(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】拡散光トモグラフィー装置、後方散乱光測定装置、分析方法、分析装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20250219BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20250219BHJP
G01N 21/47 20060101ALI20250219BHJP
G01N 21/49 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
G01N21/64 B
G01N21/17 610
G01N21/47 Z
G01N21/49 C
G01N21/17 A
(21)【出願番号】P 2022503618
(86)(22)【出願日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2021006681
(87)【国際公開番号】W WO2021172290
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2020030796
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 維信
(72)【発明者】
【氏名】田原 太平
(72)【発明者】
【氏名】石井 邦彦
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/158260(WO,A1)
【文献】特開2013-117529(JP,A)
【文献】米国特許第05796477(US,A)
【文献】特開2021-038974(JP,A)
【文献】特開2005-091349(JP,A)
【文献】荒畑雅也,LiNbO3結晶を用いた可視-赤外域量子もつれ光子対の生成と評価,第80回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,公益社団法人応用物理学会 The Japan Society of Applied Physics,2019年,p.21a-E207-6
【文献】Anna PATEROVA et al.,Measurement of infrared optical constants with visible photons,New Journal of Physics,2018年04月12日,Vol.20, No.4,p.043015,DOI: 10.1088/1367-2630/aab5ce
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/958
G01J 1/00-1/60
JSTPlus(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに量子もつれ状態にある複数の単一光子を生成する生成ステップと、
前記複数の単一光子のうち第1の単一光子を検出する第1の検出ステップと、
前記複数の単一光子のうち第2の単一光子を対象物に照射又は入射させることによって得られる第3の単一光子を検出する第2の検出ステップと、
前記第1の検出ステップにおける検出タイミングと、前記第2の検出ステップにおける検出タイミングとの時間差を特定して、前記対象物の時間的な特性を分析する分析ステップと
を含む分析方法を実行する拡散光トモグラフィー装置であって、
前記第2の検出ステップにおいて、前記対象物を透過した透過光を前記第3の単一光子として検出する
ことを特徴とする拡散光トモグラフィー装置。
【請求項2】
互いに量子もつれ状態にある複数の単一光子を生成する生成ステップと、
前記複数の単一光子のうち第1の単一光子を検出する第1の検出ステップと、
前記複数の単一光子のうち第2の単一光子を対象物に照射又は入射させることによって得られる第3の単一光子を検出する第2の検出ステップと、
前記第1の検出ステップにおける検出タイミングと、前記第2の検出ステップにおける検出タイミングとの時間差を特定して、前記対象物の時間的な特性を分析する分析ステップと
を含む分析方法を実行する後方散乱光測定装置であって、
前記第2の検出ステップにおいて、前記対象物である光ファイバーからの後方散乱光を前記第3の単一光子として検出する
ことを特徴とする後方散乱光測定装置。
【請求項3】
互いに量子もつれ状態にある複数の単一光子を生成する生成ステップと、
前記複数の単一光子のうち第1の単一光子を検出する第1の検出ステップと、
前記複数の単一光子のうち第2の単一光子を対象物に照射又は入射させることによって得られる第3の単一光子を検出する第2の検出ステップと、
前記第1の検出ステップにおける検出タイミングと、前記第2の検出ステップにおける検出タイミングとの時間差を特定して、前記対象物の時間的な特性を分析する分析ステップと
を含み、
前記第2の検出ステップに先立ち、
互いに量子もつれ状態にある前記複数の単一光子のうち、第4の単一光子を前記対象物に照射又は入射させることによって、当該対象物を励起させる第1の入射ステップと、
互いに量子もつれ状態にある前記複数の単一光子のうち、第5の単一光子を前記対象物に照射又は入射させることによって、当該対象物をダンプさせる第2の入射ステップと
を含んでいる分析方法。
【請求項4】
互いに量子もつれ状態にある複数の単一光子を生成する生成部と、
前記複数の単一光子のうち第1の単一光子を検出する第1の検出部と、
前記複数の単一光子のうち第2の単一光子を対象物に照射又は入射させることによって得られる第3の単一光子を検出する第2の検出部と、
前記第1の検出部による検出タイミングと、前記第2の検出部による検出タイミングとの時間差を特定して、前記対象物の時間的な特性を分析する分析部と
を備え、
前記第2の単一光子の前記対象物への照射又は入射に先立ち、
互いに量子もつれ状態にある前記複数の単一光子のうち、第4の単一光子を前記対象物に照射又は入射させることによって、当該対象物を励起させる第1の入射部と、
互いに量子もつれ状態にある前記複数の単一光子のうち、第5の単一光子を前記対象物に照射又は入射させることによって、当該対象物をダンプさせる第2の入射部と
を有している分析装置。
【請求項5】
請求項4に記載の分析装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、上記第1の検出部、上記第2の検出部、および上記分析部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析方法、発光分析装置、拡散光トモグラフィー装置、撮像装置、反射率測定装置、分析装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光を用いて、分子や結晶等の対象物の特性を分析する手法が知られている。例えば、2つのパルス光の一方を対象物に照射し、もう一方をリファレンス用として用いることによって対象物の特性を分析する手法が知られている。
【0003】
また、分野や適用対象は異なるが、量子もつれ光子の生成や利用に関する研究も進展している(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国公開特許公報「特開2008-216369(2008年9月18日公開)」
【文献】日本国公開特許公報「特表2012-522983(2012年9月27日公表)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、パルス光を用いて対象物の特性を分析する手法では、分析装置の規模が大きくなる傾向があり、また、パルス光を照射することによって対象物にダメージを与える可能性があるという課題がある。また、対象物へのダメージを低減させるため、連続光を対象物に照射することも考えられるが、このような手法では、対象物の時間的な特性を特定しづらいという課題がある。
【0006】
本発明の一態様は、上記の課題を解決するためになされたものであり、対象物へのダメージを低減させつつ、時間的な特性を含む対象物の特性を分析することのできる技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る分析方法は、互いに量子もつれ状態にある複数の光子を生成する生成ステップと、前記複数の光子のうち第1の光子を検出する第1の検出ステップと、前記複数の光子のうち第2の光子を対象物に照射又は入射させることによって得られる第3の光子を検出する第2の検出ステップと、前記第1の検出ステップにおける検出タイミングと、前記第2の検出ステップにおける検出タイミングとの差を参照して、前記対象物に関する特性を分析する分析ステップとを含んでいる。
【0008】
本発明の一態様に係る分析装置は、互いに量子もつれ状態にある複数の光子を生成する生成部と、前記複数の光子のうち第1の光子を検出する第1の検出部と、前記複数の光子のうち第2の光子を対象物に照射又は入射させることによって得られる第3の光子を検出する第2の検出部と、前記第1の検出部による検出タイミングと、前記第2の検出部による検出タイミングとの差を参照して、前記対象物に関する特性を分析する分析部とを備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、対象物へのダメージを低減させつつ、時間的な特性を含む対象物の特性を分析することのできる技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態1に係る分析装置の構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る分析装置が備える分析部を第1の検出部及び第2の検出部と共に示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係る分析装置において生成される光子対であって、自発的パラメトリック下方変換により発生する光子対を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る分析装置において生成される光子対であって、自発的パラメトリック下方変換により発生する光子対を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態1に係る分析装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態2に係る発光分析装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】本発明の実施形態2に係る発光分析装置の演算部の構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の実施形態2に係る発行分析装置の検出部による検出結果例を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施形態2に係る発光分析装置による検出結果例を示すグラフである。
【
図10】本発明の実施形態3に係る拡散光トモグラフィー装置の構成を示すブロック図である。
【
図11】本発明の実施形態3に係る拡散光トモグラフィー装置の演算部の構成を示すブロック図である。
【
図12】本発明の実施形態4に係る撮像装置の構成を示すブロック図である。
【
図13】本発明の実施形態4に係る撮像装置の演算部の構成を示すブロック図である。
【
図14】本発明の実施形態5に係る反射率測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図15】本発明の実施形態5に係る反射率測定装置の演算部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態1〕
<概要>
以下、本発明の一実施形態に係る分析装置について説明する。本実施形態に係る分析装置は、複数の光子のうち、ある光子を参照用(リファレンス)として用い、他の光子を対象物への照射又は入射用(測定用と呼ぶこともある)として用いることによって、対象物に関する特性を分析する装置である。分析装置1は、一般的にTCSPC(Time-Correlated Single Photon Counting)装置と呼ばれる装置の一例ともみなされ得る。
【0012】
ここで、本実施形態に係る上記複数の光子は、互いに量子もつれ状態にある複数の単一光子である。ここで、互いに量子もつれ状態にある複数の単一光子は、互いに時間的に同期している。なお、本実施形態に係る上記複数の光子は、より具体的には、互いに量子もつれ状態にある2つの単一光子である。
【0013】
従来、時間的に同期しているパルス波を用いて、対象物の特性を分析する技術が知られているが、パルス波を用いると対象物へのダメージが大きいという問題がある。また、対象物へのダメージを小さくするために連続光を用いることも考えられるが、このように連続光を用いる場合、対象物の時間的な特性を測定することが困難であるという問題があった。
【0014】
また、従来の手法では、パルス波を発生させる装置が必要であるため、装置の構成が複雑化するという問題があった。また、対象物の時間的な特性について複数の成分が存在する場合(例えば、複数の蛍光寿命成分が存在する場合)、様々な変調周波数で測定を行う必要があり、蛍光寿命決定のための測定及び解析が煩雑であるという問題があった。
【0015】
本実施形態に係る分析装置では、複数の光子のうち、ある光子をリファレンスとして用い、他の光子を対象物への照射又は入射用として用いることによって、対象物に関する特性を分析する。本実施形態に係る分析装置では、後述するように、互いに量子もつれ状態にある複数の光子がランダムなタイミングで発生する。このため、パルス波を用いた場合と異なり、多数の光子が同時に対象物へと照射されることがなく、その結果、対象物へのダメージを最小限に抑えつつ、対象物の特性を分析することができる。
【0016】
また、本実施形態に係る分析装置の一構成例によれば、パルス波を用いる場合に比べて、パルス波を発生させる装置が必要ないため、装置全体の構成をシンプルにすることができるというメリットもある。その一方、対をなしている2つの光子が時間的に同期されているという性質を用いると、パルス波を用いた場合と同様に対象物の時間的な特性を直接的に計測することができ、対象物の時間的な特性について複数の成分が存在する場合(例えば、複数の蛍光寿命成分が存在する場合)にも、ただ一つの連続光の光源で計測することができる。このため、光源についての都度の強度変調が不要であるというメリットもある。
【0017】
<構成例>
以下では、図面を参照して、本実施形態に係る分析装置の構成例について説明する。
図1は、本実施形態に係る分析装置1の構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、分析装置1は、一例として、光源10、第1のミラー21、第1のレンズ22、第1のバンドパスフィルタ23-1、第2のバンドパスフィルタ23-2、第2のミラー24、第3のミラー25、第2のレンズ26、第3のレンズ27、ロングパスフィルタ28、第4のレンズ29、第5のレンズ30、第1の検出部50、第2の検出部60、及び分析部70を備えて構成される。
【0018】
光源10は、互いに量子もつれ状態にある複数の光子を時間的に同期して生成する。光源10は、一例として、連続光源11、光源用レンズ12、及び結晶性物質13を備えている。連続光源11は、例えば、特定の波長を有する連続光であるレーザを生成するレーザ光源であるが、これは本実施形態を限定するものではない。なお、連続光源11が生成する連続光をポンプ光と呼ぶこともある。また、光源10を生成部と呼称することもある。
【0019】
結晶性物質13は、連続光源11からの連続光の入射に応じて、互いに量子もつれ状態にある複数の光子を生成する。一例として、結晶性物質13は、互いに量子もつれ状態にある2つの光子(光子対)を生成する。また、結晶性物質13は、ランダムなタイミングで光子対を生成する。結晶性物質13の一例として非線形光学結晶を挙げることができるが、これは本実施形態を限定するものではない。結晶性物質13の具体例については後述する。
【0020】
第1のミラー21は、光源10から供給される複数の光子のうち、第1の光子を第1の経路に沿って向き付けし、当該第1の光子とは異なる第2の光子を第2の経路に沿って向き付けする。第1のミラー21の具体的構成は本実施形態を限定するものではないが、第1の光子、及び第2の光子を好適に反射する構成であることが好ましい。
【0021】
第1のレンズ22は、第1の光子及び第2の光子を屈折させ、一例として、
図1に示すように、第1の光子と第2の光子とが互いに平行に伝搬するように、第1の光子及び第2の光子を向き付けする。
【0022】
第1のバンドパスフィルタ23-1は、第1の光子のうち、第1の角振動数を有する光子を透過させ、当該第1の角振動数を有する光子以外を遮断する。また、第2のバンドパスフィルタ23-2は、第2の光子のうち、第2の角振動数を有する光子を透過させ、当該第2の角振動数を有する光子以外を遮断する。
【0023】
なお、上記第1の角振動数及び第2の角振動数は、両者の和が連続光源11の角振動数に一致するという条件のもとで、光源10、対象物40、第1の検出部50、及び第2の検出部60等の特性に応じて適宜好適な値を選択すればよい。
【0024】
第1の光子は、第1の経路に沿って進み、第4のレンズ29を透過したうえで、第1の検出部50によって検出され、検出信号が分析部70に供給される。
【0025】
一方で、第2の光子は、第2のミラー24及び第3のミラー25によって反射されたうえで、第2の経路上に配置された第2のレンズ26を透過する。そして、第2のレンズ26を透過した第2の光子は、対象物40に照射又は入射させられる。
【0026】
ここで、対象物40は、第2の光子を照射又は入射させられたことに応じて、第3の光子を放出する。第3の光子は、第2の光子と同一の光子であってもよいし、第2の光子とは異なる光子であってもよく、当該事項は本実施形態を限定するものではない。また第3の光子は複数の単一光子であってもよい。
【0027】
放出された第3の光子は、第3のレンズ27及びロングパスフィルタ28を経由したうえで、第5のレンズ30を透過する。ロングパスフィルタ28は、第3の光子のうち、特定の第3の角振動数以下の角振動数を有する光子を透過させ、それ以外の光子を遮断する。第5のレンズ30を透過した第3の光子は、第2の検出部60によって検出され、検出信号が分析部70に供給される。
【0028】
なお、第1の検出部50及び第2の検出部60としては、一例として単一光子検出器を用いることができる。より具体的には、1光子適用型のアバランシェフォトダイオードを用いることができるが、これは本実施形態を限定するものではない。
【0029】
以上のように構成された分析装置1では、第1の光子は、対象物40に照射又は入射させられることなく、第1の検出部50に到達し検出される。一方で、第2の光子は、対象物40に照射又は入射され、それに応じて得られる第3の光子が、第2の検出部60に到達し検出される。
【0030】
一般に、対象物40に第2の光子が照射又は入射した後に、第3の光子が得られるまでには0でない応答時間を要する。このため、
図1に示すように、第3の光子が第2の検出部60によって検出されるタイミングは、第1の光子が第1の検出部50によって検出されるタイミングよりも遅延する。分析部70は、この遅延時間を特定し参照することによって、対象物40に関する特性を分析する。換言すれば、分析装置1は、第1の光子の検出タイミングを、対象物40の特性の分析のリファレンスとして用いる。
【0031】
(分析部)
続いて
図2を参照して分析部70の構成例について説明する。分析部70は、上述のように、第1の検出部50による第1の光子の検出タイミングと、第2の検出部60による第3の光子の検出タイミングとの差を参照して、対象物40に関する特性を分析する構成である。
【0032】
図2に示すように、分析部70は、第1の取得部71、第2の取得部72、第1の変換部73、第2の変換部74、及び演算部75を備えて構成される。
【0033】
第1の取得部71は、第1の検出部50による検出信号を取得し、信号処理を行ったうえで第1の変換部73に供給する。第1の変換部73は、一例として、第1の検出部50による検出信号を増幅し、増幅後の信号を第1の変換部73に供給する。
【0034】
第2の取得部72は、第1の変換部73と同様の構成であるが、取得する検出信号が第1の検出部50による検出信号である点が異なる。
【0035】
第1の変換部73は、第1の取得部71から供給される信号を変換し、変換後の信号を演算部75に供給する。第1の変換部73は、一例として、第1の取得部71から供給されるアナログ信号をデジタル信号に変換し、変換後のデジタル信号を演算部75に供給する。
【0036】
第2の変換部74は、第1の変換部73と同様の構成であるが、取得する信号が第2の取得部72から供給される信号である点が異なる。
【0037】
演算部75は、第1の検出部50による第1の光子の検出タイミングと、第2の検出部60による第3の光子の検出タイミングとの差を参照して、対象物40に関する特性を分析する。
図1に示すように、演算部75は、第1の検出部50による第1の光子の検出タイミングと、第2の検出部60による第3の光子の検出タイミングとの時間差を特定する時間差特定部751を備えている。
【0038】
以上のように構成された分析装置1によれば、互いに量子もつれ状態にある複数の光子のうち、第1の光子は対象物40を経由せずに検出され、第2の光子が対象物40に照射又は入射することによって得られる第3の光子は、一例として対象物に応じた遅延時間を有して検出される。そして、分析装置1は、第1の光子の検出タイミングと、第3の光子の検出タイミングとの差を参照して対象物40に関する特性を分析するので、対象物へのダメージを最小限に抑えつつ、対象物の特性を好適に分析することができる。
【0039】
<互いに量子もつれ状態にある光子の生成について>
以下では、本実施形態における「互いに量子もつれ状態にある複数の光子」についてより詳細に説明する。なお、以下の説明は、例示的に、非線形光学結晶である結晶性物質13中の自発的パラメトリック下方変換によって生成された複数の光子を例に挙げ説明するが、これはあくまで説明のためである。本実施形態における「互いに量子もつれ状態にある複数の光子」は、非線形光学結晶である結晶性物質13を用いて生成されたものに限られるものではなく、後述するように様々な生成な方法によって生成されたものでもよい。
【0040】
図3は、結晶性物質13による光子対の生成例について説明するための模式図である。上述したように、連続光源11から結晶性物質13に対してポンプ光が供給され、当該ポンプ光の一部が、結晶性物質13内における自発的パラメトリック下方変換(SPDC: Spontaneous Parametric Down-Conversion)によって、時間的に同期した2つの単一光子(一方をシグナル光とも呼び、もう一方をアイドラー光とも呼ぶこともある)に変換される。
図3では、2つの光子の偏光が互いに異なるタイプIIのSPDCを例示している。
【0041】
ここで、ポンプ光の(角振動数、波数ベクトル)を(ωP、kp)と表記し、生成される2つの光子の(角振動数、波数ベクトル)をそれぞれ、(ω1、k1)(ω2、k2)と表記すると、
ωP = ω1 + ω2 ・・・(式1)
kp = k1 + k2 ・・・(式2)
が満たされる。式1はエネルギー保存則を表しており、式2は運動量保存則を表している。なお、本明細書では、角振動数のことを単に周波数と呼ぶこともある。
【0042】
図3に示すように、SPDCによって生成された2つの光子は、ポンプ光に対して対称的に位置する2つの円錐上の経路であって、ポンプ光に対して対称的な経路に沿って伝搬する。
【0043】
図3には、互いに量子もつれ状態にある複数の光子の一例として、光子対Aを示し、他の例として光子対Bを示している。
図3に示すタイプIIのSPDCの場合、互いに異なる円錐上を経路とする光子A1、及び光子A2を含む光子対Aの状態は、一例として、
|Ψ> = |V>
1|H>
2 ・・・(式3)
又は、
|Ψ> = |H>
1|V>
2 ・・・(式4)
のように表される。ここで、V,Hは、それぞれ、垂直偏光及び水平偏光を表しており、ケット|>の下付き添え字1、2は、2つの光子を区別するためのインデックスである。式3及び式4に示すように、光子対Aに含まれる光子A1及び光子A2は、偏光状態に関して、互いにもつれていない。
【0044】
一方で、タイプIIのSPDCの場合、2つの円錐の交線を経路とする光子B1、及び光子B2を含む光子対Bの状態は、一例として、
|Ψ> = (1/√2)|V>1|H>2 + (1/√2)|H>1|V>2・・・(式5)
のように表される。このように、光子対Bに含まれる光子B1及び光子B2は、偏光状態に関して、互いにもつれた状態にある。
【0045】
本実施形態において用いられる、互いに量子もつれ状態にある複数の光子として、上述した光子対Aに含まれる光子A1及び光子A2を用いてもよいし、光子対Bに含まれる光子B1及び光子B2を用いてもよい。換言すれば、本実施形態における「互いに量子もつれ状態にある複数の光子」は、時間的に同期していれば、互いに偏光もつれの関係にあってもよいし、そうでなくてもよい。
図4は、結晶性物質13による光子対の他の生成例について説明するための模式図である。
図4では、2つの光子の偏光が互いに等しいタイプIのSPDCを例示している。本例でも、ポンプ光の(角振動数、波数ベクトル)を(ω
P、k
p)と表記し、生成される2つの光子の(角振動数、波数ベクトル)をそれぞれ、(ω
1、k
1)(ω
2、k
2)と表記すると、
図3の場合と同様に、上述した式1及び式2が満たされる。
図4に示すように、SPDCによって生成された2つの光子は、ポンプ光を軸とする1つの円錐上の経路であって、ポンプ光に対して対称的な経路に沿って伝搬する。
図4には、互いに量子もつれ状態にある複数の光子の一例として、光子対Cを示している。
図4に示すタイプIのSPDCの場合、円錐上を経路とする光子C1、及び光子C2を含む光子対Cの状態は、一例として、
|Ψ> = |V>
1|V>
2 ・・・(式3’)
又は、
|Ψ> = |H>
1|H>
2 ・・・(式4’)
のように表される。ここで、式3’及び式4’に示すように、光子対Cに含まれる光子C1及び光子C2は、偏光状態に関しては、互いにもつれていない。
本実施形態において用いられる、互いに量子もつれ状態にある複数の光子として、上述した光子対Cに含まれる光子C1及び光子C2を用いてもよい。
【0046】
以下では、周波数ωp の光をポンプ光として用いたSPDCにより、周波数がω1 、ω2 の2つの光子を含む2光子状態|Ψ>が生成される状況を、より詳細に説明することにより、本明細書における「互いに量子もつれ状態にある複数の光子」についてより詳細に説明する。
【0047】
まず、2つの光子を生成する生成演算子を、それぞれ、
【数1】
【数2】
と表記し、光子の存在しない真空状態を|0>と表記すると、2光子状態|Ψ>は以下のように表される。
【数3】
ここで、式8における
【数4】
はディラックのデルタ関数であり、このデルタ関数の存在により、式9に示すように、式1に示したエネルギー保存則を満たす場合のみを考慮すればよいことが分かる。
【0048】
式9から分かるように、2光子状態|Ψ>は、周波数ω1を有する1光子状態と周波数ω2を有する1光子状態との積によって表すことはできない。このような状態を、本明細書では、「周波数(角振動数)に関して互いにもつれている」と表現する。
【0049】
上記の説明は周波数領域での表記であるが、以下では2つの光子間の時間的な相関について調べるために、時間領域での表記に書き直す。まず、フーリエ変換
【数5】
を式9に代入し、デルタ関数の関係式
【数6】
を用いてω
1の積分を先に計算することによって、
【数7】
を得る。式14から分かるように、2つの光子は時間的に同期されている。
【0050】
より具体的に表現するため、一方の光子が経路a、もう片方の光子が経路b に存在するとする。時刻tに光子1つが経路aに存在する状態を、|1>
a(t)のように表記することにすると、式14は次のように書き直すことができる。
【数8】
更に、時間積分を和で表現したとすると、
【数9】
・・・(式16)
を得る。式15及び式16から分かるように、2光子状態|Ψ>は、2つの光子の状態の積として表記することはできない。このような状態を、本明細書では、「時間に関して互いにもつれている」と表現する。
【0051】
以上説明したように、本実施形態において用いられる「互いに量子もつれ状態にある複数の光子」は、一例として、周波数(角振動数)又は時間に関して互いにもつれている複数の光子のことである。
【0052】
<結晶性物質について>
本実施形態に係る結晶性物質13についてより具体的に説明すれば以下の通りである。上述したように、光源10は結晶性物質13を備える構成に限定されるものではないが、光源10は結晶性物質13を備える構成とすることによって、分析装置1の構成をよりシンプルにすることができるというメリットがある。
【0053】
結晶性物質13は、一例として、入射光に対して結晶が非線形的に応答し、かつ複屈折が存在する非線形光学結晶である。ただし、これは本実施形態を限定するものではない。
【0054】
結晶性物質13の具体例として、BBO(β-BaB2O4)、KDP(KH2PO4)、ppKTP(Periodically Polled KTiOPO4)、ppLN(Periodically Polled LiNbO3)などを挙げることができる。ただし、これらの具体例は、本実施形態を限定するものではない。
【0055】
また、非線形光学結晶を用いたSPDCには、上述したように、互いに偏光方向が同じ2つの光子を生成するタイプIと、互いに偏光方向が異なる2つの光子を生成するタイプIIとが存在する。本実施形態では、タイプI及びタイプIIのSPDCを用いてもよい。例えば、BBOを用いてタイプIIのSPDCにより光子対を生成してもよいし、BBOを用いてタイプIのSPDCにより光子対を生成してもよい。
【0056】
なお、結晶性物質13による光子対の発生頻度は本実施形態を限定するものではないが、ポンプ光の強度を調整することにより、一例として1秒あたり数回~数百万回程度とすることができる。
【0057】
また、結晶性物質13の他の例として、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)結晶内の自発分極を、異なる2つの周期で反転させて得られる物質を用いてもよい。このように構成された物質において、2つの異なる位相整合条件を制御することによって、それぞれの領域で発生しうる光子のペアがもつ偏光と周波数が互い違いに相関している量子もつれ状態を直接発生させることができる。
【0058】
このようにして生成された光子対も、本実施形態に係る「互いに量子もつれ状態にある複数の光子」として用いることができる。
【0059】
<その他の光源構成例>
光源10の構成例は、上述の例に限定されるものではない。例えば、光源10は、結晶性物質13を備える代わりに、マッハ・ツェンダー干渉計、マイケルソン型干渉計、及び、サニャック型干渉計の何れかを備え、これらの干渉計の何れかによって、互いに量子もつれ状態にある複数の光子を生成する構成としてもよい。
【0060】
<第2の光子及び第3の光子について>
上述したように、本実施形態に係る第3の光子は、第2の光子が対象物40に照射又は入射することによって得られる。第2の光子及び第3の光子は、対象物40や分析装置1の適用の仕方によって、互いに同じ光子であるとの解釈がより好適な場合もあるし、互いに異なる光子であるとの解釈がより好適な場合もある。
【0061】
例えば、対象物40の一例として、発光性(蛍光性、燐光性)の物質を用いた場合、対象物40に第2の光子が吸収されることにより対象物40が励起状態に遷移する。そして、当該励起状態から、よりエネルギーの低い状態への遷移に伴い、第3の光子が放出される。このような例では、第3の光子は、第2の光子とは異なる光子であるとの解釈が好適である。
【0062】
他の例として、第2の光子が、ミラーで反射されたり対象物40としてのファイバー中を伝播する場合を考えると、これらの過程で第2の光子は、反射されたり透過するだけであるので、第2の光子と第3の光子は同じ光子であるとの解釈が好適に成り立つ。
【0063】
その一方で、第3の光子は第2の光子とは進行方向が異なっており、ファイバー中を伝播中に光子の波束の時間幅が広くなる可能性もある。このように、第2の光子と第3の光子の物理的な性質は一般に、完全に同一ではない。したがって、そのような意味で、第2の光子と第3の光子は互いに異なる光子であるとの解釈も成り立つ。
【0064】
本実施形態に記載の発明を特定するにあたり、第2の光子と第3の光子とが同一であるのか異なるものであるのかは、対象物40や分析装置1の適用の仕方に応じてどのように解釈するのかという解釈論を含む事項であり、本質的ではない。
【0065】
<分析装置1による処理の流れ>
続いて、
図5を参照して、本実施形態に係る分析装置1による処理の流れについて説明する。
図5は、分析装置1による処理の流れを示すフローチャートである。
【0066】
(ステップS11)
まず、ステップS11において、光源10は、互いに量子もつれ状態にある複数の光子を生成する。ここで、光源10による光子の生成については、すでに説明した方法を用いればよい。
【0067】
(ステップS12)
続いて、ステップS12において、第1の検出部50は、ステップS11において生成された互いに量子もつれ状態にある複数の光子のうち、第1の経路を伝搬した第1の光子を検出する。
【0068】
(ステップS13)
続いて、ステップS13において、第2の検出部60は、ステップS11において生成された互いに量子もつれ状態にある複数の光子のうち、第2の光子を対象物40に照射又は入射させることによって得られる第3の光子を検出する。
【0069】
(ステップS14)
ステップS14において、分析部70は、ステップS12における第1の検出部50による検出タイミングと、ステップS13における第2の検出部60による検出タイミングとの差を参照して、対象物40に関する特性を分析する。
【0070】
以上のステップを含む分析方法によれば、互いに量子もつれ状態にある複数の光子のうち、第1の光子は対象物40を経由せずに検出され、第2の光子が対象物40に照射又は入射することによって得られる第3の光子は、一例として対象物に応じた遅延時間を有して検出される。そして、分析装置1は、第1の光子の検出タイミングと、第3の光子の検出タイミングとの差を参照して対象物40に関する特性を分析するので、対象物へのダメージを最小限に抑えつつ、対象物の特性を好適に分析することができる。
【0071】
なお、上記の説明では、ステップS12において第1の光子が検出された後に、ステップS13において第2の光子が検出される場合を例に挙げたが、これは本実施形態を限定するものではない。第1経路、及び第2の経路の構成の仕方によっては、ステップS12において第1の光子が検出される前に、ステップS13において第2の光子が検出される場合もあり得る。このような例も本実施形態に含まれる。
【0072】
また、何れの場合であっても、第1の光子及び第2の光子のうち、一方の光子が先に検出されることによって、もう一方の光子の波束の収縮が発生し得る。
【0073】
(本明細書に記載の発明の学際的側面)
本明細書に記載の分析方法及び分析装置は、上述のように、一例として、互いに量子もつれ状態にある複数の光子を発生させ、発生させた光子を分光学(一例として分子分光学)に利用している。ここで、量子もつれ状態にある複数の光子という量子光学的なオブジェクトの利用は、従来量子光学という範疇の中での利用に留まっており、分光学に適用されることはなかった。本願の発明者は、量子もつれ状態にある複数の光子という量子光学的なオブジェクトを、分光学に適用するという新たな知見を得たことによって初めて本明細書に記載の発明に想到することができたものである。このように、本明細書に記載の分析方法及び分析装置は、当業者であっても容易には結び付けることのできない2つの分野を融合させたという高度な学際的側面を有する。
【0074】
〔実施形態2〕
以下では、本発明の第2の実施形態について説明する。上述の実施形態において既に説明した構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0075】
図6は本実施形態に係る発光分析装置100の構成を示すブロック図である。
図6に示すように、発光分析装置100は、分析装置1aを備えている。分析装置1aは、実施形態1において説明した分析装置1が備える演算部75に代えて、演算部75aを備えている。分析装置1aのその他の構成は、実施形態1に係る分析装置1と同様である。
【0076】
発光分析装置100は、発光性を有する対象物40の特性を分析する装置である。ここで、発光には、蛍光及び燐光(蓄光)が含まれる。発光分析装置100は、一例として対象物40の発光寿命(例えば、蛍光寿命、燐光寿命)を特定する。
【0077】
図7は分析装置1aが備える演算部75aの構成を示すブロック図である。
図7に示すように、演算部75aは、時間差特定部751、及び発光寿命特定部752を備えている。発光寿命特定部752は、時間差特定部751が特定した第1の光子の検出タイミングと第3の光子の検出タイミングとを参照し、対象物40の発光寿命を特定する。
【0078】
実施形態1において説明した
図5との関連で言えば、本実施形態では、
図5のステップS13において、対象物40の発光現象に伴う光子を第3の光子として検出する。
【0079】
図8は、比較用として第2の経路上に対象物40を配置しない状況において、発光分析装置100において検出された第1の光子の検出タイミングと第3の光子の検出タイミングとの差をプロットした実験結果である。
【0080】
図8に示すように、第2の経路上に対象物40を配置しない状況において、第1の光子の検出タイミングと第3の光子の検出タイミングの差(検出誤差)は、0.23ns程度に抑えられており、2つの光子の高い同時性が実現していることが分かる。なお、
図7に示した検出誤差は、主として第1の検出部50及び第2の検出部60の時間分解能に起因しており、光源10では、
図8に示した同時性よりも高い同時性が実現されている。
【0081】
図9は、対象物40として、蛍光分子である色素分子(Rhodamine 6G)を用いた場合に、発光寿命特定部752が特定する蛍光減衰曲線を示している。
図9に示す蛍光減衰曲線は、光子対毎に時間差特定部751が特定した時間差を、発光寿命特定部752が多数の光子対に対してプロットして得られたグラフである。
図9に示す例では、発光寿命特定部752は、対象物40の蛍光寿命が4.8nsであると特定する。
【0082】
本実施形態に係る発光分析装置100によれば、対象物40へのダメージを最小限に抑えつつ、対象物40の発光現象に関する特性を好適に分析することができる。
【0083】
なお、上述の例では、対象物40として、分子を例に挙げたが、これは本実施形態を限定するものではなく、対象物40は、原子、分子、固体、及び結晶の少なくとも何れかを含み得る。
【0084】
このような対象物に対しても、発光分析装置100によれば、対象物40へのダメージを最小限に抑えつつ、対象物40の発光現象に関する特性を好適に分析することができる。
【0085】
〔実施形態3〕
以下では、本発明の第3の実施形態について説明する。上述の実施形態において既に説明した構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0086】
図10は、拡散光トモグラフィー装置200の構成例を示したものである。
図10に示すように、拡散光トモグラフィー装置200は、分析装置1bを備えている。分析装置1bは、実施形態1において説明した分析装置1が備える演算部75に代えて、演算部75bを備えている。分析装置1bのその他の構成は、実施形態1に係る分析装置1と同様である。
【0087】
拡散光トモグラフィー装置200は、透過性を有する対象物40の断層画像を生成する装置である。本実施形態において対象物40は、透過性を有する物質であるが、対象物40は可視光を透過する物質に限られるものではなく、遠紫外線及び遠赤外線領域を透過する物質も、対象物40に含まれる。
【0088】
本実施形態では、第2の光子を対象物に入射させ、第1の光子をリファレンスとして用いる。本実施形態に係る第3の光子は、第2の光子が対象物中で繰り返し散乱した結果得られた光子である。第3の光子は、対象物中で繰り返しの散乱過程を経た光子であるとも言える。
【0089】
図11は、拡散光トモグラフィー装置200の分析装置1bが備える演算部75bの構成を示したものである。演算部75bは、時間差特定部751及びトモグラフィー分析部753を備えている。トモグラフィー分析部753は、時間差特定部751が特定した第1の光子の検出タイミングと第3の光子の検出タイミングとを参照し、光子が対象物40中でどのように散乱されたかに関する情報を取得する。そして、トモグラフィー分析部753は、取得した情報を解析することにより、対象物40中の物質の空間分布を特定する。そして、一例として、特定した空間分布を示す対象物の断層画像を生成する。
【0090】
実施形態1において説明した
図5との関連で言えば、本実施形態では、
図5のステップS13において、対象物40の透過現象に伴う光子を第3の光子として検出する。
【0091】
拡散光トモグラフィー装置200は、対象物へのダメージを押さえつつ、好適に拡散光トモグラフィーを実行することができる。また、従来技術のようにパルス光を発生させる装置が必要ないため、拡散光トモグラフィー装置の構成がシンプルになるというメリットもある。
【0092】
〔実施形態4〕
以下では、本発明の第4の実施形態について説明する。上述の実施形態において既に説明した構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0093】
図12は、撮像装置300の構成例を示したものである。
図12に示すように、撮像装置300は、分析装置1cを備えている。分析装置1cは、実施形態1において説明した分析装置1が備える演算部75に代えて、演算部75cを備えている。分析装置1cのその他の構成は、実施形態1に係る分析装置1と同様である。
【0094】
撮像装置300は、反射性を有する対象物40を含む撮像範囲の撮像情報を生成する装置である。
【0095】
本実施形態では、第2の光子を対象物に向かって出射し、第1の光子をリファレンスとして用いる。本実施形態に係る第3の光子は、第2の光子が対象物によって反射されることによって得られた光子である。
【0096】
図13は、撮像装置300の分析装置1cが備える演算部75cの構成を示したものである。演算部75cは、時間差特定部751及び画像生成部754を備えている。画像生成部754は、時間差特定部751が特定した第1の光子の検出タイミングと第3の光子の検出タイミングとを参照し、対象物40の特性として、当該対象物40までの距離を特定する。そして、特性した距離に基づき、対象物40を含む撮像範囲の撮像情報であって、対象物40までの距離情報を含む撮像情報を生成する。
【0097】
実施形態1において説明した
図5との関連で言えば、本実施形態では、
図5のステップS13において、対象物40の反射現象に伴う光子を第3の光子として検出する。
【0098】
従来、Lidar(Light Imaging Detection and Ranging)と呼ばれる技術では、パルス光を用いてレーザー照射に対する散乱光を測定し、対象までの距離、対象の性質などを分析していたが、本実施形態では、互いに量子もつれ状態にある複数の単一光子を用いて、距離情報を含む撮像情報を生成するので、対象物へのダメージを低減しつつ、対象までの距離、対象の性質などを分析することができる。
【0099】
なお、画像生成部754が生成する撮像情報は、一例として、距離情報と2次元の撮像画像とすることができるが、これは本実施形態を限定するものではない。画像生成部754は、距離情報と2次元の撮像画像とを参照して、立体視用の左目用画像及び右目用画像を生成する構成としてもよい。
【0100】
本実施形態では、互いに量子もつれ状態にある複数の単一光子を用いて、立体視用の画像を生成するので、対象物へのダメージを低減しつつ、好適に立体視用の画像を生成することができる。また、従来技術のようにパルス光を発生させる装置が必要ないため、撮像装置の構成がシンプルになるというメリットもある。
【0101】
〔実施形態5〕
以下では、本発明の第5の実施形態について説明する。上述の実施形態において既に説明した構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0102】
図14は、反射率測定装置400の構成例を示したものである。
図14に示すように、反射率測定装置400は、分析装置1dを備えている。分析装置1dは、実施形態1において説明した分析装置1が備える演算部75に代えて、演算部75dを備えている。分析装置1dのその他の構成は、実施形態1に係る分析装置1と同様である。
【0103】
反射率測定装置400は、反射性を有する対象物40の特性を分析する装置である。
ここで、対象物40は、一例として光ファイバーである。
【0104】
本実施形態では、第2の光子を対象物に入射させ、第1の光子をリファレンスとして用いる。本実施形態に係る第3の光子は、第2の光子が対象物を透過又は反射することによって得られた光子である。第3の光子には、第2の光子が対象物に入射することによって得られた後方散乱光も含まれ得る。
【0105】
図15は、反射率測定装置400の分析装置1dが備える演算部75dの構成を示したものである。演算部75dは、時間差特定部751及び反射率測定部755を備えている。反射率測定部755は、時間差特定部751が特定した第1の光子の検出タイミングと第3の光子の検出タイミングとを参照し、対象物40の反射性を検出する。
【0106】
実施形態1において説明した
図5との関連で言えば、本実施形態では、
図5のステップS13において、対象物40の反射現象に伴う光子を第3の光子として検出する。
【0107】
従来、OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)と呼ばれる技術では、パルス光を用いて、後方散乱光などにより光ファイバーを品質管理していたが、本実施形態では、互いに量子もつれ状態にある複数の光子を用いて、品質管理するので、対象物へのダメージを、パルス光を用いるよりも、低減することができる。また、従来技術のようにパルス光を発生させる装置が必要ないため、反射率測定装置の構成がシンプルになるというメリットもある。
【0108】
<他の適用例>
本明細書において上述した分析装置の適用例は、上記の例に限られるものではない。一例として、上述した分析装置をポンプ-プローブ法に適用してもよい。より具体的には、第1の光子を用いて対象物40を励起させ、第2の光子をプローブ光として用いて対象物を観測する構成としてもよい。
【0109】
連続光を光源としてポンプ‐プローブ測定を行うことは、従来不可能であったが、上述した分析装置を用いれば、連続光を、もつれ状態にある光子対に変換することにより、連続光を光源としたポンプ‐プローブ測定が可能になる。
【0110】
より具体的な例として、本例に係る分析装置は、第1の光子を、分子である対象物40に照射し、光化学反応を開始させる。そして、微小な遅延時間(フェムト秒、ピコ秒程度)を経た後に、第2の光子をプローブ光として当該対象物40に照射する。これにより、本例に係る分析装置は、分子吸収(赤外光、可視光、紫外光領域)やラマン散乱を測定することができる。本例に係る分析装置によれば、このようにして、化学反応が進行する様子をフェムト秒、ピコ秒程度の時間分解能で追跡することができる。
【0111】
また、他の例として、上述した分析装置をポンプ-ダンプ-プローブ法に適用してもよい。
ここで、ポンプ-ダンプ-プローブ法に用いる互いに量子もつれ状態にある3つの光子は、例えば、以下の方法により得ることができる。
すなわち、分析装置が2つの非線形光学結晶を備える構成とし、まず、第1の非線形光学結晶に対して連続光を入射させSPDCにより、互いに量子もつれ状態にある2つの光子(光子1、光子2と呼ぶ)を発生させる。そして、これら2つの光子のうち一方(例えば光子1)を第2の非線形光学結晶に照射し、当該第2の非線形光学結晶におけるSPDCにより2つの光子(光子3、光子4と呼ぶ)へと変換する。
このようにして得られた3つの光子(光子2、光子3、光子4)は互いに量子もつれ状態にあり、時間的に同期されている。
本例に係る分析装置は、一例として、まず、互いに量子もつれ状態にある3つの光子のうち第1の光子を、分子である対象物40に照射することにより、対象物40を励起させる。一般に、高い電子励起状態にある分子は、基底状態とは異なる平衡核間距離を有するので、核波束が運動量を付与され移動を開始する。その後、本例に係る分析装置は、上記3つの光子のうち第2の光子を対象物40に照射することによって、波束を基底状態にダンプさせる。その後、本例に係る分析装置は、上記3つの光子のうち第3の光子をプローブ光として対象物40に照射する。
本例に係る分析装置は、上記のようにポンプ-ダンプ-プローブ法を実行することによって、例えば、分子である対象物40の脱励起効率や、当該脱励起効率のダンプ光照射タイミング依存性を特定することができる。
連続光を光源としてポンプ‐ダンプ-プローブ測定を行うことは、従来不可能であったが、上述した分析装置を用いれば、もつれ状態にある3つの光子に変換することにより、連続光を光源としたポンプ‐ダンプ-プローブ測定が可能になる。
【0112】
〔ソフトウェアによる実現例〕
分析装置1の制御ブロック(特に分析部70、演算部75、75a、75b、75c、75d)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0113】
後者の場合、分析装置1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、当該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0114】
〔まとめ〕
本発明の一態様に係る分析方法は、互いに量子もつれ状態にある複数の光子を生成する生成ステップと、前記複数の光子のうち第1の光子を検出する第1の検出ステップと、前記複数の光子のうち第2の光子を対象物に照射又は入射させることによって得られる第3の光子を検出する第2の検出ステップと、前記第1の検出ステップにおける検出タイミングと、前記第2の検出ステップにおける検出タイミングとの差を参照して、前記対象物に関する特性を分析する分析ステップとを含んでいる。
【0115】
上記分析方法によれば、対象物へのダメージを低減させつつ、時間的な特性を含む対象物の特性を分析することができる。
【0116】
上記分析方法において、前記分析ステップでは、前記第1の光子の検出タイミングを、前記対象物に関する特性の分析のレファレンスとして用いることが好ましい。
【0117】
上記分析方法によれば、第1の光子の検出タイミングを、前記対象物に関する特性の分析のレファレンスとして用いるので、時間的な特性を含む対象物の特性をより好適に分析することができる。
【0118】
上記分析方法において、前記生成ステップでは、非線形光学結晶を用いて前記第1の光子及び前記第2の光子を生成することが好ましい。
【0119】
上記分析方法によれば、シンプルな構成により、対象物の特性を検出することができる。
【0120】
上記分析方法は、前記第1の検出ステップ及び前記第2の検出ステップでは、単一光子検出器を用いて前記第1の光子及び前記第3の光子を検出することが好ましい。
【0121】
上記分析方法によれば、単一光子検出器を用いて前記第1の光子及び前記第3の光子を検出するので、時間的な特性を含む対象物の特性を好適に検出することができる。
【0122】
本発明の一態様に係る発光分析装置は、上記分析方法を実行する発光分析装置であって、前記第2の検出ステップにおいて、前記対象物の発光現象に伴う光子を前記第3の光子として検出することが好ましい。
【0123】
上記発光分析装置によれば、対象物の発光現象の特性を好適に分析することができる。
【0124】
上記分析方法を実行する発光分析装置において、前記対象物は原子、分子、固体、及び結晶の少なくとも何れかを含むことが好ましい。
【0125】
上記発光分析装置によれば、原子、分子、固体、及び結晶の発光現象の特性を好適に分析することができる。
【0126】
本発明の一態様に係る拡散光トモグラフィー装置は、上記分析方法を実行する拡散光トモグラフィー装置であって、前記第2の検出ステップにおいて、前記対象物を透過した透過光を前記第3の光子として検出することが好ましい。
【0127】
上記拡散光トモグラフィー装置によれば、前記対象物を透過した透過光を前記第3の光子として検出するので、拡散光トモグラフィーを好適に実行することができる。
【0128】
本発明の一態様に係る撮像装置は、上記分析方法を実行する撮像装置であって、前記第2の検出ステップにおいて、前記対象物によって反射された反射光を前記第3の光子として検出することが好ましい。
【0129】
上記撮像装置によれば、対象物によって反射された反射光を前記第3の光子として検出するので、対象物の時間的な特性が反映された撮像情報を好適に生成することができる。
【0130】
本発明の一態様に係る反射率測定装置は、上記分析方法を実行する反射率測定装置であって、前記第2の検出ステップにおいて、前記対象物である光ファイバーからの出射光を前記第3の光子として検出することが好ましい。
【0131】
上記反射率測定装置によれば、光ファイバーからの出射光を前記第3の光子として検出するので、反射率測定を好適に実行することができる。
【0132】
本発明の一態様に係る分析装置は、互いに量子もつれ状態にある複数の光子を生成する生成部と、前記複数の光子のうち第1の光子を検出する第1の検出部と、前記複数の光子のうち第2の光子を対象物に照射又は入射させることによって得られる第3の光子を検出する第2の検出部と、前記第1の検出部による検出タイミングと、前記第2の検出部による検出タイミングとの差を参照して、前記対象物に関する特性を分析する分析部とを備えている、ことが好ましい。
【0133】
上記分析装置によれば、対象物へのダメージを低減させつつ、時間的な特性を含む対象物の特性を分析することができる。
【0134】
本発明の一態様に係るプログラムは、上記分析装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、上記分析部としてコンピュータを機能させる、ことが好ましい。上記プログラムによれば、上記方法及び装置と同様の効果を奏する。
【0135】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0136】
1、1a、1b、1c、1d 分析装置
10 光源
11 連続光源
12 光源用レンズ
13 結晶性物質
40 対象物
50 第1の検出部
60 第2の検出部
70 分析部
75、75a、75b、75c、75d 演算部
100 発光分析装置
200 拡散光トモグラフィー装置
300 撮像装置
400 反射率測定装置
751 時間差特定部
752 発光寿命特定部
753 トモグラフィー分析部
754 画像生成部
755 反射率測定部