(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】放射線遮蔽樹脂組成物および放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
G21F 1/10 20060101AFI20250219BHJP
G21F 1/06 20060101ALI20250219BHJP
G21F 1/08 20060101ALI20250219BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20250219BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
G21F1/10
G21F1/06
G21F1/08
C08L101/00
C08K3/20
(21)【出願番号】P 2021206062
(22)【出願日】2021-12-20
【審査請求日】2024-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2020215632
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】393002634
【氏名又は名称】キヤノン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】阿邊 博司
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特許第4686538(JP,B2)
【文献】特開2019-056640(JP,A)
【文献】特開2016-014645(JP,A)
【文献】特開2016-035397(JP,A)
【文献】特開2004-061463(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0012793(US,A1)
【文献】Reza Zohdiaghdam, et al.,Evaluation of synergistic effects of the single walled carbon nanotube and CeO2-hybrid based-nanocomposite against X-ray radiation in diagnostic radiology,Radiation Physics and Chemistry,NL,Elsevier,2020年03月,Vol.168, 108562,P.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 1/06- 1/10
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、前記樹脂中に分散された放射線遮蔽材とを有する放射線遮蔽樹脂組成物であって、
前記樹脂は、液状樹脂原料の硬化物であって、1.0を超える比重を有し、
前記放射線遮蔽材は、酸化セリウムを含む無機粉末であり、
前記無機粉末は、0.5μm以上10μm未満の平均粒子径を有し、
前記放射線遮蔽樹脂組成物における、前記放射線遮蔽材の含有割合は40体積%未満であり、
前記放射線遮蔽樹脂組成物は、3.0以上の比重を有する、放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機粉末は、さらにタングステンを含む請求項1に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機粉末におけるタングステンの含有割合は、70質量%以下である請求項2に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂は、ウレタン系樹脂、アクリレート系樹脂、シリコーン系樹脂、およびエポキシ系樹脂からなる群から選択される少なくとも1つである請求項1~3のいずれか1項に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂は、前記エポキシ系樹脂である請求項4に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項6】
前記放射線遮蔽樹脂組成物は、前記液状樹脂原料と、前記放射線遮蔽材とを含有する液状樹脂原料配合物の硬化物であり、
前記液状樹脂原料配合物は、20,000mPa・s以下の粘度を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項7】
液状樹脂原料と、放射線遮蔽材とを混合して液状樹脂原料配合物を調製する工程と、
前記液状樹脂原料配合物を硬化させる工程と、
を有する放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法であって、
前記液状樹脂原料を硬化したときに得られる樹脂は、1.0を超える比重を有し、
前記放射線遮蔽材は、酸化セリウムを含む無機粉末であり、
前記無機粉末は、0.5μm以上10μm未満の平均粒子径を有し、
前記放射線遮蔽樹脂組成物における、前記放射線遮蔽材の含有割合は40体積%未満であり、
前記放射線遮蔽樹脂組成物は、3.0以上の比重を有する、放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記液状樹脂原料配合物は、20,000mPa・s以下の粘度を有する、請求項7に記載の放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記液状樹脂原料配合物は、揮発成分を含まない、請求項7または8に記載の放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線遮蔽能力、経済性、および成型性に優れた放射線遮蔽樹脂組成物および放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線をはじめとする放射線を遮蔽し、人体等を防護するための材料として、鉛、あるいは鉛を含む材料が広く利用されてきた。しかし、鉛は、放射線遮蔽用途としてはRoHS指令の適用除外となっているものの、鉛成分は人体に有害であり、また、廃棄する際には特定有害産業廃棄物としての処置が必要となることから、利用するに当たっては特別な注意が必要となる。
【0003】
近年、上記課題に鑑み、鉛に代わる放射線遮蔽材として、タングステンやアンチモン、モリブデン、ビスマス、バリウム等の比較的比重の高い金属や、その化合物の利用が検討されてきた。これらの金属や金属化合物をゴムや樹脂などの高分子化合物に配合し、取り扱いやすい形状に加工された放射線遮蔽用品が種々提案され、使用されている。
【0004】
しかし、上記放射線遮蔽材のうち、硫酸バリウムは価格が安く、入手しやすい反面、放射線遮蔽率が比較的低い。そのため、鉛相当の遮蔽率を得るためには、遮蔽材が厚くなる。そのため、レントゲン撮影室やCT撮影室等の壁材など、建材用途として主に用いられている。
【0005】
一方、遮蔽率が比較的高いタングステンやアンチモン、モリブデン、ビスマス等は、金属自体が高価であるため、その配合物も高価となり、経済的ではない。
【0006】
そこで、新たに放射線遮蔽材として、セリウム化合物、特に酸化セリウムが経済性および遮蔽性の観点から注目され、その使用について検討されている。
【0007】
特許文献1には、遮蔽材料を40~80体積%と高い充填率で有機高分子材料に充填させることで、放射線に対する高い遮蔽性を有する放射線遮蔽シートが開示されており、遮蔽材料としてセリウムの酸化物粉末を用い得ることが記載されている。
【0008】
特許文献2には、比重が1.0以下の有機高分子材料を含有する母材と、実効原子番号50以上58以下の物質を含む第1フィラーと、を含む、軽量なX線遮蔽材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4686538号公報
【文献】特開2019-56640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の放射線遮蔽シートでは、遮蔽材料の充填率が高いため、放射線遮蔽シートを形成するための組成物の粘度が高く、成形加工が難しいことから生産性の面で改善の余地があった。また、成形加工を容易にするために、溶剤等の揮発成分を用いて上記組成物を希釈して放射線遮蔽シートを形成した場合には、成形加工において気泡が発生するという課題があった。
【0011】
特許文献2に記載のX線遮蔽材は、比重が1.0以下の有機高分子材料、すなわちエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等のゴム材料に、遮蔽材である第1フィラーを混合して形成される。ここで、ゴム材料中に第1フィラーを均一に分散させること、および混合後の組成物を多様な形状に加工すること、がいずれも容易ではなく、生産性に改善の余地があった。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、すなわち本発明の目的は、環境への負荷が小さく、安価で生産性に優れた放射線遮蔽樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、樹脂と、前記樹脂中に分散された放射線遮蔽材とを有する放射線遮蔽樹脂組成物であって、前記樹脂は、液状樹脂原料の硬化物であって、1.0を超える比重を有し、前記放射線遮蔽材は、酸化セリウムを含む無機粉末であり、前記無機粉末は、0.5μm以上10μm未満の平均粒子径を有し、前記放射線遮蔽樹脂組成物における、前記放射線遮蔽材の含有割合は40体積%未満であり、前記放射線遮蔽樹脂組成物は3.0以上の比重を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の別の態様に係る放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法は、液状樹脂原料と、放射線遮蔽材とを混合して液状樹脂原料配合物を調製する工程と、前記液状樹脂原料配合物を硬化させる工程と、を有する放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法であって、前記液状樹脂原料を硬化したときに得られる樹脂は、1.0を超える比重を有し、前記放射線遮蔽材は、酸化セリウムを含む無機粉末であり、前記無機粉末は、0.5μm以上10μm未満の平均粒子径を有し、前記放射線遮蔽樹脂組成物における、前記放射線遮蔽材の含有割合は40体積%未満であり、前記放射線遮蔽樹脂組成物は、3.0以上の比重を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、環境への負荷が小さく、安価で生産性に優れた放射線遮蔽樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、樹脂と、前記樹脂中に分散された放射線遮蔽材とを有する。樹脂は、液状樹脂原料の硬化物であり、液状樹脂原料と、放射線遮蔽材とを混合する際、液状樹脂原料は放射線遮蔽材を均一に分散させることが容易である。また、液状樹脂原料と、放射線遮蔽材とを含有する液状樹脂原料配合物を硬化して放射線遮蔽樹脂組成物を形成する際に、型を使用することで複雑な形状に容易に成型することが可能である。これにより、本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、優れた生産性を有する。
なお、本発明において、「液状」という語は、特に断りが無い限り常温常圧下で液状であることを意味する。
【0017】
以下、各成分についてさらに説明する。
<樹脂>
本発明において、放射線遮蔽材は樹脂中に分散されており、該樹脂は、液状樹脂原料の硬化物である。液状樹脂原料を硬化することで得られる樹脂は、1.0を超える比重を有する。
本発明においては、放射線遮蔽材を分散するための樹脂自体が1.0を超える比重を有するため、1.0以下の比重を有するようなゴム材料等の他の有機高分子材料と比較したとき、耐放射線性能の面において有利である。
【0018】
本発明において用いられる樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリレート系樹脂、シリコーン系樹脂、およびエポキシ系樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、樹脂としては、エポキシ系樹脂が特に好ましい。エポキシ系樹脂は、放射線遮蔽材の分散性が良く、取り扱いが容易である。また、エポキシ系樹脂は、原料となるモノマーおよびオリゴマー等の種類を選択することにより、得られる樹脂の硬度や伸び率、硬化前の樹脂原料混合物の粘度を調整することが容易であり、成型性に優れる。
【0019】
エポキシ系樹脂としては、硬化前の原料混合物が常温で液状を示すものであれば任意のものを使用することができる。このようなエポキシ系樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、含ブロムエポキシ樹脂、シクロヘキシル環含有型エポキシ樹脂、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂、およびウレタン変性エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのエポキシ系樹脂は2種以上を混合して用いても良い。
【0020】
また、エポキシ系樹脂の原料混合物の粘度を調整するために、反応性希釈剤や分散剤を併せて用いることができる。
反応性希釈剤の例としては、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、および脂肪族アルコールのグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル化合物を挙げることができる。
また、分散剤としては公知の分散剤を用いればよい。分散剤の一例としては DISPERBYK-2055、DISPERBYK-2152、DISPERBYK-2155、DISPERBYK-145(いずれもビックケミー・ジャパン社製)等が挙げられる。
【0021】
エポキシ系樹脂を硬化させるために用いられる硬化剤としては、例えば、脂肪族アミンや芳香族アミン、ケチミン等のアミンの変性物等が挙げられる。
【0022】
液状樹脂原料には、有機溶剤等の揮発成分を配合しないことが好ましい。
揮発成分を配合した液状樹脂原料と、放射線遮蔽材とを含有する液状樹脂原料配合物を室温で硬化させた場合、揮発成分が完全に除去されていない状態で液状樹脂原料が硬化することがある。これにより得られた放射線遮蔽樹脂組成物は、放射線遮蔽性能が不均一となる場合や、放射線遮蔽樹脂組成物の強度が不足する場合がある。
【0023】
また、揮発成分を配合した液状樹脂原料と、放射線遮蔽材とを含有する液状樹脂原料配合物を高温下で硬化させた場合は、揮発成分が揮発して泡かみ等を生じ、成型不良を引き起こす場合がある。この課題は、特に厚みのある放射線遮蔽樹脂組成物を製造する際に顕著となる。
【0024】
<放射線遮蔽材>
本発明において、放射線遮蔽材は、酸化セリウムを含む無機粉末である。酸化セリウムは比重が7.22g/cm3と比較的大きく、放射線遮蔽性能に優れる。さらに、酸化セリウムは、人体への安全性が高く、産出量も豊富なため比較的安価に入手することができる。
【0025】
無機粉末は、0.5μm以上10μm未満の平均粒子径を有する。平均粒子径が0.5μm以上であれば、液状樹脂原料に配合した際に無機粉末が凝集することを抑制でき、成型した放射線遮蔽樹脂組成物の表面に凹凸が生じることを抑制することができる。また、平均粒子径が10μm未満であれば、粘度が高くなり過ぎず、流動性を高く保つことができ、放射線遮蔽樹脂組成物を所望の形状に成型することが容易となる。
【0026】
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物において、放射線遮蔽材の含有割合は、40体積%未満である。これにより、液状樹脂原料に配合した際、放射線遮蔽材が沈降することを抑制でき、均一な遮蔽性能を得ることができる。また、放射線遮蔽材を液状樹脂原料に配合して得られる液状樹脂原料配合物の粘度が高くなることを抑制でき、流動性を高く保つことで良好な成型性を得ることができる。放射線遮蔽樹脂組成物における放射線遮蔽材の含有割合は、15体積%以上40体積%未満であることが好ましい。放射線遮蔽材の含有割合が15体積%以上であることで高い遮蔽効果を得ることができる。
【0027】
無機粉末は、さらにタングステンを含んでいてもよい。タングステンは、比重が19.25と金属の中では比較的高く、少量で高い放射線遮蔽性能を発揮することができる。一方で、タングステンは価格が高く、また、金属タングステンを製錬するにあたりCO2排出量が多いという課題がある。そのため、無機粉末がタングステンを含むとき、無機粉末におけるタングステンの含有割合は、70質量%以下であることが好ましい。これにより、液状樹脂原料と、放射線遮蔽材とを混合した際に、比重が高いタングステンが沈降することを抑制でき、成型後の放射線遮蔽樹脂組成物における遮蔽性能の均一性を向上させることもできる。
【0028】
無機粉末はさらに、放射線遮蔽のために用いられる公知の他の金属あるいは金属化合物等を含有してもよい。無機粉末が、酸化セリウム以外の金属あるいは金属化合物等を含むとき、無機粉末中の酸化セリウムの含有割合は30質量%以上であることが好ましい。これにより、経済性および放射線遮蔽性に優れ、環境への負荷が小さい放射線遮蔽樹脂組成物とすることができる。
【0029】
<添加剤>
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、その他必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。添加剤の一例としては、着色剤、可塑剤、分散剤、レベリング剤、消泡剤、老化防止剤、反応触媒等が挙げられる。
【0030】
<放射線遮蔽樹脂組成物>
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、3.0以上の比重を有する。これにより十分な遮蔽性能を得ることができる。
【0031】
<放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法>
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法は、液状樹脂原料と、放射線遮蔽材とを混合して液状樹脂原料配合物を調製する工程と、前記液状樹脂原料配合物を硬化させる工程と、を有する。
【0032】
以下に、各工程における具体的な作業の一例を示すが、これに限るものではない。
まず初めに液状樹脂原料(例えば、樹脂がエポキシ系樹脂である場合における主剤と硬化剤)、放射線遮蔽材、および必要に応じてその他の添加剤をカップ等に計量し、各材料を配合して撹拌して、液状樹脂原料配合物を調製する。撹拌方法としては、通常のモーターを用いたプロペラ撹拌や自転公転ミキサー(例えば、商品名:練太郎、(株)シンキー社製)、攪拌機(例えば、商品名:ウルトラミックス、シルバーソン社製)等を用いた方法があげられるが特に限定されるものではない。
【0033】
次に液状樹脂原料配合物を所望の形状の型等に流し込み、常温で、または加熱して硬化させる。その後、硬化物を型から取り出し、放射線遮蔽樹脂組成物を得る。
【0034】
このとき、液状樹脂原料配合物が、20,000mPa・s以下の粘度を有するように調製することが好ましい。また、20,000mPa・s以下の粘度を10分以上保持できるポットライフを有するように、液状樹脂原料配合物を調製することがより好ましい。液状樹脂原料配合物の粘度が20,000mPa・s以下であれば、撹拌時に生じた泡が抜けやすく、放射線遮蔽樹脂組成物中に気泡が残りにくいことから、遮蔽性能の低下を抑制することができる。また、液状樹脂原料配合物を型に流し込む場合、粘度が低いことで成型体の表面を均一にすることができ、成型不良を抑制することができる。
【0035】
液状樹脂原料配合物は、揮発成分を含まないことが好ましい。例えば、液状樹脂原料配合物を調製する際に、粘度を下げることを目的として有機溶剤等の揮発成分を配合すると、液状樹脂配合物を硬化させる際に問題を生じる可能性がある。具体的には、液状硬化性樹脂配合物を室温で硬化させる場合には、揮発成分が完全に抜けない状態で液状樹脂原料が硬化することで、得られる放射線遮蔽樹脂組成物の遮蔽性能が不均一となる場合、および放射線遮蔽樹脂組成物の強度が不足する場合がある。また、液状硬化性樹脂配合物を高温下で硬化させる場合には、揮発成分が揮発して泡かみ等を生じ、成型不良を引き起こす場合がある。この問題は、特に厚みのある放射線遮蔽樹脂組成物を製造する際に顕著となる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることは無い。
【0037】
以下に、各実施例および比較例で用いた材料を示す。
・エポキシ系樹脂の主剤1(商品名:jER825、三菱ケミカル(株)社製、比重:1.16)
・エポキシ系樹脂の主剤2(商品名:アデカレジンEP-4005、(株)ADEKA社製、比重:1.08)
・エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)(商品名:jERキュア3080、三菱ケミカル(株)社製、比重:1.01)
・ポリウレタン樹脂原料としてのポリカーボネートジオール(商品名:デュラノールT5650E、旭化成(株)社製、比重:1.16)
・ポリウレタン樹脂原料としてのイソシアネート(商品名:デュラネート24A-100、旭化成(株)社製、比重:1.13)
・酸化セリウム(商品名:AUERPOL FG50、TREIBACHER INDUSTRIE AG社製、平均粒子径3.5μm)
・酸化セリウム(商品名:AUERPOL PZ110、TREIBACHER INDUSTRIE AG社製、平均粒子径0.5μm)
・酸化セリウム(商品名:CeO2 99.95%yellow、TREIBACHER INDUSTRIE AG社製、平均粒子径9.5μm分粒品)
・酸化セリウム(商品名:CeO2 99.95%yellow、TREIBACHER INDUSTRIE AG社製、平均粒子径20.0μm分粒品)
・酸化セリウム(商品名:ショウロックス V、昭和電工(株)社製、平均粒子径0.3μm)
・タングステン(商品名:W-4KD、日本新金属(株)社製、平均粒子径3.0μm)
・硫酸バリウム(商品名:W-6、竹原化学工業(株)社製、平均粒子径4.5μm)
【0038】
(実施例1)
エポキシ系樹脂の主剤1、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)、および放射線遮蔽材としての酸化セリウム(平均粒子径3.5μm)を16.2:8.8:75.0(主剤1:硬化剤:酸化セリウム)の質量比で混合した。得られ混合物を、撹拌機(商品名:練太郎、(株)シンキー社製)を用いて撹拌時間4分の条件で撹拌し、液状樹脂原料配合物を得た。
得られた液状硬化性樹脂配合物を内部寸法が縦:100mm×横:100mm×深さ:2mmのテフロン(登録商標)製型枠に流し込み、100℃、2時間の条件で液状樹脂原料配合物を硬化させ、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0039】
(実施例2)
実施例1において、エポキシ系樹脂の主剤1、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)、および酸化セリウム(平均粒子径3.5μm)を混合する際の質量比を12.3:6.7:81.0(主剤1:硬化剤:酸化セリウム)に変更した。それ以外は実施例1と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0040】
(実施例3)
実施例2において、酸化セリウムの種類を、0.5μmの平均粒子径を有するものに変更した。それ以外は実施例2と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0041】
(実施例4)
実施例2において、酸化セリウムの種類を、9.5μmの平均粒子径を有するものに変更した。それ以外は実施例2と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0042】
(実施例5)
実施例1において、放射線遮蔽材としてさらにタングステンを用いた。エポキシ系樹脂の主剤1、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)、酸化セリウム、およびタングステンの質量比を11.0:6.0:58.1:24.9(主剤1:硬化剤:酸化セリウム:タングステン)としで混合した。それ以外は実施例1と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0043】
(実施例6)
実施例5において、エポキシ系樹脂の主剤1、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)、酸化セリウム、およびタングステンを混合する際の質量比を9.7:5.3:42.5:42.5(主剤1:硬化剤:酸化セリウム:タングステン)に変更した。それ以外は実施例5と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0044】
(実施例7)
実施例5において、エポキシ系樹脂の主剤1、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)、酸化セリウム、およびタングステンを混合する際の質量比を8.4:4.6:34.8:52.2(主剤1:硬化剤:酸化セリウム:タングステン)に変更した。それ以外は実施例5と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0045】
(実施例8)
実施例5において、エポキシ系樹脂の主剤1、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)、酸化セリウム、およびタングステンを混合する際の質量比を7.8:4.2:26.4:61.6(主剤1:硬化剤:酸化セリウム:タングステン)に変更した。それ以外は実施例5と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0046】
(実施例9)
実施例5において、液状樹脂原料をポリカーボネートジオール(ウレタン樹脂の主剤)およびイソシアネート(ウレタン樹脂の硬化剤)に変更した。ポリカーボネートジオール、イソシアネート、酸化セリウム、およびタングステンを11.9:5.1:58.1:24.9(主剤:硬化剤:酸化セリウム:タングステン)の質量比で混合した。それ以外は実施例5と同様にして、撹拌、硬化させ放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0047】
(実施例10)
実施例5において、エポキシ系樹脂の主剤1、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)、酸化セリウム、およびタングステンを混合する際の質量比を13.6:7.4:15.8:63.2(主剤1:硬化剤:酸化セリウム:タングステン)に変更した。それ以外は実施例1と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0048】
(実施例11)
実施例5において、エポキシ系樹脂の主剤1、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)、酸化セリウム、およびタングステンを混合する際の質量比を11.0:6.0:58.1:24.9(主剤1:硬化剤:酸化セリウム:タングステン)に変更した。その後、溶剤として同重量のメチルエチルケトン(MEK)を配合し、固形分濃度50重量%として、液状樹脂原料配合物を得た。それ以外は実施例5と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0049】
(実施例12)
実施例5において、さらにエポキシ系樹脂の主剤2を用いた。エポキシ系樹脂の主剤1、エポキシ系樹脂の主剤2、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)、酸化セリウム、およびタングステンを混合する際の質量比は5.5:5.5:4.0:34.0:51.0(主剤1:主剤2:硬化剤:酸化セリウム:タングステン)とした。それ以外は実施例5と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0050】
(実施例13)
実施例5において、エポキシ系樹脂の主剤1に代えてエポキシ系樹脂の主剤2を用いた。エポキシ系樹脂の主剤2、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)、酸化セリウムおよびタングステンを混合する際の質量比は12.3:2.3:34.2:51.2(主剤2:硬化剤:酸化セリウム:タングステン)とした。それ以外は実施例5と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0051】
(比較例1)
実施例1において、エポキシ系樹脂の主剤1、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)および酸化セリウムを混合する際の質量比を9.1:4.9:86.0(主剤1:硬化剤:酸化セリウム)に変更した。それ以外は実施例1と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0052】
(比較例2)
実施例2において、酸化セリウムの種類を、0.3μmの平均粒子径を有するものに変更した。それ以外は実施例2と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0053】
(比較例3)
実施例2において、酸化セリウムの種類を、20.0μmの平均粒子径を有するものに変更した。それ以外は実施例2と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0054】
(比較例4)
実施例1において、放射線遮蔽材として酸化セリウムに代えて硫酸バリウムを用いた。また、エポキシ系樹脂の主剤1、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)、および硫酸バリウムの質量比を17.5:9.5:73.0(主剤1:硬化剤:硫酸バリウム)としで混合した。それ以外は実施例1と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0055】
(比較例5)
比較例4において、エポキシ系樹脂の主剤1、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)、および硫酸バリウムを混合する際の質量比を10.4:5.6:73.0(主剤1:硬化剤:硫酸バリウム)に変更した。それ以外は比較例4と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0056】
(比較例6)
実施例1において、放射線遮蔽材として酸化セリウムに代えてタングステンおよび硫酸バリウムを用いた。また、エポキシ系樹脂の主剤1、エポキシ系樹脂の硬化剤(アミン)、タングステン、および硫酸バリウムの質量比を14.3:7.7:23.4:54.6(主剤1:硬化剤:タングステン:硫酸バリウム)としで混合した。それ以外は実施例1と同様にして、放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0057】
実施例1~13および比較例1~6において、放射線遮蔽樹脂の製造に用いた各材料とそれらの混合比率をまとめて表1に示す。
なお、上記実施例および比較例で製造した放射線遮蔽樹脂組成物における、放射線遮蔽材の含有割合(体積%)は、用いた液状樹脂原料および放射線遮蔽材それぞれの比重から計算により求めた。
【0058】
【0059】
〔測定および評価〕
上記の各実施例および比較例で製造した放射線遮蔽樹脂組成物について、以下の測定および評価を行った。得られた結果をまとめて表2に示す。
【0060】
<比重>
比重は、上記の各実施例および比較例にて製造した、100mm×100mm×2mmの大きさを有する放射線遮蔽樹脂組成物の重量を測定し、算出した。
【0061】
<粘度>
液状樹脂原料配合物の粘度は、液状樹脂原料配合物をカップに500ml採取し、B型粘度計(商品名:TVB-15、東機産業(株)社製)を用い、M4ローターで回転数12rpmとして25℃で測定した。
【0062】
<無機粉末の平均粒子径の測定方法>
無機粉末の平均粒子径は次の通り測定した。
無機粉末10mgをMEK10mLに超音波分散機で1分間分散させたのち、マイクロトラック(マイクロトラック・ベル社製)を用いて平均粒子径を測定した。測定値のD50(累積パーセント径)を平均粒子径とした。
【0063】
<成型性>
成型性の評価においては、放射線遮蔽樹脂組成物の形状、気泡の有無、および放射線遮蔽材の沈降の有無について、それぞれ以下の基準により判断した。いずれの項目にも該当しなかった場合をA、いずれか一つの項目にのみ該当した場合をB、いずれか二つ以上の項目に該当した場合をCと評価した。
形状:試験片の角部の成型不良や、平面部に凹凸部分がある。
気泡:試験片に気泡が含まれている。(φ1mm以上)
放射線遮蔽材の沈降:試験片中に放射線遮蔽材の沈降が見られる。
【0064】
<遮蔽率(鉛当量)>
遮蔽率(鉛当量)の測定は、JIS Z 4501に則り、管電圧100kVにて測定した。
【0065】
実施例に係る放射線遮蔽樹脂組成物はいずれも、放射線遮蔽材として酸化セリウムを用いており、環境への負荷が小さく、経済性に優れるものとなっている。さらに、実施例に係る放射線遮蔽樹脂組成物の製造においては、いずれも優れた成型性が得られ、生産性にも優れたものであった。
特に、無機粉末中の酸化セリウムの含有割合が30%未満である実施例10と液状樹脂原料配合物が揮発成分を含む実施例11との2つの実施例を除いた実施例1~9、12、および13では、特に優れた成型性が得られた。
【0066】
比較例1、5、6では、放射線遮蔽樹脂組成物における放射線遮蔽材の含有割合が40体積%以上であり、液状樹脂原料配合物が20,000を超える粘度を有し、均一に成型することができず、成型性に劣っていた。
比較例2では、放射線遮蔽材が0.5μm未満の平均粒子径を有するため、液状樹脂原料配合物中で放射線遮蔽材が凝集し、均一に成型することができなかった。そのため、得られた放射線遮蔽樹脂組成物の表面に凹凸部が生じ、成型性に劣っていた。
比較例3では、放射線遮蔽材が10μm以上の平均粒子径を有するため、液状樹脂原料配合物が20,000mPa・sを超える粘度を有し、均一に成型することができず、成型性に劣っていた。
比較例4では、放射線遮蔽樹脂組成物の比重が3.0未満であり、十分な遮蔽効果を得ることができなかった。
【0067】