(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】接着剤除去剤および当該接着剤除去剤を用いた接着剤除去方法
(51)【国際特許分類】
C11D 3/20 20060101AFI20250218BHJP
C11D 1/02 20060101ALI20250218BHJP
C11D 1/66 20060101ALI20250218BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
C11D3/20
C11D1/02
C11D1/66
C09J5/00
(21)【出願番号】P 2024560130
(86)(22)【出願日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2023041578
(87)【国際公開番号】W WO2024111534
(87)【国際公開日】2024-05-30
【審査請求日】2024-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2022186753
(32)【優先日】2022-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】佐見津 麻希
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-140826(JP,A)
【文献】特開2001-181688(JP,A)
【文献】特開平7-173492(JP,A)
【文献】特開平7-150192(JP,A)
【文献】特開平5-320694(JP,A)
【文献】特開2016-11361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 3/20
C11D 1/02
C11D 1/66
C09J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高吸水性高分子を含む物品に付着した接着剤を除去する接着剤除去剤であって、
前記接着剤除去剤は、油および界面活性剤を含み、
前記油は、植物油、エステル油、脂肪族カルボン酸、および鉱物油からなる群から選択される1種以上を含み、
前記植物油のヨウ素価は、70~160であり、
前記エステル油は、1分子中にエステル基を3個以下有し、
前記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、および/または、HLBが5超でありかつ常温で液体であるノニオン系界面活性剤を含む、接着剤除去剤。
【請求項2】
高吸水性高分子または不織布に付着した接着剤を除去する接着剤除去剤であって、
前記接着剤除去剤は、油および界面活性剤を含み、
前記油は、植物油、エステル油、脂肪族カルボン酸、および鉱物油からなる群から選択される1種以上を含み、
前記植物油のヨウ素価は、70~160であり、
前記エステル油は、1分子中にエステル基を3個以下有し、
前記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、および/または、HLBが5超でありかつ常温で液体であるノニオン系界面活性剤を含む、接着剤除去剤。
【請求項3】
前記油の含有割合は、
前記油および前記界面活性剤の合計100重量%に対して、10重量%超70重量%未満である、請求項1
または2に記載の接着剤除去剤。
【請求項4】
前記ノニオン系界面活性剤のHLBは、15以下である、請求項1
または2に記載の接着剤除去剤。
【請求項5】
前記エステル油および前記鉱物油のSP値は、いずれも8.0以上9.5以下である、請求項1
または2に記載の接着剤除去剤。
【請求項6】
ホットメルト接着剤除去剤である、請求項1
または2に記載の接着剤除去剤。
【請求項7】
前記油は、引火点が150℃以上である、請求項1または2に記載の接着剤除去剤。
【請求項8】
前記接着剤除去剤は、水を含まない、請求項1または2に記載の接着剤除去剤。
【請求項9】
油および界面活性剤を含む接着剤除去剤に、材料が接着剤によって接着されてなる物品を浸漬し、接着剤が付着する前記材料から接着剤を除去する接着剤除去工程を含み、
前記材料は、高吸水性高分子を含み、
前記油は、植物油、エステル油、脂肪族カルボン酸、および鉱物油からなる群から選択される1種以上を含み、
前記植物油のヨウ素価は、70~160であり、
前記エステル油は、1分子中にエステル基を3個以下有し、
前記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、および/または、HLBが5超でありかつ常温で液体であるノニオン系界面活性剤を含む、接着剤除去方法。
【請求項10】
油および界面活性剤を含む接着剤除去剤を用いて、接着剤が付着した材料から接着剤を除去する接着剤除去工程を含み、
前記材料は、高吸水性高分子または不織布であり、
前記油は、植物油、エステル油、脂肪族カルボン酸、および鉱物油からなる群から選択される1種以上を含み、
前記植物油のヨウ素価は、70~160であり、
前記エステル油は、1分子中にエステル基を3個以下有し、
前記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、および/または、HLBが5超でありかつ常温で液体であるノニオン系界面活性剤を含む、接着剤除去方法。
【請求項11】
前記接着剤除去工程で接着剤が除去された前記材料を、水を用いて洗浄する洗浄工程をさらに含む、請求項
9または
10に記載の接着剤除去方法。
【請求項12】
前記接着剤が除去された前記材料を、前記高吸水性高分子と高吸水性高分子以外の材料とに分離する分離工程を含む、請求項
9または
10に記載の接着剤除去方法。
【請求項13】
前記分離工程で分離した高吸水性高分子を、有機溶媒を用いて洗浄する洗浄工程を含む、請求項
12に記載の接着剤除去方法。
【請求項14】
前記分離工程で分離した、高吸水性高分子以外の材料を、水を用いて洗浄する洗浄工程を含む、請求項
12に記載の接着剤除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤除去剤および当該接着剤除去剤を用いた接着剤除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接着剤は、家具、建築、電気・電子、自動車、梱包材、衣料品、および家庭用品等の分野で広く用いられている。そして、接着剤を用いて材料を接着させることにより、食品包材、段ボール等の梱包材、本、おむつ等の衛生用品、および自動車マット等の様々な物品が構成される。
【0003】
近年では、環境への負荷を低減させる観点から、使用済みの物品をリサイクルする技術が注目されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、パルプ繊維および高吸水性ポリマーを含む使用済み吸収性物品からパルプ繊維を回収する方法が開示されている。当該方法は、使用済み吸収性物品を、テルペン炭化水素、テルペンアルデヒドおよびテルペンケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種のテルペンを0.05質量%以上含み、かつ、高吸水性ポリマーを不活化可能な不活化剤を含む水溶液で処理し、高吸水性ポリマーを不活化する工程を含むことを特徴とする方法である。また、当該文献には、使用済み吸収性物品を、前記水溶液を入れた洗濯機に投入し、遠心力を利用することにより、当該物品を分解させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国公開特許公報「特開2018-24964号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような従来技術は、吸収性物品を構成成分(材料)に分解し、回収したパルプ繊維を再び資源として利用するものである。しかし、上述のような従来技術では、吸収性物品を分解して得られる構成成分に接着剤が残存しており、構成成分同士が再び接着する可能性があった。また、回収したパルプ繊維に接着剤が残存している場合には、回収したパルプ繊維を再び資源として利用する際に品質に問題が生じる場合もある。これらの観点から、上述した従来技術には改善の余地があった。
【0007】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、接着剤を材料から十分に除去することが可能な接着剤除去剤、および当該接着剤除去剤を用いた接着剤の除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る接着剤除去剤は、以下の構成を含むものである。
【0009】
油および界面活性剤を含み、
前記油は、植物油、エステル油、脂肪族カルボン酸、および鉱物油からなる群から選択される1種以上を含み、
前記植物油のヨウ素価は、70~160であり、
前記エステル油は、1分子中にエステル基を3個以下有し、
前記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、および/または、HLBが5超でありかつ常温で液体であるノニオン系界面活性剤を含む、接着剤除去剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、接着剤を材料から十分に除去することが可能な接着剤除去剤、および当該接着剤除去剤を用いた接着剤の除去方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。また、本明細書において、常温とは、18℃~26℃のことを意図する。
【0012】
〔1.接着剤除去剤〕
本発明の一実施形態に係る接着剤除去剤(以下、「本接着剤除去剤」と称することがある)は、油および界面活性剤を含み、前記油は、植物油、エステル油、脂肪族カルボン酸、および鉱物油からなる群から選択される1種以上を含み、前記植物油のヨウ素価は、70~160であり、前記エステル油は、1分子中にエステル基を3個以下有し、前記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、および/または、HLBが5超でありかつ常温で液体であるノニオン系界面活性剤を含む。このような接着剤除去剤は、接着剤を材料から十分に除去することができるとの利点を有する。前記構成によれば、接着剤により接着された物品を、接着剤が残らない状態で材料ごとに分離することができる。それゆえ、接着剤により接着された物品を好適にリサイクルすることができるとの利点を有する。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「つくる責任つかう責任」等の達成にも貢献するものである。
【0013】
また、前記構成によれば、接着剤を材料から十分に除去することができるため、遠心力等を用いることなく、構成要素である材料へと物品を分離することができるとの利点も有する。さらに、接着剤が材料に残存しないため、接着剤の除去後、材料同士が再度粘接着することがないとの利点も有する。すなわち、前記構成によれば、接着剤により接着された物品を効率よくリサイクルすることができるとの利点を有する。
【0014】
さらに付言すれば、接着剤により材料を接着させて出来る物品が紙おむつである場合、本接着剤除去剤を使用することにより、紙おむつが丸まった状態においても、接着剤除去剤が内部まで浸透し、接着剤を除去することができる。すなわち、使用後の丸めた紙おむつを開かずとも接着剤を除去することにより、物品を分解できるとの利点を有する。また、紙おむつからパルプおよびSAP(高吸水性高分子)を分離および回収することができるだけでなく、不織布、フィルム、および糸ゴム等をもそれぞれ分離および回収することができるとの利点も有する。
【0015】
本接着剤除去剤は常温で液体であることが好ましい。本接着剤除去剤の粘度は、特に限定されないが、15mPa・s~2600mPa・sであることが好ましく、30mPa・s~1700mPa・sであることがより好ましい。当該構成によれば、接着剤へ浸透しやすく、接着剤を材料から十分に除去することができるとの利点を有する。なお、接着剤除去剤の粘度は、含有される成分および成分の混合比率によって、値が変化する。また、本接着剤除去剤は油系であることが好ましい。本明細書において、「本接着剤除去剤は油系である」とは、「油および界面活性剤の合計配合量が、その他の成分の配合量よりも多い接着剤除去剤」を意図する。
【0016】
(1-1.油)
本接着剤除去剤は、油を含む。当該構成によれば、接着剤を溶解し、物品から除去させることができるとの利点を有する。
【0017】
また、油は常温で液体であることが好ましい。当該構成によれば、常温で界面活性剤と容易に混合できるとの利点を有する。
【0018】
また、本発明の一実施形態において、油は、植物油、エステル油、脂肪族カルボン酸、および鉱物油からなる群から選択される1種以上を含む。油は、植物油またはエステル油を含むことがより好ましく、植物油またはエステル油からなることがさらに好ましい。当該構成によれば、界面活性剤との親和性が高く、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。なお、油は、植物油、エステル油、脂肪族カルボン酸、および鉱油からなる群より選択される少なくとも2種以上が混合されていてもよい。
【0019】
本接着剤除去剤において、油の含有割合は、油および界面活性剤の合計100重量%に対して、10重量%超70重量%未満であることが好ましく、15重量%以上65重量%以下であることがより好ましく、18重量%量以上60重量%以下であることがより好ましく、20重量%以上55重量%以下であることがより好ましく、20重量%以上50重量%以下であることがさらに好ましく、20重量%以上45重量%以下であることが特に好ましい。当該構成によれば、界面活性剤との親和性が強く、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。
【0020】
(1-1-1.植物油)
本接着剤除去剤は、植物油を含むことが好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。
【0021】
本接着剤除去剤は、動物油を含まないことが好ましい。動物油は、固形のものが多く、常温で界面活性剤と混合することが困難である傾向にある。
【0022】
本接着剤除去剤が植物油を含む場合、当該植物油のヨウ素価は70~160であり、80~150であることがより好ましく、90~140であることがさらに好ましく、100~130であることが特に好ましい。当該構成によれば、油と界面活性剤との親和性が良好であることから、接着剤除去剤は、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。ヨウ素価が低い(例えば140以下)植物油は、安全性が高いため簡単な設備で取り扱うことができる。
【0023】
また、本接着剤除去剤は、複数種類の植物油を含んでいてもよい。ここで、前記「植物油のヨウ素価」とは、本接着剤除去剤が1種類の植物油を含む場合はその植物油のヨウ素価であり、本接着剤除去剤が複数種類の植物油を含む場合は、本接着剤除去剤に含まれる、複数種類の植物油からなる混合植物油のヨウ素価を意図する。すなわち、本接着剤除去剤が複数種類の植物油を含む場合、当該複数種類の植物油からなる混合植物油のヨウ素価は70~160である。
【0024】
本明細書において、ヨウ素価とは、油脂100gに付加することのできるヨウ素(I)のグラム数を意図する。すなわち、ヨウ素価が大きいほど、試料中の脂肪酸の不飽和度が高い(二重結合の数が多い)。本接着剤除去剤が、複数種類の植物油を含む場合、前記「植物油のヨウ素価」は、JIS K 0070-1992に準拠した測定方法により決定される。植物油は、半乾性油、不乾性油、および乾性油からなる群より選択される少なくとも2種以上を混合したものであってもよい。
【0025】
本明細書において、ヨウ素価が140以上の油を乾性油、ヨウ素価が100超140未満の油を半乾性油、ヨウ素価が100以下の油を不乾性油と称する。
【0026】
本発明の一実施形態において、植物油は、例えば、大豆油、こめ油、オリーブ油、アボカド油、コメヌカ油、オレンジ種子油、ニンジン種子油、カノラ油、アンズ核油、モモ核油、アーモンド油、クランベアビシニカ種子油、ゴマ油、コメ胚芽油、スイカ種子油、グレープフルーツ種子油、トマト種子油、クダモノトケイソウ種子油、コムギ胚芽油、コーン油、あまに油、菜種油、ヤシ油、パーム核油、およびヒマシ油からなる群から選択される1種以上であることが好ましく、大豆油、こめ油、オリーブ油、および菜種油からなる群から選択される1種以上であることがより好ましく、大豆油および/またはこめ油であることがさらに好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。
【0027】
本発明の一実施形態において、植物油の引火点は、特に限定されないが、安全性や取扱いの容易さの観点から、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。
【0028】
(1-1-2.エステル油)
本接着剤除去剤は、エステル油を含むことが好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態において、エステル油は、1分子中にエステル基を3個以下有し、2個以下有することが好ましく、2個有することがより好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。
【0030】
エステル油のSP値は、8.0~9.5であることが好ましく、8.3~9.4であることがより好ましく、8.5~9.3であることがさらに好ましく、8.7~9.2であることが特に好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。
【0031】
本明細書において、SP値(Solubility Parameter、溶解度パラメータ)とは、ハンセン法によって定義されたハンセン溶解度パラメータ(HSP値)を意図する。SP値δは、物質の分散項をδd、極性項をδp、水素結合項をδhとするとき、δ=(δd
2+δp
2+δh
2)1/2により定義される量δであり、物質固有の値である。
【0032】
本発明の一実施形態において、エステル油としては、特に限定されないが、例えば、DOS(セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル))、DIDA(アジピン酸ジイソデシル)、DINA(アジピン酸ジイソノニル)、DOA(アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル))、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸2-ヘキシルデシル、アジピン酸ジ-2-ヘプチルウンデシル、イソステアリン酸イソステアリル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、2-エチルヘキサン酸セチル、ジ-2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、トリ-2-エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、オクタン酸セチル、オレイン酸オレイル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、コハク酸2-エチルヘキシル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸ブチル、セバシン酸ジイソプロピル、乳酸セチル、乳酸テトラデシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、パルミチン酸2-ヘキシルデシル、パルミチン酸2-ヘプチルウンデシル、12-ヒドロキシステアリン酸コレステリル、オレイン酸フィトステリル、リンゴ酸ジイソステアリル、パラメトキシケイ皮酸エステル、テトラロジン酸ペンタエリスリット等が挙げられる。エステル油は、DOSであることがより好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。
【0033】
(1-1-3.脂肪族カルボン酸)
本接着剤除去剤は、脂肪族カルボン酸を含むことが好ましい。脂肪族カルボン酸としては、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸、無水酸、多価カルボン酸等が挙げられる。本発明の一実施形態において、脂肪族カルボン酸は、2つのカルボキシ基を有する脂肪族カルボン酸またはカルボン酸無水物であることがより好ましく、コハク酸またはその無水物であることがより好ましく、アルケニルコハク酸またはその無水物であることもより好ましい。また、脂肪族カルボン酸は、不飽和脂肪族カルボン酸であることがより好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。本発明の一実施形態において、脂肪族カルボン酸は、ドデセニルコハク酸、ヘキサデセニルコハク酸、オクタデセニルコハク酸およびそれらの無水物からなる群から選ばれる少なくとも1つであることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の一実施形態において、脂肪族カルボン酸の分子量は、特に限定されないが、例えば、重量平均分子量が200~1200であることが好ましく、250~1000であることがより好ましい。
【0035】
(1-1-4.鉱物油)
本接着剤除去剤は、鉱物油を含むことが好ましい。
【0036】
鉱物油のSP値は、8.0~9.5であることが好ましく、8.0~9.3であることがより好ましく、8.0~9.0であることがより好ましく、8.0~8.5であることがより好ましく、8.0~8.3であることが特に好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。
【0037】
本発明の一実施形態において、SP値が8.0~9.5である鉱物油としては、特に限定されないが、例えば、芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、軽質鉱物油、白色鉱物油等が挙げられる。より具体的には、例えば、スピンドル油、流動パラフィン等を好適に使用することができる。当該構成によれば、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。
【0038】
本発明の一実施形態において、エステル油および鉱油の常温粘度は、特に限定されないが、1mPa・s~200mPa・sであることが好ましく、5mPa・s~100mPa・sであることがより好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。
【0039】
本発明の一実施形態において、エステル油、脂肪族カルボン酸および鉱物油の引火点は、特に限定されないが、安全性や取扱いの容易さの観点から、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。
【0040】
(1-2.界面活性剤)
本接着剤除去剤は、界面活性剤を含む。当該構成によれば、分離後の材料から接着剤除去剤を容易に除去することができる。換言すれば、接着剤を溶解させる目的では、油のみでも可能である一方で、本接着剤除去剤が界面活性剤を含むことにより、接着剤除去剤を物品中の材料から十分に除去することが可能である。これにより、分離した材料の取扱いが容易になる。
【0041】
本発明の一実施形態において、界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、および/または、HLBが5超でありかつ常温で液体であるノニオン系界面活性剤を含む。本発明の一実施形態において、界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、または、HLBが5超でありかつ常温で液体であるノニオン系界面活性剤を含むことが好ましく、HLBが5超ありかつ常温で液体であるノニオン系界面活性剤からなることがさらに好ましい。
【0042】
本発明の一実施形態において、界面活性剤100重量%中、アニオン系界面活性剤およびHLBが5超であるノニオン系界面活性剤の合計含有量は、70重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、100重量%であることがさらに好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。
【0043】
また、本発明の一実施形態において、HLBが5超であるノニオン系界面活性剤はアニオン系界面活性剤よりも多く含まれていることが好ましい。アニオン系界面活性剤およびHLBが5超であるノニオン系界面活性剤の合計100重量%中、HLBが5超であるノニオン系界面活性剤の含有量は、60重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましく、100重量%であることが特に好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料からより十分に除去することができるとの利点を有する。
【0044】
本明細書において、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)とは、界面活性剤における親油性と親水性のバランスを表した数値を意図する。親水基を有さない物質のHLBをHLB=0とし、親油基を有さず親水基のみを有する物質のHLBをHLB=20として等分して得られる値とする。
【0045】
HLBが5超であるノニオン界面活性剤のHLBは、5超15以下であることが好ましく7以上13以下であることがより好ましく、9以上11以下であることがさらに好ましい。当該構成によれば、油に対する親和性が良好であり、接着剤を材料から十分に除去できるとの利点を有する。
【0046】
また、本発明の一実施形態において、ノニオン系界面活性剤は、常温で液体である。当該構成によれば、油に対する親和性が良好であり、加熱などのエネルギーを必要とせず油と界面活性剤を混合できる。
【0047】
ノニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル;ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル;ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油;ソルビタン脂肪酸エステルおよびそのアルキレンオキシド付加物;ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が好ましい。
【0048】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシプロピレンイソセチルエーテル、ポリオキシプロピレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル等が挙げられる。
【0049】
ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンオレイルエーテル等が挙げられる。
【0050】
ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0051】
ポリオキシエチレンヒマシ油は、ヒマシ油に酸化エチレンが付加重合した化合物である。酸化エチレンの平均付加モル数は特に限定されるものではないが、好ましくは2~100であり、より好ましくは10~50である。前記ポリオキシエチレンヒマシ油としては、例えば、NIKKOL CO-3、NIKKOL CO-10、NIKKOL CO-35(日光ケミカルズ);EMALEX C-20、EMALEX C-30、EMALEX C-40、EMALEX C-50(日本エマルジョン);およびKolliphor EL(BASF)を挙げることができる。
【0052】
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノイソステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、セスキステアリン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、ヤシ油脂肪酸ソルビタン等が挙げられる。また、ソルビタン脂肪酸エステルのアルキレンオキシド付加物としては、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノイソステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノヤシ油脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。
【0053】
ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルとしては、例えば、ポリオキシアルキレンモノ脂肪酸エステルおよびポリオキシアルキレンジ脂肪酸エステルのいずれも含む。ポリオキシアルキレンモノ脂肪酸エステルとしては、例えば、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノラウリン酸ポリエチレングリコール等のポリエチレングリコールモノ脂肪酸エステル;モノステアリン酸プロピレングリコール、モノラウリン酸プロピレングリコール、モノオレイン酸プロピレングリコール等のプロピレングリコールモノ脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0054】
HLBが5超であるノニオン界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、DKS NL30、DKS NL 50(第一工業製薬社製)、ソルビタン脂肪酸エステルとしては、Tween(登録商標)80、エマゾールO-120V(ともにポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)などが好適に使用できる。当該構成によれば、油に対する親和性が良好であり、接着剤を材料から十分に除去できるとの利点を有する。
【0055】
本発明の一実施形態において、アニオン系界面活性剤は、スルホン酸塩を含むことが好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料から十分に除去できるとの利点を有する。
【0056】
アニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、スルホン酸塩タイプ、リン酸塩タイプであることが好ましく、より好ましくは、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩などがあげられる。アニオン系界面活性剤は、アルキルスルホン酸塩であることがより好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料から十分に除去できるとの利点を有する。
【0057】
(1-3.その他の成分)
本接着剤除去剤は、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、水、石油樹脂、水素添加石油樹脂、植物由来樹脂、水素添加植物由来樹脂、抗菌剤、殺菌剤、脱臭剤、防カビ剤、防腐剤、香料、顔料、染料、分散剤、pH指示剤、離水剤および防錆剤が挙げられる。
【0058】
本接着剤除去剤が水を含む場合、除去工程後の洗浄工程(後述)において、材料にしみ込んだ本接着除去剤を洗い流しやすくなる。水の添加量は、接着剤除去剤の総量に対して10重量%以下が好ましい。構成材料として高吸水性高分子を含む物品の構成材料から接着剤を除去し、高吸水性高分子を分離して、おむつ等の衛生材料に用いられる高吸水性高分子として再利用する場合、接着剤除去剤は水を含まないことが好ましい。
【0059】
また、接着剤除去剤には接着剤の除去性能が許容される範囲で有機溶媒が含まれていてもよい。有機溶媒としては、例えば、トルエン、リモネン、クロロホルム、ヘキサン、酢酸エチル、ベンゼン、アルコール、酢酸およびアセトンが挙げられる。
【0060】
本接着剤除去剤が有機溶媒を含む場合、有機溶媒の含有量は、接着剤除去剤の総量に対して、0重量%~20重量%であることが好ましく、0重量%~15重量%であることがより好ましく、0重量%~10重量%であることがさらに好ましく、0重量%~5重量%であることが特に好ましい。当該構成によれば、接着剤を除去できるとの利点を有する。本接着剤除去剤は、油および界面活性剤の合計配合量が、その他の成分の配合量よりも多く、油系であることが好ましい。また、油との相溶性が低い成分を含まない非乳化型であることが好ましい。
【0061】
(1-4.接着剤)
本接着剤除去剤が除去できる接着剤としては、特に限定されないが、例えば、ホットメルト接着剤、溶剤系接着剤および水系接着剤が好ましく、硬化型接着剤を除いた接着剤であることが好ましい。本接着剤除去剤を使用した場合は、当該接着剤のうち、除去しづらいベースポリマーおよび粘着付与剤も除去することができるとの利点を有する。また、粘着付与剤も除去することができるため、材料への糊残りがないとの利点も有する。
【0062】
本接着剤除去剤は、ホットメルト接着剤除去剤であることがより好ましい。本接着剤除去剤は、ホットメルト接着剤に対してより好適に接着剤の除去効果を発揮する。
【0063】
ホットメルト接着剤としては、特に限定されないが、例えば、合成ゴム(エラストマー)系ホットメルト接着剤、ポリアミド系ホットメルト接着剤、ポリエステル系ホットメルト接着剤、アクリル系ホットメルト接着剤、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)系ホットメルト接着剤、およびオレフィン系ホットメルト接着剤が挙げられる。この中でも、エラストマーを使用した合成ゴム系ホットメルト接着剤およびエラストマーを使用したアクリル系ホットメルト接着剤がより好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料から十分に除去することができるとの利点を有する。
【0064】
溶剤系接着剤としては、例えば、(メタ)アクリレート系、シリコーン系、ポリ酢酸ビニル系、ポリエチレン酢酸ビニル系、ポリイソプレンゴム系、スチレン‐メタクリレート共重合体系、スチレン‐ブタジエンゴム系、スチレン‐イソプレンゴム系、メタクリレート‐ブタジエン‐スチレン共重合体系、およびこれらの組み合わせが挙げられる。この中でも、(メタ)アクリレート系、ポリイソプレンゴム系、スチレン‐メタクリレート共重合体系、スチレン‐ブタジエンゴム系、スチレン‐イソプレンゴム系、メタクリレート‐ブタジエン‐スチレン共重合体系、およびそれらの組み合わせであることが好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料から十分に除去することができるとの利点を有する。
【0065】
(1-5.用途)
本接着剤除去剤は、食品包材、段ボール、本、衛生用品(紙オムツ、生理用品、ペットシート、尿取りパッド、母乳パッドなど)、および自動車マット等の様々な物品の接着剤を除去するために好適に用いられる。
【0066】
〔2.接着剤除去方法〕
(2-1.接着剤除去工程)
本発明の一実施形態に係る接着剤除去方法(以下、「本除去方法」と称する場合がある)は、〔1.接着剤除去剤〕に記載の接着剤除去剤を用いて、接着剤が付着する材料から接着剤を除去する接着剤除去工程を含む。
【0067】
接着剤が付着した材料としては、特に限定されないが、例えば、プラスチック、プラスチックフィルム、パルプ、高吸水性高分子、紙、不織布、糸ゴム、段ボール、フェルトまたは発泡ウレタン等に使用できる。
【0068】
本接着剤除去剤を用いて、接着剤が付着する材料から接着剤を除去する方法としては、特に限定されないが、本接着剤除去剤中に当該材料を浸漬させる方法等が挙げられる。ここで、本接着剤除去剤中に浸漬させる材料は、接着剤が付着していればよく、単一の材料であっても、複数及び/又は複数種類の材料であってもよく、各材料は接着剤によって接着された状態であってもよいし、少なくとも一部が接着されていなくてもよい。本接着剤除去剤中に浸漬させる材料は、構成成分(材料)が接着剤によって接着されてなる物品であり得る。接着剤を材料から除去する工程中に加熱を行ってもよい。エネルギー使用量削減や設備の小型化の観点から、本接着剤除去剤中に当該材料を浸漬させる方法がより好ましい。接着剤の除去効率の観点では、浸漬して撹拌する方法が好ましい。
【0069】
(2-2.洗浄工程)
本除去方法は、接着剤が除去された材料を、水を用いて洗浄する工程、言い換えれば、水系洗浄液を用いて洗浄する工程をさらに含むことが好ましい。なお、ここで、水系洗浄液とは、水からなるかまたは水を含む洗浄液を意図する。これにより、材料にしみ込んだ接着剤除去剤を洗い流すことができ、材料の取扱いが容易になる。
【0070】
水系洗浄液の温度は限定されないが、洗浄時間を短くするとの観点から、40℃~80℃であることが好適である。水系洗浄液の温度は、45℃~80℃であることがより好ましく、50℃~80℃であることがより好ましく、55℃~80℃であることがさらに好ましく、60℃~80℃であることが特に好ましい。当該構成によれば、接着剤を材料から十分に除去できるとの利点を有する。特に、水系洗浄液の温度を40℃~80℃にすると、油成分を洗い流しやすくなる。
【0071】
水系洗浄液は特に限定されず、材料から接着剤除去剤を除去でき、材料が再利用可能な程度に洗浄できれば水以外の物質を含んでいてもよい。水系洗浄液は、水が主成分であることが好ましいため、水と水以外の物質との全重量(水系洗浄液の全重量)に対する、水の重量は、少なくとも60重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。水としては、例えば、水道水、軟水、硬水、炭酸水、アルカリイオン水、純水およびそれらの混合物が挙げられる。水以外の物質としては、例えば、アルコール、アセトン等が挙げられる。物品が高吸水性高分子を含み、当該高吸水性高分子を高吸水性高分子として再利用しない場合は、水系洗浄液に、水以外の物質として、さらに離水剤等を含めてもよい。水系洗浄液中の離水剤の濃度は、水系洗浄液に浸漬等することによりその構成材料を洗浄する物品に含まれる高吸水性高分子の量に応じて決定すればよいが、0.1重量%~10重量%であることが好ましい。離水剤としては、例えば、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸、酢酸等が挙げられる。離水剤を水系洗浄液に含めることにより、材料から接着剤を除去した後、水系洗浄液で洗浄して材料から除去剤を取り除く際に、吸水性高分子が吸水することを防ぐことができるので、取扱いが容易になる。高吸水性高分子を、吸水用途ではない用途(例えば、燃料等)で利用する場合には、高吸水性高分子に離水剤が含まれていても支障がなく、取り扱いも容易になるので、離水剤を水系洗浄液に含めることが好適である。
【0072】
(2-3.分離工程)
接着剤により接着された物品中の材料に高吸水性高分子が含まれる場合、本除去方法は、接着剤除去剤を用いて接着剤が付着する材料から接着剤を除去する接着剤除去工程の後、接着剤が除去された材料を高吸水性高分子と高吸水性高分子以外の材料とに分離する分離工程をさらに含むことが好ましい。接着剤除去工程の後、水を用いて洗浄する工程を行わずに、当該分離工程を設けることにより、水を用いた洗浄工程での吸水により高吸水性高分子の取り扱い性が悪くなったり、離水剤により高吸水性高分子が変質したりすることなく、分離後の高吸水性高分子を再生することができるので、高吸水性高分子を再利用しやすくなる。
【0073】
接着剤除去工程で接着剤が除去された材料を、高吸水性高分子と高吸水性高分子以外の材料とに分離する方法は、特に限定されないが、例えば、フィルター分離、遠心分離等が挙げられる。フィルター分離の場合、接着剤除去剤から取り出した物品に含まれる材料のサイズに合わせてフィルターの目開きを適宜決定すればよい。例えば目開き0.01mm~5mmのフィルターが使用される。高吸収性高分子は接着剤除去剤とともにフィルターを通過し、高吸水性高分子以外の材料はフィルターを通過しないため、高吸水性高分子と高吸水性高分子以外の材料とを分離することができる。
【0074】
本除去方法は、分離した高吸水性高分子を有機溶媒を用いて洗浄する工程、および/または、高吸水性高分子以外の材料を水系洗浄液を用いて洗浄する工程をさらに含むことがより好ましい。高吸水性高分子は、一般的に架橋ポリアクリル酸及びその塩が使用されており、水を吸収して膨潤する性質を有する。高吸水性高分子は吸水すると取扱いが難しくなるため、水系洗浄液で洗浄する場合は塩化カルシウム等の離水剤が用いられる。しかし、高吸水性高分子は離水剤を使用すると構造が変化して吸水できなくなる(変質する)ため、高吸水性高分子としての再利用が困難となる。この問題を防ぐため、高吸水性高分子は、有機溶媒を用いて洗浄することが好ましい。高吸水性高分子以外の材料(例えば不織布、パルプ、フィルム)は、環境負荷低減のため前述と同様に水系洗浄液を用いて洗浄することが好ましい。高吸水性高分子以外の材料を洗浄するための水系洗浄液は、接着剤が除去された材料を洗浄する工程で説明した水系洗浄液と同じものを使用することができる。なお、高吸水性高分子を再利用しない場合、または、高吸水性高分子が水を含んでも問題がない場合は、接着剤が除去された材料を高吸水性高分子と高吸水性高分子以外の材料とに分離することなく前述の水系洗浄液を用いて洗浄する工程を行ってもよい。本除去方法は、一実施形態において、接着剤により接着された物品の接着剤が付着する材料から接着剤を除去する接着剤除去工程と、接着剤が除去された前記材料を、前記高吸水性高分子と高吸水性高分子以外の材料とに分離する分離工程と、前記分離工程で分離した高吸水性高分子を、有機溶媒を用いて洗浄する洗浄工程とを含む。前記物品を有機溶媒に浸漬して接着剤を除去した場合には、本除去方法よりも有機溶媒の使用量が多くなる。また、かかる場合は、高吸水性高分子以外の材料である不織布、パルプ、フィルム等を再利用する際に有機溶媒を容易に除去することができず、手間を要する。
【0075】
分離工程で分離した高吸水性高分子を洗浄するための有機溶媒は、材料にしみ込んだ接着剤除去剤を洗い流すことができ、高吸水性高分子を再利用可能な程度に洗浄できれば、種類、純度等は特に限定されない。前記有機溶媒としては、例えば、極性溶媒、非極性溶媒およびそれらの混合物が挙げられる。極性溶媒としては、メタノール、エタノール、グリセリン等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;およびジメチルスルホキシド等が挙げられる。無極性溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、リモネン等の脂肪族化合物;およびトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。有機溶剤は、接着剤除去剤の溶解性の観点から、分子量が200以下であること好ましい。極性溶媒は、メタノール、エタノールであることがより好ましい。非極性溶媒は、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンであることがより好ましい。
【0076】
高吸水性高分子を、有機溶媒を用いて洗浄する方法としては、一種類の有機溶媒を用いても、複数の有機溶媒を用いてもよく、洗浄回数にも制限はない。例えば、単体の有機溶媒を用いてもよいし、複数の有機溶媒の混合溶媒を用いてもよいし、極性溶媒で洗浄した後に非極性溶媒で洗浄、または非極性溶媒で洗浄した後に極性溶媒で洗浄してもよい。極性溶媒と非極性溶媒との混合溶媒を使用する場合、極性溶媒と非極性溶媒との割合は、体積基準で、1:9~9:1でありうる。高吸水性高分子を、有機溶媒を用いて洗浄する方法としては、極性溶媒と非極性溶媒とを混合もしくは段階的に用いて洗浄することが好ましい。有機溶剤を用いて洗浄する工程は通常常温で行われるが、適宜加温してもよい。
【0077】
接着剤除去工程で接着剤が除去された材料、ならびに、分離工程で分離した高吸水性高分子または高吸水性高分子以外の材料を、洗浄する方法としては、特に限定されないが、水系洗浄液中または有機溶媒中で、洗浄する対象を、洗濯機、撹拌翼または撹拌機等を用いて撹拌する方法が挙げられる。また、洗浄回数も特に限定されるものではなく、1回であってもよいし、複数回であってもよい。
【0078】
<まとめ>
本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
【0079】
〔1〕油および界面活性剤を含み、
前記油は、植物油、エステル油、脂肪族カルボン酸、および鉱物油からなる群から選択される1種以上を含み、
前記植物油のヨウ素価は、70~160であり、
前記エステル油は、1分子中にエステル基を3個以下有し、
前記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、および/または、HLBが5超でありかつ常温で液体であるノニオン系界面活性剤を含む、接着剤除去剤。
【0080】
〔2〕前記油の含有割合は、
前記油および前記界面活性剤の合計100重量%に対して、10重量%超70重量%未満である、〔1〕に記載の接着剤除去剤。
【0081】
〔3〕前記ノニオン系界面活性剤のHLBは、15以下である、〔1〕または〔2〕のいずれか1つに記載の接着剤除去剤。
【0082】
〔4〕前記エステル油および前記鉱物油のSP値は、いずれも8.0以上9.5以下である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の接着剤除去剤。
【0083】
〔5〕ホットメルト接着剤除去剤である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の接着剤除去剤。
【0084】
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の接着剤除去剤を用いて、接着剤が付着する材料から接着剤を除去する接着剤除去工程を含む、接着剤除去方法。
【0085】
〔7〕前記接着剤除去で接着剤が除去された前記材料を、水を用いて洗浄する洗浄工程をさらに含む、〔6〕に記載の接着剤除去方法。
【0086】
〔8〕前記材料は高吸水性高分子を含み、前記接着剤が除去された前記材料を、前記高吸水性高分子と高吸水性高分子以外の材料とに分離する分離工程を含む、〔6〕に記載の接着剤除去方法。
【0087】
〔9〕前記分離工程で分離した高吸水性高分子を、有機溶媒を用いて洗浄する洗浄工程を含む、〔8〕に記載の接着剤除去方法。
【0088】
〔10〕前記分離工程で分離した、高吸水性高分子以外の材料を、水を用いて洗浄する洗浄工程を含む、〔8〕または〔9〕に記載の接着剤除去方法。
【実施例】
【0089】
以下、実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
〔材料〕
下記の実施例および比較例では、以下の材料を使用した。
【0091】
≪油≫
(植物油)
・大豆油(ヨウ素価131):カネダ社製
・こめ油(ヨウ素価104):ボーソー油脂社製
・菜種油(ヨウ素価110):米澤製油社製
・オリーブ油(ヨウ素価85):J-オイルミルズ社製
・あまに油(ヨウ素価187):日本製粉社製
(エステル油)
・DOS(セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル):1分子中のエステル基の数2個、SP値9.1):新日本理化社製
・ATBC(アセチルクエン酸トリブチル:1分子中のエステル基の数4個、SP値9.8):田岡化学社製
(脂肪族カルボン酸)
・アルケニルコハク酸無水物(マレイン酸変性αオレフィン)(SP値10.1):星光PMC社製、AS-1532
(鉱物油)
・モレスコホワイト「P-200」(流動パラフィン:SP値8.1):MORESCO社製
・コスモニュートラル150(芳香族系鉱油:SP値8.7):コスモ石油ルブリカンツ社製
≪その他≫
・d-リモネン
≪界面活性剤≫
(ノニオン系界面活性剤)
・DKS NL 15(HLB=5、液体):第一工業製薬社製
・DKS NL 30(HLB=8、液体):第一工業製薬社製
・DKS NL 50(HLB=10、液体):第一工業製薬社製 ・DKS NL Dash 410(HLB=12、液体):第一工業製薬社製 ・DKS NL 110(HLB=14、半固体):第一工業製薬社製
・エマゾールO-120V(HLB=15、液体):花王社製
・DKS NL 180(HLB=16、半固体):第一工業製薬社製
・DKS NL 450F(HLB=18、固体):第一工業製薬社製
(アニオン系界面活性剤)
・スルホール 430A(界面活性剤(ナトリウムスルホネート)65%、スピン油30%、水5%、液体):MORESCO社製
≪溶媒≫
・水
≪離水剤≫
・クエン酸
〔評価用サンプルの調製方法〕
ZIP塗工(サンツール社製)により、150℃の塗工温度で、ホットメルト接着剤(ゴム系、MORESCO社製)を第一の基材(スパンボンド不織布)に塗布した。塗布量は5g/m2、塗布幅は15mmとした。次いで、前記第一の基材のホットメルト接着剤を塗布した面に対して、第二の基材(ポリエチレンフィルム)を積層し、23℃で圧着させることにより、積層体を調製した。第一の基材に対してホットメルト接着剤を塗布した時点から、第二の基材を圧着し、積層体を調製するまでの時間は0.5秒であった。得られた積層体のサンプルを、15mm幅の接着剤塗布部分が、中央に、一方の辺と平行に配置されるように、50×50mmに切り出し、評価用サンプルとした。
【0092】
〔接着剤除去剤の調製(実施例1~19、比較例1~8)〕
油および界面活性剤を、表1~3に記載した割合(重量部)となるようガラス容器に所定量測り取った。常温環境下で1分間撹拌して相分離がなくなるまで撹拌し、接着剤除去剤を得た。また、界面活性剤としてスルホール 430Aを使用した実施例5および11については、使用したスルホール430A中に、界面活性剤(ナトリウムスルホネート)、油および水が含まれている。そのため、当該実施例5および11では、接着剤除去剤100重量%に対する界面活性剤(ナトリウムスルホネート)の含有量が50重量%となるように配合した。
【0093】
〔接着剤除去剤を用いた接着剤の除去(実施例1~19、比較例1~8)〕
接着剤除去剤10gに前記評価用サンプルを入れ、1時間浸漬させた。評価用サンプルは、接着剤除去剤中で分離していた。浸漬した評価用サンプルを除去剤から取出し、別のガラス瓶に入れた。当該ガラス瓶に対して60℃の温水を100g入れて、10秒間よく攪拌した。前記作業をさらに2回繰り返し、洗浄を行った。洗浄された評価用サンプルを取り出して乾燥させ、状態を確認した。接着剤および接着剤除去剤を材料から十分に除去できたかについては、下記の評価基準に従って評価した。
【0094】
(接着剤除去剤の混合状態)
◎(優良):混合状態で液体が透明
〇(良好):混合状態で液体が均一
△(不良):3時間静置することにより混合物が分離
×(不可):混合物が分離、または固体
(接着剤除去剤中に浸漬後の、評価用サンプルの剥離状態)
〇(良好):評価用サンプルが剥離
×(不可):評価用サンプルが剥離しない
(洗浄後の評価用サンプルの表面状態)
◎(優良):ぬめりなし
〇(良好):微量のぬめりあり
×(不可):ぬめりあり、またはホットメルト接着剤の残存あり
本明細書において、「ぬめり」とは、接着剤除去剤に含まれる油によるぬめりを意図する。
【0095】
〔粘度〕
粘度は、JIS K 6862に準拠して測定した。油および接着剤除去剤の23℃での粘度を、ブルックフィールド社製B型粘度計RVDV2T(スピンドルNo.21のロータ)を用いて測定した。
【表1】
【表2】
【0096】
【表3】
(考察)
表1に、大豆油(ヨウ素価131)に対して各種界面活性剤を混合した接着剤除去剤を評価した結果を示す。アニオン系界面活性剤、またはHLBが5超でありかつ常温で液体であるノニオン系界面活性剤を用いた実施例1~5は、サンプルから十分に接着剤を除去でき、かつ洗浄により基材から接着剤除去剤を除去できた。一方、HLBが5以下のノニオン系界面活性剤を用いた比較例1では、洗浄後の基材に接着剤除去剤の油と接着剤が一部残存していた。また、半固体のノニオン系界面活性剤を用いた比較例2も洗浄後の基材に接着剤が残存していた。半固体または固体のノニオン系界面活性剤を混合した比較例3および4は、界面活性剤が油に溶解せず分離したため不適だった。
【0097】
表2に、大豆油以外の各種油に対して各種界面活性剤を混合した接着剤除去剤を評価した結果を示す。ヨウ素価が70~160である植物油を用いた実施例6~9は、サンプルから十分に接着剤を除去でき、かつ洗浄後の基材から接着剤除去剤が除去できた。また、1分子中にエステル基を2個以下有するエステル油、脂肪族カルボン酸、および鉱物油を用いた実施例10~15も同様の結果であった。しかし、1分子中にエステル基を3個以上有するATBCを用いた比較例5は、接着剤を十分除去できず、洗浄後の基材に接着剤が残存していた。ヨウ素価が160超のあまに油を単体で用いた比較例6は、自然発火性を有し、取り扱いが難しいことから本発明には不適である。
【0098】
表3の実施例16~19と比較例7の結果から、接着剤除去剤中に界面活性剤を含むことによりサンプルから十分に接着剤を除去でき、洗浄後の基材から接着剤除去剤を洗い流すことができた。これにより、回収した物品を再び資源として容易に利用することができる。一方、比較例8は、従来技術のテルペン(d-リモネン)水溶液を用いて本発明の除去方法を試みた結果である。従来技術は洗濯機の遠心力を利用して接着剤が付着した物品を分解している。従来技術のテルペン水溶液を用いて本発明の除去方法を試みた場合、リモネンが水と分離するため、サンプルをテルペン水溶液に浸漬しただけではサンプルが剥離しなかった。また、サンプルを洗浄した後も接着剤が基材に残存していたことから、従来技術のテルペン水溶液では基材から接着剤を除去できないことがわかる。
【0099】
〔接着剤除去剤を用いた接着剤の除去(紙おむつ)〕
(接着剤の除去)
50重量部の大豆油および50重量部のエマゾールO-120Vを混合して調製した接着剤除去剤に対し、フックテープで固定し丸めた市販の子供用紙おむつを入れ、1時間浸漬させた。紙おむつは接着剤除去剤中で固定が外れ、表層部は分離されていた。
【0100】
(水を用いた洗浄)
接着剤除去剤から取り出した紙おむつを軽く絞った後、紙おむつを洗濯ネットに入れ洗濯機に投入した。洗濯槽内に塩化カルシウム(離水剤)を20g入れて60℃の温水を10L投入し、15分間洗濯機内で撹拌した。前記撹拌後、水を入れてすすぎを2回行い、5分間脱水した。洗濯ネットから紙おむつを取り出し評価した。紙おむつは各基材(材料)に分離され、各基材(材料)には接着剤および除去剤は残存しておらず、ぬめりもなかった。当該結果は、特許文献1に記載の方法で実施した結果(比較例8)よりも良好な結果であった。なお、紙おむつを接着剤除去剤に浸漬中に、攪拌を行わなくても、接着剤の除去は可能であったが、浸漬中に撹拌すると、短時間で除去が可能であった。離水剤により高吸水性高分子が変質するため高吸水性高分子を吸水物質として再利用することは難しいが、基材には接着剤等が残存していないため基材を再利用するには適する処理方法である。
【0101】
(高吸水性高分子とそれ以外の材料への分離および洗浄)
(接着剤の除去)に記載の方法で接着剤除去剤に子供用紙おむつを1時間浸漬させた後、紙おむつが浸漬された状態の接着剤除去剤を、フィルターに通すことにより、高吸水性高分子(ろ液側)と高吸水性高分子以外の材料(ろ滓側)とに分離した。分離した高吸水性高分子以外の材料を前述の要領で水を用いて洗浄したところ、各材料には接着剤及び接着剤除去剤は残存しておらず、ぬめりもなかった。
【0102】
分離した高吸水性高分子を、常温のメタノールに1分間浸漬して攪拌した。メタノールから高吸水性高分子を取出し、常温のn-ヘキサンに1分間浸漬して攪拌した。n-ヘキサンから取出した高吸水性高分子は、ぬめりおよびべたつきがなく、接着剤や接着剤除去剤の残存は確認されなかった。
【0103】
有機溶剤で洗浄した後の高吸水性高分子に水を注いだところ、高吸水性高分子は水を吸収して膨潤したことから、本洗浄方法により接着剤を除去した高吸水性高分子は変質することなく吸水物質として再利用可能であることが分かった。
【0104】
また、実施例1~19で使用した接着剤除去剤に紙おむつを浸漬し、接着剤を除去した後、高吸水性高分子と高吸水性高分子以外に分離した。分離した高吸水性高分子を有機溶媒で洗浄しても同様に良好な効果が得られることを確認した。
【0105】
同じく、分離した高吸水性高分子以外の材料を、洗濯機を用いて60℃の温水(10L)中で、15分間洗濯機内で撹拌した。撹拌後、水を入れてすすぎを2回行い、5分間脱水したところ、各材料には接着剤および接着剤除去剤は残存しておらず、ぬめりおよびべたつきはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、接着剤の除去に利用することができる。