(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】樹脂膜及び細胞培養用容器
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20250219BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/00 C
(21)【出願番号】P 2020110430
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2019119070
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 博貴
(72)【発明者】
【氏名】石井 亮馬
(72)【発明者】
【氏名】新井 悠平
(72)【発明者】
【氏名】羽根田 聡
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】Biomaterials,2012年,Vol. 33,pp.3880-3886
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂を含有する細胞培養用足場材料からなる樹脂膜であって、
pH7.0におけるゼータ電位が、-40mV以上、+30mV以下であり、
表面自由エネルギーの分散項成分が
30.0mJ/m
2以上、
36.0mJ/m
2
未満であり、
表面自由エネルギーの極性項成分が
1.5mJ/m
2以上、
6.0mJ/m
2
未満であり、
前記合成樹脂が、
ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂を含
み、
前記ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂が、ブレンステッド塩基性基を有し、
前記ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂において、ブレンステッド塩基性基による変性度が、2モル%以上、30モル%以下であり、
前記ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂が、イミン構造を有する構造単位、イミド構造を有する構造単位、アミン構造を有する構造単位、又はアミド構造を有する構造単位を有する、樹脂膜。
【請求項2】
100℃における貯蔵弾性率が1×10
4Pa以上、1×10
8Pa以下であり、
25℃における貯蔵弾性率と100℃における貯蔵弾性率との比((25℃における貯蔵弾性率)/(100℃における貯蔵弾性率))が1×10以上、1×10
5以下である、請求項
1に記載の樹脂膜。
【請求項3】
水膨潤倍率が50%以下である、請求項1
又は2に記載の樹脂膜。
【請求項4】
前記細胞培養用足場材料中における動物由来の原料の含有量が、0重量%以上、3重量%以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の樹脂膜。
【請求項5】
細胞の培養領域の少なくとも一部に請求項1~
4のいずれか1項に記載の樹脂膜を備える、細胞培養用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用足場材料からなる樹脂膜に関する。また、本発明は、上記樹脂膜を用いた細胞培養用容器にも関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト胚性幹細胞(hESC)やヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)等のヒト多能性幹細胞(hPSC)は、創薬や再生医療への応用が期待されている。このような応用を果たすには、多能性幹細胞を安全に、かつ再現性良く培養し、増殖させることが必須である。特に、再生医療の産業上利用に際しては、幹細胞を未分化状態で多量に扱う必要がある。そのため、天然高分子や合成高分子を用いた培養方法について種々検討されている。
【0003】
例えば、下記の非特許文献1では、iPS細胞やES細胞の増殖用足場材料として、フィブロネクチンを縮合反応させたポリ(ビニルアルコール-ビニルアセタール-イタコン酸)共重合体が提案されている。この足場材料は、親水性及び耐水性に優れているとされている。
【0004】
また下記の特許文献1には、カチオンとしてDMAEMA、アニオンとしてアクリル酸、核酸またはヘパリンを使用した足場材料が開示されている。
【0005】
また下記の特許文献2には、ES細胞やiPS細胞の培養に用いられる足場材料として、親水かつ柔軟なポリロタキサンゲルで被覆された表面を有する培養容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-70303号公報
【文献】特開2017-23008号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Sci.Rep.5,18136、2015年12月14日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
幹細胞の未分化性や分化特性が、増殖性に関与していることが知られており、これを制御する技術が求められている。従来、天然高分子としてのラミニンやヴィトロネクチン等の接着たんぱく質や、マウス肉腫由来のマトリゲルを用いると、播種後の細胞定着性が非常に高いことが知られている。
【0009】
もっとも、天然高分子やマウス肉腫由来のマトリゲル等を用いる方法では、操作が煩雑であり、コストが高くつきがちであった。また、安全性の面でも問題があった。そこで、前述した非特許文献1、特許文献1及び特許文献2に記載のような合成高分子を用いた足場材料が種々提案されている。
【0010】
しかしながら、非特許文献1に記載の細胞足場材料では、フィブロネクチンを含まない場合、すなわち、合成高分子だけの場合には、細胞が伸展せずに収縮し、浮遊するという問題があった。
【0011】
また、特許文献1に記載の細胞足場材料では、イオン性による親水性が高く、細胞塊の収縮や細胞の凝集を引き起こすという問題があった。
【0012】
さらに、特許文献2に記載の細胞足場材料では、親水性が高いため、膨潤しやすかった。そのため、播種した細胞が培養中に足場材料から剥離しやすく、細胞の定着性が低いという問題があった。
【0013】
本発明の目的は、細胞の培養に際しての細胞塊の収縮が生じ難く、細胞の伸展性に優れた細胞培養用足場材料からなる樹脂膜及び細胞培養用容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る樹脂膜は、合成樹脂を含有する細胞培養用足場材料からなる樹脂膜であって、pH7.0におけるゼータ電位が、-40mV以上であり、表面自由エネルギーの分散項成分が24.5mJ/m2以上、45mJ/m2以下である。
【0015】
本発明に係る樹脂膜のある特定の局面では、前記表面自由エネルギーの極性項成分が1mJ/m2以上、20mJ/m2以下である。
【0016】
本発明に係る樹脂膜の他の特定の局面では、pH7.0におけるゼータ電位が+30mV以下である。
【0017】
本発明に係る樹脂膜のさらに他の特定の局面では、100℃における貯蔵弾性率が1×104Pa以上、1×108Pa以下であり、25℃における貯蔵弾性率と100℃における貯蔵弾性率との比((25℃における貯蔵弾性率)/(100℃における貯蔵弾性率))が1×10以上、1×105以下である。
【0018】
本発明に係る樹脂膜のさらに他の特定の局面では、前記合成樹脂は、構成単位中にブレンステッド塩基性基を0.2モル%以上、20モル%以下で含む。
【0019】
本発明に係る樹脂膜のさらに他の特定の局面では、水膨潤倍率が50%以下である。
【0020】
本発明に係る樹脂膜のさらに他の特定の局面では、前記細胞培養用足場材料が、動物由来の原料を実質的に含まない。
【0021】
本発明に係る樹脂膜のさらに他の特定の局面では、前記合成樹脂がビニル重合体を含む。
【0022】
本発明に係る樹脂膜のさらに他の特定の局面では、前記合成樹脂が、少なくともポリビニルアルコール誘導体又はポリ(メタ)アクリル酸エステルを含む。
【0023】
本発明に係る細胞培養用容器は、細胞の培養領域の少なくとも一部に本発明に従って構成される樹脂膜を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る樹脂膜及び細胞培養用容器によれば、細胞の培養に際し、細胞塊の収縮を抑制しつつ、細胞の伸展性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る細胞培養用容器を示す模式的正面断面図である。
【
図2】SF(シェイプファクター)と細胞塊の平面形状との関係を示す模式図である。
【
図3】SF≒0.2である場合の細胞の伸展性の状態を示す写真である。
【
図4】SF≒1である場合の細胞の伸展性の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0027】
本発明に係る樹脂膜は、細胞を培養するために用いられる。
【0028】
本発明に係る樹脂膜は、合成樹脂を含有する細胞培養用足場材料からなる樹脂膜である。本発明に係る樹脂膜のpH7.0におけるゼータ電位は、-40mV以上であり、表面自由エネルギーの分散項成分は、24.5mJ/m2以上、45mJ/m2以下である。
【0029】
本発明に係る樹脂膜では、ゼータ電位及び表面自由エネルギーの分散項成分が上記特定の範囲にあるため、細胞の培養に際し、細胞塊の収縮が生じ難く、細胞の伸展性を高めることができる。以下、これを説明する。
【0030】
(ゼータ電位)
本発明に係る樹脂膜のゼータ電位は、樹脂膜を溶液中に配置した場合、界面である樹脂膜の表面と、樹脂膜の表面から十分に離れた溶液中のバルク部分との電位差である。ゼータ電位は、測定対象物の形状に応じて、流動電位法、電気泳動法、電気浸透法等の方法を適宜選択し求めることができる。
【0031】
例えば、測定対象物が膜である場合は、流動電位法により測定することができる。また、測定対象物が繊維である場合、粒子である場合は電気浸透法により測定することができる。
【0032】
したがって、本発明に係る樹脂膜のゼータ電位は、流動電位法により測定されたゼータ電位であることが好ましい。流動電位法は、例えば、アントンパール社製ゼータ電位測定機器により測定することができる。具体的には、KCl希薄溶液中にて、後述の実施例に記載された方法により測定することができる。電気泳動法としては、例えば、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子社製)を用いて、水中で光散乱することにより、測定する方法が挙げられる。
【0033】
本発明に係る樹脂膜では、pH7.0におけるゼータ電位が、-40mV以上であるので、細胞の伸展性を高めることができる。
【0034】
細胞の伸展性の評価は、シェイプファクター(SF)を求めることにより評価することができる。
【0035】
ここで、シェイプファクター(SF)とは、細胞を培養した後の細胞塊の平面視における領域の形状評価係数であり、SF=4×π×(細胞塊の平面積)/(細胞塊の外周縁の長さ)2で求められる。
【0036】
図2に示すように、上記SFが1であれば、細胞塊の平面形状は円形となる。SFが小さくなるほど、円から遠ざかり、細胞塊の収縮が生じ難く、かつ細胞の伸展性が高くなる。例えば、
図2に示す星形形状の場合、SFは0.3であり、SF=1の円の場合よりも伸展性に優れているといえる。
【0037】
本発明では、上記ゼータ電位が-40mV以上であるため、上記SF値を小さくすることができ、細胞の伸展性を高めることができる。上記樹脂膜のpH7.0におけるゼータ電位は、好ましくは-35mV以上、より好ましくは-30mV以上、さらに好ましくは-25mV以上、特に好ましくは-20mV以上であり、好ましくは+30mV以下、より好ましくは+30mV未満、さらに好ましくは+25mV未満、特に好ましくは+20mV未満である。この場合には、SF値をより一層小さくすることができ、細胞の伸展性をより一層高めることができる。
【0038】
上記ゼータ電位は、上記合成樹脂においてアミノ基等のカチオン性官能基の含有量を増やすことにより、高めることができる。また、上記ゼータ電位は、上記合成樹脂においてカルボキシル基等のアニオン性官能基の含有量を増やすことにより、低くすることができる。
【0039】
(表面自由エネルギー)
細胞塊の収縮を抑え、細胞の伸展性を高める観点から、本発明に係る樹脂膜の表面自由エネルギーの分散項成分は、24.5mJ/m2以上、45mJ/m2以下である。上記分散項成分は、29.0mJ/m2以上、45.0mJ/m2未満であることが好ましく、30.0mJ/m2以上、36.0mJ/m2未満であることがより好ましい。この場合には、細胞塊の収縮をより一層抑え、細胞の伸展性をより一層高めることができる。
【0040】
本発明に係る樹脂膜の表面自由エネルギーの極性項成分は、1mJ/m2以上、20mJ/m2以下であることが好ましく、1.0mJ/m2以上、10.0mJ/m2未満であることがより好ましく、1.5mJ/m2以上、6.0mJ/m2未満であることがさらに好ましい。この場合には、細胞塊の収縮をより一層抑え、細胞の伸展性をより一層高めることができる。
【0041】
なお、上記表面自由エネルギーの分散項成分γd及び極性項成分である双極子成分γpは、Kaelble-Uyの理論式を用いて算出される。Kaelble-Uyの理論式は、下記式(1)で示されるように、トータル表面自由エネルギーγが、分散項成分γdと双極子成分γpとの和になるとの仮定に基づく理論式である。
【0042】
【0043】
また、Kaelble-Uyの理論式では、液体の表面自由エネルギーをγl(mJ/m2)とし、固体の表面自由エネルギーをγs(mJ/m2)とし、接触角をθ(°)とすると、下記式(2)が成立する。
【0044】
【0045】
したがって、液体の表面自由エネルギーγlが既知である液体を2種類用いて、上記樹脂膜に対するそれぞれの接触角θを測定し、γs
d及びγs
pの連立方程式を解くことにより、上記樹脂膜の表面自由エネルギーの分散項成分γd及び双極子成分γpを求めることができる。
【0046】
なお、本明細書においては、上記表面自由エネルギーγlが既知である2種類の上記液体として、純水及びジヨードメタンが用いられている。
【0047】
上記接触角θは、接触角計(例えば、協和界面科学社製「DMo-701」)を用いて、以下のようにして測定される。
【0048】
上記樹脂膜の表面に、純水又はジヨードメタンを1μL滴下する。滴下してから30秒後の純水と、該樹脂膜とのなす角度を、純水に対する接触角θとする。また、同様に、滴下してから30秒後のジヨードメタンと、該樹脂膜とのなす角度を、ジヨードメタンに対する接触角θとする。
【0049】
合成樹脂における疎水性官能基の含有率を高くしたり、環状構造を有する官能基の含有率を高くしたり、ブチル基の含有率を少なくしたりすることにより、上記表面自由エネルギーの分散項成分γdを小さくすることができる。また、合成樹脂における親水性官能基の含有率を高くしたり、ブチル基の含有率を高くしたりすることにより、上記表面自由エネルギーの双極子成分γpを小さくすることができる。
【0050】
(貯蔵弾性率)
上記樹脂膜の100℃における貯蔵弾性率は、好ましくは0.6×104Pa以上、より好ましくは0.8×104Pa以上、さらに好ましくは1.0×104Pa以上、好ましくは1.0×108Pa以下、より好ましくは0.8×108Pa以下、さらに好ましくは1.0×107Pa以下である。
【0051】
上記樹脂膜の25℃における貯蔵弾性率と100℃における貯蔵弾性率との比((25℃における貯蔵弾性率)/(100℃における貯蔵弾性率))は、好ましくは1.0×10以上、より好ましくは5.0×101以上、さらに好ましくは8.0×102以上、好ましくは1.0×105以下、より好ましくは0.75×105以下、さらに好ましくは0.5×105以下である。上記比を上記範囲内とすることにより、播種後の細胞の定着性をより一層高めることができる。
【0052】
25℃及び100℃における貯蔵弾性率は、例えば、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御社製、DVA-200)を用いて、引張条件下、周波数10Hz、ひずみ0.1%、温度範囲-150℃~150℃、及び昇温速度5℃/分の測定条件で測定することにより求めることができる。得られた引張貯蔵弾性率のグラフから25℃及び100℃における貯蔵弾性率を求め、また、比(25℃における貯蔵弾性率/100℃における貯蔵弾性率)を算出する。なお、測定サンプルは、長さ50mm、幅5mm~20mm、厚み0.1mm~1.0mmのサイズとする。
【0053】
上記25℃及び100℃における貯蔵弾性率は、例えば、上記合成樹脂における架橋度を高めること、上記合成樹脂を延伸すること等により、高めることができる。また、上記25℃及び100℃における貯蔵弾性率は、上記合成樹脂において数平均分子量を下げること、ガラス転移温度を下げること等により、低くすることができる。
【0054】
(水膨潤倍率)
上記樹脂膜の水膨潤倍率は、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下である。この場合には、細胞塊の収縮をより一層抑え、細胞の伸展性をより一層高めることができ、播種後の細胞の定着性をより一層高めることができる。
【0055】
水膨潤倍率は、以下のようにして測定することができる。例えば、長さ50mm、幅10mm、厚み0.05mm~0.15mmの細胞培養用足場材料からなる樹脂膜(測定サンプル)を、25℃の水に24時間浸漬する。浸漬前と後のサンプルの重さを測定し、水膨潤倍率=(浸漬後のサンプル重量-浸漬前のサンプル重量)/(浸漬前のサンプル重量)×100(%)を算出する。
【0056】
上記水膨潤倍率は、例えば、上記合成樹脂の疎水性官能基を増やすこと、数平均分子量を下げること等により、小さくできる。
【0057】
[合成樹脂]
細胞培養用足場材料が含有している上記合成樹脂(以下、合成樹脂Xと記載することがある)としては、上記特定のゼータ電位及び上記特定の範囲の表面自由エネルギーを有する限り、特に限定されるものではない。なお、本明細書において、「構造単位」とは、合成樹脂Xを構成するモノマーの繰り返し単位をいう。なお、合成樹脂Xがグラフト鎖を有する場合は、そのグラフト鎖を構成するモノマーの繰り返し単位を含む。
【0058】
合成樹脂Xは、構成単位中にブレンステッド塩基性基を、0.2モル%以上で含むことが好ましく、2モル%以上で含むことがより好ましく、30モル%以下で含むことが好ましく、20モル%以下で含むことがより好ましく、15モル%以下で含むことがさらに好ましい。この場合には、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。なお、ブレンステッド塩基性基等については、後述する。
【0059】
(ビニル重合体)
合成樹脂Xは、ビニル重合体を含むことが好ましく、ビニル重合体であることがより好ましい。なお、ビニル重合体とは、ビニル基又はビニリデン基を有する化合物の重合体である。上記合成樹脂Xがビニル重合体である場合、水中における細胞培養用足場材料の膨潤をより抑制しやすくすることができる。ビニル重合体としては、例えば、ポリビニルアルコール誘導体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。ビニル重合体は、細胞との接着性をより高める観点から、ポリビニルアルコール誘導体又はポリ(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましい。上記合成樹脂Xは、少なくともポリビニルアルコール誘導体又はポリ(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。上記合成樹脂Xは、ポリビニルアルコール誘導体であることが好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸エステルであることも好ましい。
【0060】
(ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂X)
細胞培養用足場材料は、ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂Xを含むことが好ましい。上記合成樹脂Xは、ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂を含むことが好ましく、ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂であることがより好ましい。
【0061】
本明細書において、「ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂X」を、「ポリビニルアセタール樹脂X」と記載することがある。
【0062】
ポリビニルアセタール樹脂Xは、側鎖にアセタール基と、アセチル基と、水酸基とを有する。
【0063】
ポリビニルアセタール樹脂Xを合成する際には、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化する工程を少なくとも備える。
【0064】
ポリビニルアセタール樹脂Xを得るためのポリビニルアルコールのアセタール化に用いられるアルデヒドは、特に限定されない。アルデヒドとしては、例えば、炭素数が1~10のアルデヒドが挙げられる。アルデヒドは、鎖状脂肪族基、環状脂肪族基又は芳香族基を有していてもよい。アルデヒドは、鎖状アルデヒドであってもよく、環状アルデヒドであってもよい。
【0065】
上記アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、アクロレイン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、ペリルアルデヒド、ホルミルピリジン、ホルミルイミダゾール、ホルミルピロール、ホルミルピペリジン、ホルミルトリアゾール、ホルミルテトラゾール、ホルミルインドール、ホルミルイソインドール、ホルミルプリン、ホルミルベンゾイミダゾール、ホルミルベンゾトリアゾール、ホルミルキノリン、ホルミルイソキノリン、ホルミルキノキサリン、ホルミルシンノリン、ホルミルプテリジン、ホルミルフラン、ホルミルオキソラン、ホルミルオキサン、ホルミルチオフェン、ホルミルチオラン、ホルミルチアン、ホルミルアデニン、ホルミルグアニン、ホルミルシトシン、ホルミルチミン、及びホルミルウラシル等が挙げられる。上記アルデヒドは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0066】
アルデヒドは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、又はペンタナールであることが好ましく、ブチルアルデヒドであることがより好ましい。したがって、ポリビニルアセタール骨格は、ポリビニルブチラール骨格であることが好ましい。ポリビニルアセタール樹脂Xは、ポリビニルブチラール樹脂であることが好ましい。
【0067】
ポリビニルアセタール樹脂Xには、ビニル化合物が共重合されていてもよい。すなわち、ポリビニルアセタール樹脂Xは、ポリビニルアセタール樹脂の構造単位とビニル化合物との共重合体であってもよい。本発明では、ビニル化合物と共重合したポリビニルアセタール樹脂も、ポリビニルアセタール樹脂というものとする。
【0068】
ビニル化合物は、ビニル基(H2C=CH-)を有する化合物である。ビニル化合物は、ビニル基を有する構造単位を有する重合体であってもよい。
【0069】
上記共重合体は、ポリビニルアセタール樹脂とビニル化合物とのブロック共重合体であってもよく、ポリビニルアセタール樹脂にビニル化合物がグラフトしたグラフト共重合体であってもよい。上記共重合体は、グラフト共重合体であることが好ましい。
【0070】
ビニル化合物としては、エチレン、アリルアミン、ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、無水マレイン酸、マレイミド、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、ビニルアミン及、又は(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらのビニル化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0071】
細胞の接着性をより一層高める観点からは、ポリビニルアセタール樹脂Xは、ブレンステッド塩基性基又はブレンステッド酸性基を有することが好ましく、ブレンステッド塩基性基を有することがより好ましい。すなわち、ポリビニルアセタール樹脂Xの一部がブレンステッド塩基性基又はブレンステッド酸性基により変性されていることが好ましく、ポリビニルアセタール樹脂Xの一部がブレンステッド塩基性基で変性されていることがより好ましい。
【0072】
ポリビニルアセタール樹脂Xは、ブレンステッド塩基性基又はブレンステッド酸性基を有することが好ましく、ブレンステッド塩基性基を有することがより好ましい。その場合には、細胞の伸展性をより一層高めることができる。このブレンステッド塩基性基又はブレンステッド酸性基は、ポリビニルアセタール樹脂Xの一部に有しておればよく、その場合、ブレンステッド塩基性基又はブレンステッド酸性基を有するモノマーが共重合されていてもよく、グラフトをされていてもよい。上記ブレンステッド塩基性基による変性度は、好ましくは0.2モル%以上、より好ましくは2モル%以上、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは15モル%以下である。ブレンステッド塩基性基による変性度が上記特定の範囲内であれば、細胞の伸展性より一層高めることができる。
【0073】
上記ブレンステッド塩基性基としては、イミン構造を有する置換基、イミド構造を有する置換基、アミン構造を有する置換基、及びアミド構造を有する置換基等のアミン系塩基性基が挙げられる。例えば、特に限定されないが、ヒドロキシアミノ基、ウレア基、グアニジン、ビグアニド等の共役アミン系官能基、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ヘキサメチレンテトラアミン、モルホリン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピロール、アザトロピリデン、ピリドン、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ピラゾール、オキサゾール、イミダゾリン、トリアゾール、チアゾール、チアジン、テトラゾール、インドール、イソインドール、プリン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、アクリジン、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、メラミン等のヘテロ環アミノ系官能基、ポルフィリン、クロリン、コリン等の環状ピロール系官能基及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0074】
ブレンステッド酸性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、マレイン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、又はこれらの塩等が挙げられる。ブレンステッド酸性基は、カルボキシル基であることが好ましい。
【0075】
ポリビニルアセタール樹脂Xは、イミン構造を有する構造単位、イミド構造を有する構造単位、アミン構造を有する構造単位、又はアミド構造を有する構造単位を有することが好ましく、イミン構造を有する構造単位、又はアミン構造を有する構造単位を有することがより好ましい。この場合、これらの構造単位のうちの1種のみを有していてもよく、2種以上を有していてもよい。
【0076】
ポリビニルアセタール樹脂Xは、イミン構造を有する構造単位を有していてもよい。イミン構造とは、C=N結合を有する構造をいう。特に、ポリビニルアセタール樹脂Xは、イミン構造を側鎖に有することが好ましい。
【0077】
ポリビニルアセタール樹脂Xは、イミド構造を有する構造単位を有していてもよい。イミド構造を有する構造単位は、イミノ基(=NH)を有する構造単位であることが好ましい。
【0078】
ポリビニルアセタール樹脂Xは、イミノ基を側鎖に有することが好ましい。この場合、イミノ基は、ポリビニルアセタール樹脂Xの主鎖を構成する炭素原子に直接結合していてもよく、アルキレン基等の連結基を介して主鎖に結合していてもよい。
【0079】
ポリビニルアセタール樹脂Xは、アミン構造を有する構造単位を有していてもよい。上記アミン構造におけるアミン基は、第一級アミン基であってもよく、第二級アミン基であってもよく、第三級アミン基であってもよく、第四級アミン基であってもよい。
【0080】
アミン構造を有する構造単位は、アミド構造を有する構造単位であってもよい。上記アミド構造とは、-C(=O)-NH-を有する構造をいう。
【0081】
ポリビニルアセタール樹脂Xは、アミン構造又はイミン構造を側鎖に有することが好ましい。この場合、アミン構造又はイミン構造は、ポリビニルアセタール樹脂Xの主鎖を構成する炭素原子に直接結合していてもよく、アルキレン基等の連結基を介して主鎖に結合していてもよい。
【0082】
なお、イミン構造を有する構造単位の含有率、イミド構造を有する構造単位の含有率、アミン構造を有する構造単位の含有率、アミド構造を有する構造単位の含有率は、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)により測定することができる。
【0083】
(ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する合成樹脂X)
細胞培養用足場材料は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する合成樹脂Xを含むことが好ましい。上記合成樹脂Xは、ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する合成樹脂を含むことが好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する合成樹脂であることがより好ましい。
【0084】
本明細書において、「ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する合成樹脂X」を、「ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂X」と記載することがある。
【0085】
従って、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xは、ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する樹脂である。
【0086】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xは、(メタ)アクリル酸エステルの重合により、あるいは、(メタ)アクリル酸エステルと、他のモノマーとの共重合により得られる。
【0087】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸環状アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール類、(メタ)アクリル酸ホスホリルコリン等が挙げられる。
【0088】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、及びステアリル(メタ)アクリレート、イソテトラデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0089】
なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、炭素数1~3のアルコキシ基及びテトラヒドロフルフリル基等の置換基で置換されていてもよい。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例としては、メトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等が挙げられる。
【0090】
(メタ)アクリル酸環状アルキルエステルとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0091】
(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、フェニル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0092】
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(3-(メタ)アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、3-(メタ)アクリロイル-2-オキサゾリジノン、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、及び6-(メタ)アクリルアミドヘキサン酸等が挙げられる。
【0093】
(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール類としては、例えば、メトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-トリエチレングルコール(メタ)アクリレート、エトキシ-トリエチレングルコール(メタ)アクリレート、及びヒドロキシ-トリエチレングルコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0094】
(メタ)アクリル酸ホスホリルコリンとしては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等が挙げられる。
【0095】
(メタ)アクリル酸エステルと共重合される他のモノマーとしては、ビニル化合物が好適に用いられる。ビニル化合物としては、エチレン、アリルアミン、ビニルピロリドン、無水マレイン酸、マレイミド、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、ビニルアミン、又は(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。ビニル化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0096】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」又は「メタクリレート」を意味する。
【0097】
上記ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xは、ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂Xと同様に、ブレンステッド塩基性基、またはブレンステッド酸性基を有することが好ましい。その場合には、細胞の伸展性をより一層高めることができる。このブレンステッド塩基性基は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xの一部に有しておればよく、その場合、ブレンステッド塩基性基を有するモノマーが共重合されていてもよく、グラフトをされていてもよい。上記ブレンステッド塩基性基による変性度は、好ましくは0.2モル%以上、より好ましくは2モル%以上、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは15モル%以下である。ブレンステッド塩基性基による変性度が上記特定の範囲内であれば、細胞の伸展性より一層高めることができる。
【0098】
(その他の樹脂)
細胞培養用足場材料は、上述した合成樹脂以外のポリマーを含んでいてもよい。該ポリマーとしては、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0099】
[細胞培養用足場材料]
細胞培養用足場材料は、上記合成樹脂Xを含む。本発明の効果を効果的に発揮させる観点及び生産性を高める観点からは、上記細胞培養用足場材料100重量%中、上記合成樹脂Xの含有量は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは97.5重量%以上、特に好ましくは99重量%以上、最も好ましくは100重量%(全量)である。したがって、上記細胞培養用足場材料は、上記合成樹脂Xであることが最も好ましい。上記合成樹脂Xの含有量が上記下限以上であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮させることができる。
【0100】
上記細胞培養用足場材料は、上記合成樹脂X以外の成分を含んでいてもよい。上記合成樹脂以外の成分としては、多糖類、セルロース、合成ペプチド、ポリペプチド等が挙げられる。
【0101】
本発明の効果を効果的に発揮させる観点から、上記合成樹脂X以外の成分の含有量は少ないほどよい。上記細胞培養用足場材料100重量%中、該成分の含有量は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、更に好ましくは2.5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下、最も好ましくは0重量%(未含有)である。したがって、細胞培養用足場材料は、合成樹脂X以外の成分を含まないことが最も好ましい。
【0102】
上記細胞培養用足場材料は、動物由来の原料を実質的に含まないことが好ましい。動物由来の原料を含まないことにより、安全性が高く、かつ、製造時に品質のばらつきが少ない細胞培養用足場材料を提供することができる。なお、「動物由来の原料を実質的に含まない」とは、細胞培養用足場材料中における動物由来の原料が、3重量%以下であることをいう。上記細胞培養用足場材料は、細胞培養用足場材料中における動物由来の原料が、1重量%以下であることが好ましく、0重量%であることがより好ましい。すなわち、上記細胞培養用足場材料は、動物由来の原料を全く含まないことがより好ましい。
【0103】
(細胞培養用足場材料を用いた細胞培養)
上記細胞培養用足場材料は、細胞を培養するために用いられる。上記細胞培養用足場材料は、細胞を培養する際の該細胞の足場として用いられる。したがって、本発明に係る樹脂膜は、細胞を培養するために用いられ、また、細胞を培養する際の該細胞の足場として用いられる。
【0104】
上記細胞としては、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ及びサル等の動物細胞が挙げられる。また、上記細胞としては、体細胞等が挙げられ、例えば、幹細胞、前駆細胞及び成熟細胞等が挙げられる。上記体細胞は、癌細胞であってもよい。
【0105】
上記幹細胞としては、間葉系幹細胞(MSC)、iPS細胞、ES細胞、Muse細胞、胚性がん細胞、胚性生殖幹細胞、及びmGS細胞等が挙げられる。
【0106】
上記成熟細胞としては、神経細胞、心筋細胞、網膜細胞及び肝細胞等が挙げられる。
【0107】
(細胞培養用足場材料の形状)
本発明に係る樹脂膜は、細胞培養用足場材料により形成される。上記樹脂膜は、細胞培養用足場材料を用いて形成される。上記樹脂膜は、膜状の細胞培養用足場材料であることが好ましい。上記樹脂膜は、細胞培養用足場材料の膜状物であることが好ましい。上記樹脂膜の厚みは特に限定されない。
【0108】
本明細書では、上記細胞培養用足場材料を含む、粒子、繊維、多孔体、又はフィルムも提供する。この場合、上記細胞培養用足場材料の形状は特に限定されず、粒子であっても、繊維であっても、多孔体であっても、フィルムであってもよい。なお、上記粒子、繊維、多孔体、又はフィルムは、上記細胞培養用足場材料以外の構成要素を含んでいてもよい。
【0109】
上記細胞培養用足場材料を含むフィルムは、細胞を平面培養(二次元培養)するために用いられることが好ましい。また、上記細胞培養用足場材料を含む、粒子、繊維、又は多孔体は、細胞を三次元培養するために用いられることが好ましい。
【0110】
(細胞培養用容器)
本発明は、細胞の培養領域の少なくとも一部に上記樹脂膜を備える、細胞培養用容器にも関する。
図1は、本発明の一実施形態に係る細胞培養用容器を模式的に示す正面断面図である。
【0111】
細胞培養用容器1は、容器本体2と、樹脂膜3とを備える。容器本体2の表面2a上に樹脂膜3が配置されている。容器本体2の底面上に樹脂膜3が配置されている。細胞培養用容器1に液体培地を添加し、また、細胞を樹脂膜3の表面に播種することで、細胞を平面培養することができる。
【0112】
なお、容器本体は、第1の容器本体の底面上にカバーガラス等の第2の容器本体を備えていてもよい。第1の容器本体と第2の容器本体とは分離可能であってもよい。この場合、第2の容器本体の表面上に、該細胞培養用足場材料が配置されていてもよい。
【0113】
上記容器本体として、従来公知の容器本体(容器)を用いることができる。上記容器本体の形状及び大きさは特に限定されない。
【0114】
上記容器本体としては、1個又は複数個のウェル(穴)を備える細胞培養用プレート、及び細胞培養用フラスコ等が挙げられる。上記プレートのウェル数は特に限定されない。該ウェル数としては、特に限定されないが、例えば、2、4、6、12、24、48、96、384等が挙げられる。上記ウェルの形状としては、特に限定されないが、真円、楕円、三角形、正方形、長方形、五角形等が挙げられる。上記ウェル底面の形状としては、特に限定されないが、平底、丸底、凹凸等が挙げられる。
【0115】
上記容器本体の材質は特に限定されないが、樹脂、金属及び無機材料が挙げられる。上記樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイソプレン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン等が挙げられる。上記金属としては、ステンレス、銅、鉄、ニッケル、アルミ、チタン、金、銀、白金等が挙げられる。上記無機材料としては、酸化ケイ素(ガラス)、酸化アルミ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、窒化ケイ素等が挙げられる。
【実施例】
【0116】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げ、より詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0117】
細胞培養用足場材料の原料として、以下の合成樹脂X1を合成した。
【0118】
撹拌装置を備えた反応機に、イオン交換水2700mL、平均重合度1600、アミン変性度2.0モル%、鹸化度97.5モル%のアミン変性ポリビニルアルコールを300重量部投入し、撹拌しながら加熱溶解し、溶液を得た。得られた溶液に、触媒として、塩酸濃度が0.2重量%となるように35重量%塩酸を添加した。次いで、温度を15℃に調整し、撹拌しながらn-ブチルアルデヒド22重量部を添加した。次いで、n-ブチルアルデヒド148重量部を添加し、白色粒子状のポリビニルブチラール樹脂を析出させた。析出してから15分後に、塩酸濃度が1.8重量%となるように35重量%塩酸を添加した後、50℃に加熱し、50℃で2時間保持した。次いで、溶液を冷却し、中和した後、ポリビニルブチラール樹脂を水洗し、乾燥させて、ポリビニルブチラール樹脂である合成樹脂X1を得た。
【0119】
得られたポリビニルブチラール樹脂(合成樹脂X1)は、平均重合度1600、水酸基量21モル%、アミン基量2モル%、アセチル化度1モル%、アセタール化度(ブチラール化度)76モル%であった。
【0120】
なお、得られた合成樹脂における構造単位の含有率は、合成樹脂をDMSO-D6(ジメチルスルホキサイド)に溶解した後、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)により測定した。
【0121】
(実施例1~6及び比較例1~4)
実施例1では上記合成樹脂X1を、実施例2~6では合成樹脂X2~X6をそれぞれ用いた。
【0122】
合成樹脂X2は、ブチラール化度71モル%、アセチル化度1モル%及び水酸基量28モル%であるポリビニルアセタール樹脂に、モノマーとして、ジメチルアミノアクリルアミド2mol%が配合された樹脂であり、表1に示す構成を備える樹脂である。合成条件は、次の通りとした。すなわち、上記ポリビニルアセタール樹脂をTHFに濃度20wt%で溶解させ、ジメチルアミノアクリルアミドを2重量部添加した後、開始剤を3重量部溶解させ、UV重合試験機にて20分間UV照射した。
【0123】
また、合成樹脂X3及び合成樹脂X4は、表1に示すように、合成樹脂中のジメチルアミノアクリルアミドの含有割合を、2mol%から5mol%、21mol%としたことを除いては、合成樹脂X2と同様である。
【0124】
合成樹脂X5は、モノマーとして、ジエチルアミノアクリルアミドを用いて、その含有割合を28mol%としたことを除いては、合成樹脂X2と同様である。合成樹脂X6は、モノマーとして、ビニルイミダゾールを用いて、その含有割合を16mol%としたことを除いて、合成樹脂X2と同様である。
【0125】
また、比較例2~4では、表2に示す組成のポリビニルアセタール樹脂を用いた。
【0126】
細胞培養用容器の作製;
表1及び表2に示す合成樹脂0.1重量部をブタノール・メタノール混合溶媒(9:1)19.9重量部に溶解させた。得られた溶液200μLを、ポリスチレンディッシュにキャストした後、60℃で120分間加熱して、表面が平滑な樹脂膜(細胞培養用足場材料からなる樹脂膜)が形成された細胞培養用容器を得た。
【0127】
なお、比較例1では、ポリスチレンディッシュ自体を細胞培養用容器として用いた。
【0128】
pH7.0におけるゼータ電位の測定;
ゼータ電位測定機器(アントンパール社製、型番SURPASS 3)を用いて、実施例1~6及び比較例2~4で得られた樹脂膜のゼータ電位をそれぞれ求めた。まず、0.1mMのKCl溶液を用意した。次に、セルに足場材料の樹脂膜をセットしたあと、pH電極及び導電率計を設定した。HClとNaOH溶液を用いて、pH9~3まで滴定することで各pHでのゼータ電位を測定した。
【0129】
なお、比較例1では、ポリスチレンディッシュのゼータ電位を求めた。また、比較例2及び比較例3は、ゼータ電位が測定下限値未満だったため測定不能とした。
【0130】
表面自由エネルギーの測定;
実施例1~6及び比較例2~4で得られた樹脂膜の表面自由エネルギーについて接触角計(協和界面科学社製、DMo-701)を用いて測定した。上記樹脂膜上に純水1μLを着滴させ、30秒後の液滴像を撮影することで純水の接触角を得た。また、上記樹脂膜上にジヨードメタン1μLを着滴させ、30秒後の液滴像を撮影することでジヨードメタンの接触角を得た。得られた上記接触角をKaelble-Uy理論を用いて表面自由エネルギーγ、分散項成分γd、極性項成分である双極子成分γpを導出した。なお、比較例1では、ポリスチレンディッシュの表面自由エネルギーを求めた。
【0131】
水膨潤倍率;
長さ50mm、幅10mm、厚み0.05mm~0.15mmの各足場材料からなる樹脂膜(測定サンプル)を、25℃の水に24時間に浸漬した。浸漬前と後のサンプルの重さを測定し、水膨潤倍率=(浸漬後のサンプル重量-浸漬前のサンプル重量)/(浸漬前のサンプル重量)×100(%)を算出した。
【0132】
貯蔵弾性率;
各樹脂膜の25℃及び100℃における貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御社製、DVA-200)により測定した。上記動的粘弾性測定装置による測定は、長さ50mm、幅5mm~20mm、厚み0.1mm~1mmの測定サンプルを用いて、周波数10Hz、ひずみ0.1%、温度-150℃~150℃、及び昇温速度5℃/minの条件で行った。なお、比較例1では、ポリスチレンディッシュの貯蔵弾性率を求めた。また、得られた25℃及び100℃における貯蔵弾性率から、比((25℃における貯蔵弾性率)/(100℃における貯蔵弾性率))を算出した。
【0133】
細胞の播種及び培養;
以下の液体培地及びROCK(Rho結合キナーゼ)特異的阻害剤を用意した。
【0134】
TeSR E8培地(STEM CELL社製)
ROCK-Inhibitor(Y27632)
【0135】
得られた細胞培養用容器にリン酸緩衝生理食塩水1mLを加えて37℃のインキュベーター内で1時間静置後、細胞培養用容器からリン酸緩衝生理食塩水を除去した。
【0136】
φ35mmのディッシュにコンフルエント状態になったh-iPS細胞253G1のコロニーを配置し、0.5mMエチレンジアミン/リン酸緩衝溶液1mLを加え、室温で2分静置した。エチレンジアミン/リン酸緩衝溶液を除去した後、TeSR E8培地1mLでピペッティングすることにより50μm~200μmの大きさに砕かれた細胞塊を得た。得られた細胞塊(細胞数0.5×105cells)を上記の細胞培養用容器にクランプ播種した。
【0137】
播種時は1.5mLの液体培地と、終濃度が10μMとなるようにROCK特異的阻害剤とを細胞培養用容器に添加した、37℃及びCO2濃度5%のインキュベーター内で1日間培養を行った。
【0138】
(評価)
SFの評価;
1日間培養を行った後、前述したように、シェイプファクター(SF)を評価した。評価に際しては、位相差顕微鏡による倍率4倍における観察画像を得た。画像解析ソフト(Image J)を用いて細胞塊の周囲長及びその面積を算出し、SF=4×π×(細胞塊の平面積/細胞塊の外周縁の長さ)
2でSF値を求めた。
図3は、SF≒0.2の場合の細胞塊の平面形状を示す写真であり、
図4はSF≒1である場合の細胞塊の平面形状の写真である。
【0139】
また、以下の基準によりSFを評価した。
〇〇〇:SFが0.2未満
〇〇:SFが0.2以上、0.4未満
〇:SFが0.4以上、0.5未満
×:SFが0.5以上
【0140】
結果を下記の表1及び表2に示す。
【0141】
【0142】
【0143】
表1及び表2から明らかなように、比較例1ではSF値が0.82と大きく、細胞の伸展性が低いことがわかる。比較例2~4においても、SF値が0.56以上と大きく、細胞の伸展性が低いことがわかる。これに対して、実施例1~6では、SF値が0.41以下であり、細胞の伸展性が大幅に優れていることがわかる。特に、実施例1,2,3では、SF値が0.25以下であり、より好ましく、実施例2,3では、SF値が0.17以下とさらに好ましいことがわかる。また、実施例1~6では、細胞塊の収縮も見られなかった。
【符号の説明】
【0144】
1…細胞培養用容器
2…容器本体
2a…表面
3…樹脂膜