(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】収縮率が向上した高強度ポリエチレン原糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/04 20060101AFI20250218BHJP
D01D 5/08 20060101ALI20250218BHJP
D01D 5/092 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
D01F6/04 B
D01D5/08 A
D01D5/092 101
(21)【出願番号】P 2023520493
(86)(22)【出願日】2021-10-08
(86)【国際出願番号】 KR2021013883
(87)【国際公開番号】W WO2022075803
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】10-2020-0130274
(32)【優先日】2020-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】イ,シンホ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヨン ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジョン ウン
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/138971(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/117596(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/039188(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96;9/00-9/04
D01D1/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
190℃、2.16kgで測定された溶融指数(MI)が0.3~6g/10minであり、分子量分布が5超過9未満であるポリエチレンチップを溶融させてポリエチレン溶融物を得るステップと、
複数のノズルホールを有する口金を通じて前記ポリエチレン溶融物を紡糸するステップと、
前記ポリエチレン溶融物が前記ノズルホールから吐出される際に形成される複数のフィラメントを冷却させるステップと、
冷却された前記複数のフィラメントを集束させてマルチフィラメント糸を形成させるステップと、
前記マルチフィラメント糸について5倍~20倍の総延伸比での延伸および熱固定を行うステップと、
延伸および熱固定がされた前記マルチフィラメント糸を巻き取るステップと、
を含み、
前記複数のフィラメントを冷却させるステップは、第1冷却部から第3冷却部に行くほど温度が次第に低くなるように設計される3個の冷却区間からなる冷却部で多段冷却を行うステップを含み、
小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトル0~0.04Å
-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Aと、散乱ベクトル0.05~0.08Å
-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Bとの比(A/B)が、16以上であり、収縮率が2.5%以上である、ポリエチレン原糸の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエチレン溶融物の紡糸温度は220~300℃である、請求項
1に記載のポリエチレン原糸の製造方法。
【請求項3】
前記延伸の際、最大延伸温度は100~150℃である、請求項
1に記載のポリエチレン原糸の製造方法。
【請求項4】
前記延伸ステップは、多段延伸で行われる、請求項
1に記載のポリエチレン原糸の製造方法。
【請求項5】
前記多段延伸は、複数のゴデットローラを用いて行われる、請求項
4に記載のポリエチレン原糸の製造方法。
【請求項6】
前記多段延伸は、4段以上20段以下の多段延伸で行われる、請求項
4に記載のポリエチレン原糸の製造方法。
【請求項7】
前記複数のゴデットローラは50~150℃の温度に設定され、
前記複数のゴデットローラのうちの最初のゴデットローラの温度は50~80℃であり、
前記複数のゴデットローラ部のうちの最後のゴデットローラの温度は100~150℃であり、
前記複数のゴデットローラのうちの最初および最後のゴデットローラを除いたゴデットローラのそれぞれの温度は、その直前の段に位置したゴデットローラの温度と同一であるか、またはそれよりも高いことを特徴とする、請求項
5に記載のポリエチレン原糸の製造方法。
【請求項8】
前記第1冷却部は、0.8~1m/secの風速の冷却風を用いて40~80℃に冷却されるようにし、前記第2冷却部は、0.4~0.6m/secの風速の冷却風を用いて30~50℃に冷却されるようにし、前記第3冷却部は、0.2~0.5m/secの風速の冷却風を用いて15~30℃に冷却されるようにする、請求項
2に記載のポリエチレン原糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収縮率が向上した高強度ポリエチレン原糸およびその製造方法に関する。より具体的に、特定の微細構造を有し、収縮率が向上し、高密度の原反を製造することができる高強度ポリエチレン原糸およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
警察および軍人のようにセキュリティ(security)分野に携わる人々はもちろんのこと、他の多様な産業分野における、鋭い切断ツールを取り扱う人々も、負傷の危険に常にさらされる。負傷の危険を最小化するためには、手袋または衣服といった保護用製品が提供されなければならない。
【0003】
前記保護用製品は、刃物といった凶器または鋭い切断ツールから、人体を適切に保護するために、耐切断性を有することが求められる。
【0004】
保護用製品に高い耐切断性を提供するために、高強度ポリエチレン原糸が前記保護用製品の製造に用いられている。例えば、高強度ポリエチレン原糸を単独で原反の製造に用いるか、または高強度ポリエチレン原糸と、他の種類の原糸とが共に合撚糸を形成した後、前記合撚糸が原反の製造に用いられうる。
【0005】
高強度ポリエチレン原糸の一種類として、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を用いたゲル紡糸方式における有機溶媒の使用による環境問題を解決するために、それよりも重量平均分子量の低い高密度ポリエチレンを用いた溶融紡糸方式の原糸が開発されている。
【0006】
高密度ポリエチレン高分子は、他の高分子とは異なり、非常に少ない数の、短いか長い分岐を有する分子鎖を持つ。このような分岐鎖の影響により、高密度ポリエチレンを用いた溶融紡糸方式の高強度ポリエチレン原糸は、大部分が、高い結晶化度および低い収縮率を有する。収縮率が低い場合、原糸を用いて完成品を製造する製織および編成の工程においてのみ、製品の製織および編成の密度を決定できるという短所がある。また、製織および編成の密度において決められる密度に比べて、より密度が高い高密度の原反の製造が不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の問題を解決するための本発明の一課題は、収縮率が向上した高強度ポリエチレン原糸およびその製造方法を提供しようとする。
【0008】
また、高い耐切断性を有しながらも優れた着用感を提供できる原反の製造を可能にするポリエチレン原糸およびその製造方法を提供しようとする。
【0009】
また、既存の製織および編成の過程で調節可能な面密度に比べて、より高密度の面密度を有する原反を提供できる高強度ポリエチレン原糸およびその製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、上記の目的を達成するために研究した結果、特定の微細構造を有するポリエチレン原糸を製造することで、原糸の収縮率が向上するとともに、高強度の物性を発現できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
また、このような収縮率が向上したポリエチレン原糸を用いて製織および編成を行うことで、より高密度の原反を提供できるとともに、高い耐切断性を有しながらも優れた着用感を提供できる原反の製造が可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
前記特定の微細構造を有するポリエチレン原糸は、具体的に後述する小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトルが、特定の範囲を満たす原糸を意味し、このような特定の微細構造を満たす原糸にて目的とする物性を満たすことが可能であることを見出した。
【0013】
また、本発明において、以下に後述する小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトルが、特定の範囲を満たす原糸を製造可能であれば、その手段は制限されず、一例として、ポリエチレン樹脂の分子量分布、原糸製造時の紡糸温度、延伸比、および延伸温度を、特定の範囲に調節することで製造することができ、前記小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトルが後述する範囲を満たすものであれば、これに制限されない。
【0014】
本発明の一態様は、小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトル0~0.04Å-1において発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Aと、散乱ベクトル0.05~0.08Å-1において発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Bとの比(A/B)が16以上であり、収縮率が2.5%以上である、ポリエチレン原糸に関する。
【0015】
一態様として、前記原糸は、190℃、2.16kgで測定された溶融指数(MI)が0.3~6g/10minであり、分子量分布が5超過9未満であってもよい。
【0016】
一態様として、前記原糸は、結晶化度が65~85%でありうる。
一態様として、前記原糸は、溶融温度が130~140℃でありうる。
一態様として、前記原糸は、密度が0.93~0.97g/cm3でありうる。
【0017】
本発明の他の態様は、ポリエチレン原糸の製造方法であって、
190℃、2.16kgで測定された溶融指数(MI)が0.3~6g/10minであり、分子量分布が5超過9未満であるポリエチレンチップを溶融させてポリエチレン溶融物を得るステップと、
複数のノズルホールを有する口金を通じて前記ポリエチレン溶融物を紡糸するステップと、
前記ポリエチレン溶融物が前記ノズルホールから吐出される際に形成される複数のフィラメントを冷却させるステップと、
冷却された前記複数のフィラメントを集束させてマルチフィラメント糸を形成させるステップと、
前記マルチフィラメント糸を5倍~20倍の総延伸比で延伸して熱固定するステップと、
延伸および熱固定がされた前記マルチフィラメント糸を巻き取るステップと、
を含み、小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトル0~0.04Å-1において発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Aと、散乱ベクトル0.05~0.08Å-1において発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Bとの比(A/B)が16以上であり、収縮率が2.5%以上である、ポリエチレン原糸の製造方法を提供する。
【0018】
一態様として、前記ポリエチレン溶融物の紡糸温度は220~300℃でありうる。
一態様として、前記延伸時、最大延伸温度は100~150℃でありうる。
【0019】
一態様として、前記延伸ステップは、多段延伸で行われるのでありうる。
一態様として、前記延伸ステップは、複数のゴデットローラを用いて行われるのでありうる。
一態様として、前記延伸ステップは、4段以上20段以下の多段延伸で行われるのでありうる。
【0020】
一態様として、前記複数のゴデットローラは50~150℃の温度に設定され、
前記複数のゴデットローラのうち最初のゴデットローラの温度は50~80℃であり、
前記複数のゴデットローラのうち最後のゴデットローラの温度は100~150℃であり、
前記複数のゴデットローラのうち前記最初および最後のゴデットローラを除いたゴデットローラそれぞれの温度は、その直ぐ前段に位置したゴデットローラの温度と同一であるかまたはそれよりも高いのでありうる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るポリエチレン原糸は、特定の微細構造を有し、これにより、高強度であるとともに収縮率が向上したポリエチレン原糸を提供することができる。
【0022】
また、このようなポリエチレン原糸から製造された織物または編物などの原反は、従来の高強度ポリエチレン原糸を用いて製造された原反に比べて、より高密度の原反を提供することができる。
【0023】
また、本発明に係るポリエチレン原糸は、溶融紡糸により製造されるにもかかわらず、高い強度を有することで、優れた耐切断性を有する保護用製品に適用できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1による原糸の小角X線散乱(SAXS)グラフである。
【
図2】実施例2による原糸の小角X線散乱(SAXS)グラフである。
【
図3】実施例3による原糸の小角X線散乱(SAXS)グラフである。
【
図4】比較例1による原糸の小角X線散乱(SAXS)グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
他に定義しない限り、全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する当業者の1人により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。本発明の説明で用いられる用語は、単に特定の具体例を効果的に記述するためのものであって、本発明を制限しようとするものではない。
【0026】
また、明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる単数の形態は、文脈上、特に指示しない限り、複数の形態も含むことを意図し得る。
【0027】
また、ある部分がある構成要素を「含む」とする際、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0028】
本発明の発明者らは、高強度であるとともに高収縮率を達成できる高強度ポリエチレン原糸を提供するために研究した。その結果、特定の微細結晶構造を有するポリエチレン原糸にて、このような物性を達成できることを見出した。
【0029】
具体的に、本発明の一態様は、小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトル0~0.04Å-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Aと、散乱ベクトル0.05~0.08Å-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Bとの比(A/B)が、16以上であり、収縮率が2.5%以上である、ポリエチレン原糸に関する。前記の小角X線散乱(SAXS)のA/Bおよび収縮率を同時に満たす範囲で、目的のとおり、高強度であるとともに、収縮率が高いために高密度である原反を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0030】
前記小角X線散乱(SAXS)のA/Bが16以上、好適には18以上、より好適には20以上40以下でありうる。具体的に例を挙げると、16~35でありうる。上記範囲にて特定の微細結晶構造が形成され、これにより、収縮率が2.5%以上、より好適には3%以上、3.5%以上、4%以上、具体的には2.5~10%である収縮率を満たす原糸を提供することができる。前記収縮率は、100℃での乾熱収縮率を意味する。また、上記とともに、高強度の原糸を提供することができる。
【0031】
本発明は、前記小角X線散乱(SAXS)のA/Bが16以上であり、収縮率が2.5%以上であるという物性を同時に満たす原糸を製造可能であれば、その製造方法に制限されないが、一例を挙げると、ポリエチレン樹脂の分子量分布、原糸製造時の紡糸温度、延伸比、および延伸温度を、特定の範囲に調節することで、製造することができる。
【0032】
より具体的に例を挙げると、分子量分布が5超過9未満のポリエチレン樹脂を用いて製造されるのであって、紡糸温度が220~300℃であり、延伸比が5倍~20倍であり、延伸温度が100~150℃でありうる。しかし、前記条件は、1つの例示にすぎず、これに制限されるものではない。通常の技術分野における多様な条件を変更して実施可能であり、本発明を例示または説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を制限するものではない。
【0033】
以下、本発明の構成についてより具体的に説明する。
【0034】
本発明の一態様において、原料として用いられるポリエチレン樹脂は、その繰り返し単位が実質的にエチレンであるものを意味し、少量の他のモノマー、例えば、α-オレフィン、アクリル酸およびその誘導体、メタクリル酸およびその誘導体、ビニルシランおよびその誘導体などとの共重合体であってもよい。また、これらの共重合体と、エチレン単独重合体または他のα-オレフィンなどの共重合体とのブレンド(混合物)も可能である。
【0035】
より好適には、エチレンとプロピレン、ブテン-1などのα-オレフィンとの共重合体を用いることで、短鎖もしくは長鎖の分岐を、ある程度含有させることが、本発明の高収縮率を有する原糸を提供するのに、さらに有利であり、エチレン単独重合体であっても本発明の物性を満たすものであれば使用可能である。
【0036】
前記ポリエチレン樹脂は、溶融紡糸を可能にすることから、重量平均分子量が600,000g/mol以下、より具体的には80,000~600,000g/molでありうる。
【0037】
本発明の一態様において、前記ポリエチレン原糸は、分子量分布が5超過9未満でありうるのであり、より好適には6~8、さらに好適には6.5~7.5でありうる。前記分子量分布は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)であり、多分散指数(Polydispersity Index)または分子量分布指数(MWD)と称されることもある。また、190℃、2.16kgで測定された溶融指数(MI)が0.3~6g/10minであり、より好適には0.4~3g/10minでありうる。
【0038】
前記物性を全て満たす範囲で、原糸の溶融押出時における溶融物の流動性が良く、熱分解の発生を防止し、延伸時に糸切れが発生しないなどの工程性が確保されることで均一な物性の原糸を製造することができ、目的とする高強度であるとともに収縮率が2.5%以上である原糸を提供することができる。
【0039】
また、密度が0.93~0.97g/cm3、より好適には0.941~0.965g/cm3であり、分子量分布が5超過9未満である範囲を満たす高密度ポリエチレン(HDPE)を用いることで、溶融紡糸により、結晶化度が65~85%、より好適には70~80%である繊維を得ることができる。前記ポリエチレン原糸の結晶化度は、X-線散乱分析器を用いた結晶性の分析の際に、微結晶の大きさとともに導出されうる。
【0040】
一態様として、前記原糸は、断面形態が制限されるのではないが、円形断面を有したものでありうるのであり、その他にも、捩じれなどが形成されたものでありうる。
【0041】
一態様として、本発明のポリエチレン原糸は、40~500個の連続フィラメント(continuous filaments)の束であるマルチフィラメント糸でありうる。前記連続フィラメントのそれぞれは、1~3デニールの繊度を有しうるのであり、前記ポリエチレン原糸は、100~1,000デニールの総繊度を有しうる。上記範囲にて、原反が軽く、耐久性に優れた原反を提供することができる。
【0042】
以下、本発明の一態様に係るポリエチレン原糸の製造方法について具体的に説明する。本発明のポリエチレン原糸は、小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトル0~0.04Å-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Aと、散乱ベクトル0.05~0.08Å-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Bとの比(A/B)が、16以上であり、収縮率が2.5%以上である物性を満たせば、その製造方法に制限されるものではなく、下記は一態様を説明するものである。
【0043】
本発明の一態様に係る原糸の製造方法は、
190℃、2.16kgで測定された溶融指数(MI)が0.3~6g/10minであり、分子量分布が5超過9未満であるポリエチレンチップを溶融させてポリエチレン溶融物を得るステップと、
複数のノズルホールを有する口金を通じて前記ポリエチレン溶融物を紡糸するステップと、
前記ポリエチレン溶融物が前記ノズルホールから吐出される際に形成される複数のフィラメントを冷却させるステップと、
冷却された前記複数のフィラメントを集束させてマルチフィラメント糸を形成させるステップと、
前記マルチフィラメント糸について5倍~20倍の総延伸比での延伸および熱固定を行うステップと、
延伸および熱固定がなされた前記マルチフィラメント糸を巻き取るステップと、
を含んでもよい。
【0044】
各ステップについて具体的に説明すると、先ず、チップ(chip)の形態のポリエチレンを押出機(extruder)100に投入して溶融させることで、ポリエチレン溶融物を得る。
【0045】
前記ポリエチレンチップは、5超過9以下の多分散指数(PDI)を有しうる。また、0.3~6g/10minの溶融指数(Melt Index:MI)を有する。また、600,000g/mol以下、より具体的には80,000~600,000g/mol、好適には100,000~500,000g/mol、より好適には200,000~400,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有しうる。前記重量平均分子量(Mw)範囲にて、高強度の原糸を製造することができ、具体的には10g/d以上の引張強度を有する原糸を製造することができる。前記重量平均分子量(Mw)が、600,000g/molを超過する程度に、過度に大きい場合、高い溶融粘度により紡糸装置に過負荷がかかることになり、工程の制御が適切に行われないため、原糸の優れた物性が担保され難い。したがって、前記ポリエチレンチップは、好ましくは600,000g/mol以下、より具体的には80,000~600,000g/mol、好適には100,000~500,000g/mol、より好適には200,000~400,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有することが良い。
【0046】
溶融したポリエチレンが、前記押出機内のスクリューにより口金を通じて運搬され、前記口金に形成された複数のホールを通じて押出される。前記口金のホールの個数は、製造される原糸のDPF(Denier Per Filament)および繊度に応じて決められる。例えば、75デニールの総繊度を有する原糸を製造する場合、前記口金は、20~75個のホールを有しうるのであって、450デニールの総繊度を有する原糸を製造する場合、前記口金は、90~450個、好ましくは100~400個のホールを有しうる。
【0047】
前記押出機内における溶融工程および口金を通じた押出工程は、ポリエチレンチップの溶融指数に応じて変更適用が可能であるが、具体的に例を挙げると、150~315℃、好ましくは220~300℃、より好ましくは250~290℃で行われるのでありうる。すなわち、押出機および口金が150~315℃、好ましくは220~300℃、より好ましくは250~290℃に維持されることが好ましい。
【0048】
前記紡糸温度が150℃未満である場合、低い紡糸温度に起因してポリエチレンが均一に溶融しないことから、紡糸が困難であり得る。これに対し、紡糸温度が315℃を超過する場合、ポリエチレンの熱分解が引き起こされ、所望の強度を発現できないのであり得る。
【0049】
前記口金におけるホールの直径Dに対するホールの長さLの比(L/D)は、3~40でありうる。L/Dが3未満であれば、溶融押出時にダイスウェル(Die Swell)現象が発生し、ポリエチレンの弾性挙動の制御が難しくなることにより、紡糸性が不良となり、L/Dが40を超過する場合には、口金を通過する溶融ポリエチレンのネッキング(necking)現象による糸切れとともに、圧力降下による吐出不均一の現象が発生し得る。
【0050】
溶融したポリエチレンが、口金のホールから吐出され、紡糸温度と室温との差によりポリエチレンの固化が始まることで、半固化状態のフィラメントが形成される。本明細書においては、半固化状態のフィラメントはもちろんのこと、完全固化したフィラメントをも、いずれも「フィラメント」と称する。
【0051】
複数の前記フィラメントは、冷却部(または、「クエンチング・ゾーン(quenching zone)」)で冷却されることで完全固化する。前記フィラメントの冷却は、空冷方式で行われうる。
【0052】
前記冷却部における前記フィラメント冷却は、0.2~1m/sec風速の冷却風を用いて、15~40℃に冷却されるように行われることが好ましい。前記冷却温度が15℃未満であれば、過冷却に起因して伸度が不足し、延伸の過程で糸切れが発生し得るのであり、前記冷却温度が40℃を超過すれば、固化の不均一に起因してフィラメント間の繊度偏差が大きくなり、延伸の過程で糸切れが発生し得る。
【0053】
また、冷却部における冷却時に多段冷却を行うことで、さらに均一に結晶化が行われるようにすることができる。
【0054】
より具体的に、前記冷却部は、3個以上の区間に分けられる。例えば、3個の冷却区間からなる場合、第1冷却部から第3冷却部に行くほど、温度が次第に低くなるように設計されることが好ましい。具体的に例を挙げると、第1冷却部は40~80℃に設定され、第2冷却部は30~50℃に設定され、第3冷却部は15~30℃に設定されうる。
【0055】
また、第1冷却部における風速を最も高く設定することで、表面が、より滑らかな繊維を製造することができる。具体的に、第1冷却部は、0.8~1m/secの風速の冷却風を用いて40~80℃に冷却されるようにし、第2冷却部は、0.4~0.6m/secの風速の冷却風を用いて30~50℃に冷却されるようにし、第3冷却部は、0.2~0.5m/secの風速の冷却風を用いて15~30℃に冷却されるようにするのでありうる。このような条件に調節することで、結晶化度が、より高く、表面が、より滑らかな原糸を製造することができる。
【0056】
次に、集束機により前記冷却および完全固化したフィラメントを集束させ、マルチフィラメントを形成させる。
【0057】
本発明のポリエチレン原糸は、直接紡糸延伸(DSD)工程により製造されてもよい。すなわち、前記マルチフィラメントが、複数のゴデットローラ部を含む多段延伸部に直接伝達され、5倍~20倍、好ましくは8~15倍の総延伸比で多段延伸された後に、ワインダに巻き取られうる。
【0058】
一例として、前記複数のゴデットローラを用いる延伸ステップは、4段以上の多段延伸で行われることが好ましい。好適には、前記延伸ステップは、複数のゴデットローラを用いて、4段以上20段以下の多段延伸で行われてもよい。前記多段延伸が4段以下である場合、ゴデットローラの各区間で急激な延伸が生じ、フィラメント糸の製造時に毛羽の発生頻度が増加し、初期モジュラスが増加し、原反が過度にごわごわになり得る。また、前記多段延伸時に20段以上に進行する場合、フィラメント糸とゴデットローラとの摩擦が増加し、フィラメントの損傷および断糸が発生し得る。
【0059】
また、5超過9以下の多分散指数(PDI)および0.3~6g/10minの溶融指数(Melt Index:MI)(190℃)を有するポリエチレンチップを用いても、本発明の方法による延伸比、延伸温度、および段数条件を満たさない場合には、目的とする物性を満たすことができない。例えば、前記延伸の際、最大延伸温度は100~150℃であることが好ましく、総延伸比が5倍~20倍であり、4段以上の多段延伸を行うのでありうる。前記最大延伸温度は、延伸区間中における最も高い温度を意味し、前記総延伸比は、延伸前の繊維と比べた、最後の延伸の後における繊維の最終の延伸比を意味する。
【0060】
例えば、前記多段延伸は、複数のゴデットローラを用いて4段以上、より具体的には4段以上20段以下の多段延伸で行うのでありうる。前記複数のゴデットローラ(GR1...GRn)のうちの最初のゴデットローラGR1の温度は50~80℃でありうるのであり、最後のゴデットローラGRnの温度は100~150℃でありうる。前記最初および最後のゴデットローラ部(GR1、GRn)を除いた残りのゴデットローラのそれぞれの温度は、その直前の段のゴデットローラの温度と同一であるかまたはそれよりも高く設定されうる。前記最後のゴデットローラ部GRnの温度は、直前の段のゴデットローラ部の温度と同一であるか、またはそれよりも高く設定されうるが、それよりも多少低く設定されることもありうる。
【0061】
また、多段延伸時、最後の延伸区間では1~5%の収縮延伸(弛緩)を与えることで、耐久性にさらに優れた原糸を提供することができる。
【0062】
より具体的に例を挙げると、前記多段延伸は、総4段のゴデットローラ部からなるのでありうるのであり、前記第1ゴデットローラ部は50~80℃で2~4倍の延伸、第2ゴデットローラ部は70~100℃で3~10倍の延伸、第3ゴデットローラ部は80~110℃で1.1~3倍の延伸、第4ゴデットローラ部は100~150℃で1~5%の収縮延伸(弛緩)を行うように設定されるのでありうる。前記第1ゴデットローラ部ないし第4ゴデットローラ部は、それぞれ複数のゴデットローラから形成され得る。具体的に例を挙げると、2個以上、より具体的には、2個~10個のゴデットローラから形成され得る。
【0063】
代替案として、前記マルチフィラメントを未延伸糸として一旦巻き取った後、前記未延伸糸を延伸することで、本発明のポリエチレン原糸が製造されることもありうる。すなわち、本発明のポリエチレン原糸は、ポリエチレンを溶融紡糸して未延伸糸を一旦製造した後、前記未延伸糸を延伸する2段階の工程により製造されることもありうる。
【0064】
延伸工程に適用される総延伸比が5未満であれば、最終的に得られるポリエチレン原糸が65%以上の結晶化度を有することができず、小角X線散乱(SAXS)のA/Bが16以上であり、収縮率が2.5%以上である物性を達成することができない。また、前記原糸から製造される原反上に、毛羽(ピリング)が誘発される危険がある。
【0065】
これに対し、前記総延伸比が20倍を超過すれば、糸切れが発生する可能性があり、最終的に得られるポリエチレン原糸の強度が適しておらず、前記ポリエチレン原糸の製織性が良くないだけでなく、それを用いて製造された原反が過度にごわごわになり、ユーザが不便を感じうる。
【0066】
本発明の溶融紡糸の紡糸速度を決める最初のゴデットローラ部GR1の線速度が決められると、前記多段延伸部において5~20倍、好ましくは8~15倍の総延伸比が前記マルチフィラメントに適用できるように、残りのゴデットローラ部の線速度が適切に決められる。
【0067】
前記多段延伸部により、前記マルチフィラメントの多段延伸と熱固定とが同時に行われるのであり、多段延伸されたマルチフィラメントがワインダに巻き取られることで、本発明のポリエチレン原糸が完成される。
【0068】
上記のように製造された本発明のポリエチレン原糸は、優れた耐切断性が求められる保護用製品(例えば、保護用手袋、肌着、カバンなど)の製造に用いることができる。
【0069】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例および比較例は、本発明をより詳細に説明するための1つの例示にすぎず、本発明が、下記の実施例および比較例により制限されるものではない。
物性は次のように測定した。
【0070】
<重量平均分子量(Mw)(g/mol)および多分散指数(PDI)>
ポリエチレン原糸を以下の溶媒に完全に溶解させた後、次のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、前記ポリエチレン原糸の重量平均分子量(Mw)および多分散指数(Mw/Mn:PDI)をそれぞれ求めた。
【0071】
-分析機器:Tosoh社製のHLC-8321GPC/HT
-カラム:PLgel guard(7.5×50mm)+2×PLgel mixed-B(7.5×300mm)
-カラム温度:160℃
-溶媒:トリクロロベンゼン(TCB)+0.04wt.%ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)(after drying with 0.1% CaCl2)
-インジェクタ・検知器(Injector、Detector)の温度:160℃
-検知器(Detector):RI Detector
-流速:1.0ml/min
-注入量:300mL
-試料濃度:1.5mg/mL
-標準試料:ポリスチレン
【0072】
<引張強度(g/d)、初期モジュラス(g/d)、および伸び率(%)>
ASTM D2256方法により、インストロン社(Instron Engineering Corp、Canton、Mass)の万能引張試験機を用いて、ポリエチレン原糸の変形-応力曲線を得た。サンプルの長さは250mmであり、引張速度は300mm/minであり、初期ロード(荷重;load)は0.05g/dに設定した。破断点における応力および伸張から、引張強度(g/d)および伸び率(%)を求め、前記曲線についての原点付近の最大勾配を与える接線から初期モジュラス(g/d)を求めた。それぞれの原糸ごとに5回測定した後、その平均値を算出した。
【0073】
<原糸の結晶化度>
XRD機器(X-ray Diffractometer)[製造会社:PANalytical社、モデル名:EMPYREAN]を用いて、ポリエチレン原糸の結晶化度を測定した。具体的に、ポリエチレン原糸を切断して2.5cmの長さを有するサンプルを準備し、前記サンプルをサンプルホルダに固定させた後、以下の条件下で測定を行った。
【0074】
光源(X-ray Source):Cu-Kα radiation
電力(Power):45KV×25mA
モード:連続スキャンモード
スキャン角度範囲:10~40°
スキャン速度:0.1°/sec
【0075】
<溶融指数>
ASTM D1238に準じて、190℃、2.16kgで測定した。
【0076】
<小角X線散乱>
XRD機器(X-ray Diffractometer)[製造会社:PANalytical社、モデル名:EMPYREAN]を用いて測定した。
【0077】
測定されたグラフから、散乱ベクトル0~0.04Å-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Aと、散乱ベクトル0.05~0.08Å-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Bとの比(A/B)を算出した。
【0078】
光源(X-ray Source):Cu-Kα radiation
電力(Power):45KV×40mA
モード:連続スキャンモード
スキャン角度範囲:0.1~2.0°
スキャン速度:0.01°/sec
【0079】
<収縮率>
ポリエチレン原糸を切断して70cmの長さのサンプルを得た後、前記サンプルの両端から、それぞれ10cm離れた地点に表示をした(すなわち、表示地点間の距離=50cm)。次に、前記サンプルに荷重が印加されないようにジグにぶら下げた状態で、熱風循環型の加熱炉を用いて100℃で30分間加熱した。その後、加熱炉からサンプルを取り出し、室温まで徐々に冷却させた後、前記表示地点間の距離を測定した。次に、次の式を用いてポリエチレン原糸の100℃での乾熱収縮率を算出した。
【0080】
乾熱収縮率(%)=[(L0-L1)/L0]×100
(ここで、L0は、加熱前の表示地点間の距離(すなわち、50cm)であり、L1は、加熱後の表示地点間の距離である。)
【0081】
2回の試験により得られた乾熱収縮率の平均値を求めた。
【0082】
[実施例1]
<ポリエチレン原糸の製造>
240個のフィラメントを含み、総繊度が500デニールのポリエチレン原糸を製造した。
【0083】
具体的に、0.962g/cm3の密度、340,000g/molの重量平均分子量(Mw)、7.5の分子量分布、および1.8g/10minの溶融指数(MI at 190℃)を有するポリエチレンチップを押出機に投入して溶融させた。溶融したポリエチレンは、240個のホールを有する口金を通じて押出された。口金におけるホールの直径Dに対するホールの長さLの比(L/D)は6であった。口金の温度は260℃であった。
【0084】
口金のノズルホールから吐出されることで形成されたフィラメントは、3個の区間からなる冷却部にて順次に冷却された。第1冷却部では0.9m/secの風速の冷却風により50℃に冷却され、第2冷却部では0.5m/secの風速の冷却風により35℃に冷却され、第3冷却部では0.4m/secの風速の冷却風により25℃に最終冷却された。冷却後、集束機によりマルチフィラメント糸に集束された。
【0085】
次に、前記マルチフィラメント糸が延伸部に移動した。前記延伸部は、4個の区間からなる多段延伸部からなり、総4段のゴデットローラ部で構成され、各ゴデットローラ部は、2個~10個のゴデットローラからなる。第1ゴデットローラ部は最大温度が80℃、第2ゴデットローラ部は最大温度が90℃、第3ゴデットローラ部は最大温度が95℃、第4ゴデットローラ部は最大温度が120℃に設定されたのであり、延伸比は、第1ゴデットローラ部では2倍の延伸、第2ゴデットローラ部では3倍の延伸、第3ゴデットローラ部では1.4倍の延伸がされるようにし、第4ゴデットローラ部では第3ゴデットローラ部に比べて4%収縮延伸(弛緩)されるようにして、総8倍の総延伸比で延伸されて熱固定された。
【0086】
次に、前記延伸されたマルチフィラメント糸がワインダに巻き取られた。巻き取り張力は0.8g/dであった。
【0087】
製造された原糸の物性を測定して下記表1に示した。また、小角X線散乱(SAXS)を測定して
図1に示した。小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトル0~0.04Å
-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Aと、散乱ベクトル0.05~0.08Å
-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Bとの比(A/B)は、28であった。
【0088】
[実施例2]
<ポリエチレン原糸の製造>
前記実施例1において、総延伸比が11倍となるように調節したことを除いては、前記実施例1と同様に原糸を製造した。
【0089】
製造された原糸の物性を測定して下記表1に示した。また、小角X線散乱(SAXS)を測定して
図2に示した。小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトル0~0.04Å
-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Aと、散乱ベクトル0.05~0.08Å
-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Bとの比(A/B)は、27.5であった。
【0090】
[実施例3]
<ポリエチレン原糸の製造>
前記実施例1において、総延伸比が13倍となるように調節したことを除いては、前記実施例1と同様に原糸を製造した。
【0091】
製造された原糸の物性を測定して下記表1に示した。また、小角X線散乱(SAXS)を測定して
図3に示した。小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトル0~0.04Å
-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Aと、散乱ベクトル0.05~0.08Å
-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Bとの比(A/B)は、22.6であった。
【0092】
[実施例4]
<ポリエチレン原糸の製造>
前記実施例1において、0.961g/cm3の密度、340,000g/molの重量平均分子量(Mw)、5.5の分子量分布、および1.7g/10minの溶融指数(MI at 190℃)を有するポリエチレンチップを用い、総延伸比が13倍となるように調節したことを除いては、前記実施例1と同様に原糸を製造した。
【0093】
製造された原糸の物性を測定して下記表1に示した。小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトル0~0.04Å-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Aと、散乱ベクトル0.05~0.08Å-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Bとの比(A/B)は、16であった。
【0094】
[実施例5]
<ポリエチレン原糸の製造>
前記実施例1において、0.961g/cm3の密度、340,000g/molの重量平均分子量(Mw)、8の分子量分布、および1.6g/10minの溶融指数(MI at 190℃)を有するポリエチレンチップを用い、総延伸比が13倍となるように調節したことを除いては、前記実施例1と同様に原糸を製造した。
【0095】
製造された原糸の物性を測定して下記表1に示した。小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトル0~0.04Å-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Aと、散乱ベクトル0.05~0.08Å-1にて発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Bとの比(A/B)は、18であった。
【0096】
[比較例1]
<ポリエチレン原糸の製造>
前記実施例1において、0.960g/cm3の密度、340,000g/molの重量平均分子量(Mw)、3の分子量分布、および1.5g/10minの溶融指数(MI at 190℃)を有するポリエチレンチップを用い、総延伸比が11倍となるように調節したことを除いては、前記実施例1と同様に原糸を製造した。
【0097】
製造された原糸の物性を測定して下記表1に示した。また、小角X線散乱(SAXS)を測定して
図4に示した。小角X線散乱(SAXS)の散乱ベクトル0~0.04Å
-1において発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Aと、散乱ベクトル0.05~0.08Å
-1において発生するピーク強度(Intensity Peak)の最高点Bとの比(A/B)は、15であった。
【0098】
【0099】
以上、特定の事項と限定された実施例および図面により本発明を説明したが、これは、本発明の、より全般的な理解のために提供されたものにすぎず、本発明は、上記の実施例に限定されない。本発明が属する分野における通常の知識を有する者であれば、このような記載から、多様な修正および変形が可能である。
【0100】
したがって、本発明の思想は、説明された実施例に限定されて決められてはならず、後述の特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等または等価的な変形を有するものは、いずれも本発明の思想の範囲に属するといえる。