(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】土留め壁撤去方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/04 20060101AFI20250219BHJP
【FI】
E02D5/04
(21)【出願番号】P 2021202726
(22)【出願日】2021-12-14
【審査請求日】2024-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】井出 雄介
(72)【発明者】
【氏名】神崎 真吾
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-117913(JP,A)
【文献】特開2013-159960(JP,A)
【文献】特開2010-270442(JP,A)
【文献】特開2011-084938(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111021270(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1012070(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に土留め壁を打設する工程と、
平面視における前記土留め壁の一方側に位置する前記地盤を掘削する工程と、
前記掘削によって形成された空間に躯体を構築する工程と、
前記土留め壁と前記躯体との間に時間の経過と共に硬化する充填材を充填する工程と、
前記充填材が硬化する前に前記地盤から前記土留め壁を引き抜く工程と、
を備え
、
前記躯体を構築する工程の後に、前記土留め壁と前記躯体との間に型枠を設置する工程と、前記型枠と前記躯体の間に埋め戻しを行う工程と、を備え、
前記充填材を充填する工程では、前記埋め戻しを行う工程の後に前記土留め壁と前記型枠との間に前記充填材を充填し、
前記充填材を充填する工程の後に、前記地盤から前記型枠を引き抜く工程を更に備え、
前記型枠を設置する工程は、前記土留め壁と前記型枠の間にキャンバーを介在させる工程を含んでおり、
前記型枠を引き抜く工程は、前記充填材から前記キャンバーを引き抜く工程を含んでいる、
土留め壁撤去方法。
【請求項2】
前記キャンバーは、前記型枠の前記土留め壁に対向する面にヒンジを介して接続されており、
前記キャンバーを引き抜く工程では、前記型枠と共に前記キャンバーが前記ヒンジを介して回動可能な状態で引き抜かれる、
請求項
1に記載の土留め壁撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、土留め壁を撤去する土留め壁撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土留め壁を撤去する方法としては従来から種々のものが知られている。特許第3940735号公報には、土留め工法が記載されている。土留め工法では、地盤にシートパイルが打ち込まれる。シートパイルには、取り付け手段及び留金によって硬化剤注入管が取り付けられている。硬化剤注入管はシートパイルの長手方向に沿うように取り付けられる。硬化剤注入管の先端部には、硬化剤が噴出される噴出口が形成されている。
【0003】
シートパイルが地盤に打ち込まれるときに硬化剤注入管も共に地中に入り込み、これにより硬化剤注入管から地盤に硬化剤を注入可能となる。硬化剤注入管の先端部には、上記の噴出口を開閉させる栓と、栓が噴出口を塞ぐように栓を付勢する付勢手段とが内蔵されている。地盤に硬化剤を注入するときには、注入圧によって付勢手段の付勢力に抗して栓を移動させ、噴出口を地盤に開口させることにより地盤に硬化剤が噴出される。
【0004】
特開2016-148137号公報には、土留部撤去方法が記載されている。土留部撤去方法では、断面ハット状の鋼矢板である土留部材の周囲を掘削して土留部材の周囲の地表に凹部を形成し、凹部に流動化処理土を満たした状態で土留部材をクレーンで引き抜く。土留部材を引き抜くと、土留部材と地盤との間に凹部に連通する空隙が形成され、当該空隙に凹部から流動化処理土が流れ込む。このように、土留部材の引き抜き時に形成される空隙に流動化処理土が流れ込むことにより、周辺地盤等への影響の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3940735号公報
【文献】特開2016-148137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した土留め工法では、シートパイルに予め硬化剤注入管を取り付ける必要があるので、設置を容易に行えないという問題が生じうる。また、地表に形成した凹部に流動化処理土を満たした状態で土留部材を引き抜いて土留部材と地盤との間の空隙に流動化処理土を流し込む方法では、空隙に十分に流動化処理土が充填されないことがある。具体的には、土留部材を引き抜くときには、まず、土留部材の下端と地盤との間に空隙が形成される。
【0007】
しかしながら、当該空隙は地表に位置する凹部とは連通していないので、当該空隙には流動化処理土は充填されない。従って、前述した土留部撤去方法では、地盤の空隙に流動化処理土が十分に充填されないので、空隙が残されたままとなることが懸念される。この場合、内部に空隙が残されることによって地盤が沈下する懸念がある。すなわち、当該空隙は地表に位置する凹部とは連通していないので、土留め部材を完全に引き抜いた後にしか、当該空隙に流動化処理土が充填されない。この場合、流動化処理土が充填されるより先に、当該空隙に周辺地盤が崩れることによって地盤が沈下する懸念がある。
【0008】
本開示は、設置を容易に行うことができると共に地盤の沈下を抑制することができる土留め壁撤去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る土留め壁撤去方法は、地盤に土留め壁を打設する工程と、平面視における土留め壁の一方側に位置する地盤を掘削する工程と、掘削によって形成された空間に躯体を構築する工程と、土留め壁と躯体との間に時間の経過と共に硬化する充填材を充填する工程と、充填材が硬化する前に地盤から土留め壁を引き抜く工程と、を備え、躯体を構築する工程の後に、土留め壁と躯体との間に型枠を設置する工程と、型枠と躯体の間に埋め戻しを行う工程と、を備え、充填材を充填する工程では、埋め戻しを行う工程の後に土留め壁と型枠との間に充填材を充填し、充填材を充填する工程の後に、地盤から型枠を引き抜く工程を更に備え、型枠を設置する工程は、土留め壁と型枠の間にキャンバーを介在させる工程を含んでおり、型枠を引き抜く工程は、充填材からキャンバーを引き抜く工程を含んでいる。
【0010】
この土留め壁撤去方法では、土留め壁の一方側に位置する地盤が掘削されて形成された空間に躯体が構築され、その後、土留め壁が地盤から引き抜かれる。躯体が構築された後には時間の経過と共に硬化する充填材が充填され、当該充填材が硬化する前に土留め壁が引き抜かれる。充填材が硬化する前に土留め壁が地盤から引き抜かれるので、土留め壁の引き抜きと共に充填材を土留壁引き抜き後の空隙に密実に充填させることができる。充填材が空隙に密実に充填されることにより、土留め壁の周辺地盤が空隙に崩れることを抑制できる。従って、土留め壁を引き抜いた後に地盤が沈下することを抑制することができる。また、土留め壁と躯体との間への充填材の充填、及び土留め壁の引き抜きを行えばよいので、土留め壁に予め管を取り付ける等の作業を不要とできる。従って、地盤の沈下を抑制するための機器の設置等を容易に行うことができる。
【0011】
土留め壁撤去方法は、躯体を構築する工程の後に、土留め壁と躯体との間に型枠を設置する工程と、型枠と躯体の間に埋め戻しを行う工程と、を備えてもよい。充填材を充填する工程では、埋め戻しを行う工程の後に土留め壁と型枠との間に充填材を充填してもよい。土留め壁撤去方法は、充填材を充填する工程の後に、地盤から型枠を引き抜く工程を更に備えてもよい。この場合、土留め壁と躯体との間に型枠が配置され、土留め壁と型枠との間に充填材が充填される。従って、土留め壁と躯体との間に充填材が充填される場合と比較して充填材の量を低減させることができる。その結果、充填材の使用量を減らして充填材にかかるコストを低減させることができる。
【0012】
型枠を設置する工程は、土留め壁と型枠の間にキャンバーを介在させる工程を含んでもよい。型枠を引き抜く工程は、充填材からキャンバーを引き抜く工程を含んでもよい。この場合、土留め壁と型枠の間にキャンバーが配置されるので、型枠の引き抜きを容易に行うことができる。
【0013】
キャンバーは、型枠の土留め壁に対向する面にヒンジを介して接続されていてもよい。キャンバーを引き抜く工程では、型枠と共にキャンバーがヒンジを介して回動可能な状態で引き抜かれてもよい。この場合、型枠にキャンバーが接続されているので、型枠と共にキャンバーを引き抜くことができる。従って、型枠及びキャンバーの引き抜きを容易に行うことができる。更に、キャンバーは、型枠にヒンジを介して回動可能に接続されている。従って、型枠を引き抜くときに、型枠に対してキャンバーを回動させることが可能となるため、引き抜き時にキャンバーが引っ掛かって抜けにくくなることを抑制できる。従って、型枠及びキャンバーの引き抜きを更に容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、設置を容易に行うことができると共に地盤の沈下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)は、実施形態に係る土留め壁撤去方法が適用された現場を示す縦断面図である。(b)は、
図1(a)のA-A線断面図である。
【
図2】(a)は、
図1(a)の現場において土留め壁及び躯体が構築された状態を示す縦断面図である。(b)は、
図2(a)のB-B線断面図である。
【
図3】(a)は、
図2(a)の現場に型枠及びキャンバーが設置された状態を示す縦断面図である。(b)は、
図3(a)のC-C線断面図である。
【
図4】(a)は、キャンバーを拡大して示す側面図である。(b)は、変形例に係るキャンバーを示す側面図である。
【
図5】(a)は、
図4(a)の現場において躯体と型枠との間に埋め戻しがなされた状態を示す縦断面図である。(b)は、
図5(a)のD-D線断面図である。
【
図6】(a)は、
図5(a)の現場において充填材が充填された状態を示す縦断面図である。(b)は、
図6(a)のE-E線断面図である。
【
図7】型枠の引き抜き時に回動するキャンバーを模式的に示す側面図である。
【
図8】変形例において土留め壁のひき抜き時に回動するキャンバーを模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、図面を参照しながら本開示に係る土留め壁撤去方法の実施形態について説明する。図面の説明において同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易化のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法、比率及び角度等は図面に記載のものに限定されない。
【0017】
図1(a)は、本実施形態に係る土留め壁撤去方法が適用された現場Sを示す縦断面図である。
図1(b)は、
図1(a)のA-A線断面図である。
図1(a)及び
図1(b)に示されるように、現場Sは、例えば、地下躯体である躯体Tが構築されている。平面視における躯体Tの周囲には、後述する充填材10が硬化して形成された層Kが設けられている。層Kは、躯体T側を向く平坦状の第1面K1と、躯体Tとは反対側を向く波形形状の第2面K2とを有する。
【0018】
例えば、躯体Tは、地下に構築された地下構造物であり地盤Bに埋設されている。一例として、躯体Tは、地下鉄のプラットフォームを含んでいる。この場合、躯体Tは、躯体Tの内部に鉄道が通る空間T1を有する。しかしながら、躯体Tは、地下鉄のプラットフォームでなくてもよく、種々の構造物を含みうる。
【0019】
充填材10は、充填時には硬化しておらず流動性を有する。充填材10は、時間の経過と共に硬化する。例えば、充填材10は、流動化処理土である。流動化処理土は、セメント、土(一例として建設発生土)及び水を含む。流動化処理土は、土に水と固化材が混練されたものであってもよい。
【0020】
例えば、現場Sでは、後述する土留め壁1(
図2参照)によって形成された地下空間に躯体Tが構築され、躯体Tが構築された後に埋め戻しが行われると共に土留め壁1が地盤Bから引き抜かれる。しかしながら、単に土留め壁1を引き抜くだけでは、土留め壁1の厚さ分の空隙が地盤Bに形成されることとなる。空隙が地盤Bに形成されたままの状態になると、地盤Bが空隙に崩れることにより地盤Bに沈下が生じる場合があり、地表Uに構築されている建物Xにも沈下の影響が生じうるので好ましくない。従って、土留め壁1の引き抜きの後に地盤Bに空隙が形成されない工法が求められる。
【0021】
土留め壁1は、躯体Tの構築時に用いられるものであり、躯体Tの構築後には撤去される。一例として、土留め壁1の厚さは15mmである。例えば、土留め壁1は、リース材であって土留め壁1の使用にはコストがかかるため、地盤Bから撤去されることが望ましい。また、土留め壁1が長期間地盤Bに残置されると、地下水の流れを阻害する可能性があるので、この点でも土留め壁1は撤去されることが望ましい。
【0022】
以下では、本実施形態に係る土留め壁撤去方法について説明する。
図2(a)及び
図2(b)に示されるように、まず、地盤Bに土留め壁1が打設される(土留め壁を打設する工程)。土留め壁1は、例えば、複数の鋼矢板1bによって構成される。鋼矢板1bは、鋼矢板1bの長手方向に直交する平面で切断した断面において台形状を呈する。当該断面において、鋼矢板1bは、底部1cと、底部1cの両端のそれぞれから斜めに延びる一対の脚部1dとを有する。
【0023】
脚部1dの底部1cとは反対側の端部には、他の鋼矢板1bが接続される接続部1fが設けられる。複数の鋼矢板1bは、一対の接続部1f同士が互いに接続することによって互いに連結される。一例として、接続部1fはU字状を呈し、U字状を呈する一対の接続部1fが互いに嵌り合うことによって一対の鋼矢板1bが連結される。複数の鋼矢板1bは、平面視において、波形形状をなすように互いに連結される。平面視において、土留め壁1は、例えば、矩形枠状を成すように形成される。
【0024】
地盤Bに土留め壁1が打設された後には、平面視における土留め壁1の一方側に位置する地盤Bを掘削する(地盤を掘削する工程)。一例として、平面視における枠状の土留め壁1の内側の部分が掘削される。この地盤Bの掘削によって地表Uよりも下方に躯体Tを構築するための空間Cが形成される。空間Cが形成された後には、型枠の設置を行ってコンクリートの打設等を行うことによって躯体Tを構築する(躯体を構築する工程)。
【0025】
そして、
図3(a)及び
図3(b)に示されるように、躯体Tと土留め壁1の間に型枠2を設置する(型枠を設置する工程)。一例として、型枠2は木製である。型枠2は、躯体T側に向けられる第1面2bと、土留め壁1側に向けられる第2面2cとを有する。例えば、第1面2bの摩擦係数は第2面2cの摩擦係数よりも小さい。これにより、後述する埋め戻し土Yからの型枠2の引き抜きをスムーズに行うことができる。
【0026】
例えば、型枠2と躯体Tとの間に支持部材3を介在させる(支持部材を介在させる工程)。支持部材3は、型枠2の躯体T側への転倒を防止するために設けられる。一例として、複数の支持部材3が鉛直方向に沿って並ぶように配置される。複数の支持部材3は、例えば、埋め戻し土Yの埋め戻しに伴って下方に位置する支持部材3から一つずつ外される。
【0027】
型枠2と土留め壁1との間にキャンバー5を介在させる(キャンバーを介在させる工程)。キャンバー5は、型枠2と土留め壁1との間に介在する。キャンバー5は、間隔Wを確保することにより、充填材10を打設するときに少ない打設回数で充填材10を充填させることが可能となる。すなわち、キャンバー5が設けられる場合、1度に広い範囲に充填材10を充填することが可能となる。キャンバー5は、例えば、木製である。
図4(a)は、キャンバー5を拡大した側面図である。
【0028】
図4(a)に示されるように、キャンバー5は、鉛直上方を向く上面5bと、鉛直下方を向く下面5cと、型枠2に対向する第1側面5dと、土留め壁1に対向する第2側面5fとを有する。キャンバー5は、例えば、ヒンジ6を介して型枠2に回動可能に支持されている。一例として、ヒンジ6は、第1側面5dと下面5cとの間(第1側面5dの下端)と型枠2とに固定されており、キャンバー5はヒンジ6を中心として回動可能とされている。
【0029】
例えば、第2側面5fの上下方向の長さは第1側面5dの上下方向の長さよりも短い。一例として、キャンバー5は、上面5bと第2側面5fとの間に位置する傾斜面5gを有する。上面5bと第2側面5fとの間に傾斜面5gが形成され、且つ第2側面5fの上下方向の長さが第1側面5dの長さより短いことにより、土留め壁1に対して型枠2を引き上げやすくすることが可能となっている。
【0030】
以上、例示的なキャンバー5について説明した。しかしながら、型枠2と土留め壁1との間に介在するキャンバーは、キャンバー5以外の構成であってもよく、例えば
図4(b)に示すキャンバー5Aであってもよい。キャンバー5Aは、型枠2に当接する柱状部5hと、土留め壁1に当接する傾斜部5jとを有する。例えば、傾斜部5jは載頭円錐状とされている。
【0031】
図3(a)及び
図3(b)に示されるように、キャンバー5は、土留め壁1の型枠2側に突出する底部1cと型枠2との間に介在する。これにより、土留め壁1と型枠2との間にキャンバー5の長さ分の間隔Wが形成される。例えば、複数のキャンバー5が鉛直方向に沿って並ぶように配置される。
【0032】
そして、型枠2と躯体Tとの間に埋め戻しを行う(埋め戻しを行う工程)。このとき、型枠2と躯体Tとの間の空間Cに下方から埋め戻し土Yを充填させる。前述したように、埋め戻し土Yを充填させながら、支持部材3の撤去を行う。
図5(a)及び
図5(b)に示されるように、例えば、埋め戻し土Yによる埋め戻しは埋め戻し土Yが地表Uに達するまで行われる。この状態でも、複数のキャンバー5によって土留め壁1と型枠2の間には空間Cが形成された状態が維持されている。
【0033】
その後、
図6(a)及び
図6(b)に示されるように、土留め壁1と型枠2との間の空間Cに充填材10を充填させる。この時点で充填材10は硬化しておらず充填材10は流動性を有する。このとき、複数の鋼矢板1bと型枠2との間に充填材10を充填すると共にキャンバー5を充填材10に埋める。より具体的には、複数の底部1c及び複数の脚部1dと型枠2の第2面2cとの間に充填材10を充填する。充填材10は、空間Cの底面から地表Uの高さ以上の高さまで充填される。
【0034】
上記のように空間Cに充填材10を充填した後であって且つ充填材10が硬化する前に、地盤Bから型枠2を引き抜く(型枠を引き抜く工程)。前述したように、型枠2の第2面2cにはキャンバー5がヒンジ6を介して回動自在に取り付けられているので、
図7に示されるように、型枠2の引き抜きと共にキャンバー5が充填材10から引き抜かれる(キャンバーを引き抜く工程)。このとき、キャンバー5は、第1側面5dの下端に位置するヒンジ6を中心として斜め下方に回動した状態で型枠2と共に充填材10から引き抜かれる。
【0035】
そして、充填材10が硬化する前に地盤Bから土留め壁1を引き抜く(土留め壁を引き抜く工程)。土留め壁1の引き抜きは、例えば、油圧式圧入引抜機が土留め壁1を掴んで地盤Bから土留め壁1を引き上げることによって行われる。この油圧式圧入引抜機によって前述した型枠2の引き抜きが行われてもよい。例えば、型枠2の引き抜きは土留め壁1の引き抜きよりも前に行われる。しかしながら、型枠2の引き抜きが土留め壁1の引き抜きの後に行われてもよく、型枠を引き抜く工程、及び土留め壁を引き抜く工程の順序は適宜変更可能である。
【0036】
土留め壁1が引き抜かれると、土留め壁1が引き抜かれて形成される地盤Bの空間に充填材10が横から入り込み当該空間に充填材10が充填される。以上のように土留め壁1を引き抜いて当該空間に充填材10が密実に充填され、一定期間経過後に充填材10が硬化した後に、
図1(a)及び
図1(b)に示されるように一連の工程が完了する。
【0037】
次に、本実施形態に係る土留め壁撤去方法から得られる作用効果について説明する。
図3(a)、
図3(b)、
図6(a)及び
図6(b)に示されるように、本実施形態に係る土留め壁撤去方法では、土留め壁1の一方側に位置する地盤Bが掘削されて形成された空間Cに躯体Tが構築され、その後、土留め壁1が地盤Bから引き抜かれる。躯体Tが構築された後には時間の経過と共に硬化する充填材10が充填され、充填材10が硬化する前に土留め壁1が引き抜かれる。充填材10が硬化する前に土留め壁1が地盤Bから引き抜かれるので、土留め壁1の引き抜きと共に充填材10を土留め壁1の空隙に密実に充填させることができる。
【0038】
充填材10が地盤Bに密実に充填されることにより、地盤Bに空隙が残された状態になることを抑制できる。従って、土留め壁1を引き抜いた後に地盤Bが沈下することを抑制することができる。また、土留め壁1と躯体Tとの間への充填材10の充填、及び土留め壁1の引き抜きを行えばよいので、土留め壁1に予め管を取り付ける等の作業を不要とできる。従って、地盤Bの沈下を抑制するための機器の設置等を容易に行うことができる。
【0039】
本実施形態に係る土留め壁撤去方法は、躯体Tを構築する工程の後に、土留め壁1と躯体Tとの間に型枠2を設置する工程と、型枠2と躯体Tの間に埋め戻しを行う工程と、を備える。充填材10を充填する工程では、埋め戻しを行う工程の後に土留め壁1と型枠2との間に充填材10を充填する。本実施形態に係る土留め壁撤去方法は、充填材10を充填する工程の後に、地盤Bから型枠2を引き抜く工程を更に備える。
【0040】
よって、土留め壁1と躯体Tとの間に型枠2が配置され、土留め壁1と型枠2との間に充填材10が充填される。従って、土留め壁1と躯体Tとの間に充填材10が充填される場合と比較して充填材10の量を低減させることができる。その結果、充填材10の使用量を減らして充填材10にかかるコストを低減させることができる。
【0041】
前述したように、充填材10が流動化処理土である場合、一般的に流動化処理土のコストは高いため、コストの増大を招来する。しかしながら、本実施形態のように型枠2を配置し、型枠2と土留め壁1との間に充填材10が充填される場合、充填材10の量を必要最低限に抑えることができる。従って、充填材10にかかるコストを低く抑えることができる。
【0042】
本実施形態において、型枠2を設置する工程は、土留め壁1と型枠2の間にキャンバー5を介在させる工程を含んでおり、型枠2を引き抜く工程は、充填材10からキャンバー5を引き抜く工程を含む。従って、土留め壁1と型枠2の間にキャンバー5が配置されるので、型枠2の引き抜きを容易に行うことができる。
【0043】
本実施形態に係る土留め壁撤去方法では、
図4(a)及び
図7に示されるように、土留め壁1が引き抜かれる前に、土留め壁1に当接するキャンバー5付きの型枠2が用いられる。このように型枠2にキャンバー5が取り付けられていることにより、間隔Wを確保して、充填材10を打設するときに少ない打設回数で充填材10を充填させることができる。
【0044】
本実施形態において、キャンバー5は、型枠2の土留め壁1に対向する第2面2cにヒンジ6を介して接続されており、キャンバー5を引き抜く工程では、型枠2と共にキャンバー5がヒンジ6を介して回動可能な状態で引き抜かれる。よって、型枠2にキャンバー5が接続されているので、型枠2と共にキャンバー5を引き抜くことができる。
【0045】
従って、型枠2及びキャンバー5の引き抜きを容易に行うことができる。更に、キャンバー5は、型枠2にヒンジ6を介して回動可能に接続されている。従って、型枠2を引き抜くときに、型枠2に対してキャンバー5を回動させることが可能となるため、引き抜き時にキャンバー5が引っ掛かって抜けにくくなることを抑制できる。よって、型枠2及びキャンバー5の引き抜きを更に容易に行うことができる。
【0046】
以上、本開示に係る土留め壁撤去方法の実施形態について説明した。しかしながら、本発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。すなわち、本開示に係る土留め壁撤去方法の工程の内容及び順序は、上記の要旨の範囲内において適宜変更可能である。
【0047】
前述した実施形態では、充填材10が流動化処理土である例について説明した。しかしながら、充填材は、モルタル等、流動化処理土以外のものであってもよい。前述した実施形態では、キャンバー5が型枠2に取り付けられている例について説明した。しかしながら、キャンバーは土留め壁に取り付けられていてもよい。
【0048】
図8は、キャンバー15が土留め壁11にヒンジ16を介して取り付けられた例を示している。
図8に示されるように、キャンバー15は、鉛直上方を向く上面15bと、鉛直下方を向く下面15cと、土留め壁11に対向する第1側面15dと、型枠12に対向する第2側面15fとを有し、ヒンジ16は第1側面15dと下面15cとの間と土留め壁11とに固定されている。ヒンジ16を介してキャンバー15が取り付けられた土留め壁11では、前述した型枠2と同様、土留め壁11及びキャンバー15の引き抜きを容易に行うことができる。
【0049】
前述した実施形態では、型枠2及びキャンバー5が配置される例について説明した。しかしながら、型枠2及びキャンバー5の少なくともいずれかを省略することも可能である。例えば、型枠2を省略する場合には、空間Cに躯体Tを構築した後に土留め壁1と躯体Tとの間に充填材10を充填し、充填材10が硬化する前に土留め壁1を引き抜く。この場合でも実施形態に係る土留め壁撤去方法と同様の効果が得られる。
【0050】
前述した実施形態では、鋼矢板1bである土留め壁1について説明した。しかしながら、土留め壁は、鋼矢板1b以外のものであってもよく、例えば親杭であってもよい。また、前述した実施形態では、地下躯体である躯体Tが構築される現場Sに本実施形態に係る土留め壁撤去方法が適用される例について説明した。しかしながら、本開示に係る土留め壁撤去方法は、現場Sに限られず、種々の現場に適用させることが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1,11…土留め壁、1b…鋼矢板、1c…底部、1d…脚部、1f…接続部、2,12…型枠、2b…第1面、2c…第2面、3…支持部材、5,5A,15…キャンバー、5b,15b…上面、5c,15c…下面、5d…第1側面、5f…第2側面、5g…傾斜面、5h…柱状部、5j…傾斜部、6,16…ヒンジ、10…充填材、15d…第1側面、15f…第2側面、B…地盤、C…空間、K…層、K1…第1面、K2…第2面、S…現場、T…躯体、T1…空間、U…地表、W…間隔、X…建物、Y…埋め戻し土。