IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -プロトン伝導材料 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】プロトン伝導材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20250218BHJP
   C08L 27/22 20060101ALI20250218BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20250218BHJP
   C08L 39/04 20060101ALI20250218BHJP
   H01M 8/1018 20160101ALI20250218BHJP
   C08F 212/14 20060101ALI20250218BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20250218BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20250218BHJP
   H01B 1/12 20060101ALN20250218BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L27/22
C08L25/18
C08L39/04
H01M8/1018
C08F212/14
H01M8/10 101
H01B1/06 A
H01B1/12 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021127876
(22)【出願日】2021-08-04
(65)【公開番号】P2023022853
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中野 環
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-242833(JP,A)
【文献】特開2004-335231(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183397(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/156228(WO,A1)
【文献】特開2008-084852(JP,A)
【文献】特開2002-246041(JP,A)
【文献】特開2007-179925(JP,A)
【文献】特開2012-124157(JP,A)
【文献】国際公開第2015/166935(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
H01M
H01B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン源基を含む高分子、及びプロトンチャネルを含む高分子を含有し、前記プロトン源基を含む高分子、及び前記プロトンチャネルを含む高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種が、芳香環を含む高分子であり、前記芳香環を含む高分子の少なくとも一部がπ-π相互作用により積層した構造を有する、プロトン伝導材料(但し、有機リン化合物を含むものを除く)であり、
下記(i)、(ii)、(iii)又は(iv)の構成を有する、プロトン伝導材料。
(i)前記プロトン源基を含む高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、前記プロトンチャネルを含む高分子として、数平均分子量Mnが1000~2000のポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)を、前記スチレンスルホン酸系ポリマー100質量部に対して1~15質量部の割合で含有する。
(ii)前記プロトン源基を含む高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、前記プロトンチャネルを含む高分子として、数平均分子量Mnが500~2000のポリ(2-ビニルピリジン)を、前記スチレンスルホン酸系ポリマー100質量部に対して8~12質量部の割合で含有する。
(iii)前記プロトン源基を含む高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、前記プロトンチャネルを含む高分子として、数平均分子量Mnが900~1100のポリ(1,10-フェナントロリン)を、前記スチレンスルホン酸系ポリマー100質量部に対して1~3質量部の割合で含有する。
(iv)前記プロトン源基を含む高分子として、パーフルオロスルホン酸系ポリマーを含有し、前記プロトンチャネルを含む高分子として、数平均分子量Mnが9000~11000のポリ(1,10-フェナントロリン)を、前記パーフルオロスルホン酸系ポリマー100質量部に対して8~12質量部の割合で含有する。
【請求項2】
前記プロトンチャネルを含む高分子として、更にポリエチレンオキサイドを含有する、請求項に記載のプロトン伝導材料。
【請求項3】
前記(i)の構成を有し、
前記数平均分子量Mnが1000~2000のポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)を、前記スチレンスルホン酸系ポリマー100質量部に対して1~5質量部の割合で含有し、更に、数平均分子量がMn600~510000のポリエチレンオキサイドを、前記スチレンスルホン酸系ポリマー100質量部に対して8~12質量部の割合で含有する、請求項に記載のプロトン伝導材料。
【請求項4】
プロトン源基及びプロトンチャネルを含む高分子を含有し、
前記プロトン源基及びプロトンチャネルを含む高分子が、プロトン源基及び芳香環を含む主骨格と、プロトンチャネルを含む架橋構造とを有する高分子であり、
前記主骨格がスチレンスルホン酸系ポリマーに由来する主骨格であり、且つ当該スチレンスルホン酸系ポリマーの全構成単位100質量部中、スチレンスルホン酸に由来する構成単位の含有量が95質量部以上であり、
前記架橋構造がN,N’-メチレンビスアクリルアミドに由来する架橋構造であり、
前記主骨格100質量部に対し、前記架橋構造を1~5質量部の割合で含み、
前記プロトン源基及びプロトンチャネルを含む高分子の少なくとも一部がπ-π相互作用により積層した構造を有する、プロトン伝導材料。
【請求項5】
前記スチレンスルホン酸系ポリマーが、スチレンスルホン酸に由来する構成単位からなるポリスチレンスルホン酸である、請求項4に記載のプロトン伝導材料。
【請求項6】
更にプロトンチャネルを含む高分子を含有し、
前記プロトンチャネルを含む高分子として、ピリジル基、フェナントロリン基及びジアザジベンゾフルベン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を含む高分子を含有する、請求項4又は5に記載のプロトン伝導材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池に用いられる固体電解質膜等に使用可能なプロトン伝導材料に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に用いられる固体電解質膜として、従来、Nafion(登録商標、以下同じ)等のパーフルオロスルホン酸樹脂膜が用いられている。しかし、パーフルオロスルホン酸樹脂膜で高いプロトン伝導率を実現するためには、水の存在が不可欠であるため、水の沸点(100℃)未満の温度で使用する必要がある。そのため、パーフルオロスルホン酸樹脂膜を用いた従来の燃料電池では、適度な水分を確保するための加湿システムや温度制御システム等が導入され、燃料電池装置の大型化及びコストの増大が問題となっている。
【0003】
こうした状況から近年では、無加湿下で使用可能なプロトン伝導材料の開発が試みられている。無加湿下で使用可能な固体電解質膜として、例えば特許文献1には、リン酸等の強酸と、ポリベンズイミダゾール等の塩基性ポリマーとを含む電解質膜が開示されている。
また、特許文献2には、使用温度において相互に凝集してドメインを形成するAブロックと、プロトン受容性基を有するBブロックとを有し、ドメイン間をBブロックが橋架けしているブロック共重合体と、難揮発性の酸性物質である可塑剤を含むプロトン伝導膜が開示されている。
【0004】
一方、特許文献3に記載されるような、無機多孔質膜と、該無機多孔質膜に保持されたイオン液体とから構成されるイオン伝導体も、無加湿下で使用可能な電解質膜として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-32275号公報
【文献】特開2020-68130号公報
【文献】特開2007-311311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3に開示される電解質膜を燃料電池に用いた場合、生成水により電解質膜から酸又はイオン液体が溶出するため、燃料電池の動作が不安定になり、発電性能が低下しやすいという問題がある。
【0007】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、無加湿下でも高いプロトン伝導率を有し、水に対し溶出しないプロトン伝導材料を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料は、プロトン源基を含む高分子、及びプロトンチャネルを含む高分子を含有し、前記プロトン源基を含む高分子、及び前記プロトンチャネルを含む高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種が、芳香環を含む高分子であり、前記芳香環を含む高分子の少なくとも一部がπ-π相互作用により積層した構造を有することを特徴とする。
【0009】
本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料においては、前記プロトン源基を含む高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマー及びパーフルオロスルホン酸系ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含有するものであってもよい。
【0010】
本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料においては、前記プロトンチャネルを含む高分子として、ピリジル基、フェナントロリン基及びジアザジベンゾフルベン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を含む高分子を含有するものであってもよい。
本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料においては、前記プロトンチャネルを含む高分子として、更にポリエチレンオキサイドを含有するものであってもよい。
【0011】
本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料は、プロトン源基及びプロトンチャネルを含む高分子を含有し、前記プロトン源基及びプロトンチャネルを含む高分子が、プロトン源基及び芳香環を含む主骨格と、プロトンチャネルを含む架橋構造とを有する高分子であり、前記プロトン源基及びプロトンチャネルを含む高分子の少なくとも一部がπ-π相互作用により積層した構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、無加湿下でも高いプロトン伝導率を有し、水に対し溶出しないプロトン伝導材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例18のプロトン伝導膜と比較例2の比較伝導膜について、各温度でのプロトン伝導率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料は、プロトン源基を含む高分子、及びプロトンチャネルを含む高分子を含有し、前記プロトン源基を含む高分子、及び前記プロトンチャネルを含む高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種が、芳香環を含む高分子であり、前記芳香環を含む高分子の少なくとも一部がπ-π相互作用により積層した構造を有することを特徴とする。
本開示の第一の実施形態においては、前記プロトン源基を含む高分子のことを「プロトン源高分子」と称する場合があり、前記プロトンチャネルを含む高分子のことを「プロトンチャネル高分子」と称する場合がある。
【0015】
本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料は、プロトン源基及びプロトンチャネルを含む高分子を含有し、前記プロトン源基及びプロトンチャネルを含む高分子が、プロトン源基及び芳香環を含む主骨格と、プロトンチャネルを含む架橋構造とを有する高分子であり、前記プロトン源基及びプロトンチャネルを含む高分子の少なくとも一部がπ-π相互作用により積層した構造を有することを特徴とする。
本開示の第二の実施形態においては、前記プロトン源基及びプロトンチャネルを含む高分子のことを「プロトン源架橋高分子」と称する場合がある。
また、本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料は、更に、プロトン源基を含まず、プロトンチャネルを含む高分子を含有していてもよい。
本開示の第二の実施形態においては、プロトン源基を含まず、プロトンチャネルを含む高分子のことを「プロトンチャネル高分子」と称する場合がある。
【0016】
本開示のプロトン伝導材料は、上記第一の実施形態及び第二の実施形態のいずれにおいても、無加湿下で高いプロトン伝導率を有する。本開示のプロトン伝導材料は、プロトンを放出するプロトン源基と、プロトンを配位するプロトンチャネルを含むため、無加湿下においてもプロトン伝導性を示す。
上記第一の実施形態では、プロトン源基又はプロトンチャネルが化学的に結合した高分子が、π-π相互作用により積層した構造を有することにより、プロトンが移動しやすい結晶的な秩序構造が形成され、プロトン源基及びプロトンチャネル間でプロトン伝導パスが生じやすいコンフォメーションを有すると推定され、それにより、無加湿下でも高いプロトン伝導率を有すると推定される。
上記第二の実施形態では、プロトン源基及び芳香環を含む主骨格と、プロトンチャネルを含む架橋構造を有する高分子がπ-π相互作用により積層した構造を有することにより、プロトンが移動しやすい結晶的な秩序構造が形成され、主骨格中のプロトン源基及び架橋構造中のプロトンチャネル間でプロトン伝導パスが生じやすいコンフォメーションを有すると推定され、それにより、無加湿下でも高いプロトン伝導率を有すると推定される。
また、上記第一の実施形態及び第二の実施形態のいずれにおいても、プロトン源基及びプロトンチャネルが、高分子に化学的に結合していることにより水に溶出しないため、本開示のプロトン伝導材料は水に溶出する成分を含まない。本開示のプロトン伝導材料を燃料電池等に使用した場合は、生成水に対する酸等の溶出がないため、燃料電池の動作が不安定になり難い。
また、特許文献1~3に開示される電解質膜は、無加湿下で使用可能ではあるが、特許文献1、3に開示される電解質膜は、100℃以下の中低温域でプロトン伝導率が低下する傾向があり、特許文献2に開示される電解質膜は、ガラス転移温度が低いために高温域での使用が困難である。そのため、特許文献1~3に開示される電解質膜を用いた場合、広い温度域において高いプロトン伝導率を維持するのが困難である。これに対し、本開示のプロトン伝導材料の好ましい実施形態では、広い温度域において無加湿下で高いプロトン伝導率を有することができる。π-π相互作用又は架橋により高分子の構造が安定しており、温度変化による高分子の構造の転移が起きにくいため、広い温度域で高いプロトン伝導率を示すと推定される。広い温度域において、無加湿下で高いプロトン伝導率を有するプロトン伝導膜を燃料電池に用いた場合、燃料電池装置に導入する加湿システムや温度制御システム等をより一層簡素化することができる、又は撤廃することができるため、燃料電池装置の画期的低コスト化を実現することができる。
【0017】
なお、本開示において、無加湿下とは、湿度が5%RH以下の環境下のことである。
また、本開示において、芳香環は、芳香族炭化水素環であってもよいし、芳香族複素環であってもよい。
また、本開示において、数値範囲における「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
以下、本開示のプロトン伝導材料の第一の実施形態及び第二の実施形態について、詳細に説明する。
【0018】
<第一の実施形態>
本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料は、プロトン源高分子及びプロトンチャネル高分子を含有し、プロトン源高分子及びプロトンチャネル高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種が芳香環を含む高分子であり、当該芳香環を含む高分子の少なくとも一部がπ-π相互作用により積層した構造を有している。
本開示の第一の実施形態において、プロトン源高分子とプロトンチャネル高分子とは、互いに異なる高分子であり、プロトン源高分子は、プロトンチャネルを含まないことが好ましく、プロトンチャネル高分子は、プロトン源基を含まないことが好ましい。
【0019】
(プロトン源高分子)
本開示において、プロトン源基は、プロトンを放出可能な基であればよく、特に限定はされない。プロトン源基としては、例えば、スルホ基(-SOH)、カルボキシ基(-COOH)、ヒドロキシ基(-OH)、チオール基(-SH)、イミダゾール基、ベンゾイミダゾール基等を挙げることができる。これらのうち、プロトン伝導率を向上する点からは、スルホ基が好ましい。π-π相互作用による積層構造を形成しやすいプロトン源基としては、例えば、イミダゾール基、ベンゾイミダゾール基等の芳香環を含むプロトン源基が好ましく用いられる。
【0020】
上記プロトン源高分子は、プロトン伝導材料のプロトン伝導率を向上する点から、全構成単位100質量部中、プロトン源基を含む単量体に由来する構成単位の含有量が、好ましくは90質量部以上、より好ましくは95質量部以上であり、プロトン源基を含む単量体に由来する構成単位からなる高分子であってもよい。
【0021】
プロトン源高分子は、炭化水素系有機高分子であってもよいし、パーフルオロ系有機高分子であってもよい。なお、本開示において、炭化水素系有機高分子は、ヘテロ原子を含有していてもよく、パーフルオロ系有機高分子は、フッ素以外のヘテロ原子を含有していてもよい。
【0022】
炭化水素系プロトン源高分子において、プロトン源基を含む単量体に由来する構成単位としては、例えば、4-スチレンスルホン酸、4-ビニル安息香酸、2-ビニル安息香酸、4-ビニルフェノール、2-ビニルフェノール、1-ビニルイミダゾール、2-ビニルイミダゾール、4-ビニルイミダゾール、4-(1H-イミダゾール-1-イル)スチレン、2-ビニル-1H-ベンゾイミダゾール、1-ビニル-1H-ベンゾイミダゾール、4-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)スチレン等の単量体に由来する構成単位が挙げられる。なお、本開示において、スチレンスルホン酸に由来する構成単位には、スチレンスルホン酸ナトリウム等の塩を重合した後に水素化したものも含まれる。
【0023】
炭化水素系プロトン源高分子としては、プロトン伝導材料のプロトン伝導率を向上する点から、スチレンスルホン酸系ポリマーが好ましく用いられる。本開示において、スチレンスルホン酸系ポリマーとは、スチレンスルホン酸に由来する構成単位を含む高分子を意味する。
上記スチレンスルホン酸系ポリマーは、全構成単位100質量部中、スチレンスルホン酸に由来する構成単位の含有量が、好ましくは90質量部以上、より好ましくは95質量部以上であり、スチレンスルホン酸に由来する構成単位からなるポリスチレンスルホン酸であってもよい。
上記スチレンスルホン酸系ポリマーが、スチレンスルホン酸以外の他の単量体に由来する構成単位を含む場合において、他の単量体としては、例えば、スチレン、スルホ基以外の置換基を有する置換スチレン、ビニルフルオレン、ジベンゾフルベン、4,5-ジアザベンゾフルベン等が挙げられる。
【0024】
上記スチレンスルホン酸系ポリマーの数平均分子量Mnは、特に限定はされないが、好ましくは4000~10000、より好ましくは5000~9000、更に好ましくは6000~8000である。上記スチレンスルホン酸系ポリマーは、数平均分子量Mnが上記範囲内であると、プロトン源基が集積化されやすく、プロトン伝導パスが生じやすくなるため、プロトン伝導材料のプロトン伝導率が向上しやすい。
【0025】
π-π相互作用により積層した構造を形成しやすい炭化水素系プロトン源高分子としては、例えば、芳香環を含む炭化水素系プロトン源高分子が用いられる。中でも、ビニルイミダゾール、4-(1H-イミダゾール-1-イル)スチレン及びビニルベンゾイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を含む高分子が好ましく用いられる。当該高分子は、ビニルイミダゾール、4-(1H-イミダゾール-1-イル)スチレン又はビニルベンゾイミダゾールに由来する構成単位の含有量が、全構成単位100質量部中、好ましくは90質量部以上、より好ましくは95質量部以上であり、100質量部であってもよい。
上記芳香環を含む炭化水素系プロトン源高分子の数平均分子量Mnは、特に限定はされないが、好ましくは1000~100,000である。
【0026】
パーフルオロ系プロトン源高分子は、主鎖又は側鎖にプロトン源基を含み、更にヘテロ原子を含んでいてもよいパーフルオロカーボンからなる高分子である。プロトン伝導材料のプロトン伝導率を向上する点から、プロトン源基は側鎖に含まれていることが好ましい。
プロトン伝導材料のプロトン伝導率を向上する点から、パーフルオロ系プロトン源高分子としては、中でも、スルホ基を含むパーフルオロスルホン酸系ポリマーが好ましく、側鎖にスルホ基を含むパーフルオロスルホン酸系ポリマーがより好ましく、パーフルオロアルキレンからなる主鎖と、スルホ基で置換されたパーフルオロビニルエーテルに由来する側鎖とを有するパーフルオロスルホン酸系ポリマーが特に好ましい。上記パーフルオロスルホン酸系ポリマーとしては、例えば、Nafion(登録商標、Dupont社製)、Aquivion(登録商標、Solvay社製)等を好適に用いることができる。なお、Nafion(登録商標)は、テトラフルオロエチレンと、パーフルオロ[2-(フルオロスルフォニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]との共重合体である。
【0027】
上記プロトン源高分子としては、プロトン伝導材料のプロトン伝導率が向上しやすい点から、上記スチレンスルホン酸系ポリマー及び上記パーフルオロスルホン酸系ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
一方、プロトン伝導材料が含有するプロトンチャネル高分子が芳香環を含まない場合は、上記プロトン源高分子としては、π-π相互作用による積層構造を形成しやすいプロトン源高分子を含有することが好ましく、中でも、ビニルイミダゾール、4-(1H-イミダゾール-1-イル)スチレン及びビニルベンゾイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を含む高分子を含有することが好ましい。
【0028】
(プロトンチャネル高分子)
本開示において、プロトンチャネルは、プロトンを配位可能な構造であればよく、特に限定はされない。プロトンチャネルとなる構造としては、例えば、ピリジル基、フェナントロリン基、ジアザジベンゾフルベン基、ポリアルキレンオキシド基、1級又は2級アミノ基、アミド基、アミド結合等を挙げることができる。
これらのうち、π-π相互作用による積層構造を形成しやすく、プロトン伝導率を向上しやすいプロトンチャネルとしては、ピリジル基、フェナントロリン基、及びジアザジベンゾフルベン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基が好ましく、中でも、2-ピリジル基、1,10-フェナントロリン基、及び4,5-ジアザジベンゾフルベン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基がより好ましい。
なお、本開示において、1,10-フェナントロリン基とは、下記化学式(1)で表される基であり、4,5-ジアザジベンゾフルベン基とは下記化学式(2)で表される基である。なお、化学式(1)、(2)中、*は結合手を表す。
【0029】
【化1】
【0030】
上記プロトンチャネル高分子は、プロトン伝導材料のプロトン伝導率を向上する点から、全構成単位100質量部中、プロトンチャネルを含む単量体に由来する構成単位の含有量が、好ましくは90質量部以上、より好ましくは95質量部以上であり、プロトンチャネルを含む単量体に由来する構成単位からなる高分子であってもよい。
【0031】
上記プロトンチャネル高分子は、炭化水素系有機高分子であってよい。
上記プロトンチャネル高分子において、プロトンチャネルを含む単量体に由来する構成単位としては、例えば、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等の単量体に由来する構成単位、及び、1,10-フェナントロリン、4,5-ジアザジベンゾフルベン等が挙げられる。
【0032】
π-π相互作用による積層構造を形成しやすく、プロトン伝導材料のプロトン伝導率を向上しやすいプロトンチャネル高分子としては、芳香環を含むプロトンチャネル高分子が用いられ、中でも、2-ビニルピリジンに由来する構成単位、1,10-フェナントロリン及び4,5-ジアザジベンゾフルベンからなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位を含む高分子が好ましく用いられる。中でも、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(1,10-フェナントロリン)及びポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。ここで、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(1,10-フェナントロリン)及びポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)は、それぞれ、2-ビニルピリジンに由来する構成単位、1,10-フェナントロリン及び4,5-ジアザジベンゾフルベンの含有量が、全構成単位100質量部中、90質量部以上であればよく、より好ましくは95質量部以上であり、100質量部であってもよい。
ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(1,10-フェナントロリン)及びポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)が他の単量体に由来する構成単位を含む場合において、他の単量体としては、例えば、スチレン、置換スチレン、ビニルフルオレン、ジベンゾフルベン、4,5-ジアザベンゾフルベン等が挙げられる。
なお、他の構成単位を含有しないポリ(1,10-フェナントロリン)は、下記化学式(1’)で表される高分子であり、他の構成単位を含有しないポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)は、下記化学式(2’)で表される高分子である。
【0033】
【化2】
【0034】
ポリ(2-ビニルピリジン)の数平均分子量Mnは、特に限定はされないが、好ましくは300~3000、より好ましくは400~2500、更に好ましくは500~2000である。ポリ(2-ビニルピリジン)は、数平均分子量Mnが上記範囲内であると、π-π相互作用により2-ピリジル基が集積化されやすく、プロトン伝導パスが生じやすくなるため、プロトン伝導材料のプロトン伝導率が向上しやすい。
【0035】
ポリ(1,10-フェナントロリン)の数平均分子量Mnは、特に限定はされないが、プロトン源高分子として上記スチレンスルホン酸系ポリマーを用いる場合は、好ましくは700~1500、より好ましくは800~1300、更に好ましくは900~1100、特に好ましくは1000であり、一方、プロトン源高分子として上記パーフルオロスルホン酸系ポリマーを用いる場合は、好ましくは7000~15000、より好ましくは8000~13000、更に好ましくは9000~11000、特に好ましくは10000である。ポリ(1,10-フェナントロリン)は、数平均分子量Mnが上記範囲内であると、π-π相互作用により1,10-フェナントロリン基が集積化されやすく、プロトン伝導パスが生じやすくなるため、プロトン伝導材料のプロトン伝導率が向上しやすい。
なお、ポリ(1,10-フェナントロリン)は、例えば、W.Yang and T.Nakano,Chem.Commun.,2015,51,p.17269-17272を参照して合成することができる。
【0036】
ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)の数平均分子量Mnは、好ましくは800~2400、より好ましくは1000~2000、更に好ましくは1400~1800、特に好ましくは1600である。ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)は、数平均分子量Mnが上記範囲内であると、π-π相互作用により4,5-ジアザジベンゾフルベン基が集積化されやすく、プロトン伝導パスが生じやすくなるため、プロトン伝導材料のプロトン伝導率が向上しやすい。
なお、ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)は、例えば、第63回高分子年次大会(発表番号1Pa007)を参照して合成することができる。
【0037】
また、プロトンチャネル高分子としては、プロトン伝導材料の耐久性を向上する点から、ポリアルキレンオキサイドも好ましく、中でも、ポリエチレンオキサイドがより好ましい。
プロトンチャネル高分子として、ピリジル基、フェナントロリン基及びジアザジベンゾフルベン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を含むプロトンチャネル高分子と、ポリアルキレンオキサイドとを組み合わせて含有すると、プロトン伝導材料のプロトン伝導率を向上しながら、耐久性も向上できる点から好ましい。ポリアルキレンオキサイドを含むことにより耐久性が向上したプロトン伝導材料によれば、柔軟性に優れたプロトン伝導膜を提供することができ、プロトン伝導膜の大面積薄膜化が可能である。
なお、本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料は、プロトン源高分子として、π-π相互作用による積層構造を形成する高分子を含む場合は、プロトンチャネル高分子としては、ポリアルキレンオキサイドのみを含有するものであってもよい。
【0038】
ポリエチレンオキサイドの数平均分子量Mnは、特に限定はされないが、好ましくは300~600000、より好ましくは500~550000、更に好ましくは600~510000である。ポリエチレンオキサイドは、数平均分子量Mnが上記下限値以上であると、プロトン伝導材料の耐久性を向上する効果に優れ、上記上限値以下であると、プロトン伝導材料のプロトン伝導率の低下が抑制される。
【0039】
本開示の第一の実施形態において、プロトン源高分子とプロトンチャネル高分子との組み合わせのうち、特に高いプロトン伝導率を実現する好ましい組み合わせとしては、例えば、プロトン源高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、プロトンチャネル高分子として、ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)を含有する組み合わせ、プロトン源高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、プロトンチャネル高分子として、ポリ(2-ビニルピリジン)を含有する組み合わせ、プロトン源高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、プロトンチャネル高分子として、数平均分子量Mnが900~1100のポリ(1,10-フェナントロリン)を含有する組み合わせ、プロトンチャネル高分子として、パーフルオロスルホン酸系ポリマーを含有し、プロトンチャネル高分子としてとして、数平均分子量Mnが9000~11000のポリ(1,10-フェナントロリン)を含有する組み合わせ等を挙げることができる。これらのうち、高温下でのプロトン伝導率が特に高い点から、プロトン源高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、プロトンチャネル高分子として、ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)を含有する組み合わせが好ましい。
また、高いプロトン伝導率と優れた耐久性を有する点から、上述した好ましいの組み合わせに、更に、プロトン高分子チャネルとしてポリエチレンオキサイドを含有する組み合わせも好ましい。中でも、高温下でのプロトン伝導率が特に高く、高いプロトン伝導率と優れた耐久性を有する点から、プロトン源高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、プロトンチャネル高分子として、ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)及びポリエチレンオキサイドを含有する組み合わせが好ましい。
【0040】
本開示の第一の実施形態において、プロトン源高分子とプロトンチャネル高分子との質量比は、各高分子の種類に応じてプロトン伝導率が向上するように適宜調整され、特に限定はされないが、プロトン源高分子100質量部に対し、プロトンチャネル高分子の含有量は、通常1~15質量部であり、好ましくは2~10質量部である。プロトン源高分子に対するプロトンチャネル高分子の含有量が上記範囲内であると、プロトン源基及びプロトンチャネル間でプロトン伝導パスが生じやすいコンフォメーションになりやすいため、プロトン伝導率が向上しやすい。
中でも、プロトン源高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、プロトンチャネル高分子として、ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)を含有する組み合わせの場合、スチレンスルホン酸系ポリマー100質量部に対するポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)の含有量は、好ましくは1~15質量部、より好ましくは3~10質量部である。
プロトン源高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、プロトンチャネル高分子として、ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)を含有し、更にポリエチレンオキサイドを含有する組み合わせの場合は、スチレンスルホン酸系ポリマー100質量部に対し、ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)の含有量は、好ましくは1~5質量部、より好ましくは2~4質量部、更に好ましくは3質量部であり、ポリエチレンオキサイドの含有量は、好ましくは8~12質量部、より好ましくは9~11質量部、更に好ましくは10質量部である。
プロトン源高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、プロトンチャネル高分子として、ポリ(2-ビニルピリジン)を含有する組み合わせの場合、スチレンスルホン酸系ポリマー100質量部に対するポリ(2-ビニルピリジン)の含有量は、好ましくは8~12質量部、より好ましくは9~11質量部、更に好ましくは10質量部である。
プロトン源高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、プロトンチャネル高分子として、数平均分子量Mnが900~1100のポリ(1,10-フェナントロリン)を含有する組み合わせの場合、スチレンスルホン酸系ポリマー100質量部に対するポリ(1,10-フェナントロリン)の含有量は、好ましくは1~5質量部、より好ましくは1~3質量部、更に好ましくは2質量部である。
プロトンチャネル高分子として、パーフルオロスルホン酸系ポリマーを含有し、プロトンチャネル高分子としてとして、数平均分子量Mnが9000~11000のポリ(1,10-フェナントロリン)を含有する組み合わせの場合、パーフルオロスルホン酸系ポリマー100質量部に対するポリ(1,10-フェナントロリン)の含有量は、好ましくは8~12質量部、より好ましくは9~11質量部、更に好ましくは10質量部である。
また、プロトン源高分子として、スチレンスルホン酸系ポリマー及びパーフルオロスルホン酸系ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含有し、プロトンチャネル高分子として、ポリ(2-ビニルピリジン)及びポリ(1,10-フェナントロリン)から選ばれる少なくとも1種を含有し、更にポリエチレンオキサイドを含有する組み合わせの場合、スチレンスルホン酸系ポリマー100質量部に対するポリエチレンオキサイドの含有量は、好ましくは8~12質量部、より好ましくは9~11質量部、更に好ましくは10質量部である。
【0041】
(物性)
本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料は、芳香環を含む高分子の少なくとも一部がπ-π相互作用により積層した構造を有する。
プロトン伝導材料中の高分子がπ-π相互作用により積層した構造を有することは、例えば、H-NMRスペクトル又は紫外線吸収スペクトルにより確認することができる。具体的には、T.Nakano and T.Yade,Journal of the American Chemical Society,2003,125,p.15474-15484に記載の方法を採用することができる。
本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料においては、上述したプロトン源高分子及びプロトンチャネル高分子のうち、芳香環を含み、π-π相互作用により積層した構造を形成しやすいプロトン源高分子及びプロトンチャネル高分子の少なくともいずれかを含有することにより、芳香環を含む高分子の少なくとも一部がπ-π相互作用により積層した構造を有するプロトン伝導材料とすることができる。
【0042】
本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料は、25℃、無加湿下において、膜状に成形したプロトン伝導材料の膜厚方向のプロトン伝導率を、10mS/cm以上とすることができ、好ましくは20mS/cm以上とすることができ、より好ましくは30mS/cm以上とすることができる。
【0043】
本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料の形態は、特に限定はされず、例えば、膜状であってもよく、すなわち、プロトン伝導膜であってもよい。プロトン伝導膜は、例えば、燃料電池の固体電解質膜として使用することができる。
プロトン伝導膜の膜厚は、用途に応じて適宜調整され、特に限定はされないが、例えば、0.1~5.0mmとすることができる。
【0044】
(製造方法)
本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料の製造方法は、上述したプロトン伝導材料を得られる方法であればよく、特に限定はされない。例えば、プロトン源高分子、プロトンチャネル高分子、及び溶媒を含有する混合液を得る工程と、当該混合液から溶媒を除去する工程とを有する方法により、本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料を製造することができる。
【0045】
上記混合液に用いられる溶媒は、高分子の種類に応じて適宜選択され、特に限定はされず、例えば、水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒等を使用することができる。上記混合液は、例えば、プロトン源高分子を溶媒に溶解した溶液と、プロトンチャネル高分子を溶媒に溶解した溶液とを混合することにより得ることができる。その場合は、これらの溶液が均一に混合するように溶媒を選択するのが好ましく、例えば、水、アルコール又はこれらの混合溶媒を好ましく用いることができる。アルコールとしては、典型的にはメタノールが用いられる。
【0046】
プロトン伝導材料を膜状にする場合は、上記混合液から溶媒を除去する工程において、例えば、ドロップキャスト法により上記混合液を膜状に乾燥することにより、膜状のプロトン伝導材料を作製することができる。
上記混合液から溶媒を除去する方法としては、特に限定はされず、例えば、室温で、或いは例えば60℃としたホットプレート上で、空気雰囲気下で乾燥することにより、溶媒を除去してもよい。
【0047】
<第二の実施形態>
本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料は、プロトン源架橋高分子を含有し、上記プロトン源架橋高分子が、プロトン源基及び芳香環を含む主骨格と、プロトンチャネルを含む架橋構造とを有する高分子であり、上記プロトン源架橋高分子の少なくとも一部がπ-π相互作用により積層した構造を有している。
上記プロトン源架橋高分子は、プロトン源基及び芳香環を含む主骨格が、プロトンチャネルを含む架橋構造により架橋され、三次元の立体的な構造を有することにより、π-π相互作用により積層した構造を形成しやすいと推定される。
本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料は、上述した通り、無加湿下でも高いプロトン伝導率を有する。また、本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料は、プロトン源架橋高分子が架橋構造を有することにより、優れた耐久性を維持することができる。そのため、本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料は、高いプロトン伝導率を有しながら、耐久性にも優れており、経時劣化が抑制されるため、より長時間高いプロトン伝導率を維持することができるプロトン伝導膜を提供することができる。また、本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料は、柔軟性に優れるため、プロトン伝導膜の大面積薄膜化が可能である。
【0048】
(プロトン源架橋高分子)
本開示の第二の実施形態に用いられるプロトン源架橋高分子は、プロトン源基及び芳香環を含む高分子骨格である主骨格と、プロトンチャネルを含む架橋構造とを有する高分子であり、炭化水素系有機高分子であってよい。プロトン源基については、上述した第一の実施形態と同様であり、第一の実施形態において好ましいプロトン源基が、第二の実施形態においても同様に好ましい。
【0049】
上記プロトン源架橋高分子は、プロトン伝導材料のプロトン伝導率を向上する点から、主骨格の全構成単位100質量部中、プロトン源基を含む単量体に由来する構成単位の含有量が、好ましくは90質量部以上、より好ましくは95質量部以上であり、主骨格がプロトン源基を含む単量体に由来する構成単位からなる高分子骨格であってもよい。
更に、上記プロトン源架橋高分子は、π-π相互作用により積層した構造を形成しやすく、プロトン伝導材料のプロトン伝導率が向上しやすい点から、主骨格の全構成単位100質量部中、プロトン源基及び芳香環を含む単量体に由来する構成単位の含有量が、好ましくは90質量部以上、より好ましくは95質量部以上であり、主骨格がプロトン源基及び芳香環を含む単量体に由来する構成単位からなる高分子骨格であってもよい。
なお、本開示の第二の実施形態において、プロトン源架橋高分子中の主骨格の質量、及び架橋構造の質量は、それぞれ、主骨格を形成する化合物に由来する構造の質量、及び架橋構造を形成する化合物に由来する構造の質量であり、当該高分子を合成する際に用いた各化合物の質量から算出することができる。
【0050】
上記プロトン源架橋高分子において、主骨格に含まれる、プロトン源基及び芳香環を含む単量体に由来する構成単位としては、例えば、4-スチレンスルホン酸、4-ビニル安息香酸、2-ビニル安息香酸、4-ビニルフェノール、2-ビニルフェノール、1-ビニルイミダゾール、2-ビニルイミダゾール、4-ビニルイミダゾール、4-(1H-イミダゾール-1-イル)スチレン、2-ビニル-1H-ベンゾイミダゾール、1-ビニル-1H-ベンゾイミダゾール等の単量体に由来する構成単位が挙げられる。
中でも、π-π相互作用により積層した構造を形成しやすく、プロトン伝導材料のプロトン伝導率が向上しやすい点から、スチレンスルホン酸系ポリマーに由来する主骨格が好ましい。第二の実施形態において主骨格となるスチレンスルホン酸系ポリマーについて、スチレンスルホン酸に由来する構成単位の含有量、及び数平均分子量等の好ましい態様は、上述した第一の実施形態に用いられるスチレンスルホン酸系ポリマーと同様である。
【0051】
プロトン源架橋高分子が有する架橋構造は、プロトンチャネルを含む架橋構造である。当該架橋構造は、共有結合により形成される架橋構造であってもよいし、共有結合以外の分子間力により形成される架橋構造であってもよく、公知の架橋剤により形成される架橋構造であってよい。なお、共有結合以外の分子間力としては、例えば、ファンデルワールス力、電荷移動力、クーロン力、疎水結合力、水素結合力、イオン結合力、配位結合力、又はこれらの組み合わせ等を挙げることができる。
上記架橋構造に含まれるプロトンチャネルとなる構造としては、例えば、上述した第一の実施形態で説明したものと同様のものを挙げることができ、中でも、1級又は2級アミノ基、アミド基及びアミド結合から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0052】
上記架橋構造は、プロトンチャネルを含む架橋剤により形成されるものであってよい。上記架橋構造の形成に用いる架橋剤は、プロトンチャネルとなる構造を少なくとも1つ含むものであればよいが、プロトン伝導率を向上する点から、プロトンチャネルとなる構造を2つ以上含むことが好ましく、2つ含むことがより好ましい。
【0053】
共有結合により形成される上記架橋構造としては、特に限定はされないが、例えば、N,N’-メチレンビスアクリルアミド等の架橋剤により形成される架橋構造等を好ましく用いることができる。
共有結合により形成される上記架橋構造は、主骨格を形成する単量体又はマクロモノマーと、架橋剤とを共重合することにより形成することができる。上記共重合により得られる共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体のいずれであってもよいが、ランダム共重合体が、プロトン伝導率を向上する点から好ましい。
【0054】
また、上記架橋構造を形成する架橋剤として、N,N’-メチレンビスアクリルアミド等の水溶性架橋剤を用いる場合は、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウム等の塩と水溶性架橋剤とを水中で共重合した後に水素化することにより、スチレンスルホン酸系ポリマーに由来する主骨格に、水溶性架橋剤に由来する架橋構造を導入したプロトン源架橋高分子を得ることができる。スチレンスルホン酸ナトリウムは、スチレンスルホン酸に比べて重合性が高いため、スチレンスルホン酸ナトリウムを用いて重合反応を行うことにより、所望の分子量の主骨格を形成しやすい。
水溶性架橋剤の中でも、N,N’-メチレンビスアクリルアミドは、プロトン伝導材料のプロトン伝導率及び耐久性を向上しやすい点から特に好ましい。
【0055】
共有結合以外の分子間力により形成される上記架橋構造としては、中でも、水素結合力により形成される架橋構造が好ましい。プロトンチャネルを含み且つ水素結合力により形成される架橋構造としては、例えば、1,6-ジアミノヘキサン(DAH)及び1,2-ジアミノエタン(DAE)等の炭素数1~6のアルキレン基を有するアルキレンジアミン等のジアミノ化合物に由来する架橋構造等を挙げることができる。ジアミノ化合物に由来する架橋構造は、例えば、主骨格となる高分子と、ジアミノ化合物とを溶液中で混合することにより形成することができる。
【0056】
上記架橋構造の形成に用いられる架橋剤の分子量は、特に限定はされないが、プロトン伝導材料のプロトン伝導率及び耐久性を向上しやすい点から、好ましくは30~300、より好ましくは50~200、更に好ましくは60~160である。
【0057】
また、上記架橋構造は、プロトン伝導材料のプロトン伝導率度及び耐久性を向上しやすい点から、直鎖状アルキレン基の両端にプロトンチャネルを有することが好ましい。
上記直鎖状アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~6である。
【0058】
上記プロトン源架橋高分子としては、プロトン伝導率が高く、耐久性に優れたプロトン伝導材料が得られる点から、スチレンスルホン酸系ポリマーに由来する主骨格と、N,N’-メチレンビスアクリルアミドに由来する架橋構造とを有する高分子、スチレンスルホン酸系ポリマーに由来する主骨格と、1,6-ジアミノヘキサンに由来する架橋構造とを有する高分子、及び、スチレンスルホン酸系ポリマーに由来する主骨格と、1,2-ジアミノエタンに由来する架橋構造とを有する高分子が好ましい。中でも、広い温度域で特に高いプロトン伝導率が得られる点から、スチレンスルホン酸系ポリマーに由来する主骨格と、N,N’-メチレンビスアクリルアミドに由来する架橋構造とを有する高分子がより好ましい。
【0059】
上記プロトン源架橋高分子において、架橋構造の含有量は、プロトン伝導材料のプロトン伝導率が向上するように適宜調整され、特に限定はされないが、主骨格100質量部に対し、通常1~15質量部であり、好ましくは1~10質量部である。
プロトン源基及び芳香環を含む主骨格に対するプロトンチャネルを含む架橋構造の含有量が上記範囲内であると、プロトン源基及びプロトンチャネル間でプロトン伝導パスが生じやすいコンフォメーションになりやすいため、プロトン伝導率が向上しやすい。
中でも、スチレンスルホン酸系ポリマーに由来する主骨格と、N,N’-メチレンビスアクリルアミドに由来する架橋構造とを有する高分子においては、上記主骨格100質量部に対する上記架橋構造の含有量は、好ましくは1~7質量部、より好ましくは1~5質量部である。
スチレンスルホン酸系ポリマーに由来する主骨格と、1,6-ジアミノヘキサンに由来する架橋構造とを有する高分子においては、好ましくは1~7質量部、より好ましくは1~5質量部である。
スチレンスルホン酸系ポリマーに由来する主骨格と、1,2-ジアミノエタンに由来する架橋構造とを有する高分子においては、好ましくは1~7質量部、より好ましくは3~5質量部である。
【0060】
(プロトンチャネル高分子)
本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料は、プロトンチャネル高分子を更に含有していてもよい。なお、第二の実施形態に用いられるプロトンチャネル高分子は、プロトン源基を含まないことが好ましい。第二の実施態に用いられるプロトンチャネル高分子としては、例えば、上述した第一の実施形態に用いられるプロトンチャネル高分子と同様のものを挙げることができる。第二の実施形態に用いられるプロトンチャネル高分子としては、中でも、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(1,10-フェナントロリン)及びポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)がより好ましい。
第二の実施形態において、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(1,10-フェナントロリン)及びポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)の好ましい数平均分子量Mnは、上述した第一の実施形態と同様である。
本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料がプロトンチャネル高分子を更に含有する場合、プロトンチャネル高分子の含有量は、上記プロトン源基及び芳香環を含む主骨格100質量部に対し、通常1~10質量部であり、好ましくは1~5質量部である。
【0061】
(物性)
本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料は、上記プロトン源架橋高分子の少なくとも一部がπ-π相互作用により積層した構造を有する。プロトン伝導材料中の高分子がπ-π相互作用により積層した構造を有することは、上述した第一の実施形態と同様の方法により確認することができる。
【0062】
本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料は、25℃、無加湿下において、膜状に成形したプロトン伝導材料の膜厚方向のプロトン伝導率を、10mS/cm以上とすることができ、好ましくは20mS/cm以上とすることができ、より好ましくは30mS/cm以上とすることができる。
【0063】
本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料の形態については、上述した第一の実施形態と同様である。
【0064】
(製造方法)
本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料の製造方法は、上述したプロトン伝導材料を得られる方法であればよく、特に限定はされない。
プロトン源架橋高分子として、プロトン源基及び芳香環を含む主骨格と、プロトンチャネルを含み且つ共有結合により形成される架橋構造とを有する高分子を含有するプロトン伝導材料の製造方法としては、例えば、主骨格を形成する単量体又はマクロモノマーと、架橋剤とを共重合し、その後、必要に応じて水素化することによりプロトン源架橋高分子を得て、得られたプロトン源架橋高分子を所望の形状に成形する方法を挙げることができる。
上記共重合は、ランダム共重合、ブロック共重合及びグラフト共重合のいずれであってもよいが、ランダム共重合が、プロトン伝導率の高いプロトン源架橋高分子が得られやすい点から好ましい。
【0065】
プロトン源架橋高分子として、プロトン源基及び芳香環を含む主骨格と、プロトンチャネルを含み且つ共有結合以外の分子間力により形成される架橋構造とを有する高分子を含有するプロトン伝導材料の製造方法としては、例えば、前記主骨格となる高分子を溶解した溶液に、前記架橋構造となる架橋剤を添加し、混合することにより、プロトン源架橋高分子を得て、得られたプロトン源架橋高分子、必要に応じて添加されるプロトンチャネル高分子、及び溶媒を含有する混合液を調製し、当該混合液から溶媒を除去する方法を挙げることができる。
ここで、混合液は、プロトン源架橋高分子のみを溶媒に溶解した溶液であってもよい。
上記混合液に用いられる溶媒は、高分子又は架橋剤の種類に応じて適宜選択され、特に限定はされず、例えば、水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒等を使用することができる。上記混合液は、例えば、プロトン源架橋高分子を溶媒に溶解した溶液と、プロトンチャネル高分子を溶媒に溶解した溶液とを混合することにより得ることができる。その場合は、これらの溶液が均一に混合するように溶媒を選択するのが好ましく、例えば、水、アルコール又はこれらの混合溶媒を好ましく用いることができる。アルコールとしては、典型的にはメタノールが用いられる。
混合液から溶媒を除去する方法、及び膜状に成形する方法については、上述した第一の実施形態に係るプロトン伝導材料の製造方法と同様である。
【実施例
【0066】
以下に、実施例を挙げて本開示を更に具体的に説明するが、本開示は、この実施例のみに限定されるものではない。なお、下記表3に示す実施例11~17は参考例である。
なお、各実施例で得られたプロトン伝導膜及び各比較例で得られた比較伝導膜の膜厚は、マイクロメータ(Mitutoyo Corp.製、型番:CLM1-15QM)を用いて測定した。
【0067】
[比較例1]
ポリスチレンスルホン酸(Mn7000)の溶液を5mm径のスチール製電極上にドロップキャストして製膜することで、表1に示す膜厚の比較例1の比較伝導膜を得た。
【0068】
[実施例1]
ポリスチレンスルホン酸(Mn7000)を溶解した水-アルコール溶液と、ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)(Mn1600)を溶解したメタノール溶液とを、ポリスチレンスルホン酸とポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)との質量比が表1に示す値となるような量で混合して混合液を得た。得られた混合液を5mm径のスチール製電極上にドロップキャストして製膜することで、表1に示す膜厚の実施例1のプロトン伝導膜を得た。
【0069】
[実施例2~5]
実施例1において、ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)に代えて、表1に示すプロトンチャネル高分子を用い、ポリスチレンスルホン酸とプロトンチャネル高分子との質量比が表1に示す値となるように、必要に応じて各溶液の添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~5のプロトン伝導膜を得た。
【0070】
[比較例2]
パーフルオロスルホン酸樹脂であるNafion膜(製品名:NR212、Chemours社製、膜厚0.31mm)を比較例2の比較伝導膜とした。
【0071】
[実施例6]
Nafionの懸濁液と、ポリ(1,10-フェナントロリン)(Mn10000)を溶解した水-アルコール溶液とを、Nafionとポリ(1,10-フェナントロリン)質量比が表1に示す値となるような量で混合して混合液を得た。得られた混合液を用い、実施例1と同様の方法により、表1に示す膜厚の実施例6のプロトン伝導膜を得た。
【0072】
[実施例7]
ポリスチレンスルホン酸(Mn7000)を溶解した水-アルコール溶液と、ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)(Mn1600)を溶解したメタノール溶液と、ポリエチレンオキサイド(Mn600)を溶解したメタノール溶液とを、ポリスチレンスルホン酸とポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)とポリエチレンオキサイドとの質量比が表2に示す値となるような量で混合して混合液を得た。得られた混合液を用い、実施例1と同様の方法により、表2に示す膜厚の実施例7のプロトン伝導膜を得た。
【0073】
[実施例8~10]
実施例7において、ポリエチレンオキサイド(Mn600)に代えて、表2に示す数平均分子量のポリエチレンオキサイドを用いた以外は、実施例7と同様にして、実施例8~10のプロトン伝導膜を得た。
【0074】
[実施例11]
ポリスチレンスルホン酸(Mn7000)を溶解した水-アルコール溶液に、ポリスチレンスルホン酸と1,6-ジアミノヘキサンとの質量比が表3に示す値となる量で、1,6-ジアミノヘキサンを添加し、混合して混合液を得た。得られた混合液を用い、実施例1と同様の方法により、表3に示す膜厚の実施例11のプロトン伝導膜を得た。
【0075】
[実施例12~13]
実施例11において、ポリスチレンスルホン酸と1,6-ジアミノヘキサンとの質量比が表3に示す値となるように1,6-ジアミノヘキサンの添加量を変更した以外は、実施例11と同様にして、実施例12~13のプロトン伝導膜を得た。
【0076】
[実施例14]
ポリスチレンスルホン酸(Mn7000)を溶解した水-アルコール溶液と、ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)(Mn1600)および1,6-ジアミノヘキサンを溶解したメタノール溶液とを、ポリスチレンスルホン酸とポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)と1,6-ジアミノヘキサンとの質量比が表3に示す値となるような量で混合して混合液を得た。得られた混合液を用い、実施例1と同様の方法により、表3に示す膜厚の実施例14のプロトン伝導膜を得た。
【0077】
[実施例15~16]
実施例12~13において、1,6-ジアミノヘキサンの代わりに、1,2-ジアミノエタンを用いた以外は、実施例12~13と同様にして、実施例15~16のプロトン伝導膜を得た。
【0078】
[実施例17]
実施例14において、1,6-ジアミノヘキサンの代わりに、1,2-ジアミノエタンを用いた以外は、実施例14と同様にして、実施例17のプロトン伝導膜を得た。
【0079】
[実施例18]
実施例18のプロトン伝導膜は、下記スキーム1において、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)の添加量を、ポリスチレンスルホン酸100質量部に対し1質量部となる量として得た。
すなわち、2mol/L(2M)の4-スチレンスルホン酸ナトリウムの水溶液に、N,N’-メチレンビスアクリルアミドを添加し、更に水溶性開始剤として2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]を添加し、86℃で反応させて、4-スチレンスルホン酸ナトリウムとN,N’-メチレンビスアクリルアミドとのランダム共重合体ゲルを得た。得られた共重合体ゲルを、3Mの塩酸に浸漬した後、水で洗浄し、24時間真空乾燥することで、実施例18のプロトン伝導膜を得た。
【0080】
【化3】
【0081】
[実施例19]
実施例18において、N,N’-メチレンビスアクリルアミドの添加量を、ポリスチレンスルホン酸100質量部に対して5質量部となる量に変更した以外は、実施例18と同様にして、実施例19のプロトン伝導膜を得た。
【0082】
[評価]
<プロトン伝導率の測定>
伝導率測定用セルを小型環境試験器(エスペック社製、型式:SH-242)の槽内に設置し、インピーダンスアナライザー(YHP社製、型版:4194A)を用いて、表1~4又は図1に記載する温度、無加湿条件下、周波数スイープ範囲100Hz~1MHzで特性インピーダンスの測定を行った。特性インピーダンスのNyquistプロットの容量成分が最小となる点の実数成分を測定値(Rm)とし、測定用ケーブルの短絡時のインピーダンス特性(Ru)として、サンプルの膜厚(d)、電極面積(S)を用いて、次式にしたがって、膜厚方向の伝導率(σ)(単位:S/cm)を求めた。
σ=d/{(Rm-Ru)×S}
【0083】
<耐久性>
実施例1、2、7~19で得られたプロトン伝導膜を、110℃に加熱した場合と、室温で長時間保存した場合とで、それぞれ目視で観察し、下記評価基準によりプロトン伝導膜の耐久性を評価した。
(耐久性の評価基準)
A:加熱後又は室温で長時間保存後のいずれも膜が崩壊しない。
B:室温で短時間保存後には膜が崩壊しないが、加熱後又は室温で長時間保存後に膜が崩壊する。
C:室温で短時間保存後に膜が崩壊する。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
なお、表1~表4中の略称は以下の通りである。
・PSS:ポリスチレンスルホン酸(Mn7000)
・Nafion:Nafion(登録商標)(品番:NR212、DuPont社製)
・Poly(DADBF):ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)(Mn1600)
・Poly(2VPy)500:ポリ(2-ビニルピリジン)(Mn500)
・Poly(Phen)1000:ポリ(1,10-フェナントロリン)(Mn1000)
・Poly(Phen)10000:ポリ(1,10-フェナントロリン)(Mn10000)
・PEO600:ポリエチレンオキサイド(Mn600)
・PEO3000:ポリエチレンオキサイド(Mn3000)
・PEO46000:ポリエチレンオキサイド(Mn46000)
・PEO510000:ポリエチレンオキサイド(Mn510000)
・DAH:1,6-ジアミノヘキサン
・DAE:1,2-ジアミノエタン
・MBAA:N,N’-メチレンビスアクリルアミド
【0089】
<耐水性>
実施例18で得られたプロトン伝導膜について、下記方法A及び方法Bにより、耐水性を評価した。
【0090】
(方法A)
実施例18で得られたプロトン伝導膜を約100mg分切り出して試料を作製した。当該試料を秤量した結果、92.85mgであった。当該試料を80℃の水中に1時間浸漬した後、4日間風乾し、更に24時間真空乾燥して秤量した結果、90.14mgであり、2.9%(2.71mg)の重量減少が観測された。
上記重量減少は、従来のプロトン伝導膜に比べて十分に小さく、測定試料の乾燥が不十分であったことに起因するものか、或いは少量スケール実験に起因する機械的ロス等に基づく誤差であると考えられる。よって、実施例18で得られたプロトン伝導膜は、水に対して溶出しない高い耐水性を有するものであることが明らかにされた。
【0091】
(方法B)
実施例18で得られたプロトン伝導膜を切り出して試料を作製した。当該試料を室温(25℃)で24時間水に浸漬して膨潤させ、膨潤後の試料を秤量した結果、6160mgであった。当該膨潤後の試料を更に80℃の水中に1時間浸漬して秤量した結果、6950mgであり、12.8%(790mg)の重量増加が観測された。
上記重量増加は、試料を80℃の水中に浸漬させる前において、試料の膨潤が不十分であったためであると推定される。よって、実施例18で得られたプロトン伝導膜は、水を十分含ませて膨潤させた後でも水に対して溶出しない高い耐水性を有するものであることが明らかにされた。
【0092】
また、実施例18で得られたプロトン伝導膜について、-20℃から150℃までの温度範囲で、5%RHの無加湿下でプロトン伝導率を測定した結果と、比較例2の比較伝導膜について、-20℃から150℃までの温度範囲で、5%RHの無加湿下でプロトン伝導率を測定した結果について、図1に示す。なお、図1において、横軸は1000/T(Tは測定温度(K))であり、縦軸はプロトン伝導率(S/cm)である。
【0093】
表1及び表2に示す実施例1~10で得られたプロトン伝導膜は、本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料であり、プロトン源高分子として、ポリスチレンスルホン酸又はNafion(登録商標)を含有し、プロトンチャネル高分子として、ポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)、ポリ(2-ビニルピリジン)又はポリ(1,10-フェナントロリン)を含有する。これらのプロトンチャネル高分子は、π-π相互作用により積層した構造を形成しやすい芳香環を含むプロトンチャネルを有するため、実施例1~10で得られたプロトン伝導膜は、少なくともプロトンチャネル高分子の一部がπ-π相互作用により積層した構造を有する。
本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料である実施例1~10で得られたプロトン伝導膜は、25℃、無加湿下で、プロトン伝導率が10mS/cm以上と高く、比較例1のポリスチレンスルホン酸膜、及び比較例2のNafion膜に比べてプロトン伝導率が向上していた。
また、実施例1~10で得られたプロトン伝導膜は、プロトン源基及びプロトンチャネルが、高分子に共有結合により結合していることにより水に溶出しないため、実施例1~10で得られたプロトン伝導膜は水に溶出する成分を含まないものであった。
【0094】
また、表1に示す実施例2では、プロトン源高分子としてスチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、プロトンチャネル高分子としてポリ(4,5-ジアザジベンゾフルベン)を含有する本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料について、高温下においても、無加湿下で極めて高いプロトン伝導率を有することが示された。
表2に示す実施例1~2と実施例7~10との比較からは、プロトンチャネル高分子として、ポリエチレンオキサイドを更に含有する本開示の第一の実施形態に係るプロトン伝導材料は、プロトン伝導率の低下を抑制しながら、耐久性が向上することが示された。
【0095】
表3及び表4に示す実施例11~19で得られたプロトン伝導膜は、本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料であり、プロトン源基及び芳香環を含む主骨格として、ポリスチレンスルホン酸に由来する主骨格を有し、プロトンチャネルを含む架橋構造として、1,6-ジアミノヘキサン、1,2-ジアミノエタン又はN,N’-メチレンビスアクリルアミドに由来する架橋構造を有するプロトン源架橋高分子を含有し、当該プロトン源架橋高分子の少なくとも一部がπ-π相互作用により積層した構造を有する。
本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料である実施例11~19で得られたプロトン伝導膜も、25℃、無加湿下で、プロトン伝導率が10mS/cm以上と高く、比較例1のポリスチレンスルホン酸膜、及び比較例2のNafion膜に比べてプロトン伝導率が向上していた。
また、実施例11~19で得られたプロトン伝導膜において、プロトン源基は、主骨格に共有結合により結合しており、プロトンチャネルは、架橋構造又はプロトンチャネル高分子に共有結合により結合しており、架橋構造は主骨格に化学的に結合していることにより、プロトン源基及びプロトンチャネルが水に溶出しないため、実施例11~19で得られたプロトン伝導膜は水に溶出する成分を含まないものであった。
また、実施例11~19で得られたプロトン伝導膜は、高いプロトン伝導率を有しながら、耐久性にも優れていた。
【0096】
また、表4に示す実施例18では、スチレンスルホン酸系ポリマーに由来する主骨格と、N,N’-メチレンビスアクリルアミドに由来する架橋構造とを有するプロトン源架橋高分子を含有する本開示の第二の実施形態に係るプロトン伝導材料について、高温下においても、無加湿下でのプロトン伝導率が高く、耐久性にも優れていることが示された。また、実施例18で得られたプロトン伝導膜については、室温で3日間保存後においても変化がほとんどなかったことが確認され、経時劣化が抑制されたものであった。
また、実施例18で得られたプロトン伝導膜について、上述の耐水性の評価を行った結果、高い耐水性を有することが示された。
また、図1に示す結果から、実施例18で得られたプロトン伝導膜は、広い温度域において、無加湿下で高いプロトン伝導率を有することが示された。
なお、比較例2の比較伝導膜は、Nafion膜であるため、無加湿下ではプロトン伝導性が不十分であった。比較例2の比較伝導膜において、図1に示されるように温度が高いほどプロトン伝導率が上がったのは、比較例2のNafion膜のガラス転移温度が109℃であるため、分子運動性が向上したためと推定される。また、微量の水分が抜け切れていなかった可能性のほか、高温下で膜厚が薄くなり抵抗が下がることで、見かけのプロトン伝導率が上昇した可能性が考えられる。面圧をかけた測定セルでは高温下で膜が軟化し、膜厚が減少した可能性がある。
【0097】
本開示のプロトン伝導材料は、このように、無加湿下でも高いプロトン伝導率を有し、水に対し溶出しないプロトン伝導材料であり、燃料電池に用いられる触媒層の電解質材料や、燃料電池に用いられる固体電解質膜として好適に使用することができる。
図1