(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】素子、電子デバイス、電子機器及びシステム
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20250219BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20250219BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20250219BHJP
H10N 30/40 20230101ALI20250219BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20250219BHJP
H10N 30/06 20230101ALI20250219BHJP
G01N 29/02 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
H03H9/25 Z
H03H9/25 C
H03H9/145 Z
H10N30/853
H10N30/40
H10N30/87
H10N30/06
G01N29/02 501
(21)【出願番号】P 2024508147
(86)(22)【出願日】2023-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2023009579
(87)【国際公開番号】W WO2023176761
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2024-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2022038749
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022138848
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】721011637
【氏名又は名称】株式会社Gaianixx
(72)【発明者】
【氏名】木島 健
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-241542(JP,A)
【文献】特開2005-159580(JP,A)
【文献】特開2006-177674(JP,A)
【文献】特開2006-275999(JP,A)
【文献】特表2003-512637(JP,A)
【文献】特開2004-297359(JP,A)
【文献】特開2014-169466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145-9/76
H10N 30/853
H10N 30/40
H10N 30/87
H10N 30/06
G01N 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状、略円柱状、樽状又は略樽状の圧電体を含み、周方向に表面弾性波が伝搬可能となるように1以上のすだれ状電極が前記圧電体の側面に設けられている素子であって、前記表面弾性波の伝搬経路内となる前記側面に反射器が設けられ、
前記圧電体が三方晶又は六方晶の結晶構造を有する圧電性材料からなる単結晶であり、
さらに、
前記単結晶のa面又はm面上を伝搬するバルク弾性波を読み取るための第1電極が、前記圧電体の上面
である前記a面又はm面に設けられていることを特徴とする素子。
【請求項2】
前記すだれ状電極が前記反射器を挟んで2以上設けられている請求項
1に記載の素子。
【請求項3】
前記すだれ状電極が前記表面弾性波を発生させるSAW発生手段及び前記表面弾性波を受信するSAW受信手段を備えている請求項
1に記載の素子。
【請求項4】
前記単結晶のc面上に前記表面弾性波が伝搬するように構成されている請求項
1に記載の素子。
【請求項5】
前記圧電体が、結晶基板上にバッファ層を介してエピタキシャル結晶成長法により積層されている請求項
1に記載の素子。
【請求項6】
前記バッファ層が、Hf又はZrを含む金属酸化物を含む請求項
5に記載の素子。
【請求項7】
圧電素子を含む電子デバイスであって、前記圧電素子が請求項
1に記載の素子であることを特徴とする電子デバイス。
【請求項8】
センサである請求項
7に記載の電子デバイス。
【請求項9】
電子デバイスを含む電子機器であって、前記電子デバイスが、請求項
7に記載の電子デバイスであることを特徴とする電子機器。
【請求項10】
電子機器を含むシステムであって、前記電子機器が、請求項
9に記載の電子機器であることを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体を用いた素子、電子デバイス、電子機器及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子の一つである弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)素子は、水晶基板などの圧電基板上にすだれ状電極(IDT:Interdigital Transducer)を備えている。すだれ状電極は、一対となっており、櫛型の電極が非接触で対向するように圧電基板上に形成されている。このすだれ状電極に交流電圧を印加することで、圧電基板の有する圧電効果および逆圧電効果により、すだれ状電極が形成されている圧電基板の表面および表面付近を周波数帯で振動させることができる。弾性表面波素子は、すだれ状電極の組合せや構成によって、発振器、帯域フィルタ、ジャイロなど、様々な電子機器を構成する電子回路に幅広く用いられている。
【0003】
また、近年においては、例えば、移動体通信に用いられる携帯端末装置の小型化、軽量化が進むとともに、高い通信品質を実現するために、さらに高い精度を有する弾性波素子が求められており、このような要求に応えるべく、球状SAWセンサ(ボールSAWセンサ)等が検討されている(特許文献1)。ボールSAWセンサは、SAWの自然なコリメートビームが多重周回する現象を利用して、相互作用距離を平面型センサよりも著しく増加させることができたため、高感度化に有用である。しかしながら、例えばガスセンサ等に用いる場合には、ガスセンサに用いられる感応膜がSAWの減衰を増加させ、高感度化を妨げることになり、また、高周波特性や高感度化のための補正手法等についてもSAWデバイスには課題が多くあり、まだまだ満足のいくものではなく、さらには環境問題等に対する省エネの要求も加わり、これら課題を解決するような新規SAW素子が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、環境にやさしく、優れた精度を有する弾性表面波素子、並びに前記弾性表面波素子を用いた電子デバイス、電子機器及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、円状又は略円状の圧電体を含み、円周方向又は略円周方向に表面弾性波が伝搬可能となるように1以上のすだれ状電極が前記圧電体に設けられている素子に、前記表面弾性波の伝搬経路内となる前記圧電体に反射器を設けると、驚くべきことに、サニャック効果を用いた位相差による補正を容易に利用できることを知見し、さらに、反射器を用いることにより高感度化の省エネにも成功し、このような素子が、上記した従来の問題を一挙に解決できるものであることを見出した。
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 円状又は略円状の圧電体を含み、円周方向又は略円周方向に表面弾性波が伝搬可能となるように1以上のすだれ状電極が前記圧電体に設けられている素子であって、前記表面弾性波の伝搬経路内となる前記圧電体に反射器が設けられていることを特徴とする素子。
[2] 前記圧電体が円柱状、略円柱状、樽状又は略樽状である前記[1]記載の素子。
[3] 前記すだれ状電極が前記反射器を挟んで2以上設けられている前記[1]又は[2]に記載の素子。
[4] 前記すだれ状電極が前記弾性表面波を発生させるSAW発生手段及び前記弾性表面波を受信するSAW受信手段を備えている前記[1]~[3]のいずれかに記載の素子。
[5] 前記圧電体の前記円周方向又は前記略円周方向に平行となる面に、前記すだれ電極から伝搬される弾性表面波に起因する信号を検出するための電極が設けられている前記[1]~[4]のいずれかに記載の素子。
[6] 前記信号が、前記弾性表面波の伝搬方向に垂直な方向に伝搬するSH波である前記[5]記載の素子。
[7] 前記圧電体が三方晶又は六方晶の結晶構造を有する圧電性材料からなる単結晶である前記[1]~[6]のいずれかに記載の素子。
[8] 前記単結晶のc面上に前記弾性表面波が伝搬するように構成されている前記[7]記載の素子。
[9] さらに、前記単結晶のa面又はm面上を伝搬するバルク弾性波を読み取るための電極が前記a面又はm面に設けられている前記[7]又は[8]に記載の素子。
[10] 前記圧電体が、結晶基板上にバッファ層を介してエピタキシャル結晶成長法により積層されている前記[1]~[9]のいずれかに記載の素子。
[11] 前記バッファ層が、Hf又はZrを含む金属酸化物を含む前記[10]記載の素子。
[12] 圧電素子を含む電子デバイスであって、前記圧電素子が前記[1]~[11]のいずれかに記載の素子であることを特徴とする電子デバイス。
[13] センサである前記[12]記載の電子デバイス。
[14] 電子デバイスを含む電子機器であって、前記電子デバイスが、前記[12]又は[13]に記載の電子デバイスであることを特徴とする電子機器。
[15] 電子機器を含むシステムであって、前記電子機器が、前記[14]記載の電子機器であることを特徴とするシステム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の素子は、環境にやさしく、優れた精度を有する弾性表面波素子であり、本発明の電子デバイス、電子機器及びシステムは、前記弾性表面波素子を備えており、環境にやさしく、前記弾性表面波素子の高精度特性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の素子の好適な実施態様の一例を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の素子に好適に用いられる反射器の一例を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の素子の別の好適な実施態様の一例を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の素子における弾性表面波の伝搬方向及びその垂直方向並びにこれらを利用した補正等を模式的に説明する図である。
【
図5】実施例において好適に用いられる成膜装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の素子は、円状又は略円状の圧電体を含み、円周方向又は略円周方向に表面弾性波が伝搬可能となるように1以上のすだれ状電極が前記圧電体に設けられている素子であって、前記表面弾性波の伝搬経路内となる前記圧電体に反射器が設けられていることを特長とする。
【0011】
前記反射器は、前記表面弾性波(以下、「SAW」ともいう。)の伝搬経路内となる前記圧電体に設けられていれば特に限定されず、公知の反射器であってよいが、本発明においては、例えば
図1に示すように、SAWの伝搬方向において、すだれ状電極(以下「IDT電極」ともいう。)と隣り合うように位置しているのが好ましい。前記反射器は、例えば、格子状に形成されている電極等であってよく、本発明においては、
図2に示すように、互いに対向する1対の反射バスバー21と、前記1対の反射バスバー21間において延びる複数の反射電極指23とを有しているのが好ましい。
【0012】
図2の反射バスバー21及び反射電極指23の形状および寸法は、各反射電極指23の両端が1対の反射バスバー21に接続されていることを除いては、基本的に、IDT電極のバスバー及び電極指と同様であってよい。例えば、各反射電極指23は、一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2方向)に直線状に延びる長尺形状を有しており、互いに同等の長さであり、これら複数の反射電極指23は、例えば、SAWの伝搬方向にそれぞれ並べて配列されている。複数の反射電極指23の本数は、通常、利用を意図しているモードのSAWの反射率が概ね100%以上となるように設定されている。その理論的な必要最小限の本数は、例えば、数本~10本程度が好適な例として挙げられ、反射電極指23の本数は、好ましくは20本以上である。
【0013】
前記反射器は、通常、IDT電極とは電気的に非接続であり、電気的に浮遊状態(外部から電位が付与されない状態)であってもよいし、基準電位等が付与されてもよい。本発明においては、前記反射器が、IDT電極のうちの一方の電極部と電気的に接続されていてもよいが、電気的に浮遊状態(外部から電位が付与されない状態)であるのが好ましい。
【0014】
また、本発明においては、前記素子が、前記すだれ状電極が前記弾性表面波を発生させるSAW発生手段及び前記弾性表面波を受信するSAW受信手段を備えているのが好ましく、前記圧電体の前記円周方向又は前記略円周方向に平行となる面に、前記すだれ電極から伝搬される弾性表面波に起因する信号を検出するための電極が設けられているのも好ましい。前記信号は、前記弾性表面波に起因する信号であれば特に限定されず、通常、前記弾性表面波の伝搬方向に垂直な方向に伝搬する信号であるが、本発明においては、前記弾性表面波の伝搬方向に垂直な方向に伝搬するSH波であるのが好ましい。このような好ましい範囲によれば、前記信号を用いた補正による精度をより容易に向上させることができ、より高感度のセンサを実現することができる。また、本発明においては、例えば
図3に示すように、前記すだれ状電極が前記反射器を挟んで2以上設けられているのがより好ましく、このように構成することで、さらに一段と、前記信号を用いた補正による精度を向上させることができ、より高感度のセンサをより容易に実現することができる。
【0015】
ここで、前記信号を用いた補正の態様の好適な一例を示す。
図4に示すように、すだれ状電極13a、13bに電圧が印加されると、すだれ状電極の電極指によって圧電体3に電圧が印加され圧電体3に沿ってD1方向及びD2方向に伝搬する所定のモードのSAWが励起される。励起されたSAWは、すだれ状電極13a、13bの電極指及び反射器9によって機械的に反射され、電極指のピッチを半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、すだれ状電極の電極指によって取り出される。ここで、回転角速度が加わったSAWの伝搬するD1方向の波とD2方向の波とに位相差が生じるので、例えば、位相差を表す下記式(1)を利用した補正等が可能となる。
【数1】
(式中、Ωは角速度を示し、kは波数を示し、Nは積算回数を示し、Aは上部面積を示す。)
【0016】
また、反射器9により、IDT電極13a、13bにおける定在波が強く立ち、共振子としての機能が向上し、さらに、例えばIDT電極13a、13bと反射器9との境界において、SAWの一部がバルク波に変換されて圧電体3内へ入り込むなどして、弾性表面波の伝搬方向に垂直な方向すなわちD3方向に伝搬する信号を好適に取り出すことができるようになり、これら信号を利用した補正等も可能となる。
【0017】
前記圧電体は、円状又は略円状の圧電体を含んでいれば特に限定されず、どのような形状を有していてもよいが、本発明においては、前記圧電体が円柱状、略円柱状、樽状又は略樽状であるのが好ましい。これら好適な形状は、常法に従い加工して得ることも可能である。前記圧電体の材料も圧電性材料からなるものであれば特に限定されないが、本発明においては、三方晶又は六方晶の結晶構造を有する圧電性材料であるのが好ましい。また、本発明においては、前記圧電体が単結晶であるのが好ましく、三方晶又は六方晶の結晶構造を有する圧電性材料からなる単結晶であるのがより好ましい。このような好ましい範囲によれば、より高感度化を図ることができ、より環境にやさしい素子とすることができる。なお、前記圧電体が、三方晶又は六方晶の結晶構造を有する圧電性材料からなる単結晶である場合には、前記素子は、前記単結晶のc面上に前記弾性表面波が伝搬するように構成されているのが好ましく、さらに、前記単結晶のa面又はm面上を伝搬するバルク弾性波を読み取るための電極が前記a面又はm面に設けられているのも好ましい。このような好ましい範囲によれば、前記素子のさらなる高感度化を容易に実現することができる。
【0018】
本発明においては、前記圧電体は、結晶基板上にバッファ層を介してエピタキシャル結晶成長法により積層されているのが好ましい。前記バッファ層は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されないが、Hf又はZrを含む金属化合物を含むのが好ましく、Hf又はZrを含む金属酸化物を含むのが好ましい。前記金属化合物は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず公知の金属化合物であってよい。酸化物であってもよく、窒化物であってもよい。前記金属酸化物は、本発明においては、通常、結晶性金属酸化物であるが、前記結晶性金属酸化物が、構成金属中、Hf及び/又はZrを50原子%以上含み、Al、Ti、Y及びCeから選ばれる1種又は2種以上の金属を0.1原子%~50原子%含むのも好ましく、このような好ましい混晶によれば、前記バッファ層の応力緩和効果をより優れたものとするだけでなく、前記圧電体の圧電特性をより優れたものとすることができる。
【0019】
前記結晶基板(以下、単に「基板」ともいう)は、基板材料等、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の結晶基板であってよい。有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。本発明においては、前記結晶基板が無機化合物を含んでいるのが好ましい。本発明においては、前記基板が、表面の一部または全部に結晶を有するものであるのが好ましく、結晶成長側の主面の全部または一部に結晶を有している結晶基板であるのがより好ましく、結晶成長側の主面の全部に結晶を有している結晶基板であるのが最も好ましい。前記結晶は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、結晶構造等も特に限定されないが、立方晶系、正方晶系、三方晶系、六方晶系、斜方晶系又は単斜晶系の結晶であるのが好ましく、三方晶系又は六方晶系の結晶であるのがより好ましい。また、前記結晶基板は、オフ角を有していてもよく、前記オフ角としては、例えば、0.2°~12.0°のオフ角などが挙げられる。ここで、「オフ角」とは、基板表面と結晶成長面とのなす角度をいう。前記基板形状は、特に限定されないが、板状であって、前記バッファ層の支持体となるものであれば特に限定されない。絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいが、本発明においては、前記基板が、Si基板であるのが好ましく、結晶性Si基板であるのがより好ましく、(100)に配向している結晶性Si基板であるのが最も好ましい。なお、前記基板材料としては、例えば、Si基板の他に周期律表第3族~第15族に属する1種若しくは2種以上の金属又はこれらの金属の酸化物等が挙げられる。前記基板の形状は、特に限定されず、略円形状(例えば、円形、楕円形など)であってもよいし、多角形状(例えば、3角形、正方形、長方形、5角形、6角形、7角形、8角形、9角形など)であってもよく、様々な形状を好適に用いることができる。また、本発明においては、大面積の基板を用いることもできる。
【0020】
また、本発明においては、前記結晶基板が平坦面を有するのが好ましいが、前記結晶基板が表面の一部または全部に凹凸形状を有しているのも、前記エピタキシャル膜の結晶成長の品質をより良好なものとし得るので、好ましい。前記の凹凸形状を有する結晶基板は、表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されていればそれでよく、前記凹凸部は、凸部または凹部からなるものであれば特に限定されず、凸部からなる凹凸部であってもよいし、凹部からなる凹凸部であってもよいし、凸部および凹部からなる凹凸部であってもよい。また、前記凹凸部は、規則的な凸部または凹部から形成されていてもよいし、不規則な凸部または凹部から形成されていてもよい。本発明においては、前記凹凸部が周期的に形成されているのが好ましく、周期的かつ規則的にパターン化されているのがより好ましい。前記凹凸部の形状としては、特に限定されず、例えば、ストライプ状、ドット状、メッシュ状またはランダム状などが挙げられるが、本発明においては、ドット状またはストライプ状が好ましく、ドット状がより好ましい。また、凹凸部が周期的かつ規則的にパターン化されている場合には、前記凹凸部のパターン形状が、三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形状、円状、楕円状などの形状であるのが好ましい。なお、ドット状に凹凸部を形成する場合には、ドットの格子形状を、例えば正方格子、斜方格子、三角格子、六角格子などの格子形状にするのが好ましく、三角格子の格子形状にするのがより好ましい。前記凹凸部の凹部または凸部の断面形状としては、特に限定されないが、例えば、コの字型、U字型、逆U字型、波型、または三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形等が挙げられる。なお、前記結晶基板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、50~2000μmであり、より好ましくは100~1000μmである。
【0021】
以下、本発明の好適な態様を、図面を用いて説明するが、本発明はこれら好適な態様に限定されるものではない。
【0022】
図1は、本発明の好適な素子の一例を示す。
図1の素子は、結晶基板1上に、バッファ層2がエピタキシャル結晶成長法により形成されており、前記バッファ層2上には、圧電体3が形成されている。圧電体3は、円柱状に加工されており、側面には、すだれ状電極13及び反射器9が形成されている。また、圧電体3の上面には、取り出し電極15が形成されている。取り出し電極15は、前記すだれ電極から伝搬される弾性表面波に起因する信号を検出するための電極であり、前記弾性表面波の伝搬方向に垂直な方向に伝搬するSH波等を検出する検出器に接続されている。なお、すだれ状電極13及び反射器9並びに取り出し電極の形成は、それぞれ公知の手段を用いて行われてよい。すだれ状電極13に電圧が印加されると、圧電体3の圧電効果により、すだれ状電極13の隣り合う電極指間の圧電体上にひずみが生じ表面波が励振される。すだれ状電極は、電極指が周期的に配置されており、表面波はその波長と電極指周期が等しい場合に最も強く励振される。表面に形成された電極間隔で周波数が決まるため、フォトリソ加工等することにより、容易に高周波に対応することができる。
【0023】
前記素子は、常法に従い、電子デバイスに好適に用いられる。例えば、前記素子を、圧電素子として、電源や電気/電子回路と接続し、回路基板に搭載したり、パッケージしたりすることにより様々な電子デバイスを構成することができる。本発明においては、前記電子デバイスが、圧電デバイスであるのが好ましく、例えば、ジャイロスコープ、モーションセンサ等の電子機器における圧電デバイスとして利用可能である。また、例えば、増幅器と整流回路を接続しパッケージすれば、磁気センサなどの各種センサに利用可能である。
【0024】
前記電子デバイスは、常法に従い電子機器に好適に用いられる。前記電子機器としては、上記した電子機器以外にも様々な電子機器に適用可能であり、より具体的に例えば、液体吐出ヘッド、液体吐出装置、振動波モータ、光学機器、振動装置、撮像装置、圧電音響部品や該圧電音響部品を有する音声再生機器、音声録音機器、携帯電話、各種情報端末等が好適な例として挙げられる。
【0025】
また、前記電子機器は、常法に従いシステムにも適用され、かかるシステムとしては、例えばセンサーシステム等が挙げられる。
【実施例】
【0026】
(圧電体の作製例)
Si基板(100)の結晶成長面側をRIEで処理し、酸素の存在下、加熱して熱酸化膜を形成した後、酸素を用いずに、蒸着法にて、蒸着源の金属と、Si基板上の酸化膜中の酸素とを熱反応させ、結晶性金属酸化物の単結晶をSi基板上に形成した。ついで、酸素を流し、温度を下げ、かつ圧力を上げて、蒸着法にて、結晶性金属酸化物の単結晶膜を前記結晶として成膜した。なお、この成膜時の蒸着法の各条件は次の通りであった。
蒸着源 : Hf、Zr
電圧 : 3.5~4.75V
圧力 : 3×10-2~6×10-2Pa
基板温度 : 450~700℃
【0027】
結晶性金属酸化物の単結晶膜の成膜に用いた蒸着成膜装置を
図5に示す。
図5の成膜装置は、ルツボに金属源1101a~1101b、アース1102a~1102h、ICP電極1103a~1103b、カットフィルター1104a~1104b、DC電源1105a~1105b、RF電源1106a~1106b、ランプ1107a~1107b、Ar源1108、反応性ガス源1109、電源1110、基板ホルダー1111、基板1112、カットフィルター1113、ICPリング1114、真空槽1115及び回転軸1116を少なくとも備えている。なお、
図13のICP電極1103a~1103bは基板1112の中心側に湾曲した略凹曲面形状又はパラボラ形状を有している。
【0028】
図5に示すように、基板1112を基板ホルダー1111上に係止する。ついで、電源1110と回転機構(図示せず)とを用いて回転軸1116を回転させ、基板1112を回転させる。また、基板112をランプ1107a~1107bによって加熱し、真空ポンプ(図示せず)によって真空槽1115内を排気により真空又は減圧下にする。その後、真空槽1115内にAr源1108からArガスを導入し、DC電源1105a~1105b、RF電源1106a~1106b、ICP電極1103a~1103b、カットフィルター1104a~1104b、及びアース1102a~1102hを用いて基板1112上にアルゴンプラズマを形成することにより、基板1112の表面の清浄化を行う。
【0029】
真空槽1115内にArガスを導入するとともに反応性ガス源1109を用いて反応性ガスを導入する。このとき、ランプヒーターであるランプ1107a~1107bのオンとオフとを交互に繰り返すことで、より良質な結晶成長膜を形成することができるように構成されている。
【0030】
次に、結晶性金属酸化物の単結晶膜の上に、導電膜として、白金(Pt)の金属膜をスパッタリング法により形成した。この際の条件を、以下に示す。
装置 : ULVAC社製スパッタリング装置QAM-4
圧力 : 1.20×10-1Pa
ターゲット : Pt
電力 : 100W(DC)
厚さ : 100nm
基板温度 : 450~600℃
【0031】
次に、導電膜上に、SRO膜を、スパッタリング法により形成した。この際の条件を、以下に示す。
装置 : ULVAC社製スパッタリング装置QAM-4
パワー : 150W(RF)
ガス : Ar
圧力 : 1.8Pa
基板温度 : 600℃
厚さ : 20nm
【0032】
次に、SRO膜上に、圧電膜として、Pb(Zr0.52Ti0.48)O3膜(PZT膜)を、塗布法により形成した。この際の条件を、以下に示す。
【0033】
Pbの原料として酢酸鉛を用い、Zrの原料として硝酸ジルコニウムを用い、Tiの原料としてチタンイソプロポキシドを用いた。また、Pb、Zr及びTiの各原料を、Pb:Zr:Ti=100+δ:52:48の組成比になるように混合し、溶媒は原料の溶解性を考慮して純水とし、加水分解を制御するため酢酸を添加した。更に、粘度調整用にポリビニルピロリドン粉末を混合溶解させたエタノール(PZT1molに対し0.5~3.0mol)を添加して用いた。最後に、塗布時の濡れ性調整用に、2nブトキシエタノールを適量混合し、原料溶液としてのゾル・ゲル溶液を調製した。
【0034】
次に、調製したゾル・ゲル溶液を、基板上に滴下し、2000rpmで1分間回転させ、基板上にゾル・ゲル溶液をスピンコート(塗布)することにより、前駆体を含む膜を形成した。そして、150℃の温度のホットプレート上に、基板を載置し、更に350℃の温度のホットプレート上に、基板を載置することにより、溶媒を蒸発させて膜を乾燥させた。この工程を5回繰り返して5層を同条件で積層した後、酸素(O2)雰囲気中、650℃で3分間熱処理して前駆体を酸化して結晶化させた。以上のプロセスを10回繰り返し、Pb(Zr0.52Ti0.48)O3膜(PZT膜)を作製した。この時の総膜厚は10μmであった。
【0035】
得られた圧電体の素子への適用例を、以下、図を用いてより具体的に説明するが、本発明は、これら適用例に限定されるものではない。なお、本発明においては、特に断りがない限り、公知の手段を用いて、前記圧電体から素子及び電子デバイス等を製造することができる。
【0036】
図3は、本発明の好適な態様である素子の一例を示す。
図3の素子は、
図1とは、2つのすだれ状電極が前記反射器を挟んで設けられている点で異なる。また、
図3の素子は、前記SH波を検出するためのSH波検出器及びSAWを検出するためのSAW受信器を備えている。
図3の素子は、圧電体3が、円柱状に加工されており、側面には、すだれ状電極13a、13b及び反射器9が公知の手段を用いて形成されている。また、圧電体3の上面には、取り出し電極15が常法に従い形成されている。取り出し電極15は、前記弾性表面波の伝搬方向に垂直な方向に伝搬するSH波を検出するSH波検出器18に接続されている。なお、すだれ状電極13a、13b及び反射器9並びに取り出し電極の形成は、それぞれ公知の手段を用いて行われてよい。すだれ状電極13a、13bに電圧が印加されると、圧電体3の圧電効果により、すだれ状電極13a、13bのそれぞれ隣り合う電極指間の圧電体上にひずみが生じ表面波が励振される。また、すだれ状電極13aには、SAW受信器19が接続されており、SAW伝搬経路内に伝搬する弾性表面波を検出できるように構成されている。弾性表面波は、反射器9により、圧電体3の表面を
図4に示すD1方向及びD2方向にそれぞれ伝搬し、つまり互いに対向する方向に弾性表面波が伝搬し、これにより、位相差が生じるとともに、すだれ状電極13a、13bと反射器9との間等で生じたバルク弾性波を取り出し電極15を介して検出することにより、弾性表面波とバルク弾性波とを利用する、環境にやさしい高精度かつ高感度のセンサを作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の素子は、種々の用途に適用可能であるが、特に圧電センサに好適に用いられ、例えばセンサーシステム用の電子デバイス等に適用される。
【符号の説明】
【0038】
1 結晶基板
2 バッファ層
3 圧電体
9 反射器
10 素子
13 すだれ状電極
13a すだれ状電極
13b すだれ状電極
15 取り出し電極
18 SH波検出器
19 SAW受信器
21 反射バスバー
23 反射電極指
1101a~101b 金属源
1102a~102j アース
1103a~103b ICP電極
1104a~104b カットフィルター
1105a~105b DC電源
1106a~106b RF電源
1107a~107b ランプ
1108 Ar源
1109 反応性ガス源
1110 電源
1111 基板ホルダー
1112 基板
1113 カットフィルター
1114 ICPリング
1115 真空槽
1116 回転軸