(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】癌を処置するためのマドラシン誘導体化合物、組成物およびこれらの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5377 20060101AFI20250218BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20250218BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20250218BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250218BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20250218BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250218BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20250218BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250218BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61K31/675
A61K31/517
A61P35/00
A61P35/04
A61P17/00
A61P25/00
A61P43/00 121
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2021523668
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2019081516
(87)【国際公開番号】W WO2020099650
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-11-14
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516365507
【氏名又は名称】アンスティテュ・ギュスターヴ・ルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】591049848
【氏名又は名称】アンセルム
【氏名又は名称原語表記】INSERM
(73)【特許権者】
【識別番号】592236245
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】アプシェ,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】アラミ,ムーアド
(72)【発明者】
【氏名】ダリグラン,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】メサウーディ,サミル
(72)【発明者】
【氏名】サルゲス,ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】レンコ,ザフィアリソア ドロール
(72)【発明者】
【氏名】イェン-ポン,エクスペディート
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/165495(WO,A1)
【文献】TRENDS IN MOLECULAR MEDICINE,2016年,Vol.22, No.1,p.28-37
【文献】JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2014年,Vol.289, No.50,p.34683-34698
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式II、式III、式IV、式V、式VIおよび式VII
:
5,6-ジメチル-2-((4-メチル-7-(2-モルホリノエトキシ)キナゾリン-2-イル)アミノ)ピリミジン-4(3H)-オン
【化1】
ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート
【化2】
N-(2-メトキシピリミジン-5-イル)キナゾリン-2-アミン
【化3】
N-(1H-インドール-3-イル)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-アミン
【化4】
((1S,2S,4R,5S,6S)-5-アセトキシ-7,8-ジアセチル-4-((2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-8-イル)チオ)-3,7λ3,8λ3-トリオキサビシクロ[4.2.0]オクタン-2-イル)メチル アセテート
【化5】
7-メトキシ-4-メチル-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル)キナゾリン-2-アミン
【化6】
から選択される化合物
を含む、
対象における癌の処置、癌転移の予防および/または癌再発の予防に使用するための医薬組成物であって、前記癌
は肉腫である、医薬組成物。
【請求項2】
式II、
式III、式IV、式V、式VII、式VIII、式IX、式Xおよび式XI:
5,6-ジメチル-2-((4-メチル-7-(2-モルホリノエトキシ)キナゾリン-2-イル)アミノ)ピリミジン-4(3H)-オン
【化7】
ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート
【化8】
N-(2-メトキシピリミジン-5-イル)キナゾリン-2-アミン
【化9】
N-(1H-インドール-3-イル)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-アミン
【化10】
7-メトキシ-4-メチル-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル)キナゾリン-2-アミン
【化11】
7-メトキシ-N-(6-メトキシピリジン-3-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン
【化12】
N2-(7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)-N4-メチルピリミジン-2,4-ジアミン
【化13】
7-メトキシ-N-(4-メトキシピリミジン-2-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン
【化14】
7-メトキシ-N-(2-メトキシピリミジン-4-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン
【化15】
から選択される化合物
を含む、
対象における癌の処置、癌転移の予防および/または癌再発の予防に使用するための医薬組成物であって、前記癌
は黒色腫である、医薬組成物。
【請求項3】
式III
:
【化16】
の化合物を含む、対象における癌の処置、癌転移の予防および/または癌再発の予防に使用するため医薬組成物であって、前記癌
は芽細胞腫である、医薬組成物。
【請求項4】
少なくとも1つの異なる抗癌剤および/または放射線療法と組み合わせて癌の処置に使用するための、請求項1~
3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの異なる抗癌剤が、化学療法剤、免疫チェックポイント阻害剤および抗癌ワクチンから選択される、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート(EYP59)、((1S,2S,4R,5S,6S)-5-アセトキシ-7,8-ジアセチル-4-((2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-8-イル)チオ)-3,7λ3,8λ3-トリオキサビシクロ[4.2.0]オクタン-2-イル)メチル アセテート(EYP86)、N-(1H-インドール-3-イル)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP165)、7-メトキシ-N-(6-メトキシピリジン-3-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP174)、7-メトキシ-N-(4-メトキシピリミジン-2-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP179)、N2-(7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)-N4-メチルピリミジン-2,4-ジアミン(EYP181)、7-メトキシ-4-メチル-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル)キナゾリン-2-アミン(EYP188)、5,6-ジメチル-2-((4-メチル-7-(2-モルホリノエトキシ)キナゾリン-2-イル)アミノ)ピリミジン-4(3H)-オン(EYP201)およびN-(2-メトキシピリミジン-5-イル)キナゾリン-2-アミン(EYP281)から選択される
化合物を含む、処置を必要とする対象における抗癌免疫応答の刺激に使用するための医薬組成物であって、前記癌は肉腫である、医薬組成物。
【請求項7】
ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート(EYP59)、N-(1H-インドール-3-イル)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP165)、7-メトキシ-N-(6-メトキシピリジン-3-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP174)、7-メトキシ-N-(4-メトキシピリミジン-2-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP179)、N2-(7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)-N4-メチルピリミジン-2,4-ジアミン(EYP181)、7-メトキシ-4-メチル-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル)キナゾリン-2-アミン(EYP188)、7-メトキシ-N-(2-メトキシピリミジン-4-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP190)、5,6-ジメチル-2-((4-メチル-7-(2-モルホリノエトキシ)キナゾリン-2-イル)アミノ)ピリミジン-4(3H)-オン(EYP201)およびN-(2-メトキシピリミジン-5-イル)キナゾリン-2-アミン(EYP281)から選択される
化合物を含む、処置を必要とする対象における抗癌免疫応答の刺激に使用するための医薬組成物であって、前記癌は黒色腫である、医薬組成物。
【請求項8】
ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート(EYP59)
を含む、処置を必要とする対象における抗癌免疫応答の刺激に使用するための医薬組成物であって、前記癌は芽細胞腫である、医薬組成物。
【請求項9】
薬学的に許容される担体を
含み、
それとともに、同時に、別個にまたは逐次的に使用される少なくとも1つの異なる抗癌剤
を含む、請求項1
、2または3に記載の医薬組成物。
【請求項10】
ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート(EYP59)、((1S,2S,4R,5S,6S)-5-アセトキシ-7,8-ジアセチル-4-((2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-8-イル)チオ)-3,7λ3,8λ3-トリオキサビシクロ[4.2.0]オクタン-2-イル)メチル アセテート(EYP86)、N-(1H-インドール-3-イル)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP165)、7-メトキシ-N-(6-メトキシピリジン-3-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP174)、7-メトキシ-N-(4-メトキシピリミジン-2-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP179)、N2-(7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)-N4-メチルピリミジン-2,4-ジアミン(EYP181)、7-メトキシ-4-メチル-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル)キナゾリン-2-アミン(EYP188)、5,6-ジメチル-2-((4-メチル-7-(2-モルホリノエトキシ)キナゾリン-2-イル)アミノ)ピリミジン-4(3H)-オン(EYP201)およびN-(2-メトキシピリミジン-5-イル)キナゾリン-2-アミン(EYP281)から選択される
化合物を含む、対象における癌の処置、癌転移の予防および/または癌再発の予防に使用するための医薬組成物であって、前記癌は肉腫であり、前記医薬組成物は薬学的に許容される担体を含み、それとともに、同時に、別個にまたは逐次的に使用される少なくとも1つの異なる抗癌剤を含む、医薬組成物。
【請求項11】
ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート(EYP59)、N-(1H-インドール-3-イル)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP165)、7-メトキシ-N-(6-メトキシピリジン-3-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP174)、7-メトキシ-N-(4-メトキシピリミジン-2-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP179)、N2-(7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)-N4-メチルピリミジン-2,4-ジアミン(EYP181)、7-メトキシ-4-メチル-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル)キナゾリン-2-アミン(EYP188)、7-メトキシ-N-(2-メトキシピリミジン-4-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP190)、5,6-ジメチル-2-((4-メチル-7-(2-モルホリノエトキシ)キナゾリン-2-イル)アミノ)ピリミジン-4(3H)-オン(EYP201)およびN-(2-メトキシピリミジン-5-イル)キナゾリン-2-アミン(EYP281)から選択される
化合物を含む、対象における癌の処置、癌転移の予防および/または癌再発の予防に使用するための医薬組成物であって、前記癌は黒色腫であり、前記医薬組成物は薬学的に許容される担体を含み、それとともに、同時に、別個にまたは逐次的に使用される少なくとも1つの異なる抗癌剤を含む、医薬組成物。
【請求項12】
ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート(EYP59)
を含む、対象における癌の処置、癌転移の予防および/または癌再発の予防に使用するための医薬組成物であって、前記癌は芽細胞腫であり、前記医薬組成物は薬学的に許容される担体を含み、それとともに、同時に、別個にまたは逐次的に使用される少なくとも1つの異なる抗癌剤を含む、医薬組成物。
【請求項13】
ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート(EYP59)、((1S,2S,4R,5S,6S)-5-アセトキシ-7,8-ジアセチル-4-((2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-8-イル)チオ)-3,7λ3,8λ3-トリオキサビシクロ[4.2.0]オクタン-2-イル)メチル アセテート(EYP86)、N-(1H-インドール-3-イル)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP165)、7-メトキシ-N-(6-メトキシピリジン-3-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP174)、7-メトキシ-N-(4-メトキシピリミジン-2-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP179)、N2-(7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)-N4-メチルピリミジン-2,4-ジアミン(EYP181)、7-メトキシ-4-メチル-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル)キナゾリン-2-アミン(EYP188)、5,6-ジメチル-2-((4-メチル-7-(2-モルホリノエトキシ)キナゾリン-2-イル)アミノ)ピリミジン-4(3H)-オン(EYP201)およびN-(2-メトキシピリミジン-5-イル)キナゾリン-2-アミン(EYP281)から選択される
化合物を含む、対象における癌細胞によるPioneer Translation Product (PTP)由来の抗原の提示を誘発もしくは増加させるまたは免疫ペプチドームを変化させるために使用するための医薬組成物であって、前記癌は肉腫である、医薬組成物。
【請求項14】
ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート(EYP59)、N-(1H-インドール-3-イル)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP165)、7-メトキシ-N-(6-メトキシピリジン-3-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP174)、7-メトキシ-N-(4-メトキシピリミジン-2-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP179)、N2-(7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)-N4-メチルピリミジン-2,4-ジアミン(EYP181)、7-メトキシ-4-メチル-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル)キナゾリン-2-アミン(EYP188)、7-メトキシ-N-(2-メトキシピリミジン-4-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(EYP190)、5,6-ジメチル-2-((4-メチル-7-(2-モルホリノエトキシ)キナゾリン-2-イル)アミノ)ピリミジン-4(3H)-オン(EYP201)およびN-(2-メトキシピリミジン-5-イル)キナゾリン-2-アミン(EYP281)から選択される
化合物を含む、対象における癌細胞によるPioneer Translation Product (PTP)由来の抗原の提示を誘発もしくは増加させるまたは免疫ペプチドームを変化させるために使用するための医薬組成物であって、前記癌は黒色腫である、医薬組成物。
【請求項15】
ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート(EYP59)
を含む、対象における癌細胞によるPioneer Translation Product (PTP)由来の抗原の提示を誘発もしくは増加させるまたは免疫ペプチドームを変化させるために使用するための医薬組成物であって、前記癌は芽細胞腫である、医薬組成物。
【請求項16】
対象が哺乳動物、好ましくはヒトである、請求項1~
15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
請求項1、9または10に記載の医薬組成物および少なくとも1つの異なる抗癌剤を異なる容器に含む
、肉腫の処置に使用するためのキット
、請求項2、9または11に記載の医薬組成物および少なくとも1つの異なる抗癌剤を異なる容器に含む、黒色腫の処置に使用するためのキット、または、請求項3、9または12に記載の医薬組成物および少なくとも1つの異なる抗癌剤を異なる容器に含む、芽細胞腫の処置に使用するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に医薬の分野、特に癌処置に関する。具体的には、本発明はマドラシン誘導体であり、各々が典型的に医薬として使用されるものである新規化合物に関する。特に、本発明は、対象における、細胞、特に癌細胞による、(抗原性)ペプチド、好ましくはPioneer Translation Products(PTP)由来抗原の提示、典型的には産生および提示の増加、または免疫ペプチドームの変化、および対象における免疫応答の誘発または刺激のための、これらの新規化合物の使用に関する。免疫応答は、典型的には、腫瘍抗原に対して、より一般的には、対象が有する癌性腫瘍に対して向けられる。
【0002】
本発明はまた、このような化合物の使用、特に、医薬組成物を製造するための、および/または処置を必要とする対象における治療、特に、癌治療の効率化を可能とするまたは改善するための使用に関する。本発明の化合物の各々は、実際に、対象における癌の処置、癌転移の予防もしくは処置および/または癌再発の予防のために、少なくとも1つの異なる抗癌剤、典型的には、化学療法薬および/または放射線療法と組み合わせて、有利に使用され得る。
【0003】
本発明はまた、対象における疾患、特に癌の処置、癌転移の処置または予防および/または癌再発の予防または処置のための方法を開示する。本発明はさらに、本発明による組成物の製造および/または本明細書に記載の方法の実施に適切なキットを提供する。
【背景技術】
【0004】
全ての有核細胞は、クラスI主要組織適合性複合体(MHC-I)経路によりそれらの表面に抗原ペプチド(AP)を提示する。APは、8~10個のアミノ酸長であり、固有の細胞活動を反映する(Caronら)。それらの提示は、主に細胞毒性CD8+T細胞(CTL)およびCD4+Tヘルパー細胞である免疫細胞による潜在的に危険な要素の監視を誘導するため、APは現在開発されている治療的抗癌ワクチンの標的である。有望であるにもかかわらず、腫瘍関連抗原(TAA)を標的化する治療ワクチンを用いた臨床試験の結果は期待通りではなかった。主な失敗は、免疫抑制性メカニズムおよび抗原の最適ではない選択に関連していた(Mellmanら;Burgら)。腫瘍免疫選択を駆動し、予後不良に相関する重要な事象の一つは、腫瘍細胞によるMHCクラスI抗原提示の減少または下方調節である(Watsonら;Liuら)。これらの最後は、MHCクラスI経路の構成における欠如のため、CTLおよびナチュラルキラー細胞の認識からの回避であり得る(Leoneら)。MHCクラスI抗原提示の全体的な減少と並んで、MHCIクラスI免疫ペプチドーム(MIP)と称される細胞表面に提示された抗原の性質は、免疫認識に極めて重要である。乳癌におけるHer/neuまたは結腸癌におけるCEAのような特定のTAAが特定され、免疫療法で標的化される癌において、腫瘍細胞表面でのこのTAA発現の減少は免疫回避をもたらす(Lee ら;Kmieciakら)。これに対抗するために、現在の戦略は、標的化された癌ペプチドの範囲を広げることおよび抗原提示を回復させることを目的とする。
【0005】
MIPの動態を理解するために、MHCクラスI提示経路についてのAPの供給源が注目され得る。内因性APは、最初は完全に老化タンパク質の分解に由来すると考えられた。しかしながら、別の供給源を示唆するモデルはこの概念に異議を申し立てた。1996年、J. Yewdellのグループが、最初はそれらの不安定な立体配座のために急速に分解す産物として記載された欠陥リボソーム産物(DRIP)の概念を紹介した(Yewdellら)。より最近では、本発明者らは、APの主な供給源は、イントロンが切り出される前に生じ、かつ完全長タンパク質の翻訳事象から独立した先駆翻訳事象に由来することを示す異なる観点からの概念を研究した(Apcherら)。従って、産生された非標準的ペプチドは、イントロン配列、3’または5’UTR領域および代替読み取り枠に由来し得る。これらのポリペプチドは、Pioneer Translation Product(PTP)として記載される。PTPの発見は、MHCクラスI経路に関連し、かつ適切なポリペプチドを産生することによりMIPを形成することを一部目的とする複雑な翻訳核メカニズムの存在を示唆する。さらに、PTPは、癌進展の速度における役割を果たすと考えられる。マウスに接種したとき、細胞表面にPTP由来抗原を提示する癌細胞は特定のT細胞により認識され、腫瘍増殖低減をもたらし得る。さらに、モデルエピトープを含む精製されたPTPは、マウスにペプチドワクチンとして注射したとき、効率的に抗癌免疫応答を促進する(Duvalletら)。
【0006】
前駆体mRNA(プレmRNA)スプライシングは、核において、200を超えるタンパク質との複合体である5つの小核RNA(snRNA)、U1、U2、U4、U5およびU6から成る保存された動的多タンパク質複合体であるスプライセオソームにより触媒される。スプライセオソーム複合体の制御緩和が異常腫瘍細胞増殖および進行に寄与する多くの癌における異常なスプライシングパターンを必然的に伴うことを報告する研究が増えている。2011年以来、骨髄単球性白血病、骨髄白血病、慢性リンパ性白血病、乳癌または多発性骨髄腫を含むいくつかの癌においてスプライセオソーム変異の再発が報告されている。
【0007】
Darrigrandら(Drug Discovery and new Therapeutics、パリ・サクレ大学におけるFirst international symposium、2018年4月)は、エピトープに基づく免疫療法のための創薬可能な標的(druggable target)であることを教示している。国際公開第2017/165495号には、癌の処置のためのPIMキナーゼ阻害剤とRNAスプライシング調節剤/阻害剤の組合せが記載されている。Saltonらは、癌治療における小分子プレmRNAスプライシング調節剤の使用を開示している。近年、プラジエノライドBおよびD、スプライソスタチンA、FR901464、E7107、Isoginkgetinおよびマドラシンを含む数種の微生物天然物およびこれらの合成アナログがスプライセオソームを阻害することが報告された。本発明者らは、各々のいくつかの抗原提示の調節剤としての潜在的な効果を試験した。
【0008】
マドラシンおよび産生したいくつかの誘導体が癌に対する正の免疫調節剤として使用され得ることをここに示す。マウス癌細胞株で発現されるPTP由来抗原モデルの抗原提示を観察し、マドラシンおよび本明細書に記載の種々の誘導体を用いたインビトロ処置が抗原提示を増加させることを観察した。さらに、水に溶解したマドラシン塩酸塩(本明細書において「Madra.HCl」、EYP34または式Iの化合物としても特定される)を用いた肉腫担持マウスのインビボ処置は、免疫依存的方法で腫瘍増殖を減速させることを示した。その効果を改善するために、水に可溶または不溶である種々のマドラシン誘導体を試験し、いくつかの誘導体はマドラシンそれ自体より強力なマウス肉腫増殖の阻害剤であることを観察した。天然物およびその誘導体は免疫不全Nu/Nuマウスにおいて腫瘍増殖に対して全く効果を有さないため、それらの効果は免疫応答に依存すると結論付けられる。これらの結果は、PTP由来抗原提示が処置により調節され得て、かつスプライシング阻害が抗癌応答をブーストし得ることを示す。本明細書において、発明者らは抗腫瘍免疫応答を増強するための正の免疫調節剤として使用され得るスプライシング阻害剤の別の作用機構を記載する。
【0009】
本発明者らは、対象における疾患の処置において、特に、癌の処置において、癌転移の予防においておよび/または癌再発の予防において使用するための新規化合物をここに記載する。
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、マドラシンに由来する次の特定の化合物を初めて製造し、ここに記載する:
- マドラシン塩酸塩(本明細書において「Madr.HCl」、「EYP34」または「式Iの化合物」としても特定される)
【化1】
- 5,6-ジメチル-2-((4-メチル-7-(2-モルホリノエトキシ)キナゾリン-2-イル)アミノ)ピリミジン-4(3H)-オン(本明細書において「EYP201」、「化合物6」または「式IIの化合物」としても特定される)、
【化2】
- ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート(本明細書において「EYP59」、「化合物7」または「式IIIの化合物」としても特定される)、
【化3】
〔式中、
「Na」は「ナトリウム」を表し、
式-ONaのラジカルは「ナトリウムヒドロキシド」を示す〕
- N-(2-メトキシピリミジン-5-イル)キナゾリン-2-アミン(本明細書において「EYP281」、「化合物32」または「式IVの化合物」としても特定される)、
【化4】
- N-(1H-インドール-3-イル)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-アミン(本明細書において「EYP165」、「化合物57」または「式Vの化合物」としても特定される)、
【化5】
- ((1S,2S,4R,5S,6S)-5-アセトキシ-7,8-ジアセチル-4-((2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-8-イル)チオ)-3,7λ
3,8λ
3-トリオキサビシクロ[4.2.0]オクタン-2-イル)メチル アセテート(本明細書において「EYP86」、「化合物10」または「式VIの化合物」としても特定される)、
【化6】
〔式中、式-OAcのラジカルは構造CH
3-C(=O)-O-の「アセトキシ基」を示す〕
- 7-メトキシ-4-メチル-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル)キナゾリン-2-アミン(本明細書において「EYP188」、「化合物42」または「式VIの化合物I」としても特定される)、
【化7】
- 7-メトキシ-N-(6-メトキシピリジン-3-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(本明細書において「EYP174」、「化合物41」または「式VIIIの化合物」としても特定される)、
【化8】
- N2-(7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)-N4-メチルピリミジン-2,4-ジアミン(本明細書において「EYP181」、「化合物49」または「式IXの化合物」としても特定される)、
【化9】
- 7-メトキシ-N-(4-メトキシピリミジン-2-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(本明細書において「EYP179」、「化合物50」または「式Xの化合物」としても特定される)、
【化10】
- 7-メトキシ-N-(2-メトキシピリミジン-4-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(本明細書において「EYP190」、「化合物54」または「式XIの化合物」としても特定される)
【化11】
【0011】
これらの化合物の各々およびその任意の組合せは、本明細書において医薬として使用されるために記載される。
【0012】
あらゆるこれらの化合物およびその薬学的に許容される塩は、医薬として有利に使用される。
【0013】
本明細書に記載の好ましい態様において、任意の上記の式(I)~(XI)の化合物またはその薬学的に許容される塩またはそのいずれかの組合せは、対象における疾患の処置において使用するための、特に、癌の処置において使用するための、癌転移の予防において使用するための、および/または癌再発の予防において使用するためのものである。
【0014】
対象における、細胞、特に癌細胞による、(抗原性)ペプチド、好ましくは、Pioneer Translation Products(PTP)由来抗原の提示、典型的には産生および提示の誘発または増加、または免疫ペプチドームの変化のための、式(I)~(XI)から選択される式の化合物のインビボ、インビトロまたはエクスビボでの使用が、さらに記載される。
【0015】
式(I)~(XI)から選択される式の化合物は、対象の免疫系を刺激することにより、医師が癌細胞増殖を予防または制御、好ましくは減少させることを可能とする。さらに、他の癌処置の有効性を増加させることが有利に可能である。本発明者らは、本化合物はさらに、転移および/または癌再発のリスクを低減することができることをここに示す。
【0016】
このような式(I)~(XI)から選択される式の化合物および薬学的に許容される担体を、好ましくは、同時に、別々にまたは逐次的に使用される少なくとも1つの異なる抗癌剤とともに含む組成物もまた、ここに記載される、このような組成物は、典型的に対象における疾患の処置、特に癌の処置、癌転移の予防および/または癌再発の予防のために使用されるものである。
【0017】
本明細書に記載の化合物、典型的には、式(I)~(XI)から選択される式の化合物または組成物を対象に投与する過程を含む、対象における疾患、特に、癌を処置する方法もまた、ここに記載される。
【0018】
式(I)~(XI)から選択される式の化合物および好ましくは、少なくとも1つの異なる抗癌剤を異なる容器に含むキットおよびその使用、特に、本明細書に記載の組成物の製造のための使用もまた、ここに記載される。
【0019】
本発明の詳細な説明
本発明者らは、本明細書において最初に記載され、より詳細には、式(I)~(XI)の化合物として下記で特定されるマドラシン誘導体を合成した:
- マドラシン塩酸塩(本明細書において「Madr.HCl」、「EYP34」または「式Iの化合物」としても特定される)、
【化12】
- 5,6-ジメチル-2-((4-メチル-7-(2-モルホリノエトキシ)キナゾリン-2-イル)アミノ)ピリミジン-4(3H)-オン(本明細書において「EYP201」、「化合物6」または「式IIの化合物」としても特定される)、
【化13】
- ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート(本明細書において「EYP59」、「化合物7」または「式IIIの化合物」としても特定される)、
【化14】
〔式中、
「Na」は「ナトリウム」を表し、
式-ONaのラジカルは「ナトリウムヒドロキシド」を示す〕
- N-(2-メトキシピリミジン-5-イル)キナゾリン-2-アミン(本明細書において「EYP281」、「化合物32」または「式IVの化合物」としても特定される)、
【化15】
- N-(1H-インドール-3-イル)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-アミン(本明細書において「EYP165」、「化合物57」または「式Vの化合物」としても特定される)、
【化16】
- ((1S,2S,4R,5S,6S)-5-アセトキシ-7,8-ジアセチル-4-((2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-8-イル)チオ)-3,7λ3,8λ3-トリオキサビシクロ[4.2.0]オクタン-2-イル)メチル アセテート(本明細書において「EYP86」、「化合物10」または「式VIの化合物」としても特定される)、
【化17】
〔式中、式-OAcのラジカルは構造CH
3-C(=O)-O-の「アセトキシ基」を示す〕
- 7-メトキシ-4-メチル-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル)キナゾリン-2-アミン(本明細書において「EYP188」、「化合物42」または「式VIの化合物I」としても特定される)、
【化18】
- 7-メトキシ-N-(6-メトキシピリジン-3-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(本明細書において「EYP174」、「化合物41」または「式VIIIの化合物」としても特定される)、
【化19】
- N2-(7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)-N4-メチルピリミジン-2,4-ジアミン(本明細書において「EYP181」、「化合物49」または「式IXの化合物」としても特定される)、
【化20】
- 7-メトキシ-N-(4-メトキシピリミジン-2-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(本明細書において「EYP179」、「化合物50」または「式Xの化合物」としても特定される)、
【化21】
- 7-メトキシ-N-(2-メトキシピリミジン-4-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(本明細書において「EYP190」、「化合物54」または「式XIの化合物」としても特定される)
【化22】
【0020】
特定の態様において、本発明者らは、式(A):
【化23】
〔式中、
R
1およびR
2は独立して、H、CH
4(メチル)およびCl(塩素)から選択され、
R
3はH、CH
4(メチル)、C
2H
6(エチル)、n-プロピル、N(CH
2)
4またはN(CH
2)
5であり、
ZはCH
2またはC=Oであり、
nは1、2または3であり、
XはO、NまたはCHである〕
の化合物をここに記載する。
【0021】
特定のおよび好ましい態様において、式(A)の化合物は、式IIの化合物(「EYP201」または「化合物6」としても特定される)である。
【0022】
別の特定の態様において、本発明者らは、式(B):
【化24】
〔式中、
R
1およびR
2は独立して、H、CH
4(メチル)、Cl(塩素)およびチオ糖から選択され;
R
3はP(O)(ONa)
2または
【化25】
(式中、
R
4はH、CH
4(メチル)、C
2H
6(エチル)、n-プロピル、N(CH
2)
4またはN(CH
2)
5であり、
ZはCH
2またはC=Oであり、
nは1、2または3であり、
XはO、NまたはCHである)
である〕
の化合物をここに記載する。
【0023】
アリール基は、例えば、3,4,5-トリメトキシフェニル;2-クロロ-3,4,5-トリメトキシフェニル;3,5-トリメトキシフェニル;または2-クロロ-3,5-トリメトキシフェニルであり得る。
【0024】
ヘテロアリール基は、例えば、3-インドリル;2-インドリル;2-イミダゾール;2-ベンゾイミダゾール;カルバゾール;N-メチルピリミジン;メトキシピリミジン-2-イル;メトキシピリミジン-4-イル;メトキシピリジン-2-イルまたはメトキシピリジン-4-イルであり得る。
【0025】
特定の態様において、式(B)の化合物は、式(III)の化合物、式(V)の化合物、式(VI)の化合物、式(VII)の化合物、式(VIII)の化合物、式(IX)の化合物、式(X)の化合物および式(XI)の化合物から選択される。
【0026】
本明細書における上記の式(A)および式(B)または式(I)~(XI)のいずれかの化合物およびその薬学的に許容される塩は、有利に、医薬として使用され得る。
【0027】
本明細書において使用される用語「薬学的に許容される」とは、健全な医学的判断の範囲内で対象の組織の接触に適切であり得るか、または合理的な利益/リスク比に相応する過剰な毒性または他の合併症なしに対象に投与され得る組成物、化合物、塩などをいう。例えば、薬学的に許容される塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、クロライド塩、アンモニウム塩、酢酸塩などを包含する。
【0028】
本発明者らは、式(A)、(B)および(I)~(XI)の化合物は、正の免疫調節剤として、有利に、特に癌に対して使用され得ることをここに示す。
【0029】
本発明者らは、マウス癌細胞株において発現されたPTP由来抗原モデルの抗原提示を観察し、マドラシンおよび、好ましくは、式(A)および(B)または(I)~(XI)から選択される式の化合物を用いたれらのインビトロ処置が、この抗原の提示を増加させることを観察した。さらに、DMSOに溶解したマドラシンを用いた肉腫担持マウスのインビボ処置は、免疫依存的な方法で腫瘍増殖を減速させることを示した。その効果を改善するために、本明細書に記載の水に可溶なマドラシン誘導体を試験し、驚くべきことに、それらはマドラシン自体よりはるかに強力な癌阻害剤であることを観察した。免疫不全Nu/Nuマウスにおいて、天然物および誘導体は腫瘍増殖に全く効果を有さないため、それらの効果は免疫応答に依存することを結論付けた。それらの結果は、PTP由来抗原提示が調節できることを示し、本発明者らは、他のマドラシン誘導体と対照的に、特に抗癌応答をブーストし、癌を処置するために使用され得る、市場開発のための新たな有望な分子を提供する。
【0030】
本明細書に記載の好ましい態様において、式(A)および(B)または(I)~(XI)から選択される式の化合物、特に、式(I)、式(II)、(III)、式(V)、式(VI)、式(VI)、式(VII)、式(VIII)、式(IX)、式(X)または(XI)の化合物(本明細書において「目的の化合物」としても特定される)は、対象における疾患の、特に癌の処置における使用、癌転移の予防における使用および/または癌再発の予防における使用のためのものである。
【0031】
本明細書に記載の別の好ましい態様において、式(A)および(B)または(I)~(XI)から選択される式の化合物は、処置を必要とする患者における抗癌免疫応答を刺激するために使用するためのものである。
【0032】
さらに好ましい態様において、式(A)および(B)または(I)~(XI)から選択される式の化合物は、対象における癌細胞によるPioneer Translation Products (PTP)由来抗原の提示、典型的には、産生および提示を誘発し、増加させるか、または免疫ペプチドームを変化させるために使用するものである。
【0033】
本発明の化合物は、半合成または全合成のような当業者に既知の方法により得られ得る。目的の化合物の製造方法の例は、実験の部において本明細書に記載され、さらに
図9および10において示される。式(A)、(B)および(I)~(XI)の化合物は、天然においては見ることができない人工的な生成物である。
【0034】
式(A)、(I)~(III)および(VI)の化合物は、典型的には、プレmRNAスプライシングの浸透阻害剤として記載されたマドラシンから製造され得る。式(IV)、式(V)、(VII)~(XI)の化合物は、従来の化学反応を用いて、化学合成により製造され得る。
【0035】
本発明のさらなる目的は、異なる抗癌剤、典型的には、異なる化学療法剤に対する癌または癌に罹患している対象の耐性を低下させるための、式(A)および(B)または(I)~(XI)から選択される式の化合物(またはその薬学的に許容される塩)の使用である。
【0036】
少なくとも1つの異なる抗癌剤、典型的には、化学療法薬および/または放射線療法と組み合わせて使用するための、対象における疾患の処置、特に癌の処置のための、癌転移の予防のためのおよび/または癌再発の予防のための、本発明による式(A)および(B)または(I)~(XI)から選択される式の化合物またはその薬学的に許容される塩)またはこのような塩および薬学的に許容される担体を含む組成物もまた、ここに記載される。
【0037】
用語「対象」は、あらゆる対象、好ましくは哺乳動物をいう。
【0038】
哺乳動物の例は、ヒトおよび非ヒト動物、例えば、限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、非ヒト霊長類(例えば、サル)、ウサギおよび齧歯類(例えば、マウスおよびラット)を含む。処置は、好ましくは、処置を必要とするあらゆる年齢および性別のヒトが対象とされる。
【0039】
用語「対象」とは、典型的に、患者、特に、腫瘍を有する患者をいう。特に断らない限り、本発明において、腫瘍は癌性腫瘍または悪性腫瘍である。特定の態様において、対象は、化学療法および/または放射線療法のような癌の処置を受けている対象であるか、または癌を発症するリスクがある対象であるか、または癌を発症するリスクがあることが疑われる対象である。
【0040】
対象は、例えば、癌に罹患し、かつ癌処置、典型的には、化学療法に対して耐性であるヒトである。
【0041】
対象は、完全な従来の処置プロトコル、例えば、全ての処置プロトコルの少なくとも1サイクル、例えば、全ての処置プロトコルの2サイクルの一部に曝されていてよい。
【0042】
癌または腫瘍は、あらゆる種類の癌または新生物であり得る。腫瘍は典型的には、固形腫瘍、特に、上皮性、神経外胚葉性または間葉性由来の固形腫瘍である。癌はまた、典型的に、癌、肉腫、リンパ腫、生殖細胞腫瘍、芽細胞腫、白血病および多発性骨髄腫から選択され、好ましくは、癌、肉腫、芽細胞腫、リンパ腫、白血病および多発性骨髄腫から選択される。癌は、転移癌であってもなくてもよい。
【0043】
癌は、例えば、限定されないが、慢性骨髄白血病、急性リンパ芽球性白血病、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病(Ph+ ALL)、ホジキン病、ホジキンまたは非ホジキンリンパ腫、扁平上皮細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞性肺癌、神経膠腫、消化器癌、腎臓癌、卵巣癌、肝臓癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、腎臓癌、前立腺癌、甲状腺癌、神経芽腫、脳癌、中枢神経系癌、膵臓癌、多形神経膠芽腫、頸部癌、胃癌、膀胱癌、悪性肝細胞癌、乳癌、結腸癌、頭頸部癌、胃癌、生殖細胞腫瘍、小児癌、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、軟組織肉腫、副鼻腔NK/T細胞リンパ腫、骨髄腫、黒色腫、多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病(AML)および慢性リンパ性白血病から成る群から選択され得る。
【0044】
好ましい実施態様において、癌は、肺癌、乳癌、尿生殖器癌(例えば、前立腺癌、膀胱癌、精巣癌、子宮頸癌または卵巣癌)および肉腫(例えば、小児軟組織肉腫を含む骨肉腫または軟組織肉腫、神経芽腫、骨髄腫および黒色腫)から成る群から選択される。
【0045】
特定の実施態様において、癌は、肉腫である。
【0046】
より好ましくは、癌は、黒色腫、肺癌(非小細胞肺癌(またはNSCLC)および小細胞肺癌(またはSCLC)を含む)および乳癌から選択される。
【0047】
さらにより好ましくは、癌は、黒色腫または肺癌である。
【0048】
ある態様において、癌は、肺癌、典型的には、小細胞肺癌または非小細胞性肺癌である。
【0049】
別の態様において、癌は、白血病、典型的には、急性骨髄性白血病(AML)または慢性リンパ性白血病である。
【0050】
さらなる態様において、癌は、結腸癌、典型的には、結腸癌である。癌はまた、結腸直腸癌であり得る。
【0051】
さらなる態様において、癌は、小児癌、典型的には、小児科肉腫、リンパ腫、白血病、神経芽腫、脳癌または中枢神経系癌である。
【0052】
本明細書に記載の特定の態様において、抗癌剤は、化学療法剤、免疫チェックポイント阻害剤および抗癌ワクチン(本明細書において「癌ワクチン」としても特定される)から選択される。これらの薬剤は、典型的に、癌を処置するための「従来の」薬剤と考えられる。
【0053】
化学療法剤は、典型的に、例えば、抗腫瘍/細胞毒性抗生物質、アルキル化剤、代謝拮抗剤、トポイソメラーゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、白金ベースの成分、特異的キナーゼ阻害剤、ホルモン、サイトカイン、抗血管新生剤、抗体、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤および血管崩壊剤から選択される薬剤である。
【0054】
抗腫瘍剤または細胞毒性抗生物質は、例えば、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、アドリアマイシン、イダルビシン、エピルビシン、ミトキサントロン、バルルビシン)、アクチノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、プリカマイシンおよびヒドロキシ尿素から選択され得る。
【0055】
アルキル化剤は、例えば、メクロレタミン、シクロホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、イホスファミド、テモゾロミド、ブスルファン、N-ニトロソ-N-メチル尿素 (MNU)、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、セムスチン(MeCCNU)、ホテムスチン、ストレプトゾトシン、ダカルバジン、テモゾロミド、チオテパ、マイトマイシン、ジアジクオン(AZQ)、プロカルバジン、ヘキサメチルメラミンおよびウラムスチンから選択され得る。
【0056】
代謝拮抗剤は、例えば、ピリミジン類縁体(例えば、フルオロピリミジン類縁体、5-フルオロウラシル(5-FU)、フロクスウリジン(FUDR)、シトシンアラビノシド(シタラビン)、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、カペシタビン);プリン類縁体(例えば、アザチオプリン、メルカプトプリン、チオグアニン、フルダラビン、ペントスタチン、クラドリビン、クロファラビン);葉酸類縁体(例えば、メトトレキサート、葉酸、ペメトレキセド、アミノプテリン、ラルチトレキセド、トリメトプリム、ピリメタミン)から選択され得る。
【0057】
トポイソメラーゼ阻害剤は、例えば、カンプトテシン、イリノテカン、トポテカン、アムサクリン、エトポシド、エトポシドホスフェートおよびテニポシドから選択され得る。
【0058】
有糸分裂阻害剤は、例えば、タキサン[パクリタキセル(PG-パクリタキセルおよびDHA-パクリタキセル)(タキソール(登録商標))、ドセタキセル(タキソテール(登録商標))、ラロタキセル、カバジタキセル、オルタタキセル、テセタキセルまたはタキソプレキシン];紡錘体阻害剤またはビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシンまたはビンフルニン);メベンダゾール;およびコルヒチンから選択され得る。
【0059】
白金ベースの成分は、例えば、白金、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチンおよびトリプラチンテトラナイトレートから選択され得る。
【0060】
特異的キナーゼ阻害剤は、例えば、ベムラフェニブのようなBRAFキナーゼ阻害剤;MAPK阻害剤(例えば、ダブラフェニブ);MEK阻害剤(例えば、トラメチニブ);およびイマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、スニチニブまたはカルボザンチニブのようなチロシンキナーゼ阻害剤から選択され得る。
【0061】
タモキシフェン、抗アロマターゼまたは抗エストロゲン薬物はまた、典型的に、ホルモン療法において使用され得る。
【0062】
免疫療法において使用可能なサイトカインは、例えば、IL-2(インターロイキン-2)、IL-11(インターロイキン-11)、IFN(インターフェロン)アルファ(IFNα)、および顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)から選択され得る。
【0063】
抗血管形成剤は、例えば、ベバシズマブ、ソラフェニブ、スニチニブ、パゾパニブおよびエベロリムスから選択され得る。
【0064】
抗体、特に、モノクローナル抗体(mAb)は、抗CD20抗体(抗汎B細胞抗原)、抗Her2/Neu(ヒト上皮細胞増殖因子受容体-2/NEU)抗体;癌細胞表面標的化抗体(例えば、リツキシマブおよびアレムツズマブ);増殖因子標的化抗体(例えば、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブおよびトラスツズマブ);アゴニスト抗体(例えば、抗ICOS mAb、抗OX40 mAb、抗41BB mAb);および免疫コンジュゲート(例えば、90Y-イブリツモマブチウキセタン、131I-トシツモマブまたはado-トラスツズマブエムタンシン)から選択され得る。
【0065】
DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、例えば、2’-デオキシ-5-アザシチジン(DAC)、5-アザシチジン、5-アザ-2’-デオキシシチジン、1-[β]-D-アラビノフラノシル-5-アザシトシンおよびジヒドロ-5-アザシチジンから選択され得る。
【0066】
血管崩壊剤は、例えば、フラボン酢酸誘導体、5,6-ジメチルキサンテノン-4-酢酸(DMXAA)およびフラボン酢酸(FAA)から選択され得る。
【0067】
他の化学療法薬は、プロテアソーム阻害剤(例えば、ボルテゾミブ)、DNA鎖崩壊化合物(例えば、チラパザミン)、チオレドキシンレダクターゼおよびリボヌクレオチドレダクターゼの両方の阻害剤(例えば、キシトリン)およびThl免疫応答強化剤(例えば、チマルファシン)を含む。
【0068】
好ましい実施態様において、化学療法薬または化学療法剤は、抗腫瘍/細胞毒性抗生物質、アルキル化剤、代謝拮抗剤、トポイソメラーゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、白金ベースの成分、特異的キナーゼ阻害剤、抗血管新生剤、抗体およびDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤から選択される。
【0069】
免疫チェックポイント阻害剤は、典型的に、免疫チェックポイント標的化抗体である。このような免疫チェックポイント阻害剤は、有利に、抗CTLA4(イピリムマブおよびトレメリムマブ)、抗PD-1(ニボルマブおよびペンブロリズマブ)、抗PD-L1(アテゾリズマブ、デュルバルマブおよびアベルマブ)、抗PD-L2および抗Tim3から選択される。
【0070】
癌ワクチンは、例えば、(抗原性)ペプチド、特に、PTPを含むワクチン組成物;ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(例えば、Gardasil (登録商標)、Gardasil 9(登録商標)およびCervarix(登録商標));前立腺酸ホスファターゼ(PAP)シプロイセルTに対する免疫応答を刺激するワクチン(Provenge(登録商標));腫瘍溶解性ウイルス;およびタリモジンラヘルパレプベク(T-VECまたはImlygic(登録商標))から選択され得る。
【0071】
別の特定の態様において、(「従来の」)癌処置は、照射(本明細書において、「放射線療法」としても特定される)である。放射線療法は、典型的に、X線(「XR」)、ガンマ線および/またはUVC線から選択される光線を含む。
【0072】
数種の抗癌剤を含み得る処置は、予防または処置される特定の癌に応じて、癌専門医により選択される。
【0073】
特定の黒色腫は、従来イピリムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、IFNα、ダカルバジン、BRAF阻害剤、ダブラフェニブ、トラメチニブ、ソラフェニブ、テモゾロミド、電気化学療法、TNFαおよび/またはホテムスチンを用いて処置される黒色腫である。
特定の実施態様において、前記の細胞毒性の従来の治療法に耐性の黒色腫である。
【0074】
特定の乳癌は、従来、乳房腫瘍を除去するための手術前または後に、好ましくは、手術後に、アントラサイクリン、タキサン、トラスツズマブ、抗PARP(ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ)、抗PI3K(ホスホイノシチド3-キナーゼ)、mTOR(哺乳類ラパマイシン標的)阻害剤、ビノレルビン、ゲムシタビン、抗エストロゲンおよび/または抗アロマターゼを用いて処置される。
特定の実施態様において、乳癌は、前記の従来の治療法に耐性の乳癌である。
【0075】
特定の肺癌は、従来XRおよびプラチンまたはペメトレキセド(permetrexed)を用いて処置される。
【0076】
特定の初期段階のNSCLCは、従来パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、ビノレルビン、エトポシド、タキサン、アバスチン[抗VEGF(血管内皮細胞増殖因子)抗体]、エルロチニブおよび/またはゲフィチニブを用いて処置されるNSCLCである。特定の実施態様において、肺癌は、従来の治療法に耐性である。
【0077】
結腸直腸癌または腸癌としても知られる特定の結腸癌は、従来乳房腫瘍を除去するための手術後に、代謝拮抗剤(5-FU、ラルチトレキセド)、白金ベースの成分(オキサリプラチン)、トポイソメラーゼ阻害剤(イリノテカン)、増殖因子標的化抗体(ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ)を用いて処置される。
【0078】
本発明はさらに、医薬組成物または医薬を製造するための、本発明による式(A)および式(B)または式(I)~(XI)から選択される式の化合物(またはその薬学的に許容される塩)の使用であって、前記組成物が、処置を必要とする対象の免疫系を刺激することにより、対象における疾患、特に癌を処置することができる、または治療の有効性を改善することができるものである、使用に関する。
【0079】
特定の態様において、化合物は、式(A)、式(B)、式II、式III、式IV、式V、式VIおよび式VIIの化合物から選択され、癌は、肉腫である。
【0080】
別の特定の態様において、化合物は、式IIの化合物、式III、式IV、式V、式VIII、式IX、式Xおよび式XIの化合物から選択され、癌は、黒色腫である。
【0081】
本発明の化合物は、対象における疾患を処置するために、特に、癌を処置するために、癌転移を予防するためにおよび/または癌再発を予防するために、少なくとも1つの異なる前記抗癌剤または他の何らかの治療活性化合物および/または放射線療法と組み合わせて、有利に使用され得る。
【0082】
疾患の処置、特に癌の処置における同時、別個または逐次使用のための、典型的には組合せ製剤として式(A)および(B)または(I)~(XI)から選択される式の化合物および薬学的に許容される担体を、好ましくは、少なくとも1つの異なる治療剤、特に、抗癌剤とともに含む組成物もまた、ここに記載される。
【0083】
(i)疾患、特に癌を処置する方法、(ii)疾患、特に癌の、治療剤/抗癌剤に対する感受性を増加させる方法、および(iii)治療剤/抗癌剤に対する疾患/癌の耐性を低下させる方法もまた、ここに記載され、前記方法の各々は、処置を必要とする対象に有効量、典型的には治療有効量の少なくとも1つの式(A)および式(B)または式(I)~(XI)から選択される式の化合物または上記医薬組成物を、好ましくは本明細書に記載の疾患/癌の処置に古典的に使用される別の治療剤/抗癌剤とともに(組合せ製剤として)投与することを含む。
【0084】
別の特定の態様において、前記方法はさらに、疾患/癌を処置するために、または疾患/癌処置副作用を予防または処置するために、有効量の別の治療活性化合物を投与することを含む。
【0085】
本明細書に記載の「処置」または「処置する」とは、処置される対象の自然経過を変化させるための治療的介入をいい、典型的に、治癒目的のために実施される。処置の所望の効果は、限定されないが、疾患の再発の予防、症状の軽減、および疾患の何らかの直接的もしくは間接的な病理学的帰結の減少、疾患進行速度の低減、疾患状態の改善または緩和ならびに寛解または予後の改善を含む。
【0086】
好ましい実施態様において、本明細書の組成物および方法は、癌の進展を減速させるため、または癌の進行、典型的には腫瘍増殖の進行を減速させるために使用される。
【0087】
典型的に、処置は、対象の免疫系の治療的応答、典型的に、CD4+および/またはCD8+T細胞応答を誘発する。
【0088】
T細胞応答の誘発は、典型的に、特定の抗原に向けられたT細胞応答が誘発されることを意味する。前記誘導の前には、前記T細胞応答は存在しなかったか、または検出以下のレベルであるか、機能的ではなかった。T細胞応答の強化は、前記強化前の前記T細胞の全体の作用と比較して、特定の抗原に向けられたT細胞の全体の作用が高められるおよび/またはより効率的であることを意味する。例えば、前記強化後、前記抗原に向けられたより多くのT細胞が産生され得る。結果として、さらに産生されたT細胞の作用は、前記抗原に対する全体の作用を増加させる。あるいは、前記強化は、前記抗原に向けられたT細胞の作用の増大を含み得る。例えば、前記T細胞は、前記抗原とより強くおよび/または前記抗原とより速く反応し得る。当然、前記強化の結果は、前記T細胞の作用の増大を伴うさらなるT細胞の産生であり得る。あるいは、前記強化は、さらなるT細胞の産生またはT細胞の作用の増大の一方のみを含み得る。
【0089】
本明細書に記載の別の目的は、典型的に、特定の標的、好ましくは腫瘍抗原または癌/腫瘍細胞または組織に対する、対象における免疫応答を作り出す方法であって、本発明による式(A)および式(B)または式(I)~(XI)から選択される式の化合物を、典型的に、有効量で前記対象に注射することを含む、方法に関する。
【0090】
治療免疫応答の検出は、ELISA、ELISPOT、遅延型過敏反応、細胞内サイトカイン染色および/または細胞外サイトカイン染色のような技術により、当業者により容易に決定され得る。
【0091】
本明細書に記載の「有効量または用量」または「治療有効量または用量」とは、対象における疾患、特に癌を除去する、減速させる、または前記疾患により引き起こされるまたは前記疾患に関連する1以上の症状または障害を低減するまたは遅延させるか、対象、好ましくはヒトにおいて測定可能な免疫応答を誘発する本発明の化合物の量をいう。本発明の化合物およびその医薬組成物の有効量、より一般には投与レジメンは、当業者により決定され、適合され得る。有効用量は、従来技術の使用および類似の状況下で得られた結果の観察により決定され得る。本発明の化合物の治療的有効用量は、処置される疾患、その重症度、投与経路、関連する何らかの併用療法、患者の年齢、体重、一般的な医学的状態、病歴などに応じて変化する。
【0092】
典型的に、患者に投与される化合物の量は、ヒト患者に対して、約0.01mg/kg~500mg/kg体重の範囲であり得る。特定の実施態様において、本発明による医薬組成物は、0.1mg/kg~100mg/kg、例えば、0.5mg/kg~10mg/kgの本発明の化合物を含む。
【0093】
特定の態様において、本発明の目的の化合物は、非経腸経路、経口経路または静脈内(IV)、腫瘍内(IT)もしくは腹腔内(IP)注射により、対象に投与され得る。本発明の化合物は、連続した数日間、例えば、連続した2~10日間、好ましくは連続した3~6日間、毎日(1日1回)対象に投与され得る。前記処置は、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間または7週間または2週間毎、3週間毎または1か月毎、2か月ごとまたは3か月毎の期間繰り返され得る。あるいは、所望により2つの処置サイクルの間に、例えば1週間、2週間、3週間、4週間または5週間の休薬期間を設けて、複数の処置サイクルが実施され得る。本明細書に記載の本発明の化合物のいずれか1つは、例えば、週1回、2週間に1回または月1回、単回用量として投与され得る。処置は、年間1回以上繰り返され得る。
【0094】
用量は、当業者により決定され得る適切な間隔で投与される。選択される量は、投与経路、投与期間、投与時間、式(A)および式(B)または式(I)~(XI)から選択される式を有する選択された化合物または前記化合物と組み合わせて使用される多様な生成物の排出速度、患者の年齢、体重および健康状態および患者の病歴および医学で知られるあらゆる他の情報を含む複数の因子に依存する。
【0095】
投与経路は多様な経路により実施され得る。例えば、投与経路は、経口または非経腸であり得る。
【0096】
それは、典型的に、全身注射、例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、腫瘍内、皮下などにより実施される。医薬組成物は、1以上の上記経路に適合される。医薬組成物は、好ましくは、適切な無菌溶液の注射もしくは静脈内点滴により投与されるか、または液体または固体用量の形態で、消化管を介して投与される。
【0097】
医薬組成物は、薬学的に適合可能な溶媒またはビークルの溶液として、または当分野において既知の方法で、場合により、持続および/または遅延放出を提供する投与形態またはデバイスを通して固体ビークルを含むピル剤、錠剤、カプセル剤、散剤、坐薬剤などとして製剤され得る。この種類の製剤について、セルロース、脂質、炭酸塩またはデンプンのような物質が、有利に使用される。
【0098】
製剤に使用され得る物質またはビークル(液体および/または注射溶液および/または固体)は、賦形剤または不活性ビークル、すなわち、薬学的に不活性かつ非毒性のビークルである。
【0099】
例えば、医薬的使用と適合可能であり、当業者に既知である食塩水、生理学的、等張および/または緩衝液が言及され得る。組成物は、分散剤、可溶化剤、安定化剤、防腐剤などから選択される1以上の物質またはビークルを含み得る。
【0100】
経口投与に適切な本発明の製剤は、カプセル剤、サシェ剤、錠剤またはロゼンジ剤として別個の単位の形態で存在し得て、これらは各々、予め決定された量の有効成分を、粉末または顆粒の形態で;水性液体または非水性液体中に溶液または懸濁液の形態で;または水中油型エマルジョンまたは油中水型エマルジョンの形態で含む。
【0101】
非経腸投与に適切な製剤は、便利に、好ましくは受容者の血液と等張である、活性成分の無菌油性または水性製剤を含む。全てのこのような製剤はまた、他の薬学的に適合可能かつ非毒性の補助剤、例えば、安定化剤、抗酸化剤、結合剤、染色剤、乳化剤または風味剤を含み得る。
【0102】
本発明の製剤は、有効成分である本発明による式(A)および式(B)または式(I)~(XI)から選択される式を有する化合物(またはその薬学的に許容される塩)とともに、薬学的に許容される担体および場合により、他の有効成分または治療成分を含む。担体は、他の製剤成分と適合可能であり、かつその受容者にとって無害であるという意味で「許容される」ものでなければならない。これらの抗癌剤の多くの安全かつ有効な投与は、当業者に既知である。さらに、これらの投与は標準的な文献に記載されている。
【0103】
本発明の別の目的は、本発明による式(A)および式(B)または式(I)~(XI)から選択される式を有する化合物(またはその薬学的に許容される塩)および好ましくは、少なくとも1つの異なる治療剤、特に抗癌剤、典型的には化学療法薬を異なる容器に含むキットである。キットはさらに、第三者に対して本明細書に記載の方法、例えば、対象における疾患、特に癌を処置するための、癌転移を予防または処置するためのおよび/または癌再発を処置するための方法を実施するための、本発明による組成物を製造するための指示を含む。
【0104】
別の特定の実施態様において、本発明は、本明細書に記載の組成物を製造するための本発明によるキットの使用に関する。
【0105】
別の特定の実施態様において、第三者に対して本明細書に記載の方法、特に、対象における癌を処置するための、癌転移を予防または処置するためのおよび/または癌再発を処置するための方法を実施するのに適切である。
【0106】
本発明のさらなる態様および利点は、説明としてのみ考慮される次の実験項および図面に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【
図1A-1B】
図1Aおよび1B:マドラシンおよびMadra.HCl処置は、癌細胞におけるイントロン由来抗原提示を増加させる。5μMまたは10μMの(A)マドラシン、(B)Madra.HClで処置した後のイントロン由来SL8抗原を発現するMCA205肉腫細胞およびB16F10黒色腫におけるB3Z特異的T細胞活性化。T細胞アッセイを非飽和条件で実施すること、およびMHC-I分子の発現を結果の計算に入れることを確実にするために、遊離のSL8ペプチドを各条件において添加した。各グラフは少なくとも3回の独立した実験のうちの1つの代表例である。データは平均±SEMとして与えられる。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001(対応のないスチューデントt検定)。
【0108】
【
図1C-1F】Madra.HClは、イントロン由来SL8エピトープを有する腫瘍の増殖を減速させる。野生型MCA205肉腫細胞またはグロブリン-SL8-イントロン構築物を発現するMCA205肉腫細胞(MCA205 グロブリン-SL8-イントロン)を免疫応答性C57BL/6マウスの脇腹に皮下接種し、続いて、腫瘍接種後4日、7日、10日および14日に20mg/kgまたは40mg/kgのMadra.HClを腹腔内注射した。確立された倫理的なエンドポイントに達するまで、3~4日毎に腫瘍サイズを評価した。パネルCはグロブリン-SL8-イントロン構築を発現するMCA205肉腫細胞(MCA205 グロブリン-SL8-イントロン)の増殖曲線を表し、パネルDは25日目の腫瘍サイズを表す。パネルEは野生型MCA205肉腫細胞(MCA205 WT)の増殖曲線を表し、パネルFは21日目の腫瘍サイズを表す。データは平均±SEMとして示される。*p<0.05、**p<0.01(全グループを比較するテューキー多重比較検定を用いたANOVA)。
【0109】
【
図1G】Madra.HClは、イントロン由来SL8発現腫瘍担持マウスの全体的な生存を延長する。MCA205 グロブリン-SL8-イントロンを皮下注射し、続いて、腫瘍接種後4日、7日、10日および14日に20mg/kgまたは40mg/kgのMadra.HClで腹腔内処置したマウスのカプラン・マイヤー生存曲線。
【0110】
【
図1H】Madra.HClは持続性の特異的抗腫瘍応答を誘発する。 Madra.HClで処置した後に完全腫瘍退縮を経験したC57BL/6マウスの右脇腹および左脇腹に100日目に接種されたMCA205 グロブリン-SL8-イントロン細胞およびB16F10WT細胞、それぞれの増殖曲線。
【0111】
【
図2】各マドラシン誘導体のMTT試験。増加する用量の種々のマドラシン誘導体で処置されたMCA205細胞(A)またはB16F10細胞(B)について実施されたMTTアッセイ。データは種々の誘導体の最大阻害濃度の半分の濃度(IC
50)として表される。IC
50は、対照条件と比較して細胞生存の50%阻害に必要な試験化合物の濃度を表す。60μmの閾値が示される。それは、何ら細胞死を示さない全ての化合物について使用される最大用量である。
【0112】
【
図3】両方のマウス細胞株において抗原提示を増加させるマドラシン誘導体。(A)60μMのEYP59(化合物7)、(B)20μMのEYP201(化合物6)、(C)60μMのEYP165(化合物57)または(D)50μMのEYP281(化合物32)で処置した後の、イントロン由来SL8抗原を発現するMCA205およびB16F10におけるB3Z特異的T細胞活性化。T細胞アッセイを非飽和条件で実施すること、およびMHC-I分子の発現を結果の計算に入れることを確実にするために、遊離のSL8ペプチドを各条件において添加した。各グラフは少なくとも3回の独立した実験のうちの1つの代表例である。データは平均±SEMとして示される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001(対応のないスチューデントt検定)。
【0113】
【
図4】MCA205肉腫細胞株のみにおいて抗原提示を増加させるマドラシン誘導体。(A)60μMのEYP188(化合物42)、(B)50μMのEYP86(化合物10)で処置した後の、イントロン由来SL8抗原を発現するMCA205におけるB3Z特異的T細胞活性化。T細胞アッセイを非飽和条件で実施すること、およびMHC-I分子の発現を結果の計算に入れることを確実にするために、遊離のSL8ペプチドを各条件において添加した。各グラフは少なくとも3回の独立した実験のうちの1つの代表例である。データは平均±SEMとして示される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001(対応のないスチューデントt検定)。
【0114】
【
図5】B16F10黒色腫細胞株のみにおいて抗原提示を増加させるマドラシン誘導体。(A)20μMのEYP174(化合物41)、(B)20μMのEYP179(化合物50)、(C)60μMのEYP190(化合物54)および(D)10μMのEYP181(化合物49)で処置した後の、イントロン由来SL8抗原を発現するMCA205におけるB3Z特異的T細胞活性化。T細胞アッセイを非飽和条件で実施すること、およびMHC-I分子の発現を結果の計算に入れることを確実にするために、遊離のSL8ペプチドを各条件において添加した。各グラフは少なくとも3回の独立した実験のうちの1つの代表例である。データは平均±SEMとして示される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001(対応のないスチューデントt検定)。
【0115】
【
図6】両方の腫瘍細胞株において抗原提示を増加させないマドラシン誘導体。(A)60μMのEYP177(化合物46)、(B)60μMEYP156(化合物43)、(C)10μMのEYP113(化合物11)および(D)20μMのEYP102(化合物9)で処置した後の、イントロン由来SL8抗原を発現するMCA205におけるB3Z特異的T細胞活性化。T細胞アッセイを非飽和条件で実施すること、およびMHC-I分子の発現を結果の計算に入れることを確実にするために、遊離のSL8ペプチドを各条件において添加した。各グラフは少なくとも3回の独立した実験のうちの1つの代表例である。データは平均±SEMとして示される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001(対応のないスチューデントt検定)。
【0116】
【
図7】EYP59(化合物7)は、MCA-WT肉腫およびMCA-イントロン-SL8の増殖を減速させる。野生型MCA205肉腫細胞またはグロブリン-SL8-イントロン構築物を発現するMCA205肉腫細胞(MCA205 グロブリン-SL8-イントロン)を免疫応答性C57BL/6マウスの脇腹に皮下接種し、続いて、腫瘍接種後4日、7日、10日および14日に20mg/kgのEYP59を腹腔内注射した。確立された倫理的なエンドポイントに達するまで、3~4日毎に腫瘍サイズを評価した(A)。パネルBの上部はグロブリン-SL8-イントロン構築物を発現するMCA205肉腫細胞(MCA205 グロブリン-SL8-イントロン)の増殖曲線を表し、パネルBの下部は23日目の腫瘍サイズを表す。パネルCの上部は野生型MCA205肉腫細胞(MCA205 WT)の増殖曲線を表し、パネルCの下部は、19日目の腫瘍サイズを表す。パネルDは、免疫応答マウスについて先に記載されたものと同様の設定を有する免疫不全nu/nuマウスにおける野生型MCA205肉腫細胞(MCA205 WT)の増殖曲線を表す。データは平均±SEMとして示される。*p<0.05、**p<0.01(全グループを比較するテューキー多重比較検定を用いたANOVA)。
【0117】
【
図8】腫瘍内または静脈内経路で注射したとき、マドラシン誘導体EYP59(化合物7)はインビボの腫瘍増殖を効率的に低減する。野生型MCA205肉腫細胞を免疫応答性C57BL/6マウスの脇腹に皮下接種し、続いて、腫瘍接種後4日、7日、10日および14日に2.5mg/kgのEYP59を腫瘍内注射するか、腫瘍接種後4日、7日、10日および14日に5mg/kgのEYP59を静脈内注射した。パネルAの上部は野生型MCA205肉腫細胞の増殖曲線を表し、パネルAの下部は21日目の腫瘍サイズを表す。パネルBの上部は野生型MCA205肉腫細胞の増殖曲線を表し、パネルBの下部は、25日目の腫瘍サイズを表す。データは平均±SEMとして示される。*p<0.05、**p<0.01(全グループを比較するテューキー多重比較検定を用いたANOVA)。
【0118】
【
図9】マドラシンおよびマドラシン塩酸塩(Madra.HCl)の合成。
【0119】
【
図10】マドラシンのファーマコモジュレーション(pharmacomodulation)およびマドラシン誘導体の合成。
【実施例】
【0120】
材料および方法
細胞培養
1% グルタミン、1% ピルビン酸ナトリウム、1% 非天然アミノ酸、1% ペニシリン/ストレプトマイシンおよび10% FBS(ライフテクノロジーズ)の存在下、RPMI 1640培地(ライフテクノロジーズ)中、5% CO2下、37℃で、MCA205マウス肉腫細胞株を培養する。標準的な条件下、1% グルタミン、1% ペニシリン/ストレプトマイシンおよび10% FCSを含むDMEM培地(ライフテクノロジーズ)培地中、5% CO2下、37℃で、B16F10マウス黒色腫細胞株を培養する。選択のために、安定なMCA205-グロブリン-SL8-イントロン細胞株を、さらに500μg/mlのG418(ライフテクノロジーズ)を加えたMCA205細胞株と同一の条件下で培養する。選択のために、安定なB16F10-グロブリン-SL8-イントロン細胞株を、さらに500μg/mlのG418(ライフテクノロジーズ)を加えたB16F10細胞株と同一の条件下で培養する。1% L-グルタミン、1% ペニシリン/ストレプトマイシン、50μM β-メルカプトエタノールおよび10% FCSの存在下、RPMI1640培地(ライフテクノロジーズ)中、5% CO2下、37℃で、SL8/Kb特異的(B3Z)T細胞レポーターハイブリドーマを培養する。
【0121】
マドラシンおよび全ての誘導体化合物の合成スキーム
1)マドラシンおよびマドラシン塩酸塩(Madra.HCL)の合成
【化26】
【0122】
a.7-メトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン(化合物1)(参照Org. Lett. 2015, 17, 4125)
【化27】
アルゴン下、m-アニシジン(2.3mL、20.3mmol)およびInCl
3(232mg、1.03mmol)のアセトン(30mL)溶液を50℃で14時間加熱した。溶媒を除去し、粗製物をDCMおよび飽和Na
2CO
3水溶液に分配した。有機層をMgSO
4で乾燥させ、ろ過し、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/EtOAc 100:0から99:1)で精製することにより、所望の化合物を黄色固体として得た。スペクトルデータは文献のものと一致する(Tamariz, J. et al. J. Org. Chem. 2013, 78, 9614-9626)。収率:61%(2.51g、12.3mmol)。融点68.8℃。TLC Rf:0.5(シクロ/EtOAc 9:1)。
1H NMR(300MHz、CDCl
3) δ 6.97(d、J=8.4Hz、1H)、6.20(dd、J=8.4、2.5Hz、1H)、6.01(d、J=2.5Hz、1H)、5.19(s、1H)、3.75(s、3H)、1.96(d、J=1.5Hz、3H)、1.26(s、6H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
13H
18NOについての計算値204.1388、実測値204.1385。
【0123】
b.1-(7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)グアニジン(化合物2)
【化28】
7-メトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン(化合物1)(2.0g、0.98mmol)およびHCl(0.25mL、0.98mmol、4M ジオキサン溶液)を室温で30分間撹拌した。その後、H
2O(95mL)およびジシアンジアミド(831mg、0.98mmol)を添加し、混合物を48時間還流した。60℃に冷却後、油をろ過し、飽和NaHCO
3水溶液を用いてpHを11に調整した。形成された沈殿をろ過し、減圧下で乾燥させた。化合物2を灰白色粉末として単離した。収率:78%(1.76g、0.76mmol)。融点235~236℃。
1H NMR(300MHz、DMSO-d
6) δ 7.95(d、J=9.1Hz、1H)、7.82(s、2H)、7.11(d、J=2.5Hz、1H)、7.00(dd、J=9.0、2.5Hz、1H)、3.90(s、3H)、2.70(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
11H
14N
5Oについての計算値232.1198、実測値232.1193。
【0124】
c.2-((7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)アミノ)-5,6-ジメチルピリミジン-4(3H)-オン(マドラシン、化合物3)
【化29】
1-(7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)グアニジン(化合物2)(3.2g、13.8mmol)、エチル 2-メチル-3-オキソブタノエート(2.3mL、16.2mmol)、NaHCO
3(1.43g、17mmol)のDMSO(22mL)溶液を110℃で48時間加熱した。室温まで冷却後、水を添加した。形成した沈殿をろ過し、カラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH 100:から98:2)により精製し、マドラシン3をベージュ色の粉末として得た。収率:83%(3.58g、11.5mmol)。融点216.4~217.5℃。TLC Rf:0.26(DCM/MeOH 98:2)。
1H NMR(300MHz、CDCl
3) δ 13.25(s、1H)、8.54(s、1H)、7.86(d、J=9.1Hz、1H)、7.17(d、J=2.5Hz、1H)、7.07(dd、J=9.1、2.5Hz、1H)、3.98(s、3H)、2.80(s、3H)、2.27(s、3H)、2.06(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
16H
18N
5O
2についての計算値312.1462、実測値312.1458。
【0125】
d.マドラシン塩酸塩(Madr.HCl、EYP34)
【化30】
マドラシン(化合物3)(600mg、1.98mmol)の乾燥ジオキサン(10mL)溶液にHCl(0.5mL、2mmol、4M ジオキサン溶液)を添加した。混合物を室温で10分間撹拌した。形成した沈殿をろ過し、減圧下で乾燥させ、マドラシン塩酸塩を透明な緑色粉末(565mg、1.68mmol、85%)として得た。
1H NMR(300MHz、重水) δ 7.76(s、1H)、6.88(s、1H)、6.80(s、1H)、3.87(s、3H)、2.71(s、3H)、2.11(s、3H)、1.74(s、3H)。融点>330℃(分解)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
16H
18N
5O
2についての計算値312.1462、実測値312.1460。C
16H
18ClN
5O
2.2/3H
2Oについての分析計算値:C、53.41 H、5.42。実測値:C、53.40;H、5.47。
【0126】
2)マドラシンのファーマコモジュレーション
第1部:
【化31】
a.2-((7-ヒドロキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)アミノ)-5,6-ジメチルピリミジン-4(3H)-オン(化合物4、EYP107)
【化32】
アルゴン下、-78℃で、マドラシン(化合物3)(250mg、0.8mmol)のDCE(15mL)溶液にBBr
3(12mL、12mmol)を滴下添加した。溶液を室温まで昇温させ、60℃で20時間加熱した。クエンチ後、溶媒を減圧下で濃縮した。粗製物をEtOAcで取り込み、飽和NaHCO
3水溶液で洗浄した。水層をEtOAcで10回抽出した。合わせた有機層をMgSO
4で乾燥させ、ろ過し、濃縮した。所望の化合物4をDCM中に沈殿させ、ろ過し、DCMで数回洗浄した。収率:42%(1.0g、0.34mmol)。融点348.8~349.9℃。TLC Rf:0.18(DCM/MeOH 97:3)。
1H NMR(300MHz、DMSO) δ 13.52(s、1H)、10.93(s、2H)、8.05(d、J=9.0Hz、1H)、7.03(dd、J=9.8、1.1Hz、1H)、6.94(d、J=2.2Hz、1H)、2.77(s、3H)、2.18(s、3H)、1.90(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
15H
16N
5O
2についての計算値298.1304、実測値298.1312。
【0127】
b.ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-オラート(化合物5、EYP112)
【化33】
2-((7-ヒドロキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)アミノ)-5,6-ジメチルピリミジン-4(3H)-オン(化合物4)(15mg、0.05mmol)の水(1.5mL)懸濁液にNaOH(50μL、0.05mmol、1M H
2O溶液)を添加した。透明な溶液が得られるまで、撹拌を5分間継続した。蒸発乾固させ、黄色固体を得た。収率:>99%(15mg、0.05mmol)。
1H NMR(300MHz、D
2O) δ 7.51(d、J=8.8Hz、1H)、6.67(d、J=8.8Hz、1H)、6.40(s、1H)、2.49(s、3H)、2.03(s、3H)、1.71(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
15H
16N
5O
2についての計算値298.1304、実測値298.1259。
【0128】
c.5,6-ジメチル-2-((4-メチル-7-(2-モルホリノエトキシ)キナゾリン-2-イル)アミノ)ピリミジン-4(3H)-オン(化合物6、EYP201)
【化34】
不活性雰囲気下、化合物4(35mg、0.118mmol)をDMF(1mL)中で懸濁し、KOH(13mg、0.23mmol)を添加した。透明になるまで、混合物を室温で1時間撹拌した。その後、2-クロロ-N-エチルモルホリン(22mg、0.12mmol)を添加し、混合物を室温で14時間撹拌した。溶媒を減圧下で除去した。カラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH 100:0から97:3)後、化合物6を灰白色粉末として得た。収率:19%(9.1mg、0.022mmol)。TLC Rf:0.2(DCM/MeOH 96:4)。
1H NMR(300MHz、CDCl
3) δ 13.26(s、1H)、7.85(d、J=9.0Hz、1H)、7.19(s、1H)、7.08(d、J=9.0Hz、1H)、4.29(t、J=5.6Hz、2H)、3.76(t、J=4.7Hz、4H)、2.89(t、J=5.7Hz、2H)、2.80(s、3H)、2.62(t、J=4.6Hz、4H)、2.26(s、3H)、2.05(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
21H
27N
6O
3についての計算値411.2145、実測値411.2152。
【0129】
d.ナトリウム 2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-4-メチルキナゾリン-7-イル ホスフェート(化合物7、EYP59)
【化35】
化合物4(100.4mg、0.33mmol)およびKOH(25mg、0.44mmol)のH
2O(5mL)懸濁液を室温で30分間撹拌した。その後DCM(5mL)を添加し、(EtO)
2P(O)Cl(0.064mL、0.44mmol)およびTBAB(141mg、0.44mmol)を添加した。混合物を室温で2時間撹拌した。有機層を分離し、水層をDCMで抽出した。合わせた有機層をMgSO
4で乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH 100:0から97:3)後、中間体ジエチルホスフェート誘導体を得た。収率:38%(55mg、0.12mmol)。
1H NMR(300MHz、CDCl
3) δ 13.16(s、1H)、7.98(d、J=9.0Hz、1H)、7.66(d、J=2.3Hz、1H)、7.42(dd、J=9.0、2.4Hz、1H)、4.28(p、J=7.4Hz、4H)、2.84(s、3H)、2.27(s、3H)、2.05(s、3H)、1.39(t、J=7.0Hz、6H)。
【0130】
精製したジエチルホスフェート化合物(55mg、0.12mmol)をDCM(2.5mL)に溶解し;TMSIを添加し、反応物を室温で3時間撹拌した溶媒を蒸発させ、粗製物をDCMで磨砕し、ろ過し、その後H2O中で懸濁した。NaOH水溶液(0.250mL、0.254mmol)をゆっくりと添加し、30分間撹拌後、混合物が透明になった。溶媒を真空下で除去し、マドラシン-ホスフェート(化合物7)を得た。収率:93%(50mg、0.11mmol)。1H NMR(300MHz、D2O) δ 7.97(d、J=9.1Hz、1H)、7.47-7.38(m、2H)、2.73(s、3H)、2.26(s、3H)、1.87(s、3H)。31P NMR(81 MHz、D2O) δ -174.17。HRMS(ESI)(M+H)+ m/z C15H16N5NaO5Pについての計算値400.0787、実測値400.0792。
【0131】
第2部
【化36】
a.2-((8-ヨード-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)アミノ)-5,6-ジメチルピリミジン-4(3H)-オン(化合物8)
【化37】
冷却したマドラシン(化合物3)(360mg、1.16mmol)の濃H
2SO
4(1.2mL)溶液にNIS(248mg、1.10mmol)を(暗所で)添加した。溶液を室温で5分間撹拌した。混合物を氷水に注ぎ、pHを5に調整した。DCMで抽出した後、合わせた有機層をMgSO
4で乾燥させ、ろ過し、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH 100:0から98:2)により精製し、所望の化合物8を得た。収率:25%(127mg、0.29mmol)。TLC Rf:0.22(DCM/MeOH 98:2)。
1H NMR(300MHz、CDCl
3) δ 13.50(s、1H)、8.88(s、1H)、7.96(d、J=9.1Hz、1H)、7.09(d、J=9.1Hz、1H)、4.08(s、3H)、2.83(s、3H)、2.28(s、3H)、2.07(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
16H
17N
5O
2についての計算値438.0427、実測値438.0427。
【0132】
b.N-アセチル-S-(2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-8-イル)システイン(化合物9、EYP102)
【化38】
不活性雰囲気下、密封可能なバイアルに、2-((8-ヨード-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)アミノ)-5,6-ジメチルピリミジン-4(3H)-オン化合物8(10.6mg、0.025mmol)、システインNHAc(7mg、0.04mmol)、PdG
3キサントホス(5mg、0.005mmol)およびTHF(0.1mL)を添加した。混合物をアルゴンでパージし、NEt
3(10μL、0.07mmol)を添加した。混合物を50℃で18時間撹拌し、70℃で6時間撹拌した。溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH 100:0から70:30)により精製し、所望の化合物9を得た。純粋な化合物9を白色粉末として得るために、分取TLC(DCM/MeOH 75:25)による二回目の精製が必要であった。収率:48%(5.7mg、0.012mmol)。TLC Rf:0.1(DCM/MeOH 8:2)。
1H NMR(300MHz、MeOD) δ 8.11(d、J=9.1Hz、1H)、7.32(d、J=9.0Hz、1H)、4.08(s、3H)、3.70-3.55(m、2H)、2.80(s、3H)、2.70(sl、1H)、2.23-1.98(m、6H)、1.73(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
21H
25N
6O
5Sについての計算値473.1607、実測値473.1608。
【0133】
c.((1S,2S,4R,5S,6S)-5-アセトキシ-7,8-ジアセチル-4-((2-((4,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリミジン-2-イル)アミノ)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-8-イル)チオ)-3,7λ
3,8λ
3-トリオキサビシクロ[4.2.0]オクタン-2-イル)メチル アセテート(化合物10、EYP86)
【化39】
不活性雰囲気下、2-((8-ヨード-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)アミノ)-5,6-ジメチルピリミジン-4(3H)-オン 化合物8(25mg、0.055mmol)およびチオグルコース(22mg、0.06mmol)のTHF(0.5mL)溶液をアルゴンでパージした。触媒PdG
3キサントホス(10mg、0.01mmol)およびEt
3N(20μL、0.14mmol)を添加し、反応混合物を50℃で3時間加熱した。溶媒を減圧下で除去し、カラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH 100:0から97:3)により精製し、所望の化合物10を橙色固体として得た。収率:41%。(15.4mg、0.022mmol)。TLC Rf:0.3(DCM/MeOH 96:4)。
1H NMR(300MHz、MeOD) δ 8.18(d、J=9.1Hz、1H)、7.34(d、J=9.5Hz、1H)、5.17(t、J=9.3Hz、1H)、4.75-4.66(m、1H)、4.07(s、3H)、3.99-3.89(m、1H)、3.62-3.52(m、2H)、2.83(s、3H)、2.62(s、2H)、2.10(s、6H)、1.94(d、J=9.4Hz、6H)、1.66(s、3H)。HRMS(ESI)(M+Na)
+ m/z C
30H
35N
5O
11NaSについての計算値696.1651、実測値696.1657。
【0134】
d.2-((7-メトキシ-4-メチル-8-(((2R,3S,4R,5R,6S)-3,4,5-トリヒドロキシ-6-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)チオ)キナゾリン-2-イル)アミノ)-5,6-ジメチルピリミジン-4(3H)-オン(化合物11、EYP113)
【化40】
化合物10のMeONa(0.19mL、0.038mmol、0.2M MeOH溶液)溶液を室温で1時間撹拌した。減圧下で溶媒を蒸発させた後、化合物11を黄色粉末として得た。収率:>99%(7mg、0.014mmol)。
1H NMR(300MHz、MeOD) δ 7.88(d、J=9.0Hz、1H)、7.02(d、J=9.1Hz、1H)、3.87(s、3H)、3.53-3.28 (m、5H)、2.98-2.91(m、2H)、2.58(s、2H)、2.10(s、3H)、1.80(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
22H
28N
5O
7Sについての計算値506.1709、実測値506.1729。
【0135】
3)一般的方法A:
【化41】
不活性雰囲気下、2-アミノキナゾリン誘導体(1当量)(化合物12)、ハロゲン化アリール(特に断らない限り、1.5当量)、Pd
2dba
3(7.5mol%または10mol%)、キサントホス(15mol%または20mol%)およびCs
2CO
3(2当量)を添加した。混合物をアルゴンでパージした。THFを添加した。バイアルを密封し、反応混合物を80℃で14時間撹拌した。室温に冷却した後、溶媒を真空下で除去し、粗製物をカラムクロマトグラフィーにより精製し、所望の化合物を得た。
【0136】
N-(2-メトキシピリミジン-5-イル)キナゾリン-2-アミン(化合物32、EYP281、C13H11N5O、253,2650g/mol):一般的方法Aに従って、2-アミノキナゾリン(21mg、0.13mmol)、5-ブロモ-2-メトキシピリミジン(26mg、0.19mmol)、Pd2dba3(9mg、0.01mmol)、キサントホス(12mg、0.02mmol)、Cs2CO3(84mg、0.26mmol)、THF(0.65mL)から出発した。収率:42%(13mg、0.05mmol)。ベージュ色粉末。融点210.9~211.7℃。TLC Rf:0.2(DCM/MeOH 98:2)。1H NMR(300MHz、CDCl3) δ 9.11(s、1H)、9.03(s、2H)、7.77(d、J=7.4Hz、3H)、7.38(t、J=7.3Hz、1H)、7.21(s、1H)、4.04(s、3H)。
【0137】
4)方法論部分からの別の方法
【化42】
a.7-メトキシ-N-(6-メトキシピリジン-3-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(化合物41、EYP174)
【化43】
一般的方法Aに従って(1.1当量の臭化ヘテロアリールを使用したことのみを除く)、2-アミノ-4-メチル-7-メトキシキナゾリン(化合物39)(25mg、0.13mmol)、2-メトキシ-5-ブロモピリジン(0.017mL、0.14mmol)、Pd
2dba
3(12mg、0.013mmol)、キサントホス(15mg、0.026mmol)、Cs
2CO
3(84mg、0.26mmol)、THF(0.65mL)から出発した。収率:76%(29mg、0.10mmol)。橙色粉末。融点172.1~173.0℃。TLC Rf:0.6(DCM/MeOH 98:2)。
1H NMR(300MHz、CDCl
3) δ 8.59(d、J=2.8Hz、1H)、8.04(dd、J=8.8、2.8Hz、1H)、7.75(d、J=9.1Hz、1H)、7.36(s、1H)、6.98(d、J=2.5Hz、1H)、6.89(dd、J=9.0、2.5Hz、1H)、6.76(d、J=8.8Hz、1H)、3.93(s、3H)、3.89(s、3H)、2.72(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
16H
17N
4O
2についての計算値297.1352、実測値297.1328。
【0138】
b.7-メトキシ-4-メチル-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル)キナゾリン-2-アミン(化合物42、EYP188)
【化44】
一般的方法Aに従って、2-アミノ-4-メチル-7-メトキシキナゾリン(化合物39)(25mg、0.13mmol)、1-ブロモ-3,4,5-トリメトキシベンゼン(47mg、0.19mmol)、Pd
2dba
3(12mg、0.013mmol)、キサントホス(15mg、0.026mmol)、Cs
2CO
3(84mg、0.26mmol)、THF(0.65mL)から出発した。収率:58%(26mg、0.07mmol)。淡黄色粉末;Mp 159.5~160.1℃。TLC Rf:0.8(DCM/MeOH 98:2)。
1H NMR(300MHz、CDCl
3) δ 7.78(d、J=9.0Hz、1H)、7.39(s、1H)、7.11(s、2H)、6.97(d、J=2.6Hz、1H)、6.92(dt、J=9.0、2.4Hz、1H)、3.91(s、3H)、3.89(s、6H)、3.83(s、3H)、2.75(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
19H
22N
3O
4についての計算値356.1610、実測値356.1546。
【0139】
c.7-メトキシ-4-メチル-N-(p-トリル)キナゾリン-2-アミン(化合物43、EYP156)
【化45】
一般的方法Aに従って、2-アミノ-4-メチル-7-メトキシキナゾリン(化合物39)(25mg、0.13mmol)、4-ブロモトルエン(32mg、0.19mmol)、Pd
2dba
3(12mg、0.013mmol)、キサントホス(15mg、0.026mmol)、Cs
2CO
3(84mg、0.26mmol)、THF(0.65mL)から出発した。収率:39%(14.0mg、0.05mmol)。灰白色固体。融点142.8~143.3℃。TLC Rf:0.7(DCM 100%)。
1H NMR(300MHz、CDCl
3) δ 7.77(d、J=9.0Hz、1H)、7.68(d、J=8.2Hz、2H)、7.24-7.12(m、3H)、7.05(d、J=2.5Hz、1H)、6.90(dd、J=9.1、2.5Hz、1H)、3.93(s、3H)、2.75(s、3H)、2.34(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
17H
18N
3Oについての計算値280.1450、実測値280.1444。
【0140】
d.t-ブチル 3-((7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)アミノ)-1H-インドール-1-カルボキシレート(化合物46、EYP177)
【化46】
一般的方法Aに従って(1.1当量のみの臭化ヘテロアリールを使用した以外)、2-アミノ-4-メチル-7-メトキシキナゾリン(化合物39)(25mg、0.13mmol)、3-ブロモインドール誘導体(41mg、0.14mmol)、Pd
2dba
3(12mg、0.013mmol)、キサントホス(15mg、0.026mmol)、Cs
2CO
3(84mg、0.26mmol)、THF(0.65mL)。収率:31%(16mg、0.04mmol)から出発した。橙色粉末。融点114~116℃。TLC Rf:0.55(DCM/MeOH 98:2)。
1H NMR(300MHz、CDCl
3) δ 8.57(s、1H)、8.17(s、1H)、7.82(d、J=9.0Hz、1H)、7.58(d、J=7.7Hz、1H)、7.40-7.27(m、4H)、7.09(d、J=2.5Hz、1H)、6.94(dd、J=9.1、2.5Hz、1H)、3.95(s、3H)、2.80(s、3H)、1.73(s、9H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
23H
25N
4O
3についての計算値405.1927、実測値405.1932。
【0141】
e.N
2-(7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-イル)-N
4-メチルピリミジン-2,4-ジアミン(化合物49、EYP181)
【化47】
一般的方法Aに従って(1.1当量のみの塩化ヘテロアリールを使用した以外)、2-アミノ-4-メチル-7-メトキシキナゾリン(化合物39)(25mg、0.13mmol)、2-クロロ-N-メチルピリミジン-4-アミン(20mg、0.14mmol)、Pd
2dba
3(12mg、0.013mmol)、キサントホス(15mg、0.026mmol)、Cs
2CO
3(84mg、0.26mmol)、THF(0.65mL)から出発した。収率:31%(11mg、0.04mmol)。灰色粉末。融点247.4~249.1℃。TLC Rf:0.45(DCM/MeOH 9:1)。
1H NMR(300MHz、MeOD) δ 8.02(d、J=9.2Hz、2H)、7.49(s、1H)、7.13(d、J=9.2Hz、1H)、6.39(d、J=6.5Hz、1H)、4.00(s、3H)、3.07(s、3H)、2.85(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
15H
17N
6Oについての計算値297.1464、実測値297.1473。
【0142】
f.7-メトキシ-N-(4-メトキシピリミジン-2-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(化合物50、EYP179)
【化48】
一般的方法Aに従って(1.1当量のみの塩化ヘテロアリールを使用した以外)、2-アミノ-4-メチル-7-メトキシキナゾリン(化合物39)(25mg、0.13mmol)、2-クロロ-4-メトキシピリミジン(20mg、0.14mmol)、Pd
2dba
3(12mg、0.013mmol)、キサントホス(15mg、0.026mmol)、Cs
2CO
3(84mg、0.26mmol)、THF(0.65mL)。収率:62%(23mg、0.08mmol)から出発した。黄色粉末。融点160.8~161.5℃。TLC Rf:0.3(DCM/MeOH 98:2)。
1H NMR(300MHz、CDCl
3) δ 8.42-8.33(m、1H)、8.28-8.16(m、1H)、7.84(d、J=9.0Hz、1H)、7.23(s、1H)、7.01(dd、J=9.0、2.3Hz、1H)、6.35(d、J=5.6Hz、1H)、3.97(s、3H)、3.92(s、3H)、2.81(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
15H
16N
5O
2についての計算値298.1304、実測値298.1302。
【0143】
g.7-メトキシ-N-(2-メトキシピリミジン-4-イル)-4-メチルキナゾリン-2-アミン(化合物54、EYP190)
【化49】
化合物53(EYP193)(10mg、0.033mmol)のMeOH(0.5mL)溶液にNaOMe(0.15mL、0.075mmol)を添加した。混合物を80℃で6時間加熱した。その後、溶媒を減圧下で除去し、カラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH 100:0から99:1)により精製し、所望の化合物54を白色固体として得た。収率:61%(6mg、0.02mmol)。融点173.9~174.3℃。TLC Rf:0.27(DCM/MeOH 98:2)。
1H NMR(300MHz、CDCl
3) δ 8.41(d、J=5.7Hz、1H)、8.35(d、J=5.8Hz、1H)、7.96(s、1H)、7.86(d、J=9.0Hz、1H)、7.12(d、J=2.6Hz、1H)、7.05(dd、J=9.1、2.5Hz、1H)、3.98(s、3H)、3.97(s、3H)、2.81(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
15H
16N
5O
2についての計算値298.1304、実測値298.1309。
【0144】
h.N-(1H-インドール-3-イル)-7-メトキシ-4-メチルキナゾリン-2-アミン(化合物57、EYP165)
【化50】
化合物46(EYP177)(35mg、0.08mmol)のDCM(2mL)溶液にTFA(0.1mL、1.3mmol)を添加した。溶液を室温で2時間撹拌した。飽和NaHCO
3水溶液を添加し、DCMで抽出した後、有機層をMgSO
4で乾燥させ、ろ過し、濃縮乾固させた。カラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH 100:1から200:1)により精製し、所望の化合物57を白色固体として得た。収率:48%(11mg、0.04mmol)。白色粉末。TLC Rf:0.6(DCM/MeOH 98:2)。
1H NMR(300MHz、DMSO-d
6) δ 10.69(s、1H)、9.51(s、1H)、8.17(s、1H)、8.01(d、J=8.0Hz、1H)、7.91(d、J=8.9Hz、1H)、7.34(d、J=8.1Hz、1H)、7.09(t、J=7.5Hz、1H)、7.01(d、J=2.4Hz、1H)、6.96(t、J=7.5Hz、1H)、6.88(dd、J=9.0、2.5Hz、1H)、3.91(s、3H)、2.73(s、3H)。HRMS(ESI)(M+H)
+ m/z C
18H
17N
4Oについての計算値305.1402、実測値305.1408。
【0145】
T細胞アッセイ
トランスフェクト試薬jetPRIME(Ozyme)またはGeneJuice(Millipore)をそれぞれ用いて、各々の製造者のプロトコルに従って、MCA205およびB16F10マウス細胞株をプラスミドYFP-グロブリン-SL8-イントロンまたはPCDNA3欠損プラスミド(陰性対照)にトランスフェクトする。トランスフェクトの24時間後、細胞を種々の用量のマドラシン(Sigma SML 1409)、Madra.HCl(3.HCl)または本明細書において引用される種々の化合物で処理する。細胞をPBS 1×で3回洗浄し、5.104個の腫瘍細胞を1.105個のB3Zハイブリドーマとともに96ウェルプレートで共培養する。陽性対照のウェルにおいて、4μg/mlの合成ペプチドSL8を添加する。その後、細胞を37℃、5% CO2で一晩インキュベートする。プレートを1200rpmで5分間遠心分離し、細胞をPBS 1×で2回洗浄し、0.2% TritonX-100、0.2% DTT、0.5M K2HPO4、0.5M KH2PO4中で振盪しながら4℃で5分間溶解させる。溶解物を3000rpmで10分間遠心分離し、上清を96ウェルoptiplate(OptiPlaque-96、PerkinElmer)に移す。PBS中に10mM MgCl2、11.2mM β-メルカプトエタノール、0.0015% IGEPAL(登録商標)CA-630および40μM 4-メチルウンベリフェリル β-D-ガラクトピラノシド(MUG)を含む発現緩衝液を添加し、プレートを室温で3時間インキュベートする。最後に、FLUOstar OPTIMA(BMG LABTECH Gmbh、オッフェンブルク30、ドイツ)を用いてβ-ガラクトシダーゼ活性を測定する。結果を平均±SEMとして表す。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001(対応のないスチューデントt検定)。
【0146】
腫瘍負荷および処理
Harlan Laboratories Ltd(スイス)から、C57Bl/6J雌性マウスを入手する。1.105のMCA205肉腫またはB16F10黒色腫細胞または1,5.105個のMCA205 グロブリン-SL8-イントロンまたはB16F10グロブリン-SL8-イントロン細胞を、7週齢のマウスの右脇腹に皮下注射する。肉腫細胞は100μL 無菌PBS溶液で注射し、黒色腫細胞は50:50 PBS:Matrigel溶液で注射し、腫瘍細胞の拡散を防ぐ。腫瘍接種後4日、7日、10日および14日に、Madra.HClの100μL H2O+30%(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(w/v)溶液を注射する。同様の方法で、腫瘍接種後4日、7日、10日および14日に、EYP59(化合物7)を100μL H2O溶液で注射する。腫瘍が倫理的なエンドポイントに達するまで、腫瘍領域を3~4日毎に記録する。全ての動物実験は、フランス国および欧州の法律および規則に則り実施した。結果を平均±SEMとして表す。*p<0.05、**P<0.01、***P<0.001(全グループを比較するテューキー多重比較検定を用いたANOVA)。
【0147】
結果
マドラシン処理は、癌細胞におけるPTP由来抗原の抗原提示を増加させる。
近年の研究において、本発明者らは、PTPがインビトロでの内因性MHCクラスI経路のためのペプチドの主要な供給源であることを示した。癌細胞表面のPTP由来抗原提示を調節するために、本発明者らは、マウス腫瘍細胞株、1つは黒色腫(B16F10)およびもうひとつは肉腫(MCA205)細胞株に対するマドラシン処理の影響を試験した。両方のマウス細胞株は、β-グロブリン遺伝子構築物内のイントロンに由来するPTP-SL8エピトープを一時的に発現していたか、またはトランスフェクトされていない状態であった。マドラシンは両方のマウス細胞株において用量依存的な有効性で、PTP依存性抗原提示における増加を誘発する(
図1A)。これらの結果は、PTP由来抗原の産生および提示は、マドラシン処理後に癌細胞株において正に調節され得ることを示す。これらは、この分子がPTP産生および提示に依存する特定の抗腫瘍免疫応答を増強するための正の免疫調節剤として使用され得るという仮説を支持する。
【0148】
合成されたマドラシン塩酸塩(Madra.HCl)による処理は、インビトロでPTP由来抗原の抗原提示を増加させ、インビボで腫瘍増殖を減速させる。
上記の結果は、マドラシンは、処理された腫瘍細胞株の細胞表面で、イントロン配列によりコードされたPTP依存性抗原のインビトロ産生および提示を増加させることができることを示す。次の疑問は、DMSOのみに溶解し得るマドラシンが、インビボで腫瘍増殖およびCD8+T細胞増殖に対して同様の効果を有するかどうかということであった。残念ながら、本発明者らは、DMSOにおけるマドラシンが薄い濃度のため、マドラシンを用いたインビボ実験を実施できなかった。この最初の結果が有望であったため、本発明者らは癌免疫応答を増加させるためにマドラシン誘導体を産生することを決定した。実際に、マドラシンは水に不溶であり、DMSO溶媒にのみ溶解させることができ、これはマウスにおけるその薬物動態の効率を低下させる。
【0149】
毒性の担体または共溶媒(DMSO)を使用することなくマドラシンをより広いインビトロおよびインビボの検証に使用可能にするために、マドラシンおよびその誘導体の溶解度および免疫調節活性を強化するためのこれらの合成戦略を見出すことが必要であると考えられた。
【0150】
この目標を達成するために、例えば、ホスフェートプロドラッグは典型的に、優れた水溶解度、化学安定性およびホスファターゼによる親薬物への迅速な生物変換を示し得る。ホスフェートプロドラッグの形成はコンブレタスタチンA-4により例示される抗新生物であるフェノール性天然物およびこれらの誘導体を含む様々な分子の水溶解度の上昇に適用されてきた。
【0151】
腫瘍細胞株に対する正の免疫調節剤としての新規化合物の試験という観点で、本発明者らは、初めに、これらをインビトロアッセイで試験することを決定した。予想どおり、本明細書において「Madra.HCl」として特定される新規化合物は水に溶解させることができた。β-グロブリン遺伝子のイントロンに由来するPTP-SL8エピトープ(グロブリン-イントロン-SL8)を一時的に発現する両方のマウス細胞株MCA205またはB16F10を5μMまたは10μMのMadra.HClで処理した後、本発明者らは、用量依存的方法において、PTP依存性抗原提示の増加を観察した(
図1B)。β-グロブリン遺伝子のイントロンからのSIINFEKL(SL8)エピトープ(グロブリン-イントロン-SL8)を安定に発現する1.10
5個のMCA205肉腫細胞をマウスに皮下接種した。この接種の4日後、マウスに決定した用量のMadra.HClを腹腔内接種した。その後、3日毎に20mg/kgまたは40mg/kgのMadra.HClを注射した。その期間中、2~3日毎に腫瘍増殖をモニタリングした(
図1C)。本発明者らは、20mg/kgのMadra.HClで処置したマウスにおいて接種後27日に腫瘍増殖の有意な50%減少を観察し(
図1D)、さらに40mg/kgのMadra.HClで処置したマウスにおいて接種後27日に60~70%減少を観察した(
図1D)。同様の方法で、1.10
5個の非トランスフェクトMCA205肉腫細胞をマウスに皮下接種した(
図1D)。グロブリン-イントロン-SL8構築を発現するB16F10腫瘍細胞において同様の実験を実施する。
【0152】
同様の方法で、1.10
5個の非トランスフェクトMCA肉腫細胞をマウスに皮下接種した。この接種の4日後、マウスに決定した用量のMadra.HClを腹腔内接種した。その後、3日毎に同用量を注射した。その期間中、2~3日毎に腫瘍増殖をモニタリングした(
図1E)。本発明者らは、20mg/kgまたは40mg/kgのMadra.HClで処置したマウスにおいて接種後21日に腫瘍増殖の有意な40%減少を観察した(
図1F)。
【0153】
さらに、Madra.HCl処置はマウスの生存の延長を示し、40mg/kgのMadra.HClでマウスを処置したとき、腫瘍接種120日後に約25%が生存し、20mg/kgのMadra.HClでマウスを処置したとき、腫瘍接種120日後に約15%が生存した(
図1G)。
【0154】
最後に、グロブリン-イントロン-SL8構築物を発現するMCA205腫瘍細胞を接種され、かつ上記のMadra.HClを用いた処置後に腫瘍退縮を経験したマウスに、100日後、グロブリン-イントロン-SL8構築を発現するMCA205腫瘍細胞を右脇腹に接種し、B16F10腫瘍細胞を左脇腹に接種した。マウス体内でB16F10腫瘍は時間と共に増殖したが、MCA205腫瘍細胞は増殖しなかった(
図1H)。これらの結果は、マウスがMCA205腫瘍特異的な長期間の抗腫瘍応答を獲得したことを示す。
【0155】
マドラシン誘導体は、イントロン由来抗原のMHCクラスI提示をインビトロで効率的に増大する。
毒性の担体または共溶媒(DMSO)を使用することなくマドラシンをより広いインビトロおよびインビボの検証のためにMadra.HClの免疫調節活性を改善するために、その活性を活性維持するための構造変換の戦略を見出すことが必要であると考えられた。次の本発明の化合物は、上記のとおり製造した。
【0156】
腫瘍細胞株に対する正の免疫調節剤としての新規化合物を試験するために、本発明者らは、初めに、インビトロアッセイにおいてこれらを試験することを決定した。予想どおり、水に可溶なMadra.HCl誘導体は数種であり、その他は水に不溶であった。MTT試験を用いて、MCA肉腫およびB16F10黒色腫細胞株における各化合物のIC
25およびIC
50を特定した(
図2)。残りの実験のために、水に可溶または不溶な各化合物のIC
50で両方の細胞株を処理することを決定した。この目的のために、β-グロブリン遺伝子のイントロンに由来するPTP-SL8エピトープ(グロブリン-イントロン-SL8)を一時的に発現する両方のマウス細胞株を各化合物で一晩処理した。各化合物の免疫調節活性について、4つの異なる観察が得られた。
【0157】
まず、両方のマウス腫瘍細胞株においていくつかの化合物がPTP依存性抗原提示における増加を示すことを発見した(
図3)。マウス細胞株をEYP59(化合物7)(A)、EYP201(化合物6)(B)、EYP165(化合物57)(C)およびEYP281(化合物32)(D)でそれぞれ処理した後、PTP-SL8提示の増加がみられた。
【0158】
第二の観察は、いくつかの化合物がβ-グロブリン遺伝子におけるイントロンに由来するPTP-SL8エピトープを一時的に発現するMCA細胞株のみにおいて、それらのPTP由来抗原の提示を積極的に増加させることができたことであった(
図4)。マウス肉腫細胞株をEYP188(化合物42)(A)およびEYP86(化合物10)(B)でそれぞれ処理した後、PTP-SL8提示の増加がみられた。
【0159】
さらに、第三の観察は、いくつかの化合物がβ-グロブリン遺伝子におけるイントロンに由来するPTP-SL8エピトープを一時的に発現するB16F10細胞株のみにおいて、PTP由来抗原の提示を積極的に増加させることができたことである(
図5)。本発明者らは、マウス黒色腫細胞株をEYP174(化合物41)(A)、EYP179(化合物50)(B)、EYP190(化合物54)(C)およびEYP181(化合物49)(D)でそれぞれ処理した後、PTP-SL8提示の増加を発見できた。
【0160】
そして最後に、第四の観察は、いくつかの化合物試験された両方のマウス細胞株におけるPTP由来抗原の提示を正に増加させることができないことであった(
図6)。本発明者らは、それぞれEYP177(化合物46)(A)、EYP156(化合物43)(B)、EYP113(化合物11)(C)、およびEYP102(化合物9)(D)を用いて両方のマウス細胞株を処理した後に、PTP-SL8提示の増加を見ることができなかった。
【0161】
マドラシン誘導体EYP59(化合物7)は、免疫依存的な方法で、インビボで効率的に腫瘍増殖を低減する。
β-グロブリン遺伝子のイントロンからのSIINFEKL(SL8)エピトープ(グロブリン-イントロン-SL8)を安定に発現する1.10
5個のMCA205肉腫細胞をマウスに皮下接種した。この接種の4日後、マウスに決定した用量のEYP59を腹腔内接種した。その後、3日毎に20mg/kgを注射した。その期間中、2~3日毎に腫瘍増殖をモニタリングした(
図7A)。本発明者らは、20mg/kgのEYP59で処置したマウスにおいて接種後23日に腫瘍増殖の有意な85%減少を観察した(
図7B)。同様の方法で、1.10
5個の非トランスフェクトMCA205肉腫細胞をマウスに皮下接種した。この接種の4日後、マウスに決定した用量のEYP59を腹腔内接種した。その後、3日毎に同じ用量を注射した。その期間中、2~3日毎に腫瘍増殖をモニタリングした。本発明者らは、20mg/kgのEYP59で処置したマウスにおいて接種後19日に腫瘍増殖の有意な70%減少を観察した(
図7C)。
【0162】
これらの効果についての免疫応答の要件を評価するために、本発明者らは、先に記載したものと同様の設定で免疫不全nu/nuマウスにおける20mg/kg EYP59処置の影響を試験し、腫瘍増殖には全く影響がないことを観察した(
図7D)。これらの結果は、EYP59処置による腫瘍サイズ減少はインビボの活性な免疫応答の存在が必要であることを示す。
【0163】
マドラシン誘導体EYP59(化合物7)は、腫瘍内または静脈内の方法で注射されたとき、インビボで効率的に腫瘍増殖を低減する。
1.10
5個の野生型MCA205肉腫細胞をマウスに皮下接種した。この接種の4日後、決定した用量のEYP59を腫瘍内注射(2.5mg/kg)または静脈内注射(5mg/kg)した。その後、3日毎に同じ用量をそれぞれの投与方法で注射した。その期間中、2~3日毎に腫瘍増殖をモニタリングした。本発明者らは、5mg/kgのEYP59で静脈内処置したマウスにおいて接種後25日に腫瘍増殖の有意な80%減少を観察した(
図8B)。
【0164】
考察
本発明は、特定のスプライセオソーム阻害剤が抗腫瘍免疫応答に正の効果を有し、そのため、腫瘍増殖に対する効果を有することを明らかにする。スプライシング異常は、癌の特異的な特徴として現れ、患者の生存のための予測マーカーおよびスプライシング阻害剤を用いた癌処置の標的として研究され、これらのいくつかは現在、急性骨髄白血病において開発中である。本発明において、本発明者らは、いくつかの特定のマドラシン誘導体が肉腫および黒色腫腫瘍細胞株におけるインビトロの抗腫瘍免疫応答の強力な刺激剤であることを示す。本発明者らはまた、いくつかのマドラシン誘導体は肉腫癌モデルにおいてPTP依存性抗原提示を特異的に増加させ、それらと異なる他のいくつかの誘導体は、黒色腫癌モデルにおいてPTP依存性抗原提示を特異的に増加させることができることを示す。本発明者らは、従来の生物分子プロファイルに焦点を当てることにより、標的化分子療法の枠組み内での新たな適用方法を開示する。
【0165】
PTPモデルは、プレスプライシングされたmRNAは、核において起こる代替翻訳事象によるPTPのテンプレートとして記載する。この代替翻訳を記載する研究において、本発明者らは、イントロンSL8ペプチドをコードするmRNAの強制的な核保持がSL8抗原提示における増加をもたらすことを示した。さらに、プラジエノライドおよびスプライソスタチンA(SSA)は、スプライセオソームにおけるU2小核リボ核タンパク質(snRNP)のサブ複合体であるSF3bを標的化することによりスプライシングを阻害
することが示され、核におけるプレRNA蓄積を促進することが記載されている核。マドラシンは、U2 snRNP固定直後の安定なU4/U6/U5トリsnRNP動員を阻害することにより、異なってスプライシングを阻害する。しかしながら、それはまた、核におけるプレmRNA蓄積を誘発し、抗原提示の増加をもたらすと考えられる。プレmRNA核蓄積および抗原提示の増加の関連性は知られていない。核におけるプレmRNA蓄積は、SL8直接提示のための主な基礎として使用されるSL8含有PTPの富化をもたらすPTP産生のためのより多くの鋳型を提供すると仮定される。
【0166】
さらに、プレmRNAスプライシングは全ての哺乳動物細胞の正常な機能のために必要とされる不可欠なメカニズムである。ここ数年において、いくつかの研究により、種々の癌における異常なスプライシング活性に関連する主要なスプライセオソーム因子の変異および過剰発現の存在が報告された。数年前、本発明者らもまた、スプライセオソームの阻害がMHCクラスI PTP依存性抗原提示を増加させるといういくつかの根拠を提供した。これらの発見は、抗癌処置における潜在的な標的としてスプライセオソームに焦点を当てる。
【0167】
既に記載したとおり、スプライセオソームを阻害し、スプライセオソーム因子であるSF3B1機能を特異的に阻害する数小分子が既に報告されている。これらの小分子の詳細なメカニズムは未だ完全に理解されていないが、これらは使用される化合物により腫瘍サイズを40~80%減少させることにより、癌治療に有効であり得ることが報告されている。現在までにヒトにおいて試験された小分子は、E7107のみである。それは毒性の問題により中止された。この化合物は、SF3B1に相互作用することによりスプライセオソームを阻害することが知られている。
【0168】
さらに、腫瘍を拒絶できない細胞毒性Tリンパ球は、pAPCによる初期の不適切なCTL活性化により一部説明され得る。定義された樹状細胞(DC)のサブセットは、腫瘍微小環境(TME)において腫瘍流入領域リンパ節に移動し、TMEで遭遇した無傷の抗原を送達し、ナイーブCD8+T細胞を直接的にまたは間接的に刺激することができると記載されている。さらに、TMEにおいてナイーブCD8+T細胞を直接的に刺激できることが示唆された。最近、本発明者らは、腫瘍関連PTPは、DCによるCD8+T細胞相互刺激の基礎物質であり、PTP運搬エキソソームにより主に腫瘍細胞からDCへ主に輸送され得ることを示した。さらに、内因性および相互提示のためのPTPは、同一の翻訳事象により産生される、および2つの経路はその後急速に分岐するという示唆が提供された。PTPは希少な産生物であり、PTPワクチンまたはエキソソーム含有PTPワクチンの有効性は、PTPプロテアソーム阻害剤による事前のPTP富化に依拠することが示された。本発明者らは、スプライシング阻害剤であるマドラシンおよびその種々の誘導体は、直接的な抗原提示のためのより多くの基礎物質を提供することに加えて、腫瘍内DC取り込みおよび相互提示のための基礎物質として機能するSL8含有PTPのプールを富化し、SL8-特定のCD8+T細胞増殖の強化を誘発すると考えている。
【0169】
本明細書において、本発明者らは、特定のマドラシンからの誘導体化合物を用いてスプライセオソーム活性を調節することにより、種々の癌モデルに対して特定の抗腫瘍免疫応答を誘発できる可能性があるという証明を提供する。実際に、マドラシンはプレスプライセオソームのA複合体から大型のプレ触媒スプライセオソームB複合体の形成を阻害する。我々は、マドラシン誘導体を用いて、できる限り早くインビトロおよびインビボでスプライセオソームの形成を阻害することにより、抗腫瘍抗原提示が有意に増加し、PTP依存性エピトープに対して特異的にCD8+T細胞増殖を誘発したことを示す。発明者らは、これらの誘導体が黒色腫および肉腫に対する化学療法剤として使用され得ることを報告する。
【0170】
引用文献
- Apcher, S. et al. Major source of antigenic peptides for the MHC class I pathway is produced during the pioneer round of mRNA translation. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 108, 11572-7 (2011)
- Burg, S. H. et al. Vaccines for established cancer: overcoming the challenges posed by immune evasion. Nat. Publ. Gr. 16, 219-233 (2016)
- Caron, E. et al. The MHC I immunopeptidome conveys to the cell surface an integrative view of cellular regulation. Mol Syst Biol. 7, 533 (2011)
- Duvallet, E., et al. Exosome-driven transfer of tumor-associated Pioneer Translation Products (TA-PTPs) for the MHC class I cross-presentation pathway. Oncoimmunology 5, e1198865 (2016)
- Kmieciak, M.,et al. HER-2/neu antigen loss and relapse of mammary carcinoma are actively induced by T cell-mediated anti-tumor immune responses. Eur. J. Immunol. 37, 675-685 (2007)
- Lee, S. & Sin, J. MC32 tumor cells acquire Ag-specific CTL resistance through the loss of CEA in a colon cancer model. Hum Vaccin Immunother 11, 2012-2020 (2015)
- Leone, P. et al. MHC class I antigen processing and presenting machinery: organization, function, and defects in tumor cells. J. Natl. Cancer Inst. 105, 1172-87 (2013)
- Liu, Y. et al. Expression of antigen processing and presenting molecules in brain metastasis of breast cancer. Cancer Immunol. Immunother. 61, 789-801 (2012)
- Mellman, I.,et al. Cancer immunotherapy comes of age. Nature 480, 480-489 (2014)
- Watson, N. F. S. et al. Immunosurveillance is active in colorectal cancer as downregulation but not complete loss of MHC class I expression correlates with a poor prognosis. Int. J. Cancer 118, 6-10 (2006)
- Yewdell, JW., et al. Defective ribosomal products (DRiPs): a major source of antigenic peptides for MHC class I molecules? J Immunol 157(5):1823-6 (1996)
【配列表】