(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】直接還元鉄の溶解方法、固体鉄の製造方法および土木建築用資材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21B 13/12 20060101AFI20250219BHJP
C21C 5/52 20060101ALI20250219BHJP
C04B 5/00 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
C21B13/12
C21C5/52
C04B5/00 B
(21)【出願番号】P 2023547081
(86)(22)【出願日】2023-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2023014495
(87)【国際公開番号】W WO2023204069
(87)【国際公開日】2023-10-26
【審査請求日】2023-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2022070755
(32)【優先日】2022-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 憲治
(72)【発明者】
【氏名】中井 由枝
(72)【発明者】
【氏名】川畑 涼
(72)【発明者】
【氏名】奥山 悟郎
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-528645(JP,A)
【文献】特開2011-006301(JP,A)
【文献】特開2009-074120(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0087135(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0006103(KR,A)
【文献】特表2004-521188(JP,A)
【文献】特開昭55-044598(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101967530(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 11/00-13/14
C21B 3/06
C21C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接還元鉄を、誘導溶解炉で溶解して溶融鉄を得る溶解ステップと、
前記溶解ステップで生成したスラグを前記誘導溶解炉の炉外に排出する排滓ステップと、
さらに任意で、前記溶解ステップで得た溶融鉄を精錬する精錬ステップと、を備え、
前記溶解ステップは、該溶解ステップの一部の期間または全期間、前記溶融鉄中に
不活性気体を吹き込む第1工程を含み、
前記第1工程では、前記不活性気体を前記溶融鉄中に吹き込むためのガス供給ノズルの位置から前記溶融鉄浴面までの高さH(m)を下記(1)式で表し、下記(2)式を満足するように前記不活性気体を前記溶融鉄中に吹き込み、
前記ガス供給ノズルは、炉底または炉の側面に設け、
さらに任意で、
1)スラグ成分調整剤を添加する第2工程、
2)前記誘導溶解炉の炉上に設置した熱源からスラグへの熱供給を行う第3工程、および、
3)1種類以上の還元性の固体または気体を供給する第4工程
から選ばれる1以上の工程を含む、直接還元鉄の溶解方法。
H=1.27×W
DRI
/(ρ
l
D
2
)×(%T.Fe)
DRI
/100-h (1)
H>0.18×(ρ
g
Q
2
/ρ
l
N
2
d
2
)
1/3
(2)
ここで、ρ
g
:供給気体の密度(kg/m
3
)、
ρ
l
:溶融鉄の密度(kg/m
3
)、
Q:ガス供給速度(Nm
3
/分)、
N:ガス供給ノズルの数(-)、
d:ガス供給ノズル径(m)、
D:誘導炉の炉内径(m)、
W
DRI
:誘導炉内に供給した還元鉄重量(kg)、
(%T.Fe)
DRI
:還元鉄に含まれる全鉄濃度(質量%)、
h:誘導炉の炉底からガス供給ノズル位置までの高さ(m)
を表す。
【請求項2】
前記第2工程では、
前記溶解ステップで生成するスラグの組成について、質量基準でSiO
2濃度(%SiO
2)に対するCaO濃度(%CaO)の比である塩基度が0.5~2.0の範囲にあり、Al
2O
3濃度(%Al
2O
3)が10~25質量%の範囲にあるように、前記スラグ成分調整剤の種類および添加量を調整する、請求項1に記載の直接還元鉄の溶解方法。
【請求項3】
前記第4工程では、
前記溶解ステップで生成するスラグの組成について、全鉄濃度(%T.Fe)が20質量%以下となるように、前記還元性の固体または気体の種類および供給量を調整する、請求項1に記載の直接還元鉄の溶解方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法で得た溶融鉄を凝固させて固体鉄とする、固体鉄の製造方法。
【請求項5】
前記固体鉄
は、全鉄濃度T.Feが93質量%以上であり、酸化物成分の合計が3質量%以下である、
請求項4に記載の固体鉄
の製造方法。
【請求項6】
土木建築用資材の製造方法であって、
直接還元鉄を、誘導溶解炉で溶解して溶融鉄を得る溶解ステップと、
前記溶解ステップで生成したスラグを前記溶解炉の炉外に排出する排滓ステップと、
前記排滓ステップによって排出されたスラグを冷却固化し土木建築用資材原料とする冷却固化ステップと、を備え、
前記溶解ステップは、該溶解ステップの一部の期間または全期間、前記溶融鉄中に
不活性気体を吹き込む第1工程を含み、
前記第1工程では、前記不活性気体を前記溶融鉄中に吹き込むためのガス供給ノズルの位置から前記溶融鉄浴面までの高さH(m)を下記(1)式で表し、下記(2)式を満足するように前記不活性気体を前記溶融鉄中に吹き込み、
前記ガス供給ノズルは、炉底または炉の側面に設け、
さらに任意で、
1)スラグ成分調整剤を添加する第2工程、および、
2)前記誘導溶解炉の炉上に設置した熱源からスラグへの熱供給を行う第3工程
から選ばれる1以上の工程を含む、土木建築用資材の製造方法。
H=1.27×W
DRI
/(ρ
l
D
2
)×(%T.Fe)
DRI
/100-h (1)
H>0.18×(ρ
g
Q
2
/ρ
l
N
2
d
2
)
1/3
(2)
ここで、ρ
g
:供給気体の密度(kg/m
3
)、
ρ
l
:溶融鉄の密度(kg/m
3
)、
Q:ガス供給速度(Nm
3
/分)、
N:ガス供給ノズルの数(-)、
d:ガス供給ノズル径(m)、
D:誘導炉の炉内径(m)、
W
DRI
:誘導炉内に供給した還元鉄重量(kg)、
(%T.Fe)
DRI
:還元鉄に含まれる全鉄濃度(質量%)、
h:誘導炉の炉底からガス供給ノズル位置までの高さ(m)
を表す。
【請求項7】
前記第2工程を実施することにより、前記土木建築用資材
は、質量基準でSiO
2濃度(%SiO
2)に対するCaO濃度(%CaO)の比である塩基度が0.5~2.0の範囲にあり、Al
2O
3濃度(%Al
2O
3)が10~25質量%の範囲にある、
請求項6に記載の土木建築用資材
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接還元鉄に含まれる脈石分を除去する直接還元鉄の溶解方法、この方法を用いた固体鉄および固体鉄の製造方法ならびに土木建築用資材および土木建築用資材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製鉄業における冷鉄源(スクラップ)の使用拡大の需要が高まっている。循環型社会の構築のために、鉄源リサイクルは必要不可避である。そのうえ、地球温暖化防止の観点から、CO2排出量削減の需要からもスクラップ使用量増大は不可欠である。スクラップは酸化鉄(Fe2O3)である鉄鉱石と異なり、溶製プロセスに還元工程を要さないためCO2排出量の低減が可能である。そこで、冷鉄源の使用量は増加の一途をたどっている。
【0003】
高炉-転炉法は、原料である鉄鉱石(Fe2O3)を還元材であるコークス(炭素源)とともに高炉へ装入してC濃度が4.5-5%程度の溶銑を溶製し、その溶銑を転炉に装入し不純物成分であるCやSi、Pを酸化除去する製鋼プロセスである。高炉での溶銑製造時には鉄鉱石の還元などのために溶銑1tあたり、500kg程度の炭素源を必要とする。そして、約2t程度のCO2ガスが発生する。一方、鉄スクラップを原料として溶鋼を製造する場合には、鉄鉱石の還元に必要とされる炭素源が不要となる。そのため、鉄スクラップを溶解するのに必要なエネルギーを考慮しても、1トンの溶銑を1トンの鉄スクラップに置き換えることで、約1.5tのCO2排出量の低減につながる。上記のことから、温室効果ガスの排出量の削減と生産活動の維持の両立のためにはスクラップの使用量を増やしていくことが必要である。
【0004】
しかし、鉄スクラップ、特に高級鋼製造に不可欠な高品位の鉄スクラップの需給が逼迫していることから、スクラップに換えて還元鉄のニーズが高まっている。還元鉄は鉄鉱石を還元して製造されるが、高炉-転炉法の様に生成した鉄中のC濃度を高位とする必要がなく、過剰な炭素源を使用しない分、鉄1トン当たり約0.2tのCO2排出量の低減につながる。また、還元材を炭素源でなく、水素または天然ガス等の炭化水素系ガスとすることで、更なるCO2排出量の低減も可能である。
【0005】
ところで、還元鉄の原料となる鉄鉱石は、採掘される場所によって成分が異なる。鉄鉱石の成分は主にFe含有量や脈石含有量で評価される。表1に鉄鉱石の成分組成の例を示す。
【0006】
【0007】
Fe含有量は、鉄鉱石中の全鉄量T.Feで表され、この値が大きいほど多くのFe分を含むため、原料としての価値が高い。脈石含有量は、鉄鉱石中のFe以外の酸化物の合計で表され、その大部分はSiO2とAl2O3であり、その他に0.1質量%程度のCaOやMgOなどを含む。鉄鉱石を製錬して鉄を得る過程で、脈石成分は不純物として除去されるため、脈石量が多いほどFe含有量が低下し、単位Fe量当たりの輸送コストや製錬コストが増大することになる。
【0008】
また、鉄鉱石を原料として作製した還元鉄は、使用する鉄鉱石の銘柄、混合する原料成分調整剤の種類および原単位、還元材の種類および原単位、還元温度ならびに還元鉄製造設備の方式によって、金属化率や組成などの性状が異なる。表2に還元鉄の成分組成の例を示す。
【0009】
【0010】
還元鉄の製造においては、原料成分調整剤としてCaO分を添加し、鉄鉱石に含有される脈石分とスラグを形成させることで、還元鉄としての強度を確保することが一般的に行われている。スラグ量が最小限で、金属化率が高い還元鉄ほど、後に続く輸送・溶解・精錬工程の負荷は小さくなる。一方で、そのような還元鉄は、高品位な鉄鉱石を使用する必要があるため、原料コストが増加するとともに金属化率を上昇させるための還元処理コストも増大するなどの課題がある。そのため、安価な低品位の鉄鉱石を原料として製造したスラグ分の多い還元鉄から、効率的にスラグを分離して金属鉄分を高めるプロセスの開発が望まれる。
【0011】
このような鉱石に含まれる脈石をスラグとして除去する還元金属の製造方法が提案されている。たとえば、特許文献1や2には、移動型炉床炉の炉床上に堆積させた固体還元材層上に金属含有物を含む原料を装入し、加熱還元すると共に、少なくとも一度は溶融状態とすることでメタルとスラグを分離して還元金属を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2000-292069号公報
【文献】特開2004-204293号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Slag Atlas, 2nd ed., Verlag Stahleisen GmbH, Duesseldorf, (1995), 105, 126.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来技術では、以下のような課題があった。
特許文献1や2に開示の技術では、メタルとスラグを分離するにあたり、還元材として炭素系の固体原料を用いることを前提としている。そのため、CO2排出量削減の観点から今後主流になると考えられる水素系の還元材により還元を行なうプロセスでは、メタルとスラグの分離効率が低下すると考えられる。具体的には、回転炉床炉等の移動型炉床炉の炉内雰囲気温度は通常1300℃程度である。この温度で還元されたメタルが溶融するのは、炭素系の固体原料がメタルに浸炭することによりメタルの融点が低下するためであると考えられる。従い、水素系の還元材で還元を行なうプロセスでは、浸炭によるメタルの融点降下が生じないため、装入物の液相率が高まらず、メタルとスラグの分離が進みにくくなるものと予想される。
【0015】
つまり、還元工程では、脈石を除去することが困難な場合があり、製造された還元鉄から脈石を分離する必要がある。具体的には、還元鉄を誘導溶解炉で溶解する際に、脈石から生成したスラグの固化を防止する必要がある。
【0016】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、直接還元鉄から効率よく脈石分を除去する直接還元鉄の溶解方法を提案することを目的とする。加えて、その溶解方法を用いた、純度の高い固体鉄および固体鉄の製造方法ならびに副生物を活用した土木建築用資材および土木建築用資材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明者らは、直接還元鉄を誘導溶解炉で溶解するにあたり、溶融鉄とスラグとの伝熱を促進することやスラグの組成制御でスラグの固化を抑制し、スラグの炉外への排出が容易になることを見出し、本発明を完成したものである。
【0018】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる直接還元鉄の溶解方法は、直接還元鉄を、誘導溶解炉で溶解して溶融鉄を得る溶解ステップと、前記溶解ステップで生成したスラグを前記誘導溶解炉の炉外に排出する排滓ステップと、さらに任意で、前記溶解ステップで得た溶融鉄を精錬する精錬ステップと、を備え、前記溶解ステップは、該溶解ステップの一部の期間または全期間、前記溶融鉄中に気体を吹き込む第1工程を含み、さらに任意で、1)スラグ成分調整剤を添加する第2工程、2)前記誘導溶解炉の炉上に設置した熱源からスラグへの熱供給を行う第3工程、および、3)1種類以上の還元性の固体または気体を供給する第4工程から選ばれる1以上の工程を含むことを特徴とする。
【0019】
なお、本発明にかかる直接還元鉄の溶解方法は、
(a)前記第1工程では、前記気体を前記溶融鉄中に吹き込むためのガス供給ノズルの位置から前記溶融鉄浴面までの高さH(m)を下記(1)式で表し、下記(2)式を満足するように前記気体を前記溶融鉄中に吹き込むこと、ここで、ρg:供給気体の密度(kg/m3)、ρl:溶融鉄の密度(kg/m3)、Q:ガス供給速度(Nm3/分)、N:ガス供給ノズルの数(-)、d:ガス供給ノズル径(m)、D:誘導炉の炉内径(m)、WDRI:誘導炉内に供給した還元鉄重量(kg)、(%T.Fe)DRI:還元鉄に含まれる全鉄濃度(質量%)、h:誘導炉の炉底からガス供給ノズル位置までの高さ(m)を表す、
(b)前記第2工程では、前記溶解ステップで生成するスラグの組成について、質量基準でSiO2濃度(%SiO2)に対するCaO濃度(%CaO)の比である塩基度が0.5~2.0の範囲にあり、Al2O3濃度(%Al2O3)が10~25質量%の範囲にあるように、前記スラグ成分調整剤の種類および添加量を調整すること、
(c)前記第4工程では、前記溶解ステップで生成するスラグの組成について、全鉄濃度(%T.Fe)が20質量%以下となるように、前記還元性の固体または気体の種類および供給量を調整すること、
などが、より好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
H=1.27×WDRI/(ρlD2)×(%T.Fe)DRI/100-h (1)
H>0.18×(ρgQ2/ρlN2d2)1/3 (2)
【0020】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる固体鉄の製造方法は、上記いずれかにかかる直接還元鉄の溶解方法で得た溶融鉄を凝固させて固体鉄とすることを特徴とする。また、本発明にかかる固体鉄は、その製造方法により製造された固体鉄であって、全鉄濃度T.Feが93質量%以上であり、酸化物成分の合計が3質量%以下であることを特徴とする。
【0021】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる土木建築用資材の製造方法は、土木建築用資材の製造方法であって、直接還元鉄を、誘導溶解炉で溶解して溶融鉄を得る溶解ステップと、前記溶解ステップで生成したスラグを前記溶解炉の炉外に排出する排滓ステップと、前記排滓ステップによって排出されたスラグを冷却固化し土木建築用資材原料とする冷却固化ステップと、を備え、前記溶解ステップは、該溶解ステップの一部の期間または全期間、前記溶融鉄中に気体を吹き込む第1工程を含み、さらに任意で、1)スラグ成分調整剤を添加する第2工程、および、2)前記誘導溶解炉の炉上に設置した熱源からスラグへの熱供給を行う第3工程から選ばれる1以上の工程を含むことを特徴とする。また、本発明にかかる土木建築用資材は、その製造方法で製造された土木建築用資材であって、質量基準でSiO2濃度(%SiO2)に対するCaO濃度(%CaO)の比である塩基度が0.5~2.0の範囲にあり、Al2O3濃度(%Al2O3)が10~25質量%の範囲にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる直接還元鉄の溶解方法によれば、直接還元鉄を誘導溶解炉で溶解するに際して、溶融鉄中に気体を吹き込み、さらに任意で、溶融鉄内に適切な流量の気体の供給、生成スラグの組成制御および炉上に設置した熱源からのスラグへの熱供給の内、少なくとも1つ以上を行うことにより、スラグが流動した状態を保持することができ、直接還元鉄中の金属鉄を溶解しつつスラグを分離することが可能となった。
【0023】
本発明にかかる固体鉄の製造方法および固体鉄によれば、溶融鉄とスラグを分離して、溶融鉄を凝固させるので、純分の高い固体鉄を製造できるので好ましい。また、本発明にかかる土木建築用資材の製造方法および土木建築用資材によれば、副生物を回収し、特に成分組成を調整して回収することで、副生物の有効活用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】表2に記載の還元鉄組成から得られるスラグの組成をAl
2O
3-CaO-SiO
2三元系状態図上にプロットしたグラフである。
【
図2】表2に記載の還元鉄組成から得られるスラグの組成をCaO-SiO
2-FeO三元系状態図にプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための組成や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0026】
発明者らは、還元鉄からの脈石の除去を、誘導溶解炉で還元鉄を一旦溶解することにより行なうことを前提に検討を進めた。誘導溶解炉での還元鉄の加熱・溶解は、誘導電流により還元鉄中の金属鉄分が直接的に効率良く加熱されるという特徴がある。一方、スラグ分への直接加熱はなされないため、比重差により溶融鉄上に浮上したスラグが固化し、還元鉄の追加装入が困難となるという課題があった。
【0027】
<第一実施形態>
そこで発明者らは、還元鉄を誘導溶解炉で溶解して脈石分をスラグとして分離するのに適した条件について探索を進めた。その結果、還元鉄を誘導溶解炉で溶解する際に、浴内への気体吹き込みを行なうとスラグの凝固が抑えられ、効率的に還元鉄の溶解およびスラグの分離が行なえることがわかった。さらに、溶融鉄内に適切な流量の気体の供給、生成スラグの組成制御、炉上に設置した熱源からのスラグへの熱供給の内、少なくとも1つ以上を行うことにより、スラグが流動した状態を保持することができ、より好適に還元鉄中の金属鉄を溶解しつつスラグを分離することが可能となることを見出した。ここで、スラグが流動している状態とは、スラグが全体的に赤熱しており、常に高温のスラグが循環している状態のことを指す。
【0028】
このようにしてスラグが流動した状態を保つことで、還元鉄を追加装入する際に凝固したスラグに阻害されることがなくなり、誘導溶解炉の容積を有効に活用することが出来る。更に、スラグが流動しているため、炉上部からオーバーフローさせる、スラグドラッガーを用いて排滓するなど、溶融鉄とスラグを分離することも容易となる。スラグを分離する際には、炉体を傾動させることでスラグを排出する場所を限定することが、高温のスラグのハンドリングや損耗箇所の補修などの観点から好ましい。
【0029】
本発明の第一実施形態は、以上のような検討から得られたものであり、直接還元鉄を、誘導溶解炉で溶解して溶融鉄を得る溶解ステップと、溶解ステップで生成したスラグを誘導溶解炉の炉外に排出する排滓ステップと、を備え、溶解ステップは、溶解ステップの一部の期間または全期間、溶融鉄中に気体を吹き込む第1工程を含み、さらに任意で、1)スラグ成分調整剤を添加する第2工程、および、2)前記誘導溶解炉の炉上に設置した熱源からスラグへの熱供給を行う第3工程から選ばれる1以上の工程を含むものである。
【0030】
<第二実施形態>
次に、第1工程にかかる気体の吹込み条件の適正化を検討した。溶融鉄内に気体を供給すると、気体の浮上に伴って溶融鉄が撹拌され、生成・浮上したスラグに対して溶融鉄からの伝熱がなされるその結果、スラグの温度が上昇することで、スラグの流動性が改善される。供給する気体は配管で供給する際に液化しない気体であれば種類を問わない。たとえば、酸素や二酸化炭素などの酸化性気体は溶融鉄を酸化して鉄歩留まりを低下させるため、Ar、N2などの不活性気体の方が好ましい。
【0031】
ただし、供給気体量が多すぎると、溶融鉄の浴面まで気体が連続相のまま通過する、いわゆる吹き抜けが生じる。吹き抜けが生じると溶融鉄の飛散(スピッティング)が著しく増すと共に、供給した気体による撹拌および反応効率を低下させるため、スラグへの伝熱の効果が小さくなる。発明者らは、条件を変えた種々の実験を行った。その結果、気体を溶融鉄中に吹き込むためのガス供給ノズルの位置から溶融鉄浴面までの高さH(m)を下記(1)式で表し、下記(2)式を満足するように気体を溶融鉄中に吹き込むことで吹き抜けを回避できることを見出した。
H=1.27×WDRI/(ρlD2)×(%T.Fe)DRI/100-h (1)
H>0.18×(ρgQ2/ρlN2d2)1/3 (2)
ここで、ρg:供給気体の密度(kg/m3)、
ρl:溶融鉄の密度(kg/m3)、
Q:ガス供給速度(Nm3/分)、
N:ガス供給ノズルの数(-)、
d:ガス供給ノズル径(m)、
D:誘導炉の炉内径(m)、
WDRI:誘導炉内に供給した還元鉄重量(kg)、
(%T.Fe)DRI:還元鉄に含まれる全鉄濃度(質量%)、
h:誘導炉の炉底からガス供給ノズル位置までの高さ(m)
を表す。
【0032】
一方、気体の吹込み量が少なすぎると、気体の浮上に伴う溶融鉄の撹拌効果が小さくなり、溶融鉄からスラグへの伝熱が小さくなるので、少なくとも単位溶融鉄あたりの合計ガス供給量0.01Nm3/(分・t-溶融鉄)の気体を供給することが好ましい。
【0033】
本発明の第二実施形態は、以上のような検討から得られたものであり、第一実施形態に加えて、第1工程では、気体を前記溶融鉄中に吹き込むためのガス供給ノズルの位置から溶融鉄浴面までの高さH(m)を上記(1)式で表し、上記(2)式を満足するように気体を溶融鉄中に吹き込むものである。
【0034】
<第三ないし第五実施形態>
次にスラグの組成の適正化を検討した。スラグの流動性は、スラグ組成に大きく依存する。表2に示した還元鉄組成例について、含まれるスラグ成分をAl
2O
3-CaO-SiO
2、またはCaO-SiO
2-FeO三成分の合計が100%となる様に換算した組成を、それぞれの三元系状態図上にプロットして
図1および2に示す。それぞれの三元系状態図は非特許文献1を参考にした。ここで、還元鉄中のFeO濃度は全鉄濃度T.Feと金属鉄濃度M.Feの差に71.85(FeOの分子量)/55.85(Fe原子量)を掛けて算出した。
【0035】
図1から明らかな様に、還元鉄に含まれるスラグ成分よりも、低融点である組成が存在する。ただし、SiO
2が高濃度のスラグ組成となると、低融点ではあるが高粘度となり流動性が低下する。そのため、質量基準でSiO
2濃度(%SiO
2)に対するCaO濃度(%CaO)の比である塩基度(以下、スラグ塩基度という)を0.5以上とするのが好ましい。また、スラグを低融点化する観点から、スラグ塩基度は2.0以下、Al
2O
3濃度は10~25質量%の範囲とすることが好ましい。このスラグ組成に調整する手段としては、還元鉄を製造する際の原料成分調整剤、ないしは還元鉄を溶解する際のスラグ成分調整剤として、CaO、SiO
2およびAl
2O
3の1種以上を含む物質を添加することが好ましい。CaOを含む物質としては、石灰石、消石灰、生石灰、製鋼スラグなどのいずれでも良い。なお、石灰石や消石灰は分解時に吸熱反応で温度低下を招き、製鋼スラグはCaO濃度が40~50%程度であり、添加量が増えて還元鉄溶解時の生成スラグ量が増大するという問題があるため、生石灰を用いることが好ましい。SiO
2を含む物質としては、珪石、石炭灰、製鋼スラグなどが考えられる。他には金属Siやシリコンスラッジを加えることで、還元鉄に残存する酸化鉄分との反応により生成するSiO
2を活用することでも構わない。Al
2O
3を含む物質としては、コランダムやボーキサイト等の天然石の他、金属Alやアルミドロスを加えることで、還元鉄に残存する酸化鉄分との反応により生成するAl
2O
3を活用することでも構わない。
【0036】
本発明の第三実施形態は、以上のような検討から得られたものであり、第一または第二実施形態に加え、第2工程では、溶解ステップで生成するスラグの組成について、スラグの塩基度が0.5~2.0の範囲にあり、Al2O3濃度が10~25質量%の範囲にあるように、スラグ成分調整剤の種類および添加量を調整するものである。
【0037】
また、
図2から明らかな様に、還元鉄に含まれるスラグ分は高濃度のFeOを含み、スラグの融点を下げて流動性を確保するという観点では有効である。しかし、そのままではFe歩留まりが低位となるので、溶解により分離したスラグ中の全鉄濃度(%T.Fe)を20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下となるように、スラグを還元することが好ましい。還元手段としては、ア)C、Al、Siなどの還元材を少なくとも1種類以上含む固体を生成・浮上したスラグに対して供給すること、イ)溶融鉄内に供給するガスとしてCO、H
2、炭化水素などの還元性ガスの少なくとも1種類以上含むガスを使用すること、ウ)還元鉄製造時点で還元材原単位を増加させること、などの手段のいずれでも良く、これらの組み合わせでも構わない。
【0038】
本発明の第四実施形態は、以上のような検討から得られたものであり、第一~第三のいずれかの実施形態に加え、溶解ステップは、1種類以上の還元性の固体または気体を供給する第4工程を含むものである。さらに、本発明の第五実施形態は、第四実施形態に加え、溶解ステップで生成するスラグの組成について、全鉄濃度(%T.Fe)が20質量%以下となるように、還元性の固体または気体の種類および供給量を調整するものである。
【0039】
<第3工程>
誘導溶解炉での還元鉄溶解により生成するスラグの温度低下を抑制するため、炉上に加熱源を設置してスラグに熱供給する第3工程を有することが好ましい。加熱源としては、バーナー加熱、電極を用いた通電加熱、スラグ中に導電体を浸漬しての誘導加熱など、スラグを直接加熱可能な手段であればこれらに限らず、複数の手段を併用しても良い。バーナー加熱は、重油等の液体燃料、CO、H2、炭化水素等の気体燃料のいずれでも良く、組み合わせでも構わない。スラグ中に浸漬する導電体は誘導電流により発熱する物であれば何でもよいが、コストを考えると鉄棒、炭素棒などをスラグ中に浸漬した状態で保持するか、生成スラグの密度と同等の嵩密度になる様に作製した還元鉄の粒を上添加し、スラグ中に滞留させることでもよい
【0040】
<第六実施形態>
原料である直接還元鉄は、不純物としてりんを含む場合があり、溶融鉄からりんを除去することが好ましい。また、溶融鉄に所望の成分を添加することが好ましい場合がある。本発明の第六実施形態は、このような要望から開発されたものである。
【0041】
脱りん反応は下記(A)式で表されるように酸素源およびCaO源が必要となる。
2[P]+5/2・O2(g)+3CaO(s)=3CaO・P2O5(s) ・・・(A)
ここで、[P]は溶融鉄中のりんを示す。たとえば、不純物としてのりんを溶融鉄から除去する方法として、溶解ステップで得られた溶融鉄、または、排滓ステップでスラグを排出したのちの溶融鉄に酸素減とCaO源とを供給することができる。
【0042】
脱りん処理の酸素源には一般的に純酸素ガスが用いられる。しかしながら、脱りん反応は発熱反応であるため低温で脱りん処理を行うことが有利であることを考慮すると、処理に問題ない範囲で溶融鉄温度を下げることが有利であると結論に至った。
【0043】
検討の結果、酸素源として空気あるいは鉄鉱石やミルスケール等の酸化鉄源を供給することで、溶融鉄を冷却しつつ十分に脱りんが可能であることを見出した。空気の利用については、空気に含まれる窒素ガスの顕熱として抜熱が進行することによって純酸素ガスに対する冷却効果が得られる。また、酸化鉄源の利用については、酸化鉄源が還元されて金属Feとなる、あるいは酸化鉄の形で溶融スラグを形成する際に吸熱することによって純酸素ガスに対する冷却効果が得られる。
【0044】
次に、石灰石に含まれる炭酸カルシウムはCaOとCO2に分解する際に吸熱するため、CaO源として石灰石を使用することで、溶融鉄を冷却することが可能となる。同様の冷却効果は、生ドロマイト等の炭酸塩を供給することによって得られるが、副原料中のCaO割合が低くなると、添加する副原料の量が多くなり、スラグ生成量が増大したり、添加に要する時間が長くなるなどの操業上の課題が生じるため、求める冷却効果と安定した操業を考慮して添加する副原料の種類と量を調整することが好ましい。
【0045】
脱りん処理を行う容器のフリーボード(溶融鉄上面位置から容器上端位置までの高さ)や上吹きランスのノズルの形状によりスピッティングの発生挙動は異なるので、脱りん処理の操業状況に応じて純酸素ないしは空気の供給速度やランス高さを調整することが好ましい。また、溶融鉄に攪拌を付与するため、不活性ガスを吹き込むと良い。不活性ガスはポーラスプラグやインジェクションランスを設置して吹き込むと良い。スラグ塩基度は1.5~4.0の範囲であることが好ましく、排滓ステップで持ち越すSiO2を多く含むスラグ量と、添加するCaO源の種類と量で調整を行う。必要に応じて珪石やフェロシリコンなどのSiO2源や、生石灰などのCaO源を添加してもよい。
【0046】
なお、スラグ塩基度が低いと脱りん処理でのりん除去量が小さくなる。スラグ塩基度が高いと溶融鉄温度が低下した際にスラグの一部が凝固し耐火物に付着するため、脱りん処理後スラグの除去が困難となり、次回の処理時に溶融鉄を装入した際に異常反応が生じる、残留スラグが生成スラグに混入して成分外れの原因となるなどの問題が生じ得る。また、このような空気を用いた脱りん処理では高温の排ガスが多量に発生するため、ボイラー等を用いて排熱回収してもよい。
【0047】
さらに、上記実施形態で得られた溶融鉄は、そのまま次工程で必要な成分となる様に精錬を行って溶鋼としてもよい。一度型枠内で凝固させて固体鉄を製造し、需要地へ輸送した後に再溶解してから精錬を行って溶鋼としても良い。前者であれば、凝固・再溶解の工程を必要としないため、エネルギー的に優位であるが、還元鉄製造プラント、誘導溶解炉、精錬設備を連続的に配置する必要があり、既存の製鉄所に設置する場合は場所の制約が生じる。あるいは、全て新設するのであれば、莫大な費用を要することに加え、既存の設備の活用が出来なくなる。後者であれば、還元鉄製造プラント、誘導溶解炉および凝固設備と、再溶解設備および精錬設備を分離することが可能となり、例えば、還元鉄製造~凝固までを鉄鉱石の産出国で行い、凝固鉄を需要地へ輸送し、再溶解・精錬を行うことが可能である。この場合、既存の精錬設備が活用できることに加え、鉄鉱石に含まれる脈石分の重量を減じた状態の凝固鉄を輸送することになるので、輸送コストの低減にも繋がる。どちらのプロセス構成を選択するかは、事業所の位置や所有する設備などを考慮して適切に選択すればよい。
【0048】
本発明の第六実施形態は、以上のような検討から得られたものであり、第一~第五のいずれかの実施形態に加え、溶解ステップで得た溶融鉄を精錬する精錬ステップを更に備えるものである。該精錬ステップは、排滓ステップの後に実施することが好ましい。
【0049】
<第七実施形態>
本発明の第七実施形態は、上記第一~第六のいずれかの実施形態にかかる直接還元鉄の溶解方法で得られた溶融鉄を凝固させて固体鉄とするものである。その固体鉄の全鉄濃度T.Feが93質量%以上であり、酸化物成分の合計が3質量%以下であることが好ましい。また、固体鉄は凝固させる鋳型の形状や大きさに制限はないが、その後の荷役・梱包・運搬・使用設備への供給などを考えると10~100mmの範囲の粒径の粒状に凝固させることが好ましい。
【0050】
<第八実施形態>
本発明の第八実施形態は、副生物としてのスラグを土木建築用資材として活用するものである。すなわち、上記第一実施形態の排滓ステップによって排出されたスラグを冷却固化し土木建築用資材原料とする冷却固化ステップをさらに備えるものである。冷却固化したスラグは、上記塩基度範囲にあるとともに、冷却方法によって様々な粒度分布を取り、必要に応じて追加の破砕・分級等の粒度調整処理を行うことで、その特性を利用した資材として利用が可能である。例えば、排出されたスラグを水砕すると、微細なガラス状となり、比表面積が0.35m2/g以上0.50m2/g未満であることから、セメント原料(結合材)として利用可能である。また、大気中で徐冷し、使用用途に応じた粒度調整を行うことで、路盤材やコンクリート骨材として利用可能である。このように、冷却固化の方法については、排出されたスラグの利用目的に応じて事業者が適切に選定すれば良い。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
内径0.9m、炉底から出湯樋の下端までの高さが1.8mの誘導溶解炉を用いて種湯0.5tを溶解した炉内に、表2に示す還元鉄Cを炉体から溢れないように添加し、溶解が進行して炉内の積層高さが下がったのを確認した後、上部に設けたホッパーから上添加することを、還元鉄の合計添加量が5.0tとなるまで繰り返した。炉底には、PCD(Pitch Circle Diameter,ピッチ円直径)が0.3mおよび0.6mの位置にそれぞれ等間隔に6か所ずつの底吹きノズルが設けられており、ガスヘッダーを経由して、任意の組み合わせのノズルに対してそれぞれ同流量のガス供給が可能な構成となっている。副原料の供給可能なホッパーを炉上に有し、処理の任意のタイミングで、10kg単位での切り出しが可能である。炉内の溶融鉄の温度を適宜測定し、1600±20℃となる様に誘導溶解炉の出力ないしは還元鉄、副原料の供給速度を調整した。
【0052】
ノズルからの供給ガス流量ないしは添加する副原料の種類・量を変更した溶解処理を実施した。副原料に使用した生石灰は、石灰石を高温焙焼してCO2を除去した物を用い、CaO濃度はほぼ100質量%である。珪石は砕石場で採取された物を粉砕処理した物であり、SiO2濃度は約98質量%で、わずかなAl2O3およびMgOを含む。ボーキサイトはAl製錬の原料として輸入された鉱石を粉砕処理した物で、Al2O3濃度は約50質量%で、残りの不純物として結晶水、SiO2、TiO2などを含む。処理後には炉体を傾動し、炉内の溶融鉄を完全に排出し、出湯重量を秤量した。また、スラグを採取して53μm以下まで粉砕し、化学分析に供した。得られた値を処理条件と共に表3-1および表3-2に示す。ここで、比較として炉底からのガス供給を行わない条件でも処理を行った。
【0053】
【0054】
【0055】
表3-2におけるスラグ流動性の判定は、炉上に設けた覗き窓から観察した炉内のスラグ表面が、全体的に赤熱しており、常に高温のスラグが循環している状態を〇、少なくとも一部が黒くなった固体状態となっているが、固体状態のスラグが、表面を常に移動している状態を△、全体的に黒くなっており、ひび割れた部分が赤熱している程度でスラグが停滞している状態を×とした。ここで、スラグ流動性が〇の条件においては、5.0tの還元鉄を添加し始めてから、完全に溶解して出湯のための傾動を開始するまでが90分以内であったのに対し、スラグ流動性が△の条件においては90分より長い時間を要した。この差異は、スラグの一部が固体となっており、排滓ステップにおいて出湯口へのスラグ移動に時間を要したためである。スラグ流動性が×の条件においては、還元鉄および副原料を追装しても、凝固したスラグ表面上に堆積し、溶融鉄の内部に侵入することが無く、初期から装入していた還元鉄しか溶解することが出来なかった。
【0056】
処理No.1~19はスラグ流動性の評価が○または△であったのに対し、処理No.20はスラグ流動性の評価が×であった。処理No.20では炉底からのガス供給を行わなかったため、溶融鉄からのスラグへの熱供給が十分なされずスラグが凝固したと考えられる。処理No.1~19は、いずれもガス供給を行ったため、スラグ組成に依らずスラグ流動性を保持しており、排滓をすることが可能であった。ただし、表3-1および表3-2から明らかな様に、上記(1)式および(2)式を満足し、スラグの塩基度C/Sが0.5以上2.0以下の範囲内にあり、CaO-SiO2-Al2O3の三元系に換算したスラグ中のAl2O3濃度が10質量%以上25質量%以下の範囲にあるときに、特にスラグ流動性が良好であった。
【0057】
処理No.13~15は、炉底からのガス供給量が大きすぎたため、上述の吹き抜け現象が生じ、溶融鉄の飛散が顕著であった。結果、出湯されたメタル量も他の発明例に比べて低位であった。処理No.16は生石灰を過剰に添加した結果、スラグ塩基度C/Sが2.0を超え、スラグの融点が上昇して流動性が低下し、排滓時間が長くなった。処理No.17は珪石を過剰に添加した結果、スラグ塩基度C/Sが0.5未満となり、スラグの粘度が上昇して流動性が低下し、排滓時間が長くなった。処理No.18はボーキサイトを過剰に添加した結果、CaO-SiO2-Al2O3三元系換算のAl2O3濃度が25質量%を超え、スラグの融点が上昇して流動性が低下し、排滓時間が長くなった。処理No.19は生石灰と珪石を過剰に添加した結果、CaO-SiO2-Al2O3三元系換算のAl2O3濃度が5質量%未満まで希釈され、スラグの融点が上昇して流動性が低下し、排滓時間が長くなった。
【0058】
副原料は生石灰、珪石、ボーキサイトに限るものではなく、上述したその他の物質によってスラグ組成を制御しても問題ないことを確認した。副原料の添加時期は、溶解開始から溶解完了までの間に、段階的に添加することがよりよいことがわかった。これは、溶解開始直後に多量の副原料を添加すると、還元鉄同士、あるいは還元鉄と種湯の接触を阻害し、誘導加熱の効率悪化による溶解時間の増大が見られたことによる。またこの時、溶解完了後には既にスラグが生成しており、組成によってはスラグが凝固してしまい、副原料を添加しても凝固したスラグの上に載った状態となり、スラグの低融点化に寄与しないという問題も見られた。
【0059】
種湯が無くても還元鉄の溶解が進行するが、種湯がある場合、誘導加熱された種湯から固体の還元鉄への熱供給がなされる結果、還元鉄溶解に要する時間が短縮されるため、種湯がある方が好ましい。投入する還元鉄に対して5質量%程度以上の種湯があると特に有効である一方で、種湯が多くなると誘導溶解炉の容積に対して占める割合が増加し、溶解可能な還元鉄の量が低下してしまうため、種湯の割合は投入する還元鉄に対して70質量%以下とすることが好ましい。また、種湯は嵩密度の大きいスクラップや大塊地金を新たに溶解する他、前回の溶解処理で溶解した溶融鉄の一部を炉内に残しておくことでもよい。
【0060】
なお、ノズルの位置や組み合わせを変えた処理を行ったが、位置や組み合わせに依らず、ノズル1個当たりに供給するガス量が上記(2)式を満たす場合にはスラグの流動性が確保され、かつ溶融鉄の飛散が小さかったのに対し、(2)式を満たさない場合には、溶融鉄の飛散が増加し、メタル歩留まりが低下した。
【0061】
また、ノズルの位置は、炉底でなく炉の側面でも問題ないことを確認した。ただし、炉の側面に設けたノズルから炉底までの距離hが大きい、すなわちHが小さいと(2)式を満たすガス供給速度が低下し、溶融鉄の熱をスラグに有効に伝達することが困難となるため、ノズルの位置は極力炉底または炉底付近とすることが好ましい。
【0062】
(実施例2)
実施例1と同じ誘導炉を用い、生成スラグに含まれるFeO分を還元する処理を実施した。ガス還元材として、CO、H2およびCH4を底吹きノズルから供給し、ガス還元材の供給時間は90分で一定とした。また、固体還元材として固体C、金属Alおよび金属Siを生成スラグに対して上添加する処理をそれぞれ実施した。ここで、金属Alおよび金属Siで還元した場合、生成スラグの塩基度およびAl2O3濃度が変化するため、生石灰ないしは珪石を副原料として添加して、スラグ塩基度およびAl2O3濃度を調整した。処理後には炉体を傾動し、炉内の溶融鉄を完全に排出し、出湯重量を秤量した。また、スラグを採取して53μm以下まで粉砕し、化学分析に供した。得られた値を処理条件と共に表4-1および表4-2に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
処理No.21~27の還元性ガスを供給した条件において、実施例1の処理No.4と比較してメタル出湯量が増えており、スラグ中T.Fe濃度が低下していることが分かる。すなわち、ガス還元材が生成スラグ中FeOの還元に有効に寄与していることが明らかとなった。また、処理No.23~27を比較すると、供給する還元性ガス(CH4)の供給量を増加することで、スラグ中T.Feが低減し、メタル出湯量が増加していることが分かる。
【0066】
次に、処理No.28~30の固体還元材を添加した条件においても、実施例1の処理No.4と比較してメタル出湯量が増えており、スラグ中T.Fe濃度が低下していることが分かる。還元性ガスと同様に固体還元材が生成スラグ中FeOの還元に有効に寄与していることが明らかとなった。
【0067】
還元材の種類および組み合わせ、添加量、添加タイミングなどを変えて種々の評価を行ったが、いずれも還元材を添加しない条件に比べてメタル出湯量が増えており、スラグ中T.Fe濃度が低下していた。溶融鉄を製造するという本技術の目的に対し、還元材を供給して鉄歩留まりを改善させることでスラグ中のT.Fe濃度を20%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下となる様に、スラグを還元することが好ましい。ただし、還元が進行するほど供給した還元材の利用効率は低下するので、還元鉄、副原料および還元材の組成と価格を考慮して処理方法を決定することが重要である。
【0068】
(実施例3)
実施例1および2で得られた溶融鉄を、温度調整をした上で鍋型の容器に移し替えた。この時、還元鉄に含まれる脈石起因で誘導溶解炉での溶解時に生成したスラグの内、約10kg/t-溶融鉄を一緒に鍋型容器に移し替え、残りは別のスラグ容器に移し替えた。鍋型の容器を脱りん処理設備へと移動し、供給する酸素源と石灰源の種類と量を変更して脱りん処理を行った。脱りん処理設備はガス上吹きランス、副原料切り出しホッパー、底吹きポーラスプラグを有する。ガス上吹きランスからは、約1Nm3/(分・t-溶融鉄)の速度で純酸素ないしは空気を含むガスを供給可能である。副原料切り出しホッパーは3基あり、それぞれ鉄鉱石、生石灰(CaO)、炭酸カルシウム(CaCO3)が充填されており、それぞれ約10kg/分の速度で供給が可能である。底吹きポーラスプラグからはガスを供給することが可能であり、本実施例では約0.1Nm3/(分・t-溶融鉄)の速度で純Arガスを供給した。
【0069】
脱りん処理前の溶融鉄温度が1590℃程度となる様に誘導溶解炉での溶解温度を調整した。ガス上吹きランスを下降する前および処理後にガス上吹きランスの上昇が完了したタイミングをそれぞれ脱りん処理前後とし、それぞれサブランスを用いて測温・サンプリングを実施した。サンプリングしたサンプルは切断・研磨を行い、発光分光分析法により、予め作成した検量線から溶融鉄中のC濃度[C]およびP濃度[P]を評価した。また、サブランス測温・サンプリングを行なったタイミグにおける溶湯の凝固温度を測定することが可能であり、脱りん処理後の溶融鉄の凝固温度Tmを実測した。
【0070】
ガス上吹きランスの下降開始を脱りん処理開始とし、上吹きランスが所定高さに到達後、酸素ガス源の供給および副原料の添加を開始した。所定量の酸素ガス源および副原料の供給が完了した後、上吹きランスが待機位置まで上昇完了した時点を脱りん処理終了とした。その間を処理時間tf(分)とした。
【0071】
脱りん処理後、鍋型容器を傾動し、スラグドラッガーにより溶融鉄上のスラグを除去した。除去したスラグの一部を採取し、化学分析を行った。その後、鍋をクレーンで吊り上げて傾動し、タンディッシュに溶融鉄を移し替え、タンディッシュから溶融鉄を流下し定盤に衝突させて粒滴となった溶融鉄を、冷却水槽に落下させて凝固させることで粒鉄を製造した。得られた粒鉄の粒径は0.1~30mmであった。粒度分布は、+0.1mm-1mm:17.2質量%、+1mm-10mm:31.3質量%、+10mm-20mm:38.8質量%、+20mm-30mm:12.7質量%であった。ここで、+N-Mとは、目開きNの篩上であって、目開きMの篩下であることを意味する。
【0072】
脱りん処理後溶融鉄温度Tfが脱りん処理前溶融鉄温度Tiより低くなるように調整しながら、スラグ塩基度C/Sを1.5~4.0の範囲に調整し、脱りん処理後溶融鉄温度Tfを該溶融鉄の凝固温度Tmから20℃以上高くなるように調整した。その結果、脱りん処理前溶融鉄のP濃度[P]i:0.12質量%程度が脱りん処理後溶融鉄のP濃度[P]f:0.02~0.04質量%まで低下した。また、粒鉄の生産性を阻害することなく、固体鉄を製造できた。
【0073】
上記で製造した粒鉄を含め、実施例1および実施例2の発明例で生成した溶融鉄を凝固させると、鋳型の寸法・形状によらず、全鉄量T.Feが93質量%以上であり、酸化物成分の合計が3質量%以下である固体鉄が得られることを確認した。鋳型の寸法・形状はその後の使用用途に応じて変更すれば良いが、荷役・梱包・運搬・使用設備への供給などを考えると10mm以上100mm以下の粒状に凝固させることが好ましい。
【0074】
実施例1および実施例2の発明例で生成したスラグは排滓するために必要な流動性を有している。スラグの塩基度と同じC/Sが0.5~2.0の範囲にあり、CaO-SiO2-Al2O3三元系換算のAl2O3濃度が10~25質量%の範囲にある。そして、溶融スラグを水砕処理をすることで微細なガラス状となり、0.35m2/g以上0.50m2/g未満となり、セメント原料として利用可能であることを確認した。また、溶融スラグ大気中で徐冷することにより、数百mm程度以下のスラグ塊が得られ、これを破砕・分級して適切に粒度調整することで、路盤材やコンクリート骨材として利用可能であることを確認した。
【0075】
本明細書中で、質量の単位「t」は、103kgを表す。また、体積の単位「Nm3」に付すNは気体の標準状態を示し、本明細書では気体の標準状態を1atm(=101325Pa)、0℃とする。化学式の表記で[M]は元素Mが溶融鉄や還元鉄中に溶解していることを表す。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の直接還元鉄の溶解方法によれば、直接還元鉄を誘導溶解炉で溶解するに際して、溶融鉄中に気体を吹き込み、スラグの流動性を上げて、スラグと溶融鉄とを分離したので、固体鉄および副生物を高品位に製造できるので産業上有用である。