤ同士の接触による接触抵抗が発生しない。そのため、電極箔の抵抗値のばらつきを抑えることができ、セラミックスヒータの温度分布のばらつきを低減させることができる。また、金属箔に開孔率が2.5%以上となるように複数の貫通孔を分散させているので、金属箔の抵抗値を高く(例えば、1Ω以上)することができる。これにより、セラミックスヒータに用いる電源の消費電流を抑えることができ、電源の大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は、セラミックスヒータ100の概略図であり、(b)は、セラミックスヒータ100を別の方向から見た概略図である。
図2図2は、セラミックス基材110と電極箔120の形状を示した概略説明図である。
図3】(a)~(e)は、セラミックス基材110の製造方法の流れを示す図である。
図4】(a)~(e)は、セラミックス基材110の別の製造方法の流れを示す図である。
図5】実施例4の電極箔120の概略図である。
図6】比較例2のメッシュ電極220の概略図である。
図7】実施例1~4及び比較例1、2の結果をまとめた表である。
図8】電極箔120の変形例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<セラミックスヒータ100>
本発明の実施形態に係るセラミックスヒータ100について図1(a)、1(b)を参照しつつ説明する。セラミックスヒータ100は、シリコンウェハなどの半導体ウェハ(以下、単にウェハ10という)の加熱に用いられる。なお、以下の説明においては、セラミックスヒータ100が使用可能に設置された状態(図1(a)の状態)を基準として上下方向5が定義される。図1(a)、1(b)に示されるように、本実施形態に係るセラミックスヒータ100は、セラミックス基材110と、電極箔120と、シャフト130と、給電線140とを備える。
【0011】
セラミックス基材110は、直径12インチ(約300mm)の円形の板状の形状を有する部材であり、その上面111には加熱対象であるウェハ10が載置される。なお、図1(a)、1(b)では図面を見やすくするためにウェハ10とセラミックス基材110の上面111とを離して図示している。セラミックス基材110は、例えば、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ケイ素等のセラミックス焼結体により形成することができる。
【0012】
セラミックス基材110の内部には、帯状に裁断された電極箔120が埋設されている。電極箔120はタングステン(W)箔、モリブデン(Mo)箔、モリブデン及び/又はタングステンを含む合金の箔等の耐熱金属(高融点金属)の箔により形成されている。タングステン箔、モリブデン箔の純度は99%以上であることが好ましい。電極箔120の厚さは0.15mm以下である。なお、電極箔120の抵抗値を高くして、セラミックスヒータ100の消費電流を低減させるという観点からは、電極箔120の厚さを0.1mm以下にすることが好ましい。また、帯状に裁断された電極箔120の幅は2.5mm~20mmであることが好ましく、5mm~15mmであることがさらに好ましい。電極箔120は、図2に示される形状に裁断されている。電極箔120の形状の詳細については後述する。なお、セラミックス基材110の内部には電極箔120に加えて、ウェハ10をジョンセン・ラーベック力により上面111に引き付けるための静電チャック電極及びセラミックス基材110の上方にプラズマを発生させるためのプラズマ電極のうち少なくとも一方が埋設されていてもよい。
【0013】
セラミックス基材110の下面112の略中央には、下方に延びるシャフト130が配置されている。シャフト130は中空の略円筒形状の円筒部131と、円筒部131の下方に設けられた大径部132とを有する。大径部132は、円筒部131の径よりも大きな径を有している。円筒部131の上面は、セラミックス又はガラス等の接合剤によりセラミックス基材110の下面112の略中央に固定されている。なお、円筒部131の上面と基剤110の下面112とを、拡散接合により固定することができる。あるいは、これらをねじ止め、ろう付け等によって固定することもできる。なお、シャフト130は、セラミックス基材110と同じように、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等のセラミックス焼結体により形成されてもよい。あるいは、断熱性を高めるために、セラミックス基材110より熱伝導率の低い材料で形成されてもよい。
【0014】
上述のように、シャフト130は中空の円筒形状を有しており、その内部には上下方向に延びる貫通孔が形成されている。シャフト130の中空の部分(貫通孔)には、電極箔120に電力を供給するための給電線140が配置されている。給電線140の上端は、電極箔120の中央に配置された端子部121(図2参照)に電気的に接続されている。給電線140の下端には、給電端子141が設けられている。給電端子141は、不図示のヒータ用電源に接続される。これにより、給電端子141を介して電極箔120に電力が供給される。
【0015】
次に、電極箔120の形状について図2を参照しつつ説明する。電極箔120は帯状に裁断された金属製の箔であり、左右対称な形状を有している。電極箔120の外形は約300mmである。電極箔120は、4対のアーチ部122~125と、3対の直線部126~128とを有する。4対のアーチ部122~125の径は、この順に大きくなっており、基板110の径方向の中心側から外側に向かって等間隔に並んでいる。径方向の最も外側に位置する一対のアーチ部125は、互いに繋がっているが、残りの3対のアーチ部122~124は、左右に分かれて配置されている。一対の直線部126はアーチ部122、123を繋ぐように図2の縦方向に延びている。同様に、一対の直線部127はアーチ部123、124を繋ぎ、一対の直線部128は2つのアーチ部124、125を繋いでいる。最も内側のアーチ部122の端部の下面には端子部121が形成されており、給電線140の上端が下方から接続される。
【0016】
図2の拡大図に示されるように、電極箔120の全体にわたって分散するように複数の貫通孔が形成されている。貫通孔の径は、電極箔120の幅に対して、2%~20%であることが好ましく、5%~15%であることがさらに好ましい。貫通孔の径は、例えば、φ0.05mm~φ3.0mmである。以下の説明において、貫通孔が形成されていない場合の電極箔120の上面の面積に対する、貫通孔の開孔面積の総和の比を開孔比と呼ぶ。電極箔120には、開孔比が2.5%以上になるように、複数の貫通孔が分散している。開孔比を調整することにより、電極箔120の抵抗値を調整することができる。電極箔120の抵抗値を高めて、セラミックスヒータ100の消費電流を低くするという観点から、開孔比が2.5%以上であることが好適であり、開孔比が20%以上であることがさらに好適である。複数の貫通孔は、例えば、フォトレジスト又はドライフィルムでモリブデン箔(又はタングステン箔)の上面に所定の形状のマスクを形成し、リン酸、硝酸、酢酸、水を混合したエッチング液を用いてエッチングを行うことにより形成することができる。複数の貫通孔は、機械加工や放電加工によっても形成することができる。
【0017】
次に、セラミックスヒータ100の製造方法について説明する。以下では、セラミックス基材110及びシャフト130が窒化アルミニウムで形成される場合を例に挙げて説明する。
【0018】
まず、セラミックス基材110の製造方法について説明する。図3(a)に示されるように、窒化ナトリウム(AlN)粉末を主成分とする造粒粉Pをカーボン製の有床型501に投入し、パンチ502で仮プレスする。なお、造粒粉Pには、5wt%以下の焼結助剤(例えば、Y)が含まれることが好ましい。次に、図3(b)に示されるように、仮プレスされた造粒粉Pの上に、所定形状に裁断された電極箔120を配置する。電極箔120には、予めエッチングにより複数の貫通孔が形成されている。なお、電極箔120は、加圧方向に垂直な面(有床型501の底面)に平行になるように配置される。このとき、Wのペレット又はMoのペレットを電極箔120の端子121の位置に埋設してもよい。
【0019】
図3(c)に示されるように、電極箔120を覆うようにさらに造粒粉Pを有床型501に投入し、パンチ502でプレスして成形する。次に、図3(d)に示されるように、電極箔120が埋設された造粒粉Pをプレスした状態で焼成する。焼成の際に加える圧力は、1MPa以上であることが好ましい。また、1800℃以上の温度で焼成することが好ましい。次に、図3(e)に示されるように、端子121を形成するために、電極箔120までの止まり穴加工を行うなどの必要な加工を行い、セラミックス基材110が形成される。なお、ペレットを埋設した場合には、ペレットまでの止まり穴加工を行えばよい。
【0020】
セラミックス基材110は以下の方法によっても製造することができる。図4(a)に示されるように、窒化アルミニウムの造粒粉Pにバインダーを加えてCIP成型し、円板状に加工して、窒化アルミニウムの成形体510を作製する。次に、図4(b)に示されるように、成形体510の脱脂処理を行い、バインダーを除去する。
【0021】
図4(c)に示されるように、脱脂された成形体510に、電極箔120を埋設するための凹部511を形成する。成形体510の凹部511に電極箔120を配置し、別の成形体510を積層する。次に、図4(d)に示されるように、電極箔120を挟むように積層された成形体510をプレスした状態で焼成する。焼成の際に加える圧力は、1MPa以上であることが好ましい。また、1800℃以上の温度で焼成することが好ましい。次に、図4(e)に示されるように、端子121を形成するために、電極箔120までの止まり穴加工を行うなどの必要な加工を行い、セラミックス基材110が形成される。
【0022】
このようにして形成されたセラミックス基材110の下面112の略中央に、シャフト130を固定することにより、セラミックスヒータ100が製造される。シャフト130は、バインダーを数wt%添加した窒化アルミニウムの造粒粉Pを静水圧(1MPa程度)で成形し、成形体を所定形状に加工した後、窒素雰囲気中で焼成することにより形成される。
【実施例
【0023】
以下、本発明について実施例及び比較例を用いて更に説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施例及び比較例に限定されない。
【0024】
[実施例1]
実施例1では、電極箔120として、厚さ0.1mm、直径350mmのモリブデン箔を用いた。モリブデン箔の全面に一辺の長さが4mmの正三角形を敷き詰めたと仮定した場合の各頂点にあたる位置に、それぞれ直径1.0mmの貫通孔を形成した。その後、図2のような形状にモリブデン箔を裁断し、電極箔120とした。なお、実施例1の電極箔120の開孔率は約5.7%である。
【0025】
また、以下の手順でセラミックスヒータ100の温度分布の評価試験を行った。まず、評価試験の前に、端子121間の抵抗値をテスターで計測して、電極箔120の室温での抵抗値を求めた。実施例1では、電極箔120の抵抗値は2.27Ωであった。次に、セラミックスヒータ100に不図示の外部電源から電流を流し、不図示の熱電対により設定温度450℃で温度制御を行った。設定温度を450℃に保った状態で、基板110の上面111(ウェハ載置面)の、直径290mmの領域の温度分布を赤外線カメラで計測した。測定された温度分布の、最大温度から最小温度を引いた値を温度差Δとして求めた。温度差Δは、基板110の上面111の温度分布のばらつきの指標となる。実施例1において、設定温度450℃に対する温度差Δが3.3℃であった。
【0026】
温度分布の評価試験の後、基板110を径方向に切断し、その断面を光学顕微鏡を用いて、電極箔120の剥離が生じていないかどうかを目視で確認した。実施例1では、電極箔120の剥離は確認できなかった。
【0027】
[実施例2]
実施例2のセラミックスヒータ100は、電極箔120となるモリブデン箔の厚さを0.05mmに変更したことを除いて、実施例1のセラミックスヒータ100と同じである。
【0028】
実施例1と同様に、電極箔120の室温での抵抗値を求めたところ、4.55Ωであった。また、設定温度450℃に対する温度差Δは3.2℃であった。なお、電極箔120の剥離は確認できなかった。
【0029】
[実施例3]
実施例3のセラミックスヒータ100は、電極箔120の貫通孔の大きさ及び配置を除いて、実施例1のセラミックスヒータ100と同じである。実施例3では、電極箔120となるモリブデン箔の全面に一辺の長さが9mmの正三角形を敷き詰めたと仮定した場合の各頂点にあたる位置に、それぞれ直径3.0mmの貫通孔を形成した。実施例3の電極箔120の開孔率は約10.1%である。
【0030】
実施例1と同様に、電極箔120の室温での抵抗値を求めたところ、2.46Ωであった。また、設定温度450℃に対する温度差Δは4.8℃であった。なお、電極箔120の剥離は確認できなかった。
【0031】
[実施例4]
実施例4のセラミックスヒータ100は、電極箔120の貫通孔の大きさ及び配置を除いて、実施例1のセラミックスヒータ100と同じである。実施例4の電極箔120を図5に示している。アーチ部122とアーチ部125には、実施例1と同様に、一辺の長さが4mmの正三角形を敷き詰めたと仮定した場合の各頂点にあたる位置に、それぞれ直径1.0mmの貫通孔が形成されている。アーチ部122とアーチ部125における電極箔120の開孔率は、実施例1と同様に約5.7%である。アーチ部123とアーチ部124には、一辺の長さが2mmの正三角形を敷き詰めたと仮定した場合の各頂点にあたる位置に、それぞれ直径0.5mmの貫通孔が形成されている。アーチ部123とアーチ部124における電極箔120の開孔率も、約5.7%である。また、直線部126~128には貫通孔は形成されていない。電極箔120全体の開孔率は、直線部126~128に貫通孔が形成されていない分、5.7%よりも若干小さくなる。
【0032】
実施例1と同様に、電極箔120の室温での抵抗値を求めたところ、1.99Ωであった。また、設定温度450℃に対する温度差Δは2.8℃であった。なお、電極箔120の剥離は確認できなかった。
【0033】
[比較例1]
比較例1では、電極箔120は、貫通孔が形成されていない点を除いて、実施例1の電極箔120と同様である。
【0034】
実施例1と同様に、電極箔120の室温での抵抗値を求めたところ、0.68Ωであった。また、設定温度450℃に対する温度差Δは12℃であった。また、電極箔120がセラミックス基材110から剥離している箇所があることが確認された。
【0035】
[比較例2]
比較例2のメッシュ電極220(図6参照)は、モリブデン箔から形成されたものではなく、モリブデンメッシュを実施例1の電極箔120と同じ形状に裁断して形成されたものである。モリブデンメッシュのワイヤ径は0.1mmであり、メッシュサイズ(1インチ当たりのワイヤの本数)は50である。比較例2のメッシュ電極220の開孔率は約80.3%である。
【0036】
実施例1と同様に、メッシュ電極220の室温での抵抗値を求めたところ、3.41Ωであった。また、設定温度450℃に対する温度差Δは5.5℃であった。なお、メッシュ電極220の剥離は確認できなかった。
【0037】
<実施例及び比較例のまとめ>
図7は、上述の実施例1~4及び比較例1、2の結果をまとめた表を示している。
【0038】
実施例1、2においては、複数の貫通孔を電極箔120の全域に分散させることにより、裁断後の電極箔120の抵抗値のばらつきを抑えることができたと考えられる。その結果、実施例1、実施例2のいずれにおいても、設定温度450℃に対する温度差Δを5℃未満(実施例1では3.2℃、実施例2では3.3℃)に抑えることができた。
【0039】
実施例1においては、開孔率が5%以上となるように複数の貫通孔を電極箔120の全域に分散させている。そのため、電極箔120の抵抗値を1Ω以上(2.27Ω)にすることができた。これにより、セラミックスヒータ100の消費電流を低く抑えることができた。さらに、実施例2においては、電極箔120となるモリブデン箔の厚さを0.1mmから0.05mmにすることにより、電極箔120の抵抗値を4.55Ωまで高くすることができた。これにより、セラミックスヒータ100の消費電流をさらに低く抑えることができた。
【0040】
実施例3においては、電極箔120の開孔率が約10.1%まで大きくなるように、実施例1、2と比べて大きな径の貫通孔を形成している。このような場合であっても、複数の貫通孔を電極箔120に分散させることにより、電極箔120の抵抗値を1Ω以上(2.46Ω)にすることができた。これにより、セラミックスヒータ100の消費電流を低く抑えることができた。また、複数の貫通孔を電極箔120に分散させることにより、裁断後の電極箔120の抵抗値のばらつきを抑えることができた。その結果、実施例3においては設定温度450℃に対する温度差Δを5℃未満(4.8℃)に抑えることができた。
【0041】
実施例4においても、複数の貫通孔を電極箔120に分散させることにより、電極箔120の抵抗値を1Ω以上(1.99Ω)にすることができた。これにより、セラミックスヒータ100の消費電流を低く抑えることができた。実施例4の電極箔120は、電極箔120の全面に均等に貫通孔が分散しているわけではなく、貫通孔の分布を局所的に増減させるように調整している。これにより、電極箔120のパターンによってヒートスポット、コールドスポットが生じることを抑制することができた。その結果、実施例4においては設定温度450℃に対する温度差Δを5℃未満(2.8℃)に抑えることができた。
【0042】
比較例1においては、実施例1、3、4と同じ厚さのモリブデン箔を用いて電極箔120を形成しているものの、電極箔120には貫通孔が形成されていない。そのため、電極箔120の抵抗値が1Ω以下(0.68Ω)となってしまい、セラミックスヒータ100の消費電流を低く抑えることができなかった。また、電極箔120がセラミックス焼結体と直接結合しないため、電極箔120の剥離が発生したと考えられる。これに起因して、局所的なヒートスポットが発生し、セラミックスヒータ100のセラミックス基材110の上面111の温度のばらつきが大きくなった。その結果、比較例1においては、設定温度450℃に対する温度差Δが5℃以上(12℃)に上昇した。
【0043】
比較例2においては、モリブデン箔ではなく、モリブデンメッシュを用いてメッシュ電極220を形成している。図6に示されるように、メッシュを用いた場合には、ワイヤが上下に接触して交差する箇所があり、この接触部分において接触抵抗が発生する。このような接触抵抗の大きさは必ずしも一様ではことに起因して、メッシュ電極220の抵抗値のばらつきが、モリブデン箔を用いて電極箔120を形成している場合と比べて大きくなっていると考えられる。その結果、比較例2においては、設定温度450℃に対する温度差Δが5℃以上(5.5℃)に上昇した。
【0044】
<実施形態の作用効果>
上記実施形態において、セラミックスヒータ100は、セラミックス基材110と、セラミックス基材110に埋設された金属製の電極箔120とを備えている。電極箔120には、複数の貫通孔が分散している。電極箔に分散する複数の貫通孔の開孔率は、2.5%以上である。金属メッシュではなく、金属箔を用いて電極箔を形成しているので、メッシュを構成するワイヤ同士の接触による接触抵抗が発生しない。そのため、電極箔120の抵抗値のばらつきを抑えることができ、セラミックスヒータ100の温度分布のばらつきを低減させることができる。また、電極箔120に開孔率が2.5%以上となるように複数の貫通孔を分散させているので、電極箔120の抵抗値を高く(例えば、1Ω以上)することができる。これにより、セラミックスヒータ100に用いる電源の消費電流を抑えることができ、電源の大型化を抑制することができる。
【0045】
また、セラミックス基材110の内部に埋設された電極箔120に複数の貫通孔が分散しているので、セラミックス基材110の、電極箔120を挟んでの上下に位置する領域は、貫通孔を介して互いに接触している。これにより、電極箔120とセラミックス基材110とが強く接合しているため、電極箔120がセラミックス基材110から剥離することが抑制される。
【0046】
上記実施形態において、電極箔120として、タングステン(W)箔、モリブデン(Mo)箔、モリブデン及び/又はタングステンを含む合金の箔を用いている。これらはいずれも高い融点を有しているので、ヒータ用の電極材料として好適である。しかしながら、これらの金属箔(合金の箔)は体積抵抗率が比較的小さいため、電極箔120として用いるためには細長いパターンなどを採用して電極箔の抵抗値を高くする必要があった。但し、この場合には、電極箔の破断のリスクが増大してしまうことになる。本実施形態においては、電極箔120に貫通孔を分散させることにより、電極箔の抵抗値を高くしているので、上記のような細長いパターンを採用することに伴う電極箔の破断のリスクを回避することができる。
【0047】
<変更形態>
上述の実施形態は、あくまで例示に過ぎず、適宜変更しうる。例えば、電極箔120の形状、大きさ、厚さは上記実施形態のものには限られず、適宜変更しうる。また、上記実施形態においては、電極箔として、モリブデン箔、タングステン箔、モリブデン及び/又はタングステンを含む合金の箔を用いていたが、本発明はそのような態様には限られない。例えば、モリブデン、タングステン以外の金属の箔、又は、合金の箔を用いることもできる。
【0048】
上記実施形態及び実施例1~4においては、開孔率が5%以上である電極箔120を例に挙げて説明したが、本発明はこのような態様には限られない。例えば、電極箔120に一辺の長さが6mmの正三角形を敷き詰めたと仮定した場合の各頂点にあたる位置に、それぞれ直径1mmの貫通孔を形成してもよい。この場合には、電極箔120の開孔率は約2.52%である。また上記実施形態及び実施例1~4においては、開孔率が10.1%以下である電極箔120を例に挙げて説明したが、本発明はこのような態様には限られず、開孔率をさらに大きくすることもできる。例えば、電極箔120に一辺の長さが0.1mmの正三角形を敷き詰めたと仮定した場合の各頂点にあたる位置に、それぞれ直径0.05mmの貫通孔を形成してもよい。この場合には、電極箔120の開孔率は約22.26%である。あるいは、一辺の長さが5mmの正三角形を敷き詰めたと仮定した場合の各頂点にあたる位置に、それぞれ直径3mmの貫通孔を形成してもよい。この場合には、電極箔120の開孔率は約32.63%である。これらの場合はさらに電極箔120の抵抗値を高めることができるため、好適である。
【0049】
なお、上記説明では、貫通孔が等間隔のピッチで配置されるように、まんべんなく敷き詰めた正三角形の頂点に対応する位置に、貫通孔が形成されていた。しかしながら、本発明はそのような態様には限られず、任意の位置に複数の貫通孔を分散させることができる。例えば、図8に示されるように、複数の貫通孔をランダムに配置することもできる。また、上記実施例1~4においては、直径が0.5mm~3.0mmの同形状の貫通孔が分散している態様を例に挙げたが、本発明はこのような態様には限られない。分散するように配置される貫通孔は同形状であることには限られず、平均径が0.05mm~3.0mmの範囲内であればよい。ここで、径とは、貫通孔の開口の最長径(例えば、正方形であれば対角線の長さ)をいう。
【0050】
以上、発明の実施形態及びその変更形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記の記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることが当業者に明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが請求の範囲の記載からも明らかである。
【0051】
明細書、及び図面中において示した製造方法における各処理の実行順序は、特段に順序が明記されておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるので無い限り、任意の順序で実行しうる。便宜上、「まず、」「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するわけではない。
【符号の説明】
【0052】
100 セラミックスヒータ
110 セラミックス基材
120 電極箔
130 シャフト
140 給電線

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8