(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】食感提示装置、食感提示方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20250219BHJP
A61C 19/00 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
G06F3/01 510
G06F3/01 560
A61C19/00 Z
(21)【出願番号】P 2022516786
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017645
(87)【国際公開番号】W WO2021214967
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-09-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】新島 有信
(72)【発明者】
【氏名】武田 十季
(72)【発明者】
【氏名】向内 隆文
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
【審査官】征矢 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/163908(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/175867(WO,A1)
【文献】特許第6631746(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/01
A61C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内に異なる種類の触覚刺激を提示する複数の提示部と、
食感ごとに、食感を提示するための触覚刺激ごとのパラメータと最も強調すべき触覚刺激とを保持するデータベースと、
前記データベースを参照して提示する食感について最も強調すべき触覚刺激を1つ選択する選択部と、
選択された前記触覚刺激に対応する前記提示部を制御する制御部を備える
食感提示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の食感提示装置であって、
前記触覚刺激は、力、振動、および温度である
食感提示装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の食感提示装置であって、
前記選択部は、提示する前記食感のオノマトペに基づいて前記触覚刺激を選択する
食感提示装置。
【請求項4】
口腔内に異なる種類の触覚刺激を提示する複数の提示部を用いて食感を提示する食感提示方法であって、
コンピュータが、
食感ごとに、食感を提示するための触覚刺激ごとのパラメータと最も強調すべき触覚刺激とを保持するデータベースを参照して提示する食感について最も強調すべき触覚刺激を1つ選択し、
選択された前記触覚刺激に対応する前記提示部を制御する
食感提示方法。
【請求項5】
請求項1ないし
3のいずれかに記載の食感提示装置の各部としてコンピュータを動作させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食感提示装置、食感提示方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
バーチャルリアリティ技術が普及し、臨場感のある仮想現実空間を体験することができるようになった。視覚と聴覚に加えて、バーチャル食感を提示する技術が研究されている。非特許文献1には、バーチャルな食体験を提供するための要素技術として、触覚提示技術を応用したバーチャル食感提示技術が提案されている。
【0003】
また、非特許文献2には、力・振動・温度の三要素を組み合わせて様々な触感を再現する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】上村尚弘、et al.,“食感呈示装置の開発”、日本バーチャルリアリティ学会論文誌、2003年、第8巻、第4号、pp. 399-406
【文献】田島優輝、et al.,“力・振動・温度を触原色とする触感提示デバイスにおける触感再現手法”、 日本バーチャルリアリティ学会論文誌、2019年、第24巻、第1号、pp. 125-135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触覚の構成要素である力・振動・温度の三要素を提示することで、バーチャル食感のリアリティを向上できると考えられる。力・振動・温度の三要素を提示するためには、それぞれ別々の触覚アクチュエータを使う必要がある。例えば、力の提示にはDCモータを使い、振動の提示には振動モータを使い、温度の提示にはペルチェ素子を使う。
【0006】
複数の触覚アクチュエータを使って食感を提示する場合、触覚アクチュエータ間の同期がずれるとリアリティの質の低下につながってしまう。各種モータやペルチェ素子は駆動時の遅延時間が異なるため、力・振動・温度がずれて提示されてしまうおそれがある。その結果、バーチャル食感のリアリティの質の低下につながるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、よりリアリティのある食感を提示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の食感提示装置は、口腔内に異なる種類の触覚刺激を提示する複数の提示部と、食感ごとに、食感を提示するための触覚刺激ごとのパラメータと最も強調すべき触覚刺激とを保持するデータベースと、前記データベースを参照して提示する食感について最も強調すべき触覚刺激を1つ選択する選択部と、選択された前記触覚刺激に対応する前記提示部を制御する制御部を備える。
【0009】
本発明の一態様の食感提示方法は、口腔内に異なる種類の触覚刺激を提示する複数の提示部を用いて食感を提示する食感提示方法であって、コンピュータが、食感ごとに、食感を提示するための触覚刺激ごとのパラメータと最も強調すべき触覚刺激とを保持するデータベースを参照して提示する食感について最も強調すべき触覚刺激を1つ選択し、選択された前記触覚刺激に対応する前記提示部を制御する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、よりリアリティのある食感を提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態の食感提示装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の食感提示装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、食感提示装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0013】
図1に示す食感提示装置1は、選択装置10と提示装置20で構成される。選択装置10は、提示する食感に基づいて動作させる触覚刺激を選択する。提示装置20は、口腔内に挿入または装着する装置であり、選択装置10の選択した触覚刺激をユーザに提示する。
図1では、選択装置10と提示装置20とを別々の装置で構成したが、これに限るものではない。選択装置10と提示装置20を1台の装置で構成してもよい。選択装置10と提示装置20の各部を別々の装置で構成してもよい。
【0014】
選択装置10は、選択部11、食感データベース12、力刺激制御部13、振動刺激制御部14、および温度刺激制御部15を備える。提示装置20は、力刺激提示部23、振動刺激提示部24、および温度刺激提示部25を備える。
【0015】
食感データベース12は、各食感について、提示装置20を制御するためのパラメータを格納する。食感として、ビーフジャーキーやせんべいなどの食べ物の名称が設定される。パラメータは、力・振動・温度の触覚刺激ごとに設定される。触覚刺激ごとに複数のパラメータが設定されてもよい。例えば、力の触覚刺激については、かたさのパラメータを設定したうえで、かたい食感の場合は外力に対して与える応力のパラメータを設定し、柔らかい食感の場合はばね係数を設定する。振動の触覚刺激については、振幅、周波数、および振動時間などのパラメータを設定する。温度の触覚刺激については、温度のパラメータを設定する。冷たい、熱い、または温かいなどのように、温度をいくつかの段階で表現してもよい。なお、パラメータは、上記に限定するものではない。パラメータとして、提示装置20を制御するための電流値や駆動時間などの数値を設定してもよい。
【0016】
パラメータは、事前に探索し、食感データベース12に登録しておく。例えば、提示装置20で、力の触覚刺激、振動の触覚刺激、および温度の触覚刺激の各パラメータを変えながら食感を提示し、所望の食感に近いパラメータを探索する。探索できたパラメータを食感データベース12に登録する。
【0017】
食感データベース12は、各食感のパラメータの代わりに、もちもちやサクサクなどの食感を表すオノマトペを格納してもよい。例えば、パラメータが探索できていない食品の食感についてはオノマトペを登録しておく。食感データベース12は、オノマトペとそのオノマトペに対応する特徴的な触覚刺激とをマッピングしておく。例えば、もちもちの場合は、力の触覚刺激であって、柔らかい食感をマッピングしておく。もちもちで連想されるお餅や大福のパラメータを利用してもよい。サクサクの場合は、振動の触覚刺激をマッピングしておく。
【0018】
食感データベース12は、各食感について、最も強調すべき触覚刺激を指定してもよい。例えば、ビーフジャーキーの食感には、最も強調すべき触覚刺激として力刺激を指定し、せんべいの食感には、振動刺激を指定し、アイスの食感には、温度刺激を指定する。
【0019】
選択部11は、食感データベース12を参照し、提示する食感の最も強調すべき触覚刺激(力、振動、または温度)を選択し、選択した触覚刺激に対応する制御部に指示を出す。
【0020】
選択部11は、食感データベース12において、最も強調すべき触覚刺激が指定されているときは、その触覚刺激を選択する。選択部11は、全食感から算出したパラメータの平均値から外れているパラメータを持つ触覚刺激を選択してもよい。オノマトペを使う場合は、オノマトペにマッピングされた触覚刺激を選択する。
【0021】
選択部11は、選択した触覚刺激のパラメータを食感データベース12から取得し、取得したパラメータを対応する制御部へ送信する。
【0022】
力刺激制御部13は、力刺激提示部23を制御する。力刺激提示部23は、例えばDCモータを用い、ユーザの噛む力に応じた応力を与える触覚アクチュエータである。力刺激提示部23により、食品を噛んだときの硬さを表現できる。
【0023】
振動刺激制御部14は、振動刺激提示部24を制御する。振動刺激提示部24は、例えば振動モータを用い、ユーザが噛んだ時に振動を与える触覚アクチュエータである。振動刺激提示部24により、噛んで崩れた食品が繰り返して噛み崩される食感を表現できる。
【0024】
力刺激提示部23と振動刺激提示部24は、例えば、ユーザの口腔内に挿入する部材であり、圧力センサを備えてユーザが噛んだことを検知する。力刺激制御部13と振動刺激制御部14は、ユーザが提示装置20を噛んだときに、力刺激提示部23と振動刺激提示部24を動作させる。
【0025】
温度刺激制御部15は、温度刺激提示部25を制御する。温度刺激提示部25は、例えばペルチェ素子を用い、冷感刺激または温感刺激を提示する触覚アクチュエータである。ペルチェ素子は、直流電流を流すと一方の面が加熱し、他方の面が冷却する素子である。直流電流の向きを変えると加熱面と冷却面が入れ替わる。温度刺激提示部25により、アイスやかき氷などの温度に特徴がある食感を表現できる。
【0026】
温度刺激提示部25は、力刺激提示部23と振動刺激提示部24の口腔内に接触する部分にペルチェ素子を配置してもよいし、力刺激提示部23や振動刺激提示部24とは別の部材として口腔内に装着してもよい。例えば、温度刺激提示部25として、歯列矯正器具のように歯にペルチェ素子を固定できる器具を用いてもよい。
【0027】
次に、
図2のフローチャートを参照し、食感提示装置1の動作について説明する。
【0028】
ステップS11にて、食感提示装置1は、提示する食感を選択する。食感提示装置1は、提示する食感をユーザから受け付けてもよい。
【0029】
ステップS12にて、食感提示装置1は、提示する食感について、力、振動、および温度の中から最も特徴的なパラメータを持つ触覚刺激を選択する。オノマトペを用いる場合、食感提示装置1は、オノマトペにマッピングされた触覚刺激を選択する。
【0030】
ユーザは、提示装置20を口腔内に挿入し、提示装置20を噛む動作をする。
【0031】
ステップS13にて、食感提示装置1は、ステップS12で選択した触覚刺激に対応する提示部を制御し、触覚刺激をユーザに提示する。力の触覚刺激または振動の触覚刺激を提示するときは、食感提示装置1は、ユーザが提示装置20を噛んだときに、力刺激提示部23または振動刺激提示部24を動作させる。温度の触覚刺激を提示するときは、食感提示装置1は、ユーザからのアクションを待たずに温度刺激提示部25を動作させる。食感提示装置1は、ユーザが提示装置20を噛んだときに温度刺激提示部25を動作させてもよい。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の食感提示装置1は、口腔内に異なる種類の触覚刺激を提示する力刺激提示部23、振動刺激提示部24、および温度刺激提示部25と、食感に応じて提示する触覚刺激を選択する選択部11と、選択された触覚刺激を提示する力刺激提示部23、振動刺激提示部24、および温度刺激提示部25を制御する力刺激制御部13、振動刺激制御部14、および温度刺激制御部15を備える。これにより、触覚刺激を提示する触覚アクチュエータを同期させることなく、最も強調すべき触覚刺激を提示するので、リアリティを損なわずに食感を提示できる。
【0033】
上記説明した食感提示装置1には、例えば、
図3に示すような、中央演算処理装置(CPU)901と、メモリ902と、ストレージ903と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906とを備える汎用的なコンピュータシステムを用いることができる。このコンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされた所定のプログラムを実行することにより、食感提示装置1が実現される。このプログラムは磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録することも、ネットワークを介して配信することもできる。
【符号の説明】
【0034】
1…食感提示装置
10…選択装置
11…選択部
12…食感データベース
13…力刺激制御部
14…振動刺激制御部
15…温度刺激制御部
20…提示装置
23…力刺激提示部
24…振動刺激提示部
25…温度刺激提示部