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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】被膜形成材
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20250219BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20250219BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250219BHJP
【FI】
C09D163/00
C08G59/62
C09D7/63
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021060453
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022156650
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋本 悠介
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-509615(JP,A)
【文献】特表2016-517844(JP,A)
【文献】特開2011-213983(JP,A)
【文献】特開2020-076077(JP,A)
【文献】国際公開第2019/138059(WO,A1)
【文献】特開2008-088348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 163/00
C08G 59/62
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物、アミン化合物、及び、フェノール化合物を含む被膜形成材であって、
該エポキシ化合物及び該フェノール化合物を含む主剤と、該アミン化合物を含む硬化剤とからなり、
該フェノール化合物が、
モノフェニルエチルフェノールからなるフェノール化合物(1)と、ジフェニルエチルフェノールからなるフェノール化合物(2)を含有し、
フェノール化合物(1)とフェノール化合物(2)の混合比率(重量比率)が、8515~99:1であることを特徴とする被膜形成材。
【請求項2】
前記エポキシ化合物のエポキシ当量が、50g/eq以上500g/eq以下であることを特徴とする請求項1記載の被膜形成材。
【請求項3】
前記アミン化合物の活性水素当量が、30g/eq以上300g/eq以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の被膜形成材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜白化を改善した新規な被膜形成材に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物とアミン化合物を含むエポキシ系被膜形成材は、優れた物性を有することから、コーティング分野において広く採用されている。
【0003】
しかしながらエポキシ系被膜形成材は、被膜を形成する際に、白化する問題が指摘されている。特に高湿度、低温環境下においては、白化が著しくみられ、このような白化を防止する試みが種々提案されている。
例えば、特許文献1には、特定のアミンを用いたエポキシ樹脂が、白化に有効であることが記載されている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献においても、白化を防止することは困難な場合があり、より確実に白化を防止できる技術が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2014-532805公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上述のような問題点に鑑みなされたもので、耐白化性に優れた被膜形成材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討の結果、エポキシ化合物、アミン化合物とともに、1つの特定の置換基を有するフェノール化合物(1)と、2つまたは3つの特定の置換基を有するフェノール化合物(2)を特定比率で含むことによって、耐白化性に優れる被膜形成材が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.エポキシ化合物、アミン化合物、及び、フェノール化合物を含む被膜形成材であって、
該エポキシ化合物及び該フェノール化合物を含む主剤と、該アミン化合物を含む硬化剤とからなり、
該フェノール化合物が、
モノフェニルエチルフェノールからなるフェノール化合物(1)と、ジフェニルエチルフェノールからなるフェノール化合物(2)を含有し、
フェノール化合物(1)とフェノール化合物(2)の混合比率(重量比率)が、8515~99:1であることを特徴とする被膜形成材。
2.前記エポキシ化合物のエポキシ当量が、50g/eq以上500g/eq以下であることを特徴とする1.記載の被膜形成材。
3.前記アミン化合物の活性水素当量が、30g/eq以上300g/eq以下であることを特徴とする1.または2.に記載の被膜形成材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被膜形成材は、耐白化性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
本発明の被膜形成材は、エポキシ化合物、アミン化合物、及び、フェノール化合物を含むものであり、該フェノール化合物は、式(1)で示されるフェノール化合物(1)と、式(2)で示されるフェノール化合物(2)を含有し、フェノール化合物(1)とフェノール化合物(2)の混合比率(重量比率)が、50:50~99:1であることを特徴とするものである。
式(1)
式(2)
(mは1、nは2または3の整数、R1は同じでも異なっていてもよく、不飽和6員環構造を有する置換基、飽和6員環構造を有する置換基、または、炭素数1~12の直鎖状あるいは分岐状アルキル基を有する置換基を示す。)
【0012】
本発明では、フェノール化合物(1)とフェノール化合物(2)を、混合比率(重量比率)50:50~99:1、好ましくは55:45~95:5、さらに好ましくは60:40~90:10で含むことにより、耐白化性に優れる被膜形成材を得ることができる。本発明では特に、低温(10℃以下)での耐白化性に優れている。
上記混合比率(重量比率)から外れる場合は、耐白化性の向上がみられない。また、フェノール化合物(1)、フェノール化合物(2)それぞれ単独でも耐白化性の向上がみられない。
【0013】
フェノール化合物(1)としては、フェノールに1つの置換基(R1)を有するもので、置換基(R1)としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、ジエチルフェニル基、トリエチルフェニル基、フェニルメチル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、フェニルエチル基、メチルフェニルエチル基等の不飽和6員環構造を有する置換基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基等の飽和6員環構造を有する置換基、また、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、nブチル基、iブチル基、tブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基等の炭素数1~12の直鎖状あるいは分岐状アルキル基を有する置換基等が挙げられる。また置換基の位置は、オルト、パラ、メタ等限定されない。
フェノール化合物(1)としては、特に、フェニルフェノール、メチルフェニルフェノール、フェニルメチルフェノール、フェニルエチルフェノール、tブチルフェノール、ドデシルフェノール、シクロヘキシルフェノール等から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0014】
フェノール化合物(2)としては、フェノールに2つまたは3つの置換基(R1)を有するもので、置換基(R1)としては、例えば、上記に示す置換基を採用することができ、置換基の種類は同一でも異なっていてもよい。また置換基の位置は、オルト、パラ、メタ等限定されない。
フェノール化合物(2)としては、特に、ジフェニルフェノール、トリフェニルフェノール、ジ(メチルフェニル)フェノール、トリ(メチルフェニル)フェノール、ジ(フェニルメチル)フェノール、トリ(フェニルメチル)フェノール、ジ(フェニルエチル)フェノール、トリ(フェニルエチル)フェノール、ジtブチルフェノール、トリtブチルフェノール、ジドデシルフェノール、トリドデシルフェノール、ジシクロヘキシルフェノール、トリシクロヘキシルフェノール、イソプロピルメチルフェノール、ジメチル(フェニルエチル)フェノール、ジメチルエチル(フェニルエチル)フェノール等から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0015】
また、上記フェノール化合物(1)、フェノール化合物(2)の他に、本発明の効果を損なわない程度に、カルダノール、サリチル酸等のフェノール化合物、また上記置換基を有するナフトール化合物を含むこともできる。
【0016】
エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型ビスフェノールAエポキシ樹脂、フェノールノボラック型ビスフェノールFエポキシ樹脂等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂との共重合型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル、モノ(ジ)ヒドロキシナフタレンノボラックのポリグリシジルエーテル、フェノール-ジビニルベンゼン架橋型フェノール樹脂のポリグリシジルエーテル、ビスフェノールA-ジビニルベンゼン架橋型フェノール樹脂のポリグリシジルエーテル、モノ(ジ)ヒドロキシナフタレン-ジビニルベンゼン架橋型フェノール樹脂のポリグリシジルエーテル等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
また本発明では、水溶形、水分散形、自己分散形、溶剤可溶形、無溶剤形、非水分散形等特に限定されないが、特に、無溶剤形を用いることが好ましい。
【0017】
本発明では、エポキシ化合物のエポキシ当量(固形分当たり)が、50g/eq以上500g/eq以下、さらには80g/eq以上450g/eq以下、さらには100g/eq以上400g/eq以下であることが好ましい。
【0018】
エポキシ化合物とフェノール化合物の混合比率は、特に限定されないが、エポキシ化合物(固形分)100重量部に対し、フェノール化合物10重量部以上50重量部以下、さらには15重量部以上40重量部以下であることが好ましい。
【0019】
アミン化合物としては、例えば、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、複素環状アミン、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミド、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミドアミン、脂環式ポリアミドアミン、芳香族ポリアミドアミン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
また本発明では、水溶形、水分散形、自己分散形、溶剤可溶形、無溶剤形、非水分散形等特に限定されないが、特に、無溶剤形を用いることが好ましい。
【0020】
本発明では、アミン化合物の活性水素当量(固形分当たり)が、30g/eq以上300g/eq以下、さらには50g/eq以上250g/eq以下、さらには75g/eq以上200g/eq以下であることが好ましい。
【0021】
エポキシ化合物とアミン化合物の混合比率は、特に限定されないが、(エポキシ化合物の配合量/エポキシ化合物のエポキシ当量)/(アミン化合物の配合量/アミン化合物の活性水素当量)比率が0.1から10、さらには、0.3から3の範囲内であることが好ましい。
【0022】
本発明で使用する溶剤としては、エポキシ化合物、アミン化合物等の種類によって、適宜設定することができるが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、n-ヘキサン、n-ペンタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン等の脂肪族炭化水素系溶剤、石油エーテル、石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤、n-メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶剤、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール系溶剤、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコール系溶剤、水等を用いることができる。
【0023】
また、本発明の効果を損なわない限り、上記成分以外に、例えば、顔料、骨材、シランカップリング剤、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、触媒、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、凍結防止剤、pH調整剤、界面活性剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、繊維、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を混合することもできる。
【0024】
顔料としては、公知の顔料が使用でき、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、黒鉛、黒色酸化鉄、銅クロムブラック、コバルトブラック、銅マンガン鉄ブラック、べんがら、モリブデートオレンジ、パーマネントレッド、パーマネントカーミン、アントラキノンレッド、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、黄色酸化鉄、チタンイエロー、ファーストイエロー、ベンツイミダゾロンイエロー、クロムグリーン、コバルトグリーン、フタロシアニングリーン、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、金属顔料、パール顔料等が挙げられる。
【0025】
骨材としては、公知の骨材が使用でき、例えば、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、陶土、チャイナクレー、硫酸バリウム、炭酸バリウム、珪石粉、珪藻土、また、珪砂、川砂、山砂、大理石粉砕物、花崗岩粉砕物、黒曜石粉砕物、石灰岩粉砕物、陶磁器粉砕物、ガラスビーズ、ガラス粉砕物等が挙げられる。
【0026】
本発明は、エポキシ化合物、アミン化合物、フェノール化合物を混合した1液型の被膜形成材、あるいは、エポキシ化合物を含む主剤、アミン化合物を含む硬化剤、主剤及び/または硬化剤にフェノール化合物を含む2液型の被膜形成材、あるいは、エポキシ化合物を含む主剤、アミン化合物を含む硬化剤、フェノール化合物を含む助剤からなる3液型の被膜形成材、の形態に適用できるものであるが、本発明では特に、エポキシ化合物、フェノール化合物を含む主剤、アミン化合物を含む硬化剤からなる2液型の被膜形成材として使用することが好ましい。特に2液型において、フェノール化合物をエポキシ化合物を含む主剤側に混合することにより、耐白化性を向上させることができる。
【0027】
本発明の被膜形成材は、主に、建築物、土木構築物等に適用することができ、例えば、コンクリート、モルタル、アスファルト、サイディングボード、磁器タイル、押出成形板、石膏ボード、パーライト板、煉瓦、プラスチック、カラー鋼板、銅板、アルミニウム板、チタン板、ステンレス板、亜鉛メッキ鋼板、金属、鉄骨(鋼材)、木材、ガラス等の各種基材に適用することができる。特に本発明では、工場、倉庫、駐車場、陸上競技場、病院、学校等建築構造物の屋内床面、あるいは一般歩道、歩道橋、公園、遊園地、プラットホーム、建築物屋上等の屋外床面に適用することが好ましい。
【0028】
被膜形成材の塗装方法は、特に限定されないが、コテ、刷毛、ローラー、スプレー、吹付けガン等の器具を用いて塗装することができ、前記下地には、予め下塗材を施した下地に対し塗装することもできる。
被膜形成材の塗付け量は、特に限定されないが、0.1kg/m以上5kg/m以下、さらには0.2kg/m以上3kg/m以下程度で塗装することができ、1回あるいは複数回にわけて塗装することができる。
【実施例
【0029】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明の特徴をより明確にする。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
(実施例1~7、比較例1~3)
表1に示す原料を用い、表2に示す配合にて常法により、エポキシ化合物、フェノール化合物、顔料、添加剤を混合した主剤と、アミン化合物からなる硬化剤を製造した。
得られた主剤と硬化剤を用いて、次の試験を行った。
【0033】
(白化性1)
予めエポキシプライマーを施したスレート(400mm×200mm×6mm)の上に、主剤と硬化剤を混合した被膜形成材を、気温23℃、相対湿度90%の条件下で、コテにて、塗付け量1.5kg/mで塗装した。白化性は、塗装後24時間後の塗膜表面を観察し、評価した。評価は5:異常はみられなかった、から、1:塗膜白化がみられた、の5段階評価で行った。結果は、表2に示す。
(白化性2)
気温5℃、相対湿度90%の条件以外は、白化性1と同様の方法で、白化性を評価した。結果は、表2に示す。
(硬化性)
予めエポキシプライマーを施したスレート(400mm×200mm×6mm)の上に、主剤と硬化剤を混合した被膜形成材を、気温23℃、相対湿度90%の条件下で、コテにて、塗付け量1.5kg/mで塗装した。硬化性は、塗装後24時間後、JIS K 5600-5-4の引っかき硬度(鉛筆法)に準じて鉛筆硬度により評価した。評価は次のとおりである。結果は、表2に示す。
4:HB以上
3:Bまたは2B
2:3Bまたは4B
1:5B以下
【0034】
(実施例8)
表1に示す実施例1の配合において、エポキシ化合物、顔料、添加剤を混合した主剤と、アミン化合物、フェノール化合物を混合した硬化剤を製造した。
得られた主剤と硬化剤を用いて、白化性1試験、白化性2試験を行った。結果は、表2に示す。