(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】スペクトル解析プログラム、信号処理装置、レーダ装置、通信端末、固定通信装置、及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
G01R 23/16 20060101AFI20250219BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
G01R23/16 D
G01R23/16 A
G01R23/16 B
G01R23/16 C
G01S13/34
(21)【出願番号】P 2023541390
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2022028690
(87)【国際公開番号】W WO2023017726
(87)【国際公開日】2023-02-16
【審査請求日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2021131071
(32)【優先日】2021-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】荒川 暢哉
(72)【発明者】
【氏名】柏木 克久
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 諒
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-051675(JP,A)
【文献】特表平07-500683(JP,A)
【文献】特開2001-349941(JP,A)
【文献】特開平09-145461(JP,A)
【文献】特開2009-014405(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0039451(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 23/00-23/20、
H04B 1/60、
3/46/-3/493、
17/00-17/40、
G01S 7/00-7/42、
13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
受信した無線信号から、Annihilating Filter法により、第1の周波数スペクトルデータを生成することと、
前記無線信号から、前記Annihilating Filter法とは異なる周波数スペクトル解析法により、第2の周波数スペクトルデータを生成することと、
前記第1の周波数スペクトルデータの周波数の値と、前記第2の周波数スペクトルデータの周波数の値とのうち、最も近い周波数の値同士を対応付けることと、
前記第1の周波数スペクトルデータにおける第1の周波数の第1の電力値と、前記第1の周波数に対応する前記第2の周波数スペクトルデータにおける第2の周波数の第2の電力値との比較に基づいて、解析結果としての周波数スペクトルデータを生成することであって、前記第1の電力値が前記第2の電力値以下である場合、前記第1の電力値を、解析結果としての周波数スペクトルデータの前記第1の周波数の電力値として採用し、前記第2の電力値が前記第1の電力値未満である場合、前記第2の電力値を、解析結果としての周波数スペクトルデータの前記第1の周波数の電力値として採用する、ことと、
を実行させるスペクトル解析プログラム。
【請求項2】
請求項1に記載のスペクトル解析プログラムであって、
前記第2の周波数スペクトルデータの周波数の値は、離散的な値である、スペクトル解析プログラム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスペクトル解析プログラムであって、
前記Annihilating Filter法とは異なる周波数スペクトル解析法は、離散フーリエ変換である、スペクトル解析プログラム。
【請求項4】
信号処理装置であって、
受信した無線信号から、Annihilating Filter法により、第1の周波数スペクトルデータを生成する手段と、
前記無線信号から、前記Annihilating Filter法とは異なる周波数スペクトル解析法により、第2の周波数スペクトルデータを生成する手段と、
前記第1の周波数スペクトルデータの周波数の値と、前記第2の周波数スペクトルデータの周波数の値とのうち、最も近い周波数の値同士を対応付ける手段と、
前記第1の周波数スペクトルデータにおける第1の周波数の第1の電力値と、前記第1の周波数に対応する前記第2の周波数スペクトルデータにおける第2の周波数の第2の電力値との比較に基づいて、解析結果としての周波数スペクトルデータを生成する手段であって、前記第1の電力値が前記第2の電力値以下である場合、前記第1の電力値を、解析結果としての周波数スペクトルデータの前記第1の周波数の電力値として採用し、前記第2の電力値が前記第1の電力値未満である場合、前記第2の電力値を、解析結果としての周波数スペクトルデータの前記第1の周波数の電力値として採用する、手段と、
を備える信号処理装置。
【請求項5】
物標に送信信号を送信する送信アンテナと、
前記物標で反射した送信信号の反射波を受信信号として受信する受信アンテナと、
前記送信信号及び前記受信信号を混合して、前記送信信号
と前記受信信号との間の周波数差を示す中間周波数信号を出力する混合器と、
請求項4に記載の信号処理装置であって、前記中間周波数信号を前記無線信号として前記解析結果としての周波数スペクトルデータを生成し、前記解析結果としての周波数スペクトルデータに基づいて前記物標の速度、距離、及び角度のうち何れかを推定する信号処理装置と、
を備えるレーダ装置。
【請求項6】
基地局又は他の通信端末からの無線信号を受信する受信アンテナと、
請求項4に記載の信号処理装置であって、前記解析結果としての周波数スペクトルデータから、前記無線信号の到来方向を推定する信号処理装置と、
を備える通信端末。
【請求項7】
通信端末からの無線信号を受信する受信アンテナと、
請求項4に記載の信号処理装置と、
を備える固定通信装置であって、
前記信号処理装置は、前記解析結果としての周波数スペクトルデータから、前記受信アンテナが前記無線信号を受信した時刻を推定し、前記通信端末から前記無線信号が送信された時刻と前記受信アンテナが前記無線信号を受信した時刻との差から、前記通信端末と前記固定通信装置との間の距離を推定する手段を備える、固定通信装置。
【請求項8】
請求項1に記載のスペクトル解析プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペクトル解析プログラム、信号処理装置、レーダ装置、通信端末、及び記録媒体に関わる。
【背景技術】
【0002】
電波の到来方向を推定する高分解能アルゴリズムとして、例えば、MUSIC(Multiple Signal Classification)法が知られている。特許文献1には、互いに異なる位置に配設された複数のアンテナを介して各方向から到来する複数の到来波を受信し、各アンテナの受信信号から、MUSIC法を用いて、到来波の数及び到来方向を推定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法では、推定波数が実際の到来波数よりも多い場合には、多くの偽波が出現し、その中には、閾値以上の高い電力を有する偽波が生じることがあり得るため、実際の到来波と偽波との区別が困難であるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、このような問題を解決し、高分解能かつ無線信号の周波数スペクトルデータの電力値の推定精度を高めることのできる解析手法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明に関わるスペクトル解析プログラムは、コンピュータに、受信した無線信号から、Annihilating Filter法により、第1の周波数スペクトルデータを生成することと、無線信号から、Annihilating Filter法とは異なる周波数スペクトル解析法により、第2の周波数スペクトルデータを生成することと、第1の周波数スペクトルデータの周波数の値と、第2の周波数スペクトルデータの周波数の値とのうち、最も近い周波数の値同士を対応付けることと、第1の周波数スペクトルデータにおける第1の周波数の第1の電力値と、第1の周波数に対応する第2の周波数スペクトルデータにおける第2の周波数の第2の電力値との比較に基づいて、解析結果としての周波数スペクトルデータを生成することであって、第1の電力値が第2の電力値以下である場合、第1の電力値を、解析結果としての周波数スペクトルデータの第1の周波数の電力値として採用し、第2の電力値が第1の電力値未満である場合、第2の電力値を、解析結果としての周波数スペクトルデータの第1の周波数の電力値として採用する、ことと、を実行させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高分解能かつ無線信号の周波数スペクトルデータの電力値の推定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に関わる信号処理装置のハードウェア構成を示す説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法の説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法の説明図である。
【
図5】本発明の実施形態に関わるレーダ装置の構成を示す説明図である。
【
図6】従来のAF法の解析結果を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法の解析結果を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施形態に関わる通信端末の説明図である。
【
図9】本発明の実施形態に関わる通信端末の構成を示す説明図である。
【
図10】本発明の実施形態に関わる通信端末の説明図である。
【
図11】本発明の実施形態に関わる固定通信装置の説明図である。
【
図12】本発明の実施形態に関わる固定通信装置の構成を示す説明図である。
【
図13】本発明の実施形態に関わる無線信号の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、各図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。ここで、同一符号は、同一の構成要素を示すものとし、重複する説明は省略する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に関わる信号処理装置100のハードウェア構成を示す説明図である。信号処理装置100は、DSP(Digital Signal Processing)処理を実行するプロセッサ101、メモリ102、入出力インタフェース103、及び記憶装置104を備えるコンピュータである。記憶装置104には、本発明の実施形態に関わるスペクトル解析プログラム200が記憶されている。スペクトル解析プログラム200は、本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法をプロセッサ101に実行させるためのプログラムである。スペクトル解析プログラム200は、記憶装置104からメモリ102に読み込まれてプロセッサ101により実行される。入出力インタフェース103には、A/D変換された無線信号(
図1には図示されていないアンテナで受信され、更にA/D変換された無線信号)が入力される。プロセッサ101は、A/D変換された無線信号を、入出力インタフェース103を通じて入力し、本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法を実行し、解析結果としての周波数スペクトルデータを生成し、生成された周波数スペクトルデータを、入出力インタフェース103を通じて出力する。なお、周波数スペクトルは、振幅スペクトル及び位相スペクトルを含むものとする。
【0011】
図2は、本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【0012】
ステップ201において、プロセッサ101は、無線信号から、AF(Annihilating Filter)法により、周波数の値が連続的な値をとる第1の周波数スペクトルデータを生成する。
【0013】
ステップ202において、プロセッサ101は、無線信号から、無線信号の参照用の電力値を出力する周波数スペクトル解析法(AF法とは異なる周波数スペクトル解析法)により、周波数の値が離散的な値をとる第2の周波数スペクトルデータを生成する。無線信号の参照用の電力値を出力する周波数スペクトル解析法は、電力値の推定精度の高い周波数スペクトル解析法(例えば、高速フーリエ変換などの離散フーリエ変換、Beamformer法、又はCapon法)である。
【0014】
ステップ203において、プロセッサ101は、第1の周波数スペクトルデータの周波数の値と、第2の周波数スペクトルデータの周波数の値とのうち、最も近い周波数の値同士を対応付ける(周波数のペアリング)。「最も近い周波数の値同士を対応付ける」とは、例えば、第1の周波数スペクトルデータの特定の周波数を第1の周波数とし、第2の周波数スペクトルデータの周波数のうち、第1の周波数に最も近い周波数を第2の周波数とする場合、第1の周波数スペクトルデータの第1の周波数と、第2の周波数スペクトルデータの第2の周波数とを紐づける(又は関連付ける)ことである。このような紐づけ(又は関連付け)を、本明細書では、ペアリングと呼ぶ。
【0015】
ステップ204において、プロセッサ101は、第1の周波数スペクトルデータの第1の周波数の第1の電力値と、第1の周波数に対応する第2の周波数スペクトルデータの第2の周波数の第2の電力値との比較に基づいて、解析結果としての周波数スペクトルデータを生成する。例えば、第1の電力値が第2の電力値以下である場合、プロセッサ101は、第1の電力値を、解析結果としての周波数スペクトルデータの第1の周波数の電力値とする。また、例えば、第2の電力値が第1の電力値未満である場合、プロセッサ101は、第2の電力値を、解析結果としての周波数スペクトルデータの第1の周波数の電力値とする。
【0016】
ここで、
図3及び
図4を参照しながら、ステップ204の処理の詳細について説明する。符号D1は、第1の周波数f1における第1の周波数スペクトルデータを示している。符号D2は、第2の周波数f2における第2の周波数スペクトルデータを示している。第1の周波数f1及び第2の周波数f2は、ステップ203の処理を通じて、互いに対応付けられている。第1の周波数f1及び第2の周波数f2は、互いに同一の周波数でもよく、或いは、互いに異なる周波数でもよい。なお、第1の周波数f1及び第2の周波数f2が互いに同一の周波数の値である場合、同じ特定の周波数の値同士がペアリングされる。
【0017】
図3に示すように、第1の周波数f1における第1の周波数スペクトルデータD1の第1の電力値P1が、第2の周波数f2における第2の周波数スペクトルデータD2の第2の電力値P2未満である場合には、第1の電力値P1を、解析結果としての周波数スペクトルデータの第1の周波数f1の電力値とする。即ち、第1の周波数f1における第1の周波数スペクトルデータD1を、第1の周波数f1における解析結果としての周波数スペクトルデータとする。
【0018】
一方、
図4に示すように、第2の周波数f2における第2の周波数スペクトルデータD2の第2の電力値P2が、第1の周波数f1における第1の周波数スペクトルデータD1の第1の電力値P1以下である場合には、第2の電力値P2を、解析結果としての周波数スペクトルデータの第1の周波数f1の電力値とする。即ち、第1の周波数f1における第1の周波数スペクトルデータD1の電力値を補正したデータ(第1の電力値P1から第2の電力値P2に補正したデータ)を、第1の周波数f1における解析結果としての周波数スペクトルデータとする。
【0019】
このように、解析結果としての周波数スペクトルデータは、第1の周波数スペクトルデータの電力値と第2の周波数スペクトルデータの参照用の電力値との比較に基づく第1の周波数スペクトルデータの電力値の補正処理を、第1の周波数スペクトルデータの各周波数について、実行することにより、生成される。
【0020】
本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法によれば、AF法の高い周波数分解能と、電力値の高い推定精度とを併せ持つ周波数スペクトルデータを生成することができる。特に、実際の到来波数が変化しても、高分解能かつ電力値の信頼性の高い周波数スペクトルデータを生成することができる。また、移動体通信のように、無線電波の位相が計測毎に変化する状況においても、真波と偽波とを精度よく区別することができる。
【0021】
なお、スペクトル解析プログラム200は、信号処理装置100にステップ201~204のそれぞれを実行させる命令を備えている。信号処理装置100は、ステップ201~204のそれぞれを実行する手段として機能する。このような各手段の機能と同様の機能を、専用のハードウェア資源(例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)など)やファームウェアを用いて実現してもよい。
【0022】
図5は、本発明の実施形態に関わるレーダ装置300の構成を示す説明図である。レーダ装置300は、周波数変調方式を採用する連続波レーダの一種である周波数変調連続波レーダ(FM-CWレーダ)である。レーダ装置300は、例えば、レーダ装置300に対する物標400の相対位置(例えば、レーダ装置300に対する物標400角度θ及びレーダ装置300と物標400との間の距離R)を計測することができる。レーダ装置300は、発振器301、増幅器302、複数の分配器303、送信アンテナ304、受信アンテナ305、複数の増幅器307、複数の混合器308、複数のフィルタ309、複数のA/D変換器310、及び信号処理装置100を備える。
【0023】
発振器301は、送信信号Stを生成及び出力する。発振器301は、例えば、電圧制御発振器である。増幅器302は発振器301から出力される送信信号Stを電力増幅する。各分配器303は、増幅器302から出力される電力増幅された送信信号Stを送信アンテナ304と混合器308とに分配する。混合器308に分配される、増幅器302からの電力増幅された送信信号Stは、ローカル信号とも呼ばれる。送信アンテナ304は、送信信号Stをレーダ波として送信する。
【0024】
受信アンテナ305は、複数のアンテナ素子306のそれぞれが等間隔で配列されたリニアアレーアンテナである。受信アンテナ305は、物標400で反射した送信信号Stの反射波を受信信号Srとして受信する。各増幅器307は、アンテナ素子306から出力される受信信号Srを増幅する。各混合器308は、増幅器307から出力される増幅された受信信号Srと、分配器303によって分配される送信信号Stとを混合して、中間周波数信号を生成及び出力する。中間周波数信号は、送信信号Stと受信信号Srとの間の周波数差を示すビート信号である。各フィルタ309は、混合器308から出力される中間周波数信号の不要信号成分を除去するローパスフィルタである。各A/D変換器310は、各フィルタ309から出力される中間周波数信号をA/D変換する。
【0025】
信号処理装置100は、各A/D変換器310によってデジタル信号に変換された中間周波数信号を、本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法に従って、信号処理することにより、物標400の距離R、角度θ、及び速度(単位時間あたりの距離Rの変化)のうち何れかを推定する。例えば、信号処理装置100は、「各A/D変換器310によってデジタル信号に変換された中間周波数信号」を、
図2のステップ201~204の「無線信号」として信号処理を行い、解析結果としての周波数スペクトルデータから、物標400の距離R、角度θ、及び速度(単位時間あたりの距離Rの変化)のうち何れかを推定する。
【0026】
なお、分配器303、増幅器307、混合器308、フィルタ309、及びA/D変換器310のそれぞれの個数は、アンテナ素子306の個数に等しい。
【0027】
信号処理装置100が実行するアルゴリズムとして、AF法を用いて第1の周波数スペクトルデータを生成し、離散フーリエ変換法により第2の周波数スペクトルデータを生成した。
図6は、生成したこれら第1の周波数スペクトルデータと第2の周波数スペクトルデータを重ねた場合の解析結果を示すグラフである。同図に示すように、ターゲットとしての物標400からの到来波601以外に、電力値の高い偽波602が生じている。
図7は、信号処理装置100が実行するアルゴリズムとして、本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法を用いた場合の解析結果を示すグラフである。同図に示すように、ターゲットとしての物標400からの到来波603以外に、電力値の高い偽波は生じておらず、偽波の電力を効果的に低減できていることが分かる。
【0028】
図8は、本発明の実施形態に関わる通信端末500の説明図である。基地局600からの電波の一部は、建物などの障害物900で反射した後に、通信端末500で受信されることがあり、また、基地局600からの電波の一部は、建物などの障害物900で反射せずに、通信端末500で受信されることもある。通信端末500は、基地局600からの電波の到来方向を推定し、その推定した方向に、アンテナの指向性のピークを向ける。なお、サーバ装置700の説明については後述する。
【0029】
図9は、本発明の実施形態に関わる通信端末500の構成を示す説明図である。通信端末500は、変調回路501、混合器502、複数の位相器503、複数の増幅器504、送信アンテナ505、受信アンテナ507、複数の増幅器509、混合器510、A/D変換器511、信号処理装置100、及び復調回路512を備える。サーキュレータまたはスイッチを用いて、送信アンテナ505と受信アンテナ507とを共通化してもよい。
【0030】
送信データは、変調回路501により変調され、送信データの情報を担う信号は、混合器502によりアップコンバートされる。送信アンテナ505は、複数のアンテナ素子506のそれぞれが等間隔で配列されたリニアアレーアンテナである。各位相器503は、送信アンテナ505の指向性のピークが基地局600の方向に向くように、各アンテナ素子506に給電される高周波信号の位相を制御する。送信アンテナ505は、送信データの情報を担う無線信号を送信する。
【0031】
受信アンテナ507は、複数のアンテナ素子508のそれぞれが等間隔で配列されたリニアアレーアンテナである。各アンテナ素子508が受信する無線信号は、増幅器509により電力増幅され、混合器510によりダウンコンバートされ、A/D変換器511によりA/D変換される。
【0032】
信号処理装置100は、A/D変換器511によってデジタル信号に変換された無線信号を、本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法に従って、信号処理することにより、無線信号の到来方向を推定する。例えば、信号処理装置100は、「A/D変換器511によってデジタル信号に変換された無線信号」を、
図2のステップ201~204の「無線信号」として信号処理を行い、解析結果としての周波数スペクトルデータから、無線信号の到来方向(通信端末500に対する基地局600の方位角及び仰角)を推定する。信号処理装置100は、送信アンテナ505の指向性のピークが基地局600の方向に向くように、各位相器503の位相シフト量を計算し、その計算結果を各位相器503に出力する。
【0033】
信号処理装置100は、各A/D変換器511によってデジタル信号に変換された無線信号にDBF (Digital Beam Forming)の処理を実行し、ビーム合成を行う。ビーム合成の結果から、復調回路512により、受信データが復調される。
【0034】
ここで、
図8の説明に戻る。上述の説明では、通信端末500は、基地局600から受信した無線信号を、本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法に従って、信号処理することにより、解析結果としての周波数スペクトルデータから、無線信号の到来方向を推する例を示したが、本発明は、このような例に限られない。例えば、通信端末500は、基地局600から受信した無線信号をサーバ装置700に転送し、無線信号の到来方向の推定をサーバ装置700に要求してもよい。
【0035】
サーバ装置700は、例えば、クラウドサーバなどの汎用のコンピュータシステムである。サーバ装置700は、プロセッサ701、メモリ702、通信インタフェース703、及び記憶装置704を備えている。記憶装置704には、本発明の実施形態に関わるスペクトル解析プログラム200が記憶されている。スペクトル解析プログラム200は、記憶装置704からメモリ702に読み込まれてプロセッサ701により実行される。
【0036】
サーバ装置700は、通信端末500からの要求に応答して、通信端末500から受信した無線信号を、本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法に従って、信号処理することにより、無線信号の到来方向を推定する。サーバ装置700は、無線信号の到来方向の推定結果を通信端末500に送信する。無線信号の到来方向の推定結果を受信した通信端末500は、その推定結果を基に、アンテナの指向性のピークを向ける。
【0037】
上述の説明では、通信端末500は、基地局600からの電波の到来方向を推定し、その推定した方向に、アンテナの指向性のピークを向ける例を示したが、本発明は、このような例に限られない。例えば、
図10に示すように、複数の通信端末500のうち何れか一つの通信端末500は、他の通信端末500からの電波の到来方向を推定し、その推定した方向に、アンテナの指向性のピークを向けてもよい。ある一つの通信端末500が、他の通信端末500からの電波の到来方向を推定するハードウェア構成は、
図9に示すハードウェア構成と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0038】
また、例えば、ある一つの通信端末500は、他の通信端末500から受信した無線信号をサーバ装置700に転送し、無線信号の到来方向の推定をサーバ装置700に要求してもよい。サーバ装置700は、通信端末500からの要求に応答して、通信端末500から受信した無線信号を、本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法に従って、信号処理することにより、無線信号の到来方向を推定する。サーバ装置700は、無線信号の到来方向の推定結果を通信端末500に送信する。無線信号の到来方向の推定結果を受信した通信端末500は、その推定結果を基に、アンテナの指向性のピークを向ける。
【0039】
図11は、本発明の実施形態に関わる固定通信装置800の説明図である。固定通信装置800は、通信端末500と近距離無線接続するアクセスポイントとして機能する基地局である。通信端末500及び各固定通信装置800は、例えば、GPS(Global Positioning System)システムなどを通じて予め時刻同期がされている。通信端末500は、一定の周期で無線信号を送信している。固定通信装置800は、通信端末500から送信された無線信号を受信した時刻を推定し、通信端末500から無線信号が送信された時刻と固定通信装置800が無線信号を受信した時刻との差から、通信端末500と固定通信装置800との間の距離を推定する。このような推定処理を各固定通信装置800が実行することにより、三角法により、通信端末500の位置を求めることができる。
【0040】
図12は、本発明の実施形態に関わる固定通信装置800の構成を示す説明図である。固定通信装置800は、受信アンテナ801、A/D変換器802、及び信号処理装置100を備える。受信アンテナ801は、通信端末500からの無線信号を受信する。A/D変換器802は、受信アンテナ801によって受信された無線信号をA/D変換する。信号処理装置100は、A/D変換された無線信号を、本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法に従って、信号処理することにより、通信端末500から送信された無線信号を受信した時刻を推定する。例えば、信号処理装置100は、「A/D変換器802によってデジタル信号に変換された無線信号」を、
図2のステップ201~204の「無線信号」として信号処理を行い、位相分解データ(スペクトル)から元の時間信号の再生を行い、通信端末500から送信された無線信号を受信した時刻を推定する。
【0041】
図13(a)は、通信端末500から時刻t1に送信された無線信号131を示している。
図13(b)は、固定通信装置800で受信され、高速フーリエ変換により再生された無線信号132と、AF法により再生された無線信号133,134を示している。AF法により再生された無線信号134の電力は、高速フーリエ変換により再生された無線信号132の電力よりも高いため、AF法により再生された無線信号134は偽波である。信号処理装置100は、AF法により再生された無線信号133を基に、通信端末500から送信された無線信号を受信した時刻t2を推定する。信号処理装置100は、通信端末500から無線信号が送信された時刻t1と固定通信装置800が無線信号を受信した時刻t2との差から、通信端末500と固定通信装置800との間の距離を推定する。
【0042】
ここで、
図11の説明に戻る。上述の説明では、固定通信装置800は、通信端末500から送信された無線信号を受信した時刻を推定し、通信端末500から無線信号が送信された時刻と固定通信装置800が無線信号を受信した時刻との差から、通信端末500と固定通信装置800との間の距離を推定する例を示した。しかしながら、本発明は、このような例に限られない。例えば、固定通信装置800は、通信端末500から送信された無線信号をサーバ装置700に転送し、通信端末500から送信された無線信号を固定通信装置800が受信した時刻の推定をサーバ装置700に要求してもよい。サーバ装置700は、固定通信装置800からの要求に応答して、固定通信装置800が通信端末500から受信した無線信号を、本発明の実施形態に関わるスペクトル解析方法に従って、信号処理することにより、通信端末500から送信された無線信号を固定通信装置800が受信した時刻を推定する。サーバ装置700は、受信時刻の推定結果を固定通信装置800に送信する。受信時刻の推定結果を受信した固定通信装置800は、その推定結果を基に、通信端末500と固定通信装置800との間の距離を推定する。
【0043】
なお、サーバ装置700は、ネットワークを通じてスペクトル解析プログラム200をダウンロードし、これを記憶装置704に保存してもよい。或いは、サーバ装置700は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されているスペクトル解析プログラム200を記憶装置704にインストールしてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、例えば、光磁気記録媒体、磁気記録媒体、或いは半導体メモリなどの任意の記録媒体である。
【0044】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るととともに、本発明にはその等価物も含まれる。即ち、実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0045】
100…信号処理装置 101…プロセッサ 102…メモリ 103…入出力インタフェース 104…記憶装置 200…スペクトル解析プログラム 300…レーダ装置 400…物標 500…通信端末 600…基地局 700…サーバ装置 800…固定通信装置 900…障害物