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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】構造体の構築方法および型枠構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 31/02 20060101AFI20250219BHJP
   E02D 29/05 20060101ALI20250219BHJP
   E04G 17/06 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
E02D31/02
E02D29/05 E
E04G17/06 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021200434
(22)【出願日】2021-12-09
(65)【公開番号】P2023086044
(43)【公開日】2023-06-21
【審査請求日】2024-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】デヴィン グナワン
(72)【発明者】
【氏名】大窪 一正
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 直樹
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-316474(JP,A)
【文献】特開平11-229413(JP,A)
【文献】特開2019-218819(JP,A)
【文献】特開平10-252193(JP,A)
【文献】特開2009-001987(JP,A)
【文献】特開2010-106482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/00
E02D 29/045-37/00
E04G 9/00-25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象構造物の側方に、棒材の一方の端部を固定するための定着部を設置する工程と、
前記棒材の一方の端部が前記定着部により固定され、前記棒材の他方の端部が、前記対象構造物の側方の空間に位置する内型枠に取り付けられた状態で、前記内型枠の前記対象構造物側に充填材を充填する工程と、
を有し、
前記定着部が、前記対象構造物の前記空間側の面に設けた外殻部に固定され
前記外殻部は、プレキャストコンクリート板であることを特徴とする構造体の構築方法。
【請求項2】
対象構造物の側方に、棒材の一方の端部を固定するための定着部を設置する工程と、
前記棒材の一方の端部が前記定着部により固定され、前記棒材の他方の端部が、前記対象構造物の側方の空間に位置する内型枠に取り付けられた状態で、前記内型枠の前記対象構造物側に充填材を充填する工程と、
を有し、
前記定着部が、前記対象構造物の前記空間側の面に設けた外殻部に固定され
前記外殻部が、硬化材を塗布して形成され、
前記定着部は、前記棒材の前記一方の端部を挿入するための筒状部材を有し、
前記硬化材の塗布時、前記筒状部材の先端がキャップにより閉塞され、
前記キャップの前記筒状部材の軸方向の長さが、前記キャップにより前記筒状部材の先端を閉塞した状態において、前記キャップの前記対象構造物側の端部が前記硬化材の表面の設計位置に来るように定められたことを特徴とする構造体の構築方法。
【請求項3】
前記対象構造物は、前記空間側の面に防水層が形成された山留壁であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の構造体の構築方法。
【請求項4】
前記定着部を、前記対象構造物の側方に設けたガイドに取り付けて配置することを特徴とする請求項に記載の構造体の構築方法。
【請求項5】
前記棒材が、前記構造体に設けるせん断補強筋であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の構造体の構築方法。
【請求項6】
対象構造物の側方に構造体を構築するための型枠構造であって、
棒材の一方の端部が、前記対象構造物の側方に設置された定着部によって固定され、
前記棒材の他方の端部が、前記対象構造物の側方の空間に位置する内型枠に取り付けられ、
前記定着部が、前記対象構造物の前記空間側の面に設けた外殻部に固定され
前記外殻部は、プレキャストコンクリート板であることを特徴とする型枠構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の構築方法とこれに用いる型枠構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
地下の開削工事では、山留壁から漏出する地下水から地下構造体を保護するため、防水対策が実施されている。防水対策の一つとして、防水シート等による防水層を山留壁に施工した後、山留壁を外型枠として地下構造体を構築する方法があり、先やり防水と呼ばれる。
【0003】
特許文献1、2では、防水層を施工した山留壁を外型枠として利用し、地下構造体のコンクリートを打設する。この際、山留壁の反対側の内型枠は、コンクリートの打設圧により変形しないように、セパレータにより支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-229413号公報
【文献】特許第3642997号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したセパレータの一方の端部は山留壁に固定するため、防水層として設けた防水シート等に穴をあけるなど、既存の構造物に変更を加える必要があるので施工に手間がかかる。さらに、専用の治具や充填材を用いて上記の穴から水が漏れるのを防ぐことも必要であり、水漏れ防止のための処置にも手間がかかる。また、その処置が不十分な場合、防水シート等の防水性が損なわれてしまう。
【0006】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、施工が容易な構造体の構築方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決するための第1の発明は、対象構造物の側方に、棒材の一方の端部を固定するための定着部を設置する工程と、前記棒材の一方の端部が前記定着部により固定され、前記棒材の他方の端部が、前記対象構造物の側方の空間に位置する内型枠に取り付けられた状態で、前記内型枠の前記対象構造物側に充填材を充填する工程と、を有し、前記定着部が、前記対象構造物の前記空間側の面に設けた外殻部に固定され、前記外殻部は、プレキャストコンクリート板であることを特徴とする構造体の構築方法である。
第2の発明は、対象構造物の側方に、棒材の一方の端部を固定するための定着部を設置する工程と、前記棒材の一方の端部が前記定着部により固定され、前記棒材の他方の端部が、前記対象構造物の側方の空間に位置する内型枠に取り付けられた状態で、前記内型枠の前記対象構造物側に充填材を充填する工程と、を有し、前記定着部が、前記対象構造物の前記空間側の面に設けた外殻部に固定され、前記外殻部が、硬化材を塗布して形成され、前記定着部は、前記棒材の前記一方の端部を挿入するための筒状部材を有し、前記硬化材の塗布時、前記筒状部材の先端がキャップにより閉塞され、前記キャップの前記筒状部材の軸方向の長さが、前記キャップにより前記筒状部材の先端を閉塞した状態において、前記キャップの前記対象構造物側の端部が前記硬化材の表面の設計位置に来るように定められたことを特徴とする構造体の構築方法である。
【0008】
本発明では、山留壁などの対象構造物の側方に定着部を設置し、この定着部によって棒材の一方の端部を固定し、棒材の他方の端部を内型枠に取り付けることで、内型枠の対象構造物側の空間に充填する充填材の充填圧に対し、内型枠の変形を防ぐことができる。本発明では、対象構造物には変更を加えず、対象構造物の側方の外殻部に固定した定着部に棒材を取り付けるので、従来工法よりも施工が容易になり、対象構造物に防水層が形成されているような場合にも、その防水性を損なうことが無い。
【0009】
前記対象構造物は、前記空間側の面に防水層が形成された山留壁であることが望ましい。
前記の対象構造物は、例えば先やり防水を行った山留壁であり、本発明の工法を用いることで、山留壁の防水層に穴をあける必要が無くなり、確実に防水層の防水性を維持できる。
【0010】
第2の発明では、外殻部、硬化材の塗布により形成することで、作業性が大きく向上し、外殻部の施工が容易になる。また上記のキャップを用いることで、硬化材が定着部に入り込むのを防止し、且つキャップを硬化材の塗布厚の管理に用いることができる。
【0011】
前記定着部を、前記対象構造物の側方に設けたガイドに取り付けて配置することが望ましい。
これにより、定着部を精度良く設置することができる。
【0012】
前記棒材は通常、セパレータと呼ばれる仮設材が用いられるが、前記構造体に設けるせん断補強筋とすることもできる。
これにより、本設のせん断補強筋をセパレータ代わりに用いることができ、セパレータの設置作業が不要になる。
【0013】
の発明は、対象構造物の側方に構造体を構築するための型枠構造であって、棒材の一方の端部が、前記対象構造物の側方に設置された定着部によって固定され、前記棒材の他方の端部が、前記対象構造物の側方の空間に位置する内型枠に取り付けられ、前記定着部が、前記対象構造物の前記空間側の面に設けた外殻部に固定され、前記外殻部は、プレキャストコンクリート板であることを特徴とする型枠構造である。
の発明は、第1の発明の構造体の構築方法で用いる型枠構造である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、施工が容易な構造体の構築方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】構造体1の構築方法を示す図。
図2】定着治具5を示す図。
図3】ガイド6を示す図。
図4】キャップ53の長さについて説明する図。
図5】定着治具5を防水層4に貼り付ける例。
図6】プレキャストコンクリート板7aを示す図。
図7】構造体1aの構築方法を示す図。
図8】せん断補強筋21と定着治具22を示す図。
図9】せん断補強筋21と定着治具22を用いた型枠構造を示す図。
図10】構造体1bの構築方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る構造体(地下構造体)1の構築方法の各工程を示す図である。
【0018】
本実施形態では、地下の開削工事において、まず図1(a)に示すように地盤に山留壁2を形成してその側方の地盤を掘削し、その後、山留壁2の掘削部100側の面に防水層4を形成して先やり防水を行う。掘削部100は、地盤の掘削により山留壁2の側方に形成された空間であり、防水層4を形成した山留壁2は、本発明に係る対象構造物を構成する。
【0019】
防水層4は、例えば防水シートを貼り付けたり防水剤を塗布したりすることで形成できるが、これに限ることはない。なお、図中符号3は、掘削部100の底面に形成される鉄筋コンクリート製の底版である。
【0020】
その後、図1(b)に示すように、防水層4の掘削部100側に定着治具5を設置する。定着治具5はセパレータ8の端部を固定するために用いる定着部であり、所定の位置に精度良く設置されるよう、防水層4の掘削部100側に設けたガイド6に取り付けて配置する。
【0021】
次に、図1(c)に示すように、防水層4の掘削部100側の面に、硬化材であるモルタル7を吹き付けて塗布する。これにより、防水層4の掘削部100側に構造体1の外殻部が設けられる。定着治具5は、外殻部のモルタル7にガイド6ごと埋設、固定される。なお、硬化材としてモルタル7以外のセメント系材料を用いることも可能であり、硬化を早めるために既知の硬化促進剤を添加することも可能である。また硬化材として高強度モルタルや超高強度繊維補強コンクリート等の高性能材料を用いることもでき、外殻部の耐久性や曲げ靱性を高めることができる。
【0022】
図2(a)は定着治具5を示す図である。定着治具5は、定着板51の表面に雌ねじ部52を設けた部材であり、定着板51を図1(b)の山留壁2側、雌ねじ部52を掘削部100側として配置する。雌ねじ部52は、雌ねじ穴521を有する筒状部材である。
【0023】
モルタル7の吹付時は、雌ねじ部52にモルタル7が入らないように、図2(b)に示すように雌ねじ部52の先端をキャップ53によって事前に閉塞しておく。キャップ53は、モルタル7の吹付後に撤去し、雌ねじ部52の先端がモルタル7の表面から突出するようにしておく。
【0024】
図3(a)はガイド6を示す図である。本実施形態のガイド6は、縦横の鉄筋61を溶接等により格子状に固定したメッシュ筋とし、外殻部のモルタル7に埋設可能な厚さとする。ガイド6をモルタル7に埋め込むことにより、外殻部の曲げ靱性や、定着治具5のモルタル7への定着性が向上する。しかしながら、ガイド6の材質や形状はこれに限ることはなく、モルタル吹付の施工性や外殻部の構造性能を確保できればよい。
【0025】
ガイド6は、例えば底版3から上方に突出する鉄筋(不図示)に取り付けて設置することができ、ガイド6と防水層4との間にスペーサ(不図示)を配置することで、ガイド6の位置精度を向上させることもできる。定着治具5は、例えば図3(b)に示すように、縦横の鉄筋61の交差部に番線(不図示)等によって取り付ける。しかしながら、定着治具5の取付方法はこれに限定されない。
【0026】
モルタル7の硬化後、図1(d)に示すように、棒材であるセパレータ8の一方の端部を定着治具5に取り付ける。これにより、セパレータ8の当該端部が山留壁2側に固定される。セパレータ8の取付時、本実施形態では、セパレータ8の一方の端部に設けた雄ねじを定着治具5の雌ねじ穴521に螺合するが、セパレータ8の取付方法は特に限定されない。
【0027】
また掘削部100には、モルタル7による外殻部から間隔を空けて内型枠9が設けられる。セパレータ8の他方の端部は、掘削部100に位置する内型枠9に取り付けられる。内型枠9には、例えば鋼製型枠や木製型枠、コンクリート型枠などの在来型枠を用いることができるが、これらに限定されることはない。またセパレータ8の端部の内型枠9への取付方法も特に限定されず、既知の種々の方法を適用可能である。
【0028】
こうして構造体1を構築するための型枠構造を形成した後、内型枠9と、内型枠9の山留壁2側に位置する外殻部のモルタル7との間で、構造体1の補強筋(不図示)を配置し、図1(e)に示すように充填材であるコンクリートCを打設、充填する。内型枠9は、定着治具5により山留壁2側に固定されたセパレータ8によって支持されるため、コンクリートCの打設圧に対して内型枠9の変形を抑えることが可能である。なお、上記の補強筋は例えば構造体1の主筋、せん断補強筋等である。
【0029】
コンクリートCの硬化後、内型枠9の脱型を行うことで、図1(f)に示すように構造体1が構築される。本実施形態の構造体1は壁体であり、地下躯体の一部として当該壁体が構築される。
【0030】
以上説明したように、本実施形態によれば、先やり防水を行った山留壁2の防水層4の掘削部100側に定着治具5を設置し、この定着治具5によってセパレータ8の一方の端部を固定し、セパレータ8の他方の端部を内型枠9に取り付けることで、内型枠9の山留壁2側の空間に打設するコンクリートCの打設圧に対し、内型枠9の変形を防ぐことができる。本実施形態では、山留壁2やその防水層4には変更を加えず、防水層4の側方の外殻部に固定した定着治具5にセパレータ8を取り付けるので、従来工法よりも施工が容易になる。さらに、山留壁2の防水層4に穴をあける必要が無く、防水性を損なうことがない。また防水層4の穴あけ作業やその後の穴埋め作業も省略できる。
【0031】
また本実施形態では外殻部に定着治具5を埋設することにより、定着治具5の位置を確実に固定することができ、外殻部により防水層4を保護することもできる。この外殻部は、モルタル7の塗布により形成することで、作業性が大きく向上し、外殻部の施工が容易になる。
【0032】
また本実施形態では、定着治具5をガイド6に取付けて配置することで、定着治具5を精度良く設置することができる。
【0033】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば本実施形態の構造体1は壁体であるが、構造体1は壁体に限らず、例えば柱状であってもよい。この場合、内型枠9と外殻部のモルタル7の間を繋ぐように一対の側面型枠を設け、これらの側面型枠と内型枠9、および外殻部のモルタル7によって、コンクリートCを打設するためのロの字型の閉領域を形成すればよい。
【0034】
また本実施形態ではモルタル7による外殻部と内型枠9の間にコンクリートCを打設し充填したが、外殻部と内型枠9の間に充填する充填材はこれに限らず、個々の構造体1等に応じて異なる場合もある。
【0035】
また定着治具5の形状、構成等も特に限定されず、必要な定着性能が得られ、且つセパレータ8の端部の取り付けが可能なものであればよい。
【0036】
また図4に示すように、定着治具5の雌ねじ部52を閉塞するキャップ53の長さ(雌ねじ部52の軸方向の長さ)Lを、キャップ53により雌ねじ部52の先端を閉塞した状態において、キャップ53の定着板51側(山留壁2側)の端部が外殻部のモルタル表面の設計位置に来るように定めることも可能であり、これにより、モルタル7の塗布厚の管理のための目安としてキャップ53を使用することができる。
【0037】
また本実施形態では定着治具5をガイド6に取り付けて配置するが、図5(a)に示すように、接着材等を用いて防水層4の掘削部100側の面に定着治具5を貼り付け、図5(b)に示すようにモルタル7を塗布しても良い。この場合も防水層4に穴をあけなくて済み、またガイド6の設置も省略できる。
【0038】
また本実施形態では吹付けによりモルタル7を塗布して外殻部を形成したが、モルタル7の塗布方法は吹付に限らず、左官的方法によりモルタル7を塗り付けて外殻部を形成してもよい。
【0039】
さらに、外殻部として、図6に示すように定着治具5を予め埋設したプレキャストコンクリート板7aを用い、このプレキャストコンクリート板7aを防水層4の掘削部100側の面に沿って設置してもよい。この場合もガイド6の設置やモルタル7の塗布の手間を省くことができる。定着治具5は、雌ねじ部52の先端がプレキャストコンクリート板7aの表面から突出するように配置される。
【0040】
また内型枠9についても、鋼製型枠や木製型枠、コンクリート型枠などの在来型枠に限ることはない。例えば、硬化材であるモルタルを吹付けにより塗布することで、内型枠を形成することも可能である。以下、モルタルの吹付により内型枠を形成する例を第2の実施形態として説明する。第2の実施形態は第1の実施形態と異なる構成について説明し、同様の構成については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。
【0041】
[第2の実施形態]
図7は、本発明の第2の実施形態に係る構造体1aの構築方法の各工程を示す図である。
【0042】
本実施形態では、図7(a)~(c)に示すように第1の実施形態と同様の手順で定着治具5の設置を行った後、前記の図1(d)の工程において、図7(d)に示すように、セパレータ8の山留壁2と反対側の端部にも定着治具5を取り付け、モルタル吹付用の芯材11を設置する。
【0043】
芯材11としては、例えば特開2020-094401号公報に示すように繰り返し使用が可能なエアチューブや、安価で設置が簡易なラス網が使用できるが、これに限ることはない。
【0044】
その後、図7(e)に示すように、芯材11に対し、上記の定着治具5を埋め込むようにモルタル13を吹き付ける。モルタル13の硬化により内型枠が形成され、セパレータ8の山留壁2と反対側の端部が、上記の定着治具5により内型枠に取り付けられた状態となる。こうして構造体1aを構築するための型枠構造を形成した後、図7(f)に示すように、内型枠と外殻部のモルタル7の間に補強筋(不図示)を配置してコンクリートCを打設することで、構造体1aが構築される。
【0045】
モルタル13による内型枠は埋設型枠とし、前記の内型枠9のように脱型はしない。芯材11については、エアチューブを使用する場合はコンクリートCの打設前に撤去するが、ラス網の場合は残置する。なお、この例では硬化材であるモルタル13を吹付により芯材11に塗布しているが、左官的方法でモルタル13の塗布を行っても良い。また硬化材として、モルタル13以外のセメント系材料を用いることも可能である。
【0046】
第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様、コンクリートCの打設時の内型枠(モルタル13)の変形を防ぐことができる。また第2の実施形態では、全ての型枠工を塗布作業に置き換えることができ、現場における型枠の組立・解体作業を省力化できる。さらに、芯材11の平面配置により、曲面などの複雑な形状の表面を有する構造体1aが形成できる。
【0047】
なお本実施形態では、構造体1aの補強筋とは別にセパレータ8を設置して内型枠の支持に用いたが、構造体1aに埋設する本設のせん断補強筋をセパレータ8の代わりに用いることも可能であり、これにより従来のセパレータを省略でき、施工コストを低減できる。
【0048】
図8は、せん断補強筋21をセパレータとして用いる場合に使用する定着治具22の例である。定着治具22は、定着板221の表面に筒状の雌ねじ部222を設けたものであり、雌ねじ部222の内部には雌ねじ穴が設けられる。
【0049】
せん断補強筋21は例えばねじ節鉄筋とし、せん断補強筋21の端部のねじを定着治具22の雌ねじ穴に螺合することにより、せん断補強筋21の端部を定着治具22に取り付けることができる。ただし、せん断補強筋21や定着治具22がこれに限ることはない。
【0050】
この場合の作業手順は図7で説明したものと同様であり、前記の図7(d)の工程において、図9に示すように、せん断補強筋21の一方の端部を外殻部のモルタル7に埋設された定着治具22に取り付けるとともに、せん断補強筋21の他方の端部にも定着治具22を取り付ける。図7の例と同様、芯材11にモルタル13を吹付けて内型枠とし、当該定着治具22をモルタル13に埋設することで、せん断補強筋21の他方の端部が当該定着治具22により内型枠に取り付けられた状態となる。
【0051】
なお、定着治具22に代えて、定着板等の定着部をせん断補強筋21の端部に溶接などにより固定し一体化してもよく、この場合は、前記の図7(b)~(c)に示す工程において、せん断補強筋21と一体となった定着部を、防水層4の掘削部100側に設置して外殻部のモルタル7内に埋設すればよい。
【0052】
[第3の実施形態]
図10は、本発明の第3の実施形態に係る構造体1bの構築方法の各工程を示す図である。第3の実施形態は、第1の実施形態と同様の工法を、図10(a)に例示する防水層4の無い地上の対象構造物20に適用するものである。
【0053】
この場合も、図10(b)に示すように、第1の実施形態と同様、ガイド6を用いて対象構造物20の側方に定着治具5を配置した後、図10(c)に示すように、対象構造物20にモルタル7を吹付等により塗布して外殻部を形成し、定着治具5を外殻部に埋設、固定する。以下、図10(d)~(f)に示すように、セパレータ8と内型枠9の設置、コンクリートCの打設、内型枠9の撤去を第1の実施形態と同様に行うことで、対象構造物20の側方に新たな構造体1bを構築することができる。
【0054】
これにより、第3の実施形態でも第1の実施形態と同様の効果が得られる。また既存の対象構造物20にコンクリートCを増打ちするような、対象構造物20の片側からしかセパレータ8の設置作業ができない場合や、対象構造物20に直接セパレータ8を固定できない場合も、構造体1bの施工が容易になる。
【0055】
以上、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0056】
1、1a、1b:構造体
2:山留壁
4:防水層
5、22:定着治具
6:ガイド
7、13:モルタル
7a:プレキャストコンクリート板
8:セパレータ
9:内型枠
20:対象構造物
21:せん断補強筋
100:掘削部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10