(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】土留め構造物、土留め構造物の安定計算および応力度計算プログラムおよびその施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20250219BHJP
E02B 7/02 20060101ALI20250219BHJP
E02B 3/14 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
E02D29/02 303
E02B7/02 B
E02B3/14 301
(21)【出願番号】P 2024182310
(22)【出願日】2024-10-18
【審査請求日】2024-10-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301076256
【氏名又は名称】株式会社大川構造設計
(74)【代理人】
【識別番号】100185454
【氏名又は名称】三雲 悟志
(72)【発明者】
【氏名】大川 修
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-144501(JP,A)
【文献】特開2023-000338(JP,A)
【文献】米国特許第04380409(US,A)
【文献】特開2021-070972(JP,A)
【文献】特開2001-295302(JP,A)
【文献】実開昭54-168706(JP,U)
【文献】米国特許第05163261(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
E02B 7/02
E02B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートからなる前面フランジ、前記前面フランジに対して間隔をあけて対向して配置され、土砂に接する背面フランジ、前記前面フランジと背面フランジの間に配置され、コンクリートからなるウエブ、および前記前面フランジと背面フランジの間においてウエブ以外の位置に形成された空間を含むブロックと、
前記空間に入れられ、コンクリート殻または岩石の少なくとも1つを含む第1無機物と、
前記第1無機物よりも粒径が小さい土砂を含み、第1無機物同士の間を埋める第2無機物と、
を含み、
複数の前記ブロックが前面フランジ同士、背面フランジ同士およびウエブ同士を重ねて積層されており、前記空間に入れられた第1無機物と第2無機物が締め固められ
、
最下段にある前記ブロックの下にある基礎および前記基礎の下にある均しコンクリートを含み、前記基礎と均しコンクリートが凹凸によって滑動抵抗力が強化された土留め構造物。
【請求項2】
前記ブロックの積層方向において、ブロックの水平断面が一定である請求項1の土留め構造物。
【請求項3】
前記ブロックにおいて、隣り合うブロックと一体化させるための凹部および凸部を含む請求項1または2の土留め構造物。
【請求項4】
前記ブロックがケミカルコンクリートで構成された請求項1または2の土留め構造物。
【請求項5】
請求項1に記載の前面フランジ、背面フランジ、ウエブの断面積、断面係数、断面二次モーメント、重量および抵抗モーメントを計算する第1計算部、
前記空間の容量から空間に入る第1無機物と第2無機物の全体の重量および抵抗モーメントを計算する第2計算部、
背面土砂、上載荷重、慣性力の少なくとも2つによる重量および転倒モーメントを計算する第3計算部、
外力の作用位置が基礎の中心により近くなるように自動計算する第4計算部、
としてコンピュータを機能させる土留め構造物の安定計算および応力度計算プログラム。
【請求項6】
均しコンクリートを敷く工程と、
前記均しコンクリートの上に基礎を設置する工程と、
コンクリートからなる前面フランジ、前記前面フランジに対して間隔をあけて対向して配置され、土砂に接する背面フランジ、前記前面フランジと背面フランジの間に配置され、コンクリートからなるウエブ、および前記前面フランジと背面フランジの間においてウエブ以外の位置に形成された空間を含むブロックを準備する工程と、
前記基礎の上に複数の前記ブロックを水平方向に並べて設置する工程と、
前記空間にコンクリート殻および岩石の少なくとも1つを含む第1無機物、および前記第1無機物よりも粒径が小さい土砂を含み、第1無機物同士の間を埋める第2無機物を入れる工程と、
前記第1無機物および第2無機物を締め固める工程と、
を含
み、
前記基礎を設置する工程が、基礎と均しコンクリートが凹凸によってはめ合わせる工程を含む土留め構造物の施工方法。
【請求項7】
前記ブロックを積層する工程と、
積層された前記ブロックの空間に第1無機物と第2無機物を入れる工程と、
前記第1無機物および第2無機物を締め固める工程と、
を含み、
前記ブロックの積層方向において、ブロックの水平断面が一定である請求項6の土留め構造物の施工方法。
【請求項8】
前記ブロックにおいて、隣り合うブロックと一体化させるための凹部および凸部を含み、
前記ブロックを配置する時に、凹部と凸部をはめ合わせる工程を含む請求項6または7の土留め構造物の施工方法。
【請求項9】
前記ブロックがケミカルコンクリートで構成された請求項6または7の土留め構造物
の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留め構造物、土留め構造物の安定計算および応力度計算プログラムおよびその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
資源の枯渇に対する対策およびCO2発生の削減のため、コンクリートの使用量を低減させることが求められている。下記特許文献1は有底型側壁コンクリートセグメントの中に中詰材を充填し、積層している。中詰材はフェロニッケルスラグ、フライアッシュなどを利用している。
【0003】
しかし、特許文献1は補強鉄筋を必要としており、建設工事を容易にすることはできない。中詰材の内容によってはコンクリートの量が多くなるおそれがある。有害物質が中詰材として使用されることも記載されており、有害物質の処理のために工程が増える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的はコンクリートの使用量を低減させながら簡単な工法で設置が可能な土留め構造物、土留め構造物の安定計算および応力度計算プログラムおよびその施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の土留め構造物は、コンクリートからなる前面側のフランジと背面側のフランジと前記フランジを結合するウエブで構成されており、ウエブの両側に空間を含むブロックと、前記空間に入れられ、産業廃棄物のコンクリート殻および現場で発生する玉石等の岩石の少なくとも1つを含む第1無機物(重量比80%程度)と、前記第1無機物よりも粒径が小さい土砂を含み、第1無機物同士の間を埋める第2無機物(重量比20%程度)とを含む。複数の前記ブロックが前面側と背面側のフランジの上面と下面および両側に凹凸を設けて重ねて積層されており、前記空間に入れられた第1無機物と第2無機物が転圧により締め固められている。上下ブロックの積層において、フランジ部での凹凸の替りにウエブで凹凸を設けて積層しても良い。
【0007】
本発明の土留め構造物の安定度、応力度計算プログラムは、フランジとウエブの重量を計算する第1計算部、前記空間に入る第1無機物と第2無機物の全体の重量を計算する第2計算部、前記土留め構造物の全体の重量を求め、土圧、水圧、上載荷重等の外力による断面力を計算する第3計算部、断面積、断面係数と断面二次モーメントを計算する第4計算部およぶ安定度計算と応力度計算を求める第5計算部としてコンピュータを機能させる。更に、抵抗モーメントに関係する自重、躯体勾配と転倒モーメントに関する前記外力とを調整して、外力の作用位置が基礎の中心により近くなるようにコンピュータを機能させる。
【0008】
本発明の土留め構造物の施工方法は、工場にてコンクリート断面をI型またはH型とし、土砂に接する背面フランジと前面側のフランジを結合するウエブで構成されており、前記フランジの両側の上面、下面に凹凸を設ける。凹凸はウエブの上面、下面でも良い。前記コンクリート以外の位置に形成された空間を含むブロックを製造する工程と、前記プレキャストコンクリートを現場に搬送して、クレーン等で吊り上げて、複数の前記ブロックを水平方向と鉛直方向に設置して一体化させる工程と、前記空間にコンクリート殻および現場で発生する玉石等の岩石の少なくとも1つを含む第1無機物、および前記第1無機物よりも粒径が小さい土砂を含み、第1無機物同士の間を埋める第2無機物を入れる工程と、前記第1無機物および第2無機物をダンパー等の転圧機で締め固める工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、本土留め構造物は、ウエブの両側に第1無機物と第2無機物を入れて締め固めるのでコンクリートのみの構造との重量の差が僅かで安定計算に問題はない。産業廃棄物の有効活用、構造形式による工期短縮が可能で経済的である。更に、コンクリートの使用量を減らせるのでCO2の発生を抑制でき環境に優しい発明である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図5】フランジの側面の結合が水平方向からのみ可能なブロックを示す斜視図である。
【
図6】(a)は本願で使用されるブロックの水平断面図であり、(b)は従来のブロックの水平断面図である。
【
図7】フランジの側面の結合が水平方向と鉛直方向から可能なブロックを示す斜視図である。
【
図8】土留め構造物の天端に地域に生息する鳥、魚、昆虫や草花等を描いたプレートを設置した図である。
【
図9】安定計算に使用した本願の土留め構造物を示す図であり、(a)は側面断面図、(b)は水平断面図である。
【
図10】安定計算に使用した従来の土留め構造物を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の土留め構造、土留め構造物の安定度、応力度計算プログラムおよびその施工方法について図面を参照して説明する。図面は説明のために模式的に示している。
【0012】
[実施形態1]
図1~3に示す本願の土留め構造物10は段差のある地形に設置される擁壁を含む。擁壁には砂防ダムおよび河川等の護岸などが含まれる。従来の土留め構造物10の高さは約8.0m~10.0m程度であるが、本願の土留め構造物10はその高さに限定されない。前面勾配1:Nまたは躯体幅を広くして、抵抗モーメントと転倒モーメントの差を極力小さくすれば、擁壁高さをより高くすることが可能である。土留め構造物10は背面側に傾斜して設置されてもよいし、垂直に設置されてもよい。
【0013】
土留め構造物10は、複数のブロック12を水平方向に並べ、ブロック12が鉛直方向に複数段になるように積み重ねられる。ブロック12の下に基礎14が設置される。基礎14の下には、均しコンクリート16および基礎砕石が敷かれてもよい。
【0014】
図4に示す基礎14はプレキャストコンクリートである。基礎14の上面はブロック12の積層方向に対して直角になるようにする。基礎14が並べられると、隣り合う基礎14の第1側面18と第2側面20が接する。第1側面18に第1凸部24、第2側面20に第1凹部22が形成されている。基礎14が並べられたときに第1凸部24と第1凹部22がはめ合わされる。第1凸部24と第1凹部22の数は1つに限定されない。基礎14の大きさによって複数あってもよい。
【0015】
基礎14の底面を粗面化してもよい。均しコンクリート16の上面も基礎14と同様に粗面化してもよい。符号26、28は不規則な形状や凹凸とするが、たとえば凸の高さ(または凹の深さ)および間隔(凸から凸までの間隔または凹から凹までの間隔)が1~10mm、好ましくは3~5mm程度の凹凸にする。基礎14は工場で製造する際に凹凸26を形成しておく。均しコンクリート16は、その上面をコンクリートが硬化する前にコテやブラシで表面を粗く仕上げて凹凸28を形成する。凹凸26の凹と凹凸28の凸の一部または全部、凹凸26の凸と凹凸28の凹の一部または全部がはめ合わされてもよい。凹凸26、28で土留め構造物10の滑動抵抗力が強化される。前期摩擦係数は公共機関で試験を実施して、設計計算に反映させる。
【0016】
ブロック12はコンクリートの硬化物である。本実施形態はブロックに鉄筋を使用していない。ブロック12は前面フランジ30、背面フランジ32およびウエブ34を備える(
図5)。前面フランジ30および背面フランジ32は平板状になっており、その厚みを厚くした構造である。ブロック12の長さは施工性を考慮して1.0m~3.0m程度とする。高さについては、転圧の作業性を考慮して1.0mを標準とする。ブロック12の高さ調整は最上段でする。背面フランジ32が砂防ダムまたは護岸などの土砂36などに接する側である。背面フランジ32から前面フランジ30に向けて土圧、水圧、上載荷重等の外力が作用する。
【0017】
ウエブ34は前面フランジ30と背面フランジ32を連結する部分である。ウエブ34は前面フランジ30と背面フランジ32の中央に連結されている。ウエブ34は平板状になっており、その厚みを厚くした構造である。ウエブ34の高さは前面フランジ30と背面フランジ32の高さと同じであり、たとえば1.0mを標準とする。
図6に示すブロック12のH、t1、t2は応力度計算に大きく影響を与える。ブロック12の水平断面はI型またはH型になっている。土圧、水圧、上載荷重の外力に対して、ウエブ34の長さ(前面フランジ30から背面フランジ32までの距離)h1と前面フランジ30、背面フランジ32およびウエブ34の厚みt1、t2が応力度計算に影響して、
図6に示すブロック12の強度が高められる。
【0018】
ブロック12の前面フランジ30および背面フランジ32の上面に第2凹部38が設けられている。ブロック12の前面フランジ30および背面フランジ32の下面に第2凸部40が設けられている。ブロック12が積み上げられたとき、第2凸部40が第2凹部38の中に入ることにより、積層方向にあるブロック12が一体化される。第2凹部38はウエブ34の上面1ケ所に形成されていてもよい。第2凸部40はウエブ34の下面1ケ所に形成されていてもよい。
【0019】
基礎14の上面に第2凹部38を形成する。基礎14の上にブロック12を設置する時に、ブロック12の第2凸部40を基礎14の第2凹部38に入れる。
【0020】
ブロック12を前面フランジ30から見た場合、ブロック12の前面フランジ30および背面フランジ32の右側部に第3凹部42が設けられている。ブロック12の前面フランジ30および背面フランジ32の左側部に第3凸部44が設けられている。ブロック12が水平方向に並べられたとき、第3凸部44が第3凹部42の中に入ることにより、水平方向にあるブロック12が一体化される。
【0021】
第2凹部38と第2凸部40の連結および、第3凹部42と第3凸部44の連結によって全てのブロック12が一体化される。土留め構造物10の構造安定性と耐久性が向上する。
【0022】
ブロック12の積層方向において、上方のブロック12と下方のブロック12の形状寸法は同じとする。従来の砂防ダムなどは安定度計算と応力度計算を満足させるために、下部ほどコンクリートを厚くしていたが、本願は同じとする。土留め構造物10の重量を重くし、安定性を高めることができる。
【0023】
本願のブロック12と従来の直方体のブロック(空間の無いブロック)100の断面係数について比較検討する。
図6に示すブロック12とブロック100のBは幅、Hは躯体の厚みを示し、Hは安定度計算と応力度計算で決定される。本願のブロック12の断面積はA=B×t2×2+h1×t1となる。ブロック100の断面積はA=B×Hとなる。本願のブロック12の断面係数はZ=(B×H
3-(B-t1)×h1
3)/(6×H)(mm
3)となり、ブロック100の断面係数はZ=B×H
2/6(mm
3)となる。断面係数は躯体の厚みHの2乗の効果があるので、躯体の厚みHを大きくすれば、応力度計算に大きく影響を与える。
【0024】
ブロック12の前面フランジ30と背面フランジ32の間において、ウエブ34以外の部分は空間46になっている。複数のブロック12を水平方向に並べられることで、空間46は前面フランジ30、背面フランジ32およびウエブ34で囲まれる。その空間46には第1無機物48および第2無機物50が入れられて転圧される。
【0025】
第1無機物48は少なくともコンクリート殻および現地で発生する玉石等の岩石の少なくとも1つを含む。コンクリート殻は建築物または土木構造物を破砕したときに発生する廃棄物であってもよい。玉石等の岩石は土留め構造物の設置場所で採取できる物であってもよい。
【0026】
第1無機物48はコンクリート殻および玉石等の岩石以外にモルタルおよび瓦などの廃棄物を含んでもよい。第1無機物48におけるコンクリート殻、玉石等の岩石またはその両方の体積の合計の割合は約80%とし、第2無機物50が残りの空隙を埋める。従来の躯体断面の重量と前記形式の重量比が僅差となる。コンクリート殻または玉石等によって土留め構造物10の重量を重くして安定度を向上させ、躯体の厚みHを大きくして応力度を向上させる。第1無機物48は粉砕されて、細かな粒径になったものを含む。
【0027】
第2無機物50は土砂を含む。第2無機物50は第1無機物48よりも粒径が小さいことが好ましい。第1無機物48だけでは空隙が生じるため、第2無機物50によってその空隙を埋める。土砂の種類としては粒径約2mm未満の粘土、シルトおよび砂の少なくとも1つを含む。第1無機物48同士の空隙が埋められれば、その第2無機物50の粒径は限定されない。第2無機物50に粒径約2mm以上の礫を含める場合、礫よりも粒径の小さい砂なども一緒に含むことが好ましい。
【0028】
第1無機物48と第2無機物50の全体に対する第1無機物48の割合は70~90%である。第2無機物50よりも第1無機物48の割合を多くすることで、土留め構造物10に使用されるコンクリート殻などの割合を多くする。土留め構造物10の重量が重くなり、土留め構造物10の安定度を高めることができる。
【0029】
空間46に入れられた第1無機物48と第2無機物50を締め固める。締め固めることで、空間46から空気が抜かれ、第1無機物48と第2無機物50の空間46への充填率が高められる。土留め構造物10の重量が増し、土留め構造物10の安定度を高めることができる。空気間隙率は0~15%、好ましくは0~10%、さらに好ましくは0~5%である。締固め度は85~100%、好ましくは90~100%、さらに好ましくは95~100%である。
【0030】
本願のブロック12は直方体のブロック100に比べ、空間46がある分だけ自重は軽くなる。本願は上記のようにコンクリート殻等を含む第1無機物48および第2無機物50を空間46に充填する。たとえば、本願の土留め構造物10は、直方体のブロック100がコンクリートを100%利用した場合と、前面フランジ30、背面フランジ32およびウエブ34をコンクリートで構成し空間46に重量比で第1無機物48を80%、第2無機物50を20%投入した場合のコンクリート部の断面積比を50%程度に減らすことが可能である。前面フランジ30、背面フランジ32およびウエブ34の厚みを適宜変更することで、土留め構造物10を安全に設計することができる。
【0031】
前面フランジ30、背面フランジ32とウエブ34の厚みを設計条件により変える場合がある。土留め構造物10は上方に行くほど土圧、水圧、上載荷重等による断面力が小さくなるのでブロック12の水平断面を小さくできるが、本願はブロック12の製造、施工性、工期等を考慮して、同一形状のブロック12を積み重ねる。ブロック12の積み重ね方向において、ブロック12の水平断面の形状および断面積の少なくとも1つは一定である。なお、最上段のブロック12は土留め構造物10を設置する地形によって他のブロック12と形状が異なっていてもよい。たとえば
図1の場合、最上段のブロック12は前面フランジ30と背面フランジ32の上部が同じ水平面になるようにしている。
【0032】
図6(a)において、例えば H=1500mm、B=1000mm、t1=200mm、h1=1100mm、h2=200mmとする。また、ブロック12の高さを1000mmとした場合、ブロック12の空間46の体積は0.40×1.10×2×1.00=0.88m
3となる。
【0033】
コンクリートの単位体積の重量は約2.3t/m3であり、土砂の単位体積の重量は約1.3~2.0t/m3である。計算のため、土砂の重量を1.7t/m3とする。空間46にコンクリート殻を80%、土砂を20%埋めるとする。1つのブロック12の空間46に入るコンクリート殻の重量は0.88×0.80×2.3t/m3=1.62t、土砂の重量は0.88×0.20×1.7t/m3=0.30tとなる。空間46に入るコンクリート殻と土砂の重量の合計は1.92tになる。本願の場合の1つのブロック12および空間46に入るコンクリート殻および土砂の合計は、1.92+(1.00×0.20×2+0.20×1.10)×1.00×2.3t/m3=3.35tになる。
【0034】
図6(b)に示す従来のブロック100の場合、ブロック100の1つの重量は1.00×1.50×1.00×2.3t/m
3=3.45tになる。少しの変動があったとしてもブロック100と本願の重量の差異は小さい。ブロック12の積層方向においてブロック12の水平断面を変化させず一定にすることで土留め構造物10の自重を重くすることができる。土留め構造物10の自重によって土留め構造物10が滑動および転倒の安定に有利となる。
【0035】
本願は、前面フランジ30、背面フランジ32、ウエブ34の断面積、断面係数、断面二次モーメント、重量および抵抗モーメントを計算する第1計算部、空間46の容量から空間に入る第1無機物48と第2無機物50の全体の重量および抵抗モーメントを計算する第2計算部、背面土砂、上載荷重、慣性力等による重量および転倒モーメントを計算する第3計算部、外力の作用位置が基礎の中心により近くなるように自動計算する第4計算部としてコンピュータを機能させる土留め構造物の安定計算(転倒、滑動、支持力)と応力度計算プログラムを備えてもよい。前面フランジ30、背面フランジ32、ウエブ34の寸法、第1無機物48、第2無機物50の割合、土留め構造物10の全体の大きさを入力する手段を備えてもよい。空間46の容量は入力された寸法から計算される。土留め構造物10の安定と応力度をコンピュータで計算し、所望の土留め構造物10が簡易に最適設計できるようにする。
【0036】
土留め構造物10の上部にキャップ52が配置される。キャップ52は最上段のブロック12の上部にのせられる。キャップ52は平状の厚みを厚くした形状である。キャップ52に第2凸部40を設けておき、最上段のブロック12の第2凹部38に第2凸部40を入れる。ブロック12の空間46の中の第1無機物48と第2無機物50は圧縮された状態が保たれる。
【0037】
ブロック12、基礎14およびキャップ52が第1凸部24と第1凹部22、第2凹部38と第2凸部40、第3凹部42と第3凸部44のはめ合わせによって一体化する。さらにブロック12の内部の空間46は第1無機物48および第2無機物50が圧縮されて入れられている。従来のコンクリートのみで構成された砂防ダム、護岸擁壁などと同等以上の品質を維持できる。
【0038】
次に土留め構造物10の施工方法について説明する。(1)工場でブロック12を製造する。基礎14の下面をプレキャスト製造工程にて3~5mm程度の凹凸26を形成して、滑動抵抗を強化して施工現場に提供する。基礎14にはブロック12の第2凸部40が入るための第2凹部38を形成しておく。更に、第1凸部24が入るための第1凹部22を形成しておく。ブロック12を積み重ねる方向に合わせて基礎14の上面にブロック12の勾配と直角になるように傾斜を形成しておく。
【0039】
(2)基礎砕石と均しコンクリート16を敷く。均しコンクリート16の上面をコンクリートが硬化する前にコテやブラシで表面を粗く仕上げて溝または凹凸28を形成して滑動抵抗を強化する。
【0040】
(3)敷かれた基礎砕石と均しコンクリート16の上に基礎14を設置する。基礎14は水平方向に並ぶように配置する。基礎14は、バックホー、クレーンなどの機械を使用して配置してもよい。基礎14の第1凸部24を基礎14の第2凹部22に入れる。基礎14の上にブロック12をバックホー、クレーンなどの機械を使用して水平方向に並べて設置する。基礎14と均しコンクリート16のそれぞれに凹凸26、28が形成されており、基礎14を設置する際に凹凸26、28が滑動抵抗力を強化する。
【0041】
(4)バックホーなど使用して第1無機物48と第2無機物50をブロック12の空間46に入れる。第1無機物48と第2無機物50を混合して入れる。入れる際、第1無機物48と第2無機物50を重量計測できる天秤を準備し、施工現場で計量することが好ましい。現場で発生する玉石等の岩石を利用する場合、事前に前記単位体積重量を測定して、設計計算に反映させることが重要である。測定方法は、水槽に岩石を入れて、あふれた水の体積を測定して、岩石の重量/水の体積で求められる。
【0042】
(5)ダンパーなどの圧縮機で第1無機物48と第2無機物50を圧縮する。圧縮によって第1無機物48と第2無機物50を締固め、ブロック12の空間46から空気を抜く。
【0043】
ブロック12の空間に第1無機物48と第2無機物50が入らなくなるまで(4)と(5)を繰り返す。ブロック12の空間46の容量よりも第1無機物48と第2無機物50の合計の容量が小さくなるようにして、第1無機物48と第2無機物50をブロック12の空間46に入れてもよい。(4)と(5)を繰り返す回数が多くなるが、空気を抜きやすくなる。
【0044】
(6)ブロック12の空間46が圧縮された第1無機物48と第2無機物50で満たされた後、そのブロック12の上に他のブロック12を積み重ねる。積み重ね方は上記(3)と同様に、第2凸部40が第2凹部38に入れられ、第3凸部44が第3凹部42に入れられるようにする。
【0045】
(7)上記(4)と(5)のように、ブロック12の空間46に第1無機物48と第2無機物50を入れ、圧縮する。
【0046】
ブロック12を積み重ね、無機物48、50を空間46に入れて圧縮することを繰り返し、所定の高さの土留め構造物10になるようにする。
【0047】
(8)最上段のブロック12の上端にキャップ52を配置する。キャップ52の第2凸部40をブロック12の第2凹部38に入れる。
【0048】
以上のように、土留め構造物10を施工する場合、工場でプレキャスト製品を製造して現場に搬入するので型枠工事は必要ない。従来の砂防ダムや護岸構造物などと比べて土留め構造物10の施工が容易である。従来の砂防ダムや護岸構造物などと比べて経済性、安全性、工期短縮、環境に優しく優越した土留め構造物10となる。ブロック12と従来のブロック100を比較すると、セメントの量を半減させることも可能である。廃棄されるコンクリート殻などを利用することで持続可能でCO2の削減も可能な土留め構造物10である。
【0049】
[実施形態2]
1つのブロック12に対してウエブ34の数は1つに限定されない。複数のウエブ34を備えたブロックであってもよい。
【0050】
[実施形態3]
ブロック12はセメントにポリマー混和剤を混合したケミカルコンクリートで構成されてもよい。ポリマー混和剤は、天然ゴムラテックス(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、メタクリル酸メチルブタジエンゴム(MBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(MBR)、ポリアクリル酸エステル(PAE)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、スチレンアクリル酸エステル(SAE)、ポリプロビオン酸エステル(PVP)、ポリプロピレン(PP)、アスファルト、ゴムアスファルト、パラフィン、混合ラレックス、混合エマルション、酢酸ビニルビニルバーサテート(VAVeoVa)、スチレンアクリル酸エステル(SAE)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリル酸カルシウム、アクリル酸マグネシウム、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、エポキシ樹脂(EP)の少なくとも1つを含む。セメントにポリマー混和剤を混合することで、ブロック12の強度を高めてもよい。ブロック12の強度が高まることで、前面フランジ30、背面フランジ32およびウエブ34の厚みを薄くし、コンクリートの使用量を更に減らすことができる。
【0051】
[実施形態4]
ブロック12の第2凸部40が前面フランジ30および背面フランジ32の下面に設けられ、第2凹部38が前面フランジ30および背面フランジ32の上面に設けられてもよい。ウエブ34の下面に第2凸部40および上面に第2凹部38が設けられてもよい。前面フランジ30、背面フランジ32またはウエブ34の少なくとも1ケ所に第2凹部38と第2凸部40が設けられてもよい。ブロック12の左側面に第3凸部44が設けられ、右側面に第3凹部42が設けられてもよい。隣り合うブロック12の凹部38、42と凸部40、44がはめ合わされて一体化できれば、その位置と形状寸法は限定されない。
【0052】
図7のブロック54の前面フランジ30と背面フランジ32の右側面および左側面において、ブロック12の上部から下部にかけて直線状に第3凸部56と第3凹部58を設けてもよい。第3凸部56と第3凹部58をはめ合わせながら、ブロック12を上方から下方にスライドさせて設置することができる。
【0053】
[実施形態5]
ブロック12に水抜孔を設ける。土留め構造物10にかかる水圧を下げるためである。水抜孔は前面フランジ30および背面フランジ32を貫く。背面土にしみ込んだ水を背面フランジ32から前面フランジ30に流す。ブロック12の空間46に入った水を抜くために最下段ブロック12の前面フランジ30および背面フランジ32の下端に穴を設けてもよい。
【0054】
[実施形態6]
擁壁の高さが高くなり、地震による慣性力の影響を強く受けてコンクリートの応力度が許容値を満足できない場合には、ブロック12の背面にアラミド繊維シートを貼り付けてもよい。アラミド繊維シートによってブロック12を補強する。各ブロック12にアラミド繊維シートを貼り付けてもよいし、積み上げられたブロック12の引張り側にアラミド繊維シートを貼り付けてもよい。
【0055】
[実施形態7]
図8に示すように、土留め構造物10の上部にプレート60を設置してもよい。プレート60は土留め構造物10に両面メッシュファイバーテープで貼りつけられる。地域固有の動植物をプレート60に描き、地域の住民や観光客に自然環境の重要性の認識と地域の魅力を高められる。また、前面フランジ30の表面に凹凸でデザイン(化粧)を施してもよい。
【0056】
[実施例]
本願の安定度と安全度を確認するために、設計計算を行った。設計計算に使用した本願の土留め構造物10を
図9に示す。上記したウエブ34は前面フランジ30、背面フランジ32の中心に固定されている。
図9に示していないが、空間46にコンクリート殻が体積で80%、土砂が20%の割合で満たされているとした。また、比較例として使用した従来の土留め構造物110を
図10に示す。
図9と
図10に表示する寸法はいずれもmmである。
図9(a)と
図10の奥行方向は1000mmとした。
【0057】
本願の土留め構造10のブロック12部分の体積は12.80m3であり、従来の土留め構造110の体積は33.60m3である。本願の土留め構造10のコンクリートは従来の土留め構造110のコンクリートの約38%の使用量になっていた。本願はコンクリート使用量およびCO2を削減できることが確認できた。
【0058】
財団法人林業土木コンサルタンツ、治山ダム・土留工断面表を使用して安定計算をおこなった。表1に
図9に示す本願の土留め構造10と
図10に示す従来の土留め構造110の鉛直分力等の計算結果を示す。
【0059】
【0060】
さらに、本願の土留め構造10の転倒に対する安定はB/6=1.067mとなり、偏心距離e=1.056mよりも大きく安定であった。本願の土留め構造10の滑動に対する安定はμΣV/ΣH=1.85となり、安全率1.5よりも大きく安定であった。本願の土留め構造10の地耐力に対する安定は許容地耐力700kN/m2であり、351.38kN/m2よりも大きく安定であった。コンクリートの応力度σc=1.75N/mm2は許容応力度σca=6.0N/mm2より小さく安全であった。なお、従来の土留め構造110の転倒に対する安定はB/6=1.067mとなり、偏心距離e=0.959mよりも大きく安定であった。従来の土留め構造110の滑動に対する安定はμΣV/ΣH=1.55となり、安全率1.5よりも大きく安定であった。従来の土留め構造110の地耐力に対する安定は許容地耐力700kN/m2であり、287.57kN/m2よりも大きく安定であった。本願は、従来と同じように安定であり、さらにコンクリートの使用量およびCO2の削減に貢献できることが確認できた。
【0061】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【符号の説明】
【0062】
10:土留め構造物
12、54:ブロック
14:基礎
16:均しコンクリート
18:基礎の第1側面
20:基礎の第2側面
22:第1凹部
24:第1凸部
26:基礎下面の凹凸
28:均しコンクリート上面の凹凸
30:前面フランジ
32:背面フランジ
34:ウエブ
36:土砂
38:第2凹部
40:第2凸部
42、58:第3凹部
44、56:第3凸部
46:空間
48:第1無機物
50:第2無機物
52:キャップ
60:プレート
【要約】
【課題】コンクリートの使用量を低減させながら簡単な工法で設置が可能な土留め構造物、土留め構造物の安定計算および応力度計算プログラムおよびその施工方法を提供する。
【解決手段】土留め構造物10は段差のある地形に設置される擁壁を含む。土留め構造物10は、複数のブロック12を水平方向に並べ、ブロック12が複数段になるように積み重ねられる。ブロック12はコンクリートの硬化物である。ブロック12は前面フランジ30、背面フランジ32およびウエブ34を備える。ブロック12の前面フランジ30と背面フランジ32の間において、ウエブ34以外の部分は空間46になっている。その空間46には第1無機物48および第2無機物50が入れられる。
【選択図】
図1