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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】分散体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/28 20250101AFI20250218BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20250218BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20250218BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20250218BHJP
   C08F 8/46 20060101ALI20250218BHJP
   C08F 8/20 20060101ALI20250218BHJP
   C09D 123/28 20060101ALI20250218BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20250218BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250218BHJP
【FI】
C08L23/28
C08L71/02
C08K5/17
C08K5/06
C08F8/46
C08F8/20
C09D123/28
C09D7/65
C09D7/63
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024007217
(22)【出願日】2024-01-22
【審査請求日】2024-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 光
(72)【発明者】
【氏名】荒井 冴介
(72)【発明者】
【氏名】吉元 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】鍋田 宗明
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/072689(WO,A1)
【文献】特開2003-327761(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146728(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/251100(WO,A1)
【文献】特開2005-263934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00、301/00
C09D 7/63、7/65、123/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分A:塩素化度が17~23重量%であり、ガラス転移温度が0~10℃である酸変性塩素化ポリオレフィン、
成分B:ノニオン界面活性剤、
成分C:塩基性化合物、及び
成分D:水性媒体
を含み、
成分Aの含有量を100重量%とした際の成分Bの含有量が10重量%以上であり、
成分Aの重量平均分子量が100,000~150,000であり、
成分Bがポリオキシエチレンアルキルエーテル系のノニオン界面活性剤である、分散体組成物。
【請求項2】
酸変性塩素化ポリオレフィンの軟化点が70~100℃である、請求項1に記載の分散体組成物。
【請求項3】
成分Cが、1級アミンを含む、請求項1又は2に記載の分散体組成物。
【請求項4】
成分E:分子量が200未満であるグリコールエーテル系の化合物を更に含む、請求項1又は2に記載の分散体組成物。
【請求項5】
塗料又は塗料用バインダーである、請求項1又は2に記載の分散体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散体組成物に関する。より詳細には、良好な高圧洗車性及び温水下での耐水付着性を発揮できる、酸変性塩素化ポリオレフィンを含む分散体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷の低減や製造コスト低減の観点から、自動車の外板部品の材料が、従来の鋼板からプラスチック基材へ置き換わりつつある。プラスチック製の外板部品上に形成された塗膜には、これまで鋼板製の外板上に形成された塗膜に求められていた塗膜性能がそのまま要求される。
【0003】
一方で、プラスチック基材は一般に非極性基材であり、表面自由エネルギーが小さく、更にプラスチック基材が結晶性を有する場合は、特に塗料が付着しにくい。また、自動車の外板部品上の塗膜に求められる性能の1つに、高い耐水性が挙げられる。高圧洗車性を評価するための促進試験へ対応する必要があること、及び各季節における温度変化へ対応する必要があること等の理由から、塗膜には、常温の水への耐性だけでなく、温水への高い耐性が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、(メタ)アクリル酸エステルで変性された変性ポリオレフィンを含む水性分散体において、(メタ)アクリル酸エステルのホモポリマーのガラス転移温度が50~90℃、水酸基価Xが17mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である場合に、水性分散体は良好な付着性と耐温水性を発揮でき、自動車のプラスチック基材用塗料、バインダーとして利用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-26487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1などの、従来の(メタ)アクリル酸エステルにより変性された樹脂の水性分散体を使用して得られる塗膜は、外板上の塗膜に求められるような高水準の付着性、塗膜物性を発揮できない場合があり、特に、高圧洗車性が不十分な場合がある。
【0007】
本発明は、プラスチック基材上に塗布した場合にも、基材に対し良好な付着性を発揮でき、高圧洗車性、耐温水性等の塗膜物性を発揮できる塗膜を形成できる、水分散体組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討した。その結果、本発明者らは、所定の物性を有する酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂を含む組成物を分散体の形態で用いることにより、良好な付着性を発揮でき、耐温水性、高圧洗車性等の塗膜物性を備える塗膜を形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明者らは、以下を提供する。
[1] 成分A:塩素化度が17~23重量%であり、ガラス転移温度が0~10℃である酸変性塩素化ポリオレフィン、
成分B:ノニオン界面活性剤、
成分C:塩基性化合物、及び
成分D:水性媒体
を含み、
成分Aを100重量%とした際の成分Bの含有量が10重量%以上である、分散体組成物。
[2] 酸変性塩素化ポリオレフィンの重量平均分子量が100,000~150,000である、[1]に記載の分散体組成物。
[3] 酸変性塩素化ポリオレフィンの軟化点が70~100℃である、[1]又は[2]に記載の分散体組成物。
[4] 成分Bがポリオキシエチレンアルキルエーテル系のノニオン界面活性剤を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の分散体組成物。
[5] 成分Cが、1級アミンを含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の分散体組成物。
[6] 成分E:分子量が200未満であるグリコールエーテル系化合物を更に含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の分散体組成物。
[7] 塗料又はバインダーである、[1]~[6]のいずれか1項に記載の分散体組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた付着性(接着性、密着性)を示すことができ、プラスチック基材等の基材上に塗布した場合に、耐温水性、高圧洗車性を有する塗膜を形成できる、分散体組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0012】
[1.組成物]
組成物は、成分A~Dを含み、好ましくはさらに成分Eを含む。
【0013】
[1.1 成分A:酸変性塩素化ポリオレフィン]
成分Aは、酸変性塩素化ポリオレフィンである。酸変性塩素化ポリオレフィンは、原料であるポリオレフィンを酸変性及び塩素化を含む変性処理して得られる変性ポリオレフィンである。本明細書において、酸変性を含む変性処理して得られる(塩素化を含むか否かは問わない)変性ポリオレフィンを酸変性ポリオレフィン、塩素化を含む変性処理して得られる(酸変性を含むか否かを問わない)変性ポリオレフィンを塩素化ポリオレフィンと言う。
【0014】
(ポリオレフィン(原料))
原料であるポリオレフィンは、特に限定されるものではなく、1種のオレフィンの単独重合体であってもよく、2種以上のオレフィンの共重合体であってもよい。また、共重合体である場合、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。オレフィンとしては、α-オレフィンが好適に用いられる。α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンが挙げられる。ポリプロピレン基材等の非極性樹脂基材に対して十分な付着性を発現させるという観点から、ポリオレフィンは、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体が好ましく、エチレン-プロピレン共重合体がより好ましい。
【0015】
本明細書中、ポリプロピレンとは、基本単位がプロピレン由来の構成単位である重合体を表す。エチレン-プロピレン共重合体とは、基本単位がエチレン由来の構成単位及びプロピレン由来の構成単位である共重合体を表す。プロピレン-1-ブテン共重合体とは、基本単位がプロピレン由来の構成単位及び1-ブテン由来の構成単位である共重合体を表す。これらの重合体は、上記基本単位以外の他のオレフィン由来の構成単位を少量含有していてもよい。この含有量は、樹脂本来の性能を著しく損なわない量であればよい。このような他のオレフィン由来の構成単位は、例えば、変性ポリオレフィン樹脂の製造までの工程で混入することがある。
【0016】
ポリオレフィンは、構成単位100モル%中、プロピレン由来の構成単位を60モル%以上含むことが好ましい。プロピレン由来の構成単位を上記範囲で含むと、非極性樹脂(例えば、プロピレン樹脂)等の基材又は成型品に対する付着性を確保し得る。
【0017】
エチレン-プロピレン共重合体及びプロピレン-ブテン共重合体は、ランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれでもよい。これらの共重合体は、構成単位100モル%中、エチレン由来の構成単位又はブテン由来の構成単位を5~50モル%の割合で含み、プロピレン由来の構成単位を50~95モル%の割合で含むことが好ましい。
【0018】
(ポリオレフィンの製造方法)
ポリオレフィンの製造方法としては、例えば、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒等の重合触媒を用いる方法が挙げられ、メタロセン触媒を用いる方法が好ましい。メタロセン触媒を用いて得られるポリオレフィンは、通常、分子量分布が狭い。また、ポリオレフィンが共重合体の場合、通常、ランダム共重合性に優れ、組成分布が狭く、さらには、共重合し得るコモノマーの範囲が広い。
【0019】
メタロセン触媒としては、公知のものが使用できる。メタロセン触媒は、好ましくは、以下に述べる成分(1)及び(2)と、さらに必要に応じて(3)とを組み合わせて得られる。
・成分(1);共役五員環配位子を少なくとも一個有する周期律表4~6族の遷移金属化合物であるメタロセン錯体;
・成分(2);イオン交換性層状ケイ酸塩;
・成分(3);有機アルミニウム化合物。
【0020】
(ポリオレフィンの融点)
ポリオレフィンの融点は、80℃以上150℃以下が好ましく、85℃以上140℃以下がより好ましい。
【0021】
(ポリオレフィンの重量平均分子量)
ポリオレフィンの重量平均分子量は、70,000以上500,000未満であり、80,000以上400,000未満が好ましい。本明細書において、重量平均分子量(Mw)の測定は、ポリスチレンを標準物質として用いるGPCによることができる。
【0022】
ポリオレフィンは、1種単独でも、2種以上の組み合わせでもよい。2種以上の組み合わせの場合、それぞれの化合物の重量比は特に限定されない。
【0023】
(酸変性(α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体の導入))
酸変性は、α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体の導入(グラフト変性)によることができる。α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、N-メチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、これらから選ばれる2以上の組み合わせが挙げられる。中でも、α,β-不飽和カルボン酸無水物、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0024】
α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体は、1種以上であればよく、α,β-不飽和カルボン酸1種以上とその誘導体1種以上の組み合わせ、α,β-不飽和カルボン酸2種以上の組み合わせ、α,β-不飽和カルボン酸の誘導体2種以上の組み合わせでもよい。2種以上の組み合わせの場合、それぞれの重量比は特に限定されない。
【0025】
(酸変性度(α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体の導入量))
酸変性度は、α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体の導入量(グラフト重量)を表す。酸変性度は、未変性のポリオレフィン100重量%に対し、0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましい。グラフト重量が0.1重量%以上であることにより、分散体組成物の基材に対する付着性を保つことができる。上限は、10重量%以下が好ましく、8重量%以下がより好ましく、4重量%以下がさらに好ましい。これにより、グラフト未反応物の発生を防止でき、基材に対する十分な付着性を得ることができる。従って、α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体の導入量は、0.1~10重量%が好ましく、0.1~8重量%がより好ましく、0.5~4重量%がさらに好ましい。α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体の導入量(グラフト重量)は、アルカリ滴定法又はフーリエ変換赤外分光法で測定し得る。
【0026】
(酸変性の方法)
酸変性は、α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体をポリオレフィン又は塩素化ポリオレフィン(好ましくはポリオレフィン)に導入できる方法であれば特に限定されず、例えば、溶融法、溶液法が挙げられる。溶融法は、操作が簡単である上、短時間で反応できるという利点がある。溶液法は、副反応が少なく均一なグラフト重合物を得ることができる。溶融法は、ラジカル重合開始剤の存在下でポリオレフィン、α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体を含む原料を加熱融解してα,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体と反応させる方法である。加熱融解の温度は、融点以上であればよく、融点以上300℃以下が好ましい。加熱融解の際には、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等の機器を使用できる。溶液法は、ポリオレフィンα,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体を含む原料を有機溶剤に溶解後、ラジカル重合開始剤の存在下加熱撹拌して反応させる方法である。有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤が挙げられる。反応温度は、100~180℃が好ましい。α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体である2種以上の化合物を用いる場合、これらを反応系に一括添加しても、逐次添加してもよい。
【0027】
ラジカル反応開始剤としては、例えば、加熱時にフリーラジカルを発生させる熱重合反応開始剤であり得、例えば、有機過酸化物系化合物及びアゾニトリル類が挙げられる。有機過酸化物系化合物としては、例えば、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ベンゾイルm-トリルペルオキシド、ジ(m-トリル)ベンゾイル、ジラウリルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、クメンハイドロペルオキシド、tert-ブチルハイドロペルオキシド、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンペルオキシド、tert-ブチルペルオキシ-ベンゾエート、tert-ブチルペルオキシソブチレート、tert-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルペルオキシオクトエート、クミルペルオキシオクトエート等が挙げられる。アゾニトリル類としては、例えば、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0028】
(塩素化)
塩素化は、ポリオレフィン又は酸変性ポリオレフィンに(好ましくは酸変性ポリオレフィンに)塩素を導入できる方法によることができる。塩素導入にあたり、ポリオレフィン又は酸変性ポリオレフィンを予めクロロホルムなどの塩素系溶媒に溶解しておいてもよい。塩素の導入は、通常、反応系への塩素ガスの吹き込みにより行う。塩素ガスの吹き込みは、紫外線の照射下で行ってもよいし、ラジカル反応開始剤の存在下又は不存在下で行ってもよい。塩素ガスの吹き込みの際の圧力は制限されず、常圧でも加圧下でもよい。塩素ガスの吹き込みの際の温度は特に制限されないが、通常は、50~140℃である。ラジカル反応開始剤の例としては、酸変性の際に用いることのできるラジカル重合開始剤として例示したものが挙げられる。塩素化におけるラジカル反応開始剤の使用量は、原料の樹脂100重量%に対し、好ましくは0.001重量%~1重量%、より好ましくは0.01重量%~0.1重量%である。塩素導入後、系内の塩素系溶媒は、通常、減圧などにより留去されるか、又は有機溶剤で置換される。
【0029】
(塩素化度(塩素の導入量))
酸変性塩素化ポリオレフィンの塩素化度は、塩素化前のポリオレフィン(酸変性ポリオレフィンを含む)に対する塩素含有率(塩素のグラフト量)を表す。塩素化度は、17重量%以上、好ましくは18重量%以上、19重量%以上又は20重量%以上である。上限は、23重量%以下、好ましくは22重量%以下である。塩素化度が上記範囲であることにより、基材に対する良好な付着性を得ることができる。塩素化度は、JIS-K7229に基づいて測定できる。すなわち、塩素化ポリオレフィンを酸素雰囲気下で燃焼させ、発生した気体塩素を水で吸収し、滴定により定量する「酸素フラスコ燃焼法」を用いて測定できる。塩素化度の調整は、例えば、ポリオレフィン樹脂の種類、塩素化反応のスケール、塩素化に用いる反応装置、塩素ガスの吹き込み量、時間により調整できる。
【0030】
(酸変性と塩素化の順序)
酸変性塩素化ポリオレフィンの製法において、酸変性と塩素化の順序は特に限定されず、酸変性ポリオレフィンに塩素化が施されたものでもよいし、塩素化ポリオレフィンに酸変性が施されたものでもよいが、前者が好ましい。
【0031】
(他の変性)
酸変性塩素化ポリオレフィンは、酸変性、塩素化以外の公知の変性がなされていてもよい。
【0032】
(酸変性塩素化ポリオレフィンのガラス転移温度)
酸変性塩素化ポリオレフィンのガラス転移温度Tgは、0℃以上、好ましくは1℃以上、2℃以上、3℃以上、又は4℃以上であり、より好ましくは5℃以上である。これにより、塗膜を温水に浸漬した後における、塗膜の基材への付着性が良好となり、塗膜の耐温水性が向上しうる。上限は、10℃以下である。これにより、塗膜に適度な柔軟性が付与されて、塗膜の基材への付着性が良好となる。従って、Tgは、0~10℃、好ましくは1~10℃、2~10℃、3~10℃、4~10℃、より好ましくは5~10℃である。本明細書においてガラス転移温度は、JIS-K7121-1987に準拠し、示差走査熱量測定装置(DSC測定装置)を用いて測定できる。
【0033】
(酸変性塩素化ポリオレフィンの重量平均分子量)
酸変性塩素化ポリオレフィンの重量平均分子量の下限値は、100,000以上が好ましく、110,000以上がより好ましく、120,000以上がさらに好ましい。これにより、得られる分散体組成物の凝集力を向上でき、基材への付着性を発現し得る。上限は、150,000以下が好ましく、140,000以下がより好ましく、130,000以下がさらに好ましい。これにより、得られる分散体組成物の他樹脂との相溶性及び溶剤への溶解性を向上させることができる。従って、重量平均分子量は、好ましくは100,000~150,000、より好ましくは110,000~140,000、さらに好ましくは120,000~130,000である。
【0034】
(酸変性塩素化ポリオレフィンの軟化点)
酸変性塩素化ポリオレフィンの軟化点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上である。これにより、固形化した際にブロッキングを抑制し得る。上限は、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下である。これにより、良好な低温付着性を示すことができる。本明細書において、軟化点は、実施例の方法により測定できる。
【0035】
成分Aは、酸変性塩素化ポリオレフィン1種単独でもよいし、構造、製法等の異なる酸変性塩素化ポリオレフィン2種以上の組み合わせでもよい。2種以上の組み合わせの場合、それぞれの重量比は特に限定されない。
【0036】
[1.2 成分B:ノニオン界面活性剤]
成分Bは、ノニオン界面活性剤である。組成物が成分Bを含有することにより、乳化剤としての機能を発揮でき、成分D(水性媒体)に対する成分Aの分散性を高めることができる。また、塗膜の耐水性を向上させ、高圧洗車性、耐温水性をより高めることができる。
【0037】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレンポリオール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられ、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンであり、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンである。
【0038】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系のノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル等の、炭素原子数10~30、好ましくは12~25のアルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられ、好ましくは、ポリオキシエチレンオレイルエーテルである。
【0039】
成分Bは、ノニオン界面活性剤1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。2種以上の組み合わせの場合、それぞれの重量比は特に限定されない。
【0040】
組成物における成分Bの含有量は、成分Aの含有量100重量%に対し、通常、10重量%以上、好ましくは15重量%以上、より好ましくは20重量%以上である。これにより、成分Aの溶解性を高めることができ、組成物に含まれる粒子径を低下させ、安定性を向上させることができ、基材に対する付着性、塗膜物性を高めることができる。上限は、通常、30重量%以下、好ましくは25重量%以下である。これにより、塗膜の可塑性及び界面活性剤のブリードを抑制でき、塗膜のブロッキングの発生を抑制しうる。成分Bの含有量は、通常、組成物製造時の成分Cの添加量と同量である。
【0041】
[1.3 成分C:塩基性化合物]
成分Cは、塩基性化合物である。組成物が成分Cを含有することにより、組成物のpHを適切に調節でき、成分D(水性媒体)への成分A(酸変性塩素化ポリオレフィン)の分散性及び保存安定性をより高めることができる。
【0042】
塩基性化合物としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、プロピルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モルホリン、ジメチルエタノールアミン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオールなどが挙げられ、好ましくは、メチルアミン、プロピルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール等の第1級アミンが挙げられ、AMPが好ましい。
【0043】
成分Cは、塩基性化合物1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。2種以上の組み合わせの場合、それぞれの重量比は特に限定されない。
【0044】
組成物における成分Cの含有量は特に規定されないが、成分Aの含有量100重量%に対し、通常、1.0重量%以上、好ましくは2.0重量%以上、より好ましくは3,0重量%以上である。これにより、組成物のpHを適切な範囲に保つことができる。上限は、成分Aである酸変性塩素化ポリオレフィン中のカルボキシル基に対して3.0倍等量以下が好ましい。成分Cの含有量は、通常、組成物製造時の成分Cの添加量と同量である。
【0045】
組成物のpHは、5以上が好ましく、6以上がより好ましい。これにより、成分Aの成分Dへの分散性が良好となり得、沈殿、分離の発生を抑制でき、貯蔵安定性を保つことができる。上限は、通常11以下である。これにより成分Cとその他の成分との相溶性、作業上の安全性を適切に保持できる。従って、組成物のpHは5以上が好ましく、6~11がより好ましい。成分Cの含有量は、組成物のpHが上記範囲となるような量であることが好ましい。
【0046】
[1.4 成分D:水性媒体]
成分Dは、水性媒体である。水性媒体は、組成物の分散媒である。水性媒体としては、例えば、水及び親水性物質が挙げられる。親水性物質としては、例えば、アルコール系、ケトン系、エステル系の親水性物質が挙げられ、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンが好ましい。
【0047】
成分Dは、水性媒体1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよく、少なくとも水を含むことが好ましい。2種以上の組み合わせの場合、それぞれの重量比は特に限定されない。
【0048】
組成物における成分Dの含有量は、組成物の固形分含量で表すことができる。組成物の固形分含量は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、さらにより好ましくは15重量%以上である。上限は、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。従って、好ましくは5重量%~60重量%、より好ましくは10重量%~50重量%、さらに好ましくは15重量%~40重量%である。これにより、経時安定性が良好となり得る。
【0049】
[1.5 成分E:グリコールエーテル系化合物]
成分Eは、グリコールエーテル系化合物である。組成物が成分Eを含有することにより、乳化助剤としての機能を発揮でき、成分Bによる乳化作用を促進でき、組成物の安定性、塗膜性能を高めることができる。
【0050】
グリコールエーテル系化合物の分子量は、通常200未満、好ましくは190以下、180以下、170以下、160以下、又は150以下である。これにより、乳化助剤としての機能をより発揮できる。本明細書においてグリコールエーテル化合物の分子量は、IUPAC原子量委員会で承認された(12C=12とする)相対原子質量から求める分子量である。
【0051】
グリコールエーテル系化合物は、通常、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のグリコール類の1個のヒドロキシ基における水素原子が、アルキル基に置換された構造を有する化合物である。例えば、下記一般式(I)で表される化合物が好ましい。一般式(I)で表される化合物は、一分子中に疎水基と親水基を有するため、成分Aの分散性をより高めることができ、組成物の保存安定性に寄与できる。
2a+1-O-(C2bO)H・・・(I)
一般式(I)中、a~cはそれぞれ独立して整数である。aは、通常、10以下、好ましくは、8以下、7以下、6以下、5以下、又は4以下の整数である。aの下限は、特に限定されないが、例えば、1以上である。bは、通常、5以下、4以下又は3以下である。bの下限は、特に限定されないが、例えば2以上である。cは、通常、5以下、好ましくは4以下、3以下、又は2以下である。cの下限は、特に限定されないが、例えば1以上である。
【0052】
一般式(I)で表される化合物としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノデシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルが好ましく、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)がより好ましい。
【0053】
成分Eは、グリコールエーテル系化合物1種類単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。2種以上の組み合わせの場合、それぞれの重量比は特に限定されない。
【0054】
組成物における成分Eの含有量は、通常、2.0重量%以下である。下限は特に限定されない。
【0055】
[1.6 他の成分]
組成物は、前述の成分A~E以外の成分を、必要に応じて含んでもよい。例えば、安定化剤、架橋剤、希釈剤、硬化剤、成分A以外の樹脂成分、成分B以外の乳化剤、その他の添加剤成分(例、低級アルコール類、低級ケトン類、低級エステル類、防腐剤、レベリング剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、金属塩、酸類)、未反応の原料(例、α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体、ポリオレフィン、塩素)が挙げられる。
【0056】
(安定化剤)
安定化剤としては、例えば、エポキシ系安定化剤(エポキシ基を含む化合物)等が挙げられる。エポキシ系安定化剤としては、例えば、エポキシ当量が100から500程度であり、1分子中にエポキシ基を1個以上含むエポキシ化合物が挙げられる。より詳細には、例えば、天然の不飽和基を有する植物油を過酢酸等の過酸でエポキシ化したエポキシ化大豆油やエポキシ化アマニ油;オレイン酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸等の不飽和脂肪酸をエポキシ化したエポキシ化脂肪酸エステル類;エポキシ化テトラヒドロフタレートに代表されるエポキシ化脂環式化合物;ビスフェノールAや多価アルコールとエピクロルヒドリンとを縮合した、例えば、ビスフェノールAグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル、プロピレングリコールグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル;ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、フェノールポリエチレンオキサイドグリシジルエーテル等に代表されるモノエポキシ化合物類等が挙げられる。
【0057】
安定化剤は、エポキシ基を含まない化合物でもよく、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸鉛等の金属石鹸類;ジブチル錫ジラウレート、ジブチルマレート等の有機金属化合物類;ハイドロタルサイト類化合物;オキセタン系化合物等が挙げられる。
【0058】
(他の樹脂成分)
成分A以外の樹脂成分としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、硝化綿等の樹脂、これらの2種以上の組み合わせが挙げられる。これらの樹脂は、水性化物(例えば、水性アクリル樹脂、水性ポリウレタン樹脂)として組成物に配合してもよい。成分Aと他の樹脂成分の含有量(他の樹脂が2以上の場合、合計量)の比率は、固形物換算で、成分A:他の樹脂成分=1~99:99~1、好ましくは10~90:90~10、より好ましくは20~80:80~20、更に好ましくは30~70:70~30である。
【0059】
架橋剤としては、例えば、ブロックイソシアネート化合物、脂肪族又は芳香族のエポキシ化合物、アミン系化合物、アミノ樹脂が挙げられる。架橋剤を添加することにより、成分A~C等の組成物を構成する成分に含まれる水酸基、カルボキシ基、アミノ基等の基と反応し、架橋構造を形成する。
【0060】
[1.7 組成物の物性]
組成物は、成分Dに成分A~C等の固形分が分散している、分散体の形態を有する。
(平均粒子径)
組成物中、成分A等の固形成分は、通常、粒子として成分Dに分散して存在している。粒子の平均粒子径は、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下である。300nm以下であれば、組成物の貯蔵安定性、相溶性を保持できるが、300nm超であると、基材への付着性、塗膜物性が低下する場合がある。平均粒子径は、組成物における各成分の含有量、種類、組成物を調製する際の分散条件(例、撹拌力、撹拌時間)により調整できる。平均粒子径は、光拡散法を用いた粒度分布測定により得ることができる。
【0061】
[2.組成物の製造方法]
組成物の製造方法は、特に限定されない。例えば、成分A~Dを添加混合し、成分Aを成分Dに分散させる分散工程を少なくとも含む方法が挙げられる。各成分は一括添加でも、逐次添加でもよいが、成分A及びBを系内に添加後、成分Cを添加し、成分Dを最後に投入することが好ましい。一態様によれば、成分A及びBを、必要に応じて安定化剤とともに、有機溶媒(例えば、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤)へ溶解した(好ましくは、加熱条件下)後、成分Cを添加し、その後に成分D(好ましくは、温水)を添加する方法が挙げられる。添加した有機溶媒は、成分D添加後に留去できる。組成物が他の樹脂成分を含む場合、樹脂成分は上記分散工程の後に配合することが好ましい。例えば、分散工程後に、樹脂成分を配合し必要に応じて固形分を調整する(例えば、分散媒を添加して希釈する)、樹脂成分配合工程を行ってもよい。
【0062】
[3.組成物の用途]
組成物は、塗料等の塗工が困難な基材、例えば非極性のプラスチック基材(例、ポリプロピレン等のポリオレフィン系基材やABS基材)への付着性が良好であり、耐温水性に優れる塗膜を形成しうるので、塗料、インキ、接着剤、これ等のバインダーとして利用でき、中でも、自動車の塗装用材料(例、塗料、バインダー)として有用である。
【実施例
【0063】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。物性値の測定方法は、別途記載がない限り、下記に記載した測定方法である。なお、特に断らない限り、部および%は重量部および重量%を示し、数値範囲はその端点を含むものとして記載する。
【0064】
[物性の測定方法]:
酸成分のグラフト量、塩素化度(塩素のグラフト量)、ガラス転移温度、重量平均分子量(Mw)、軟化点は、酸変性塩素化ポリオレフィンを用いて測定した。測定方法の詳細を下記に示す。
【0065】
(酸変性度(重量%))
アルカリ滴定法を用いて、JIS-K0070:1992に準じた方法で測定を行い、算出した。
【0066】
(塩素化度(重量%))
JIS-K7229:1995に準じた方法で測定を行った。
【0067】
(ガラス転移温度(℃))
ALパン(TA Instruments(株)社製)内に密封した約5gの試料を、DSC測定装置(TA Instruments(株)、DISCOVERY DSC2500)にセットし、-10℃/minで-50℃まで冷却した後、5分間保持した。次に150℃まで10℃/minで昇温した後に、5分間保持した。この冷却昇温サイクルを2回行い、DSC曲線を得た。次にJIS-K7121-1987に準拠し、DSC曲線の低温側のベースラインに延長線(直線1)および高温側のベースラインに延長線(直線2)を引き、さらに直線1と2の真ん中に2つの直線に平行な直線(直線3)を引き、ガラス転移の階段状の変化曲線と直線3の交点の温度をその試料のガラス転移温度(℃)とした。
【0068】
(重量平均分子量(Mw))
製造例で製造した樹脂について、GPCにより下記条件に従い測定した。
装置:HLC-8320GPC(東ソー(株)製)
カラム:TSK-gel G-6000HXL,G-5000HXL,G-4000HXL,G-3000HXL,G-2000HXL(東ソー(株)製)
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1mL/min
温度:ポンプオーブン、カラムオーブン40℃
注入量:100μL
標準物質:ポリスチレン EasiCal PS-1(Agilent Technology(株)製)
【0069】
[軟化点(℃)]
試料を40℃で乾燥した樹脂片を、調温ステージ上で毎分3.5℃で加熱し、試料の形状変化(融解状態を)を顕微鏡で観察し、試料が溶融し始めてから完全に溶融したときの温度を軟化点温度として評価した。
【0070】
[Tm(融点、℃)]:
JIS K7121-1987に準拠し、DSC測定装置(TA Instruments製)を用い、約5mgの試料を150℃で10分間加熱融解状態を保持した。次いで、10℃/分の速度で降温して、-50℃で安定保持した。その後、10℃/分で150℃まで昇温し、融解した時の融解ピーク温度をTmとした。
【0071】
[製造例1:酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体a]
(1)マレイン化
メルトマスフローレイトが0.24g/分(JIS K7210-1に準じて測定)であるポリオレフィン樹脂(プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン単位97.0モル%、エチレン単位3.0モル%、Tm=125℃、重量平均分子量315,000)100部、無水マレイン酸2.5部、及びジ-tert-ブチルペルオキシド0.5部を攪拌機にて予混合し、同方向二軸押出機にて175℃で加熱混練して酸変性プロピレン-エチレン共重合体を得た。得られた酸変性プロピレン-エチレン共重合体の無水マレイン酸のグラフト重量は、1.2重量%、Tmは122℃であった(表1)。
【0072】
(2)塩素化
上述のマレイン化反応で得られた酸変性プロピレン-エチレン共重合体1,200kgをグラスライニングされた反応釜に投入し、8,700Lのクロロホルムを入れ、0.4MPaの圧力の下、温度115℃で充分に溶解させた後、ラジカル反応開始剤tert-ブチルペルオキシオクトエートを1,160g添加し、上記釜内圧力を0.4MPaに制御しながらガス状の塩素を反応釜に吹き込むことで塩素化反応を行い、塩素化度20.0%の塩素化酸変性プロピレン-エチレン共重合体を含む反応液を得た。次にエポキシ化合物を安定剤として加え、反応溶媒を減圧留去するためのベント口を設置したベント付二軸押出機でクロロホルムを除去し、得られる組成物をストランド状に押出して水で冷却した。その後、水冷式ペレタイザーでペレット化し、酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体a(固形物)を得た。得られた共重合体aをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;HLC8320GPC、東ソー(株)製)による分析を行った結果、重量平均分子量(Mw)が130,000であり、ガラス転移温度は5℃、軟化点は80~95℃であった(表1)。
【0073】
[製造例2:酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体bの製造]
塩素吹き込み時間(吹き込み量)を製造例1より延長した以外は製造例1と同様にして塩素化度22.0重量%の塩素化酸変性プロピレン-エチレン共重合体(成分A)を含む反応液を得た。次にエポキシ化合物を安定剤として加え、反応溶媒を減圧留去するためのベント口を設置したベント付二軸押出機でクロロホルムを除去し、得られる組成物をストランド状に押出して水で冷却した。その後、水冷式ペレタイザーでペレット化し、酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体b(固形物)を得た。得られた共重合体bをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;HLC8320GPC、東ソー(株)製)による分析を行った結果、重量平均分子量(Mw)が130,000であり、ガラス転移温度は10℃、軟化点は70~85℃であった。
【0074】
[製造例3:酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体cの製造]
塩素吹き込み時間(吹き込み量)を製造例1より短縮した以外は製造例1と同様にして塩素化度15.5重量%の塩素化酸変性プロピレン-エチレン共重合体(成分A)を含む反応液を得た。次にエポキシ化合物を安定剤として加え、反応溶媒を減圧留去するためのベント口を設置したベント付二軸押出機でクロロホルムを除去し、得られる組成物をストランド状に押出して水で冷却した。その後、水冷式ペレタイザーでペレット化し、酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体c(固形物)を得た。得られた共重合体cをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;HLC8320GPC、東ソー(株)製)による分析を行った結果、重量平均分子量(Mw)が130,000であり、ガラス転移温度は0℃、軟化点は90~100℃であった(表1)。
【0075】
[製造例4:酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体dの製造]
(1)マレイン化
メルトマスフローレイトが0.24g/分(JIS K7210-1に準じて測定)であるポリオレフィン樹脂(プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン単位97.0モル%、エチレン単位3.0モル%、Tm=125℃、重量平均分子量315,000)100部、無水マレイン酸4.0部、及びジ-tert-ブチルペルオキシド3.0部を攪拌機にて予混合し、同方向二軸押出機にて200~210℃で加熱混練して酸変性プロピレン-エチレン共重合体を得た。得られた酸変性プロピレン-エチレン共重合体の無水マレイン酸のグラフト重量は、2.5重量%、Tmは122℃であった(表1)。
(2)塩素化
上述のマレイン化反応で得られた酸変性プロピレン-エチレン共重合体1,350kgをグラスライニングされた反応釜に投入し、9,000Lのクロロホルムを入れ、0.4MPaの圧力の下、温度115℃で充分に溶解させた後、ラジカル反応開始剤tert-ブチルペルオキシオクトエートを1,310g添加し、上記釜内圧力を0.4MPaに制御しながらガス状の塩素を反応釜に吹き込むことで塩素化反応を行い、塩素化度25.0%の塩素化酸変性プロピレン-エチレン共重合体を含む反応液を得た。次にエバポレータを減圧留去して、反応液を濃縮した後、エポキシ化合物を安定剤として加えた。その後、濃縮液にトルエンを添加しながら減圧留去を行い、回収溶媒が所定の比重に到達後、溶媒置換を停止した。得られた置換液にトルエン、シクロヘキサンおよび1‐ブタノール添加し、所定の溶剤組成(トルエン/シクロヘキサン/1-ブタノール=89・9/10/0.1)に調製し、酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体c(20.0%溶液)を得た。共重合体cは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;HLC8320GPC、東ソー(株)製)による分析を行った結果、重量平均分子量(Mw)が80,000であり、ガラス転移温度は15℃、軟化点は65~75℃であった(表1)。
【0076】
【表1】
【0077】
[実施例1]
撹拌器、冷却管、滴下ロートを取り付けた3Lスケールの4つ口フラスコ内に、製造例1で得られた成分A:酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体a 200g、成分B:ノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレンオレイルエーテル)42g、安定剤デナコールEX-146(パラ-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ナガセケムテックス(株)製)7g(成分A100重量部に対して3.5重量部)、トルエン150gを添加し、100℃で40分間混練した。次に、成分C:塩基性化合物2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール90%水溶液(AMP-90、ダウ・ケミカル(株)製)3.4gを添加し、30分間保持した後、90℃の成分D:温水を約2時間かけて添加した。その後、減圧処理を行い、トルエンを除去した後、室温まで攪拌したまま冷却し、酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体aの水分散体1を得た。
【0078】
[実施例2]
乳化工程にて使用する成分A~Cのほかに成分E:ブチルセロソルブ16gをトルエンと共に添加した以外は、実施例1と同様の操作を行い、酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体aの水分散体2を得た。
【0079】
[実施例3]
乳化工程にて使用する成分Bをノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)20g、成分Cを5.6g、トルエンを100g、成分Eを100gに変更した。また、成分Dを添加後、40℃まで冷却処理を行った。それ以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例3の酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体aの水分散体3を得た。
【0080】
[実施例4]
乳化工程にて使用する成分Bをノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレンオレイルアミン)42g、成分Cを5.6g、トルエンを120g、成分Eを30gに変更した。また、成分Bは、成分Cを添加し、30分保持した後に80℃で添加した。それ以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例4の酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体aの水分散体4を得た。
【0081】
[実施例5]
乳化工程にて使用する成分Bをノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレンオレイルアミン)30g、成分Cを5.6g、トルエンを120g、成分Eを70gに変更した。また、成分Bは、成分Cを添加し、30分保持した後に80℃で添加した。また、成分Dを添加後、40℃まで冷却処理を行った。それ以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例5の酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体aの水分散体5を得た。
【0082】
[実施例6]
乳化工程にて使用する成分Aを製造例2で得られた酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体bに変更し、さらに成分Cを5.6g、トルエンを120g、成分Eを70gに変更した。また、成分Dを添加後、40℃まで冷却処理を行った。それ以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例6の酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体bの水分散体6を得た。
【0083】
[比較例1]
乳化工程にて使用する成分Aを製造例3で得られた酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体cに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体cの水分散体7を得た。
【0084】
[比較例2]
乳化工程にて使用する成分Aを酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体d(20.0%溶液)600gに変更し、温度100℃下で、減圧処理を行い、トルエンなどの溶剤を除去した。その後、成分B:ノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレンオレイルエーテル)25.2g、安定剤デナコールEX-146を4.2g(成分A100重量部に対して3.5重量部)、トルエン72g、成分Eを24g添加し、100℃で40分間混練した。次に、成分Cを4.8g添加し、30分間保持した後、90℃の成分Dを約2時間かけて添加した。その後、減圧処理を行い、トルエンと成分Eを除去した後、室温まで攪拌したまま冷却し、酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体dの水分散体8を得た。
【0085】
実施例1~6および比較例1、2で得た水分散体1~8を用いて、下記の試験を行った。結果を表2に示す。
【0086】
なお、高圧洗車性を簡易的に評価するため、通常の碁盤目剥離試験よりも過酷な試験として、加温直後に斜めに切込みを入れた碁盤目剥離試験(以下、斜め碁盤目剥離試験と呼称)を行った。
【0087】
[斜め碁盤目剥離試験(高圧洗車性)の評価]
(試験板の作製)
超高剛性ポリプロピレン板の表面をイソプロピルアルコールで脱脂し、エアー式スプレーガンによって乾燥膜厚が約10±3μmとなるように実施例1~6および比較例1、2で得られた水分散体組成物をそれぞれ塗装し、80℃で3分間プレヒートを行った。次に、溶剤型ベースコート塗料を乾燥膜厚が約20μmとなるように塗装し、室温で約10分静置後、アクリルウレタン系溶剤型クリヤー塗料を乾燥膜厚が約25~30μmとなるように塗装し、室温で約10分静置した。その後、100℃で30分間焼き付け処理を行い、室温で72時間静置することで、試験板を作製した。
【0088】
試験板を60℃の温水に30分浸漬後、試験板を取り出した。その後すぐさま、2mmの間隔でカッターナイフを用いて塗膜に対して45度の角度で塗膜表面に達する25個の碁盤目状の切込みを入れ、その上にセロハン粘着テープを密着させて180度で10回剥離し、塗膜の剥離状態を以下の[◎]、[〇]、[△]、[×]の基準により評価した。
◎:どの格子の目にも剥がれがない
〇:カット部にわずかな剥がれがある。
△:カット部にわずかな剥がれがあり、角が欠けている。
×:格子の目にはがれが生じている。
【0089】
[耐温水性試験の評価]
(試験板の作製)
超高剛性ポリプロピレン板の表面をイソプロピルアルコールで脱脂し、エアー式スプレーガンによって乾燥膜厚が約10±3μmとなるように実施例1~6および比較例1、2で得られた水分散体組成物とウレタンエマルション(三洋化成社製、UWS-145)の配合比(重量%)1:1の混合物をそれぞれ塗装し、80℃で3分間プレヒートを行った。次に、溶剤型ベースコート塗料を乾燥膜厚が約20μmとなるように塗装し、室温で約10分静置後、アクリルウレタン系溶剤型クリヤー塗料を乾燥膜厚が約25~30μmとなるように塗装し、室温で約10分静置した。その後、100℃で30分間焼き付け処理を行い、室温で72時間静置することで、試験板を作製した。
【0090】
作製した試験板を60℃の温水に10日間浸漬後、23℃の水中に1時間浸漬し、その後塗膜の膨れ状態(ブリスター)を目視で観察した。その後、カッターナイフで塗膜上に2mm間隔で素地に達する100個の碁盤目状に切込みを入れ、その上にセロハン粘着テープを貼った後、180度の角度で10回剥離し、耐温水性試験の付着性を以下の[◎]、[〇]、[△]、[×]の基準により評価した。
◎:残マスが100~90個
〇:残マスが89~80個
△:残マスが79~60個
×:残マスは59個以下
【0091】
またブリスターの評価を以下の基準をもとに判定した。
径:(大)1~10(小)
頻度:無、(少)F、M、MD、D(多)
なお、径とは、ブリスターの大きさであり、目視で確認可能な数値は8までである。また、頻度とは、ブリスターの数であり、F(Few)、M(Medium)、MD(Medium Dense)、D(Dense)の略である。例えば、「4M」は、ブリスター径4、ブリスター頻度Mを表す。
【0092】
【表2】
【0093】
斜め碁盤目剥離試験の評価に関し、比較例1,2と比べ実施例1~6の結果は、同等かそれ以上の良好な付着性を示す傾向にあり、中でも実施例2、4、5は優れた付着性を示すことが分かる。また、耐温水性試験の評価に関し、実施例2以外はブリスターが発生しているものの、実施例1、3、6、に関しては比較例1、2よりもその程度が低いことが分かる。また、実施例1から6はすべて、比較例1、2よりも優れた付着性を示す結果となった。これらの結果を総合的に判断し、本発明の組成物は優れた付着性を示し、高圧洗車性と耐温水性を具備する塗膜を形成できる。
【要約】
【課題】本発明は、プラスチック基材上に塗布した場合にも、基材に対し良好な付着性を発揮でき、高圧洗車性、耐温水性等の塗膜物性を発揮できる塗膜を形成できる、水分散体組成物の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、成分A:塩素化度が17~23重量%であり、ガラス転移温度が0~10℃である酸変性塩素化ポリオレフィン、成分B:ノニオン界面活性剤、成分C:塩基性化合物、及び、成分D:水性媒体を含み、成分Aを100重量%とした際の成分Bの含有量が10重量%以上である、分散体組成物を提供する。
【選択図】なし