(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】焼結鉱の製造方法および粉化抑制方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/16 20060101AFI20250219BHJP
【FI】
C22B1/16 N
C22B1/16 K
(21)【出願番号】P 2021060166
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2022-10-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹原 健太
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆英
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】井上 猛
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-113731号公報(JP,A)
【文献】特開昭60-162734号公報(JP,A)
【文献】特開2015-183289号公報(JP,A)
【文献】特開2020-158848号公報(JP,A)
【文献】特開2015-129353号公報(JP,A)
【文献】多木 寛, 焼結鉱製造プロセスにおけるマグネタイト(Fe2+源)の有効利用に関する基礎的研究, 博士論文(九州大学), 2016, 発行日, 第1-13頁, doi.org/10.15017/1806992
【文献】焼結鉱製造における2層ペレット法適用の基礎的検討, 鉄と鋼, 日本, 一般社団法人 日本鉄鋼協会, 1984年04月01日, 発行日, 70巻, 6号, p.520-526
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/14-1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結配合原料を造粒して焼結用造粒原料を作製し、その焼結用造粒原料を焼成して焼結鉱を得る焼結鉱の製造方法において、前記焼結配合原料としてその中に含まれるFe
2O
3およびCaOの比Fe
2O
3/(Fe
2O
3+CaO)が0.76~0.84の範囲内であるものを焼結
し急速に冷却することで、低還元粉化性の焼結鉱を得ることを特徴とする、焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
前記焼結配合原料に含まれるFe
2O
3およびCaOのFe
2O
3/(Fe
2O
3+CaO)比を0.76~0.80にすることを特徴とする、請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
焼結配合原料としてその中に含まれるFe
2O
3およびCaOの比Fe
2O
3/(Fe
2O
3+CaO)が0.76~0.84の範囲内であるものを焼結
し急速に冷却することで、低還元粉化性の焼結鉱を得ることを特徴とする、焼結鉱の粉化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接還元プロセスや高炉プロセス用原料として用いられる、還元粉化特性に優れた焼結鉱の製造方法および粉化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄業で用いる高炉は、炉頂より鉄源である塊鉱石や焼結鉱等をコークスと共に装入する一方、炉下部からは還元ガスを吹込むことで、前記鉄源を溶融、還元して溶銑を生産する設備である。還元ガスと鉄源との反応を促進させるには、高炉内で十分な量のガスが流れるようにすることが必要であり、炉内の通気性を向上させることによって、溶銑の生産率を向上させてコストの低下を図ることが重要である。
【0003】
一般に、前記焼結鉱は高炉内での還元により強度が低下し、粉化しやすくなることが知られており、これを還元粉化と呼んでいる。高炉での通気性を高めるには、特に原料となる焼結鉱の粉化を抑えることが必要であり、上記還元粉化を抑制することが志向される。
【0004】
一方、近年では、CO2削減のために開発された向流層型の直接還元プロセス(MIDREX:登録商標)では、高炉プロセスと同様に通気性が重要であり、特に還元中の粉化が増加すると炉内で塊成化するクラスタリングが生じ、そのクラスタリングが原料の排出を悪化させ、重大な操業トラブルの要因となる可能性が高い。
【0005】
そのため、従来の直接還元プロセスおよび高炉プロセスともに、原料として還元粉化しないような焼結鉱が求められている。焼結鉱の還元粉化は、該焼結鉱中のヘマタイトが還元中にマグネタイトとなり、体積膨張を招いて亀裂が入り、強度低下や粉化促進の原因となることが知られている。そこで、従来、焼結鉱の還元粉化を抑制する方法として、2次ヘマタイトを抑制する技術が提案されている。
【0006】
2次ヘマタイトの生成を抑制する技術として、特許文献1、2では、マグネタイト鉱石をマイクロウェーブ照射によって焼結する技術を提案しており、このような焼結法によりマグネタイト主体の焼結鉱の製造が可能となるとしている。また、特許文献3では、焼結鉱中のヘマタイトを減らしてウスタイトへ還元することで、2次ヘマタイトを含むヘマタイト量を低減する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-41222号公報
【文献】特表2018-510970号公報
【文献】特開2003-293045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に開示された方法では、鉄源として市場で流通量が少ないマグネタイト(Fe3O4)系鉱石にしか適用できず、設備およびランコストが高額になりがちになるという問題があった。また、特許文献3に開示された方法では、鉄源の還元に還元ガスを使用する必要がある。そのため、焼結機に還元装置を備えさせる必要があり、還元のためのランニングコストが大きくなる問題があった。
【0009】
本発明の目的は、高額な設備投資を必要とせず、原料設計・温度制御により低還元粉化性の焼結鉱を得ることができる焼結鉱の製造方法および粉化抑制方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した従来技術が抱えている問題点を解決し、前記目的の実現に向けた研究の中で、発明者らは、まず、Fe
2O
3、CaOの状態図(
図1参照)に着目した。そうした中で、融液から固相が晶出するときの、Fe
2O
3/(Fe
2O
3+CaO)比を調整することで、主にカルシウムフェライトが晶出する領域が存在することが判った。しかし、焼結鉱は通常、焼結機から出た後冷却機で冷やされて室温に戻るため、結局ヘマタイトが晶出すると考えられることから、これまでは上記領域での焼成は行われていなかったのである。
【0011】
そこで、本発明では、焼結機が急速に冷却するプロセスであることに着目し、上記晶出するカルシウムフェライトがヘマタイトに変わる前に冷却することで、2次ヘマタイトの生成を低減する方法を開発した。具体的には、温度や成分について種々検討する他、焼成前の擬似粒子の表面を前述したように成分調整することで、還元粉化性(RDI)が低減可能になることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、焼結配合原料を造粒して焼結用造粒原料を作製し、その焼結用造粒原料を焼成して焼結鉱を得る焼結鉱の製造方法において、前記焼結配合原料としてその中に含まれるFe2O3およびCaOの比Fe2O3/(Fe2O3+CaO)が0.76~0.84の範囲内であるものを用いて焼結することを特徴とする、焼結鉱の製造方法である。
【0013】
また、本発明は、焼結配合原料としてその中に含まれるFe2O3およびCaOの比Fe2O3/(Fe2O3+CaO)が0.76~0.84の範囲内であるものを用いて焼結することで、低還元粉化性の焼結鉱を得ることを特徴とする、焼結鉱の粉化抑制方法である。
【0014】
なお、前記のように構成される本発明に係る焼結鉱の製造方法おいては、
(1)前記鉄源原料に含まれるFe2O3およびCaOのFe2O3/(Fe2O3+CaO)比を0.76~0.80にすること、
(2)前記焼結配合原料に含まれるFe2O3/(Fe2O3+CaO)比を0.76~0.84に調製したFe2O3およびCaOを、前記Fe2O3およびCaO以外の焼結配合原料の造粒中の後段から添加すること、
がより好ましい態様となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、焼結配合原料に含まれるFe2O3およびCaOに着目し、これらの比すなわちFe2O3/(Fe2O3+CaO)比を0.76~0.84にすることで、高額な設備投資を必要とすることなく、低還元粉化性の焼結鉱を得ることができるようになる。また、本発明によれば、比較的低額での投資が可能な造粒プロセスの採用、2次ヘマタイトの抑制を行うことができる。なお、本願で記載しているFe2O3/(Fe2O3+CaO)比は重量比である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】Fe
2O
3およびCaOについての状態図である。
【
図2】(a)、(b)は、本発明の製造方法で製造した焼結鉱における粒子の状態の一実施形態を説明するための図である。
【
図3】(a)、(b)は、本発明の製造方法で製造した焼結鉱における粒子の状態の他の実施形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る焼結鉱の製造方法および焼結鉱の粉化抑制方法について説明する。
図1は、焼結鉱のFe
2O
3およびCaOについての状態図を示すものである。通常の焼結鉱は、Fe
2O
3およびCaOを含む造粒後の焼結造粒原料を、昇温、降温して焼成することにより、
図1に示すような成分構成のものになる。ここで、
図1中の(1)のルートを経るときは、約1350℃以上まで昇温するとマグネタイト生成領域となり、焼結鉱中の残存ヘマタイトがマグネタイトとなる。そこから降温すると、そのマグネタイトはヘマタイトに変わり、さらに約1350℃以下からヘマタイトが晶出する。この晶出したヘマタイトを2次ヘマタイトと呼ぶ。2次ヘマタイトは、その形状、組成から還元粉化を悪化させることが知られている。なお、
図1中(2)の低温焼成のルートでも同様であり、溶融物が少なく晶出量を抑制できるものの、降温過程で2次ヘマタイトが生成してしまう。
【0018】
ここで
図1の状態図について詳細に検討すると、Fe
2O
3/(Fe
2O
3+CaO)比が0.74~0.85領域でかつ焼成温度が1150℃~1200℃近傍では、ヘマタイトが晶出しないことが判明し、本発明ではその点に着目した。すなわち、Fe
2O
3/(Fe
2O
3+CaO)比が0.74~0.80の領域では、初晶としてCF(モノカルシウムフェライト)が生成し、その後もC
2F(ダイカルシムフェライト)が晶出する。Fe
2O
3/(Fe
2O
3+CaO)比が0.80~0.85の領域では、初晶としてヘマタイトが晶出するものの、1200℃以下となると、上記同様CFおよびC
2F安定相になる。
【0019】
そこで、本発明ではFe2O3/(Fe2O3+CaO)比を0.74~0.85にすることで、ヘマタイトを晶出させないが、晶出してもその後カルシウムフェライトが生成する組成での焼成により2次ヘマタイトを抑制する方法に着目した。そして、以下に記載するような試験を行い、焼結鉱の粉化を抑制するのに有効な焼結鉱の製造方法を見出した。
【0020】
そもそも、焼結原料の造粒粒子は表面から熱せられるプロセスであることから、粒子表面は上記組成に、内部はヘマタイト主体組成の造粒物をつくる方法について検討した。そして、以下に記載するような試験を行ったところ、溶融する造粒粒子表面では2次ヘマタイトが生成せず、内部では温度が低く溶融しにくいため、2次ヘマタイトが生成しないことを知見し、本発明に好適な焼結鉱の製造方法を見出した。
【0021】
図2(a)、(b)は、それぞれ、本発明の製造方法に従って製造した焼結鉱における粒子の状態の一実施形態を説明するための図であり、
図2(a)は複数の粒子1から構成される焼結鉱2を示し、
図2(b)は焼結鉱2を構成する1つの粒子1を示している。
図2(a)、(b)に示す例では、Fe
2O
3およびCaOのFe
2O
3/(Fe
2O
3+CaO)比を0.76~0.84に調製した焼結配合原料を造粒して焼結用造粒原料を作製し、その後その焼結用造粒原料を焼成して得た焼結鉱2およびそれを構成する粒子1を示している。本例において、粒子1は単一の層から構成されている。なお、本例において、Fe
2O
3およびCaOのFe
2O
3/(Fe
2O
3+CaO)比は、0.76~0.80であることが好ましい。
【0022】
図3(a)、(b)は、それぞれ、本発明の製造方法に従って製造した焼結鉱における粒子の状態の他の実施形態を説明するための図であり、
図3(a)は複数の粒子11から構成される焼結鉱12を示し、
図3(b)は焼結鉱12を構成する1つの粒子11を示している。
図3(a)、(b)に示す例では、Fe
2O
3/(Fe
2O
3+CaO)比を0.76~0.84に調製したFe
2O
3およびCaO以外の焼結配合原料の造粒中の後段から、Fe
2O
3およびCaOのFe
2O
3/(Fe
2O
3+CaO)比を0.76~0.84に調製した原料を添加して焼結用造粒原料を作製し、その後その焼結用造粒原料を焼成して得た、焼結鉱12およびそれを構成する粒子11を示している。本例において、粒子11は、ヘマタイト主体の内層13とFe
2O
3/(Fe
2O
3+CaO)比を0.76~0.84に調製した外層14とから構成されている。
【実施例】
【0023】
<試験1>
以下の表1に記載の各種配合を行った焼結配合原料(鉄鉱石、石灰石、返鉱、粉コークス)と水(造粒物が7.5%となる水分)をドラムミキサーに入れ、合計5分間造粒を行い、焼結用造粒原料を作製した。表1中、鉱石Aとしては南米北部鉱を用い、鉱石Bとしては南米南部鉱を用い、鉱石Cとしては豪州鉱を用いた。
【0024】
【0025】
その後、焼結用造粒原料を、鍋試験機を用いて焼成して焼結鉱を得た。焼成は、風量を1.2m3/minと一定にした状態で行った。得られた焼結鉱の化学分析および還元粉化試験を行った。還元粉化試験は、JIS M8720に規定された方法に従って行い、各焼結鉱の還元粉化指数(RDI)を求めた。焼結鉱の成分およびRDIを以下の表2に示す。
【0026】
【0027】
表2の結果から、実施例1ではFe2O3/(Fe2O3+CaO)比を0.84にすることで、比較例1、2と比べてRDIが改善していることがわかる。さらに、実施例2~4ではFe2O3/(Fe2O3+CaO)比を0.76~0.80とすることで、RDIが10を下回りさらに改善していることがわかる。なお、Fe2O3/(Fe2O3+CaO)比を0.76未満とした場合は、高融点である石灰同士が隣接しあい、焼結プロセスでは高温となる時間が短いために溶融が進まず、非常に脆弱な焼結鉱しか得ることができなかった。
【0028】
<試験2>
試験1で用いた比較例2と同じ原料条件で、Fe2O3/(Fe2O3+CaO)比が0.76~0.84となる原料を、Fe2O3/(Fe2O3+CaO)比を0.76~0.84に調製したFe2O3およびCaO以外の焼結配合原料の造粒後半で添加し、焼結鉱を構成する粒子において、Fe2O3/(Fe2O3+CaO)比が0.76~0.84となる外層として被覆層を設けた場合の効果について検討した。
【0029】
試験2では、粉コークスを除いた原料のうち25%の質量(乾燥ベース)にあたる原料が、焼成後Fe2O3/(Fe2O3+CaO)比が0.8となるように配合した。ここで、FeはFe2O3またはFeO(マグネタイトとして存在)となることが想定されるが、本試験では比較例2としてFeOが5.5%となると仮定して配合した。FeOは、表2からもわかるように、おもに0~20mass%をとると想定できる。また、焼成後のFeOから、被覆された原料の焼成後Fe2O3/(Fe2O3+CaO)比が推定可能である。具体的には、焼成前後でT.Feは変わらないため、焼結配合原料中のT.Feから焼成後に測定されたFeOの割合からのFeO由来のFe’を計算し、鉄は全て2価、3価の鉄イオンとなると仮定すると、T.Fe-Fe’をFe2O3由来のFe*として計算することができる。このFe*は、Fe*/55.85×(55.85+24)/(1-LOI/100)と計算することで、Fe2O3の割合となる。ここでLOI分原料が減るため補正しており、CaOも(1-LOI/100)で除する。なお、LOIはLoss On Ignitionのことで、JIS M 8700:2013で規定されている。
【0030】
配合に使用した原料の成分、および、上記の方法で計算した焼成後のFe2O3とFe2O3/(Fe2O3+CaO)比の計算値を、以下の表3に示す。
【0031】
【0032】
試験2では、全体の75mass%あたる主原料(第1の焼結配合原料)と水(最終造粒物が7.5mass%となる水分)をドラムミキサーに入れ、合計4.5分間造粒を行い、その後被覆原料(第2の焼結配合原料)を添加し0.5分間造粒し、焼結用造粒原料を作製した。その後、焼結用造粒原料を、鍋試験機を用いて焼成した。焼成は、風量を1.2m3/minと一定にした状態で行った。以下の表4に、比較例2の焼結鉱のRDIとともに、上記被覆方法で焼結用造粒原料を作製し、その後焼成して得た実施例5の焼結鉱のRDIを示す。
【0033】
【0034】
表4の結果から、比較例2と実施例5を比較すると、Fe2O3およびCaOのFe2O3/(Fe2O3+CaO)比が0.76~0.84を満たさない0.91である主原料からなる内層を、Fe2O3およびCaOのFe2O3/(Fe2O3+CaO)比が0.76~0.84を満たす0.8である原料からなる外層を被覆することで、被覆層を設けてなる実施例5の焼結鉱のRDIが比較例2の焼結鉱のRDIよりも改善されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る焼結鉱の製造方法および粉化抑制方法は、焼結鉱に限られず、Fe2O3およびCaOを含有する製鉄原料において、とくに還元粉化特性の抑制が必要な原料に対しても、同様に応用が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1、11 粒子
2、12 焼結鉱
13 内層
14 外層