(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】ロータ温度推定システム及びロータ温度推定方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/66 20160101AFI20250219BHJP
【FI】
H02P29/66
(21)【出願番号】P 2021090492
(22)【出願日】2021-05-28
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】平本 健二
(72)【発明者】
【氏名】蓑島 紀元
(72)【発明者】
【氏名】古川 智康
(72)【発明者】
【氏名】中河 聡史
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-167779(JP,A)
【文献】特開2016-144260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機のロータの温度を推定するロータ温度推定システムであって、
前記ロータの温度の推定のサンプリング時間間隔より短いサンプリング時間間隔毎に
、前記回転機の同期周波数とすべり周波数の和である駆動周波数に基づいて前記ロータの鉄損と、前記回転機の2次電流に基づいて前記ロータの銅損と、を含む前記回転機の損失を算出するモータ損失演算器と、
前記モータ損失演算器において算出された前記回転機の損失を前記ロータの温度の推定のサンプリング時間間隔まで累積してモータ損失累積値を算出するモータ損失調整器と、
前記モータ損失累積値を用いて前記ロータの温度を推定するロータ温度推定器と、
を備えることを特徴とするロータ温度推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載のロータ温度推定システムであって、
前記ロータの温度の推定のサンプリング時間間隔より短いサンプリング時間間隔は、前記回転機の電流制御のサンプリング時間間隔であることを特徴とするロータ温度推定システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のロータ温度推定システムであって、
前記ロータ温度推定器は、前記回転機の熱回路モデルに基づいたオブザーバを用いて前記ロータの温度を推定することを特徴とするロータ温度推定システム。
【請求項4】
回転機のロータの温度を推定するロータ温度推定方法であって、
前記ロータの温度の推定のサンプリング時間間隔より短いサンプリング時間間隔毎に
、前記回転機の同期周波数とすべり周波数の和である駆動周波数に基づいて前記ロータの鉄損と、前記回転機の2次電流に基づいて前記ロータの銅損と、を含む前記回転機の損失を算出し、
算出された前記回転機の損失を前記ロータの温度の推定のサンプリング時間間隔まで累積してモータ損失累積値を算出し、
前記モータ損失累積値を用いて前記ロータの温度を推定することを特徴とするロータ温度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機のロータ温度推定システム及びロータ温度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機等の回転機においてロータの温度を推定する方法が知られている。誘導モータについて、モータ回転数、ステータコイル温度、ステータコイル電流値の制御指令値又は検出値、すべり周波数、ロータ温度の前回推定値を入力として、ステータ及びロータで発生する損失を算出し、その算出値とステータコイル温度及び誘導モータのフレームの外気温度から熱エネルギの釣り合いを用いて設定されたモデルに基づいてロータ温度を推定するロータ温度推定器が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、モータの損失を演算する際に入力されるコイル電流やすべり周波数は本来であれば実際のモータの指令値を更新するマイクロ秒~ミリ秒程度の時間間隔で変化し、モータの回転数もミリ秒程度の時間で変化する。しかしながら、ロータ温度の推定に用いられる測定のサンプリングは数秒程度の時間間隔とすることが多い。すなわち、ロータ温度の推定とモータ損失の演算において数秒程度の同じ時間間隔でサンプリングが行われ、ロータ温度の推定のサンプリングの時間間隔内では値が変化しないものとして演算が行われることになる。したがって、モータ損失の演算の精度が低下し、これに伴ってロータ温度の推定の精度も低下する。
【0005】
一方、ロータ温度の推定におけるサンプリングの時間間隔を短くして、電流制御のサンプリングと同等のマイクロ秒~ミリ秒程度の時間間隔とした場合、モータ損失の演算の精度は向上するものの、計算量が莫大に増加するために演算装置のコストが高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様は、回転機のロータの温度を推定するロータ温度推定システムであって、前記ロータの温度の推定のサンプリング時間間隔より短いサンプリング時間間隔毎に前記回転機の損失を算出するモータ損失演算器と、前記モータ損失演算器において算出された前記回転機の損失を前記ロータの温度の推定のサンプリング時間間隔まで累積してモータ損失累積値を算出するモータ損失調整器と、前記モータ損失累積値を用いて前記ロータの温度を推定するロータ温度推定器と、を備えることを特徴とするロータ温度推定システムである。
【0007】
ここで、前記ロータの温度の推定のサンプリング時間間隔より短いサンプリング時間間隔は、前記回転機の電流制御のサンプリング時間間隔であることが好適である。
【0008】
また、前記ロータ温度推定器は、前記回転機の熱回路モデルに基づいたオブザーバを用いて前記ロータの温度を推定することが好適である。
【0009】
本発明の別の態様は、回転機のロータの温度を推定するロータ温度推定方法であって、前記ロータの温度の推定のサンプリング時間間隔より短いサンプリング時間間隔毎に前記回転機の損失を算出し、算出された前記回転機の損失を前記ロータの温度の推定のサンプリング時間間隔まで累積してモータ損失累積値を算出し、前記モータ損失累積値を用いて前記ロータの温度を推定することを特徴とするロータ温度推定方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ロータ温度の推定処理における演算の負荷を抑制しつつ、ロータ温度の推定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態における回転機の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態におけるロータ温度推定システムの構成を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態におけるロータ温度推定システムの制御装置の構成を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態及び従来法におけるステータ電流に対する損失の算出例を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における熱回路モデルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、ロータ温度の推定の対象となる回転機100の構成例を示す。本実施の形態では、回転機100として3相かご形誘導モータを例に説明を行う。ただし、回転機100は、これに限定されるものではなく、他の構成のモータやモータジェネレータ、発電機としてもよい。
【0013】
回転機100は、ステータ10、ロータ12、シャフト14、筐体16を含んで構成される。なお、本実施の形態では、筐体16を第1フレーム16a及び第2フレーム16bに分けて構成した例を示している。
【0014】
ステータ10は、ステータコイルに流されるモータ電流によって回転磁界を発生させる構成要素である。ステータ10は、筐体16に固定される。ステータ10には、円筒形状のステータコアにステータコイルが取り付けられた構成とされる。ステータコイルは、U相、V相、W相の3相コイルを含む。ステータコイルは、3相以外の複数相のコイルを有する構成としてもよい。3相コイルは、電源のインバータ(図示せず)に接続される。ステータコイルに流れるモータ電流は、制御部(図示せず)からのトルク指令値に応じて制御される。
【0015】
ロータ12は、ステータ10の内周面に対して所定の間隙をもってステータ10内に配置される。本実施の形態におけるロータ12は、かご形ロータであり、磁性材製のロータコア、ロータコアの周方向に沿って複数位置に設けられた孔に挿入された複数の導体バー、複数の導体バーの端部同士を連結するエンドリングとを含んで構成される。導体バー及びエンドリングは、導電性の材料により形成される。
【0016】
ロータ12は、ステータ10によって形成される回転磁界との電磁的な相互作用によってステータ10内にて回転する。ロータ12の回転軸としてシャフト14が設けられる。シャフト14は、筐体16に対して軸受を介して回転可能に支持され、筐体16の外部にて負荷102に接続される。これによって、ロータ12の回転に伴って負荷102が回転駆動される。
【0017】
回転機100の動作時には、ステータコイルに通電することによりステータ10から回転磁界を発生させ、その回転磁界によりロータ12の導体バーに誘導電流を生じさせ、この誘導電流と回転磁界との間に作用する電磁力によってロータ12の導体バーに回転力を発生させる。これにより、ロータ12がシャフト14を回転中心軸として回転する。
【0018】
回転機100は、例えば、電気自動車又はハイブリッド車等の車両に搭載されて使用することができる。すなわち、回転機100は、走行用モータとして車輪に動力を与えるための駆動装置とすることができる。
【0019】
図1に示すように、回転機100において、ステータ10とロータ12との間の間隙の空間、筐体16の第1フレーム16aとステータ10及びロータ12とで囲まれた空間、筐体16の第2フレーム16bとステータ10及びロータ12とで囲まれた空間、筐体16の外側の空間における空気をそれぞれ空気0、空気1、空気2、空気3(外気)とする。空気0、空気1、空気2に対するロータ12の空気抵抗はモータ回転数に応じて変化する。
【0020】
図2は、ロータ温度推定システム200の構成を示す。
図3は、ロータ温度推定システム200を構成する制御装置20の構成を示すブロック図である。ロータ温度推定システム200は、回転機100におけるロータ12の回転数、モータ電流(又はモータ電流の指令値)、すべり周波数(又はすべり周波数の指令値)、コイル温度等の情報に基づいてロータ12の温度を推定するロータ温度推定処理を行う。
【0021】
ロータ温度推定システム200は、制御装置20、回転数センサ22と、コイル温度センサ24、外気温度センサ26を含んで構成される。また、制御装置20は、モータ損失演算器20a、モータ損失調整器20b及びロータ温度推定器20cを含んで構成される。
【0022】
制御装置20は、CPU等の演算処理部及びメモリ等の記憶部を有する。制御装置20は、例えば、一般的なコンピュータとすることができる。制御装置20は、後述するロータ温度推定処理を行うことによって、モータ損失演算器20a、モータ損失調整器20b及びロータ温度推定器20cとして機能する。ロータ温度推定処理は、例えば、制御装置20においてロータ温度推定処理プログラムを実行することによって行われる。
【0023】
回転数センサ22は、回転機100を構成するロータ12の回転数をモータ回転数Nとして検出する。検出されたモータ回転数Nは制御装置20に入力される。回転数センサ22は、例えば、ロータ12の回転角度を検出するレゾルバにより構成することができる。コイル温度センサ24は、回転機100を構成するステータ10のステータコイルのコイル温度Tcoilを検出する。コイル温度Tcoilは、ステータコイル温度に相当する。検出されたコイル温度Tcoilは制御装置20に入力される。外気温度センサ26は、回転機100の周囲の温度を外気温度Tair3として検出する。検出された外気温度Tair3は制御装置20に入力される。
【0024】
また、回転機100が搭載された車両のアクセルペダルセンサ等の加速度指示センサから加速指示のための操作量が検出され、当該操作量に応じてトルク指令値TRが算出される。加速指示のための操作量の検出値と車速センサの検出値とからトルク指令値TRを算出してもよい。なお、制御装置20に直接に加速指示のための操作量検出値等を入力し、制御装置20によってトルク指令値TRを算出する構成としてもよい。トルク指令値TRとモータ回転数Nとに基づいてステータコイル電流Isとすべり周波数ωsが算出される。ステータコイル電流Isは、回転機100の1次電流であり、回転機100に制御指令値として与えるステータコイル電流値に相当する。ステータコイル電流Isとして、1つの所定相のステータコイル電流の実効値を算出してもよく、3相のステータコイル電流の実効値を算出してもよい。ステータコイル電流Isと及びすべり周波数ωsは制御装置20に入力される。
【0025】
なお、ステータコイル電流Isとして、制御指令値でなく、電流センサで検出された検出値を制御装置20に入力してもよい。このとき、制御装置20は、電流センサから入力された1つの所定相のステータコイル電流の複数回の検出に基づく所定相のステータコイル電流の実効値を算出すればよい。実効値の算出には、所定相のステータコイル電流において所定時間間隔で検出された複数の電流検出値を用いることができる。例えば、所定の時間間隔で検出されたU相のステータコイル電流Iuについて複数のステータコイル電流Iuの二乗平均平方根からU相のステータコイル電流の実効値を算出することができる。所定相のステータコイル電流の実効値の算出値は、3相のステータコイル電流の実効値とみなすことができる。同様に、すべり周波数ωsとして、制御指令値でなく、周波数センサで検出された検出値を制御装置20に入力してもよい。
【0026】
具体的には、モータ損失演算器20aは、数式(1)~数式(4)を用いてステータ鉄損Loss_is、ステータ銅損Loss_cs、ロータ損失Loss_rを算出する。なお、ロータ損失Loss_rは、ロータ鉄損Loss_irとロータ銅損Loss_crの和である。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0027】
ここで、Kh_s:ステータ10のヒステリシス損係数、Kef_s:ステータ10の渦損係数、Rs:ステータ10の抵抗(ステータ温度Tcの関数)、ω:同期周波数(モータ回転数Nの関数)、Is:モータ電流、Kh_r:ロータ12のヒステリシス損係数、Kef_r:ロータ12の渦損係数、Rr:ロータ12の抵抗(ロータ温度Trの関数)、ωre:駆動周波数(同期周波数+すべり周波数)、Ir:モータ2次電流である。
【0028】
同期周波数ωはセンサで測定されたモータ回転数Nから導出した値、ステータコイル電流Isは電流センサによる測定値又は指令値、駆動周波数ωreは同期周波数ωにすべり周波数の指令値を加算した値を用いる。
【0029】
ここで、モータ損失演算器20aは、サンプリング時間間隔ST1をマイクロ秒~ミリ秒程度とする。すなわち、モータ損失演算器20aは、マイクロ秒~ミリ秒程度のサンプリング時間間隔ST1でステータ鉄損Loss_is、ステータ銅損Loss_cs及びロータ損失Loss_r(ロータ鉄損Loss_ir,ロータ銅損Loss_cr)を算出する。算出されたステータ鉄損Loss_is、ステータ銅損Loss_cs及びロータ損失Loss_r(ロータ鉄損Loss_ir,ロータ銅損Loss_cr)はモータ損失調整器20bへ出力される。
【0030】
モータ損失調整器20bは、モータ損失演算器20aにおいてサンプリング時間間隔ST1で導出したステータ鉄損Loss_is、ステータ銅損Loss_cs及びロータ損失Loss_r(ロータ鉄損Loss_ir,ロータ銅損Loss_cr)を、ロータ温度推定器20cのサンプリング時間間隔ST2のステータ鉄損Loss_is2、ステータ銅損Loss_cs2及びロータ損失Loss_r2(ロータ鉄損Loss_ir2,ロータ銅損Loss_cr2)に変換する。サンプリング時間間隔ST2は、サンプリング時間間隔ST1よりも長い期間であり、ロータ温度推定器20cにおいてロータ温度の推定を行う時間間隔と同程度、すなわち回転機100の電流制御のサンプリング時間間隔と同程度とすることが好適である。例えば、サンプリング時間間隔ST2は、数秒程度の時間間隔とすることが好適である。
【0031】
モータ損失調整器20bは、数式(5)~数式(8)を用いてサンプリング時間間隔ST1の累積時間がサンプリング時間間隔ST2になるまで各々の損失にサンプリング時間ST1を乗じた値を累積してモータ損失累積値を算出する。なお、ロータ損失Loss_r2は、ロータ鉄損Loss_ir2とロータ銅損Loss_cr2の和である。
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【0032】
図4は、従来法及び本実施の形態のそれぞれにおけるステータ電流に対するステータ鉄損、ステータ銅損及びロータ損失の算出値の関係を示す図である。従来法では、モータ損失調整器20bが設けられておらず、
図4の下段に示すように、モータ損失演算器20aにおいて数秒程度のサンプリング時間間隔ST2でステータ鉄損Loss_is、ステータ銅損Loss_cs及びロータ損失Loss_rが算出され、サンプリング時間間隔ST2では当該ステータ鉄損Loss_is、ステータ銅損Loss_cs及びロータ損失Loss_rは一定で変化しないものとして処理が行われていた。これに対して、本実施の形態では、
図4の中段に示すように、モータ損失演算器20aにおいてマイクロ数~ミリ秒程度のサンプリング時間間隔ST1でステータ鉄損Loss_is、ステータ銅損Loss_cs及びロータ損失Loss_rが算出され、これらを累算することによって数秒程度のサンプリング時間間隔ST2のステータ鉄損Loss_is2、ステータ銅損Loss_cs2及びロータ損失Loss_r2が求められる。
【0033】
モータ損失調整器20bで算出されたステータ鉄損Loss_is2、ステータ銅損Loss_cs2及びロータ損失Loss_r2はロータ温度推定器20cへ出力される。
【0034】
ロータ温度推定器20cは、モータ損失調整器20bからステータ鉄損Loss_is2、ステータ銅損Loss_cs2及びロータ損失Loss_r2を受信すると共に外気温度Tair3の検出値を受信して、熱エネルギの釣り合いを用いて設定された熱回路モデルに基づいてこれらの入力値からロータ温度Trotの推定値を求める。
【0035】
図5は、回転機100を対象とした熱回路モデルを示す。
図5に示す熱回路モデルでは、回転機100において熱的に接続される複数の構成要素をステータコア、ステータコイル、ロータ側部材、筐体16の第1フレーム16a及び第2フレーム16b、負荷102としている。なお、当該熱回路モデルでは、ロータ12のロータコア及び導体バーの温度とシャフト14の温度とが等しいと仮定し、これらの要素をロータ側部材と示している。
【0036】
図5に示した熱回路モデルでは、ステータコアの温度Tsta、筐体16の第1フレーム16aの温度Tfr1、筐体16の第2フレーム16bの温度Tfr2、負荷102の温度Tload、ステータコイルの温度Tcoil、ロータ側部材の温度Trotと表している。また、空気0,1,2,3の各々の温度Tair0、Tair1、Tair2、Tair3と表している。熱回路モデルでは、これら構成要素を熱抵抗で接続して構成している。
【0037】
図3に示すように、制御装置20のモータ損失演算器20aには、モータ回転数N、ステータコイル電流Is(又はステータコイル電流の指令値)、すべり周波数ωs(又はすべり周波数の指令値)及びコイル温度Tcoilが入力される。さらに、モータ損失演算器20aには、後述するロータ温度推定器20cの出力側から、前回のロータ温度推定処理によって推定されたロータ温度Trotの推定値が入力される。
【0038】
モータ損失演算器20aは、モータ回転数N、ステータコイル電流Is(又はステータコイル電流の指令値)、すべり周波数ωs(又はすべり周波数の指令値)、コイル温度Tcoil及び前回のロータ温度Trotの推定値に基づいて、ステータ10で発生する損失としてのステータ鉄損Loss_is及びステータ銅損Loss_cs並びにロータ12で発生するロータ損失Loss_rを算出する。
【0039】
図5に示した熱回路モデルにより数式(9)が得られる。
【数9】
【0040】
ロータ温度推定器20cは、数式(9)で表される熱回路モデルに基づいてロータ温度Trotを推定する。具体的には、ロータ温度推定器20cは、数式(10)で表されるオブザーバを用いる。
【数10】
【0041】
数式(10)のオブザーバでは、推定値を表すx、yに上付の山形(ハット)を付している。また、数式(9)に示したように、u、yは、ロータ温度推定器20cに入力される既知の値で構成される。Fは、オブザーバのゲインを表す。また、行列Aの成分にはモータ回転数Nが所定回転数以下の任意の回転数で算出された係数を適用する。
【0042】
数式(10)を用いることによって、xに含まれるロータ温度Trotを推定することができる。具体的には、数式(10)においてy-y(ハット)が漸近的に0に収束するようにゲインFを設定する。そして、ロータ側部材の温度と一致するロータ温度Trotを算出する。これにより、ロータ温度推定器20cは、熱回路モデルで設計したオブザーバを用いてロータ温度Trotを推定する。なお、ロータ温度推定器20cは、オブザーバを用いずに、熱回路モデルを用いて、ロータ温度を推定してもよい。
【0043】
以上のように、本実施の形態のロータ温度推定システム200では、モータ損失演算器20aにおいて回転機100に対する指令値を更新するマイクロ秒~ミリ秒程度のサンプリング時間間隔ST1で損失が算出される。その後、モータ損失調整器20bにおいて当該損失を累算して数秒程度のサンプリング時間間隔ST2の損失に変換される。そして、ロータ温度推定器20cにおいて数秒程度のサンプリング時間間隔ST2の損失に基づいてロータ温度Trotが推定される。したがって、マイクロ秒~ミリ秒程度の時間間隔で変動する回転機100における損失の評価の精度を高めることができ、損失の評価に基づくロータ温度Trotの推定の精度も高めることができる。一方、ロータ温度Trotの推定処理では数秒程度の時間間隔で推定を行うので、計算量が莫大に増加することを抑制し、演算装置のコストが低く抑えることができる。
【符号の説明】
【0044】
10 ステータ、12 ロータ、14 シャフト、16 筐体、20 制御装置、20a モータ損失演算器、20b モータ損失調整器、20c ロータ温度推定器、22 回転数センサ、24 コイル温度センサ、26 外気温度センサ、100 回転機、102 負荷、200 ロータ温度推定システム。