(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】車輪ロックシステムおよび搬送体
(51)【国際特許分類】
B60B 33/00 20060101AFI20250218BHJP
A45C 5/14 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
B60B33/00 501C
B60B33/00 F
A45C5/14 G
(21)【出願番号】P 2021174359
(22)【出願日】2021-10-26
【審査請求日】2024-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 真史
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-12508(JP,U)
【文献】特開2009-144456(JP,A)
【文献】特開平11-48704(JP,A)
【文献】独国実用新案第202009017461(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 33/00
A45C 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪ロックシステムであって、
車輪と、
前記車輪に取り付けられた回転軸部材と、
前記回転軸部材を回転可能に支持する軸受と、
前記回転軸部材の回転を許容するロック解除状態と前記回転軸部材の回転を規制するロック状態との間で、前記回転軸部材の状態を切り替えるロック機構と、
を備え、
前記ロック機構は、
前記回転軸部材に1周以上巻回されているロープと、
前記ロープが懸架される懸架部を含み、かつ、前記懸架部が前記回転軸部材から離隔した離隔位置に位置する状態と、前記懸架部が前記離隔位置より前記回転軸部材に接近した接近位置に位置する状態と、の間で、前記懸架部の状態を切り替える制御部材と、
を有し、
前記ロック機構は、前記懸架部が前記離隔位置に位置する状態では、前記ロープにより前記回転軸部材を緊締して前記ロック状態となり、前記懸架部が前記接近位置に位置する状態では、前記ロープが緩み前記ロック解除状態となるように構成されている、車輪ロックシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪ロックシステムであって、
前記ロック機構の前記ロープは、
前記回転軸部材に1周以上巻回されている第1のロープ部と、
前記回転軸部材に前記第1のロープ部の巻回し方向とは反対の方向に1周以上巻回されている第2のロープ部と、
を含み、
前記制御部材は、前記懸架部において、前記第1のロープ部の端部と前記第2のロープ部の端部とを懸架している、車輪ロックシステム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車輪ロックシステムであって、さらに、
前記制御部材の前記懸架部が前記離隔位置または前記接近位置に位置するように、前記制御部材を付勢する付勢部材と、
前記付勢部材による付勢力に抗して、前記制御部材の前記懸架部が前記接近位置または前記離隔位置に位置するように、前記制御部材に力を伝える力伝達部材と、
を備える、車輪ロックシステム。
【請求項4】
請求項3に記載の車輪ロックシステムであって、
前記制御部材は、所定の軸を中心として揺動することによって、前記懸架部が前記離隔位置に位置する状態と、前記懸架部が前記接近位置に位置する状態と、の間で切り替わるように構成されており、
前記付勢部材は、前記制御部材を前記所定の軸を中心として一方の方向に揺動させるように付勢し、
前記力伝達部材は、前記制御部材を前記所定の軸を中心として他方の方向に揺動させるように前記制御部材に力を伝える、車輪ロックシステム。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の車輪ロックシステムと、
底部に前記車輪ロックシステムが取り付けられた本体部と、
を備える、搬送体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、車輪ロックシステムおよび搬送体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばスーツケース、台車、ストレッチャー等のように、車輪を有し、床面に沿って搬送される搬送体が広く用いられている。搬送体の意図しない移動を防止するため、および/または、搬送体の移動速度を調整するため、車輪の回転を規制する(ロックする)ことが可能な車輪ロックシステムが種々提案されている。特許文献1には、車輪ロックシステムとして、ブレーキドラムに半周巻かれたブレーキバンドの張力により、タイヤの回転を規制するシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された車輪ロックシステムでは、ブレーキバンドがブレーキドラムに半周しか巻かれていないため、大きな力でブレーキバンドを引かない限りブレーキバンドによって車輪を確実にロックすることができない、という課題がある。また、ブレーキバンドを用いて車輪の回転を規制しているため、比較的大径の車輪にしか適用することができず、装置の小型化を実現することができない、という課題もある。
【0005】
本明細書では、上述した課題の少なくとも一部を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本明細書に開示される車輪ロックシステムは、車輪と、前記車輪に取り付けられた回転軸部材と、前記回転軸部材を回転可能に支持する軸受と、前記回転軸部材の回転を許容するロック解除状態と前記回転軸部材の回転を規制するロック状態との間で、前記回転軸部材の状態を切り替えるロック機構と、を備える。前記ロック機構は、前記回転軸部材に1周以上巻回されているロープと、前記ロープが懸架される懸架部を含み、かつ、前記懸架部が前記回転軸部材から離隔した離隔位置に位置する状態と、前記懸架部が前記離隔位置より前記回転軸部材に接近した接近位置に位置する状態と、の間で、前記懸架部の状態を切り替える制御部材と、を有する。前記ロック機構は、前記懸架部が前記離隔位置に位置する状態では、前記ロープにより前記回転軸部材を緊締して前記ロック状態となり、前記懸架部が前記接近位置に位置する状態では、前記ロープが緩み前記ロック解除状態となるように構成されている。
【0008】
本車輪ロックシステムでは、ロック機構を構成する制御部材の状態を、ロープを懸架する懸架部が回転軸部材から離隔した離隔位置に位置する状態と、懸架部が離隔位置より回転軸部材に接近した接近位置に位置する状態と、の間で切り替えるという比較的シンプルな構成により、回転軸部材の回転を許容するロック解除状態と、回転軸部材の回転を規制するロック状態との切り替えを実現することができる。また、本車輪ロックシステムでは、回転軸部材に1周以上巻回されたロープにより回転軸部材を緊締することによってロック状態を実現しているため、ユーザによる大きな力で何らかの部材を引っ張る動作を必要とすることなく、ロック状態において回転軸部材の回転を確実に規制することができる。また、本車輪ロックシステムでは、回転軸部材のロックのために、ロープという比較的細径の部材を用いているため、比較的小径の車輪のロックにも適用することができ、ひいては装置の小型化を実現することができる。以上のことから、本車輪ロックシステムによれば、比較的シンプルな構成により、回転軸部材の回転を許容するロック解除状態と回転軸部材の回転を規制するロック状態との切り替えを実現することができると共に、大きな力を要することなくロック状態において回転軸部材の回転を確実に規制することができ、さらに、装置の小型化を実現することができる。
【0009】
(2)上記車輪ロックシステムにおいて、前記ロック機構の前記ロープは、前記回転軸部材に1周以上巻回されている第1のロープ部と、前記回転軸部材に前記第1のロープ部の巻回し方向とは反対の方向に1周以上巻回されている第2のロープ部と、を含み、前記制御部材は、前記懸架部において、前記第1のロープ部の端部と前記第2のロープ部の端部とを懸架している構成としてもよい。本車輪ロックシステムによれば、第1のロープ部によって回転軸部材の一方の方向の回転について、ロック解除状態とロック状態との切り替えを実現することができると共に、第2のロープ部によって回転軸部材の他方の方向の回転について、ロック解除状態とロック状態との切り替えを実現することができる。従って、本車輪ロックシステムによれば、回転軸部材の両方向の回転について、ロック状態において回転軸部材の回転を確実に規制することができる。
【0010】
(3)上記車輪ロックシステムにおいて、さらに、前記制御部材の前記懸架部が前記離隔位置または前記接近位置に位置するように、前記制御部材を付勢する付勢部材と、前記付勢部材による付勢力に抗して、前記制御部材の前記懸架部が前記接近位置または前記離隔位置に位置するように、前記制御部材に力を伝える力伝達部材と、を備える構成としてもよい。本車輪ロックシステムによれば、通常時には回転軸部材をロック状態にし、力伝達部材から制御部材へ力を伝達することによってロック状態からロック解除状態に移行することができ、車輪ロックシステムの操作性を向上させることができる。
【0011】
(4)上記車輪ロックシステムにおいて、前記制御部材は、所定の軸を中心として揺動することによって、前記懸架部が前記離隔位置に位置する状態と、前記懸架部が前記接近位置に位置する状態と、の間で切り替わるように構成されており、前記付勢部材は、前記制御部材を前記所定の軸を中心として一方の方向に揺動させるように付勢し、前記力伝達部材は、前記制御部材を前記所定の軸を中心として他方の方向に揺動させるように前記制御部材に力を伝える構成としてもよい。本車輪ロックシステムによれば、比較的シンプルかつ省スペースな構成によりロック状態とロック解除状態との間の切り替えを実現することができる。
【0012】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、車輪ロックシステム、車輪ロックシステムを備える搬送体(例えば、スーツケース、台車、ストレッチャー等)等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態におけるスーツケースの構成を概略的に示す説明図
【
図2】本実施形態における車輪ロックシステムを示す外観斜視図
【
図6】車輪ロックシステムの
図4に示すVI-VI線断面図
【
図7】車輪ロックシステムの
図5に示すVII-VII線断面図
【
図8】車輪ロックシステムの一部を断面で示す外観斜視図
【
図10】車輪の回転を許容する状態の車輪ロックシステムを示す断面図
【
図11】変形例の車輪ロックシステムにおける車輪の回転を許容する状態を示す断面図
【
図12】変形例の車輪ロックシステムにおける車輪の回転を規制する状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.実施形態:
A-1.スーツケースの構成:
図1は、本実施形態におけるスーツケースの構成を概略的に示す説明図である。
図1のA欄には、後述するハンドル部12を引き出した状態のスーツケース10を示しており、B欄には、ハンドル部12を収納した状態のスーツケース10を示している。
図1では、説明の便宜上、スーツケース10の外観に表れない一部の構成についても図示している。
【0015】
スーツケース10は、床面に沿って搬送される搬送体であり、本体部11と、ハンドル部12と、キャスター部16と、を備える。以下では、スーツケース10の姿勢が、キャスター部16が本体部11の下方に位置する姿勢であるものとして説明する。ただし、スーツケース10は、他の姿勢を取り得る。
【0016】
本体部11は、荷物を収容する箱体であり、例えば略直方体形状の部材である。ハンドル部12は、スーツケース10を持ち上げたり床面に沿って搬送したりする際に把持される部分である。ハンドル部12は、2本のポール部14と、グリップ部13と、を有する。各ポール部14は、例えば略四角柱状の部材であり、上下方向に延伸する姿勢で本体部11に取り付けられている。グリップ部13は、例えば略円柱状の部材であり、2本のポール部14の上端に差し渡されるように取り付けられている。グリップ部13には、キャスター部16に設けられた後述する車輪ロックシステム100の操作のための操作部15が設けられている。ハンドル部12は、2本のポール部14を本体部11の上面から上方に延伸させた延伸状態(
図1のA欄参照)と、2本のポール部14を本体部11の内部または本体部11の側面に設けられた収納スペース内に収納した収納状態(
図1のB欄参照)との間で切り替え可能に構成されている。
【0017】
キャスター部16は、本体部11の底部に取り付けられており、車輪110を有する。キャスター部16は、本体部11を支持しつつ、車輪110が回転することによってスーツケース10を床面に沿って円滑に移動させる。本実施形態では、本体部11の底部の四隅のそれぞれに、キャスター部16が設けられている。
【0018】
また、キャスター部16には、車輪ロックシステム100が設けられている。車輪ロックシステム100は、スーツケース10の意図しない移動を防止したり、スーツケース10の移動速度を調整したりするために、各キャスター部16の車輪110の回転を許容したり規制したりするシステムである。以下、車輪ロックシステム100について、詳細に説明する。
【0019】
A-2.車輪ロックシステム100の構成:
図2から
図10は、車輪ロックシステムの構成を示す説明図である。
図2は、車輪ロックシステム100の外観斜視構成を示しており、
図3は、その分解斜視構成を示している。
図4及び
図5は、車輪ロックシステム100の側面構成を示しており、
図6は、
図4のVI-VIの位置における車輪ロックシステム100の断面(XZ断面)構成を示しており、
図7は、
図5のVII-VIIの位置における車輪ロックシステム100の断面(YZ断面)構成を示している。また、
図8及び
図9は、車輪ロックシステム100の一部の構成についての外観または断面の斜視構成を示している。
図6、
図8および
図9には、車輪ロックシステム100が車輪110の回転を規制している状態(ロック状態)を示している一方で、
図10は、その回転を許容している状態(ロック解除状態)の車輪ロックシステム100の断面(XZ断面)構成を示している。
【0020】
車輪ロックシステム100は、シャーシ190と、2つの車輪110と、回転軸部材120と、2つの軸受150と、ロック機構160と、付勢部材105と、操作ワイヤ106と、旋回機構108と、を備える。車輪ロックシステム100を構成する各部材は、例えば樹脂や金属により形成されている。なお、車輪ロックシステム100の構成部材の少なくとも一部は、キャスター部16の構成部材としても機能する。
【0021】
シャーシ190は、車輪ロックシステム100を構成する各部材を支持および/または収容するための筐体である。シャーシ190は、略水平方向に延びる略円筒状の水平部191と、略鉛直方向に延びる略円筒状の鉛直部192と、水平部191と鉛直部192とに挟まれた位置に設けられた略直方体状の接続部193と、を有する。シャーシ190の水平部191と鉛直部192と接続部193とのそれぞれには、互いに連通する内部空間194が形成されている。
【0022】
旋回機構108は、ベアリングを有し、スーツケース10の本体部11(
図1)に対するキャスター部16の旋回を可能にするための機構である。旋回機構108の下端部は、シャーシ190の鉛直部192の内部空間194に挿入されている。また、旋回機構108の上端部は、スーツケース10の本体部11の底部に螺合されている。これにより、シャーシ190(キャスター部16)は、旋回機構108を介して、水平方向に旋回可能な状態で本体部11に取り付けられている。
【0023】
各車輪110は、略円板状の部材である。また、回転軸部材120は、略水平方向に延びる柱状の車軸130と、略水平方向に延びる略円筒状の筒状部材140と、を有する。車軸130は、筒状部材140と同軸で、かつ、筒状部材140に対して相対回転不能な状態で、中空部141に挿入されている。そのため、車軸130と筒状部材140とは、一体となって回転軸周りに回転する。また、車軸130の延伸方向に沿った2つの端部131は、筒状部材140から突出しており、各端部131には車輪110が相対回転不能な状態で取り付けられている。そのため、各車輪110は、車軸130を含む回転軸部材120の回転軸周りの回転に伴い、同軸周りに回転する。また、筒状部材140の外周面143における延伸方向中央付近には、外周方向に突出する壁部142が形成されている。本実施形態では、壁部142は、全周にわたって連続的に形成されている。なお、車軸130と筒状部材140とが一体部材であってもよい。
【0024】
各軸受150は、略円板状の部材であり、シャーシ190の水平部191における延伸方向に沿った両端部の内部空間194に収容されて固定されている。各軸受150には貫通孔151が形成されている。一方の軸受150の貫通孔151には、回転軸部材120を構成する車軸130の一方の端部が挿通されており、他方の軸受150の貫通孔151には、回転軸部材120を構成する車軸130の他方の端部が挿通されている。これにより、車軸130は、各軸受150によって回転可能に支持されている。上述したように、各軸受150はシャーシ190に固定されているため、回転軸部材120は、シャーシ190によって回転可能に支持されていると言える。なお、軸受150とシャーシ190とが一体部材であってもよい。
【0025】
ロック機構160は、回転軸部材120の回転(すなわち、回転軸部材120に取り付けられた車輪110の回転)を許容するロック解除状態と、回転軸部材120の回転を規制するロック状態と、の間で回転軸部材120の状態を切り替える。回転軸部材120が、ロック解除状態にあるときには、スーツケース10を床面に沿って円滑に移動させることができ、ロック状態にあるときには、スーツケース10の意図しない移動を防止することができる。
【0026】
ロック機構160は、ロープ170と、制御部材180と、を有する。制御部材180は、シャーシ190の内部空間194内に収容されている。内部空間194内において、制御部材180は、回転軸部材120の上方に配置されている。
【0027】
制御部材180は、アーム181と、プーリー185と、を有する。アーム181は、腕状の部材であり、延伸方向の略中央付近に形成された貫通孔183に挿通された略水平方向に延びるピン101によって、ピン101を中心に揺動可能なようにシャーシ190に取り付けられている。
【0028】
プーリー185は、略円板状の部材である。プーリー185は、その中心付近に形成された貫通孔186およびアーム181の一端部付近に形成された貫通孔182に挿通された略水平方向に延びるピン103によって、それを中心に回転可能なようにアーム181に取り付けられている。アーム181がピン101を中心に揺動することにより、アーム181に取り付けられたプーリー185が回転軸部材120から離隔した離隔位置P1に位置する状態と、プーリー185が離隔位置P1よりも回転軸部材120に接近した接近位置P2に位置する状態と、の間で、プーリー185の状態が切り替わる。プーリー185は、特許請求の範囲における懸架部の一例である。
【0029】
ロープ170は、長尺の索状部材である。ロープ170は、回転軸部材120を構成する筒状部材140の外周面143に1周以上巻回されている。
図7に示すように、ロープ170の2つの端部178のそれぞれは、シャーシ190の水平部191に形成された固定空間196に挿入されて固定されている。
【0030】
ロープ170は、延伸方向の略中央付近の位置で、プーリー185に懸架されている。プーリー185によって懸架された位置を基準にロープ170を2つの部分(第1のロープ部171および第2のロープ部172)に仮想的に分けると、第1のロープ部171および第2のロープ部172のそれぞれについて、一方の端部はシャーシ190に固定され、他方の端部はプーリー185に懸架されていると言える。なお、本明細書において、懸架とは、索状物の端部および/または端部以外の部分を支持することを意味する。
【0031】
第1のロープ部171は、外周面143のうち、壁部142に対して一方側の領域に、1周以上巻回されており、第2のロープ部172は、外周面143のうち、壁部142に対して他方側の領域に、1周以上巻回されている。なお、第1のロープ部171および第2のロープ部172の巻回し数は、それぞれ、3周以上であることがより好ましく、5周以上であることがさらに好ましい。壁部142の存在により、第1のロープ部171および第2のロープ部172の、筒状部材140の軸方向に沿った位置ずれが抑制される。
【0032】
第1のロープ部171と第2のロープ部172との巻回し方向は、互いに反対方向になっている。すなわち、
図8に示すように、Y軸負方向側から見たとき、第1のロープ部171は、プーリー185に懸架された位置から下方に延びた後、筒状部材140の外周面143に反時計回りに巻回されている一方、第2のロープ部172は、プーリー185に懸架された位置から下方に延びた後、筒状部材140の外周面に時計回りに巻回されている。
【0033】
本実施形態では、外周面143に巻き回されたロープ170のうち互いに隣り合った2つの部分が交差して損傷することを防止するために、外周面143から所定距離だけ離隔しつつ外周面143を覆う略円筒状のカバー部材148が取り付けられている。カバー部材148の中空部の内径は、筒状部材140の外径(壁部142が形成されていない部分の外径)+ロープ170の直径×2より大きく、かつ、筒状部材140の外径+ロープ170の直径×3より小さい値に設定されている。そのため、カバー部材148により、上述した互いに隣り合った2つの部分の交差に起因するロープ170の損傷が抑制される。
【0034】
プーリー185が回転軸部材120から離隔した離隔位置P1に位置するときには、ロープ170を構成する第1のロープ部171および第2のロープ部172のそれぞれの一端部が上方に引き上げられる(
図6および
図8参照)。そのため、第1のロープ部171および第2のロープ部172に張力が生じ、第1のロープ部171および第2のロープ部172のそれぞれが筒状部材140を緊締した状態となる。一方、プーリー185が回転軸部材120に接近した接近位置P2に位置するときには、第1のロープ部171および第2のロープ部172のそれぞれの一端部が、プーリー185が離隔位置P1に位置するときより下方に位置する(
図10参照)。そのため、第1のロープ部171および第2のロープ部172に張力が生じず、これらが緩んで、筒状部材140を緊締しない状態となる。
【0035】
付勢部材105は、例えばコイルバネにより構成されており、その一方の端部は、ピン102によってシャーシ190に固定されている。また、付勢部材105の他方の端部は、制御部材180を構成するアーム181における、揺動中心としてのピン101を基準としてプーリー185とは反対側の位置に形成された貫通孔184に挿通されて固定されている。付勢部材105は、プーリー185が回転軸部材120から離隔した離隔位置P1に位置するように、アーム181を付勢している。
【0036】
操作ワイヤ106は、長尺の索状部材であり、その一端は、アーム181における、揺動中心としてのピン101と付勢部材105が固定された貫通孔184との間に設けられた凹部188に挿入された状態で、端子部材107を用いて固定されている。操作ワイヤ106は、アーム181に固定された端部から、旋回機構108に形成された貫通孔を通って上方に延伸し、ハンドル部12のポール部14およびグリップ部13の内部を通って、グリップ部13に設けられた操作部15に至っている(
図1参照)。操作部15は、例えばダイアル、レバー、ボタン等といったユーザにより操作される可動部を有している。該可動部の状態に応じて、操作部15は、操作ワイヤ106を引っ張る状態と、操作ワイヤ106を引っ張らない状態と、の間で、状態が切り替わる。操作ワイヤ106は、特許請求の範囲における力伝達部材の一例である。
【0037】
A-3.車輪ロックシステム100の動作:
次に、本実施形態の車輪ロックシステム100の動作について説明する。操作部15(
図1)が操作ワイヤ106を引っ張らない状態であるときには、制御部材180のアーム181における操作ワイヤ106との接続点(凹部188)に上向きの荷重が作用しない。そのため、このときには、
図6、
図8および
図9に示すように、アーム181は、付勢部材105によってピン101を中心としてプーリー185が回転軸部材120から離隔するような方向(
図9に示す方向Da)に揺動するように付勢され、その結果、アーム181はプーリー185が離隔位置P1に位置するような姿勢となる。
【0038】
プーリー185が離隔位置P1に位置する状態では、プーリー185に懸架されたロープ170を構成する第1のロープ部171および第2のロープ部172のそれぞれの一端部が上方に引き上げられるため、第1のロープ部171および第2のロープ部172に張力が生じ、第1のロープ部171および第2のロープ部172のそれぞれが筒状部材140を緊締した状態となる。ここで、第1のロープ部171および第2のロープ部172のそれぞれは、筒状部材140の外周面143に1周以上巻回されている。そのため、第1のロープ部171および第2のロープ部172が筒状部材140を緊締した状態では、第1のロープ部171および第2のロープ部172によって筒状部材140に大きな摩擦負荷が生じ、筒状部材140の回転を阻止する大きな力が発生する。これにより、筒状部材140を含む回転軸部材120の回転(すなわち、回転軸部材120に取り付けられた車輪110の回転)が規制されたロック状態となる。なお、回転軸部材120のような軸部材にロープ170のような索状物を巻き付けたときの摩擦負荷は、オイラーのベルト理論によれば、以下の式(1)で表される。
T1=T0eμθ ・・・(1)
ただし、
T1:索状物の一方の端をT0の力で引っ張っているときに、索状物をすべらせるために索状物の他端に加えることが必要な力
μ:摩擦係数
θ:索状物の接触角または巻き角
【0039】
上記式(1)によれば、例えば軸部材に索状物を1周巻きし(θ=2π)、摩擦係数μ=0.3である場合、T1=6.6T0となり、約7倍もの回転規制力を発揮することができる。また、索状物の巻き数を3周に変更すると(θ=6π)、T1=285.9T0となり、約286倍もの回転規制力を発揮することができる。
【0040】
一方、操作部15が操作ワイヤ106を引っ張る状態であるときには、制御部材180のアーム181における操作ワイヤ106との接続点(凹部188)に上向きの荷重が作用する。そのため、このときには、
図10に示すように、アーム181は、付勢部材105による付勢力に抗して、ピン101を中心としてプーリー185が回転軸部材120に接近するような方向(
図9に示す方向Db)に揺動し、その結果、アーム181はプーリー185が接近位置P2に位置するような姿勢となる。
【0041】
プーリー185が接近位置P2に位置する状態では、第1のロープ部171および第2のロープ部172のそれぞれの一端部が下方に降ろされるため、第1のロープ部171および第2のロープ部172に張力が生じない。そのため、第1のロープ部171および第2のロープ部172が緩んで、筒状部材140を緊締しない状態となる。その結果、筒状部材140を含む回転軸部材120の回転(すなわち、回転軸部材120に取り付けられた車輪110の回転)が許容されたロック解除状態となる。
【0042】
このように、本実施形態のスーツケース10に設けられた車輪ロックシステム100においては、操作部15に対する操作により、ロック機構160の状態を、回転軸部材120(ひいては車輪110)の回転を許容するロック解除状態と、回転軸部材120の回転を規制するロック状態との間で切り替えることができ、これにより、スーツケース10を床面に沿って円滑に移動させることができる状態と、スーツケース10の意図しない移動を防止する状態との間を切り替えることができる。
【0043】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の車輪ロックシステム100では、ロック機構160を構成する制御部材180の状態を、プーリー185が回転軸部材120から離隔した離隔位置P1に位置する状態と、プーリー185が離隔位置P1より回転軸部材120に接近した接近位置P2に位置する状態と、の間で切り替えるという比較的シンプルな構成により、回転軸部材120の回転を許容するロック解除状態と、回転軸部材120の回転を規制するロック状態との切り替えを実現することができる。また、本実施形態の車輪ロックシステム100では、回転軸部材120に1周以上巻回されたロープ170により回転軸部材120を緊締することによってロック状態を実現しているため、ユーザによる大きな力で何らかの部材を引っ張る動作を必要とすることなく、ロック状態において回転軸部材120の回転を確実に規制することができる。また、本実施形態の車輪ロックシステム100では、回転軸部材120のロックのために、ロープ170という比較的細径の部材を用いているため、比較的小径の車輪110のロックにも適用することができ、ひいては装置の小型化を実現することができる。以上のことから、本実施形態の車輪ロックシステム100によれば、比較的シンプルな構成により、回転軸部材120の回転を許容するロック解除状態と回転軸部材120の回転を規制するロック状態との切り替えを実現することができると共に、大きな力を要することなくロック状態において回転軸部材120の回転を確実に規制することができ、さらに、装置の小型化を実現することができる。
【0044】
本実施形態の車輪ロックシステム100では、ロープ170は、回転軸部材120に1周以上巻回されている第1のロープ部171と、回転軸部材120に第1のロープ部171の巻回し方向とは反対の方向に1周以上巻回されている第2のロープ部172とを含み、制御部材180のプーリー185は、第1のロープ部171の端部と第2のロープ部172の端部とを懸架している。そのため、本実施形態の車輪ロックシステム100によれば、第1のロープ部171によって回転軸部材120の一方の方向の回転(例えば、スーツケース10を前進させる方向の回転)について、ロック解除状態とロック状態との切り替えを実現することができると共に、第2のロープ部172によって回転軸部材120の他方の方向の回転(例えば、スーツケース10を後退させる方向の回転)について、ロック解除状態とロック状態との切り替えを実現することができる。従って、本実施形態の車輪ロックシステム100によれば、回転軸部材120(ひいては車輪110)の両方向の回転について、ロック状態において回転軸部材120の回転を確実に規制することができる。
【0045】
本実施形態の車輪ロックシステム100は、さらに、付勢部材105と、操作ワイヤ106とを備える。付勢部材105は、制御部材180のプーリー185が離隔位置P1に位置するように制御部材180を付勢する。操作ワイヤ106は、付勢部材105による付勢力に抗して、制御部材180のプーリー185が接近位置P2に位置するように、制御部材180に力を伝える。そのため、本実施形態の車輪ロックシステム100によれば、通常時には回転軸部材120(ひいては車輪110)をロック状態にし、操作ワイヤ106から制御部材180へ力を伝達することによってロック状態からロック解除状態に移行することができ、車輪ロックシステム100の操作性を向上させることができる。
【0046】
本実施形態の車輪ロックシステム100では、制御部材180は、所定の軸(ピン101)を中心として揺動することによって、プーリー185が離隔位置P1に位置する状態とプーリー185が接近位置P2に位置する状態との間で切り替わるように構成されており、付勢部材105は、制御部材180を該軸を中心として一方の方向に揺動させるように付勢し、操作ワイヤ106は、制御部材180を該軸を中心として他方の方向に揺動させるように制御部材180に力を伝える。そのため、本実施形態の車輪ロックシステム100によれば、比較的シンプルかつ省スペースな構成によりロック状態とロック解除状態との間の切り替えを実現することができる。
【0047】
B.変形例:
上記実施形態におけるスーツケース10の構成や、スーツケース10が備える車輪ロックシステム100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。すなわち、本明細書で開示される技術は、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができる。
【0048】
図11および
図12は、変形例の車輪ロックシステム100aの断面図である。
図11には、車輪の回転を許容する状態を示しており、
図12には、車輪の回転を規制する状態を示している。変形例の車輪ロックシステム100aでは、上記実施形態とは反対に、通常時にはロック機構160がロック解除状態にあり、操作部15への操作に伴いロック機構160がロック状態に移行する。すなわち、変形例の車輪ロックシステム100aでは、アーム181の揺動中心であるピン101と、操作ワイヤ106の固定位置である凹部188および付勢部材105の固定位置である貫通孔184と、の位置関係が、上記実施形態とは反対となっている。そのため、通常時には、
図11に示すように、アーム181は、付勢部材105によってピン101を中心としてプーリー185が回転軸部材120に接近するような方向に揺動するように付勢され、その結果、アーム181はプーリー185が接近位置P2に位置するような姿勢となり、回転軸部材120の回転が許容されたロック解除状態となる。一方、操作部15が操作ワイヤ106を引っ張る状態であるときには、アーム181における操作ワイヤ106の固定位置(凹部188)に上向きの荷重が作用する。そのため、
図12に示すように、アーム181は、付勢部材105による付勢力に抗して、ピン101を中心としてプーリー185が回転軸部材120から離隔するような方向に揺動し、その結果、アーム181はプーリー185が離隔位置P1に位置するような姿勢となり、回転軸部材120の回転が規制されたロック状態となる。
【0049】
上記実施形態では、スーツケース10に4つのキャスター部16が取り付けられているが、スーツケース10に取り付けられるキャスター部16の個数は、3つ以下であってもよいし、5つ以上であってもよい。また、各キャスター部16が備える車輪110の個数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0050】
上記実施形態では、操作部15がハンドル部12に設置されているが、操作部15の設置位置は他の位置でもよい。操作部15の設置位置に応じて、操作ワイヤ106の設置位置も変更され得る。また、力伝達部材として操作ワイヤ106以外の部材を用いてもよい。
【0051】
上記実施形態では、1本のロープ170を仮想的に第1のロープ部171および第2のロープ部172に分離しているが、物理的に分離された2本のロープを第1のロープ部171および第2のロープ部172として用いてもよい。また、ロープ170の第1のロープ部171および第2のロープ部172の両方について1つのアーム181を用いて懸架しているが、第1のロープ部171および第2のロープ部172のそれぞれについて個別に懸架用のアーム181を用意してもよい。また、ロープ170の一方の端部178がアーム181に固定され、ロープ170が該固定位置から筒状部材140に向けて延伸して筒状部材140の外周面143に巻回された後、アーム181に向けて延伸し、ロープ170の他方の端部178がアーム181に固定された構成を採用してもよい。
【0052】
上記実施形態では、ロープ170が、回転軸部材120に巻回された第1のロープ部171と、その方向とは反対の方向に巻回された第2のロープ部172とを含んでいるが、ロープ170が一の巻回し方向に巻回されている部分のみを含むものとしてもよい。このような構成であっても、少なくとも一の回転方向について、ロック状態において回転軸部材120の回転を確実に規制することができる。
【0053】
上記実施形態では、ロック機構160におけるロック状態は、回転軸部材120の回転を完全に阻止する状態であるが、該ロック状態が、回転軸部材120の回転を規制するものの、完全には阻止しない状態、すなわち、回転軸部材120の回転速度を減ずるような状態であってもよい。このような構成は、ロック状態の際にロープ170に生じる張力を調整したり、ロープ170の巻き数やロープ170と筒状部材140との摩擦係数を調整したりすることにより実現することができる。このような構成とすれば、車輪ロックシステム100を制動装置として利用することもできる。
【0054】
上記実施形態では、車輪ロックシステム100をスーツケース10に適用した例について説明したが、本明細書に開示される車輪ロックシステム100は、他の搬送体(例えば、台車、ストレッチャー等)にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
10: スーツケース
11: 本体部 12: ハンドル部 13: グリップ部
14: ポール部 15: 操作部 16: キャスター部
100: 車輪ロックシステム
100a: 車輪ロックシステム(変形例)
101: ピン
102: ピン
103: ピン
105: 付勢部材
106: 操作ワイヤ
107: 端子部材
108: 旋回機構
110: 車輪
120: 回転軸部材
130: 車軸
131: 端部
140: 筒状部材
141: 中空部 142: 壁部 143: 外周面
148: カバー部材
150: 軸受
151: 貫通孔
160: ロック機構
170: ロープ
171: 第1のロープ部 172: 第2のロープ部 178: 端部
180: 制御部材
181: アーム 182: 貫通孔 183: 貫通孔
184: 貫通孔 185: プーリー 186: 貫通孔
188: 凹部
190: シャーシ
191: 水平部 192: 鉛直部 193: 接続部
194: 内部空間 196: 固定空間