(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】缶胴用アルミニウム合金板
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20250218BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20250218BHJP
C22F 1/04 20060101ALN20250218BHJP
C22F 1/047 20060101ALN20250218BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20250218BHJP
【FI】
C22C21/00 L
C22C21/06
C22F1/04 B
C22F1/047
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
(21)【出願番号】P 2021163590
(22)【出願日】2021-10-04
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐志
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-330896(JP,A)
【文献】特開2009-235477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22F 1/04
C22F 1/047
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.16質量%以上0.60質量%以下、Fe:0.3質量%以上0.6質量%以下、Cu:0.10質量%以上0.35質量%以下、Mn:0.5質量%以上1.2質量%以下、Mg:0.7質量%以上2.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、
組織観察において、円相当径が0.10μm以上1.00μm未満である金属間化合物の個数密度が1.7×10
5個/mm
2以上4.0×10
5個/mm
2以下であり、
再結晶の核となる臨界円相当径以上の金属間化合物の個数密度が1.0×10
3個/mm
2以上3.5×10
3個/mm
2以下である缶胴用アルミニウム合金板。
【請求項2】
Cr、ZnおよびTiからなる群から選択される少なくとも1種の成分をさらに含み、
Cr、ZnおよびTiの含有量がそれぞれ、Cr:0.01質量%以上0.10質量%以下、Zn:0.01質量%以上0.40質量%以下、およびTi:0.005質量%以上0.100質量%以下である請求項1に記載の缶胴用アルミニウム合金板。
【請求項3】
CrおよびTiからなる群から選択される少なくとも1種の成分をさらに含み、
CrおよびTiの含有量がそれぞれ、Cr:0.01質量%以上0.10質量%以下、およびTi:0.005質量%以上0.100質量%以下であり、
CrおよびTiの合計含有量が0.01質量%以上0.150質量%以下である請求項1に記載の缶胴用アルミニウム合金板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶胴用アルミニウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料用アルミニウム缶の缶胴は、絞り、再絞り、しごき、洗浄・乾燥、外面印刷・焼付け、内面塗装・焼付け、ネッキング(口絞り)などの工程を経て作製される。絞りおよび再絞り加工後のカップ(絞りカップ)の側壁は、底部から開口部に近づくほど加工前の板厚と比べて厚肉化する。この際、素材の持つ塑性異方性に起因して周方向で厚肉化の度合いが異なり、その結果、同一高さにおける肉厚が周方向で異なるカップが作製される場合がある。絞りおよび再絞り加工後のカップの肉厚が周方向で不均一であると、後のしごき加工において周方向で均一な肉厚まで加工する際に、加工率が周方向で異なるため、側壁に生じる引張応力が周方向で不均一となり、加工中に破断が生じやすくなる。また近年では、従来よりも缶胴径の小さい、言い換えると絞り比の大きい缶胴が増加傾向にある。絞り比が大きくなるにつれてカップの周方向における肉厚差も大きくなる傾向があるため、しごき加工性の課題がより顕在化する可能性がある。
【0003】
上記に関連して、化学成分、耳率、均熱条件、熱間粗圧延条件、熱間仕上げ圧延条件および冷間圧延条件を規定する、絞りカップの真円度が良好なキャンボディ用アルミニウム合金板の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、化学成分、均熱条件、熱間粗圧延条件、熱間仕上げ圧延条件、冷間圧延条件、仕上げ焼鈍条件および熱間圧延板の平均結晶粒径を規定する、しごき成形性を向上できるアルミニウム合金板の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2)参照。さらに、化学成分、固溶Si量、引張強さ、耳率、均熱条件、熱間粗圧延条件、熱間仕上げ圧延条件、中間焼鈍条件、冷間圧延条件および仕上げ焼鈍条件を規定する、高速しごき成形性の優れたDI缶胴用アルミニウム合金板の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-235475号公報
【文献】特開2006-207006号公報
【文献】特開平10-121177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、絞りカップの側壁厚、更にはその周方向における肉厚差(異方性)に着目した従来技術は知られていない。また、近年増加傾向にある絞り比の大きい缶胴におけるしごき加工性を確保することが求められている。
【0006】
本発明は、成形される絞りカップの開口部における肉厚の周方向の異方性が低減される缶胴用アルミニウム合金板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る缶胴用アルミニウム合金板は、Si:0.16質量%以上0.60質量%以下、Fe:0.3質量%以上0.6質量%以下、Cu:0.10質量%以上0.35質量%以下、Mn:0.5質量%以上1.2質量%以下、Mg:0.7質量%以上2.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。缶胴用アルミニウム合金板は、その組織観察において、円相当径が0.10μm以上1.00μm未満である金属間化合物の個数密度が1.7×105個/mm2以上4.0×105個/mm2以下であり、再結晶の核となる臨界円相当径以上の金属間化合物の個数密度が1.0×103個/mm2以上3.5×103個/mm2以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形される絞りカップの開口部における肉厚の周方向の異方性が低減される缶胴用アルミニウム合金板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、数値範囲として例示された数値をそれぞれ任意に選択して組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、缶胴用アルミニウム合金板を例示するものであって、本発明は、以下に示す缶胴用アルミニウム合金板に限定されない。
【0010】
缶胴用アルミニウム合金板
本発明の一実施形態に係る缶胴用アルミニウム合金板は、例えば、Al-Mn-Mg系合金、Al-Mg-Mn系合金等からなる。Al-Mn-Mg系合金、Al-Mg-Mn系合金等としては、例えば、一般的なJIS合金、例えば3004、3104等が挙げられる。
【0011】
具体的には、缶胴用アルミニウム合金板は、Si:0.16質量%以上0.60質量%以下、Fe:0.3質量%以上0.6質量%以下、Cu:0.10質量%以上0.35質量%以下、Mn:0.5質量%以上1.2質量%以下、Mg:0.7質量%以上2.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。缶胴用アルミニウム合金板は、その組織観察において、円相当径が0.10μm以上1.00μm未満である金属間化合物の個数密度が1.7×105個/mm2以上4.0×105個/mm2以下であり、再結晶の核となる臨界円相当径以上の金属間化合物の個数密度が1.0×103個/mm2以上3.5×103個/mm2以下である。
【0012】
缶胴用アルミニウム合金板は、Si、Fe、Cu、Mn及びMgを所定範囲で含有しており、また、組織観察における円相当径が所定範囲である金属間化合物の個数密度と、再結晶の核となる金属間化合物の個数密度とがそれぞれ所定範囲であることで、成形される絞りカップの開口部における肉厚の周方向の異方性が低減される。これは例えば、絞りカップの周方向肉厚差に影響するCube方位密度が適切に制御された状態になっていることで、絞りカップの周方向の肉厚差が小さくなると考えられる。具体的には例えば、絞りカップの側壁厚の周方向の肉厚分布に対してはCube方位密度が大きく影響する。例えばCube方位密度が小さいと、絞りカップ側壁において圧延方向に対して45°方向が薄くなり、且つ90°方向が厚くなって周方向肉厚差が大きくなると考えられる。また、Cube方位密度が大きいと、絞りカップ側壁において圧延方向に対して0°方向が薄くなって周方向肉厚差が大きくなると考えられる。更に、Siの含有量を所定範囲に調整することで、円相当径が所定範囲である金属間化合物の個数密度と再結晶の核となる円相当径を有する金属間化合物の個数密度とを所定範囲とし、これにより適正なCube方位密度が達成されて、絞りカップの側壁厚におる周方向の肉厚差を低減できると考えられる。
【0013】
以下、缶胴用アルミニウム合金板に含まれる各成分の含有量と、含有量の限定の理由について説明する。
【0014】
Si:0.16質量%以上0.60質量%以下
Si含有量が0.16質量%未満では、円相当径0.10μm以上1.00μm未満の金属間化合物の個数密度が小さくなるため、Cube方位密度が小さくなり、作製した絞りカップにおいて圧延方向に対し45°方向の側壁厚が薄くなり、且つ90°方向の側壁厚が厚くなって、絞りカップの周方向の肉厚差が大きくなる。また、0.60質量%を超えると、円相当径が0.10μm以上1.00μm未満の金属間化合物の個数密度が大きくなるため、Cube方位密度が大きくなり、作製した絞りカップにおいて、圧延方向に対し0°方向の側壁厚が薄くなって、絞りカップの周方向の肉厚差が大きくなる。Si含有量の下限は、好ましくは0.18質量%以上であり、より好ましくは0.20質量%以上であり、さらに好ましくは0.24質量%以上、特に好ましくは0.3質量%以上であってよい。また、Si含有量の上限は、好ましくは0.56質量%以下であり、より好ましくは0.54質量%以下、さらに好ましくは0.50質量%以下であってよい。
【0015】
Fe:0.3質量%以上0.6質量%以下
Fe含有量が0.3質量%未満では、金属間化合物(例えば、Al-Fe-Mn系金属間化合物)が不足し、しごき加工時に側壁に表面欠陥(焼付き)が発生することがある。また、0.6質量%を超えると、大きいサイズの金属間化合物が多くなり、しごき加工時に破断を生じることがある。Fe含有量の下限は、好ましくは0.34質量%以上であり、より好ましくは0.36質量%以上であり、さらに好ましくは0.38質量%以上であってよい。また、Fe含有量の上限は、好ましくは0.55質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.46質量%以下であってよい。
【0016】
Cu:0.10質量%以上0.35質量%以下
Cu含有量が0.10質量%未満では強度(ベーキング後耐力)が不足し、缶の耐圧強度が不足する。また、0.35質量%を超えると、強度が過大となり成形性が低下することがある。Cu含有量の下限は、好ましくは0.14質量%以上であり、より好ましくは0.16質量%以上であり、さらに好ましくは0.18質量%以上であってよい。また、Cu含有量の上限は、好ましくは0.33質量%以下であり、より好ましくは0.30質量%以下、さらに好ましくは0.26質量%以下であってよい。
【0017】
Mn:0.5質量%以上1.2質量%以下
Mn含有量が0.5質量%未満では強度(ベーキング後耐力)が不足し、缶の耐圧強度が不足する。1.2質量%を超えると、大きいサイズの金属間化合物が多くなり、しごき加工時に破断を生じることがある。Mn含有量の下限は、好ましくは0.6質量%以上であり、より好ましくは0.8質量%以上であり、さらに好ましくは0.9質量%以上であってよい。また、Mn含有量の上限は、好ましくは1.15質量%以下であり、より好ましくは1.10質量%以下であり、さらに好ましくは1.08質量%以下であり、特に好ましくは1.06質量%以下であってよい。
【0018】
Mg:0.7質量%以上2.0質量%以下
Mg含有量が0.7質量%未満では強度(ベーキング後耐力)が不足し、缶の耐圧強度が不足する。2.0質量%を超えると、強度が過大となり成形性が低下することがある。Mg含有量の下限は、好ましくは0.8質量%以上であり、より好ましくは0.9質量%以上であり、さらに好ましくは0.94質量%以上であってよい。また、Mg含有量の上限は、好ましくは1.6質量%以下であり、より好ましくは1.4質量%以下であり、さらに好ましくは1.35質量%以下であってよい。
【0019】
Cr:0.01質量%以上0.10質量%以下
一般的に知られているように、アルミニウム合金板はCrを含んでいてよい。Crの含有量が0.01質量%以上であることで、材料の強度向上に寄与する。また、Crは0.10質量%以下の含有量であれば、アルミニウム合金板の材料特性、しごき加工後の缶特性に影響を及ぼさない。Cr含有量が0.10質量%以下であると、粗大な金属間化合物が発生することが抑制され、しごき加工時の成形性が低下することが抑制される。Cr含有量の上限は、好ましくは0.05質量%以下、または0.03質量%以下であってよい。
【0020】
Zn:0.01質量%以上0.40質量%以下
一般的に知られているように、アルミニウム合金板はZnを含んでいてよい。Znは0.40質量%以下の含有量であれば、アルミニウム合金板の材料特性、しごき加工後の缶特性に大きな影響を及ぼさない。Znは不可避不純物であるが、上記範囲内でZnを積極添加することもできる。Zn含有量の上限は、好ましくは0.30質量%以下であり、より好ましくは0.26質量%以下であり、より好ましくは0.24質量%以下であり、さらに好ましくは0.20質量%以下であってよい。また、Zn含有量の下限は、例えば、0.01質量%以上であってよく、好ましくは0.10質量以上であってよく、より好ましくは0.16質量%以上であってよい。
【0021】
Ti:0.005質量%以上0.100質量%以下
一般的に知られているように、アルミニウム合金板はTiを含んでいてよい。Tiは鋳塊結晶粒の微細化を目的に、必要に応じて添加される。鋳造時に鋳塊組織を微細化すると、鋳造性が向上して高速鋳造が可能となる。その効果は0.005質量%以上の添加により得られる。一方、Tiの含有量が0.100質量%以下であると、粗大な金属間化合物の発生を抑制することができる。なお、Tiを添加する場合には、例えば鋳塊微細化剤(Al-Ti-B)を鋳造前の溶湯に添加してよい。この場合、例えばTiとBの質量比が5:1であれば、その含有割合に応じたBも必然的に添加されるが、これは特性には影響しない。Ti含有量の上限は、好ましくは0.080質量%以下であり、より好ましくは0.060質量%以下であり、さらに好ましくは0.040質量%以下であってよい。また、Ti含有量の下限は、例えば、0.005質量%以上であってよい。
【0022】
CrおよびTiの合計含有量が0.01質量%以上0.150質量%以下
CrおよびTiの元素の合計含有量が0.150質量%以下であると、粗大な金属間化合物の発生が抑制され、成形性の低下が抑制される。CrおよびTiの元素の含有量が前記した上限値を超えなければ、アルミニウム合金に1種以上、つまり1種のみが含まれる場合だけでなく、2種以上が含まれていても、当然に本発明の効果を妨げることが抑制される。
【0023】
(残部:Al及び不可避不純物)
缶胴用アルミニウム合金板は、Al及び上記合金成分の他に、不可避不純物を含有していてよい。不可避不純物としては、例えば、V、Na、Zr、Ni、Ca、In、Sn、Gaなどが挙げられる。不可避不純物について許容される含有量の上限は、Zrについては、例えば、0.3質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下であってよい。Zr以外の他の元素については、例えば、各0.05質量%以下かつ合計0.15質量%以下であってよい。前記範囲内であれば、不可避不純物として含有した場合に限らず、前記元素を添加する場合であっても、本発明の効果を妨げることが抑制される。
【0024】
円相当径が0.10μm以上1.00μm未満の金属間化合物の個数密度:1.7×105/mm2個以上4.0×105個/mm2以下
円相当径が0.10μm以上1.00μm未満の金属間化合物の個数密度は、アルミニウム合金板の圧延方向に平行な断面を反射電子組成(COMPO)像として組織観察して算出される。具体的には、COMPO像から識別される金属間化合物(例えば、Al-Fe-Mn系、Al-Fe-Mn-Si系等)の個々の面積を計測し、面積から求められる円相当径が0.10μm以上1.00μm未満である金属間化合物の単位面積当たりの個数として、金属間化合物の個数密度が算出される。
【0025】
円相当径が所定範囲である金属間化合物の個数密度が、1.7×105個/mm2未満であると、再結晶時にCube方位密度が小さくなり、作製した絞りカップにおいて、圧延方向に対し45°方向の側壁厚が薄くなり、且つ90°方向の側壁厚が厚くなって、絞りカップの周方向肉厚差が大きくなる。また、4.0×105個/mm2を越えると、再結晶時にCube方位密度が大きくなり、作製した絞りカップにおいて、圧延方向に対し0°方向の側壁厚が薄くなって、絞りカップの周方向肉厚差が大きくなる。円相当径が所定範囲である金属間化合物の個数密度の下限は、好ましくは1.8×105個/mm2以上であり、より好ましくは1.85×105個/mm2以上であってよい。また円相当径が所定範囲である金属間化合物の個数密度の上限は、好ましくは3.8×105個/mm2以下であり、より好ましくは3.6×105個/mm2以下であり、さらに好ましくは3.2×105個/mm2以下であってよい。
【0026】
再結晶の核となる臨界円相当径以上の金属間化合物の個数密度:1.0×103個/mm2以上3.5×103個/mm2以下
再結晶の核となる臨界円相当径ηPSNは、上記のCOMPO像から計測される円相当径0.10μm以上1.00μm未満の金属間化合物の面積率fおよび平均半径rを用いて、以下の式(例えば、H. E. Vatne, O. Engler, E. Nes:Materials Science and Technology, February, 1997, Vol.13, pp.93-102.参照)により算出される。
ηPSN=(4/3)/(106-(3f/2r))
なお、臨界円相当径以上の化合物を核として再結晶した場合、再結晶粒の結晶方位はランダム方位になると言われている。
【0027】
缶胴用アルミニウム合金板の再結晶の核となる金属間化合物の臨界円相当径は、例えば1.48μmより大きく1.80μm以下であってよい。金属間化合物の臨界円相当径の下限は、好ましくは1.49μm以上であってよい。また、金属間化合物の臨界円相当径の上限は、好ましくは1.70μm以下であり、より好ましくは1.68μm以下であってよい。
【0028】
再結晶の核となる臨界円相当径以上の金属間化合物の個数密度が、1.0×103個/mm2未満であると、再結晶時にCube方位密度が大きくなり、作製した絞りカップにおいて、圧延方向に対し0°方向の側壁厚が薄くなって、絞りカップの周方向肉厚差が大きくなる。また、3.5×103個/mm2を越えると、再結晶時にCube方位密度が小さくなり、作製した絞りカップにおいて、圧延方向に対し45°方向の側壁厚が薄くなり、且つ90°方向の側壁厚が厚くなって、絞りカップの周方向肉厚差が大きくなる。臨界円相当径以上の金属間化合物の個数密度の下限は、好ましくは1.6×103個/mm2以上であり、より好ましくは2.0×103個/mm2以上であってよい。また、臨界円相当径以上の金属間化合物の個数密度の上限は、好ましくは3.2×103個/mm2以下であってよい。
【0029】
缶胴用アルミニウム合金板から成形される絞りカップでは、開口部近傍における周方向の肉厚の変動が抑制される。周方向の肉厚の変動は、周方向に測定される肉厚の最大値から最小値を差し引いた値を、周方向の肉厚の平均値で除して百分率として算出される周方向異方性(%)で評価することができる。周方向異方性の上限は、例えば10.8%以下であってよく、好ましくは10.7%以下であってよい。なお、周方向異方性の下限は、0%である。
【0030】
製造方法
缶胴用アルミニウム合金板の製造方法の一例について説明する。缶胴用アルミニウム合金板の製造方法は、第1工程である鋳造工程と、第2工程である均質化熱処理工程と、第3工程である熱間圧延工程と、第4工程である冷間圧延工程と、を含み、これらの工程をこの順に行うものである。
【0031】
第1工程から第2工程:鋳造工程、均質化熱処理工程
第1工程は、目的の組成を有する鋳塊を半連続鋳造法にて作製する工程である。第2工程は、第1工程で作製されたアルミニウム合金の鋳塊に均質化熱処理を施す工程である。
【0032】
第1工程では、半連続鋳造法(DC(direct chill)鋳造)により、アルミニウム合金を鋳造して鋳塊を得る。次に、鋳塊表層の不均一な組織となる領域の面削および均質化熱処理を施す第2工程を行う。均質化熱処理では、480℃以上600℃以下程度の温度で2時間以上保持することが好ましい。なお、均質化熱処理が完了した後、熱延開始温度まで冷却して第3工程である熱間圧延を開始してもよいし、一度室温を含む200℃以下の温度に冷却し、その後熱間圧延開始温度まで再加熱してから熱間圧延を開始してもよい。また面削については、均質化熱処理の前に行ってもよいし、均質化熱処理の後に室温を含む200℃以下の温度に冷却した際に行ってもよい。
【0033】
第3工程:熱間圧延工程
第3工程は、第2工程で均質化熱処理を施されたアルミニウム合金の鋳塊を熱間圧延する工程である。熱間圧延により得る熱間圧延板の板厚は、通常、冷間圧延して得られる製品板の板厚から冷間圧延による総圧延率を逆算して設定する。
【0034】
熱間圧延の開始温度は、例えば450℃以上であってよく、好ましくは480℃以上であってよい。熱間圧延の終了温度である巻き取り温度の下限は、例えば300℃以上であってよく、好ましくは330℃以上であり、より好ましくは340℃以上であってよい。巻き取り温度の上限は、例えば370℃以下であってよく、好ましくは360℃以下であってよい。巻き取り温度が370℃以下であると、熱間圧延板の表面において焼付きと呼ばれる表面欠陥が発生することが抑制され、板表面の性状が良化する。
【0035】
第4工程:冷間圧延工程
第4工程は、第3工程で熱間圧延された熱間圧延板を冷間圧延する工程である。第4工程は、1次冷間圧延工程、1次中間焼鈍工程、2次冷間圧延工程、2次中間焼鈍工程、および最終冷間圧延工程を含んでいてよい。
【0036】
1次冷間圧延工程では、熱間圧延後の熱間圧延板を冷間圧延して、所定の板厚とする。1次冷間圧延工程の加工率(圧延率)は40%以上が好ましい。加工率が40%以上であると、再結晶時にCube方位密度が小さくなることが抑制される。これにより、成形される絞りカップにおいて、圧延方向に対し45°方向の側壁厚が薄くなることが抑制され、且つ90°方向の側壁厚が厚くなることが抑制されて、絞りカップの周方向の肉厚差が大きくなることが抑制される。1次冷間圧延工程の加工率の下限は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上であってよい。
【0037】
1次中間焼鈍工程では、1次冷間圧延板に中間焼鈍を施す。このときの焼鈍温度は250℃以上290℃以下の範囲内とすることが好ましい。この範囲内であると、再結晶時にCube方位密度が小さくなることが抑制される。これにより、成形される絞りカップにおいて、圧延方向に対し45°方向の側壁厚が薄くなることが抑制され、且つ90°方向の側壁厚が厚くなることが抑制されて、絞りカップの周方向の肉厚差が大きくなることが抑制される。1次中間焼鈍工程における焼鈍温度の下限は、好ましくは260℃以上でああってよい。また、1次中間焼鈍工程における焼鈍温度の上限は、好ましくは280℃以下であってよい。1次中間焼鈍工程を所定の焼鈍温度で行うことで、後述する2次中間焼鈍工程でCube方位密度が向上すると考えられる。
【0038】
1次中間焼鈍工程では、好ましくは1次冷間圧延板を30℃/時間以上50℃/時間以下の昇温速度で焼鈍温度まで加熱してよい。昇温速度の下限は、好ましくは35℃/時間以上であってよい。また、昇温速度の上限は、好ましくは45℃/時間以下であってよい。焼鈍温度を保持する時間は、例えば2時間以上6時間以下であってよい。焼鈍温度を保持する時間の下限は、好ましくは3時間以上であってよい。また焼鈍温度を保持する時間の上限は、好ましくは5時間以下であってよい。焼鈍温度を保持した後は、例えば30℃/時間以上50℃/時間以下の降温速度で所定の冷却温度まで冷却してよい。降温速度の下限は、好ましくは35℃/時間以上であってよい。また、降温速度の上限は、好ましくは45℃/時間以下であってよい。冷却温度は、例えば220℃以下、好ましくは210℃以下であってよい。
【0039】
2次冷間圧延工程では、1次中間焼鈍後の1次冷間圧延板を冷間圧延して、所定の板厚とする。2次冷間圧延工程の加工率(圧延率)は20%以下が好ましい。加工率が20%以下であると、再結晶時にCube方位密度が小さくなることが抑制される。これにより、成形される絞りカップにおいて、圧延方向に対し45°方向の側壁厚が薄くなることが抑制され、且つ90°方向の側壁厚が厚くなることが抑制されて、絞りカップの周方向の肉厚差が大きくなることが抑制される。2次冷間圧延工程の加工率の上限は、好ましくは18%以下であり、より好ましくは16%以下であり、さらに好ましくは14%以下であってよい。2次冷間圧延工程の加工率の下限は、例えば5%以上であってよい。
【0040】
缶胴用アルミニウム合金板の製造方法において、1次中間焼鈍工程および2次冷間圧延工程を実施しない場合は、後工程である2次中間焼鈍工程においてCube方位密度が十分に大きくならない。その結果、成形される絞りカップにおいて圧延方向に対し45°方向の側壁厚が薄くなり、且つ90°方向の側壁厚が厚くなって、絞りカップの周方向の肉厚差が大きくなる。
【0041】
2次中間焼鈍工程では、2次冷間圧延板に中間焼鈍を施す。このときの焼鈍温度は300℃以上450℃以下の範囲内とすることが好ましい。この範囲内であると、再結晶時にCube方位密度が小さくなることが抑制される。これにより、成形される絞りカップにおいて、圧延方向に対し45°方向の側壁厚が薄くなることが抑制され、且つ90°方向の側壁厚が厚くなることが抑制されて、絞りカップの周方向の肉厚差が大きくなることが抑制される。2次中間焼鈍工程における焼鈍温度の下限は、好ましくは300℃以上、より好ましくは320℃以上であってよい。2次中間焼鈍工程における焼鈍温度の上限は、好ましくは400℃以下であり、より好ましくは380℃以下であってよい。
【0042】
2次中間焼鈍工程では、好ましくは2次冷間圧延板を30℃/時間以上50℃/時間以下の昇温速度で焼鈍温度まで加熱してよい。昇温速度の下限は、好ましくは35℃/時間以上であってよい。また昇温速度の上限は、好ましくは45℃/時間以下であってよい。焼鈍温度を保持する時間は、例えば2時間以上6時間以下であってよい。焼鈍温度を保持する時間の下限は、好ましくは3時間以上であってよい。また焼鈍温度を保持する時間の上限は、好ましくは5時間以下であってよい。焼鈍温度を保持した後は、例えば30℃/時間以上50℃/時間以下の降温速度で所定の冷却温度まで冷却してよい。降温速度の下限は、好ましくは35℃/時間以上であってよい。また降温速度の上限は、好ましくは45℃/時間以下であってよい。冷却温度は、例えば240℃以下、好ましくは210℃以下であってよい。
【0043】
最終冷間圧延工程では、2次中間焼鈍後の2次冷間圧延板を冷間圧延して、所定の板厚とする。最終冷間圧延工程の加工率は80%以上95%以下とすることが好ましい。加工率が80%以上であるとアルミニウム合金板の強度が十分に得られ、DI成形およびベーキング後の缶の耐圧強度が十分に得られる。また、最終冷間圧延工程後のCube方位密度が大きくなり過ぎることが抑制され、成形される絞りカップにおいて、圧延方向に対し0°方向の側壁厚が薄くなることが抑制されて、絞りカップの周方向の肉厚差が小さくなる。また、加工率が95%以下であると、アルミニウム合金板の強度が過大となり過ぎることが抑制され、成形性の低下が抑制される。また、最終冷間圧延工程後のCube方位密度が小さくなり過ぎることが抑制され、成形される絞りカップにおいて、圧延方向に対し45°方向の側壁厚が薄くなることが抑制され、且つ90°方向の側壁厚が厚くなることが抑制されて、絞りカップの周方向の肉厚差が大きくなることが抑制される。最終冷間圧延工程の加工率の下限は、好ましくは85%以上であってよい。また最終冷間圧延工程の加工率の上限は、好ましくは90%以下であってよい。
【0044】
1次冷間圧延工程、2次冷間圧延工程および最終冷間圧延工程では、適切な荷重の範囲で所望の板厚まで圧延されるように、所定の総圧延率となる複数回のパスを設定して行ってよい。なお、パスとは、一対のワークロール間を板が1回通板して圧延されることをいう。
【0045】
缶胴用アルミニウム合金板の製造方法では、冷間圧延後、必要に応じて仕上げ焼鈍工程を施してもよい。仕上げ焼鈍工程では、最終冷間圧延工程後の冷間圧延板を、所定の仕上げ焼鈍温度で、所定時間保持する。仕上げ焼鈍温度は、例えば100℃以上200℃以下であってよい。また、仕上げ焼鈍温度を保持する時間は、例えば2時間以上4時間以下であってよい。
【実施例】
【0046】
以上、本発明の実施形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
缶胴用アルミニウム合金板の作製
表1に示す組成からなるアルミニウム合金(No.1からNo.8)の溶湯を金型に鋳込み、厚さ50mmの鋳塊を作製した。作製した鋳塊の表層を面削し、厚さ45mmとした。面削後の鋳塊を大気炉に投入して、40℃/時間の昇温速度で室温から600℃まで昇温し、600℃で10時間保持した後10℃/時間の冷却速度で500℃まで冷却し、次いで500℃で10時間保持した。保持完了後すぐに熱間圧延を開始し、板厚10mmの熱間圧延板とした。
【0048】
得られた熱間圧延板に対して、板厚2.7mm(加工率:73%)となるように1次冷間圧延工程を実施して1次冷間圧延板を得た。得られた1次冷間圧延板を40℃/時間の昇温速度で室温から270℃まで昇温し、270℃で4時間保持した後、40℃/時間の冷却速度で200℃まで冷却した後、空冷した。
【0049】
次いで、板厚2.4mm(加工率:11%)となるように2次冷間圧延工程を実施して2次冷間圧延板を得た。得られた2次冷間圧延板を40℃/時間の昇温速度で室温から340℃まで昇温し、340℃で4時間保持した後、40℃/時間の冷却速度で200℃まで冷却した後、空冷した。次いで、板厚0.3mm(加工率:87.5%)となるように最終冷間圧延工程を実施して冷間圧延板を得た。その後、150℃に加熱した大気炉に冷間圧延板を投入し、150℃で3時間保持して仕上げ焼鈍工程を実施して、板厚0.3mmの缶胴用アルミニウム合金板を作製した。
【0050】
なお、No.1からNo.5が実施例に相当し、No.6からNo.8は比較例に相当する。
【0051】
【0052】
ベーキング後耐力
作製した各々のアルミニウム合金板に対し、200℃で20分間の熱処理(ベーキング処理)を施した。熱処理後の板から、JIS Z 2241(2011)に規定されたJIS5号試験片を基準に幅と長さを1/2にした引張試験片を採取した。このとき、圧延方向を試験片の長手方向として採取した。この試験片を用いて引張試験を行って0.2%耐力を求めてベーキング後耐力とした。ベーキング後耐力が200MPa以上300MPa以下であったものをA(合格)とし、200MPa未満であったものをB(不合格)とした。結果を表2に示す。
【0053】
円相当径0.10μm以上1.00μm未満の金属間化合物の個数密度
作製した各々のアルミニウム合金板の圧延方向に対して平行な断面を樹脂埋め・研磨して断面観察用の試料を作製した。日本電子社製の走査型電子顕微鏡「JSM-7001F」を用いて、加速電圧15kV、倍率5000倍の条件でCOMPO像(組成像)を各10視野撮影した。得られたCOMPO像を用いて個々のAl-Fe-Mn系あるいはAl-Fe-Mn-Si系の金属間化合物の面積を計測した。それぞれの金属間化合物の面積から円相当径を算出し、円相当径が0.10μm以上1.00μm未満の金属間化合物の単位面積当たりの個数を算出して、個数密度とした。円相当径0.10μm以上1.00μm未満の金属間化合物の個数密度が1.7×105個/mm2以上4.0×105個/mm2以下あったものをA(合格)とし、1.7×105個/mm2未満または4.0×105個/mm2超であったものをB(不合格)とした。結果を表2に示す。
【0054】
再結晶の核となる臨界円相当径以上の金属間化合物の個数密度
前述の方法で得られた円相当径が0.10μm以上1.00μm未満の金属間化合物について、金属間化合物の面積率fと平均半径rを算出した。なお、面積率fは、観察視野の面積に対する金属間化合物の総面積の比率として算出した。また、平均半径rは、金属間化合物の円相当径の算術平均として算出した。算出された金属間化合物の面積率fと平均半径rから、以下の式(H. E. Vatne, O. Engler, E. Nes:Materials Science and Technology, February, 1997, Vol.13, pp.93-102.参照)により、再結晶の核となる金属間化合物の臨界円相当径ηPSNを試料毎に算出した。
ηPSN=(4/3)/(106-(3f/2r))
【0055】
次に、作製した各々のアルミニウム合金板の圧延方向に対して平行な断面を樹脂埋め・研磨して断面観察用の試料を作製した。日本電子社製の走査型電子顕微鏡「JSM-7001F」を用いて、加速電圧15kV、倍率500倍の条件でCOMPO像(組成像)を各20視野撮影した。得られたCOMPO像を用いて個々のAl-Fe-Mn系あるいはAl-Fe-Mn-Si系の金属間化合物の面積を計測した。それぞれの金属間化合物の面積から円相当径を算出し、先に求めた臨界円相当径ηPSN以上の金属間化合物の単位面積当たりの個数を算出して、個数密度とした。この個数密度が1.0×103個/mm2以上3.5×103個/mm2以下であった試料をA(合格)とし、1.0×103個/mm2未満または3.5×103個/mm2以下を超えた試料をB(不合格)とした。結果を表2に示す。
【0056】
絞りカップの開口部肉厚の周方向異方性
作製した板厚0.3mmのアルミニウム合金板から直径66.7mmのブランクを打抜き、このブランクにしわ押え荷重3kNを負荷した状態で絞り成形し、直径40mmの絞りカップ(以下、単に「カップ」ともいう)を作製した(絞り比1.67)。作製したカップを用いて、カップ開口部近傍(底面からの高さ17mmの位置)における肉厚を周方向に22.5°間隔で測定した。すなわち、圧延方向を0°として、0°方向、22.5°方向、45°方向、67.5°方向、90°方向、112.5°方向、135°方向、157.5°方向、180°方向、202.5°方向、225°方向、247.5°方向、270°方向、292.5°方向、315°方向および337.5°方向について肉厚を測定した。得られた計16点のデータから、0°方向および180°方向の肉厚の平均値として0°方向平均値;22.5°方向、157.5°方向、202.5°方向および337.5°方向の肉厚の平均値として22.5°方向平均値;45°方向、135°方向、225°方向および315°方向の肉厚の平均値として45°方向平均値;67.5°方向、112.5°方向、247.5°方向および292.5°方向の肉厚の平均値として67.5°方向平均値;90°方向および270°方向の肉厚の平均値として90°方向平均値をそれぞれ算出した。更にこれら5つの数値から、最大値(最大肉厚)、最小値(最小肉厚)および平均値(平均肉厚)を算出し、以下の式より周方向異方性(%)を算出した。
周方向異方性=(最大肉厚-最小肉厚)/平均肉厚×100[%]
上記の式から算出される周方向異方性が10.8%以下であった試料をA(合格)とし、10.8%を超えた試料をB(不合格)とした。結果を表2に示す。
【0057】
【0058】
表1および表2に示されるように、Siの含有率が0.16質量%以上0.60質量%以下であり、円相当径が0.10μm以上1.00μm未満である金属間化合物の個数密度が1.7×105個/mm2以上4.0×105個/mm2以下であり、臨界円相当径以上の金属間化合物の個数密度が1.0×103個/mm2以上3.5×103個/mm2以下であるNo.1から5が、周方向異方性が小さく、優れていた。